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特許7401156子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/742 20150101AFI20231212BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20231212BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20231212BHJP
【FI】
A61K35/742
A23L33/135
A61P15/00
A61P29/00
A61P43/00 111
A61K35/74 C
A61K35/74 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023538945
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2022041509
【審査請求日】2023-06-23
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-2789
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000114282
【氏名又は名称】ミヤリサン製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 真生
(72)【発明者】
【氏名】三鴨 廣繁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 志達
(72)【発明者】
【氏名】岡 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】有吉 理
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-252088(JP,A)
【文献】国際公開第2007/114378(WO,A1)
【文献】特表2021-528384(JP,A)
【文献】特表2020-532515(JP,A)
【文献】特表2020-513554(JP,A)
【文献】特表2020-505471(JP,A)
【文献】Microbiology Spectrum,2022年11月02日,Vol.10, No.6,e0328622
【文献】Animals,2022年10月10日,Vol.12,Article No.2719
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与され、前記クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)は、生菌である、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤。
【請求項2】
前記子宮、卵管および卵巣における炎症は、子宮内膜炎、子宮頸管炎、卵巣炎および卵管炎からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1に記載の予防および/または治療剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の予防および/または治療剤を有効成分として含み、経口摂取される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療用飲食品組成物。
【請求項4】
クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与され、前記クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)は、生菌である、子宮、卵管および卵巣における炎症性サイトカインの産生抑制のための剤。
【請求項5】
前記炎症性サイトカインは、TNF-α、IFN-γ、IL-17AおよびIL-6からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の剤。
【請求項6】
子宮、卵管および卵巣における抗炎症性サイトカインの産生促進のために使用される、請求項またはに記載の剤。
【請求項7】
子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療のために使用される、請求項またはに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮、卵管、卵巣などの生殖器では、クラミジア感染症、淋菌感染症、ヘルペスウイルス感染症、細菌性膣症などを原因とする炎症が生じることが知られている。
【0003】
クラミジア感染症、淋菌感染症、細菌性膣症などの細菌感染を原因とする炎症の治療では、原因となる細菌に応じて、セフトリアキソン、アジスロマイシン、ミノサイクリンなどが使用されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】公益社団法人日本産婦人科学会、公益社団法人日本婦人科医会編集・監修、産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020、2020年4月23日
【発明の概要】
【0005】
本発明は、新規な子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、経口投与されたクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)が子宮、卵管および卵巣において、抗炎症作用を発揮できることを見出した。そして、この知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一形態によれば、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例のマウスにおける実験の模式図を示す。
図2】実施例の各群における摘出した子宮頸管~卵巣の部位の質量を測定した結果を示すグラフである。
図3】実施例の各群における摘出した子宮頸管~卵巣の部位のサイトカイン濃度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一形態に係る実施の形態を説明する。本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0010】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0011】
<子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤>
本発明の一形態は、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤である。
【0012】
本発明の他の形態は、子宮、卵管および卵巣における炎症の経口投与用予防および/または治療剤として使用するためのクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物である。
【0013】
本発明の他の形態は、子宮、卵管および卵巣における炎症の経口投与用予防および/または治療剤の製造のためのクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物の使用である。
【0014】
本明細書において、「子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤」ならびに「子宮、卵管および卵巣における炎症の経口投与用予防および/または治療剤」を単に「予防および/または治療剤」とも称する。
【0015】
子宮、卵管および卵巣における炎症としては、例えば子宮内膜炎、子宮頸管炎、卵巣炎、卵管炎などが挙げられる。一実施形態では、本発明に係る子宮、卵管および卵巣における炎症は、好ましくは子宮内膜炎、子宮頸管炎、卵巣炎および卵管炎からなる群から選択される少なくとも1つである。これらの炎症の原因としては、細菌感染、ウイルス感染などが知られている。本発明に係る予防および/または治療剤は、細菌感染を原因とする炎症に対してより効果的である。
【0016】
クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)とは、栄養のバランスがとれている間は分裂増殖を繰り返す(栄養細胞)が、そのバランスが崩れると菌体内に胞子を生じる芽胞形成性かつ嫌気性のグラム陽性桿菌である。嫌気性細菌に限らず、多くの細菌は、栄養細胞の形態を有する際には、乾燥状態で放置されると容易に死滅する。しかしながら、芽胞は休止細胞であるため、乾燥、熱や化学薬品などの様々な外的環境に対して強い抵抗性を有し、保存には好都合である。
【0017】
また、上述したように、クロストリジウム・ブチリカムは芽胞形成性であり、芽胞の状態にある際には、様々な外的環境に対して抵抗性を有する。このため、クロストリジウム・ブチリカムが芽胞の形態で人や動物に経口投与されると、胃酸、腸液や胆汁酸などの消化液と接しても、クロストリジウム・ブチリカムは完全には死滅せずに小腸下部から大腸に至るまでの発酵部位にも到達し増殖することが可能となる。
【0018】
さらに、クロストリジウム・ブチリカムは、生菌剤、飼料添加物や食品として広く市販されており、人や家畜などの哺乳動物に長期間にわたって投与しても全く副作用を認めず、高い安全性が保証されている。
【0019】
クロストリジウム・ブチリカムのなかでも、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1020(Clostridium butyricum NIP1020)、クロストリジウム・ブチリカム・NIP1021(Clostridium butyricum NIP1021)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11868)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11868)、クロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11869)、及びクロストリジウム・ブチリカム(FERM P-11870)、クロストリジウム・ブチリカム・ATCC859(Clostridium butyricum ATCC859)、クロストリジウム・ブチリカム・NBRC3315(Clostridium butyricum NBRC3315)、クロストリジウム・ブチリカム・ATCC860(Clostridium butyricum ATCC860)またはクロストリジウム・ブチリカム・ATCC19398(Clostridium butyricum ATCC19398)が好ましい。より好ましくはクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)、クロストリジウム・ブチリカム ミヤイリ 585(FERM BP-06815)、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ595(FERM BP-06816)及びクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ630(FERM BP-06817)からなる群より選択される1種以上であり、さらに好ましくはクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)である。なお、クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588株は、1981年5月1日付で通商産業省工業技術院微生物工業技術研究所(現在の独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)にFERM BP-2789として寄託され、1990年3月6日付で、ブダペスト条約に基づく国際寄託機関に移管され、受託番号FERM BP-2789として寄託されている。なお、FERM BP-2789は、2050年3月5日まで継続寄託されている。
【0020】
クロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリは生菌剤としてミヤリサン製薬株式会社から市販されており、人や動物に長期に投与しても全く副作用の無いものであるため、本発明における使用にとって特に好適である。なお、有効成分であるクロストリジウム・ブチリカムとしては、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0021】
本発明において、クロストリジウム・ブチリカムの培養物は、クロストリジウム・ブチリカムを培養した培養液、前記培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣および前記残渣の乾燥物を意味する。
【0022】
クロストリジウム・ブチリカムの培養物は、既知の微生物の培養方法、例えば、特開平08-252088号に開示された方法により得られる。その一実施態様を下記に示す:クロストリジウム・ブチリカムを1.0(w/v)% ペプトン、1.0(w/v)% 酵母エキス、1.0(w/v)%コーンスターチおよび0.2(w/v)%沈降炭酸カルシウムを含む培地に10~10個/mLになるように接種し、37℃にて48時間静置培養することにより、「クロストリジウム・ブチリカムの培養液」を得る。次に、得られた培養液を遠心分離(2,000~6,000g×10~30分)して、「培養液を遠心分離して得られる菌を含む残渣」を分離し、この残渣を、0~80℃、好ましくは10~20℃で、1~24時間、好ましくは5~18時間風乾等による乾燥処理または0~80℃、好ましくは10~20℃、0.05~500Torr(7Pa~66.7kPa)、好ましくは1~100Torr(133Pa~13.3kPa)で、1~24時間、好ましくは2~15時間減圧乾燥処理することなどにより、「残渣の乾燥物」を得る。乾燥物を得るためには、スプレードライ、フリーズドライなどを用いてもよい。
【0023】
本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムの培養に使用する培地は、使用する菌株の種類等によっても異なるが、使用するクロストリジウム・ブチリカムが資化しうる炭素源、適量の窒素源、無機塩およびビタミン類などのその他の栄養素を含有する培地であれば、合成培地または天然培地のいずれでもよい。
【0024】
例えば、本発明による培地中で使用される炭素源の例として、使用する菌株が資化できる炭素源であれば特に制限されない。炭素源としては、必ずしも糖に制限されないが、菌体の増殖を考慮すると、使用する細菌が利用可能な糖または糖を含むものが好ましく使用される。使用できる炭素源の具体例としては、資化性を考慮して、セロビオース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、マルトース、マンノース、メリビオース、ラフィノース、サリシン、スターチ、スクロース、トレハロース、キシロース、デキストリン、および糖蜜等が挙げられる。これらの炭素源のうち、スターチ、グルコース、フルクトース、スクロースおよび糖蜜が好ましく使用される。上記した炭素源を、使用するクロストリジウム・ブチリカムを考慮して、1種または2種以上選択して使用してもよい。この際、炭素源の添加濃度は、使用するクロストリジウム・ブチリカムや炭素源の種類および使用する培地の炭素源以外の培地組成等によっても異なるが、通常0.5~5(w/v)%、好ましくは2~4(w/v)%である。
【0025】
また、窒素源およびビタミン類としては、例えば、肉エキス、ペプトン、酵母エキス、味液等の大豆および小麦の加水分解物、大豆粉末、ミルクカゼイン、カザミノ酸、各種アミノ酸、コーンスティープリカー、その他の動物、植物、微生物の加水分解物等の有機窒素化合物および硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩が挙げられる。これらの窒素源のうち、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、コーンスティープリカーおよび味液が好ましく使用される。上記した窒素源およびビタミン類を、使用するクロストリジウム・ブチリカムの生育を向上させるために、1種または2種以上選択して使用してもよい。この際、上記窒素源の添加濃度は、使用する菌株や窒素源の種類および使用する培地の窒素源以外の培地組成等によっても異なるが、窒素源を多く含むペプトンを使用する際には、通常0.5~4(w/v)%、好ましくは1~3(w/v)%であり、窒素源およびビタミン類を多く含む味液やコーンスティープリカーを使用する際には、通常0.5~5(w/v)%、好ましくは1~4(w/v)%であり、さらに、ビタミン類を多く含む酵母エキスあるいは肉エキスを使用する際には、通常0.5~4(w/v)%、好ましくは1~3(w/v)%である。
【0026】
さらに、無機塩としては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、ナトリウム、カリウム、モリブデン、ストロンチウム、ホウ素、銅、鉄、スズおよび亜鉛などのリン酸塩、塩酸塩、硫酸塩、酪酸塩、プロピオン酸塩および酢酸塩等から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。また、培地中に、必要に応じて、消泡剤、植物油、界面活性剤、血液および血液成分、抗生物質などの薬剤、植物または動物ホルモンなどの生理活性物質等を適宜添加してもよい。
【0027】
本発明において行われる培養の条件は、本発明に使用するクロストリジウム・ブチリカムの生育の範囲(pHや温度等)等の生理学的性質によって異なるが、クロストリジウム・ブチリカムは偏性嫌気性であるため、通気しない、または窒素もしくは炭酸ガスを通気しながら、または培地中に還元剤を加えることにより酸化還元電位を下げるなどによって嫌気的条件下培養されることが必要である。その際の培養条件は、使用される菌株の生育の範囲、培地の組成や培養法によって適宜選択され、本菌株が増殖できる条件であれば特に制限されない。具体的には、培養温度は、通常20~42℃、好ましくは35~40℃である。
【0028】
また、本発明において、クロストリジウム・ブチリカムの培養は、培養中に産生される酸をアルカリで中和することにより増殖が促進されるため、予め培地に炭酸カルシウムを添加することが好ましい。この際、炭酸カルシウムの添加量は、通常0.1~4(w/v)%、好ましくは0.2~2.5(w/v)%である。または、上記中和工程を、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムおよび炭酸カリウム等のアルカリ水溶液によって培地のpHを設定pHの範囲内に抑えながら行うことも好ましい。なお、アルカリ水溶液を使用する場合には、「設定pH」とは、培養期間中に予め設定されている培地のpHを意味し、「設定pHの範囲」とは、培養期間中に許容されるpHの範囲であり、一般的には、設定pH±許容差で表わす。本発明によると、設定pHは、通常5.0~7.5、好ましくは5.5~6.5の範囲内で設定され、設定pHの範囲は、設定pH±0.5、望ましくは設定pH±0.2である。
【0029】
なお、本発明において、培養を行う間の培地のpHは、菌の接種時では中性付近、より好ましくは6.5~7.5とする。なお、アルカリ水溶液を使用する場合には、酸素が混入しないように緩やかに攪拌しながら設定pHの範囲内に入るよう維持することが好ましい。このように菌の接種時および菌の増殖時のpHを制御することによって、菌密度を飛躍的に増大させることができる。
【0030】
本発明による培養において、クロストリジウム・ブチリカムの初期培養濃度は、クロストリジウム・ブチリカムが生育できる範囲であれば特に制限されず、通常、クロストリジウム・ブチリカムの培養で行われるものと同様である。具体的には、通常10~10個/mL、好ましくは10~10個/mLである。
【0031】
このようにして得られたクロストリジウム・ブチリカムの培養物、特にクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)の培養物は、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療効果を発揮できる。
【0032】
本発明に係る予防および/または治療剤に含まれるクロストリジウム・ブチリカムは、生菌であっても死菌であってもよい。クロストリジウム・ブチリカムは、本発明の効果をより発揮できるとの観点から、好ましくは生菌(芽胞を含む)である。
【0033】
後述の実施例に示すように、本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を経口投与することにより、炎症によって惹起される子宮、卵管および卵巣の質量の増加を抑制することができる。また、炎症が生じている子宮、卵管および卵巣において、抗炎症性サイトカインを増加させること、および炎症性サイトカインを減少させることができる。
【0034】
本発明に係る予防および/または治療剤は、所望の効果を発揮するのに十分な量(すなわち、有効量)のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含む。予防および/または治療剤は、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物そのもの(クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物からなる)でもよく、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含む組成物の形態であってもよい。例えば、予防および/または治療剤は、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、製剤として調製されてもよい。製剤化のために許容されうる添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤、結合剤、増粘剤、分散剤、懸濁化剤、崩壊剤、制菌剤、界面活性剤などを挙げることができる。
【0035】
剤形は、経口投与できるものであれば特に制限されず、適宜設定することができる。剤形は、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤、溶液、懸濁液、乳濁液などである。
【0036】
本発明に係る予防および/または治療剤は、薬理学的に許容される担体を含むことができる。薬理学的に許容される担体としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳糖、デンプン等の賦形剤;デキストリン、セルロース等のバインダー;水、有機溶剤等の溶剤等が挙げられる。
【0037】
本発明に係る予防および/または治療剤は、必要に応じて他の補助成分を含むことができる。他の補助成分としては、抗生物質、ビタミン類(例えば、ビタミンC、ビタミンE)、アミノ酸類、ペプチド類、ミネラル類(例えば、亜鉛、鉄、銅、マンガンなど)、核酸、多糖類、脂肪酸類、生薬等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る予防および/または治療剤における有効成分の配合割合は、特に限定されない。前記配合割合は、予防および/または治療剤全体に対して、0.01質量%~100質量%でありうる。
【0039】
本発明に係る予防および/または治療剤の用法用量は、処置すべき症状や病態、年齢等によって適宜変更すればよいが、例えば有効成分として0.1~1000mg/kg体重である。
【0040】
本発明に係る予防および/または治療剤は、哺乳動物、好ましくは子宮、卵管および卵巣における炎症が起こっているまたはその可能性がある哺乳動物に投与することができる。ここで、哺乳動物は、ヒト、サル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン等の霊長類、ならびにマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、ラクダ、ヤギなどの非ヒト哺乳動物双方を包含する。これらのうち、好ましくはヒトである。
【0041】
(飲食品組成物)
本発明の一形態は、上述の予防および/または治療剤を含み、経口摂取される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防用および/または治療用飲食品組成物である。
【0042】
本発明に係る飲食品は、本発明に係る予防および/または治療剤の有効成分、すなわち有効量のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含むように予防および/または治療剤を適切な量で含むことが好ましい。本形態において、「有効量」とは、個々の飲食品を通常喫食される量摂取した結果、有効成分としての効果を発揮しうるような量で有効成分を含有することを意味する。
【0043】
本発明に係る飲食品組成物は、予防および/または治療剤に安定剤等の慣用の添加成分を加えて飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を、それらにさらに配合して調製したもの、液状、半液体状もしくは固体状にしたもの、ペースト状にしたもの、または、一般の飲食品へ予防および/または治療剤を添加したものであってもよい。
【0044】
本発明において、「飲食品組成物」は、医薬以外のものであって、哺乳動物などが経口摂取可能な形態のものであれば特に制限はなく、その形態も液状物(溶液、懸濁液、乳濁液など)、半液体状物、粉末、または固体成形物のいずれのものであってもよい。このため飲食品は、例えば飲料の形態であってもよく、また、サプリメントのような栄養補助食品の錠剤形態であってもよい。
【0045】
飲食品組成物として具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品;栄養食品などが挙げられる。
【0046】
本発明において「飲食品組成物」には、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、疾病リスク低減表示が付された食品、または、病者用食品のような分類のものも包含される。さらに「飲食品組成物」という用語は、ヒト以外の哺乳動物を対象として使用される場合には、飼料を含む意味で用いられうる。
【0047】
本発明に係る飲食品組成物においては、上述した有効成分に加えて、他の機能を有する成分をさらに添加してもよい。また例えば、日常生活で摂取する食品、健康食品、機能性食品、サプリメント(例えば、カルシウム、マグネシウム等のミネラル類、ビタミンK等のビタミン類を1種以上含有する食品)に本発明の有効成分を配合することにより、本発明による効果に加えて、他の成分に基づく機能を併せ持つ飲食品を提供することができる。
【0048】
飲食品における予防および/または治療剤の配合割合は、特に限定されるものではないが、飲食品乾燥質量に対して、予防および/または治療剤が例えば0.001~50質量%である。
【0049】
<子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療方法>
本発明の一形態は、上述の予防および/または治療剤の有効量を、それを必要とする対象に経口投与することを含む、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療方法である。
【0050】
本形態において、「対象」および「子宮、卵管および卵巣における炎症」は、上述の予防および/または治療剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。
【0051】
本形態において、「有効量」とは、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療といった所望の効果を発揮するうえで少なくとも必要とされる予防および/または治療剤の有効成分(すなわち、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物)の量を意味する。
【0052】
<子宮、卵管および卵巣における抗炎症性サイトカインの産生促進および/または炎症性サイトカインの産生抑制のための剤>
本発明の一形態は、クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における抗炎症性サイトカインの産生促進および/または炎症性サイトカインの産生抑制のための剤である。
【0053】
本明細書において、「子宮、卵管および卵巣における抗炎症性サイトカインの産生促進および/または炎症性サイトカインの産生抑制のための剤」を単に「サイトカインの産生促進および/または抑制のための剤」とも称する。
【0054】
後述の実施例に示すように、本発明に係るクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を経口投与することにより、抗炎症性サイトカインを増加させること、および炎症性サイトカインを減少させることができる。抗炎症性サイトカインの増加および炎症性サイトカインの減少により、抗炎症作用が発揮され、子宮、卵管および卵巣において、炎症によって惹起される質量の増加を抑えることができると考えられる。
【0055】
抗炎症性サイトカインとしては、例えばIL-10、TGF-βおよびIL-4などが挙げられる。一実施形態では、抗炎症性サイトカインは、IL-10、TGF-βおよびIL-4からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0056】
炎症性サイトカインとしては、例えばTNF-α、IFN-γ、IL-17AおよびIL-6などが挙げられる。一実施形態では、炎症性サイトカインは、TNF-α、IFN-γ、IL-17AおよびIL-6からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0057】
本形態において、「クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物」は、上述の予防および/または治療剤において説明した事項と同じであるため、説明を省略する。
【0058】
本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、所望の効果を発揮するのに十分な量(すなわち、有効量)のクロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含む。サイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物そのもの(クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物からなる)でもよく、クロストリジウム・ブチリカムまたはその培養物を含む組成物の形態であってもよい。例えば、サイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、製剤化のために許容されうる添加剤を併用して、常法に従い、製剤として調製されてもよい。本形態において、「製剤化のために許容されうる添加剤および剤形」は、上述の予防および/または治療剤と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、薬理学的に許容される担体を含むことができる。また、本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、必要に応じて他の補助成分を含むことができる。本形態において、「薬理学的に許容される担体」および「他の補助成分」は、上述の予防および/または治療剤と同様であるため、説明を省略する。
【0060】
本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤における有効成分の配合割合は、特に限定されない。前記配合割合は、サイトカインの産生促進および/または抑制のための剤全体に対して、0.01質量%~100質量%でありうる。
【0061】
本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤の用法用量は、処置すべき症状や病態、年齢等によって適宜変更すればよいが、例えば有効成分として0.1~1000mg/kg体重である。
【0062】
本発明に係るサイトカインの産生促進および/または抑制のための剤は、哺乳動物に投与することができる。哺乳動物は、子宮、卵管および卵巣において抗炎症性サイトカインの産生促進および/または炎症性サイトカインの産生抑制を必要とする哺乳動物であることが好ましい(例えば、炎症がおこっているまたはその可能性がある哺乳動物)。本形態において、「哺乳動物」は、上述の予防および/または治療剤と同様であるため、説明を省略する。
【0063】
<実施形態>
本発明の実施形態を以下に例示する。
[1]クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤。
[2]前記クロストリジウム・ブチリカムがクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)である、[1]に記載の予防および/または治療剤。
[3]前記子宮、卵管および卵巣における炎症は、子宮内膜炎、子宮頸管炎、卵巣炎および卵管炎からなる群から選択される少なくとも1つである、[1]または[2]に記載の予防および/または治療剤。
[4][1]~[3]のいずれかに記載の予防および/または治療剤を有効成分として含み、経口摂取される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療用飲食品組成物。
[5][1]~[3]のいずれかに記載の予防および/もしくは治療剤の有効量を、それを必要とする対象に経口投与することを含む、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療方法。
[6]子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または経口投与用治療剤として使用するためのクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物。
[7]子宮、卵管および卵巣における炎症の経口投与用予防および/または治療剤の製造のためのクロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物の使用。
[8]クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における抗炎症性サイトカインの産生促進および/または炎症性サイトカインの産生抑制のための剤。
[9]前記抗炎症性サイトカインは、IL-10、TGF-βおよびIL-4からなる群から選択される少なくとも1種である、[8]に記載の剤。
[10]前記炎症性サイトカインは、TNF-α、IFN-γ、IL-17AおよびIL-6からなる群から選択される少なくとも1種である、[8]または[9]に記載の剤。
【実施例
【0064】
以下に具体例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されない。なお、特記しない限り、作業は室温(25℃)で行った。
【0065】
マウスを用いた動物実験に関しては、愛知医科大学の設置した倫理委員会である動物実験委員会の承認(承認番号:2022-50)を得て実施した。
【0066】
マウスにおける実験の模式図を図1に示す。
【0067】
Balb/cマウス(8~9週齢、雌、野生型、日本チャールス・リバー株式会社より購入)に対し、7日間の検疫・馴化期間を設け、全個体健康状態に異常がなく体重減少を認めないことを確認して、試験に供した。マウスには、12時間照明、温度20~26℃、湿度30~70%の飼育環境で、餌および水を自由摂取させた。
【0068】
40匹のマウスをOpe-群(n=10)、Ope+群(n=10)、Ope+LPS群(n=10)およびOpe+LPS CBM群(n=10)に分けた。
【0069】
Ope+群、Ope+LPS群およびOpe+LPS CBM群では、麻酔下にて実験開始日(Day0)に左側背部、および実験開始後5日目(Day5)に右側背部を切開して、マウスの子宮角~卵巣の部位を露出したのち、組織を体内へ戻して、内皮と表皮を縫合した。実験開始日(Day0)および実験開始後5日目(Day5)の子宮角露出時に、Ope+群では、0.1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を注射器を用いて子宮角内に投与し、Ope+LPS群およびOpe+LPS CBM群では、0.1mLのリポ多糖(LPS、2.5mg/mL)を注射器を用いて子宮角内に投与した。
【0070】
Ope+LPS CBM群では、生理食塩水へ懸濁したクロストリジウム・ブチリカム・ミヤイリ 588(Clostridium butyricum MIYAIRI 588、FERM BP-2789)の培養物(以下、単に「CBM588」とも称する)を3.4×10cfu/マウス体重(30g)/day(500mg/kg/day)の濃度でゾンデを使用して実験開始日(Day0)から実験開始後9日目まで毎日経口投与した。CBM588中の菌量は、2.2×1010cfu/gであった。
【0071】
Ope-群では、切開、PBSおよびLPSの投与、ならびにCBM588の経口投与を行わなかった。
【0072】
実験開始後10日目(Day10)において、マウスを安楽死させた。子宮頸管を糸で結紮した後、子宮頸管~卵巣(子宮組織:子宮、卵管および卵巣)の部位を摘出した。摘出した部位の質量を測定した。結果を図2に示す。
【0073】
次に、摘出した部位を抽出液(RIPAバッファー:50mmol/L Tris-HClバッファー(pH7.6)、150mmol/L NaCl、1% Nonidet P40 Substitute、0.5% Sodium Deoxycholate、Protease Inhibitor Cocktail(1×))でホモジナイズ後に遠心し、上清のサイトカインタンパク濃度をELISA法で測定した。結果を図3に示す。
【0074】
測定したサイトカインおよび使用したELISAキットを表1に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
図2に示すように、Ope+LPS群と比較して、Ope+LPS CBM群では、CBM588を経口投与することにより、炎症によって惹起される子宮質量の増加が有意に抑制されたことが分かる。
【0077】
また、図3に示すように、摘出した部位中のサイトカインに関して、Ope+LPS CBM群では、CBM588を投与することにより、抗炎症性のサイトカインであるIL-10、TGF-βおよびIL-4の濃度が増加し、炎症性のサイトカインであるTNF-α、IFN-γ、IL-17AおよびIL-6の濃度が減少したことが分かる。
【要約】
【課題】新規な子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤を提供する。
【解決手段】クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)またはその培養物を有効成分として含み、経口投与される、子宮、卵管および卵巣における炎症の予防および/または治療剤。
【選択図】なし
図1
図2
図3