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特許7401256電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセット
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/02 20060101AFI20231212BHJP
   G03G 9/097 20060101ALI20231212BHJP
   G03G 9/08 20060101ALI20231212BHJP
   G03G 21/18 20060101ALI20231212BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03G15/02 101
G03G9/097 375
G03G9/08
G03G21/18 114
F16C13/00 A
F16C13/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019191592
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021067758
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】友野 寛之
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 禎崇
(72)【発明者】
【氏名】水口 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】松下 修
(72)【発明者】
【氏名】倉地 雅大
(72)【発明者】
【氏名】山内 一浩
(72)【発明者】
【氏名】今村 一晴
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-254022(JP,A)
【文献】特開2011-154278(JP,A)
【文献】特開2017-072833(JP,A)
【文献】特開2019-128588(JP,A)
【文献】特開2001-234004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 9/097
G03G 9/08
G03G 21/18
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該ドメインが、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項2】
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該導電性部材の外表面を観察した際の、該導電層中の該ドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dmsが、0.20μm以上6.00μm以下であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項3】
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該導電性部材の断面観察における、該導電層中の該ドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dmが、0.20μm以上6.00μm以下であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項4】
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該導電性部材の断面観察における、該導電層中の該ドメインの円相当径の算術平均値Dが、0.10μm以上5.00μm以下であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項5】
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下であり
該シリカ微粒子の体積抵抗率が、電界強度5000V/cmの条件において、1.00×10 12 Ω・cm以上1.00×10 17 Ω・cm以下である
ことを特徴とする電子写真装置。
【請求項6】
前記シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径が、5nm以上25nm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項7】
前記シリカ微粒子の、前記トナー粒子の表面への固着率が、40.0%以上90.0%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電子写真装置。
【請求項8】
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該ドメインが、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該現像装置が、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項9】
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該導電性部材の断面観察における、該導電層中の該ドメインの円相当径の算術平均値Dが、0.10μm以上5.00μm以下であり、
該現像装置が、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項10】
電子写真装置の本体に脱着可能である、第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、
電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該ドメインが、該導電性部材の外表面に凸部を生じさせており、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とするカートリッジセット。
【請求項11】
電子写真装置の本体に脱着可能である、第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、
電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該導電性部材の断面観察における、該導電層中の該ドメインの円相当径の算術平均値D
が、0.10μm以上5.00μm以下であり、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
ことを特徴とするカートリッジセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機やプリンターなどの電子写真画像形成装置(以下単に、電子写真装置ともいう)は、使用目的及び使用環境の多様化が進むと共に、長期間繰り返し使用されても画質が安定していることが求められている。
電子写真装置には、帯電装置に導電性部材が使用されている。導電性部材として、導電性の支持体と、支持体上に設けられた導電層を有する構成が知られている。
導電性部材は、導電性の支持体から導電性部材表面まで電荷を輸送し、当接物体に対して、放電によって電荷を与える役割を担う。この導電性部材は、高画質な電子写真画像のために電子写真感光体に対して、均一な帯電を達成する必要がある。
【0003】
特許文献1には、原料ゴムAを主体とするイオン導電性ゴム材料からなるポリマー連続相と、原料ゴムBに導電粒子を配合して導電化した電子導電性ゴム材料からなるポリマー粒子相とを含んでなる海島構造のゴム組成物、及び該ゴム組成物から形成された弾性体層を有する帯電部材が開示されている。
一方、トナーとしても、高い流動性及び帯電性を、長期間繰り返し使用を通じて発揮しなければならない。そのために、特許文献2に記載されているように、トナーに長期の耐久期間を通じて高い流動性、帯電性を維持させるためにはシリカ粒子の多量添加が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-003651号公報
【文献】特開2003-107781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る帯電部材は、帯電部材の電気抵抗が均一で、電気特性が温度、湿度などの環境の変化に影響されず経時的に安定である。
しかしながら、近年の画像形成プロセスの高速化及び長期間の繰り返し耐久性には、未だ改善の余地があるとの認識を得た。
具体的には、特許文献1に係る帯電部材を電子写真画像の形成に供し、特許文献2のようにシリカ微粒子を高被覆に使用しても長期間繰り返し使用する場合における部材汚染という点で改善の余地がある。
具体的には、多量に添加しているシリカ微粒子が、高速プロセスかつ長期間の繰り返し使用により、トナーから移行し帯電部材に付着する場合がある。このように帯電部材の外表面に付着したシリカ微粒子は、高抵抗であるため、帯電部材の放電サイトをキャッピングし、帯電部材からの放電を阻害する。
そのため、シリカ微粒子が外表面に付着した帯電部材は、高速の電子写真画像形成プロセスにおいては、帯電工程に至るまでに感光体の表面に形成された微小な電位ムラを十分に均すことができない。その結果、例えば、ハーフトーン画像に、感光体の電位ムラに起因する濃度の不均一を生じさせることがあった。
したがって、本開示は、シリカ微粒子による被覆率が高いトナーを長期間繰り返し使用した場合においても、高品質な電子写真画像の形成に資する電子写真装置の提供に向けたものである。
また、本開示の他の態様は、高品位な電子写真画像の形成に資するプロセスカートリッジ及びカートリッジセットの提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である、電子写真装置が提供される。
【0007】
本開示の他の態様によれば、
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である
プロセスカートリッジが提供される。
【0008】
本開示の他の態様によれば、
電子写真装置の本体に脱着可能である、第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、
電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であり、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である、カートリッジセットが提供される。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高品質な電子写真画像の形成に資する電子写真装置、プロセスカートリッジ及びカートリッジセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】導電性ローラの長手方向に対して直交する方向の断面図
図2】導電層の部分断面図
図3図3Aは導電部材の切り出し説明図、図3Bは断面切り出し方向の説明図
図4】プロセスカートリッジの断面概要図
図5】電子写真装置の断面概要図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。
また、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0012】
本開示の一態様に係る電子写真装置は、
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する。
該帯電装置は、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有し、
該マトリクスが、第一のゴムを含有し、
該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有し、
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成され、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの該体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上である。
該現像装置は、該トナーを含み、
該トナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である。
【0013】
本発明者らの検討によれば、上記のような電子写真装置を用いることにより、高速プロセス、かつ長期間の繰り返し使用においても、ハーフトーン画像の画像濃度及び該画像濃度の均一性に優れる。この原因を本発明者らは以下のように推定している。
電子写真装置を高速プロセスで長期繰り返し使用した場合、上記の構成により、トナーから移行したシリカ微粒子が導電性部材の外表面に付着する。ここで、導電性部材の外表面とは、導電性部材におけるトナーと接する面である。
シリカ微粒子は、マイナスの電荷を帯びやすいため、電子写真画像形成プロセスにおいては、導電性部材による放電を受けて、マイナスの電荷を有することになる。
通常、導電層を有する導電性部材においては、導電性支持体から導電性部材の外表面まで、電荷を輸送できる導電パスが連結している。このため、一回の帯電工程で、導電層内の多くの電荷が導電性部材の外表面側に移動し、放電が生じる。この場合、一回の放電における放電量が大きくなり、シリカ微粒子が放電を受けた場合、過度なマイナス電荷を生じる。過度なマイナス電荷を持ったシリカ微粒子は、導電性部材の外表面に付着しやすい。その結果、前記したように、ハーフトーン画像の画像濃度や、濃度の均一性を低下させる場合があった。
【0014】
そこで、本発明者らは、導電性部材として、1回の放電量が抑制され、かつ、短い間隔で安定した放電が可能な構成を有するものを用いることで、シリカ微粒子が、電子写真画像形成プロセスにおいて、過度にマイナスの電荷を蓄積することを抑制できることを見出した。
また、上記ドメイン及び上記マトリクスを備えた導電層を有する導電性部材の外表面において、体積抵抗率の高いマトリクスには、シリカ微粒子が付着しやすくなると考えている。
一方、電子導電剤を含有するドメインは、体積抵抗率が低くなりやすい。電子写真感光体を負帯電させようとした場合、導電性部材の外表面は多くのマイナスの電荷を保持していることになる。該導電性部材の外表面は、少なくとも、マトリクスと、導電性部材の外表面に露出しているドメインとで構成され、該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出している。また、マトリクスの体積抵抗率R1(単位:Ω・cm)が、該ドメインの体積抵抗率R2(単位:Ω・cm)の1.0×10倍以上であることから、マイナスの電荷が該ドメインに集中すると考えられる。シリカ微粒子は材質の物性上マイナスの電荷を帯びやすいのでマイナスの電荷が集中する該ドメインとは静電的反発力が発生する。その結果、トナーから移行したシリカ微粒子はマトリクスに付着する。
該マトリクスの体積抵抗率R1は1.00×1012Ω・cmより大きいため、導電性を持たないシリカ微粒子が付着したとしても帯電特性に大きな影響がないと考えられる。
【0015】
また、トナーの表面の、該シリカ微粒子による被覆率は高いため、高速プロセス、かつ長期間の繰り返し使用においてもシリカ微粒子の埋め込みによるトナー粒子表面の露出が抑制され、高い流動性及び帯電性を維持することができる。
以上により、高速プロセス、かつ長期間の繰り返し使用においても、該導電性部材は、電子写真感光体に対する帯電均一性を維持しつつ、トナーも高い流動性及び帯電性を維持できる。その結果、ハーフトーン画像の画像濃度及び該画像濃度の均一性に優れると考えている。
【0016】
まず、帯電装置が有する帯電部材としての、導電性部材について説明する。
本発明者らは、特許文献1に係る帯電部材にシリカ微粒子が移行した場合、電子写真感光体表面を均一に帯電させることが困難である理由について検討した。
その過程で、特許文献1に係る帯電部材において、電子伝導性ゴム材料からなるポリマー粒子相の役割に着目した。すなわち、弾性層(導電層)内においては、ポリマー粒子相間の電子の授受によって導電層に電子伝導性が付与されていると考えられる。
また、ポリマー連続相は、イオン導電性を有している。このような海島構造を持つ帯電部材に移行したシリカ微粒子はポリマー粒子相及びポリマー連続相にランダムに付着すると考えられる。その結果、導電層内で電子の流れにムラが生じ、当該帯電部材の外表面からの電子写真感光体への放電が不均一となる。このことにより、電子写真感光体の表面電位が不均一になると考えられる。
そこで、本発明者らは、検討を重ねた結果、下記の要件(A)、要件(B)及び要件(C)を満たす導電性部材及びトナーが、当該課題の解決に有効であることを見出した。
【0017】
要件(A):
導電性部材が、導電性の外表面を有する支持体、及び該支持体の該外表面上に設けられた導電層を有し、
該導電層が、マトリクス及び該マトリクス中に分散された複数のドメインを有すること。該マトリクスが、第一のゴムを含有し、該ドメインが、第二のゴム及び電子導電剤を含有していること。
該ドメインの少なくとも一部は、該導電性部材の外表面に露出し、
該導電性部材の外表面は、少なくとも、該マトリクスと、該導電性部材の外表面に露出している該ドメインとで構成されること。
【0018】
要件(B):
該マトリクスの体積抵抗率R1が、1.00×1012Ω・cmより大きく、
該マトリクスの体積抵抗率R1が、該ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上であること。
【0019】
要件(C):
現像装置に収容されるトナーが、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、
X線光電子分光法(ESCA)により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下であること。
【0020】
該導電性部材について、ローラ形状を有する導電性部材(以降、導電性ローラともいう)を例に、図1を参照して説明する。図1は、導電性ローラの軸方向である長手方向に対して直交する方向の断面図である。導電性ローラ51は、円柱状であり、導電性の外表面を有する支持体52、支持体52の外周、すなわち支持体の外表面上に設けられた導電層
53を有している。
【0021】
該導電性の外表面を有する支持体を構成する材料としては、電子写真用の導電性部材の分野で公知なものや、導電性部材として利用できる材料から適宜選択して用いることができる。一例として、アルミニウム、ステンレス、導電性を有する合成樹脂、鉄、銅合金などの金属又は合金が挙げられる。
さらに、これらに対して、酸化処理やクロム、ニッケルなどで鍍金処理を施してもよい。鍍金の種類としては電気鍍金、無電解鍍金のいずれも使用することができる。寸法安定性の観点から無電解鍍金が好ましい。ここで使用される無電解鍍金の種類としては、ニッケル鍍金、銅鍍金、金鍍金、その他各種合金鍍金を挙げることができる。
鍍金の厚さは、0.05μm以上が好ましく、作業効率と防錆能力のバランスを考慮すると、鍍金の厚さは0.10μm~30.00μmであることが好ましい。支持体の円柱状の形状は、中実の円柱状でも、中空の円柱状(円筒状)でもよい。この支持体の外径は、3mm~10mmの範囲が好ましい。
【0022】
支持体と導電層の間に、中抵抗層又は絶縁層が存在すると、放電による電荷の消費後の電荷の供給を迅速にできなくなる場合がある。よって、導電層は、支持体に直接設けるか、又は、プライマーなどの薄膜かつ導電性の樹脂層からなる中間層のみを介して支持体の外周に導電層を設けるとよい。
プライマーとしては、導電層形成用のゴム材料及び支持体の材質などに応じて公知のものを選択して用いることができる。プライマーの材料としては、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられる。具体的には、フェノール系樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂のような公知の材料を用いることができる。
【0023】
図2に、導電性ローラの長手方向に対して直交する方向の、導電層の部分断面図の一例を示す。
導電層は、第一のゴムを含有するマトリクス6aと、第二のゴム及び電子導電剤を含有するドメイン6bとを有する、マトリクス-ドメイン構造を有する。図に示されるように、ドメイン6bは電子導電剤6cを含む。
【0024】
上記要件(A)及び要件(B)を満たす導電層を備えた導電性部材の支持体と、電子写真感光体との間にバイアスが印加されたときの導電層内においては、電荷は以下の仕組みで、導電層の支持体側から、反対側である導電性部材の外表面側に移動すると考えられる。
まず、電荷は、マトリクスとドメインとの界面近傍に蓄積される。そして、その電荷は、支持体側に位置するドメインから、支持体の側とは反対側に位置するドメインに順次受け渡されていき、導電層の支持体の側とは反対側の表面(以下、導電層の外表面ともいう)に到達する。このとき、1回の帯電工程で全てのドメインの電荷が導電層の外表面側に移動すると、次の帯電工程に向けて、導電層中に電荷を蓄積するために時間を要することとなる。そうすると、高速の電子写真画像形成プロセスに対応しにくくなる。従って、帯電バイアスが印加されても、ドメイン間の電荷の授受が同時的に生じないようにすることが好ましい。また、高速の電子写真画像形成プロセスにおいては電荷の動きが制約されるため、一回の放電で十分な量の電荷を放電させるためには、各々のドメインに十分な量の電荷を蓄積させることが好ましい。上記要件(A)及び要件(B)を満たす導電層を備えた導電性部材は、帯電バイアス印加時のドメイン間での同時的な電荷の授受の発生を抑制し、かつドメイン内に十分な電荷を蓄積させることができる。
【0025】
上述のように、マトリクスの体積抵抗率R1を、1.00×1012Ω・cmより大きくすることで、電荷が、ドメインを迂回してマトリクス中を移動することを抑制できる。
そして、1回の放電で蓄積された電荷の大半が消費されることを抑制できる。また、ドメインに蓄積された電荷が、マトリクスに漏洩することによって、あたかも導電層内を連通する導電経路が形成されているかのような状態となることを防止できる。
該体積抵抗率R1は、1.0×1014Ω・cm以上であることが好ましく、1.0×1016Ω・cm以上であることがより好ましい。一方、R1の上限は、特に限定されないが、目安としては、1.0×1017Ω・cm以下であることが好ましい。
【0026】
高速の電子写真画像形成プロセスにおいて、電荷を導電層中のドメインを介して移動させ、微細放電を達成させるためには、電荷が十分に蓄積された領域(ドメイン)が、電気的に絶縁性の領域(マトリクス)で分断されている構成が有効であると本発明者らは考えている。そして、マトリクスの体積抵抗率を上記したような高抵抗領域の範囲とすることで、マトリクスと各ドメインとの界面において十分な電荷を留めることができ、また、ドメインからの電荷漏洩を抑制できる。
【0027】
また、放電が微細でかつ必要十分な放電量を達成するためには、電荷の移動経路が、ドメインを介在した経路に限定することが効果的であることを見出した。ドメインからマトリクスへの電荷の漏洩を抑制し、電荷の輸送経路を複数のドメインを介した経路に限定することにより、ドメインに存在する電荷の密度を向上させることができる。その結果、各ドメインにおける電荷の充填量をより増大させることができる。
これにより、放電の起点である導電相としてのドメインの表面において、放電に関与できる電荷の総数を向上させることができる。その結果、導電性部材の表面からの放電の出やすさを向上させることができると考えられる。
【0028】
さらに、導電層の外表面から発生する放電は、上記のような導電相としてのドメインから電界によって電荷が引き出される現象と同時に、空気が電界によって電離して発生するプラスイオンが、マイナスの電荷が存在する導電層の表面に衝突して、導電層の表面から電荷を放出するγ効果も含む。導電性部材の表面にある導電相としてのドメインには、上記で説明したように、高密度で電荷を存在させることができる。したがって、プラスイオンが電界によって導電層の表面に衝突した際の、放電電荷の発生効率も向上でき、従来の導電性部材と比較して、より多くの放電電荷を発生しやすい状態にできていると推測している。
また、マトリクスの体積抵抗率R1を1.00×1012Ω・cmより大きくすることでトナーから移行したシリカ微粒子が体積抵抗率の高いマトリクスで構成された部位に付着しやすくなると推測している。
【0029】
マトリクスの体積抵抗率R1(単位:Ω・cm)は、導電層を薄片化し、微小探針によって計測することができる。薄片化の手段としては、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)のような非常に薄いサンプルを作成できる手段を用いるとよい。具体的な手順については後述する。
【0030】
該マトリクスの体積抵抗率R1は、ドメインの体積抵抗率R2の1.0×10倍以上である。マトリクスはカーボンブラックなどの電子導電剤をほとんど含まず、ドメインよりも高い電気抵抗を有する。R1及びR2の関係を上記範囲にすることでドメインの導電パス形成の観点から有効である。また、移行したシリカ微粒子が導電性部材のドメイン部位に付着しにくくなるため、帯電均一性の維持に有効である。
また、ドメインの体積抵抗率R2をより低い状態にすることで、マトリクスで目的としない電荷の移動を抑制しつつ、電荷の輸送経路を、より効果的に複数のドメインを介する経路に限定することができる。
該R1はR2の、1.0×10倍~1.0×1020倍であることが好ましく、1.0×10倍~1.0×1016倍であることがより好ましく、1.0×1011倍~1
.0×1016倍であることがさらに好ましい。
該ドメインの体積抵抗率R2は、1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下にすることが好ましい。
また、R2は1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下であることがより好ましく、1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
該ドメインの体積抵抗率R2が上記範囲であることで、ドメイン内で移動する電荷の量を飛躍的に向上できるため、さらに効果的に電荷の輸送経路をドメイン経由に限定することができる。
ドメインの体積抵抗率R2は、例えば、ドメインのゴム成分に対し、電子導電剤の種類や添加量を変更することによって調整するとよい。
【0031】
該マトリクスは第一のゴムを含有し、該ドメインは第二のゴム及び電子導電剤を含有する。
ドメイン用のゴム材料(第二のゴム)としては、マトリクス用としてのゴム材料(第一のゴム)を含むゴム組成物を用いてもよい。詳細は後述する。
マトリクス-ドメイン構造を形成するためにマトリクスを形成するゴム材料との溶解度パラメータ(SP値)の差を一定の範囲にすることが好ましい。すなわち、第一のゴムのSP値と第二のゴムのSP値との差の絶対値が、好ましくは、0.4(J/cm0.5以上5.0(J/cm0.5以下である。また、より好ましくは、0.4(J/cm0.5以上2.2(J/cm0.5以下である。
ドメインの体積抵抗率R2は、電子導電剤の種類、及びその添加量を適宜選択することによって調整することができる。ドメインの体積抵抗率R2を1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下に制御するために使用する電子導電剤としては、分散する量によって高抵抗から低抵抗まで体積抵抗率を大きく変化させることができる電子導電剤が好ましい。
【0032】
ドメインに配合される電子導電剤については、カーボンブラック、グラファイト、酸化チタン、酸化錫などの酸化物;Cu、Agなどの金属;酸化物又は金属が表面に被覆され導電化された粒子などを例として挙げられる。また、必要に応じて、これらの導電剤の2種類以上を適宜量配合して使用してもよい。
以上の様な電子導電剤のうち、ゴムとの親和性が大きく、電子導電剤間の距離の制御が容易な、導電性のカーボンブラックを使用することが好ましい。ドメインに配合されるカーボンブラックの種類については、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどが挙げられる。
【0033】
中でも、高い導電性をドメインに付与し得る、DBP吸油量が40cm/100g以上170cm/100g以下である導電性カーボンブラックを好適に用いることができる。
導電性のカーボンブラックなどの電子導電剤の含有量は、ドメインに含まれる第二のゴム100質量部に対して、20質量部以上150質量部以下であることが好ましく、50質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
一般的な電子写真用の導電性部材と比較して、電子導電剤が多量に配合されていることが好ましい。これにより、ドメインの体積抵抗率R2を1.00×10Ω・cm以上1.00×10Ω・cm以下の範囲に容易に制御することができる。
また、必要に応じて、ゴムの配合剤として一般に用いられている充填剤、加工助剤、架橋助剤、架橋促進剤、老化防止剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、軟化剤、分散剤、着色剤などを、本開示に係る効果を阻害しない範囲でドメイン用のゴム組成物に添加してもよい。
【0034】
ドメインの体積抵抗率R2の測定は、マトリクスの体積抵抗率R1の測定方法に対して、測定箇所をドメインに相当する場所に変更し、電流値の測定の際の印可電圧を1Vに変更した以外は同様の方法で実施すればよい。具体的な手順は後述する。
ここで、ドメインの体積抵抗率は、均一であることが好ましい。ドメインの体積抵抗率の均一性を向上させるためには、各ドメイン内の電子導電剤の量を均一化することが好ましい。これにより、導電性部材の外表面からの、被帯電体への放電をより安定化させることができる。
【0035】
ドメイン間での電荷の授受を行わせるうえで、導電性部材の断面観察における、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dm(以下、単に「ドメイン間距離Dm」ともいう)は、例えば、0.10μm以上7.00μm以下であることが好ましく、0.20μm以上7.00μm以下であることがより好ましく、0.20μm以上6.00μm以下であることがさらに好ましい。
ドメイン同士を絶縁領域(マトリクス)で確実に分断することで、より十分な電荷をドメインに蓄積させるためには、例えば、該ドメイン間距離Dmを、0.20μm以上2.00μm以下にしてもよい。該ドメイン間距離Dmを上記範囲にすることでより電子写真感光体の帯電均一性がより向上し、ハーフトーン画像のガサツキがより良好になる。
【0036】
該ドメイン間距離Dmの測定方法は、次のように実施すればよい。
まず、前述のマトリクスの体積抵抗率の測定における方法と同様の方法で切片を作製する。また、マトリクス-ドメイン構造の観察を好適に実施するために、染色処理、蒸着処理など、導電相と絶縁相とのコントラストが好適に得られる前処理を施してもよい。
破断面の形成、白金蒸着を行った切片を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察して、マトリクス-ドメイン構造の存在を確認する。
これらの中でも、ドメインの面積の定量化の正確性から、SEMで1000倍~100000倍で観察を行うことが好ましい。具体的な手順は後述する。
【0037】
導電性部材の断面観察における、導電層中の該ドメインの円相当径の算術平均値D(以下単に、ドメイン径Dともいう)は、小さい方が好ましい。
該ドメイン径Dは、例えば、0.10μm以上6.00μm以下であることが好ましく、0.10μm以上5.00μm以下であることがより好ましい。例えば、該ドメイン径Dは、0.10μm以上、0.15μm以上、0.20μm以上であることが好ましい。また、例えば、該ドメイン径Dは、6.00μm以下、5.00μm以下、2.00μm以下、1.00μm以下、0.50μm以下、0.40μm以下であることが好ましい。これら数値範囲は任意に組み合わせることができる。該ドメイン径Dが上記範囲である場合、高い効果が期待できる。
【0038】
該ドメインの少なくとも一部は、導電性部材の外表面に露出し、導電性部材の外表面は、少なくとも、マトリクスと、導電性部材の外表面に露出しているドメインとで構成される。
また、該ドメインが、導電性部材の外表面に凸部を生じさせているとよい。
導電性部材の外表面は、マトリクスの表面と、ドメインの表面とを含み、導電性部材の外表面は、該ドメインによる凸部を有することが好ましい。
転写工程において、中間転写ベルトや紙に転写されなかった転写残トナー(反転トナー)は、導電性部材と逆極性のため、導電性部材に付着しやすい。
検討の結果、ドメインによる凸形状によって、反転トナーが導電性部材の表面へ付着することを抑制できることを見出した。
この理由として、導電性部材と電子写真感光体との当接部において、導電性部材の表面のドメインによる凸部が反転トナーに積極的に接触し、注入帯電が発生するためと発明者
らは考えている。
反転トナーの導電性部材への付着が抑制されると、導電性部材の帯電均一性が維持されやすくなるため、ハーフトーン画像の画像濃度均一性をより優れたものにできる。
該導電性部材の外表面に存在する、ドメインによる凸部の高さは、15nm以上250nm以下であることが好ましく、50nm以上200nm以下であることがより好ましい。該凸部の高さが上記範囲である場合、反転トナーとの接触機会を増大でき、また、凸形状由来の放電ムラの発生を抑制することが可能である。
【0039】
導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(μm)は、例えば、0.20μm以上7.00μm以下であることが好ましく、0.20μm以上6.00μm以下であることがより好ましい。例えば、該Dmsは、0.20μm以上、0.50μm以上、1.00μm以上、2.00μm以上、4.00μm以上であってもよい。また、7.00μm以下、6.00μm以下、5.00μm以下であってもよい。該ドメイン間距離Dmsを上記範囲にすることで導電性部材の帯電特性の耐久性がより向上し、長期間使用時におけるハーフトーン濃度の維持がより良好になる。
【0040】
また、導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの円相当径の算術平均値Dsをドメイン径Ds(μm)とする。そのとき、該Dsは、0.10μm以上2.00μm以下であることが好ましく、0.15μm以上1.00μm以下であることがより好ましく、0.20μm以上0.70μm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
導電性部材は、例えば、下記工程(i)~(iv)を含む方法を経て形成するとよい。
工程(i):カーボンブラックなどの電子導電剤及び第二のゴムを含む、ドメイン形成用ゴム混合物(以降、「CMB」とも称する)を調製する工程;
工程(ii):第一のゴムを含むマトリクス形成用ゴム混合物(以降、「MRC」とも称する)を調製する工程;
工程(iii):CMBとMRCとを混練して、マトリクス-ドメイン構造を有するゴム混合物を調製する工程。
工程(iv):工程(iii)で調製したゴム混合物の層を、導電性支持体上に直接又は他の層を介して形成し、該ゴム組成物の層を硬化させて、導電層を形成する工程。
【0042】
要件(A)及び要件(B)は、例えば、上記各工程に用いる材料の選択、製造条件の調整により制御することができる。以下説明する。
【0043】
要件(B)に関して、マトリクスの体積抵抗率は、MRCの組成によって定まる。
MRCに用いる第一のゴムとしては、導電性の低いゴムが好ましい。
天然ゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、及びポリノルボルネンゴムからなる群から選択される少なくとも一が挙げられる。
第一のゴムとして、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム、及びエチレンプロピレンジエンゴムからなる群から選択される少なくとも一が好ましい。
【0044】
また、マトリクスの体積抵抗率が上記範囲内であれば、MRCには、必要に応じて、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、架橋促進剤、架橋促進助剤、架橋遅延剤、老化防止剤、軟化剤、分散剤、着色剤などを添加してもよい。一方、MRCには、マトリクスの体積抵抗率を上記範囲内とするために、カーボンブラックなどのような電子導電剤は含有させないことが好ましい。
【0045】
また、要件(B)について、CMB中の電子導電剤の量によって調整し得る。例えば、電子導電剤として、DBP吸油量が、40cm/100g以上170cm/100g以下(好ましくは、40cm/100g以上80cm/100g以下)である導電性カーボンブラックを用いる場合を例に挙げると、CMBの第二のゴム100質量部に対し、40質量部以上200質量部以下の導電性カーボンブラックを含むようにCMBを調製することで要件(B)を達成し得る。
【0046】
さらに、ドメイン間距離Dm及びDmsやドメイン径D及びDsなどのドメインに係る分散状態に関しては、下記(a)~(d)の4つを制御することが有効である。
(a)CMB、及びMRCの各々の界面張力σの差;
(b)CMBの粘度(ηd)、及びMRCの粘度(ηm)の比(ηm/ηd);
(c)工程(iii)における、CMBとMRCとの混練時のせん断速度(γ)、及びせん断時のエネルギー量(EDK)。
(d)工程(iii)における、CMBのMRCに対する体積分率。
【0047】
(a)CMBとMRCとの界面張力差
一般的に二種の非相溶のゴムを混合した場合、相分離する。これは、異種高分子間の相互作用よりも、同一高分子間の相互作用が強いため、同一高分子同士で凝集し、自由エネルギーを低下させ安定化しようとするためである。
相分離構造の界面は異種高分子と接触するため、同一分子同士の相互作用で安定化されている内部より、自由エネルギーが高くなる。その結果、界面の自由エネルギーを低減させるために、異種高分子と接触する面積を小さくしようとする界面張力が発生する。この界面張力が小さい場合、エントロピーを増大させるために異種高分子でもより均一に混合しようとする方向に向かう。均一に混合した状態とは溶解であり、溶解度の目安となるSP値(溶解度パラメーター)と界面張力は相関する傾向にある。
【0048】
つまり、CMBとMRCとの界面張力差は、各々が含むゴムのSP値差と相関すると考えられる。MRC中の第一のゴムの溶解度パラメーター(SP値)と、CMB中の第二のゴムの溶解度パラメーター(SP値)の絶対値の差が、0.4(J/cm0.5以上5.0(J/cm0.5以下であることが好ましい。より好ましくは、0.4(J/cm0.5以上2.2(J/cm0.5以下となるようなゴムを選択するとよい。この範囲であれば安定した相分離構造を形成でき、また、CMBのドメイン径Dを小さくすることができる。
【0049】
ここで、CMBに用い得る第二のゴムの具体例としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クルルプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H-NBR)、シリコーンゴム、及びウレタンゴム(U)からなる群から選択される少なくとも一が挙げられる。
第二のゴムが、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、及びアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)からなる群から選択される少なくとも一であることが好ましく、スチレンブタジエンゴム(SBR)、及びブチルゴム(IIR)からなる群から選択される少なくとも一であることがより好ましい。
導電層の厚みは、目的とする導電性部材の機能及び効果が得られるものであれば特に限定されない。導電層の厚みは、1.0mm以上4.5mm以下とすることが好ましい。
ドメインとマトリクスとの質量比率(ドメイン:マトリクス)は、好ましくは5:95~40:60であり、より好ましくは10:90~30:70であり、さらに好ましくは15:85~25:75である。
【0050】
<SP値の測定方法>
SP値は、SP値が既知の材料を用いて、検量線を作成することで、精度良く算出することが可能である。この既知のSP値は、材料メーカーのカタログ値を用いることもできる。例えば、NBR及びSBRは、分子量に依存せず、アクリロニトリル及びスチレンの含有比率でSP値がほぼ決定される。
従って、マトリクス及びドメインを構成するゴムを、熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)及び固体NMRなどの分析手法を用いて、アクリロニトリル又はスチレンの含有比率を解析することで、SP値が既知の材料から得た検量線から、SP値を算出することができる。
また、イソプレンゴムは、1,2-ポリイソプレン、1,3-ポリイソプレン、3,4-ポリイソプレン、及びcis-1,4-ポリイソプレン、trans-1,4-ポリイソプレンなどの、異性体構造でSP値が決定される。従って、SBR及びNBRと同様にPy-GC及び固体NMRなどで異性体含有比率を解析し、SP値が既知の材料から、SP値を算出することができる。
SP値が既知の材料のSP値は、Hansen球法で求めたものである。
【0051】
(b)CMBとMRCとの粘度比
CMBの粘度のMRCの粘度に対する比(CMBの粘度/MRCの粘度)(ηd/ηm)は、1に近い程、ドメイン径D及びDsを小さくできる。
具体的には、該粘度の比(CMBの粘度/MRCの粘度)は1.0以上2.0以下であることが好ましい。(CMBの粘度/MRCの粘度)は、CMB及びMRCに使用する原料ゴムのムーニー粘度の選択や、充填剤の種類や量の配合によって調整が可能である。
また、相分離構造の形成を妨げない程度に、パラフィンオイルなどの可塑剤を添加することでも可能である。また混練時の温度を調整することで、粘度の比の調整を行うことができる。なお、ドメイン形成用ゴム混合物やマトリクス形成用ゴム混合物の粘度は、JIS K6300-1:2013に基づきムーニー粘度ML(1+4)を混練時のゴム温度で測定することで得られる。
【0052】
(c)MRCとCMBとの混練時のせん断速度、及びせん断時のエネルギー量
MRCとCMBとの混練時のせん断速度は速いほど、また、せん断時のエネルギー量は大きいほど、ドメイン間距離Dm及びDmsを小さくすることができる。
せん断速度は、混練機のブレードやスクリューといった撹拌部材の内径を大きくし、撹拌部材の端面から混練機内壁までの間隙を小さくすることや、回転数を大きくすることで上げることができる。また、せん断時のエネルギーを上げるには、撹拌部材の回転数を上げることや、CMB中の第二のゴムとMRC中の第一のゴムの粘度を上げることで達成できる。
【0053】
(d)MRCに対するCMBの体積分率
MRCに対するCMBの体積分率は、マトリクス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の衝突合体確率と相関する。具体的には、マトリクス形成用ゴム混合物に対するドメイン形成用ゴム混合物の体積分率を低減させると、ドメイン形成用ゴム混合物とマトリクス形成用ゴム混合物の衝突合体確率が低下する。つまり、必要な導電性を得られる範囲において、マトリクス中におけるドメインの体積分率を減らすことでドメイン間距離Dm及びDmsを小さくできる。そして、CMBのMRCに対する体積分率(すなわち、ドメインのマトリクスに対する体積分率)は、15%以上40%以下とすることが好ましい。
【0054】
電子導電剤が高密度に充填されたドメインを得るために、電子導電剤として、DBP吸油量が40cm/100g以上80cm/100g以下であるカーボンブラックを特に好適に用い得る。DBP吸油量(cm/100g)とは、100gのカーボンブラッ
クが吸着し得るジブチルフタレート(DBP)の体積であり、日本工業規格(JIS) K 6217-4:2017(ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))に従って測定される。一般に、カーボンブラックは、平均粒径10nm以上50nm以下の一次粒子がアグリゲートした房状の高次構造を有している。この房状の高次構造はストラクチャーと呼ばれ、その程度はDBP吸油量(cm/100g)で定量化される。
一般的に、ストラクチャーが発達したカーボンブラックは、ゴムに対し補強性が高く、ゴムへのカーボンブラックの取り込みが悪くなり、また、混練時のシェアトルクが非常に高くなる。そのため、ドメイン中に充填量を多くすることが困難である。
一方、DBP吸油量が上記範囲内にある導電性カーボンブラックは、ストラクチャー構造が未発達のため、カーボンブラックの凝集が少なく、ゴムへの分散性が良好である。そのため、ドメイン中への充填量を多くでき、その結果として、ドメインの外形形状を、より球体に近いものを得られやすい。
さらに、ストラクチャーが発達したカーボンブラックは、カーボンブラック同士が凝集し易く、また、凝集体は、大きな凸凹構造を有する塊となりやすい。このような凝集体がドメインに含まれると、要件(B)に係るドメインが得られにくい。凝集体の形成はドメインの形状にまで影響を与え凹凸構造を形成する場合がある。一方、DBP吸油量が、上記した範囲内にある導電性カーボンブラックは、凝集体を形成しにくいため好ましい。
【0055】
なお、ドメイン間での電界集中のより一層の軽減を図る上では、ドメインの外形形状をより球体に近づけるとよい。そのためには、ドメイン径Dを、前記した範囲内でより小さくするとよい。その方法としては、例えば、工程(iii)において、MRCとCMBとを混練して、MRCとCMBとを相分離させる。そして、MRCのマトリクス中にCMBのドメインが形成されたゴム混合物を調製する該工程において、CMBのドメイン径Dを小さくするように制御する方法が挙げられる。CMBのドメイン径Dを小さくすることでCMBのドメインの比表面積が増大し、マトリクスとの界面が増加するため、CMBのドメインの界面には張力を小さくしようとする張力が作用する。その結果、CMBのドメインは、その外形形状が、より球体に近づく。
【0056】
ここで、非相溶のポリマー2種を溶融混練させたときに形成されるマトリクス-ドメイン構造におけるドメイン径を決定する要素に関して、Taylorの式(式(6))、Wuの経験式(式(7)、(8))、及びTokitaの式(式(9))が知られている。・Taylorの式
D=[C・σ/ηm・γ]・f(ηm/ηd) (6)
・Wuの経験式
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)0.84・ηd/ηm>1 (7)
γ・D・ηm/σ=4(ηd/ηm)-0.84・ηd/ηm<1 (8)
・Tokitaの式
D=12・P・σ・φ/(π・η・γ)・(1+4・P・φ・EDK/(π・η・γ))(9)
【0057】
式(6)~(9)において、DはCMBのドメインの最大フェレ径、Cは定数、σは界面張力、ηmはマトリクスの粘度、ηdはドメインの粘度、γはせん断速度、ηは混合系の粘度、Pは衝突合体確率、φはドメイン相体積、EDKはドメイン相切断エネルギーを表す。
前記要件(A)及び要件(B)に関連して、ドメイン間距離の均一化を図るためには、前記式(6)~(9)に従って、ドメイン径を小さくすることが有効である。さらに、MRCとCMBとを混錬する工程において、ドメインの原料ゴムが分裂し、徐々にその粒径が小さくなっていく過程において、混錬工程をどこで止めたかによってもドメイン間距離は変化する。
したがって、そのドメイン間距離の均一性は、混錬工程における混錬時間及びその混錬の強度の指数となる混錬回転数によって制御可能であり、混錬時間が長いほど、混錬回転数が大きいほどドメイン間距離の均一性を向上させることができる。
【0058】
<導電性部材の外表面へのドメインによる凸部の形成方法>
ドメインによる凸部の形成方法は、導電性部材の外表面を研削することによって得ることができる。また、マトリクス-ドメイン構造を有する導電層であるからこそ、砥石による研削工程によって好適に形成することができると発明者らは考えている。例えば、プランジ方式研磨機で、研磨砥石によって研削する方法によって形成するとよい。
砥石研磨によってドメインによる凸部を形成できる推測メカニズムを示す。
まず、マトリクス中に分散しているドメインに、例えば、電子導電剤であるカーボンブラックが充填されている場合、カーボンブラックが充填されていないマトリクスよりも補強性が高くなっている。したがって、この補強性の違いが生む研削性の違いを利用して、ドメインによる凸部を形成することができる。具体的には、同じ砥石による研削加工を行った場合、ドメインは補強性が高いために、マトリクスよりも研削されにくいことが考えられる。
【0059】
ここで、プランジ方式研磨機用の研磨砥石について説明する。
研磨砥石は、研磨効率や導電層の構成材料の種類に応じて、適宜、表面の粗さを選択することができる。この砥石表面の粗さは、砥粒の種類、砥粒の粒度、砥粒の結合度、砥粒の結合剤、砥粒の組織(砥粒率)などによって調節することができる。
なお、上記「砥粒の粒度」とは砥粒の大きさを示し、例えば、#80と表記する。この場合の数字は、砥粒を選別するメッシュの1インチ(25.4mm)あたり幾つの目があるかを意味しており、数字が大きくなるほど砥粒が細かいことを示す。上記「砥粒の結合度」とは硬さを示し、アルファベットAからZで表す。この結合度はAに近いほど軟らかく、Zに近いほど硬いことを表す。砥粒中に結合剤を多量に含むほど、結合度の硬い砥石となる。上記「砥粒の組織(砥粒率)」とは、砥石の全容積中に占める砥粒の容積比を表し、この組織の大小により組織の粗密を表す。組織を示す数字が大きいほど、粗であること示す。この組織の数字が大きく、大きな空孔を有する砥石を多孔性砥石と呼び、目詰まり、砥石焼けを防ぐなどの利点を有する。
【0060】
一般的に、この研磨砥石は、原料(砥材、結合剤、気孔剤、など)を混合し、プレス成形、乾燥、焼成、仕上げにより製造することができる。砥粒としては、緑色炭化けい素質(GC)、黒色炭化けい素質(C)、白色アルミナ質(WA)、かっ色アルミナ質(A)、ジルコニアアルミナ質(Z)などを使用することができる。これらの材料は単体で、又は複数種を混合して用いることができる。また、上記結合剤としては、ビトリファイド(V)、レジノイド(B)、レジノイド補強(BF)、ゴム(R)、シリケート(S)、マグネシア(Mg)、シェラック(E)などを用途に応じて適宜、使用することができる。
ここで、研磨砥石の長手方向の外径形状としては、導電性ローラをクラウン形状に研磨できるように、端部から中央部に向けて徐々に外径が小さくなる逆クラウン形状とすることが好ましい。研磨砥石の外径形状は、長手方向に対して円弧曲線又は2次以上の高次曲線の形状となることが好ましい。また、これ以外にも、研磨砥石の外径形状は4次曲線やサイン関数など、様々な数式で表される形状となっていてもよい。研磨砥石の外形形状は外径の変化が滑らかに変化するものが好ましいが、円弧曲線などを直線による多角形状に近似した形状としてもよい。この研磨砥石の軸方向に相当する方向の幅は、導電性ローラの軸方向の幅と同等か、それ以上であることが好ましい。
【0061】
上記にあげた要因を考慮して砥石を適宜選択し、ドメインとマトリクスの研削性の違いを助長する条件によって研削工程を実施することによって、ドメインによる凸部を形成することができる。
具体的には、磨きを抑えた条件、切れ味が悪い砥粒を用いた条件が好ましく、例えば、粗削りをした後の精密磨き工程の時間を短くする、処理済の砥石(砥粒を配合したゴム部材でドレッシングした砥石の表面を磨くことによって砥粒を摩滅させることができる。ゴム部材で処理した砥石)を用いて研磨するなどの手段をとることができる。
【0062】
<マトリクス-ドメイン構造の確認方法>
導電層中のマトリクス-ドメイン構造の存在は、導電層から薄片を作製して、薄片に形成した破断面の詳細観察により確認することができる。具体的な手順は後述する。
【0063】
以下、要件(C)について述べる。
要件(C):
トナーは、結着樹脂を含有するトナー粒子、並びに、該トナー粒子に外添されたシリカ微粒子を有し、X線光電子分光法(ESCA)により求めた、該トナーの表面の該シリカ微粒子による被覆率が62.0面積%以上100.0面積%以下である。
本発明者らは、上述のような特定の導電性部材と、以下に述べる特定のトナーを搭載した電子写真装置を用いた一態様により、上記課題が格段に改善できることを見出した。
X線光電子分光法(ESCA)により求めた、トナーの表面のシリカ微粒子による被覆率が、上記範囲である場合、トナーの電子写真感光体への付着力が低減しやすく、長期間繰り返しの使用をしてもトナーの流動性及び帯電性を良好な状態に維持しやすい。
また、高速プロセス、かつ長期間の繰り返しの使用においてもシリカ微粒子の埋め込みによるトナー粒子表面の露出が抑制され、高い流動性を維持することができる。
また、導電性部材へ移行したシリカ微粒子が放電を阻害しないため、長期間の繰り返しの使用においても帯電均一性を維持することができる。
該被覆率は、70.0面積%以上95.0面積%以下であることが好ましく、80.0面積%以上95.0面積%以下であることがより好ましい。
また、該被覆率は、シリカ微粒子の添加量、粒径、外添条件、トナー粒子の性状を調整することにより、上記範囲に調整することが可能である。
【0064】
該トナーについて説明する。トナーの劣化を抑制し、かつ移行したシリカ微粒子が導電性部材に付着しても導電性部材の帯電均一性に影響を及ぼしにくいことが望まれる。
該シリカ微粒子として、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された微粒子が挙げられ、乾式法シリカ又はヒュームドシリカと称される。
例えば、四塩化ケイ素ガスの酸素、水素中における熱分解酸化反応を利用するもので、基礎となる反応式は次のようなものである。
SiCl+2H+O→SiO+4HCl
この製造工程において、例えば、塩化アルミニウム又は塩化チタンなどの他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによってシリカと他の金属酸化物の複合微粒子を得ることも可能である。
【0065】
該シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径は、5nm以上45nm以下としてもよく、5nm以上25nm以下であることが好ましく、より好ましくは、5nm以上15nm以下、さらに好ましくは、7nm以上15nm以下である。
シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)が上記範囲にあることにより、外添混合処理時に、シリカ微粒子同士よりも、トナー粒子とシリカ微粒子との衝突頻度が高くなりやすく、被覆率、及び外添剤の埋め込みを制御しやすくなる。
また、シリカ微粒子同士が凝集しにくく、トナー粒子表面においても、凝集体として存在しにくい。シリカ微粒子の凝集体が形成されにくい場合、繰り返しの使用においても、トナー同士の摺擦により、シリカ微粒子が解されにくく、トナー粒子表面から脱離しにくい。該シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)の測定方法は後述する。
【0066】
そのため、繰り返し使用の初期に被覆率を調整するようにシリカ微粒子を添加しても、繰り返し使用後期までシリカ微粒子による被覆率が低下しにくい。さらに、凝集体が形成されにくいことにより、シリカ微粒子同士の力でトナー粒子にシリカ微粒子が埋めこまれにくく、繰り返し使用初期と繰り返し使用後期のトナーの物性変化が少なく、トナー劣化を引き起こしにくい。
【0067】
該シリカ微粒子は、長期間の繰り返し使用を通じて、トナーの良好な流動性を確保させるために、例えば、BET比表面積が130m/g以上330m/g以下のものが好ましい。より好ましくは、200m/g以上320m/g以下である。
該シリカ微粒子は疎水化処理されていてもよい。
該シリカ微粒子は、例えば、見掛け密度が15g/L以上50g/L以下であることが好ましく、より好ましくは、18g/L以上45g/L以下である。
シリカ微粒子の見掛け密度が上記範囲にある場合、シリカ微粒子が密に詰まりにくく、微粒子間に空気を多く介在しながら存在しており、見掛け密度が非常に低いことを示している。このため、トナーにおいても、トナー同士が密に詰まりにくくなるため、劣化の速度を低下させることが可能である。
【0068】
シリカ微粒子の見掛け密度を上記範囲に制御する手段としては、シリカ微粒子に用いるシリカ微粒子原体の粒径、解砕処理の有無とその強度、及びシリコーンオイルなどの疎水化処理に用いる処理剤の添加量などを調整するとよい。
シリカ微粒子原体の粒径を低下させることで、得られるシリカ微粒子のBET比表面積が大きくなり、空気を多く介在できるようになるため、見掛け密度を低下させることができる。また、解砕処理を行うことで、シリカ微粒子に含有される、比較的大きな二次粒子を、比較的小さな二次粒子へほぐすことができ、見掛け密度を低下させることが可能である。
【0069】
該シリカ微粒子は、シリカ微粒子原体100質量部に対して、15.0質量部以上40.0質量部以下のシリコーンオイルによって疎水化処理されていてもよい
該疎水化処理の程度は、高温多湿環境における帯電性の低下の抑制という観点から、メタノール滴定試験によって測定された疎水化度が70%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上である。
該シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α-メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
該シリコーンオイルの25℃における動粘度は、30cSt以上1000cSt以下程度にするとよい。好ましくは、30cSt以上500cSt以下程度、より好ましくは、40cSt以上300cSt以下程度である。
動粘度が上記範囲の場合、シリカ微粒子原体をシリコーンオイルで疎水化処理する際に、処理均一性を制御しやすい。
さらに、シリコーンオイルの動粘度は、シリコーンオイルの分子鎖長に密接に関係しており、動粘度が上述の範囲にある場合、シリカ微粒子の凝集度を好適な範囲に制御しやすいため、好ましい。
シリコーンオイルの動粘度を測定する装置としては、細管式動粘度計(蕪木科学器械工業(株)製)又は全自動微量動粘度計(ビスコテック(株)製)が挙げられる。
【0070】
該シリカ微粒子は、シリカ微粒子原体をシリコーンオイルにより処理した後に、アルコキシシラン及びシラザンなどのシランカップリング剤からなる群より選択される少なくとも一の化合物で処理されていてもよい。
シリコーンオイルで疎水化処理が不十分であった場合に、シリカ微粒子原体の表面をさらに疎水化処理できるため、高疎水化度のシリカ微粒子を安定して得ることができる。
また、トナーのほぐれやすさを改善しやすい。トナーのほぐれやすさを改善できる理由の詳細は明らかになっていないが、本発明者らは以下のように考えている。
シリカ微粒子表面のシリコーンオイル分子末端のうち、片末端のみが自由度を有しており、シリカ微粒子同士の凝集性に影響する。一方、上述のような2段処理を行うことで、シリカ微粒子の最表面にシリコーンオイル分子末端がほとんど存在しなくなる。そのため、シリカ微粒子の凝集性をより低下させることができる。これにより、外添した際のトナー同士の凝集性を大幅に低下させることができ、トナーのほぐれやすさを向上させることが可能である。
該シリカ微粒子は、疎水化処理工程中に、又は、処理工程後に解砕処理を行ってもよい。さらに、2段処理を行う場合、処理の間に解砕処理を行うことも可能である。
【0071】
該シリカ微粒子原体のシリコーンオイルによる表面処理、並びに、アルコキシシラン及びシラザンなどのシランカップリング剤による表面処理は乾式処理又は湿式処理のいずれの方法を用いてもよい。
具体的な処理手順としては、例えば、シリコーンオイルを溶かした溶剤(好ましくは有機酸などでpH4に調整)の中にシリカ微粒子原体を入れて反応させ、その後、溶剤を除去する。その後、解砕処理を施してもよい。
続いて、アルコキシシラン及びシラザンなどのシランカップリング剤を溶かした溶剤の中に、解砕したシリコーンオイル処理済シリカ微粒子を入れて反応させる。その後、溶剤を除去し、解砕処理を施す。また、以下のような方法でもよい。例えば、シリコーンオイルによる表面処理では、シリカ微粒子原体を反応槽に入れる。そして、窒素雰囲気下、撹拌しながらアルコール水を添加し、シリコーンオイルを反応槽に導入して表面処理を行い、さらに、加熱撹拌して溶剤を除去し、解砕処理を行う。アルコキシシラン及びシラザンなどのシランカップリング剤による表面処理では、窒素雰囲気下、撹拌しながら、アルコキシシラン及びシラザンなどを導入して表面処理を行い、さらに加熱撹拌して溶剤を除去した後に冷却する。
アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが好適に例示できる。一方、シラザンとしては、ヘキサメチルジシラザンが好適に例示できる。
これらアルコキシシラン及びシラザンなどのシランカップリング剤による処理量は、シリカ微粒子原体100質量部に対して、0.1質量部以上20.0質量部以下程度にするとよい。
【0072】
シリカ微粒子における、シリコーンオイルの炭素量基準の固定化率を上げるためには、上述のシリカ微粒子を得る過程において、シリコーンオイルをシリカ微粒子原体の表面に化学的に固定化させる必要がある。そのためには、シリカ微粒子を得る過程において、シリコーンオイルの反応のために、加熱処理を行う方法が好適に例示できる。加熱処理温度は100℃以上が好ましく、加熱処理温度が高いほど、固定化率を上げることが可能である。この加熱処理工程は、シリコーンオイル処理を行った直後に行うことが好ましいが、解砕処理を行う場合は、解砕処理工程後に加熱処理工程を行ってもよい。
上記シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α-メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが挙げられる。
【0073】
該トナー中のシリカ微粒子の含有量は、トナー粒子100質量部に対して、1.3質量部以上3.0質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以上2.0質量部以下であることがより好ましい。シリカ微粒子の含有量が上記範囲であることにより被覆率を上記範囲に制御しやすい。
【0074】
また、導電性部材へのシリカ微粒子の移行量、及び、トナー粒子表面において機械的ストレスを分散させる効果を発揮しうるシリカ微粒子の粒子数を維持するために、シリカ微粒子の、トナー粒子の表面への固着率は、30.0%以上95.0%以下であることが好ましく、40.0%以上90.0%以下であることがより好ましい。
また、該固着率は、シリカ微粒子の添加量、粒径、外添条件、トナー粒子の性状を調整することにより、上記範囲に調整することが可能である。
【0075】
該シリカ微粒子の体積抵抗率は、電界強度5000V/cmの条件において、1.00×1010Ω・cm以上5.00×1017Ω・cm以下であることが好ましく、1.00×1012Ω・cm以上1.00×1017Ω・cm以下であることがより好ましく、1.00×1013Ω・cm以上1.00×1016Ω・cm以下であることがさらに好ましい。
該シリカ微粒子の体積抵抗率が上記範囲である場合、トナーへの帯電付与能力を適正範囲にしやすく、また、トナーのチャージアップを抑制しやすく、低温低湿環境下における繰り返し使用時にカブリの発生を抑制しやすくなる。
該シリカ微粒子の体積抵抗率は、シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径を上記範囲に調整したり、また、疎水化処理に用いるシリコーンオイル又は他の疎水化剤の種類及び量を適宜選択したりすることによって、上記範囲に調整することができる。
【0076】
トナー粒子は、結着樹脂を含有する。結着樹脂としては、特に限定されず、下記の重合体又は樹脂などを用いるとよい。
ポリスチレン、ポリ-p-クロルスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体;スチレン-p-クロルスチレン共重合体、スチレン-ビニルトルエン共重合体、スチレン-ビニルナフタリン共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-クロルメタクリル酸メチル共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン-ビニルメチルケトン共重合体、スチレン-アクリロニトリル-インデン共重合体などのスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロン-インデン樹脂、石油系樹脂など。
【0077】
該トナー粒子の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
溶融混練法、乳化凝集法、溶解懸濁法、懸濁重合法などが挙げられる。例えば、水系媒体中でトナー粒子を製造するとよい。
例えば、懸濁重合法を用いてトナー粒子を製造する場合、結着樹脂を形成しうる重合性単量体、並びに、必要に応じて、ワックスなどの離型剤、着色剤、磁性体などを含有する重合性単量体組成物を得る。得られた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に分散して造粒し、造粒された粒子中に含有される重合性単量体を重合して、トナー粒子を得るとよい。
重合性単量体には、例えば、以下のものが挙げられる。
スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、p-エチルスチレンなどのスチレン系単量体。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-クロルエチル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル類。
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸ドデシ
ル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどのメタクリル酸エステル類。
【0078】
また、重合性単量体組成物には、架橋剤を含有させてもよい。架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物、例えば、芳香族ジビニル化合物、二重結合を2個有するカルボン酸エステル、ジビニル化合物、及び3個以上のビニル基を有する化合物が挙げられる。具体的には、ジビニルベンゼン、1,6-ヘキサンジオールジアクリレートなどが挙げられる。これらを単独で、又は2種以上の混合物として用いることができる。該架橋剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下程度である
また、重合性単量体組成物には、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系重合開始剤、t-ブチルパーオキシピバレート、ジラウロイルパーオキサイドなどの過酸化物系重合開始剤を含有させてもよい。該重合開始剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して、0.5質量部以上20.0質量部以下程度である。
【0079】
また、結着樹脂は、上記重合体又は樹脂を一種単独で構成されていてもよく、二種以上を組み合わせて構成されていてもよい。例えば、スチレン-アクリル酸エステル共重合体及びポリエステル樹脂などを組み合わせて含有してもよい。該ポリエステル樹脂としては、二価以上のアルコール成分と、二価以上のカルボン酸、二価以上のカルボン酸無水物及び二価以上のカルボン酸エステルなどの酸モノマー成分との縮重合体などが挙げられる。
【0080】
トナー粒子は、磁性体を含有してもよい。
磁性体としては、マグネタイト、マグヘマイト、フェライトのような磁性酸化鉄、及び他の金属酸化物を含む磁性酸化鉄;Fe、Co、Niのような金属、あるいは、これらの金属とAl、Co、Cu、Pb、Mg、Ni、Sn、Zn、Sb、Be、Bi、Cd、Ca、Mn、Se、Ti、W、Vのような金属との合金、並びにこれらの混合物が挙げられる。
磁性体の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、35質量部以上100質量部以下であることが好ましく、45質量部以上95質量部以下であることがより好ましい。
磁性体の製造方法は、公知の方法を用いるとよい。また、磁性体は、アルキルトリアルコキシシランカップリング剤を疎水化処理剤として用いて疎水化処理されていてもよい。
【0081】
トナー粒子は、離型剤を含有してもよい。離型剤としては、公知の下記ワックスなどが挙げられる。飽和脂肪酸モノエステル類やジエステル化物などの1官能又は2官能のエステルワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスなどの炭化水素ワックスなど。該ワックスの示差走査型熱量計(DSC)で測定される昇温時の最大吸熱ピークのピーク温度で規定される融点は、60℃~140℃であることが好ましい。
離型剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、3質量部以上40質量部以下であることが好ましい。
【0082】
トナー粒子は、荷電制御剤を含有してもよい。
負帯電用の荷電制御剤としては、有機金属錯化合物、キレート化合物が有効であり、モノアゾ金属錯化合物;アセチルアセトン金属錯化合物;芳香族ハイドロキシカルボン酸又は芳香族ダイカルボン酸の金属錯化合物などが例示される。
荷電制御剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、0.1質量部以上10.0質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上5.0質量部以下であることがより好ましい。
【0083】
トナー粒子は磁性体を着色剤として用いることができる。また、トナー粒子は、従来公知の着色剤を含有してもよい。該磁性体以外の着色剤の含有量は、結着樹脂又は重合性単量体100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であることが好ましく、2質量部以上15質量部以下であることがより好ましい。
【0084】
具体的に懸濁重合法を用いたトナー粒子の製造方法を説明するが、これらに限定されるわけではない。
結着樹脂を形成しうる重合性単量体、並びに、必要に応じて、ワックスなどの離型剤、着色剤、磁性体、荷電制御剤などの成分を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機などの分散機を用いて均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。
得られた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁して重合性単量体組成物の液滴粒子を造粒する。
このとき、高速撹拌機又は超音波分散機のような分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。
重合開始剤などの添加の時期としては、重合性単量体中に他の成分を添加するときに同時に加えてもよいし、水系媒体中に懸濁する直前に混合してもよい。
また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。
造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行えばよい。
【0085】
該分散安定剤として公知の界面活性剤、有機分散剤又は無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じにくく、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が崩れにくく、洗浄も容易でトナー粒子に悪影響を与えにくいため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイトなどの燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩などが挙げられる。また、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの無機化合物も挙げられる。
これらの無機分散剤の添加量は、重合性単量体100質量部に対して、0.20質量部以上20.00質量部以下程度にするとよい。
また、分散安定剤は単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
さらに、重合性単量体100質量部に対して、0.0001質量部以上0.1000質量部以下の界面活性剤を併用してもよい。
重合性単量体の重合反応における、重合温度は40℃以上、一般には50℃以上90℃以下程度の温度に設定するとよい。
重合性単量体の重合終了後、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することによりトナー粒子が得られる。このトナー粒子に、上記シリカ微粒子を外添混合してトナー粒子の表面に付着させることで、トナーを得るとよい。
該外添混合では、ヘンシェルミキサー又はボールミルなどの混合機を用いるとよい。
また、製造工程(シリカ微粒子の混合前)に分級工程を入れ、トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉を除去することも可能である。また、外添混合する外添剤としては、本開示の効果を損なわない程度に、該シリカ微粒子以外の、公知の外添剤を用いてもよい。
【0086】
該トナーは、現像性や定着性のバランスの観点から、重量平均粒径(D4)を、5.0μm以上10.0μm以下程度であるとよく、好ましくは、6.0μm以上9.0μm以下程度である。
また、トナー粒子の平均円形度は、0.960以上1.000以下であることが好ましく、0.970以上1.000以下であることがより好ましい。トナー粒子の平均円形度が上記範囲の場合、トナーの形状が球形又はこれに近い形となり、流動性に優れ均一な摩
擦帯電性を得られやすい。そのため、繰り返し使用後半においても高い現像性を維持しやすくなる。上記懸濁重合法で得られるトナー粒子は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、平均円形度が0.960以上という物性要件を満たすトナー粒子が得られやすい。該トナー粒子は帯電量の分布も比較的均一となるために画質の向上が期待できる。一方、溶融混練法を用いた場合は、熱球形化処理や、表面改質及び微粉除去を行うことで、上記範囲に制御することが可能である。
溶融混練法によりトナー粒子を製造する場合は、例えば、結着樹脂、並びに、必要に応じて、ワックスなどの離型剤、着色剤、磁性体、荷電制御剤などの成分を、ヘンシェルミキサー又はボールミルなどの混合機により十分混合する。その後、加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーなどの熱混練機を用いて溶融混練してトナー材料を分散又は溶解し、冷却固化、粉砕後、分級、必要に応じて表面処理を行ってトナー粒子を得るとよい。分級及び表面処理の順序はどちらが先でもよい。分級工程においては生産効率上、多分割分級機を用いるとよい。
【0087】
<電子写真装置>
電子写真装置は以下の態様を有する。
電子写真感光体、
該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置、を有する電子写真装置であって、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有し、
該現像装置が、トナーを含む。
この電子写真装置に、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
電子写真装置は、
該電子写真感光体の表面に像露光光を照射して該電子写真感光体の表面に静電潜像を形成するための像露光装置、
該電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を記録媒体に転写するための転写装置、
及び
該記録媒体に転写された該トナー像を該記録媒体に定着させるための定着装置、
を有していてもよい。
【0088】
本開示の一態様に係る電子写真装置は、上記導電性部材を具備する。
図5に一例として、電子写真装置の断面概略図を示す。該電子写真装置は、四つの、電子写真感光体(以下単に、感光ドラムともいう)、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電手段(以下単に、導電性ローラともいう)、該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して該電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像手段(以下単に、現像ローラともいう)を少なくとも備えた、カラー電子写真装置である。各現像ローラには、ブラック、マゼンダ、イエロー、シアンの各色のトナーが供給される。
【0089】
感光ドラム101は矢印方向に回転し、帯電バイアス電源から電圧が印加された導電性ローラ102によって一様に帯電され、露光光1011により、その表面に静電潜像が形成される。一方、トナー容器106に収納されているトナー109は、攪拌羽1010によりトナー供給ローラ104へと供給され、現像ローラ103上に搬送される。
そして、現像ローラ103と接触配置されている現像ブレード108により、現像ローラ103の表面上にトナー109が均一にコーティングされると共に、摩擦帯電によりトナー109へと電荷が与えられる。上記静電潜像は、感光ドラム101に対して接触配置される現像ローラ103によって搬送されるトナー109が付与されて現像され、トナー像として可視化される。
【0090】
可視化された感光ドラム上のトナー像は、一次転写バイアス電源により電圧が印加された一次転写ローラ1012によって、テンションローラ1013と中間転写ベルト駆動ローラ1014に支持、駆動される中間転写ベルト1015に転写される。各色のトナー像が順次重畳されて、中間転写ベルト上にカラー像が形成される。
転写材1019は、給紙ローラにより装置内に給紙され、中間転写ベルト1015と二次転写ローラ1016の間に搬送される。二次転写ローラ1016は、二次転写バイアス電源から電圧が印加され、中間転写ベルト1015上のカラー像を、転写材1019に転写する。カラー像が転写された転写材1019は、定着器1018により定着処理され、装置外に排紙されプリント動作が終了する。
一方、転写されずに感光ドラム上に残存したトナーは、クリーニングブレード105により掻き取られて廃トナー収容容器107に収納され、クリーニングされた感光ドラム101は、上述の工程を繰り返し行う。また転写されずに一次転写ベルト上に残存したトナーもクリーニング装置1017により掻き取られる。
該電子写真装置としては、複写機、レーザービームプリンター、LEDプリンター、又は、電子写真製版システムなどの電子写真装置などが挙げられる。
【0091】
<プロセスカートリッジ>
プロセスカートリッジは以下の態様を有する。
電子写真装置の本体に脱着可能であるプロセスカートリッジであって、
該プロセスカートリッジが、電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体の表面に形成された静電潜像をトナーにより現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を有し、
該現像装置が、トナーを含み、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有する。
このプロセスカートリッジに、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
プロセスカートリッジは、帯電装置及び現像装置を支持するための枠体を有していてもよい。
【0092】
図4は、導電性部材を導電性ローラとして具備している電子写真用のプロセスカートリッジの断面概略図である。このプロセスカートリッジは、現像装置と帯電装置とを一体化し、電子写真装置の本体に着脱可能に構成されたものである。
現像装置は、少なくとも現像ローラ93を備え、トナー99を有している。現像装置は、必要に応じてトナー供給ローラ94、トナー容器96、現像ブレード98、攪拌羽910が一体化されていてもよい。
帯電装置は、導電性ローラ92を少なくとも備えていればよく、クリーニングブレード95及び廃トナー容器97を備えていてもよい。導電性部材が電子写真感光体に接触可能に配置されればよいため、電子写真感光体(感光ドラム91)は、プロセスカートリッジの構成要素として、帯電装置と共に一体化されていてもよいし、電子写真装置の構成要素として本体に固定されていてもよい。
導電性ローラ92、現像ローラ93、トナー供給ローラ94、及び現像ブレード98は、それぞれ電圧が印加されるようになっている。
【0093】
<カートリッジセット>
カートリッジセットは以下の態様を有する。
電子写真装置の本体に脱着可能である第一のカートリッジ及び第二のカートリッジを有するカートリッジセットであって、
該第一のカートリッジが、
電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び
該帯電装置を支持するための第一の枠体を有し、
該第二のカートリッジが、
電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像して電子写真感光体の表面にトナー像を形成するためのトナーを収容しているトナー容器を有し、
該帯電装置が、該電子写真感光体に接触可能に配置された導電性部材を有する。
このカートリッジセットに、前述のトナー及び導電性部材を適用できる。
【0094】
導電性部材が電子写真感光体に接触可能に配置されればよいため、第一のカートリッジが電子写真感光体を備えていてもよいし、電子写真装置の本体に電子写真感光体が固定されていてもよい。例えば、第一のカートリッジが、電子写真感光体、該電子写真感光体の表面を帯電させるための帯電装置、及び該電子写真感光体及び該帯電装置を支持するための第一の枠体を有していてもよい。なお、第二のカートリッジが電子写真感光体を備えていてもよい。
第一のカートリッジ又は第二のカートリッジは、電子写真感光体の表面にトナー像を形成するための現像装置を備えていてもよい。現像装置は、電子写真装置の本体に固定されていてもよい。
【実施例
【0095】
以下、実施例及び比較例を挙げて本開示に係る構成をさらに詳細に説明するが、本開示に係る構成は、実施例に具現化された構成に限定されるものではない。また、実施例及び比較例中で使用する「部」は特に断りのない限り質量基準である。
【0096】
<導電性部材101の製造例>
[1-1.ドメイン形成用ゴム混合物(CMB)の製造例]
表1に示す各材料を、表1に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合してCMBを得た。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、30分間とした。
【0097】
【表1】
【0098】
[1-2.マトリクス形成用ゴム混合物(MRC)の製造例]
表2に示す各材料を、表2に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合してMRCを得た。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、16分間とした。
【0099】
【表2】
【0100】
[1-3.導電層形成用未加硫ゴム混合物の製造例]
上記で得たCMB及びMRCを、表3に示す配合量で、6リットル加圧ニーダー(商品名:TD6-15MDX、トーシン社製)を用いて混合した。混合条件は、充填率70体積%、ブレード回転数30rpm、20分間とした。
【0101】
【表3】
【0102】
次いで、CMB及びMRCの混合物100部に対して、表4に示す加硫剤及び加硫促進剤を、表4に示す配合量加え、ロール径12インチ(0.30m)のオープンロールを用いて混合し、導電層成形用ゴム混合物を調製した。
混合条件は、前ロール回転数10rpm、後ロール回転数8rpmで、ロール間隙2mmとして合計20回左右の切り返しを行った後、ロール間隙を0.5mmとして10回薄通しを行った。
【0103】
【表4】
【0104】
(2.導電性部材の作製)
[2-1.導電性の外表面を有する支持体の準備]
導電性の外表面を有する支持体として、ステンレス鋼(SUS)の表面に無電解ニッケルメッキ処理を施した全長252mm、外径6mmの丸棒を準備した。
【0105】
[2-2.導電層の製造例]
支持体の供給機構、及び未加硫ゴムローラの排出機構を有するクロスヘッド押出機の先端に、内径12.5mmのダイスを取付け、押出機とクロスヘッドの温度を80℃に、支持体の搬送速度を60mm/secに調整した。この条件で、押出機から、導電層形成用ゴム混合物を供給して、クロスヘッド内にて支持体の外周部を、該導電層形成用ゴム混合物で被覆し、未加硫ゴムローラを得た。
次に、160℃の熱風加硫炉中に該未加硫ゴムローラを投入し、60分間加熱することで導電層形成用ゴム混合物を加硫し、支持体の外周部に導電層が形成されたローラを得た。その後、導電層の両端部を各10mm切除して、導電層部の長手方向の長さを232mmとした。
【0106】
[2-3.導電層の研磨]
次に、導電層の表面を下記研磨条件1に記載の研磨条件にて研磨することにより、中央部の直径が、8.50mm、中央部から両端部側へ各90mmの位置における各直径が8.44mmである、クラウン形状を有し、また、ドメインの一部が外表面に露出し、外表面に凸部を生じさせている、導電性部材101を得た。
【0107】
(研磨条件1)
砥石として、直径305mm、長さ235mmの円筒形状の砥石(テイケン社製)を用意した。砥粒の種類、粒度、結合度、結合剤、及び、組織(砥粒率)砥粒の材質は、以下の通りである。
・砥粒材質:GC(緑色炭化ケイ素質)、(JIS R6111-2002)
・砥粒の粒度:#80(平均粒径177μm JIS B4130)
・砥粒の結合度:HH (JIS R6210)
・結合剤:V4PO(ビトリファイド)
・砥粒の組織(砥粒率):23 (砥粒の含有率16% JIS R6242)
上記砥石を用いて、導電層の表面を研磨した。
研磨条件は、砥石の回転数を2100rpm、導電性部材の回転数を250rpmとし、粗削り工程として導電性部材への砥石の侵入スピード20mm/秒で導電性部材の外周面に接触してから0.24mm侵入させた。
精密磨き工程として侵入スピードを0.5mm/秒に変更し、0.01mm侵入させた後、砥石を導電性部材から離して研磨を完了した。
研磨方式としては、砥石と導電性部材の回転方向を同一方向とするアッパーカット方式を採用した。
【0108】
(3.特性評価)
[3-1]マトリクス-ドメイン構造の確認
導電層におけるマトリクス-ドメイン構造の形成の有無について以下の方法により確認を行った。
カミソリを用いて導電性部材の導電層の長手方向に対して直交する断面が観察できるように切片(厚さ500μm)を切り出した。次いで、白金蒸着を行い、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて1,000倍で撮影し、断面画像を得た。
【0109】
実施の一態様では、導電層からの切片において観察されたマトリクス-ドメイン構造は
、断面画像内において、図2のように、複数のドメイン6bがマトリクス6a中に分散されて、ドメイン同士が接続せずに独立した状態で存在する形態を示した。一方で、マトリクスは画像内で連通し、ドメインがマトリクスによって分断されている状態であった。
【0110】
撮影された断面画像を定量化するために、SEMでの観察により得られた断面画像に対し、画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus、Media Cybernetics社製)を使用して、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得た。次いで、断面内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理した後、画像の輝度分布に対して大津の判別分析法のアルゴリズムに基づいて、2値化の閾値を設定し、2値化画像を得た。
当該2値化画像に対してカウント機能によって、50μm四方の領域内に存在し、かつ、2値化画像の枠線に接点を持たないドメインの総数に対して、上記のように、ドメイン同士が接続せずに孤立しているドメインの個数パーセントKを算出した。
具体的には、画像処理ソフトのカウント機能において、前記2値化画像の、画像の4方向の端部の枠線に接点を有するドメインがカウントされない設定とした。
導電性部材(導電性ローラ)の導電層を長手方向に均等に5等分し、周方向に均等に4等分して得られた領域のそれぞれから任意に1点ずつ、合計20点から当該切片を作製して上記測定を行った際のKの算術平均値(個数%)を算出した。
Kの算術平均値(個数%)が80以上の場合に、マトリクス-ドメイン構造を「有」すると評価し、Kの算術平均値(個数%)が80を下回る場合に「無」と評価した。
【0111】
[3-2]マトリクスの体積抵抗率R1の測定方法
マトリックスの体積抵抗率R1は、例えば、導電層から、マトリクスドメイン構造が含まれている所定の厚さ(例えば、1μm)の薄片を切り出し、当該薄片中のマトリクスに走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させることによって計測することができる。
弾性層からの薄片の切り出しは、例えば、図3Bに示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、薄片が、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、83a、83b、83c)に平行な面の少なくとも一部を含むように切り出す。切り出しは、例えば、鋭利なカミソリや、ミクロトーム、収束イオンビーム法(FIB)を用いて行うことができる。
体積抵抗率の測定は、導電層から切り出した薄片の片面を接地する。次いで、当該薄片の接地面とは反対側の面のマトリクスの部分に走査型プローブ顕微鏡(SPM)や原子間力顕微鏡(AFM)の微小探針を接触させ、50VのDC電圧を5秒間印加し、接地電流値を5秒間測定した値から算術平均値を算出し、その算出した値で印加電圧を除することで電気抵抗値を算出する。最後に薄片の膜厚を用いて、抵抗値を体積抵抗率に変換する。このとき、SPMやAFMは、抵抗値と同時に当該薄片の膜厚も計測できる。
円柱状の帯電部材におけるマトリックスの体積抵抗率R1の値は、例えば、導電層を周方向に4分割、長手方向に5分割した領域のそれぞれから各1つずつ薄片サンプルを切り出し、上記の測定値を得た後に、合計20サンプルの体積抵抗率の算術平均値を算出することによって求める。
本実施例においては、まず、導電性部材の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの薄片を切り出した。薄片は、図3Bに示したように、導電性部材の長手方向をX軸、導電層の厚み方向をZ軸、周方向をY軸とした場合において、導電性部材の軸方向に対して垂直なYZ平面(例えば、83a、83b、83c)の少なくとも一部が含まれるように切り出した。
温度23℃、湿度50%RH環境において、当該薄片の一方の面(以降、「接地面」ともいう)を金属プレート上に接地させ、当該薄片の接地面とは反対側の面(以降、「測定面」ともいう)のマトリクスに相当し、かつ、測定面と接地面との間にドメインが存在し
ていない箇所に走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation製)のカンチレバーを接触させた。続いて、5秒間、カンチレバーに50Vの電圧を印加し、電流値を測定して5秒間の算術平均値を算出した。
SPMで測定切片の表面形状を観察し、得られる高さプロファイルから測定箇所の厚さを算出した。さらに、表面形状の観察結果から、カンチレバーの接触部の凹部面積を算出した。当該厚さと当該凹部面積とから体積抵抗率を算出した。
薄片は、導電層を長手方向に5等分し、周方向に4等分して得られたそれぞれの領域内から任意に1点ずつ、合計20点の当該切片を作製して上記測定を行った。その平均値を、マトリックスの体積抵抗率R1とした。
なお、走査型プローブ顕微鏡(SPM)(商品名:Q-Scope250、Quesant Instrument Corporation製)はコンタクトモードで操作した。
評価結果をマトリクスの「体積抵抗率R1(単位:Ω・cm)」として表6に示す。
【0112】
[3-3]ドメインの体積抵抗率R2の測定方法
上記マトリクスの体積抵抗率R1の測定において、超薄切片のドメインに該当する箇所で測定を実施し、測定の電圧を1Vにする以外は、同様の方法で、ドメインの体積抵抗率R2の測定を実施した。本実施例では、上記(マトリックスの体積抵抗率R1の測定方法)において、測定面のカンチレバーを接触させる箇所を、ドメインに相当し、かつ、測定面と接地面との間にマトリクスが存在しない箇所に変更し、電流値の測定の際の印加電圧を1Vに変更した以外は同様の方法で実施し、R2を算出した。
評価結果を、ドメインの「体積抵抗率R2(単位:Ω・cm)」として表6に示す。
【0113】
[3-4]導電性部材の断面観察における、導電層中のドメインの円相当径の算出平均値D(ドメイン径D)、及び、導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの円相当径の算出平均値Ds(ドメイン径Ds)の測定方法
図3A及び図3Bでは、導電性部材81を、3軸、具体的にはX、Y、Z軸の3次元としてその形状を示した図を示す。図3A及び図3BにおいてX軸は導電性部材の長手方向(軸方向)と平行な方向、Y軸、Z軸は導電性部材の軸方向と垂直な方向を示す。
図3Aは、導電性部材に対して、XZ平面82と平行な断面82aで導電性部材を切り出すイメージ図を示す。XZ平面は導電性部材の軸を中心として、360°回転することができる。
【0114】
該ドメインの円相当径の算出平均値D(ドメイン径D)は以下のように測定した。
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央(83b)、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所(83a、83b、83c)から、図3Bに示されるような導電層の厚さ方向の断面を有する、厚みが1μmのサンプルを、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて切り出した。
得られた3つのサンプルの各々の、導電層の厚さ方向の断面に白金を蒸着した。
次いで、各サンプルの白金蒸着面のうち、導電層の外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域内の任意に選択した3か所を走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて5000倍で撮影した。
得られた9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(製品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)によって、2値化し、カウント機能による定量化を行って、各撮影画像に含まれるドメインの面積の算術平均値Sを算出した。
次いで、各撮影画像について算出したドメインの面積の算術平均値Sから、ドメインの円相当径(=(4S/π)0.5)を計算した。次に、各撮影画像のドメインの円相当径の算出平均値を算出して、導電性部材の断面観察における、導電層中のドメインの円相当
径の算出平均値D(ドメイン径D)を得た。
【0115】
該ドメインの円相当径の算出平均値Ds(ドメイン径Ds)は以下のように測定した。
導電層の長手方向の長さをLとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、ミクロトーム(商品名:Leica EM FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、導電層の外表面が含まれるサンプルを切り出した。サンプルの厚さは1μmとした。
該サンプルの導電層の外表面に該当する面に白金を蒸着した。
該サンプルの白金蒸着面の任意の3か所を選択し、走査型電子顕微鏡(SEM)(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて5000倍で撮影した。
得られた合計9枚の撮影画像の各々を画像処理ソフト(商品名:ImageProPlus;Media Cybernetics社製)を用いて2値化し、カウント機能による定量化を行って、各撮影画像に含まれるドメインの平面積の算術平均値Ssを算出した。
次いで、各撮影画像について算出したドメインの平面積の算術平均値Ssから、ドメインの円相当径(=(4S/π)0.5)を計算した。次いで、各撮影画像のドメインの円
相当径の算出平均値を算出して、導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの円相当径の算出平均値Ds(ドメイン径Ds)を得た。
【0116】
[3-5]導電性部材の断面観察における、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dm(ドメイン間距離Dm)及び導電性部材の外表面を観察した際の、導電層中のドメインの隣接壁面間距離の算術平均値Dms(ドメイン間距離Dms)の測定方法
導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央(83b)、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所(83a、83b、83c)から、図3Bに示されるような導電層の厚さ方向の断面が表れたサンプルを取得した。
得られた3つのサンプルの各々について、導電層の厚さ方向の断面が表れた面における、導電層外表面から深さ0.1T~0.9Tまでの厚み領域の任意の3か所に50μm四方の解析領域を置き、当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影した。
得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ社製)を使用して2値化した。
2値化の手順は以下のように行った。撮影画像に対し、8ビットのグレースケール化を行い、256諧調のモノクロ画像を得た。そして、撮影画像内のドメインが白くなるように、画像の白黒を反転処理し、2値化し、撮影画像の2値化画像を得た。
次いで、9枚の2値化画像の各々について、ドメインの隣接壁面間距離を算出し、さらにそれらの算術平均値を算出し、この値をDmとした。
なお、隣接壁面間距離とは、最も近接しているドメイン同士の壁面間の最短距離であり、上記画像処理ソフトにおいて、測定パラメーターを隣接壁面間距離と設定することで求めることができる。
【0117】
一方、導電層の長手方向の長さをL、導電層の厚さをTとしたとき、導電層の長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所から、カミソリを用いて導電性部材の外表面が含まれるようにサンプルを切り出した。サンプルのサイズは、導電性部材の周方向、及び長手方向に各々2mm、厚みは、導電性部材の厚さTとした。
得られた3つのサンプルの各々について、導電性部材の外表面に該当する面の任意の3ヶ所に50μm四方の解析領域を置き、当該3つの解析領域を、走査型電子顕微鏡(商品名:S-4800、(株)日立ハイテクノロジーズ製)を用いて倍率5000倍で撮影した。
得られた合計9枚の撮影画像の各々を、画像処理ソフト(商品名:LUZEX;ニレコ
社製)を使用して2値化した。2値化の手順は、上記したドメイン間距離Dmを求める際の2値化の手順と同様である。次いで、9枚の撮影画像の2値化画像の各々について、ドメインの隣接壁面間距離を求め、さらにそれらの算術平均値を算出し、この値をDmsとした。
【0118】
[3-6]ドメインによる凸部の高さの測定方法
導電性部材(導電性ローラ)の導電層から、ミクロトーム(商品名:Leica EM
FCS、ライカマイクロシステムズ社製)を用いて、切削温度-100℃にて、1μmの厚みの超薄切片として切り出した。該超薄切片は、導電性部材の導電層の長手方向に対して直交する断面が観察できるようにした。
導電層からの切り出し位置は、導電層の長手方向の長さをLとして、長手方向の中央、及び導電層の両端から中央に向かってL/4の3か所とした。
このとき、ドメインによる凸部を確認するためには、導電性部材の外表面に対しては、いずれの加工も加えられないよう留意した。次に、得られた導電性部材の外表面を含む超薄切片に対して、走査型プローブ顕微鏡(SPM;MFP-3D-Originオックスフォード・インストゥルメンツ株式会社製)を用いて、下記条件で導電性部材の外表面を計測することで、電気抵抗値のプロファイル及び形状プロファイルを計測した。
・測定モード:AM-FMモード
・探針:オリンパス製OMCL-AC160TS
・共振周波数:251.825~261.08kHz
・バネ定数:23.59~25.18N/m
・スキャン速度:0.8~1.5Hz
・スキャンサイズ:10μm、5μm、3μm
・Target Amplitude:3V及び4V
・Set Point:すべて2V
【0119】
次いで、上記計測で得られた表面形状のプロファイルにおける凸部が、電気抵抗値のプロファイル中で周囲よりも導電性が高いドメイン由来であることを確認した。
さらに、該形状プロファイルから凸部の高さを算出した。
算出方法は、ドメインによる凸部の形状プロファイルの算術平均値と、隣接するマトリクスの形状プロファイルの算術平均値との差分を取った。該算術平均値は、上記3か所から切り出した超薄切片のそれぞれにおいて、ランダムに選択した20個の凸部を測定した値から算出した。結果を、ドメインの「凸高さ」として表6に示す。
【0120】
<導電性部材102~111の製造例>
原料ゴム、電子導電剤、加硫剤、及び加硫促進剤に関して、表5A-1~表5A-2に示す材料、及び条件を用いる以外は、導電性部材101と同様にして、導電性部材102~111を製造した。
なお、表5A-1~表5A-2中に示した材料の詳細については、原料ゴムは表5B-1、電子導電剤は5B-2、加硫剤及び加硫促進剤は5B-3に示す。また、表5A-2に記載の研磨条件2~研磨条件4は、各々下記のとおりである。
【0121】
(研磨条件2)
精密磨き工程における侵入スピードを0.5mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
【0122】
(研磨条件3)
精密磨き工程における侵入スピードを0.1mm/秒とした以外は、研磨条件1と同じである。
【0123】
(研磨条件4)
精密磨き工程における侵入スピードを0.1mm/秒に変更し、0.01mm侵入させた後、4秒間、研磨を継続した以外は、研磨条件1と同じである。
【0124】
【表5A-1】

表中、
DBPは、DBP吸油量を表し、単位は(cm/100g)である。
表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は各社のカタログ値である。CMBの値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、CMBを構成する材料すべてを混練している時のゴム温度で測定されたものである。
SP値の単位は、(J/cm0.5である。
【0125】
【表5A-2】

表中のムーニー粘度に関し、原料ゴムの値は、各社のカタログ値である。MRCの値は、JIS K6300-1:2013に基づくムーニー粘度ML(1+4)であり、MRCを構成するすべての材料を混練している時のゴム温度で測定されたものである。
SP値の単位は、(J/cm0.5である。
【0126】
【表5B-1】
【0127】
【表5B-2】
【0128】
【表5B-3】
【0129】
【表6】
【0130】
<導電性部材201>
表5A-1及び表5A-2に示した材料及び条件を用いる以外は導電性部材101と同様に導電性部材201(導電性支持体C1)を製造した。
次いで、以下の方法に従って、さらに導電性支持体C1上に導電性樹脂層を設け、導電性部材201を製造し、実施例1と同様の測定及び評価を行った。結果を表6に示す。
先ず、カプロラクトン変性アクリルポリオール溶液に溶媒としてメチルイソブチルケトンを加え、固形分が10質量%となるように調整した。このアクリルポリオール溶液1000部(固形分100部)に対して、下記の表7に示す材料を用いて混合溶液を調製した。このとき、ブロックHDIとブロックIPDIとの混合物は、「NCO/OH=1.0」であった。
【0131】
【表7】
【0132】
次いで、450mLのガラス瓶に上記混合溶液210部と、メディアとして平均粒径0.8mmのガラスビーズ200部とを混合し、ペイントシェーカー分散機を用いて24時間前分散を行い、導電性樹脂層形成用の塗料を得た。
前記導電性支持体C1を、その長手方向を鉛直方向にして、前記導電性樹脂層形成用の塗料中に浸漬してディッピング法で塗工した。ディッピング塗布の浸漬時間は9秒間、引き上げ速度は、初期速度が20mm/sec、最終速度が2mm/sec、その間は時間に対して直線的に速度を変化させた。得られた塗工物を常温で30分間風乾し、次いで90℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥し、さらに160℃に設定した熱風循環乾燥機中において1時間乾燥して導電性部材201を得た。
導電性部材201においては、導電層は、導電性材料からなる単層のみの構成のため、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。
【0133】
<導電性部材202、及び導電性部材203>
表5A-1及び表5A-2に示した材料及び条件を用いる以外は導電性部材101と同様にして導電性部材202及び導電性部材203を製造し、導電性部材101と同様の測定及び評価を行なった。結果を表6に示す。
帯電部材202及び導電性部材203においては、ドメインとマトリクスを有するが、マトリクスの体積抵抗率R1が小さく、結局、導電性部材として単一の導電パスを持つ構成となっている。
【0134】
<シリカ微粒子101の製造例>
攪拌機付きオートクレーブに、シリカ微粒子原体(ヒュームドシリカ;一次粒子の個数平均粒径[表中ではD1と表す]が20nm)を投入し、攪拌による流動化状態において、200℃に加熱した。
オートクレーブ内部を窒素ガスで置換して密閉し、シリカ微粒子原体100部に対して
、10部のヘキサメチルジシラザン(HMDS)を内部に噴霧し、微粒子を流動化状態とし、シラン化合物による表面処理を行った。この反応を60分間継続した後、反応を終了した。反応終了後、オートクレーブを脱圧し、窒素ガス気流による洗浄を行い、疎水化処理シリカ微粒子から過剰のヘキサメチルジシラザン及び副生物を除去した。
さらに、オートクレーブ内の疎水化処理シリカ微粒子を攪拌しながら、シリカ微粒子原体100部に対して、17部のジメチルシリコーンオイル(粘度が100mm/秒、すなわち、100cSt)を噴霧し、30分間攪拌を続けた。その後、攪拌しながら300℃まで昇温させてさらに2時間攪拌した。その後、取り出し解砕処理を実施し、シリカ微粒子101を得た。物性を表8に示す。
【0135】
<シリカ微粒子102~103の製造例>
シリカ微粒子101の製造例において、使用するシリカ微粒子原体の一次粒子の個数平均粒径(及び比表面積)、並びに、疎水化処理条件を、表8に記載の通りに変更し、解砕処理強度を適宜調整した以外は同様にして、シリカ微粒子102~103を得た。物性を表8に示す。
【0136】
<シリカ微粒子104>
撹拌機、滴下ノズル、温度計を具備した1.5Lのガラス製反応容器にメタノール500部、及び、10質量%アンモニア水を用いてpHを7.4に調整した水70部を添加して混合し、触媒溶液を得た。
このアルカリ触媒溶液を50℃に調整した後、撹拌しながら、テトラメトキシシラン(TMOS)100部とジメチルホルムアミド20部と1.0質量%アンモニア水20部とを同時に45分かけ滴下して、親水性のシリカ粒子分散液を得た。
その後、得られたシリカ粒子分散液をロータリーフィルターR-ファイン(寿工業社製)で固形分濃度40質量%まで濃縮してシリカ粒子分散液を得た。このシリカ粒子分散液を、80℃、減圧下にて十分乾燥させることで、未処理のシリカ微粒子(原体)を得た。
250部の未処理のシリカ微粒子を反応容器に入れ、窒素雰囲気下、攪拌しながら50部のシリコーンオイル(1000cSt)を20部のノルマルヘキサンで希釈した溶液をスプレーした。その後、この混合物を300℃にて60分、窒素気流化で攪拌して乾燥し、冷却することでオイル処理シリカ微粒子を得た。
その後オイル処理シリカ微粒子100部に対して、40部のヘキサメチルジシラザン(HMDS)を内部に噴霧し、微粒子を流動化状態とし、シラン化合物による表面処理を行った。この反応を60分間継続した後、反応を終了した。反応終了後、オートクレーブを脱圧し、窒素ガス気流による洗浄を行い、シリカ微粒子から過剰のヘキサメチルジシラザン及び副生物を除去し、シリカ微粒子104を得た。物性を表8に示す。
【0137】
<シリカ微粒子105の製造例>
撹拌機、滴下ノズル、温度計を具備した1.5Lのガラス製反応容器にメタノール500部、及び、10質量%アンモニア水を用いてpHを7.4に調整した水70部を添加して混合し、触媒溶液を得た。
このアルカリ触媒溶液を50℃に調整した後、撹拌しながら、テトラメトキシシラン(TMOS)100部とジメチルホルムアミド20部と1.0質量%アンモニア水20部とを同時に45分かけ滴下して、親水性のシリカ粒子分散液を得た。
その後、得られたシリカ粒子分散液をロータリーフィルターR-ファイン(寿工業社製)で固形分濃度40質量%まで濃縮してシリカ粒子分散液を得た。
シリカ粒子分散液250部に、疎水化処理剤としてヘキサメチルジシラザン(HMDS)40部を添加し、130℃で2時間反応させた後、冷却した後、噴霧乾燥により乾燥し、シリカ微粒子105を得た。物性を表8に示す。
【0138】
【表8】
【0139】
<磁性体1の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄元素に対して1.00から1.10当量の苛性ソーダ溶液、鉄元素に対してリン元素換算で0.12質量%となる量のP、鉄元素に対して珪素元素換算で0.60質量%となる量のSiOを混合した。そのようにして、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液のpHを8.0とし、空気を吹き込みながら85℃で酸化反応を行い、種晶を有するスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対して0.90から1.20当量となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた。その後、スラリー液をpH7.6に維持して、空気を吹込みながら酸化反応を進め、磁性酸化鉄を含むスラリー液を得た。濾過、洗浄した後、この含水スラリー液を一旦取り出した。このとき、含水サンプルを少量採取し、含水量を計っておいた。
次に、この含水サンプルを乾燥せずに別の水系媒体中に投入し、撹拌すると共にスラリーを循環させながらピンミル方式の微細粉砕機にて再分散させ、再分散液のpHを約4.8に調整した。
そして、撹拌しながらn-ヘキシルトリメトキシシランカップリング剤を磁性酸化鉄100部に対して、1.7部(磁性酸化鉄の量は含水サンプルから含水量を引いた値として計算した)添加し、加水分解を行った。その後、撹拌を十分行い、分散液のpHを8.6にして表面処理を行った。生成した疎水性磁性体をフィルタープレスにて濾過し、多量の水で洗浄した後に100℃で15分、90℃で30分間乾燥し、得られた粒子を解砕処理して体積平均粒径が0.23μmの磁性体1を得た。
【0140】
<ポリエステル樹脂1の製造例>
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、下記成分を入れ、230℃で窒素気流下に生成する水を留去しながら10時間反応させた。
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド2モル付加物 75部
・ビスフェノールAプロピレンオキサイド3モル付加物 25部
・テレフタル酸 110部
・チタン系触媒 0.25部
(チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート))
次いで5~20mmHgの減圧下で反応させ、酸価が2mgKOH/g以下になった時点で180℃に冷却し、無水トリメリット酸8部を加え、常圧密閉下、2時間反応後取り出し、室温まで冷却後、粉砕してポリエステル樹脂1を得た。
【0141】
<トナー粒子101の製造例>
イオン交換水720質量部に0.1mol/L-NaPO水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0mol/L-CaCl水溶液67.7部を添加して、分
散安定剤を含む水系媒体を得た。
・スチレン 78.0部
・n-ブチルアクリレート 22.0部
・ジビニルベンゼン 0.6部
・モノアゾ染料の鉄錯体 2.0部
(T-77:保土谷化学工業(株))
・磁性体1 90.0部
・ポリエステル樹脂1 3.0部
上記処方をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合して重合性単量体組成物を得た。得られた重合性単量体組成物を60℃に加温し、パラフィンワックス(融点:78℃)15.0部及びエステルワックス(融点:72℃)15.0部を添加混合した。該ワックスが溶解した後に、重合開始剤としてジラウロイルパーオキサイド7.0部を溶解し、トナー組成物を含む重合性単量体組成物を得た。
上記水系媒体中に上記トナー組成物を含む重合性単量体組成物を投入し、60℃、窒素雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて12500rpmで12分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ74℃で6時間反応させた。
反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて洗浄した後に濾過・乾燥してトナー粒子1を得た。得られたトナー粒子1の個数平均粒径は7.7μm、軟化点は130.3℃であった。
【0142】
<トナー粒子102の製造例>
トナー粒子101の製造例において、パラフィンワックス(融点:78℃)15.0部及びエステルワックス(融点:72℃)15.0部を、パラフィンワックス(融点:78℃)15.0部のみに変更した以外は同様にして、トナー粒子102を得た。得られたトナー粒子102の個数平均粒径は7.7μm、軟化点は135.8℃であった。
【0143】
<トナー101の製造例>
得られたトナー粒子1(100部)に対して、シリカ微粒子101(2.0部)となる量で、該微粒子をヘンシェルミキサー「FM10C(日本コークス工業株式会社製)」によって外添混合した。
外添混合条件は、トナー粒子の仕込み量:1.8kg、回転数:3600rpm、外添時間:30分間で行った。
その後、目開き200μmのメッシュで篩い、トナー101を得た。トナー101の物性は表9に示す。
【0144】
<トナー102~トナー108、及びトナー201の製造例>
トナー101の製造例において、表9に示す処方、及び製造条件にすること以外は、トナー101の製造例と同様にして、トナー102~トナー108、及びトナー201を得た。得られたトナー102~トナー108、及びトナー201の物性を表9に示す。
【0145】
<トナーの表面のシリカ微粒子による被覆率の測定方法>
トナーの表面のシリカ微粒子による被覆率は、以下のようにして算出した。
下記装置を下記条件にて使用し、トナー表面の元素分析を行った。
・測定装置(X線光電子分光法):Quantum 2000(商品名、アルバックファイ株式会社製)
・X線源:モノクロAlKα
・Xray Setting:100μmφ(25W(15kV))
・光電子取りだし角:45度
・中和条件:中和銃とイオン銃の併用
・分析領域:300×200μm
・PassEnergy:58.70eV
・ステップサイズ:1.25eV
・解析ソフト:Maltipak(PHI社)
ここで、Si原子の定量値の算出には、C1c(B.E.280~295eV)、O1s(B.E.525~540eV)及びSi2p(B.E.95~113eV)のピークを使用した。ここで得られたSi元素の定量値をY1とした。
次いで、上述のトナー表面の元素分析と同様にして、シリカ微粒子単体の元素分析を行い、ここで得られたSi元素の定量値をY2とした。
トナーの表面のシリカ微粒子による被覆率は、上記Y1及びY2を用いて下式のように定義した。
被覆率(面積%)=Y1/Y2×100
なお、本測定の精度を向上させるために、Y1及びY2の測定を、2回以上実施した。
【0146】
定量値Y2を求めるに際して、外添に使用されたシリカ微粒子を入手できれば、それを用いて測定を行う。また、トナー表面から分離したシリカ微粒子を測定試料とする場合、シリカ微粒子のトナー粒子からの分離は以下の手順で行った。なお、シリカ微粒子について、他の物性を測定する場合も、同様である。
(1)磁性トナーの場合
まず、イオン交換水100mLに、コンタミノンN(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)を6mL入れ分散媒を作成した。この分散媒に、トナー5gを添加し、超音波分散機で5分間分散させた。その後、いわき産業社製「KMShaker」(model:V.SX)にセットし、1分当たり350往復の条件で20分間振とうした。
その後、ネオジム磁石を用いてトナー粒子を拘束し、上澄みを採取した。この上澄みを乾燥させることにより、シリカ微粒子を採集した。十分な量のシリカ微粒子を採集することができない場合には、この作業を繰り返し行った。
この方法では、シリカ微粒子以外の外添剤が添加されている場合には、シリカ微粒子以外の外添剤も採集される。このような場合には、採集された外添剤から、遠心分離法などを利用して、シリカ微粒子を選別すればよい。
【0147】
(2)非磁性トナーの場合
イオン交換水100mLにスクロース(キシダ化学製)160gを加え、湯せんをしながら溶解させショ糖濃厚液を調製した。遠心分離用チューブに該ショ糖濃厚液31gと、6mLのコンタミノンNを入れ、分散液を作成した。この分散液にトナー1gを添加し、スパチュラなどでトナーのかたまりをほぐした。
遠心分離用チューブを上記シェイカーにて1分当たり350往復の条件で20分間振とうした。振とう後、溶液をスイングローター用ガラスチューブ(50mL)に入れ替えて、遠心分離機にて、3500rpm、30minの条件で遠心分離を行った。
遠心分離後のガラスチューブ内においては、最上層にはトナーが存在し、下層の水溶液側にはシリカ微粒子が存在した。下層の水溶液を採取して、遠心分離を行い、ショ糖とシリカ微粒子とを分離し、シリカ微粒子を採集した。必要に応じて、遠心分離を繰り返し行い、分離を十分に行った後、分散液を乾燥し、シリカ微粒子を採集した。
磁性トナーの場合と同様に、シリカ微粒子以外の外添剤が添加されている場合には、シリカ微粒子以外の外添剤も採集される。そのため、採集された外添剤から、遠心分離法などを利用して、シリカ微粒子を選別すればよい。
【0148】
<軟化点の測定方法>
軟化点の測定は、定荷重押し出し方式の細管式レオメータ「流動特性評価装置 フローテスターCFT-500D」(島津製作所社製)を用い、装置付属のマニュアルに従って
行った。
本装置では、測定試料の上部からピストンによって一定荷重を加えつつ、シリンダに充填した測定試料を昇温させて溶融し、シリンダ底部のダイから溶融された測定試料を押し出し、この際のピストン降下量と温度との関係を示す流動曲線を得ることができる。
「流動特性評価装置 フローテスターCFT-500D」に付属のマニュアルに記載の「1/2法における溶融温度」を軟化点とした。なお、1/2法における溶融温度とは、次のようにして算出されたものである。
まず、流出が終了した時点におけるピストンの降下量Smaxと、流出が開始した時点におけるピストンの降下量Sminとの差の1/2を求める(これをXとした。X=(Smax-Smin)/2)。そして、流動曲線においてピストンの降下量がXとSminの和となるときの流動曲線の温度が、1/2法における溶融温度である。
測定試料は、約1.0gの試料を、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機(NT-100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて約10MPaで、約60秒間圧縮成型し、直径約8mmの円柱状としたものを用いた。
CFT-500Dの測定条件は、以下の通りである。
試験モード:昇温法
昇温速度:4℃/min
開始温度:40℃
到達温度:200℃
測定間隔:1.0℃
ピストン断面積:1.000cm
試験荷重(ピストン荷重):10.0kgf/cm(0.9807MPa)
予熱時間:300秒
ダイの穴の直径:1.0mm
ダイの長さ:1.0mm
【0149】
<シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)の測定方法>
シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径は、日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡にて撮影されるトナー表面のシリカ微粒子画像から算出した。
日立超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡としては、具体的には、S-4800(商品名)((株)日立ハイテクノロジーズ)を用いた。S-4800の画像撮影条件は以下のとおりである。
(1)試料作製
試料台(アルミニウム試料台15mm×6mm)に導電性ペーストを薄く塗り、その上にトナーを吹きつける。さらにエアブローして、余分なトナーを試料台から除去し十分乾燥させる。試料台を試料ホルダにセットし、試料高さゲージにより試料台高さを36mmに調節する。
(2)S-4800観察条件の設定
シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径の算出は、S-4800の反射電子像観察により得られた画像を用いて行った。反射電子像は二次電子像と比べてのチャージアップが少ないため、粒径を精度良く測定することができる。
S-4800の筺体に取り付けられているアンチコンタミネーショントラップに液体窒素を溢れるまで注入し、30分間置く。S-4800の「PCSTEM」を起動し、フラッシング(電子源であるFEチップの清浄化)を行った。画面上のコントロールパネルの加速電圧表示部分をクリックし、[フラッシング]ボタンを押し、フラッシング実行ダイアログを開いた。フラッシング強度が2であることを確認し、実行した。フラッシングによるエミッション電流が20~40μAであることを確認した。試料ホルダをS-4800筺体の試料室に挿入した。コントロールパネル上の[原点]を押し試料ホルダを観察位置に移動させた。
加速電圧表示部をクリックしてHV設定ダイアログを開き、加速電圧を[0.8kV]
、エミッション電流を[20μA]に設定した。オペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、信号選択を[SE]に設置し、SE検出器を[上(U)]及び[+BSE]を選択し、[+BSE]の右の選択ボックスで[L.A.100]を選択し、反射電子像で観察するモードにした。同じくオペレーションパネルの[基本]のタブ内にて、電子光学系条件ブロックのプローブ電流を[Normal]に、焦点モードを[UHR]に、WDを[3.0mm]に設定した。コントロールパネルの加速電圧表示部の[ON]ボタンを押し、加速電圧を印加した。
(3)シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)の算出
コントロールパネルの倍率表示部内をドラッグして、倍率を100000(100k)倍に設定した。操作パネルのフォーカスつまみ[COARSE]を回転させ、ある程度焦点が合ったところでアパーチャアライメントの調整を行った。コントロールパネルの[Align]をクリックし、アライメントダイアログを表示し、[ビーム]を選択した。操作パネルのSTIGMA/ALIGNMENTつまみ(X、Y)を回転し、表示されるビームを同心円の中心に移動させた。次に[アパーチャ]を選択し、STIGMA/ALIGNMENTつまみ(X、Y)を一つずつ回し、像の動きを止める又は最小の動きになるように合わせた。アパーチャダイアログを閉じ、オートフォーカスで、ピントを合わせた。この操作をさらに2度繰り返し、ピントを合わせた。
その後、トナー表面上の少なくとも300個のシリカ微粒子について最大径を測定して、平均値を求めた。ここで、シリカ微粒子は凝集塊として存在するものもある。そのため、一次粒子と確認できるものの最大径を求め、得られた最大径を算術平均した。それによって、シリカ微粒子の一次粒子の個数平均粒径(D1)を得た。
【0150】
<シリカ微粒子の固着率の測定方法>
50mL容量のバイアルに「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液20gを秤量し、トナー1gと混合した。
いわき産業(株)製「KM Shaker」(model: V.SX)にセットし、speedを50に設定して30秒間振とうした。これにより、シリカ微粒子の固着状態に依っては、シリカ微粒子がトナー粒子表面から、分散液側へ移行する。
その後、磁性トナーの場合は、ネオジム磁石を用いてトナー粒子を拘束した状態で、上澄み液に移行したシリカ微粒子を分離させ、沈殿しているトナーを真空乾燥(40℃/24時間)することで乾固させて、サンプルとした。
【0151】
なお、非磁性トナーの場合は、遠心分離機(H-9R;株式会社コクサン社製)(1000rpmにて5分間)にて、トナーと上澄み液に移行したシリカ微粒子を分離した。
トナーを下記プレス成型によりペレット化してサンプルとした。
上記処理を施す前後のトナーのサンプルに関して、下記に示す波長分散型蛍光X線分析(XRF)により、分析対象の微粒子固有の元素の定量を行った。そして、上記処理によって上澄み側へ移行せずにトナー表面に残る微粒子の量を下記式から求め、固着率とした。
【0152】
<使用装置及び測定条件>
・波長分散型蛍光X線分析装置3080(理学電気(株))
(サンプル調製)
サンプルの調製は、試料プレス成型機MAEKAWA Testing Machine(MFG Co,LTD製)を使用した。アルミリング(型番:3481E1)にトナー0.5gを入れて5.0トンの荷重に設定し1minプレスし、ペレット化させた。
・測定条件
・測定径:10φ
・測定電位、電圧 50kV、50mA~70mA
・2θ角度 25.12°
・結晶板 LiF
・測定時間 60秒
(シリカ微粒子の固着率の算出方法について)
[式]シリカ微粒子の固着率(%)=(処理後トナーのシリカ微粒子由来元素強度/処理前トナーのシリカ微粒子由来元素強度)×100
なお、サンプル100個の相加平均値を採用した。
【0153】
<シリカ微粒子の体積抵抗率の測定方法>
シリカ微粒子の体積抵抗率の測定方法は以下の通りである。
まず、セルにシリカ微粒子を充填し、この充填したシリカ微粒子に接するように1対の電極の一方、他方を配し、これらの電極間に電圧を印加して、そのときに流れる電流を計測することにより測定した。体積抵抗率の測定条件は、充填したシリカ微粒子と電極の接触面積を0.283cm、充填厚さを約1.0mm、上部電極への荷重を120g/cm、印加電圧を500Vとして行った。
【0154】
【表9】
【0155】
<実施例1>
導電性部材101及びトナー101を以下のように評価した。評価結果を表10に示す。
【0156】
<ハーフトーン画像の画像濃度均一性(評価1)>
HP LaserJet Enterprise M609dn(HP社製)を、本来のプロセススピードよりも高速である400mm/sに改造して使用した。
トナー101を所定のプロセスカートリッジ(商品名:37Y黒トナーカートリッジ、
HP社製)に1500g充填したものを用意した。印字率1%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンがいったん停止してから次のジョブが始まるように設定したモードで、100,000枚の画出し試験を実施した。
50,000枚目の評価後感光ドラムを新品に交換し、また、トナー101を1500g充填し評価を継続した。評価は低温低湿環境下(15.0℃、10%RH)で行った。
50,000枚目と、100,000枚目において、先端余白5mmの後、20mm×20mmのベタ画像部、200mm×250mmのハーフトーン画像部(ドット印字率23%)を有するチェック画像を出力した。
そして、ハーフトーン画像部の画像濃度をランダムに10点測定し、最大値と最小値を求め、最大値と最小値の差を求めた(ハーフトーン画像濃度差)。
画像濃度は、反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、画像部の反射濃度を測定することにより測定した。
ハーフトーン濃度差が小さいほど。ハーフトーンの画像均一性に優れることを示す。
具体的な評価基準を以下に示す。
A:濃度差 0.04未満
B:濃度差 0.04以上0.07未満
C:濃度差 0.07以上0.10未満
D:濃度差 0.10以上
【0157】
<ハーフトーン画像の画像濃度(評価2)>
前記ハーフトーン画像の画像濃度均一性の試験で、50,000枚目と100,000枚目のチェック画像において、ハーフトーン画像部の画像濃度をランダムに10点測定し、その平均値を求めた(ハーフトーン画像濃度)。
画像濃度は、反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、画像部の反射濃度を測定することにより測定した。
ハーフトーン画像濃度が大きいほどトナーの耐久性が良好であることを示す。具体的な評価基準を以下に示す。
A:画像濃度 0.70以上
B:画像濃度 0.65以上0.70未満
C:画像濃度 0.60以上0.65未満
D:画像濃度 0.60未満
【0158】
<非画像部へのカブリ評価(評価3)>
前記評価2において、50,000枚目及び100,000枚目にチェック画像を出力した後、白地画像5枚を出力して、それぞれカブリ率を測定して最大値を求め、耐久後のカブリ率とした。カブリ率の測定は以下のようにして行った。
評価画像と、通紙前の白紙について、デジタル白色光度計(TC-6D型、有限会社東京電色製、グリーンフィルター使用)を用い、反射率(%)を1枚あたり5点測定し、それぞれの平均反射率(%)を求めた。そして白紙の平均反射率(%)と評価画像の平均反射率(%)の差をカブリ率(%)とした。
評価紙としてはボンド紙(坪量75g/m)紙を用いた。
A:カブリ率が0.5%未満である。
B:カブリ率が0.5%以上1.0%未満である。
C:カブリ率が1.0%以上1.5%未満である。
D:カブリ率が1.5%以上である。
【0159】
<ガサツキの評価(評価4)>
前記評価2における、100,000枚目のチェック画像を用いて、ガサツキの評価を行った。チェック画像を、デジタルマイクロスコープVHX-500(レンズワイドレンジズームレンズVH-Z100 キーエンス社製)を用い、ドット1000個の面積を測
定した。
ドット面積の個数平均(S)とドット面積の標準偏差(σ)を算出し、ドット再現性指数を下記式により算出した。
そして、ハーフトーン画像のガサツキをドット再現性指数(I)で評価した。
ドット再現性指数(I)は値が小さいほどドット再現性に優れていることを示している。
ドット再現性指数(I)=σ/S×100
A:Iが2.0未満
B:Iが2.0以上4.0未満
C:Iが4.0以上6.0未満
D:Iが6.0以上8.0未満
E:Iが8.0以上
【0160】
<規制部材への融着の評価(評価5)>
前記評価2の100,000枚目のチェック画像において、画像上に現れた斑点上スジ及びトナー塊の量を下記基準で評価した。
A:未発生
B:斑点状のスジはないが、2、3か所の小さなトナー塊がある。
C:端部に斑点状スジが若干ある、又は4、5個の小さなトナー塊がある。
D:全面に斑点状のスジがある、又は5か所以上の小さなトナー塊、又は明らかなトナー塊がある。
【0161】
<実施例2~19、及び、比較例1~4>
実施例1において、トナー及び導電性部材を、表10~12のように変更した以外は同様に評価を行った。評価結果を表10~12に示す。
【0162】
【表10】
【0163】
【表11】
【0164】
【表12】
【符号の説明】
【0165】
51 導電性ローラ、52 導電性の外表面を有する支持体、53 導電層、6a マ
トリクス、6b ドメイン、6c 電子導電剤、81 導電性部材、82 XZ平面、82a XZ平面82と平行な断面、83 導電性部材の軸方向と垂直なYZ平面、83a
導電層の一端から中央に向かってL/4の箇所の断面、83b 導電層の長手方向の中央での断面、83c 導電層の一端から中央に向かってL/4の箇所の断面、91 感光ドラム、92 導電性ローラ、93 現像ローラ、94 トナー供給ローラ、95 クリーニングブレード、96 トナー容器、97 廃トナー容器、98 現像ブレード、99
トナー、910 攪拌羽、101 感光ドラム、102 導電性ローラ、103 現像ローラ、104 トナー供給ローラ、105 クリーニングブレード、106 トナー容器、107 廃トナー収容容器、108 現像ブレード、109 トナー、1010 攪拌羽、1011 露光光、1012 一次転写ローラ、1013 テンションローラ、1014 中間転写ベルト駆動ローラ、1015 中間転写ベルト、1016 二次転写ローラ、1017 クリーニング装置、1018 定着器、1019 転写材

図1
図2
図3
図4
図5