(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム粉末の製造方法および製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
C01B21/072 G
(21)【出願番号】P 2020016248
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 雄士
(72)【発明者】
【氏名】藤本 宗寛
(72)【発明者】
【氏名】竹内 尚志
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-059609(JP,A)
【文献】特開平04-059608(JP,A)
【文献】特開昭61-068310(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065556(WO,A1)
【文献】特開平03-005310(JP,A)
【文献】特公昭36-021508(JP,B1)
【文献】特開平01-160812(JP,A)
【文献】特開平04-108605(JP,A)
【文献】特開2006-027923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06 - 21/076
F27B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を焼成容器に充填した状態で、窒素雰囲気下、1450~1800℃に加熱する窒化反応室に供給して窒化アルミニウム粉末を製造する方法であって、
酸化アルミニウムの窒化を行う前処理として、前記混合原料と焼成容器とを、窒素流通下、650℃以上、1250℃未満の温度で、30分以上加熱処理した後、前記加熱処理された混合原料と焼成容器とを外気と接触させることなく窒化反応室に供給することを特徴とする窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項2】
前記前処理では、焼成容器に混合原料を充填し、焼成容器と混合原料との合計重量に対し、1000℃における加熱減量が5質量%以下となるように加熱処理することを特徴とする請求項1に記載の窒化アルミニウム粉末の製造方法。
【請求項3】
焼成容器に充填された酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を窒素置換する窒素置換室と
、
窒素置換された混合原料と焼成容器とを、窒素流通下、650℃以上、1250℃未満の温度で、30分以上加熱処理して水分量を減らす加熱処理室
と、
加熱処理された酸化アルミニウム粉末を窒素流通下に窒化反応させる窒化反応室を備え、
各室内にはガス流入口およびガス排出口を備え、かつ
焼成容器を移動させる移送手段および前記焼成容器の移動に合わせて各室間の隔壁を開閉する開閉手段
、および、加熱処理後の混合原料と焼成容器を外気と接触させることなく窒化反応室に供給しうる移送機構を備えることを特徴とする、窒化アルミニウム粉末の製造装置。
【請求項4】
前記加熱処理室は、ガスと接触する少なくとも一部の室内張材料が酸化アルミニウムからなり、窒化反応室は、ガスと接触する少なくとも一部の室内壁材料がカーボン材料からなる、請求項3に記載の窒化アルミニウム粉末の製造装置。
【請求項5】
さらに、窒化反応室から排出された、焼成容器内の得られた窒化アルミニウム粉末とともに存在する残存カーボンを、酸素含有ガスの存在下に加熱することにより酸化処理する酸化処理室を備えることを特徴とする請求項3又は4に記載の窒化アルミニウム粉末の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性高熱伝導部材の材料として好適に使用される窒化アルミニウム粉末の新規な製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、高電気絶縁性、高耐プラズマ性、高熱伝導性などの優れた特性を有していることから、絶縁放熱基板、半導体製造装置材料などに広く使用されている。これらは、窒化アルミニウム粉末に必要により焼結助剤を添加し、常圧あるいは加圧下で焼結することによって製造されている。代表的な焼結助剤である酸化イットリウムを用いた場合、それが窒化アルミニウム中の不純物酸素をトラップすることにより、高熱伝導化が達成される。
【0003】
ところで、一般的な窒化アルミニウム粉末の製法として、酸化アルミニウム粉末とカーボン粉末の混合原料を窒素雰囲気に制御された窒化反応室中で加熱する還元窒化法が知られている。この還元窒化法により得られる窒化アルミニウム粉末は、粒径が10μmを超える粗大粒子が少ない上に粒子形状も球に近く高純度であるため、成形性、焼結性に優れており、焼結体としたときには高い熱伝導率を得やすい特徴がある。そのため、高熱伝導性セラミックス部材、特に、高純度が求められる半導体製造装置用部材の原料として、還元窒化法により製造した窒化アルミニウム粉末が好適である。
また本出願人は、このような還元窒化法に好適なグラファイト製焼成容器を特許文献1に提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、前記還元窒化法による窒化アルミニウムの製造プラントで稼働開始数ヵ月経過後、窒化反応室内点検を実施した結果、室内の部材や焼成容器が著しく劣化するという問題点を発見した。そして、調査の結果、その原因は原料粉末(アルミナ・カーボンの混合粉末)の持ち込み水分による炉材や焼成容器に使用されるグラファイトの酸化消耗と判明した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
原料アルミナの加熱減量は1質量%以下であるが、そのうち結合水(吸着水)は0.2~0.3質量%存在する。通常の乾燥機では乾燥温度200℃までが限界であるため、結合水がそのまま還元窒化炉に持ち込まれることになる。一方、アルミナの結合水の脱離が完了するには650℃以上の高温が必要となる。また、焼成容器のグラファイトも大気との接触において水分を吸着している。
そこで、本発明者らは、混合原料を充填した焼成容器を窒化反応室(還元窒化炉)に供給する前に、加熱処理する工程を設け、還元窒化炉に持ち込まれる水分を調整することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法は、
酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を焼成容器に充填した状態で、窒素雰囲気下、1450~1800℃に加熱する窒化反応室に供給して窒化アルミニウム粉末を製造する方法であって、
酸化アルミニウムの窒化を行う前処理として、前記混合原料と焼成容器とを、窒素流通下で650℃以上、1250℃未満の温度で、30分以上加熱処理した後、前記加熱処理された混合原料と焼成容器とを外気と接触させることなく窒化反応室に供給することを特徴とする。
前記前処理では、焼成容器に混合原料を充填し、焼成容器と混合原料との合計重量に対し、1000℃における加熱減量(減量が無くなるまで加熱した際の減量)が5質量%以下となるように加熱処理することが好ましい。
【0008】
また本発明に係る窒化アルミニウム粉末の製造装置は、
焼成容器に充填された酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を窒素置換する窒素置換室と、加熱処理室、窒化反応室を備え、
各室内にはガス流入口およびガス排出口を備え、かつ
焼成容器を移動させる移送手段および前記焼成容器の移動に合わせて各室間の隔壁を開閉する開閉手段を設けてなることを特徴とする。
【0009】
また、前記加熱処理室は、ガスと接触する少なくとも一部の室内張材料が酸化アルミニウムからなり、窒化反応室は、ガスと接触する少なくとも一部の室内壁材料がカーボン材料からなることが好ましい。
さらに、窒化反応室から排出された、焼成容器内の得られた窒化アルミニウム粉末とともに存在する残存カーボンを、酸素含有ガスの存在下に加熱することにより酸化処理する酸化処理室を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法及び製造装置を採用することで、混合原料及び焼成容器より持ち込まれる水分による窒化反応室の内壁や焼成容器の侵食を防止しながら、品質に優れる窒化アルミニウム粉末を製造することができる。また、これにより、装置の耐用年数が飛躍的に伸び、長期連続運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の製造装置の概略図を示す平面図である。
【
図2】本発明において使用する代表的な態様の焼成容器の斜視図である。
【
図3】本発明において使用する他の代表的な態様の焼成容器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
〔混合原料〕
アルミナ粉末
本発明の窒化アルミニウム粉末の出発原料として用いるアルミナ粉末は、アルミナ又はその水和物が特に制限無く使用される。アルミナ粉末は、α、γ、θ、δ、η、κ、χ等の結晶構造を持つアルミナやベーマイトやダイアスポア、ギブサイト、バイヤライト、トーダイトなど加熱により脱水転移して最終的に全部又は一部がα-アルミナに転移するアルミナ水和物が全て利用可能である。
【0014】
これらは単独或いは種類の異なるものが混合された状態で用いても良いが、特に反応活性が高く、制御が容易なα-アルミナ、γ-アルミナ、ベーマイトが好適に用いられる。
【0015】
また、原料酸化アルミニウムとしてはできるだけ高純度のものを用いることが好ましく、具体的には、Fe、Ca、Si、Ti、V、Cr,Niの含有量の合計が500質量ppm以下、特に400質量ppm以下のものを採用することが好ましい。
酸化アルミニウム粉末の製造方法についても制限されず、ボーキサイトを出発原料とした、いわゆるバイヤー法によって製造されるアルミナ、アンモニウムミョウバンの熱分解法、アンモニウムアルミニウム炭酸塩の熱分解法、アルミニウムアルコキシドの加水分解法など、合成により製造される高純度アルミナが使用できる。得られる窒化アルミニウム粉末の金属成分の濃度を厳密に制御する場合には、合成により製造される高純度アルミナを原料として用いた方が好適である。
【0016】
本発明に使用する酸化アルミニウム粉末の比表面積や平均粒子径は何等制限されないが、BET比表面積は2~20m2/g、平均粒子径は、0.1から10μmのものが好適に使用される。
【0017】
カーボン粉末
酸化アルミニウムを窒素雰囲気下で窒化するにあたっては、通常、還元のためにカーボン粉末を共存させる。
【0018】
当該原料カーボン粉末は、カーボンブラック、黒鉛粉末が使用できる。上記カーボンブラックとしては、ファーネス法、チャンネル法のカーボンブラックおよび、アセチレンブラックが好適に用いられる。
【0019】
これらのカーボン粉末の比表面積は、任意であるが0.01m2/gから500m2/gのものを用いるのが好ましい。
【0020】
また原料カーボン粉末としてはできるだけ高純度のものを用いることが好ましく、具体的には、例えば Na、Fe、Ca、Si、Ti、V、Cr、Niの含有量の合計が100質量ppm以下、特に70質量ppm以下のものを採用することが好ましい。
【0021】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、フランフェノール樹脂等の合成樹脂縮合物やピッチ、タール等の炭化水素化合物や、セルロース、ショ糖、ポリ塩化ビニリデン、ポリフェニレン等の有機化合物等のカーボン源を原料として併用することもできる。
【0022】
原料混合
本発明の窒化アルミニウム粉末の製造方法において、原料の混合方法としては、酸化アルミニウム粉末およびカーボン粉末が均一な組成で存在する方法であれば、湿式、乾式を問わず、いずれの方法でも良いが、ブレンダー、ミキサー、ボールミルによる混合が好適である。
【0023】
カーボン粉末の使用量は、酸化アルミニウム粉末100質量部に対して、40~60質量部とすればよい。
【0024】
窒素
本発明において、窒化に用いる窒素ガスとしては、公知の還元窒化反応に用いる窒素ガスと同等のものを特に制限無く用いることができる。また、水素、一酸化炭素、アンモニアなどの還元性ガスを併用することも可能である。
【0025】
〔原料充填〕
酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を焼成容器に充填する。
焼成容器としては特に制限されないが、窒素ガスとの置換効率や窒素ガスの流通性などの観点から、特公平5-13909号公報に記載された焼成容器を用いることが好ましい。通常、上記焼成容器はグラファイトなどの炭素材料から構成される。
【0026】
たとえば、
図2に示すような、被焼成物である混合原料を充填する原料室とガス排出室とを有する焼成容器を用いることができる。
図2は、本発明の方法で使用される焼成容器の斜視図である。被焼成物の混合原料1は、底が浅く開口面積が大きい焼成容器2に入れられる。焼成容器2は、混合原料1を充填する原料室3と、該原料室3と隔壁4によって隔てられたガス排出室5とを有する。
【0027】
焼成容器2は、生産性向上のために多段に積重ねられて使用可能である。
焼成容器を多段に積重ねた場合に、焼成容器内へガスの流通を行なうために、原料室3にはガス流入口6が設けられている。ガス流入口6を設ける位置は、原料室3を構成する側壁であることが好ましいが、特に限定されない。
焼成容器2のガス排出室5には、ガス排出口7が設けられている。ガス排出室5は、各焼成容器2の原料室3を通過したガスを焼成炉外に排出するために、該ガスを集めるためのものである。従って、ガス排出室5は、多段に積重ねられた焼成容器2の最上段から最下段迄、連通されていることが好ましい。このため、ガス排出口7は、ガス排出室5の底面に通常設けられている。
【0028】
上記した焼成容器2の原料室3とガス排出室5との間でガスの流通を行なうために、原料室3とガス排出室5とを隔てる隔壁4にガス通過孔8が設けられている。こうして、焼成炉内に導入されたガスは、原料室3に設けられたガス流入口6を通過して原料室3に導かれ、次いで、ガス通過孔8を通過してガス排出室5へ至り、そして、ガス排出口7を通って排出される。
【0029】
上記した焼成容器は、原料室とガス排出室とがそれぞれ1つからなるが、
図3に示すようにガス排出室をはさんで2つの原料室からなる焼成容器であっても良い。
図2および
図3は、最上段の焼成容器の内部が見えるように描いたが、焼成時には各段の焼成容器内へのガスの流入量が等しくなるようにするために、最上段の焼成容器は蓋で覆うことが好ましい。
【0030】
〔加熱処理〕
本発明では、酸化アルミニウムの窒化を行う前処理として、前記混合原料を充填した焼成容器とを、窒素流通下で650℃以上、1250℃未満、好ましくは800~1000℃の温度で、30分以上加熱処理する。前記温度であれば、酸化アルミニウムの窒化反応は起こらず、酸化アルミニウム中の付着水分が除去される。加熱温度が低いと水分が除去されず、炉の浸食を防ぐことが困難となる。また、加熱温度が高いと、酸化アルミニウム同士の焼結が始まるため、窒化アルミニウムの製造や最終的な粉末の物性に影響が出ることがある。
【0031】
加熱処理は、30分以上、好ましくは200分以上行われる。その後、加熱処理された混合原料と焼成容器とを外気と接触させることなく、窒化反応室に移送させる。
上記加熱処理において、流通させる窒素ガスは、露点が低いほど好ましく、一般には、大気圧下で-70℃以下、好ましくは、-75℃以下のものが好適に使用される。また、窒素ガスの流通量は水分が除去可能な流量が確保されるように適宜決定すればよい。
なお、加熱処理を行う加熱処理室において、ガス接触部の材質はアルミナから構成されることが好ましい。通常、加熱処理は、乾燥炉や窒素置換室内で行われる。このため、ガスと接触する内張部分は、アルミナレンガから構成されることが好ましい。
【0032】
前記加熱処理では、焼成容器に混合原料を充填し、焼成容器と混合原料との合計重量に対し、1000℃における加熱減量が5質量%以下となるように加熱処理することが好ましい。
因みに、原料アルミナの加熱減量は、1質量%以下であるが、吸着水を含む結合水は0.2~0.3質量%存在する。かかる加熱処理によって、結合水量が0.1質量%以下まで除去される。
【0033】
尚、前記焼成容器に充填された混合原料は、焼成容器および原料中に含まれる窒素以外のガスが、窒素ガスに置換される。このような窒素置換は、上記加熱処理時に行ってもよいが、加熱処理に供される前に、別途実施することも可能である。かかる窒素置換は、混合原料を充填した焼成容器を収容する室内のガスを一端真空引きしたのち、窒素ガスを導入して行うのが一般的である。
【0034】
〔窒化反応処理〕
加熱処理後の混合原料を充填した焼成容器を、窒素雰囲気下で、混合原料と焼成容器とを外気と接触させることなく窒化反応室に供給して、1450~1800℃、好ましくは1500~1700℃の温度に加熱する窒化反応室に供給して、酸化アルミニウムを窒化還元して、窒化アルミニウム粉末を製造する。
供給された窒素ガスは、前記した焼成容器内を通り、混合原料と接触して還元窒化反応が進む。
窒化反応処理では以下のような還元窒化反応が進行して、窒化アルミニウムが製造される。
Al2O3 + 3C + N2 → AlN + 3CO
この反応は吸熱反応(27kJ/AlN・mol、1800℃)であり、反応の制御が容易であり、粒径の揃った高純度窒化アルミニウム粉末が得られる。
【0035】
焼成温度は上記の下限温度より低い温度では窒化反応が十分進行せず、また、焼成温度が前記の上限温度を越える高い温度では窒化反応は十分進行するが、窒化アルミニウム粉末の凝集が著しくなることがある。
【0036】
前記焼成の際には焼成炉の炉材や焼成ボートなどの材質について不純物の原因とならないように配慮することが好ましい。また、窒素雰囲気は、高純度の窒素ガス流通下であるかあるいはそれにアンモニアガスなどを加えたガスが好適であり、通常これらの反応ガスを窒化反応が十分進行するだけの量、連続的又は間欠的に供給しつつ焼成すると良い。なお、窒化反応処理では、ガスと接触する少なくとも一部の室内張材料がカーボン材料からなることが好ましい。
【0037】
また、前記還元窒化反応において、還元窒化のための反応温度への昇温速度は、いかなる速度でもよいが、一般には、5~20℃/分が好ましい。
また、前記還元窒化温度にて還元窒化を行なう時間は、酸化アルミニウム粉末の窒化が完了するまでの時間を適宜決定すればよい。一般に、かかる時間は、2時間以上であり、好ましくは、5~50時間である。
【0038】
また窒化反応処理では、少なくとも60%以上の転化率となるまで反応を進行させる第一の窒化反応処理と、第一の処理よりも高温の条件下で加熱する第二の窒化反応処理とから構成してもよく、第一の窒化反応処理の温度は1450℃以上1600℃以下で、第二の窒化反応処理の温度は1600℃を超え1800℃以下で行えばよい。
得られた窒化アルミニウム粉末は、焼成容器から回収される。
【0039】
〔酸化処理〕
回収された窒化アルミニウム粉末は、フリーの余剰カーボン粉末を含んでいるため、これを除去するために酸化処理を行うのが好ましい。酸化処理は高温で、酸化性ガスを用いて余剰のカーボン粉末を燃焼する方法が一般的である。
【0040】
酸化処理を行う際の酸化性ガスとしては、空気、酸素等の、カーボンを酸化し得るガスならば制限無く採用できるが、経済性や得られる窒化アルミニウムの酸素濃度を考慮して、空気が好適である。また、常圧の空気雰囲気下で酸化処理を行う場合、1200℃付近より窒化アルミニウムの急激な酸化が起こるため、処理温度は500~1100℃が好ましく、酸化の効率と窒化アルミニウム表面の過剰酸化を考慮して、600~900℃がさらに好ましい。
【0041】
酸化処理の時間は、カーボンの減少具合に応じて適宜設定すればよいが、例えば600~900℃で行うのであれば、1~6時間でできる。
酸化処理は、酸化炉が使用されるが、その形式は特に制限されず、静置式酸化炉または、攪拌機能を有する酸化炉などを使用できる。具体的には、マッフル炉、箱型炉、ボックス炉、ロータリーキルン、攪拌羽根の如き粉末の攪拌機構を具備した箱型炉等が挙げられる。そのうち、ロータリーキルンは、連続処理に適しており好適に使用される。また、上記撹拌式酸化炉は、温度を所定の範囲に維持するために、加熱手段を具備することが好ましい。特に、ロータリーキルンは、その外周に加熱手段を具備したものが好適である。
【0042】
酸化処理後の窒化アルミニウム粉末は、ミキサーなどにより、品質を均一化させたのち、各種包袋や缶詰に充填され製品として出荷される。
本発明の製造方法で得られる窒化アルミニウム粉末は、一次粒子の平均の円形率が80%以上となる。多くの場合には90%以上である。高い円形率を有しているため、窒化アルミニウム粉末を原料として焼結体を得る際の成形性が良好である。このような高い円形率は窒化アルミニウム粉末を還元窒化法により製造することにより達成することができるものであり、直接窒化法では粉砕等の処理が入るため、円形率は極めて低いものとなってしまう。
【0043】
〔窒化アルミニウム粉末の製造装置〕
本発明の製造装置は、
図1に示すように、前記酸化アルミニウム粉末とカーボンからなる混合原料を充填した焼成容器2を窒素置換するための窒素置換室10と、加熱処理室11、窒化反応室12とを備える。
各室内にはガス流入口およびガス排出口を備え、かつ焼成容器を各室に移動させる移送手段および前記焼成容器2の移動に合わせて各室を仕切る隔壁の開閉手段を設けてなる。これらは、公知の構造を有する装置が特に制限無く使用される。
【0044】
・窒素置換室
窒素置換室10では、入口側の隔壁が開となり、酸化アルミニウム粉末およびカーボン粉末からなる原料粉末を充填した焼成容器2が供給される。
【0045】
窒素置換室10では、原料や焼成容器2に混在しているガスを窒素ガスと置換する。かかる窒素置換方法は、窒素置換室10内の窒素以外のガスが、窒素ガスに置換すればよく、例えば、窒素置換室10内を真空ポンプにより一端真空引きしたのち、窒素を導入することにより行う方法が確実であり、一般に好ましく採用される。勿論、窒素置換室10に窒素ガスを流し続けることによる置換方法も採用可能である。
【0046】
窒素置換室10の入口の隔壁、加熱処理室11との間の隔壁は、シャッター、バルブ等により構成され、入口の隔壁を開いて焼成容器2を装入したのち、隔壁を閉じ、窒素置換したのち、加熱処理室11との隔壁を開として、処理後の焼成容器2を窒化反応室12に移送する。移送手段の一例としては、例えば押し出し式移送機構で、容器ごと押されて、コンベヤーやローラーなどが設けられた移送路上を移動する。
【0047】
・加熱処理室
加熱処理室11は、窒素ガスを導入・排出することにより、窒素ガスを流しながら、窒素置換室10にて窒素置換された混合原料と焼成容器2を所定の温度で加熱して、所定の量以下となるように水分量を減らす。加熱処理室11は、ガスと接触する少なくとも一部の室内張材料が酸化アルミニウムからなることが好ましい。炭素材料で構成すると、加熱処理で除去される水分によって、室内張材料が侵食されることがある。
加熱処理室11には、所定の温度に加熱するための加熱手段が設けられ、加熱手段は加熱処理室11内部に設けられても、外部に設けられ内部を加熱するように設けられてもよい。
尚、本発明において、加熱処理室11が前記窒素置換室10を兼ねることも可能である。即ち、加熱処理室11において窒素置換を行った後、加熱処理を行うことも可能であり、この場合、窒素置換室10は別途設ける必要は無い。
【0048】
・窒化反応室
窒化反応室12では、窒素ガスを焼成容器2内に流通させて、酸化アルミニウム粉末を窒化する。窒化反応室12は、熱伝導性の観点などから、ガスと接触する少なくとも一部の室内張材料がカーボン材料から構成されることが好ましい。
窒化反応室12には、所定の温度に加熱するための加熱手段が設けられ、加熱手段は加熱処理室11内部に設けられても、外部に設けられ内部を加熱するように設けられてもよい。
加熱処理室11と窒化反応室12は、窒素ガスは焼成容器2内を通るように導入される。また、窒素置換室10には、直接、窒素ガスを流通させなくとも、加熱処理室11からの窒素が入るようになっている。
【0049】
・酸化処理室
さらに、窒化反応室12から排出された、窒化アルミニウム粉末とともに存在する残存カーボンを、酸素含有ガスの存在下に加熱することにより酸化処理する酸化処理室(酸化炉)を備えることが好ましい。このため、本発明の製造装置には、窒化反応室12から排出された、窒化アルミニウム粉末と残存カーボンとを回収する回収手段が設けられていてもよく、具体的には、産業用ロボットなどにより自動で回収する方法が挙げられる。
酸化炉としては、前記したような静置式酸化炉または、攪拌機能を有する酸化炉などを使用できる。具体的には、マッフル炉、箱型炉、ボックス炉、ロータリーキルン、攪拌羽根のような粉末の攪拌機構を具備した箱型炉等が挙げられる。
【0050】
本発明の製造方法で得られる窒化アルミニウム粉末は、適度な粒径で粗大粒子が少なく、球形で、不純物も極めて少ないため、焼結体原料やフィラー用途等の各種用途に好適に使用できる。焼結体原料として使用される場合、本発明の窒化アルミニウム粉末は、テープ成形、プレス成形などの公知の方法により成形され、常圧もしくは加圧化で焼結される。具体的な用途としては、LED、パワーモジュール等の放熱基板、半導体製造装置用のヒーター、静電チャック等の用途が挙げられる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例における各種物性および関連する数値は、下記の方法により測定した。
【0052】
(1)体積基準での50%粒径(D50)
酸化アルミニウム粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウムと未反応原料酸化アルミニウムの混合粉末の平均粒子径(D50)は、試料をホモジナイザーにてピロリン酸ソーダ水溶液中に分散させ、日機装株式会社製 MICROTRAC HRAを用いてレーザー回折法により測定した。
【0053】
(2)比表面積
酸化アルミニウム粉末、カーボン粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化アルミニウムと未反応原料酸化アルミニウムの混合粉末の比表面積は、島津製作所製流動式表面積自動測定装置フローソーブ2300形を用いてBET法により測定した。
【0054】
〔実施例1〕
D
50が0.8μm、比表面積6.5m
2/gであるα-アルミナ100質量部と、比表面積3.4m
2/gのカーボンブラック50質量部とを振動ボールミルにより混合し、
図2に示すグラファイト製の焼成容器に充填した。上記焼成容器を窒素置換室にて窒素置換した後、加熱処理室に送り、1000℃に加熱しながら、露点-70℃以下の窒素ガスを流通させ、3時間加熱処理を行った。上記加熱処理により、焼成容器と混合原料とを合わせた、1000℃における加熱減量は2質量%となった。
上記処理後、焼成容器を窒化反応室に送り、窒素雰囲気下において、1600℃、20時間の条件で窒化反応処理を行った。
【0055】
得られた反応混合粉末を、空気雰囲気下において、630℃、8時間の条件で酸化処理(脱炭処理)を行った後、解砕を行い、窒化アルミニウム粉末を得た。
上記一連の処理を、1年間継続して行った後に窒化反応室の内壁(グラファイト)及び繰り返して使用した焼成容器を観察したが、侵食箇所は全く存在しなかった。
【0056】
〔比較例1〕
前記加熱処理を行わずに、窒化反応室に混合原料を充填した焼成容器を直接供給して窒化反応処理を行った以外、実施例1と同様に窒化アルミニウム粉末を製造した。
上記一連の処理を、運転開始から1ヶ月経過後に焼成容器および窒化反応室内壁を観察したところ、焼成容器及び反応室内壁において激しい侵食が起こっていた。
【符号の説明】
【0057】
1・・・混合原料
2・・・焼成容器
3・・・原料室
4・・・隔壁
5・・・ガス排出室
6・・・ガス流入口
7・・・ガス排出口
8・・・ガス通過孔
10・・・窒素置換室
11・・・加熱処理室
12・・・窒化反応室