(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】光学系および光学機器
(51)【国際特許分類】
G02B 17/08 20060101AFI20231212BHJP
G02B 13/18 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G02B17/08
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2019202420
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 達朗
【審査官】瀬戸 息吹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0306149(US,A1)
【文献】特開2018-091956(JP,A)
【文献】特開2019-148791(JP,A)
【文献】国際公開第2018/066313(WO,A1)
【文献】特開2018-072457(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00 - 17/08
G02B 21/02 - 21/04
G02B 25/00 - 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側に向かって凹形状の第1反射面を有する第1光学素子と、
像側に向かって凸形状の第2反射面を有する第2光学素子と、
前記第1光学素子と前記第2光学素子の間に配置されたレンズ群
Aとを有し、
物体からの光は、
物体側から順に前記第1反射面、
前記レンズ群A、前記第2反射面
、前記レンズ群Aを介して像側へ向かい、
前記第2反射面と前記レンズ群Aの最も像側の面との間において配置された屈折力を有するレンズの総数は3枚以上であり、
像振れ補正のために移動する移動群は、前記レンズ群
Aの少なくとも一部と前記第2光学素子、あるいは前記レンズ群Aの少なくとも一部からなることを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記第1反射面から前記移動群のうち最も物体側の光学面までの光軸上での距離をDIS、前記第1反射面から前記光学系のうち最も物体側の光学面までの光軸上での距離をDR1とするとき、
0.10≦DIS/DR1≦1.00
なる条件を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記移動群の焦点距離をfIS、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.010≦|fIS/f|≦2.000
なる条件を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
【請求項4】
前記第1反射面の焦点距離をfR1、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.05≦fR1/f≦0.80
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項5】
前記第2反射面の焦点距離をfR2、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.020≦|fR2/f|≦0.500
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項6】
前記光学系のうち最も物体側の光学面から像面までの光軸上での距離をL、前記光学系の焦点距離をfとするとき、
0.10≦L/f≦0.65
なる条件を満足することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
物体側に向かって凹形状の第1反射面を有する第1光学素子と、
像側に向かって凸形状の第2反射面を有する第2光学素子と、
前記第1光学素子と前記第2光学素子の間に配置されたレンズ群とを有し、
物体からの光は、物体側から順に前記第1反射面、前記レンズ群、前記第2反射面、前記レンズ群を介して像側へ向かい、
像振れ補正のために移動する移動群は前記第2光学素子からなり、
前記レンズ群は像振れ補正に際して不動の固定レンズ群であり、
前記固定レンズ群は正レンズと負レンズを有し、
前記固定レンズ群において前記第2反射面に最も近いレンズ面は、前記第2反射面に向かって凸形状であり、
前記固定レンズ群において前記第1反射面に最も近いレンズ面は、前記第1反射面に向かって凸形状であることを特徴とする光学系。
【請求項8】
前記移動群は負レンズを含むことを特徴とする請求項1から
6のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項9】
前記レンズ群Aは、前記第1反射面から前記第2反射面へ順に配置された、第1部分群と第2部分群とからなり、
前記移動群は
前記第2部分群からなり、
前記第1部分群は、像振れ補正に際して不動の固定レンズ群
であり、
前記移動群は正レンズを含み、前記固定レンズ群は負レンズを含むことを特徴とする請求項1から
6および
8のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項10】
前記レンズ群Aは、前記第1反射面から前記第2反射面へ順に配置された、第1部分群と第2部分群とからなり、
前記移動群は
前記第2光学素子と前記第2部分群とからなり、
前記第1部分群は、像振れ補正に際して不動の固定レンズ群であり、
前記移動群および前記固定レンズ群のうち少なくとも一方は正レンズを含
むことを特徴とする請求項1から
6および
8のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項11】
前記移動群と前記固定レンズ群を構成するすべての光学素子およびレンズの有効径が、
前記第1反射面の有効径よりも小さいことを特徴とする請求項
7、9および10のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項12】
請求項1から1
1のいずれか一項に記載の光学系と、該光学系からの光を受光する受光素子とを有することを特徴とする光学機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラや交換レンズ等の撮像光学系に好適な光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
焦点距離が長い望遠型の撮像光学系として、反射系と屈折系を有する反射屈折型の撮像光学系がある。また望遠型の撮像光学系は、手振れ等の振動に起因する像振れを低減(補正)するための防振(像振れ補正)機能を有することが多い。特許文献1および特許文献2には、防振のために移動群を移動させる防振機能を有する反射屈折型の撮像光学系が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-74783号公報
【文献】特開平05-53058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に大きな像振れ補正量(角度)を得るためには、移動群の移動量を大きくしたり、防振群の単位移動量に対する像移動量の比率、すなわち補正敏感度を高くしたりする必要がある。ただし、移動群の移動量を大きくしたり補正敏感度を高めるために移動群の屈折力を強くしたりすると、偏心収差が増加して光学性能が低下する。また特許文献1,2に開示された撮像光学系では、移動群を軸上光束の光線高さが低く、かつ軸外主光線の光軸からの高さが高い位置に配置しているため、補正敏感度が小さく、しかも像振れ補正時に発生する偏心収差が大きい。
【0005】
本発明は、小型でありながらも大きな像振れ補正量が得られ、像振れ補正時においても良好な光学性能が得られるようにした光学系を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面としての光学系は、物体側に向かって凹形状の第1反射面を有する第1光学素子と、像側に向かって凸形状の第2反射面を有する第2光学素子と、第1光学素子と第2光学素子の間に配置されたレンズ群Aとを有する。物体からの光は、物体側から順に第1反射面、レンズ群A、第2反射面、レンズ群Aを介して像側へ向かう。第2反射面とレンズ群Aの最も像側の面との間において配置された屈折力を有するレンズの総数は3枚以上であり、像振れ補正のために移動する移動群は、レンズ群Aの少なくとも一部と第2光学素子、あるいはレンズ群Aの少なくとも一部からなることを特徴とする。なお、上記光学系を有する光学機器も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、小型でありながらも大きな像振れ補正量が得られ、像振れ補正時においても良好な光学性能が得られるようにした光学系を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】実施例1の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図8】実施例2の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図12】実施例3の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図16】実施例4の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図20】実施例5の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図24】実施例6の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【
図28】実施例7の光学系の横収差図(無限遠、0.3度防振時)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
【0010】
各実施例の光学系L0の断面図において、左側が物体側、右側が像側である。各実施例の光学系L0は、複数のレンズ群により構成されており、該複数のレンズ群は防振に際して不動の少なくとも1つのレンズ群と、防振のために移動する少なくとも1つのレンズ群とを含む。レンズ群は、開口絞りを含んでいてもよい。
【0011】
各実施例の光学系L0は、物体側に凹面を向けた第1反射面R1を有する第1光学素子M1と、像側に凸面を向けた第2反射面R2を有する第2光学素子M2とを有し、物体からの光を第1反射面R1、第2反射面R2の順で反射させた後に結像させる。IPは像面である。各実施例の光学系L0を撮像装置の撮像光学系として用いる際には、像面IPには、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(光電変換素子)の撮像面や銀塩フィルム面が配置される。
【0012】
縦収差図のうち球面収差図において、FnoはFナンバーを示し、実線はd線(波長587.6nm)に対する球面収差を、二点鎖線はg線(波長435.8nm)に対する球面収差をそれぞれ示している。非点収差図において、実線ΔSはサジタル像面の像面湾曲量を、破線ΔMはメリディオナル像面の像面湾曲量を示している。歪曲収差はd線に対するものを示している。色収差図はg線における倍率色収差を示している。ωは近軸計算による半画角(°)である。
【0013】
横収差図には、d線(波長587.56nm)とg線(波長435.8nm)に対するメリディオナル面の横収差量を示している。Sはd線(波長587.56nm)に対するサジタル面の横収差量を示している。hgtは像高(mm)を示す。
【0014】
次に、各実施例の光学系L0に共通する構成について説明する。前述したように各実施例の光学系L0は、物体からの光を物体側に凹面を向けた第1反射面R1(第1光学素子M1)、像側に凸面を向けた第2反射面R2(第2光学素子M2)の順で反射させた後に結像させる。
【0015】
また光学系L0は、第2反射面R2で反射されて像面に向かう光が通過する位置であって第1光学素子M1よりも第2光学素子側(物体側:第1光学素子と第2光学素子との間)に配置されたレンズ群B1を有する。さらに防振のために移動する、具体的には光軸に直交する方向に平行移動したり光軸上の1点を中心として円弧状に回動したり光軸に対して回動したり(傾いたり)する移動群としての防振群BISは、第2光学素子M2とレンズ群B1のうち少なくとも一方を含んでいる。
【0016】
このような光学系L0において、該光学系L0の全系が小型でありながらも大きな像振れ補正量(以下、防振角という)得られ、しかも防振に際しても良好な光学性能を維持するには、防振群を含む光学系全体の構成を適切に設定する必要がある。防振角を大きくするためには、光学系L0内で軸上光束の光線高さが高い位置に防振群を配置するのが効果的である。また防振に際して良好な光学性能を維持するためには、光学系L0内で軸外主光線の光軸からの高さが低い位置に防振群を配置するのが好ましい。特に、防振に際しての偏心コマ収差や偏心非点収差の発生量を小さくするのに効果的である。
【0017】
第1光学素子M1よりも像側に防振群を配置すると、軸上光束の光線高さが低く、軸外主光線の光軸からの高さが高い位置に防振群を配置することになるため、十分に大きな防振敏感度を得ることが困難であり、防振時に発生する偏心収差も大きくなる。したがって、大きな防振角を得るため又は防振時に発生する偏心収差を小さくするために必要なレンズ枚数が多くなり、防振群を駆動する機構が大型化し、この結果、撮像光学系が大型化するため好ましくない。
【0018】
各実施例の光学系L0の防振群BISは、前述したように第2反射面R2を有する第2光学素子M2とレンズ群B1のうち少なくとも一方を含んでいる。特に、一般に反射面では色収差が発生しないため、第2光学素子M2が防振群BISに含まれる場合は防振時に発生する偏心色収差を少なくすることができる。なお、防振群BISが第2光学素子M2を含む場合とレンズ群B1を含む場合のいずれの場合においても、同様な効果を得ることができる。また光学系L0がレンズ群B1を有することで、第1光学素子M1と第2光学素子のそれぞれで発生する諸収差を補正しつつ、全系を小型化することができる。
【0019】
全系を小型にするには、第1反射面R1と第2反射面R2のパワーを強めることが効果的である。この際、第1反射面R1のパワーに対して第2反射面R2のパワーの絶対値が大きくなると、全系のペッツバール和がプラス側に大きくなり、像面湾曲がプラス側に大きくなり易い。このため、防振群BISおよび固定レンズ群Bfixのうち少なくとも一方に負レンズを含ませている。これにより、第1反射面R1と第2反射面R2のペッツバール和を負レンズで補正することができ、像面湾曲を小さくすることが容易となる。
【0020】
防振群BISは正レンズを含む。これにより防振群BISの色消しが容易となり、防振時に発生する偏心色収差を小さくすることが容易となる。なお、防振群BISと固定レンズ群Bfixを合わせて3枚のレンズにより構成するとよい。これにより、防振時の偏心収差、特に偏心像面湾曲や偏心コマ収差の発生を抑制することが容易となる。
【0021】
防振群BISは、第1反射面R1から第2反射面R2に向かう光線と第2反射面R2から像側に向かう光線が防振群BISを通過するように配置している。これにより、防振敏感度を大きくすることが容易となり、大きな防振角を得ることが可能となる。
【0022】
固定レンズ群Bfixは、第1反射面R1から前記第2反射面R2に向かう光線と第2反射面R2から像側に向かう光線が固定レンズ群Bfixを通過するように配置されている。これにより、固定レンズ群Bfixによる防振群BISに入射する光線と防振群BISから出射する光線の収差補正が可能となる。特に、防振に際して偏心収差の発生を抑制するためには、防振群BISとこれよりも物体側に配置されたレンズ群の構成が重要になるため、固定レンズ群Bfixによって防振時の偏心像面湾曲を補正する効果を大きくすることができる。
【0023】
防振群BISと固定レンズ群Bfixを構成するすべての光学素子およびレンズの有効径が、第1反射面R1の有効径よりも小さい。これにより、防振群BISと固定レンズ群Bfixの小型化が容易となり、全系の小型化に効果的である。
【0024】
次に、各実施例のより具体的な構成について説明する。実施例1(
図1)および実施例2(
図5)の光学系L0は、第1光学素子M1、第2光学素子M2およびレンズ群B1を有する。防振群BISは、第2光学素子M2からなり、防振のために光軸に直交する方向に移動する。レンズ群B1は、防振に際して不動の固定レンズ群Bfixとして構成されている。
【0025】
固定レンズ群Bfixは、正レンズと負レンズを含む。これにより、固定レンズ群Bfixで発生する軸上色収差を小さくすることができ、良好な光学性能を得ることが容易になる。
【0026】
さらに実施例1および実施例2の光学系L0は、固定レンズ群Bfix(B1)よりも像側にレンズ群B2とレンズ群B3を有する。レンズ群B3を光軸方向に移動させることにより無限遠と近距離との間でのフォーカシングが可能である。これによりフォーカシングの際に移動するレンズ群B3の径を小さくすることが容易となり、この結果、全系の小型化が容易となる。
【0027】
実施例1において、第2光学素子M2はレンズの片面に反射面を形成した負レンズと、正レンズとが接合された接合レンズからなり、特に軸上色収差と防振時の偏心色収差の補正を容易にしている。実施例2において、第2光学素子M2は非球面の表面反射鏡である。
【0028】
実施例3(
図9)および実施例4(
図13)の光学系L0は、第1光学素子M1、第2光学素子M2およびレンズ群B1を有する。防振群BISは、レンズ群B1からなり、防振のために光軸に直交する方向に移動する。また防振群BIS(B1)と第1光学素子M1との間にはレンズ群B2が配置されている。レンズ群B2は、防振に際して不動の固定レンズ群Bfixとして構成されている。
【0029】
さらに実施例3および実施例4の光学系L0は、レンズ群B2よりも像側にレンズ群B3とレンズ群B4を有する。レンズ群B4を光軸方向に移動させることにより無限遠と近距離との間でのフォーカシングが可能である。これによりフォーカシングの際に移動するレンズ群B4の径を小さくすることが容易となり、この結果、全系の小型化が容易となる。
【0030】
実施例5(
図17)および実施例6(
図21)の光学系L0は第1光学素子M1、第2光学素子M2およびレンズ群B1を有する。防振群BISは、第2光学素子M2とレンズ群B1からなり、防振のために光軸に直交する方向に移動する。また防振群BIS(M2,B1)と第1光学素子M1との間にはレンズ群B2が配置されている。レンズ群B2は、防振に際して不動の固定レンズ群Bfixとして構成されている。
【0031】
さらに実施例5および実施例6の光学系L0は、実施例3,4と同様にレンズ群B2よりも像側にレンズ群B3とレンズ群B4を有する。レンズ群B4を光軸方向に移動させることにより無限遠と近距離との間でのフォーカシングが可能である。これによりフォーカシングの際に移動するレンズ群B4の径を小さくすることが容易となり、この結果、全系の小型化が容易となる。
【0032】
実施例7(
図25)の光学系L0は第1光学素子M1、第2光学素子M2およびレンズ群B1を有する。防振群BISは、第2光学素子M2からなり、防振のために光軸上の一点を中心として微小な角度にて回動する。このときの回動中心は、第2反射面R2の面頂点から像側に向かって500mm離れた光軸上の位置にある。レンズ群B1は、防振に際して不動の固定レンズ群Bfixとして構成されている。
【0033】
さらに実施例7の光学系L0は、固定レンズ群Bfix(B1)よりも像側にレンズ群B2、レンズ群B3およびレンズ群B4を有する。レンズ群B3を光軸方向に移動させることにより無限遠と近距離との間でのフォーカシングが可能である。これによりフォーカシングの際に移動するレンズ群B3の径を小さくすることができ、この結果、全系の小型化が容易となる。
【0034】
次に、各実施例の光学系L0が満足することが好ましい条件について述べる。各実施例の光学系L0は、以下の式(1)から(5)の条件のうち少なくとも1を満足することが好ましい。
0.10≦DIS/DR1≦1.00 (1)
0.010≦|fIS/f|≦2.000 (2)
0.05≦fR1/f≦0.80 (3)
0.020≦|fR2/f|≦0.500 (4)
0.10≦L/f≦0.65 (5)
式(1)において、DISは第1反射面R1の面頂点から防振群BISのうち最も物体側の光学素子の面頂点までの光軸上での距離を示し、DR1は第1反射面R1の面頂点から光学系L0のうち最も物体側の光学素子の面頂点までの光軸上での距離を示す。式(2)において、fISは防振群BISの焦点距離を示し、fは全系の焦点距離を示す。
【0035】
式(3)において、fR1は第1反射面R1の焦点距離を示す。式(4)において、fR2は2反射面R2の焦点距離を示す。さらに式(5)において、Lは光学系L0のうち最も物体側の光学素子の面頂点から像面IPまでの光軸上での距離を示す。光学素子が穴を有する等、光軸上に面頂点が存在しない場合は、参照球面が光軸と交わる位置を面頂点とする。
【0036】
図30は、光軸上に面頂点が存在しない場合の面頂点の位置の算出方法を示す。参照球面とは、球心が光軸上に位置し、最大有効径位置ymaxに対応する球面位置Pmaxと最小有効径位置yminに対応する球面位置Pminとを結んでできる球面である。図に示すように、参照球面が光軸と交わる位置が面頂点である。
【0037】
式(1)の条件は、記第1反射面R1の面頂点から防振群BISのうち最も物体側の光学素子の面頂点までの光軸上での距離DISと第1反射面R1の面頂点から光学系L0のうち最も物体側の光学素子の面頂点までの光軸上での距離DR1との比に関する条件である。DIS/DR1が式(1)の下限を下回ると、軸外主光線の光軸からの高さが高い位置に防振群BISを配置することになり、防振時の偏心収差、特に偏心非点収差の補正が困難となり、好ましくない。
【0038】
式(2)の条件は、防振群BISの焦点距離fISと全系の焦点距離fとの比に関する条件であり、全系を小型としつつ防振に際して良好な光学性能を維持するための条件である。|fIS/f|が式(2)上限を上回ると、防振敏感度が小さくなりすぎて防振時の防振群BISの移動量が大きくなり、防振群BISを駆動する機構が大型化して全系を小型にするのが困難となるため、好ましくない。|fIS/f|が式(2)の下限を下回るように防振群BISのパワーが大きくなると、偏心像面湾曲の補正が困難となるため、好ましくない。
【0039】
式(3)の条件は、第1反射面R1の焦点距離fR1と全系の焦点距離fとの比に関する条件であり、全系を小型としつつ良好な光学性能を達成するための条件である。fR1/fが式(3)の上限を上回ると、光学系L0の全長が大きくなるため、好ましくない。fR1/fが式(3)の下限を下回ると、球面収差や像面湾曲の補正が困難となるため、好ましくない。
【0040】
式(4)の条件は、第2反射面R2の焦点距離fR2と全系の焦点距離fとの比に関する条件であり、全系を小型としつつ良好な光学性能を達成するための条件である。|fR2/f|が式(4)の上限を上回ると、光学系の全長が大きくなるため、好ましくない。|fR2/f|式が(4)の下限を下回ると、球面収差や像面湾曲の補正が困難となるため、好ましくない。
【0041】
式(5)の条件は、全系の焦点距離fと光学系L0の全長Lとの関係に関する条件である。L/fが式(5)の上限を超えるように全長Lが大きくなると、光学系L0が大型化するため、好ましくない。L/fが式(5)の下限を下回るように全長Lが小さくなると、諸収差、特に球面収差や像面湾曲の補正が困難となるため、好ましくない。
【0042】
なお、式(1)~(5)の数値範囲を、以下の式(1a)~(5a)の数値範囲とすることがより好ましい。
0.50≦DIS/DR1≦1.00 (1a)
0.015≦|fIS/f|≦1.500 (2a)
0.10≦fR1/f≦0.60 (3a)
0.025≦|fR2/f|≦0.350 (4a)
0.15≦L/f≦0.55 (5a)
また、式(1)~(5)の数値範囲を、以下の式(1b)~(5b)の数値範囲とすることがさらに好ましい。
0.80≦DIS/DR1≦1.00 (1b)
0.020≦|fIS/f|≦1.350 (2b)
0.12≦fR1/f≦0.50 (3b)
0.030≦|fR2/f|≦0.260 (4b)
0.16≦L/f≦0.53 (5b)
以下に実施例1~7のそれぞれ対応する数値例1~7を示す。各数値例の面データにおいて、面番号iは光の入射側から数えたときのi番目の面を示す。rはi番目の面の曲率半径(mm)、dはi番目と(i+1)番目の面間のレンズ厚または空気間隔(mm)、ndはそれぞれi番目の光学部材の材料のd線における屈折率である。νdはi番目の光学部材の材料のd線を基準としたアッベ数である。アッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)における屈折率をNd、NF、NCとするとき、νd=(Nd-1)/(NF-NC)で表される。
【0043】
上記dと、焦点距離(mm)、Fナンバーおよび半画角(°)は全て各実施例の光学系L0が無限遠物体に焦点を合わせたときの値である。BFはバックフォーカス(mm)を表す。バックフォーカスは、光学系L0の最終面(最も像側のレンズ面)から近軸像面までの光軸上の距離を空気換算長により表記したものである。レンズ全長は、光学系L0の最前面(最も物体側のレンズ面)から最終面までの光軸上の距離にバックフォーカスを加えた長さである。
【0044】
面番号に付された「*」は、その面が非球面形状を有する面であることを意味する。非球面形状は、xを光軸方向での面頂点からの変位量、hを光軸に直交する方向での光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、A4,A6,A8,A10およびA12を各次数の非球面係数とするとき、以下の式で表される。
【0045】
x=(h2/R)/[1+{1-(1+k)(h/R)2}1/2
+A4×h4+A6×h6+A8×h8+A10×h10+A12×h12
で表している。各非球面係数における「e±XX」は「×10±XX」を意味する。
[数値例1]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 744.050 8.18 1.59349 67.0
2 -1562.989 122.82
3 -267.474 8.00 1.53172 48.8
4 -388.775 -8.00 1.53172 48.8
5 -267.474 -102.11
6 -99.128 -2.01 1.57099 50.8
7 -40.561 -7.20 1.49700 81.5
8 307.751 -2.03
9 310.884 -3.28 1.71736 29.5
10 115.046 -3.00 1.61800 63.3
11 -141.074 3.00 1.61800 63.3
12 115.046 3.28 1.71736 29.5
13 310.884 2.03
14 307.751 7.20 1.49700 81.5
15 -40.561 2.01 1.57099 50.8
16 -99.128 69.20
17 66.219 3.17 1.77250 49.6
18 273.150 28.62
19 -80.169 1.99 1.61293 37.0
20 38.795 0.65
21 43.490 4.67 1.51742 52.4
22 -54.675 9.29
23 -721.497 2.00 1.49700 81.5
24 18.951 3.94 1.83481 42.7
25 23.823 123.44
像面 ∞
焦点距離 1199.87
Fナンバー 10.58
半画角 1.03
像高 21.64
レンズ全長 275.87
BF 123.44
[数値例2]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 1158.063 9.46 1.59349 67.0
2 -534.116 158.42
3 -205.124 8.00 1.56883 56.4
4 -521.889 -8.00 1.56883 56.4
5 -205.124 -157.43
6 -231.786 -2.00 1.58913 61.1
7 -71.698 -7.82 1.43875 94.9
8 159.314 -2.00
9* -218.206 2.00
10 159.314 7.82 1.43875 94.9
11 -71.698 2.00 1.58913 61.1
12 -231.786 106.10
13 130.804 3.36 1.84666 23.8
14 -402.813 16.72
15 36.110 2.92 1.78800 47.4
16 53.660 1.36
17 127.086 2.00 1.89286 20.4
18 40.503 34.50
19 161.926 2.00 1.77250 49.6
20 27.958 0.48
21 28.025 3.46 1.89286 20.4
22 34.877 35.68
23 -28.228 2.36 1.48749 70.2
24 -27.619 79.08
像面 ∞
非球面データ
第9面
K = 0.00000e+000 A 4=-1.63419e-008 A 6=-2.22352e-012 A 8= 4.72444e-015 A10=-5.24970e-018
焦点距離 1199.87
Fナンバー 10.50
半画角 1.03
像高 21.64
レンズ全長 300.46
BF 79.08
[数値例3]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 1661.829 9.68 1.59349 67.0
2 -632.177 119.71
3 -359.061 8.00 1.48749 70.2
4 -506.742 -8.00 1.48749 70.2
5 -359.061 -100.93
6 18089.270 -2.50 1.69680 55.5
7 -155.119 -2.50
8 -151.810 -2.00 1.85478 24.8
9 -88.163 -6.97 1.64769 33.8
10 -487.003 -2.01
11 -431.966 2.01
12 -487.003 6.97 1.64769 33.8
13 -88.163 2.00 1.85478 24.8
14 -151.810 2.50
15 -155.119 2.50 1.69680 55.5
16 18089.270 78.25
17 258.031 7.06 1.53172 48.8
18 -106.340 0.50
19 264.165 5.63 1.48749 70.2
20 -120.167 0.76
21 -107.260 1.50 1.88300 40.8
22 -477.622 42.47
23 153.934 2.00 1.88300 40.8
24 49.691 0.84
25 49.708 2.32 1.89286 20.4
26 70.070 160.57
像面 ∞
焦点距離 799.26
Fナンバー 5.11
半画角 1.55
像高 21.64
レンズ全長 330.36
BF 160.57
[数値例4]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 656.300 8.76 1.59349 67.0
2 -404.026 82.54
3 -223.183 4.99 1.64000 60.1
4 -364.494 -4.99 1.64000 60.1
5 -223.183 -61.46
6 -1876.978 -2.50 1.72916 54.7
7 -172.836 -3.49
8 -110.579 -2.00 1.81554 44.4
9 -52.040 -6.82 1.73400 51.5
10 -182.032 -2.01
11 -348.931 2.01
12 -182.032 6.82 1.73400 51.5
13 -52.040 2.00 1.81554 44.4
14 -110.579 3.49
15 -172.836 2.50 1.72916 54.7
16 -1876.978 46.37
17 3772.504 4.27 1.59551 39.2
18 -90.440 0.91
19 138.928 4.76 1.48749 70.2
20 -91.345 1.49 1.88300 40.8
21 -434.655 28.25
22 98.030 1.97 1.74100 52.6
23 44.759 27.36
24 43.597 2.35 1.84666 23.8
25 50.649 59.29
像面 ∞
焦点距離 399.12
Fナンバー 3.57
半画角 3.10
像高 21.64
レンズ全長 206.85
BF 59.29
[数値例5]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 2532.342 9.23 1.59349 67.0
2 -660.884 197.34
3 -264.454 8.00 1.48749 70.2
4 -515.954 -8.00 1.48749 70.2
5 -264.454 -180.76
6 -123.912 -1.50 1.75500 52.3
7 -52.414 -5.25 1.53775 74.7
8 199.646 -3.01
9 505.646 -3.99 1.64000 60.1
10 -230.333 -0.83
11 -147.941 0.83
12 -230.333 3.99 1.64000 60.1
13 505.646 3.01
14 199.646 5.25 1.53775 74.7
15 -52.414 1.50 1.75500 52.3
16 -123.912 127.74
17 136.997 2.93 1.80400 46.5
18 -370.993 1.98
19 25.077 5.60 1.57099 50.8
20 -4527.654 5.49
21 -207.871 1.97 1.83400 37.2
22 23.690 52.01
23 383.168 2.00 1.72916 54.7
24 34.110 6.08
25 37.379 2.99 1.84666 23.8
26 51.979 96.81
像面 ∞
焦点距離 1999.72
Fナンバー 15.00
半画角 0.62
像高 21.64
レンズ全長 331.40
BF 96.81
[数値例6]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 1019.893 7.53 1.59349 67.0
2 -1634.192 133.19
3 -266.692 7.99 1.53172 48.8
4 -406.304 -7.99 1.53172 48.8
5 -266.692 -119.08
6 -166.396 -3.36 1.49700 81.5
7 1568.440 -2.00
8 390.633 -2.96 1.71736 29.5
9 193.063 -0.34
10 221.403 -1.99 1.61800 63.3
11 -672.461 -0.50
12 -180.207 0.50
13 -672.461 1.99 1.61800 63.3
14 221.403 0.34
15 193.063 2.96 1.71736 29.5
16 390.633 2.00
17 1568.440 3.36 1.49700 81.5
18 -166.396 86.34
19 68.618 3.68 1.77250 49.6
20 -386.871 1.30
21 -67.288 3.02 1.61293 37.0
22 52.292 18.16
23 -246.311 4.93 1.51742 52.4
24 -41.607 9.29
25 344.375 1.97 1.49700 81.5
26 21.902 2.94 1.83481 42.7
27 27.881 124.47
像面 ∞
焦点距離 1199.56
Fナンバー 10.58
半画角 1.03
像高 21.64
レンズ全長 277.75
BF 124.47
[数値例7]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 685.590 15.00 1.51633 64.1
2 -799.385 198.74
3 -258.037 15.00 1.51633 64.1
4 -704.972 -15.00 1.51633 64.1
5 -258.037 -172.60
6 -290.303 -7.01 1.59522 67.7
7 226.643 -0.48
8 -203.474 -8.84 1.49700 81.5
9 167.299 -3.41 1.77250 49.6
10 2705.808 -7.91
11* -1316.722 -2.00 1.65160 58.5
12 -42.928 -9.00 1.51633 64.1
13 -282.078 9.00 1.51633 64.1
14 -42.928 2.00 1.65160 58.5
15* -1316.722 7.91
16 2705.808 3.41 1.77250 49.6
17 167.299 8.84 1.49700 81.5
18 -203.474 0.48
19 226.643 7.01 1.59522 67.7
20 -290.303 147.36
21 158.051 4.50 1.95375 32.3
22 -233.577 9.51
23 -110.677 2.50 1.74951 35.3
24 73.671 6.73 1.53775 74.7
25 -98.478 6.60
26 -211.170 3.43 1.88300 40.8
27 -80.478 1.98 1.49700 81.5
28 45.879 32.10
29 187.144 3.41 1.81600 46.6
30 -184.870 10.00
31 -121.719 1.99 1.48749 70.2
32 64.133 80.25
像面 ∞
非球面データ
第11面
K = 0.00000e+000 A 4=-6.02757e-008 A 6=-1.43279e-011 A 8=-4.84117e-016 A10=-2.17281e-018
第15面
K = 0.00000e+000 A 4=-6.02757e-008 A 6=-1.43279e-011 A 8=-4.84117e-016 A10=-2.17281e-018
焦点距離 1199.64
Fナンバー 7.64
半画角 1.03
像高 21.64
レンズ全長 351.51
BF 80.25
各数値例における式(1)~(5)の値を、以下の表1にまとめて示す。
【0046】
【0047】
図29は、上記各実施例の光学系L0を撮像光学系として用いた実施例8の光学機器としての撮像装置(デジタルスチルカメラ)10の構成を示している。カメラ10は、実施例1~7のいずれかの光学系L0によって構成された撮像光学系11を有する。またカメラ10は、撮像光学系11によって形成された光学像を受光して光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(受光素子)12を有する。カメラ10は、クイックターンミラーを有する一眼レフカメラでもよい、クイックターンミラーを有さないミラーレスカメラでもよい。
【0048】
実施例1~7の光学系L0をカメラ10の撮像光学系11として用いることにより、小型軽量でありながらも良好な光学性能を有するカメラを実現することができる。なお、カメラ10がレンズ交換タイプである場合には、撮像光学系11を交換レンズ(光学機器)に用いてもよい。
【0049】
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
L0 光学系
M1 第1光学素子
M2 第2光学素子
B1 第1レンズ群