(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 75/02 20060101AFI20231212BHJP
F01N 5/00 20060101ALI20231212BHJP
F02B 33/22 20060101ALI20231212BHJP
F16J 1/01 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
F02B75/02 Z
F01N5/00 B
F02B33/22
F16J1/01
(21)【出願番号】P 2020015064
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤川 洋之
(72)【発明者】
【氏名】江原 達哉
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-174215(JP,A)
【文献】特許第021433(JP,C1)
【文献】特許第112255(JP,C2)
【文献】米国特許出願公開第2002/0050253(US,A1)
【文献】特開昭56-131853(JP,A)
【文献】実開昭63-063536(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/02
F02B 33/22 , 41/00
F01N 5/02
F16J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼ガスで駆動されるメインピストンが摺動自在に嵌挿された複数の燃焼用気筒と、前記複数の燃焼用気筒から排出された燃焼ガスで駆動される補助ピストンが嵌挿された1つの補助気筒とを備えており、前記メインピストンと補助ピストンとは往復動の位相が180°相違している構成であって、
前記メインピストンはアルミ又は他の軽合金製である一方、
前記補助ピストンは、
全体が前記メインピストンよりも比重が大きい金属から成って
いて、頂面の側に位置してシールリングを介して前記補助気筒と摺接する大径部と、前記補助気筒との間に空間が空いた肉盗み部とで構成されており、前記肉盗み部にピストンピンが配置されている、
内燃機関。
【請求項2】
前記メインピストンには前記燃焼用気筒に摺接する複数本のシールリングが装着されており、前記メインピストンに装着されたシールリングの本数よりも前記補助ピストンに装着されたシールリングの本数が少なくなっている、
請求項1に記載した内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼用気筒の他にエネルギ回収用の補助気筒を有する内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
レシプロ式内燃機関において、ピストンは燃焼ガスによって上死点から下死点に向けて移動するが、ピストンが下死点まで移行し切った状態でも燃焼ガスは正圧を保っており、このため、エネルギが無駄に捨てられている。そこで、燃焼用気筒の他にエネルギ回収用の補助気筒を設けて、燃焼用気筒が排気行程のときに燃焼ガスを補助気筒に移動させて、補助気筒に嵌まった補助ピストンを燃焼ガスで駆動することが提案されている。
【0003】
この内燃機関は、燃焼用気筒の4つの行程に加えて補助気筒による動力取り出しの行程が付加されることから、5ストローク内燃機関又は5サイクル内燃機関とも呼ばれている。
【0004】
この5ストローク内燃機関の例としては、例えば特許文献1,2がある。このうち特許文献1には、2つの燃焼用気筒と1つの補助気筒とを直列に配置して、両燃焼用気筒のメインピストンと補助気筒の補助ピストンとがそれぞれ連接棒を介してクランク軸に連結された構成が開示されている。他方、特許文献2には、補助気筒を燃焼用気筒の列からずらして配置しつつ、メインピストンと補助ピストンとを共通のクランク軸に連結した構造が開示されている。
【0005】
いずれにしても、2つの燃焼用気筒は360°間隔で駆動する必要があるため、2つの燃焼用気筒のピストンは同期して往復動しており、メインピストンと補助ピストンとは、位相がクランク角において180度相違している。従って、クランク軸の回転バランスをとるために、補助ピストンの質量は2個のメインピストンの総和と同じ質量になっている。すなわち、補助ピストンは、メインピストンの質量の2倍の質量になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実公昭17-809号公報
【文献】特開2013-174215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
5ストローク内燃機関において、補助ピストンの質量をメインピストンの質量の2倍に設定することは不可避であるが、補助ピストンの質量が増大すると体積が大きくなって軸方向の長さも長くなるため、補助ピストンのスカート部が補助気筒の内周面に接触しやすくなってフリクションが増大し、エネルギ回収効率を低下させてしまうことが懸念される。
【0008】
内燃機関において、ピストンの外径をシリンダボアの内径よりも若干小径に設定して、クリアランスはピストンリング及びオイルリングで調整しているが、補助気筒には高い燃焼圧が作用することがないため、補助ピストンと補助気筒とのクリアランスはできるだけ小さくして燃焼ガスの漏洩を阻止するのが好ましいと云えるが、補助ピストンと補助気筒との間のクリアランスを小さくすると、補助ピストンと補助気筒とが摺動(接触)しやすくなるため、フリクションが増大しやすくなると云える。
【0009】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、構造を複雑化することなく補助ピストンの摺動抵抗を低減してエネルギ回収効率を向上させようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の内燃機関は、
「燃焼ガスで駆動されるメインピストンが摺動自在に嵌挿された複数の燃焼用気筒と、前記複数の燃焼用気筒から排出された燃焼ガスで駆動される補助ピストンが嵌挿された1つの補助気筒とを備えており、前記メインピストンと補助ピストンとは往復動の位相が180°相違している」
という構成において、
「前記メインピストンはアルミ又は他の軽合金製である一方、
前記補助ピストンは、全体が前記メインピストンよりも比重が大きい金属から成っていて、頂面の側に位置してシールリングを介して前記補助気筒と摺接する大径部と、前記補助気筒との間に空間が空いた肉盗み部とで構成されており、前記肉盗み部にピストンピンが配置されている」
という構成になっている。
【0011】
本願発明において、補助ピストンは、その全体を鋳鉄製とすることができる。
また、請求項2のように、
「前記メインピストンには前記燃焼用気筒に摺接する複数本のシールリングが装着されており、前記メインピストンに装着されたシールリングの本数よりも前記補助ピストンに装着されたシールリングの本数が少なくなっている」
という構成を採用できる。
メインピストンには3本又は2本のリングを嵌着していることが殆どであるが、補助ピストンのリングは1本のみでも足りる。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、補助ピストンはメインピストンよりも比重が大きいため、従来よりも体積を減少させつつ必要な質量を確保できる。従って、シリンダボア(補助気筒)との摺動面の軸方向長さ(上下幅)を短くして、ピストンとシリンダボアとのフリクション(摺動抵抗)を抑制できる。これにより、メカロスを低減してエネルギ回収効率を向上でき、延いては燃費の向上に貢献できる。
【0013】
特に、補助ピストンを鋳鉄製とすると、製造は簡単であるため、コストアップを防止又は大きく抑制できて好適である(素材価格から見ると鉄はアルミより安価であることが普通であるため、コストを低減できる可能性もある。)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態を示す図で、(A)は模式的な平面図、(B)は(A)のB-B視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1).実施形態の構造
次に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、内燃機関は、シリンダブロック1とシリンダヘッド2とを主要要素とする機関本体を備えており、機関本体には、第1及び第2の燃焼用気筒3,4と、両者の間に挟まれた1つの補助気筒5とが直列に形成されている。
【0016】
各気筒3,4,5は、シリンダブロック1に形成されたシリンダボア6,7と、シリンダヘッド2に形成されたペントルーフ形凹所8,9とを有しており、燃焼用気筒3,4にはメインピストン10が摺動自在に嵌め入れられて、補助気筒5には補助ピストン11が摺動自在に嵌め入れられている。各ピストン10,11は、コンロッド12を介して1本のクランク軸13に連結されている。
【0017】
念のために述べると、コンロッド12の小端部はピストン10,11にピストンピン14を介して連結されて、コンロッド12の大端部はクランクアーム15にクランクピン16を介して連結されている。また、クランク軸13の各ジャーナル部17は、クランクキャップ18を介してシリンダブロック1に回転自在に保持されている。
【0018】
補助気筒5の容積は燃焼用気筒3,4の容積の約2倍になっている。従って、補助気筒5の内径は、燃焼用気筒3,4の内径の約1.25倍になっている。また、2個のメインピストン10は同期して上下動している一方、補助ピストン11の位相はメインピストン10の位相と180°ずれている。また、2個のメインピストン10の質量の総和と1個の補助ピストン11の質量とは一致している。これにより、クランク軸13の回転バランスが取られている。
【0019】
メインピストン10はアルミを材料にした鋳造品又はダイキャスト品であり、外周面のうち頂面側の部位に3本のシールリング(ピストンリング、オイルリング)が嵌め込まれている。他方、補助ピストン11は鋳鉄製であり、頂面と反対側の部位に大きな肉盗み部11aを形成することにより、シリンダボア7と近接した大径部(摺動部)11bを頂面側に寄せて形成し、かつ、大径部11bに、ピストンリングとオイルリングを兼用した1本のシールリング11cを嵌め込んでいる(シールリング11cは2本あってもよい。)。
【0020】
従って、大径部11bの上下幅(厚さ)Eは、補助ピストン11の軸方向長さの数分の1になっている。また、補助ピストン11には、燃焼による圧力は作用しないので、大径部11bとシリンダボア7との間のクリアランスを極く僅かな寸法に設定してシール性を確保している。なお、シールリング11cは、シール性の点からは、補助ピストン11の軸方向から見て継ぎ目部分が重なっているタイプが好ましい。
【0021】
鉄の比重はアルミの比重の約2.9倍あるので、補助ピストン11を鋳鉄製とすることにより、補助ピストン11は必要な質量を確保しつつ体積を約1/3近くに低減できる。従って、補助ピストン11は、大径部11bの外径をできる限り大きくすると共に上下幅Eを可能な限り小さくしつつ、1本のシールリング11cでしっかりとシールできる。これにより、大径部11bがシリンダボア7に接触することを防止して摺動抵抗(フリクション)を大幅に抑制できる。
【0022】
実施形態のように、大径部11bに1本だけのシールリング11cを嵌着すると、シリンダボア7との接触面積が小さくなるため、摺動抵抗の抑制効果を更に向上できる。
【0023】
(2).動力取り出し構造
次に、燃焼用気筒3,4と補助気筒5との関連を、念のために説明しておく。
図1(A)に示すように、シリンダヘッド2のうち燃焼用気筒3,4の箇所には、クランク軸線方向(気筒列方向)の長手中心線O1を挟んで吸気側面2aの側に位置した2つの吸気ポート20と、長手中心線O1を挟んで排気側面2bの側に位置した1つの排気ポート21とが開口している。吸気ポート20の始端はシリンダヘッド2の吸気側面に開口しており、吸気マニホールド(図示せず)から吸気が供給される。
【0024】
燃焼用気筒3,4の排気ポート21は、長手中心線O1と直交した短手中心線O2を挟んで補助気筒5の側に寄せて配置されている。正確に述べると、排気ポート21は、長手中心線O1と短手中心線O2とで区画される4つのエリアのうち、補助気筒5に寄ると共に排気側に寄ったエリアに開口している。
【0025】
補助気筒5には、第1燃焼用気筒3の排気ポート21から燃焼ガスが送られる第1流入ポート22と、第2燃焼用気筒4の排気ポート21から燃焼ガスが送られる第2流入ポート23とが開口している。
【0026】
第1流入ポート22は、平面視において、長手中心線O1を挟んで排気側面2bの側でかつ短手中心線O2を挟んで第1燃焼用気筒3に寄った部位に開口しており、第2流入ポート23は、平面視において、長手中心線O1を挟んで排気側面2bの側でかつ短手中心線O2を挟んで第2燃焼用気筒4に寄った部位に開口している。そして、第1燃焼用気筒3の排気ポート21と補助気筒5の第1流入ポート22、及び、第2燃焼用気筒4の排気ポート21と補助気筒5の第2流入ポート23とは、それぞれ縦断側面視で弓形に湾曲した取り込み通路24(
図4参照)を介して連通している(
図4参照)。
【0027】
また、補助気筒5には、燃焼ガスを排出する第1及び第2の2つの排出ポート25,26が形成されている。2つの排出ポート25,26は、長手中心線O1を挟んだ両側でかつ短手中心線O2上に位置するように形成されている。また、吸気側面2aの側に位置した第1排出ポート25は、排気側面2bの側に位置した第2排出ポート26よりも大径になっている。これは、排気側面2bの側には2つの流入ポート22,23があって、第2排出ポート26はスペースが制約されているからである。排出ポートは、例えば補助気筒5の軸心のあたりに1箇所だけ形成することも可能である。
【0028】
各ポート20,21,22・・・はバルブで開閉される。
図2では、第1燃焼用気筒3における吸気ポート20と排気ポート21との開閉構造を表示している。すなわち、通常の内燃機関と同様に、吸気ポート20は、吸気用カム軸27で駆動される吸気バルブ28で開閉され、排気ポート21は、排気用カム軸29で駆動される排気バルブ30で開閉される。バルブ28,30はスリーブ(バルブガイド)31にスライド自在に嵌まっており、ばね32によって閉じ方向に付勢されている。
【0029】
なお、
図2,3において、カム軸27,29は円形に簡略表示しているが、実際にはカム部が形成されている。また、カム軸27,29はカムキャップによって回転自在に保持されているが、これも省略している。更に、吸気ポート20にはインジェクタが臨んでいるが、図では省略している。
図1(B)に示すように、燃焼用気筒3,4における凹所8の頂部には点火プラグ33が露出している。
【0030】
図3において、補助気筒5における排出ポート25,26の開閉構造を表示している。両排出ポート25,26は、短手中心線O2の方向に延びる1つの排出通路34に集合しており、出通路34はシリンダヘッド2の排気側面2bに開口している。
【0031】
そして、第1排出ポート25は、吸気用カム軸27で駆動される第1排出バルブ35によって開閉操作されて、第2排出ポート26は、排気用カム軸29で駆動される第2排出バルブ36で開閉操作される。この場合、第2排出ポート26の上方に排出通路34があって第2排出バルブ36の露出長さが長いため、スリーブ31の嵌め代を確保するため、シリンダヘッド2に筒状の上向きボス37を形成している。
【0032】
補助気筒5の流入ポート22,23は、
図4に示す流入バルブ38によって開閉される。流入バルブ38は排気弁用カム軸29によって駆動される。
図2,3に示すように、シリンダヘッド2には冷却水ジャケット39を形成している。
【0033】
各気筒3,4,5の動きは従来と同様であり、
図5に示すように、第1燃焼用気筒3と第2燃焼用気筒4とは、位相を360°ずらした状態で4つの行程が行われる一方、補助気筒5には、第1燃焼用気筒3と第2燃焼用気筒4とから360°間隔で燃焼ガスが交互に供給されて、燃焼ガスは360°間隔で排出される。従って、流入バルブ38及び排出バルブ36,35を駆動するカムは、カム軸27,29に、軸心を挟んだ両側に一対ずつ形成されている。
【0034】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、補助ピストンにはメインピストンに対するような圧力と熱は作用しないことから単純な構造でもよいため、鍛造品も使用可能である。防錆等の点から、アルミに鉄材を鋳込むといったことも可能である。内燃機関の全体構造としては、2つの燃焼用気筒と1つの補助気筒とを1つのユニットとして、複数のユニットを直列配置した形態を採用することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明は、エネルギ回収用補助気筒を備えた内燃機関(5ストローク内燃機関)に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 シンリダブロック
2 シリンダヘッド
3 第1燃焼用気筒
4 第2燃焼用気筒
5 補助気筒
6,7 シリンダボア
10 メインピストン
11 補助ピストン
11a 肉盗み部
11b 大径部(摺動部)
11c シールリング
13 クランク軸