IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 本田技研工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-固体電池 図1
  • 特許-固体電池 図2
  • 特許-固体電池 図3
  • 特許-固体電池 図4
  • 特許-固体電池 図5
  • 特許-固体電池 図6
  • 特許-固体電池 図7
  • 特許-固体電池 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20231212BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231212BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0562
H01M4/134
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020007394
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114437
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】釜谷 則昭
(72)【発明者】
【氏名】前山 裕登
(72)【発明者】
【氏名】清水 航
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151376(WO,A1)
【文献】特開昭63-281366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/00-10/0587
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極電極層と、負極電極層と、前記正極電極層と前記負極電極層との間に配置される固体電解質層と、を備え、
前記負極電極層は、前記固体電解質層と接する第1のアルミニウム層と、アルミニウム-リチウム合金層と、第2のアルミニウム層を有し、
前記アルミニウム-リチウム合金層は、前記第1のアルミニウム層と前記第2のアルミニウム層との間に介在して配置される、固体電池。
【請求項2】
前記負極電極層におけるリチウムとアルミニウムとの組成比LiAl1-X中のXが、0.1≦X≦0.5である、請求項1に記載の固体電池。
【請求項3】
前記負極電極層は前記固体電解質層側の面において、CuKα線を用いたX線回折測定におけるAlの反射強度I110に対するLiAlの反射強度I220の比I220/I110が、0.1≦I220/I110≦10である、請求項1または2に記載の固体電池。
【請求項4】
前記負極電極層の膜厚は10~400μmである、請求項1から3のいずれかに記載の固体電池。
【請求項5】
前記固体電解質層は硫化物系固体電解質材料からなる、請求項1からのいずれかに固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極電極層と、負極電極層と、固体電解質層と、を備える固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム-リチウム合金を含んだ負極は高容量であると考えられているが、一般的な有機溶媒を用いたリチウムイオン電池に用いた場合、充放電を繰り返すことでLiAlが溶媒中にイオン化し溶出する、または微粉化するため、リチウムイオン電池の耐久性は低くなると考えられている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、リチウムイオン電池の負極としてアルミニウム-リチウム合金を用いても、アルミニウム-リチウム合金本来の特性を生かすことは難しい。
【0003】
一方で、有機溶媒等を用いない固体電池の負極の材料として、アルミニウム-リチウム合金が、期待されている。例えば、硫化物系固体電解質材料と粉末状のアルミニウム-リチウム合金とをプレス成型することによって固体電池の負極電極層を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-154267号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】L. Y. Beaulieu et al., “Colossal Reversible Volume Changes in Lithium Alloys”, Electrochemical and Solid-State Letters, 4(9), A137-A140 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、粉末状のアルミニウム-リチウム合金を用いた場合、充放電を繰り返すと放電容量が低下する傾向がある。
【0007】
本発明は、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、正極電極層と、負極電極層と、前記正極電極層と前記負極電極層との間に配置される固体電解質層と、を備え、前記負極電極層は、前記固体電解質層と接する第1のアルミニウム層と、アルミニウム-リチウム合金層と、を備える固体電池に関する。
【0009】
(1)の発明によれば、第1アルミニウム層31は、固体電解質層40と接しているため、固体電池1を放電した場合に、アルミニウム-リチウム合金層33中のリチウムが固体電解質層40側に移動しても、固体電解質層40に到達する前にアルミニウム層31中のアルミニウムと合金化する。そのため、放電によって、固体電解質層40側からリチウムが流出しにくく、充放電を繰り返しても固体電池1の放電容量が低下しにくい。
【0010】
(2) (1)の固体電池において、前記負極電極層におけるリチウムとアルミニウムとの組成比LiAl1-X(0≦X≦1)が、0.1≦X≦0.5となる。
【0011】
(2)の発明によれば、アルミニウムの総量を担保してエネルギー密度を大きくしつつ、固体電池の内部抵抗が低減される。
【0012】
(3) (1)または(2)の固体電池において、前記負極電極層は、前記固体電解質層側の面において、CuKα線を用いたX線回折測定におけるAlの反射強度I110に対するLiAlの反射強度I220の比I220/I110が、0.1≦I220/I110≦10となる。
【0013】
(3)の発明によれば、負極電極層の固体電解質層側においてアルミニウム層が十分に合金化されており、放電時に負極リチウムがアルミニウムに吸収されることなく正極側へ放出されやすくなるため、固体電池の内部抵抗が低減される。
【0014】
(4) (1)から(3)の固体電池において、前記負極電極層の膜厚は10~400μmである。
【0015】
(4)の発明によれば、負極電極層30の膜厚が適切な範囲となることにより、充放電によって負極電極層30からアルミニウム及びリチウムが減少することをより抑えられる。これにより、充放電を繰り返しても放電容量がより低下しにくい固体電池1を提供することができる。
【0016】
(5) (1)から(4)の固体電池において、前記負極電極層はさらに、第2のアルミニウム層を有し、前記アルミニウム-リチウム合金層は、前記第1のアルミニウム層と前記第2のアルミニウム層との間に介在して配置される。
【0017】
(5)の発明によれば、アルミニウム層を2層に分けて配置することで、負極電極層全体に占めるアルミニウムの総量を維持しつつ、固体電池の内部抵抗が低減される。固体電解質層側の第1のアルミニウム層を薄く形成でき、放電時に負極リチウムが放出されやすくなるためである。
【0018】
(6) (1)から(6)の固体電池において、前記固体電解質層は硫化物系固体電解質材料からなる。
【0019】
(6)の発明によれば、有機溶媒を用いたリチウムイオン電池の負極としてアルミニウム-リチウム合金を用いた場合と異なり、硫化物系固体電池においては、アルミニウム-リチウム合金が固体電解質にイオン化し、溶出すること等がなく高い耐久性を維持することができる。これにより、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくい硫化物系の固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る固体電池の断面を模式的に表す図である。
図2】充放電直後の比較例1のX線回折スペクトル図を示した図である。
図3】充放電直後の実施例1のX線回折スペクトル図を示した図である。
図4】充放電直後の実施例2のX線回折スペクトル図を示した図である。
図5】実施例1,2および比較例1のDCR抵抗の組成比毎の変化を示した図である。
図6】実施例1,2および比較例1の充放電効率の組成比毎の変化を示した図である。
図7】実施例1,2および比較例1の放電容量の組成比毎の変化を示した図である。
図8】本発明の第2実施形態に係る固体電池の断面を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る固体電池の断面を示す説明図である。図1に示すように固体電池1は、電池本体10と、負極集電体50と、正極集電体60とを備える。なお、実施形態において、固体電池とは電池を全固体化したものである。
【0022】
負極集電体50と、正極集電体60とは、電池本体10を両側から挟持する導電性を有する板状部材である。負極集電体50は、負極電極層30の集電を行う機能を有し、正極集電体60は、正極電極層20の集電を行う機能を有する。
【0023】
負極集電体50に用いられる電極集電体材料としては、導電性を有する材料であれば特に限定されず、銅、ニッケル、ステンレス、バナジウム、マンガン、鉄、チタン、コバルト、亜鉛等を挙げることができ、なかでも銅、ニッケルは導電性に優れ集電性に優れていることから好ましい。負極集電体50の形状及び厚みとしては、負極電極層30の集電を行うことが可能な程度であれば特に限定されない。
【0024】
正極集電体60に用いられる電極集電体材料としては、バナジウム、アルミニウム、ステンレス、金、白金、マンガン、鉄、チタン等を挙げることができ、なかでもアルミニウムであることが好ましい。正極集電体60の形状及び厚みとしては、正極電極層20の集電を行うことが可能な程度であれば特に限定されない。
【0025】
電池本体10は、正極として機能する正極電極層20と、負極として機能する負極電極層30と、正極電極層20と負極電極層30の間に位置する導電性の固体電解質層40とを備える。
【0026】
正極電極層20は、正極活物質と、硫化物系固体電解質とを含有する材料をプレス成型することによって形成されている。正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiVO、LiCrO等の層状正極活物質、LiMn、Li(Ni0.25Mn0.75、LiCoMnO、LiNiMn等のスピネル型正極活物質、LiCoPO、LiMnPO、LiFePO等のオリビン型正極活物質等を挙げることができる。
【0027】
正極電極層20に用いられる硫化物系固体電解質材料は、通常は、伝導するイオンとなる金属元素(M)と、硫黄(S)とを含有する。上記Mとしては、例えばLi、Na、K、Mg、Ca等を挙げることができ、中でもLiが好ましい。特に、硫化物系固体電解質材料は、Li、A(Aは、P、Si、Ge、Al、Bからなる群から選択される少なくとも一種である)、Sを含有することが好ましい。さらに、上記AはP(リン)であることが好ましい。さらに、硫化物系固体電解質材料は、Cl、Br、I等のハロゲンを含有していても良い。ハロゲンを含有することにより、イオン伝導性が向上するからである。また、硫化物系固体電解質材料は酸素(O)を含有していても良い。
【0028】
Liイオン伝導性を有する硫化物系固体電解質材料としては、例えば、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-Z(ただし、m、nは正の数。Zは、Ge、Zn、Gaのいずれか。)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LiMO(ただし、x、yは正の数。Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれか。)等を挙げることができる。なお、上記「LiS-P」の記載は、LiS及びPを含む原料組成物を用いてなる硫化物系固体電解質材料を意味し、他の記載についても同様である。
【0029】
また、硫化物系固体電解質材料が、LiS及びPを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiS及びPの合計に対するLiSの割合は、例えば70mol%~80mol%の範囲内であることが好ましく、72mol%~78mol%の範囲内であることがより好ましく、74mol%~76mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物系固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物系固体電解質材料とすることができるからである。ここで、オルトとは、一般的に、同じ酸化物を水和して得られるオキソ酸の中で、最も水和度の高いものをいう。本態様においては、硫化物で最もLiSが付加している結晶組成をオルト組成という。LiS-P系ではLiPSがオルト組成に該当する。LiS-P系の硫化物系固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiS及びPの割合は、モル基準で、LiS:P=75:25である。なお、上記原料組成物におけるPの代わりに、AlまたはBを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS-Al系ではLiAlSがオルト組成に該当し、LiS-B系ではLiBSがオルト組成に該当する。
【0030】
また、硫化物系固体電解質材料が、LiS及びSiSを含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiS及びSiSの合計に対するLiSの割合は、例えば60mol%~72mol%の範囲内であることが好ましく、62mol%~70mol%の範囲内であることがより好ましく、64mol%~68mol%の範囲内であることがさらに好ましい。オルト組成またはその近傍の組成を有する硫化物系固体電解質材料とすることができ、化学的安定性の高い硫化物系固体電解質材料とすることができるからである。LiS-SiS系ではLiSiSがオルト組成に該当する。LiS-SiS系の硫化物系固体電解質材料の場合、オルト組成を得るLiS及びSiSの割合は、モル基準で、LiS:SiS=66.6:33.3である。なお、上記原料組成物におけるSiSの代わりに、GeSを用いる場合も、好ましい範囲は同様である。LiS-GeS系ではLiGeSがオルト組成に該当する。
【0031】
また、硫化物系固体電解質材料が、LiX(X=Cl、Br、I)を含有する原料組成物を用いてなるものである場合、LiXの割合は、例えば1mol%~60mol%の範囲内であることが好ましく、5mol%~50mol%の範囲内であることがより好ましく、10mol%~40mol%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0032】
また、硫化物系固体電解質材料は、硫化物ガラスであっても良く、結晶化硫化物ガラスであっても良く、固相法により得られる結晶質材料であっても良い。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物系固体電解質材料がLiイオン伝導体である場合、常温におけるLiイオン伝導度は、例えば1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。
【0033】
また、正極電極層20は、上述した硫化物系固体電解質、及び正極活物質の他に、導電化材、結着材、固体電解質を含有していてもよい。
【0034】
負極電極層30は、固体電解質層40と接する第1アルミニウム層31と、負極集電体50と接する第2アルミニウム層32と、第1アルミニウム層31と第2アルミニウム層32との間に配置されるアルミニウム-リチウム合金層33とを備える部材である。アルミニウム-リチウム合金層33には、合金化されていないリチウム層が含まれていてもよい。
【0035】
第1アルミニウム層31および第2アルミニウム層32は、アルミニウムを主成分とする層である。アルミニウム-リチウム合金層33は、固体電池1を充電した場合、固体電池1を放電した場合、アルミニウムとリチウムとをプレス成型した場合および後述する接合工程によって固体電池1を製造した場合等に形成される、板状、箔状または薄膜状の層である。なお、本明細書において、アルミニウム-リチウム合金層33は、アルミニウム-リチウム合金を主成分とする層に限定されず、アルミニウム-リチウム合金を形成するための起点となる部分をも含む。
【0036】
本実施形態においては、負極電極層30は、第1アルミニウム層31、第2アルミニウム層32、アルミニウム-リチウム合金層33のみからなる。負極電極層30は、例えば、板状(箔状、薄膜状)のアルミニウムと、リチウムとをプレス成型して形成される。これにより、第1アルミニウム層31、第2アルミニウム層32、アルミニウム-リチウム合金層33を含む負極電極層30が形成される。なお、負極電極層30は、板状(箔状、薄膜状)のアルミニウムに対して、リチウムをスパッタリング法等により蒸着することによって形成されてもよい。
【0037】
第1アルミニウム層31は、固体電解質層40と接して配置される。ここで、固体電池1を放電した場合に、アルミニウム-リチウム合金層33中のリチウムが固体電解質層40側に移動するが、リチウムの一部は固体電解質層40に到達する前に第1アルミニウム層31中のアルミニウムと合金化することによって負極電極層30中に留まる。そのため、第1アルミニウム層31の膜厚が厚ければ、放電時に第1アルミニウム層31の固体電解質層40側からリチウムが放出されにくい。
【0038】
第2アルミニウム層32は、負極集電体50と接して配置される。アルミニウム層を2層に分けて配置することで、負極電極層全体に占めるアルミニウムの総量を維持しつつ、固体電池1の内部抵抗が低減される。固体電解質層40側の第1のアルミニウム層31を薄く形成でき、放電時に負極リチウムが放出されやすくなるためである。
【0039】
負極電極層30におけるリチウムと、アルミニウムとのモル比率、質量比率は特に限定されないが、本実施形態においては、負極電極層30におけるリチウムとアルミニウムとの組成比LiAl1-X(0≦X≦1)が、0.1≦X≦0.5となる。これにより、アルミニウムの総量を担保してエネルギー密度を大きくしつつ、固体電池の内部抵抗が低減される。
【0040】
負極電極層30の膜厚は特に限定されないが、好ましくは10~400μmであり、より好ましくは20~200μmである。また、充放電前の段階で、第1アルミニウム層31および第2アルミニウム層32の膜厚の合計は、例えば5~200μmであり、好ましくは10~100μmである。また、充放電前の段階で、第1アルミニウム層31の膜厚は、例えば5~100μmであり、好ましくは25~50μmである。また、充放電前の段階で、アルミニウム-リチウム合金層33の膜厚は、例えば5~200μmであり、好ましくは10~100μmである。
【0041】
負極電極層30の膜厚が適切な範囲となることにより、充放電によって負極電極層30からアルミニウム及びリチウムが減少することを抑えられる。また、第1アルミニウム層31の膜厚を適切な範囲とすることにより、放電時に負極電極層30からリチウムが減少することを抑えられる。
【0042】
固体電解質層40は、硫化物系固体電解質材料によって形成された板状部材である。硫化物系固体電解質材料としては、特に限定されないが、正極電極層20に用いられる硫化物系固体電解質材料と同じ材料を用いることができる。
【0043】
また、本実施形態の固体電池1の製造方法は、例えば上下方向を積層方向として、第2アルミニウム層32の上方にリチウム層を積層し、前記リチウム層の上方に第1アルミニウム層31を積層し、第1アルミニウム層31の上方に固体電解質層40を積層し、固体電解質層40の上方に正極電極層20を積層して得られる積層体を接合することにより固体電池1を得る接合工程を備える。
【0044】
このような接合工程としては、例えば、負極集電体50と、第2アルミニウム層32と、リチウム層と、アルミニウム層31(負極電極層30)と、固体電解質層40と、正極電極層20と、正極集電体60とをこの順で重ね合わせ、プレス成型すること等が挙げられる。リチウム層の上下方に第1アルミニウム層31および第2アルミニウム層32を配置した状態で積層体をプレスすることにより、リチウム層と、第1アルミニウム層31および第2アルミニウム層32が反応し、アルミニウム-リチウム合金層33が形成される。リチウム層が2つのアルミニウム層に挟まれた状態でプレスされることにより、アルミニウム-リチウム合金化が良好に進行する。これにより、正極電極層20と、第1アルミニウム層31、アルミニウム-リチウム合金層33および第2アルミニウム層32を備える負極電極層と、固体電解質層40と、を備える固体電池1が製造される。なお、リチウム層が完全に合金化されずに、アルミニウム-リチウム合金層33の中にリチウム層が残存していてもよい。
【実施例
【0045】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
LiNbOで表面コートを施した3元系正極活物質(LiCo1/3Ni1/3Mn1/3)、固体電解質、導電助剤を各々質量比率75、22、3wt%でボールミル混合し、正極合材を作製した。この正極合材15mgと、固体電解質100mgとを秤量し、これらを1軸プレス機にて10ton/cmの成形圧力にてプレス成型することで、正極電極層20と固体電解質層40との積層体を得た。固体電解質40の正極電極層20と反対側に、以下に示す比較例1および実施例1,2に係る負極電極層を配置し、固体電池を作製した。初期充放電試験およびDCR抵抗試験後に、固体電解質層40と負極電極層とを剥がし、固体電解質層40側からX線回折測定を行った。
【0047】
<比較例1>
厚みが100μmのアルミニウム箔と、リチウム箔とを重ね合わせて0.5ton/cmでプレス成型することで、比較例1の負極電極層とした。比較例1の負極電極層は、固体電解質層側から、アルミニウム層、アルミニウム-リチウム合金層、リチウム層となっている。
【0048】
<実施例1>
厚みが50μmの第1のアルミニウム箔と、リチウム箔と、厚みが50μmの第2のアルミニウム箔と、をこの順に重ね合わせて0.5ton/cmでプレス成型することで、実施例1の負極電極層とした。実施例1の負極電極層は、固体電解質層側から、アルミニウム層、アルミニウム-リチウム合金層、アルミニウム層となっている。
【0049】
<実施例2>
厚みが25μmの第1のアルミニウム箔と、リチウム箔と、厚みが75μmの第2のアルミニウム箔と、をこの順に重ね合わせて0.5ton/cmでプレス成型することで、実施例2の負極電極層とした。実施例2の負極電極層は、固体電解質層側から、アルミニウム層、アルミニウム-リチウム合金層、アルミニウム層となっている。
【0050】
比較例1および実施例1,2の負極を、リチウム箔の厚みを変えて複数作製し、LiとAlの組成比を変更したものについて試験を行った。詳細な各例の詳細な構成については、以下の表1に示す。表1中、第1Al箔は第1アルミニウム箔を、第2Al箔は第2アルミニウム箔を表す。
【0051】
【表1】
【0052】
比較例1および実施例1,2の負極が組み込まれた固体電池を作製した。これらの固体電池について充放電を行い、充放電後の実施例1の負極に対して、正極側(固体電解質層側)からX線回折測定を行った。測定は、X線回折装置(Ultima-3 (株)リガク製)を用いて不活性雰囲気下、CuKα線使用の条件にて行った。その際、発散縦制限スリットを10mm、散乱スリットを開放とし、2θは20°から80°の範囲で測定を実施した。図2に比較例1、図3に実施例1、図4に実施例2の、X線回折測定結果をそれぞれ示す。なお、負極電極層のLiとAlの組成比LiAl1-Xについては、X=0.13および0.44のものを示す。
【0053】
図2から図4を見ると、Alについて最も大きな強度を示すピークである(1 1 0)面での回折ピーク(2θ=44.58±0.2°)およびLiAlについて最も大きな強度を示すピークである(2 2 0)面での回折ピーク(2θ=39.96±0.2°)が検出された。実施例1および2は比較例よりも、Alのピークに対してLiAlのピークが大きく検出されており、負極電極層の固体電解質側におけるアルミニウムの合金化が進んでいることがわかる。実施例2は実施例1と比較してLiAlのピークがさらに大きく、Alのピークよりも大きく検出されていた。すなわち、固体電解質側の第1アルミニウム層の厚みが薄いほど、Alに対するLiAlの比率が増加する。
【0054】
また、表1に示す各例について、Alについての(1 1 0)面での回折ピークの強度I110と、LiAlについての(2 2 0)面での回折ピークの強度I220と、の比I220/I110を測定した結果を表2に示す。I220/I110は、0.1≦I220/I110≦10となることが好ましい。より好ましくは、5.9≦I220/I110≦9.0である。負極電極層の固体電解質層側においてアルミニウム層が十分に合金化されており、放電時に負極リチウムがアルミニウムに吸収されることなく正極側へ放出されやすくなるため、固体電池の内部抵抗が低減される。
【0055】
【表2】
【0056】
図5および表3に、DCR抵抗試験の結果について示す。DCR抵抗は、25℃の環境下、0.1Cから5.0Cで10秒間放電の条件にて測定した。実施例1および2に係る固体電池では、比較例のものよりもDCR抵抗が小さい。特にLi比Xが小さくAlが高比率の場合において比較例からの顕著な抵抗の低下が見られ、実施例2についてX=0.24としたものでは、DCR抵抗が比較例よりも約72%低減し、大幅に改善した。
【0057】
【表3】
【0058】
図6,7および表4,5に、初期容量試験の結果について示す。初期容量試験は、25℃の環境下、0.1C(=0.186mA/cm)の条件において充放電を行った。図6に示すように、Li比Xが小さくAlが高比率の場合において、実施例1および2では比較例よりも充放電効率が改善していた。また図7に示すように、放電容量についても比較例と同等以上の容量を有し、特に実施例2ではLi比Xが小さくAlが高比率の場合において大きく改善していた。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
以上、本発明の第1実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0062】
図8は、本発明の第2実施形態に係る固体電池11の断面の構成を模式的に示す図である。固体電池11の負極電極層130は、固体電解質層40と接する第1アルミニウム層31と、負極集電体50と第1アルミニウム層31との間に配置されるアルミニウム-リチウム合金層34とを備える部材である。本実施形態のアルミニウム-リチウム合金層34は、第1実施形態において第2アルミニウム層32まで全てアルミニウム-リチウム合金化されたものであり、負極電極層130のLiとAlの組成比は第1実施形態と同一である。
【0063】
本実施形態のアルミニウム-リチウム合金層34は負極集電体50まで形成されており、第1実施形態に係るアルミニウム-リチウム合金層33と比較して、アルミニウム比が大きく形成される。これにより、第1アルミニウム層を薄く形成しつつ、負極電極層におけるアルミニウムの総量を大きくし、エネルギー密度を向上させることができる。
【0064】
本実施形態においても、負極電極層130は、第1実施形態の負極電極層30と同様の膜厚、LiとAlの組成比LiAl1-X(0≦X≦1)および固体電解質層40側の面において、CuKα線を用いたX線回折測定におけるAlの反射強度I110に対するLiAlの反射強度I220の比I220/I110を有することが好ましく、第1実施形態に係る固体電池1と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0065】
1,11 固体電池
10,100 電池本体
20 正極電極層
30,130 負極電極層
31 第1アルミニウム層
32 第2アルミニウム層
33 アルミニウム-リチウム合金層
34 アルミニウム-リチウム合金層
40 固体電解質層
50 負極集電体
60 正極集電体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8