(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】全輪駆動車の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/348 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B60K17/348 B
(21)【出願番号】P 2019148285
(22)【出願日】2019-08-13
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100122770
【氏名又は名称】上田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 寛子
(72)【発明者】
【氏名】篠原 剛
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 英晴
(72)【発明者】
【氏名】高畑 夏紀
(72)【発明者】
【氏名】村中 英史
(72)【発明者】
【氏名】和氣 嵩暁
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】直井 利之
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/164662(WO,A1)
【文献】特開2015-110398(JP,A)
【文献】特開2016-016732(JP,A)
【文献】特開2002-202000(JP,A)
【文献】特開平08-085371(JP,A)
【文献】特開昭59-051145(JP,A)
【文献】特開2000-240487(JP,A)
【文献】特開平10-201297(JP,A)
【文献】特開2015-182693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチを備える全輪駆動車の制御装置であって、
前記全輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、
前記自動変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、
前記全輪駆動車の運転状態に基づいて、前記トランスファクラッチの締結力を制御するクラッチ制御手段と、
エンジンから出力され、駆動系全系に入力されるトルクに段差が生じるか否を予測するトルク段差発生予測手段と、を備え、
前記クラッチ制御手段は、前記車速が所定範囲内であり、
かつ、前記変速比が所定範囲内で
あって、タイヤ回転1次成分と前記駆動系全系の共振周波数が重なり又は近接し、車体振動が発生し得る走行状態であり、さらに、前記駆動系全系に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、前記トランスファクラッチを解放することを特徴とする全輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記トルク段差発生予測手段は、前記エンジンから出力され、前記駆動系全系に入力されるトルクに段差を生じさせ得るデバイスの駆動状態が可変されると予測される際に、前記トルクに段差が生じると予測し、
前記クラッチ制御手段は、前記トルクに段差が生じると予測された場合に、前記デバイスが駆動される前に、前記トランスファクラッチを解放することを特徴とする請求項1に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
前記デバイスは、前記エンジンの出力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、タンブルジェネレータバルブ、排気ガス再循環装置、及び、インジェクタのうち、少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項2に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
前記デバイスは、前記エンジンによって駆動され、前記駆動系全系への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、エアコンディショナ・コンプレッサ、及び、オルタネータのうち、少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項2又は3に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
前記クラッチ制御手段は、前記トランスファクラッチを解放した後に前記デバイスの駆動を許可することを特徴とする請求項2~4のいずれか1項に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項6】
自動変速機から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチを備える全輪駆動車の制御装置であって、
前記全輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、
前記自動変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、
前記全輪駆動車の運転状態に基づいて、前記トランスファクラッチの締結力を制御するクラッチ制御手段と、を備え、
前記クラッチ制御手段は、前記車速が所定速度範囲内であり、かつ、前記変速比が所定変速比範囲内で
あって、タイヤ回転1次成分と前記駆動系全系の共振周波数が重なり又は近接し、車体振動が発生し得る走行状態である場合に、前記トランスファクラッチを解放することを特徴とする全輪駆動車の制御装置。
【請求項7】
前記クラッチ制御手段は、全輪駆動であることが求められる走行状況のときには前記トランスファクラッチの解放を禁止することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項8】
前記クラッチ制御手段は、前記トランスファクラッチの解放に代えて、トルクコンバータのロックアップクラッチを解放することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の全輪駆動車の制御装置。
【請求項9】
前記クラッチ制御手段は、前記トランスファクラッチの解放に代えて、又は、加えて、前記自動変速機の変速比を変更することを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の全輪駆動車の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、急坂路や、凸凹の多い悪路、滑りやすい路面(例えば雪道や泥路)などでの走破性が優れている全輪駆動(AWD)車が広く実用化されている。全輪駆動車には、フルタイム方式と、2輪駆動と4輪駆動とを必要に応じて切り換えるパートタイム方式とが知られている。フルタイム方式では、前輪と後輪との間に、センタデファレンシャルを設け、前後輪の差動を許容することにより、常に4輪駆動を実現する。一方、パートタイム方式では、例えば、エンジンに直結された主駆動輪と、エンジンにトランスファクラッチを介して接続された従駆動輪(副駆動輪)とを有し、トランスファクラッチの締結力を路面状況や走行状態等に応じて制御することにより、従駆動輪側への駆動力配分を調節して、2輪駆動と4輪駆動とを切り換える構成としている。
【0003】
ここで、特許文献1には、4輪駆動車において、駆動力配分の変動による駆動軸のねじり及びそのねじり戻しに起因する車体振動を抑制する駆動力制御装置が開示されている。より具体的には、特許文献1に記載の駆動力制御装置では、従駆動輪への駆動力配分を小さくする場合に、駆動力配分の変化速度を制限して駆動力配分の変動量を低減することにより、従駆動輪への駆動力配分を減少させることなく、駆動力配分の変動に起因する車体振動を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、全輪駆動車の駆動系全系は、例えば、主として、トルクコンバータ(ロックアップクラッチ等を含む)、自動変速機(インプットシャフト、チェーン、プーリ等を含む)、リダクションギヤ、トランスファクラッチ、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ(フロント並びにリヤ)、及び、ドライブシャフト(フロント並びにリヤ)等を備えて構成されている。このような構成を備える駆動系全系は、固有値(すなわち、共振周波数)を持つ。そのため、微小なエンジンのトルク変動に感応して、乗員が気づくレベルでユサユサと車体が揺れる振動が発生することがあり、乗員に違和感を与えることがある。
【0006】
これに対して、例えば、ハード仕様変更により駆動系の感度を下げることや、エンジンの燃焼制御を変更することによりエンジンのトルク変動を抑えることも考え得るが、これらの対策方法では、燃費の悪化、応答性の低下、コストアップ等が犠牲になることが予想される。なお、上述した特許文献1に記載の駆動力制御装置では、このような、駆動系全系が持つ共振周波数に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の抑制又は防止については考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、自動変速機から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチを備える全輪駆動車の制御装置であって、燃費や、応答性、コスト等を犠牲にすることなく、駆動系全系が持つ共振周波数に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の発生を防止することが可能な全輪駆動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者達は、上記の問題点につき鋭意検討を重ねた結果、例えば、タンブルジェネレータバルブ(TGV)の開閉等の制御デバイスの急峻な動作による過渡的なエンジントルク変動が、例えば、ロックアップダンパやドライブシャフトなどをバネとする駆動系ねじり共振を励起し、その駆動系全体が持つ共振周波数とタイヤ回転1次成分とが重なる又は近接すると、前後G振動の強度が増幅され、その結果、ユサユサとした車体振動として認識されるとの知見を得た。なお、タイヤが1回転したときに1周期となる回転次数成分を回転1次成分という。
【0009】
そこで、本発明に係る全輪駆動車の制御装置は、自動変速機から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチを備える全輪駆動車の制御装置であって、全輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、自動変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、全輪駆動車の運転状態に基づいて、トランスファクラッチの締結力を制御するクラッチ制御手段と、エンジンから出力され、駆動系全系に入力されるトルクに段差が生じるか否を予測するトルク段差発生予測手段とを備え、クラッチ制御手段が、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり、かつ、駆動系全系に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、トランスファクラッチを解放することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置によれば、エンジンから出力され、駆動系全系に入力されるトルクに段差すなわち急峻な変動が生じるか否かが予測され、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり、かつ、駆動系全系に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、トランスファクラッチが解放される。トランスファクラッチが解放されて、トランスファクラッチの上流側の駆動系と下流側の駆動系とが切り離されることにより、駆動系全系の構成要素が変化し、駆動系全系の共振周波数が変化する。そのため、駆動系全系の共振が防止され、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することができる。また、この場合、トランスファクラッチの制御のみで車体振動の発生を防止できる。その結果、燃費や、応答性、コスト等を犠牲にすることなく、駆動系全系が持つ固有値に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の発生を防止することが可能となる。
【0011】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、トルク段差発生予測手段が、エンジンから出力され、駆動系全系に入力されるトルクに段差を生じさせ得るデバイスの駆動状態が可変されると予測される際に、トルクに段差が生じると予測し、トルクに段差が生じると予測された場合に、クラッチ制御手段が、デバイスが駆動される前に、トランスファクラッチを解放することが好ましい。
【0012】
この場合、エンジンから出力され、駆動系全系に入力されるトルクに段差を生じさせ得るデバイスの駆動状態から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。また、上記デバイスが駆動される前すなわち、トルクに段差が生じる前にトランスファクラッチが解放されるため、駆動系全系の共振を確実に回避することができる。
【0013】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、上記デバイスが、エンジンの出力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、タンブルジェネレータバルブ、排気ガス再循環装置、及び、インジェクタのうち、少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【0014】
この場合、エンジンの出力トルク変動を生じさせ得るデバイスである、タンブルジェネレータバルブ、排気ガス再循環装置、及び、インジェクタのうち、少なくともいずれか一つの駆動予定・要求、例えば、開閉や開弁時間の変更予定・要求から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。
【0015】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、上記デバイスが、エンジンによって駆動され、駆動系全系への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、エアコンディショナ・コンプレッサ、及び、オルタネータのうち、少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
【0016】
この場合、エンジンによって駆動され、駆動系全系への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスである、エアコンディショナ・コンプレッサ、及び、オルタネータのうち、少なくともいずれか一つの駆動予定・要求、例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。
【0017】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、クラッチ制御手段が、トランスファクラッチを解放した後にデバイスの駆動を許可することが好ましい。
【0018】
この場合、トランスファクラッチが解放された後にデバイスの駆動が許可される。すなわち、トランスファクラッチが解放されるまではトルク段差を生じさせ得るデバイスの駆動が待機状態にされる。そのため、確実に車体振動を防止することが可能となる。
【0019】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置は、自動変速機から従駆動輪側の駆動系に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチを備える全輪駆動車の制御装置であって、全輪駆動車の車速を検出する車速検出手段と、自動変速機の変速比を取得する変速比取得手段と、全輪駆動車の運転状態に基づいて、トランスファクラッチの締結力を制御するクラッチ制御手段とを備え、クラッチ制御手段が、車速が所定速度範囲内であり、かつ、変速比が所定変速比範囲内である場合に、トランスファクラッチを解放することを特徴とする。
【0020】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置によれば、車速が所定速度範囲内であり、かつ、変速比が所定変速比範囲内である場合に、トランスファクラッチが解放される。そのため、車体振動が発生し得る走行状態のとき、例えば、タイヤの回転1次と駆動系全系の共振周波数が重なっているとき又は近接しているときに、トランスファクラッチが解放される。トランスファクラッチが解放されて、トランスファクラッチの上流側の駆動系と下流側の駆動系とが切り離されることにより、駆動系全系の構成要素が変化し、駆動系全系の固有値が変化する。そのため、駆動系全系の共振が防止され、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することができる。また、この場合、トランスファクラッチの制御のみで車体振動の発生を防止できる。
【0021】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、全輪駆動であることが求められる走行状況のときには、クラッチ制御手段が、トランスファクラッチの解放を禁止することが好ましい。
【0022】
この場合、全輪駆動であることが求められる走行状況のときには、トランスファクラッチの解放が禁止される。すなわち、二輪駆動にしてもよい走行状況のときにのみトランスファクラッチが解放される。そのため、例えば、氷結路やスプリットμ路等の全輪駆動での走行性能が求められる状況では、全輪駆動での走行性能を優先して確保することができる。
【0023】
本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、クラッチ制御手段が、トランスファクラッチの解放に代えて、トルクコンバータのロックアップクラッチを解放することが好ましい。
【0024】
このようにしても、駆動系全系の共振周波数を変化させることができるため、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することが可能となる。
【0025】
また、本発明に係る全輪駆動車の制御装置では、クラッチ制御手段が、トランスファクラッチの解放に代えて、又は、加えて、自動変速機の変速比を変更するように要求することが好ましい。
【0026】
このようにしても、駆動系全系の共振周波数を変化させることができるため、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、燃費や、応答性、コスト等を犠牲にすることなく、駆動系全系が持つ共振周波数に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係る全輪駆動車の制御装置、及び該制御装置が搭載されたAWD車のパワートレイン及び駆動力伝達系の全体構成を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る全輪駆動車の制御装置による車体振動防止処理の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】第2制御形態に係る車体振動防止処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0030】
まず、
図1を用いて、実施形態に係る全輪駆動車の制御装置1の構成について説明する。
図1は、全輪駆動車の制御装置1、及び該制御装置1が搭載されたAWD(All Wheel Drive:全輪駆動)車5のパワートレイン及び駆動力伝達系(駆動系全系)3の構成を示すブロック図である。本実施形態に係るAWD車5は、無段変速機(以下「CVT」という)30を搭載したパートタイム式AWD車である。特に、AWD車5は、FF(Front engine Front drive)ベースのパートタイム式AWD車である。
【0031】
エンジン20は、どのような形式のものでもよいが、例えば水平対向型の筒内噴射式4気筒ガソリンエンジンである。エンジン20では、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気が、吸気管に設けられた電子制御式スロットルバルブ(以下、単に「スロットルバルブ」ともいう)85により絞られ、インテークマニホールドを通り、エンジン20に形成された各気筒に吸入される。ここで、エアクリーナから吸入された空気の量はエアフローメータにより検出される。さらに、スロットルバルブ85には、該スロットルバルブ85の開度を検出するスロットル開度センサ83が配設されている。各気筒には、燃料を噴射するインジェクタ86が取り付けられている。また、各気筒には混合気に点火する点火プラグ、及び該点火プラグに高電圧を印加するイグナイタ内蔵型コイルが取り付けられている。エンジン20の各気筒では、吸入された空気とインジェクタ86によって噴射された燃料との混合気が点火プラグにより点火されて燃焼する。燃焼後の排気ガスは排気管を通して排出される。
【0032】
上述したエアフローメータ、スロットル開度センサ83に加え、エンジン20のカムシャフト近傍には、エンジン20の気筒判別を行うためのカム角センサ81が取り付けられている。また、エンジン20のクランクシャフト近傍には、クランクシャフトの位置を検出するクランク角センサ82が取り付けられている。これらのセンサは、後述するエンジン・コントロールユニット(以下「ECU」という)80に接続されている。また、ECU80には、アクセルペダルの踏み込み量すなわちアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサ84、及びエンジン20の冷却水の温度を検出する水温センサ等の各種センサも接続されている。
【0033】
なお、上述した吸気管には、タンブルジェネレータバルブ(以下「TGV」という)87が設けられている。また、上述した排気管には、排気ガス再循環装置(以下「EGR(Exhaust Gas Recirculation)」という)88が設けられている。さらに、エンジン20には、エンジン20によって駆動される補機であるエアコンディショナ・コンプレッサ(以下「A/Cコンプレッサ」という)89、及び、オルタネータ90等が設けられている。
【0034】
ここで、上述したインジェクタ86は、ECU80によって開弁時間が制御されることにより、空気過剰率λが1.0の近傍、すなわちストイキオメトリ(以下、単に「ストイキ」という)領域でエンジン20を制御するストイキ制御と、空気過剰率λが1.0よりも大きい領域(すなわち、燃料量に対して空気量が過剰な領域)でエンジン20を制御するリーンバーン(希薄燃焼)制御とを切り替える。
【0035】
TGV87は、例えば、アクセル開度等に応じて開閉され、タンブル比(タンブル渦)を可変することにより、燃焼を改善するデバイスである。なお、TGV87の駆動(開閉)は、ECU80によって制御される。
【0036】
EGR88は、エンジン20から排出された排気ガスの一部を、エンジン20の吸気系に還流(再循環)させるデバイスである。EGR88は、エンジン20の排気管と吸気管とを連通するEGR配管(図示省略)、及び、該EGR配管上に介装され、排気ガス還流量(EGR流量)を調節するEGRバルブ(以下、EGRバルブ88という)を有している。EGRバルブ88は、ECU80によって開度が制御される。なお、EGRバルブ88には、負圧式のものの他、ステッピングモータ等により駆動される形式のものを用いることができる。
【0037】
A/Cコンプレッサ89は、エンジン20により駆動されて冷媒を圧縮する。A/Cコンプレッサ89としては、圧縮する冷媒の量を変化させることができる可変容量コンプレッサを用いることが好ましい。ここで、エンジン20のクランク軸の一方の端部に取り付けられたプーリ(図示省略)には、駆動力を伝達するベルトが掛けられており、該ベルトを介してA/Cコンプレッサ89が駆動可能に接続されている。A/Cコンプレッサ89の稼働・停止(又は、吐出量の可変)は、ECU80によって制御される。なお、A/Cコンプレッサ89の制御は、ECU80に代えて、専用のA/C ECUを用いる構成としてもよい。
【0038】
オルタネータ90は、エンジン20により駆動されて発電する発電機である。オルタネータ90は、AWD車5の電気負荷に応じて発電量を可変できる可変電圧オルタネータである。なお、オルタネータ90の発電量の切替は、ECU80によって制御される。
【0039】
エンジン20の出力軸(クランク軸)21には、クラッチ機能とトルク増幅機能を持つトルクコンバータ22、及び前後進切換機構27を介して、エンジン20からの駆動力を変換して出力するCVT30(特許請求の範囲に記載の自動変速機に相当)が接続されている。
【0040】
トルクコンバータ22は、主として、ポンプインペラ23、タービンランナ24、及びステータ25から構成されている。出力軸21に接続されたポンプインペラ23がオイルの流れを生み出し、ポンプインペラ23に対向して配置されたタービンランナ24がオイルを介してエンジン20の動力を受けて出力軸を駆動する。両者の間に位置するステータ25は、タービンランナ24からの排出流を整流し、ポンプインペラ23に還元することでトルク増幅作用を発生させる。
【0041】
また、トルクコンバータ22は、入力と出力とを直結状態にするロックアップクラッチ26を有している。トルクコンバータ22は、ロックアップクラッチ26が非ロックアップ状態のときはエンジン20の駆動力をトルク増幅してCVT30に伝達し、ロックアップクラッチ26がロックアップ時はエンジン20の駆動力をCVT30に直接伝達する。トルクコンバータ22を構成するタービンランナ24の回転数(タービン回転数)は、タービン回転センサ94により検出される。検出されたタービン回転数は、後述するトランスミッション・コントロールユニット(以下「TCU」という)70に出力される。
【0042】
前後進切替機構27は、駆動輪10(左前輪10FL,右前輪10FR,左後輪10RL,右後輪10RR)の正転と逆転(AWD車5の前進と後進)とを切り替えるものである。前後進切替機構27は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列、前進クラッチ28及び後進ブレーキ29を備えている。前後進切替機構27では、前進クラッチ28及び後進ブレーキ29それぞれの状態を制御することにより、エンジン駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。
【0043】
CVT30は、前後進切替機構27を介してトルクコンバータ22のタービン軸と接続されるプライマリ軸32と、該プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸37とを有している。プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、プライマリ軸32に接合された固定プーリ34aと、該固定プーリ34aに対向して、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ34bとを有し、それぞれのプーリ34a,34bのコーン面間隔、すなわちプーリ溝幅を変更できるように構成されている。一方、セカンダリ軸37には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、セカンダリ軸37に接合された固定プーリ35aと、該固定プーリ35aに対向して、セカンダリ軸37の軸方向に摺動自在に装着された可動プーリ35bとを有し、プーリ溝幅を変更できるように構成されている。
【0044】
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。プライマリプーリ34及びセカンダリプーリ35の溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き掛け径の比率(プーリ比)を変化させることにより、変速比が無段階に変更される。ここで、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き掛け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き掛け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。よって、変速比iは、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより求められる。
【0045】
ここでプライマリプーリ34の可動シーブ34bには油圧室34cが形成されている。一方、セカンダリプーリ35の可動シーブ35bには油圧室35cが形成されている。プライマリプーリ34、セカンダリプーリ35それぞれの溝幅は、プライマリプーリ34の油圧室34cに導入されるプライマリ油圧と、セカンダリプーリ35の油圧室35cに導入されるセカンダリ油圧とを調節することにより設定・変更される。
【0046】
CVT30のセカンダリ軸37は、対を成すリダクションドライブギヤ、リダクションドリブンギヤからなるリダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39につながれており、CVT30で変換された駆動力は、リダクションギヤ38を介して、カウンタ軸39に伝達される。カウンタ軸39は、対を成すカウンタドライブギヤ、カウンタドリブンギヤからなるカウンタギヤ40を介して、フロントドライブシャフト43につながれている。カウンタ軸39に伝達された駆動力は、カウンタギヤ40、及び、フロントドライブシャフト43を介してフロントディファレンシャル(以下「フロントデフ」という)44に伝達される。フロントデフ44は、例えば、ベベルギヤ式の差動装置である。フロントデフ44からの駆動力は、左前輪ドライブシャフト45Lを介して左前輪10FLに伝達されるとともに、右前輪ドライブシャフト45Rを介して右前輪10FRに伝達される。
【0047】
一方、上述したカウンタ軸39上のカウンタギヤ40の後段には、リヤディファレンシャル(以下「リヤデフ」という)47に伝達される駆動力を調節するトランスファクラッチ41が介装されている。トランスファクラッチ41は、4輪の駆動状態例えば前輪10FL,10FRのスリップ状態等やエンジントルクなどに応じて締結力すなわち後輪(従駆動輪)10RL,10RRへのトルク分配率が制御される。よって、カウンタ軸39に伝達された駆動力は、トランスファクラッチ41の締結力に応じて分配され、後輪10RL,10RR側にも伝達される。
【0048】
より具体的には、カウンタ軸39の後端は、対を成すトランスファドライブギヤ、トランスファドリブンギヤからなるトランスファギヤ42を介して、車両後方へ延在するプロペラシャフト46とつながれている。よって、カウンタ軸39に伝達され、トランスファクラッチ41によって分配された駆動力は、トランスファギヤ42から、プロペラシャフト46を介してリヤデフ47に伝達される。
【0049】
リヤデフ47には左後輪ドライブシャフト48L及び右後輪ドライブシャフト48Rが接続されている。リヤデフ47からの駆動力は、左後輪ドライブシャフト48Lを介して左後輪10RLに伝達されるとともに、右後輪ドライブシャフト48Rを介して右後輪10RRに伝達される。
【0050】
上述したようにパワートレインの駆動力伝達系が構成されることにより、例えば、セレクトレバーがDレンジに操作された場合には、エンジン駆動力がCVT30のプライマリ軸32に入力される。CVT30により変換された駆動力は、セカンダリ軸37から出力され、リダクションギヤ38、カウンタ軸39、カウンタギヤ40を介してフロントドライブシャフト43に伝達される。そして、フロントデフ44によって駆動力が左右に分配され、左右の前輪10FL,10FRに伝達される。したがって、左右の前輪10FL,10FRは、AWD車5が走行状態にあるときには、常に駆動される。
【0051】
一方、カウンタ軸39に伝達された駆動力の一部は、トランスファクラッチ41、及びトランスファギヤ42を介してプロペラシャフト46に伝達される。ここで、トランスファクラッチ41に所定のクラッチトルクが付与されると、そのクラッチトルクに応じて分配された駆動力がプロペラシャフト46に出力される。そして、リヤデフ47を介して駆動力が後輪10RL,10RRにも伝達される。これにより、AWD車5では、FFベースのパートタイム式AWD車としての機能が発揮される。
【0052】
各車輪10FR~10RR(以下、すべての車輪10FR~19RRを総称して車輪10ということもある)それぞれには、車輪10FR~10RRを制動するブレーキ11FR~11RR(以下、すべてのブレーキ11FR~11RRを総称してブレーキ11ということもある)が取り付けられている。また、各車輪10FR~10RRそれぞれには、車輪回転速度を検出する車輪速センサ12FR~12RR(以下、すべての車輪速センサ12FR~12RRを総称して車輪速センサ12ということもある)が取り付けられている。
【0053】
車輪速度センサ12は、車輪10とともに回転するロータによる磁界の変化を検出する非接触型センサであり、例えば、ロータ回転をホール素子やMR素子で検出する半導体方式が好適に用いられる。
【0054】
CVT30を変速させるための油圧、すなわち、上述したプライマリ油圧及びセカンダリ油圧は、バルブボディ(コントロールバルブ)60によってコントロールされる。バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブを用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ62から吐出された油圧を調節して、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する。同様に、バルブボディ60は、スプールバルブと該スプールバルブを動かすソレノイドバルブ61を用いてバルブボディ60内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ62から吐出された油圧を調節して、トランスファクラッチ41に各クラッチを締結/解放するための油圧を供給する。ここで、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節するソレノイドバルブ61としては、例えば、印加電圧のデューティ比に応じて駆動量を制御できるデューティソレノイドなどが用いられる。
【0055】
CVT30の変速制御は、TCU70によって実行される。すなわち、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブの駆動を制御することにより、プライマリプーリ34の油圧室34c及びセカンダリプーリ35の油圧室35cに供給する油圧を調節して、CVT30の変速比を変更する。同様に、TCU70は、上述したバルブボディ60を構成するソレノイドバルブ61の駆動を制御することにより、トランスファクラッチ41に供給する油圧を調節して、後輪10RL,10RRへ伝達される駆動力の分配比率を調節する。
【0056】
上述したように、CVT30の変速制御及びトランスファクラッチ41の締結・解放制御(駆動力配分制御)などはTCU70によって実行される。ここで、TCU70には、例えばCAN(Controller Area Network)100を介して、エンジン20を総合的に制御するECU80等と相互に通信可能に接続されている。
【0057】
TCU70、及び、ECU80は、それぞれ、例えば、演算を行うマイクロプロセッサ、該マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するEEPROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、バッテリによってその記憶内容が保持されるバックアップRAM、及び、入出力I/F等を有して構成されている。
【0058】
ECU80は、インジェクタ86を駆動するインジェクタドライバ、点火信号を出力する出力回路、電子制御式スロットルバルブ85を開閉する電動モータを駆動するモータドライバ、TGV87を駆動するドライバ、及び、EGRバルブ88を駆動するドライバ等を備えている。ECU80では、カム角センサ81の出力から気筒が判別され、クランク角センサ82の出力によって検出されたクランクシャフトの回転位置の変化からエンジン回転数が求められる。また、ECU80では、上述した各種センサから入力される検出信号に基づいて、吸入空気量、アクセルペダル開度、混合気の空燃比、及び水温等の各種情報が取得される。そして、ECU80は、取得したこれらの各種情報に基づいて、燃料噴射量や点火時期、並びに、スロットルバルブ85、TGV87、EGRバルブ88等の各種デバイスを制御することによりエンジン20を総合的に制御する。さらに、ECU80は、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90等のデバイスの駆動を制御する。
【0059】
また、ECU80は、CAN100を介して、アクセルペダル開度、エンジン回転数、及び、エンジン軸トルク等の各種情報をTCU70に送信する。さらに、ECU80は、CAN100を介して、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88の現在の駆動状態を示す情報、並びに、今後の駆動予定・要求(例えば、開閉や開弁時間(ストイキ/リーン)の変更予定・要求)を示す情報、及び、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90の現在の駆動状態を示す情報、及び、今後の駆動予定・要求(例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求)を示す情報等をTCU70に送信する。
【0060】
TCU70には、上述したタービン回転センサ94に加えて、CVT30の油温を検出する油温センサ91、セカンダリ軸37の回転数を検出するセカンダリ軸回転センサ92、シフトレバーの選択位置を検出するレンジスイッチ93等が接続されている。なお、セカンダリ軸回転センサ92は、特許請求の範囲に記載の車速検出手段として機能する。
【0061】
また、上述したように、TCU70は、CAN100を介して、ECU80から、アクセルペダル開度、エンジン回転数、及び、エンジン軸トルク(出力トルク)等の情報を受信する。さらに、TCU70は、CAN100を介して、ECU80から、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88の現在の駆動状態を示す情報、並びに、今後の駆動予定・要求(例えば、開閉や開弁時間(ストイキ/リーン)の変更予定・要求)を示す情報、及び、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90の現在の駆動状態を示す情報、及び、今後の駆動予定・要求(例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求)を示す情報等を受信する。
【0062】
TCU70は、変速マップに従い、AWD車5の運転状態(例えばアクセル開度及び車速等)に応じて自動で変速比を無段階に変速する。なお、変速マップはTCU70内のEEPROM等に格納されている。
【0063】
また、TCU70は、上述した各種センサ等から取得した各種情報に基づいて、トランスファクラッチ制御(駆動力配分制御)を実行する。ところで、例えば、TGV87の開閉等の制御デバイスの急峻な動作による過渡的なエンジントルク変動が、例えば、ロックアップダンパ(図示省略)やドライブシャフト43,45,48などをバネとする駆動系ねじり共振を励起し、その駆動系共振とタイヤ回転1次とが重なる又は近接すると、前後G振動の強度が増幅されることによって、ユサユサとした車体振動が生じることがある。
【0064】
そこで、TCU70は、燃費や、応答性、コスト等を犠牲にすることなく、駆動系全系3が持つ固有値(共振周波数、例えば数Hz程度)に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の発生を防止する機能を有している。そのため、TCU70は、変速比取得部71、トルク段差発生予測部72、及び、トランスファクラッチ制御部73を機能的に有している。TCU70では、EEPROM等に記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることにより、変速比取得部71、トルク段差発生予測部72、及び、トランスファクラッチ制御部73の各機能が実現される。
【0065】
変速比取得部71は、CVT30の変速比を取得する。すなわち、変速比取得部71は、特許請求の範囲に記載の変速比取得手段として機能する。より具体的には、変速比取得部71は、プライマリプーリ回転数Npをセカンダリプーリ回転数Nsで除算する(i=Np/Ns)ことにより変速比iを求める。なお、取得された変速比は、トルク段差発生予測部72に出力される。
【0066】
トルク段差発生予測部72は、エンジン20(駆動力源)から出力され、駆動系全系3に入力されるトルクに段差すなわち、急峻な変動が生じるか否を予測する。すなわち、トルク段差発生予測部72は、特許請求の範囲に記載のトルク段差発生予測手段として機能する。その際に、トルク段差発生予測部72は、例えば、エンジン20から出力され、駆動系全系3に入力されるトルクに段差を生じさせ得るデバイスの駆動状態が可変されると予測された際に、トルクに段差が生じると予測する。
【0067】
ここで、上記デバイスは、エンジン20の出力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、本実施形態では、上述した、インジェクタ86、TGV87、及び、EGRバルブ88が該当する。また、上記デバイスは、エンジン20によって駆動され、駆動系全系3への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスであり、本実施形態では、上述した、A/Cコンプレッサ89、及び、オルタネータ90が該当する。
【0068】
より具体的には、トルク段差発生予測部72は、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88の駆動予定・要求(例えば、開閉や開弁時間(ストイキ/リーン)の変更予定・要求)を示す情報、及び、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90の駆動予定・要求(例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求)を示す情報に基づいて、駆動系全系3に入力されるトルクに段差すなわち、急峻な変動が生じるか否を予測する。すなわち、トルク段差発生予測部72は、インジェクタ86の開弁時間が変更されることが予定される場合に、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測する。また、トルク段差発生予測部72は、TGV87が、例えば、閉弁状態から開弁状態に、又は、開弁状態から閉状態に駆動されることが予定される場合に、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測する。同様に、トルク段差発生予測部72は、EGRバルブ88のバルブ開度が変更されることが予定される場合に、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測する。
【0069】
また、トルク段差発生予測部72は、A/Cコンプレッサ89が、例えば、停止状態から稼働状態に、又は、可動状態から停止状態にされる場合或は、容量が可変される場合に、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測する。さらに、トルク段差発生予測部72は、オルタネータ90の発電量が変更又は切り替えられることが予定される場合に、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測する。なお、トルクに段差が生じるか否かの予測結果は、トランスファクラッチ制御部73に出力される。
【0070】
トランスファクラッチ制御部73は、AWD車5の運転状態(例えば、4輪の駆動状態やエンジントルク等)に基づいて、トランスファクラッチ41の締結力(すなわち後輪10RL,10RRへの駆動力分配率)をリアルタイムに制御する。すなわち、トランスファクラッチ制御部73は、特許請求の範囲に記載のクラッチ制御手段として機能する。
【0071】
特に、トランスファクラッチ制御部73は、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり(すなわち、タイヤの回転1次と駆動系全系3の共振周波数が重なっており又は近接しており、車体振動が発生し得る走行状態であり)、かつ、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、トランスファクラッチ41を解放するように油圧を調節する。
【0072】
その際に、すなわち、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり、かつ、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、トランスファクラッチ制御部73は、デバイス(本実施形態では、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90)の駆動状態が変更される前に予め、トランスファクラッチ41を解放する。
【0073】
また、トランスファクラッチ制御部73は、トランスファクラッチ41を解放した場合には、その後、すなわち、トランスファクラッチ41を解放した後に上記デバイスの駆動を許可する。すなわち、トランスファクラッチ制御部73は、トランスファクラッチ41が解放されるまでは上記デバイスの駆動を待機状態にする。さらに、トランスファクラッチ制御部73は、上記デバイスの駆動が許可され、上記デバイスが駆動された後、トランスファクラッチ41を締結する(すなわち、通常制御に戻る)。
【0074】
ただし、例えば、氷結路やスプリットμ路等の全輪駆動での走行性能が求められる状況では、全輪駆動での走行性能を優先して確保するため、トランスファクラッチ制御部73は、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり、かつ、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合であっても、トランスファクラッチ41の解放を禁止する。すなわち、トランスファクラッチ制御部73は、二輪駆動にしてもよい走行状況のときにのみトランスファクラッチ41を解放する。
【0075】
次に、
図2を参照しつつ、全輪駆動車の制御装置1の動作について説明する。
図2は、全輪駆動車の制御装置1による車体振動防止処理の処理手順を示すフローチャートである。本処理は、主としてTCU70において、所定のタイミングで繰り返して実行される。なお、ここでは、トランスファクラッチ41が締結されており、かつ、トランスファクラッチ41を解放可能な走行状況すなわち、二輪駆動にしてもよい走行状況であるとする。
【0076】
ステップS100では、セカンダリ軸回転センサ92の出力によって検出された出力軸37の回転位置の変化から車速が求められる。続くステップS102では、プライマリプーリ回転数Npがセカンダリプーリ回転数Nsで除算される(i=Np/Ns)ことにより変速比iが求められる。
【0077】
次に、ステップS104では、車速が所定範囲内であり、かつ、変速比が所定範囲内であるか否かについての判断が行われる。ここで、双方の条件が満足された場合(すなわち、タイヤの回転1次と駆動系全系3の共振周波数が重なっており又は近接しており、車体振動が発生し得る走行状態の場合)には、ステップS106に処理が移行する。一方、いずれかの条件、又は、双方の条件が満足されなかった場合には、本処理から一旦抜ける。
【0078】
ステップS106では、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88の駆動予定・要求(例えば、開閉や開弁時間(ストイキ/リーン)の変更予定・要求)を示す情報、及び、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90の駆動予定・要求(例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求)を示す情報が取得される。
【0079】
続いて、ステップS108では、ステップS106において取得されたインジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88の駆動予定・要求を示す情報、及び、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90の駆動予定・要求を示す情報に基づいて、駆動系全系3に入力されるトルクに段差すなわち、急峻な変動が生じるか否かについての予測が行われる。なお、トルク段差の予測方法については、上述したとおりであるので、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0080】
次に、ステップS110では、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測されたか否かについての判断が行われる。ここで、トルクに段差が生じると予測された場合には、ステップS112に処理が移行する。一方、トルクに段差が生じると予測されなかったときには、本処理から一旦抜ける。
【0081】
ステップS112では、トランスファクラッチ41が解放される。なお、トランスファクラッチ41の解放が完了するまでの間、デバイス(インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88、A/Cコンプレッサ89、及び/又は、オルタネータ90)の駆動状態の変更が禁止される。その後、すなわち、トランスファクラッチ41の解放が完了した後、ステップS114では、トランスファクラッチ41の解放が完了するまで駆動状態の変更が禁止されていたデバイス(インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88、A/Cコンプレッサ89、及び/又は、オルタネータ90)の駆動が許可される。
【0082】
続いて、ステップS116では、ステップS114において駆動が許可されたデバイスの駆動が完了したか否かについての判断が行われる。ここで、デバイスの駆動が完了していない場合には、該デバイスの駆動が完了するまで、本ステップが繰り返して実行される。一方、デバイスの駆動が完了したときには、ステップS118に処理が移行する。
【0083】
ステップS118では、トランスファクラッチ41が締結される(すなわち、通常制御に戻る)。その後、本処理から一旦抜ける。
【0084】
なお、上述したフローチャートに代えて、又は、加えて、
図3に示されるフローチャートに従い車体振動防止処理を実行してもよい。ここで、
図3は、第2制御形態に係る車体振動防止処理の処理手順を示すフローチャートである。より具体的には、
図3に示されるように、車速が所定速度範囲内であり、かつ、変速比が所定変速比範囲内である場合(ステップS204が肯定された場合)、すなわち、例えば、タイヤの回転1次と駆動系全系3の共振周波数が重なっているとき又は近接しているときに、トランスファクラッチ41を解放する(ステップS206)ようにしてもよい。その場合に、車速の条件(所定速度範囲)、及び、変速比の条件(所定変速比範囲)それぞれは、
図2に示されたフローチャートの場合と異なっていてもよいし、同じであってもよい。ただし、双方の条件が同じ場合には、
図2に示されたフローチャートのステップS106以降の処理は不要となる。なお、その他の処理内容は、
図2に示されたフローチャートの処理内容と同一であるので、ここでは詳細な説明を省略する。
【0085】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によれば、エンジン20から出力され、駆動系全系3に入力されるトルクに段差すなわち急峻な変動が生じるか否かが予測され、車速が所定範囲内であり、変速比が所定範囲内であり、かつ、駆動系全系3に入力されるトルクに段差が生じると予測された場合に、トランスファクラッチ41が解放される。トランスファクラッチ41が解放されて、トランスファクラッチ41の上流側の駆動系と下流側の駆動系とが切り離されることにより、駆動系全系3の構成要素が変化し、駆動系全系3の共振周波数が変化する。そのため、駆動系全系3の共振が防止され、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することができる。また、この場合、トランスファクラッチ41の制御のみで車体振動の発生を防止できる。その結果、燃費や、応答性、コスト等を犠牲にすることなく、駆動系全系3が持つ共振周波数に起因し、乗員に違和感を与え得る車体振動の発生を防止することが可能となる。
【0086】
本実施形態によれば、エンジン20から出力され、駆動系全系3に入力されるトルクに段差を生じさせ得るデバイス(本実施形態では、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90)の駆動状態から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。また、当該デバイスが駆動される前(すなわち、トルクに段差が生じる前)にトランスファクラッチ41が解放されるため、確実に駆動系全系3の共振を回避することができる。
【0087】
本実施形態によれば、エンジン20の出力トルク変動を生じさせ得るデバイスである、インジェクタ86、TGV87、及び、EGRバルブ88のうち、少なくともいずれか一つの駆動予定・要求(例えば、開閉や開弁時間の変更予定・要求)から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。
【0088】
また、本実施形態によれば、エンジン20によって駆動され、駆動系全系3への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスである、A/Cコンプレッサ89、及び、オルタネータ90のうち、少なくともいずれか一つの駆動予定・要求、例えば、稼働・停止や発電電圧切替の予定・要求から、トルクに段差が生じるか否かを予測することができる。
【0089】
本実施形態によれば、トランスファクラッチ41が解放された後にデバイスの駆動が許可される。すなわち、トランスファクラッチ41が解放されるまではトルク段差を生じさせ得るデバイスの駆動が待機状態にされる。そのため、確実に車体振動を防止することが可能となる。
【0090】
本実施形態によれば、全輪駆動であることが求められる走行状況のときには、トランスファクラッチ41の解放が禁止される。すなわち、二輪駆動にしてもよい走行状況のときにのみトランスファクラッチ41が解放される。そのため、例えば、氷結路やスプリットμ路等の全輪駆動での走行性能が求められる状況では、全輪駆動での走行性能を優先して確保することができる。
【0091】
なお、車速が所定速度範囲内であり、かつ、変速比が所定変速比範囲内である場合に、トランスファクラッチ41を解放する構成とした場合、タイヤの回転1次と駆動系全系3の共振周波数が重なっており又は近接しており、車体振動が発生し得る走行状態のときに、トランスファクラッチ41が解放される。この場合、駆動系全系3に入力されるトルクに段差すなわち急峻な変動が生じるか否かを予測する必要がないため、ECU80の処理負荷を低減しつつ、駆動系全系3の共振を回避して、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することができる。
【0092】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、駆動系全系3の共振周波数を変えて車体振動を防止するために、トランスファクラッチ41を制御(解放)したが、トランスファクラッチ41の解放に代えて、トルクコンバータ22のロックアップクラッチ26を制御(解放)する構成としてもよい。また、トランスファクラッチ41の解放に代えて、又は、加えて、CVT30の変速比を変更(OD側に変更)する構成としてもよい。このような構成とした場合も、駆動系全系3の共振周波数を変化させることができるため、乗員に違和感を与える車体振動の発生を防止することが可能となる。
【0093】
また、上記実施形態では、エンジン20の出力トルク変動を生じさせ得るデバイスとして、インジェクタ86、TGV87、EGRバルブ88を挙げ、エンジン20によって駆動され、駆動系全系3への入力トルク変動を生じさせ得るデバイスとして、A/Cコンプレッサ89、オルタネータ90を挙げたが、これらのデバイスは例示であり、他のデバイスを用いてもよい。また、用いるデバイスは、いずれか一つでもよいし、任意に組み合わせてもよい。
【0094】
上記実施形態では、自動変速機としてチェーン式の無段変速機を例にして説明したが、チェーン式の無段変速機に代えて、例えば、ベルト式の無段変速機や、トロイダル式の無段変速機を用いてもよい。また、無段変速機に代えて、有段自動変速機(ステップAT)などを用いることもできる。
【0095】
また、上述した駆動系全系3の構成(例えばギヤや軸等の配置等)は一例であり、上記実施形態には限られない。さらに、上記実施形態では、油圧を調節するソレノイドバルブとして、デューティソレノイドを用いたが、デューティソレノイドに代えて、例えばリニアソレノイドなどを用いることもできる。
【0096】
また、上記実施形態では、トランスファクラッチ41の制御をTCU70によって行ったが、TCU70から独立した専用のAWDコントローラによって制御する構成としてもよい。さらに、システム構成は、上記実施形態には限られない。
【符号の説明】
【0097】
1 全輪駆動車の制御装置
3 駆動力伝達系(駆動系全系)
5 AWD車
10FL,10FR,10RL,10RR 車輪
20 エンジン
22 トルクコンバータ
26 ロックアップクラッチ
27 前後進切替機構
30 無段変速機(CVT)
32 プライマリ軸
34 プライマリプーリ
35 セカンダリプーリ
36 チェーン
37 セカンダリ軸
38 リダクションギヤ
41 トランスファクラッチ
60 コントロールバルブ(バルブボディ)
61 ソレノイドバルブ
70 TCU
71 変速比取得部
72 トルク段差発生予測部
73 トランスファクラッチ制御部
80 ECU
81 カム角センサ
82 クランク角センサ
83 スロットル開度センサ
84 アクセル開度センサ
85 電子制御式スロットルバルブ
86 インジェクタ
87 タンブルジェネレータバルブ(TGV)
88 EGRバルブ
89 エアコンディショナ・コンプレッサ
90 オルタネータ
91 油温センサ
92 セカンダリ軸回転センサ
93 レンジスイッチ
94 タービン回転センサ
100 CAN