(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】タイヤの評価方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20231212BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20231212BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20231212BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20231212BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
G06F30/23
G06F30/10
G06F30/15
(21)【出願番号】P 2019227494
(22)【出願日】2019-12-17
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥 祐樹
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-169734(JP,A)
【文献】特開2003-175710(JP,A)
【文献】特開2011-226991(JP,A)
【文献】特開2005-306174(JP,A)
【文献】特開2005-265677(JP,A)
【文献】特開2009-280002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C1/00-19/12
G06F30/00-30/398
111/00-119/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの有限要素モデルにヤング率を含む材料物性値を設定し、所定の探索範囲の周波数について固有値解析を行い固有周波数及び固有モードを求めるタイヤの評価方法において、
前記探索範囲における周波数の変化に応じて前記ヤング率を変化させること
とし、
前記探索範囲を複数の小区間に分割し、
タイヤを構成するゴム部材の小区間内の周波数での貯蔵弾性率に基づき、その小区間内の周波数についての固有値解析に使用するヤング率を決定することとし、
前記ゴム部材の中から、タイヤ断面上での面積の大きなものから順に複数のゴム部材を選択し、
選択したゴム部材のうち前記探索範囲での貯蔵弾性率の変化率が最大のゴム部材を、代表ゴム部材として選択し、
前記探索範囲の下限の周波数における前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率を最小貯蔵弾性率とし、
前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率と周波数との関係に基づき、前記の下限の周波数を出発点として前記探索範囲の低周波数側から、前記最小貯蔵弾性率の所定割合の値だけ前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率が変化したときの対応する周波数毎に前記小区間に分割する、タイヤの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤの評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの有限要素モデルを作成して固有値解析を行い、その結果をタイヤの設計変更等に利用することが行われていた。例えば特許文献1には、タイヤの有限要素モデルを使用した固有値解析の結果から、タイヤ断面二次モードの振動時にビードフィラー部分の歪エネルギーが大きいことを見い出し、タイヤに対策を行ったことが記載されている。
【0003】
ところで、固有値解析では材料を粘弾性体として扱うことができない。そのためタイヤの固有値解析においては、材料の弾性を表す物性値として、貯蔵弾性率ではなくヤング率が設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、タイヤの材料であるゴムは実際には粘弾性体でありその弾性は貯蔵弾性率によって表されると言うことができる。貯蔵弾性率は周波数によって変化する。そのため、周波数に依存しない一定値であるヤング率を使用したタイヤの固有値解析は、正確性に欠けると言うことができた。
【0006】
また実際に、従来の固有値解析で求まる固有周波数は実測される固有周波数と一致しないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は固有値解析の精度を上げることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のタイヤの評価方法は、タイヤの有限要素モデルにヤング率を含む材料物性値を設定し、所定の探索範囲の周波数について固有値解析を行い固有周波数及び固有モードを求めるタイヤの評価方法において、前記探索範囲における周波数の変化に応じて前記ヤング率を変化させることとし、前記探索範囲を複数の小区間に分割し、タイヤを構成するゴム部材の小区間内の周波数での貯蔵弾性率に基づき、その小区間内の周波数についての固有値解析に使用するヤング率を決定することとし、前記ゴム部材の中から、タイヤ断面上での面積の大きなものから順に複数のゴム部材を選択し、選択したゴム部材のうち前記探索範囲での貯蔵弾性率の変化率が最大のゴム部材を、代表ゴム部材として選択し、前記探索範囲の下限の周波数における前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率を最小貯蔵弾性率とし、前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率と周波数との関係に基づき、前記の下限の周波数を出発点として前記探索範囲の低周波数側から、前記最小貯蔵弾性率の所定割合の値だけ前記代表ゴム部材の貯蔵弾性率が変化したときの対応する周波数毎に前記小区間に分割することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態では周波数の変化に応じてヤング率を変化させるので、固有値解析の精度を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】固有周波数探索範囲を複数の小区間に分割する方法のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
まず、本実施形態の固有値解析の対象となる空気入りタイヤ(以下「タイヤ」)10の構造について
図1に基づき説明する。タイヤ10の幅方向両側には金属製のビードコア11が設けられ、ビードコア11の外径側にはゴム部材であるビードフィラー12が設けられている。
【0013】
また、カーカスプライ13が、タイヤ幅方向内側から外側に折り返されてビードコア11及びビードフィラー12を包むと共に、空気入りタイヤ10の骨格を形成している。カーカスプライ13のタイヤ径方向外側には複数のベルト14が設けられ、ベルト14のタイヤ径方向外側にはゴム部材であるトレッドゴムが設けられている。トレッドゴムは、接地面を有するキャップゴム15と、キャップゴム15の内径側に設けられたベースゴム16と、キャップゴム15の幅方向端部に設けられたストリップゴム17とからなる。
【0014】
またカーカスプライ13のタイヤ幅方向両側においては、それぞれゴム部材であるリムストリップ18及びサイドウォールゴム19が設けられている。リムストリップ18は、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向外側の場所に設けられている。サイドウォールゴム19は、トレッドゴムとリムストリップ18との間の場所に設けられている。カーカスプライ13の内側にはゴム部材であるインナーライナー20が設けられている。
【0015】
なお、カーカスプライ13、ベルト14は、複数のコードがゴムで被覆されたシート状部材である。カーカスプライ13及びベルト14におけるゴムの部分はゴム部材であると言える。また必要に応じて、以上の各ゴム部材以外のゴム部材もタイヤ10に使用される。
【0016】
本実施形態では、このようなタイヤ10の有限要素モデル(以下「タイヤFEモデル」)について有限要素法による固有値解析が行われる。固有値解析は汎用のコンピュータに搭載されたプロセッサにプログラムを実行させることにより行うことができる。以下では固有値解析の方法について
図2のフローチャートに基づき説明する。
【0017】
まずステップS1においてタイヤFEモデルが作成される。タイヤFEモデルの作成手順は、一例としては、まずタイヤ10の断面構造を再現した2次元のタイヤ断面モデルが作成される。タイヤ断面モデルは、タイヤ断面が有限個の要素に分割された有限要素モデルである。タイヤ断面モデルの各要素には、要素番号、節点番号、節点座標及び材料物性値(例えば密度、ヤング率、ポアソン比等)等が設定される。
【0018】
次に、リムの断面構造を再現した2次元のリム断面モデルが準備され、タイヤ断面モデルがリム断面モデルに装着される。次に、タイヤ断面モデル及びリム断面モデルが、タイヤ回転軸を中心としてタイヤ周方向に複写展開される。この複写展開により、2次元のタイヤ断面モデルの各節点がタイヤ周方向に小角度刻みで複写展開され、3次元のリムモデルに装着された3次元のタイヤFEモデルが完成する。
【0019】
図3に示すように、完成したタイヤFEモデル30では、タイヤ10の各部材に相当するビードコア部31、ビードフィラー部32、カーカスプライ部33、ベルト部34、キャップゴム部35、ベースゴム部36、ストリップゴム部37、リムストリップ部38、サイドウォールゴム部39及びインナーライナー部40が再現されている。
【0020】
次のステップS2では、タイヤFEモデルに対し境界条件が設定される。境界条件としては、タイヤFEモデルに付与される内圧、リムモデルに付与される荷重、タイヤFEモデルのリムモデルへの拘束等である。
【0021】
次のステップS3では、周波数の所定範囲が、固有周波数探索範囲として設定される。固有値解析は、このとき設定される固有周波数探索範囲の周波数について行われることとなる。つまり、周波数をf、固有周波数探索範囲の下限の周波数をfmin、固有周波数探索範囲の上限の周波数をfmaxとすると、
【0022】
【数1】
の周波数fについて固有値解析が行われることとなる。
【0023】
次のステップS4では、固有周波数探索範囲が複数の小区間に分割される。その方法について
図4に基づき説明する。
【0024】
まずステップS4-1では、タイヤ10を構成する全てのゴム部材についての、貯蔵弾性率の周波数依存性のデータ、言い換えれば貯蔵弾性率と周波数との関係を示すデータが取得される。取得されるデータは、少なくとも固有周波数探索範囲つまりf
min~f
maxの範囲のデータを含む。そのようなデータは実験等によって取得される。そのようなデータをグラフ化したものの例を
図5に示す。
図5ではf
minが100Hz、f
maxが500Hzである。また
図5に記載のaは100Hzのときの貯蔵弾性率の値である。
図5のように示すことのできるデータが各ゴム部材について取得される。
【0025】
次のステップS4-2では、タイヤ10を構成するゴム部材の中から、タイヤ幅方向断面上での面積(断面積)の大きなものから順に、複数のゴム部材が選択される。このとき選択されるゴム部材の数はあらかじめ設定されている。
【0026】
図1を見ると、断面積の大きなゴム部材は、大きいものから順にキャップゴム15、ベースゴム16、サイドウォールゴム19、ビードフィラー12、リムストリップ18となっている。そこで、選択されるゴム部材の数が3と設定されている場合、キャップゴム15、ベースゴム16及びサイドウォールゴム19が選択される。
【0027】
次のステップS4-3では、ステップS4-2で選択された複数のゴム部材の中から、固有周波数探索範囲での貯蔵弾性率の変化率が最大のゴム部材が、「代表ゴム部材」として選択される。周波数fminでの貯蔵弾性率をE’(fmin)、周波数fmaxでの貯蔵弾性率をE’(fmax)とすると、固有周波数探索範囲での貯蔵弾性率の変化率Rは、
【0028】
【数2】
である。固有周波数探索範囲での貯蔵弾性率の変化率は、ステップS4-1で取得されたデータに基づき計算される。
【0029】
例えばステップS4-2で上記のようにキャップゴム15、ベースゴム16及びサイドウォールゴム19の3つが選択された場合、これら3つのゴム部材の中で貯蔵弾性率の変化率Rが最大のゴム部材が、代表ゴム部材として選択される。
【0030】
次のステップS4-4では、固有周波数探索範囲を複数の小区間に分割するときに使用される、貯蔵弾性率の間隔(貯蔵弾性率間隔)が決定される。具体的には、ステップS4-3で選択された代表ゴム部材の周波数fminでの貯蔵弾性率E’(fmin)が「最小貯蔵弾性率」とされる。そして、最小貯蔵弾性率の所定割合の値が貯蔵弾性率間隔として決定される。ここでの「所定割合」はあらかじめ設定されており、例えば5~15%のいずれかの割合である。
【0031】
図5が代表ゴム部材についてのグラフだと仮定して説明すると、代表ゴム部材の周波数f
minが100Hz、周波数f
maxが500Hz、周波数f
minでの貯蔵弾性率E’(f
min)すなわち最小貯蔵弾性率がa(aは実際には数値)である。従って、例えば貯蔵弾性率間隔が最小貯蔵弾性率の10%の値として設定されている場合、貯蔵弾性率間隔は0.1×aとなる。
【0032】
次のステップS4-5では、代表ゴム部材の貯蔵弾性率と周波数との関係を利用して、固有周波数探索範囲が複数の小区間に分割される。具体的には、周波数fminを出発点として固有周波数探索範囲の低周波数側から、貯蔵弾性率が貯蔵弾性率間隔だけ変化したときの対応する周波数毎に、小区間に分割される。言い換えれば、最小貯蔵弾性率を出発点として、貯蔵弾性率間隔だけ貯蔵弾性率が変化する毎に、代表ゴム部材がその貯蔵弾性率となる周波数が特定され、その周波数において固有周波数探索範囲が分割される。
【0033】
つまり、代表ゴム部材の貯蔵弾性率の周波数依存性に基づき、貯蔵弾性率が
(最小貯蔵弾性率)+i×(貯蔵弾性率間隔) (i=1、2、・・・)
のときの周波数fiがそれぞれ特定される。そしてfminからf1までが第1小区間、f1からf2までが第2小区間、として固有周波数探索範囲が複数の小区間に分割される。ただし、周波数fiが特定されるのは、周波数fiが周波数fmaxを超えたところまでである。
【0034】
図5が代表ゴム部材についてのグラフだと仮定し、貯蔵弾性率間隔が最小貯蔵弾性率の10%だとして説明すると、貯蔵弾性率が最小貯蔵弾性率のときの周波数は100Hzで、貯蔵弾性率が
(最小貯蔵弾性率)+1×(貯蔵弾性率間隔)=a+1×0.1×a=1.1×a
のときの周波数f
1が250Hzで、貯蔵弾性率が
(最小貯蔵弾性率)+2×(貯蔵弾性率間隔)=a+2×0.1×a=1.2×a
のときの周波数f
2が500Hzである。そこで、100Hz~250Hzが第1小区間、250Hz~500Hzが第2小区間として設定される。
【0035】
本実施形態の固有値解析はこうして設定された小区間毎に行われる。
【0036】
次のステップS5では、ステップ4で設定された複数の小区間のうちの1つが、これから固有値解析を行う解析対象小区間として選択される。通常、解析対象小区間として、まだ固有値解析が行われていない小区間のうち最も周波数の小さい小区間が選択される。
【0037】
次のステップS6では、ステップS5で選択された解析対象小区間でのヤング率が決定される。ヤング率はゴム部材毎に決定される。ヤング率には、ステップS5で選択された解析対象小区間内の周波数での各ゴム部材の貯蔵弾性率のデータが使用される。なお、ここで使用されるデータは、ステップS4-1で取得されたデータである。
【0038】
具体的には、解析対象小区間での各ゴム部材の貯蔵弾性率の最大値と最小値との平均値が、解析対象小区間でのそのゴム部材のヤング率とされる。例えば、解析対象小区間でのキャップゴム15の貯蔵弾性率の最大値と最小値との平均値が、解析対象小区間でのキャップゴム15のヤング率とされ、解析対象小区間でのベースゴム16の貯蔵弾性率の最大値と最小値との平均値が、解析対象小区間でのベースゴム16のヤング率とされる。
【0039】
図5を例に説明すると、解析対象小区間が100Hz~250Hzの第1小区間だとすると、第1小区間での貯蔵弾性率の最大値は1.1×a、最小値はaなので、最大値と最小値との平均値である1.05×aが第1小区間でのヤング率とされる。
【0040】
次のステップS7では、それまでタイヤFEモデルに設定されていた各ゴム部材のヤング率が、ステップS6で決定された各ゴム部材のヤング率に変更される。
【0041】
次のステップS8では、ステップS5で選択された解析対象小区間の周波数について、ステップS6で決定されたヤング率を用いて、有限要素法による固有値解析が行われる。
【0042】
次のステップS9では、固有値解析の結果として、固有周波数、固有ベクトル、固有モード等が取得される。なお固有周波数のない小区間もあり得る。必要に応じて、固有周波数毎に各節点及び各要素の物理量(応力、歪み、速度、加速度、変位量等)も取得される。
【0043】
次のステップS10では、全ての小区間について(つまり固有周波数探索範囲の全体について)固有値解析が終了したか確認される。全ての小区間についての固有値解析が終了していない場合(S10のNoの場合)は、ステップS5に戻り次の小区間が選択され、ステップS6以降が行われる。そして全ての小区間について固有値解析が終了した場合(S10のYesの場合)は固有値解析が終了する。
【0044】
以上の固有値解析で求まった固有周波数等は、例えば車両との共振防止のためのタイヤの設計変更に利用される。
【0045】
以上の実施形態の効果について説明する。従来の固有値解析では、ヤング率として周波数に依存しない一定値が設定されていたため、タイヤを構成するゴム部材の粘弾性体としての特徴が再現されていなかった。
【0046】
しかし本実施形態では、タイヤFEモデルに設定されるヤング率が、周波数の変化に応じて変化することとなる。そのため、タイヤを構成するゴム部材の粘弾性体としての特徴がタイヤFEモデルにおいて再現されることとなり、固有値解析の精度が上がることとなる。
【0047】
特に、タイヤFEモデルに設定される各ゴム部材のヤング率として、周波数に応じた各ゴム部材の貯蔵弾性率が採用されることにより、タイヤを構成する各ゴム部材の粘弾性体としての特徴がタイヤFEモデルにおいて再現されることとなる。
【0048】
ここで、本実施形態では、固有周波数探索範囲が複数の小区間に分割され、各ゴム部材の小区間内の周波数での貯蔵弾性率に基づき、その小区間内の周波数についての固有値解析に使用するヤング率が決定される。それにより、タイヤを構成する各ゴム部材の粘弾性体としての特徴がタイヤFEモデルに再現される。
【0049】
またここで、周波数の変化に伴うゴム部材の弾性の変化を固有値解析に効果的に反映させるためには、貯蔵弾性率の変化率が大きい周波数領域では小区間の長さを短くする必要があり、逆に貯蔵弾性率の変化率が小さい周波数領域では小区間の長さを長くしても問題がない。そこで本実施形態では、ゴム部材の貯蔵弾性率と周波数との関係に基づき、固有周波数探索範囲の下限の周波数におけるゴム部材の貯蔵弾性率を最小貯蔵弾性率とし、固有周波数探索範囲の低周波数側から、最小貯蔵弾性率の所定割合(例えば10%)の値だけ貯蔵弾性率が変化したときの周波数毎に小区間に分割する。それにより、貯蔵弾性率の変化率が大きい周波数領域では小区間の長さを短くすることができ、逆に貯蔵弾性率の変化率が小さい周波数領域では小区間の長さを長くすることができる。
【0050】
またここで、タイヤ断面上での面積の大きなゴム部材や、固有周波数探索範囲での貯蔵弾性率の変化率の大きいゴム部材が、タイヤ全体の弾性の周波数依存性に大きく影響する。そこで本実施形態では、断面積の大きなものから順に複数のゴム部材を選択し、選択したゴム部材のうち固有周波数探索範囲での貯蔵弾性率の変化率が最大のものを代表ゴム部材として選択し、代表ゴム部材の貯蔵弾性率と周波数との関係に基づき小区間を設定する。それにより適切な小区間を設定することができる。
【0051】
次に、本実施形態の変更例について説明する。
【0052】
(変更例1)
タイヤFEモデルがあらかじめ作成されており、そのタイヤFEモデルを用いて固有値解析がなされても良い。その場合、ステップS1においてタイヤFEモデルが作成される代わりに、既に作成済のタイヤFEモデルが取得される。
【0053】
(変更例2)
ステップS4-2において断面積の大きなゴム部材が選択されるが、その際に、実際のタイヤ10ではなく、タイヤFEモデル30上での断面積の大きなゴム部材が選択されても良い。
【0054】
図3を見ると、タイヤFEモデル30上での断面積の大きなゴム部材は、大きいものから順にキャップゴム部35、ベースゴム部36、サイドウォールゴム部39、ビードフィラー部32、リムストリップ部38となっている。そこで、選択されるゴム部材の数が3と設定されている場合、キャップゴム15、ベースゴム16及びサイドウォールゴム19が選択される。
【0055】
(変更例3)
ステップS4-2において断面積の大きなゴム部材が選択されるが、その際に選択されるゴム部材の数は、あらかじめ設定されているのではなく、別の方法で決定されても良い。
【0056】
例えば、断面積の大きなゴム部材から順に複数のゴム部材が選択されていく。そして、選択されたゴム部材の合計断面積が、タイヤ10全体の断面積に対して所定割合(例えば50%)以上となった時点でゴム部材の選択が終了する。つまり、断面積が大きなものから順に、合計断面積がタイヤ10全体の断面積に対して所定割合(例えば50%)以上になるまで、ゴム部材が選択されていく。ここでの所定割合はあらかじめ設定されており、例えば上記のように50%と設定されている。
【0057】
図1のタイヤ10において断面積の大きなゴム部材は、大きいものから順にキャップゴム部35、ベースゴム部36、サイドウォールゴム部39である。そして、タイヤ10全体の断面積に対する各部材の断面積の割合は、キャップゴム15が29%、ベースゴム16が11%、サイドウォールゴム19が10%である。上記の所定割合が50%と設定されている場合、キャップゴム部35、ベースゴム部36及びサイドウォールゴム部39が選択された時点でそれらのゴム部材の合計断面積がタイヤ10全体の断面積に対して50%となるため、その時点でゴム部材の選択が終了する。
【0058】
(変更例4)
ステップS6でのヤング率の決定においては、ステップS5で選択された解析対象小区間内の周波数での各ゴム部材の貯蔵弾性率が使用されれば良く、その具体的方法は上記実施形態の方法に限定されない。
【0059】
例えば、各ゴム部材の貯蔵弾性率の解析対象小区間での平均値又は中央値が、その解析対象小区間での各ゴム部材のヤング率とされても良い。
【符号の説明】
【0060】
10…タイヤ、11…ビードコア、12…ビードフィラー、13…カーカスプライ、14…ベルト、15…キャップゴム、16…ベースゴム、17…ストリップゴム、18…リムストリップ、19…サイドウォールゴム、20…インナーライナー、30…タイヤFEモデル、31…ビードコア部、32…ビードフィラー部、33…カーカスプライ部、34…ベルト部、35…キャップゴム部、36…ベースゴム部、37…ストリップゴム部、38…リムストリップ部、39…サイドウォールゴム部、40…インナーライナー部