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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】超音波CT装置、および、その制御方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020011093
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021115277
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺田 崇秀
(72)【発明者】
【氏名】坪田 悠史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦郎
(72)【発明者】
【氏名】川畑 健一
(72)【発明者】
【氏名】山中 一宏
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平08-508925(JP,A)
【文献】特開2018-082781(JP,A)
【文献】特開2010-029374(JP,A)
【文献】米国特許第04662222(US,A)
【文献】特開2016-036530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動子がリング状に配列され、内部空間に対象物が配置される振動子アレイと、前記振動子の数よりも少ない数の送受信器と、前記送受信器ごとに配置された振動子選択器と、制御部と、前記対象物の断層画像として少なくとも反射波画像を生成する演算部とを有し、
前記送受信器はそれぞれ、前記振動子に送信信号を送信する送信器と、前記振動子が受信した受信信号を受けとる受信器とを含み、
前記振動子選択器は、送信用振動子選択器および受信用振動子選択器を含み、
前記送信用振動子選択器は、前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記送信器を接続する構成であり、
前記受信用振動子選択器は、前記送信用振動子選択器とは独立して、前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記受信器を接続する構成であり、
前記送信用振動子選択器と前記受信用振動子選択器は、1つの前記送受信器内の送信器と受信器とをそれぞれ、同一または異なる振動子に同時に接続可能であり、
複数の前記振動子のうち、前記送信器に接続された振動子は、前記送信器から送信された前記送信信号を超音波信号に変換して、前記対象物に送信し、
前記受信器を接続された振動子は、前記対象物によって反射された前記超音波信号および前記対象物を透過した前記超音波を受信し、前記受信信号に変換して前記受信器に出力し、
前記制御部は、少なくとも前記反射波画像を生成する際に、
前記送信用振動子選択器および前記受信用振動子選択器に対してそれぞれ制御信号を出力することにより、前記送信用振動子選択器を介して前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記送信器を接続し、前記受信用振動子選択器を介して前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記受信器を接続し、
その後、前記送信器に電気信号を送信することにより、前記送信器から、接続されている前記振動子に送信信号を出力させ、前記送信器が接続されている振動子から前記超音波信号を送信させ、
前記受信器に対して、受信を指示する信号を出力することにより、前記対象物により反射された前記超音波信号を受信した振動子の出力する受信信号を前記受信器が受け取る動作を、前記超音波信号が送信された直後から、または、前記超音波信号の送信開始と同時に、開始させ、
前記演算部は、前記受信器が受信した、前記対象物により反射された前記超音波信号の前記受信信号を処理し、前記対象物の反射波画像を生成する
ことを特徴とする超音波CT装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、前記送信用振動子選択器および受信用振動子選択器はそれぞれ、前記振動子アレイを構成する振動子の数を、前記送受信器の総数で除した数のスイッチを少なくとも備え、
前記送信用振動子選択器のスイッチにはそれぞれ、前記振動子のいずれかが接続され、
前記受信用振動子選択器のスイッチにはそれぞれ、前記振動子のいずれかが接続し、
前記制御部は、前記送信器が前記振動子に送信信号を送信する前に、1つの前記送受信器に接続された前記送信用振動子選択器のスイッチのうちの一つを選択的にオンにするとともに、前記受信用振動子選択器のスイッチのうちの一つを選択的にオンにし、その後、前記送信器から前記振動子に送信信号を送信させることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、
前記受信器と受信用振動子選択器との間には、送受分離器が配置されていることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項4】
請求項1に記載の超音波CT装置であって、
前記受信用振動子選択器は、前記送信信号と前記受信信号とを分離して前記受信信号のみを通過させる送受分離器を兼ねることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項5】
請求項に記載の超音波CT装置であって、
前記送信用振動子選択器の前記スイッチの数は、前記受信用振動子選択器の前記スイッチの数とは異なることを特徴とする超音波CT装置。
【請求項6】
複数の振動子がリング状に配列され、内部空間に対象物が配置される振動子アレイと、前記振動子の数よりも少ない数の送受信器と、前記送受信器ごとに配置された振動子選択器と、前記対象物の断層画像として少なくとも反射波画像を生成する演算部とを有する超音波CT装置の制御方法であって、
前記送受信器はそれぞれ、前記振動子に送信信号を送信する送信器と、前記振動子が受信した受信信号を受けとる受信器とを含み、
前記振動子選択器は、送信用振動子選択器および受信用振動子選択器を含み、
前記送信用振動子選択器は、前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記送信器を接続する構成であり、
前記受信用振動子選択器は、前記送信用振動子選択器とは独立して、前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記受信器を接続する構成であり、
前記送信用振動子選択器と前記受信用振動子選択器は、1つの前記送受信器内の送信器と受信器とをそれぞれ、同一または異なる振動子に同時に接続可能であり、
前記送信用振動子選択器および前記受信用振動子選択器に対してそれぞれ制御信号を出力することにより、前記送信用振動子選択器を介して前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記送信器を接続し、前記受信用振動子選択器を介して前記振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記受信器を接続し、
その後、前記送信器に電気信号を送信することにより、前記送信器から、前記送信器に接続されている前記振動子に送信信号を出力させ、前記送信器が接続されている振動子に前記送信信号を超音波信号を変換させて前記対象物に送信させ、
前記受信器に対して、受信を指示する信号を出力することにより、前記受信器に接続されている前記振動子が、前記対象物により反射された前記超音波信号を受信して出力する受信信号を、前記超音波信号が送信された直後から、または、前記超音波の送信開始と同時に、受け取りを開始させ、
前記演算部に、前記受信器が受信した前記受信信号を処理させ、前記対象物の反射波画像を生成させる
ことを特徴とする超音波CT装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波CT装置に関し、特に、その制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波CT(Computed Tomography)装置とは、超音波を伝搬する媒質である超音波伝搬部材(水など)中に置かれた対象物の内部に向かって様々な位置にある振動子から超音波を送信し、対象物の表面や内部で散乱した超音波や対象物の内部を通過した超音波を、様々な位置にある振動子で受信して、対象物の形状や音響特性を反映する物性値(音速等)の分布を算出し、対象物の断層画像を生成する超音波撮像装置であり、特許文献1等に公開されている。特許文献1には、1つの送信器と1つの受信器と1つの送受分離器とを含む送受信器が、振動子ごとに配置され、振動子に対して送信器から送信信号を出力し、振動子の受信信号を送受分離器を介して受信器が受け取って処理する構成が開示されている。
【0003】
一方、一般的な超音波診断装置では、特許文献2のように、1つの送信器と1つの受信器と1つの送受分離器とを含む送受信器が、振動子よりも少ない数だけ用意され、送受信器は、振動子選択スイッチにより、いずれかの振動子に選択的に接続される構造のものが開示されている。
【0004】
非特許文献2には、超音波CT装置において、超音波を送受信する際に、まず送信用振動子を選択して超音波を送信し、次に受信用振動子を選択し超音波を受信する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/098641号
【文献】特許第4761673号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Compensation of transducer element positions in a ring array ultrasonic computer tomography system (https://iopscience.iop.org/article/10.7567/JJAP.54.07HF24)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波CT装置において、振動子は、対象物を取り囲むように例えばリング状に配置されるため、配置される振動子の数は、一般的な超音波診断装置のプローブよりも多くなる。乳がん検診等に好適な乳房用超音波CT装置では、振動子の数は、一例として2048チャンネルである。一方、装置の小型化や低消費電力化のためには、信号処理回路の規模を小さくすることが望ましく、送信器と受信器と送受分離回路とを含む送受信器の数を、振動子数よりも少なくした構成(例えば256チャンネル)が望まれる。
【0008】
このような構成の場合、超音波を対象物に送受信する場合には、振動子選択スイッチにより、256チャンネルの送受信器を、それ以下の所望数の振動子に接続して、送信器から振動子に送信信号を出力して超音波を送信させる。そして、対象物の表面で散乱等した超音波や対象物を透過した超音波が、振動子に到達する前に、瞬時に、振動子選択スイッチを切り替えて、超音波を受信すべき256チャンネルの振動子に送受信器を接続し、振動子が受信した受信信号を、各送受信器の送受分離回路を介して受信器で受け取って処理する。この送信および受信動作を、すべての振動子において受信信号を受信するまで複数回繰り返す。例えば、全振動子が2048チャンネルで、送受信器の数が256チャンネルの場合、8回送受信を繰り返す。
【0009】
しかしながら、振動子選択スイッチを瞬時に切り替えたとしても、切替が完了するまでの間は、振動子が受信した受信信号を受信器で受け取ることができない。対象物が乳房である場合、先端部の径は小さいが、基底部(肋骨に近い部分)の径は大きいため、乳房用超音波CT装置で乳房の基底部を計測する際には、リング状の振動子に乳房表面が近接配置されるという特徴がある。振動子に対象物が近接している場合、振動子から超音波を送信して、対象物の表面で散乱等した超音波が振動子に戻るまでの時間が、極めて短い。このため、振動子選択スイッチの切替が間に合わず、近接した対象物からの受信信号を受信器が受け取れず、振動子に近接配置される対象物の形状や音響特性の分布を精度よく計測することができないという問題が発生する。
【0010】
また、超音波を振動子から送信した後、振動子選択スイッチを切り替えて、受信すべき振動子に送受信器を接続すると、振動子選択スイッチの切り替え時に、振動子選択スイッチにおいて電気ノイズが発生する。この電気ノイズが、振動子選択スイッチに電気回路により接続されている送受信器の受信器に到達することがある。また、振動子選択スイッチにおいて発生した電気ノイズが、電気回路により接続されている振動子に到達し、振動子から超音波ノイズとして送信され、この超音波ノイズが、対象物で散乱した超音波や、対象物を通過した超音波を振動子が受信した受信信号を受信器で受信してしまうこともある。これにより、対象物の形状や音響特性の分布の計測精度が低下してしまうという問題もある。
【0011】
本発明の目的は、振動子の数よりも少ない送受信器を用いながら、振動子に近接配置された対象物からの反射信号等を受信して、その受信信号を受信器で受け取ることができる超音波CT装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の超音波CT装置は、複数の振動子を配列した振動子アレイと、振動子の数よりも少ない数の送受信器と、送受信器ごとに配置された振動子選択器とを有する。送受信器はそれぞれ、振動子に送信信号を送信する送信器と、振動子が受信した受信信号を受けとる受信器とを含む。振動子選択器は、送信用振動子選択器および受信用振動子選択器を含む。送信用振動子選択器は、振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に前記送信器を接続する構成であり、受信用振動子選択器は、送信用振動子選択器とは独立して、振動子アレイのいずれかの振動子に選択的に受信器を接続する構成である。送信用振動子選択器と前記受信用振動子選択器は、1つの送受信器内の送信器と受信器とをそれぞれ、同一または異なる振動子に同時に接続可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、超音波の送信前に、1つの送受信器内の送信器と受信器とをそれぞれ、同一または異なる振動子に同時に接続可能であるため、超音波の送信の開始と同時に、超音波の受信を開始することが可能になり、振動子に近接配置された被検体からの反射信号も受信できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態の超音波CT装置の全体構成を示すブロック図
図2】第一実施形態の超音波CT装置の機能ブロック図
図3】第一実施形態の超音波CT装置の振動子選択器4の回路構成を示すブロック図
図4】第一実施形態の超音波CT装置の動作を示すフローチャート
図5】(a)および(b)第一実施形態の超音波CT装置の動作の一部を示すフローチャート
図6】第一実施形態の超音波CT装置の動作シーケンスを示す図
図7】(a)~(f)第一実施形態の超音波CT装置の撮像ビューごとの送信に用いる振動子の領域(Tx)と、受信に用いる振動子の領域(Rx)を示す図
図8】比較例の超音波CT装置の機能ブロックと送信時の信号の流れを示す図
図9】比較例の超音波CT装置の機能ブロックと受信時の信号の流れを示す図
図10】(a)および(b)はそれぞれ比較例の超音波CT装置の振動子選択器4の送信時および受信時の設定を示すブロック図
図11】比較例の超音波CT装置の動作を示すフローチャート
図12】(a)および(b)は、比較例の超音波CT装置のブラインドエリア121を示す縦断面図および横断面図であり、(c)は、電気的な切替ノイズにより超音波ノイズが発生することを示す説明図であり、(d)は、超音波ノイズが、他の振動子に直接受信される例を示す説明図である。
図13】第二実施形態の超音波CT装置の機能ブロック図
図14】第二実施形態の超音波CT装置の振動子選択器4の回路構成を示すブロック図
図15】第二実施形態の超音波CT装置の動作シーケンスを示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態の超音波CT装置について説明する。
【0016】
<<第一実施形態>>
本発明の第一実施形態では、乳房用超音波CT装置について説明する。本実施形態の乳房用超音波CT装置は、図1および図2に示すように、被検体100をうつ伏せに搭載するベッド101と、ベッド101に設けられた開口の下部に配置された計測部102とを備えて構成される。計測部102は、水の充填された容器103と、振動子アレイ2と、送受信器3と、振動子選択器4と、信号処理部5と、振動子アレイ2を上下動させる機構部6と、機構部6の駆動部7とを備える。水の充填された容器103は、ベッド101の開口に、容器103の開口が一致するようにベッド101に固定され、被検体100の乳房100aが挿入される。振動子アレイ2は、容器103の内側または外側に配置されている。
【0017】
振動子アレイ2は、複数の振動子1を配列した構成であり、ここでは図2に示すようにリング形状である。振動子1の数は、一例としては、2048チャンネルである。送受信器3の数は、振動子1の数よりも少なく、一例としては256チャンネルである。振動子選択器4は、送受信器3ごとに配置されている。
【0018】
送受信器3はそれぞれ、送信器31と、受信器32と、送受分離器33とを含む。信号処理部5内には、制御部51と演算部52とが配置されている。制御部51は、送信器31に電気信号S1を出力するとともに、振動子選択器4の動作を制御する。演算部52は、受信器32が出力する受信信号S41を演算処理することにより、超音波CT画像を生成する。信号処理部5には、撮像条件等をユーザから受け付けるための入出力部9と、記憶部8と、生成したCT画像等を表示する表示装置10が接続されている。
【0019】
送信器31は、制御部51から送信すべき電気信号S1を受けとり、これを増幅して送信信号S11を生成して、振動子選択器4を介して接続されている振動子1に出力する。送信信号S11を受け取った振動子1は、送信信号S11を超音波信号S21に変換して乳房100aが配置される空間に向かって送信する。超音波信号S21は、一部が乳房100aにより散乱および反射され、他の一部が乳房100aを透過して振動子アレイ2の複数の振動子1に到達し、振動子1によって電気信号である受信信号S31に変換される。
【0020】
受信器32は、振動子1が受信した受信信号S31を振動子選択器4を介して受けとって増幅等した受信信号S41を演算部52に出力する。送受分離器33は、送信器31から出力された送信信号S11が反射等されて受信器32に入力するのを防ぐ。例えば送受分離器33は、信号値がしきい値以上の信号(送信信号S11)を反射し、しきい値より小さい信号(受信信号S31)を通過する構成である。
【0021】
送信器31および受信器32の数(例えば256ch)は、振動子1の数(2048ch)よりも少ないため、振動子選択器4は、送信器31および受信器32をそれぞれ振動子1のいずれかに選択的に接続し、送信器31に接続された256ch以下の振動子1から超音波信号を送信し、256ch以下の振動子1が受信した受信信号を受信器32により受け取る。
【0022】
本実施形態では、振動子選択器4は、送信用振動子選択器41および受信用振動子選択器42を含む構成である。送信用振動子選択器41は、制御部51の制御下で、振動子アレイ2の振動子のうち、超音波を送信すべき振動子1に選択的に送信器31を接続する。受信用振動子選択器は、制御部51の制御下で、送信用振動子選択器41とは独立して、振動子アレイ2の振動子のうち超音波を受信すべき振動子1に選択的に受信器32を接続する構成である。このような構成により、送信用振動子選択器41と受信用振動子選択器42は、1つの送受信器3内の送信器31と受信器32を、それぞれ同一または異なる振動子1に同時に接続した状態にすることが可能になる。
【0023】
したがって、送信信号S11を送信器31から送信する前に、受信器32と振動子1の選択的な接続を完了させることができるため、超音波信号S21の送信開始時から超音波の反射信号を受信することが可能になる。よって、振動子1の数よりも少ない送受信器3を備えた構成でありながら、振動子1に近接配置された対象物(乳房100a)からの反射信号等を受信して、その受信信号を受信器で受け取ることができ、振動子アレイ2に近接配置された対象物(乳房100a)からの受信信号を受信器32によって受け取ることができる。また、送信と受信の間に、振動子選択器4を受信用に切り替える必要がないため、切替に伴う電気ノイズが発生せず、ノイズの少ない受信信号に基づいて、演算部52は、ノイズの少ない超音波CT画像を生成することができる。
【0024】
振動子選択器41の構成についてさらに説明する。図3に示すように、一つの振動子選択器4の送信用振動子選択器41および受信用振動子選択器42は、それぞれ、振動子アレイ2を構成する振動子1の数(ここでは2048ch)を、送受信器3の総数(ここでは256ch)で除した数(8個)のスイッチ141,142を備えている。送信用振動子選択器41のスイッチ141の一方の端子141aには、図3のように、予め定められた8つの振動子1(図3の例では、1番目、257番目、513番目、769番目、1025番目、1281番目、1537番目、1793番目)が接続され、スイッチ141の他方の端子141bには、いずれも送信器31が接続されている。スイッチ141のうちの一つのみをオンにし、他をオフにすることにより、オンにしたスイッチ141に接続されている振動子1を送信器31に選択的に接続することができる。一方、受信用振動子選択器のスイッチ142の一方の端子142aには、図3のように、予め定められた8つの振動子1(図3の例では、1番目、257番目、513番目、769番目、1025番目、1281番目、1537番目、1793番目)が接続され、スイッチ142の他方の端子142bには、いずれも受信器32が接続されている。スイッチ142の一つのみをオンにし、他をオフにすることにより、オンにしたスイッチ142に接続されている振動子1を受信器32に選択的に接続することができる。
【0025】
よって、制御部51は、送信器31から振動子1に送信信号S11を送信する前に、1つの送受信器3に接続された送信用振動子選択器41のスイッチ141のうちの一つを選択的にオンにするとともに、受信用振動子選択器42のスイッチ142のうちの一つを選択的にオンにすることにより、送信器31と受信器32を、それぞれ同一または異なる振動子1に同時に接続した状態にすることが可能になる。その後、送信器31から振動子1
に送信信号を送信し、超音波信号を被検体100に送信することにより、送信と同時に、すでに受信器32に接続されている振動子の受信信号を受信器32が受け取り可能になる。よって、超音波信号S21を送信した振動子1に、乳房100aが近接している場合であっても、送信した振動子1と同一の振動子またはそのすぐ近傍の振動子において、反射信号等を受信して受信器32に受け渡すことができる。
【0026】
したがって、受信器32は、超音波信号S21が送信された直後から受信信号の受け取りを開始するが可能である。具体的には、受信器32は、超音波信号S21の送信中であっても受信信号の受け取りを開始することができる。
【0027】
つぎに、本実施形態の乳房用超音波CT装置を用いて、乳房100aの複数の深さ位置においてそれぞれ断層像を得ることにより、乳房100aの3次元情報を得る際の各部の動作について、図4および図5のフローチャート、図6のシーケンス図、ならびに、図7のビュー図を用いて説明する。ここでは、一例として、乳房100aの反射波画像を撮像する例について説明する。
【0028】
なお、送受信器3および信号処理部5は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサーと、メモリとを備えたコンピュータ等によって構成され、CPUが、メモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、送受信器3および信号処理部5の各部の機能をソフトウエアにより実現することも可能であるし、その一部または全部をハードウエアによって実現することも可能である。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて送受信器3および信号処理部5を構成し、送受信器3および信号処理部5の各部の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0029】
まず、制御部51は、超音波CT装置の撮影条件をユーザから入出力部9を通して受け付ける。制御部51は、設定された条件等は、記憶部8に保存する。
【0030】
被検体100がベッド101にうつぶせに搭載され、乳房100aが容器103内に挿入され、ユーザから撮像開始の指示を制御部5が入出力部9を介して受け取ったならば、制御部51は、送信に用いる振動子1と受信に用いる振動子1とを選択する(ステップ401)。ステップ401における制御部51の動作は、図6のシーケンス図に示すように、まず、送受分離器33に対して、動作をオンにする制御信号S51を出力する。その後、もしくはそれと同時に、送信用振動子選択器41および受信用振動子選択器42に対し、それぞれ一つのスイッチ141およびスイッチ142を選択する制御信号52-1,52-2を出力する。これにより、例えば、図7(a)に示すように、リング状の振動子アレイ2(例えば2048ch)を8分割し、送受信器31と同数(例えば256ch)の領域(Tx)の各振動子1に、送受信器31の送信器31を、送信用振動子選択器41を介してそれぞれ接続する。また、図7(a)に示すように、振動子アレイ2の領域(Tx)の左隣りの領域(Rx:256ch)の各振動子1に、送受信器31の受信器32を、受信用振動子選択器42を介してそれぞれ接続する。
【0031】
つぎに、制御部51は、領域(Tx)の振動子1から超音波信号S21を送信させ、領域(Rx)の振動子に到達した超音波を受信させ、受信信号を受信器32により受け取る(ステップ402)。具体的には、図6のシーケンス図に示すように、制御部51は、各送信器31に電気信号S1を送信する。これにより、送信器31は電気信号S1を増幅して送信信号S11を生成し、送信用振動子選択器41を介して接続されている領域(Tx)の振動子1に出力する。振動子1は、送信信号S11を超音波信号S21に変換して送信する。また、制御部51は、各受信器31に受信信号の受信を指示する信号S53を出力する。これにより、受信器32は、領域(Rx)の振動子1が出力する受信信号を受信し、増幅して、演算部52に出力する。演算部52は、記憶部8に格納する。
【0032】
このとき、図5(a)に示したように、超音波信号S21を送信し終わった後、乳房100aで反射された超音波の受信を開始してもよいし(ステップ402-1、402-2)、図5(b)のように、超音波の送信開始と同時に受信を開始してもよい(ステップ402)。これは、本実施形態の送信用振動子選択器41と受信用振動子選択器42が、同時にそれぞれ振動子を選択できる構成であることにより実現できる動作である。
【0033】
上記ステップ401,402を図7(a)~図7(f)の各ビューにおいて、順に繰り返す(ステップ403)。図7(a)~(c)の3つのビューは、超音波信号S21を送信する領域(Tx)の位置が同じである。図7(d)~(f)の3つのビューは、超音波信号S21を送信する領域(Tx)の位置が同じであるが、図7(a)~(c)のビューに対して、256chの半分(128ch分)だけ位置が時計方向にずれている。また、図7(b)と図7(e)のビューは、超音波信号S21を送信する領域(Tx)と受信する領域(Rx)とが同一である。
【0034】
演算部52は、各ビューにおいて得られた受信信号を処理することにより、乳房100aの断面像(反射波画像)を公知の手法により生成する(ステップ404)。
【0035】
上記ステップ401~404を振動子アレイ2の位置を深さ方向に所定のピッチで変更しながら繰り返すことにより、予め定めたすべての深さにおいて、乳房100aの断層像を生成する(ステップ405,406)。これにより、乳房100aの三次元データを取得することができる。
【0036】
<比較例>
ここで、比較例の超音波CT装置について図8図11を用いて説明する。
【0037】
比較例の超音波CT装置は、振動子選択器40の構成が、第一の実施形態の振動子選択器4とは異なる。図8および図9に示すように、振動子選択器40は、送信用振動子選択器41と受信用振動子選択器42とに分かれておらず、図10(a),(b)に示すように、8個のスイッチ140により、送信時にも受信時にも、振動子1を選択する構成である。具体的には、図8および図10(a)のように、送信時には振動子選択器40のスイッチ140のうちの一つがオンになり、一つの振動子1(例えば1番目の振動子)を送信器31に接続する。また、図9および図10(b)のように、受信時には振動子選択器40のスイッチ140のうちの一つがオンに切り替えられ、一つの振動子1(例えば257番目の振動子)を受信器32に接続する。他の構成は、第一の実施形態と同様である。
【0038】
比較例の超音波CT装置では、図11のフローチャートに送受信の動作を示したように、送信の前に一つの送信用振動子1を振動子選択器40により送信器31に選択的に接続した後(ステップ501)、送信器31から振動子1に送信信号を送信し、超音波信号を送信させる(ステップ502)。つぎに、振動子選択器40を切り替え、受信用振動子1を受信器32に選択的に接続した後(ステップ503)、振動子1の受信信号を受信器32による受信する(ステップ504)。
【0039】
すなわち、比較例の送受信の動作は、第一の実施形態の図5(a),(b)のフローと異なり、超音波信号の送信後に、振動子選択器40を切り替え、受信用振動子を受信器32に接続するという動作を行わなければ、受信器32により受信信号を受信することができない。そのため、比較例の超音波CT装置では、超音波信号の送信後に、振動子選択器40を瞬時に切り替えたとしても、切替が完了するまでの間は、受信用振動子1が受信した受信信号を受信器32で受け取ることができない。よって、比較例の超音波CT装置では、図12(a),(b)に示したように、振動子アレイ2に近接した乳房表面で反射等され、極めて短時間で振動子に到達する反射波を、受信器32で受信することができず、画像を取得できないブラインドエリア121が生じる。
【0040】
また、図12(c)に示すように、比較例の装置では、超音波を振動子から送信した後、振動子選択器40を切り替えて、受信すべき振動子に受信器32を接続するため、振動子選択器40の切り替え時に、電気ノイズが発生する。この電気ノイズが、電気信号として受信器32に到達し、生成される断層画像に影響を与えることがある。
【0041】
また、この電気ノイズが、振動子選択器40に接続されている振動子1に到達すると、振動子から超音波ノイズとして送信される。この超音波ノイズは、図12(d)のように、超音波ノイズを送信した振動子1の方向に感度を有する別の振動子によって直接受信されることがある。直接受信された超音波信号のエネルギーは、乳房100aで反射や散乱等された超音波信号と比較して大きく、生成される断層画像に影響を与える。
【0042】
このような比較例に対して、第一の実施形態の超音波CT装置は、振動子選択器40を送信用振動子選択器41と受信用振動子選択器42に分けたことにより、送信前に送信用振動子1と受信用振動子1の両方を、送信器31と受信器32に接続した状態にすることができる。よって、振動子アレイ2に近接して配置されている乳房100aの表面に超音波を送信した場合であっても、極短時間で別の振動子1に到達する反射信号を受信でき、ブラインドエリア121が発生しない。また、送信と受信の間に振動子選択器40を切り替える必要がなく、電気的なノイズが発生しないというメリットがある。
【0043】
<<第二実施形態>>
第二実施形態の乳房用超音波CT装置について図13図15を用いて説明する。
【0044】
第二実施形態の乳房用超音波CT装置は、第一実施形態の装置と同様の構成であるが、第一実施形態の送受分離器33が、受信用振動子選択器42を構成するスイッチ142を兼用している点が第一実施形態とは異なっている。
【0045】
具体的には、第二実施形態は、送受分離器330として、スイッチ機能を有するものを用い、図13および図14に示したように、受信用振動子選択器42のスイッチ142の代わりに配置することにより受信用振動子選択・送受分離器420を構成する。
【0046】
スイッチとしての機能を有する送受分離器330としては、例えば、複数の半導体ダイオードによりブリッジ回路を構成したダイオードブリッジ回路を含み、アームの中間点からダイオードに印加する電圧の大きさを切り替えることにより短絡状態と開放状態に切り替わる構成のものを用いる。このような送受分離器330は、短絡時には小信号(受信信号)は通過するが、大信号(送信信号)はブロック(大幅に減衰)し、開放時には、小信号および大信号ともにブロック(大幅に減衰)する。
【0047】
制御部51は、図15のように受信用振動子選択・送受分離器420を構成する送受分離器330のダイオードに印加する電圧信号を切り替える制御信号S152を出力し、受信信号を受け取るべき振動子に接続されている送受分離器330のみを短絡させ、他の送受分離器330を開放する。これにより、受信すべき振動子1を選択するとともに、送信信号と受信信号を分離することができる。
【0048】
第二実施形態の乳房用超音波CT装置の他の構成および動作は、第一実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0049】
第二実施形態の乳房用超音波CT装置は、受信用振動子選択・分離器420が、送受分離器と振動子選択器を兼用するため、回路規模を低減でき、装置を小型化できる。
【0050】
なお、上述してきた第一および第二実施形態において、送信用振動子選択器41のスイッチ141の数は、受信用振動子選択器42または受信用振動子選択・送受分離器420のスイッチ141またはスイッチ機能を備えた送受分離器330の数と異なっていてもよい。例えば、送受信器3内に受信器32を送信器31よりも多く配置し、送信に用いる振動子よりも多くの振動子1をスイッチ141またはスイッチ機能を備えた送受分離器330により受信器32に接続し、受信信号を受信して処理してもよい。これにより、多くの受信信号を用いてCT画像を生成できるため、画像精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
2…振動子アレイ、3…送受信器、4、40…振動子選択器、5…信号処理部、6…機構部、7…駆動部、8…記憶部、9…入出力部、10…表示装置、31…送信器、32…受信器、33…送受分離器、51…制御部、52…演算部、100…被検体、100a…乳房、101…ベッド、102…計測部、103…容器、141、142…スイッチ、330…送受分離器、420…受信用振動子選択・送受分離器
図1
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