(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】歯車、輪列機構、時計用ムーブメント及び時計
(51)【国際特許分類】
G04B 13/02 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G04B13/02 Z
(21)【出願番号】P 2019198423
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】305018823
【氏名又は名称】盛岡セイコー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】小野 保
(72)【発明者】
【氏名】中村 和史
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 広通
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 健志
(72)【発明者】
【氏名】袖平 智樹
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】実開平1-89815(JP,U)
【文献】特開2006-136931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸線を中心とした環状に形成された板状のフランジ部と、
前記フランジ部に設けられた歯部と、を備え、
前記フランジ部には、前記回転軸線方向に塑性変形した絞り成形部が形成され
、
前記絞り成形部は、前記フランジ部の一部に、前記フランジ部の周方向に間隔をあけた状態で形成されていることを特徴とする歯車。
【請求項2】
回転軸線を中心とした環状に形成された板状のフランジ部と、
前記フランジ部に設けられた歯部と、を備え、
前記フランジ部には、前記回転軸線方向に塑性変形した絞り成形部が形成され、
前記歯部は、前記フランジ部の外周縁部に、前記フランジ部の全周に亘って周方向に間隔をあけて複数形成され、
前記フランジ部のうち、前記絞り成形部よりも外周縁部側に位置する部分には、前記回転軸線方向に前記歯部の高さ位置を調整する曲げ成形部が形成されていることを特徴とする歯車。
【請求項3】
回転軸線を中心とした環状に形成された板状のフランジ部と、
前記フランジ部に設けられた歯部と、を備え、
前記フランジ部には、前記回転軸線方向に塑性変形した絞り成形部が形成され、
前記フランジ部は、前記絞り成形部によって前記回転軸線方向に沿った軸高さが規定され、
前記フランジ部は、前記絞り成形部によって、前記フランジ部自体の厚みよりも前記軸高さが大きくなるように形成されていることを特徴とする歯車。
【請求項4】
請求項
2又は3に記載の歯車において、
前記絞り成形部は、前記フランジ部の全周に亘って環状に形成されている、歯車。
【請求項5】
請求項
1から4のいずれか1項に記載の歯車において、
前記回転軸線を中心とした筒状に形成されると共に、前記フランジ部の径方向内側に配置され、時針が取り付けられる筒車本体を備え、
前記フランジ部及び前記筒車本体は、同一の板材によって一体に形成される、歯車。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の歯車
と、
第1支持部品と、
前記歯車を間に挟んで前記第1支持部品に対して前記回転軸線方向に配置された第2支持部品と、を備えている、輪列機構。
【請求項7】
請求項6に記載の輪列機構を備えている、時計用ムーブメント。
【請求項8】
請求項7に記載の時計用ムーブメントを備えている、時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車、輪列機構、時計用ムーブメント及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計用歯車は、被加工材を切削加工することで製造される場合が多い。しかしながら、切削加工の場合には、加工工程が多く、加工時間もかかるため製造コストが高くなり易い。そこで、切削加工ではなく、絞り加工及びプレス加工等を利用して時計用歯車を製造する方法も知られている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、金属製の板材に対して絞り加工及びプレス加工を施すことで、時計用歯車の1つである筒車を製造する方法が開示されている。
具体的には、板材に絞り加工を繰り返し複数回施すことで、平坦なフランジ部及び有蓋円筒状の突出部を形成する工程と、突出部における蓋部分をプレス加工によって打ち抜くことで、筒車の筒状部分を形成する工程と、フランジ部をプレス加工によって歯車状に打ち抜くことで、フランジ部の外周縁部に複数の歯部を形成する工程と、を行うことで筒車を製造する方法が開示されている。
特に、この製造方法で製造される筒車のフランジ部は、板材の厚みをほぼ維持しているため、全体に亘って一定の厚さを有する平坦形状とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に筒車は、時計用ムーブメントに組み込まれた際、時計用部品同士の間に挟まれた状態で、例えば針座等を利用して車軸方向に適切に位置決めされる。
具体的には、筒車は筒車押さえと地板との間にフランジ部が位置するように組み込まれる。そして、筒車押さえとフランジ部との間には針座が配置される。針座は、所定のばね性を有する皿ばねであって、弾性復元力に起因する所定の圧力(背圧)でフランジ部を地板側に向けて付勢している。これにより筒車は、地板に対して車軸方向に適切に押し付けられ、回転軸線に対する傾きが抑制された状態、すなわち、あおりが抑制された状態で組み込まれている。
【0006】
ところで、金属製の板材から筒車を製造する上記従来の製造方法の場合、例えば絞り加工によって形成する突出部の外径及び内径、フランジ部の厚み、或いはプレス加工機の能力(例えば加工工程数の上限値や加工荷重等)等の各種の要因によって、絞り加工及びプレス加工を行うことができる板材の板厚に制限が生じてしまう。
そのため、フランジ部の厚みが薄い筒車になり易く、時計用ムーブメントへの組み込み時、フランジ部と筒車押さえとの間に大きな隙間が生じ易かった。このような傾向は、異なる設計のムーブメントであって、当該ムーブメントの厚さが厚く、且つ筒車押さえと地板との間の距離が大きい場合に、より顕著に表れる。ところがこの場合には、針座から適正な背圧が得られ難くなってしまうので、例えば時計用ムーブメントに衝撃等が加わったときに筒車が回転軸線に対して傾いてしまう可能性があった。そのため、例えば筒車に連結される時針が、他の時計用部品(例えば分針、文字板等)に干渉する不都合を招いてしまうおそれがあった。
【0007】
そこで、適切な背圧を得るべく、初期の板厚が厚い板材を用いた場合には、板厚に比例して加工工程数が増加するので、例えばプレス加工機の能力を超えてしまうといった不都合や、板材の変形抵抗が大きくなることでパンチやダイ等に作用する荷重が増加して、摩耗や破損等を招いてしまう等の不都合が生じるおそれがあった。
特に、この場合には、全体に亘って一様な厚肉のフランジ部を有する筒車となってしまうので、筒車の質量が増加して筒車自体の慣性モーメントが増大してしまう。そのため、例えば時計の駆動源であるモータの負荷の増大を招いてしまい、電池寿命の低下等に繋がってしまう。
【0008】
上述したように、全体に亘って一定の厚さを有する平坦なフランジ部を有する筒車では、板材の板厚に制限が生じるため、フランジ部の厚みが薄い筒車になり易い。そのため、筒車が針座から適正な背圧を得ることができず、他の時計用部品への干渉を招いてしまうおそれがあった。また、仮に初期の板厚が厚い板材を用いた場合には、筒車自体の慣性モーメントの増大化を招いてしまうものであった。
【0009】
なお、フランジ部の厚みに対応して筒車押さえと地板との間の間隔(すなわちフランジ部の設置スペース)を変更することは容易ではなく、このような設計変更は実際上困難とされている。従って、時計用ムーブメントの種類等に応じて予め既定されるフランジ部の設置スペースを考慮して、筒車を組み込む必要がある。そのため、上述の各種の不都合が生じてしまうものであった。
【0010】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、効率良く、低コストで製造することができるうえ、回転軸線に対する傾きの抑制及び慣性モーメントを抑制することができる歯車、輪列機構、時計用ムーブメント及び時計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る歯車は、回転軸線を中心とした環状に形成された板状のフランジ部と、前記フランジ部に設けられた歯部と、を備え、前記フランジ部には、前記回転軸線方向に塑性変形した絞り成形部が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る歯車によれば、歯部が設けられた板状のフランジ部に絞り成形部が形成されているので、従来のような一定の厚みを有する平坦なフランジ部とは異なり、フランジ部自体の厚みを変化させることなく、絞り成形部を利用して例えばフランジ部の軸高さを規定することができる。従って、予め決まった設置スペースに対応して歯車を配置することができ、例えば針座等の部品から適正な背圧を受けることができる。そのため、回転軸線に対する傾きを抑制した状態で歯車を回転させることができる。
さらに、フランジ部自体の厚みを厚くする必要がないので、歯車の慣性モーメントを抑制することができ、歯車を効率良く回転させることができる。さらには、切削加工ではなく、プレス加工を利用してフランジ部の外形形状加工を行えると共に、歯部及び絞り成形部を形成することが可能である。従って、効率良く、低コストで歯車を製造することができる。
【0013】
(2)前記絞り成形部は、前記フランジ部の全周に亘って環状に形成されても良い。
【0014】
この場合には、絞り成形部が環状に形成されているので、フランジ部の重量バランスを周方向に一様にすることができる。従って、回転特性が優れた歯車とすることができる。さらに、絞り成形部が環状に形成されているので、例えば絞り成形部を全周に亘って他部品に対して接触させることが可能である。これにより、歯車の姿勢をより安定させることができ、回転軸線に対する傾きをさらに抑制することができる。
【0015】
(3)前記絞り成形部は、前記フランジ部の一部に、前記フランジ部の周方向に間隔をあけた状態で形成されても良い。
【0016】
この場合には、絞り成形部をフランジ部の一部に例えば局所的に膨らむ或いは凹むように形成することができる。従って、絞り成形部を形成するにあたって、フランジ部の一部を塑性変形させるだけで済むので、プレス加工等を行い易い。また、この場合であっても、フランジ部の周方向に間隔をあけた状態で絞り成形部を形成するので、フランジ部の回転バランスを取り易く、回転特性が優れた歯車とすることが可能である。
【0017】
(4)前記歯部は、前記フランジ部の外周縁部に、前記フランジ部の全周に亘って周方向に間隔をあけて複数形成されても良い。
【0018】
この場合には、フランジ部の外周縁部に複数の歯部が形成されているので、例えば1つ或いは数本の歯部を有するような特殊な歯車ではなく、いわゆる一般的な歯車として利用できるので、汎用性を高めることができ、使い易い歯車とすることができる。
【0019】
(5)前記フランジ部のうち、前記絞り成形部よりも外周縁部側に位置する部分には、前記回転軸線方向に前記歯部の高さ位置を調整する曲げ成形部が形成されても良い。
【0020】
この場合には、曲げ成形部によって歯部の高さ位置を調整することができる。従って、他部品に対する歯部の噛合位置を調整することができ、例えば他部品との相対的な位置関係、他部品の形状或いは用途等に応じて最適な噛み合いとなるように歯車をセットすることができる。従って、歯車に対して動力を効率良く伝達することができ、歯車の回転特性の向上化に繋げることができる。
【0021】
(6)前記フランジ部は、前記絞り成形部によって前記回転軸線方向に沿った軸高さが規定されても良い。
【0022】
この場合には、絞り成形部を利用してフランジ部の軸高さを規定することができるので、予め決まった設置スペースに対応して歯車をより適切且つ安定に配置することができる。従って、例えば針座等の部品から適正な背圧を確実に受けることができる。
【0023】
(7)前記回転軸線を中心とした筒状に形成されると共に、前記フランジ部の径方向内側に配置され、時針が取り付けられる筒車本体を備え、前記フランジ部及び前記筒車本体は、同一の板材によって一体に形成されても良い。
【0024】
この場合には、時針が取り付けられる筒車本体を備えているので、時計用歯車の1つである筒車として利用することができる。特に、先に述べたように回転軸線に対する傾きを抑制した状態で歯車をセットすることができるので、時針をふらつかせることなく、さらには分針や文字板等に対して干渉させることなく、スムーズに運針させることができる。
なお、同一の板材をプレス加工することで筒車本体及びフランジ部を一体に形成することが可能であるので、効率良く、低コストで筒車である歯車を製造することができる。
【0025】
(8)本発明に係る輪列機構は、前記歯車と、第1支持部品と、前記歯車を間に挟んで前記第1支持部品に対して前記回転軸線方向に配置された第2支持部品と、を備えている。
【0026】
本発明に係る輪列機構によれば、第1支持部品と第2支持部品との間で、回転軸線に対する傾きを抑制した状態で歯車を安定に回転させることができると共に、慣性モーメントを抑制した状態で歯車を回転させることができる。従って、作動性能が安定し、且つ動力の伝達効率が向上した輪列機構とすることができる。
【0027】
(9)本発明に係る時計用ムーブメントは、前記輪列機構を備えている。
(10)本発明に係る時計は、前記時計用ムーブメントを備えている。
【0028】
この場合には、上述の輪列機構を具備しているので、同様に作動性能が安定し、且つ動力の伝達効率が向上した高品質な時計用ムーブメント及び時計とすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、効率良く、低コストで製造することができるうえ、回転軸線に対する傾きの抑制、及び慣性モーメントを抑制できる歯車とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係る実施形態を示す図であって、時計の外観図である。
【
図2】
図1に示すムーブメントの一部断面図であって、主にロータ及び五番車の関係を示す断面図である。
【
図3】
図1に示すムーブメントの一部断面図であって、主に四番車、三番車、二番車、日の裏車及び筒車の関係を示す断面図である。
【
図6】従来の筒車を適用した場合のムーブメントの一部断面図である。
【
図7】従来の別の筒車を適用した場合のムーブメントの一部断面図である。
【
図8】筒車の変形例を示す図であって、ムーブメントの一部断面図である。
【
図9】筒車の別の変形例を示す図であって、ムーブメントの一部断面図である。
【
図10】本発明に係る歯車を五番車に適用した場合におけるムーブメントの一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
なお、本実施形態では、時計の一例としてクォーツ式の腕時計を例に挙げて説明する。
【0032】
(時計の基本構成)
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板に対して、時計ケースのガラス側(すなわち、文字板側)をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板に対する時計ケースのケース裏蓋側(すなわち、文字板とは反対側)をムーブメントの「表側」と称する。
なお、本実施形態では、文字板からケース裏蓋に向かう方向を上方、その反対側を下方と定義して説明する。
【0033】
図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋及びガラス2を有する時計ケース3内に、ムーブメント(本発明に係る時計用ムーブメント)10、文字板11、指針12(時針13、分針14及び秒針15)を備えている。文字板11及び各指針12は、ガラス2を通じて視認可能に配置されている。
【0034】
(ムーブメント)
ムーブメント10は、文字板11と図示しないケース裏蓋との間に配置されている。
図1~
図3に示すように、ムーブメント10は、該ムーブメント10の基板を構成する地板20、及び地板20よりも表側に配置された輪列受21を有している。地板20の裏側には、文字板11がガラス2を通じて視認可能に配置されている。地板20の表側には、図示しない電池、時計1の源振を構成する図示しない水晶ユニット、輪列機構23等が配置される。
【0035】
水晶ユニットは、内部に所定の周波数で発振する図示しない水晶振動子を有しており、地板20の表側に形成された図示しない回路基板に接続されている。そして、図示しない電池プラス端子を介して電池のプラス極と回路基板のプラスパターンとが導通され、図示しない電池マイナス端子を介して電池のマイナス極と回路基板のマイナスパターンとが導通されている。
【0036】
回路基板には、図示しない集積回路(IC)が実装されている。集積回路は、例えばC-MOS又はPLAで構成され、水晶振動子の振動に基づいて基準信号を出力する発振部(オシレータ)と、発振部の出力信号を分周する分周部(デバイダ)と、分周部の出力信号に基づいてステップモータ24を駆動するモータ駆動信号を出力する駆動部(ドライバ)とを内部に有している。
【0037】
図1及び
図2に示すように、地板20の表側には、磁心に巻いたコイルワイヤを含むコイルブロック25と、コイルブロック25の磁心の両端部分と接触するように配置されたステータ26と、ステータ26のロータ穴に配置され、ロータ磁石27cが組み込まれたロータ27と、が配置されている。
なお、コイルブロック25、ステータ26及びロータ27は、ステップモータ24として機能する。
【0038】
図2に示すように、ロータ27は、車軸27aと、車軸27aに一体に形成されたロータかな27b及びロータ磁石27cとを備え、地板20及び輪列受21に対して第1軸線O1回りに回転可能に支持されている。ロータ27は、ステータ26の磁化によるロータ磁石27cの移動によって、第1軸線O1回りに回転可能とされている。
【0039】
図1~
図3に示すように、地板20の表側には、ロータ27の回転に基づいて第2軸線O2回りに回転する五番車30と、五番車30の回転に基づいて第3軸線O3回りに回転する四番車40と、四番車40の回転に基づいて第4軸線O4回りを回転する三番車50と、三番車50の回転に基づいて第3軸線O3回りを回転する二番車60と、二番車60の回転に基づいて第5軸線O5回りを回転する日の裏車70と、日の裏車70の回転に基づいて第3軸線O3回りを回転する筒車80と、が配置されている。
上述した各車は、表輪列である輪列機構23を構成する。
【0040】
図2に示すように、五番車30は、車軸31と、車軸31に一体に形成された五番歯車32及び五番かな33と、を有しており、地板20及び輪列受21に対して第2軸線O2回りに回転可能に支持されている。五番歯車32は、ロータかな27bに噛み合っている。これにより、五番車30はロータ27の回転に伴って第2軸線O2回りを回転する。
さらに五番車30は、五番歯車32よりも下方に配置されると共に車軸31に一体に形成された規制リング34を備えている。規制リング34の径方向外側には、後述する規制レバー92が該規制リング34の外周面に対して押し当て可能に配置されている。
【0041】
図3に示すように、四番車40は、車軸41と、車軸41に形成された四番歯車42及び四番かな43、とを有している。車軸41は、四番かな43が二番車60の上端開口端上に回転可能に載置された状態で、二番車60の内側に挿通されている。これにより、四番車40は二番車60及び後述する円筒部65を介して地板20に回転可能に支持されている。
なお、車軸41の上ほぞ部41aは、輪列受21に保持された軸受45のほぞ穴45aによって軸支されている。なお、軸受45としては、例えばルビー等で形成された穴石等が挙げられる。
【0042】
車軸41の下端部は、二番車60よりも下方に突出している。そして、車軸41の下端部41bに秒針15が取り付けられている。これにより、秒針15は、時針13及び分針14よりも下方、すなわちガラス2側に配置されている。
四番歯車42は五番かな33に噛み合っている(
図2参照)。これにより、四番車40は五番車30の回転に伴って第3軸線O3回りを回転する。なお、四番車40は1分間に1回転するように構成されている。
【0043】
三番車50は、車軸51と、車軸51に一体に形成された三番歯車52及び三番かな53と、を有しており、地板20及び輪列受21に対して第3軸線O3回りに回転可能に支持されている。三番歯車52は四番かな43に噛み合っている。これにより、三番車50は四番車40の回転に伴って第4軸線O4回りを回転する。
【0044】
二番車60は、筒状の二番車本体61と、二番車本体61の上端部に一体に形成された二番かな62と、二番車本体61に対して一体に組み合わされた二番歯車63と、を備え、四番車40の第3軸線O3と同軸に配置されている。
詳細には、二番車60は、地板20に保持された円筒部65の上方開口端上に回転可能に載置された状態で、円筒部65の内側に回転可能に配置されている。これにより、二番車60は円筒部65によってガイドされながら第3軸線O3回りに安定して回転することが可能とされている。
【0045】
なお、二番車本体61と二番歯車63とは、所定の圧接力(摩擦力)を維持した状態で組み合わされている。そのため、例えば時刻合わせ時等、二番車本体61と二番歯車63との間に上記圧接力(摩擦力)を超える相対的な回転力が作用したときに、二番車本体61に対して二番歯車63をスリップさせることが可能とされている。
また、円筒部65は、いわゆる中心パイプと称される部品とされ、第3軸線O3と同軸に配置されていると共に、その下端部65aは地板20及び文字板11よりも下方に突出するように形成されている。
【0046】
二番歯車63は、二番かな62よりも下方に配置され、三番かな53に噛み合っている。これにより、二番車60は三番車50の回転に伴って第3軸線O3回りを回転する。なお、二番車60は1時間に1回転するように構成されている。
二番車本体61の下端部61aは、円筒部65の下端部65aよりも下方に突出し、且つ四番車40における車軸41の下端部41bよりも上方に配置されている。そして、二番車本体61の下端部61aに分針14が取り付けられている。従って、分針14は四番車40に取り付けられる秒針15よりも文字板11側に位置している。
【0047】
日の裏車70は、車軸71と、車軸71に一体に形成された日の裏歯車72及び日の裏かな73と、を有しており、地板20及び輪列受21に対して第5軸線O5回りに回転可能に支持されている。日の裏歯車72は二番かな62に噛み合っている。これにより、日の裏車70は二番車60の回転に伴って第5軸線O5回りを回転する。
なお、日の裏かな73は、車軸71の下端部に形成されていると共に、地板20と筒車押さえ75との間に配置されている。
【0048】
筒車(本発明に係る歯車)80は、下端部81aに時針13が取り付けられた円筒状の筒車本体81と、筒車本体81に一体に形成され、日の裏かな73に噛み合う板状の筒歯車(本発明に係るフランジ部)82と、を備え、四番車40における第3軸線O3と同軸に配置されている。これにより、筒車80は日の裏車70に基づいて第3軸線O3回りを回転する。なお、筒車80は12時間に1回転するように構成されている。
【0049】
筒車本体81の下端部81aは、円筒部65の下端部65aよりも下方に突出し、且つ二番車本体61の下端部61aよりも上方に配置されている。従って、時針13は二番車60に取り付けられる分針14よりも文字板11側に位置している。
なお、筒車80については、後に詳細に説明する。
【0050】
上述した日の裏車70は、
図1に示すりゅうず90を利用した時刻合わせを行うときにも回転するように構成されている。例えば、日の裏車70は、りゅうず90を介して巻真91を引き出した状態で回転させたときに、図示しないつづみ車等を介して動力が伝えられて第5軸線O5回りに回転可能とされている。これにより、日の裏車70の回転に伴って、二番車60及び筒車80を回転させることができ、分針14及び時針13の時刻合わせが可能とされている。
【0051】
なお、時刻合わせを行う際に、集積回路の動作はリセットされる。また、
図2に示すように、地板20と輪列受21との間には、巻真91の引き出し操作に対応して作動する規制レバー92が配置されている。
規制レバー92は、五番車30における規制リング34に対して接近離間可能に配置され、時刻合わせを行う際に、規制リング34の外周面に対して強く押し当たるように接触可能とされている。これにより、時刻合わせ時、五番車30は規制レバー92からの押付け力によって、第2軸線O2回りの回転が規制される。そのため、五番車30に噛み合った四番車40の回転が規制される。
その結果、時刻合わせ時、りゅうず90を回転操作することで、先に述べたように二番車本体61に対して二番歯車63をスリップさせることができ、秒針15を回転させることなく、分針14及び時針13のみを回転させて時刻の修正を行うことが可能とされている。
【0052】
(筒車)
筒車80について、詳細に説明する。
図3~
図5に示すように、筒車本体81は、第3軸線O3を中心とした円筒状に形成され、筒歯車82の径方向内側に配置されている。先に述べたように、筒車本体81の下端部81aには、時針13が分針14よりも文字板11側に位置した状態で取り付けられている。
【0053】
筒歯車82は、第3軸線O3を中心とした環状に形成され、筒車本体81の上端部81bに一体に形成されている。筒歯車82の外周縁部には、日の裏かな73に噛み合う筒歯部(本発明に係る歯部)83が筒歯車82の全周に亘って周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0054】
さらに、筒歯車82には、第3軸線O3方向に塑性変形した絞り成形部84が形成されている。絞り成形部84は、筒歯車82のうち、筒歯車82本体に連設される内周縁部側と筒歯部83が形成される外周縁部側との間に位置する中央領域部に形成されている。具体的に、絞り成形部84は、上方に向けて凸に膨らんだ状態で、筒歯車82の全周に亘って連続的に繋がるように環状に形成されている。
【0055】
従って、筒歯車82は、筒車本体81の上端部81bから径方向外側に向かって延びた環状の基部85と、基部85の外周縁部から径方向外側に向かうにしたがって上方に向けて延びた環状の第1傾斜部86と、第1傾斜部86の上端部から径方向外側に向けて延びた環状の膨出部87と、膨出部87の外周縁部から径方向外側に向かうにしたがって下方に向けて延びた環状の第2傾斜部88と、第2傾斜部88の下端部から径方向外側に向けて延びた環状の最外周部89と、を備え、これらが連設されることで構成されている。
【0056】
絞り成形部84は、上述した第1傾斜部86、膨出部87及び第2傾斜部88によって構成される。なお、上記基部85が筒歯車82としての内周縁部側に位置し、上記最外周部89が筒歯車82としての外周縁部側に位置する。従って、最外周部89に複数の筒歯部83が形成されている。
また、本実施形態では、最外周部89が基部85よりも上方に位置し、且つ膨出部87よりも下方に位置するように、絞り成形部84が形成されている。
【0057】
上述のように筒歯車82に絞り成形部84が形成されているので、筒歯車82の全体は第3軸線O3方向に段差が付くように形成されている。そして筒歯車82は、絞り成形部84によって第3軸線O3方向に沿った軸高さH1が所定の高さとなるように規定されている。
なお、本実施形態の軸高さH1は、基部85の下面と膨出部87の上面との間の第3軸線O3方向に沿った間隔とされている。
【0058】
上述のように構成された筒車80は、
図3に示すように、地板(本発明に係る第1支持部品)20と、筒車押さえ(本発明に係る第2支持部品)75との間に筒歯車82が位置するように配置される。なお、筒車押さえ75は、地板20と文字板11との間に配置され、地板20に対して下方から組み合わされている。
【0059】
特に筒車80は、地板20に対して絞り成形部84における膨出部87が下方から接触した状態で配置されている。そして、筒歯車82の上記軸高さH1は、地板20と筒車押さえ75との間の予め決まった規定間隔H2よりも小さく形成され、且つ筒車押さえ75と筒歯車82との間に所定の隙間があくように設定されている。
【0060】
このように確保された上記隙間には、針座95が配置されている。
針座95は、所定のばね性を有する極薄の皿ばねであって、弾性復元力を利用して、筒歯車82を上方に向けて付勢している。具体的には、針座95は、上方に向けて(筒歯車82側に向けて)凸となるような湾曲状に折り曲げられており、筒歯車82における基部85に対して下方から接触することで、筒歯車82を上方に向けて付勢している。
【0061】
なお、針座95は、例えばステンレス或いは銅等の各種の金属材料からなる金属製とされている。ただし、金属製に限定されるものではなく、金属材料以外の材料で針座95を形成しても構わない。
【0062】
筒車80は、上述の針座95から受ける背圧(押し上げ力)によって、地板20に対して押し付けられている。これにより、筒車80は、姿勢が安定に維持された状態で、第3軸線O3回りに回転可能とされている。
【0063】
ところで、筒車本体81及び筒歯車82で構成される筒車80は、同一の板材をプレス加工することで一体に形成されている。
具体的には、金属製の板材を、図示しない公知のプレス加工機(パンチやダイ等を含む)を利用したプレス加工によって、例えば複数回の絞り加工を繰り返し行って、筒車本体81となる有蓋筒状の筒体を形成する。次いで、再度のプレス加工を行って、筒体における蓋部分を打ち抜いて筒車本体81を形成すると同時に、筒車本体81を囲む板材部分を打ち抜いて筒歯車82を形成する。この際、プレス加工によって複数の筒歯部83及び絞り成形部84を同時に形成することができる。
【0064】
その結果、
図4及び
図5に示す筒車80を製造することができる。特に、切削加工ではなく、プレス加工を利用して筒車本体81と、絞り成形部84を有する筒歯車82とを一体に形成することができるので、効率良く、且つ低コストで筒車80を製造することができる。
【0065】
(時計の作用)
次に、上述のように構成された時計1の作用について説明する。
図1に示すムーブメント10において、水晶ユニットにおける水晶振動子が所定周波数で発振すると、この水晶振動子の振動に基づいて、集積回路に内蔵されている発振部が基準信号を出力すると共に、分周部が発振部からの出力信号を分周する。すると、駆動部が分周部の出力信号に基づいて、ステップモータ24を駆動するモータ駆動信号を出力する。コイルブロック25にモータ駆動信号が入力されると、ステータ26が磁化してロータ27を第1軸線O1回りに回転させる。
【0066】
ロータ27が回転することで、
図2に示すように五番車30を第2軸線O2回りに回転させることができ、さらに
図3に示すように四番車40を第3軸線O3回りに回転させることができる。さらに四番車40の回転によって、三番車50を介して二番車60を第3軸線O3回りに回転させることができる。さらに、二番車60の回転によって、日の裏車70を介して筒車80を第3軸線O3回りに回転させることができる。
【0067】
このように、四番車40、二番車60及び筒車80の回転によって、秒針15を1分間に1回転させ、分針14を1時間に1回転させ、時針13を12時間に1回転させることができ、正確な時を刻むことができる。
【0068】
特に本実施形態の時計1は、輪列機構23を構成する歯車として、絞り成形部84が形成された筒車80を具備している。そのため、従来の筒車に比べて、第3軸線O3に対する傾き(あおり)を抑制した状態で筒車80を回転させることができ、時針13を分針14や文字板11等に対して干渉させることなく、スムーズに運針させることが可能である。さらに、筒車80の慣性モーメントを抑制することができ、筒車80を効率良く回転させることができる。
このような筒車80に関する作用効果について、以下に詳細に説明する。
【0069】
本実施形態の筒車80は、筒歯部83が設けられた板状の筒歯車82に絞り成形部84が形成されているので、従来のような一定の厚みを有する平坦な筒歯車とは異なり、筒歯車82自体の厚みを変化させることなく、絞り成形部84を利用して筒歯車82の軸高さH1を規定することができる。
従って、
図3に示すように、予め決まった規定間隔H2(すなわち、地板20と筒車押さえ75との間の設置スペース)に対応して筒車80を配置することができ、針座95から適正な背圧を受けることができる。
【0070】
これに対して、例えば
図6に示すように、一定の厚みを有する平坦な筒歯車101を具備する従来の筒車100をムーブメント10に組み込んだ場合には、プレス加工機の能力等の各種の要因によって、プレス加工を行うことができる板材の板厚に制限が生じてしまうので、筒歯車101の厚みが薄くなり易い。従って、この場合には筒歯車101と筒車押さえ75との間に大きな隙間H3が生じてしまう。
この場合、針座95の軸方向の変形量が少なくなり、弾性復元力に基づく押し上げ力が小さくなってしまう。そのため、筒車100は針座95から適正な背圧が得られ難くなってしまう。その結果、例えばムーブメント10に衝撃等が加わったときに筒車100が第3軸線O3に対して傾いてしまう可能性がある。
【0071】
これに対して
図3に示すように、本実施形態の場合には、先に述べたように筒車80が針座95から適正な背圧を受けることができるので、第3軸線O3に対する傾き(あおり)を抑制した状態で筒車80を回転させることができる。そのため、時針13をふらつかせることなく、さらには分針14や文字板11等に対して干渉させることなく、スムーズに運針させることができる。
【0072】
さらに本実施形態の筒車80によれば、絞り成形部84を利用して筒歯車82の軸高さH1を規定できるので、例えば軸高さH1を大きく確保する場合であっても、筒歯車82自体の厚みを厚くする必要がない。従って、筒車80の慣性モーメントを抑制することができ、筒車80を効率良く回転させることができる。
【0073】
これに対して、従来のように一定の厚みを有する平坦な筒歯車を用いる場合には、歯厚を厚くすることで適切な背圧が得られるような位置関係にする必要がある。例えば
図7に示すように、一定の厚みを有する平坦な筒歯車111であって、筒歯車111の厚みが全体に亘って一様な厚肉とされた従来の筒車110をムーブメント10に適用すれば、適切な背圧を得ることが可能となる。しかしながら、筒車110全体の質量が増加して、慣性モーメントが増大してしまうため、例えば時計1の駆動源であるステップモータ24の負荷の増大を招いてしまう。そのため、駆動条件を変更しないとムーブメント10を適切に駆動できないという不都合が起こり得る。具体的には、駆動パルス幅を長くしたり、駆動電流を増加させたりしなければならないということが起こり得る。この結果、電池寿命の低下等に繋がってしまう。
【0074】
これに対して
図3に示すように、本実施形態の場合には、先に述べたように慣性モーメントを抑制して、筒車80を効率良く回転させることができるので、ステップモータ24の負荷が増大することを抑制できる。従って、電池寿命が低下することを抑制することができる。
【0075】
以上説明したように、本実施形態の筒車80によれば、効率良く、低コストで製造することができるうえ、第3軸線O3に対する傾きの抑制、及び慣性モーメントを抑制することができる。
さらに、本実施形態の輪列機構23によれば、地板20と筒車押さえ75との間で筒車80を安定且つ慣性モーメントを抑制した状態で回転させることができるので、作動性能が安定し、動力の伝達効率が向上した輪列機構となる。
さらに、本実施形態のムーブメント10及び時計1によれば、上述した輪列機構23を備えているので、同様に作動性能が安定し、且つ動力の伝達効率が向上した高品質なムーブメント及び時計となる。
【0076】
さらに本実施形態の筒車80では、絞り成形部84が筒歯車82の全周に亘って環状に形成されているので、筒歯車82の重量バランスを周方向に一様にすることができる。従って、回転特性が優れた筒車80とすることができる。さらに、絞り成形部84が環状に形成されているので、絞り成形部84における膨出部87を、絞り成形部84の全周に亘って地板20に接触させることが可能である。これにより、筒車80の姿勢をより安定させることができ、第3軸線O3に対する傾きをさらに抑制することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0078】
例えば、上記実施形態では、クォーツ式の時計1を例に挙げて説明したが、この場合に限定されるものではなく、例えば機械式の時計に本発明を適用しても構わない。また、上記実施形態では、1つのステップモータ24の動力を伝達することで、時針13、分針14及び秒針15を回転させたが、この場合に限定されるものではない。例えば、時針13を回転させるための動力を発生するステップモータ、分針14を回転させるための動力を発生するステップモータ、秒針15を回転させるための動力を発生するステップモータのように、複数のステップモータを具備する構成としても構わない。
【0079】
さらに上記実施形態では、絞り成形部84を環状に形成したが、この場合に限定されるものではない。例えば、局所的に膨らむ或いは凹む絞り成形部84を、筒歯車82の周方向に間隔をあけて配置するように形成しても構わない。
【0080】
さらに上記実施形態では、絞り成形部84を、第1傾斜部86、膨出部87及び第2傾斜部88によって構成したが、この場合に限定されるものではなく、例えば連続したR面によって絞り成形部が形成されるようにしても良い。
【0081】
さらには、絞り成形部84を上方に向けて凸に膨らむように形成したが、この場合に限定されるものではなく、例えば
図8に示すように、筒歯車(本発明に係るフランジ部)121に絞り成形部122を下方に向けて凸に膨らむように形成した筒車(本発明に係る歯車)120としても構わない。
【0082】
この場合の筒歯車121は、筒車本体81の上端部81bから径方向外側に向かって延びた環状の基部125と、基部125の外周縁部から径方向外側に向かうにしたがって下方に向けて延びた環状の第1傾斜部126と、第1傾斜部126の下端部から径方向外側に向けて延びた環状の膨出部127と、膨出部127の外周縁部から径方向外側に向かうにしたがって上方に向けて延びた環状の第2傾斜部128と、第2傾斜部128の上端部から径方向外側に向けて延びた環状の最外周部129と、を備え、これらが連設されることで構成されている。なお、絞り成形部122は、上述した第1傾斜部126、膨出部127及び第2傾斜部128によって構成される。
このように構成された筒車120であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏功することができる。
【0083】
さらに、
図9に示すように、筒歯車121のうち、絞り成形部122よりも外周縁部側に位置する最外周部129に、第3軸線O3方向に筒歯部83の高さ位置を調整する曲げ成形部130を形成した筒車120としても構わない。曲げ成形部130は、絞り成形部122と同じタイミングでプレス加工によって形成可能とされ、最外周部129を上方に向けて段付き形状となるように形成されている。
なお、
図9では、絞り成形部122を下方に向けて凸に膨らむように形成した場合を例にしている。
【0084】
このように構成された筒車120の場合には、絞り成形部122を利用して筒歯車121の軸高さを規定しながら、さらに曲げ成形部130によって筒歯部83の高さ位置を調整することができる。従って、
図9に示すように、日の裏かな73に対する筒歯部83の噛合位置を、日の裏かな73の基端側(根元側)にシフトするように調整することができる。従って、日の裏かな73及び筒歯部83をより安定に噛み合わせることができ、筒車120に対して動力をさらに効率良く伝達して、筒車120の回転特性の向上化に繋げることができる。
このように、曲げ成形部130を利用することで、最適な噛み合いとなるように筒車120をセットすることができる。
【0085】
さらに、上記実施形態では、本発明に係る歯車を筒車に適用した場合を例に挙げて説明したが、筒車に限定されるものではなく、その他の時計用歯車に適用しても構わない。
例えば、
図10に示すように、本発明に係る歯車を、地板20と輪列受21との間に配置された五番車140に適用しても構わない。なお、この場合には、輪列受21が第1支持部品となり、地板20が第2支持部品となる。
【0086】
この場合の五番車140は、車軸31、五番かな33、及び第2軸線O2を中心とした環状に形成された板状の五番歯車(本発明に係るフランジ部)141を備えている。
五番歯車141には、上方に向けて段付き状に塑性変形した絞り成形部142が形成されている。具体的には、五番歯車141は、車軸31に対して連結される環状の基部145と、基部145の外周縁部から上方に向かって延びると共に五番かな33を径方向外側から囲む膨出部146と、膨出部146の上端部から径方向外側に向けて延びた環状の最外周部147と、を備え、これらが連設されることで構成されている。
なお、最外周部147には、ロータかな27bに噛み合う複数の五番歯部(本発明に係る歯部)148が全周に亘って周方向に間隔をあけて複数形成されている。
【0087】
このように構成された五番車140であっても、上記実施形態における五番車30と同様の作用効果を奏功することができる。それに加えて、五番歯車141をプレス加工によって形成できるので、効率良く、且つ低コストで製造することができるうえ、慣性モーメントを抑制することができる。従って、回転特性に優れた五番車140とすることができ、ロータ27からの動力をより効率良く伝えることができる。
【0088】
なお、このように五番車140を構成した場合であっても、膨出部146の外周面に対して規制レバー92を押し当てることができるので、上記実施形態と同様に、秒針15を回転させることなく、時刻合わせを行うことが可能である。
【0089】
さらに、本発明に係る歯車において、フランジ部に歯部を複数設ける必要はなく、例えば1つ或いは数本の歯部を有する特殊な歯車としても構わない。ただし、フランジ部の外周縁部に複数の歯部が形成することで、いわゆる一般的な歯車として利用できるので、汎用性を高めることができ、使い易い歯車とすることができる。
【符号の説明】
【0090】
H1…軸高さ
O3…第3軸線(回転軸線)
1…時計
10…ムーブメント(時計用ムーブメント)
13…時針
20…地板(第1支持部品、第2支持部品)
21…輪列受(第1支持部品)
23…輪列機構
75…筒車押さえ(第2支持部品)
80、120…筒車(歯車)
81…筒車本体
82、121…筒歯車(フランジ部)
83…筒歯部(歯部)
84、122、142…絞り成形部
130…曲げ成形部
140…五番車(歯車)
141…五番歯車(フランジ部)
148…五番歯部(歯部)