(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】焼結摩擦材及び焼結摩擦材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231212BHJP
F16D 69/00 20060101ALI20231212BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C09K3/14 520G
C09K3/14 520Z
F16D69/00 R
F16D69/02 F
(21)【出願番号】P 2019174044
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2018205687
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁平 麻里奈
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正規
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】上野 敦
(72)【発明者】
【氏名】高田 恵里
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-348379(JP,A)
【文献】特開平11-080855(JP,A)
【文献】特開2008-214727(JP,A)
【文献】特開2017-057312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C22C 33/02
F16D 69/02
F16D 13/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅成分の含有量が0.5質量%以下であり、
マトリックスとして、銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有し、
前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%であ
り、
前記チタン酸塩がチタン酸複合塩を含有する、焼結摩擦材。
【請求項2】
前記
チタン酸複合塩が、チタン酸リチウムカリウム及びチタン酸マグネシウムカリウム
の少なくとも一方を含有する、請求項
1に記載の焼結摩擦材。
【請求項3】
前記チタン酸塩が、チタン酸アルカリ金属塩
およびチタン酸アルカリ土類金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を
さらに含有する、請求項1
または2に記載の焼結摩擦材。
【請求項4】
前記チタン酸アルカリ金属塩が、チタン酸カリウムおよびチタン酸ナトリウムの少なくとも一方を含み、
前記チタン酸アルカリ土類金属塩が、チタン酸カルシウムを含む、請求項3に記載の焼結摩擦材。
【請求項5】
前記銅以外の金属材料が鉄系材料を含有し、前記鉄系材料の含有量が8.0~32.0体積%である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の焼結摩擦材。
【請求項6】
前記銅以外の金属材料がさらにタングステンを含有し、タングステンの含有量が1.0~15.0体積%である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の焼結摩擦材。
【請求項7】
焼結摩擦材の製造方法であって、
銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有する原材料を混合する混合工程、
前記混合工程で混合された原材料を成形する成形工程、及び
前記成形工程で成形された成形体を900~1300℃で焼結する焼結工程を有し、
前記焼結摩擦材は、前記銅以外の金属材料及び前記チタン酸塩がマトリックスを構成し、前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%であ
り、
前記チタン酸塩がチタン酸複合塩を含有する、焼結摩擦材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結摩擦材及び焼結摩擦材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、銅成分を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅成分を含み、河川、湖、海洋等の汚染の原因となる可能性が示唆されている。そのため、銅成分を含有する摩擦材の使用を制限する動きが高まっており、銅成分の含有量が少量でも摩擦作用に優れた摩擦材が求められている。
【0003】
例えば、本出願人は、特許文献1において、セラミックスをマトリックスとする摩擦材であって、炭素材料を含有する摩擦材を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の焼結摩擦材においては、初速度50km/hでの摩擦試験を行なっているが、それ以上の高速度域での評価は検討されていない。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、環境対応摩擦材として銅成分含有量が一定量以下の焼結摩擦材であって、高速度域での十分な摩擦性能を有する焼結摩擦材を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、焼結摩擦材のマトリックスを銅以外の金属材料及びチタン酸塩とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記<1>~<6>に関するものである。
<1>銅成分の含有量が0.5質量%以下であり、
マトリックスとして、銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有し、
前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%である、焼結摩擦材。
<2>前記チタン酸塩が、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩及びチタン酸複合塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を含有する、<1>に記載の焼結摩擦材。
<3>前記チタン酸塩が、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸リチウムカリウム及びチタン酸マグネシウムカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の塩を含有する、<1>又は<2>に記載の焼結摩擦材。
<4>前記銅以外の金属材料が鉄系材料を含有し、前記鉄系材料の含有量が8.0~32.0体積%である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の焼結摩擦材。
<5>前記銅以外の金属材料がさらにタングステンを含有し、タングステンの含有量が1.0~15.0体積%である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の焼結摩擦材。
<6>焼結摩擦材の製造方法であって、
銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有する原材料を混合する混合工程、
前記混合工程で混合された原材料を成形する成形工程、及び
前記成形工程で成形された成形体を900~1300℃で焼結する焼結工程を有し、
前記焼結摩擦材は、前記銅以外の金属材料及び前記チタン酸塩がマトリックスを構成し、前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%である、焼結摩擦材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、環境に優しく、高速度域においても十分な摩擦性能を有する焼結摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
【0011】
[焼結摩擦材]
本発明の焼結摩擦材は、銅成分の含有量が0.5質量%以下であり、マトリックスとして、銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有し、前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%であることを特徴とする。
【0012】
<マトリックス>
本発明において、「マトリックス」とは、摩擦材の主骨格となるものを意味する。
【0013】
(銅以外の金属材料)
本発明の焼結摩擦材は、マトリックスとして、銅以外の金属材料(以下、単に「金属材料」と称することがある。)を10.0~34.0体積%含有する。
【0014】
本発明の焼結摩擦材中の金属材料の含有量が10.0体積%未満であると、焼結摩擦材と焼結摩擦材の相手材間での、金属材料同士の凝着力が小さくなり、十分な凝着摩擦力が得られないおそれがある。よって、金属材料の含有量が10.0体積%未満であると、本発明の焼結摩擦材に、高速度域で十分な摩擦係数μを与えることができないおそれがある。
【0015】
金属材料の含有量は、摩擦性能向上の観点から、12.5体積%以上が好ましく、14.0体積%以上がより好ましい。
【0016】
また、金属材料の含有量が34.0体積%より大きいと、金属材料の焼結摩擦材の相手材への移着量が多くなってしまうおそれがある。金属材料の移着量が多くなると、本発明の焼結摩擦材の強度が下がり、耐摩耗性が低くなるおそれがある。
【0017】
金属材料の含有量は、耐摩耗性向上の観点から、32.0体積%以下が好ましく、30.0体積%以下がより好ましい。
【0018】
金属材料としては、例えば、鉄系材料、タングステン、錫、錫合金、チタン、アルミニウム、ケイ素、亜鉛及びFe-Al金属間化合物等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0019】
これら金属材料の中でも、焼結摩擦材の摩擦性能向上の観点から、鉄系材料、タングステン及び錫が好ましい。
【0020】
金属材料が鉄系材料を含有する場合、本発明の焼結摩擦材中の鉄系材料の含有量は、8.0~32.0体積%が好ましく、10.5~30.0体積%がより好ましく、12.0~30.0体積%がさらに好ましい。
【0021】
鉄系材料の含有量が8.0体積%以上であると、本発明の焼結摩擦材の摩擦性能をより高くすることができる。鉄系材料の含有量が32.0体積%以下であると、鉄系材料の焼結摩擦材の相手材への移着に伴う、耐摩耗性の低下を抑制することができる。
【0022】
鉄系材料としては、例えば、鉄並びにスチール及びステンレス等の鉄を含む合金等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0023】
金属材料がタングステンを含有する場合、本発明の焼結摩擦材中のタングステンの含有量は、1.0~15.0体積%が好ましく、2.0~13.0体積%がより好ましく、3.0~11.0体積%がさらに好ましい。
【0024】
タングステンの含有量が1.0体積%以上であると、本発明の焼結摩擦材の耐摩耗性を向上させることができる。タングステンの含有量が15.0体積%以下であると、本発明の焼結摩擦材の強度を確保することができる。
【0025】
金属材料が錫を含有する場合、本発明の焼結摩擦材中の錫の含有量は、5.0体積%以下が好ましく、4.0体積%以下がより好ましく、3.0体積%以下がさらに好ましい。
【0026】
錫の含有量が5.0体積%より多くなると、本発明の焼結摩擦材の均質性が低下するおそれがある。
【0027】
また、金属材料の形状としては、例えば、粉末状、繊維状等を挙げることができる。
【0028】
(チタン酸塩)
本発明の焼結摩擦材は、マトリックスとして、チタン酸塩を含有する。チタン酸塩は高い耐摩耗性等を有する化合物であり、焼結摩擦材の耐摩耗性等を高めることに寄与する。
【0029】
なお、例えば、樹脂をマトリックスとする摩擦材が、チタン酸塩を充填材として含む場合、上記摩擦材を製造する際の加熱温度は低い。そのため、樹脂をマトリックスとする摩擦材の場合、チタン酸塩は充填材として混合したときの形状のまま摩擦材内に留まることになる。一方、本発明の焼結摩擦材においては、チタン酸塩が焼結した状態であり、マトリックスを形成している。
【0030】
摩擦材中に充填材として含まれているチタン酸塩と、焼結摩擦材中にマトリックスとして含まれているチタン酸塩とは、SEM(Scanning Electron Microscope)観察等により明確に区別することが可能である。
【0031】
本発明の焼結摩擦材中のチタン酸塩の含有量は、8.0体積%以上が好ましく、10.0体積%以上がより好ましく、12.0体積%以上がさらに好ましい。
チタン酸塩の含有量が8.0体積%以上であると、チタン酸塩を含む原材料を成形及び焼結した際に、チタン酸塩が焼結されて、摩擦材のマトリックスを形成することができる。
【0032】
また、チタン酸塩の含有量は、60.0体積%以下が好ましく、58.0体積%以下がより好ましく、55.0体積%以下がさらに好ましい。
チタン酸塩の含有量が60.0体積%以下であると、研削材及び潤滑材等の摩擦材として必要な成分を十分に含有させることができる。
【0033】
また、チタン酸塩は鉄等の金属に比べて密度が低い。よって、本発明の焼結摩擦材は、鉄等の金属のみをマトリックスとする鉄系焼結摩擦材に比べて密度が低く、軽量である。
【0034】
チタン酸塩としては、例えば、チタン酸カリウム、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム等のチタン酸アルカリ金属塩、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム等のチタン酸アルカリ土類金属塩、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム等のチタン酸複合塩等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0035】
これらの中でも、耐熱性及び耐摩耗性の観点から、チタン酸カリウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウムが好ましい。
また、作業環境衛生を考慮すると、球状、板状、鱗片状、柱状等の、いわゆるウィスカー(繊維)状ではない形状のチタン酸塩が好ましい。
【0036】
<研削材>
本発明の焼結摩擦材は、研削材を含有することが好ましい。研削材を含有させることにより、本発明の焼結摩擦材に所望の摩擦性能を与えることができる。
【0037】
本発明の焼結摩擦材中の研削材の含有量は、25.0体積%以下が好ましく、23.0体積%以下がより好ましく、20.0体積%以下がさらに好ましい。
【0038】
研削材の含有量が25.0体積%以下であると、本発明の焼結摩擦材の相手材への攻撃性が高くなりすぎることを抑制しやすい。
【0039】
研削材としては、例えば、酸化クロム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、マグネシア、アルミナ、シリカ、ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、四三酸化鉄(Fe3O4)、クロマイト等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0040】
これらの中でも、研削性と相手材攻撃性のバランスの観点から、酸化クロム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、マグネシア、アルミナが好ましく、酸化クロム、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素がより好ましい。
【0041】
<潤滑材>
本発明の焼結摩擦材は、潤滑材を含有することが好ましい。潤滑材を含有させることにより、本発明の焼結摩擦材の相手材との焼き付きを防止し、本発明の焼結摩擦材の耐摩耗性を向上させることができる。
【0042】
本発明の焼結摩擦材中の潤滑材の含有量は、耐摩耗性の観点から、20.0~65.0体積%が好ましく、30.0~65.0体積%がより好ましく、35.0~65.0体積%がさらに好ましい。
【0043】
潤滑材としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、コークス、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化鉄、硫化亜鉛等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
これらの中でも、焼結性及び耐摩耗性の観点から、人造黒鉛、天然黒鉛、二硫化モリブデンが好ましい。
【0044】
<その他の成分>
本発明の焼結摩擦材は、上記の各種成分を含有すればよいが、上記成分以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、バーミキュライト、マイカ、ムライト、窒化珪素、ジルコンサンド等の無機充填材等が挙げられる。これらは各々単独で、または2種以上組み合わせて用いられる。
【0045】
<銅成分>
本発明の焼結摩擦材中の銅成分の含有量は、環境負荷低減の観点から、銅元素換算で0.5質量%以下である。また、本発明の焼結摩擦材は銅成分を含有しないことが好ましい。
【0046】
[焼結摩擦材の製造方法]
本発明の焼結摩擦材の製造方法は、
銅以外の金属材料及びチタン酸塩を含有する原材料を混合する混合工程、
前記混合工程で混合された原材料を成形する成形工程、及び
前記成形工程で成形された成形体を900~1300℃で焼結する焼結工程を有し、
前記焼結摩擦材は、前記銅以外の金属材料及び前記チタン酸塩がマトリックスを構成し、前記銅以外の金属材料の含有量が10.0~34.0体積%である。
【0047】
混合工程で用いる混合方法としては、原材料が均一に混合される限り、特に制限されることはなく公知の方法を利用することができる。例えば、必要に応じて原材料に適量の有機溶剤を添加し、原材料が均一に分散するように回転混合機等を用いて湿式混合する方法等を利用することができる。
【0048】
次に、混合工程で混合された原材料を成形する成形工程を行う。
成形工程では、一軸加圧成形、CIP成形(冷間静水圧成形)等の乾式成形法;射出成形、押出成形等の塑性成形法;泥漿鋳込み、加圧鋳込み、回転鋳込み等の鋳込み成形法;ドクターブレード法等のテープ成形法;冷間プレス等を適宜用いることができる。上記成形方法は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
成形工程における成形面圧は、成形性の観点から、300~900MPaが好ましい。
【0050】
次に、成形工程で成形された成形体を焼結する焼結工程を行う。
焼結工程では、ホットプレス法、雰囲気焼結法、反応焼結法、常圧焼結法、熱プラズマ焼結法等により成形体の焼結を行うことができる。
【0051】
焼結工程における焼結温度は、900~1300℃であり、好ましくは900~1250℃であり、より好ましくは900~1200℃である。焼結温度が900℃より低いとマトリックスが脆弱となるおそれがある。焼結温度が1300℃より高いと原材料の溶融が開始してしまうおそれがある。
【0052】
焼結工程における保持時間は、焼結性の観点から、30~180分が好ましい。
【0053】
また、焼結工程においては、成形体を加圧しながら焼結することが好ましい。その際の焼結面圧は、焼結性の観点から、1~18MPaが好ましい。
【0054】
なお、焼結工程は、マトリックスとなる金属材料及びチタン酸塩の種類、他の原材料の種類等によって、大気中又は窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等の還元性ガス中で行ってもよい。また、焼結工程は、真空中で行ってもよい。
【0055】
上記の工程を経て得られる焼結体に、必要に応じて、切削、研削、研摩等の処理を施すことにより、本発明の焼結摩擦材が製造される。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0057】
〔試験例1〕
<実施例1-1~1-8、比較例1-1~1-4>
表1に示す配合組成(体積%)の各原材料を、混合機を用いて混合した。得られた各原材料混合物を、成形面圧520MPaで冷間プレスにて成形した。
【0058】
得られた各成形体を黒鉛型に投入し、ホットプレス法で焼結させ、実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-4の焼結摩擦材を得た。
【0059】
なお、ホットプレス法での焼結条件は下記のとおりであった。
焼結面圧:3MPa
焼結温度:950℃
焼結保持時間:120分
【0060】
[摩擦性能評価]
実施例1-1~1-8及び比較例1-1~1-4の焼結摩擦材について、下記の試験条件で、JASO C406を参考にしたダイナモメータ試験を行い、各焼結摩擦材の摩耗量および摩擦係数μの平均値を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(試験条件)
ディスク有効半径:250mm
摩擦材面積:15.2cm2
シリンダ径:40.45mm
慣性:7kg・m2
【0062】
(摩耗量の評価方法)
ダイナモメータ試験終了後の焼結摩擦材の摩耗量をマイクロメータで測定した。
【0063】
(摩擦係数μの評価方法)
以下の試験条件にて摩擦係数μを測定した。
初速度:100km/h
押付圧力:1.0MPa~10.0MPa(1.0MPa刻み)
回数:各押付圧力で1回(合計10回)
制動ディスク温度:95℃
【0064】
また、上記測定結果を下記基準に基づき判定した。結果を表1に示す。
【0065】
(摩耗量)
○:焼結摩擦材の摩耗量が、6.50mm以下であった。
×:焼結摩擦材の摩耗量が、6.50mmより大きかった。
【0066】
(摩擦係数μの平均値)
○:摩擦係数μの平均値が、0.20以上であった。
×:摩擦係数μの平均値が、0.20未満であった。
【0067】
【0068】
表1の結果より、実施例1-1~1-8の焼結摩擦材は、高速度域においても十分な摩擦性能を有することが分かった。比較例1-1および比較例1-2の焼結摩擦材は、金属材料の含有量が本発明の範囲外である。比較例1-3の焼結摩擦材は、金属材料を全く含有せず、マトリックスとしては所定量のチタン酸塩のみを含有する。比較例1-4の焼結摩擦材は、金属材料の含有量が本発明の範囲外であり、チタン酸塩を全く含有しない。いずれの比較例における焼結摩擦材も実施例1-1~1-8の焼結摩擦材と比べ摩擦性能が劣ることが分かった。
【0069】
〔試験例2〕
<実施例2-1~2-9、比較例2-1>
表2に示す配合組成(体積%)の各原材料を、混合機を用いて混合した。得られた各原材料混合物を、成形面圧520MPaで冷間プレスにて成形した。
【0070】
得られた各成形体を黒鉛型に投入し、ホットプレス法で焼結させ、実施例2-1~2-9、比較例2-1の焼結摩擦材を得た。
【0071】
なお、ホットプレス法での焼結条件は下記のとおりであった。
焼結面圧:2MPa
焼結温度:950℃
焼結保持時間:120分
【0072】
[摩擦性能評価]
実施例2-1~2-9、比較例2-1の焼結摩擦材について、下記の試験条件でフェード試験を行い、各焼結摩擦材の摩耗量およびロータ摩耗量を測定した。結果を表2に示す。
【0073】
(試験条件)
初速度:240km/h
終速度:90km/h
減速度:8m/s2
1回目制動前ロータ温度:120℃
制動回数:25回(比較例2-1では19回)
インターバル:30秒
【0074】
(焼結摩擦材の摩耗量の評価方法)
フェード試験終了後の焼結摩擦材の摩耗量をマイクロメータで測定し、制動回数1回あたりの摩耗量に換算した。
【0075】
(ロータ摩耗量の評価方法)
フェード試験終了後のロータの摩耗量をマイクロメータで測定し、制動回数1回あたりの摩耗量に換算した。
【0076】
【0077】
表2の結果より、実施例2-1~2-9の焼結摩擦材は、高速度域においても十分な摩擦性能を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の焼結摩擦材は、銅成分の含有量が一定量以下の環境低負荷な摩擦材である。また、本発明の焼結摩擦材は、高速度域においても十分な摩擦性能を有する。
本発明の焼結摩擦材は、乗用車、商用車、二輪車、鉄道等の輸送機器全般や産業機械等のブレーキに用いることができる。