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特許7401181液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法
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  • 特許-液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20231212BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B41J2/14 605
B41J2/14 301
B41J2/14 603
B41J2/16 401
B41J2/16 507
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018103699
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019206148
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-08-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】穂積 大輔
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-30367(JP,A)
【文献】特開2016-172381(JP,A)
【文献】特開2014-233885(JP,A)
【文献】特開2013-208813(JP,A)
【文献】国際公開第2010/150876(WO,A1)
【文献】特開2004-358872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の吐出孔、該複数の吐出孔と繋がっている複数の加圧室、複数の共通流路、および少なくとも1つのダミー共通流路を有する、複数のプレートが積層されてなる流路部材と、前記複数の加圧室を加圧する複数の加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、
前記複数の共通流路は、複数の第1共通流路および複数の第2共通流路を有し、前記複数の第1共通流路と前記複数の第2共通流路とは、前記複数のプレートの積層方向において前記複数の第1共通流路が前記複数の第2共通流路の上に重なるように配置されているとともに各々第1方向に沿って延びており、且つ前記第1方向と交差する方向である第2方向に並んで配置されており、
前記複数の加圧室が配置された領域を第1領域とし、前記第1方向と反対の方向を第3方向とすると、
前記複数の共通流路の各々は、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記少なくとも1つのダミー共通流路は、前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記流路部材は、前記複数のプレートを含んでおり、該プレートには、前記加圧室の一部となる複数の第1孔と、前記複数の第1共通流路または前記複数の第2共通流路の一部となる複数の第2孔と、前記ダミー共通流路の一部となる少なくとも1つの第3孔と、が配置されており、
前記プレートを平面視したときに、
前記複数の第2孔は、前記共通流路と同様に、各々前記第1方向に沿って延びており、かつ前記第2方向に並んで配置されており、
前記複数の第1孔が配置された領域を第2領域とすると、
前記複数の第2孔の各々は、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記少なくとも1つの第3孔は、前記ダミー共通流路と同様に前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記複数の第1孔は、当該複数の第1孔が前記第1方向に並んで配置されている複数の第1孔行を構成しており、
前記複数の第1孔のうち、上下に重なるように配置されるとともに前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔同士の間に配置されていない前記第1孔の少なくとも一部は、前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔と前記第3孔との間に配置されている
、液体吐出ヘッド。
【請求項2】
前記複数の第1孔のうち、重なって配置されている前記第2孔同士の間に配置されていない前記第1孔の少なくとも一部は、前記第2孔と前記第3孔との間に配置されている、請求項1に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記複数の第1孔のすべては、前記第2孔同士の間、前記第2孔と前記第3孔との間、および前記第3孔同士の間のいずれかに配置されている、請求項1または2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記プレートを平面視したときに、
前記複数の第1孔行は前記第2方向に並んで配置されており、
前記第1孔から、前記第2孔および前記第3孔のうちでもっとも近いものまでの距離を距離Lとしたとき、
前記複数の第1孔の中には前記距離Lの異なるものが存在し、
前記距離Lが短い前記第1孔からなる第1群と、前記距離Lが前記第1群よりも長い第2群とに分けたときに、
前記第1方向に関して、前記第1群に属する前記第1孔と、前記第2群に属する前記第1孔とが交互に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記第1群に属する前記第1孔の前記距離Lはすべて同じであり、前記第2群に属する前記第1孔の前記距離Lはすべて同じである、請求項4に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1孔の平面形状が円形状であり、前記第1孔が形成された前記プレートの上面および下面の少なくとも一方における前記第1孔の半径をR1とし、前記第1孔が形成された前記プレートの厚さをTとしたとき、R1≧2T/3である、請求項1~5のいずれかに記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記第1孔の平面形状が円形状であり、前記第1孔の深さ方向の中でもっとも径の小さい位置での前記第1孔の半径をR2としたとき、R2≧0.9R1である、請求項6に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部とを備えている、記録装置。
【請求項9】
複数の吐出孔、該複数の吐出孔と繋がっている複数の加圧室、複数の共通流路、および少なくとも1つのダミー共通流路を有する、複数のプレートが積層されてなる流路部材を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、
前記複数の共通流路は、複数の第1共通流路および複数の第2共通流路を有し、前記複数の第1共通流路と前記複数の第2共通流路とは、前記複数のプレートの積層方向において前記複数の第1共通流路が前記複数の第2共通流路の上に重なるように配置されているとともに各々第1方向に沿って延びており、且つ前記第1方向と交差する方向である第2方向に並んで配置されており、
前記複数の加圧室が配置された領域を第1領域とし、前記第1方向と反対の方向を第3方向とすると、
前記複数の共通流路の各々は、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記少なくとも1つのダミー共通流路は、前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記流路部材は、エッチング工程により加工された金属の前記複数のプレートを含んでおり、
前記エッチング工程において、前記プレートに形成される、前記複数の加圧室の一部となる複数の第1孔、前記複数の第1共通流路または前記複数の第2共通流路の一部となる複数の第2孔、および前記ダミー共通流路の一部となる少なくとも1つの第3孔の配置が、
前記プレートを平面視したときに、
前記複数の第2孔は、前記共通流路と同様に、各々前記第1方向に沿って延びており、かつ前記第2方向に並んで配置されており、
前記複数の第1孔が配置された領域を第2領域とすると、
前記複数の第2孔の各々は、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記少なくとも1つの第3孔は、前記ダミー共通流路と同様に前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、
前記複数の第1孔は、当該複数の第1孔が前記第1方向に並んで配置されている複数の第1孔行を構成しており、
前記複数の第1孔のうち、前記複数のプレートの積層方向において上下に重なるように配置されているとともに前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔同士の間に配置されていない前記第1孔の少なくとも一部は、前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔と前記第3孔との間に配置されている、
配置である、液体吐出ヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体吐出ヘッド、およびそれを用いた記録装置、ならびに液体吐出ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、印刷用ヘッドとして、例えば、液体を記録媒体上に吐出することによって、各種の印刷を行なう液体吐出ヘッドが知られている。液体吐出ヘッドには、例えば、液体を吐出する吐出孔が二次元的に広がって多数配置されている。記録媒体には、各吐出孔から吐出された液体が並んで着弾することにより、印刷が行なわれる(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-143168号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の液体吐出ヘッドは、複数の吐出孔、該複数の吐出孔と繋がっている複数の加圧室、複数の共通流路、および少なくとも1つのダミー共通流路を有する流路部材と、前記複数の加圧室を加圧する複数の加圧部とを含んでいる液体吐出ヘッドであって、前記複数の共通流路は、複数の第1共通流路および複数の第2共通流路を有し、前記複数の第1共通流路と前記複数の第2共通流路とは、前記複数の第1共通流路が前記複数の第2共通流路の上に重なるように配置されているとともに各々第1方向に沿って延びており、且つ前記第1方向と交差する方向である第2方向に並んで配置されており、前記複数の加圧室が配置された領域を第1領域とし、前記第1方向と反対の方向を第3方向とすると、前記複数の共通流路の各々は、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記少なくとも1つのダミー共通流路は、前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記流路部材は、複数のプレートを含んでおり、該プレートには、前記加圧室の一部となる複数の第1孔と、前記複数の第1共通流路または前記複数の第2共通流路の一部となる複数の第2孔と、前記ダミー共通流路の一部となる少なくとも1つの第3孔と、が配置されており、前記プレートを平面視したときに、前記複数の第2孔は、前記共通流路と同様に、各々前記第1方向に沿って延びており、かつ前記第2方向に並んで配置されており、前記複数の第1孔が配置された領域を第2領域とすると、前記複数の第2孔の各々は、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記少なくとも1つの第3孔は、前記ダミー共通流路と同様に前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記複数の第1孔は、当該複数の第1孔が前記第1方向に並んで配置されている複数の第1孔行を構成しており、前記複数の第1孔のうち、上下に重なるように配置されているとともに前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔同士の間に配置されていない前記第1孔の少なくとも一部は、前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔と前記第3孔との間に配置されている。
【0006】
さらに、本開示の記録装置は、前記液体吐出ヘッドと、記録媒体を前記液体吐出ヘッドに対して搬送する搬送部と、前記液体吐出ヘッドを制御する制御部を備えている。
【0008】
本開示の液体吐出ヘッドの製造方法は、複数の吐出孔、該複数の吐出孔と繋がっている複数の加圧室、複数の共通流路、および少なくとも1つのダミー共通流路を有する流路部材を含む液体吐出ヘッドの製造方法であって、前記複数の共通流路は、複数の第1共通流路および複数の第2共通流路を有し、前記複数の第1共通流路と前記複数の第2共通流路とは、前記複数の第1共通流路が前記複数の第2共通流路の上に重なるように配置されているとともに各々第1方向に沿って延びており、且つ前記第1方向と交差する方向である第2方向に並んで配置されており、前記複数の加圧室が配置された領域を第1領域とし、前記第1方向と反対の方向を第3方向とすると、前記複数の共通流路の各々は、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記少なくとも1つのダミー共通流路は、前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第1領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記流路部材は、エッチング工程により加工された金属の複数のプレートを含んでおり、前記エッチング工程において、前記プレートに形成される、前記複数の加圧室の一部となる複数の第1孔、前記複数の第1共通流路または前記複数の第2共通流路の一部となる複数の第2孔、および前記ダミー共通流路の一部となる少なくとも1つの第3孔の配置が、前記プレートを平面視したときに、前記複数の第2孔は、前記共通流路と同様に、各々前記第1方向に沿って延びており、かつ前記第2方向に並んで配置されており、前記複数の第1孔が配置された領域を第2領域とすると、前記複数の第2孔の各々は、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記少なくとも1つの第3孔は、前記ダミー共通流路と同様に前記第1方向に沿って延びているとともに、前記第2領域における前記第1方向の端から前記第3方向の端に渡る長さを有しており、前記複数の第1孔は、当該複数の第1孔が前記第1方向に並んで配置されている複数の第1孔行を構成しており、前記複数の第1孔のうち、上下に重なるように配置されているとともに前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔同士の間に配置されていない前記第1孔の少なくとも一部は、前記第2方向に並んで配置されている前記第2孔と前記第3孔との間に配置されている、配置である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッドを含む記録装置の側面図であり、(b)は平面図である。
図2】(a)は、図1の液体吐出ヘッドの要部であるヘッド本体の平面図であり、(b)は、(a)から第2流路部材を除いた平面図である。
図3図2(b)の一部の拡大平面図である。
図4図2(b)の一部の拡大平面図である。
図5】(a)は、流路部材の一部を構成するプレートの平面図であり、(b)は(a)の一部の拡大平面図である。
図6】(a)は、流路部材の一部を構成する他のプレートの平面図であり、(b)は(a)の一部の拡大平面図である。
図7】(a)は、ヘッド本体の模式的な部分縦断面図であり、(b)は、ヘッド本体の他の部分の縦断面図あり、流路部材の一部を構成するプレートの縦断面図である。
図8】本開示の第1孔の配置である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、液体を吐出する液体吐出ヘッド2と、液体吐出ヘッド2に対して記録媒体を相対的に移動させる可動部を含んでいる。プリンタ1では、可動部は、搬送ローラ82A、82B、82C、82Dなどの各搬送ロ
ーラやそれらを駆動するモータ等である。可動部は、記録媒体である印刷用紙Pを搬送ローラ82Aから搬送ローラ82Cへと搬送する。制御部88は、画像や文字等のデータである印刷データ等に基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、印刷用紙Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液体を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0011】
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させ、その途中で液体を吐出する動作と、印刷用紙Pの搬送とを交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。シリアルプリンタでは、可動部は、液体吐出ヘッド2が搭載されたキャリッジ、およびキャリッジを印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に往復させるモータを含んでいる。可動部には、印刷用紙Pを搬送するローラや、そのローラを駆動するモータ等を含んでもよい。
【0012】
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように、4つの平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。各フレーム70には図示しない5個の孔が設けられており、5個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されている。1つのフレーム70に搭載されている5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成している。プリンタ1は、4つのヘッド群72を有しており、合計20個の液体吐出ヘッド2が搭載されている。
【0013】
フレーム70に搭載された液体吐出ヘッド2は、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5~20mm程度とされる。
【0014】
20個の液体吐出ヘッド2は、制御部88と直接繋がっていてもよいし、間に印刷データを分配する分配部を介して接続してもよい。分配部は、例えば、制御部88から送られた印刷データを、20個の液体吐出ヘッド2に分配してもよい。また、例えば、4つのヘッド群72に対応する4つの分配部を用いて、制御部88から、4つの分配部に送られた印刷データを、各分配部は、対応するヘッド群72内の5つの液体吐出ヘッド2に分配してもよい。
【0015】
液体吐出ヘッド2は、図1(a)の手前から奥へ向かう方向、図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。別の表現をすれば、1つのヘッド群72において、液体吐出ヘッド2は、千鳥状に配置されている。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向、すなわち、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0016】
4つのヘッド群72は、印刷用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体供給タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
【0017】
印刷するために液体供給タンクに収容される液体の粘度は、例えば5mPa・s以上15mPa・s以下とされる。液体供給タンクには、収容された液体の粘度が高くなったり、成分の沈降など起き難いように、液体を攪拌させる攪拌部を設けてもよい。
【0018】
プリンタ1では、液体吐出ヘッド2で吐出しなかった液体の液体吐出ヘッド2から回収してもよい。回収した液体は、液体吐出ヘッド2に液体を供給する液体供給タンクに戻してもよいし、液体回収タンクに溜めてもよい。液体回収タンクに溜めた液体は、必要応じて、フィルタを通したり、粘度調整などをして、印刷に使用することができる。
【0019】
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのであれば、1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0020】
さらに、色のあるインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を、液体吐出ヘッド2で、一様に、あるいはパターンニングして印刷してもよい。コーティング剤としては、例えば、記録媒体として液体が浸み込み難いものを用いる場合において、液体が定着し易いように、液体受容層を形成するものが使用できる。他に、コーティング剤としては、記録媒体として液体が浸み込み易いものを用いる場合において、液体のにじみが大きくなり過ぎたり、隣に着弾した別の液体とあまり混じり合わないように、液体浸透抑制層を形成するものが使用できる。コーティング剤は、液体吐出ヘッド2で印刷する以外に、制御部88が制御する塗布部75で一様に塗布してもよい。
【0021】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Cの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Cを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。
【0022】
続いて、プリンタ1の詳細について、印刷用紙Pが搬送される順に説明する。給紙ローラ80Aから送り出された印刷用紙Pは、2つの搬送ローラ82Aの間を通った後、塗布部75の下を通る。塗布部75は、印刷用紙Pに、上述のコーティング剤を塗布する。
【0023】
印刷用紙Pは、続いて、液体吐出ヘッド2が搭載されたフレーム7を収納した、ヘッド室74に入る。ヘッド室74は、印刷用紙Pが出入りする部分などの一部において外部と繋がっているが、概略、外部と隔離された空間である。ヘッド室74は、必要に応じて、制御部88等によって、温度、湿度、および気圧等の制御因子が制御される。ヘッド室74では、プリンタ1が設置されている外部と比較して、外乱の影響を少なくできるので、上述の制御因子の変動範囲を外部よりも狭くできる。
【0024】
ヘッド室74には、5個の搬送ローラ82Bが配置されており、印刷用紙Pは、搬送ローラ82Bの上を搬送される。5個の搬送ローラ82Bは、側面から見て、フレーム70が配置されている方向に向けて、中央が凸になるように配置されている。これにより、5
個の搬送ローラ82Bの上を搬送される印刷用紙Pは、側面から見て円弧状になっており、印刷用紙Pに張力を加えることで、各搬送ローラ82B間の印刷用紙Pが平面状になるように張られる。2つの搬送ローラ82Bの間には、1つのフレーム70が配置されている。各フレーム70は、その下を搬送される印刷用紙Pと平行になるように、設置される角度が少しずつ変えられている。
【0025】
ヘッド室74から外に出た印刷用紙Pは、2つの搬送ローラ82Cの間を通り、乾燥部76の中を通り、2つの搬送ローラ82Dの間を通り、回収ローラ80Bに回収される。印刷用紙Pの搬送速度は、例えば、100~200m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0026】
乾燥部76で乾燥することにより、回収ローラ80Bにおいて、重なって巻き取られる印刷用紙P同士が接着したり、未乾燥の液体が擦れることが起き難くできる。高速で印刷するためには、乾燥も速く行なう必要がある。乾燥を速くするため、乾燥部76では、複数の乾燥方式により順番に乾燥してもよいし、複数の乾燥方式を併用して乾燥してもよい。そのような際に用いられる乾燥方式としては、例えば、温風の吹き付け、赤外線の照射、加熱したローラへの接触などがある。赤外線の照射する場合は、印刷用紙Pへのダメージを少なくしつつ乾燥を速くできるように、特定の周波数範囲の赤外線を当ててもよい。印刷用紙Pを加熱したローラに接触させる場合は、印刷用紙Pをローラの円筒面に沿って搬送させことで、熱が伝わる時間を長くしてもよい。搬送させる範囲は、1/4周以上がよく、さらに1/2周以上にするのがよい。UV硬化インク等を印刷する場合には、乾燥部76の代わりに、あるいは乾燥部76に追加してUV照射光源を配置してもよい。UV照射光源は、各フレーム70の間に配置してもよい。
【0027】
回収ローラ80Bに回収可能なように、印刷された液体を、乾燥あるいは硬化させられた印刷用紙Pは、撮像部77により撮像され、印刷状態を確認される。印刷状態の確認は、テストパターンを印刷して行なってもよいし、印刷する目的の印刷データを印刷して行なってもよい。撮像は、印刷用紙Pを搬送しながら、すなわち、印刷用紙Pの他の部分を印刷しながら行なってもよいし、搬送を停止して行なってもよい。
【0028】
撮像された撮像データは、制御部88により、印刷されていない部分や、印刷精度が低い部分がないかを評価される。具体的には、液体が吐出されなかったために印刷されていない画素がないか、あるいは、吐出された液体の吐出量、吐出速度、および吐出方向が、目標としている値からずれたり、飛翔中の液体が、気体の流動等の影響を受けることで、着弾位置がずれたり、着弾後の画素の広がりが小さくなったり、大きくなったりしていないかが評価される。
【0029】
制御部88は、撮像データに、設定された閾値以上のずれ等を検出した場合は、その結果を報知してもよい。また、印刷中であれば、印刷を停止したり、再開予定の印刷を再開しなくてもよい。
【0030】
また、制御部88は、撮像データから検出されたずれを補正するように、印刷データを改変して、改変した印刷データに基づいて、液体吐出ヘッド2から液体を吐出させるようにしてもよい。具体的には、制御部88は、印刷されない画素、大きさの小さい画素、濃度の薄い画素があった場合、元の印刷データに対して、その画素の周囲に着弾する液体の量を増やした印刷データを作成し、印刷してもよい。同様に、画素の大きさが大きかったり、画素の濃度が濃かった場合には、その画素の周囲に着弾する液体の量を減らした印刷データを作成してもよい。着弾位置がある方向にずれていた場合は、ずれた方向の周囲に着弾する液体の量を減らし、ずれた方向と反対の方向の周囲に着弾する液体の量を増やした印刷データを作成してもよい。印刷データを改変する範囲は、ズレが検出された画素に
隣り合った画素だけでなく、それよりも広い範囲としてもよい。
【0031】
プリンタ1は、液体吐出ヘッド2をクリーニングするクリーニング部を備えていてもよい。クリーニング部は、例えば、ワイピングや、キャッピングして洗浄を行なう。ワイピングは、例えば、柔軟性のあるワイパーで、液体が吐出される部位の面、例えば後述のノズル面4-2を擦ることで、その面に付着していた液体を取り除く。キャッピングしての洗浄は、例えば、次のように行なう。液体を吐出される部位、例えば後述のノズル面4-2を覆うようにキャップを被せる(これをキャッピングと言う)ことで、ノズル面4-2とキャップとで、ほぼ密閉されて空間が作られる。そのような状態で、液体の吐出を繰り返すことで、吐出孔8に詰まっていた、標準状態よりも粘度が高くなっていた液体や、異物等を取り除く。キャッピングしてあることで、洗浄中の液体がプリンタ1に飛散し難く、液体が、印刷用紙Pやローラ等の搬送機構に付着し難くできる。洗浄を終えたノズル面4-2を、さらにワイピングしてもよい。ワイピングや、キャッピングしての洗浄は、プリンタ1に取り付けられているワイパーやキャップを人が手動で操作して行なってもよいし、制御部88によって自動で行なってもよい。
【0032】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0033】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や、液体吐出ヘッド2に液体を供給する液体供給タンクの液体の温度、液体供給タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出特性、すなわち、吐出量や吐出速度などに影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0034】
次に、本開示の一実施形態の液体吐出ヘッド2について説明する。図2(a)は、図1に示された液体吐出ヘッド2の要部であるヘッド本体2aを示す平面図である。図2(b)は、ヘッド本体2aから第2流路部材6を除いた状態の平面図である。図3は、図2(b)の一点鎖線の範囲のヘッド本体2aの拡大平面図である。図4は、図3の一点鎖線の範囲のヘッド本体2aの拡大平面図である。図5(a)は、流路部材4の一部を構成するプレート4eの平面図であり、図5(b)は図5(a)の一部の拡大平面図である。図6(a)は、流路部材4の一部を構成するプレート4iの平面図であり、図6(b)は、図6(a)の一部の拡大平面図である。図7(a)は、ヘッド本体2aの、模式的な部分縦断面図である。図7(a)では、流路の繋がっている状態を示すために、実際には、同一の縦断面に存在しない流路を、同一の縦断面に存在するかのように描いている。より詳細には、プレート4gから上と、プレート4hから上とは別の部位の縦断面である。図7(b)は、ヘッド本体2aの、他の部分の縦断面図である。ただし、図(b)には、図2(a)には描いていない信号伝達部60も描いてある。図7(c)は、流路部材4の一部を構成するプレート4eの縦断面図である。
【0035】
各図は、図面を分かり易くするために次のように描いている。図2~4では、他のものの下方にあって破線で描くべき流路などを実線で描いている。図4においては、図を左右に分けている中央の2点鎖線の左側では、加圧室本体10bおよび第1流路12などを省
略して描いている。個別電極44および接続電極46は図の左上部分の4つの加圧室10に対応するもののみを描いている。
【0036】
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外に、筐体や、ドライバIC、配線基板などを含んでいてもよい。また、ヘッド本体2aは、第1流路部材4と、第1流路部材4に液体を供給する第2流路部材6と、加圧部である変位素子50が作り込まれている圧電アクチュエータ基板40とを含んでいる。ヘッド本体2aは、一方方向に長い平板形状を有しており、その方向を長手方向と言うことがある。また、第2流路部材6は、ヘッド本体2aの構造を支持する支持部材の役割を果たしており、ヘッド本体2aは、第2流路部材6の長手方向の両端部のそれぞれでフレーム70に固定される。
【0037】
ヘッド本体2aを構成する第1流路部材4は、平板状の形状を有しており、その厚さは0.5~2mm程度である。第1流路部材4の一つの面である加圧室面4-1には、加圧室10が平面方向に多数並んで配置されている。第1流路部材4の、加圧室面4-1とは反対の面である吐出孔面4-2には、液体が吐出される吐出孔8が平面方向に多数並んで配置されている。吐出孔8は、それぞれ加圧室10と繋がっている。以下では、加圧室面4-1は、吐出孔面4-2に対して、上方に位置しているとして説明をする。
【0038】
第1流路部材4には、複数の第1共通流路20および複数の第2共通流路22が、第1方向に沿って伸びるように配置されている。以下で、第1共通流路20と第2共通流路22とを合わせて、共通流路と言うことがある。第1共通流路20と第2共通流路22とは重なって配置されている。第1方向と交差する方向を第2方向とする。第1共通流路20および第2共通流路22は、それぞれ8本あり、第2方向に並んで配置されている。なお、第1方向は、ヘッド本体2aの長手方向と同じ方向である。また、第1方向と反対の方向を第3方向とし、第2方向の反対の方向を第4方向とする。一部の図には、第1~4方向を、D1~4で示した。
【0039】
第1共通流路20および第2共通流路22の両側に沿って、第1共通流路20および第2共通流路22と繋がっている加圧室10、および加圧室10と繋がっている吐出孔8が並んでいる。第1共通流路20および第2共通流路22と繋がっている加圧室10は、共通流路の片側にそれぞれ2行ずつ、両側を合わせて4行の加圧室行11Aを構成している。また、第1共通流路20および第2共通流路22と繋がっている吐出孔8は、共通流路の片側にそれぞれ2行ずつ、両側を合わせて4行の吐出孔行9Aを構成している。第1共通流路20および第2共通流路22は8本あるので、加圧室行11Aは全体で32行あり、吐出孔行9Aも全体で32行ある。
【0040】
第1共通流路20とその両側に並んでいる4行の加圧室10とは、第1流路12を介して繋がっている。第2共通流路22とその両側に並んでいる4行の加圧室10とは、第2流路14を介して繋がっている。
【0041】
以上のような構成により、第1流路部材4においては、第1共通流路20に供給された液体は、第1共通流路20に沿って並んでいる加圧室10に流れ込む。加圧室10に流れ込んだ液体の一部は、吐出孔8から吐出され、他の一部は、第1共通流路20と重なって配置されている第2共通流路22に流れ込み、第1流路部材4から外部に排出される。なお、以下でする説明も含めて、液体の供給および回収の流れは、逆にしてもよい。
【0042】
第1共通流路20は、第2共通流路22の上に重なるように配置されている。第1共通流路20は、第1流路12が繋がっている範囲の外側において、第1方向および第3方向の両方の端部に配置されている開口20bで第1流路部材4の外部に開口している。第2共通流路22は、第2流路14が繋がっている範囲の外側で、かつ第1共通流路20の開
口20bよりも外側において、第1方向および第3方向の両方の端部に配置されている開口22bで第1流路部材4の外部に開口している。下側に配置されている第2共通流路22の開口22bが、上側に配置されている第1共通流路20の開口20bの外側に配置されていることで、空間効率がよくなる。なお、両端部を除いた第2共通流路本体22aの全体が、両端部を除いた第1共通流路本体20a全体よりも下側に配置されている。
【0043】
第1共通流路20の第1方向側の開口20aと第3方向側の開口20aとからは、ほぼ同量の液体が供給され、第1共通流路20の中央に向かって流れていく。1つの第1共通流路20および1つ第2共通流路22に繋がっている吐出孔8からの液体の吐出量が、場所によらずほぼ一定の場合、第1共通流路20の流れは、中央に向かうにしたがって遅くなり、ほぼ中央で0(ゼロ)になる。第2共通流路22における流れはこれと逆で、ほぼ中央で0(ゼロ)であり、外側に向かうにしたがって流れは速くなる。
【0044】
液体吐出ヘッド2では、様々なものを記録するので、1つの第1共通流路20および1つの第2共通流路22に繋がっている吐出孔8からの液体の吐出量は、様々な分布になる。第1方向側の吐出孔8からの吐出量が多い場合、流れが0(ゼロ)となる場所は、中央よりも第1方向側になる。逆に、第3方向側の吐出孔8からの吐出量が多い場合、流れが0(ゼロ)となる場所は、中央よりも第3方向側になる。このように、記録するものによって吐出の分布が変わることにより、流れが0(ゼロ)となる場所が移動する。これにより、ある瞬間に、流れが0(ゼロ)となって液体が滞留したとしても、吐出の分布が変わることにより、その場所での滞留は解消されるので、同じ場所で液体が滞留し続けることによる、顔料の沈降や、液体の固着などを起き難くできる。
【0045】
第1共通流路20に繋がっている第1流路12の第1共通流路20側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第1共通流路20に第1流路12が繋がっている位置(主に第1方向における位置)により変わる。第2共通流路22に繋がっている第2流路14側の部分に加わる圧力は、圧力損失の影響で、第2共通流路22に第2流路14が繋がっている位置(主に第1方向における位置)により変わる。1つの吐出孔8における液体の圧力をほぼ0(ゼロ)にすれば、上述の圧力変化は対称に変化するので、すべての吐出孔8で液体の圧力をほぼ0(ゼロ)にできる。
【0046】
第1共通流路20の下側の面はダンパ28Aになっている。ダンパ28Aの第1共通流路20に面している面と反対側の面は、ダンパ室29Aに面している。ダンパ室29Aは、空気などの気体が入っており、その体積は、第1共通流路20から加わる圧力によって変化する。ダンパ28Aは、ダンパ室29Aの体積が変わることで振動することができ、その振動が減衰することで、第1共通流路20に生じた圧力変動を減衰させることできる。ダンパ28Aを設けることで、第1共通流路20中の液体の共振等の圧力変動を小さくすることができる。
【0047】
第2共通流路22の下側の面はダンパ28Bになっている。ダンパ28Bの第2共通流路22に面している面と反対側の面は、ダンパ室29Bに面している。第1共通流路の場合と同様に、ダンパ28Bを設けることで、第2共通流路22中の液体の共振等の圧力変動を小さくすることができる。
【0048】
1つの吐出孔行9Aでは、吐出孔8は50dpi(約25.4mm/50)の間隔で配置されている。32行の吐出孔行9Aがあり、それらに含まれる吐出孔8が、第1方向に互いにずれて配置されていることにより、全体で1600dpiの間隔で吐出孔8が配置されている。
【0049】
より具体的には、図3において、吐出孔8を第1方向と直交する方向に投影すると、仮
想直線Rの範囲に32個の吐出孔8が投影され、仮想直線R内で各吐出孔8は1200dpiの間隔に並ぶ。これにより、仮想直線Rに直交する方向に印刷用紙Pを搬送して印刷すれば、1200dpiの解像度で印刷できる。
【0050】
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4-1に接合されており、第1共通流路20に液体を供給する第1統合流路24と、第2共通流路22の液体を回収する第2統合流路26とを有している。第2流路部材6の厚さは、第1流路部材4よりも厚く、5~30mm程度である。
【0051】
第2流路部材6は、第1流路部材4の加圧室面4-1における、圧電アクチュエータ基板40が接続されていない領域で接合されている。より具体的には、圧電アクチュエータ基板40を囲むように接合されている。このようにすることで、圧電アクチュエータ基板40に、吐出した液体の一部がミストとなって付着するのを抑制できる。また、圧電アクチュエータ基板40を囲むように、第1流路部材4を外周で固定することになるので、第1流路部材4が変位素子50の駆動にともなって振動して、起きる共振を小さくできる。
【0052】
第1統合流路24の第3方向の端部には、第2流路部材6の上面に開口している開口24bが配置されている。第1統合流路24は途中で2つに分岐して、一方は第3方向側の第1共通流路20の開口20bに繋がっており、もう一方は第1方向側の第1共通流路20の開口20bに繋がっている。第2統合流路26の第1方向の端部には、第2流路部材6の上面に開口している開口26bが配置されている。第2統合流路26は途中で2つに分岐して、一方は第1方向側の第2共通流路22の開口22bに繋がっており、もう一方は第3方向側の第1共通流路22の開口22bに繋がっている。印刷をする場合には、外部から第1統合流路24の開口24bに液体を供給し、吐出しなかった液体は、第2統合流路26の開口26bから回収する。
【0053】
また、第2流路部材6には、第2流路部材6を上下に貫通している貫通孔6aが配置されている。貫通孔6aには、圧電アクチュエータ基板40を駆動する駆動信号を伝達するFPC(Flexible Printed Circuit)などの信号伝達部60が通される。
【0054】
第1統合流路24を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第1統合流路24の断面積を大きくすることができ、それにより第1統合流路24と第1共通流路20とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さくできる。第1統合流路24の流路抵抗は、第1共通流路20の1/100以下にするのが好ましい。ここで、第1統合流路24の流路抵抗とは、より正確には第1統合流路24のうちで、第1共通流路20と繋がっている範囲の流路抵抗のことである。
【0055】
第2統合流路26を、第1流路部材4とは別の、第1流路部材4より厚い第2流路部材6に配置することで、第2統合流路26の断面積を大きくすることができ、それにより第2統合流路26と第2共通流路22とが繋がっている位置の差による圧力損失の差を小さくできる。第2統合流路26の流路抵抗は、第2共通流路22の1/100以下にするのが好ましい。ここで、第2統合流路26の流路抵抗とは、より正確には第2統合流路26のうちで、第2共通流路22と繋がっている範囲の流路抵抗のことである。
【0056】
第1統合流路24を第2流路部材6の短手方向の一方の端に配置し、第2統合流路26を第2流路部材6の短手方向の他方の端に配置し、それぞれの流路を第1流路部材4側に向かわせて、それぞれ第1共通流路20および第2共通流路22と繋げる構造にする。このような構造にすることで、第1統合流路24および第2統合流路26の断面積を大きくして、流路抵抗を小さくすることができる。また、このような構造にすることで、第1流路部材4は、外周が第2流路部材6で固定されるので剛性を高くできる。さらに、このよ
うな構造にすることで、信号伝達部60の通る貫通孔6aを設けることができる。
【0057】
第2流路部材6の下面には、第1統合流路24となる溝と、第2統合流路26となる溝が配置されている。第2流路部材6の第1統合流路24となる溝は、下面の一部は流路部材4の上面で塞がれ、下面の他の部分は流路部材4の上面に配置されている、第1共通流路20の開口20aと繋がることで、第1統合流路24となっている。第2流路部材6の第2統合流路26となる溝は、下面の一部は流路部材4の上面で塞がれる、下面の他の部分は流路部材4の上面に配置されている、第2共通流路22の開口22aと繋がることで、第2統合流路26となっている。
【0058】
第1統合流路24および第2統合流路26には、ダンパを設けて、液体の吐出量の変動に対して液体の供給、あるいは排出が安定するようにしてもよい。また、第1統合流路24および第2統合流路26の内部や、第1共通流路20あるいは第2共通流路22との間に、フィルタを設けることにより、異物や気泡が、第1流路部材4に入り込み難くしてもよい。
【0059】
第2流路部材6の上面は、金属製の筐体などで塞がれる。信号伝達部60は、例えば筐体に収められた配線基板に電気的に接続される。配線基板と制御部88とは、ケーブルなどで電気的に接続される。信号伝達部60には変異素子50を駆動するドライバICを実装してもよい。ドライバICを、金属製の筐体あるいはその筐体に熱が伝わりやすくしてある部材に接触させることで、ドライバICで発生した熱を外部に放出することができる。
【0060】
第1流路部材4の上面である加圧室面4-1には、変位素子50を含む圧電アクチュエータ基板40が接合されており、各変位素子50が加圧室10上に位置するように配置されている。圧電アクチュエータ基板40は、加圧室10によって構成された加圧室群とほぼ同一の形状の領域を占有している。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の加圧室面4-1に圧電アクチュエータ基板40が接合されることで閉塞される。圧電アクチュエータ基板40は、ヘッド本体2aと同じ方向に長い長方形状である。
【0061】
圧電アクチュエータ基板40には、各変位素子50に信号を供給する信号伝達部60が接続されている。第2流路部材6には、中央で、上下に貫通している貫通孔6aがあり、信号伝達部60は貫通孔6aを通って制御部88と電気的に繋がれる。信号伝達部60は、圧電アクチュエータ基板40の一方の長辺の端から他方の長辺の端に向かうように短手方向に伸びる形状にし、信号伝達部60に配置される配線が短手方向に沿って伸び、長手方向に並ぶようにすれば、配線間の距離を大きくできる。
【0062】
圧電アクチュエータ基板40の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極44がそれぞれ配置されている。
【0063】
流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。流路部材4の加圧室面4-1側にはプレート4aが配置されており、プレート4aから下には、プレート4b~4lが順に積層されている。なお、加圧室10の側壁となる孔が形成されているプレート4aをキャビティプレート4aと呼び、共通流路の側壁となる孔が形成されているプレート4e、f、i、jをマニホールドプレート4e、f、i、jと呼び、吐出孔8が開口しているプレート4lをノズルプレート4lと呼ぶことがある。各プレートには多数の孔や溝が形成されている。孔や溝は、例えば、各プレートを金属で作製し、エッチングで形成できる。各プレートの厚さは10~300μm程度であることにより、形成する孔の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔が互いに連通して第1共通流路20などの流路を構成するように、位置合わせして積層されている。
【0064】
平板状の流路部材4の加圧室面4-1には、加圧室本体10aが開口しており、圧電アクチュエータ基板40が接合されている。また、加圧室面4-1には、第1共通流路20に液体を供給する開口20、および第2共通流路22から液体を回収する開口22bが開口している。流路部材4の、加圧室面4-1と反対側の面である吐出孔面4-2には吐出孔8が開口している。
【0065】
液体を吐出する構造としては、加圧室10と吐出孔8とがある。加圧室10は、変位素子50に面している加圧室本体10aと、加圧室本体10aと吐出孔8とを繋いでいる部分流路10bから成っている。加圧室本体10aは、キャビティプレート4aに形成されており、部分流路10bは、プレート4b~kに形成された孔が重ねられ、さらにノズルプレート4lで(吐出孔8以外の部分を)塞がれて成っている。
【0066】
加圧室本体10aには、第1流路12が繋がっており、第1流路12は、第1共通流路20に繋がっている。第1流路12は、プレート4bを貫通する円形状の孔とプレート4cを平面方向に伸びる細長い貫通溝と、プレート4dを貫通する円形状の孔とを含んでいる。
【0067】
部分流路10bには、第2流路14が繋がっており、第2流路14は、第2共通流路22に繋がっている。第2流路14は、1つの加圧室10に繋がっている個別流路14aと、他の加圧室10とも繋がっている接続流路14bとを含んでいる。本実施形態では、2つの加圧室10にそれぞれ繋がっている2つの個別流路14aが合わさって1つの接続流路14bとなった後、第2共通流路22に繋がっている。1つの第2共通流路22に繋がっている接続流路14bの数は複数である。1つの第2共通流路22に繋がっている接続流路14bの数は、1つの第2共通流路22に繋がっている加圧室10の数の半分である。複数の個別流路14aを接続流路14bに束ねた後で第2共通流路22に繋げることで、空間効率をよくしている。なお、接続流路14bに繋げる個別流路14aの数は3以上でもよい。
【0068】
第1共通流路20はプレート4e、fに形成された孔が重ねられ、さらに上側をプレート4dで、下側をプレート4gで塞がれて成っている。第2共通流路22はプレート4i、jに形成された孔が重ねられ、さらに上側をプレート4hで、下側をプレート4kで塞がれて成っている。
【0069】
液体の流れについてまとめると、第1統合流路24に供給された液体は、第1共通流路20および第1流路12を順に通って加圧室10に入り、一部の液体は吐出孔8から吐出される。吐出されなかった液体は、第2流路14を通って、第2共通流路22に入った後、第2統合流路26に入り、ヘッド本体2aの外部に排出される。
【0070】
圧電アクチュエータ基板40は、圧電体である2枚の圧電セラミック層40a、40bからなる積層構造を有している。これらの圧電セラミック層40a、40bはそれぞれ20μm程度の厚さを有している。すなわち、圧電アクチュエータ基板40の圧電セラミック層40aの上面から圧電セラミック層40bの下面までの厚さは40μm程度である。圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bの厚さの比は、3:7~7:3、好ましく4:6~6:4にされる。圧電セラミック層40a、40bのいずれの層も複数の加圧室10を跨ぐように延在している。これらの圧電セラミック層40a、40bは、例えば、強誘電性を有する、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系、NaNbO系、BaTiO系、(BiNa)NbO系、BiNaNb15系などのセラミックス材料からなる。
【0071】
圧電セラミック層40bは、次で説明する電極等に挟まれた構造になっていない。すなわち、圧電セラミック層40bは、変素子50に駆動信号を加えても、自発的な圧電変形は、実質的に起こらず、圧電セラミック層40bは、振動板として働いている。そのため、圧電セラミック層40bは、圧電性のない他のセラミックや、金属板に変えることができる。また、圧電セラミック層40bの下に金属板を積層して、圧電セラミック層40bおよびその金属板の両方を振動板としてもよい。なお、そのような構造の場合、その金属板は、第1流路部材4の一部とみなすこともできる。また、そのような構成の場合、圧電セラミック層40bと液体とは直接接触しないので、圧電アクチュエータ基板40の信頼性を高くできる。
【0072】
圧電アクチュエータ基板40は、Ag-Pd系などの金属材料からなる共通電極42およびAu系などの金属材料からなる個別電極44を有している。共通電極42の厚さは2μm程度であり、個別電極44の厚さは、1μm程度である。
【0073】
個別電極44は、圧電アクチュエータ基板40の上面における各加圧室10に対向する位置に、それぞれ配置されている。個別電極44は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している個別電極本体44aと、個別電極本体44aから引き出されている引出電極44bとを含んでいる。引出電極44bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極46が形成されている。接続電極46は、例えば銀粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂であり、5~200μm程度の厚さで形成されている。また、接続電極46は、信号伝達部60に設けられた電極と電気的に接合されている。
【0074】
詳細は後述するが、個別電極44には、制御部88から信号伝達部60を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0075】
共通電極42は、圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極42は、圧電アクチュエータ基板40に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極42は、圧電セラミック層40a上に個別電極44からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極(不図示)に、圧電セラミック層40aを貫通して形成された貫通導体を介して繋がっている。また、共通電極42は、共通電極用表面電を介して接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極は、個別電極44と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
【0076】
圧電セラミック層40aの個別電極44と共通電極42とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、個別電極44に電圧を印加すると変位する、ユニモルフ構造の変位素子50となっている。より具体的には、個別電極44を共通電極42と異なる電位にして圧電セラミック層40aに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部88により個別電極44を共通電極42に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層40aの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層40bは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層40aと圧電セラミック層40bとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層40bは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0077】
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極44に供給される駆動信号により、変位素子50が駆動(変位)さ
せられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
【0078】
あらかじめ個別電極44を共通電極42より高い電位(以下、高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極44を共通電極42と一旦同じ電位(以下、低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極44が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層40a、40bが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極44を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力が部分流路10b内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
【0079】
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極44に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、原理的には、液体の吐出速度
および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板40の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
【0080】
各吐出孔8から吐出される液体の量に影響の大きい因子は加圧室10の形状であり、特に部分流路10bの形状の影響が大きい。部分流路10bの断面の寸法が大きいと、加圧室本体10aに加わった圧力が吐出孔8に伝わり易くなり、基本的には、液体の吐出量が多くなり、吐出速度は速くなる。逆に、部分流路10bの断面の寸法が小さいと、加圧室本体10aに加わった圧力が吐出孔8に伝わり難くなり、基本的には、液体の吐出量が少なくなり、吐出速度は遅くな。吐出を行なう駆動波形によっては、上述の関係が変わることもあるが、そのような場合であっても、部分流路10bに圧力が伝わり易いかどうかは、吐出特性に影響を与える。
【0081】
部分流路10bの断面の寸法は、基本的には同じ寸法で設計されるが、製造工程によりばらつきが生じる。設計によっては、そのばらつきが目立ちやすくなるおそれがある。具体的には、ばらつきにより断面の寸法が大きくなった部分流路10bから吐出した液体が、記録媒体に並んで着弾すると、その部分は通常よりも濃く見える。ばらつきにより断面の寸法が小さくなった部分流路10bから吐出した液体が、記録媒体に並んで着弾すると、その部分は通常よりも薄く見える。人が見たときに、濃度差目立たなくするには、ばらつきにより断面の寸法が大きくなった部分流路10bかの吐出と、断面の寸法が小さくなった部分流路10bからの吐出とが並んで着弾しないようにすればよい。
【0082】
部分流路10bは、プレート4b~kに形成されているが、これらのうち、第1共通流路20となる第2孔20cが形成されているプレート4e、fおよび第2共通流路22となる第2孔22cが形成されているプレート4i、jにおいて、部分流路10を構成している第1孔10cのばらつきが大きくなることがある。
【0083】
これは、プレートをエッチング加工する際に生じるエッチング液の流れが、開口の大きな第2孔20c、22cい場所と、遠い場所とで差があるためと考えられる。開口の
大きな第2孔20c、22cの近くでは、エッチング液の流れに乱れが生じ、新たなエッチング液が供給され易いため、エッチングが進み易く、第1孔10cが大きくなり易い。
【0084】
第1孔10cからもっとも近い第2孔20c、22cまでの距離を距離Lとしたとき、第1孔10cを、距離Lが短い第1孔10cからなる第1群36と、距離Lが、第1群36よりも長い第2群37とに分ける(図5図6参照)。本実施形態では、距離Lは、距離の短いL1と、L1よりも長いL2の2種類になる。詳細は後述するが、第1群36に属する第1孔10cと、第2群37に属する第1孔10cとは、第1方向に交互に配置されている。これにより記録媒体には、第1群36に属する第1孔10cから吐出された液滴と、第2群37に属する第1孔10cから吐出された液滴とが交互に着弾するため、濃淡の差が目立ち難くなる。
【0085】
第1孔10cの配置について、図8を用いて説明する。ここで説明する第1孔10cの配置は、第1共通流路20となる第2孔20cが形成されているプレート4e、fおよび第2共通流路22となる第2孔22cが形成されているプレート4i、jにおける配置である。本実施形態では、ここで説明する第1孔10cと同じ位置に吐出孔8が配置されているが、吐出孔8は第1孔10cと異なった位置に配置してもよい。異なった位置への配置としては、例えば、第1孔10cと繋がる範囲で、第1孔10cの中心とは異なる位置に設けてもよい。また、ここで説明する第1孔10cと同じ位置から吐出孔8まで間に平面位置がずれるような流路を設けてもよい。
【0086】
図8では、第1孔10cは黒丸で表している。第1方向である、図8の左右方向の升目の1つは、液体吐出ヘッド2の解像度に相当し、1/1600インチ(1インチの1600分の1)である。第1孔10cは、第1孔10cが第1方向に32/1600インチ毎に並んだ第1孔行34cを構成している。第1孔10cは、32/1600インチ毎に同じパターンを繰り返して配置されており、図8の右側および左側にパターンは連なっている。ただし、第1孔10cが吐出孔8に対してずれて配置される場合は、上述の位置とは異なる配置にしてもよい。
【0087】
図8では、8本ある共通流路をM1~8で表している。各第1孔行34cに対して、その行に属する第1孔10cが、第1群36に属する場合はG1と記載し、第2群37に属する場合はG2と記載している。
【0088】
図8では、第1孔10cは、第1群36(図8ではG1)に属する第1孔10cと、第2群37(図8ではG2)に属する第1孔10cとは、第1方向に交互に配置されている。このように配置すれば、上述したように、記録媒体には、第1群36に属する第1孔10cから吐出された液滴と、第2群37に属する第1孔10cから吐出された液滴とが交互に着弾するため、濃淡の差が目立ち難くなる。
【0089】
第1孔10cの形状について、図7(c)を用いて説明する。図7(a)には、プレートa~kの断面を示しているが、これは模式的なものであり、エッチングで加工しているため、実際の断面形状は、図7(c)のようになる。エッチングは、プレート4eの上面および下面の、エッチングする以外の部分にレジストを塗布して行なう。レジストの開口部分では、円弧状にエッチングが進み、上面からのエッチング部分と下面からのエッチング部分とが繋がることで、第1孔10cが形成できる。実際には、繋がった後にも、エッチングが続けられ、第1孔10cは所定の形状に近づくようにされる。
【0090】
プレート4eの厚さTに対して、第1孔10cの径が小さいと、第1孔10cの径のばらつきが大きくなるおそれがある。プレート4eの表面(上面およ下面の少なくとも一方)における第1孔10cの半径をR1したとき、R1≧2T/3とすることにより、第1孔10cの径のばらつきを小さくできる。例えば、T=150μmのときは、R1を100μm以上にすればよい。R1が小さい場合、両側からエッチングされて、厚さの中央付近で繋がった際には、繋がった付近は厚さの薄い突起状になっているため、第1孔10cの間に、エッチングの進み方に差があった際に、その薄い突起がとれだけエッチングされるかが大きく変わり、貫通している部分の孔の径が大きく変わってしまう。そのため、R1≧2T/3とするのがよい。
【0091】
貫通している部分の孔の径、詳細には、第1孔10cの深さ方向の中でもっとも径の小さい位置での第1孔10cの半径をRとしたとき、R≧0.9Rとすることにより、R2のばらつきを少なくできる。上述の厚さの中央付近の突起がエッチングされていけば、その部分の厚さが厚くなるのでエッチングの進み方に差があったとしても、R2のばらつきを小さくできる。R1よりも径が大きくなる孔の形状が崩れることがあるので、R≦Rとするのがよい。
【0092】
本実施形態では、多くの第1孔10cは、第2孔20c、22c同士の間に配置されている。他方、第2方向および第4方向の端では、片側にしか第2孔20c、22cが配置されていない第1孔10cが存在する。第1孔10cから見て、両側に第2孔20c、22cがある場合は、片側にだけ第2孔20c、22cがある場合と比較して、エッチング液の乱れが大きくなり、エッチングが進み易くなる。つまり、第2方向および第4方向の端の第1孔10cは、相対的に第1孔10cが小さくなるおそれがある。
【0093】
そこで、第3孔30c、32cを配置して、第2方向および第4方向の端の第1孔10cが、第2孔20c、22cと第3孔30c、32cとの間に挟まれるようにする。
【0094】
第3孔30cは、第2孔20cと同様に第1方向に伸びる孔であり、第2方向に並んでいる第2孔20cの第2方向の端、および第2方向の逆の方向である第4方向の端に配置される。本実施形態では、第3孔30cは、第2孔20cと同じ形状であり、第2孔20cに対して第2孔20c同士の配置間隔と同じ間隔で配置されている。形状および配置は、必ずしもそのようにする必要はないが、そのようにすれは、第3孔30cと第2孔20cとの間に配置された第1孔10cの形状を、第2孔20c同士の間に配置された第1孔10cの形状に近づけることができる。
【0095】
第3孔30c、32cは、片側だけに第2孔20c、32cがある第1孔10cの数を減らすように設ければよい。本実施形態では、すべての第1孔10cが、第2孔20c、22c同士の間、または第2孔20c、22cと第3孔30c、32cとの間に配置されているので、第1孔10cの形状の差を小さくできる。
【0096】
プレート4d、fに配置された第3孔30cは、積層した状態では上下を他のプレートで塞がれて、第1ダミーマニホールド30を構成している。第1ダミーマニホールド30は、密閉された空間であり、液体の吐出に関して直接的に関与はしない。第1ダミーマニホールド30と外部とを繋ぐ孔を設ければ、積層加工時の空気の抜けがよくなり、積層不良が発生し難くなる。また、第1ダミーマニホールド30を、第1共通流路20と繋げて液体を流してもよい。この場合、「ダミー」とは、加圧室10に直接的に液体を供給あるいは回収することがないことを表している。
【0097】
第3孔32cは、第2孔22cと同様に第1方向に伸びる孔であり、第2方向に並んでいる第2孔22cの第2方向の端、および第2方向の逆の方向である第4方向の端に配置される。本実施形態では、第3孔32cは、第2孔22cと同じ幅であるが、長さは、第2孔20cと同じである。また、第3孔32cは、第2孔22cに対して、第2孔22c同士の配置間隔と同じ間隔で配置されている。形状および配置は、必ずしもそのようにする必要はないが、そのようにすれは、第3孔32cと第2孔22cとの間に配置された第1孔10cの形状を、第2孔22c同士の間に配置された第1孔10cの形状に近づけることができる。エッチング形状の差を少なくするためには、第3孔32cの長さは、1孔10cの配置されている範囲よりも長くするのが好ましく、長くする量は、両端それぞれで、第3孔32cの幅の長さよりも長くするのがよい。本実施形態では、第3孔32cを第2孔22cよりも短くすることで、流路部材の端部での剛性を高くしている。
【0098】
プレート4i、jに配置された第3孔32cは、積層した状態では上下を他のプレートで塞がれて、第2ダミーマニホールド32を構成している。第2ダミーマニホールド32は、密閉された空間であり、液体の吐出に関して直接的に関与はしない。第2ダミーマニホールド32と外部とを繋ぐ孔を設ければ、積層加工時の空気の抜けがよくなり、積層不良が発生し難くなる。また、第2ダミーマニホールド32を、第2共通流路22と繋げて液体を流してもよい。この場合、「ダミー」とは、加圧室10に直接的に液体を供給あるいは回収することがないことを表している。
【0099】
プレート4e、f、i、jの孔は、エッチング液を入れた槽に、加工する部分を除いてレジストを塗布したプレート4e、f、i、jを入れて、エッチングにより形成する。槽では、プレート4e、f、i、jに新たなエッチング液が当たり易いようにエッチング液が攪拌される。プレート4e、f、i、jに形成する孔の配置を上述のようにすれば、加圧室10の一部となる第1孔10cの形状がばらついたとしても、人の目にばらつきが目立ち難い液体吐出ヘッド2を作製することができる。
【符号の説明】
【0100】
1・・・カラーインクジェットプリンタ
2・・・液体吐出ヘッド
2a・・・ヘッド本体
4・・・(第1)流路部材
4a~l・・・プレート
4-1・・・加圧室面
4-2・・・吐出孔面
6・・・第2流路部材
6a・・・(第2流路部材の)貫通孔
8・・・吐出孔
9A・・・吐出孔行
10・・・加圧室
10a・・・加圧室本体
10b・・・部分流路
10c・・・第1孔
11A・・・加圧室行
12・・・第1流路
14・・・第2流路
14a・・・個別流路
14b・・・接続流路
20・・・第1共通流路
20a・・・第1共通流路本体
20b・・・(第1共通流路の)開口
20c・・・第2孔
22・・・第2共通流路
22a・・・第2共通流路本体
22b・・・(第2共通流路の)開口
22c・・・第2孔
24・・・第1統合流路
24a・・・第1統合流路本体
24b・・・(第1統合流路の)開口
26・・・第2統合流路
26a・・・第2統合流路本体
26b・・・(第2統合流路の)開口
28A、B・・・ダンパ
29A、B・・・ダンパ室
30・・・第1ダミーマニホールド
30c・・・第3孔
32・・・第2ダミーマニホールド
32c・・・第3孔
34A・・・第1孔行
36・・・第1孔群
37・・・第2孔群
40・・・圧電アクチュエータ基板
40a・・・圧電セラミック層
40b・・・圧電セラミック層(振動板)
42・・・共通電極
44・・・個別電極
44a・・・個別電極本体
44b・・・引出電極
46・・・接続電極
50・・・変位素子(加圧部)
70・・・ヘッド搭載フレーム
72・・・ヘッド群
80A・・・給紙ローラ
80B・・・回収ローラ
82A・・・ガイドローラ
82B・・・搬送ローラ
88・・・制御部
D1・・・第1方向
D2・・・第2方向
D3・・・第3方向
D4・・・第4方向
P・・・印刷用紙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8