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特許7401255電子写真装置、プロセスカートリッジ、及びカートリッジセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電子写真装置、プロセスカートリッジ、及びカートリッジセット
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/02 20060101AFI20231212BHJP
   G03G 21/18 20060101ALI20231212BHJP
   G03G 9/083 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 23/22 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20231212BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231212BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03G15/02 101
G03G21/18 114
G03G9/083
C08L21/00
C08L23/16
C08L23/22
C08L9/06
C08L9/02
C08K3/04
G03G9/08
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019191584
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021067753
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福留 航助
(72)【発明者】
【氏名】海野 知浩
(72)【発明者】
【氏名】野崎 大
(72)【発明者】
【氏名】浦谷 梢
(72)【発明者】
【氏名】小宮 友太
(72)【発明者】
【氏名】倉地 雅大
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 元就
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072833(JP,A)
【文献】特開2013-152460(JP,A)
【文献】特開2019-128588(JP,A)
【文献】特開2001-254022(JP,A)
【文献】特開2001-234004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 21/18
G03G 9/083
C08L 21/00
C08L 23/16
C08L 23/22
C08L 9/06
C08L 9/02
C08K 3/04
G03G 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該トナーが、磁性体を含有するトナー粒子を有し、
X線光電子分光分析により測定される、該トナー粒子の表面に存在する炭素元素の存在量(E1)に対する鉄元素の存在量(E2)の比(E2/E1)が、0.00100以下であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項2】
電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×10 12 Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該トナーが、磁性体を含有するトナー粒子を有し、
透過型電子顕微鏡による該トナーの断面観察において、
該磁性体が、該トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心までの距離のうち、該輪郭から10%以下の領域に、60面積%以上100面積%以下存在することを特徴とする電子写真装置。
【請求項3】
電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×10 12 Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該トナーが、磁性体を含有するトナー粒子を有し、
透過型電子顕微鏡による該トナーの断面観察において、
該トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域における、該磁性体が占める面積比率をA1としたとき、
該面積比率A1が、35%以上85%以下であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項4】
電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×10 12 Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、トナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであることを特徴とする電子写真装置。
【請求項5】
電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×10 12 Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の断面観察における該導電層中の該ドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dmが、0.15μm以上2.00μm以下であることを特徴とする電子写真装置。
【請求項6】
前記マトリックスの前記体積抵抗率R1が、前記ドメインの前記体積抵抗率R2の1.0×10倍以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項7】
前記トナーの比誘電率εrが、2.00以上である請求項1~6のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項8】
透過型電子顕微鏡による前記トナーの断面観察において、
前記トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域における、前記磁性体が占める面積比率をA1とし、
前記トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以上400nm以下の領域における、前記磁性体が占める面積比率をA2としたとき、
該面積比率A1に対するA2の比(A2/A1)が、0以上0.75以下である請求項のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項9】
前記導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、前記磁性体の一次粒子の個数平均粒径Dmg(μm)の関係が、Dms>Dmgである請求項のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項10】
前記ドメインの円相当径Dが、0.10μm以上2.00μm以下である請求項1~のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項11】
前記第一のゴムが、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、及びエチレンプロピレンジエンゴムからなる群から選択される少なくとも一であり、
前記第二のゴムが、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、及びアクリロニトリルブタジエンゴムからなる群から選択される少なくとも一である請求項1~1のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項12】
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを有し、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、トナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項13】
電子写真装置の本体に脱着可能である第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、トナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであることを特徴とするカートリッジセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は電子写真方式で使用される電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセットに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置においては、高速化、高画質化、長寿命化に対するユーザー要望がますます高まっている。また世界各国のユーザーの多種多様な使用環境、使用メディアにおいても、安定的に上記の性能を満足できることが求められている。プリンターの高速化と高画質化に対する要望は根強く、これまで以上に短い時間で、帯電、現像、転写プロセスを高精度で成立させ、高速化と高画質化を両立させていくことが求められている。
また、ユーザーの環境意識の高まりや使用環境の多様化の中で、再生紙や薄紙といった、従来よりも表面凹凸の大きいラフ紙が使用されるケースが増え始めている。ラフ紙を使用する場合、平滑紙を使用する場合よりもハーフトーン画像の画質が低下する傾向にあり、さらなる高画質化が求められている。
【0003】
また、最近のプリンターは、空調設備が整っていない小規模オフィスで使用されるケースも多く、低温低湿環境から高温高湿環境といった幅広い使用環境においても安定的に性能を発揮できることが要望されている。
このような要望に対して、本体のシステムとして環境センサーやメディアセンサー等のセンサーを設けて、使用環境、耐久枚数、メディアに応じて、各電子写真プロセスを最適な設定とする制御を行うことで、一定の改善効果が得られる。しかしながら部品点数が増えることによる本体サイズヘの影響や、消費電力への影響、ウェイトタイムへの影響が懸念となる。
【0004】
そのため、プリンターの高速化と高画質化を両立でき、幅広い環境に対応でき、耐久使用を通じて画質を安定化させることができる電子写真装置が要望されている。電子写真装置は、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を、少なくとも有する。
電子写真装置の性能を向上させるために、帯電装置を改良する帯電部材に関する技術開示や、トナーに関する技術開示がなされている。
特許文献1には、体積固有抵抗率1.0×1012Ω・cm以下の原料ゴムAを主体とするイオン導電性ゴム材料からなるポリマー連続相と、原材料ゴムBに導電粒子を配合して導電化した電子導電性ゴム材料からなるポリマー粒子相とを含んでなる海島構造のゴム組成物、及び該ゴム組成物から形成された弾性層を有する帯電部材が開示されている。
また、特許文献2には、トナーの誘電正接を特定範囲とすることで、高温高湿環境の耐久性を良化させることについて言及したトナーの開示がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-3651号公報
【文献】特開2012-68623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討の結果、特許文献1に係る帯電部材を、プロセススピードの速い(以下、単に「高速プロセス」と記載することがある)電子写真画像形成装置に適用して、低
温低湿(温度15℃、相対湿度10%)の環境下で、ラフ紙に連続してハーフトーン画像を形成したとき、得られたハーフトーン画像の画質が低下することがあった。
具体的には、ハーフトーン画像の一部において白い斑点状の濃度ムラ(白ポチ)が生じ、ハーフトーン画像の濃度均一性が低下(ハーフトーン濃度均一性)することがあった。
本開示の一態様は、低温低湿環境下においても、高品位なハーフトーン画像を安定して形成することができる電子写真装置の提供に向けたものである。本開示の他の態様は、高品位なハーフトーン画像の安定的な形成に資するプロセスカートリッジ及びカートリッジセットの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該トナーが、磁性体を含有するトナー粒子を有し、
X線光電子分光分析により測定される、該トナー粒子の表面に存在する炭素元素の存在量(E1)に対する鉄元素の存在量(E2)の比(E2/E1)が、0.00100以下である電子写真装置が提供される。
また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該現像装置は、該トナーを有し、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、トナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであるプロセスカートリッジが提供される。
また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、電子写真装置の本体に脱着可能である第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリックスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さく、
該トナーの誘電正接が、0.0027以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)と、トナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであるカートリッジセットが提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示の少なくとも一つの態様によれば、低温低湿環境下においても、高品位なハーフトーン画像を安定して形成することができる電子写真装置を得ることができる。また、本開示の少なくとも一つの態様によれば、高品位なハーフトーン画像の安定的な形成に資するプロセスカートリッジ及びカートリッジセットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】帯電ローラの長手方向に直交する方向の断面図
図2】導電層の拡大断面図
図3】帯電ローラの導電層からの断面切出し方向の説明図
図4】プロセスカートリッジの概略断面図
図5】電子写真装置の概略断面図
図6】ドメインの包絡周囲長の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
本開示の少なくとも一つの態様に係る電子写真装置は、導電性部材を有する帯電装置と、トナーを有する現像装置とを備える。
そして、導電性部材は、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリックス及び該マトリックス中に分散された複数のドメインを有し、該マトリックスが、第一のゴムを含有し、該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリックスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリックスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さい。
一方、トナーは、誘電正接が、0.0027以上である。
なお、導電性部材の外表面とは、導電性部材におけるトナーと接する面である。
【0011】
このような電子写真装置によれば、高速プロセスで、かつ、ハーフトーン画像の形成を、例えば、温度15℃、相対湿度10%の低温低湿環境下で行った場合であっても、当該
ハーフトーン画像への白ポチの発生を有効に防止し得る。以下にその理由を説明する。
【0012】
本発明者らは、高速の電子写真装置で、ラフ紙を使用し、低温低湿環境下で連続的にハーフトーン画像をプリントする場合において、当該ハーフトーン画像の濃度均一性を良好にするべく鋭意検討した。
その過程において、特許文献1に係る帯電部材を適用した、高速の電子写真装置を用いて低温低湿環境下で連続的にハーフトーン画像をプリントしたときに、当該ハーフトーン画像に白い斑点状の濃度ムラ(白ポチ)が発生する原因についてまず検討した。
その結果、当該ハーフトーン画像における白ポチが、当該帯電部材の表面に転写残トナーが付着し、付着した当該転写残トナーが局所的に過剰な電荷を蓄え、当該転写残トナーから電子写真感光体に対して微小ながらも異常放電を生じることによって生じていることを認識した。
【0013】
以下により具体的に説明する。
まず低温低湿環境下においては、トナーのクリーニング性が低下しやすい。そのため転写残トナーがクリーニングブレードをすり抜けて、帯電装置が有する導電性部材の表面に付着しやすい。そして高速プロセスにおいては、後述するように帯電装置と電子写真感光体との間でおこる放電において放電ムラが生じやすいため、導電性部材の表面に付着した転写残トナーが、過剰に帯電されることがある。
特に、低温低湿環境下では、電荷が逃げにくく、溜まりやすいため、転写残トナーは、その表面の局所に過剰な電荷を蓄えることがある。そして、転写残トナーの過剰に帯電した部分から、電子写真感光体に向かって異常放電が生じる。
【0014】
そして電子写真感光体の表面において転写残トナーからの異常放電によって電荷が供給された領域は、正常な放電によって電荷が供給された領域と比べて表面電位の絶対値が過剰に高い状態となる。そのため、レーザー光を照射して露光しても電位が所望の電位まで低下せず、該領域ではトナーが現像されにくい。その結果、ハーフトーン画像に白ポチが生じ、ハーフトーン画像の品位が低下すると考えられる。
特に、記録媒体としてラフ紙を使用する場合、転写プロセスにおいて紙の凹凸に対して、転写電界強度のムラが生じ、紙の凸部と比較して、紙の凹部のトナーの転写効率は低下する傾向にある。そのため、異常放電によって生じた、電子写真感光体上のトナーが現像されにくい領域と、該紙の凹部が重なった場合、紙上にはほとんどトナーが存在しない状態となり、ハーフトーン画像上の白ポチは特に発生しやすいと考えられる。
【0015】
次に、帯電装置における帯電部材と電子写真感光体との間における放電現象について説明する。
通常、帯電部材と、電子写真感光体の当接部近傍における微小空隙において、電界の強さと、微小空隙の距離の関係がパッシェンの法則を満たす領域において放電が発生する。
電子写真感光体を回転させながら放電を発生させる電子写真プロセスにおいては、帯電部材表面の一点を経時で追跡した際に、放電の開始地点から終了地点までに、放電が持続的に発生するのではなく、複数回の放電が繰り返し発生することが分かっている。
【0016】
特許文献1に係る帯電部材においては、導電性部材の支持体の外表面から導電性部材の外表面に至る、電荷を輸送できる導電パスが形成されていると考えられる。そのため、1回の放電で、導電層内に蓄積されている電荷の大半が感光体やトナーなどの被帯電体に向けて放出される。
ここで、本発明者らは、特許文献1に係る帯電部材の放電状態を、オシロスコープで詳細に測定、解析した。その結果、特許文献1に係る帯電部材では、プロセススピードが速くなるにつれて、本来放電が生じなければいけないタイミングで放電されない、いわゆる放電の抜けが生じていることが確認された。放電の抜けが生じる理由としては、導電性部
材からの放電で導電層内に蓄積された電荷の大半が消費された後、次の放電のための導電層への電荷の蓄積が間に合わないためであると考えられる。
ここで、本発明者らは、導電層内に多量の電荷を蓄積でき、かつ、1回の放電によっても蓄積された電荷が一度に消費されないようにすれば、放電の抜けを解消し得るものと考察した。このような考察に基づきさらなる検討を重ねた結果、本開示に係る構成を備えた導電性部材は、上記の要求によく応え得ることを見出した。
さらに、トナーの誘電正接が0.0027以上であることにより、局所的に電荷が偏在しにくい。そのため、上記導電性部材からの放電が安定化することとも相まって、転写残トナーから電子写真感光体への異常放電の発生が抑制される。その結果、低温低湿環境下で、速いプロセススピードでハーフトーン画像を形成しても当該ハーフトーン画像には白ポチが生じにくい。
【0017】
以下に、電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセットについて、まず、帯電装置が有する帯電部材としての導電性部材について説明し、次にトナーについて説明する。
<導電性部材>
導電性部材として、ローラ形状を有する導電性部材(以降、「導電性ローラ」ともいう)を例に、図1を参照して説明する。図1は、導電性ローラの軸に沿う方向(以降、「長手方向」ともいう)に対して垂直な断面図である。導電性ローラ51は、円柱状の導電性の支持体52、支持体52の外周、すなわち支持体の外表面に形成された導電層53を有している。
【0018】
<支持体>
支持体を構成する材料としては、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものや、導電性部材として利用できる材料から適宜選択して用いることができる。一例として、アルミニウム、ステンレス、導電性を有する合成樹脂、鉄、銅合金などの金属又は合金が挙げられる。
さらに、これらに対して、酸化処理やクロム、ニッケルなどで鍍金処理を施してもよい。鍍金の種類としては電気鍍金、無電解鍍金のいずれも使用することができる。寸法安定性の観点から無電解鍍金が好ましい。ここで使用される無電解鍍金の種類としては、ニッケル鍍金、銅鍍金、金鍍金、その他各種合金鍍金を挙げることができる。
鍍金厚さは、0.05μm以上が好ましく、作業効率と防錆能力のバランスを考慮すると、鍍金厚さは0.10μm~30.00μmであることが好ましい。支持体の円柱状の形状は、中実の円柱状でも、中空の円柱状(円筒状)でもよい。また、支持体の外径は、3mm~10mmの範囲が好ましい。
【0019】
支持体と導電層の間に、中抵抗層又は絶縁層が存在すると、放電による電荷の消費後の電荷の供給を迅速にできなくなる場合がある。よって、導電層は、支持体に直接設けるか、又はプライマーなどの、薄膜かつ導電性の樹脂層からなる中間層のみを介して支持体の外周に導電層を設けることが好ましい。
プライマーとしては、導電層形成用のゴム材料及び支持体の材質等に応じて公知のものを選択して用いることができる。プライマーの材料としては、例えば熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられ、具体的には、フェノール系の樹脂、ウレタン系の樹脂、アクリル系の樹脂、ポリエステル系の樹脂、ポリエーテル系の樹脂、エポキシ系の樹脂のような公知の材料を用いることができる。
【0020】
<導電層>
導電層は、マトリックス及びマトリックス中に分散された複数のドメインを有する。そして、マトリックスは、第一のゴムを含有し、ドメインは第二のゴム及び電子導電剤を含有する。そして、マトリックス及びドメインは、下記構成要素(i)及び(ii)を充足
する。
構成要素(i):マトリックスの体積抵抗率R1が1.00×1012Ω・cmよりも大きい。
構成要素(ii):ドメインの体積抵抗率R2が、該マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さい。
【0021】
構成要素(i)、(ii)を満たす導電層を備えた導電性部材は、感光体との間にバイアスを印加したときに各々のドメインに十分な電荷を蓄積でき、また、ドメイン間での同時的な電荷の授受を抑制できる。これにより、1回の放電で、導電層内に蓄積された電荷の大半が放出されることを防ぐことができる。
その結果、導電層内には、次の放電のための電荷が未だ蓄積されている状態とすることができるため、短いサイクルで安定して放電を生じさせることが可能となる。本開示に係る導電性部材によって達成されるこのような放電を、以降、「微細放電」とも呼ぶ。
【0022】
構成要素(i)、(ii)を満たす導電層を具備する導電性部材の支持体と、電子写真
感光体との間に帯電バイアスが印加されたときの導電層内においては、電荷は以下のようにして導電層の支持体側から反対側、すなわち、導電性部材の外表面側に移動すると考えられる。すなわち、電荷は、マトリックスとドメインとの界面近傍に蓄積される。
そして、その電荷は、導電性支持体側に位置するドメインから、導電性支持体の側とは反対側に位置するドメインに順次受け渡されていき、導電層の導電性支持体の側とは反対側の表面(以降、「導電層の外表面」ともいう)に到達する。このとき、1回の帯電工程で全てのドメインの電荷が導電層の外表面側に移動すると、次の帯電工程に向けて、導電層中に電荷を蓄積するために時間を要することとなる。そうすると、高速の電子写真画像形成プロセスにおいて、安定放電を達成することが困難となる。
【0023】
従って、帯電バイアスが印加されたときにも、ドメイン間の電荷の授受が同時的に生じないようにすることが好ましい。また、高速の電子写真画像形成プロセスにおいては電荷の動きが制約されるため、一回の放電で十分な量の電荷を放電させるためには、各々のドメインに十分な量の電荷を蓄積させることが好ましい。
上記構成要素(i)、(ii)を充足するマトリックスドメイン構造を備えた導電層は、バイアス印加時のドメイン間での同時的な電荷の授受の発生を抑制し、かつドメイン内に十分な電荷を蓄積させることができる。
【0024】
<構成要素(i);マトリックスの体積抵抗率>
マトリックスの体積抵抗率R1を、1.00×1012Ω・cmよりも大きくすることで、電荷がドメインを迂回してマトリックス中を移動することを抑制できる。そして、1回の放電で蓄積された電荷の大半が消費されることを抑制できる。また、ドメインに蓄積された電荷が、マトリックスに漏洩することによって、あたかも導電層内を連通する導電経路が形成されている状態となることを防止できる。
体積抵抗率R1は、2.00×1012Ω・cm以上であることが好ましい。一方、R1の上限は、特に限定されないが、目安としては、1.00×1017Ω・cm以下であることが好ましく、8.00×1016Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0025】
電荷を導電層中のドメインを介して移動させ、微細放電を達成するためには、電荷が十分に蓄積された領域(ドメイン)が、電気的に絶縁性の領域(マトリックス)で分断されている構成が有効であると本発明者らは考えている。そして、マトリックスの体積抵抗率を上記したような高抵抗領域の範囲とすることで、各ドメインとの界面において十分な電荷を留めることができ、また、ドメインからの電荷漏洩を抑制できる。
【0026】
また、放電が微細でかつ必要十分な放電量を達成するためには、電荷の移動経路が、ド
メインを介在した経路に限定することが極めて有効である。ドメインからのマトリックスへの電荷の漏洩を抑制し、電荷の輸送経路を複数のドメインを介した経路に限定することにより、ドメインに存在する電荷の密度を向上させることができるため、各ドメインにおける電荷の充填量をより増大させることができる。
これにより、放電の起点である導電相としてのドメインの表面において、放電に関与できる電荷の総数を向上させることができ、結果、導電性部材の表面からの放電の出やすさを向上させることができると考えられる。
【0027】
・マトリックスの体積抵抗率の測定方法;
マトリックスの体積抵抗率は、導電層を薄片化し、微小探針によって計測することができる。薄片化の手段としては、ミクロトームのような非常に薄いサンプルを作製できる手段を用いる。具体的な手順については後述する。
【0028】
<構成要素(ii);ドメインの体積抵抗率>
ドメインの体積抵抗率R2は、マトリックスの体積抵抗率R1よりも小さい。これにより、マトリックスで目的としない電荷の移動を抑制しつつ、電荷の輸送経路を複数のドメインを介する経路に限定しやすくなる。
また体積抵抗率R1は体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であることが好ましい。R1はR2の、1.0×10倍~1.0×1020倍であることがより好ましく、1.0×10倍~1.0×1018倍であることがさらに好ましく、9.0×10倍~1.0×1016倍であることがさらにより好ましい。
そしてR2は1.00×10Ω・cm以上、1.00×10Ω・cm以下であることが好ましく、1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0029】
上記を満たすことで、導電層内における電荷の輸送パスをコントロールでき、微細放電をより達成しやすくなる。そのため、低温低湿環境下におけるハーフトーン画像の均一性が良化できるだけでなく、より厳しい環境である極低温低湿環境(温度7℃、湿度30%RH)における使用においても、ハーフトーン画像の均一性を向上できる。
ドメインの体積抵抗率は、例えば、ドメインのゴム成分に対し、電子導電剤の種類や量を変更することによって、その導電性を所定の値にすることで調整する。
【0030】
ドメイン用のゴム材料としては、マトリックス用としてのゴム成分を含むゴム組成物を用いることができる。マトリックスドメイン構造を形成するためにマトリックスを形成するゴム材料との溶解度パラメータ(SP値)の差を一定の範囲にすることが好ましい。すなわち、第一のゴムのSP値と第二のゴムのSP値との差の絶対値が、好ましくは0.4(J/cm0.5以上5.0(J/cm0.5以下であり、より好ましくは0.4(J/cm0.5以上2.2(J/cm0.5以下である。
ドメインの体積抵抗率は、電子導電剤の種類、及びその添加量を適宜選択することによって調整することができる。ドメインの体積抵抗率を1.00×10Ωcm以上1.00×10Ωcm以下に制御するために使用する電子導電剤としては、分散する量によって高抵抗から低抵抗まで体積抵抗率を大きく変化させることができる電子導電剤が好ましい。
【0031】
ドメインに配合される電子導電剤については、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、酸化錫等の酸化物;Cu、Ag等の金属;酸化物又は金属が表面に被覆され導電化された粒子等を例として挙げられる。また、必要に応じて、これらの導電剤の2種類以上を適宜量配合して使用してもよい。
以上の様な電子導電剤のうち、ゴムとの親和性が大きく、電子導電剤間の距離の制御が容易な、導電性のカーボンブラックを使用することが好ましい。ドメインに配合されるカ
ーボンブラックの種類については、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0032】
中でも、高い導電性をドメインに付与し得る、DBP吸油量が40cm/100g以上170cm/100g以下である導電性カーボンブラックを好適に用いることができる。
導電性のカーボンブラック等の電子導電剤の含有量は、ドメインに含まれる第二のゴム100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下が好ましい。より好ましくは、50質量部以上100質量部以下である。
一般的な電子写真用の導電性部材と比較して、導電剤が多量に配合されていることが好ましい。これにより、ドメインの体積抵抗率を1.00×10Ωcm以上1.00×10Ω・cm以下の範囲に容易に制御することができる。
また、必要に応じて、ゴムの配合剤として一般に用いられている充填剤、加工助剤、架橋助剤、架橋促進剤、老化防止剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、軟化剤、分散剤、着色剤等を、本開示に係る効果を阻害しない範囲でドメイン用のゴム組成物に添加してもよい。
【0033】
・ドメインの体積抵抗率の測定方法;
ドメインの体積抵抗率の測定は、マトリックスの体積抵抗率の測定方法に対して、測定箇所をドメインに相当する場所に変更し、電流値の測定の際の印可電圧を1Vに変更した以外は同様の方法で実施すればよい。具体的な手順は後述する。
【0034】
<構成要素(iii);ドメインの隣接壁面間距離>
ドメイン同士での電荷の授受を行わせるうえで、導電層の厚み方向の断面観察における、ドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dm(以降、単に「ドメイン間距離Dm」ともいう)は、好ましくは2.00μm以下であり、より好ましくは1.00μm以下である。
また、ドメイン同士を絶縁領域(マトリックス)で電気的に確実に分断し、電荷をドメインにより蓄積しやすくなることができるため、ドメイン間距離Dmは、好ましくは0.15μm以上であり、より好ましくは0.20μm以上である。
【0035】
・ドメイン間距離Dmの測定方法;
ドメイン間距離Dmの測定方法は、次のように実施すればよい。
まず、前述のマトリックスの体積抵抗率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。また、マトリックスドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電相と絶縁相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、白金蒸着を行った切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して、マトリックスドメイン構造の存在を確認する。これらの中でも、ドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで、5000倍で観察を行うことが好ましい。具体的な手順は後述する。
【0036】
・ドメイン間距離Dmの均一性;
ドメイン間距離Dmの分布は均一であることが、より安定的に微細放電を形成できるため好ましい。ドメイン間距離Dmの分布が均一であることで、導電層内で局所的にドメイン間距離が長い箇所が一部できることで、電荷の供給が周囲比べて滞る箇所が生じた場合などに、放電の出やすさが抑制される現象を低減できる。
電荷が輸送される断面、すなわち、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面において、導電層の外表面から支持体方向への深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所における、50μm四方の観察領域を取得する。このとき、当該観察領域内のドメイン間距離Dm及びドメイン間距離の分布の標準偏差σmを用いて、ドメイン間
距離の変動係数σm/Dmが0以上0.40以下であることが好ましく、0.10以上0.30以下であることがより好ましい。
【0037】
・ドメイン間距離Dmの均一性の測定方法;
ドメイン間距離の均一性の測定は、ドメイン間距離の測定と同様に、破断面の直接観察で得られる画像を定量化することによって行うことができる。具体的な手順は後述する。
【0038】
導電性部材は、例えば、下記工程(i)~(iv)を含む方法を経て形成することができる。
工程(i):カーボンブラック及び第二のゴムを含む、ドメイン形成用ゴム混合物(以降、「CMB」とも称する)を調製する工程;
工程(ii):第一のゴムを含むマトリックス形成用ゴム混合物(以降、「MRC」とも称する)を調製する工程;
工程(iii):CMBとMRCとを混練して、マトリックスドメイン構造を有するゴム混合物を調製する工程。
工程(iv):工程(iii)で調製したゴム混合物の層を、導電性支持体上に直接又は他の層を介して形成し、該ゴム組成物の層を硬化させて、導電層を形成する工程。
【0039】
そして、構成要素(i)~(iii)は、例えば、上記各工程に用いる材料の選択、製造条件の調整により制御することができる。以下説明する。
まず、構成要素(i)に関して、マトリックスの体積抵抗率は、MRCの組成によって定まる。
【0040】
MRCに用いる第一のゴムとしては、導電性の低いゴムが好ましい。天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、及びポリノルボルネンゴムからなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
第一のゴムが、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、及びエチレンプロピレンジエンゴムからなる群から選択される少なくとも一がより好ましい。
また、マトリックスの体積抵抗率が上記範囲内であれば、MRCには、必要に応じて、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤などを添加してもよい。一方、MRCには、マトリックスの体積抵抗率を上記範囲内とするために、カーボンブラックなどの電子導電剤は含有させないことが好ましい。
【0041】
また、構成要素(ii)に関して、ドメインの体積抵抗率R2は、CMB中の電子導電剤の量によって調整し得る。例えば、電子導電剤として、DBP吸油量が、40cm/100g以上170cm/100g以下である導電性カーボンブラックを用いる場合を例に挙げる。CMBの第二のゴム100質量部に対し、40質量部以上200質量部以下の導電性カーボンブラックを含むようにCMBを調製することで所望の範囲を達成し得る。
【0042】
さらに、構成要素(iii)に関わるドメインの分散状態に関しては、下記(a)~(d)の4つを制御することが有効である。
(a)CMB、及びMRCの各々の界面張力σの差;
(b)CMBの粘度(ηd)、及びMRCの粘度(ηm)の比(ηm/ηd);
(c)工程(iii)における、CMBとMRCとの混練時のせん断速度(γ)、及びせん断時のエネルギー量(EDK)。
(d)工程(iii)における、CMBのMRCに対する体積分率。
【0043】
(a)CMBとMRCとの界面張力差
一般的に二種の非相溶のゴムを混合した場合、相分離する。これは、異種高分子間の相互作用よりも、同一高分子間の相互作用が強いため、同一高分子同士で凝集し、自由エネルギーを低下させ安定化しようとするためである。
相分離構造の界面は異種高分子と接触するため、同一分子同士の相互作用で安定化されている内部より、自由エネルギーが高くなる。その結果、界面の自由エネルギーを低減させるために、異種高分子と接触する面積を小さくしようとする界面張力が発生する。この界面張力が小さい場合、エントロピーを増大させるために異種高分子でもより均一に混合しようとする方向に向かう。均一に混合した状態とは溶解であり、溶解度の目安となるSP値(溶解度パラメーター)と界面張力は相関する傾向にある。
【0044】
つまり、CMBとMRCとの界面張力差は、各々が含むゴムのSP値差と相関すると考えられる。MRC中の第一のゴムの溶解度パラメーターSP値と、CMB中の第二のゴムのSP値の絶対値の差が、好ましくは0.4(J/cm0.5以上5.0(J/cm0.5以下、より好ましくは0.4(J/cm0.5以上2.2(J/cm0.5以下となるようなゴムを選択することが好ましい。この範囲であれば安定した相分離構造を形成でき、また、CMBのドメイン径を小さくすることができる。
【0045】
ここで、CMBに用い得る第二のゴムの具体例としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クルルプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、シリコーンゴム、及びウレタンゴム(U)からなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
第二のゴムが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、及びアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一がより好ましく、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びブチルゴム(IIR)からなる群から選択される少なくとも一がさらに好ましい。
導電層の厚みは、目的とする導電性部材の機能及び効果が得られるものであれば特に限定されない。導電層の厚みは、1.0mm以上4.5mm以下とすることが好ましい。
ドメインとマトリクスとの質量比率(ドメイン:マトリクス)は、好ましくは5:95~40:60であり、より好ましくは10:90~30:70であり、さらに好ましくは13:87~25:75である。
【0046】
<SP値の測定方法>
SP値は、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。例えば、NBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリル及びスチレンの含有比率でSP値がほぼ決定される。
従って、マトリックス及びドメインを構成するゴムを、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)及び固体NMR等の分析手法を用いて、アクリロニトリル又はスチレンの含有比率を解析する。それにより、SP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。
また、イソプレンゴムは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの、異性体構造でSP値が決定される。従って、SBR及びNBRと同様にPy-GC及び固体NMR等で異性体含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。
SP値が既知の材料のSP値は、Hansen球法で求めたものである。
【0047】
(b)CMBとMRCとの粘度比
CMBとMRCとの粘度比(CMB/MRC)(ηd/ηm)は、1に近い程、ドメイン径を小さくできる。具体的には、粘度比は1.0以上2.0以下であることが好ましい。CMBとMRCの粘度比は、CMB及びMRCに使用する原料ゴムのムーニー粘度の選択や、充填剤の種類や量の配合によって調整が可能である。
また、相分離構造の形成を妨げない程度に、パラフィンオイルなどの可塑剤を添加することでも可能である。また混練時の温度を調整することで、粘度比の調整を行うことができる。
なおドメイン形成用ゴム混合物やマトリックス形成用ゴム混合物の粘度は、JIS K6300-1:2013に基づきムーニー粘度ML(1+4)を混練時のゴム温度で測定することで得られる。
【0048】
(c)MRCとCMBとの混練時のせん断速度、及びせん断時のエネルギー量
MRCとCMBとの混練時のせん断速度は速いほど、また、せん断時のエネルギー量は大きいほど、ドメイン間距離Dm及びDmsを小さくすることができる。
せん断速度は、混練機のブレードやスクリューといった撹拌部材の内径を大きくし、撹拌部材の端面から混練機内壁までの間隙を小さくすることや、回転数を大きくすることで上げることができる。またせん断時のエネルギーを上げるには、撹拌部材の回転数を上げることや、CMB中の第一のゴムとMRC中の第二のゴムの粘度を上げることで達成できる。
【0049】
(d)MRCに対するCMBの体積分率
MRCに対するCMBの体積分率は、マトリックス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の衝突合体確率と相関する。具体的には、マトリックス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の体積分率を低減させると、ドメイン形成用ゴム混合物とマトリックス形成用ゴム混合物の衝突合体確率が低下する。つまり必要な導電性を得られる範囲において、マトリックス中におけるドメインの体積分率を減らすことでドメイン間距離Dm及びDmsを小さくできる。
そして、CMBのMRCに対する体積分率(すなわち、ドメインのマトリクスに対する体積分率)は、15%以上40%以下とすることが好ましい。
【0050】
また、導電性部材における、導電層の長手方向の長さをLとし、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面を取得する。導電層の厚さ方向の断面の各々について、以下を満たすことが好ましい。
該各々の断面において、導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に15μm四方の観察領域を置いたときに、全9個の該観察領域の各々で観察されるドメインのうちの80個数%以上が、下記構成要素(iv)及び(v)を満たすことが好ましい。
構成要素(iv)
ドメインの断面積のうち該ドメインに含まれる電子導電剤の断面積の割合μrが、20%以上であること。
構成要素(v)
ドメインの周囲長をA、該ドメインの包絡周囲長をBとしたとき、A/Bが、1.00以上1.10以下であること。
【0051】
上記構成要素(iv)及び構成要素(v)は、ドメインの形状に係る規定ということができる。「ドメインの形状」とは、導電層の厚さ方向の断面に現れたドメインの断面形状として定義される。
【0052】
ドメインの形状は、その周面に凹凸がない形状、すなわち球体に近い形状であることが好ましい。形状に関する凹凸構造の数を低減することによって、ドメイン間の電界の不均一性を低減でき、つまり、電界集中が生じる箇所を少なくして、マトリックスで必要以上の電荷輸送が起きる現象を低減できる。
本発明者らは、1個のドメインに含まれる電子導電剤の量が、当該ドメインの外形形状に影響を与えているとの知見を得た。すなわち、1個のドメインの電子導電剤の充填量が増えるにつれて、該ドメインの外形形状がより球体に近くなるとの知見を得た。球体に近いドメインの数が多いほど、ドメイン間での電子の授受の集中点を少なくすることができる。
【0053】
そして、本発明者らの検討によれば、1つのドメインの断面の面積を基準として、当該断面において観察される電子導電剤の断面積の総和の割合μrが20%以上であるドメインは、より、球体に近い形状を取り得る。
その結果、ドメイン間での電子の授受の集中を有意に緩和し得る外形形状を取り得るため好ましい。具体的には、ドメインの断面積に対する該ドメインが含む該電子導電剤の断面積の割合μrが、20%以上であることが好ましい。より好ましくは、25%~30%である。
上記範囲にあることで、高速プロセス下においても、十分な電荷供給量を可能とすることができる。
【0054】
ドメインの周面の凹凸がない形状に関しては、下記式(5)を満たすことが好ましいことを本発明者らは見出した。
1.00≦A/B≦1.10 (5)
(A:ドメインの周囲長、B:ドメインの包絡周囲長)
【0055】
式(5)は、ドメインの周囲長Aと、ドメインの包絡周囲長Bとの比を示している。ここで、包絡周囲長とは、図6に示されるように、観察領域で観察されるドメイン71の凸部を結んだときの周囲長である。
ドメインの周囲長と、ドメインの包絡周囲長との比は1が最小値であり、1である状態は、ドメインが真円又は楕円等の断面形状に凹部がない形状であることを示す。これらの比が1.1以下であると、ドメインに大きな凸凹形状が存在しないことを示し、電界の異方性が発現しにくい。
【0056】
<ドメインの形状に関する各パラメーターの測定方法>
導電性部材(導電性ローラ)の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM
FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの超薄切片を切り出す。ただし、下記のように、導電性部材の長手方向に対して垂直な断面によって、切片を作製し、当該切片の破断面におけるドメインの形状を評価する必要がある。この理由を下記に述べる。
図3(a)及び図3(b)に、導電性部材81を、3軸、具体的にはX、Y、Z軸の3次元としてその形状を示した図を示す。図3(a)及び図3(b)においてX軸は導電性部材の長手方向(軸方向)と平行な方向、Y軸、Z軸は導電性部材の軸方向と垂直な方向を示す。
【0057】
図3(a)は、導電性部材に対して、XZ平面82と平行な断面82aで導電性部材を切り出すイメージ図を示す。XZ平面は導電性部材の軸を中心として、360°回転することができる。導電性部材が感光体ドラムに対して当接されて回転し、感光ドラムとの隙間を通過する際に放電することを考慮すると、当該XZ平面82と平行な断面82aは、あるタイミングに同時に放電が起きる面を示していることになる。一定量の断面82aに
相当する面が通過することによって、感光ドラムの表面電位が形成される。
【0058】
したがって、導電性部材内の電界集中と相関する、ドメインの形状の評価のためには、断面82aのようなある一瞬において同時に放電が発生する断面の解析ではなく、一定量の断面82aを含むドメイン形状の評価ができる導電性部材の軸方向と垂直なYZ平面83と平行な断面での評価が必要である。
この評価に、該導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央での断面83bと、及び該導電層の両端から中央に向かってL/4の2か所の断面(83a及び83c)の計3か所を選択する。
また、当該断面83a~83cの観察位置に関しては、導電層の厚さをTとしたとき、各切片のそれぞれ外表面から深さ0.1T以上0.9T以下までの厚み領域の任意の3か所で15μm四方の観察領域を置いたときの、合計9か所の観察領域で測定を行えばよい。
【0059】
得られた切片に対し、白金を蒸着させ蒸着切片を得る。次いで当該蒸着切片の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍又は5000倍で撮影し、観察画像を得る。
次に、当該解析画像内のドメインの形状を定量化するために、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化画像を得る。
【0060】
<<ドメイン内の電子導電剤の断面積割合μrの測定方法>>
ドメイン内の電子導電剤の断面積割合の測定は、上記5000倍で撮影した観察画像の2値化画像を定量化することによって行なうことができる。
画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)によって、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得る。当該観察画像に対して、カーボンブラックの粒子を区別できるように2値化を実施し、2値化画像を得る。得られた画像に対しカウント機能を使用することによって、当該解析画像内のドメインの断面積S及び当該ドメイン内に含まれる電子導電剤としてのカーボンブラック粒子の断面積の合計Scを算出する。
そして、ドメイン内の電子導電材の断面積割合として、上記9か所におけるSc/Sの算術平均値μrを算出する。
【0061】
<<ドメインの周囲長A、包絡周囲長Bの測定方法>>
画像処理ソフトのカウント機能によって、上記1000倍で撮影した観察画像の2値化画像内に存在するドメイン群に対して下記の項目を算出する。
・周囲長A(μm)
・包絡周囲長B(μm)
これらの値を以下の式(5)に代入し、9か所の評価画像の算術平均値を採用する。
1.00≦A/B≦1.10 (5)
(A:ドメインの周囲長、B:ドメインの包絡周囲長)
【0062】
<<ドメインの形状指数の測定方法>>
ドメインの形状指数は、μr(面積%)が20%以上であり、かつ、ドメインの周囲長比A/Bが上記式(5)を満たすドメイン群の、ドメイン総数に対する個数パーセントを算出すればよい。ドメインの形状指数が、80個数%~100個数%であることが好ましい。
上記2値化画像に対して、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)のカウント機能を用いて、ドメイン群の2値化画
像内の個数を算出し、さらに、μr≧20及び上記式(5)を満たすドメインの個数パーセントを求めればよい。
【0063】
構成要素(iv)で規定したように、ドメイン中に電子導電剤を高密度に充填することで、ドメインの外形形状を球体に近づけることができると共に、構成(v)に規定したように凹凸が小さいものとすることができる。
構成要素(iv)で規定したような、電子導電剤が高密度に充填されたドメインを得るために、電子導電剤は、DBP吸油量が40cm/100g以上80cm/100g以下であるカーボンブラックを有することが好ましい。
DBP吸油量(cm/100g)とは、100gのカーボンブラックが吸着し得るジブチルフタレート(DBP)の体積であり、日本工業規格(JIS) K 6217-4:2017(ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))に従って測定される。
一般に、カーボンブラックは、平均粒径10nm以上50nm以下の一次粒子がアグリゲートした房状の高次構造を有している。この房状の高次構造はストラクチャーと呼ばれ、その程度はDBP吸油量(cm/100g)で定量化される。
【0064】
DBP吸油量が上記範囲内にある導電性カーボンブラックは、ストラクチャー構造が未発達のため、カーボンブラックの凝集が少なく、ゴムへの分散性が良好である。そのため、ドメイン中への充填量を多くでき、その結果として、外形形状が、より球体に近いドメインを得られやすい。
また、DBP吸油量が、上記した範囲内にある導電性カーボンブラックは、凝集体を形成し難いため、要件(v)に係るドメインを形成しやすくなる。
【0065】
<ドメイン径D>
導電層の断面から観察されるドメインの円相当径D(以降、単に「ドメイン径D」ともいう)の算術平均値は、0.10μm以上5.00μm以下であることが好ましい。
この範囲であれば、最表面のドメインがトナーと同様以下のサイズとなるため、細かい放電が可能となり、均一放電を達成することが容易となる。
ドメイン径Dの平均値を、0.10μm以上とすることで、導電層において、電荷の移動する経路を目的とする経路により効果的に限定することができる。より好ましくは0.15μm以上であり、さらに好ましくは0.20μm以上である。
また、ドメイン径Dの平均値を5.00μm以下にすることで、ドメインの全体積に対する表面積の割合、すなわち、ドメインの比表面積を指数関数的に大きくすることができ、ドメインからの電荷の放出効率を飛躍的に向上させ得る。ドメイン径Dの平均値は、上記の理由から、2.00μm以下がより好ましく、1.00μm以下がさらに好ましい。
ドメイン径Dの平均値を、2.00μm以下にすることで、ドメインそのものの電気抵抗を低減できるため、単発の放電の量を必要十分量として、より効率的に微細放電が可能となる。そのため低温低湿環境下におけるハーフトーン均一性を向上できる。
【0066】
なお、ドメイン間での電界集中のより一層の軽減を図る上では、ドメインの外形形状をより球体に近づけることが好ましい。そのためには、ドメイン径を、前記した範囲内でより小さくすることが好ましい。その方法としては、例えば、工程(iv)において、MRCとCMBとを混練して、MRCとCMBとを相分離させる。そして、MRCのマトリックス中にCMBのドメインを形成されたゴム混合物を調製する工程において、CMBのドメイン径を小さくするように制御する方法が挙げられる。
CMBのドメイン径を小さくすることでCMBの比表面積が増大し、マトリックスとの界面が増加するため、CMBのドメインの界面には張力を小さくしようとする張力が作用する。その結果、CMBのドメインは、その外形形状が、より球体に近づく。
【0067】
ここで、非相溶のポリマー2種を溶融混練させたときに形成されるマトリックス-ドメイン構造におけるドメイン径を決定する要素に関して、Taylorの式(式(6))、Wuの経験式(式(7)、(8))、及びTokitaの式(式(9))が知られている。
・Taylorの式
D=[C・σ/ηm・γ]・f(ηm/ηd) (6)
・Wuの経験式
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)0.84・ηd/ηm>1 (7)
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)-0.84・ηd/ηm<1 (8)
・Tokitaの式
D=12・P・σ・φ/(π・η・γ)・(1+4・P・φ・EDK/(π・η・γ))
(9)
【0068】
式(6)~(9)において、Dは、CMBのドメインの最大フェレ径、Cは、定数、σは、界面張力、ηmは、マトリックスの粘度、ηdは、ドメインの粘度、γは、せん断速度、ηは、混合系の粘度、Pは、衝突合体確率、φは、ドメイン相体積、EDKは、ドメイン相切断エネルギーを表す。
構成要素(iii)に関連して、ドメイン間距離の均一化を図るためには、式(6)~(9)に従って、ドメイン径を小さくすることが有効である。さらに、MRCとCMBとを混錬する工程において、ドメインの原料ゴムが分裂し、徐々にその粒径が小さくなっていく過程において、混錬工程をどこで止めたかによってもドメイン間距離は変化する。
したがって、そのドメイン間距離の均一性は、混錬工程における混錬時間及びその混錬の強度の指数となる混錬回転数によって制御可能であり、混錬時間が長いほど、混錬回転数が大きいほどドメイン間距離の均一性を向上させることができる。
【0069】
・ドメイン径Dの均一性;
ドメイン径Dは均一であること、つまり、粒度分布が狭い方が好ましい。導電層内の電荷が通るドメイン径Dの分布を均一とすることで、マトリックスドメイン構造内での電荷の集中を抑制し、導電性部材の全面にわたって放電の出やすさを効果的に増大することができる。
電荷が輸送される断面、すなわち、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面において、導電層の外表面から支持体方向への深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所における、50μm四方の観察領域を取得した際に、ドメイン径の標準偏差σd及びドメイン径の算術平均値Dの比σd/D(変動係数σd/D)が0以上0.40以下であることが好ましく、0.10以上0.30以下であることがより好ましい。
【0070】
ドメイン径の均一性を向上させるためには、前述のドメイン間距離の均一性を向上させる手法と等しく、式(6)~(9)に従い、ドメイン径を小さくすればドメイン径の均一性も向上する。さらにMRCとCMBとを混錬する工程において、ドメインの原料ゴムが分裂し、徐々にその粒径が小さくなっていく過程において、混錬工程をどこで止めたかによってもドメイン径の均一性は変化する。
したがって、そのドメイン径の均一性は、混錬工程における混錬時間及びその混錬の強度の指数となる混錬回転数によって制御可能であり、混錬時間が長いほど、混錬回転数が大きいほどドメイン径の均一性を向上させることができる。
【0071】
・ドメイン径の均一性の測定方法;
ドメイン径の均一性の測定は、先に説明したドメイン間距離の均一性の測定と同様の方法で得られる、破断面の直接観察で得られる画像を定量化することによって行うことができる。具体的な手段は後述する。
【0072】
<マトリックスドメイン構造の確認方法>
導電層中のマトリックスドメイン構造の存在は、導電層から薄片を作製して、薄片に形成した破断面の詳細観察により確認することができる。具体的な手順は後述する。
【0073】
<トナー>
次に、トナーについて説明する。
<トナーの誘電正接>
トナーは、誘電正接tanδが0.0027以上である。誘電正接tanδは誘電体内における電気エネルギー損失の度合いを表す指標であり、大きいほど電荷を流して逃がしやすい性質を有する。
トナーの誘電正接が0.0027以上であり、かつ導電性部材が上記特定の構成である場合、導電性部材に付着したトナーが放電を受けても電荷を局所に蓄えることがない。そのため、転写残トナーから電子写真感光体に対する異常放電の発生を抑制でき、ハーフトーン画像への白ポチの発生を防止し得る。
トナーの誘電正接は0.0035以上であることが好ましく、0.0037以上であることがより好ましく、0.0040以上であることがさらに好ましい。誘電正接の上限は特に制限されないが、好ましくは0.0100以下であり、より好ましくは0.0080以下である。
【0074】
トナーの誘電正接は周波数が1.0×10Hzで測定した値であり、本発明者らは鋭意検討の結果、この周波数帯における誘電正接が、高速プロセスにおける低温低湿環境下のハーフトーン濃度均一性と相関するパラメーターであることを見出した。
これは高速プロセスにおいて用いるプロセススピードが300mm/sec以上であり、電子写真感光体と帯電部材が接触するニップ幅が1mm前後であることから、概ね1/1000secの時間スケールで起こる電荷の授受に着目しているためであると考えている。
【0075】
トナーの誘電正接を0.0027以上とするためには、特に制限されるものではないが、例えば以下に示す手段を採用することが好ましい。
具体的には、トナー粒子が結着樹脂よりも抵抗の低い、粒子Aをトナー粒子の内部に存在させ、かつ該粒子Aをトナー粒子の内部で偏在させる、あるいは一部凝集させることが好ましい。
これにより、トナー粒子の内部に粒子Aを介した導通パスを形成させることができ、電荷を局所に蓄えずに流して均一化しやすくなり、結果として誘電正接が0.0027以上のトナーを得やすくなる。
【0076】
一般に結着樹脂として用いられるスチレンアクリル系樹脂や、ポリエステル系樹脂の体積抵抗率は1.0×1012Ω・cmを超える値を有し、絶縁体としてのふるまいをする。
トナーの誘電正接を高めるために粒子Aの体積抵抗率が1.0×1012Ω・cm以下であることが好ましく、1.0×1011Ω・cm以下であることがより好ましい。
一方で現像工程や転写工程においてトナーの帯電性を維持しやすい点で、粒子Aの体積抵抗率が、1.0×10Ω・cm以上であることが好ましく、1.0×10Ω・cm以上であることがより好ましい。
【0077】
粒子Aとしては、磁性体、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、チタニア、チタン酸ストロンチウムを基材とする粒子を挙げることができる。粒子Aは有機又は無機の表面処理を施されていてもよい。
その中でも、粒子Aがトナーの着色剤としての役割も担うことができ、トナー粒子の表面近傍に偏在させることで誘電正接を高めやすく、かつ後述する比誘電率も高めやすい観
点から、粒子Aは磁性体であることが好ましい。すなわち、トナー粒子が磁性体を含むことが好ましい。
【0078】
またトナー粒子において、粒子Aをトナー粒子の内部で偏在させる、あるいは凝集させる方法については特に制限されるものではない。
よりトナー粒子の内部において、粒子Aを偏在あるいは凝集させやすい観点から、トナー粒子の製造方法としては、懸濁重合法又は乳化凝集法を選択することが好ましく、トナー粒子の表面近傍における粒子Aの存在状態を制御しやすい観点から、懸濁重合法を選択することがより好ましい。
具体的には、懸濁重合法においては、粒子Aの表面処理剤、処理量、処理状態を好ましい態様とすることにより、親水性と疎水性のバランスを制御でき、トナー粒子中における粒子Aの存在位置を制御できるため好ましい。また造粒工程において造粒液滴にかかるせん断力を高めることで、トナー粒子の表面近傍に粒子Aを集めやすくなるため好ましい。
【0079】
<トナーの比誘電率>
トナーの比誘電率εrは2.00以上であることが好ましい。より好ましくは2.05以上3.00以下であり、さらに好ましくは2.10以上2.80以下である。上記範囲であると、トナーの誘電体としての性質が強くなり、トナー粒子内部の分極作用によってトナーの帯電性を維持しやすくなる。
そのため印刷ジョプ終了後に長期放置した場合においても帯電性を維持できるため、放置後のかぶりの発生を抑制できるため好ましい。比誘電率は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0080】
トナーが高い比誘電率を有するためには、トナー粒子に粒子Aを含有させることが好ましい。そして、粒子Aの体積抵抗率を適切な値に制御することが好ましい。粒子Aの体積抵抗率は、好ましくは1.0×10Ω・cm以上1.0×1012Ω・cm以下、より好ましくは1.0×10Ω・cm以上1.0×1011Ω・cm以下である。
上記の抵抗値を実現しやすい点で、粒子Aが磁性体であることがより好ましい。また比誘電率を高めるためには、トナー粒子の内部における粒子Aの含有量を増やして分極サイトを増やすことが好ましい。粒子Aの含有量は、結着樹脂100質量部に対して45質量部以上が好ましい。
【0081】
トナーは、トナー粒子が粒子Aとして磁性体を含有することが好ましい。
<E2/E1>
トナーは、X線光電子分光分析法により測定される該トナー粒子の表面に存在する、炭素元素の存在量(E1)に対する、鉄元素の存在量(E2)の比(E2/E1)が0.00100以下であることが好ましい。好ましくはE2/E1は0.000100以下であり、より好ましくは0.0000100以下である。
下限は特に制限はないが、好ましくは0.0000000100以上であり、より好ましくは0.000000100以上である。
【0082】
E2/E1はトナー粒子が磁性体を含有する場合、該磁性体がトナー粒子の表面から露出する度合いを示すものである。E2/E1が0.00100以下の場合、おおむね露出はないと判断でき、トナーが帯電性を維持しやすくなる。印刷ジョブ終了後に長期放置した場合においてもトナーが帯電性を維持できるため、放置後のかぶりの発生を抑制できる。
E2/E1は、トナーの製造方法として、懸濁合法、乳化凝集法を採用することや、磁性体の表面処理剤などにより制御できる。具体的にはアルキルトリアルコキシシランカップリング剤の炭素数(下記pの値)を好ましい範囲とし、磁性体の表面処理剤、処理量、処理状態を好ましい態様とする手段が挙げられる。
また磁性体の含有量を制御することが好ましく、トナー粒子が磁性体を結着樹脂100質量部に対して35質量部以上100質量部以下含有することが好ましい。
【0083】
<10%領域における磁性体の存在比率>
透過型電子顕微鏡による該トナーの断面観察において、磁性体が、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心までの距離のうち、該輪郭から10%以下の領域に、60面積%以上100面積%以下存在することが好ましい。
以下、上記の値を単に「10%領域における磁性体存在率」と呼ぶことがある。10%領域における磁性体の存子在率の測定方法は後述する。
トナー粒子の内部において、磁性体がこのような存在状態であることにより、磁性体がトナー粒子の内部で偏在化して適度に凝集した構造を有するため、トナーの誘電正接や比誘電率を上記の好ましい範囲に制御しやすくなる。
【0084】
また10%領域における磁性体存在率が、60面積%以上100面積%以下であることで、磁性体によるフィラー効果によってトナー粒子表面が凝似的に硬くなり、耐久使用における外添剤の埋め込みやトナー割れを抑制できる。そのため高温高湿環境におけるハーフトーン濃度維持率が良好となり、トナーの耐久性も良好になる。
【0085】
低温低湿環境におけるハーフトーン濃度均一性と、高温高湿環境におけるハーフトーン濃度維持率がより良好となるため、10%領域における磁性体存在率は、65面積%以上100面積%以下であることがより好ましく、70面積%以上100面積%以下であることがさらに好ましく、70面積%以上99面積%以下であることがさらにより好ましい。
10%領域における磁性体存在率は、トナーの製造方法として懸濁重合法の選択、磁性体の粒径と含有量、磁性体を処理する疎水化処理剤の種類及び添加量、疎水化処理剤の処理方法により制御することができる。
【0086】
<A1値>
透過型電子顕微鏡による該トナーの断面観察において、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域における、磁性体が占める面積比率をA1としたとき、面積比率A1が35%以上85%以下であることが好ましい。
A1値が35%以上85%以下である場合、トナー表面近傍における磁性体は適度な距離で分布しているものとなるため、表面近傍において電荷の授受がよりスムーズに行われるようになる。よって白ポチ発生により厳しい環境である極低温低湿環境下においても、異常放電の発生を抑制でき、ハーフトーン濃度均一性が良好となる。A1値は38%以上85%以下であることがより好ましい。
【0087】
A1値は、トナーの製造方法として懸濁重合法を採用することや、磁性体の表面処理剤などにより制御できる。具体的にはアルキルトリアルコキシンランカップリング剤の炭素数を好ましい範囲とし、磁性体の表面処理剤、処理量、処理状態、磁性体の粒径を後述する好ましい態様とする方法が挙げられる。
トナー粒子内部の磁性体の存在状態は、トナーを切片に加工した後、TEMを用いて観察する。TEM観察により得られたトナーの断面画像において、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域とは、以下のようにして求められる範囲である。
すなわち、TEMの拡大倍率と解像度から、単位画素あたりの長さを算出し、これに基づき、200nmに相当する画素数を算出する。次に、トナー粒子断面の輪郭から、該断面の重心方向に200nmに相当するピクセル数の距離に境界線を引く。この境界線からトナー粒子表面までの領域を、トナー粒子断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域(以下、領域Aともいう)とする。具体的な手順は後述する。
【0088】
<A2/A1>
透過型電子顕微鏡によるトナーの断面観察において、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域における、磁性体が占める面積比率をA1とし、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以上400nm以下の領域における、磁性体が占める面積比率をA2としたとき、該面積比率A1に対するA2の比(A2/A1)が0以上0.75以下であることが好ましく、0.10以上0.65以下であることがより好ましく、0.20以上0.60以下であることがさらに好ましい。
A2/A1が上記範囲にあることで、高速プロセスでラフ紙を用いた場合においても、ハーフトーン画像の耐こすり定着性が良好となる。
【0089】
磁性体などの粒子がトナー粒子内部に存在する場合、定着ニップ内でトナー粒子が溶融された際に磁性体によるフィラー効果が発現して結着樹脂の粘性が見かけ上高まり、結着樹脂のぬれ広がり性を妨げ、結果として定着画像のこすり耐性が低下する場合がある。
本発明者らが検討した結果、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向に400nm以下の領域に磁性体が多く存在するほど定着性が低下しやすいことがわかった。
これは、トナーは表面近傍から溶融して定着するため、磁性体がトナーの表面近傍に存在するほど溶融阻害を起こしやすいためだと考えられた。
【0090】
しかしながら本発明者らがさらに詳細に検討した結果、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向ヘ200nm以下の領城において存在する磁性体よりも、むしろ該トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以上400nm以下の領域に存在する磁性体のほうが定着性に影響しやすい傾向にあることがわかった。
そのため上述のように磁性体の存在割合として、A2/A1を0.75以下とする、すなわちA2よりもA1を大きくすることにより、こすり定着性を向上できることを見出した。
【0091】
これはおそらく以下の理由によるものと考えている。
ラフ紙のような凹凸の大きい紙にハーフトーン画像を定着させる場合、定着ニップ内でおこるトナー粒子の溶融ぬれ広がり変形よりも、定着ニップ通過後に紙に蓄熱された熱によっておこる無加圧状態における溶融ぬれ広がり変形の方が、磁性体を含有するトナーの定着に影響が大きいことがわかった。
トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以下の領域は、トナー粒子の極表面近傍の領域であるため、定着ニップ内において定着器から直接的に熱と圧力が加えられて変形を受ける。このとき該領域における結着樹脂は速やかに溶かされ、圧力によって磁性体との位置関係も乱されるため、磁性体によるフィラー効果が発現しにくいものと考えられる。
【0092】
一方で、トナー粒子の断面の輪郭から該断面の重心方向へ200nm以上400nm以下の領域は、定着ニップ内においては定着器から熱と圧力が伝達するのに時間的な遅れがあるため、定着ニップ通過後におこる変形より大きな影響を受けると考えられる。
そのため、無加圧で、かつ定着余熱による比較的低い温度における変形となるため、磁性体のような粒子のフィラー効果の影響を受けやすく、定着性の低下を招きやすいものと考えられる。
よりこすり定着性が良好となる点で、A2が低いことが好ましく、A2は、0%以上37%以下であることが好ましく、0%以上34%以下であることがより好ましい。
A2値は、トナーの製造方法として懸濁重合法を採用することや、磁性体の表面処理剤や、磁性体の含有量などにより制御できる。
【0093】
<ドメイン間距離Dmsとトナー粒径Dtとの関係>
本開示において、導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面
間距離の算術平均値Dms(μm)(以降、単に「ドメイン間距離Dms」ともいう)とトナーの重量平均粒径Dt(μm)との関係が、Dt>Dmsであることが好ましい。Dt-Dmsが、0.10~10.00であることがより好ましい。
Dt>Dmsであることで導電性部材の表面に付着したトナー粒子が、導電性部材の表面に存在する複数のドメインと接触しやすくなるため、トナー表層における電荷の偏りがより低減でき、異常放電の発生をさらに抑制できる。
そのためより厳しい環境である極低温低湿環境下においても、ハーフトーン画像の均一性が良好となるため好ましい。
ドメイン間距離Dmsは、好ましくは0.20μm以上5.00μm以下であり、より好ましくは0.30μm以上1.50μm以下である。
【0094】
<ドメイン間距離Dmsと磁性体の一次粒子の個数平均粒径Dmgの関係>
ドメイン間距離Dms(μm)と、磁性体の一次粒子の個数平均粒径Dmg(μm)の関係が、Dms>Dmgであることが好ましい。Dms-Dmgが、0.001~2.500であることがより好ましく、Dms-Dmgが、0.010~2.000であることがより好ましい。
Dms>Dmgであることで、導電性部材の表面にトナー粒子が付着したとしても、トナー粒子によって導電性部材の表面から発生している微細放電の態様を乱しにくいため好ましい。
【0095】
より具体的には、トナー粒子に含まれる磁性体が、隣接するドメイン同士に導通パスを形成してしまうことを抑制できる。そのため、ドメイン間の放電が合流することによる局所的な一回の放電量の大きい放電が発生することを抑制でき、安定的に微細放電の態様を実現できる。
そのため、より厳しい環境である極低温低湿環境下における異常放電の発生を抑制でき、ハーフトーン画像の均一性が良好となるため好ましい。
【0096】
トナーは、好ましくは磁性体を含有するトナー粒子を含有する。
磁性体としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトのような磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む磁性酸化鉄;Fe、Co、Niのような金属、あるいは、これらの金属とAl、Co、Cu、Pb、Mg、Ni、Sn、Zn、Sb、Be、Bi、Cd、Ca、Mn、Se、Ti、W、Vのような金属との合金、並びにこれらの混合物が挙げられる。
これらの中でも、マグネタイトが好ましく、その形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、燐片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形などの異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。
【0097】
磁性体の一次粒子の個数平均粒径は、50nm以上500nm以下であることが好ましく、100nm以上300nm以下であることがより好ましく、150nm以上250nm以下であることがさらに好ましい。
トナー粒子中に存在する磁性体の一次粒子の個数平均粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。測定方法については後述する。
【0098】
磁性体の含有量は、結着樹脂100質量部に対し、35質量部以上100質量部以下であることが好ましく、45質量部以上95質量部以下であることがより好ましい。磁性体の含有量が上記範囲にあることで、上述した10%領域における磁性体存在率を好ましい範囲に制御しやすくなることに加え、トナーのカバーリング特性や磁気特性が良好となる。
なお、トナー中の磁性体の含有量は、パーキンエルマー社製熱分析装置TGA Q5000IRを用いて測定することができる。測定方法は、窒素雰囲気下において昇温速度2
5℃/分で常温から900℃までトナーを加熱し、100℃~750℃の減量質量を、トナーから磁性体を除いた成分の質量とし、残存質量を磁性体量とする。
【0099】
磁性体の製造方法として、以下を例示することができる。
第一鉄塩水溶液に、鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウムなどのアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHをpH7以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性体の芯となる種晶をまず生成する。
【0100】
次に、種晶を含むスラリー状の液に前に加えたアルカリの添加量を基準として1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5~10に維持しながら空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粒子を成長させる。このとき、任意のpH及び反応温度、攪拌条件を選択することにより、磁性体の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5未満にしない方が好ましい。このようにして得られた磁性酸化鉄粒子を定法により濾過、洗浄、乾燥することにより磁性体を得ることができる。
【0101】
磁性体に上述した水分吸脱着特性を発現させるためには、磁性体の粒子表面を疎水化処理剤によって処理し、疎水性を高めながら、一定の水分吸着性を持たせるよう制御することが好ましい。そのためには、特に制限されるものではないが、後述する式(I)で示した比較的炭素数の大きい疎水化処理剤を用い、後述する処理装置を用いて表面処理を施された磁性体であることが好ましい。
これにより疎水化処理剤を磁性体の粒子表面に均一に反応させて高い疎水性を発現でき、同時に磁性体の粒子表面の水酸基を完全に疎水化せずに一部残存させ、一定の水分吸着性を持たせることができる。
【0102】
磁性体は下記式(I)で示される、アルキルトリアルコキシシランカップリング剤を疎水化処理剤として用いて疎水化処理された疎水化処理磁性体であることが好ましい。疎水化処理磁性体は、磁性体と、該磁性体表面の疎水化処理剤とを有する。
2p+1-Si-(OC2q+1 (I)
式(I)中、pは6以上20以下(好ましくは8以上16以下、より好ましくは10以上14以下)の整数を示し、qは1以上3以下(好ましくは1又は2、より好ましくは1)の整数を示す。
上記式におけるpが6以上であることで疎水性を十分に付与することができ、一方でpが20以下であることで、磁性体表面において均一に処理させることができ、磁性体の合一を抑制できるため好ましい。
【0103】
上記の疎水化処理剤を後述する好ましい処理方法で処理することで、磁性体表面において水酸基を一部に残存させた状態でも、疎水性を高めやすくなる。これにより、磁性体をトナー粒子表面近傍に存在させやすくなるため10%領域における磁性体存在率を高めやすいため好ましい。またこれにより、トナーの誘電正接や、比誘電率を所望の範囲としやすいため好ましい。
pは、8以上14以下の整数であることが好ましく、8以上12以下の整数であることがより好ましい。qは1又は2の整数であることがより好ましい。
【0104】
疎水化処理剤の添加量は、未処理の磁性体100質量部に対し0.3質量部以上2.0質量部以下であることが好ましい。
0.3質量部以上であることにより、磁性体の疎水性を高められるため、磁性体を内包化してE2/E1を小さくできるため好ましい。より好ましくは0.5質量部以上である。
また、2.0質量部以下であることにより、磁性体粒子の表面に適度に残存水酸基価を存在させることができ、磁性体をトナー粒子の表面近傍に存在させやすくなるため好ましい。より好ましくは1.5質量部以下であり、さらに好ましくは1.3質量部以下である。
上記シランカップリング剤を用いる場合、単独で処理する、又は複数を併用して処理することが可能である。複数を併用する場合、それぞれのカップリング剤で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。またその他としてチタンカップリング剤などを併用してもよい。
【0105】
疎水化処理の方法は特に制限されないが、以下の方法が好ましい。
疎水化処理剤を磁性体の粒子表面に均一に反応させて高い疎水性を発現させると同時に、磁性体の粒子表面の水酸基を完全に疎水化せずに一部残存させることを目的として、ホイール形混練機又はらいかい機によって、乾式にて疎水化処理を施すことが好ましい。
ここでホイール形混練機としては、ミックスマラー、マルチマル、ストッツミル、逆流混練機、アイリッヒミル等が適用でき、ミックスマラーを適用することが好ましい。
ホイール形混練機又はらいかい機を用いた場合には、圧縮作用、せん断作用、へらなで作用という3つの作用を発現させることができる。
【0106】
圧縮作用によって磁性体の粒子間に存在する疎水化処理剤を磁性体の表面に押しつけ、粒子表面との密着性、反応性を高めることができる。せん断作用によって疎水化処理剤と磁性体それぞれにせん断力を加え、疎水化処理剤を引き延ばしとともに、磁性体の粒子をばらばらにして凝集を解すことができる。さらに、へらなで作用により磁性体粒子表面に存在する疎水化処理剤をへらでなでるように均一に広げることができる。
上記3つの作用が連続的かつ繰り返し発現することによって、磁性体粒子の凝集を解して再凝集させることなく、一つ一つの粒子に解しながら個々の粒子の表面を偏りなく疎水化処理することができる。
【0107】
通常、式(I)で示される比較的炭素数の大きい疎水化処理剤は、分子が大きくて嵩高いために磁性体の粒子表面において分子レベルで均一に処理することは難しい傾向にあるが、上記の手法による処理であれば安定的に処理することが可能となるため好ましい。
そしてホイール形混練機又はらいかい機によって、式(I)で示される疎水化処理剤を用いて磁性体の疎水化処理をした場合、該磁性体の粒子表面において、疎水化処理剤と反応した部分と反応せずに残った水酸基価が交互に存在して共存する状態を形成できる。
磁性体の粒子表面をこのような状態とすることで、疎水性を高めながら、一定の水分吸着性を持たせることができ、磁性体を表面近傍に存在させやすくさせることができる。
【0108】
トナー粒子は結着樹脂を含有してもよい。
結着樹脂としては、以下のものが挙げられる。
ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオール樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロンインデン樹脂、石油系樹脂。
好ましくは、ビニル系樹脂、スチレン系共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル樹脂とビニル系樹脂が混合、又は両者が一部反応したハイブリッド樹脂である。
【0109】
トナー粒子は、離型剤を含有してもよい。
離型剤としては、カルナウバワックス、モンタン酸エステルワックスなどの脂肪酸エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナウバワックスなどのような脂肪酸エステル類から酸成分の一部又は全部を脱酸したもの;植物性油脂の水素添加などによって得られる
、ヒドロキシ基を有するメチルエステル化合物;ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニルなどの飽和脂肪酸モノエステル類;セバシン酸ジベヘニル、ドデカン二酸ジステアリル、オクタデカン二酸ジステアリルなどの飽和脂肪族ジカルボン酸と飽和脂肪族アルコールとのジエステル化物;ノナンジオールジベヘネート、ドデカンジオールジステアレートなどの飽和脂肪族ジオールと飽和脂肪酸とのジエステル化物、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスなどの脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物又はそれらのブロック共重合物;脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸などのビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス類;パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸などの飽和直鎖脂肪酸類;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸などの不飽和脂肪酸類;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコールなどの飽和アルコール類;ソルビトールなどの多価アルコール類;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドなどの脂肪酸アミド類;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどの飽和脂肪酸ビスアミド類;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどの不飽和脂肪酸アミド類;m-キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’-ジステアリルイソフタル酸アミドなどの芳香族系ビスアミド類;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪族金属塩(一般的に金属石けんといわれているもの);炭素数12以上の長鎖アルキルアルコール又は長鎖アルキルカルボン酸;などが挙げられる。
【0110】
これらの離型剤の中では、飽和脂肪酸モノエステル類やジエステル化物などの1官能又は2官能のエステルワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素ワックスが好ましい。
また、離型剤の示差走査型熱量計(DSC)で測定される昇温時の最大吸熱ピークのピーク温度で規定される融点は、60℃~140℃であることが好ましい。より好ましくは60℃~90℃である。融点が60℃以上であると、トナーの保存性が向上する。一方、融点が140℃以下であると、低温定着性が向上しやすくなる。
離型剤の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であることが好ましい。
【0111】
トナー粒子は、荷電制御剤を含有してもよい。
負帯電用の荷電制御剤としては、有機金属錯化合物、キレート化合物が有効であり、モノアゾ金属錯化合物;アセチルアセトン金属錯化合物;芳香族ハイドロキシカルボン酸又は芳香族ダイカルボン酸の金属錯化合物などが例示される。
市販品の具体例として、Spilon Black TRH、T-77、T-95(保土谷化学工業(株))、BONTRON(登録商標)S-34、S-44、S-54、E-84、E-88、E-89(オリエント化学工業(株))が挙げられる。
これらの荷電制御剤は単独、又は二種以上組み合わせて用いることが可能である。荷電制御剤の使用量は、トナーの帯電量の点から、結着樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましい。
【0112】
トナーは磁性体を着色剤として用いることができるが、さらに従来公知の着色剤を併用することができる。例えば、黒色着色剤としてカーボンブラック、グラフト化カーボンや以下に示すイエロー、マゼンタ及びシアン着色剤を用い黒色に調色されたものが利用可能である。
イエロー着色剤としては、縮合アゾ化合物、イソインドリノン化合物、アンスラキノン化合物、アゾ金属錯体、メチン化合物、アリルアミド化合物に代表される化合物が挙げられる。
【0113】
マゼンタ着色剤としては、縮合アゾ化合物、ジケトピロロピロール化合物、アントラキノン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーキ化合物、ナフトール化合物、ベンズイミダゾロン化合物、チオインジゴ化合物、ペリレン化合物などが挙げられる。
シアン着色剤としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキノン化合物、塩基染料レーキ化合物などが挙げられる。これらの着色剤は、単独又は混合しさらには固溶体の状態で用いることができる。
着色剤(磁性体以外のもの)の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、2質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0114】
トナー粒子は、下記の架橋剤を含有してもよい。
ジビニルベンゼン、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコール#200ジアクリレート(A200)、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート(A400)、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート(A600)、ポリエチレングリコール#1000ジアクリレート(A1000);
ジプロピレングリコールジアクリレート(APG100)、トリプロピレングリコールジアクリレート(APG200)、ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート(APG400)、ポリプロピレングリコール#700ジアクリレート(APG700)、ポリテトラプロピレングリコール#650ジアクリレート(A-PTMG-65)。
【0115】
トナーは、トナー粒子及び外添剤を有していてもよい。
外添剤としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、チタン酸ストロンチウム微粒子、酸化セリウム微粒子及び炭酸カルシウム微粒子の金属酸化物微粒子(無機微粒子)を挙げることができる。また、2種類以上の金属を用いた複合酸化物微粒子を用いることもできるし、これらの微粒子群の中から任意の組み合わせで選択される2種以上を用いることもできる。
また、樹脂微粒子や、樹脂微粒子と無機微粒子の有機無機複合微粒子を用いることもできる。
外添剤は、シリカ微粒子及び有機無機複合微粒子からなる群から選択される少なくとも一を有することがより好ましい。
【0116】
シリカ微粒子は、ゾルゲル法で作製されるゾルゲルシリカ微粒子、水性コロイダルシリカ微粒子、アルコール性シリカ微粒子、気相法により得られるフュームドシリカ微粒子、溶融シリカ微粒子などが挙げられる。
樹脂微粒子としては、ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂のような樹脂粒子が挙げられる。
有機無機複合微粒子としては、樹脂微粒子と無機微粒子で構成された有機無機複合微粒子が挙げられる。
有機無機複合微粒子であれば、無機微粒子としての良好な耐久性及び帯電性を維持しつつ、定着時においては、熱容量の低い樹脂成分により、トナー粒子の合一を阻害しにくく、定着阻害を生じにくい。その為、耐久性と定着性の両立を図りやすい。
【0117】
有機無機複合微粒子は、好ましくは、樹脂成分である樹脂微粒子(好ましくはビニル系樹脂微粒子)の表面に埋め込まれた無機微粒子で構成された凸部を有する複合微粒子である。より好ましくは、ビニル系樹脂粒子の表面に無機微粒子が露出している構造を有する複合微粒子である。さらに好ましくは、該ビニル系樹脂微粒子の表面に、該無機微粒子に
由来する凸部を有する構造を有する複合微粒子である。
有機無機複合微粒子を構成する無機微粒子としては、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、チタニア微粒子、酸化亜鉛微粒子、チタン酸ストロンチウム微粒子、酸化セリウム微粒子及び炭酸カルシウム微粒子などの微粒子を挙げることができる。
外添剤の含有量は、トナー粒子100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下であることが好ましい。
【0118】
外添剤は、疎水化処理剤により疎水化処理がされていてもよい。
疎水化処理剤としては、例えば、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、t-ブチルジメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシランなどのクロロシラン類;
テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、o-メチルフェニルトリメトキシシラン、p-メチルフェニルトリメトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、i-ブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、i-ブチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアルコキシシラン類;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、へキサプロピルジシラザン、ヘキサブチルジシラザン、ヘキサペンチルジシラザン、ヘキサヘキシルジシラザン、ヘキサシクロヘキシルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ジメチルテトラビニルジシラザンなどのシラザン類;
ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、クロロアルキル変性シリコーンオイル、クロロフェニル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコキシ変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、及び、末端反応性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル;
ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどのシロキサン類;
脂肪酸及びその金属塩として、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ドデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ペンタデシル酸、ステアリン酸、ヘプタデシル酸、アラキン酸、モンタン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの長鎖脂肪酸、前記脂肪酸と亜鉛、鉄、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ナトリウム、リチウムなどの金属との塩が挙げられる。
【0119】
これらの中でも、アルコキシシラン類、シラザン類、シリコーンオイルは、疎水化処理を実施しやすいため、好ましく用いられる。これらの疎水化処理剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
トナーは、トナーの流動性や帯電性を向上させるために、複数種の外添剤を含んでいてもよい。
【0120】
以下に、トナーの製造方法について例示する。
磁性体の存在状態を制御する観点から、分散重合法、会合凝集法、溶解懸濁法、懸濁重合法、乳化凝集法など、水系媒体中でトナー粒子を製造することが好ましい。
懸濁重合法は、トナー粒子の表面近傍に磁性体を存在させやすいため好ましい。
【0121】
懸濁重合法では、例えば、結着樹脂を生成しうる重合性単量体及び磁性体、並びに、必要に応じて、着色剤、重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤及びその他の添加剤を、均一に分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、分散安定剤を含有する連続層(例えば水相)中に、適当な攪拌器を用いて、得られた重合性単量体組成物を分散・造粒し、重合開始剤を用いて重合反応を行い、所望の粒径を有するトナー粒子を得る。
【0122】
重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-エチルスチレンなどのスチレン系単量体。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-クロルエチル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル類。
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのメタクリル酸エステル類。
その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどの単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。
上述の単量体の中でも、スチレン系単量体を単独で、又はアクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類など他の単量体と混合して使用することがトナー構造を制御し、トナーの現像特性及び耐久性を向上し易い点から好ましい。特に、スチレンとアクリル酸エステル又は、スチレンとメタクリル酸エステルを主成分として使用することがより好ましい。すなわち、結着樹脂がスチレンアクリル樹脂を50質量%以上含有することが好ましい。
アクリル酸エステル類及びメタクリル酸エステル類からなる群から選択される少なくとも一、並びにスチレンの重合体が好ましい。
【0123】
重合法によるトナー粒子の製造において使用される重合開始剤としては、重合反応時における半減期が0.5時間以上30時間以下であるものが好ましい。また、重合性単量体100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下の添加量で用いることが好ましい。そうすると、分子量5000以上50000以下の間に極大を有する重合体を得ることができ、トナーに好ましい強度と適当な溶融特性を与えることができる。
【0124】
具体的な重合開始剤としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系又はジアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネートなどの過酸化物系重合開始剤が挙げられる。
この中でも、t-ブチルパーオキシピバレートが好ましい。
【0125】
トナーを重合法により製造する場合は、架橋剤を添加してもよい。
添加量は、重合性単量体100質量部に対して、0.05質量部以上15.0質量部以下であることが好ましく、0.10質量部以上10.0質量部以下であることがより好ましく、0.20質量部以上5.0質量部以下であることがさらに好ましく、0.10質量部以上3.00質量部以下であることがさらにより好ましく、0.20質量部以上2.50質量部以下であることが特に好ましい。
【0126】
上記重合性単量体組成物には、極性樹脂を含有させてもよい。
極性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリル酸エチル共重合体、スチレン-アクリル酸ブチル共重合体、スチレン-アクリル酸オクチル共重合体、スチレン-アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸メチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸エチル共重合体、スチレン-メタアクリル酸ブチル共重合体、スチレン-メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン-ポリエステル共重合体、ポリアクリレート-ポリエステル共重合体、ポリメタクリレート-ポリエステル共重合体、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
これらを単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。また、これらポリマー中にアミノ基、カルボキシ基、水酸基、スルフォン酸基、グリシジル基、ニトリル基などの官能基を導入してもよい。これらの樹脂の中でも、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0127】
ポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はその両者を適宜選択して使用することが可能である。
ポリエステル樹脂は、アルコール成分と酸成分から構成される通常のものが使用でき、両成分については以下に例示する。
2価のアルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、オクテンジオール、シクロヘキセンジメタノール、水素化ビスフェノールA、又は式(A)で表されるビスフェノール誘導体;下記式(A)で表される化合物の水添物、下記式(B)で示されるジオール又は、式(B)の化合物の水添物のジオールが挙げられる。
【0128】
【化1】

式(A)中、Rはエチレン基又はプロピレン基であり、x及びyはそれぞれ1以上の整数であり、x+yの平均値は2~10である。
【0129】
【化2】
【0130】
2価のアルコール成分としては、帯電特性、環境安定性が優れておりその他の電子写真特性においてバランスのとれた上記ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が特に好ましい。
この化合物の場合には、定着性やトナーの耐久性の点においてアルキレンオキサイドの平均付加モル数は2以上10以下が好ましい。
【0131】
2価の酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸のようなベンゼンジカルボン酸又はその無水物;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸のようなアルキルジカルボン酸又はその無水物;炭素数6~18のアルキル又はアルケニル基で置換されたコハク酸又はその無水物;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸のような不飽和ジカルボン酸又はその無水物などが挙げられる。
【0132】
さらに、3価以上のアルコール成分としては、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ノボラック型フェノール樹脂のオキシアルキレンエーテルを例示することができ、3価以上の酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物などを例示することができる。
ポリエステル樹脂は、アルコール成分と酸成分との合計を100モル%としたとき、45モル%以上55モル%以下がアルコール成分であることが好ましい。
【0133】
ポリエステル樹脂は、スズ系触媒、アンチモン系触媒、チタン系触媒などいずれの触媒を用いて製造することができるが、チタン系触媒を用いることが好ましい。
また、極性樹脂は、現像性、耐ブロッキング性、耐久性の観点から、数平均分子量が2500以上25000以下であることが好ましい。
極性樹脂の酸価は、1.0mgKOH/g以上15.0mgKOH/g以下であることが好ましく、2.0mgKOH/g以上10.0mgKOH/g以下であることがより好ましい。
極性樹脂の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。
【0134】
重合性単量体組成物が分散される水系媒体には分散安定剤を含有させてもよい。
分散安定剤としては、公知の界面活性剤、有機分散剤、及び無機分散剤が使用できる。
中でも無機分散剤は、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナーに悪影響を与えにくいため、好ましく使用できる。
無機分散剤の具体例としては、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、ヒドロキシアパタイトなどのリン酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウ
ムなどの無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機化合物が挙げられる。
【0135】
無機分散剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して、0.2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。また、分散安定剤は単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。さらに、0.001質量部以上0.1質量部以下の界面活性剤を併用してもよい。
無機分散剤を用いる場合には、そのまま使用してもよいが、より細かい粒子を得るため、水系媒体中にて無機分散剤の微粒子を生成させて用いることができる。
例えば、リン酸三カルシウムの場合、高速攪拌下、リン酸ナトリウム水溶液と塩化カルシウム水溶液とを混合して、水不溶性のリン酸カルシウムの微粒子を生成させることができ、より均一で細かな分散が可能となる。
界面活性剤としては、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどが挙げられる。
【0136】
重合性単量体を重合する工程において、重合温度は通常40℃以上、好ましくは50℃以上90℃以下の温度に設定するとよい。この温度範囲で重合を行うと、例えば、必要に応じて添加した離型剤などが相分離により析出して内包化がより完全となる。
その後、50℃以上90℃以下程度の反応温度から冷却し、重合反応工程を終了させる冷却工程がある。その際に、離型剤と結着樹脂の相溶状態を保つように徐々に冷却するとよい。
重合性単量体の重合終了後、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することによりトナー粒子が得られる。トナー粒子はそのままトナーとして用いてもよい。トナー粒子に、外添剤を混合してトナー粒子の表面に付着させることで、トナーを得てもよい。また、該製造工程に分級工程を入れ、トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
【0137】
<プロセスカートリッジ>
プロセスカートリッジは以下の態様を有する。
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該現像装置が、トナーを有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有する。
このプロセスカートリッジに、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
プロセスカートリッジは、帯電装置及び現像装置を支持するための枠体を有していてもよい。
【0138】
図4は、導電性部材を帯電ローラとして具備している電子写真用のプロセスカートリッジの概略断面図である。このプロセスカートリッジは、現像装置と帯電装置とを一体化し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されたものである。
現像装置は、少なくとも現像ローラ93を備え、トナー99を有している。現像装置は、必要に応じてトナー供給ローラ94、トナー容器96、現像ブレード98、攪拌羽910が一体化されていてもよい。
帯電装置は、帯電ローラ92を少なくとも備えていればよく、クリーニングブレード95及び廃トナー容器97を備えていてもよい。導電性部材が電子写真感光体に接触可能に配置されればよいため、電子写真感光体(感光ドラム91)は、プロセスカートリッジの構成要素として、帯電装置と共に一体化されていてもよいし、電子写真装置の構成要素と
して本体に固定されていてもよい。
帯電ローラ92、現像ローラ93、トナー供給ローラ94、及び現像ブレード98は、それぞれ電圧が印加されるようになっている。
【0139】
<電子写真装置>
電子写真装置は以下の態様を有する。
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有する。
この電子写真装置に、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
電子写真装置は、
該電子写真感光体の表面に像露光光を照射して該電子写真感光体の表面に静電潜像を形成するための像露光装置、
該電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写するための転写装置、及び
該記録媒体に転写された該トナー像を該記録媒体に定着させるための定着装置、
を有していてもよい。
【0140】
図5は、導電性部材を帯電ローラとして用いた電子写真装置の概略構成図である。この電子写真装置は、四つのプロセスカートリッジが着脱可能に装着されたカラー電子写真装置である。各プロセスカートリッジには、ブラック、マゼンダ、イエロー、シアンの各色のトナーが使用されている。
感光ドラム101は矢印方向に回転し、帯電バイアス電源から電圧が印加された帯電ローラ102によって一様に帯電され、露光光1011により、その表面に静電潜像が形成される。一方、トナー容器106に収納されているトナー109は、攪拌羽1010によりトナー供給ローラ104へと供給され、現像ローラ103上に搬送される。
そして現像ローラ103と接触配置されている現像ブレード108により、現像ローラ103の表面上にトナー109が均一にコーティングされると共に、摩擦帯電によりトナー109へと電荷が与えられる。上記静電潜像は、感光ドラム101に対して接触配置される現像ローラ103によって搬送されるトナー109が付与されて現像され、トナー像として可視化される。
【0141】
可視化された感光ドラム上のトナー像は、一次転写バイアス電源により電圧が印加された一次転写ローラ1012によって、テンションローラ1013と中間転写ベルト駆動ローラ1014に支持、駆動される中間転写ベルト1015に転写される。各色のトナー像が順次重畳されて、中間転写ベルト上にカラー像が形成される。
転写材1019は、給紙ローラにより装置内に給紙され、中間転写ベルト1015と二次転写ローラ1016の間に搬送される。二次転写ローラ1016は、二次転写バイアス電源から電圧が印加され、中間転写ベルト1015上のカラー像を、転写材1019に転写する。カラー像が転写された転写材1019は、定着器1018により定着処理され、装置外に廃紙されプリント動作が終了する。
一方、転写されずに感光ドラム上に残存したトナーは、クリーニングブレード105により掻き取られて廃トナー収容容器107に収納され、クリーニングされた感光ドラム101は、上述の工程を繰り返し行う。また転写されずに一次転写ベルト上に残存したトナーもクリーニング装置1017により掻き取られる。
【0142】
<カートリッジセット>
カートリッジセットは以下の態様を有する。
電子写真装置の本体に脱着可能である第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有する。
このカートリッジセットに、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
【0143】
導電性部材が電子写真感光体に接触可能に配置されればよいため、第一のカートリッジが電子写真感光体を備えていてもよいし、電子写真装置の本体に電子写真感光体が固定されていてもよい。例えば、第一のカートリッジが、電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体及び該帯電装置を支持するための第一の枠体を有していてもよい。なお、第二のカートリッジが電子写真感光体を備えていてもよい。
第一のカートリッジ又は第二のカートリッジは、電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を備えていてもよい。現像装置は、電子写真装置の本体に固定されていてもよい。
【実施例
【0144】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示に係る構成をさらに詳細に説明するが、本開示に係る構成は、実施例に具現化された構成に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中で使用する「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0145】
<導電性部材1の製造例>
[1-1.ドメイン形成用ゴム混合物(CMB)の調製]
表1に示す各材料を、表1に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合してCMBを得た。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、30分間とした。
【0146】
【表1】
【0147】
[1-2.マトリックス形成用ゴム混合物(MRC)の調製]
表2に示す各材料を、表2に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー((商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合してMRCを得た。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0148】
【表2】
【0149】
[1-3.導電層形成用未加硫ゴム混合物の調製]
上記で得たCMB及びMRCを、表3に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合した。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、20分間とした。
【0150】
【表3】
【0151】
次いで、CMB及びMRCの混合物100部に対して、表4に示す加硫剤及び加硫促進剤を、表4に示す配合量加え、ロール径12インチのオープンロールを用いて混合し、導電層成形用ゴム混合物を調製した。
混合条件は、前ロール回転数10rpm、後ロール回転数8rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。
【0152】
【表4】
【0153】
(2.導電性部材の作製)
[2-1.導電性の外表面を有する支持体の用意]
導電性の外表面を有する支持体として、ステンレス鋼(SUS)の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を用意した。
【0154】
[2-2.導電層の成形]
支持体の供給機構、及び未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機の先
端に、内径10.0mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドの温度を80℃に、支持体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、押出機から、導電層形成用ゴム混合物を供給して、クロスヘッド内にて支持体の外周部を、該導電層形成用ゴム混合物で被覆し、未加硫ゴムローラを得た。
次に、160℃の熱風加硫炉中に前記未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱することで導電層形成用ゴム混合物を加硫し、支持体の外周部に導電層が形成されたローラを得た。その後、導電層の両端部を各10mm切除して、導電層部の長手方向の長さを232mmとした。
最後に、導電層の表面を回転砥石で研磨した。これによって、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.40mm、中央部直径が8.5mmのクラウン形状である導電性部材1を得た。
【0155】
【表5A-1】

表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は各社のカタログ値である。未加硫ドメインゴム組成物の値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、未加硫ドメインゴム組成物を構成する材料すべてを混練している時のゴム温度で測定されたものである。
SP値の単位は、(J/cm0.5であり、DBPは、DBP吸油量(cm/100g)を示す。各材料については表5B-1~5B~3に示す。
【0156】
【表5A-2】

表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は、各社のカタログ値である。未加硫マトリックス形成用ゴム組成物の値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、未加硫マトリックス形成用ゴム組成物を構成するすべての材料を
混練している時のゴム温度で測定されたものである。
【0157】
【表5B-1】
【0158】
【表5B-2】
【0159】
【表5B-3】
【0160】
導電性部材に関する物性の測定方法は以下の通りである。
[マトリックスドメイン構造の確認]
導電層におけるマトリックスドメイン構造の形成の有無について以下の方法により確認を行う。
カミソリを用いて導電性部材の導電層の長手方向と垂直な断面が観察できるように切片(厚さ500μm)を切り出す。次いで、白金蒸着を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1000倍で撮影し、断面画像を得る。
導電層からの切片において観察されたマトリックスドメイン構造は、断面画像内において、図2のように、複数のドメイン6bがマトリックス6a中に分散されて、ドメイン同士が接続せずに独立した状態で存在する形態を示す。6cは電子導電剤である。一方で、マトリックスは画像内で連通し、ドメインがマトリックスによって分断されている状態である。
【0161】
さらに、得られた撮影画像を定量化するために、SEMでの観察により得られた破断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256階調のモノクロ画像を得る。次いで、破断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転
処理した後、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づいて、2値化の閾値を設定し、2値化画像を得る。
当該2値化画像に対してカウント機能によって、50μm四方の領域内に存在し、かつ、2値化画像の枠線に接点を持たないドメインの総数に対して、上記のように、ドメイン同士が接続せずに孤立しているドメインの個数パーセントKを算出する。
具体的には、画像処理ソフトのカウント機能において、当該2値化画像の4方向の端部の枠線に接点を有するドメインがカウントされないよう設定する。
導電性部材の導電層を長手方向に均等に5等分し、周方向に均等に4等分して得られた領域のそれぞれから任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った際のKの算術平均値(個数%)を算出する。
Kの算術平均値(個数%)が80以上の場合に、マトリックスドメイン構造を「有」すると評価し、Kの算術平均値(個数%)が80を下回る場合に「無」と評価する。
【0162】
[マトリックスの体積抵抗率R1の測定]
マトリックスの体積抵抗率R1は、例えば、導電層から、マトリクスドメイン構造が含まれている所定の厚さ(例えば、1μm)の薄片を切り出し、当該薄片中のマトリクスに走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させることによって計測することができる。
弾性層からの薄片の切り出しは、例えば、図3(b)に示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、薄片が、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、83a、83b、83c)に平行な面の少なくとも一部を含むように切り出す。切り出しは、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)を用いて行うことができる。
体積抵抗率の測定は、導電層から切り出した薄片の片面を接地する。次いで、当該薄片の接地面とは反対側の面のマトリクスの部分に走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させ、50VのDC電圧を5秒間印加し、接地電流値を5秒間測定した値から算術平均値を算出し、その算出した値で印加電圧を除することで電気抵抗値を算出する。最後に薄片の膜厚を用いて、抵抗値を体積抵抗率に変換する。このとき、SPMやAFMは、抵抗値と同時に当該薄片の膜厚も計測できる。
円柱状の帯電部材におけるマトリックスの体積抵抗率R1の値は、例えば、導電層を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均値を算出することによって求める。
本実施例においては、まず、導電性部材の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの薄片を切り出した。薄片は、図3(b)に示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、83a、83b、83c)の少なくとも一部が含まれるように切り出した。
温度23℃、湿度50%RH環境において、当該薄片の一方の面(以降、「接地面」ともいう)を金属プレート上に接地させ、当該薄片の接地面とは反対側の面(以降、「測定面」ともいう)のマトリクスに相当し、かつ、測定面と接地面との間にドメインが存在していない箇所に走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation製)のカンチレバーを接触させた。続いて、5秒間、カンチレバーに50Vの電圧を印加し、電流値を測定して5秒間の算術平均値を算出した。
SPMで測定切片の表面形状を観察し、得られる高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出した。さらに、表面形状の観察結果から、カンチレバーの接触部の凹部面積を算出した。当該厚さと当該凹部面積とから体積抵抗率を算出した。
薄片は、導電層を長手方向に5等分し、周方向に4等分して得られたそれぞれの領域内
から任意に1点ずつ、合計20点の当該切片を作製して上記測定を行った。その平均値を、マトリックスの体積抵抗率R1とした。
なお、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation製)はコンタクトモードで操作した。
【0163】
[ドメインの体積抵抗率R2の測定]
上記マトリックスの体積抵抗率R1の測定において、超薄切片のドメインに該当する箇所で測定を実施し、測定の電圧を1Vにする以外は、同様の方法で、ドメインの体積抵抗率R2を測定する。
本実施例では、上記(マトリックスの体積抵抗率R1の測定)において、測定面のカンチレバーを接触させる箇所を、ドメインに相当し、かつ、測定面と接地面との間にマトリクスが存在しない箇所に変更し、電流値の測定の際の印加電圧を1Vに変更した以外は同様の方法で実施し、R2を算出した。
【0164】
[導電層の断面から観察されるドメインの円相当径Dの測定]
ドメインの円相当径Dは以下のように測定する。
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面(83a、83b、83c)が表れている面を有する、厚みが1μmのサンプルを、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて切り出す。
得られた3つのサンプルの各々の、導電層の厚さ方向の断面に白金を蒸着する。次いで、各サンプルの白金蒸着面のうち、導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域内の任意に選択した3か所を走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて5000倍で撮影する。
得られた9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(製品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)によって、2値化、カウント機能による定量化を行って、各撮影画像に含まれるドメインの面積の算術平均値Sを算出する。
次いで、各撮影画像について算出したドメインの面積の算術平均値Sから、ドメインの円相当径(=(4S/π)0.5)を計算する。次に、各撮影画像のドメインの円相当径の算出平均値を算出して、被測定対象である導電性部材の導電層断面から観察されるドメインの円相当径Dを得る。
【0165】
[ドメインの粒度分布の測定]
ドメインの円相当径Dの均一性を評価するための、ドメインの粒度分布の測定は、次のようにして行う。まず、上記ドメインの円相当径Dの測定で得られる、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)による5000倍の観察画像に対して画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)によって、2値化画像を得る。次いで、当該2値化画像内のドメイン群に対して、画像処理ソフトのカウント機能により平均値Dと標準偏差σdを算出し、次いで粒度分布の指標であるσd/Dを計算する。
ドメイン径のσd/D粒度分布の測定においては、導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所における、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面を取得する。上記の3つの測定位置から得られた3つの切片のそれぞれの、導電層外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所、合計9か所において、50μm四方の領域を解析画像として抽出して測定を実施し、9か所の算術平均値を算出する。
【0166】
[導電層の外表面から観察されるドメインの円相当径Dsの測定]
導電層の外表面から観察されるドメインの円相当径Dsは以下のように測定する。
導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、導電層の外表面が含まれるサンプルを切り出す。サンプルの厚さは1μmとする。
当該サンプルの、導電層の外表面に該当する面に白金を蒸着する。該サンプルの白金蒸着面の任意の3か所を選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて5000倍で撮影する。得られた合計9枚の撮影画像の各々を画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)を用いて2値化、カウント機能による定量化を行って、撮影画像の各々に含まれるドメインの平面積の算術平均値Ssを算出する。
次いで、各撮影画像について算出したドメインの平面積の算術平均値Ssから、ドメインの円相当径(=(4S/π)0.5を計算する。次いで、各撮影画像のドメインの円相当径の算出平均値を算出して、被測定対象である導電性部材を外表面から観察したときのドメインの円相当径Dsを得る。
【0167】
[導電層の断面から観察されるドメイン間距離Dmの測定]
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、図3(b)に示されるような導電層の厚さ方向の断面(83a、83b、83c)が表れている面を有するサンプルを取得する。
得られた3つのサンプルの各々について、導電層の厚さ方向の断面が表れた面における、導電層外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に50μm四方の解析領域を置く。当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影する。得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化する。
2値化の手順は以下のように行う。撮影画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256階調のモノクロ画像を得る。そして、撮影画像内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化し、撮影画像の2値化画像を得る。次いで、9枚の2値化画像の各々について、ドメインの壁面間距離を算出し、さらにそれらの算術平均値を算出する。この値をDmとする。なお、壁面間距離とは、最も近接しているドメイン同士の壁面間の距離(最短距離)であり、上記画像処理ソフトにおいて、測定パラメーターを隣接壁面間距離と設定することで求めることができる。
【0168】
[ドメイン間距離Dmの均一性の測定]
上記ドメイン間距離Dmの測定過程において得たドメインの壁面間距離の分布から、ドメイン間距離の標準偏差σmを算出し、ドメイン間距離の均一性の指標である変動係数σm/Dmを計算する。
【0169】
[導電性部材の外表面から観察されるドメインの隣接壁面間距離Dmsの測定]
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、カミソリを用いて導電性部材の外表面が含まれるようにサンプルを切り出す。サンプルのサイズは、導電性部材の周方向、及び長手方向に各々2mm、厚みは、導電性部材の厚さTとする。
得られた3つのサンプルの各々について、導電性部材の外表面に該当する面の任意の3ヶ所に50μm四方の解析領域を置き、当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影する。得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化する。
2値化の手順は、上記したドメイン間距離Dmを求める際の2値化の手順と同様である。次いで、9枚の撮影画像の2値化画像の各々について、ドメインの壁面間距離を求め、さらにそれらの算術平均値を算出する。この値をDmsとする。
【0170】
【表6】

表中、例えば10^16などの記載は、1016であることを示す。また、例えば「2.75E+15」は、「2.75×1015」であることを示し、「3.59E-13」は、「3.59×10-13」であることを示す。また、MD構造は、マトリックスドメイン構造の有無を示す。R1>R2の列において、YはR1>R2が成立したことを示し、NはR1>R2が成立しないことを示す。
【0171】
<導電性部材2~13の製造例>
原料ゴム、導電剤、加硫剤、加硫促進剤に関して表5A-1~表5A-2に示す材料、及び条件を用いる以外は、導電性部材1と同様にして導電性部材2~13を製造した。
なお、表5A-1~表5A-2中に示した材料の詳細については、ゴム材料は表5B-1、導電剤は5B-2、加硫剤及び加硫促進剤は5B-3に示す。
得られた導電性部材2~13の物性を表6に示す。
【0172】
トナーの各種物性の測定方法について以下に説明する。
<トナーからの磁性体の分離>
以下の方法で、トナーから分離した磁性体を用いて各物性の測定を行うこともできる。
まず50mLのバイアル瓶にトナー1gを添加する。
次にテトラヒドロフラン(THF)20gを添加して十分撹拌する。その後バイアル瓶の外側から底面にネオジム磁石を当てて磁性体を保持した状態でバイアル瓶の中のTHF溶液を廃棄する。
THFを加えて撹拌しTHF溶液を廃棄する操作を100回繰り返し、磁性体を単離した後、40℃で48時間真空乾燥することで、磁性体を単離することができる。
【0173】
<磁性体の一次粒子の個数平均粒径Dmgの測定方法>
磁性体の一次粒子の個数平均粒径Dmgの測定は、走査型電子顕微鏡「S-4800」(商品名;日立製作所製)を用いて行う。エポキシ樹脂中へ観察すべきトナーを十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させて硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、S-4800において1万~4万倍の拡大倍率の画像を撮影し、該画像中の100個の磁性体の一次粒子の投影面積を測定する。そして、該投影面積に等しい円の相当径を磁性体の一次粒子の粒子径とし、該100個の平均値を磁性体の一次粒子の個数平均粒径とする。
観察倍率は、磁性体の大きさによって適宜調整する。なお、磁性体を単独で入手できる場合は、上記方法で磁性体を単独で測定するとよい。
【0174】
<10%領域の磁性体存在率の測定方法>
透過型電子顕微鏡(TEM)で観察されるトナーの断面における、磁性体の表面偏在度の測定方法は、以下の通りである。
まず、常温硬化性のエポキシ樹脂中へ観察すべきトナーを十分に分散させる。
その後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を、そのまま、あるいは凍結してダイヤモンド刃を備えたミクロトームにより薄片状のサンプルとして観察する。観察対象となるトナー粒子の断面は、TEM画像における断面の投影面積から円相当径(投影面積円相当径)を求め、その値がトナーの個数平均粒径(D1)(μm)の±10%の幅に含まれるものとする。
透過型電子顕微鏡(日立製H-600型)を装置として用い、加速電圧100kVで観察し、拡大倍率が1万倍の顕微鏡写真を用いて測定する。
なお、観察した画像から磁性体を画像処理ソフト「ImageJ」(https://imagej.nih.gov/ij/より入手可能)を使用し、以下のように2値化を行う。
このとき観察した画像を「Image-Adjust-Threshold」を選択し、表示されたダイヤログボックスでトナー粒子の断面全体が抽出されるように閾値を設定し、二値化する。同じ画像を同様の手順で、閾値のみを変更することで、磁性体のみが抽出されるようにし、二値化を行う。
二値化した画像において、トナー粒子断面の重心から、トナー粒子断面の輪郭(トナー粒子表面)上の点に対して線を引く。該線上において、輪郭から重心までの距離のうち10%の位置を特定する。そして、トナー粒子断面の輪郭に対して一周分、この操作を行い、トナー粒子の輪郭から該断面の重心までの距離の10%以下の領域を明示する。
そして、トナー粒子の断面に存在する磁性体の全面積に対する、トナー粒子の輪郭から該断面の重心までの距離の10%以下の領域に存在する磁性体の面積の割合を算出する。100個のトナー粒子を観察しその相加平均値を採用する。
【0175】
<透過型電子顕微鏡(TEM)によるルテニウム染色処理されたトナー断面の観察方法>
トナーの透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察は以下のようにして実施することができる。トナー断面をルテニウム染色することによって観察する。トナーに含有される結晶性樹脂などは、結着樹脂のような非晶樹脂よりもルテニウムで染色されるため、コントラストが明瞭になり、観察が容易となる。染色の強弱によって、ルテニウム原子の量が異なるため、強く染色される部分は、これらの原子が多く存在し、電子線が透過せずに、観察像上では黒くなり、弱く染色される部分は、電子線が透過されやすく、観察像上では白くなる。
まず、カバーガラス(松波硝子社、角カバーグラス 正方形 No.1)上にトナーを一層となるように散布し、オスミウム・プラズマコーター(filgen社、OPC80T)を用いて、保護膜としてトナーにOs膜(5nm)及びナフタレン膜(20nm)を施す。次に、PTFE製のチューブ(内径Φ1.5mm×外径Φ3mm×3mm)に光硬化性樹脂D800(日本電子社)を充填し、チューブの上に前記カバーガラスをトナーが光硬化性樹脂D800に接するような向きで静かに置く。この状態で光を照射して樹脂を硬化させた後、カバーガラスとチューブを取り除くことで、最表面にトナーが包埋された円柱型の樹脂を形成する。
超音波ウルトラミクロトーム(Leica社、UC7)により、切削速度0.6mm/sで、円柱型の樹脂の最表面からトナーの半径(重量平均粒径(D4)が8.0μmの場合は4.0μm)の長さだけ切削して、トナーの断面を出す。次に、膜厚250nmとなるように切削し、トナー断面の薄片サンプルを作製する。このような手法で切削することで、トナー中心部の断面を得ることができる。
得られた薄片サンプルを真空電子染色装置(filgen社、VSC4R1H)を用いて、RuOガス500Pa雰囲気で15分間染色し、TEM(JEOL社、JEM28
00)を用いてTEM観察を行う。
TEMのプローブサイズは1nm、画像サイズ1024×1024pixelにて画像を取得する。また、明視野像のDetector ControlパネルのContrastを1425、Brightnessを3750、Image ControlパネルのContrastを0.0、Brightnessを0.5、Gammmaを1.00に調整する。
【0176】
<面積比率A1、A2の測定>
ルテニウム染色されたTEM画像を用い、以下の通りA1及びA2を測定する。
まず、得られたTEM像に対し、画像処理ソフト「ImageJ」(https://imagej.Nih.gov/ij/より入手可能)を用いて、2値化する。その後、断面の2値化像から円相当径(投影面積円相当径)を求め、その値がトナーの個数平均粒径(D1)(μm)の±5%の幅に含まれる断面を選択する。
【0177】
該当する粒子のTEM像から、「ImageJ」を用いて、測定に必要な部位以外をマスクし、トナー輪郭内部における、マスクされていない領域の面積と、マスクされていない領域に存在する磁性体の総面積とを算出する。この手法について、A1を例に具体的に述べる。
まず、取得したトナー粒子断面の輪郭のTEM画像(以下、画像1と記載)の輪郭及び内部が白、それ以外の背景にあたる部分が黒になる様に、2値化する(以下、画像2と記載)
次に、マスクの倍率を算出する為、画像1において、単位画素数あたりの長さを算出する。次に、算出した値から、トナー粒子の輪郭から領域Aの境界線までの距離である200nmが何ピクセルにあたるかを算出する(以下、x1と記載)。
同様に、前述の手法用いて測定したトナー粒径が何ピクセルに当たるかを算出する(以下、x2と記載)。そして、マスクの倍率Mを(x2-x1)/xより算出する。
【0178】
次に、画像2を、算出された倍率Mに縮小する(縮小された画像を画像3と記載)この際、トナー粒子輪郭、及び内部は、画像2とは異なり、黒、それ以外の背景にあたる部分は白になる様に(透明になる様に)設定しておく。
次に、画像2と画像3を足し合わせる。この際「ImageJ」の機能である「Image Calculator」を用いて画像2と画像3を足し合わせ、トナー輪郭から、トナー粒子断面の重心に向かって200nmまでの領域が白く、その他の部位が黒い、画像4を作成する。この画像4における白い領域の面積S1を測定する。
次に、作成した画像4と前述のTEM画像を、同様に「Image Calculator」を用いて足し合わせ、測定部位以外をマスクした画像5を作成する。この画像5を2値化し、マスク内部の磁性体面積S2を測定する。
最後に、領域Aにおける磁性体の占める面積率A1をS2/S1×100により算出する。
面積率A2に関しては、領域の範囲を200nm~400nmに変更し、その他は同様の手順で算出する。
【0179】
<X線光電子分光分析(ESCA)によるE2/E1値の測定>
X線光電子分光分析(ESCA)により測定されるトナー粒子の表面に存在する炭素元素の存在量(E1)に対する鉄元素の存在量(E2)の比(E2/E1)は以下の方法により測定する。
なお、トナーからトナー粒子表面に付着している外添剤などを除去し、トナー粒子を測定対象とする。
トナー1gをメタノール20mLに懸濁し、超音波分散機SC-103(株式会社エスエムテー社製)を用いて30分間超音波処理し、外添剤をトナー粒子から脱離させ、24
時間静置する。
沈降したトナー粒子と上澄み液に分散した外添剤とを分離、回収し、40℃で48時間乾燥させることで、トナー粒子を単離した後、ESCAの測定を行う。
【0180】
ESCAの装置及び測定条件は、下記の通りである。
使用装置:PHI社製 1600S型 X線光電子分光装置
測定条件:X線源 MgKα(400W)
分光領域 800μmφ
測定された各元素のピーク強度から、PHI社提供の相対感度因子を用いて表面原子濃度を算出する。各元素のピークトップ範囲は以下の通りである。
C :283~293eV
Fe:706~730eV
各元素のピークトップ範囲から、磁性トナー粒子表面に存在する炭素元素に由来するピーク範囲が283~293eVに対応した高さE1値と、鉄元素に由来するピーク範囲が706~730eVに対応した高さE2値を求め、その比率E2/E1を求める。
【0181】
<トナー(粒子)の粒径の測定方法>
細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置(商品名:コールター・カウンター Multisizer 3)と、専用ソフト(商品名:ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51、ベックマン・コールター社製)を用いる。
アパーチャー径は100μmを用い、実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで測定し、測定データの解析を行い、算出する。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、ベックマン・コールター社製のISOTON II(商品名)が使用できる。なお、測定、解析を行う前に、以下のように前記専用ソフトの設定を行う。
前記専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更画面」において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は(標準粒子10.0μm、ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。閾値/ノイズレベルの測定ボタンを押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON II(商品名)に設定し、測定後のアパーチャーチューブのフラッシュにチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定画面」において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μm以上60μm以下に設定する。
【0182】
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250mL丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mLを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、前記専用ソフトの「アパーチャーチューブのフラッシュ」機能により、アパーチャーチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100mL平底ビーカーに前記電解水溶液約30mLを入れる。ここにコンタミノンN(商品名)(精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業(株)製)をイオン交換水で3質量倍に希釈した希釈液を約0.3mL加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器(商品名:Ultrasonic Dispersion System Tetora150、日科機バイオス(株)製)の水槽内にイオン交換水所定量とコンタミノンN(商品名)を約2mL添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー(粒子)約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。なお、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナー(粒子)を分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)又は個数平均粒径(D1)を算出する。なお、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、分析/体積統計値(算術平均)画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。専用ソフトでグラフ/個数%と設定したときの、「分析/個数統計値(算術平均)」画面の「平均径」が個数平均粒径(D1)である。
本開示においては、上記にようにして得たD4を、トナーの重量平均粒径(Dt)として用いる。
【0183】
<樹脂などの重量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)の測定方法>
樹脂及びその他の材料の重量平均分子量(Mw)、ピーク分子量(Mp)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、以下のようにして測定する。
(1)測定試料の作製
試料とテトラヒドロフラン(THF)とを5.0mg/mLの濃度で混合し、室温にて5~6時間放置した後、充分に振とうし、THFと試料を、試料の合一体がなくなるまで良く混ぜる。さらに、室温にて12時間以上静置する。この時、試料とTHFの混合開始時点から、静置終了の時点までの時間が72時間以上となるようにし、試料のテトラヒドロフラン(THF)可溶分を得る。
その後、耐溶剤性メンブランフィルター(ポアサイズ0.45~0.50μm、マイショリディスクH-25-2[東ソー社製])でろ過して試料溶液を得る。
(2)試料の測定
得られた試料溶液を用いて、以下の条件で測定する。
装置:高速GPC装置 LC-GPC 150C(ウォーターズ社製)
カラム:Shodex GPC KF-801、802、803、804、805、806、807(昭和電工社製)の7連
移動相:THF
流速:1.0mL/min
カラム温度:40℃
試料注入量:100μL
検出器:RI(屈折率)検出器
試料の分子量測定にあたっては、試料の有する分子量分布を数種の単分散ポリスチレン標準試料により作製された検量線の対数値とカウント数との関係から算出する。
検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、Pressure ChemicalCo.製又は東洋ソーダ工業社製の、分子量が6.0×10、2.1×10、4.0×10、1.75×10、5.1×10、1.1×10、3.9×10、8.6×10、2.0×10、4.48×10のものを用いる。
【0184】
<ガラス転移温度(Tg)の測定方法>
トナーなどのガラス転移温度(Tg)は、示差走査型熱量分析装置「Q2000」(TA Instruments社製)を用いて、ASTM D3418-82に準じて測定する。
測定試料2mgを精密に秤量し、アルミニウム製パン中に入れ、リファレンスとして空のアルミニウム製パンを用いる。
測定温度範囲を30℃以上200℃以下とし、一旦、昇温速度10℃/minで30℃
から200℃まで昇温した後、降温速度10℃/minで200℃から30℃まで降温し、再度、昇温速度10℃/minで200℃まで昇温させる。
この2回目の昇温過程で得られるDSC曲線において、比熱変化が出る前と出た後のベースラインの中間点の線と示差熱曲線との交点を、ガラス転移温度(Tg)とする。
【0185】
<誘電正接tanδ及び比誘電率εrの測定の測定方法>
(トナーのペレット作製)
トナーを直径25mmのペレット作製用冶具にセットした後、ニュートンプレスにて20MPaの加圧条件で1分間加圧して、厚み1.5mm程度のペレットを作製する。トナーの秤量値は、ペレットの厚みが1.5mm以上1.8mm以下となるように調整する。得られたペレットは常温常湿(温度23℃、相対湿度50%RH)環境下にて、24時間以上静置した後、測定用サンプルとする。ノギスでペレット厚みを10点測定した平均値をサンプル厚さとする。
【0186】
(誘電正接tanδ及び比誘電率εrの測定)
周波数応答アナライザ1260型(ソーラートロン社製)、誘電率測定インターフェイス1296型(ソーラートロン社製)及び、誘電率測定用サンプルホルダー12962型(ソーラートロン社製)を用いて、測定を行う。
作製したトナーペレットを、サンプルホルダーにセットし、AC電圧を印加して、インピーダンスを測定する。AC電圧の印加条件は0.1Vppであり、設定周波数は1Hz~1MHzである。
次に、インピーダンス解析ソフトウエア ZViewを使用して解析を行う(ZPlo
t and ZView for Windowsfrom Scribner Associates)。解析から得られるZ′値およびZ′′値より、以下のようにして誘電正接tanδ及び比誘電率εrが求められる。なお、誘電正接tanδ及び比誘電率εrの値は、いずれも測定時の周波数が1.0×10Hzの時の値である。
tanδ=Z′/Z′′ 式(1)
εr=ε/ε 式(2)
(式(2)において、εは式(3)より求められる誘電率であり、εは真空の誘電率(=8.85×10-12 F/m)である)
ε={Z′′/(-ω×(Z′+Z′′))}×D/S 式(3)
(式(3)において、ωは式(4)で求められ、Dは作製したトナーペレットの厚みであり、Sはサンプルホルダーの電極面積である)
ω=2×π×f 式(4)
(式(4)において、fは測定周波数である)
【0187】
<粒子Aの体積抵抗率の測定方法>
粒子Aの体積抵抗率は、以下のようにして測定する。装置としてはケースレーインスツルメンツ社製6517型エレクトロメータ/高抵抗システムを用いる。直径25mmの電極を接続し、電極間に粒子Aを厚みが0.5mmとなるように乗せて、約2.0N(約204gf)の荷重をかけた状態で、電極間の距離を測定する。
粒子Aに1,000Vの電圧を1分間印加した時の抵抗値を測定し、以下の式を用いて体積抵抗率を算出する。
体積抵抗率(Ω・cm)=R×L
R:抵抗値(Ω)
L:電極間距離(cm)
【0188】
<粒子Aが磁性体である場合にトナーからの単離方法>
粒子Aが磁性体である場合、以下の方法でトナーから分離した磁性体を用いて体積抵抗率を測定することもできる。
まず50mLのバイアル瓶にトナー1gを添加する。
次にテトラヒドロフラン(THF)20gを添加して十分撹拌する。その後バイアル瓶の外側から底面にネオジム磁石を当てて磁性体を保持した状態でバイアル瓶の中のTHF溶液を廃棄する。
THFを加えて撹拌しTHF溶液を廃棄する操作を100回繰り返し、磁性体を単離した後、40℃で48時間真空乾燥することで、磁性体を得ることができる。
【0189】
<磁性体のメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性の測定方法>
磁性体のメタノール/水混合溶媒に対する濡れ性試験は、粉体濡れ性試験機「WET-100P」(レスカ社製)を用い、下記の条件及び手順で測定し、得られたメタノール滴下透過率曲線から算出する。
直径5cm及び厚さ1.75mmの円筒型ガラス容器中に、フッ素樹脂コーティングされた長さ25mm及び最大胴径8mmの紡錘型回転子を入れる。
前記円筒型ガラス容器中に、蒸留水60.0mlを入れ、気泡などを除去するために超音
波分散機で5分間処理を行う。この中に、検体である磁性体を1.0g精秤して添加し、測定サンプル液を調製する。
マグネティックスターラーを用いて、円筒型ガラス容器中の紡錘型回転子を300rpmの速度で撹拌しながら、上記粉体濡れ性試験機を通して、前記測定用サンプル液中に、メタノールを0.8ml/minの滴下速度で連続的に添加する。
波長780nmの光で透過率を測定し、メタノール滴下透過率曲線を作成する。得られたメタノール滴下透過率曲線から、透過率が50%を示したときのメタノール濃度a(体積%)、b(体積%)を読み取る。
なお、メタノール濃度は、(円筒型ガラス容器中に存在するメタノールの体積/円筒型ガラス容器中に存在するメタノール及び水の混合物の体積)×100、により算出される値である。
【0190】
<磁性体1の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0当量の苛性ソーダ溶液(Feに対しP換算で1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウムを含有)を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液をpH9に維持しながら、空気を吹き込み、80℃で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、該スラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。スラリー液をpH8に維持して、空気を吹き込みながら酸化反応を進め、酸化反応の終期にpHを6に調整し、水洗、乾燥を行って、球状マグネタイト粒子であり、一次粒子の個数平均粒径が200nmである磁性酸化鉄1を得た。
シンプソン・ミックスマラー(新日東興業株式会社製 型式MSG―0L)に該磁性酸化鉄1を10.0kg投入し、30分間解砕処理を行った。
その後、同装置内にシランカップリング剤として、n-デシルトリメトキシシランを110g添加し、1時間作動することにより、上記磁性酸化鉄1の粒子表面を上記シランカップリング剤で疎水化処理することで磁性体1を得た。
得られた磁性体1は、粒子形状が球状であり、一次粒子の個数平均粒径が200nmであった。体積抵抗率は6.8×10Ω・cmであった。
また、得られた磁性体の疎水化処理剤の含有量、疎水化度の測定結果を表7に示す。
【0191】
<磁性体2の製造例>
磁性体1の製造例において、磁性酸化鉄1の製造条件を変更して、球状マグネタイト粒子であり、一次粒子の個数平均粒径が280nmである磁性酸化鉄2を得た。
シンプソン・ミックスマラー(新日東興業株式会社製 型式MSG―0L)に該磁性酸
化鉄2を10.0kg投入し、30分間解砕処理を行った。
その後、同装置内にシランカップリング剤として、n-デシルトリメトキシシランを85g添加し、1時間作動することにより、上記磁性酸化鉄2の粒子表面を上記シランカップリング剤で疎水化処理することで磁性体2を得た。
得られた磁性体2は、粒子形状が球状であり、一次粒子の個数平均粒径が280nmであった。
また、得られた磁性体の疎水化処理剤の含有量、磁性体の疎水化度を表7に示す。
【0192】
<磁性体3の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0当量の苛性ソーダ溶液(Feに対しP換算で1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウムを含有)を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液をpH9に維持しながら、空気を吹き込み、80℃で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、該スラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し1.0当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。スラリー液をpH8に維持して、空気を吹き込みながら酸化反応を進め、酸化反応の終期にpHを6に調整し、磁性酸化鉄3を得た。
シランカップリング剤として、イソブチルトリメトキシシラン(炭素数4)を、得られた磁性酸化鉄3:100部に対して、1.25部添加し、十分攪拌し、湿式法にて疎水化処理を行った。
生成した疎水化処理磁性酸化鉄粒子を常法により洗浄、濾過、乾燥したのち、凝集している粒子を解砕処理した後、温度70℃で5時間熱処理を行って、磁性体3得た。物性を表7に示す。
【0193】
<磁性体4の製造例>
磁性体1の製造例において、疎水化処理剤の添加量を調整し、得られる磁性体の疎水化処理剤の含有量、疎水化度が表7の値となるようにした以外は、磁性体1の製造例と同様にして、磁性体4を得た。物性を表7に示す。
【0194】
<磁性体5及び6の製造例>
磁性体3の製造例において、疎水化処理剤の添加量を調整し、得られる磁性体の疎水化処理剤の含有量、疎水化度が表7の値となるようにした以外は、磁性体3の製造例と同様にして、磁性体5及び6を得た。物性を表7に示す。
【0195】
<磁性体7の製造例>
磁性体1の製造例において、得られる磁性酸化鉄の一次粒子の個数平均粒径が所望の値となるように製造条件を調整した以外は、磁性体1の製造例と同様にして、磁性酸化鉄4を得た。
シンプソン・ミックスマラー(新日東興業株式会社製 型式MSG―0L)に該磁性酸化鉄4を10.0kg投入し、30分間解砕処理を行い、磁性体7を得た。物性を表7に示す。
【0196】
<磁性体8の製造例>
磁性体1の製造例において、得られる磁性酸化鉄の一次粒子の個数平均粒径が所望の値となるように製造条件を調整した以外は、磁性体1の製造例と同様にして、磁性酸化鉄5を得た。
シンプソン・ミックスマラー(新日東興業株式会社製 型式MSG―0L)に該磁性酸化鉄5を10.0kg投入し、30分間解砕処理を行い、磁性体8得た。物性を表7に示す。
【0197】
【表7】

表中、例えば10^8などの記載は、10であることを示す。
【0198】
<ポリエステル樹脂1の製造例>
・テレフタル酸 30.0部
・トリメリット酸 5.0部
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド(2モル)付加物 170.0部
・ジブチルスズオキシド 0.1部
上記材料を加熱乾燥した二口フラスコに入れ、容器内に窒素ガスを導入して不活性雰囲気に保ち撹拌しながら昇温した。その後、140℃から220℃に約12時間かけて昇温させながら縮重合反応させた後、210℃~240℃の範囲で減圧しながら重縮合反応を進行させ、ポリエステル樹脂1を得た。
ポリエステル樹脂1の数平均分子量(Mn)は21200、重量平均分子量(Mw)は84500、ガラス転移温度(Tg)は79.5℃であった。
【0199】
<トナー1の製造例>
イオン交換水720部に0.1mol/L-NaPO水溶液450部を投入し温度60℃に加温した後、1.0mol/L-CaCl水溶液67.7部を添加して分散安定剤を含む水系媒体を得た。
・スチレン 75.00部
・n-ブチルアクリレート 25.00部
・ポリプロピレングリコール#400ジアクリレート(APG400) 1.70部
・ポリエステル樹脂1 5.00部
・磁性体1 65.00部
上記処方をアトライタ(日本コークス工業(株))を用いて均一に分散混合した。
得られた単量体組成物を温度60℃に加温し、そこに以下の材料を混合及び溶解し、重合性単量体組成物とした。
・負荷電制御剤T-77(保土谷化学工業製) 1.00部
・離型剤 8.00部
(フィッシャートロプッシュワックス(HNP-51:日本精蝋(株)製))
・重合開始剤 9.00部
(t-ブチルパーオキシピバレート(25%トルエン溶液))
水系媒体中に重合性単量体組成物を投入し、温度60℃、窒素雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて22,000rpmで15分間攪拌し、造粒した。その後、パドル攪拌翼で攪拌し、反応温度70℃にて300分間重合反応を行った。
その後、得られた懸濁液を毎分3℃で室温まで冷却し、塩酸を加えて分散安定剤を溶解し、濾過、水洗、乾燥した後、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級して、トナー粒子1を得た。
得られたトナー粒子1の100部に対して、一次粒子の個数平均粒径が100nmのゾ
ルゲルシリカ微粒子を0.3部添加し、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合した。その後、さらに一次粒子の個数平均粒径が12nmのシリカ微粒子をヘキサメチルジシラザンで処理をした後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET比表面積値が120m/gの疎水性シリカ微粒子0.7部を添加し、同様にFMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合し、トナー1を得た。
得られたトナー1の処方及び諸物性を表8及び表9に示す。
【0200】
<トナー2~10、14、17の製造例>
トナー1の製造例において、粒子Aの種類と添加部数を表8のように変更した以外は、トナー1の製造例と同様にして、トナー2~10、14、17を得た。処方及び諸物性を表8に示す。
【0201】
<トナー11の製造例>
<ポリエステル樹脂2の製造例>
・テレフタル酸 48.0部
・ドデセニルコハク酸 17.0部
・トリメリット酸 10.2部
・ビスフェノールAエチレンオキサイド(2モル)付加物 80.0部
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド(2モル)付加物 74.0部
・ジブチルスズオキシド 0.1部
上記材料を加熱乾燥した二口フラスコに入れ、容器内に窒素ガスを導入して不活性雰囲気に保ち撹拌しながら昇温した。その後、150~230℃で約13時間縮重合反応させた後、210~250℃で徐々に減圧して、ポリエステル樹脂2を得た。
ポリエステル樹脂2の数平均分子量(Mn)は21200、重量平均分子量(Mw)は98000、ガラス転移温度(Tg)は58.3℃であった。
【0202】
<樹脂粒子分散液1の製造例>
撹拌装置のついたビーカーに、100.0部の酢酸エチル、30.0部のポリエステル樹脂2、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム0.3部、及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK)0.2部を投入し、60.0℃に加熱して、完全に溶解するまで撹拌を続け、樹脂溶解液1を調製した。
樹脂溶解液1をさらに撹拌しながら、徐々にイオン交換水90.0部を加え、転相乳化させ、脱溶剤することにより樹脂粒子分散液1(固形分濃度:25.0質量%)を得た。
樹脂粒子分散液1中の樹脂粒子の体積平均粒径は0.19μmであった。
【0203】
<ワックス分散液1の製造例>
・ベヘン酸ベヘニル 50.0部
・アニオン性界面活性剤 0.3部
(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK)
・イオン交換水 150.0部
以上を混合して95℃に加熱し、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて分散した。その後、マントンゴーリン高圧ホモジナイザ(ゴーリン社製)で分散処理し、ワックス粒子を分散させてなるワックス分散液1(固形分濃度:25質量%)を調製した。得られたワックス粒子の体積平均粒径は0.22μmであった。
【0204】
<磁性体分散液1の製造例>
・磁性体7 25.0部
・イオン交換水 75.0部
上記材料を混合して、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて8000rpmで10分間分散し、磁性体分散液1を得た。磁性体分散液1中の磁性
体の体積平均粒径は0.32μmであった。
【0205】
<トナー粒子11の製造例>
・樹脂粒子分散液1(固形分25.0質量%) 195.0部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 15.0部
・磁性体分散液1(固形分25.0質量%) 117.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、30.0℃に温調した。その後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、5000rpmで1分間撹拌することにより混合した。
さらに凝集剤として10.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加した。
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
60分間経過した段階でエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)5.0質量%水溶液を200.0部添加し凝集粒子分散液1を調製した。
続いて、凝集粒子分散液1を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整した後、凝集粒子分散液1を80.0℃に加熱し、180分間放置して、凝集粒子の合一を行った。
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液1を得た。300℃/分の降温速度で40℃以下まで冷却した後、トナー粒子分散液1をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。
次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、50℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、トナー粒子11を得た。
得られたトナー粒子11の100部に対して、一次粒子の個数平均粒径が100nmのゾルゲルシリカ微粒子を0.3部添加し、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合した。その後、さらに一次粒子の個数平均粒径が12nmのシリカ微粒子をヘキサメチルジシラザンで処理をした後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET比表面積値が120m/gの疎水性シリカ微粒子0.7部を添加し、同様にFMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合し、トナー11を得た。
得られたトナー11の処方及び諸物性を表8に示す。
【0206】
<トナー12の製造例>
<マスターバッチ1の作製>
下記に示す材料及び製法を用いてカーボンブラックを含有するマスターバッチ1を作製した。
ポリエステル樹脂2: 75.0部
カーボンブラック(Nipex35 デグサジャパン社製): 25.0部
上記の材料を、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合した後、温度130℃に設定した二軸式押出機(PCM-30型、池貝製作所製)にて溶融混練した。得られた混練物を冷却し、ハンマーミルにて1mm以下に粗粉砕し、マスターバッチ1を得た。
【0207】
<マスターバッチ分散液1の作製>
撹拌装置のついたビーカーに、100.0部の酢酸エチル、30.0部のマスターバッチ1、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム0.3部、及びアニオン性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、ネオゲンRK)0.2部を投入し、60.0℃に加熱して、完全に溶
解するまで撹拌を続け、マスターバッチ溶解液1を調製した。
マスターバッチ溶解液1をさらに撹拌しながら、徐々にイオン交換水90.0部を加え、転相乳化させ、脱溶剤することによりマスターバッチ分散液1(固形分濃度:25.0質量%)を得た。
マスターバッチ分散液1中の樹脂粒子の体積平均粒径は0.22μmであった。
【0208】
<トナー粒子12の製造例>
・樹脂粒子分散液1(固形分25.0質量%) 225.9部
・ワックス分散液1(固形分25.0質量%) 28.1部
・マスターバッチ分散液1(固形分25.0質量%) 73.0部
ビーカーに、上記材料を投入し、水の総部数が250部になるように調整した後、30.0℃に温調した。その後、ホモジナイザー(IKA社製、ウルトラタラックスT50)を用いて、5000rpmで1分間撹拌することにより混合した。
さらに凝集剤として10.0部の硫酸マグネシウム2.0質量%水溶液を徐々に添加した。
撹拌装置、温度計を備えた重合釜に原料分散液を移し、マントルヒーターで50.0℃に加熱し撹拌することで凝集粒子の成長を促進させた。
60分間経過した段階でエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)5.0質量%水溶液を200.0部添加し凝集粒子分散液2を調製した。
続いて、凝集粒子分散液2を0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH8.0に調整した後、凝集粒子分散液2を80.0℃に加熱し、180分間放置して、凝集粒子の合一を行った。
180分間経過後、トナー粒子が分散したトナー粒子分散液2を得た。300℃/分の降温速度で40℃以下まで冷却した後、トナー粒子分散液2をろ過し、イオン交換水で通水洗浄し、ろ液の伝導度が50mS以下となったところで、ケーキ状になったトナー粒子を取り出した。
次に、トナー粒子の質量の20倍量のイオン交換水中に、ケーキ状になったトナー粒子を投入し、スリーワンモータで撹拌し、充分にトナー粒子がほぐれたところで再度ろ過、通水洗浄し固液分離した。得られたケーキ状になったトナー粒子をサンプルミルで解砕して、40℃のオーブン中で24時間乾燥した。さらに得られた粉体をサンプルミルで解砕した後、50℃のオーブン中で5時間、追加の真空乾燥をして、トナー粒子12を得た。
得られたトナー粒子12の100部に対して、一次粒子の個数平均粒径が100nmのゾルゲルシリカ微粒子を0.3部添加し、FMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合した。その後、さらに一次粒子の個数平均粒径が12nmのシリカ微粒子をヘキサメチルジシラザンで処理をした後シリコーンオイルで処理し、処理後のBET比表面積値が120m/gの疎水性シリカ微粒子0.7部を添加し、同様にFMミキサ(日本コークス工業株式会社製)を用い混合し、トナー12を得た。
得られたトナー12の処方及び諸物性を表8に示す。
【0209】
<トナー13の製造例>
下記材料をアトライタ(三井三池化工機株式会社)に投入し、さらに直径1.7mmのジルコニア粒子を用いて、220rpmで5時間分散させ、顔料マスターバッチを得た。・スチレン 60.0部
・カーボンブラック(Nipex35 デグサジャパン社製) 7.0部
・荷電制御剤(オリエント社製:ボントロンE-89) 0.10部
イオン交換水720部に0.1モル/L-NaPO水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0モル/L-CaCl水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。(重合性単量体組成物の調整)
・スチレン 12.0部
・n-ブチルアクリレート 28.0部
・1,6-ヘキサンジオールジアクリレート 1.0部
・顔料マスターバッチ 67.1部
・ポリエステル樹脂1 4.0部
上記材料をアトライタ(三井三池化工機(株)製)を用いて均一に分散混合した。得られた単量体組成物を温度60℃に加温し、そこに以下の材料を混合及び溶解し、重合性単量体組成物とした。
・負荷電制御剤T-77(保土谷化学工業製) 1.00部
・離型剤 8.00部
(フィッシャートロプッシュワックス(HNP-51:日本精蝋(株)製))
・重合開始剤 9.00部
(t-ブチルパーオキシピバレート(25%トルエン溶液))
その後の工程はトナー1の製造例と同様の操作を行い、トナー13を得た。得られたトナーの物性を表8に示す。
【0210】
<トナー15の製造例>
トナー1の製造例において、トナーの体積平均粒径が5.3μmとなるように、分散安定剤の量を調整した以外は、トナー1と同様にして、トナー15を得た。諸物性を表8に示す。
【0211】
<トナー16の製造例>
・ポリエステル樹脂1 100.0部
・磁性体8 60部
・離型剤 5.0部
(フィッシャートロプッシュワックス(HNP-51:日本精蝋(株)製))
・荷電制御剤 (T-77:保土ヶ谷化学社製) 2.0部
上記材料をFMミキサ(日本コークス工業社製)で前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM-30型))によって、溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、機械式粉砕機(ターボ工業(株)製T-250)で粉砕し、得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級して、Dn(μm)が6.5μmのトナー粒子16を得た。トナー粒子16のTgは60.0℃であった。
トナー粒子16に対しトナー1の製造例と同様にして外添処理し、トナー16を得た。得られたトナーの物性を表8に示す。
【0212】
<トナー18の製造例>
・ポリエステル樹脂1 100.0部
・カーボンブラック(Nipex35 デグサジャパン社製) 7.0部
・離型剤 5.0部
(フィッシャートロプッシュワックス(HNP-51:日本精蝋(株)製))
・荷電制御剤 (T-77:保土ヶ谷化学社製) 2.0部
上記材料をFMミキサ(日本コークス工業社製)で前混合した後、二軸混練押し出し機(池貝鉄工(株)製PCM-30型))によって、溶融混練した。
得られた混練物を冷却し、ハンマーミルで粗粉砕した後、機械式粉砕機(ターボ工業(株)製T-250)で粉砕し、得られた微粉砕粉末を、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級して、Dn(μm)が6.5μmのトナー粒子18を得た。トナー粒子18のTgは59.0℃であった。
トナー粒子18をトナー1の製造例と同様にして外添し、トナー18を得た。得られたトナーの物性を表8に示す。
【0213】
【表8】

表中、粒子A量は、結着樹脂100部に対する部数を示す。「磁性体の面積%」は、10%領域における磁性体存在率を示す。粒径はトナーの重量平均粒径Dt(μm)を示す。CBは、カーボンブラックを示す。磁性体の面積%は、10%領域における磁性体存在率である。
【0214】
【表9】
【0215】
【表10】
【0216】
<実施例1>
HP製プリンター(HP LaserJet Enterprise Color M553dn)のプロセススピードを1.3倍となるように改造して、評価用電子写真装置とした。
また、プロセスカートリッジとしては、CF360Xの帯電装置における導電性部材を導電性部材1に変更したものを用い、トナー1を350g充填し、下記に示す評価を行った。これらプリンター及びプロセスカートリッジの組み合わせは、図5に示す構成に該当する。
評価結果を表10に示す。
【0217】
<実施例2~24、比較例1~7>
実施例1において、導電性部材及びトナーの組み合わせを表9の組み合わせに変更した以外は同様にして、実施例2~24、比較例1~7の評価を行った。結果を表10に示す。
【0218】
<評価1 低温低湿環境におけるハーフトーン濃度均一性>
ハーフトーン濃度均一性の評価は、トナーのクリーニング性や、チャージアップ性によって、ハーフトーン画像の白ポチ発生に厳しい環境である、低温低湿環境下(温度15.
0℃、相対湿度10.0%)にて評価した。
また導電性部材に対するトナーの付着が厳しくなる、長期耐久試験を想定して評価を行った。
具体的には、2ドットの横線の印字率が3%となる横線パターンを、2枚1ジョブとして、計10000枚の耐久試験を行った。
評価紙としてはラフ紙であるCOTTON BOND LIGHT COCKLE(坪量75gLTR 縦279mm 横216mm)を使用した。
そして、10000枚耐久後、10001枚目から、先端後端、左右の余白を5mmとし、縦269mm横206mmのドット印字率20%のハーフトーン部を有するハーフトーン画像を5枚連続で出力した。そして該5枚のハーフトーン画像のハーフトーン部分について、濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて、それぞれ100点測定し、最大値と最小値を求め、その差を求めた。そして5枚の画像の中で最も濃度差が大きかった画像について、以下の基準で評価を行った。C以上を良好と判断した。
[評価基準]
A.濃度差が0.05未満
B.濃度差が0.05以上0.10未満
C.濃度差が0.10以上0.15未満
D.濃度差が0.15以上0.20未満
E.濃度差が0.20以上
【0219】
<評価2 極低温低湿環境におけるハーフトーン濃度均一性>
評価1よりもさらに白ポチ発生に厳しい環境である、極低温低湿環境下(温度7.5℃、相対湿度30.0%)にて評価した以外は、評価1と同様にして極低温低湿環境下におけるハーフトーン濃度均一性の評価を行った。
以下の基準で評価を行った。C以上を良好と判断した。
[評価基準]
A.濃度差が0.05未満
B.濃度差が0.05以上0.10未満
C.濃度差が0.10以上0.15未満
D.濃度差が0.15以上0.20未満
E.濃度差が0.20以上
【0220】
<評価3 高温高湿環境におけるハーフトーン濃度維持率>
ハーフトーン濃度維持率の評価は、長期耐久試験においてトナーの外添剤埋め込みが発生しやすく、トナーの帯電性が不利になりやすい環境である、高温高湿環境下(温度32.5℃、相対湿度85.0%)にて評価した。
また長期耐久試験を想定し、通常印字よりも印字率が低く、トナー劣化に厳しいモードで評価を行った。
具体的には、2ドットの横線の印字率が2%となる横線パターンを、2枚1ジョブとして、計15000枚の耐久試験を行った。
評価紙としてはラフ紙であるCOTTON BOND LIGHT COCKLE(坪量75gLTR 縦279mm 横216mm)を使用した。
そして、1枚目と15000枚耐久後の15001枚目から、先端後端、左右の余白を5mmとし、縦269mm横206mmのドット印字率20%のハーフトーン部を有するハーフトーン画像を5枚連続で出力した。
そして該画像の1枚目と、耐久試験後の5枚の画像について、ハーフトーン部分の濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて、それぞれ10点測定し、平均値を各画像のハーフトーン濃度とした。
そして耐久試験後の5枚の画像のそれぞれのハーフトーン濃度を、1枚目のハーフトーン濃度で除して100倍することにより、ハーフトーン濃度維持率を求め、以下の判断基
準で評価を行った。最大値と最小値を求め、その差を求めた。そして5枚の画像の中で最も濃度差が大きかった画像について、以下の基準で評価を行った。
C以上を良好と判断した。
[評価基準]
A.ハーフトーン濃度維持率が90%以上
B.ハーフトーン濃度維持率が85%以上90%未満
C.ハーフトーン濃度維持率が80%以上85%未満
D.ハーフトーン濃度維持率が75%以上80%未満
E.ハーフトーン濃度維持率が75%未満
【0221】
<評価4 高温高湿環境における長期放置後のかぶり>
長期放置後のかぶりの評価は、高温高湿環境下(温度32.5℃、相対湿度85.0%)にて30日間放置した後、同環境にて出力した画像のかぶり評価により行った。
高温高湿環境下で長期放置することで、通常の高温高湿環境下の評価よりもトナーの帯電性が低下しやすく、画像のかぶりが発生しやすくなる。また放置期間中、プロセスカートリッジの抜き差しをせず、本体電源を入れたままにして評価することで、トナーへの帯電付与に関わる印刷前回転時間が短くなるため、トナーの帯電維持性に厳しくなる。
評価紙としてはラフ紙であるCOTTON BOND LIGHT COCKLE(坪量75gLTR 縦279mm 横216mm)を使用した。
まず、高温高湿環境下において、画像の印刷面の一部にマスクのため付箋を貼り付けた紙を用いて、全白画像を出力した(白画像1)。
そして、本体にプロセスカートリッジを入れたまま、本体の電源を切らずに高温高湿環境下30日間放置した後、画像の印刷面の一部にマスクのため付箋を貼り付けた紙を用いて、全白画像を出力した(白画像2)。
白画像2について、付箋をはがしたのち、付箋が張られた部分と、貼られていなかった部分について、それぞれ反射率(%)を5点測定して平均値を求めた後、平均値の差を求め、これを長期放置後のかぶりとした。
反射率はデジタル白色光度計(TC-6D型 有限会社東京電色製 グリーンフィルタ使用)を用いて測定した。かぶりは低いほど良好であり、以下の基準で評価を行った。
C以上を良好と判断した。
[評価基準]
A.放置後のかぶりが1.0%未満
B.放置後のかぶりが1.0%以上1.5%未満
C.放置後のかぶりが1.5%以上2.0%未満
D.放置後のかぶりが2.0%以上
【0222】
<評価5 低温低湿環境におけるこすり定着性>
こすり定着性の評価は、トナーの定着性に厳しい環境である、低温低湿環境下(温度15.0℃、相対湿度10.0%)にて評価した。またハーフトーン画像はトナーが孤立ドットで形成される部分が多いため、画像がこすられた場合にトナーが紙から脱落しやすく厳しく評価できる。またラフ紙を用いた場合、紙の凹部のトナーが溶融されにくいため、画像がこすられた場合にトナーが脱落しやすく厳しく評価できる。
評価紙としてはラフ紙であるCOTTON BOND LIGHT COCKLE(坪量75gLTR 縦279mm 横216mm)を使用した。
低温低湿環境下において、画像形成装置の定着器の温調を200℃となるように調整した。
まず、先端余白、左右余白5mmで、左、右、中央の3か所、さらにこれを長手方向に30mm間隔で3か所、合計9か所に5mm×5mmのハーフトーンパッチ部を有する画像を出力した。
そして、9か所のハーフトーンパッチ部の濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)
にて測定し、画像形成装置の濃度調整を行い、ハーフトーンパッチ部の濃度の平均値が0.70以上0.80以下となるように調整した。
その後、先端余白、左右余白5mmで、左、右、中央の3か所、さらにこれを長手方向に30mm間隔で3か所、合計9か所に5mm×5mmのハーフトーンパッチ部を有する画像を3枚出力し、2枚目の画像について、こすり前とこすり後のハーフトーン濃度維持率の評価を行った。
具体的には、こすり前の画像において、9か所のハーフトーンパッチ部の濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定して平均値を求めた(初期濃度)
そして、該画像の9か所のハーフトーンパッチ部をそれぞれ、55g/cmの加重を
かけたシルボン紙で10回こすった後、各ハーフトーンパッチの濃度をマクベス反射濃度計(マクベス社製)にて測定して平均値を求めた(こすり後濃度)。そして、こすり後濃度を初期濃度で除したのち、100倍することにより、こすり後の濃度維持率を求め、以下の基準にて評価を行った。C以上を良好と判断した。
[評価基準]
A.こすり後の濃度維持率が90%以上
B.こすり後の濃度維持率が85%以上90%未満
C.こすり後の濃度維持率が80%以上85%未満
D.こすり後の濃度維持率が75%以上80%未満
E.こすり後の濃度維持率が75%未満
【符号の説明】
【0223】
51 導電性部材の外表面、52 導電性支持体、53 導電層、
6a マトリックス、6b ドメイン、6c 電子導電剤、
71 ドメイン、
81 導電性部材、82 XZ平面、82a XZ平面82と平行な断面、83 導電性部材の軸方向と垂直なYZ平面、83a 導電層の一端から中央に向かってL/4の箇所の断面、83b 導電層の長手方向の中央での断面、83c 導電層の一端から中央に向かってL/4の箇所の断面、
91 電子写真感光体、92 導電性部材(帯電ローラ)、93 現像ローラ、94 トナー供給ローラ、95 クリーニングブレード、96 トナー容器、97 廃トナー容器、98 現像ブレード、99 トナー、910 攪拌羽、
101 感光ドラム、102 帯電ローラ、103 現像ローラ、104 トナー供給ローラ、105 クリーニングブレード、106 トナー容器、107 廃トナー収容容器、108 現像ブレード、109 トナー、1010 攪拌羽、1011 露光光、1012 一次転写ローラ、1013 テンションローラ、1014 中間転写ベルト駆動ローラ、1015 中間転写ベルト、1016 二次転写ローラ、1017 クリーニング装置、1018 定着器、1019 転写材、
図1
図2
図3
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図5
図6