(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】外光照度測定機能を備えた測距装置及び外光照度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01S 7/4915 20200101AFI20231212BHJP
G01S 17/894 20200101ALI20231212BHJP
G01S 7/497 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01S7/4915
G01S17/894
G01S7/497
(21)【出願番号】P 2019117618
(22)【出願日】2019-06-25
【審査請求日】2022-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 稔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 淳
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132767(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0098935(US,A1)
【文献】特開2009-002823(JP,A)
【文献】特開2000-298005(JP,A)
【文献】特開2004-325202(JP,A)
【文献】特開2011-149942(JP,A)
【文献】特表2003-510561(JP,A)
【文献】特開2010-169405(JP,A)
【文献】特開2017-167120(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0063775(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48- 7/51
G01S17/00-17/95
G01C 3/06- 3/08
G01B 9/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に照射する測定光を発光可能な発光部と、
前記測定光と同じ波長帯の光を透過する光学フィルタを介して前記物体から光を受光
し、受光した前記光に応じた電荷を蓄積する受光部と、
前記測定光の発光タイミングに対して所定位相だけ遅延した複数のタイミングで
、前記受光部に夫々蓄積された各電荷量に基づき、前記物体までの距離を算出する距離算出部と、
前記
夫々蓄積された各電荷量と、前記物体の反射率とに基づき、前記光学フィルタの分光感度において前記物体を照らす外光照度を算出する外光照度算出部と、
を備える、測距装置。
【請求項2】
前記光学フィルタを透過する光が近赤外光である、請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記物体の反射率は、算出した前記物体までの距離と、前記各電荷量から求めた測定光の反射輝度と、に基づき算出される、請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記物体の反射率は既知である、請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項5】
前記外光照度は、前記各電荷量から求めた外光の反射輝度と、前記物体の反射率と、に基づき算出される、請求項1から4のいずれか一項に記載の測距装置。
【請求項6】
前記外光照度を出力する出力部をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の測距装置。
【請求項7】
前記受光部は二次元配列した複数の画素を備え、前記外光照度算出部は画素毎に外光照度を算出し、前記出力部が外光照度画像を出力する、請求項6に記載の測距装置。
【請求項8】
前記外光照度が閾値以上である場合に警告信号を出力する警告部をさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の測距装置。
【請求項9】
前記外光照度が閾値以上である画素を強調表示した外光照度強調画像を出力する画像出力部をさらに備える、請求項1から8のいずれか一項に記載の測距装置。
【請求項10】
物体に照射する測定光を発光するか否かを選択するステップと、
前記測定光と同じ波長帯の光を透過する光学フィルタを介して前記物体から光を受光
し、受光した前記光に応じた電荷を蓄積するステップと、
前記測定光の発光タイミングに対して所定位相だけ遅延した複数のタイミングで、夫々蓄積された各電荷量に基づき、前記物体までの距離を算出するステップと、
前記夫々蓄積された各電荷量と、前記物体の反射率とに基づき、前記光学フィルタの分光感度において前記物体を照らす外光照度を算出するステップと、
を含む、外光照度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置に関し、特に外光照度測定機能を備えた測距装置及び外光照度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物体までの距離を測定する測距装置として、光の飛行時間に基づき距離を出力するTOF(time of flight)カメラが公知である。TOFカメラは、所定周期で強度変調した測定光を対象空間に照射し、測定光と対象空間からの反射光との間の位相差に基づき対象空間までの距離を算出する位相差方式を採用するものが多い。この位相差は反射光の受光量から求められる。
【0003】
外光(環境光ともいう。)は、斯かるTOFカメラの測距精度又は測距不能の発生度合いに影響する。測距精度への外光の影響を
図10A-
図10Bに示す。一般に受光素子は光電効果による光子数検出の際にいわゆるショットノイズを生じ、ショットノイズのバラツキ幅はポアソン分布の分散σで記述できる。ショットノイズのバラツキ幅σは、
図10Aに示すように、外光の反射光A
bが強い場合には大きくなる一方で(σ
b)、外光の反射光A
sが弱い場合には小さくなる(σ
s)。外光の反射光を電荷量から単純に差し引いたとしても、ショットノイズのバラツキ幅σ
b、σ
sが残るため、外光の反射光が強い程、バラツキ幅も大きく(σ
b)、測距精度の悪化が大きくなり易い。
【0004】
また、測距不能(いわゆるサチュレーション)への外光の影響を
図11A-
図11Bに示す。TOFカメラの受光部は、測定光の反射光だけでなく、外光の反射光も混在した光を受光する。従って、外光の反射光が強い場合には、受光部が飽和してサチュレーションを発生し易くなる。サチュレーションが検出された場合、読み出される電荷量は正しくないため、測距値の計算が困難となり測距不能として扱うことになる。
【0005】
このように外光はTOFカメラの測距精度又は測距不能の発生度合いに影響するため、これらを重視してTOFカメラを使用する場合には、測距レンジ、測定物体の反射率等のTOFカメラの使用条件に加えて、外光の上限を使用条件に規定する必要が出てくる。斯かるTOFカメラ又は外光照度に関連する先行技術としては、次の文献が公知である。
【0006】
特許文献1には、太陽光等の強い環境光が存在していると測距精度が低下することから、環境光の強度を取得し、環境光の強度と電荷蓄積部の蓄積容量とに基づいて光源の駆動条件を設定する測距装置が記載されている。
【0007】
特許文献2には、所定の反射面を有する反射体を測定点に設置し、反射面からの所定方向の反射光の輝度を測定し、輝度の測定値と反射率とに基づいて測定点の照度を算出することが記載されている。
【0008】
特許文献3には、測定対象の反射面の同一箇所を撮像した画像データのみを抽出し、画像データにおける輝度から照明装置の照度分布を求めることにより、反射面の反射率のばらつきによる悪影響を除外して照明装置の照明むらを正確に測定する画像認識検査システムが記載されている。
【0009】
特許文献4には、車室内の観測に用いるカメラによって撮像した撮像画像の輝度に基づいて照度(特に乗員部分の照度)を測定する車室内観測装置が記載されている。
【0010】
特許文献5には、監視対象となる物体の画像を撮影し、撮影した物体に対する認識処理を実行し、輝度及び位置に基づいて物体の実在する空間における位置及び照度を算出し、算出した位置及び照度に基づいて露光量を決定することにより、監視範囲の照度が均一でない場合であっても対象の輝度が認識に適した値となる、撮像装置が記載されている。
【0011】
特許文献6には、照射光を写すスクリーンと、スクリーン上に形成された配光パターンの光学像を捉えて電気信号に変換するテレビカメラと、テレビカメラで捉えた光学像の2次元輝度を基準輝度と比較して演算すると共に、2次元輝度データとスクリーンの角度反射率分布のデータとにより照度データを演算する画像処理装置と、を備えた光源の配光測定装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2018-77071号公報
【文献】特開平9-89659号公報
【文献】特開2001-4339号公報
【文献】特開2008-5017号公報
【文献】国際公開第2009/066364号
【文献】特開2001-4339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
外光の強さはいわゆるルクス計(照度計)を用いて測定するのが一般的であるが、市販のルクス計は
図12Aに示すように例えば肉眼の分光感度に調整されている。しかし、一般のTOFカメラは
図12Bに示すように例えば中心波長が850nmの近赤外光を測定光として発光し、測定光と同じ波長帯の光を極力受光するように設計されている。このため、市販のルクス計で測定される外光照度はTOFカメラにおける測距精度や測距不能の発生度合いにリンクしないことが多い。従って、TOFカメラの測距値が強い外光によって規定の測距精度から外れていることが分からない。また、TOFカメラを設置した時点の測定物体がたまたま低反射率の(例えば黒系)物体であったため、強い外光がある状況下でもサチュレーションは起きなかったが、その後、高反射率の(例えば白系)物体が測距空間に入り、突然サチュレーションが発生して測距不能になることがある。
【0014】
そこで、測距装置の分光感度に応じた外光照度を、測距装置の設置時だけでなく測距動作中も含め、より正確に測定する技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の一態様は、物体に照射する測定光を発光可能な発光部と、測定光と同じ波長帯の光を透過する光学フィルタを介して物体から光を受光し、受光した光に応じた電荷を蓄積する受光部と、測定光の発光タイミングに対して所定位相だけ遅延した複数のタイミングで、受光部に夫々蓄積された各電荷量に基づき、物体までの距離を算出する距離算出部と、夫々蓄積された各電荷量と、物体の反射率とに基づき、光学フィルタの分光感度において物体を照らす外光照度を算出する外光照度算出部と、を備える、測距装置を提供する。
本開示の他の態様は、物体に照射する測定光を発光するか否かを選択するステップと、測定光と同じ波長帯の光を透過する光学フィルタを介して物体から光を受光し、受光した光に応じた電荷を蓄積するステップと、測定光の発光タイミングに対して所定位相だけ遅延した複数のタイミングで、夫々蓄積された各電荷量に基づき、物体までの距離を算出するステップと、夫々蓄積された各電荷量と、物体の反射率とに基づき、光学フィルタの分光感度において物体を照らす外光照度を算出するステップと、を含む、外光照度測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本開示の一態様によれば、照度計、分光器等を必要とせずに、測距装置の分光感度に応じた外光照度を測定可能な測距装置を提供できる。また、測距精度又は測距不能に影響を及ぼし得る外光照度をより正確に把握でき、外光が想定範囲内であるか否かを的確に判断できるため、測距精度又は測距不能の面で安定して動作可能な測距装置を提供できる。さらに、測距対象である物体を利用して外光照度を測定できるため、測距装置の設置時だけでなく測距動作中においても環境変化による外光の逐次監視が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】物体への外光照度と外光の反射輝度の状況を示す図である。
【
図3】一実施形態における測距装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】測定光の反射光及び外光の反射光を含んだ電荷量を示す図である。
【
図5A】物体の反射率、物体までの距離、及び取得した電荷量の関係を示す図である。
【
図5B】物体の反射率、物体までの距離、及び取得した電荷量の関係を示す図である。
【
図6】照度と光源からの距離との関係を示す図である。
【
図8】外光照度を出力する出力部の一例を示す図である。
【
図9A】補助的な又は意図しない外部光源がある場合を示す図である。
【
図10A】従来技術における測距精度への外光の影響を示す図である。
【
図10B】従来技術における測距精度への外光の影響を示す図である。
【
図11A】従来技術における測距不能への外光の影響を示す図である。
【
図11B】従来技術における測距不能への外光の影響を示す図である。
【
図12A】従来のルクス計の分光感度の一例を示す図である。
【
図12B】従来のTOFカメラにおける光学フィルタの透過波長の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して本開示の実施形態を詳細に説明する。各図面において、同一又は類似の構成要素には同一又は類似の符号が付与されている。また、以下に記載する実施形態は、特許請求の範囲に記載される発明の技術的範囲及び用語の意義を限定するものではない。
【0019】
図1は本明細書中の用語の定義を示している。
図1には、測距装置1、物体O、及び外部光源Lが描かれており、本明細書において、用語「測定光」(符号Sで示す。)とは、測距装置1の発光部から物体Oに照射される光を意味し、用語「測定光の反射輝度」(符号I
Sで示す。)とは、物体Oで反射した測定光Sの反射強度を意味する。また、本明細書において、用語「外光」(符号Aで示す。)とは、測距装置1以外の外部光源Lから発光した光を意味し、用語「外光照度」(符号E
Aで示す。)とは、測距装置1の分光感度において外部光源Lが物体Oを照らす外光Aの強さを意味する。さらに、本明細書において、用語「外光の反射輝度」(符号I
Aで示す。)とは、測距装置1の分光感度において物体Oで反射した外光Aの強さを意味する。また、用語「物体の反射率」(符号ρで示す。)とは、測距装置1の分光感度における、計算で求めた物体Oの反射率、又は測距装置1の分光感度における既知の物体反射率を意味する。
【0020】
図2は物体への外光照度E
Aと外光の反射輝度I
Aの状況を示している。物体が反射率ρの均等拡散反射面を備えている場合、次式に示す関係がある。なお、式中のπは円周率である。即ち、物体Oへの外光照度E
Aは、物体Oからの外光の反射輝度I
Aと、物体Oの反射率ρとから求められる。
【0021】
【0022】
図3は本実施形態における測距装置1の構成を示している。測距装置1は、発光部10、光学フィルタ11、受光部12、発光受光制御部13、A/D変換部14、メモリ15、距離算出部16、及び外光照度算出部17を備えている。さらに測距装置1は、出力部18、警告部19、及び画像出力部20の少なくとも1つを備えていてもよい。メモリ15、距離算出部16、外光照度算出部17、出力部18、警告部19、及び画像出力部20の少なくとも1つは、公知のプロセッサ、例えばCPU(central processing unit)、FPGA(field-programmable gate array)等の半導体集積回路によって構成されてもよい。
【0023】
発光部10は、強度変調した測定光Sを発光する光源、例えば発光ダイオード、半導体レーザ等を備え、測定光Sを物体Oへ選択的に発光可能である。測定光Sは、例えば近赤外光であるが、測距に適した光であれば他の波長の光でもよい。
【0024】
光学フィルタ11は、測定光Sと同じ波長帯の光を透過するような分光感度に設計される。光学フィルタ11を透過する光は、例えば測定光Sと同じ近赤外光であるが、物体Oで反射した測定光Sの反射光だけでなく、物体Oで反射した外光Aの反射光の中で、測定光Sと同じ波長帯の反射光も透過する。
【0025】
受光部12は、例えば受光素子、コンデンサ等を備え、光学フィルタ11を介して物体Oから光を受光し、受光した光に応じた電荷を蓄積する。受光部12は、1つの受光素子を備えていてもよいし、又は二次元配列された複数の受光素子、例えばCCD(charge-coupled device)イメージセンサ、CMOS(complementary metal-oxide semiconductor)イメージセンサ等を備えていてもよい。
【0026】
発光受光制御部13は、発光部10の発光タイミングと、受光部12の受光タイミングと、を制御する公知の制御回路を備え、前述のプロセッサによって制御される。A/D変換部14は、例えばA/Dコンバータ等を備え、受光した光に応じた電荷量をA/D変換する。メモリ15は、例えば半導体メモリ、磁気記憶装置等を備え、A/D変換した電荷量を記憶する。
【0027】
距離算出部16は、測定光Sの発光タイミングに対して所定位相だけ遅延した複数のタイミングで夫々蓄積された各電荷量に基づき、物体Oまでの距離を算出する。例えば受光部12が測定光Sの発光タイミングに対して0°、90°、180°、270°だけ遅延した複数のタイミングで夫々電荷量Q1~Q4を蓄積し、距離算出部16は各電荷量Q1~Q4に基づいて物体Oまでの距離dを算出する。例えば距離dの算出式は次式の通りである。なお、式中のcは光速であり、Tは測定光Sの強度変調周期である。
【0028】
【0029】
外光照度算出部17は、受光部12で取得した電荷量と、物体Oの反射率ρとに基づき、光学フィルタ11の分光感度において物体Oを照らす外光照度EAを算出する。受光素子がレンズを介して外光のみを受光する場合、外光の反射輝度IAは受光素子で取得した電荷量に相当する。
【0030】
外光の反射輝度I
Aは、測距動作中においても求めることができる。この時、受光素子で取得される電荷量には、
図1に示すように外光の反射輝度I
Aだけでなく、測定光の反射輝度I
Sも含んでいることになる。以下、取得した電荷量から外光の反射輝度I
Aのみを求める方法について説明する。
【0031】
図4は外光の反射光及び測定光の反射光を含んだ電荷量を示している。測定光の反射輝度I
Sに相当する電荷量Qsは、例えば次式に示すように、位相が異なる2つの電荷量(Q1とQ3、Q2とQ4)を夫々差分することによって外光の反射輝度I
Aに相当する電荷量Qaを除去でき、さらにこれら2つの差分結果の絶対値を加算することによって求めることができる。
【0032】
【0033】
従って、外光の反射輝度IAに相当する電荷量Qaは、例えば次式に示すように、各電荷量Q1~Q4を加算した結果から測定光の2倍分の電荷量Qsを減算し、さらにこの減算結果を半分にすることによって求めてもよい。つまり、測定光を発光する測距動作中においても外光照度EAを算出することが可能であり、これにより測距動作中においても環境変化による外光照度EAの変化を逐次監視できるようになる。
【0034】
【0035】
また、特に測距装置1の設置時には、必ずしも測距動作を行う必要がない。従って、測定光を発光せずにシャッターのみを開くことによって外光の反射輝度IAに相当する電荷量Qaのみを取得し、外光の反射輝度IAに相当する電荷量Qaと、物体の反射率ρと、に基づき、外光照度EAを算出することも可能である。この変形例では、測定光を発光するか否かを選択する手段を測距装置1がさらに備えていてもよい。
【0036】
外光照度EAの算出には、物体の反射率ρを知る必要があるが、反射率ρが既知である物体を用意して測定対象空間に設置することで、外光照度EAの算出ができる。また、測定対象空間の任意の物体(即ち、反射率ρが不明の物体)の反射率ρは計算で求めることもでき、求めた反射率ρからも外光照度EAの算出ができる。以下、物体の反射率ρの計算手法について説明する。
【0037】
図5A-
図5Bは、物体の反射率、物体までの距離、及び取得した電荷量の関係を示している。
図5Aには、反射率が大きく距離が遠い物体O1と、反射率が大きく距離が近い物体O2と、反射率が小さく距離が近い物体O3とが示されており、
図5Bには、これら物体O1、O2、及びO3から反射光を受光したときの3つの電荷量(測定光の反射輝度I
Sと外光の反射輝度I
Aとを含む。)が示されている。O1とO2のように反射率が同じでも測距装置1から物体までの距離が遠い場合には、測定光の反射輝度I
Sは物体までの距離に応じて低減するが、外光の反射輝度I
Aは同じ外光照度下であれば変化しない。他方、O2とO3のように距離が同じで反射率のみが異なる場合には、測定光の反射輝度I
Sと外光の反射輝度I
Aが同じ比率で変化する。つまり、物体の反射率ρは、物体までの距離dと、測定光の反射輝度I
Sとに相関している。測定光の反射輝度I
Sは、式1と同様に、測定光の照度E
Sと物体の反射率ρとの間に次式のような関係がある。
【0038】
【0039】
また、一般に照度Eは物体までの距離dの逆二乗則に従うことが分かっている。
図6に示すように、光源Lから2つの物体O1、O2までの距離が夫々d
1、d
2であり、物体O1、O2を照らす照度が夫々E
1、E
2であるとき、2つの照度E
1及びE
2の間には次式のような関係が成り立つ。即ち、距離が2倍になれば、照度は1/2
2になり、距離が3倍になれば、照度は1/3
2になる。
【0040】
【0041】
従って、式5-式6から次式が得られる。なお、式中のkは比例定数である。次式によれば、物体の反射率ρは、算出した物体までの距離dと、各電荷量Q1~Q4から求めた測定光の反射輝度ISとに基づき、算出できることが分かる。即ち、物体の反射率ρを計算で求める場合には、測定光の発光が必須となる。
【0042】
【0043】
また前述の通り、
図7に示すように反射率ρが既知である物体Oを用意してもよい。さらに、外光の反射輝度I
Aの取得方法として、測定光を発光せずに取得した電荷量から求める方法もある。反射率ρが既知である物体を利用し、このような方法で求めた反射輝度I
Aを算出に用いることにより、より正確な外光照度E
Aを算出することも可能になる。
【0044】
図3を再び参照すると、出力部18は、外光照度算出部17で算出した外光照度E
Aを外部へ出力する。出力部18は、例えば
図8に示すようなLED表示器又は液晶表示器といった表示部23を備えていてもよいし、或いは例えば
図8に示すような外部出力ポート又はネットワーク通信機器といった通信部24を備えていてもよい。また代替実施例として、出力部18は、半導体メモリ、磁気記憶装置等の外部メモリを備えていてもよい。
【0045】
受光部12がCCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサ等のような二次元配列した複数の画素を備えている場合、外光照度算出部17が画素毎に外光照度E
Aを算出し、出力部18が外光照度画像を出力してもよい。外光照度画像は、例えば
図9Aに示すように測定対象空間に外部光源L1以外に補助的な又は意図しない外部光源L2がある場合に特に有効である。
図9Bは、外部光源L2による外光の強い箇所Hが視認し易くなった外光照度画像Gを示している。
【0046】
図3を再び参照すると、警告部19は、外光照度E
Aが閾値以上である場合に、例えば警告音又は警告メッセージ等の警告信号を外部へ出力する。この警告信号により、測距装置1の精度保証外となる強い外光を検知した場合に危険を通知することが可能になる。また警告信号は、物体監視システムといったアプリケーションシステムに測距装置1を利用した場合に、例えばロボット、工作機械等の産業機械の動力停止信号として利用してもよい。
【0047】
さらに
図3を参照すると、画像出力部20は、外光照度E
Aが閾値以上である画素を強調表示した外光照度強調画像を外部へ出力する。外光照度強調画像とは、距離画像、輝度画像(例えば、一般にIR(近赤外)画像と呼ばれる測定光の反射輝度I
Sの画像、又は外光の反射輝度I
Aの画像)といった画像上に、外光照度E
Aが閾値以上である画素を強調表示した画像である。この外光照度強調画像によれば、規定以上に強い外光が観測される箇所を容易に画像上で視認することが可能になる。
【0048】
以上の実施形態によれば、照度計、分光器等を必要とせずに、測距装置1の分光感度に応じた外光照度EAを測定可能な測距装置を提供できる。測距装置1を使用する環境、例えばFA(factory automation)環境等では、外光として近赤外光を使用する機器類(例えばレーザスキャナ、近赤外光を使用した近接型センサ、IrDA(infrared data association)通信を行う無線通信機器、近赤外ヒータ、他のTOFカメラ等)を使用することが多く、これら機器類の外光は通常、人に見えず、市販の照度計では観測できない場合もあり、測距精度又は測距不能に強い影響がある外光照度を測距装置1が測定できることは非常に有意となる。
【0049】
また、測距精度又は測距不能に影響を及ぼし得る外光照度EAをより正確に把握でき、外光が想定範囲内であるか否かを的確に判断できるため、測距精度又は測距不能の面で安定して動作可能な測距装置1を提供できる。さらに、測距対象である物体を利用して外光照度EAを測定できるため、測距装置1の設置時だけでなく測距動作中においても環境変化による外光の逐次監視が可能になる。
【0050】
前述のプロセッサによって実行されるプログラムは、コンピュータ読取り可能な非一時的記録媒体、例えばCD-ROM等に記録して提供してもよい。
【0051】
本明細書において種々の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限定されるものではなく、以下の特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更を行えることを認識されたい。
【符号の説明】
【0052】
1 測距装置
10 発光部
11 光学フィルタ
12 受光部
13 発光受光制御部
14 A/D変換部
15 メモリ
16 距離算出部
17 外光照度算出部
18 出力部
19 警告部
20 画像出力部
23 表示部(出力部)
24 通信部(出力部)
O、O1-O3 物体
L、L1-L2 外部光源
A、Ab、As 外光
EA 外光照度
IA 外光の反射輝度
S 測定光
IS 測定光の反射輝度
ρ 物体の反射率
Q1~Q4 電荷量
Qa 外光の反射輝度に相当する電荷量
Qs 測定光の反射輝度に相当する電荷量
H 外光の強い箇所