(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】複合バインダを用いた乾式電極の製造
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20231212BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231212BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20231212BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231212BHJP
H01G 11/38 20130101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/139
H01G11/06
H01G11/38
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021176499
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2021-12-22
(32)【優先日】2020-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520198960
【氏名又は名称】リキャップ テクノロジーズ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リンダ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ヒェウンフワン アン
(72)【発明者】
【氏名】ビベク ティワリ
(72)【発明者】
【氏名】ベ キュン キム
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-0581230(KR,B1)
【文献】特開2014-063824(JP,A)
【文献】中国特許第102629681(CN,B)
【文献】国際公開第2019/103874(WO,A1)
【文献】特開平07-262986(JP,A)
【文献】特表2017-517862(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0255872(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリビニルピロリドン(PVP)を含む複合バインダと
を含む
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された自立型電極膜。
【請求項2】
前記複合バインダがさらにフッ化ポリビニリデン(PVDF)を含む、請求項1に記載の
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された自立型電極膜。
【請求項3】
前記複合バインダがさらに酸化ポリエチレン(PEO)を含む、請求項1または2に記載の
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された自立型電極膜。
【請求項4】
前記複合バインダがさらにカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された自立型電極膜。
【請求項5】
エネルギー貯蔵デバイス用の電極を製造する方法であって、前記方法が、請求項1から4のいずれか一項に記載の
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された自立型電極膜を集電体に積層する段階を備える、方法。
【請求項6】
エネルギー貯蔵デバイス用の電極であって、前記電極が、
集電体と、
前記集電体上の
スラリーを得ない乾式プロセスで作製された膜と
を備え、前記膜は
電極活物質と、
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリビニルピロリドン(PVP)を含む複合バインダと
を含む、電極。
【請求項7】
前記複合バインダがさらにフッ化ポリビニリデン(PVDF)を含む、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
請求項6または7に記載の電極を備えるバッテリ。
【請求項9】
請求項6または7に記載の電極を備えるリチウムイオンキャパシタ。
【請求項10】
請求項6または7に記載の電極を備えるウルトラキャパシタ。
【請求項11】
スラリーを得ない乾式プロセスにより自立型電極膜を製造する方法であって、前記方法が、
電極活物質および複合バインダを含む混合物を調合する段階であって、前記複合バインダはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、ポリビニルピロリドン(PVP
)とを含む、調合する段階と、
前記混合物に溶媒を添加する段階と、
前記混合物に剪断力を加える段階と、
前記溶媒を添加し且つ前記混合物に前記剪断力を加えた後に、前記混合物をプレスして自立型膜にする段階と
を備える方法。
【請求項12】
前記複合バインダが
フッ化ポリビニリデン(PVDF
)を含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記複合バインダが
酸化ポリエチレン(PEO
)を含む、請求項
11または
12に記載の方法。
【請求項14】
前記複合バインダが
カルボキシメチルセルロース(CMC
)を含む、請求項
11から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記溶媒が、アセトン、イソプロピルアルコール、プロパノール、エタノール、ブタノール、メタノール、テトラクロロエチレン、トルエン、メチルアセタート、エチルアセタート、ヘキサン、及びベンゼンからなる群から選択される1種または複数種の化学薬品を含む、請求項11から
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
エネルギー貯蔵デバイスの電極を製造する方法であって、前記方法は、
請求項11から
15のいずれか一項に記載の方法と、
自立型膜を集電体上に積層する段階と
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
該当なし。
【0002】
[連邦政府資金による研究開発の記載]
該当なし。
【0003】
1.技術分野
【0004】
本開示は概して、バッテリおよびリチウムイオンキャパシタなどのエネルギー貯蔵デバイスの電極製造に関し、より具体的には、乾式プロセスによる自立型電極膜の製造に関する。
【背景技術】
【0005】
2.関連技術
【0006】
安価なエネルギー貯蔵デバイスの要求が増すとともに、電極を製造する様々な方法が提案されている。こうした提案の中には、いわゆる「乾式」プロセスが存在し、これにより自立型電極膜が製造されるとともに、スラリー塗工プロセスおよび成型プロセスに通常用いられる溶媒および水溶液と関連した費用および乾燥時間が回避され得る。そのような乾式プロセスで、高エネルギー密度のエネルギー貯蔵デバイスをもたらし得る高品質の電極を製造するために、活物質と混合するバインダの量は、電極膜を過度な破損を招かずに確実に製造することが依然として可能な範囲内で最小限にする必要がある。このために、バインダは化学的に活性化されて、その接着強度が高気化性溶媒の添加によって向上し得る。この溶媒については、本発明者の「エネルギー貯蔵デバイス用の電極およびその作製方法(Electrode for Energy Storage Devices and Method of Making Same)」と題する米国特許第10,069,131号に記載されており、その開示全体が参照により本明細書に全面的に組み込まれる。しかしながら、必要なバインダの量のさらなる削減が望まれており、特にバッテリの電極を製造する場合、その活物質はウルトラキャパシタおよび他のエネルギー貯蔵デバイスの活物質よりも多くのバインダを必要とすることがある。
【0007】
必要なバインダの量をさらに削減する1つの方法が、バインダの温度活性化を単独でまたは化学的活性化と組み合わせて用いたものであり、これについては、本発明者の2020年5月14日に出願された「温度活性化法による乾式電極の製造(Dry Electrode Manufacture by Temperature Activation Method)」と題する米国特許出願第16/874,502号に記載されており、その開示全体が参照により本明細書に全面的に組み込まれる。乾式製法を用いてバッテリ電極を作製するときに化学的活性化および/または温度活性化を組み合わせることによって、活物質の充填率(active material loading)および電極膜の品質が大幅に向上する。
【0008】
必要なバインダの量をさらに削減する別の方法が、バインダを添加する前に、単独でまたは化学的活性化と組み合わせて、活物質混合物をポリマー含有添加液または導電性ペーストで潤滑にすることであり、これについては、本発明者の2020年9月8日に出願された「潤滑にした活物質混合物を用いた乾式電極の製造(Dry Electrode Manufacture with Lubricated Active Material Mixture)」と題する米国特許出願第17/014,862号に記載されており、その開示全体が参照により本明細書に全面的に組み込まれる。このプロセスによって、バインダ含有量が低く活性負荷(active loading)が高い調合例が可能になり、高い放電容量、高い1サイクル目の効率、高いCレートといった、放電特性が向上したエネルギー貯蔵デバイスがもたらされる。
【0009】
上述した改善にもかかわらず、より優れた電極品質が引き続き望まれている。
【発明の概要】
【0010】
本開示では、関連技術に伴う問題点を克服する様々な方法が考えられている。本開示の実施形態の1つの態様が、自立型電極膜である。自立型電極膜は、電極活物質と、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)およびポリビニルピロリドン(PVP)を含む複合バインダとを含有してよい。
【0011】
本開示の実施形態の別の態様が、エネルギー貯蔵デバイスの電極を製造する方法である。本方法は、上述した自立型電極膜を集電体上に積層する段階を含んでよい。
【0012】
本開示の実施形態の別の態様が、エネルギー貯蔵デバイスの電極である。本電極は、集電体と集電体上の膜とを備えてよく、この膜は、電極活物質と、PTFEおよびPVPを含む複合バインダとを含有する。
【0013】
上述した自立型電極膜または上述した電極の複合バインダはさらに、フッ化ポリビニリデン(PVDF)を含んでよい。
【0014】
上述した自立型電極膜または上述した電極の複合バインダはさらに、酸化ポリエチレン(PEO)を含んでよい。
【0015】
上述した自立型電極膜または上述した電極の複合バインダはさらに、カルボキシメチルセルロース(CMC)を含んでよい。
【0016】
本開示の実施形態の別の態様が、上述した電極を備えるバッテリ、リチウムイオンキャパシタ、またはウルトラキャパシタである。
【0017】
本開示の実施形態の別の態様が、自立型電極膜を製造する方法である。本方法は、電極活物質および複合バインダを含む混合物を調合する段階であって、複合バインダはPTFEと、PVP、PVDF、PEO、およびCMCからなる群から選択される1種または複数種の追加バインダとを含む、調合する段階と、混合物に溶媒を添加する段階と、混合物に剪断力を加える段階と、溶媒が添加され且つ混合物に剪断力を加えた後に、混合物をプレスして自立型膜にする段階とを備えてよい。
【0018】
複合バインダは、PTFEと、PVPと、PVDF、PEO、およびCMCからなる群から選択される1種または複数種の追加バインダとを含んでよい。
【0019】
溶媒は、アセトン、イソプロピルアルコール、プロパノール、エタノール、ブタノール、メタノール、テトラクロロエチレン、トルエン、メチルアセタート、エチルアセタート、ヘキサン、およびベンゼンからなる群から選択される1種または複数種の化学薬品を含んでよい。
【0020】
本開示の実施形態の別の態様が、エネルギー貯蔵デバイスの電極を製造する方法である。本方法は、自立型電極膜を製造し且つ自立型膜を集電体上に積層する上述した方法を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本明細書で開示される様々な実施形態のこうした並びに他の特徴および利点が、以下の説明及び図面に関しては一層良く理解されるであろう。そのような説明及び図面では全体を通して同様の番号が同様の部分を指している。
【0022】
【
図1】自立型電極膜またはそこから作り出される電極を製造するための例示的な作業フローを示している。
【0023】
【
図2】バインダとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)だけを用いて乾式プロセスで作製した電極の1サイクル目の充放電曲線を、スラリー塗工プロセスで作製した電極と比べて示している。
【0024】
【
図3】
図2の同じ1サイクル目の充放電曲線を、複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線を追加して示している。
【0025】
【
図4】
図2の同じ1サイクル目の充放電曲線を、別の複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線を追加して示している。
【0026】
【
図5】
図2の同じ1サイクル目の充放電曲線を、別の複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線を追加して示している。
【0027】
【
図6】
図2の同じ1サイクル目の充放電曲線を、別の複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線を追加して示している。
【0028】
【
図7】異なるバインダ調合例に対してプロットした1サイクル目の効率データを示している。
【0029】
【
図8】2%のPTFEを用いて乾式プロセスで作製した電極の1サイクル目の充放電曲線を、4%のPTFEを用いて乾式プロセスで作製した電極と比べて示している。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、自立型電極膜およびその製造方法、並びに電極およびそこから作り出されるエネルギー貯蔵デバイスに関する様々な実施形態を包含している。添付図面と関連して以下に記載される詳細な説明は、現時点で考えられるいくつかの実施形態の説明を目的としており、開示される発明が開発されても利用されてもよい唯一の形を表すことを目的としてはいない。本説明では、例示される実施形態と関連した機能および特徴を記載している。しかしながら、本開示の範囲に包含されることが意図された別の実施形態でも、同じまたは均等な機能が実現されてよいことを理解されたい。「第1」および「第2」などといった関係語の使用は、ある実体を別の実体と区別するためだけに用いられ、そのような実体同士のそのような何らかの実際の関係または順序を必ずしも必要とするわけでも示唆するわけでもないことをさらに理解されたい。
【0031】
図1は、自立型電極膜またはそこから作り出される電極を製造するための作業フローを示している。米国特許第10,069,131号に説明されている乾式プロセスと同様に、
図1で例示されている本プロセスは、バインダを化学的に活性化して、その接着強度を高気化性溶媒の添加によって向上させる段階を含んでよい。しかしながら、バインダであるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、その自在な粘度のために乾式プロセスでは必要に応じて通常に選択されているものであるが、負電極の活物質に含まれる介在リチウムと反応して、バッテリまたは他のエネルギー貯蔵デバイスの1回目の充電サイクルで発生する容量の喪失をもたらすことが分かっている。この影響を減らすために、開示するプロセスでは、PTFEおよび追加バインダ(好ましくは、ポリビニルピロリドン(PVP))を含む複合バインダを用いる。その結果、開示するプロセスでは、従来の乾式プロセスで作製したものと比べて、1サイクル目の効率が著しく大きいエネルギー貯蔵デバイスを製造することができる。
【0032】
図1の作業フローは、電極活物質および複合バインダを含む混合物(例えば、粉末状混合物)を調合する段階110で始まってよい。製造されるエネルギー貯蔵デバイスに応じて、電極活物質は、例えば、活性炭、黒鉛、シリコン、硬質炭素、軟質炭素、リチウム金属酸化物(チタン酸リチウムなど)、またはその組み合わせであってよい。場合によっては、例えば、電極活物質が十分な導電性を有していない場合、導電性物質も混合物に含まれてよい。添加され得る例示的な導電性物質には、金属粒子、導電性カーボン(例えば、活性炭、黒鉛、硬質炭素、カーボンブラック)、カーボンナノチューブ(CNT)、導電性高分子、およびその組み合わせが含まれる。導電性カーボンブラックの例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、およびSUPER P(例えば、スイスのイメリス・グラファイト&カーボン社がSUPER P(登録商標)の商品名で販売するカーボンブラック)が含まれてよい。混合物は、各種の粉末を混合するあらゆる種類の混合機で調合されてよく、例えば、ローラータンク、従来型ブレンダー、調理用ミキサー、セメント材料または医療用素材を混合する従来型ミキサーなどといったものである。
【0033】
図1の作業フローは、少量の高気化性溶媒を混合物に添加する段階(段階120)を続けてよい。選択した溶媒は、複合バインダを活性化して、その接着強度を向上させるとともに、高気化性(例えば、低沸点)にすることができ、溶媒をあとで除去するのに乾燥プロセスが必要とならないようにする。例示的な溶媒には、炭化水素系物質(例えば、ヘキサン、ベンゼン、トルエン)、アセタート類(例えば、メチルアセタート、エチルアセタート)、アルコール類(例えば、プロパノール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール)、グリコール類、アセトン、ジメチルカルボナート(DMC)、ジエチルカルバマジン(DEC)、テトラクロロエチレンなどが含まれてよい。次いで、例えば、通常の調理用ブレンダーまたは産業用ブレンダーなどのブレンダーで混合物を混合することで、混合物に剪断力を加えてよい(段階130)。複合バインダを変形させて(例えば、引き延ばして)粘着性および柔軟性が高い混合物にするのに十分な剪断力が、そのようなブレンダーで混合物を毎分10000回転程度、1~10分間(例えば、5分)混合することで実現され得る。好ましくは、高剪断造粒機(例えば、ジェットミル)などの高剪断ミキサーが用いられてよい。複合バインダを化学的に活性化するために段階120で添加される溶媒は、場合によっては、段階130で混合物に剪断力を加えている間、混合物に注入されてよい。したがって、段階120および130は、1つの段階で行われてよい。
【0034】
図1の作業フローは、混合物に剪断力を加えた後に、例えば、ローラプレス(例えば、温度150℃でローラー間隔20μm)を用いて、混合物をプレスして自立型膜を製造する段階140を続けてよい。電極膜はその後、段階150で集電体(例えば、銅またはアルミニウム)に積層されて電極が製造され得る。
【0035】
複合バインダは、PTFEと、ポリビニルピロリドン(PVP)、フッ化ポリビニリデン(PVDF)、酸化ポリエチレン(PEO)、およびカルボキシメチルセルロース(CMC)からなる群から選択される1種または複数種の追加バインダとを含んでよい。以下の表1は、バインダとしてPTFEだけを用いた比較例と比べたときの、複合バインダの別の調合例の結果として生じる1サイクル目の効率を示している。
【0036】
【0037】
表1を見て分かるように、バインダ調合例に追加バインダを加えると、PTFEだけを用いた場合と比べて1サイクル目の効率が上がるという影響が表れている。例えば、表1の具体的な実施例では、1サイクル目の効率が、PTFEだけを用いたときの約85.4%から、用いられる特定の複合バインダの調合例に応じて、約88.3%、90.7%、91.2%、または91.9%に上がる。この事例では、複合バインダがPTFEとPVPとの比を1:1にした混合物の場合に、1サイクル目の効率が最も高いことが確認された。
【0038】
図2は、表1の調合例C1に従って、バインダとしてPTFEだけを用いて乾式プロセスで作製した電極(実線)の1サイクル目の充放電曲線を、スラリー塗工プロセスで作製した電極(二点鎖線)と比べて示している。なお、後者のデータは黒鉛メーカーのデータシートに示されている。見て分かるように、PTFEを加えると(これは乾式電極の製造プロセスでは典型的なものである)、0.55V付近に電圧プラトーが生じる。この電圧プラトーは、1サイクル目における、PTFEとリチウムとの反応に起因した容量喪失に関連していることが分かっており、これは1サイクル目の効率に反比例する。
【0039】
図3は、同じ
図2の1サイクル目の充放電曲線を示しており、これに、表1の調合例1に従って2%のPTFE、1.85%のPEO、および0.15%のCMCを含有する複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線(破線)を追加している。電圧プラトーの影響の大きさが減少したことから分かるように、PEOおよびCMCを加えると、PTFEとリチウムとの反応が抑制されて、1サイクル目での容量損失が少なくなるため、調合例C1と比べると1サイクル目の効率が上がる(表1を参照)。
【0040】
図4は、同じ
図2の1サイクル目の充放電曲線を示しており、これに、表1の調合例2に従って2%のPTFEおよび2%のCMCを含有する複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線(破線)を追加している。ここでも、電圧プラトーの影響の大きさが減少したことから分かるように、CMCを加えると、PTFEとリチウムとの反応が抑制されて、1サイクル目での容量損失が少なくなるため、調合例C1と比べると1サイクル目の効率が上がる(表1を参照)。
【0041】
図5は、同じ
図2の1サイクル目の充放電曲線を示しており、これに、表1の調合例3に従って2%のPTFEおよび2%のPVDFを含有する複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線(破線)を追加している。ここでも、電圧プラトーの影響の大きさが減少したことから分かるように、PVDFを加えると、PTFEとリチウムとの反応が抑制されて、1サイクル目での容量損失が少なくなるため、調合例C1と比べると1サイクル目の効率が上がる(表1を参照)。
【0042】
図6は、同じ
図2の1サイクル目の充放電曲線を示しており、これに、表1の調合例4に従って2%のPTFEおよび2%のPVPを含有する複合バインダを用いて乾式プロセスで作製した電極の曲線(破線)を追加している。ここでも、電圧プラトーの影響の大きさが減少したことから分かるように、PVPを加えると、PTFEとリチウムとの反応が抑制されて、1サイクル目での容量損失が少なくなるため、調合例C1と比べると1サイクル目の効率が上がる(表1を参照)。この事例では、影響が特に大きく、1サイクル目の放電曲線がスラリー塗工で作製した電極のものとほぼ一致する。
【0043】
図7は、表1の調合例1~4およびC1のそれぞれに対してプロットした1サイクル目の効率データを示している。
図2~
図6の比較から分かるように、1サイクル目の効率は、0.55付近の電圧プラトーに起因した容量喪失に反比例する。本明細書で開示した複合バインダを用いると、PTFEとリチウムとの反応に対する追加バインダの抑制効果によって、この反応で引き起こされる容量喪失が減少し、はっきりした電圧プラトーがなくなり、1サイクル目の効率が高くなる。
【0044】
上述したように、PTFEには負電極の活物質に含まれる介在リチウムと反応する傾向があり、これは容量の喪失をもたらすため、1サイクル目の効率が低下すると理解されている。この影響は、大量のPTFEが用いられるとさらに一層はっきりする。これは、エネルギー貯蔵デバイスの製造に使用できるほど十分な強度がある電極膜を製造するときに、よくあることである。以下の表2は、バインダとしてPTFEだけを2通りの異なる量で用いた場合の、結果として生じる1サイクル目の効率を示している。
【0045】
【0046】
表2を見て分かるように、PTFEの量を増やすと、予想した通りに、PTFEとリチウムとのさらなる反応が原因で1サイクル目の効率が低下する。例えば、表2の具体的な実施例では、1サイクル目の効率が、PTFEを2%用いた場合の約86.3%からPTFEを4%用いた場合の約83.5%に低下する。こうしたデータから、上述の表1における追加バインダの有益な効果が、加える追加バインダの総量だけに起因するのではなく、むしろ複合バインダのその他のバインダがPTFEとリチウムとの反応を抑制したことに起因していることが分かる。
【0047】
図8は、表2の調合例C2に従ってバインダとして2%のPTFEを用いて乾式プロセスで作製した電極(実線)の1サイクル目の充放電曲線を、表2の調合例C3に従って4%のPTFEを用いて乾式プロセスで作製した電極(破線)と比べて示している。見て分かるように、PTFEの量を増やすと、0.55V付近の電圧プラトーがさらに一層はっきりすることになり、これは、表2に示す1サイクル目の効率低下に対応する。
【0048】
表1および表2に示される上述の例示的な調合例では、乾燥粉末混合物が電極活物質および複合バインダで構成される。しかしながら、上述したように、導電性物質も添加されてよい。より一般的には、乾燥粉末混合物は、例えば、90~98%の活物質と2~10%の複合バインダとを含み、残りの0~8%が導電性物質であってよい。複合バインダがPTFEおよびPEOを含む場合、PEOはバインダ総量の33~75%の範囲になってよい。複合バインダがPTFEおよびPVDFを含む場合、PVDFはバインダ総量の12~75%の範囲になってよい。複合バインダがPTFEおよびCMCを含む場合、CMCはバインダ総量の3~50%の範囲になってよい。複合バインダがPTFEおよびPVPを含む場合、PVPはバインダ総量の25~75%の範囲になってよい。
【0049】
乾燥粉末混合物に添加されて、バインダを化学的に活性化する溶媒(
図1の段階120および130を参照)は、例えば、乾燥粉末混合物の1~8重量%の量(例えば、100グラムの粉末に対して2グラム)であってよい。溶媒は、乾燥粉末混合物が調合された後に、添加され且つ混合されてよく、上述した調合割合の適用上、乾燥粉末混合物の一部とみなされない。
【0050】
上述した説明は、限定としてではなく、例として与えられている。上述した開示が与えられると、当業者であれば、本明細書に開示された本発明の範囲および趣旨に含まれる変形例を考え出すことができるであろう。さらに、本明細書に開示される実施形態の様々な特徴は、単独でまたは互いに様々に組み合わせて用いることができ、本明細書で説明される特定の組み合わせに限定することを目的としていない。したがって、特許請求の範囲は、例示される実施形態で限定されることはない。