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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】積層セラミック電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H01G4/30 201M
H01G4/30 201K
H01G4/30 201L
H01G4/30 512
H01G4/30 515
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020009696
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021118239
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2021-08-12
【審判番号】
【審判請求日】2023-03-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079577
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 全啓
(72)【発明者】
【氏名】西村 亮
【合議体】
【審判長】瀧内 健夫
【審判官】河本 充雄
【審判官】中野 浩昌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/081514(WO,A1)
【文献】特開2000-306765(JP,A)
【文献】特開2014-53551(JP,A)
【文献】特開平8-330106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の積層されたセラミック層と、前記セラミック層上に積層された複数の内部電極層とを有し、高さ方向に相対する第1の主面および第2の主面と、前記高さ方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面と、前記高さ方向および前記長さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面を有する積層体と、
前記積層体上に配置される第1の外部電極と、
前記積層体上に配置される第2の外部電極と、
を有する積層セラミック電子部品であって、
前記積層体の厚みが、10μm以上200μm以下であり、
前記積層体の少なくとも前記第1の主面上もしくは前記第2の主面上には、炭素材料からなる保護層を有しており、
前記保護層のC(炭素)の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%以上であり、前記保護層のC-C結合様式の比率としてsp3比が10%以上であり、
前記保護層の前記第1の主面または前記第2の主面に対する面積比率は、それぞれ20%以上であり、
前記保護層の膜厚は、0.1μm以上である、積層セラミック電子部品。
【請求項2】
前記保護層は、前記第1の主面上および前記第2の主面上に配置されている、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項3】
前記第1の外部電極は、前記第1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部に配置されており、
前記第2の外部電極は、前記第1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部に配置されており、
前記保護層は、前記第1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部に配置される前記第1の外部電極と前記1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部配置される前記第2の外部電極との間に位置する前記積層体上に配置される、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項4】
前記第1の外部電極は、前記第1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部に配置されており、
前記第2の外部電極は、前記第1の主面上の一部もしくは前記第2の主面上の一部に配置されており、
前記保護層は、前記第1の外部電極と前記積層体との界面に配置されつつ、前記第1の外部電極が配置されていない前記積層体の一部にも延びるように配置され、
前記保護層は、前記第2の外部電極と前記積層体との界面に配置されつつ、前記第2の外部電極が配置されていない前記積層体の一部にも延びるように配置される、請求項1に記載の積層セラミック電子部品。
【請求項5】
前記保護層が、ダイヤモンドライクカーボンの材料を含む、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【請求項6】
前記積層体の内部に、強度を高めるための別異の保護層が設けられていない、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層セラミック電子部品に関し、特に、複層構造の外部電極を備えた積層セラミック電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や携帯音楽プレイヤーなどの電子機器の小型化や薄型化が進んでいる。それに伴い、小型化、薄型化された電子機器内に搭載されるセラミック電子部品においてもまた小型化、薄型化が進んでいる。
【0003】
特に薄型化が進んでいるセラミック電子部品おいては、例えば、配線基板の中に内蔵されて使用されたり、配線基板の表面に実装される場合であっても非常に狭い隙間に実装されるようになったりしてきている。このように、セラミック電子部品の薄型化が進めば進むほどセラミック電子部品の機械的強度が低下し、その機械的強度の確保が強く求められる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、セラミック素体の第1の外層部や第2の外層部の内部において、Ni(ニッケル)などの金属からなる補強層を設け、セラミック電子部品の機械的強度を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-44149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のような構成においては、素体表面がセラミックのままであり、内在するマイクロクラックなどの欠陥が破壊起点となるため、強度が十分でない。
また、上記の補強層により必要な強度を得ようとした場合、補強層の厚みが大きくなり、体積容量密度が低下する。
すなわち、限られた積層体内のスペースにおいて、電子部品としての性能を向上しつつ、さらに機械的強度を高めることができる積層セラミック電子部品が求められているのが現状である。
【0007】
したがって、本発明では、素体表面に機械的強度が高い保護層を形成し、またセラミックの破壊起点となるマイクロクラック等の欠陥を封止するため、機械的強度が十分な積層セラミック電子部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る積層セラミック電子部品は、複数の積層されたセラミック層と、セラミック層上に積層された複数の内部電極層とを有し、高さ方向に相対する第1の主面および第2の主面と、高さ方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面および第2の端面と、高さ方向および長さ方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面を有する積層体と、積層体上に配置される第1の外部電極と、積層体上に配置される第2の外部電極と、を有する積層セラミック電子部品であって、積層体の厚みが、10μm以上200μm以下であり、積層体の少なくとも第1の主面上もしくは第2の主面上には、炭素材料からなる保護層を有しており、保護層の炭素の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%以上であり、保護層のC-C結合様式の比率としてsp3比が10%以上であり、保護層の第1の主面または第2の主面に対する面積比率は、それぞれ20%以上であり、保護層の膜厚は、0.1μm以上であることを特徴とする。
【0009】
ここで、「sp3比」とは、強度が高いとされる炭素原子の結合を指す。すなわち、本発明では、保護層として強度の高い炭素原子の結合を含む素材を適用していることを意味する。
【0010】
このようなものであれば、外からの直接的な衝撃に十分耐え得る積層セラミック電子部品の提供が可能になる。
【0011】
また本発明によれば、強度を向上させ得る保護層が積層体の外側にあるので、表面クラックの発生を有効に抑止できる。更に本発明によれば、補強層を積層体内部に設けなくとも強度を向上させることができるので、積層セラミック電子部品としての基本的な電気的性能を維持しつつ、体積が小さい、すなわちコンパクトな積層セラミック電子部品を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、素体表面に機械的強度が高い保護層を形成し、またセラミックの破壊起点となるマイクロクラック等の欠陥を封止するため、機械的強度が十分な積層セラミック電子部品を提供することができる。
【0013】
この発明の上記の目的、その他の目的、特徴及び利点は、図面を参照して行う以下の発明を実施するための形態の説明から一層明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す外観斜視図である。
図2】この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す正面図である。
図3図1に係る線III-IIIにおける断面図(中央正断面図)である。
図4図3に係る要部拡大図である。
図5図1に係る線V-Vにおける断面図である。
図6】この発明の実施の形態の第1の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す中央正断面図である。
図7】この発明の実施の形態の第2の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す中央正断面図である。
図8】この発明の実施の形態の第3の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す中央正断面図である。
図9】この発明の実施の形態の第4の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す中央正断面図である。
図10】この発明の実施の形態の第5の変形例に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す中央正断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の一例として積層セラミック電子部品について本実施の形態にて説明する。
【0016】
1.積層セラミックコンデンサ
この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサ10について説明する。図1は、この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す外観斜視図である。図2は、この発明の実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサを示す正面図であり、図3は、図1に係る線III-IIIにおける断面図(中央正断面図)である。図4は、図3の要部における拡大断面図である。図5は、図1に係る線V-Vにおける拡大断面図である。
【0017】
積層セラミックコンデンサ10は、積層体12と、外部電極24とを有する。以下、積層体12、外部電極24の順に、各構成を説明する。
【0018】
(積層体)
積層体12は、積層された複数のセラミック層14と複数の内部電極層16とを有する。さらに、積層体12は、高さ方向xに相対する第1の主面12a及び第2の主面12bと、高さ方向xに直交する幅方向yに相対する第1の側面12c及び第2の側面12dと、高さ方向x及び幅方向yに直交する長さ方向zに相対する第1の端面12e及び第2の端面12fとを含む。この積層体12には、角部及び稜線部に丸みがつけられている。なお、角部とは、積層体12の隣接する3面が交わる部分のことであり、稜線部とは、積層体12の隣接する2面が交わる部分のことである。また、第1の主面12a及び第2の主面12b、第1の側面12c及び第2の側面12d、ならびに第1の端面12e及び第2の端面12fの一部または全部に凹凸などが形成されていてもよい。
【0019】
積層体12は、図3~及び図5に示すように、第1の主面12a及び第2の主面12b同士を結ぶ高さ方向xにおいて、複数の内部電極層16が対向する有効層部15aと、最も第1の主面12a側に位置する内部電極層16と第1の主面12aとの間に位置する複数のセラミック層14から形成される第1の外層部15b1と、最も第2の主面12b側に位置する内部電極層16と第2の主面12bとの間に位置する複数のセラミック層14から形成される第2の外層部15b2と、を有する。
【0020】
第1の外層部15b1は、積層体12の第1の主面12a側に位置し、第1の主面12aと最も第1の主面12aに近い内部電極層16との間に位置する複数のセラミック層14との間に位置する複数のセラミック層14との集合体である。
【0021】
第2の外層部15b2は、積層体12の第2の主面12b側に位置し、第2の主面12bと最も第2の主面12bに近い内部電極層16との間に位置する複数のセラミック層14との間に位置する複数のセラミック層14との集合体である。
【0022】
そして第1の外層部15b1及び第2の外層部15b2に挟まれた領域が有効層部15aである。第1の外層部15b1と第2の外層部15b2とに挟まれた領域が有効層部15aである。積層されるセラミック層14の枚数は、特に限定されないが、第1の外層部15b1及び第2の外層部15b2を含み、15枚以上70枚以下であることが好ましい。また、セラミック層14の厚みは、0.4μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0023】
セラミック材料14の材料としては、例えばBaTiO3、CaTiO3、SrTiO3、CaZnO3などの主成分からなる誘電体セラミックを用いることができる。また、これらの主成分にMn化合物、Fe化合物、Cr化合物、Co化合物、Ni化合物などの副成分を添加したものを用いてもよい。
【0024】
積層体12の寸法は、特に限定されないが、長さ方向zの寸法が0.2mm以上10mm以下、幅方向yの寸法が0.1mm以上10mm以下、高さ方向xの寸法が30μm以上200μm以下であることが好ましい。特に本実施の形態では、積層体12の高さ方向xの寸法が小さい積層体12に対してより効果が発揮される。これは、積層体12の高さ方向xの寸法が小さい積層体12ほど、積層体12の機械的強度が低下するためである。
【0025】
ここで、本実施の形態に係る積層セラミック電子部品たる積層セラミックコンデンサ10では、当該積層体12内部において、所要の基本性能を備えつつ強度を高めるための別異の保護層が設けられていない構成を適用している。これにより、積層セラミックコンデンサ10としての所望の基本性能を備えつつ、強度の高い積層セラミックコンデンサ10を提供することができる。
【0026】
(内部電極層)
内部電極層16は、図3図5に示されるように、第1の内部電極層16aと第2の内部電極層16bとを有している。
【0027】
第1の内部電極層16aは、第2の内部電極層16bと対向する第1の対向電極部18aと、第1の内部電極層16aの一端側に位置し、第1の対向電極部18aから積層体12の第1の端面12eまでの第1の引出電極部20aを有する。第1の引出電極部20aは、その端部が第1の端面12eに引き出され、露出している。
【0028】
第1の内部電極層16aの第1の対向電極部18aの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0029】
第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0030】
第1の内部電極層16aの第1の対向電極部18aの幅と、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aの幅は、同じ幅で形成されていてもよく、どちらか一方が、幅が狭く形成されていてもよい。
【0031】
第2の内部電極層16bは、第1の内部電極層16aと対向する第2の対向電極部18bと、第2の内部電極層16bの一端側に位置し、第2の対向電極部18bから積層体12の第2の端面12fまでの第2の引出電極部20bを有する。第2の引出電極部20bは、その端部が第2の端面12fに引き出され、露出している。
【0032】
第2の内部電極層16bの第2の対向電極部18bの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0033】
第2の内部電極層16bの第2の引出電極部20bの形状は、特に限定されないが平面視矩形状であることが好ましい。もっとも、平面視コーナー部を丸められていたり、コーナー部を平面視斜めに形成したりしてよい(テーパー状)。また、どちらかに向かうにつれて傾斜がついている平面視テーパー状であってもよい。
【0034】
第2の内部電極層16bの第2の対向電極層18bの幅と、第2の内部電極層16aの第2の引出電極部20bの幅は、同じ幅で形成されていてもよく、どちらか一方が、幅が狭く形成されていてもよい。
【0035】
積層体12は、図5に示されるように、第1の対向電極部18a及び第2の対向電極部18bの幅方向yの一端と第1の側面12cとの間及び第1の対向電極部18a及び第2の対向電極部18bの幅方向yの他端と第2の側面12dとの間に形成される積層体12の側部(以下、「Wギャップ」という。)22aを含む。
【0036】
さらに、積層体12は、図3図4に示されるように、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aとは反対側の端部と第2の端面12fとの間及び第2の内部電極層16bの第2の引出電極部20bとは反対側の端部と第1の端面12eとの間に形成される積層体12の端部(以下、「Lギャップ」という。)22bを含む。
【0037】
第1の内部電極層16a及び第2の内部電極層16bは、例えば、Ni、Cu、Ag、Pd、Auなどの金属や、Ag-Pd合金等の、それらの金属の少なくとも一種を含む合金などの適宜の導電材料により構成することができる。
【0038】
なお、積層体12に、圧電体セラミックを用いた場合、積層セラミック電子部品は、セラミック圧電素子10aとして機能する。圧電セラミック材料の具体例としては、たとえば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)系セラミック材料などが挙げられる。
【0039】
また、積層体12に、半導体セラミックを用いた場合、積層セラミック電子部品は、サーミスタ素子10bとして機能する。半導体セラミック材料の具体例としては、たとえば、スピネル系セラミック材料などが挙げられる。
【0040】
また、積層体12に、磁性体セラミックを用いた場合、積層セラミック電子部品は、インダクタ素子10cとして機能する。また、インダクタ素子として機能する場合は、内部電極層は、コイル状の導体となる。磁性体セラミック材料の具体例としては、たとえば、0材料などが挙げられる。
【0041】
すなわち、本実施の形態に係るセラミック電子部品1は、積層体12の材料及び構造を適宜変更することで、積層セラミックコンデンサ10のみならず、セラミック圧電素子10a、サーミスタ素子10b、又はインダクタ素子10cとして好適に機能し得る。
【0042】
内部電極層16、すなわち第1の内部電極層16a及び第2の内部電極層16bの厚みは、0.2μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
また、第1の内部電極層16a及び第2の内部電極層16bの枚数は、合わせて15枚以上200枚以下であることが好ましい。
【0043】
内部電極層16は、実装基板に実装する面に対して平行となるように設けられていてもよく、垂直となるように設けられていてもよいが、実装基板に実装する面に対して平行となるように設けられているのがより好ましい。
【0044】
(外部電極)
積層体12の第1の端面12e側及び第2の端面12f側には、図1図5に示されるように、外部電極24が配置される。
【0045】
外部電極24は、下地電極層26と、第1の端面12e及び第2の端面12fに形成されるめっき層28とを含む。
【0046】
外部電極24は、第1の外部電極24a及び第2の外部電極24bを有する。
第1の外部電極24aは、積層体12の第1の端面12eの表面、第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に配置される。この場合、第1の外部電極24aは、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aと電気的に接続される。なお、第1の外部電極24aは、第2の主面12b上には後述する保護層32を介して配置される。また、第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部には第1の外部電極24aを配置しなくてもよく、第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部に配置されていてもよい。
【0047】
第2の外部電極24bは、積層体12の第2の端面12fの表面、第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部にのみ配置される。この場合、第2の外部電極24bは、第2の内部電極層16bの第2の引出電極部20bと電気的に接続される。なお、第2の外部電極24bは、第2の主面12b上には後述する保護層32を介して配置される。また、第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部には第2の外部電極24bを配置しなくてもよく、第1の側面12cの一部および第2の側面12dの一部に配置されていてもよい。
【0048】
積層体12内においては、第1の内部電極層16aの第1の対向電極部18aと第2の内部電極層16bの第2の対向電極部18bとがセラミック層14を介して対向することにより、静電容量が形成されている。そのため、第1の内部電極層16aが接続された第1の外部電極24aと第2の内部電極層16bが接続された第2の外部電極24bとの間に、静電容量を得ることができ、コンデンサの特性が発現する。
【0049】
下地電極層26は、第1の下地電極層26a1、第2の下地電極層26a2、第3の下地電極層26b1及び第4の下地電極層26b2を有する。これら第1の下地電極層26a1、第2の下地電極層26a2、第3の下地電極層26b1及び第4の下地電極層26b2は、より性能を高めるべく、複数の薄膜電極からなる薄膜層により形成される。
【0050】
第1の下地電極層26a1は、積層体12の第1の端面12e側における第1の主面12aの一部分を覆うように形成される。第2の下地電極層26a2は、積層体12の第1の端面12e側における第2の主面12bの一部分を覆うように形成される。なお、第2の下地電極層26a2は、第2の主面12b上において後述する保護層32を介して配置される。
【0051】
また、第3の下地電極層26b1は、積層体12の第2の端面12f側における第1の主面12aの一部分を覆うように形成される。第4の下地電極層26b2は、積層体12の第2の端面12f側における第2の主面12bの一部分を覆うように形成される。なお、第4の下地電極層26b2は、第2の主面12b上において後述する保護層32を介して配置される。
【0052】
下地電極層26は、焼付け層、薄膜層等から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0053】
薄膜層により形成される下地電極層26は、スパッタリング法または蒸着法等の薄膜形成法により形成されていることが好ましい。特に、薄膜層により形成される下地電極層26は、スパッタリング法によって形成されたスパッタ電極であることが好ましい。以下、スパッタリング法で形成された電極について説明する。
【0054】
スパッタ電極で下地電極層26を形成する場合は、積層体12の第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に直接スパッタ電極を形成することが好ましい。
【0055】
スパッタ電極で形成される下地電極層26は、Ni、Cr、Cu等から選ばれる少なくとも一つを含む。
【0056】
スパッタ電極の第1の主面12aと第2の主面12bを結ぶ高さ方向xの厚みは、50nm以上400nm以下であることが好ましく、50nm以上130nm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
また、積層体12の第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部に直接スパッタ電極を形成して下地電極層26を配置する場合は、第1の端面12e上および第2の端面12f上には焼き付け層の下地電極層26を形成するか、下地電極層26を形成せずに後述するめっき層28である第1のめっき層28a、第2のめっき層28bを直接形成することが好ましい。
【0058】
第1の端面12e上および第2の端面12f上に焼付け層の下地電極層26を形成する場合、下地電極層26は、第1の端面12eおよび第2の端面12fだけでなく、第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部にも延びて配置されていてもよい。また、スパッタ電極は、下地電極層26上にオーバーラップするように配置されていてもよい。
【0059】
第1の端面12e上に焼付け層の下地電極層26を形成する場合には、その第1の端面12e及び第2の端面12fも結ぶ長さ方向zの厚みは、1μm以上5μm以下であることが好ましい。
【0060】
さらに、第1の端面12e上に焼付け層の下地電極層26を形成する場合には、ガラス成分の代わりにセラミック成分を添加するか、その両方を添加して焼付電極を形成することが好ましい。
【0061】
一方、下地電極層26を焼付け層とする場合、焼付け層は、金属成分と、ガラス成分もしくはセラミック成分のどちらか一方を含んでいるか、その両方を含んでいることが好ましい。ガラス成分は、B、Si、Ba、Mg、Al、Li等から選ばれる少なくとも1つを含む。金属成分としては、例えば、Cu、Ni、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等から選ばれる少なくとも1つを含む。セラミック成分は、セラミック層14と同種のセラミック材料を用いてもよいし、異なる種のセラミック材料を用いても良い。セラミック成分は、例えば、BaTiO3、CaTiO3、(Ba,Ca)TiO3、SrTiO3、CaZrO3等から選ばれる少なくとも1つを含む。焼付け層は、複数層であってもよい。
【0062】
なお、本実施の形態に係る積層セラミック電子部品を、積層セラミックコンデンサ10としているため、上記の通り下地電極層は、本実施の形態では金属成分及びセラミック成分を含むものとしたが、当該態様に限られない。つまり上述の通り、積層セラミック電子部品が圧電体セラミックや、半導体セラミックや磁性体セラミックである場合、下地電極層に含まれるセラミック成分の具体的な成分が異なることはいうまでもない。
【0063】
下地電極層26を焼付け層とした場合は、例えば、ガラス成分および金属成分を含む導電性ペーストを積層体に塗布して焼付けたものであり、内部電極層16およびセラミック層14と同時焼成したものでもよく、内部電極層16およびセラミック層14を焼成した後に焼付けてもよい。なお、焼付け層を内部電極層16およびセラミック層14と同時に焼成する場合には、ガラス成分の代わりにセラミック材料を添加するか、その両方を添加して焼付け層を形成することが好ましい。
【0064】
第1の端面12e上及び第2の端面12f上に位置する第1の下地電極層(焼付け層)及び第2の下地電極層(焼付け層)の第1の主面12a及び第2の主面12bを結ぶ高さ方向xの中央部の位置における第1の下地電極層(焼付け層)及び第2の下地電極層(焼付け層)の第1の端面12e及び第2の端面12fを結ぶ方向の厚み(端面中央厚み)は、例えば、15μm以上160μm以下程度であることが好ましい。
【0065】
また、第1の主面12aの一部及び第2の主面12bの一部にも下地電極層(焼付け層)を設ける場合には、第1の主面12a上及び第2の主面12b上に位置する第1の下地電極層及び第2の下地電極層である第1の端面12e及び第2の端面12fを結ぶ長さ方向zの中央部における第1の下地電極層(焼付け層)及び第2の下地電極層(焼付け層)の第1の主面12a及び第2の主面12bを結ぶ高さ方向xの厚み(e寸の中央厚み)は、例えば、5μm以上40μm以下程度であることが好ましい。
【0066】
(めっき層)
めっき層28は、第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを有している。第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bは、図4に示されるように、複数層によって形成されていてもよい。第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bは、例えば、Ni、Sn、Cu、Ag、Pd、Ag-Pd合金、Au等から選ばれる少なくとも1つを含む。
【0067】
めっき層28は、複数層によって形成されていてもよい。
めっき層28は、下地電極層26を覆うように配置されていることが好ましい。
【0068】
積層セラミックコンデンサ10が、実装基板の表面に実装される場合には、好ましくは、Niめっき、Snめっきの順に2層構造である。Niめっき層は、下地電極層26が、積層セラミックコンデンサ10を実装する際の半田によって侵食されることを防止することができ、Snめっき層は、積層セラミックコンデンサ10を実装する際の半田の濡れ性を向上させ、容易に実装することができる。なお、下地電極層26とNiめっき層との間、もしくは、下地電極層26を形成せずにめっき層28を直接積層体12上に形成する場合には、Niめっきと積層体12の間において、Cuめっき層を形成してもよい。これにより、めっき液等の水分浸入を抑制することができる。
【0069】
本実施の形態では、第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bの好ましい一例として、Cuめっきである下層めっき層30、Niめっきである中層めっき層32、Snめっきである上層めっき層34の3層構造とした例を図示(図64参照)している。下地電極層26を覆うようにCuめっき、Niめっきからなるめっき層28(Cuめっき層、Niめっき層)を設けることにより、積層セラミックコンデンサ10を実装する際に、実装に用いられる半田によって下地電極層26が侵食されることを防止することができる。また、Snめっき(Snめっき層)を設けることにより、また、Niめっき層の表面に、さらに、Snめっきからなるめっき層(Snめっき層)を設けることにより、積層セラミックコンデンサ10を実装する際に、実装に用いられる、半田の濡れ性を向上させ、容易に実装することができる。
【0070】
第1のめっき層28aは、本実施の形態では、Cuめっきである第1の下層めっき層30a、Niめっきである第1の中層めっき層32a及び、Snめっきである第1の上層めっき層34aを含む。第1のめっき層28aは、第1の下地電極層26a1及び第2の下地電極層26a2を覆うように配置される。
【0071】
第2のめっき層28bは、本実施の形態では、Cuめっきである第2の下層めっき層30b、Niめっきである第2の中層めっき層32b、Snめっきである第2の上層めっき層34bを含む。第2のめっき層28bは、第3の下地電極層26b1及び第4の下地電極層26b2を覆うように配置される。
【0072】
第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを構成するめっき層28である第1の下層めっき層30a、第1の中層めっき層32a、第1の上層めっき層34a、第2の下層めっき層30b、第2の中層めっき層32b、第2の上層めっき層34bの一層あたりの厚みは、2μm以上15μm以下であることが好ましい。より具体的には、、Cuめっき層である第1の下層めっき層30a、第2の下層めっき層30bの平均厚みは、5μm以上8μm以下であることが好ましく、Niめっき層である第1の中層めっき層32a、第2の中層めっき層32bの平均厚みは、2μm以上4μm以下であることが好ましく、Snめっき層である第1の上層めっき層34a、第2の上層めっき層34bの平均厚みは、2μm以上4μm以下であることが好ましい。
【0073】
また、本実施の形態では図示していないが、積層セラミックコンデンサ10を基板に埋め込む場合には、めっき層28は最外層がCuめっき層によって形成されることが好ましい。
【0074】
(保護層)
而して、本実施の形態に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ10は、積層体12の少なくとも第1の主面12a上もしくは第2の主面12b上には、炭素材料からなる保護層32を有していることを特徴とする。以下、保護層32の具体的な構成について説明する。
【0075】
保護層32は、図1図5に示されるように、本実施の形態では第2の主面12bの表面(図示では下方)に形成される。保護層32の材料は、炭素材料からなる。
【0076】
また勿論、保護層32は、図示していないが、積層体の第1の主面12aの表面のみに設けてもよい。
【0077】
これにより、素体たる積層体12表面に機械的強度が高い保護層32を形成し、またセラミックの破壊起点となるマイクロクラック等の欠陥を封止するため、積層セラミック電子部品の機械的強度を十分なものにすることができる。
【0078】
また、保護層32のC(炭素)の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%以上であり、保護層32のC-C結合様式の比率としてsp3比が10%以上である。これにより、強度の高いC-C結合が3次元的な架橋構造を形成し、保護層の機械的強度が向上するため、積層セラミック電子部品の強度向上効果を得ることができる。
【0079】
ここで、保護層32の炭素の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%よりも小さくなってしまった場合には、強度の高いC-C結合の密度が減少し、保護層32の機械的強度が低下するため、積層セラミックコンデンサの強度を向上する効果が低下する場合がある。
【0080】
さらに、保護層32のC-C結合様式の比率としてsp3比が10%よりも小さくなってしまった場合には、C-C結合様式において平面的な広がりを有するsp2の割合が増え、3次元的な架橋構造が失われて保護層32の機械的強度が低下するため、積層セラミック電子部品の強度を向上する効果が低下する場合がある。
【0081】
なお、保護層32の元素比率は以下の方法で測定することができる。
すなわち、保護層32の元素比率は、XPSにより評価することができる。
まず、ワイドスキャンスペクトルを用いて含有元素を検出し、次にナロースキャンスペクトルを用いて定量分析を行う。得られた元素比率から、測定範囲外である水素・ヘリウム、不純物である酸素、強度に寄与しない添加元素であるハロゲンを除いた元素比率を算出する。
【0082】
また、保護層32のC-C結合様式の比率にとしてsp3比は以下の方法で測定することができる。
すなわち、保護層のC-C結合様式の比率は、C-K端XANESにより評価することができる。
C-K端XANESにより評価する場合の測定方法は、全電子収量法を用いる。X線入射角度は試料水平方向から55degとする。そして、取得したスペクトルに対しπ*(C=C),π*(C=O等),π*(C-H等),π*(C-C等),π*(C=C)にピーク分離を行う。各ピークの面積値のπ*(π*+σ*)比の値及びその値と標準試料から求めた係数を用いてsp3/(sp2+sp3)比率を算出する。
【0083】
炭素材料からなる保護層32は、例えば、ダイヤモンドライクカーボンで形成されていることが好ましい。
【0084】
このDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層32は、カーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a-C:H)と呼ばれる層のことであり、硬質炭素膜も含まれる。またDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層32はアモルファス状の炭素層であり、SP3結合も有する。このDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層32を成膜する原料ガスとしては炭化水素系ガス、例えばメタンまたはアセチレンガスを用いる。またDLCはSiやハロゲン等の異種元素を添加することもでき、その場合原料ガスとしてはSiやハロゲンを含む原料ガスを用いる。DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層32の成膜方法はPVD(Physical Vapor Deposition, 物理蒸着)法またはCVD(Chemical Vapor Deposition, 化学蒸着)法の2種類に大別することができるが、本発明においては、成膜方法はいずれを用いてもよい。
【0085】
保護層32の第1の主面12aまたは第2の主面12bに対する面積比率は、それぞれ20%以上であることが好ましい。これにより、実装またはリフロー時に素体たる積層体12表面に生じる熱・機械応力を低減できるため、効果をより確実なものにすることができる。なお、本発明の保護層32は、第1の主面12aまたは第2の主面12bの全面(保護層の第1の主面12aまたは第2の主面12bに対する面積比率100%)に配置されていることがより好ましい。
【0086】
保護層32の膜厚は、0.1μm以上であることが好ましい。これにより、実装またはリフロー時に素体表面に生じる熱・機械応力を低減できるため、効果をより確実なものにすることができる。
【0087】
なお、保護層32の厚みは以下の方法で測定することができる。
保護層32の厚みの測定方法としては、積層セラミックコンデンサ10を研磨し露出させた断面で測定することができる。
【0088】
具体的には、まず、積層セラミックコンデンサ10のLT面を1/2Wの位置になるまで第1の側面12cまたは第2の側面12dとほぼ平行になるように研磨する。次に、研磨断面において、保護層32の第1の端面12eおよび第2の端面12fを結ぶ長さ方向Lの1/2Lの位置における保護層32の第1の主面12aおよび第2の主面12bを結ぶ高さ方向Tの寸法をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000)を用いて測定することができる。
【0089】
加えて、このような構成により、外面に不要な段差が生じないため、外寸を最小限に抑えつつ必要十分な強度を有する積層セラミック電子部品を提供することができる。
【0090】
本実施の形態に係る積層セラミックコンデンサ10の長さ方向zの寸法をL寸法とする。L寸法は、0.2mm以上10mm以下であることが好ましい。
本実施の形態に係る積層セラミックコンデンサ10積層セラミックコンデンサの高さ方向xの寸法をT寸法とする。T寸法は、35μm以上250μm以下であることが好ましい。
本実施の形態に係る積層セラミックコンデンサ10積層セラミックコンデンサの幅方向yの寸法をW寸法とする。W寸法は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。
【0091】
2.積層セラミック電子部品の製造方法
以下、本実施の形態に係る積層セラミック電子部品の一例である積層セラミックコンデンサの製造方法について説明する。
【0092】
(i)まず、セラミック層14を形成するための誘電体シートと、内部電極層16を形成するための導電性ペーストとを準備する。誘電体シートや内部電極層16形成用の導電性ペーストには、バインダおよび溶剤が含まれる。バインダおよび溶剤は公知のものを用いることができる。
【0093】
(ii)次に、誘電体シート上に、例えば、スクリーン印刷やグラビア印刷などにより所定のパターンで内部電極層16形成用の導電性ペーストを印刷し、内部電極パターンを形成する。具体的には、誘電体シート上に、導電性材料からなるペーストを上記の印刷法などの方法で塗布することにより、導電性ペースト層が形成される。導電性材料からなるペーストは、例えば、金属粉末に有機バインダおよび有機溶剤が加えられたものである。なお、誘電体シートに関しては、内部電極パターンが印刷されていない外層用すなわち第1の外層部15b1、第2の外層部15b2形成用の誘電体シートも作製する。
【0094】
(iii)(ii)で準備した誘電体シートを用いて積層シートが作製される。すなわち、内部電極パターンが形成されていない外層用の誘電体シートを所定枚数積層し、その上に第1の内部電極層16aに対応する内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートと第2の内部電極層16bに対応する内部電極パターンが形成されたセラミックグリーンシートとを交互に積層し、さらにその上に内部電極パターンが形成されていない外層用の誘電体シートを所定枚数積層することによって、積層シートを作製する。
【0095】
(iv)積層シートを静水圧プレスなどの手段により積層方向にプレスし積層ブロックを作製する。
【0096】
(v)積層ブロックを所定のサイズにカットし、積層チップを切り出す。このとき、バレル研磨などにより積層チップの角部および稜線部に丸みをつけてもよい。
【0097】
(vi)積層チップを焼成し積層体12を作製する。焼成温度は、誘電体すなわちセラミック層14や内部電極層16の材料にもよるが、900℃以上1400℃以下であることが好ましい。
【0098】
(vii)続いて保護層32を形成する。
保護層32の原料ガスとしては、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)で保護層32を成膜する場合、常温で気体又は液体の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類などを使用する。特に炭素数が6以上のベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、シクロヘキサン等が望ましい。これらの原料は、単独で用いても良いが、2種以上の混合ガスとして使用するようにしても良い。さらにこれらのガスをアルゴンやヘリウムの様な希ガスで希釈して用いる様にしても良い。また、ケイ素含有のDLC(ダイヤモンドライクカーボン)の保護層32を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。SiOx膜を成膜する場合は、Si含有単価水素ガスと酸素とをガス導入管に供給して使用する。他の金属酸化膜も同様であり、当該金属を含有する原料ガスと酸素を使用する。
【0099】
成膜方法は、イオン化蒸着法、アークイオンプレーティング法、高周波・高電圧パルス重畳型成膜法、プラズマブースター法、プラズマCVD法など、多数の成膜方法を使用できる。例えばプラズマCVD法では、真空中でメタンやアセチレンのような炭化水素ガスをカソードに印加してガスをプラズマ化させて炭化水素ガスを分解し、分解された炭素イオンを対象物に衝突させて行う。
【0100】
(下地電極層として薄膜層を形成する場合)
(viii)続けて、積層体12の第1の主面12a上の一部および第2の主面12b上の一部に、薄膜電極層からなる下地電極層26を形成する。薄膜層である下地電極層は、例えば、スパッタリング法等により形成することができる。換言すれば、薄膜層である下地電極層は、スパッタ電極により構成される。
【0101】
積層体12の第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部にスパッタ電極を形成して下地電極層26を配置する場合は、第1の端面12a上および第2の端面12b上には焼付け層の下地電極層26を形成するか、下地電極層26を形成せずに後述するめっき層28である第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを直接形成することが好ましい。
【0102】
第1の端面12a上および第2の端面12b上に焼付け層の下地電極層26を形成する場合、下地電極層26は、第1の端面12eおよび第2の端面12fだけでなく、第1の主面12aの一部および第2の主面12bの一部にも延びて配置されていてもよい。また、スパッタ電極は、下地電極層26上にオーバーラップするように配置されていてもよい。
【0103】
図1に示す積層セラミックコンデンサ10では、第1の端面12e上および第2の端面12f上には下地電極層26を形成せずに後述するめっき層28である第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを直接形成した態様である。
【0104】
薄膜層は、例えば、Mg、Al、Ti、W、Cr、Cu、Ni、Ag、Co、Mo及びVからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。この場合、下地電極層26の積層体12に対する固着力を高めることができる。薄膜層は、単層であってもよいし、複数の層の積層体であってもよい。より望ましくは、NiCrの層と、NiCuの層の2層構造で形成する態様を挙げることができる。
【0105】
(ix)その後、必要に応じて、薄膜層からなる下地電極層26上および積層体12の表面上にめっき層28である第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを形成する。本実施の形態では、Cuめっき層と、Niめっき層、Snめっき層の3層構造で形成される(図4を参照)。
【0106】
(下地電極層として焼付け層を形成する場合)
(viii)一方、下地電極層として焼付け層を形成する場合、積層体12の第1の端面12eおよび第2の端面12fに下地電極層26となる導電性ペーストを塗布し、下地電極層26を形成する。下地電極層26として焼付け層を形成する場合には、ガラス成分と金属成分とを含む導電性ペーストを例えばディッピングなどの方法により、塗布し、その後、焼付け処理を行い、下地電極層26を形成する。この時の焼付け処理の温度は、700℃以上900℃以下であることが好ましい。
【0107】
また、下地電極層26を焼付け層で形成する場合は、焼付け層はセラミック成分をさらに含むことが好ましい。セラミック成分は、例えば、積層体12と同種のセラミック材料であることが好ましい。なお、焼付け層にセラミック成分を含ませる場合には、焼成前の積層チップに対して、導電性ペーストを塗布し、積層チップと積層チップに塗布された導電性ペーストを同時に焼付けて、焼付け層が形成された積層体を形成することが好ましい。積層チップと積層チップに塗布された導電性ペーストを同時に焼付けて焼付け層が形成された積層体12を得た場合で合っても、保護層32の形成方法としては、(vii)の形成方法と同じ方法で形成することができる。
【0108】
(ix)その後、必要に応じて、焼付け層の表面にめっき層28である第1のめっき層28a及び第2のめっき層28bを形成する。
【0109】
以上のように説明した本実施の形態に係る積層セラミックコンデンサの製造方法によれば、性能が高い本発明に係る積層セラミックコンデンサを高い品質にて製造することができる。
【0110】
(変形例)
以下、本発明の各変形例(第1の変形例~第5の変形例)について説明する。また、これら各変形例について、上記実施形態の構成要素に相当するものについては同じ符号を付すとともに、その詳細な説明を省略する。
【0111】
(第1の変形例)
以下に本実施の形態の第1の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ110について説明する。
本第1の変形例に係る積層セラミックコンデンサ110は、図6に示されるように、本発明に係る保護層(32、34)を、第1の主面12a上および第2の主面12b上に配置したものである。
【0112】
すなわち、上記実施形態では、第2の主面12b上のみに保護層32を設ける態様であるが、本第1の変形例では更に、第1の主面12a上に、保護層34を更に設けている。換言すれば、DLCにより積層体12を上下から挟み込む構造である。
【0113】
これにより、チップすなわち積層セラミックコンデンサ両面の素体たる積層体12中央部および外部電極24端部の機械的強度を向上できる。そのため、チップ実装およびリフロー時に発生する熱・機械応力への耐性を向上する効果を得られる。
【0114】
また第2の主面12bに保護層32を形成し、第1の主面12aに保護層34を形成することで、実装基板に積層セラミック電子部品を実装する際の方向選別を不要にする効果を得ることができる。
【0115】
(第2の変形例)
続いて、第2の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ210について説明する。
本第2の変形例に係る積層セラミックコンデンサ210は、図7に示されるように、ギャップ部保護層36を有する。
【0116】
すなわち、本第2の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ210は、図7に示されるように、第1の外部電極24aは、第1の端面12eの表面に配置され、第1の端面12eから延伸して第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に配置されており、第2の外部電極24bは、第2の端面12fの表面に配置され、第2の端面12fから延伸して第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に配置されている。
【0117】
保護層32と同様に機能するギャップ部保護層36は、第2の主面12b上の一部に配置される第1の外部電極24aと第2の主面12b上の一部に配置される第2の外部電極24bとの間に位置する積層体12上に配置されている。なお、ギャップ部保護層36は、第1の主面12a上の一部に配置される第1の外部電極24aと第1の主面12a上の一部に配置される第2の外部電極24bとの間に位置する積層体12上に配置されてもよい。
また、第2の変形例に係る積層セラミック電子部品が有するギャップ部保護層36は、図7に示されるように、一方の主面である第2の主面12bのみにギャップ部保護層36が配置されているが、もう一方の主面である第1の主面12aにも配置されるように、両主面に配置されていてもよいことはいうまでもない。
【0118】
ギャップ部保護層36が上述したように積層体12上に配置されていることにより、素体すなわち積層体12中央部の機械的強度を向上できるため、チップ実装及びリフロー時に発生する熱・機械応力への耐性を向上する効果を付与しつつ、保護層形成されていない完成品である積層セラミックコンデンサに対しても適用できるため、工程コストを削減することができる。
【0119】
(第3の変形例)
続いて、第3の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ310について説明する。
本第3の変形例に係る積層セラミックコンデンサ310は、図8に示されるように、端部保護層38を有する。
【0120】
すなわち、本変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ310は、図8に示されるように、第1の外部電極24aは、第1の端面12eの表面に配置され、第1の端面12eから延伸して第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に配置されており、第2の外部電極24bは、第2の端面12fの表面に配置され、第2の端面12fから延伸して第1の主面12a上の一部及び第2の主面12b上の一部に配置されている。
【0121】
保護層32と同じ機能を果たす端部保護層38は、第2の主面12b上において、第1の外部電極24aと積層体12との界面に配置され、かつ第1の外部電極24aが配置されていない積層体12上の一部にも延びるように配置されており、さらに、第2の外部電極と積層体12との界面に配置され、かつ第2の外部電極24bが配置されていない積層体12の一部にも延びるように配置されている。そして、第2の主面12b上において、第1の端面12e側に配置される端部保護層38と第2の端面12f側に配置される端部保護層38は、離間して配置される。なお、端部保護層38は、第1の主面12a上において、第1の外部電極24aと積層体12との界面に配置され、かつ第1の外部電極24aが配置されていない積層体12上の一部にも延びるように配置されており、さらに、第2の外部電極24bと積層体12との界面に配置され、かつ第2の外部電極24bが配置されていない積層体12の一部にも延びるように配置されていてもよい。
また、端部保護層38は、図8に示されるように、一方の主面である第2の主面12bのみに配置されているが、もう一方の主面である第1の主面12aにも配置されるように、両主面に配置されていてもよいことはいうまでもない。
【0122】
これにより、外部電極24端部の機械的強度を向上できる。そのため、チップ実装及びリフロー時に発生する熱・機械応力への耐性を向上する効果を片面に付与しつつ、成膜面積削減のためコストを低減することができる。
【0123】
(第4の変形例)
続いて、第4の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ410について説明する。
本第4の変形例に係る積層セラミックコンデンサ410は、図9に示されるようにL字外部電極40を有する。L字外部電極40は、第1のL字外部電極40a及び第2のL字外部電極40bを有する。
【0124】
すなわち、本第4の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ410は、図9に示されるように、第1のL字外部電極40aが、第1の端面12eの表面に配置され、第1の端面12eから延伸して第2の主面12b上に保護層32を介して配置される。このとき、第1のL字外部電極40aは、その一部が第1の主面12aに回り込むように配置されてもよい。
また積層セラミックコンデンサ410は、図9に示されるように、第2のL字外部電極40bが、第2の端面12fの表面に配置され、第2の端面12fから延伸して第2の主面12b上に保護層32を介して配置されている。このとき、第2のL字外部電極40bは、その一部が第1の主面12aに回り込むように配置されてもよい。
従って、第2の主面12bには、第2の下地電極層26a2及び第4の下地電極層26b2のみが配置されている。
また、このとき、保護層32は、積層体12の第2の主面12b上に配置される。
【0125】
なお、第1のL字外部電極40aは、第1の端面12eの表面に配置され、第1の端面12eから延伸して第1の主面12a上に保護層を介して配置され、第2のL字外部電極40bは、第2の端面12fの表面に配置され、第2の端面12fから延伸して第1の主面12a上に保護層32を介して配置されてもよい。このとき第1のL字外部電極40aは、その一部が第2の主面12bに回り込むように配置され、第2のL字外部電極40bは、その一部が第2の主面12bに回り込むように配置されてもよい。この場合、第1の主面12aには、第1の下地電極層及び第3の下地電極層のみが配置される。また、このとき、保護層は、積層体12の第1の主面12a上に配置される。
【0126】
これにより、素体たる積層体12中央部およびL字外部電極40の端部の機械的強度を向上できる。そのため、チップ実装およびリフロー時に発生する熱・機械応力への耐性を向上する効果を付与しつつ、実装高さを低減することができる。
【0127】
(第5の変形例)
続いて、第5の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ510について説明する。
本第5の変形例に係る積層セラミックコンデンサ510は、図10に示されるように主面外部電極42と、ビア接続部44とを有する。
主面外部電極42は、第1の主面外部電極42a及び第2の主面外部電極42bを有する。
【0128】
本第5の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ510は、図10に示されるように、内部電極層16は、両端面に引き出されていない。
【0129】
第1の内部電極層16aは、第2の内部電極層16bと対向する第1の対向電極部18aと、第1の内部電極層16aの一端側に位置し、第1の対向電極部18aから積層体12の第1の端面12e側に延びる第1の引出電極部20aを有する。第1の引出電極部20aは、その端部が第1の端面12eに引き出されていない。
【0130】
第2の内部電極層16bは、第1の内部電極層16aと対向する第2の対向電極部18bと、第2の内部電極層16bの一端側に位置し、第2の対向電極部18bから積層体12の第2の端面12f側に延びる第2の引出電極部20bを有する。第2の引出電極部20bは、その端部が第2の端面12fに引き出されていない。
【0131】
そして本第5の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ510は、図10に示されるように、第1の主面外部電極42aが、第1の端面12e側における実装面となる第2の主面12b上に保護層32を介して配置される。このとき、第1の主面外部電極42aは、その一部が第1の端面12eに回り込むように配置されてもよい。この場合、図10に示すように、第1の主面外部電極42aと第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aとの接続はビア接続部44によって電気的に接続される。
また、本第5の変形例に係る積層セラミック電子部品である積層セラミックコンデンサ510は、図10に示されるように、第2の主面外部電極42bが、第2の端面12f側における実装面となる第2の主面12b上に保護層32を介して配置される。このとき、第2の主面外部電極42bは、その一部が第2の端面12fに回り込むように配置されてもよい。この場合、図10に示すように、第2の主面外部電極42bと第2の内部電極層16bの第2の引出電極部20bとの接続はビア接続部44によって電気的に接続される。
このとき、保護層32は、積層体12の第2の主面12b上に配置される。
【0132】
なお、実装面を第1の主面12aとした場合、第1の主面外部電極42aは、第1の端面12e側における第1の主面12a上に保護層を介して配置され、第2の主面外部電極42bは、第2の端面12f側における第1の主面12a上に保護層を介して配置されてもよい。このとき、第1の主面外部電極42aは、その一部が第1の端面12eに回り込むように配置され、第2の主面外部電極42bは、その一部が第2の端面12fに回り込むように配置されてもよい。また、このとき、保護層は、積層体12の第1の主面12a上に配置される。
【0133】
また、実装面を第1の主面12aと第2の主面12bの両主面としてもよい。この場合、主面外部電極42は、第1の端面12e側において、第1の主面12a上及び第2の主面12b上に配置され、さらに、第2の端面12f側において、第1の主面12a上及び第2の主面12b上に配置される。このとき、主面外部電極42は、その一部が第1の端面12eおよび第2の端面12fに回り込むように配置されてもよい。また、このとき、保護層32は、両主面に配置されていてもよいことはいうまでもない。この場合も、内部電極層16と主面外部電極42とはビア接続部44によって電気的に接続される。
【0134】
ビア接続部44は、図10に示されるように、内部電極層16と主面外部電極42との通電を図る。ビア接続部44は、積層体12に穿たれた積層体孔46と、保護層32に設けられこの積層体孔46に連通する保護層孔48と、これら積層体孔46及び保護層孔48内に内装され主面外部電極42に接続するビア接続体50とを有する。そして、第1の内部電極層16aの第1の引出電極部20aは、ビア接続体50を介して第1の主面外部電極42aと電気的に接続される。また、第2の内部電極層16bの第2の引出電極部20bは、ビア接続体50を介して第2の主面外部電極42bと電気的に接続される。
なお、ビア接続部44の平面視形状は円形のみならず、矩形や多角形、楕円形など、通電を好適に図れる形状であれば特に限定されない。また、第1の主面外部電極42a側のビア接続部44の長さと第2の主面外部電極42b側のビア接続部44の長さは、同じ長さで形成されていてもよく、長さ異なっていてもよい。
【0135】
これにより、素体たる積層体12中央部および主面外部電極42の端部の機械的強度を向上できる。そのため、チップ実装およびリフロー時に発生する熱・機械応力への耐性を向上する効果を付与しつつ、実装高さを低減し、さらにフィレットをなくすことで実装基板上において、狭隣接な実装をすることができる。
【0136】
以上のように、本発明の実施の形態は、上記した記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0137】
例えば、上記実施形態並びに各変形例では正面視左右対称の形状をなすもののみを図示したが、本発明に係る積層セラミック電子部品の外形は、実装する対象に応じて、また、求める性能に応じで種々の変更を行い得る。また本発明は、上記実施形態及び各変形例の構成の全部又は一部を適宜組み合わせたものも含まれる。
【0138】
すなわち、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上説明した実施の形態及び各変形例に対し、機序、形状、材質、数量、位置又は配置等に関して、様々の変更を加えることができるものであり、それらは、本発明に含まれるものである。
【0139】
3.実験例
以下に、本発明の実験例について詳述する。なお、本実験例は、本発明を何ら限定するものではない。
【0140】
上記の製造方法にしたがって、積層セラミック電子部品として積層セラミックコンデンサを作製し、抗折強度試験による積層セラミックコンデンサの強度の評価を行った。
【0141】
実験例において、試料として、試料番号1~試料番号15の試料を準備した。
試料番号4、試料番号5、試料番号7、試料番号8、試料番号9、試料番号10、試料番号12、試料番号13、試料番号15の各試料は、本発明に含まれる実施例である。
一方、試料番号1、試料番号2、試料番号3、試料番号6、試料番号11、試料番号14の各試料は、本発明に含まれない比較例である。
【0142】
実施例として作製した積層セラミックコンデンサの仕様(試料番号4、試料番号5、試料番号7、試料番号8、試料番号9、試料番号10、試料番号12、試料番号13、試料番号15)
上記実施の形態に係る製造方法を用いて、図1図5に示す構造で以下の仕様の積層セラミックコンデンサを作製した。
・積層セラミックコンデンサの寸法:L×W×T=0.6mm×0.3mm×0.05mm(積層体の厚み:30μm)(試料番号15を除く)と、L×W×T=0.6mm×0.3mm×0.11mm(積層体の厚み:80μm)(試料番号15)の2種類
・セラミック層の材料の主成分:BaTiO3
・保護層:DLC(ダイヤモンドライクカーボン)で形成。C-C結合様式の比率としてsp3比およびC(炭素)の元素比率は表1を参照。
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極の構造
下地電極層:Ni/Cr合金を主成分とする下地電極層をスパッタリング法により形成
めっき層の構造:積層体側からCuめっき層、Niめっき層、Snめっき層の3層で形成
【0143】
また、比較例として試料番号2および試料番号3は、特許文献1に記載されているような第1の外層部と第2の外層部(の内部)に補強層が配置された積層セラミックコンデンサ(試料番号2、3)と、本発明の保護層を設けていない積層セラミックコンデンサ(試料番号1、14)を準備した。各比較例の仕様を以下に説明する。なお、試料番号6は、炭素の元素比率が本発明の範囲外であり、試料番号11は、C-C結合様式の比率としてsp3比が本発明の範囲外であることを除き、実施例と同一の仕様とした。
【0144】
比較例として作製した試料番号1、14の積層セラミックコンデンサの仕様
比較例として、本発明の保護層を有さない積層セラミックコンデンサを作製した。
本発明の保護層を形成しない点以外においては実施例と同じ仕様で作製した。
・積層セラミックコンデンサの寸法:L×W×T=0.6mm×0.3mm×0.05mm(積層体の厚み:30μm)(試料番号1)と、L×W×T=0.6mm×0.3mm×0.11mm(積層体の厚み:80μm)(試料番号14)の2種類
・セラミック層の材料 主成分:BaTiO3
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極の構造
下地電極層:Ni/Cr合金を主成分とする下地電極層をスパッタリング法により形成
めっき層の構造:積層体側からCuめっき層、Niめっき層、Snめっき層の3層で形成
【0145】
比較例として作製した試料番号2、3の積層セラミックコンデンサの仕様
比較例として、第1の外層部、第2の外層部に補強層を設けた積層セラミックコンデンサを作成した。
本発明の保護層を形成しない点、補強層を設けた点以外においては実施例と同じ仕様で形成した。
・積層セラミックコンデンサの寸法:L×W×T=0.6mm×0.3mm×0.05mm(積層体の厚み:30μm)
・セラミック層の材料の主成分:BaTiO3
・内部電極層の材料:Ni
・外部電極の構造
下地電極層:Ni/Cr合金を主成分とする下地電極層をスパッタリング法により形成
めっき層の構造:積層体側からCuめっき層、Niめっき層、Snめっき層の3層で形成
・補強層:第1の外層部および第2の外層部に内部電極層と同じNiペーストを用いた補強層をそれぞれ2枚配置した。
【0146】
<抗折強度試験>
抗折強度試験は、三点曲げ試験により評価した。支持台はステンレス製、支持点の間隔は0.5mmとした。押し棒はステンレス製、先端はR=0.05mmの半球状とした。支持台中央部に試料を乗せ、試料の上面中央部に押し棒を接触させた。押し棒に下向きの外力を印加し、試料が破断するまで押下した。外力の大きさは、試料である積層セラミックコンデンサのT寸法が110μmの場合2.0N、試料である積層セラミックコンデンサのT寸法が40μmの場合0.5Nとした。測定個数は20個とし、破断した試料を不良と判定し、その個数をカウントした。
【0147】
<保護層のCの元素比率の測定方法(保護層の有無の確認方法)>
保護層のCの元素比率は、XPSにより評価した。装置はアルバック・ファイ社製Quantum2000を使用した。まずワイドスキャンスペクトルを用いて含まれる元素を検出した。次にナロースキャンスペクトルを用いて定量分析を行い、XPS検出範囲外である水素・ヘリウムを除いた元素比率を得た。得られた元素比率から、水素、酸素、ハロゲンを除いた元素比率を算出した。
【0148】
<C-C結合様式の比率sp3比の測定方法>
C-C結合様式の比率としてsp3比は、C-K端XANESにより評価した。実験施設は愛知シンクロトロン光センター、ビームラインはBLIN2を使用した。測定方法は全電子収量法を用いた。X線入射角度は試料水平方向から55degとした。取得したスペクトルに対しπ*(C=C),π*(C=O等),π*(C-H等),π*(C-C等),π*(C=C)にピーク分離を行った。各ピークの面積値のπ*(π*+σ*)比の値及びその値と標準試料から求めた係数を用いてsp3/(sp2+sp3)比率を算出した。
【0149】
<保護層の厚みの測定方法>
保護層の厚みの測定方法としては、試料である積層セラミックコンデンサを研磨し露出させた断面で測定した。具体的には、まず、試料である積層セラミックコンデンサのLT面を1/2Wの位置になるまで第1の側面または第2の側面とほぼ平行になるように研磨した。次に、研磨断面において、保護層の第1の端面および第2の端面を結ぶ長さ方向zの1/2Lの位置における保護層の第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの厚みをデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000)を用いて測定した。なお、試料番号2及び試料番号3の補強層の厚みも、同様の方法により測定した。
【0150】
<積層体の厚みの測定方法>
積層体の厚みの測定方法としては、試料である積層セラミックコンデンサを研磨し露出させた断面で測定した。具体的には、まず、試料である積層セラミックコンデンサのLT面を1/2Wの位置になるまで第1の側面または第2の側面とほぼ平行になるように研磨した。次に、研磨断面において、積層セラミックコンデンサの第1の端面および第2の端面を結ぶ長さ方向zの1/2Lの位置における積層体の第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの寸法をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000)を用いて測定した。
【0151】
<有効層部の厚みの測定方法>
有効層部の厚みの測定方法としては、試料である積層セラミックコンデンサを研磨し露出させた断面で測定した。具体的には、まず、試料である積層セラミックコンデンサのLT面を1/2Wの位置になるまで第1の側面または第2の側面とほぼ平行になるように研磨した。次に、研磨断面において、積層セラミックコンデンサの第1の端面および第2の端面を結ぶ長さ方向zの1/2Lの位置における積層体の第1の主面および第2の主面を結ぶ高さ方向xの最も第1の主面側に位置する内部電極層と最も第2の主面側に位置する内部電極層との間の寸法をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE社製 VHX-5000)を用いて測定した。
【0152】
<静電容量の測定方法>
各試料番号に対する試料である積層セラミックコンデンサの静電容量は、標準規格(JIS C 5101-11998)に基づいた測定条件で、静電容量測定器(LCRメータ)を用いて測定した。
【0153】
(試験結果)
以上の試験を行った結果を表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
上記の表1の結果について、試料番号1~試料番号15の各試料に対し、順に説明する。
【0156】
(試料番号1)
試料番号1の試料は、比較例である。
当該試料1は、本発明に係る保護層(DLC)を有さない。結果、抗折強度試験では、20個の全ての試料が不良となった。
【0157】
(試料番号2)
試料番号2の試料は、比較例である。
当該試料番号2の試料は、本発明に係る保護層を有しない。試料番号2の試料は、保護層の代わりに、上記特許文献1に開示されている、積層体内に補強層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料のうち、8個の個体が不良となった。
【0158】
(試料番号3)
試料番号3の試料は、比較例である。
当該試料番号3の試料は、本発明に係る保護層を有しない。試料3は、保護層の代わりに、上記特許文献1に開示されている、積層体内に補強層を有する。試料番号3の試料は、補強層の厚みを8.5μmとしつつ、他の試料と同様の厚み(積層体の厚み)を確保するため、有効層部の厚みが最も薄い2.5μmとなった。結果、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量が、0.005μFという最も小さいものとなった。
【0159】
すなわち、試料番号3の試料に対応する上記した特許文献1では、積層体内にNi等からなる補強層を設けていた。しかしながら、本実施の形態の保護層32とは素材も異なるため、電子部品としての有効層の部分の体積を確保するためには、電子部品の厚み自体を増大させなければならなかった。半面、電子部品としての必要な強度を担保しつつ所要のコンパクト化を図るためには、電子部品としての有効部分の体積が十分に確保できない可能性を有していた。
一方、上記実施の形態に係る積層セラミックコンデンサの構成を実現した各実施例では、保護層32の厚みを加えても、特許文献1の構造よりも有効層部の厚みを小さくできる。そのため、有効層部の体積が増加し、体積容量密度を増加することができることが判明した。
【0160】
上記の試料番号2、試料番号3の結果により、積層体内に補強層を設けることにより、機械的強度の向上が図れるものの、強度の向上が十分でない(試料番号2)か、強度の向上が図れたとしても、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たせない(試料番号3)ということが判明した。
【0161】
(試料番号4)
試料番号4の試料は、実施例である。
当該試料番号4の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0162】
(試料番号5)
試料番号5の試料は、実施例である。
当該試料番号5の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0163】
(試料番号6)
試料番号6の試料は、比較例である。
当該試料番号6の試料は、積層体の表面に保護層を有する。しかしながら、試料番号6の試料の保護層は、炭素の元素比率が、54atm%であるので、本発明の範囲外である。結果、抗折強度試験では、20個の試料のうち11個が不良となり、所要の機械的強度を満たさないことが判明した。
【0164】
(試料番号7)
試料番号7の試料は、実施例である。
当該試料番号7の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0165】
(試料番号8)
試料番号8の試料は、実施例である。
当該試料番号8の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0166】
(試料番号9)
試料番号9の試料は、実施例である。
当該試料番号9の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0167】
(試料番号10)
試料番号10の試料は、実施例である。
当該試料番号10の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0168】
(試料番号11)
試料番号11の試料は、比較例である。
当該試料番号11の試料は、積層体の表面に保護層を有する。しかしながら、試料番号11の試料の保護層は、炭素のC-C結合におけるsp3比が、5%であるため本発明の範囲外である。結果、抗折強度試験では、20個の試料のうち5個が不良となり、所要の機械的強度を満たさないことが判明した。
【0169】
(試料番号12)
試料番号12の試料は、実施例である。
当該試料番号12の試料は、本発明に係る保護層を有する。結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
加えて、試料番号12の試料に設けられた保護層の厚みは、0.1μmであり実施例のなかで最も薄い構成である。このことから、本発明に係る積層セラミックコンデンサは、薄型化、コンパクト化を有効に実現し得ることが判明した。
【0170】
(試料番号13)
試料番号13の試料は、実施例である。
当該試料番号13の試料は、積層体の表面に保護層を有する。しかしながら、試料番号13の試料の保護層の厚みは、0.03μmであり他の実施例よりも薄い。結果、抗折強度試験では、20個の試料のうち3個が不評となったが、所要の機械的強度を満たすことが判明した。
【0171】
(試料番号14)
試料番号14の試料は、比較例である。
当該試料番号14の試料は、積層体の厚みが、約80μmに設定されている。試料番号14の試料は、本発明の保護層を有さない。結果、上記試料番号1~13とは抗折強度試験における外力の大きさは2.0Nであり、異なるものの、20個の試料のうちすべてが不良となり、所要の機械的強度を満たさないことが判明した。
【0172】
(試料番号15)
試料番号15の試料は、実施例である。
当該試料番号15の試料は、積層体の厚みが、約80μmに設定されている。試料番号15の試料は、本発明の保護層を有する。結果、上記試料番号1~13とは抗折強度試験における外力の大きさは2.0Nであり、異なるものの、結果、抗折強度試験では、20個の試料に不良は無く、且つ、積層セラミックコンデンサとして必要な静電容量を満たす。
【0173】
以上のことから、本発明に含まれる各実施例では、積層体の第2の主面上において、炭素材料からなる保護層を有しており、保護層のC(炭素)の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%以上であり、前記保護層のC-C結合様式の比率としてsp3比が10%以上である構成とすることにより、強度の高いC-C結合が3次元的な架橋構造を形成し、保護層の機械的強度が向上するため、積層セラミックコンデンサの機械的強度を十分なものにすることができることが判明した。
また、積層体の第2の主面上において、炭素材料からなる保護層を有しており、保護層のC(炭素)の元素比率が水素・酸素・ハロゲンを除いて70atm%以上であり、前記保護層のC-C結合様式の比率はsp3比が10%以上である構成とすることにより、保護層の厚みを、従来よりも小さくできるため、有効層部の体積の増加を達成しつつ、体積容量密度を増加させることができることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0174】
この発明は、積層セラミック電子部品に関し、特に、複層構造の外部電極を備えた積層セラミック電子部品として利用し得る。
【符号の説明】
【0175】
10 積層セラミックコンデンサ
10a セラミック圧電素子
10b サーミスタ素子
10c インダクタ素子
12 積層体
12a 第1の主面
12b 第2の主面
12c 第1の側面
12d 第2の側面
12e 第1の端面
12f 第2の端面
14 セラミック層
15a 有効層部
15b1 第1の外層部
15b2 第2の外層部
16 内部電極層
16a 第1の内部電極層
16b 第2の内部電極層
18a 第1の対向電極部
18b 第2の対向電極部
20a 第1の引出電極部
20b 第2の引出電極部
22a 側部(Wギャップ)
22b 端部(Lギャップ)
24 外部電極
24a 第1の外部電極
24b 第2の外部電極
26 下地電極層
26a1 第1の下地電極層
26a2 第2の下地電極層
26b1 第3の下地電極層
26b2 第4の下地電極層
28 めっき層
28a 第1のめっき層
28b 第2のめっき層
30 下層めっき層
30a 第1の下層めっき層
30b 第2の下層めっき層
32 中層めっき層
32a 第1の中層めっき層
32b 第2の中層めっき層
34 上層めっき層
34a 第1の上層めっき層
34b 第2の上層めっき層
32、34 保護層
36 ギャップ部保護層
38 端部保護層
40 L字外部電極
42 主面外部電極
44 ビア接続部
46 積層体孔
48 保護層孔
50 ビア接続体
x 高さ方向
y 幅方向
z 長さ方向
T 高さ
W 幅
L 長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10