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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】糸巻取機
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/26 20060101AFI20231212BHJP
   B65H 54/44 20060101ALI20231212BHJP
   B65H 54/20 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B65H57/26
B65H54/44 Z
B65H54/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020018200
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021123458
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】澤田 淳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102016010243(DE,A1)
【文献】実開昭60-145153(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 57/26
B65H 54/44
B65H 54/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機台と、
前記機台に回転自在に支持されて水平方向に沿った軸方向に延び、複数の糸をそれぞれ巻き取ることが可能である複数のボビンが前記軸方向に並べて装着されたボビンホルダと、
前記軸方向に沿って延び、前記複数のボビンに前記複数の糸がそれぞれ巻き取られて形成される複数のパッケージの外周面に当接するコンタクトローラと、
前記複数のパッケージと前記コンタクトローラとの接点よりも前記パッケージの回転方向上流側の領域の少なくとも一部に設けられ、前記複数のパッケージの周方向に沿って設けられた第1カバー部と、
前記接点よりも前記回転方向上流側の領域且つ前記第1カバー部よりも前記回転方向下流側の領域に設けられ、前記パッケージの回転に伴って前記接点に向かう空気を隣接する前記パッケージ間の隙間に誘導する第2カバー部と、を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記第1カバー部の少なくとも一部は、前記複数のパッケージの全周のうち、鉛直方向の下側半分の領域に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記第1カバー部は、前記接点から前記周方向に沿って225度の範囲内に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記第1カバー部は、前記複数のパッケージの全周のうち、鉛直方向の下側半分の領域に設けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記第2カバー部は、平板状であって、前記接点を中心に前記接点を通る接線から25度以内の範囲に設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記第2カバー部は、前記パッケージの周方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記第1カバー部は、前記周方向に沿って90度以上の範囲にわたって、設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項8】
前記第1カバー部の径の大きさは、糸の巻き取りに伴って拡径する前記パッケージの外周面に沿うように変動可能であることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項9】
前記第1カバー部及び前記第2カバー部は前記軸方向に沿って延び、且つ、隣接する前記パッケージ間の隙間のすべてを覆うことを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項10】
前記第1カバー部及び前記第2カバー部の前記軸方向における両端は、前記パッケージの軸方向における両端よりも外側であることを特徴とする請求項9に記載の糸巻取機。
【請求項11】
前記ボビンホルダは、糸の巻き取りが行われる糸巻取位置と、糸の巻き取りが行われない待機位置との間で移動可能であり、
前記第1カバー部及び前記第2カバー部を、前記ボビンホルダが前記糸巻取位置と前記待機位置との間を移動するときの移動軌跡上から退避させる移動機構を有することを特徴とする請求項1~10のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【請求項12】
前記第1カバー部と前記第2カバー部とは、それぞれ独立して形成されていることを特徴とする請求項11に記載の糸巻取機。
【請求項13】
前記第1カバー部と前記第2カバー部とは一体形成されていることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸を巻き取る糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、糸を巻き取る糸巻取機が開示されている。この糸巻取機104は、図10に示すように、機台に片持ち支持されて水平方向に延びたボビンホルダ124と、ボビンホルダ124の軸方向に並べて装着された複数のボビンB’とを備える。また、複数のボビンB’に複数の糸Yがそれぞれ巻き取られて形成される複数のパッケージP’に接圧を付与するコンタクトローラ125をさらに備えている。そして、糸巻取機104は、ボビンホルダ124を回転させることで糸を巻き取る構成であり、ボビンB’に糸が巻き取られるにつれてパッケージP’の径が大きくなる。
【0003】
ここで、例えば、特許文献1の糸巻取機104において、糸Yを巻き取る際にボビンホルダ124を回転させると、複数のパッケージP’の外周面に沿って随伴流F(空気流)が発生する。この随伴流Fの一部は、パッケージP’の回転と共にパッケージP’の外周面から剥離し(図10中の剥離空気f)、パッケージP’の外周面には空気の密度が低くなる部分が生じる。すると、空気の密度が低い部分に向かって、パッケージP’の周囲の空間から空気が引き込まれる。このときに引き込まれる空気がパッケージP’にかかる空気抵抗となる。パッケージP’にかかる空気抵抗は、ボビンホルダ124を回転させるときの負荷となるため、糸Yを巻き取る際の消費電力の増大を引き起こす。
【0004】
例えば、特許文献2には、巻取スピンドル(ボビンホルダ)の突出する方向に対して平行に延在し、且つ、巻取スピンドルに取り付けられたリール管(ボビン)に糸が巻き取られて形成されるリール(パッケージ)の周方向に延在する遮蔽パネルが設けられた糸巻取機について記載されている。そして、遮蔽パネルには、リールの周方向に沿って延在したエアガイドパネルを備えている。エアガイドパネルを備えた遮蔽パネルを設けることにより、随伴流によって生じる負荷を低減させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-203472号公報
【文献】DE102016014977
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、特許文献2には、回転するリールにより生じる随伴流は、遮蔽パネルが備えるエアガイドパネルによって分離され、リールの周方向に導かれる旨が記載されている。つまり、特許文献2の糸巻取機では、遮蔽パネルがリールの回転方向下流側の領域に配置されている。このため、特許文献2の糸巻取機では、パッケージ(リール)と押圧ローラとの接点付近に向かう随伴流のパッケージ外周面からの剥離を抑えることはできない。特に、糸の巻き取りに伴いパッケージの径が大きくなり周面積が大きくなるにつれて、回転するパッケージの外周面から剥離する空気は増大し、パッケージにかかる空気抵抗も増大するため消費電力はさらに増大する。
【0007】
また、近年の糸巻取機は、より多くの糸を同時に巻き取るために巻取りボビンの多エンド化の傾向にあり、消費電力の大きい多エンド化の糸巻取機において、糸の巻き取りの際の消費電力の削減に対するニーズは大きい。
【0008】
本発明は、複数のボビンが装着されたボビンホルダを備えた糸巻取機において、糸の巻き取りに伴い、パッケージの径が大きくなることによる空気抵抗増大を抑制し、消費電力を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の糸巻取機は、機台と、前記機台に回転自在に支持されて水平方向に沿った軸方向に延び、複数の糸をそれぞれ巻き取ることが可能である複数のボビンが前記軸方向に並べて装着されたボビンホルダと、前記軸方向に沿って延び、前記複数のボビンに前記複数の糸がそれぞれ巻き取られて形成される複数のパッケージの外周面に当接するコンタクトローラと、前記複数のパッケージと前記コンタクトローラとの接点よりも前記パッケージの回転方向上流側の領域の少なくとも一部に設けられ、前記複数のパッケージの周方向に沿って設けられた第1カバー部と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明によれば、随伴流は、第1カバー部の内周面に誘導されることで、複数のパッケージの外周面に沿うようにして前記接点に向かって流れる。このため、回転する複数のパッケージの外周面から空気が剥離することを抑制することができる。これにより、糸の巻き取り時にパッケージにかかる空気抵抗を抑制することができ、消費電力を削減することができる。
【0011】
第2の発明の糸巻取機は、前記第1の発明において、前記第1カバー部の少なくとも一部は、前記複数のパッケージの全周のうち、鉛直方向の下側半分の領域に設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
前記接点付近に向かう随伴流の多くは、複数のパッケージの全周のうちの下側半分の領域において剥離する。本発明によれば、第1カバー部が、複数のパッケージの全周のうちの下側半分の領域を覆うこととなるため、随伴流の剥離をより確実に抑制することができる。
【0013】
第3の発明の糸巻取機は、前記第2の発明において、前記第1カバー部は、前記接点から前記周方向に沿って225度の範囲内に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
第1カバー部をパッケージの全周の広範囲にわたって配置すると、糸巻取機全体の重量が増大し、糸の巻き取り時に糸巻取機が揺動しやすくなる。そうすると、パッケージ品質を低下させるおそれがある。本発明によれば、第1カバー部を、接点よりも回転方向上流側の領域において、接点から周方向に沿って225度以内の範囲にわたって設けられていることで、接点付近に向かう随伴流の剥離を抑えつつ、糸巻取機の重量の増大を抑制することができる。したがって、消費電力を削減しつつ、パッケージ品質を確保することができる。
【0015】
第4の発明の糸巻取機は、前記第2及び第3の発明において、前記第1カバー部は、前記複数のパッケージの全周のうち、鉛直方向の下側半分の領域に設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
第1カバー部は、パッケージの回転時の振動が伝わり、重力のかかる下方に撓むことがある。第1カバー部がパッケージの全周のうちの上側半分の領域に設けられている場合、下方に撓んだ第1カバー部はパッケージと接触するおそれがある。本発明によれば、第1カバー部がパッケージの全周のうちの下側半分の領域に設けられているため、下方に撓んだ第1カバー部がパッケージと接触することはない。これにより、パッケージ品質をより確実に確保することができる。
【0017】
第5の発明の糸巻取機は、前記第1~第4の発明において、前記接点よりも前記回転方向上流側の領域且つ前記第1カバー部よりも前記回転方向下流側の領域に設けられ、前記パッケージの回転に伴って前記接点に向かう空気を隣接する前記パッケージ間の隙間に誘導する第2カバー部をさらに備えることを特徴とするものである。
【0018】
本発明によれば、第2カバー部によって、接点付近に向かう随伴流は、コンタクトローラとの衝突によりパッケージの外周面から剥離することを回避しつつ、隣接するパッケージ間の隙間に誘導される。これにより、回転する複数のパッケージの外周面から空気が剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をさらに削減することができる。
【0019】
第6の発明の糸巻取機は、前記第5の発明において、前記第2カバー部は、平板状であって、前記接点を中心に前記接点を通る接線から25度以内の範囲に設けられていることを特徴とするものである。
【0020】
本発明によれば、接点に向かう随伴流を、隣接するパッケージ間の隙間により確実に誘導することができ、消費電力をより削減することができる。
【0021】
第7の発明の糸巻取機は、前記第5の発明において、前記第2カバー部は、前記パッケージの周方向に沿って設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
本発明によれば、接点に向かう随伴流のより多くを、隣接するパッケージ間の隙間に送り込むことができ、消費電力をより削減することができる。
【0023】
第8の発明の糸巻取機は、前記第1~第7の発明において、前記第1カバー部は、前記周方向に沿って90度以上の範囲にわたって、設けられていることを特徴とするものである。
【0024】
本発明によれば、第1カバー部が複数のパッケージの外周面のより広い範囲を保護することができるため、回転する複数のパッケージの外周面から空気が剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0025】
第9の発明の糸巻取機は、前記第1~第8の発明において、前記第1カバー部の径の大きさは、糸の巻き取りに伴って拡径する前記パッケージの外周面に沿うように変動可能であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明では、糸の巻き取りの開始初期の段階から、複数のパッケージの外周面から随伴流が剥離することを抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0027】
第10の発明の糸巻取機は、前記第5~第9の発明において、前記第1カバー部及び前記第2カバー部は前記軸方向に沿って延び、且つ、隣接する前記パッケージ間の隙間のすべてを覆うことを特徴とするものである。
【0028】
本発明では、第1カバー部及び第2カバー部は、それぞれ軸方向に沿って隙間なく設けられている。このため、随伴流が、軸方向に沿った隙間を通って、パッケージの外周面からパッケージの径方向の外側に向かって剥離することを防止できる。これにより、複数のパッケージの外周面から随伴流が剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0029】
第11の発明の糸巻取機は、前記第10の発明において、前記第1カバー部及び前記第2カバー部の前記軸方向における両端は、前記パッケージの軸方向における両端よりも外側であることを特徴とするものである。
【0030】
本発明では、回転するパッケージのうち両端のパッケージの外周面から軸方向の外側に向かって随伴流が剥離することを防ぐことができる。これにより、消費電力をより削減することができる。
【0031】
第12の発明の糸巻取機は、前記第5~第11の発明において、前記ボビンホルダは、糸の巻き取りが行われる糸巻取位置と、糸の巻き取りが行われない待機位置との間で移動可能であり、前記第1カバー部及び前記第2カバー部を、前記ボビンホルダが前記糸巻取位置と前記待機位置との間を移動するときの移動軌跡上から退避させる移動機構を有することを特徴とするものである。
【0032】
2つのボビンホルダを備えた糸巻取機では、ボビンホルダに装着された複数のボビンへの糸の巻き取り作業が完了するたびに、糸巻取位置にあるボビンホルダと待機位置にあるボビンホルダとを交換する作業が行われる。本発明では、第1カバー部及び第2カバー部を移動軌跡上から退避させることにより、ボビンホルダの交換をスムーズに行うことができる。
【0033】
第13の発明の糸巻取機は、前記第12の発明において、前記第1カバー部と前記第2カバー部とは、それぞれ独立して形成されていることを特徴とするものである。
【0034】
第1カバー部及び第2カバー部を移動軌跡上から退避させるときに、本発明のように第1カバー部と第2カバー部とがそれぞれ独立に形成されている場合、第1カバー部と第2カバー部とが一体形成されている場合と比べて、省スペースで移動させることができる。これにより、糸巻取機全体の大型化を抑制することができる。
【0035】
第14の発明の糸巻取機は、前記第5~第12の発明において、前記第1カバー部と前記第2カバー部とは一体形成されていることを特徴とするものである。
【0036】
本発明では、第1カバー部と第2カバー部との間の隙間を通って、複数のパッケージの外周面から随伴流が剥離することを防ぐことができ、空気抵抗をより低減できる。これにより、消費電力をより削減することができる。
【発明の効果】
【0037】
複数のボビンが装着されたボビンホルダを備えた糸巻取機において、糸の巻き取りに伴い、パッケージの径が大きくなることによる空気抵抗増大を抑制し、消費電力を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本実施形態に係る糸巻取機を有する引取装置の側面図である。
図2】糸巻取機の正面図である。
図3】第1カバー部によって、パッケージの外周面に沿うように流れる随伴流について説明する糸巻取機の部分正面図である。
図4】第2カバー部によって、隣接するパッケージ間の隙間に誘導される随伴流について説明する糸巻取機の部分斜視図である。
図5】第1カバー部及び第2カバー部がボビンホルダの移動軌跡上から退避した状態における糸巻取機の正面図である。
図6】第1変形例に係る糸巻取機の正面図である。
図7】第1変形例において、パッケージが拡径したときにおける糸巻取機の正面図である。
図8】第2変形例に係る糸巻取機の正面図である。
図9】比較例3に係る糸巻取機の正面図である。
図10】従来の糸巻取機の正面図であって、パッケージの外周面から剥離する随伴流について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
(引取装置1の全体構成)
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態に係る糸巻取機4を有する引取装置1の側面図である。以下、図1の紙面上下方向を上下方向、紙面左右方向を前後方向とする。また、図1の紙面に垂直な方向を左右方向とし、紙面表側を右方、裏側を左方とする。なお、図1では、後述の第1カバー部41及び第2カバー部51の記載は省略している。
【0040】
引取装置1は、紡糸装置3から紡出されてくる糸Yを引き取るための第1ゴデットローラ8、第2ゴデットローラ9及び糸規制ガイド7と、引き取られた糸Yを複数のボビンBに巻き取って複数のパッケージPを形成するための糸巻取機4とを備える。
【0041】
第1ゴデットローラ8は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、糸巻取機4の前端部の上方に配置されている。第1ゴデットローラ8は、不図示のモータによって回転駆動される。第2ゴデットローラ9は、軸方向が左右方向と略平行なローラであり、第1ゴデットローラ8よりも上方且つ後方に配置されている。第2ゴデットローラ9は、不図示のモータによって回転駆動される。
【0042】
糸規制ガイド7は、第1ゴデットローラ8の上方に配置されている。糸規制ガイド7は、例えば、公知の櫛歯状の糸ガイドであって、複数の糸Yは掛けられたときに、隣接する糸Y同士の間隔を所定の値に規定するためのものである。
【0043】
(糸巻取機4)
次に、糸巻取機4について、図1及び図2を用いて説明する。図2は、糸巻取機4の正面図である。糸巻取機4は、機台20と、複数の振支点ガイド21と、複数のトラバースガイド22と、ターレット23と、2つのボビンホルダ24と、コンタクトローラ25と、制御部26等を有する。
【0044】
機台20は、図1に示すように、糸巻取機4の後部に立設配置された機台本体部27と、機台本体部27の上部に固定されて前方へ延びた枠体28と、を有する。本実施形態においては、機台本体部27と枠体28の両方が、本発明の「機台」に相当する。機台本体部27には、ターレット23等が支持されている。枠体28には、前後方向に沿って延びたコンタクトローラ25が支持されている。
【0045】
複数の振支点ガイド21は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に配列されている。複数の振支点ガイド21は、枠体28に支持されたガイド支持部材29に取り付けられており、複数の糸Yがそれぞれ掛けられることで、複数の糸Yのそれぞれが綾振りされる際の支点となる。
【0046】
複数のトラバースガイド22は、複数の糸Yに対して個別に設けられ、前後方向に配列されている。複数のトラバースガイド22は、トラバースモータ(不図示)によって駆動され、前後方向に往復移動する。これにより、トラバースガイド22に掛けられた糸Yが振支点ガイド21を支点にして綾振りされる。
【0047】
ターレット23は、軸方向が前後方向と略平行な円板状の部材であり、機台本体部27に回転可能に支持されている。ターレット23は、不図示のターレットモータによって回転駆動される。ターレット23は、2つのボビンホルダ24を片持ち支持すると共に、前後方向と略平行な回転軸を中心に回動することで、2つのボビンホルダ24を移動させる。これにより、糸巻取機4においては、糸Yの巻取が行われる糸巻取位置(図1における上側の位置)にあるボビンホルダ24と、糸Yの巻き取りが行われない待機位置(図1における下側の位置)にあるボビンホルダ24とを入れ替えることが可能となっている。そして、糸巻取位置にあるボビンホルダ24に装着されたボビンBに糸Yの巻き取りが行われている間に、待機位置にあるボビンホルダ24に対してボビンBの交換を行うことが可能になっている。また、ターレット23は、ボビンBへの糸巻取時に巻き取られた糸Yの量の増加に伴って回動可能に構成されている(図2の実線矢印参照)。
【0048】
2つのボビンホルダ24は、それぞれに複数のボビンBを装着するためのものである。2つのボビンホルダ24は、それぞれが機台本体部27に支持されたターレット23の上端部及び下端部に回転自在に支持され、ターレット23から前方に延びている。言い換えると、2つのボビンホルダ24は、後方側に配置された機台本体部27によって片持ち支持されている。2つのボビンホルダ24の軸方向は、前後方向と略平行である。なお、ボビンホルダ24の先端側(前側)は、一般に、ボビンホルダ24にボビンBを装着する等の作業が行われる作業側である。
【0049】
各ボビンホルダ24には、複数の糸Yに対して個別に設けられた複数のボビンBが、前後方向に並んで装着されている。1つのボビンホルダ24に装着されるボビンBの数は、例えば16個である。また、2つのボビンホルダ24は、それぞれ、個別の巻取モータ(不図示)によって回転駆動される。なお、本実施形態において、ボビンホルダ24の回転方向は、図2における反時計回りである。
【0050】
コンタクトローラ25は、軸方向が前後方向と略平行なローラであり、上側のボビンホルダ24のすぐ上方に配置されている。コンタクトローラ25は、上側のボビンホルダ24に装着された複数のボビンBに複数の糸Yが巻き取られて形成される複数のパッケージPの外周面に当接することで、巻取中のパッケージPの外周面に接圧を付与して、パッケージPの形状を整える。
【0051】
本実施形態において、コンタクトローラ25は、ローラ支持部材30を介して枠体28に揺動可能に支持されている。図1及び図2に示すように、ローラ支持部材30は、例えば、支持部分31と、アーム部分32と、揺動軸33とを有する。支持部分31は、コンタクトローラ25の前後方向の両端部においてコンタクトローラ25を回転自在に支持する。アーム部分32は、その一端部が支持部分31と接続され、前後方向と直交する方向において枠体28へ向かって延びている。揺動軸33は、アーム部分32の他端部と接続されて前後方向に延び、枠体28に揺動可能に支持されている。
【0052】
制御部26は、CPUと、ROMと、RAM等を備える。制御部26は、ROMに格納されたプログラムに従い、CPUにより各部を制御する。具体的には、制御部26は、ターレットモータ(不図示)、トラバースモータ(不図示)、巻取モータ(不図示)、並びに、後述する第1移動機構43及び第2移動機構53等を制御する。
【0053】
以上のような構成を有する糸巻取機4において、上側のボビンホルダ24が回転駆動されると、トラバースガイド22によって綾振りされた糸YがボビンBに巻き取られて、パッケージPが形成される。このとき、回転するボビンホルダ24とともに、パッケージPは回転している。すなわち、パッケージPの回転方向は、ボビンホルダ24の回転方向と同様、図2における反時計回りである(図2の実線矢印参照)。パッケージPが形成されている間、コンタクトローラ25がパッケージPの外周面に当接して接圧を付与することで、パッケージPの形状が整えられる。コンタクトローラ25は、ボビンホルダ24の回転方向とは逆向き、すなわち、図2における時計回りに回転している(図2の実線矢印参照)。本実施形態において糸YがボビンBに巻き取られる際は、コンタクトローラ25の右側に接触した糸Yが、コンタクトローラ25の周方向に沿って、コンタクトローラ25の回転方向下流側へと送られる。そして、糸Yは、接点Cを超えて、ボビンホルダ24に装着されたボビンB(又は既にボビンBの周りに形成されているパッケージP)の周方向に沿って、ボビンホルダ24の回転方向下流側へと送られる。
【0054】
ここで、糸Yを巻き取るためにボビンホルダ24を回転させると、パッケージPの外周面に沿った空気の流れ(随伴流)が発生する。例えば、上述したように、特許文献1の糸巻取機104の場合、ボビンホルダ124を回転させたときの生じる随伴流F(図10の破線矢印参照)は、パッケージP’の回転と共にパッケージP’の外周面から剥離する(剥離空気f)。特に、ボビンB’に糸Yが巻き取られてパッケージP’の径が大きくなるにつれて、より多くの随伴流Fが剥離空気fとしてパッケージP’の外周面から剥離する。そして、剥離空気fの増大に伴いパッケージP’にかかる空気抵抗は増大し、ボビンホルダ124を回転させるのに必要な消費電力が増大してしまう。
【0055】
そこで、本実施形態の糸巻取機4は、パッケージPの外周面からの随伴流Fの剥離を抑制するために、第1カバー部41と、第2カバー部51とを備える。以下、図2図4を用いて説明する。図は、糸巻取位置(図1における上側の位置)にあるボビンホルダ24を斜方から見た図である。
【0056】
(第1カバー部41)
第1カバー部41は、複数のパッケージPの外周面から剥離する随伴流F(図3の破線矢印参照)を抑制するための部材である。第1カバー部41は、図2に示すように、パッケージPの上下方向(本発明の鉛直方向)の下側半分の領域において、周方向に沿って180度の範囲にわたって設けられている。また、第1カバー部41は、前後方向に沿って延びており、隣接するパッケージP間の隙間をすべて覆うように設けられている。第1カバー部41の基端部(図2における左方側)は、後述する基端支持部43aを介して、前後方向に延びたカバー支持部材42に支持されている。
【0057】
パッケージPの外周面から剥離する随伴流Fは、パッケージPの径が大きくなるにつれて増加し、パッケージPが最大径のときに最も多くなる。このため、消費電力を効果的に削減するには、パッケージPが最大径のときにおいて、第1カバー部41をパッケージPの外周面及び接点Cに接近させて、パッケージPの外周面からの随伴流Fの剥離を抑制することが好ましい。一方で、第1カバー部41の内周面とパッケージPの外周面との間の距離は、小さすぎると、パッケージPと第1カバー部41とが接触する危険性が高まる。そこで、本実施形態では、第1カバー部41は、パッケージPが最大径のときにおいて、パッケージPの周方向に沿って設けられている。そして、第1カバー部41の内周面とパッケージPが最大径のときのパッケージPの外周面との間の距離は、10~60mmである。なお、「パッケージPが最大径のとき」とは、ボビンホルダ24に装着されたボビンBへの糸Yの巻き取りが完了し、パッケージPが完成した状態のことである。
【0058】
(第2カバー部51)
第2カバー部51は、パッケージPの回転に伴って接点Cに向かう随伴流F(図4の破線矢印参照)を、隣接するパッケージP間の隙間に誘導するための平板状の部材である。第2カバー部51は、図2に示すように、接点CよりもパッケージPの回転方向上流側の領域且つ第1カバー部41よりも回転方向下流側の領域、すなわち、本実施形態において、接点Cよりも右下側且つ第1カバー部41の先端よりも上側の領域に設けられている。第2カバー部51の基端部(図2における右方側)は、後述する基端支持部53aを介して、前後方向に延びた支持壁部52に支持されている。また、第2カバー部51の先端部(図2における左方側)は、支持壁部52から接点Cに向かって延びている。また、第2カバー部51は、接点Cを中心に接点Cを通る接線Tからの角度θが25度以内の範囲に設けられている。さらに、第2カバー部51は、前後方向に沿って延びており、隣接するパッケージP間の隙間をすべて覆うように設けられている。
【0059】
上述と同様の理由により、消費電力を効果的に削減するには、パッケージPが最大径のときにおいて、第2カバー部51をパッケージPの外周面に接近させて、パッケージPの外周面からの随伴流Fの剥離を抑制することが好ましい。一方で、第2カバー部51の先端部とパッケージPの外周面との間の距離、及び、第2カバー部51の先端部と接点Cとの間の距離が小さすぎると、パッケージPと第2カバー部51とが接触する危険性が高まる。そこで、本実施形態では、第2カバー部51は、パッケージPが最大径のときにおいて、接点CよりもパッケージPの回転方向上流側且つ第1カバー部41よりも回転方向下流側に設けられている。そして、第2カバー部51の先端部とパッケージPが最大径のときにおける複数のパッケージPの外周面との間の距離は3~10mmであり、第2カバー部51の先端部とパッケージPが最大径のときにおける接点Cとの間の距離は60~140mmである。
【0060】
また、第1カバー部41及び第2カバー部51はどのような素材でもいいが、軽量化の観点から、アルミ製が好ましく、樹脂製がさらに好ましい。その他の金属性でもよい。
【0061】
(移動機構)
上述したように、糸巻取機4において、ターレット23が前後方向と略平行な回転軸を中心に回動することで、糸巻取位置にあるボビンホルダ24と、待機位置にあるボビンホルダ24とを入れ替えることが可能である。このとき、第1カバー部41及び第2カバー部51が、ボビンホルダ24が糸巻取位置と待機位置との間を移動する移動軌跡M上に存在していると、ボビンホルダ24の入れ替えの邪魔となる。そこで、本実施形態では、糸巻取機4は、第1カバー部41を移動軌跡M上から退避させる第1移動機構43と、第2カバー部51を移動軌跡M上から退避させる第2移動機構53と、を有する。なお、本実施形態においては、第1移動機構43と第2移動機構53とが、本発明の「移動機構」に相当する。
【0062】
第1移動機構43は、例えば、基端支持部43aと、カバーモータ43bとを有する。基端支持部43aは、カバー支持部材42に固定され且つ第1カバー部41の基端部を支持する。基端支持部43aは、カバーモータ43bによって、前後方向を回転軸として回転駆動される。
【0063】
本実施形態において、第1移動機構43が、第1カバー部41を、ボビンホルダ24の糸巻取位置と待機位置との間の移動軌跡M上から退避させるときは、カバーモータ43bによって基端支持部43aを回転駆動させる。すると、基端支持部43aに支持された第1カバー部41が、基端支持部43aを中心に、基端支持部43aの回転方向と同一方向に回転する(図2の破線矢印参照)。これにより、図5に示すように、第1カバー部41は、左方側に移動することとなる。以上のようにして、第1移動機構43は、第1カバー部41を、ボビンホルダ24の糸巻取位置と待機位置との間の移動軌跡M上から退避させる。
【0064】
第2移動機構53は、例えば、基端支持部53aと、中央支持部53bと、アーム部53cと、介在部53dと、シリンダ53eとを有する。基端支持部53aは、支持壁部52に固定され且つ第2カバー部51の基端部を回転可能に支持する。中央支持部53bは、第2カバー部51の略中央部分において第2カバー部51を回転可能に支持する。アーム部53cは、図2における左方側にある一端部が中央支持部53bと接続され、右方側にある他端部が介在部53dと接続された棒状の部材である。介在部53dは、アーム部53cの他端部を回転可能に支持し且つシリンダ53eの先端に配置されている。シリンダ53eは、支持壁部52の前後方向の中央付近に設けられ、例えば、圧縮空気の供給及び排出により上下方向に移動するエアシリンダである。
【0065】
本実施形態において、第2移動機構53が、第2カバー部51を、ボビンホルダ24の糸巻取位置と待機位置との間の移動軌跡M上から退避させるときは、まず、シリンダ53eが上方に移動する。すると、介在部53dを介して回転可能に支持されたアーム部53cの他端部が上方に移動するとともに、アーム部53cの一端部が右方且つ上方に移動する。アーム部53cの一端部の移動に付随して、中央支持部53bが右方且つ上方に移動する。そして、第2カバー部51は、先端部が右方且つ上方に移動するように、基端支持部53aによって回転可能に支持された基端部を中心に回転する(図2の破線矢印参照)。これにより、図5に示すように、第2カバー部51の基端部から先端部に向かって延びる延在方向の上下方向に対する角度は小さくなり、すなわち、第2カバー部51が立ち上がった状態となる。以上のようにして、第2移動機構53は、第2カバー部51を、ボビンホルダ24の糸巻取位置と待機位置との間の移動軌跡M上から退避させる。
【0066】
(効果)
本実施形態の糸巻取機4は、複数のボビンBが軸方向に並べて装着されたボビンホルダ24と、複数のボビンBに複数の糸Yがそれぞれ巻き取られて形成される複数のパッケージPの外周面に当接するコンタクトローラ25と、複数のパッケージPとコンタクトローラ25との接点CよりもパッケージPの回転方向上流側の領域の少なくとも一部に設けられ、複数のパッケージPの周方向に沿って設けられた第1カバー部41とを備えている。ここで、「接点CよりもパッケージPの回転方向上流側の領域」とは、図2において、接点CからパッケージPの周方向に沿って時計回りに180度の範囲である。本実施形態によれば、随伴流Fは、第1カバー部41の内周面に誘導されることで、複数のパッケージPの外周面に沿うようにして接点Cに向かって流れる。このため、回転する複数のパッケージPの外周面から空気が剥離することを抑制することができる。これにより、糸Yの巻き取り時にパッケージPにかかる空気抵抗を抑制することができ、消費電力を削減することができる。
【0067】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41は、複数のパッケージPの全周のうち、上下方向の下側半分の領域に設けられている。接点C付近に向かう随伴流Fの多くは、複数のパッケージPの全周のうちの下側半分の領域において剥離する。本実施形態によれば、第1カバー部41が、複数のパッケージPの全周のうちの下側半分の領域を覆うこととなるため、随伴流Fの剥離をより確実に抑制することができる。また、第1カバー部41は、パッケージPの回転時の振動が伝わり、重力のかかる下方に撓むことがある。第1カバー部41がパッケージPの全周のうちの上側半分の領域に設けられている場合、下方に撓んだ第1カバー部41はパッケージPと接触するおそれがある。本実施形態によれば、第1カバー部41がパッケージPの全周のうちの下側半分の領域に設けられているため、下方に撓んだ第1カバー部41がパッケージPと接触することはない。これにより、パッケージPの品質をより確実に確保することができる。
【0068】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41は、接点Cから周方向に沿って225度の範囲内に設けられていることを特徴とするものである。第1カバー部41をパッケージPの全周の広範囲にわたって配置すると、糸巻取機4全体の重量が増大し、糸Yの巻き取り時に糸巻取機4が揺動しやすくなる。そうすると、パッケージPの品質を低下させるおそれがある。本実施形態によれば、第1カバー部41を、接点Cよりも回転方向上流側の領域において、接点Cから周方向に沿って225度の範囲内に設けられていることで、接点C付近に向かう随伴流Fの剥離を抑えつつ、糸巻取機4の重量の増大を抑制することができる。したがって、消費電力を削減しつつ、パッケージPの品質を確保することができる。
【0069】
本実施形態の糸巻取機4において、接点Cよりも回転方向上流側の領域且つ第1カバー部41よりも回転方向下流側の領域に設けられ、パッケージPの回転に伴って接点Cに向かう空気を隣接するパッケージP間の隙間に誘導する第2カバー部51をさらに備えている。本実施形態によれば、第2カバー部51によって、接点C付近に向かう随伴流Fは、コンタクトローラ25との衝突によりパッケージPの外周面から剥離することを回避しつつ、隣接するパッケージP間の隙間に誘導される。これにより、回転する複数のパッケージPの外周面から空気が剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をさらに削減することができる。
【0070】
本実施形態の糸巻取機4において、第2カバー部51は、平板状であって、接点Cを中心に接点Cを通る接線Tから25度以内の範囲に設けられている。平板状の第2カバー部51が、接点Cを中心に接線Tから25度よりも大きい範囲に設けられている場合、多くの随伴流Fがコンタクトローラ25側に逸れてしまう、又は、随伴流Fが第2カバー部51によって隣接するパッケージP間の隙間に適切に誘導されない、ということが生じ得る。本実施形態によれば、接点Cに向かう随伴流Fを、隣接するパッケージP間の隙間により確実に誘導することができ、消費電力をより削減することができる。
【0071】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41は、パッケージPの周方向に沿って90度以上の範囲にわたって設けられている。本実施形態によれば、第1カバー部41が複数のパッケージPの外周面のより広い範囲を保護することができるため、回転する複数のパッケージPの外周面から随伴流Fが剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0072】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41及び第2カバー部51はボビンホルダ24の軸方向に沿って延び、且つ、隣接するパッケージP間の隙間のすべてを覆う。本実施形態によれば、第1カバー部41及び第2カバー部51は、それぞれボビンホルダ24の軸方向に沿って隙間なく設けられている。このため、随伴流Fが、ボビンホルダ24の軸方向に沿った隙間を通って、パッケージPの外周面からパッケージPの径方向の外側に向かって剥離することを防止できる。これにより、複数のパッケージPの外周面から随伴流Fが剥離することをさらに抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0073】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41及び第2カバー部51のボビンホルダ24の軸方向に沿った両端部は、パッケージPのボビンホルダ24の軸方向に沿った両端部よりも外側である。本実施形態によれば、回転するパッケージのうち両端のパッケージPの外周面からボビンホルダ24の軸方向の外側に向かって随伴流Fが剥離することを防ぐことができる。これにより、消費電力をより削減することができる。
【0074】
本実施形態の糸巻取機4において、ボビンホルダ24は、糸Yの巻き取りが行われる糸巻取位置と、糸Yの巻き取りが行われない待機位置との間で移動可能であり、第1カバー部41及び第2カバー部51を、ボビンホルダ24が糸巻取位置と待機位置との間を移動するときの移動軌跡M上からそれぞれ退避させる第1移動機構43及び第2移動機構53を有する。2つのボビンホルダ24を備えた糸巻取機4では、ボビンホルダに装着された複数のボビンへの糸の巻き取り作業が完了するたびに、糸巻取位置にあるボビンホルダ24と待機位置にあるボビンホルダ24とを交換する作業が行われる。このときに、第1カバー部41及び第2カバー部51を移動軌跡M上から退避させることにより、ボビンホルダ24の交換をスムーズに行うことができる。
【0075】
本実施形態の糸巻取機4において、第1カバー部41と第2カバー部51とは、それぞれ独立して形成されている。第1カバー部41及び第2カバー部51を移動軌跡M上から退避させるときに、本実施形態のように第1カバー部41と第2カバー部51とがそれぞれ独立に形成されている場合、第1カバー部41と第2カバー部51とが一体形成されている場合と比べて、省スペースで移動させることができる。これにより、糸巻取機4全体の大型化を抑制することができる。
【0076】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は、これらの例に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。以下に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0077】
(第1変形例)
上記実施形態では、第1カバー部41は、パッケージPが最大径のときにおいて、パッケージPの周方向に沿って設けられている。しかしながら、第1カバー部41の径の大きさは、糸Yの巻き取りに伴って拡径するパッケージPの外周面に沿うように変動可能でもよい。例えば、第1変形例の糸巻取機74は、図6及び図7に示すように、第1カバー部81の径の大きさを変動させる第1拡径機構82及び第2拡径機構83を備える。そして、第1カバー部81は、柔軟性を有する素材からなり、例えば、テント布やゴムシートなどが挙げられる。第1拡径機構82は、基端支持部82aと、第1アーム部82bと、第1アーム支持部82cと、第1ガイド82dとを有する。基端支持部82aは、前後方向に延びる巻取軸86を有しており、巻取軸86に第1カバー部81の基端部(図6における左方側)から所定の長さ分が巻き掛けられることで、第1カバー部81の一部が基端支持部82aの内部に収容されている。巻取軸86は、不図示のモータによって回転駆動されることで、巻取軸86に巻き掛けられた第1カバー部81の送り出し又は巻き取りを行う。これによって、第1カバー部81はパッケージPの周方向に沿って伸縮可能となる。第1アーム部82bは、図6における上方側にある一端部が基端支持部82aと接続され、下方側にある他端部が第1アーム支持部82cと接続された棒状の部材である。第1アーム支持部82cは、第1アーム部82bの他端部を支持しており、下方に配置された第1ガイド82dの上面に固定されている。第1ガイド82dは、第1ガイド82dの下方に配置されたレール84に沿って、基端支持部82a、第1アーム部82b及び第1アーム支持部82cと一体的に左右方向に移動可能な部材である。第1ガイド82dは、例えば、それぞれ不図示のリニアガイドとボールネジとモータとからなる。
【0078】
また、第2拡径機構83は、先端支持部83aと、第2アーム部83bと、第2アーム支持部83cと、第2ガイド83dとを有する。先端支持部83aは、第1カバー部81の先端部(図6における右方側)を支持している。第2アーム部83bは、図6における上方側にある一端部が先端支持部83aと接続され、下方側にある他端部が第2アーム支持部83cと接続された棒状の部材である。また、第2アーム部83bは、リニアガイドやモータなどを有しており、第2アーム部83bの伸長方向(図7の破線矢印参照)に向かって伸縮可能な構成となっている。第2アーム支持部83cは、第2アーム部83bの他端部を回転可能に支持しており、下方に配置された第2ガイド83dの上面に固定されている。第2アーム支持部83cは、サーボモータやステッピングモータなどのモータ(不図示)を有する。第2アーム支持部83cは、不図示のモータによって、第2アーム部83bを、第2アーム支持部83cを中心に任意の角度だけ回転駆動させる。第2ガイド83dは、第2ガイド83dの下方に配置されたレール85に沿って、先端支持部83a、第2アーム部83b及び第2アーム支持部83cと一体的に左右方向に移動可能な部材である。第2ガイド83dは、例えば、それぞれ不図示のリニアガイドとボールネジとモータとからなる。なお、第1ガイド82d及び第2ガイド83dは、リニアガイドとシリンダとから構成されていてもよい。
【0079】
制御部26は、巻取軸86を回転駆動させるモータ(不図示)、第1ガイド82dの移動を駆動するモータ(不図示)、第2アーム部83bの伸縮動作を駆動するモータ(不図示)、第2アーム支持部83cのモータ(不図示)、及び、第2ガイド83dの移動を駆動するモータ(不図示)を制御する。制御部26は、図7に示すように、糸Yの巻き取りに伴って、パッケージPの拡径及びターレットの回転(図6及び7における実線矢印参照)が行われることによるパッケージPの外周面の位置の変動に対応するように、第1拡径機構82及び第2拡径機構83を移動させ、第1カバー部81を拡径させる。具体的には、制御部26は、パッケージPの外周面の位置の変動に対応するように、第1ガイド82dを左方へ移動させ(図7の破線矢印参照)、第2ガイド83dを右方へと移動させる(図7の破線矢印参照)。また、制御部26は、パッケージPの外周面の位置の変動に対応するように、第2アーム支持部83cを中心に第2アーム部83bを任意の角度回転させ(図7の破線矢印参照)、第2アーム部83bを短縮させる(図7の破線矢印参照)。このとき、制御部26は、基端支持部82aの巻取軸86を回転駆動させて、巻取軸86に巻き掛けられている第1カバー部81を所定の長さ分だけ右方側へと送り出す。ここで、第1カバー部81は、上述したように、柔軟性を有する素材からなっているため、基端支持部82aから右方側へと送り出された第1カバー部81は自らの重量によって下方側に撓む。制御部26は、拡径するパッケージPの周方向に沿うようことができる第1カバー部81の周長及び曲率とするため、第1カバー部81の下方側への撓みを考慮して、基端支持部82aから右方側へ送り出す第1カバー部81の長さを決定する。以上によって、パッケージPが拡径したとしても、第1カバー部81は、常にパッケージPの外周面に沿うように配置されることとなる。これによって、糸Yの巻き取りの開始初期の段階から、複数のパッケージPの外周面から随伴流Fが剥離することを抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0080】
(第2変形例)
上記実施形態では、第1カバー部41と第2カバー部51とは、それぞれ独立して形成されている。しかしながら、第1カバー部と第2カバー部とは一体形成されていてもよい。例えば、図8に示すように、第2変形例の糸巻取機134では、第1カバー部141の回転方向上流側の端部(図8の右方側)と、第2カバー部151の基端部とが接している。この構成によれば、第1カバー部141と第2カバー部151との間の隙間を通って、複数のパッケージPの外周面から随伴流Fが剥離することを防ぐことができる。また、上記実施形態では、第2カバー部51は平板状である。しかしながら、図8に示すように、第2カバー部151は、パッケージPの周方向に沿って設けられていてもよい。この構成によれば、パッケージPの外周面に沿った随伴流Fを、隣接するパッケージP間の隙間まで誘導する経路をつくることができる。これにより、接点Cに向かう随伴流Fのより多くを、隣接するパッケージP間の隙間に送り込むことができる。以上によって、消費電力をより削減することができる。
【0081】
(その他の変形例)
上記実施形態では、第1カバー部41と第2カバー部51との両方が配置されている。しかしながら、第1カバー部41のみが配置されていてもよい。さらに、第1カバー部41の接点Cに近い端部の形状が平坦状であって、それ以外の部分の形状がパッケージPの周方向に沿って形成されていてもよい。これは、上記の第2変形例において第2カバー部151と一体形成された第1カバー部141についても同様である。
【0082】
上記実施形態では、第1カバー部41は、接点Cから周方向に沿って225度の範囲内に設けられている。しかしながら、接点Cから周方向に沿って225度よりも広い角度の範囲内に設けられていてもよい。例えば、第1カバー部41は、接点CからパッケージPの回転方向上流側の領域と下流側の領域との両方に設けられていてもよい。また、複数の第1カバー部41が、複数のパッケージPの周方向に沿って並んで設けられていてもよい。
【0083】
上記実施形態では、第2カバー部51は、パッケージPが最大径のときにおいて、接点CよりもパッケージPの回転方向上流側且つ第1カバー部41の回転方向下流側に設けられている。しかしながら、第2カバー部51は、変動可能であって、パッケージPの拡径によって位置が変動する接点CよりもパッケージPの回転方向上流側且つ第1カバー部41の回転方向下流側に設けられていてもよい。この場合、第2カバー部51は、第2移動機構53によって、変動する接点CよりもパッケージPの回転方向上流側且つ第1カバー部41の回転方向下流側に配置される。これによって、第1カバー部41の径の大きさが変動可能である場合と同様、糸Yの巻き取りの開始初期の段階から、複数のパッケージPの外周面から随伴流Fが剥離することを抑制することができ、消費電力をより削減することができる。
【0084】
第1移動機構43及び第2移動機構53は、第1カバー部41及び第2カバー部51を移動軌跡M上から退避させることが可能なものであれば、上記実施形態で記載した構成に限定されない。
【0085】
また、第2カバー部51のパッケージPの外周面と対向する側の表面には、接点Cに向かう随伴流Fを隣接するパッケージP間の隙間に誘導するための凹部が設けられていてもよい。この場合、随伴流Fは凹部に沿って隣接するパッケージP間の隙間へと流れ込む。これにより、接点Cに向かう随伴流Fがより多く、隣接するパッケージP間の隙間に誘導されることとなり、消費電力をより削減することができる。
【0086】
上記実施形態では、第1カバー部41及び第2カバー部51は、前後方向に沿って延びている。しかしながら、第1カバー部41及び第2カバー部51は、前後方向に沿って延びていなくてもよい。この場合、例えば、第1カバー部41及び第2カバー部51は、前後方向の隣接するパッケージP間の隙間を覆う範囲に設けられていてもよい。すなわち、この場合、第1カバー部41及び第2カバー部51は、前後方向に沿って間欠的に設けられている。
【0087】
(実施例)
次に、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3の糸巻取機4について、パッケージPの拡径に伴う損失消費電力量(W)の推移、及び、カバー部が配置されていない糸巻取機4(比較例1)に対する損失削減量(W)のシミュレーション結果を下記の表1に示した。シミュレーション解析は、SIEMENS社のSimcenter STAR-CCM+を用いて行った。
【0088】
実施例1の糸巻取機4は、パッケージPの径が最大(直径435mm)のときにおけるパッケージPの上下方向の下側半分の領域において、周方向に沿って180度の範囲にわたって設けられた第1カバー部41(図2参照)のみが配置されている。実施例2の糸巻取機4は、実施例1と同様の第1カバー部41と、パッケージPの径が最大(直径435mm)のときにおいて、接点CよりもパッケージPの回転方向上流側の領域且つ第1カバー部41よりも回転方向下流側の領域に設けられた第2カバー部51とが配置されている(図2参照)。第2カバー部51は、接点Cを通る接線Tに沿って設けられた平板状の部材である。実施例2において、第1カバー部41と第2カバー部51とは、それぞれ独立して形成されている。比較例1の糸巻取機4は、第1カバー部41及び第2カバー部51のいずれも配置されていない。比較例2の糸巻取機4は、実施例2と同様の第2カバー部51のみ配置されている。比較例3の糸巻取機4は、特許文献2に記載された遮蔽パネルの構成を上記実施形態に適用したものであり、図9に示すように、パッケージPの径が最大(直径435mm)のときにおいて、接点CよりもパッケージPの回転方向下流側の領域であって、接点CからパッケージPの周方向(回転方向)に沿って135度の範囲内に設けられた遮蔽パネル201が配置されている。より具体的には、遮蔽パネル201は、接点CからパッケージPの周方向(回転方向)に沿った10度の位置から、接点CからパッケージPの周方向(回転方向)に沿った135度の位置までの範囲にわたって設けられている。また、遮蔽パネル201の内周面には、パッケージPの周方向に沿って延在した複数のエアガイドパネル(不図示)が、前後方向に沿って並ぶように形成されている。そして、それぞれのエアガイドパネルは、隣接するパッケージP間の隙間の対応する位置に形成されている。
【0089】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2及び比較例3では、ボビンホルダ24の回転速度を3300m/minとしたときにおいて、パッケージPの直径が360、380、400、420、435mmのときの糸巻取機4の損失消費電力量(W)及び比較例1に対する損失削減量(W)のシミュレーション値を測定している。
【0090】
【表1】
【0091】
表1によると、第1カバー部41及び第2カバー部51のいずれも配置されていない比較例1の糸巻取機4では、パッケージPが拡径するのに伴って損失消費電力量は増大した。第2カバー部51のみ配置された比較例2では、パッケージPの拡径に伴う損失消費電力量の推移は比較例1とほぼ同様であった。遮蔽パネル201が配置された比較例3では、パッケージPの拡径に伴う損失消費電力量は比較例1よりも増大していた。実施例1及び実施例2では、比較例1と比べて損失消費電力量が減少しており、特に、パッケージPの径が大きくなるにつれて損失削減量は大きくなっていた。第1カバー部41と第2カバー部51の両方を配置した実施例2では、パッケージPの径が400mm以上のときにおいて、実施例1と比べてさらに損失削減量が大きくなっていた。また、実施例2では、パッケージPの径が400~435mmに拡径するときにおいて、損失消費電力量がほとんど増大していなかった。以上から、糸巻取機4に第1カバー部41を設けると消費電力を抑制でき、第1カバー部41と第2カバー部51との両方を設けることで、消費電力をより大きく抑制できることがわかった。
【符号の説明】
【0092】
1 引取装置
4 糸巻取機
20 機台
24 ボビンホルダ
25 コンタクトローラ
41 第1カバー部
43 第1移動機構(移動機構)
51 第2カバー部
53 第2移動機構(移動機構)
74 糸巻取機
81 第1カバー部
82 第1拡径機構
83 第2拡径機構
134 糸巻取機
141 第1カバー部
151 第2カバー部
B、B' ボビン
P、P’ パッケージ
Y 糸
C 接点
T 接線
F 随伴流(空気)
M 移動軌跡
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10