(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/58 20060101AFI20231212BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20231212BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F16C33/58
F16C19/26
F16C33/64
(21)【出願番号】P 2018042634
(22)【出願日】2018-03-09
【審査請求日】2021-02-26
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 直哉
(72)【発明者】
【氏名】藤田 工
【合議体】
【審判長】平城 俊雅
【審判官】小川 恭司
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-17661(JP,A)
【文献】特開2005-226714(JP,A)
【文献】特開2007-186760(JP,A)
【文献】特開2010-48418(JP,A)
【文献】橋本宗到他,”浸炭歯車材の残留応力分布と疲労強度”,日本機械学会論文集(C編),日本,日本機械学会,1989年12月,第55巻第520号,p.3034~3037
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/32 - 33/36
F16C 33/58 - 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の軌道面を有する内輪と、
前記内輪の外周側に配置された外輪とを備え、前記外輪は、前記第1の軌道面に対向する第2の軌道面を有しており、さらに、
前記内輪と前記外輪との間に配置される複数の転動体とを備え、前記複数の転動体の各々は、前記第1の軌道面および前記第2の軌道面に接触する転動面を有しており、
前記第1の軌道面は前記複数の転動体が接触する前記内輪の表面であり、前記第2の軌道面は前記複数の転動体が接触する前記外輪の表面であり、前記転動面は前記第1の軌道面及び前記第2の軌道面に接触する前記転動体の表面であり、
前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の少なくとも1つの前記内輪及び前記外輪の軸方向における第1の残留圧縮応力は、前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の前記少なくとも1つの前記内輪及び前記外輪の周方向における第2の残留圧縮応力よりも大きい、転がり軸受。
【請求項2】
前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の前記少なくとも1つにおける第1の相当応力は、前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の前記少なくとも1つを有する前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の少なくとも1つの第2の相当応力よりも小さく、前記第2の相当応力は、前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの内部における相当応力の最大値である、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの前記軸方向の残留圧縮応力は、前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの厚さ方向において、前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の前記少なくとも1つで最大となる、請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの前記軸方向の残留圧縮応力は、前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの厚さ方向において、前記内輪、前記外輪及び前記複数の転動体の前記各々の前記少なくとも1つの内部で最大となる、請求項1または請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記複数の転動体の前記各々と前記内輪及び前記外輪の少なくとも1つとの間に作用する最大接触面圧に対する前記第1の残留圧縮応力の比は、-0.7以上0.0未満である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項6】
前記複数の転動体は複数のころである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【請求項7】
前記複数の転動体は複数の玉であり、
前記第1の軌道面、前記第2の軌道面及び前記転動面の前記少なくとも1つは、前記第1の軌道面及び前記第2の軌道面の少なくとも1つである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011-7234号公報(特許文献1)は、第1の軌道面を有する内輪と、第2の軌道面を有する外輪と、転動面を有しかつ内輪の外輪との間に配置された転動体とを備える転がり軸受を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
転がり軸受の使用中に、内輪と転動体との間の接触応力が内輪と転動体とに作用し続けるとともに、外輪と転動体との間の接触応力が外輪と転動体とに作用し続ける。これらの接触応力は、第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つに疲労亀裂を発生させる。転がり軸受を長期間使用すると、疲労亀裂が進展して、第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つの一部が剥離する。この剥離は、表面起点型剥離と呼ばれる。本発明の目的は、第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することを抑制して、長い寿命を有する転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の転がり軸受は、内輪と、内輪の外周側に配置された外輪と、内輪と外輪との間に配置される複数の転動体とを備える。内輪は、第1の軌道面を有している。外輪は、第1の軌道面に対向する第2の軌道面を有している。複数の転動体の各々は、第1の軌道面および第2の軌道面に接触する転動面を有している。第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つの内輪及び外輪の軸方向における第1の残留圧縮応力は、第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つの内輪及び外輪の周方向における第2の残留圧縮応力よりも大きい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の転がり軸受によれば、第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の実施の形態1に係る転がり軸受の概略部分断面斜視図である。
【
図2】本発明の実施の形態1に係る転がり軸受の概略部分拡大断面図である。
【
図3】本発明の実施例1、比較例2及び比較例3の転がり軸受に付与される残留圧縮応力の分布を表すグラフを示す図である。
【
図4】本発明の実施例1、比較例1から比較例3の転がり軸受の内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つに作用する相当応力の、内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つの厚さ方向の分布を表すグラフを示す図である。
【
図5】本発明の実施例2、比較例4及び比較例5の転がり軸受に付与される残留圧縮応力の分布を表すグラフを示す図である。
【
図6】本発明の実施例2、比較例1、比較例4及び比較例5の転がり軸受の内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つに作用する相当応力の、内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つの厚さ方向の分布を表すグラフを示す図である。
【
図7】本発明の実施の形態1に係る転がり軸受の第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つに付与される残留圧縮応力の異方性が、本発明の実施の形態1に係る転がり軸受の内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つに作用する相当応力の比と第1の残留圧縮応力との間の関係に及ぼす影響を表すグラフを示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態1に係る転がり軸受の使用前に、各転動体を内輪及び外輪に対して転動させることによって第1の軌道面、第2の軌道面及び転動面の少なくとも1つに付与される残留圧縮応力の、内輪、外輪及び各転動体の少なくとも1つの厚さ方向の分布を表すグラフを示す図である。
【
図9】本発明の実施の形態2に係る転がり軸受の概略平面図である。
【
図10】本発明の実施の形態2に係る転がり軸受の、
図9に示される断面線X-Xにおける概略部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0009】
(実施の形態1)
図1から
図8を参照して、実施の形態1に係る転がり軸受1を説明する。
図1及び
図2に示されるように、本実施の形態の転がり軸受1は、内輪3と、外輪6と、複数の転動体10とを備える。内輪3と、外輪6と、複数の転動体10とは、例えば、軸受鋼のような鋼で作られている。内輪3と外輪6と複数の転動体10とを構成する鋼は、JIS規格(JIS4805:2008)に定められる高クロム軸受鋼であってもよい。内輪3と外輪6と複数の転動体10とを構成する鋼は、JIS規格に定められるSUJ2鋼材であってもよい。
【0010】
内輪3は、第1の軌道面4を有している。外輪6は、第1の軌道面4に対向する第2の軌道面7を有している。外輪6は、内輪3の外周側に配置されている。複数の転動体10は、内輪3と外輪6との間に配置されている。複数の転動体10の各々は、第1の軌道面4および第2の軌道面7に接触する転動面11を有している。複数の転動体10は複数のころであってもよい。転がり軸受1は、ころ軸受であってもよい。転がり軸受1は、複数の転動体10を保持する保持器15をさらに備えてもよい。
【0011】
外輪6は、複数の転動体10を介して、内輪3に対して、軸2を中心に回転し得る。外輪6が内輪3に対して軸2を中心に回転している間、転がり軸受1には潤滑油が供給されてもよい。本実施の形態の転がり軸受1は、特に限定されないが、希薄潤滑条件(低Λ条件)下で使用されてもよい。希薄潤滑条件(低Λ条件)は、式(1)で定義される油膜パラメータΛが1以下となる条件である。
【0012】
【0013】
式(1)において、hminは最小油膜厚さを表し、Rq1は第1の軌道面4または第2の軌道面7の二乗平均粗さを表し、Rq2は転動面11の二乗平均粗さを表す。
【0014】
内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの転がり軸受1の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの転がり軸受1の周方向(x方向)の第2の曲率半径と異なっている。本実施の形態では、内輪3の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、内輪3の周方向(x方向)の第2の曲率半径と異なっている。外輪6の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、外輪6の周方向(x方向)の第2の曲率半径と異なっている。各転動体10の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、各転動体10の周方向(x方向)の第2の曲率半径と異なっている。特定的には、内輪3の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、内輪3の周方向(x方向)の第2の曲率半径より大きくてもよい。外輪6の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、外輪6の周方向(x方向)の第2の曲率半径より大きくてもよい。各転動体10の軸方向(y方向)の第1の曲率半径は、各転動体10の周方向(x方向)の第2の曲率半径より大きくてもよい。
【0015】
第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は減少する。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを構成する材料の降伏応力よりも小さくなる。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得る。本明細書において、相当応力は、ミーゼス(Mises)応力を意味する。
【0016】
これに対し、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0が、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを構成する材料の降伏応力より大きいとき、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに塑性変形が発生する。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに、疲労亀裂が発生して、表面起点型剥離が発生する。
【0017】
以下、実施例1、実施例2及び比較例1-5を参照して、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0を、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きくすることによって、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0が減少することを示す。
【0018】
内輪3と各転動体10との間の接触、及び、外輪6と各転動体10との間の接触は、ヘルツ接触とみなすことができる。内輪3と各転動体10との間の接触面、及び、外輪6と各転動体10との間の接触面は、長半径a及び短半径bを有する楕円形の接触面とみなすことができる。長半径aは、接触楕円の長軸方向における半径を意味し、短半径bは、接触楕円の短軸方向における半径を意味する。接触楕円の長軸方向は、転がり軸受1の軸方向(y方向)であり、接触楕円の短軸方向は、転がり軸受1の周方向(x方向)である。
【0019】
実施例1、実施例2及び比較例1-5では、ヘルツの理論を用いて、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを有する内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに生じる相当応力をシミュレーションした。具体的には、転動面11と第1の軌道面4及び第2の軌道面7の少なくとも1つとの間に作用する最大接触面圧Pmaxが3.0GPaであり、短半径bが1mmであり、かつ、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの少なくとも1つが表1及び表2に示される残留圧縮応力分布を有する場合において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの相当応力をシミュレーションした。
【0020】
表1に示されるように、実施例1では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
xは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図3に示される分布Aを有している。実施例1では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図3に示される分布Bを有している。
図3の縦軸における負号は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される応力が圧縮応力であることを意味する。
【0021】
【0022】
実施例1では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに異方的な残留圧縮応力が付与されている。具体的には、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。本明細書において、圧縮応力が大きいことは、圧縮応力の絶対値が大きいことを意味する。
【0023】
さらに、
図3の分布A及び分布Bに示されるように、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの表層領域において、軸方向(y方向)における残留圧縮応力σ
yは、周方向(x方向)における残留圧縮応力σ
xよりも大きい。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)における残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面(すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つ)で最大となってもよい。
【0024】
これに対し、表1に示されるように、比較例1では、内輪3、外輪6及び各転動体10には、残留圧縮応力は付与されていない。比較例2では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
x及び軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図3に示される分布Aを有している。比較例3では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
x及び軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図3に示される分布Bを有している。比較例2及び比較例3では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに等方的な残留圧縮応力σ
x,σ
yが付与されている。
【0025】
図4に示されるように、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域における実施例1の相当応力は、表層領域における比較例2及び比較例3の相当応力よりも低い。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される残留圧縮応力は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに作用する相当応力を減少させる。本明細書において、表層領域は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面(すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つ)から、相当応力が極小となる深さまでの領域を意味する。
図4において、横軸は、接触楕円の短半径bで規格化された、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向の位置z/bを示す。表層領域は、例えば、z/bが0.2以下である領域であってもよい。表層領域は、例えば、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面(すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つ)から50μmの深さまでの領域であってもよい。
【0026】
内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面、すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを含む。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける実施例1の第1の相当応力σ
e0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける比較例2及び比較例3の第1の相当応力よりも低い。
図4において、位置z/b=0は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面、すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを表す。
【0027】
表層領域において、実施例1の相当応力及び第1の相当応力σe0が、それぞれ、表層領域における比較例2及び比較例3の相当応力及び第1の相当応力よりも低くなる理由は、以下のように考えられる。軸方向(y方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第1の曲率半径は、周方向(x方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の曲率半径と異なっている。そのため、軸方向(y方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力は、周方向(x方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力と異なる。軸方向(y方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力は、周方向(x方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力と異なる。実施例1の異方的な残留圧縮応力は、比較例2及び比較例3の等方的な残留圧縮応力よりも、内輪3と各転動体10との間の異方的な接触応力と外輪6と各転動体10との間の異方的な接触応力とに、より効果的に対処し得る。
【0028】
こうして、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される異方的な残留圧縮応力は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを含む内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに作用する相当応力を減少させる。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域における相当応力は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを構成する材料の降伏応力よりも小さくなる。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得る。
【0029】
表2に示されるように、実施例2では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
xは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図5に示される分布Cを有している。実施例2では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図5に示される分布Dを有している。
図5の縦軸における負号は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される応力が圧縮応力であることを意味する。
【0030】
【0031】
実施例2では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに異方的な残留圧縮応力が付与されている。具体的には、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。
【0032】
さらに、
図5の分布C及び分布Dに示されるように、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの表層領域において、軸方向(y方向)における残留圧縮応力σ
yは、周方向(x方向)における残留圧縮応力σ
xよりも大きい。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)における残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの内部で最大となってもよい。
【0033】
特定的には、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)における残留圧縮応力σyが最大となる厚さ方向の位置z/bは、0より大きく、0.03より大きくてもよく、0.05より大きくてもよい。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)における残留圧縮応力σyが最大となる厚さ方向の位置z/bは、1.00より小さくてもよく、0.90より小さくてもよく、0.80より小さくてもよい。
【0034】
これに対し、表2に示されるように、比較例1では、内輪3、外輪6及び各転動体10には、残留圧縮応力は付与されていない。比較例4では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
x及び軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図5に示される分布Cを有している。比較例5では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの周方向(x方向)の残留圧縮応力σ
x及び軸方向(y方向)の残留圧縮応力σ
yは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、
図5に示される分布Dを有している。比較例4及び比較例5では、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに等方的な残留圧縮応力σ
x,σ
yが付与されている。
【0035】
図6に示されるように、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域における実施例2の相当応力は、表層領域における比較例4及び比較例5の相当応力よりも低い。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される残留圧縮応力は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに作用する相当応力を減少させる。
【0036】
内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面、すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを含む。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける実施例2の第1の相当応力σ
e0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける比較例4及び比較例5の第1の相当応力よりも低い。
図4において、位置z/b=0は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面、すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを表す。
【0037】
表層領域において、実施例2の相当応力及び第1の相当応力σe0が、それぞれ、比較例4及び比較例5の相当応力及び第1の相当応力よりも低くなる理由は、以下のように考えられる。軸方向(y方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第1の曲率半径は、周方向(x方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の曲率半径と異なっている。そのため、軸方向(y方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力は、周方向(x方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力と異なる。軸方向(y方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力は、周方向(x方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力と異なる。実施例2の異方的な残留圧縮応力は、比較例4及び比較例5の等方的な残留圧縮応力よりも、内輪3と各転動体10との間の異方的な接触応力と外輪6と各転動体10との間の異方的な接触応力とに、より効果的に対処し得る。
【0038】
こうして、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに付与される異方的な残留圧縮応力は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを含む内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに作用する相当応力を減少させる。内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域における相当応力は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを構成する材料の降伏応力よりも小さくなる。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得る。
【0039】
図4及び
図6に示される実施例1及び実施例2のように、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σ
e0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを有する内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の相当応力σ
e2よりも小さくてもよい。第2の相当応力σ
e2は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの内部における相当応力の最大値である。言い換えると、
図7に示される相当応力の比nは、1未満であってもよい。本明細書において、相当応力の比nは、第2の相当応力σ
e2に対する第1の相当応力σ
e0の比nで与えられる(n=σ
e0/σ
e2)。
【0040】
第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は減少して、相当応力の比nが1未満となり得る。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを構成する材料の降伏応力よりも小さくなる。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得る。
【0041】
各転動体10と内輪3及び外輪6の少なくとも1つとの間に作用する最大接触面圧Pmaxに対する第1の残留圧縮応力σy0の比は、-0.7以上であってもよく、-0.6以上であってもよく、-0.5以上であってもよい。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを有する内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の相当応力σe2よりも小さくすることができる。各転動体10と内輪3及び外輪6の少なくとも1つとの間の最大接触面圧Pmaxに対する第1の残留圧縮応力σy0の比は、0.0未満であってもよく、-0.1以下であってもよく、-0.2以下であってもよい。
【0042】
残留圧縮応力の異方性αは、1より大きい。残留圧縮応力の異方性αは、第2の残留圧縮応力σx0に対する第1の残留圧縮応力σy0の比で与えられる(α=σy0/σx0)。残留圧縮応力の異方性αは、1.3以上であってもよく、1.5以上であってもよく、1.75以上であってもよく、2.0以上であってもよい。残留圧縮応力の異方性αは、特に限定されないが、20以下であってもよく、10以下であってもよく、5.0以下であってもよい。
【0043】
図7に示されるように、残留圧縮応力の異方性αが1より大きくなるにつれて、転がり軸受1に作用する相当応力の比nが1未満となる第1の残留圧縮応力σ
y0の範囲が拡大する。
図7の横軸における負号は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに付与される応力が圧縮応力であることを意味する。例えば、残留圧縮応力の異方性αが1.3に等しいとき、1650MPa以下の第1の残留圧縮応力σ
y0は、第1の相当応力σ
e0を第2の相当応力σ
e2よりも低下させることできる。そのため、残留圧縮応力の異方性αを1より大きくすることにより、多様な第1の残留圧縮応力σ
y0を有するより多くの種類の転がり軸受1において、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σ
e0を減少させることができる。より多くの種類の転がり軸受1において、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得る。
【0044】
表層領域において、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0を、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きく2つの方法を以下に例示する。第一の方法は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにショットピーニング加工またはバニシング加工を施すことである。
【0045】
第二の方法は、転がり軸受1の使用前に、転がり軸受1の通常の使用状態における第2の最大接触面圧よりも高い第1の最大接触面圧で、各転動体10を内輪3及び外輪6に対して短時間転動させることである。第2の最大接触面圧に対する高い第1の最大接触面圧の比は、1.0よりも大きくてもよく、1.3よりも大きくてもよい。第2の最大接触面圧に対する高い第1の最大接触面圧の比は、特に限定されないが、3.0より小さくてもよく、2.5以下であってもよい。例えば、第1の最大接触面圧は5.6GPaであり、第2の最大接触面圧は3.0GPaであってもよい。例えば、転がり軸受1の使用前に5.6GPaの第1の最大接触面圧で各転動体10を内輪3及び外輪6に対して転動させることによって、
図8に示されるように、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表面(すなわち、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つ)を含む内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの表層領域において、第1の残留圧縮応力σ
y0を第2の残留圧縮応力σ
x0よりも大きくすることができる。
【0046】
本実施の形態の転がり軸受1の効果を説明する。
本実施の形態の転がり軸受1は、内輪3と、内輪3の外周側に配置された外輪6と、内輪3と外輪6との間に配置される複数の転動体10とを備える。内輪3は、第1の軌道面4を有している。外輪6は、第1の軌道面4に対向する第2の軌道面7を有している。複数の転動体10の各々は、第1の軌道面4および第2の軌道面7に接触する転動面11を有している。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの内輪3及び外輪6の周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。
【0047】
転がり軸受1の軸方向(y方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第1の曲率半径は、転がり軸受1の周方向(x方向)における内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の曲率半径と異なっている。そのため、転がり軸受1の軸方向(y方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力は、転がり軸受1の周方向(x方向)における内輪3と各転動体10との間の接触応力と異なる。転がり軸受1の軸方向(y方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力は、転がり軸受1の周方向(x方向)における外輪6と各転動体10との間の接触応力と異なる。
【0048】
第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0を、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きくすることによって、異方的な接触応力に効果的に対処し得る。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は減少する。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0049】
本実施の形態の転がり軸受1では、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを有する内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の相当応力σe2よりも小さくてもよい。第2の相当応力σe2は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの内部における相当応力の最大値である。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0050】
内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)の残留圧縮応力σyは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つで最大となってもよい。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに作用する第1の相当応力σe0は減少する。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0051】
内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの軸方向(y方向)の残留圧縮応力σyは、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの厚さ方向において、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの内部で最大となってもよい。そのため、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つに作用する第1の相当応力σe0は減少する。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0052】
本実施の形態の転がり軸受1では、複数の転動体10の各々と内輪3及び外輪6の少なくとも1つとの間に作用する最大接触面圧に対する第1の残留圧縮応力σy0の比は、-0.7以上0.0未満であってもよい。そのため、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つにおける第1の相当応力σe0は減少して、第1の相当応力σe0は、内輪3、外輪6及び各転動体10の少なくとも1つの第2の相当応力σe2よりも小さくすることができる。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0053】
本実施の形態の転がり軸受1では、複数の転動体10は複数のころであってもよい。第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つに付与される異方的な残留圧縮応力は、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つを含む内輪3、外輪6及び各ころの少なくとも1つの表層領域R1,R2において、内輪3、外輪6及び各ころの少なくとも1つに作用する相当応力を減少させる。本実施の形態の転がり軸受1によれば、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び各ころの転動面11の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1が提供され得る。
【0054】
(実施の形態2)
図9及び
図10を参照して、実施の形態2に係る転がり軸受1bを説明する。本実施の形態の転がり軸受1bは、実施の形態1の転がり軸受1と同様の構成を備えるが、主に以下の点で異なる。
【0055】
本実施の形態の転がり軸受1bでは、複数の転動体10bは複数の玉である。転がり軸受1bは、深溝玉軸受であってもよい。軸方向(y方向)における各転動体10bの曲率半径は、周方向(x方向)における各転動体10bの曲率半径に実質的に等しい。各転動体10bは、軸方向(y方向)及び周方向(x方向)において、実質的に等方的な形状を有している。
【0056】
転がり軸受1bの軸方向(y方向)における内輪3及び外輪6の少なくとも1つの第1の曲率半径は、転がり軸受1bの周方向(x方向)における内輪3及び外輪6の少なくとも1つの第2の曲率半径と異なっている。本実施の形態では、軸方向(y方向)における内輪3の曲率半径は、周方向(x方向)における内輪3の曲率半径と異なっている。軸方向(y方向)における外輪6の曲率半径は、周方向(x方向)における外輪6の曲率半径と異なっている。特定的には、軸方向(y方向)における内輪3の曲率半径は、周方向(x方向)における内輪3の曲率半径より大きくてもよい。軸方向(y方向)における外輪6の曲率半径は、周方向(x方向)における外輪6の曲率半径より大きくてもよい。
【0057】
本実施の形態では、第1の軌道面4及び第2の軌道面7の少なくとも1つを含む内輪3及び外輪6の少なくとも1つの表層領域において、軸方向(y方向)における残留圧縮応力σyは、周方向(x方向)における残留圧縮応力σxよりも大きい。本実施の形態における、内輪3及び外輪6の少なくとも1つの厚さ方向での、軸方向(y方向)の残留圧縮応力σyの分布と周方向(x方向)の残留圧縮応力σxの分布とは、それぞれ、実施の形態1における、内輪3及び外輪6の少なくとも1つの厚さ方向での、軸方向(y方向)の残留圧縮応力σyの分布と周方向(x方向)の残留圧縮応力σxの分布と同様であってもよい。本実施の形態では、転動面11には、異方的な残留圧縮応力は付与されていない。
【0058】
本実施の形態の転がり軸受1bは、以下のように、実施の形態1の転がり軸受1と同様の効果を奏する。
【0059】
本実施の形態の転がり軸受1bでは、複数の転動体10b複数の玉である。第1の軌道面4及び第2の軌道面7の少なくとも1つにおいて、軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0は、周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きい。
【0060】
本実施の形態の転がり軸受1bでは、転がり軸受1bの軸方向(y方向)における内輪3及び外輪6の少なくとも1つの第1の曲率半径は、転がり軸受1bの周方向(x方向)における内輪3及び外輪6の少なくとも1つの第2の曲率半径と異なっている。そのため、転がり軸受1bの軸方向(y方向)における内輪3と各玉との間の接触応力は、転がり軸受1bの周方向(x方向)における内輪3と各玉との間の接触応力と異なる。転がり軸受1bの軸方向(y方向)における外輪6と各玉との間の接触応力は、転がり軸受1bの周方向(x方向)における外輪6と各玉との間の接触応力と異なる。
【0061】
第1の軌道面4及び第2の軌道面7の少なくとも1つの軸方向(y方向)における第1の残留圧縮応力σy0を、第1の軌道面4、第2の軌道面7及び転動面11の少なくとも1つの周方向(x方向)における第2の残留圧縮応力σx0よりも大きくすることによって、異方的な接触応力に効果的に対処し得る。内輪3及び外輪6の少なくとも1つにおける第1の第1の相当応力σe0は減少する。本実施の形態の転がり軸受1bによれば、第1の軌道面4及び第2の軌道面7の少なくとも1つに表面起点型剥離が発生することが抑制され得て、長い寿命を有する転がり軸受1bが提供され得る。
【0062】
今回開示された実施の形態1及び実施の形態2はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0063】
1,1b 転がり軸受、2 軸、3 内輪、4 第1の軌道面、6 外輪、7 第2の軌道面、10,10b 転動体、11 転動面、15 保持器。