(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/29 20060101AFI20231212BHJP
H01Q 1/22 20060101ALI20231212BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20231212BHJP
A63F 7/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01Q21/29
H01Q1/22 A
H01Q13/08
A63F7/02 334
(21)【出願番号】P 2019187707
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000113665
【氏名又は名称】マスプロ電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】横井 浩二
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-196705(JP,A)
【文献】特開2000-312112(JP,A)
【文献】特開2000-091842(JP,A)
【文献】実開平07-025608(JP,U)
【文献】特開平08-056116(JP,A)
【文献】特開2014-035580(JP,A)
【文献】特開2004-112652(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/317402(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/29
H01Q 1/22
H01Q 13/08
A63F 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面にグランドパターンが形成された誘電体基板の第2面に形成され、それぞれが直線偏波アンテナとして機能する複数の導体パターンを有するアンテナ部と、
前記複数の直線偏波アンテナにて受信される受信信号を合成する合成部と、
を備え、
前記複数の直線偏波アンテナのうち二つは、いずれもが、2点給電され、かつ、二つの給電点が同相給電されたときに、偏波方向が一致するように構成され、
前記2点給電される直線偏波アンテナの一つに対して、同相かつ同じ強度で、前記二つの給電点への給電を行う第1給電部と、
前記2点給電される直線偏波アンテナの他の一つに対して、180°の位相差かつ異なる強度で、前記二つの給電点への給電を行う第2給電部と、
を更に備え、
前記複数の直線偏波アンテナは、任意の二つの直線偏波の偏波面がなす角度がいずれも0°または180°以外となるように設定され
、
当該アンテナ装置の指向性を広げたい方向を指定方向として、前記2点給電される2つの直線偏波アンテナは、前記指定方向に沿って配列され、
前記第1給電部により給電される前記直線偏波アンテナの偏波方向が、前記指定方向と一致するように設定された
アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアンテナ装置であって、
前記偏波方向が前記指定方向と一致する前記直線偏波アンテナを第1アンテナとし、前記偏波方向が前記指定方向と不一致となる前記直線偏波アンテナを第2アンテナとして、
前記第1アンテナの前記偏波面に対して前記第2アンテナの前記偏波面がなす角度の絶対値は、前記指定方向に対して直交する方向の直線偏波に要求される特性を満たす範囲で最大となるように設定された
アンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアンテナ装置であって、
前記合成部は、前記第1アンテナからの受信信号と前記第2アンテナからの受信信号とを、90°の位相差をつけて合成するように構成された
アンテナ装置。
【請求項4】
請求項2に記載のアンテナ装置であって、
前記合成部は、前記第1アンテナからの受信信号と前記第2アンテナからの受信信号とを、同相合成するように構成された
アンテナ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のアンテナ装置であって、
前記合成部と、前記第2アンテナとを接続する伝送路にて伝送される信号を減衰させる減衰器を更に備えた
アンテナ装置。
【請求項6】
請求項1から
請求項5までのいずれか1項に記載のアンテナ装置であって、
前記誘電体基板の第1面には、前記第2面に形成された前記導体パターンと対向する部位に、前記グランドパターンを除去した露出部が形成され、
前記露出部に対して空気層を挟んで対向配置され、且つ前記グランドパターンと導通するシールドケースを更に備える
アンテナ装置。
【請求項7】
請求項1から
請求項6までのいずれか1項に記載のアンテナ装置であって、
当該アンテナ装置は、道路を走行する移動体であり、
当該アンテナ装置は、前記アンテナ部の前記第2面を路面に向けた状態で、前記移動体の下面に取り付けられ、前記道路の路面に設置されたRFタグの情報を読み取るように構成された、
アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、RFタグから識別情報を読み取るアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンテナと読み取り対象のタグとのうち少なくとも一方が移動する場合、両者の位置が一定しないため、アンテナの読み取り範囲を広くしたいという要求がある。
特許文献1には、パッチアンテナのグランドを狭くすることで、指向性を広げる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来装置では、アンテナ単体では広い指向性が得られたとしても、広い金属面を有する車体等に取り付けて使用する場合、車体がグランドとして機能するため、結局、指向性が狭くなるという課題があった。
【0005】
また、読み取り範囲が異なるように設定された複数のアンテナを時分割で切り替えて使用する方法も考えられるが、この場合、アンテナの切り替えタイミングで読み漏れが発生する可能性があった。
【0006】
本開示では、アンテナの切り替えを行うことなく、アンテナの指向性を広くする技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様であるアンテナ装置は、アンテナ部と、合成部と、を備える。アンテナ部は、第1面にグランドパターンが形成された誘電体基板の第2面に形成され、それぞれが直線偏波アンテナとして機能する複数の導体パターンを有する。合成部は、複数の直線偏波アンテナにて受信される受信信号を合成する。複数の直線偏波アンテナは、任意の二つの直線偏波の偏波面がなす角度がいずれも0°または180°以外となるように設定される。
【0008】
このような構成によれば、動作させるアンテナの切り替えを行うことなく、アンテナ装置の指向性を指定方向に広げることができる。
本開示の一態様では、複数の直線偏波アンテナの少なくとも一つは、指定方向と偏波方向とが一致するように設定されてもよい。
【0009】
このような構成によれば、偏波面が指定方向と一致する直線偏波アンテナの指向性を広げることができる。但し、ここでの「一致」は、厳密な意味での一致に限るものではなく、上記と同様の効果を奏する範囲内であれば厳密に一致していなくてもよい。
本開示の一態様では、第1アンテナの偏波面に対して第2アンテナの偏波面がなす角度の絶対値は、指定方向に対して直交する方向の直線偏波に要求される特性を満たす範囲で最大となるように設定されてもよい。第1アンテナは、偏波方向が指定方向と一致する直線偏波アンテナであり、第2アンテナは、偏波方向が指定方向と不一致となる直線偏波アンテナである。
【0010】
このような構成によれば、偏波面が指定方向に対して直交する直線偏波に対して機能するRFタグからも情報を読み取ることができる。また、第2アンテナの偏波方向が第1アンテナの偏波方向に対して傾斜しているため、合成部にて合成された受信信号では、指定方向の直線偏波成分が増大する。なお、ここでの「一致」も、厳密な意味での一致に限るものではなく、上記と同様の効果を奏する範囲内であれば厳密に一致していなくてもよい。
【0011】
本開示の一態様では、合成部は、第1アンテナからの受信信号と第2アンテナからの受信信号とを、90°の位相差をつけて合成するように構成されてもよい。
このような構成によれば、合成部にて同相合成する場合と比較して、良好なVSWR(電圧定在波比)が得られ、インピーダンスが整合する周波数範囲が広くなるため、インピーダンスを整合させるための調整作業を容易にできる。
【0012】
本開示の一態様では、合成部は、第1アンテナからの受信信号と第2アンテナからの受信信号とを、同相合成するように構成されてもよい。
このような構成によれば、アンテナ装置の正面方向の利得が下がることで指向性をより広げることができる。
【0013】
本開示の一態様は、合成部と、第2アンテナとを接続する伝送路にて伝送される信号を減衰させる減衰器を更に備えてもよい。
このような構成によれば、減衰器での減衰量を調整することで指向性をより広げることができる。
【0014】
本開示の一態様では、複数の直線偏波アンテナのうち少なくとも一つは、2点給電されるように構成されてもよい。
このような構成によれば、直線偏波アンテナとして1点給電されるアンテナを使用する場合と比較して、良好なVSWRが得られるため、インピーダンスを整合させるための調整作業をより容易にできる。
【0015】
本開示の一態様は、誘電体基板の第1面には、第2面に形成された放射器として機能する導体パターンと対向する部位に、グランドパターンを除去した露出部が形成されてもよい。また、露出部に対して空気層を挟んで対向配置され、且つグランドパターンと導通するシールドケースを更に備えてもよい。
【0016】
このような構成によれば、放射器として機能する導電体パターンでの波長短縮率が小さくなるため、放射器以外の導電体パターンのサイズを保持したまま、放射器の導電体パターンだけを大型化でき、アンテナ部のゲインを向上させることができる。
【0017】
本開示の一態様では、移動体は道路を走行する車両であってもよい。当該アンテナ装置は、アンテナ部の第2面を路面に向けた状態で、移動体の下面に取り付けられ、道路の路面に設置されたRFタグの情報を読み取るように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態のアンテナ装置を構成する誘電体基板の平面図および左側面図である。
【
図2】第1実施形態のアンテナ装置(信号合成時の位相差90°)において、右旋円偏波成分、左旋円偏波成分、水平偏波成分および垂直偏波成分について、水平面内での指向性をシミュレーションにより算出した結果を示したグラフである。
【
図3】
図2から水平偏波成分および垂直偏波成分を抽出し、最大ゲインを0dBとして指向性を示したグラフである。
【
図4】第1実施形態の構成において、信号合成時の位相差を180°、270°、360°に変更して、水平面内での指向性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
【
図5】第2実施形態のアンテナ装置を構成する誘電体基板の平面図である。
【
図6】第2実施形態のアンテナ装置(信号合成時の位相差0°)において、右旋円偏波成分、左旋円偏波成分、水平偏波成分および垂直偏波成分について、水平面内での指向性をシミュレーションにより算出した結果を示したグラフである。
【
図7】
図6から水平偏波成分および垂直偏波成分を抽出し、最大ゲインを0dBとして指向性を示したグラフである。
【
図8】第2実施形態の構成において、信号合成時の位相差を、180°、270°、360°に変更して、水平面内での指向性をシミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。
【
図9】第3実施形態のアンテナ装置を構成する誘電体基板の背面図である。
【
図10】基板裏面の露出部を覆うシールドケースの取り付け状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本開示の実施形態を図面と共に説明する。
[1.第1実施形態]
[1.構成]
本実施形態のアンテナ装置1は、例えば車両等の移動体に取り付けられ、路面に設置されたRFタグからの識別情報の読み取りに利用される。ここでは、アンテナ装置1は、車両において路面と対向する車体の下面に取り付けられる。
【0020】
アンテナ装置1は、
図1に示すように、誘電体で形成された基板(以下、誘電体基板)10を備える。誘電体基板10の基板面は、長方形を有する。
誘電体基板10は、第1面に相当する基板面である基板裏面10bの全面に、グランドとなる導電体パターン(即ち、グランドパターン)31が形成される。また、誘電体基板10は、第2面に相当する基板面である基板表面10aに、放射器となるパッチアンテナ等を構成する導電体パターンが形成される。これにより、誘電体基板10は、基板表面10aから電波を放射可能な平面アンテナとして機能する。なお基板裏面10bが第1面に相当し、基板表面10aが第2面に相当する。
【0021】
アンテナ装置1は、基板裏面10bを車体の下面に接触させ、基板表面10aが、路面に対向し、誘電体基板10の短手方向が車両の車長方向、誘電体基板10の長手方向が車両の車幅方向と一致するように取り付けられる。以下、アンテナ装置1から放射される偏波について言及する場合、誘電体基板10の長手方向を水平方向、短手方向を垂直方向ともいう。また、RFタグは、基本的には、水平偏波によって読み取られるように道路に設置される。
【0022】
誘電体基板10の基板表面10aに形成された導電体パターンは、水平偏波アンテナ21と、垂直偏波アンテナ22と、合成部23と、接続部24と、グランドパターン28とを形成する。
水平偏波アンテナ21は、第1パッチ部211と第1給電部212とを備える。垂直偏波アンテナ22は、第2パッチ部221と第2給電部222とを備える。
【0023】
第1パッチ部211および第2パッチ部221は、いずれも、放射器として使用される外形が略正方形の導電体パターンである。詳細には、第1パッチ部211および第2パッチ部221は、正方形の四隅が切り欠かれた形状を有する。
第1パッチ部211および第2パッチ部221は、誘電体基板10の垂直方向にて、略正方形の2つの対角線が誘電体基板10の垂直方向および水平方向に沿うように配置される。つまり、第1パッチ部211および第2パッチ部221は、水平方向に沿って配列される。従って、ここでは、水平方向が指定方向に相当する。
【0024】
第1給電部212および第2給電部222は、いずれもウィルキンソン回路を用いて構成される。
第1給電部212は、第1パッチ部211の略正方形の辺のうち、
図1中の左側に位置する二つの辺の各中央を給電点として、同相かつ同じ強度で給電を行う。これにより、第1パッチ部211および第1給電部212は、水平偏波アンテナ21として機能する。水平偏波アンテナ21が第1アンテナに相当する。
【0025】
第2給電部222は、第2パッチ部221の略正方形の辺のうち、
図1中の右側に位置する二つの辺の各中央を給電点として、180°の位相差かつ異なる強度で給電を行う。これにより第2パッチ部221および第2給電部222は、垂直偏波アンテナ22として機能する。垂直偏波アンテナ22が第2アンテナに相当する。
但し、第2パッチ部221の二つの給電点での給電強度が異なるため、その強度差に応じた分だけ直線偏波の偏波面は、
図1中の上下方向、すなわち垂直方向から傾いたものとなる。本実施形態では、具体的には、第2パッチ部221の2つの給電点のうち、
図1中で上側の給電点より下側の給電点の方が、給電位相が180°遅れ、かつ給電強度が弱くなるように設定されている。また、第2給電部222における各給電点への給電強度比は、アンテナ装置1に要求される垂直偏波に対する指向性を満たす範囲で、垂直偏波の傾きが最大となるように設定される。なお、水平偏波アンテナ21の偏波面に対して垂直偏波アンテナ22の偏波面がなす角度θは、-90°≦θ<0°、または0°<θ≦90°の範囲で設定される。
【0026】
合成部23は、誘電体基板10の垂直方向に沿った2辺のうち、一方の辺(ここでは、
図1中の上側の辺)の中央付近に形成される。合成部23は、ウィルキンソン回路を用いて構成される。合成部23は、共通端子が接続部24に接続され、2つの個別端子が水平偏波アンテナ21および垂直偏波アンテナ22に接続される。合成部23は、共通端子から供給される給電信号を1対1に2分配して各個別端子に供給すると共に、各個別端子から供給される受信信号を1対1で合成して共通端子に出力する。但し、合成部23から垂直偏波アンテナ22に到る伝送路26は、合成部23から水平偏波アンテナ21に到る伝送路26よりλg/4だけ長く設定されている。なお、λgは、アンテナ装置1が送受信する電波の波長であって、誘電体基板10の誘電率によって短縮された波長を表す。つまり、合成部23は、水平偏波アンテナ21からの受信信号と、垂直偏波アンテナ22からの受信信号とは、90°の位相差で合成する。
【0027】
グランドパターン28は、誘電体基板10の基板長手方向に沿った2辺のうち、合成部23が形成された側とは反対側の辺(すなわち、
図1中の下側の辺)の中央付近に形成される。グランドパターン28は、基板裏面10bに形成されたグランドパターン31と導通するように構成される。
接続部24は、合成部23から延設され、先端部が第1パッチ部211と第2パッチ部221との間に位置する線状のパターンであり、その先端部が、グランドパターン28と隙間を開けて配置される。
【0028】
これら接続部24およびグランドパターン28には、同軸ケーブルが固定される。具体的には、同軸ケーブルの中心導体が、接続部24に半田付け等によって接続され、外部導体は、グランドパターン28に半田付け等によって接続される。
【0029】
[1-2.測定]
図2は、アンテナ装置1の特性をシミュレーションによって算出した結果を示すグラフである。
【0030】
水平偏波アンテナ21から放射される水平偏波と垂直偏波アンテナ22から放射される垂直偏波とが合成されることにより、直線偏波成分だけでなく円偏波成分も発生する。右旋円偏波成分は、正面を方向に指向性を有し、左旋円偏波成分は、正面方向にヌル点が生じる。水平偏波成分は、円偏波成分と比較して、正面方向のゲインが低下するが、正面方向を中心とする指向性が広がることがわかる。
【0031】
図3は、水平偏波成分および垂直偏波成分だけを抽出し、最大ゲインを0dBとして相対値で特性を示したグラフである。水平偏波成分のゲインが-3dB以上となる角度範囲(以下、ビーム幅)が108°となる。
【0032】
図4は、比較のために、合成部23での信号合成時の位相差を90°から変更して特性を算出した結果を示す。位相差が180°のときにビーム幅が100°、位相差が270°のときにビーム幅が81°、位相差が360°のときにビーム幅が91°となる。つまり、位相差が90°のときに、最も広いビーム幅が得られる。
【0033】
なお、信号合成時の位相差が90°の場合と、更に180°異なる270°の場合とで指向性が異なる理由は、以下のように考えられる。すなわち、垂直偏波が垂直方向から傾斜していることにより垂直偏波に含まれる水平偏波成分を表すベクトルの方向が、水平偏波アンテナ21の水平偏波のベクトルの方向に対して、位相差が90°と270°とで反対方向となることによる。
【0034】
[1-3.効果]
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1a)アンテナ装置1では、指向性を広げたい方向に沿って水平偏波アンテナ21と垂直偏波アンテナ22とが配列され、かつ、水平偏波アンテナ21の偏波面の方向と配列方向が一致するように設定される。更に、両偏波アンテナ21,22からの受信信号が90°の位相差で合成され、しかも、垂直偏波アンテナ22の偏波面は、垂直方向に対して傾斜するように設定される。
【0035】
これにより、使用するアンテナの切り替えを行うことなく、水平方向、ひいては車両の車幅方向への指向性を広げることができる。
(1b)アンテナ装置1では、合成部23での信号合成時の位相差が90°に設定されているため、位相差が0°(すなわち、同相合成)の場合と比較して、広いVSWRを得ることができる。また、アンテナ装置1では、2つの直線偏波アンテナ21,22が、2点給電されるアンテナによって構成されているため、1点給電されるアンテナを使用する場合と比較して、広いVSWRを得ることができる。その結果、アンテナ装置1によれば、インピーダンス整合をとることができる周波数範囲が広く、インピーダンスを整合させる調整作業を容易に行うことができる。
【0036】
[2.第2実施形態]
[2-1.第1実施形態との相違点]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0037】
前述した第1実施形態では、合成部23から2つの直線偏波アンテナ21,22に到る2つの伝送路25,26にて90°の位相差が生じるように設定されている。これに対して、第2実施形態のアンテナ装置1aでは、
図5に示すように、合成部23から2つの直線偏波アンテナ21,22に到る2つの伝送路25a,26aにて位相差が生じないように設定されている点で第1実施形態とは異なる。更に、アンテナ装置1aでは、伝送路26a中に減衰器27が設けられている点でも第1実施形態とは異なる。
【0038】
減衰器27は、π型不平衡減衰器が用いられる。減衰器27の減衰量は、水平偏波の指向性におけるビーム幅が最大となるように設定される。
[2-2.測定]
図6は、アンテナ装置1aの特性をシミュレーションによって算出した結果を示すグラフである。
【0039】
両偏波アンテナ21,22からの受信信号が同相で合成されることにより、右旋円偏波成分の指向性が正面方向に対して右に傾き、左旋円偏波成分の指向性が正面方向に対して左に傾く。水平偏波成分および垂直偏波成分の指向性は、正面方向に対してほぼ対称な形状となる。
【0040】
減衰器27を省略した場合の特性は、
図4の位相差180°の場合と同様である。これに対して、減衰器27が存在するアンテナ装置1aでは、正面方向に対する水平偏波成分のゲインが低下することにより、水平偏波成分のビーム幅が拡張される。
【0041】
図7は、水平偏波成分および垂直偏波成分だけを抽出し、最大ゲインを0dBとして相対値で特性を示したグラフである。水平偏波成分のゲインが-3dB以上となる角度範囲(すなわち、ビーム幅)が、112°となる。
【0042】
図8は、比較のために、合成部23で合成するときの位相差を0°から変化させて特性を算出した結果を示す。位相差が90°のときにビーム幅が112°となり、位相差が180°のときにビーム幅が58°となり、位相差が270°のときにビーム幅が78°となる。
【0043】
[2-3.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(2a)アンテナ装置1aでは、指向性を広げたい方向に沿って水平偏波アンテナ21と垂直偏波アンテナ22とが配列され、かつ、水平偏波アンテナ21の偏波面の方向と配列方向が一致するように設定されている。更に、両偏波アンテナ21,22からの受信信号が、垂直偏波アンテナ22からの受信信号を減衰させた上で、同相(すなわち、位相差0°)で合成され、しかも、垂直偏波アンテナ22の偏波面は、垂直方向に対して傾斜するように設定される。
【0044】
これにより、使用するアンテナの切り替えを行うことなく、水平方向、ひいては車両の車幅方向への指向性を広げることができる。
(2b)アンテナ装置1aでは、水平偏波成分に対する指向性が、正面方向でゲインがピークとなるのではなく、正面方向のゲインが凹んだ形状を有する。つまり、車体の下面に取り付けられた場合、道路面に最も近い正面方向でのゲインが抑制され、広い角度範囲に渡って略均一な特性でRFタグの読み取りを行うことができる。
【0045】
[3.第3実施形態]
[3-1.第1実施形態との相違点]
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0046】
前述した第1実施形態では、誘電体基板10の基板裏面10bには、その全面にグランドパターン31が形成されている。これに対して、第3実施形態のアンテナ装置1bでは、
図9および
図10に示すように、基板裏面10bに形成されたグランドパターン31bには、第1パッチ部211および第2パッチ部221と対向する部位に、パターンが除去された露出部12が設けられる。
【0047】
なお、
図9では、第1実施形態の基板表面10aに形成される導電体パターンを点線で例示する。
更に、基板裏面10bには、
図10に示すように、露出部12のそれぞれに、露出部12を覆う金属製のシールドケース13が取り付けられている。シールドケース13は、周壁部131と、底壁部132とを備える。周壁部131は、露出部12の周囲に立設する枠状の部位である。底壁部132は、周壁部131が形成する枠状部位の一方の開口を塞ぐように形成された板状の部位である。シールドケース13は、露出部12と底壁部132とが、周壁部131の高さ分の空気層を介して対向し、かつ、周壁部131の少なくとも一部がグランドパターン31bと導通した状態に固定される。
【0048】
[3-2.効果]
以上詳述した第3実施形態によれば、第1実施形態の効果(1a)(1b)に加えて、以下の効果を奏する。
【0049】
(3a)露出部12にシールドケース13が取り付けられていることにより、誘電体基板10において、第1パッチ部211および第2パッチ部221が形成される部位の誘電率だけを低下させることができる。
【0050】
その結果、第1パッチ部211および第2パッチ部221での波長短縮率が小さくなるため、第1パッチ部211および第2パッチ部221のパターンを大きくできる。つまり、第1給電部212、第2給電部222、合成部23、伝送路25,26のパターンサイズを増大させることなく、水平偏波アンテナ21および垂直偏波アンテナ22のゲインを向上させることができる。
【0051】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は、上記実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内にて種々の態様をとることができる。
【0052】
(4a)第3実施形態では、シールドケース13が、第1実施形態のアンテナ装置1の基板裏面10bに設けられているが、第2実施形態のアンテナ装置1aの基板裏面10bに設けられてもよい。
【0053】
(4b)上記実施形態では、直線偏波アンテナ21,22の数が2つである場合につて例示したが、使用する直線偏波アンテナの数は3つ以上であってもよい。
(4c)上記実施形態では、指向性が、水平偏波の偏波面に沿った方向に拡張されているが、垂直偏波の偏波面に沿った方向に拡張してもよい。また、指向性は、水平偏波および垂直偏波の両偏波面に沿った方向に2次元的に拡張されてもよい。
【0054】
(4d)上記実施形態では、水平偏波アンテナ21および垂直偏波アンテナ22として、2点給電されるパッチアンテナを用いたが、これに限定されるものではなく、1点給電されるアンテナを用いてもよい。また、2点給電のアンテナと1点給電のアンテナとが混在してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1,1a,1b…アンテナ装置、10…誘電体基板、10a…基板表面、10b…基板裏面、12…露出部、13…シールドケース、21…水平偏波アンテナ、22…垂直偏波アンテナ、23…合成部、24…接続部、25,25a,26,26a…伝送路、27…減衰器、28,31,31b…グランドパターン、131…周壁部、132…底壁部、211…第1パッチ部、212…第1給電部、221…第2パッチ部、222…第2給電部。