(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】白色有機EL素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/13 20230101AFI20231212BHJP
H10K 50/12 20230101ALI20231212BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20231212BHJP
H10K 50/16 20230101ALI20231212BHJP
H10K 50/18 20230101ALI20231212BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20231212BHJP
H10K 59/38 20230101ALI20231212BHJP
H10K 59/90 20230101ALI20231212BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20231212BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231212BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20231212BHJP
H10K 101/40 20230101ALN20231212BHJP
【FI】
H10K50/13
H10K50/12
H10K50/15
H10K50/16
H10K50/18
H10K59/10
H10K59/38
H10K59/90
G02B5/20 101
G09F9/30 365
H10K85/60
H10K101:40
(21)【出願番号】P 2019121417
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018217283
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110870
【氏名又は名称】山口 芳広
(74)【代理人】
【識別番号】100096828
【氏名又は名称】渡辺 敬介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 格
(72)【発明者】
【氏名】山田 直樹
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0329514(US,A1)
【文献】特開2014-022205(JP,A)
【文献】特開2018-093190(JP,A)
【文献】特開2010-056526(JP,A)
【文献】特開2003-203780(JP,A)
【文献】特開2013-051160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/00-99/00
H05B 33/00-33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置されている発光層とを有し、
前記発光層は、第一発光層及び第二発光層を含み、
前記第一発光層と前記第二発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料を含有し、
前記第一発光層は前記発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層であり、
前記第二発光層は前記発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料を含有し、赤色と緑色の2色発光層であり、
前記第一発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料と、前記第二発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料は、同じ
骨格を有する化合物であり、
前記骨格は、5員環を含む縮合環を有し、
前記第一発光層および前記第二発光層の発光により、白色発光することができることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記5員環を含む縮合環は、下記FF16乃至FF20に示すいずれかの縮合環であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【化1】
【請求項3】
前記第一発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料と、前記第二発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料は、同じ化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第一発光層と前記第二発光層は互いに接していることを特徴とする請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第一発光層、前記第二発光層のホスト材料は同じ材料であることを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記第一発光層は、下記(i)、(ii)の関係を満たすことを特徴とする請求項
1乃至5のいずれか一項に記載の有機EL素子。
(i) LUMO(H)<LUMO(BD)
(ii) HOMO(H)<HOMO(BD)
LUMO(H):ホスト材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(BD):青色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
HOMO(H):ホスト材料のHOMOエネルギーの絶対値
HOMO(BD):青色発光ドーパント材料のHOMOエネルギーの絶対値
【請求項7】
前記第二発光層は、下記(iii)および(iv)の関係を満たすことを特徴とする請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の有機EL素子。
(iii) LUMO(H)<LUMO(RD)
(iv) LUMO(H)<LUMO(GD)
LUMO(H):ホスト材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(RD):赤色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(GD):緑色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
【請求項8】
前記第二発光層における緑色発光ドーパント材料の濃度が1質量%以上、5質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項9】
前記第二発光層における前記赤色発光ドーパント材料の濃度が0.1質量%以上、0.5質量%未満であることを特徴とする請求項
8に記載の有機EL素子。
【請求項10】
前記陽極が光を反射する反射性の電極、前記陰極が光を透過する透過性の電極であり、
前記陽極、前記第二発光層、前記第一発光層、前記陰極をこの順で有することを特徴とする請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項11】
前記
赤色発光ドーパント材料
、前記青色発光ドーパント材料が、5員環を含む縮合環を有することを特徴とする請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項12】
前記ホスト材料は炭化水素のみからなることを特徴とする請求項1乃至
11のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項13】
前記ホスト材料は、炭素原子数1以上12以下のアルキル基を有してもよい芳香族炭化水素化合物であり、前記芳香族炭化水素化合物は、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フェナンスレン環、クリセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオランテン環、ベンゾフルオランテン環から選ばれる芳香族炭化水素環により分子構造が構成されることを特徴とする請求項1乃至
12のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項14】
前記発光層と前記陰極側で隣接する正孔ブロック層を有し、前記正孔ブロック層は炭化水素のみからなることを特徴とする請求項1乃至
13のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項15】
前記発光層と前記陽極側で隣接する電子ブロック層を有し、前記電子ブロック層を構成する材料がカルバゾール骨格を含むことを特徴とする請求項1乃至
14のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項16】
前記正孔ブロック層と前記陰極側で隣接する電子輸送層を有し、前記電子輸送層を構成する材料がピリジル基あるいはフェナントロリル基を含むことを特徴とする請求項
14に記載の有機EL素子。
【請求項17】
前記電子ブロック層と前記陽極側で隣接する正孔輸送層を有することを特徴とする請求項
15に記載の有機EL素子。
【請求項18】
複数の画素を有し、前記画素の少なくとも一つは、請求項1乃至
17のいずれか一項に記載の有機EL素子と、前記白色有機EL素子に接続されている能動素子とを有することを特徴とする表示装置。
【請求項19】
複数のレンズを有する光学部と、前記光学部を通過した光を受光する撮像素子と、表示部と、を有し、
前記表示部は、前記撮像素子が取得した情報を表示する表示部であり、請求項
18に記載の表示装置を有することを特徴とする撮像装置。
【請求項20】
筐体と、外部と通信する通信部と、表示部とを有し、
前記表示部は請求項
18に記載の表示装置を有することを特徴とする電子機器。
【請求項21】
光源と、光拡散部または光学フィルタと、を有する照明装置であって、
前記光源は、請求項1乃至
17のいずれか一項に記載の有機EL素子を有することを特徴とする照明装置。
【請求項22】
機体と、前記機体に設けられている灯具を有し、
前記灯具は、請求項1乃至
17のいずれか一項に記載の有機EL素子を有することを特徴とする移動体。
【請求項23】
感光体と、前記感光体を露光する露光光源と、を有し、
前記露光光源は、請求項1乃至
17のいずれか一項に記載の有機EL素子を有することを特徴とする画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色発光の白色有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子を用いたフルカラー発光アレイの研究開発が精力的に進められている。フルカラー発光アレイを作製する場合、発光層を画素(素子)ごとに塗り分ける方式と、発光層は白色発光で、赤、緑、青のカラーフィルターを画素ごとに塗り分ける白色有機EL素子を用いた方式がある。白色有機EL素子に関しては、カラーフィルターに対応した赤、緑、青の3色の発光ドーパントを用いることが多い。
特許文献1には、赤色発光ドーパントと緑色発光ドーパントを1つの発光層に含有した2色発光層と、青色発光層の二層の発光層を隣接して積層し、発光層のホスト材料を同じにして素子の駆動電圧の低下を図った白色有機EL素子が開示されている。この場合、二層の発光層でカラーフィルターに対応した赤、緑、青の三色を発光させることができる。
特許文献2には、赤色発光ドーパントと緑色発光ドーパントを1つの発光層に含有した2色発光層の間に単色の青色発光層を隣接して積層し、ホスト材料を同じにして駆動電流変化に対する発光色度の安定化を図った白色有機EL素子が開示されている。
特許文献3には、赤色発光ドーパントと緑色発光ドーパントを1つの発光層に含有した2色発光層、単色の青色発光層、赤色発光ドーパントと青色発光ドーパントを1つの発光層に含有した2色発光層、の順に三層の発光層を隣接して積層した白色有機EL素子が開示されている。
特許文献4には、赤色発光層と、緑色発光ドーパントと青色発光ドーパントを1つの発光層に含有した2色発光層の二層の発光層を隣接して積層し、発光層のホスト材料を異なるものを用いた白色有機EL素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-22205号公報
【文献】特開2008-270190号公報
【文献】国際公開第13/150909号
【文献】特表2016-519834号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1にて開示されている白色有機EL素子は、素子の駆動電圧が低いものの赤、緑、青の発光バランスが悪い課題がある。積層する発光層のホスト材料を同じにし、電荷障壁層を用いなければ、正孔、電子の障壁がないため、素子の駆動電圧は低くなる。しかし、赤、緑の発光が同一の発光層で行われるため、赤と緑の各発光量の調整が難しく、緑色に比べて赤色の輝度が高くなりやすい問題がある。
また、特許文献2にて開示されている白色有機EL素子は、同じ発光色の2つの発光層の層間にその補色となる発光層を挿入した構成のため、白色発光色度の継時的な変化が少なく安定化は達成されているが、赤、緑、青の発光バランスが悪い課題がある。特許文献1と同様に赤、緑の発光が同一の発光層で行われるため、赤と緑の各発光量の調整が難しく、緑色に比べて赤色の輝度が高くなる傾向がある。
また、特許文献3にて開示されている白色有機EL素子は、特許文献1や特許文献2と同様に、赤、緑の発光が同一の発光層で行われるため、赤と緑の各発光量の調整が難しく、緑色に比べて赤色の輝度が高くなる問題がある。また、赤、青の発光についても同一の発光層で行われるため、青色に比べて赤色の輝度が高くなる傾向があるが、青色単色の発光層を有することで青色の輝度を高めている。
また、特許文献4にて開示されている白色有機EL素子は、緑と青の発光が同一の発光層で行われている。この場合、赤と緑の発光を同一の発光層で行う場合よりも緑と青の2色については発光量の調整は難しくない傾向があるが、別の層である赤色の輝度が強くなりやすい問題がある。
以上のように、これまで、1つの発光層に2種以上の発光ドーパントを含有させたとき、2色以上の発光を得られることが知られており、1つの発光層に赤、緑、青の3色の発光ドーパントを含有させると、3色の発光を得る事も可能である。ただし、1つの発光層に2種以上の発光ドーパントを含有させたとき、より長波の発光ドーパントが光りやすい傾向があり、電圧を下げた場合にはその傾向がより顕著になる問題があった。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、素子の駆動電圧が低く、赤、緑、青の発光バランスが整い、電圧の変動による白色発光色度の変化が小さい白色有機EL素子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の有機EL素子は、
陽極と陰極と、前記陽極と前記陰極との間に配置されている発光層とを有し、
前記発光層は、第一発光層及び第二発光層を含み、
前記第一発光層と前記第二発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料を含有し、
前記第一発光層は前記発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層であり、
前記第二発光層は前記発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料を含有し、赤色と緑色の2色発光層であり、
前記第一発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料と、前記第二発光層が有する前記緑色発光ドーパント材料は、同じ骨格を有する化合物であり、
前記骨格は、5員環を含む縮合環を有し、
前記第一発光層および前記第二発光層の発光により、白色発光することができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、素子の駆動電圧が低く、赤、緑、青の各発光のバランスが整い、電圧の変動による白色発光色度の変化が小さい白色有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施形態に係る白色有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態に係る白色有機EL素子を構成する発光層周辺のエネルギー準位を模式的に表したエネルギーダイアグラムである。
【
図3】本実施形態に係る表示装置の一例を示す断面模式図である。
【
図4】本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
【
図5】本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
【
図6】本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。
【
図7】本実施形態に係る携帯機器の一例を表す模式図である。
【
図8】本実施形態に係る照明装置の一例を示す模式図である。
【
図9】本実施形態に係る移動体の一例を示す模式図である。
【
図10】実施例1に係る白色有機EL素子の発光スペクトルである。
【
図11】実施例2に係る白色有機EL素子の発光スペクトルである。
【
図12】比較例1に係る白色有機EL素子の発光スペクトルである。
【
図13】比較例2に係る白色有機EL素子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
≪白色有機EL素子≫
本発明の第一の白色有機EL素子は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に配置されている発光層とを有し、発光層は、第一発光層及び第二発光層を含む。第一発光層と第二発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料を含有する。第一発光層は発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と、青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層である。第二発光層は発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料を含有し、赤色と緑色の2色発光層である。
また、本発明の第二の白色有機EL素子は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に配置されている発光層とを有し、発光層は、第一発光層及び第二発光層を含む。第一発光層と第二発光層は、ホスト材料と発光ドーパント材料を含有する。第一発光層、第二発光層は互いに接しており、第一発光層、第二発光層のホスト材料は同じ材料である。第一発光層は発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層である。第二発光層は発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料を含有し、赤色の発光層である。
【0009】
以下、
図1を用いて、本発明をより詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る白色有機EL素子の一例を示す断面模式図である。
図1に示される白色有機EL素子は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層3、第二発光層4-2、第一発光層4-1、電子輸送層5、陰極6がこの順に積層されている。
【0010】
第一発光層4-1は、ホスト材料と発光ドーパントを含有し、発光ドーパントとしては緑色発光ドーパントと青色発光ドーパントを含有し、緑色と青色の2色発光層である。第二発光層4-2は、ホスト材料と発光ドーパントを含有し、第二発光層4-2に少なくとも赤色発光ドーパントを含有し、2層の発光層でカラーフィルターに対応した赤、緑、青の三色を発光させることができる。また、
図1では、第二発光層4-2が、陽極2の側から1番目の発光層であるが、これは好ましい例であり、第一発光層4-1が陽極2の側から1番目の発光層となっても良い。また、図示はしていないが本発明には3つ以上の発光層を有する場合も含まれる。
【0011】
尚、本発明において、発光層とは、電極間に設けられる有機化合物層のうち発光機能を有する層をいう。また発光層に含まれるホスト材料は、各発光層に含まれる材料のうち主成分となる材料をいう。より具体的には、ホスト材料とは発光層に含まれる材料のうち発光層内の含有率が50質量%以上である材料をいう。一方、ドーパント材料とは、発光層に含まれる材料のうち、主成分とはならない材料のことである。より具体的には、ドーパント材料は、発光層に含まれる材料のうち、発光層内の含有率が50質量%未満である材料をいう。本発明では、第一発光層4-1には緑色発光ドーパント材料と、青色発光ドーパント材料の2つの発光ドーパント材料を含有し、第一発光層4-1は緑、青の2色発光である。
【0012】
また本発明では、素子から取り出される光の成分のうち、発光極大波長が570乃至650nmの発光成分を赤色と定義し、その赤色を発光する発光ドーパントを赤色発光ドーパント材料とする。また同じように、発光極大波長が490乃至540nmの発光成分を緑色と定義し、その緑色を発光する発光ドーパントを緑色発光ドーパント材料とする。また同じように、発光極大波長が430乃至480nmの発光成分を青色と定義し、その青色を発光する発光ドーパントを青色発光ドーパント材料とする。
【0013】
さらに、
図1の構成に、陽極2と正孔輸送層3との間に正孔注入層を、正孔輸送層3と発光層との間に電子ブロック層を備えていてもよい。さらに、発光層と電子輸送層5との間に正孔ブロック層を、電子輸送層5と陰極6との間に電子注入層を備えていてもよい。これら正孔注入層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子注入層は本発明において必要に応じて適宜用いられる。尚、正孔輸送層3と電子輸送層5も本発明において必要に応じて適宜用いられる。
【0014】
上述のように本発明の白色有機EL素子は、陽極2と陰極6に挟持された少なくとも第一発光層4-1、第二発光層4-2を含む積層された発光層を有する。そして、以下に説明するような特徴(1)もしくは(2)を、好ましくはさらに特徴(3)乃至(13)を有すると、素子の駆動電圧が低く、赤、緑、青の各発光バランスに優れ、電圧の変動による白色発光色度の変化が小さい白色有機EL素子となる。
【0015】
(1)第一発光層4-1と第二発光層4-2は、ホスト材料と、発光ドーパント材料を含有し、第一発光層4-1は、発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層であり、第二発光層4-2は、発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料を含有し、赤色と緑色の2色発光層である
上述したように1つの発光層に2種以上の発光ドーパントを含有させ、2色以上の発光を得ることが出来るが、より長波の発光ドーパントが光る傾向がある。そのため、本発明では、赤色と青色の発光ドーパントを1つの発光層に含有させるのをできるだけ避け、緑色と青色のドーパントを同時に含有させた緑色と青色の2色発光層である第一発光層4-1を有する。緑色と青色は波長が近いため、1つの発光層に含有させた場合でも、緑のみが光ることは少なく、2つの発光輝度比を調整しやすい。
また、本発明の第二発光層4-2は、赤色と緑色のドーパントを同時に含有させたものであり、緑色と青色同様に波長が近いため、1つの発光層に含有させた場合でも、赤のみが光ることは少なく、2つの発光輝度比を調整しやすい。また、緑色発光ドーパントを第一発光層4-1と第二発光層4-2の両方に含有することにより、緑色の輝度が調整しやすくなり、赤、緑、青の各発光バランスが整いやすい。
【0016】
(2)第一発光層4-1と第二発光層4-2は、ホスト材料と、発光ドーパント材料を含有し、第一発光層4-1と第二発光層4-2は互いに接しており、第一発光層4-1と第二発光層4-2のホスト材料は同じ材料であり、第一発光層4-1は、発光ドーパント材料として緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料を含有し、緑色と青色の2色発光層であり、第二発光層4-2は、発光ドーパント材料として赤色発光ドーパント材料を含有し、赤色の発光層である
第一発光層4-1は、緑色と青色のドーパントを同時に含有させたものであり、上述のように緑のみが光ることは少なく、2つの発光輝度比を調整しやすい。また、第一発光層4-1と第二発光層4-2を直接接するようにし、第二発光層4-2を第一発光層4-1と同じホスト材料にした赤色発光層とすることにより、赤色発光層から緑青色発光層への電子もしくは正孔の流れが良くなり、赤色が発光しすぎることを防ぎ、緑、青との各発光バランスが整いやすい。
【0017】
(3)陽極2が光を反射する反射性の電極、陰極6が光を透過する透過性の電極であり、少なくとも陽極2、第二発光層4-2、第一発光層4-1、陰極6がこの順に積層される
本発明では基板1上に形成された反射性の電極(陽極2)、赤色発光層もしくは赤緑の2色発光層(第二発光層4-2)、青・緑色の2色発光層(第一発光層4-1)、透過性の電極(陰極6)、が順に積層されている頃が好ましい。そして、基板1とは反対方向に光を取り出す所謂トップエミッション型の素子であることが好ましい。トップエミッション型の素子には、シリコンなどの基板を用いることが可能である。ここで反射性とは素子の発光を50%以上反射する性質を示し、透過性とは素子の発光を50%以上透過する性質を示す。赤色発光ドーパントはバンドギャップが狭く、他の色の発光ドーパントに比べて電子をトラップしやすいため、第二発光層4-2を最も陽極2に近い側に配置することで緑および青色発光層(第一発光層4-1)にも電子を供給しやすくなる。
【0018】
(4)第一発光層4-1は、下記(i)、(ii)の関係を満たす
(i)LUMO(H)<LUMO(BD)
(ii)HOMO(H)<HOMO(BD)
LUMO(H):ホスト材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(BD):青色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
HOMO(H):ホスト材料のHOMOエネルギーの絶対値
HOMO(BD):青色発光ドーパント材料のHOMOエネルギーの絶対値
上記(i)および(ii)を
図2を用いて説明する。
図2は本発明の有機EL素子を構成する発光層周辺のエネルギー準位を模式的に表したエネルギーダイアグラムを示す図である。
図2は、ホスト材料と
青色発光ドーパント材料が(i)、(ii)の関係を満たした一例である。
【0019】
第一発光層4-1が(i)および(ii)の両方の関係を満たすとき、青色発光ドーパント材料は電荷のうち、正孔はトラップしないが、電子はトラップすることになる。本発明の第一発光層4-1は、緑色発光ドーパントと青色発光ドーパントの両方を含み、上述したようにより長波の緑色発光ドーパントが光りやすい傾向がある。これを防ぐため、青色発光ドーパントを電子トラップ性にすると、青色発光ドーパントで電荷の再結合が起こるようにし、青色の輝度が調整しやすくなり、赤、緑、青の各発光バランスが整いやすいため好ましい。
【0020】
なお、HOMOエネルギーおよびLUMOエネルギーは真空準位を基準とし、通常の分子の場合、負の値を取る。しかし本明細書においては、HOMOエネルギー、LUMOエネルギーを不等号を用いて各々比較する際には、絶対値の大小を用いる。また、絶対値の大きいものを「深い」と称し、絶対値の小さいものを「浅い」と称する。
【0021】
本発明においては、HOMOエネルギーおよびLUMOエネルギーは、分子軌道計算より求めた数値を用いる。尚、分子軌道法計算の計算手法は、現在広く用いられている密度汎関数法(Density Functional Theory,DFT)を用いた。汎関数はB3LYP、既定関数は6-31G*を用いた。尚、分子軌道法計算は、現在広く用いられているGaussian09(Gaussian09,RevisionC.01,M.J.Frisch,G.W.Trucks,H.B.Schlegel,G.E.Scuseria,M.A.Robb,J.R.Cheeseman,G.Scalmani,V.Barone,B.Mennucci,G.A.Petersson,H.Nakatsuji,M.Caricato,X.Li,H.P.Hratchian,A.F.Izmaylov,J.Bloino,G.Zheng,J.L.Sonnenberg,M.Hada,M.Ehara,K.Toyota,R.Fukuda,J.Hasegawa,M.Ishida,T.Nakajima,Y.Honda,O.Kitao,H.Nakai,T.Vreven,J.A.Montgomery,Jr.,J.E.Peralta,F.Ogliaro,M.Bearpark,J.J.Heyd,E.Brothers,K.N.Kudin,V.N.Staroverov,T.Keith,R.Kobayashi,J.Normand,K.Raghavachari,A.Rendell,J.C.Burant,S.S.Iyengar,J.Tomasi,M.Cossi,N.Rega,J.M.Millam,M.Klene,J.E.Knox,J.B.Cross,V.Bakken,C.Adamo,J.Jaramillo,R.Gomperts,R.E.Stratmann,O.Yazyev,A.J.Austin,R.Cammi,C.Pomelli,J.W.Ochterski,R.L.Martin,K.Morokuma,V.G.Zakrzewski,G.A.Voth,P.Salvador,J.J.Dannenberg,S.Dapprich,A.D.Daniels,O.Farkas,J.B.Foresman,J.V.Ortiz,J.Cioslowski,and D.J.Fox,Gaussian,Inc.,Wallingford CT,2010.)により実施した。
【0022】
後述する実施例において、計算値の確からしさを確認するため、分子軌道計算より求めた計算値と、実測値との比較を行う。
【0023】
(5)第一発光層4-1、第二発光層4-2は隣接し、第一発光層4-1、第二発光層4-2のホスト材料は同じ材料である
第一の白色有機EL素子も第二の白色有機EL素子と同様に、第一発光層4-1、第二発光層4-2の2つの発光層が同じホスト材料で隣接して形成され、発光層間には電荷障壁層などの別の層が挿入されないことが好ましい。同じホスト材料で隣接して形成されることは、素子の駆動電圧を鑑みたものであり、電荷障壁層の電気抵抗をなくす狙いと、発光層中の電荷(正孔、電子)が別の層の準位へ行くことによる電圧の上昇をなくす狙いがある。本発明では上述したように発光層に含まれる材料のうち発光層内の含有率が50質量%以上である材料をホスト材料というが、電圧を低下させる観点ではホスト材料の濃度が高い方が良く、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
【0024】
(6)第一の白色有機EL素子において、下記(iii)および(iv)の関係を満たす
(iii)LUMO(H)<LUMO(RD)
(iv)LUMO(H)<LUMO(GD)
LUMO(H):ホスト材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(RD):赤色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
LUMO(GD):緑色発光ドーパント材料のLUMOエネルギーの絶対値
上記(iii)および(iv)を
図2を用いて説明する。
図2は、ホスト材料と赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料が(iii)、(iv)の関係を満たした一例である。
【0025】
第二発光層4-2が(iii)および(iv)の両方の関係を満たすとき、赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料のLUMO準位は、ホスト材料よりも深くなる。そのことにより、(4)で述べたように発光ドーパント材料が電子をトラップすることになる。このことにより、ホスト材料から電子が赤色発光ドーパント材料と緑色発光ドーパント材料の両方に電子もしくは励起エネルギーの受け渡しをすることが出来る。そのことにより、2つの発光ドーパントの両方を発光させることが出きるため好ましい。
【0026】
(7)第一の白色有機EL素子において、第二発光層4-2における緑色発光ドーパント材料の濃度が1質量%以上、5質量%未満である
上述のように本発明では第二発光層4-2で赤色と緑色の2色を発光させることができるが、緑色に対して赤色が強く発光する傾向がある。このため第二発光層4-2における緑色発光ドーパント材料は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上である。0.1質量%未満の場合、緑色の輝度が低下する可能性がある。また、第二発光層4-2における緑色発光ドーパント材料は10質量%未満であることが好ましく、より好ましくは5質量%未満である。10質量%より多くなると、発光ドーパントによる電子トラップ性が高まりすぎ、素子の電圧が高くなってしまう可能性があるい。また、(5)で述べたようにホスト材料の濃度が90質量%以上、より好ましくは95質量%以上のときに素子の電圧が低く成り易いため、発光ドーパント材料は10質量%未満であることが好ましく、より好ましくは5質量%未満である。
【0027】
(8)発光ドーパント材料が、5員環を含む縮合環を有する
本発明において、発光ドーパント材料として用いられる材料は特に限定されないが、(4)、(6)で述べたようにホスト材料よりもLUMO準位が深いことが好ましい。そのような材料としては、電子求引性の構造であるフルオランテン骨格のような5員環を含む縮合環を有することが好ましい。これにより、ホスト材料とのLUMOエネルギーの差が大きくなり、電子トラップ性を向上させることができる。さらに電子供与性の置換アミノ基を有さない方がより好ましい。置換アミノ基を有する場合、LUMOエネルギーが浅くなり、電子トラップ性が低下するからである。また、結合安定性の観点からも、窒素-炭素結合の一重結合となる置換アミノ基を有しない化合物であることが好ましい。以上より、ドーパント材料が5員環を含む縮合環を有し、かつ置換アミノ基を有しない化合物であると、電子トラップ性の高い発光層を形成することができ、また発光層を形成する材料自体の安定性が高い為、優れた耐久特性を示す素子を得ることができる。
【0028】
ここで、上記5員環を含む縮合環について説明する。5員環を含む縮合環とは、フルオランテン環および、フルオランテン環にさらに芳香族炭化水素が縮合した縮合多環を指す。具体的には、下記FF1乃至30に示すような縮合多環のことである。このうち、電子求引性を向上させ、電子トラップ性を向上させる観点から、フルオランテン環を2つ以上含む構造(フルオランテン環同士は一部の芳香環を共有しても良い)、好ましくはフルオランテン環が2つ以上縮合した構造を有するドーパントが好ましい。具体的には、FF7乃至13、FF16乃至20、FF23乃至FF30の骨格を有するドーパント材料を本発明において、好適に用いることができる。
【0029】
【0030】
(9)ホスト材料は炭化水素のみからなる
本発明において、ホスト材料として用いられる材料は特に限定されないが、分子構造内に結合安定性の低い結合を有しない化合物の方が好ましい。分子構造内に結合安定性の低い結合、即ちアミノ基の様に結合エネルギーの小さい不安定な結合を有する化合物は、発光層のホスト材料として用いた場合、素子駆動時に化合物の駆動劣化が起こり易く、素子の耐久寿命に悪影響を及ぼす可能性があるからである。
【0031】
特に、本発明ではホスト材料を全て共通にして青色発光ドーパント材料を発光させるためにバンドギャップの広いホスト材料を用いると、電荷再結合する際の励起子エネルギーは高くなる。そのため、ホスト材料がアミノ基のような結合エネルギーが低い結合をもつ材料では駆動劣化してしまう可能性がある。
【0032】
以下に示す化合物A-1、A-2及びB-1を例にとると、結合安定性の低い結合とは、カルバゾール環とフェニレン基をつなぐ結合及びアミノ基とフェニル基をつなぐ結合(窒素-炭素結合)である。化合物B-1のような炭素と炭素をつなぐ結合の方が結合安定性が高い。尚、計算手法は、b3-lyp/def2-SV(P)を用いて行った。
【0033】
【0034】
上記結果より、本発明の有機EL素子のホスト材料は炭化水素のみから構成されることが好ましい。
【0035】
(10)ホスト材料の分子構造は、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フェナンスレン環、クリセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオランテン環、ベンゾフルオランテン環から選ばれる芳香族炭化水素環により構成される
ホスト材料は、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フェナンスレン環、クリセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオランテン環、ベンゾフルオランテン環から選ばれる芳香族炭化水素環により分子構造が構成される芳香族炭化水素化合物であることが好ましい。(9)で述べた様に、本発明では青色発光ドーパント材料を発光させることが出来るバンドギャップの広いホスト材料を共通ホスト材料として用いると、電荷再結合する際の励起子エネルギーは高く、結合エネルギーが高い構造が好ましい。従って、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フェナンスレン環、クリセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオランテン環、ベンゾフルオランテン環から選ばれる、ベンゼン環が直線状に縮合化する環が2つまでの芳香族炭化水素環により構成される分子構造が好ましい。また、アントラセン環等のベンゼン環が直線状に3つ以上縮環した構造を含まないことが好ましい。
【0036】
ベンゼン環が直線状に縮合化する環が2つまでの構造は、アントラセン環等のベンゼン環が直線状に3つ以上縮環した構造に比べ電荷再結合する際の励起子エネルギーによる結合乖離に対して強い。表1に示すのは、ピレン環、フルオランテン環、フェナンスレン環及びアントラセン環とフェニル基の結合部分の結合次数及び2面角の計算結果である。アントラセン環は2面角が大きく、結合次数が低いことがわかる。つまり、ベンゼン環が直線状に3つ以上縮環した構造は、立体反発が大きく、それに伴い結合次数が低くなる。
【0037】
【0038】
尚、分子構造は密度汎関数法(Density Functional Theory,DFT)を用いた。汎関数はB3LYP、既定関数は6-31G*を用いて計算し、2面角を求め、結合次数はNBO解析を行い、Wibergの結合次数を用いた。
【0039】
以下に示すように、アントラセン骨格の場合、アントラセン環の1位及び8位の水素がフェニル基の11位及び12位の水素と反発する。一方、ピレン環のような場合はピレン環の10位とフェニル基の11位の水素が同様な反発をするが、2位と12位の水素の反発は小さい。また、以下に示す、アントラセン環の2位に置換基を有し、9、10位に置換基を有さない場合は、アントラセン環は中央ベンゼン環に電子密度の高い置換位置があるため、酸化されやすく、芳香族炭化水素の中では化学的安定性が低い。従って、ベンゼン環が直線状に縮合化する環が2つまでの構造はアントラセン環等のベンゼン環が直線状に3つ以上縮環した構造に比べ、結合次数が高く、電荷再結合する際の励起子エネルギーによる結合乖離に対して強く結合エネルギーが高いと考えられる。
【0040】
【0041】
以上により、ホスト材料は、ベンゼン環、ナフタレン環、フルオレン環、ベンゾフルオレン環、フェナンスレン環、クリセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオランテン環、ベンゾフルオランテン環のようなベンゼン環が直線状に縮合化する環が2つまでの構造により分子構造が構成される芳香族炭化水素化合物であることが好ましい。これらの材料は、電荷再結合する際の励起子エネルギーによる結合乖離に対して強いため、高耐久の素子が得られる。また、青、緑色の発光層である第一発光では励起エネルギーが大きい分、より効果が大きい。
【0042】
尚、上記ホスト材料は置換基として炭素原子数1以上12以下のアルキル基を有しても良い。アルキル基としては、具体的にはメチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、neo-ペンチル基、tert-ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等が挙げられる。
【0043】
(11)発光層と陰極側で隣接する正孔ブロック層を有し、正孔ブロック層は炭化水素のみからなる
本発明では、発光層と陰極6側で隣接する層は発光層中の正孔をブロックする役割を果たすため、発光層との界面付近には正孔が蓄積される。すなわち、過剰なラジカルカチオン発生に耐え得る分子構造であることが必要であり、発光層と陰極6側で隣接する層は、化学的安定性の高い炭化水素のみからなる正孔ブロック層であることが好ましい。一般に、窒素原子や酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を有する化合物は、非共有電子対を有するため、電子の供与と受容、すなわち酸化還元に対して活性である。このため、電子の授受を通して生じる不対電子が不均化反応起こすなどの相互作用による材料劣化を招く可能性があるため、化学的安定性は低い。一方、炭化水素は非共有電子対を有しておらず、化学的安定性が高いため好ましい。
【0044】
(12)発光層と陽極側で隣接する電子ブロック層を有し、電子ブロック層を構成する材料がカルバゾール骨格を含む
電子ブロック層にはカルバゾール骨格を含む材料を用いることが好ましい。カルバゾール基等のカルバゾール骨格を含むと、含まない構造の正孔輸送材料に比べてHOMOが深くなり、正孔輸送材料、正孔ブロック材料及び発光層の順に段階的にHOMOが深くなる準位を作ることができ、正孔を発光層へ低電圧で注入できるため好ましい。
【0045】
(13)正孔ブロック層と陰極6側で隣接する電子輸送層5を有し、電子輸送層5を構成する材料がピリジル基あるいはフェナントロリル基を含む
電子輸送層にはピリジル基、フェナントロリル基を置換基に持つ材料を用いることが好ましい。アルカリ金属化合物などの電子注入材料や電極材料と相互作用し、電子注入障壁を下げる効果があるためである。
【0046】
以下に本発明に用いられる発光層材料の具体例を示す。これらは、上述した(4)、(6)のエネルギー準位の関係を満たすのに好ましい材料である。ただし、これらの化合物はあくまで具体例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0047】
EM1乃至31にホスト材料の具体例を示す。
【0048】
【0049】
RD1乃至23に赤色発光ドーパント材料の具体例を示す。
【0050】
【0051】
赤色発光ドーパント材料のドープ濃度としては、0.1質量%以上、5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1%以上、0.5質量%未満である。濃度が低すぎると赤色の発光強度の低下を招く可能性があり、逆に濃度が濃すぎると濃度消光を起こす可能性がある。
【0052】
GD1乃至32に緑色発光ドーパント材料の具体例を示す。
【0053】
【0054】
緑色発光ドーパント材料は、青色発光ドーパント材料と併せて第一発光層4-1に用いられ、第一の白色有機EL素子では、赤色発光ドーパント材料と併せて第二発光層4-2に含有される。第一発光層4-1に用いる場合のドープ濃度としては、0.1質量%以上、5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、1%未満である。第二発光層4-2に用いる場合のドープ濃度としては、(7)で上述したように0.1質量%以上、10質量%未満が好ましく、より好ましくは1質量%以上、5質量%未満である。
【0055】
BD1乃至31に青色発光ドーパント材料の具体例を示す。
【0056】
【0057】
青色発光ドーパント材料は、緑色発光ドーパント材料と併せて第一発光層4-1に用いられる。青色発光ドーパント材料は、(i)、(ii)の関係を満たしやすくするため、(8)に記載したように、電子供与性の高い置換アミノ基を有しないことが好ましくい。また、電子求引性の高いシアノ基を有する化合物が好ましい。置換アミノ基を有さず、シアノ基を有することで、ドーパント材料のLUMOエネルギーを深くすることができ、(i)、(ii)の関係を満たしやすくなる。
【0058】
青色発光ドーパント材料のドープ濃度としては、0.1質量%以上、5質量%未満が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上、1質量%未満である。濃度が低すぎると青発光が弱くなりすぎ、赤、緑、青の各発光バランスの悪化を招く可能性がある。また、また濃度が高すぎると、赤、緑の各発光を弱めることにつながり、赤、緑、青の各発光バランスの悪化を招く可能性がある。
【0059】
<白色有機EL素子の素子構成>
本実施形態に係る有機EL素子の素子構成としては、発光層のほかに正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層等を有してもよい。有機EL素子の構成としては
図1に示すように下記の構成、
基板1/陽極2/正孔輸送層3/第二発光層4-2/第一発光層4-1/電子輸送層5/陰極6、
を積層したものがあげられる。第一発光層4-1は緑色発光ドーパント材料と青色発光ドーパント材料の2つのドーパント材料を含有し、
図1に示すように陽極2の側から1番目の発光層とすることが好ましい。
【0060】
さらに、
図1の構成に、正孔注入層、電子ブロック層を、正孔ブロック層、電子注入層を加えた、
基板1/陽極2/正孔注入層/正孔輸送層3/電子ブロック層/第二発光層4-2、第一発光層4-1/正孔ブロック層/電子輸送層5/電子注入層/陰極6、
を積層した構成が好ましく用いられる。上記素子構成では正孔と電子の両電荷を発光層内に閉じ込めることができるので、電荷漏れがなく発光効率が高い発光素子を得ることができる。
【0061】
また、電極と有機化合物層界面に絶縁性層を設ける、接着層あるいは干渉層を設ける、電子輸送層もしくは正孔輸送層がイオン化ポテンシャルの異なる二層から構成されるなど多様な層構成をとることができる。
【0062】
本実施形態に係る有機EL素子は、基板側の電極から光を取り出すいわゆるボトムエミッション方式でも、基板と逆側から光を取り出すいわゆるトップエミッション方式でも良く、両面取り出しの構成でも使用することができる。これらのうちでも、シリコンなど、光を透過しない基板を用いることが出来るトップエミッション型が好ましい。
【0063】
本実施形態の有機化合物以外にも、必要に応じて従来公知の低分子系及び高分子系の発光ドーパント、正孔注入性材料或いは正孔輸送性材料、ホスト材料となる化合物、発光ドーパント、電子注入性材料或いは電子輸送性材料等を一緒に使用することができる。以下にこれらの材料例を挙げる。
【0064】
正孔輸送層3に用いる材料としては、陽極2からの正孔の注入を容易にすることができる材料や、注入された正孔を発光層へ輸送できるように正孔移動度が高い材料が好ましい。正孔注入層、電子ブロック層にも同様の材料を用いることができる。また有機EL素子中において結晶化等の膜質の劣化を抑制するために、ガラス転移点温度が高い材料が好ましい。正孔移動度が高い低分子及び高分子系材料としては、トリアリールアミン誘導体、アリールカルバゾール誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)、その他導電性高分子が挙げられる。HT1乃至19に正孔輸送層3に用いられる材料の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0065】
【0066】
電子ブロック層としてはカルバゾール基等のカルバゾール骨格を含むHT7、HT8、HT9、HT10、HT11、HT12が好ましい。カルバゾール基を含むことでHOMOが深くなり、正孔輸送層3、電子ブロック層、発光層の順に段階的にHOMOが深くなる準位を作ることができ、正孔を発光層へ低電圧で注入できる。
【0067】
電子輸送層5に用いる材料としては、陰極6から注入された電子を発光層へ輸送することができるものから任意に選ぶことができ、正孔輸送性材料の正孔移動度とのバランス等を考慮して選択される。正孔ブロック層、電子注入層にも同様の材料を用いることができる。電子輸送性能を有する材料としては、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体、縮環化合物(例えばフルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、クリセン誘導体、アントラセン誘導体等)が挙げられる。さらに上記の電子輸送性材料は、正孔ブロック層にも好適に使用される。ET1乃至23に電子輸送層5に用いられる材料の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。
【0068】
【0069】
例示した電子輸送性材料のうち、正孔ブロック層の材料としては、結合安定性の観点から、炭化水素であることが好ましい。
【0070】
電子輸送層5の材料としてはET1、ET2、ET3、ET4、ET5、ET6、ET7またはET8のようなピリジル基、フェナントロリル基を置換基に持つ材料が好ましい。アルカリ金属化合物などの電子注入材料や電極材料と相互作用し、電子注入障壁を下げる効果があるためである。
【0071】
基板1としては、石英、ガラス、シリコンウェハ、樹脂、金属など何を用いてもよい。また、基板1上には、トランジスタなどのスイッチング素子や配線を備え、その上に絶縁層を備えてもよい。絶縁層としては、陽極2と配線の導通を確保するために、コンタクトホールを形成可能で、尚かつ未接続の配線との絶縁を確保できれば、何を用いてもよい。例えば、ポリイミド等の樹脂、酸化シリコン、窒化シリコンなどを用いることができる。
【0072】
陽極2の構成材料としては仕事関数がなるべく大きいものが良い。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、等の金属単体やこれらを含む混合物、あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物が使用できる。またポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極2は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。反射電極として用いる場合には、例えばクロム、アルミニウム、銀、チタン、タングステン、モリブデン、又はこれらの合金、酸化物、窒化物、積層したものなどを用いることができる。また、透明電極として用いる場合には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化インジウム亜鉛などの酸化物透明導電層などを用いることができるが、これらに限定されるものではない。電極の形成には、フォトリソグラフィ技術を用いることができる。
【0073】
一方、陰極6の構成材料としては仕事関数の小さなものがよい。例えばリチウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体またはこれらを含む混合物が挙げられる。あるいはこれら金属単体を組み合わせた合金も使用することができる。例えばマグネシウム-銀、アルミニウム-リチウム、アルミニウム-マグネシウム、銀-銅、亜鉛-銀等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また陰極6は一層構成でもよく、多層構成でもよい。陰極6は、薄膜のAgやAg合金、ITOなどの酸化物導電層を使用してトップエミッション素子とすることも好ましい。陰極6の形成方法としては、特に限定されないが、直流及び交流スパッタリング法や、蒸着法が挙げられる。
【0074】
陰極6形成後に、不図示の封止部材を設けてもよい。例えば、陰極6上に吸湿剤を設けたガラスを接着することで、有機化合物層に対する水等の浸入を抑え、表示不良の発生を抑えることができる。また、別の実施形態としては、陰極6上に酸化アルミニウムや窒化ケイ素等のパッシベーション膜を設け、有機化合物層に対する水等の浸入を抑えてもよい。例えば、陰極6形成後に真空を破らずに別のチャンバーに搬送し、CVD法で厚さ2μmの窒化ケイ素膜を形成することで、封止膜としてもよい。
【0075】
また、各画素にカラーフィルターを設けてもよい。例えば、画素のサイズに合わせたカラーフィルターを別の基板上に設け、それを有機EL素子を設けた基板と貼り合わせてもよいし、窒化ケイ素等の封止膜上にフォトリソグラフィ技術を用いて、カラーフィルターをパターニングしてもよい。
【0076】
本実施形態に係る有機EL素子を構成する有機化合物層(正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層等)は、以下に示す方法により形成される。
【0077】
本実施形態に係る有機EL素子を構成する有機化合物層は、真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマ等のドライプロセスを用いることができる。またドライプロセスに代えて、適当な溶媒に溶解させて公知の塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により層を形成するウェットプロセスを用いることもできる。ここで真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0078】
上記バインダー樹脂としては、ポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、尿素樹脂等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0079】
≪白色有機EL素子を用いた装置≫
本実施形態に係る白色有機EL素子は、表示装置や照明装置の構成部材として用いることができる。他にも、電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト、白色光源にカラーフィルターを有する発光装置等の用途がある。カラーフィルターは例えば赤、緑、青の3つの色のいずれかが透過するフィルターが挙げられる。
【0080】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの画像情報を入力する画像入力部を有し、入力された情報を処理する情報処理部を有し、入力された画像を表示部に表示する画像情報処理装置でもよい。また、撮像装置やインクジェットプリンタが有する表示部は、タッチパネル機能を有していてもよい。このタッチパネル機能の駆動方式は、赤外線方式でも、静電容量方式でも、抵抗膜方式であっても、電磁誘導方式であってもよく、特に限定されない。また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0081】
本実施形態に係る有機EL素子はスイッチング素子の一例であるTFTにより発光輝度が制御され、有機EL素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。尚、本実施形態に係るスイッチング素子は、TFTに限られず、低温ポリシリコンで形成されているトランジスタ、Si基板等の基板上に形成されたアクティブマトリクスドライバーであってもよい。基板上とは、その基板内ということもできる。これは精細度によって選択され、例えば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機EL素子を設けることが好ましい。本実施形態に係る有機EL素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0082】
<表示装置>
図3は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す断面模式図であり、有機EL素子とこの有機EL素子に接続されるTFT素子とを有する表示装置の例を示す図である。TFT素子は、能動素子の一例である。本実施形態に係る表示装置は、赤色、緑色、青色を有するカラーフィルタを有してよい。カラーフィルタは、当該赤色、緑色、青色がデルタ配列で配置されてよい。
【0083】
図3の表示装置10は、ガラス等の基板11とその上部にTFT素子18又は有機化合物層22を保護するための防湿膜12が設けられている。TFT素子18は、金属のゲート電極13とゲート絶縁膜14と半導体層15とドレイン電極16とソース電極17とを有している。TFT素子18の上部には絶縁膜19が設けられている。コンタクトホール20を介して有機EL素子を構成する陽極21とソース電極17とが接続されている。尚、有機EL素子に含まれる電極(陽極21、陰極23)とTFTに含まれる電極(ソース電極17、ドレイン電極16)との電気接続の方式は、
図3に示される態様に限られるものではない。つまり陽極21と陰極23のうちいずれか一方と、TFT素子のソース電極17とドレイン電極16のいずれか一方とが電気接続されていればよい。
図3の表示装置10では有機化合物層22を1つの層の如く図示をしているが、有機化合物層22は、複数層であってもよい。陰極23の上には有機EL素子の劣化を抑制するための第一の保護層24や第二の保護層25が設けられている。
【0084】
図3の表示装置10ではスイッチング素子としてトランジスタを使用しているが、これに代えてMIM素子をスイッチング素子として用いてもよい。また
図3の表示装置10に使用されるトランジスタは、単結晶シリコンウエハを用いたトランジスタに限らず、基板の絶縁性表面上に活性層を有する薄膜トランジスタでもよい。活性層として、単結晶シリコン、アモルファスシリコン、微結晶シリコンなどの非単結晶シリコン、インジウム亜鉛酸化物、インジウムガリウム亜鉛酸化物等の非単結晶酸化物半導体が挙げられる。尚、薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
図3の表示装置10に含まれるトランジスタは、Si基板等の基板内に形成されていてもよい。ここで基板内に形成されるとは、Si基板等の基板自体を加工してトランジスタを作製することを意味する。つまり、基板内にトランジスタを有することは、基板とトランジスタとが一体に形成されていると見ることもできる。基板内にトランジスタを設けるかどうかについては、精細度によって選択される。例えば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板内にトランジスタを設けることが好ましい。
【0085】
図4は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。表示装置1000は、上部カバー1001と下部カバー1009との間に、タッチパネル1003、表示パネル1005、フレーム1006、回路基板1007、バッテリー1008を有してよい。タッチパネル1003および表示パネル1005には、フレキシブルプリント回路FPC1002、1004が接続されている。表示パネル1005には、本実施形態に係る有機発光素子が用いられてよい。回路基板1007には、トランジスタを含む回路が配置されている。バッテリー1008は、表示装置が携帯機器でなければ、設けなくてよいし、携帯機器であっても、この位置に設ける必要はない。
【0086】
図5は、本実施形態に係る表示装置の一例を表す模式図である。
図5(a)は、テレビモニタやPCモニタ等の表示装置である。表示装置1300は、額縁1301を有し表示部1302を有する。表示部1302には、本実施形態に係る有機EL素子が用いられてよい。また、表示装置1300は、額縁1301と表示部1302を支える土台1303を有している。土台1303は、
図5(a)の形態に限られない。額縁1301の下辺が土台を兼ねてもよい。また、額縁1301および表示部1302は、曲がっていてもよい。その曲率半径は、5000mm以上6000mm以下であってよい。
図5(b)の表示装置1310は、折り曲げ可能に構成されており、いわゆるフォルダブルな表示装置である。表示装置1310は、第一表示部1311、第二表示部1312、筐体1313、屈曲点1314を有する。第一表示部1311と第二表示部1312とは、本実施形態に係る有機EL素子を有してよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、つなぎ目のない1枚の表示装置であってよい。第一表示部1311と第二表示部1312とは、屈曲点で分けることができる。第一表示部1311、第二表示部1312は、それぞれ異なる画像を表示してもよいし、第一および第二表示部とで一つの画像を表示してもよい。
【0087】
<撮像装置>
本実施形態に係る表示装置は、複数のレンズを有する光学部と、当該光学部を通過した光を受光する撮像素子とを有する撮像装置の表示部に用いられてよい。撮像装置は、撮像素子が取得した情報を表示する表示部を有してよい。また、表示部は、撮像装置の外部に露出した表示部であっても、ファインダ内に配置された表示部であってもよい。撮像装置は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラであってよい。
【0088】
図6は、本実施形態に係る撮像装置の一例を表す模式図である。撮像装置1100は、ビューファインダ1101、背面ディスプレイ1102、操作部1103、筐体1104を有してよい。ビューファインダ1101は、本実施形態に係る表示装置を有してよい。その場合、表示装置は、撮像する画像のみならず、環境情報、撮像指示等を表示してよい。環境情報には、外光の強度、外光の向き、被写体の動く速度、被写体が遮蔽物に遮蔽される可能性等であってよい。撮像に好適なタイミングはわずかな時間なので、少しでも早く情報を表示した方がよい。したがって、本発明の有機EL素子を用いた表示装置を用いるのが好ましい。有機EL素子は応答速度が速いからである。有機EL素子を用いた表示装置は、表示速度が求められる装置において、液晶表示装置よりも好適に用いることができる。撮像装置1100は、不図示の光学部を有する。光学部は複数のレンズを有し、筐体1104内に収容されている撮像素子に結像する。複数のレンズは、その相対位置を調整することで、焦点を調整することができる。この操作を自動で行うこともできる。
【0089】
<電子機器>
本実施形態に係る表示装置は、携帯端末等の電子機器の表示部に用いられてもよい。その際には、表示機能と操作機能との双方を有してもよい。携帯端末としては、スマートフォン等の携帯電話、タブレット、ヘッドマウントディスプレイ等が挙げられる。
【0090】
図7は、本実施形態に係る電子機器の一例を表す模式図である。電子機器1200は、表示部1201と、操作部1202と、筐体1203を有する。筐体1203には、回路、当該回路を有するプリント基板、バッテリー、通信部、を有してよい。操作部1202は、ボタンであってもよいし、タッチパネル方式の反応部であってもよい。操作部は、指紋を認識してロックの解除等を行う、生体認識部であってもよい。通信部を有する電子機器は通信機器ということもできる。
【0091】
<照明装置>
図8は、本実施形態に係る照明装置の一例を表す模式図である。照明装置1400は、筐体1401と、光源1402と、回路基板1403と、光学フィルタ1404と、光拡散部1405と、を有してよい。光源1402は、本実施形態に係る有機EL素子を有してよい。光学フィルタ1404は光源1402の演色性を向上させるフィルタであってよい。光拡散部1405は、ライトアップ等、光源1402の光を効果的に拡散し、広い範囲に光を届けることができる。光学フィルタ1404、光拡散部1405は、照明の光出射側に設けられてよい。必要に応じて、最外部にカバーを設けてもよい。
【0092】
照明装置は例えば室内を照明する装置である。照明装置は白色、昼白色、その他青から赤のいずれの色を発光するものであってよい。それらを調光する調光回路を有してよい。照明装置は本発明の有機EL素子とそれに接続される電源回路を有してよい。電源回路は、交流電圧を直流電圧に変換する回路である。また、白とは色温度が4200Kで昼白色とは色温度が5000Kである。照明装置はカラーフィルタを有してもよい。
【0093】
また、本実施形態に係る照明装置は、放熱部を有していてもよい。放熱部は装置内の熱を装置外へ放出するものであり、比熱の高い金属、液体シリコン等が挙げられる。
【0094】
<移動体>
本実施形態に係る移動体は、機体と、機体に設けられている灯具を有する。
図12は、本実施形態に係る移動体の一例を表す模式図であり、車両用灯具の一例であるテールランプを有する自動車を示す図である。機体としての自動車1500は、テールランプ1501を有し、ブレーキ操作等を行った際に、テールランプ1501を点灯する形態であってよい。テールランプ1501は、本実施形態に係る有機EL素子を有してよい。テールランプ1501は、有機EL素子を保護する保護部材を有してよい。保護部材はある程度高い強度を有し、透明であれば材料は問わないが、ポリカーボネート等で構成されることが好ましい。ポリカーボネートにフランジカルボン酸誘導体、アクリロニトリル誘導体等を混ぜてよい。自動車1500は、車体1503、それに取り付けられている窓1502を有してよい。窓1502は、自動車1500の前後を確認するための窓でなければ、透明なディスプレイであってもよい。当該透明なディスプレイは、本実施形態に係る有機EL素子を有してよい。この場合、有機EL素子が有する電極等の構成材料は透明な部材で構成される。
【0095】
本実施形態に係る移動体は、船舶、航空機、ドローン等であってよい。移動体は、機体と当該機体に設けられた灯具を有してよい。灯具は、機体の位置を知らせるための発光をしてよい。灯具は本実施形態に係る有機EL素子を有する。
【実施例】
【0096】
<HOMO・LUMOの評価>
下記に示す方法で、ホスト材料およびドーパント材料の評価を行った。結果を表2に示す。
【0097】
A)HOMOの評価方法
アルミ基板上に膜厚30nmの薄膜を形成し、この薄膜について、AC-3(理研計器社製)を用いて測定した。
【0098】
B)LUMOの評価方法
石英基板上に膜厚30nmの薄膜を形成し、この薄膜について、分光光度計(V-560 日本分光社製)を用い、被測定材料の光学バンドギャップ(吸収端)を求めた。その光学バンドギャップ値に前述のHOMO値の和をLUMOとした。結果を表2に示す。
【0099】
さらに、表2において、分子軌道計算より求めた計算値を示す。実測値との比較から、HOMOおよびLUMOのエネルギーには相関性があることが分かる。よって本実施例においては、計算値から求めたHOMOおよびLUMOエネルギーの数値を用いて素子結果を考察する。
【0100】
【0101】
<実施例1>
本実施例では、基板上に陽極、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、第二発光層、第一発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極が順次形成されたトップエミッション型構造の有機EL素子を作製した。
【0102】
ガラス基板上に、スパッタリング法でTiを40nm成膜し、フォトリソグラフィ技術を用いてパターニングし、陽極を形成した。この時、陰極と対向する電極の面積が3mm2となるようにした。続いて、真空蒸着装置(アルバック社製)に洗浄済みの電極までを形成した基板と材料を取り付け、1.0×10-4Pa(1×10-6Torr)まで排気した後、UV/オゾン洗浄を施した。その後、表3に示される層構成で各層の製膜を行った。
【0103】
【0104】
陰極を形成した後、基板をグローブボックスに移し、窒素雰囲気中で乾燥剤を入れたガラスキャップにより封止し、白色有機EL素子を得た。この白色有機EL素子は、本発明の特徴である上述の(1)を満たし、好ましい構成である(3)乃至(13)の特徴も満たしている。
【0105】
得られた白色有機EL素子に電圧印加装置を接続し、その特性を評価した。電流電圧特性をヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bで測定し、発光スペクトルの取得、色度の評価はトプコン製「SR-3」を用いて行った。発光輝度は、トプコン社製BM7で測定した。
【0106】
1000cd/m
2表示時の効率、電圧、及びCIE色度座標はそれぞれ5.6cd/A、3.9V、(0.31、0.35)であり、高効率で素子の駆動電圧が低く、電圧の変動での白色発光色度の変化も小さい、良好な白色有機EL素子であった。
図10に得られた白色のスペクトルを示す。
【0107】
次に、この白色有機EL素子上に赤、緑、青の各色カラーフィルターを形成した場合のスペクトルと輝度を計算で求め、それら3色のEL素子を用いて白色(CIE色度座標0.31、0.33)500cd/m2表示時の赤、緑、青の各色必要電流を算出した。結果、赤は70mA/cm2、緑は85mA/cm2、青は77mA/cm2となり、赤、緑、青の各発光のバランスが良い白色有機EL素子を得ることができたと言える。
【0108】
<実施例2(参考例)>
第二発光層に緑色発光ドーパントを加えず(質量比「EM1:RD5=99.6:0.4」)、第二発光層を赤色発光層とし、第一発光層の緑色発光ドーパントの濃度を0.3質量%に増やした(質量比「EM1:BD24:GD10=99.1:0.6:0.3」)以外は実施例1と同様の素子を作成し、同様に評価を行った。この白色有機EL素子は、本発明の特徴である上述の(2)を満たし、好ましい構成である(3)乃至(13)の特徴も満たしている。
【0109】
1000cd/m
2表示時の効率、電圧、及びCIE色度座標はそれぞれ7.3cd/A、4.1V、(0.28、0.36)であり、実施例1と比べ緑色の発光輝度が高い為に効率が高い白色有機EL素子であった。
図11に得られた白色のスペクトルを示す。
【0110】
次に、この白色有機EL素子上に赤、緑、青の各色カラーフィルターを形成した場合のスペクトルと輝度を計算で求め、それら3色のEL素子を用いて白色(CIE色度座標0.31、0.33)500cd/m2表示時の赤、緑、青の各色必要電流を算出した。結果、赤は84mA/cm2、緑は63mA/cm2、青は70mA/cm2となり、赤、緑、青の各発光のバランスが良い白色有機EL素子を得ることができたと言える。
【0111】
<比較例1>
第一発光層に緑色発光ドーパントを加えず(質量比「EM1:BD24=99.4:0.6」)、第一発光層を青色発光層とした以外は実施例1と同様の素子を作成し、同様に評価を行った。
【0112】
1000cd/m
2表示時の効率、電圧、及びCIE色度座標はそれぞれ4.8cd/A、3.9V、(0.31、0.29)であり、実施例1と比べ青色の発光輝度が高いが、緑色の発光輝度が下がっている為に効率が低い白色有機EL素子であった。
図12に得られた白色のスペクトルを示す。また、発光輝度を下げるために電圧を低下させていくと、赤色の発光の割合が高まり、白色発光色度の変化が見られた。
【0113】
次に、実施例1と同様に赤、緑、青の各色カラーフィルターを形成した場合の白色(CIE色度座標0.31、0.33)500cd/m2表示時の赤、緑、青の各色必要電流を算出した。結果、赤は71mA/cm2、緑は110mA/cm2、青は67mA/cm2となり、実施例1と比べ、緑の輝度が低く、青の輝度が高い、バランスの良くない白色有機EL素子となった。第一発光層が青色発光層であるため、緑の発光は第二発光層からのものだけとなっており、第二発光層は1つの発光層中で2色を発光させるため、赤の発光とのバランスを調整することが難しいことを示している。
【0114】
<比較例2(参考例)>
第二発光層のホスト材料をEM20とした以外は実施例2と同様の素子を作成し、同様に評価を行った。
【0115】
1000cd/m
2表示時の効率、電圧、及びCIE色度座標はそれぞれ4.1cd/A、4.9V、(0.41、0.47)であり、発光輝度が低く、特に青色の発光輝度が低い白色有機EL素子であった。
図13に得られた白色のスペクトルを示す。
【0116】
実施例2と比べ、第二発光層のホスト材料を第一発光層と異なるものにしたため、赤色発光層である第一発光層から第二発光層に正孔が流れにくくなり、発光輝度が低下していると考えられる。
【符号の説明】
【0117】
1:基板、2:陽極、3:正孔輸送層、4-1:第一発光層、4-2:第二発光層、5:電子輸送層、6:陰極、10:表示装置、11:基板、12:防湿膜、13:ゲート電極、14:ゲート絶縁膜、15:半導体層、16:ドレイン電極、17:ソース電極、18:TFT、19:絶縁膜、20:コンタクトホール、21:陽極、22:有機化合物層、23:陰極、24:第一の保護層、25:第二の保護層