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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】時計ムーブメント用歯車
(51)【国際特許分類】
   G04B 15/14 20060101AFI20231212BHJP
   G04B 13/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G04B15/14 B
G04B15/14 A
G04B13/02 C
【請求項の数】 13
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019054638
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2019197043
(43)【公開日】2019-11-14
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】18165006.0
(32)【優先日】2018-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カラム, フロリアン
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02504693(US,A)
【文献】スイス国特許発明第00281799(CH,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/14
G04B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第2時計部品と潤滑接触により協働することが意図される時計ムーブメント用歯車(1)であって、少なくとも2つの別個の歯(10)を含み、各歯は少なくとも1つの接触面(11)を含み、前記2つの別個の歯(10)の2つの接触面(11)のそれぞれは、同じ第2時計部品と協働することが意図される、時計ムーブメント用歯車(1)において、前記2つの別個の歯(10)の前記2つの接触面(11)は、第1歯(10)の第1接触面(11)が前記第2時計部品上に存在する潤滑剤を、第2歯(10)と続いて接触(11)する第2接触面上の表面に向けて移すよう適応されるために、同じ第2部品上のそれぞれの接触区域をオフセットさせるよう互いにオフセットし、
前記歯車は、少なくとも2つの別個の歯(10)を含み、前記歯(10)はそれぞれ、最外面(6)を含み、前記最外面(6)は、前記2つの歯のそれぞれの前記最外面(6)に関して異なって位置される前記接触面(11)と実質的に平行な平面の凹面(12)を形成する切欠きにより区別される接触面(11)を形成し、
前記接触面の高さは、前記歯の全高さの約3分の2を示し、前記平面の凹面は、前記歯の全高さの約3分の1を占める、
時計ムーブメント用歯車。
【請求項2】
前記2つの別個の歯(10)は、2つの連続する歯(10)である、
請求項1に記載の時計ムーブメント用歯車(1)。
【請求項3】
前記歯車は、2つのタイプの歯(10)を含み、各タイプの各歯は、前記同じ第2時計部品と協働することが意図される少なくとも1つの接触面(11)を含み、前記2つのタイプの歯(10)のそれぞれの接触面(11)は互いにオフセットし、前記歯車は、第1のタイプにかかる第1歯の接触面(11)が第2時計部品上に存在する前記潤滑剤を、連続する第2のタイプの第2歯の前記接触面(11)が続いて接触する表面に向けて移すよう適応されるために、及びその逆となるために、交互の前記第1のタイプの歯(10)と前記第2のタイプの歯(10)を含む、
請求項2に記載の時計ムーブメント用歯車(1)。
【請求項4】
2つの別個の歯(10)の前記2つの接触面(11)は、前記歯車の回転軸に直角な前記歯車(1)の中央水平面に対する対称に従い、互いにオフセットする、
請求項1から3のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用歯車(1)。
【請求項5】
前記2つの別個の歯(10)の前記2つの接触面(11)は、互いに関して前記歯車の回転軸に平行な垂直方向(Z)へ併進でオフセットする、及びまたは2つの別個の歯(10)の前記2つの接触面(11)は、前記歯車の回転軸に直角な水平面に関して互いにオフセットする、及びまたは前記2つの別個の歯(10)の前記2つのオフセットする接触面(11)は、それぞれ前記歯(10)の最外面(6)の下端及び上端から延長する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用歯車(1)。
【請求項6】
前記歯車は、前記最外面(6)が、平面の接触面(11)と実質的に平行の、平面且つ長方形の凹面(12)を含む、少なくとも1つの歯(10)を含み、前記接触面(11)の表面と前記凹面(12)の表面は、前記歯車の回転軸に直角な水平面に位置される壁により分離される、
請求項1から5のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用歯車(1)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の歯車(1)と第2時計部品を含み、前記歯車は潤滑接触により前記第2時計部品と協働し、前記歯車は前記第2時計部品と協働する少なくとも2つの別個の接触面を含む、時計ムーブメントの組立品であって、前記2つの接触面は、前記歯車の第1接触面が前記第2時計部品上に存在する潤滑剤を、前記第1接触面が接触する第1接触区域から、前記第1接触区域に関してオフセットし前記第2接触面が接触する第2接触区域に向けて移すよう適応されるために、前記第2部品上の2つのそれぞれの接触区域をオフセットさせるよう、互いにオフセットし、前記2つの接触区域は前記第2部品の同じ接触面上に配置される、
組立品。
【請求項8】
時計ムーブメント用脱進装置であって、前記脱進装置は、脱進レバー(21)と協働する請求項1から6のいずれか一項に記載の時計ムーブメント用歯車(1)を含み、または前記脱進装置は、請求項7に記載の時計ムーブメントの組立品を含み、前記歯車(1)はガンギ車であり、前記第2時計部品は脱進レバー(21)である、
時計ムーブメント用脱進装置。
【請求項9】
前記脱進レバー(21)は2つの別個のパーツを含む、
請求項8に記載の時計ムーブメント用脱進装置。
【請求項10】
請求項1から6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの歯車(1)、または請求項8または9に記載の脱進装置を含む、
時計ムーブメント。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載の少なくとも1つの歯車(1)、または請求項10に記載の時計ムーブメントを含む、
時計。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載の時計部品の製造方法であって、前記時計部品または前記歯車は少なくとも1つの第2時計部品と潤滑接触により協働することが意図され、前記時計部品または前記歯車は同じ第2時計部品と協働することが意図される少なくとも2つの接触面を含む、製造方法において、前記製造方法は、前記第1接触面が前記第2時計部品上に存在する潤滑剤を前記第2接触面が続いて接触する表面に向けて移すよう適応されるために、前記2つの接触面を、同じ第2部品上の接触区域をオフセットさせるよう互いにオフセットした態様で製造する段階を含む、
製造方法。
【請求項13】
オフセットする態様での前記2つの接触面の製造段階は、近接する接触面(11)と凹面(12)とを形成するために、歯の最外面(6)の切削段階を含む、
請求項12に記載の時計部品または歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計部品、特に時計ムーブメント用歯車、及び当該部品または当該歯車を包含する時計ムーブメントの全部または一部、特にガンギ車を含む脱進装置に関する。本発明はまた、当該時計ムーブメント用歯車を含む時計に関する。本発明はまた、当該部品または当該歯車に基づく、時計ムーブメントの駆動方法に関する。本発明はまた、互いに潤滑接触で協働する少なくとも2つの時計部品の組立品に関する。最後に、本発明は、当該部品または当該時計ムーブメント用歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時計ムーブメントは、ムーブメントの機械式伝達のため、互いに接触する時計部品を含む、運動部品を含む。これら接触する時計部品は、摩擦に曝され、これは時計ムーブメントの正確性を損なう可能性がある、パーツの摩耗につながる。
【0003】
摩擦を減少させるため、時計部品の摩擦区域に液体潤滑剤を、典型的には油を、用いることが慣習である。使用された油は、安定していなければならず、最適には経時的に接触区域に維持されなければならない。加えて、時計ムーブメント内に油が分散される危険性を減少しなければならない。
【0004】
例として、特許文献1は、脱進装置の潤滑についての解決策を開示する。ここで、ガンギ車の歯は、給油器を構成する肩部を形成する凹面を含み、凹面において油は毛細管現象により維持される。当該解決策は、時計ムーブメント内の油の分散を防止し、接触区域の近傍への油の位置決めを支援する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】スイス国特許出願公開第281799号明細書
【文献】国際公開第2017/1090046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、時計部品間の潤滑を改善することである。
【0007】
より具体的には、本発明の目的の1つは、2つの時計部品間の接触区域での潤滑剤の保持を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のため、本発明は、時計ムーブメント内で少なくとも1つの第2時計部品と潤滑接触による協働が意図される時計部品、特に歯車であって、当該時計部品は、同じ第2時計部品と協働することが意図される少なくとも2つの別個の接触面を含む、時計部品において、前記2つの接触面は、第1接触面が、前記第2時計部品上に存在する潤滑剤を前記第2接触面が続いて接触する表面に向かって移すよう適応されるために、互いにオフセットする、時計部品に関する。
【0009】
時計部品の2つの別個の接触面のオフセットは、2つの接触面が、第2時計部品の、完全に重ならない、異なる接触区域と協働できるためにされる。
【0010】
本発明はまた、時計ムーブメントの2つの時計部品の組立品であって、第2時計部品と潤滑接触により協働する第1時計部品を含み、前記第1時計部品は、前記第2時計部品と協働する少なくとも2つの別個の接触面を含む、組立品に関する。組立品は、前記2つの接触面が、前記第2部品上の2つのそれぞれの接触区域をオフセットさせるよう、互いにオフセットすることで特徴づけられる。前記第1時計部品の第1接触面は、前記第2時計部品上に存在する潤滑剤を、前記第1接触面が接触する前記第1接触区域から、前記第1接触区域に関してオフセットし、前記第2接触面が接触する前記第2接触区域に向かい、移すよう適応され、前記2つの接触区域は前記第2部品の同じ接触面上に配置される。
【0011】
本発明は、請求項においてより詳しく定義される。
【0012】
本発明の目的、特徴、及び利点は、添付の図面に関して、無制限に与えられる、個々の実施形態についての以下の説明において詳細に検討される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施形態にかかる時計ムーブメント用脱進装置を図示する。
図2図2は、本発明の第1実施形態にかかる脱進装置のガンギ車を図示する。
図3図3は、本発明の第1実施形態にかかる脱進装置のガンギ車の複数の連続する歯を図示する。
図4図4は、本発明の第1実施形態にかかる脱進装置のガンギ車の歯を図示する。
図5図5a及び5bは、本発明の第1実施形態にかかる、ガンギ車の第1歯及びその後の第2歯のそれぞれとの協働後の、レバーのつめまたは脱進装置の阻止部材の接触面上の潤滑剤の位置決めを、概略的に図示する。
図6図6は、本発明の第1実施形態の変形例にかかる脱進装置のガンギ車の歯を図示する。
図7図7は、本発明の第2実施形態にかかる脱進装置のガンギ車の歯を図示する。
図8図8a及び8bは、本発明の第2実施形態にかかる、ガンギ車の第1歯及びその後の第2歯のそれぞれとの協働後の、レバーのつめまたは脱進装置の阻止部材の接触面上の潤滑剤の位置決めを、概略的に図示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
単純化のため、本発明の異なる実施形態において類似の特徴及びまたは部品を指定するために、同一の参照番号が用いられる。
【0015】
加えて、例えば歯車またはラックの場合には異なる歯に分配される、時計部品の全ての接触面を考慮すると、時計部品が通常配置される平面は、慣習により水平面と定義される。当該水平面は、XおよびYの2つの軸で表される。例えば、歯車の場合、水平面は、歯車の回転軸に直角の平面である。歯車の歯は、当該平面に分配され、その高さhは、当該平面に直角の態様で、垂直と定義され、ベクトルZで指標される方向へ延長する。歯車の場合、当該垂直方向は、歯車の回転軸と平行である。実質的に全ての歯の平均高さを通過する平面は、より正確には中央水平面と定義されてもよい。ラックの場合、水平面X-Yは、ラックの変位の方向と、全てのラックが延長する横方向を含む。垂直方向は、歯車の歯と同様の態様で定義される、歯の高さhを含む。両者の場合、垂直方向Zは、水平面に直角の方向と定義される。フェースギア歯を含むラックの場合、方向Zはラックの変位方向に直角である。
【0016】
図1は、本発明の実施形態にかかるスイスレバー脱進装置を図示する。当該脱進装置は、それ自体がガンギ車1として既知の態様の、脱進レバー21に配置されるつめ20と協働する歯10を含むガンギ車1を含む。既知の態様での協働中、ガンギ車の歯10は、つめ20と摩擦により協働する。図1の例として、歯10は、出口つめ20と協働する。
【0017】
本実施形態によれば、ガンギ車は、従来の解決策とは、特にその歯の形状で異なる。歯10は、その先端に、半径方向に直角な垂直正放線面に延長する、平面、または実質的に平面の接触面11を含むことが認識される。当該表面は、歯車の回転中に水平面内での正放線方向への変位によって、つめ20上を漸進的に摺る。このプロセスにおいて、当該接触面11の垂直方向Zに整列した全ての点は、同時に、または実質的に同時に、つめ20の対応する接触面と接触するが、当該接触面11の正放線方向に整列した点は連続して接触する。
【0018】
図2に図示するガンギ車1は、その中心2に位置する、回転垂直軸上に設置されることが意図される。ガンギ車は、その回転軸周りに配置され、4本の半径方向アーム4で保持される縁3を含む。歯10は、縁3の外周から延長する。図3に示すように、歯10は、最外面6を支える基部5を含み、最外面6上には、つめの少なくとも1つの対応する接触面と摩擦により相互作用することが意図される、少なくとも1つの接触面11が配置される。当該摩擦は、例えば慣れ親しんだ潤滑剤から選択される、潤滑剤の使用により支援される。
【0019】
本実施形態によれば、歯10の先端に配置された最外面6は、従来技術によれば脱進装置の歯と連続する同一表面に関して、切欠き区域を含む。当該切欠きは、つめの対応する接触面と少なくとも接触しない、平らな凹面12を形成する。図2に示す本実施形態によれば、図3及び4で見ることのできる凹面12は、歯の最外面6の全幅にわたり延長し、当該幅は正放線方向に従って測定される。切欠きではない最外面6の残りは、つめ20と摩擦により協働することが意図される接触面11を形成する。凹面12は、実質的に水平面に位置する直角壁面により接触面11から分離される。垂直方向Zで計測される、接触面11と凹面12の二者を含む歯10の先端の高さhは、最外面6を縁3に接合する歯10の基部5の高さと実質的に同一である。図4の実施形態によれば、凹面12は実質的に長方形であり、接触面11に平行である。当該接触面11の高さは、歯の全高さhの約3分の2を示し、凹面12は、垂直方向Zから見て、当該歯10の上部3分の1を占める。
【0020】
本実施形態によれば、ガンギ車1は、異なる交互の歯10を含み、異なる歯は切欠きの、すなわち凹面12の位置により区別される。図4に示す実施形態において、凹面12は、歯10の上端に位置し、上述のように、頂点から高さの約3分の1にわたり延長する。図3から明らかなように、ガンギ車は、図3に図示するような、類似の歯であるが凹面12が歯の下部に位置し、底部から開始して実質的に高さの3分の1にわたり延長する、交互の歯を含む。換言すれば、接触面11は、第1歯からその連続する歯にわたり、垂直にオフセットし、このオフセットは歯の高さの約3分の1に対応する。「連続する歯」の表現は、直後に連続する歯を、すなわち該当する第1の歯の後につめと最初に接触する、隣接する歯を意味する。このため、本実施形態において、歯車は最終的に2つのタイプの歯を含み、第1タイプの各歯は2つの第2タイプの、先行または後続の、隣接する歯により包囲され、これにより第1タイプ及び第2タイプの交互の歯を形成する。歯10の切欠きは、凹面12が歯10の最外面6先端の上端及び底端部に交互にあるようにされる。換言すれば、歯の各凹面12と各接触面11は、歯車1の中央水平面周りに交互に対称的に配置される。
【0021】
上述の第1実施形態にかかるガンギ車が与える技術的効果は、図5a及び5bに図示される。図5a、5bは、ガンギ車1に対向して位置し、ガンギ車の歯と協働する、つめ20の接触面を図示する。図5aは特に、切欠きが最外面6の下部にある歯に対応する、ガンギ車の第1歯10との協働の後の、つめの状態を示す。その結果、接触は、歯の先頭において、歯10の接触面11により得られる。当該接触の効果は、つめ20に位置する潤滑剤を移すことであり、当該協働の最後に、つめは、特に歯10の接触面11との摩擦に曝された区域に、潤滑油が欠如する上部区域24を示す。このように、潤滑剤は、つめ20の残りの表面に、特にその下部に移される。
【0022】
ガンギ車の連続する歯10は、歯の下部に位置される、異なる接触面11を含む。当該接触面11は、その結果つめの下部を、そのため好ましいことに、潤滑剤を含む表面を摺る。図5bは、切欠きが上部にある歯に対応する、ガンギ車の第2歯10との協働後のつめの状態を示す。当該接触の効果は、つめ20に位置する潤滑剤を移すことであり、当該協働の最後に、つめは、第2歯との摩擦が発生したその正確な区域に、潤滑剤が欠如する底区域26を示す。このため、潤滑剤は、つめ20の残りの表面に、特にその上部に、移される。
【0023】
最後にこの配置から、つめ20の全接触面28は、接触面が協働する2つの別個の接触面11のそれぞれよりも大きな表面積を示すということになる。つめ20の接触面28は、部分的に重なることもある、前述の下部区域26と上部区域24の集合に実質的に対応する。接触面は同様に、下部区域と上部区域に対応する表面積をわずかに超えて延長してもよい。ガンギ車1の、より典型的には第1時計部品の別個の接触面11のそれぞれは、つめ20の、より典型的には第2時計部品の接触面28の区域上で摩擦により協働する。このため、当該区域は、該当する2つの時計部品1、20間の接触区域を示す。一方、当該接触区域は、説明した実施形態においてはつめ20である、第2時計部品の接触面28の表面積より厳密に小さい表面積を示す。各接触区域24、26は、定義により、当該接触区域と厳密に接触する、第1時計部品の接触面と実質的に同一の表面積を示す。当該実施形態においては歯車1である、第1時計部品の別個の接触面11の構成は、上記のオフセットが同じ第2時計部品上の接触区域のオフセットに対応するという構成である。接触区域のオフセットは、本発明の実施形態において、第2時計部品の同じ接触面上のオフセットである。換言すれば、例えば歯車など、第1時計部品と称される、該当する時計部品の2つの接触面は、同じ第2時計部品上でそれぞれの接触区域をオフセットさせるよう、互いにオフセットする。当該オフセットは、該当する時計部品の第1接触面が、第2時計部品上に存在する潤滑剤を、接触する第1接触区域から、該当する時計部品の第2別個の接触面が続いて接触する当該第2時計部品の第2接触区域へ、すなわち第2時計部品の接触面の他の区域へ向かって移すよう適合される。第2時計部品の接触面は、2つの接触区域がその上に、オフセットした態様で、つまり完全には重ならない態様で配置される、同一の連続する表面を形成する。
【0024】
このため、前述の2つのタイプの歯を交互にする当該パターンは、ガンギ車の全ての歯で繰り返される。この結果、歯10の接触面11とつめ20との間の各接触は、有利には、良好な潤滑により特徴づけられる区域で行われることになる。加えて、当該動きは、潤滑剤を喪失することなく、無期限に繰り返すことができる。
【0025】
一方、本発明は、ガンギ車とその歯の非常に単純な製造方法の実施を可能にする。実際、従来のガンギ車を製造し、例えば前述の接触面11と凹面12を得るために、歯の全てまたは一部の先端への切削段階を加えることが可能である。
【0026】
もちろん、本発明は前述の実施形態に限定されるものではない。例えば、歯の接触面11は、図6に図示するように、例えば斜面の形状など、他の切欠きで形成されてもよい。このため歯10は、傾斜した凹面12を形成する傾斜した側面を含む。前述のように、斜面が上部と下部とになるよう、2つのタイプの歯を交互にすることができる。例えば図7に図示し、以下で説明される他の実施例から理解可能なように、2つの接触面の間に、いくつかの方向のオフセットを実施することも可能である。
【0027】
より典型的には、該当する第1時計部品の歯車は、第1接触面が、第2時計部品上に存在する潤滑剤をその後第2接触面が接触する表面に向かって移すよう適応されるために、互いに関してオフセットする少なくとも2つの別個の接触面を含む。これにより、同量の潤滑剤が第2時計部品の同じ接触面上に、1つの接触区域から他の区域へ、例えば区域24から区域26へ、常に移され、ここで各接触区域は、第2時計部品の接触面28の全表面積よりも厳格に小さい表面積を有する、第2時計部品の全接触面の小区分に対応する。各接触区域は、第2時計部品の同じ接触面のその他の接触区域に対して、全部または一部オフセットする。換言すれば、第1時計部品の2つの異なる接触面が接触する、第2時計部品の2つの区域に対応する、2つの接触区域は、完全にオフセットしてもよく、部分的にオフセットしてもよい、言い換えるならば、完全に別個でも部分的に重なり合ってもよいが、完全に重なり合ってはならない。
【0028】
有利には、当該配置は、第2時計部品上に2つの接触区域を含む。更に有利には、2つの接触区域は、実質的に互いに等しい表面積及びまたは高さを、及びまたは第1時計部品の2つの別個の接触面のそれぞれと実質的に等しい表面積及びまたは高さを、実質的に示す。変形例として、当該配置は、第2時計部品上に少なくとも3つの接触区域を含み、該当する第1時計部品も同様に、当該3つの接触区域に対応する少なくとも3つの別個の接触面を含む。
【0029】
加えて、2つのタイプの歯またはより典型的には接触面のタイプは、同じ時計部品内で、交互の態様で分布される。もちろん、先端技術に関連して向上することを可能にすれば、分布は異なっても良い。例えば、2つの連続する第1タイプの接触面に続き、2つの連続する第2タイプの接触面を位置させる、などとしてもよい。変形例として、2つのタイプの接触面のその他の分布も可能である。更なる変形例として、潤滑剤の位置決めに関して好ましい態様で接触区域を変化するために、第2時計部品上の接触区域をオフセットするという同一の目標に常に応じて、2つ以上のタイプの歯を、より典型的には2つ以上のタイプの接触面を組み合わせることを想定してもよい。
【0030】
当該第1実施形態において、ガンギ車の歯の最外面6は、正放線方向に一定の断面を示す。図7は、第2実施形態にかかる歯10の先端を図示する。当該実施形態において、断面は、正放線方向に可変である。特に、歯は可変の斜面で得られる凹面12を示す。このため、つめ上の表面への接触面11の接触中、歯が通過するにあたり接触区域から潤滑剤を移すのみならず、潤滑剤の玉の形状の潤滑剤集中区域を形成するという、補完的効果が得られる。切欠きは、深掘り反応性イオンエッチング法(DRIE)で形成されてもよいことを注記する。これは、斜面を形成するために、パラメータの調整を必要とすることもある。
【0031】
凹面12を垂直軸Zで歯の底部と上部とに二者択一的に位置させる、図7にかかる相互の歯を含む、ガンギ車を検討する。
【0032】
図8aは、凹面を下部に含む第1歯の通過後のつめの表面を示す。当該協働の効果は、つめ20の接触面外に位置する潤滑剤を移すことである。当該協働の終わりに、つめは、歯10の接触面11の摩擦に曝された正確な区域に、潤滑剤が欠如する上部区域24を示す。加えて、潤滑剤の存在が集中する下部区域に、潤滑剤の玉25の存在が見られる。
【0033】
図8bは、切欠きが先端6の上部に存在する歯に対応する、ガンギ車の第2歯10との協働後の、つめの状況を図示する。その結果、歯の下部に、すなわちつめの潤滑の良好な区域に対して、歯10の接触面11により接触がもたらされる。当該接触の効果は、つめ20に位置する潤滑剤を移すことであり、その協働の終わりに、つめは、第2歯との摩擦が行われた正確な区域に、潤滑剤が欠如する底部区域26を示す。上述の通り、潤滑剤の存在が集中する上部区域に、潤滑剤のビード25の存在が見られる。
【0034】
最後に、これまでに検討した通り、2つの別個の歯の2つの別個の接触面は、同じ第2時計部品と2つの別個の時点で協働するように、また第2歯との協働中に、第2部品の良好な潤滑による恩恵を受けることができるように、互いにオフセットされる。当該オフセットは、垂直方向Zに設けられる。換言すれば、2つの別個の歯の2つの別個の接触面は、水平面に関してオフセットする。
【0035】
有利には、2つの別個の歯は、歯の最外面6の中央水平面に対する対称に応じて、互いに修正される、同様の形状を示す。
【0036】
本発明は、前述のように、脱進装置用ガンギ車に特に適応される。図1は、スイスレバー脱進機を図示するが、当該例はもちろん限定的ではなく、本発明はあらゆる脱進装置用のあらゆるガンギ車に適応可能である。特に、レバーまたは阻止部材は、スイスレバー脱進機の場合のように、同一パーツとして製造されてもよい。変形例として、レバーまたは阻止部材は、特許文献2に開示する脱進機の第2実施形態の第3変形例に記載のように、2つの別個のパーツとして、特に互いに係合する2つのパーツとして製造されてもよい。この第3変形例において、脱進装置は、第1ガンギ車、第2ガンギ車、及び阻止部材を含み、第2ガンギ車は第1ガンギ車と阻止部材との間に介在され、第2ガンギ車は特に、一方では第1ガンギ車と、他方では脱阻止部材と、接触により協働する。第1ガンギ車、第2ガンギ車、及び阻止部材は、脱進装置の解放フェーズにおいて、振動体により制御される阻止部材の力は、第2ガンギ車を用いて第1ガンギ車に伝達されるように構成され配置される。第2ガンギ車は、第2ピニオンであってもよく、または第2ピニオンと第2歯車を含んでもよい。
【0037】
更に本発明は、少なくとも1つの第2時計部品との摩擦に曝されるあらゆる時計部品に適応可能である。本発明は、特に、他の時計部品のための駆動を生成する時計部品に適応される。このため時計部品は、整列された歯を含むラックであってもよい。時計部品が複数の歯を含む部品である全ての場合において、少なくとも2つの別個の歯の接触面は、あらゆる水平面に対して互いにオフセットする。有利には歯付きの時計部品の全ての歯は、2つのタイプの歯、または3つ以上のタイプの歯として分布され、異なるタイプの歯の接触面は、あらゆる水平面に対して、互いにオフセットする。有利には、歯付き部品は、それぞれの接触面が時計部品の中央水平面の両側に位置される、2つのタイプの歯を含む。更に有利には、歯付き部品は、それぞれの接触面が時計部品の中央水平面周りに対称的に位置される、2つのタイプの歯を含む。
【0038】
本発明はまた、第1時計部品、特に歯車と、第2時計部品との間の、潤滑接触による協働を含む、時計ムーブメントを駆動する方法であって、
- 第1時計部品の第1接触面と第2接触面との間の第1接触、その後
- 第1時計部品または歯車の第1接触面に関してオフセットする第2接触面と第2時計部品との間の第2接触、
の各段階を含み、
第1時計部品の2つの接触面は、第1接触面が、第2時計部品上に存在する潤滑剤を第2接触面が続いて接触する表面に向かって移すよう適応されるように、オフセットされる。
【0039】
前述の通り、本発明は、他の時計部品と特定の態様で協働するよう設計される、時計部品に関し、互いにオフセットする少なくとも2つの別個の接触面を含み、すなわち2つの接触面は、同じ第2時計部品の、より好ましくは同じ第2時計部品の同じ接触面の、2つのオフセットする接触区域と摩擦的に係合するようまたは2つのオフセットする接触区域に重みをかけるよう、換言すれば完全に重なりあわないよう、設計される。前述のように、当該構成は、2つの時計部品間の接触の潤滑を有利に管理することを可能にする。
【符号の説明】
【0040】
1 歯車
2 中心
6 最外面
10 歯
11 接触面
12 凹面
20 つめ
21 脱進レバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8