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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】Ni基合金フラックス入りワイヤ
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/368 20060101AFI20231212BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20231212BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20231212BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231212BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
B23K35/368 B
B23K35/30 320Q
C22C19/05 B
C22C38/00 301A
C22C38/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020034276
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021133422
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】河田 純一
(72)【発明者】
【氏名】北川 良彦
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-030018(JP,A)
【文献】特開2019-093428(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105081620(CN,A)
【文献】特開2011-140064(JP,A)
【文献】特開2016-093836(JP,A)
【文献】特開2020-175433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/368
B23K 35/30
C22C 19/05
C22C 38/00
C22C 38/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基合金からなる外皮にフラックスを充填してなるNi基合金フラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量あたり、
Mn:0.1質量%以上5質量%以下、
Ni:40質量%以上60質量%以下、
Cr:5質量%以上20質量%以下、
Mo:10質量%以上20質量%以下、
W :2.0質量%以上4.0質量%以下、
Fe:3.0質量%以上7.0質量%以下、
Ti:0.50質量%以下、を含有し、
C:0.10質量%以下、
前記外皮に含まれる金属Si:1.0質量%以下、
Cu:0.5質量%以下、
P:0.010質量%以下、
S:0.010質量%以下、
水分:0.010質量%以下、であり、
前記フラックスは、ワイヤ全質量あたり、
TiO:5.40質量%以上10.00質量%以下、
金属Si及びSi酸化物のSiO換算値:0.40質量%以上3.00質量%以下、
金属Zr及びZr酸化物のZrO換算値:2.70質量%以下、
Al:0.05質量%以上1.20質量%以下、を含有し、
更に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有し、
ワイヤ全質量に対する、前記Naの含有量、前記Kの含有量、前記Liの含有量を、それぞれ[Na]、[K]、[Li]としたとき、
[Na]+[K]+[Li]:0.10質量%以上0.70質量%以下、
であるとともに、
MnO:0.80質量%未満、
Bi:0.01質量%以下、であり、
前記TiOの含有量を[TiO]、前記SiO換算値を[SiO]、前記ZrO換算値を[ZrO]、前記Alの含有量を[Al]としたとき、
([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al]):25.00以下、
であり、
前述の含有量を規定した各成分の合計(前記[Na]+[K]+[Li]の合計、前記Ti、前記C、前記外皮に含まれる金属Si、前記Cu、前記P、前記S及び前記水分を除く)で、ワイヤ全質量あたり90質量%以上であり、
フラックス充填率:20質量%以上であることを特徴とするNi基合金フラックス入りワイヤ。
【請求項2】
前記フラックスは、更に、ワイヤ全質量あたり、
金属弗化物のF換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下、を含有し、
金属B及びB化合物のB換算値:0.030質量%以下、
とすることを特徴とする請求項1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金フラックス入りワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
フラックス入りワイヤによるガスシールドアーク溶接は、被覆アーク溶接やTIG溶接と比較すると作業効率が良く、様々な分野において、被覆アーク溶接やTIG溶接からフラックス入りワイヤによる溶接への切り替えが進みつつある。そのため、インコネル(登録商標)、ハステロイ(登録商標)等に代表される各種Ni基合金、9%Ni鋼等の低温用鋼、及びスーパーステンレス鋼等の母材を対象とするガスシールドアーク溶接においても、Ni基合金フラックス入りワイヤの開発及び改良が進められている。上記のような溶接対象物の溶接に用いられるNi基合金フラックス入りワイヤが要求される特性としては、良好な機械的性質を有する溶接金属を得るだけでなく、優れた溶接作業性が挙げられる。
【0003】
特に、Ni基合金は他の合金系(軟鋼系やステンレス系)と比較すると、凝固点が低く、立向姿勢での溶接を行う際に溶融プールが垂れ易くなるという特徴がある。同様に、Ni基合金の特徴としては、高温割れが発生し易いことが挙げられる。例えば特許文献1には、ワイヤのフラックス充填率、スラグ成分及び金属成分の含有量を適切に調整することにより、溶接作業性や延性、靱性、耐割れ性などの溶接金属性能の向上を図ったNi基合金フラックス入りワイヤが提案されている。
【0004】
特許文献2には、上記特許文献1に記載のNi基合金フラックス入りワイヤに対して、水平すみ肉溶接又は横向溶接時におけるビード表面のピットの発生を抑制することができるNi基合金フラックス入りワイヤが提案されている。
【0005】
上記特許文献2に記載のフラックス入りワイヤを使用した場合に、組成によっては、溶接時のアーク安定性が劣化したり、耐高温割れ性が低下したりすることがあり、これを改善するため、特許文献3には、フラックス成分を適切に調整するとともに、SiO含有量に対するTiO含有量とZrO含有量との比を規定したNi基合金フラックス入りワイヤが開示されている。また、上記特許文献3には、上記Ni基合金フラックス入りワイヤを用いて、Ar-20%COガスをシールドガスとして立向上進溶接した場合に、優れた溶接作業性及び溶接金属の特性が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-198488号公報
【文献】特開2008-246507号公報
【文献】特開2011-140064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に記載のNi基合金フラックス入りワイヤを用いて、100%CO雰囲気下にて立向上進溶接した場合、溶接ビードが垂れやすくなるという問題点がある。これは、シールドガスがAr-20%COから100%COとなることで、溶接金属中の酸素量に変化が生じ、溶融プールの凝固点や粘性等が変化するため、及び、シールドガスの変化によりアークの緊縮等が生じ、溶融プールに与えられる熱量やプラズマ気流の流速に変化が生じるためと推測される。
【0008】
9%Ni鋼等が使用されるLNG燃料タンクや、スーパーステンレス鋼等が使用されるスクラバーの溶接では、シールドガスに100%COを使用することが多い。また、構造物の用途によって求められる性能が異なり、例えば、LNG燃料タンクについては極低温での優れた靱性が要求され、スクラバーについては優れた耐食性が要求されるため、使用する溶接材料としては、ハステロイ系の合金成分を有するNi基合金フラックス入りワイヤが求められている。
【0009】
本発明は、上述した状況に鑑みてなされたものであり、100%COシールドガス雰囲気下であっても、立向姿勢での溶接作業性が良好であるとともに、スラグの焼付き及びビード表面のピットの発生を低減することができ、かつ、優れた耐高温割れ性を有する溶接金属を得ることができるNi基合金フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、Ni基合金フラックス入りワイヤに係る下記[1]の構成により達成される。
[1] Ni基合金からなる外皮にフラックスを充填してなるNi基合金フラックス入りワイヤであって、
ワイヤ全質量あたり、
Mn:0.1質量%以上5質量%以下、
Ni:40質量%以上60質量%以下、
Cr:5質量%以上20質量%以下、
Mo:10質量%以上20質量%以下、
W :2.0質量%以上4.0質量%以下、
Fe:3.0質量%以上7.0質量%以下、を含有し、
前記フラックスは、ワイヤ全質量あたり、
TiO:5.40質量%以上10.00質量%以下、
金属Si及びSi酸化物のSiO換算値:0.40質量%以上3.00質量%以下、
金属Zr及びZr酸化物のZrO換算値:2.70質量%以下、
Al:0.05質量%以上1.20質量%以下、を含有し、
MnO:0.80質量%未満、
Bi:0.01質量%以下、であり、
前記TiOの含有量を[TiO]、前記SiO換算値を[SiO]、前記ZrO換算値を[ZrO]、前記Alの含有量を[Al]としたとき、
([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al]):25.00以下、
であることを特徴とする、Ni基合金フラックス入りワイヤ。
【0011】
また、Ni基合金フラックス入りワイヤに係る本発明の好ましい実施形態は、以下の[2]~[4]に関する。
[2] 前記フラックスは、更に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有し、
ワイヤ全質量に対する、前記Naの含有量、前記Kの含有量、前記Liの含有量を、それぞれ[Na]、[K]、[Li]としたとき、
[Na]+[K]+[Li]:0.10質量%以上0.70質量%以下、
であることを特徴とする[1]に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【0012】
[3]前記フラックスは、更に、ワイヤ全質量あたり、
金属弗化物のF換算値:0.05質量%以上0.50質量%以下、を含有し、
金属B及びB化合物のB換算値:0.030質量%以下、
とすることを特徴とする[1]又は[2]に記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
[4]更に、ワイヤ全質量あたり、
Ti:0.50質量%以下、
とすることを特徴とする[1]~[3]のいずれか一つに記載のNi基合金フラックス入りワイヤ。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、100%COシールドガス雰囲気下であっても、立向姿勢での溶接作業性が良好であるとともに、アーク安定性が優れ、スラグの焼付き及びビード表面のピットの発生を低減することができ、かつ、優れた耐高温割れ性を有する溶接金属を得ることができるNi基合金フラックス入りワイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、立向溶接作業性を評価するための溶接方法を示す模式図である。
図2図2は、耐高温割れ性を評価するための溶接条件を示す模式図である。
図3A図3Aは、スラグ焼付き評価するための溶接方法を示す模式図である。
図3B図3Bは、図3Aの側面図である。
図3C図3Cは、図3Aの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0016】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究した結果、Ni基合金フラックス入りワイヤ中のフラックス成分の組成を特定の範囲に制御することにより、立向上進溶接において溶融プールの垂れが発生せず、溶接作業性が良好であるとともに、アーク安定性が優れ、スラグの焼付き及びビード表面のピットの発生を低減することができ、かつ、優れた耐高温割れ性を有する溶接金属を得ることができることを見出した。
以下、本実施形態に係るNi基合金フラックス入りワイヤについて説明する。
【0017】
〔フラックス入りワイヤ〕
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、Ni基合金からなる外皮内にフラックスが充填されたものである。詳細には、本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、筒状のNi基合金外皮と、その外皮の内部(内側)に充填されるフラックスとからなる。なお、フラックス入りワイヤは、外皮に継目のないシームレスタイプ、及び、C断面、重ね断面等のように管状に成形され、外皮に継目のあるシームタイプのいずれの形態であってもよい。
【0018】
本実施形態のNi基合金フラックス入りワイヤは、特に、溶接金属の組成がハステロイ系となるように設計されたワイヤを対象としている。
次に、本実施形態に係るNi基合金フラックス入りワイヤのフラックス及び外皮に含有される成分について、その添加理由及び数値限定理由を詳細に説明する。以下の説明において特に断りのない限り、フラックス入りワイヤ中の各成分量はNi基合金からなる外皮中及びフラックス中に含有される成分の合計量を、ワイヤ全質量(外皮と外皮内のフラックスの合計量)あたりの含有量とした値で規定される。
【0019】
<フラックス充填率:20質量%以上30質量%以下>
フラックスには、金属や合金の他、酸化物やフッ化物等の化合物が含まれる。ワイヤ全質量に対するフラックス含有量、すなわち、フラックス充填率が20質量%未満では、ワイヤ鋼製外皮の肉厚が過度に厚くなり、溶接中にワイヤ先端に形成される溶滴が肥大化し、溶融池への溶滴移行が劣化する。その結果、立向・横向・上向姿勢の溶接において、溶接金属とスラグの垂れが発生して、溶接作業性が低下する。したがって、フラックス充填率は、20質量%以上であることが好ましい。一方、フラックス充填率が30質量%を超えると、ワイヤ吸湿特性が劣化して、耐気孔欠陥性が劣化する。したがって、フラックス充填率は、30質量%以下であることが好ましい。
【0020】
まず、フラックス中に含まれる成分の含有理由及び数値限定理由について説明する。
【0021】
<TiO:5.40質量%以上10.00質量%以下>
TiOは、均一で被包性の良いスラグを形成し、アーク安定性の向上に効果がある成分であるため、スラグ形成剤の主成分として添加する。また、TiOは、融点の高い酸化物であり、フラックス中に含有されることにより、立向姿勢における溶接作業性を向上させることができる。
TiO含有量が5.40質量%未満であると、スラグ形成剤としての特性を十分に発揮できず、立向上進溶接においてビードが垂れ易くなる。したがって、フラックス中のTiO含有量は、ワイヤ全質量あたり5.40質量%以上とし、好ましくは5.50質量%以上である。
一方、TiO含有量が10.00質量%を超えると、ワイヤ中のスラグ成分が過多となり、溶接時のスラグ生成量が過剰となって、スラグが溶接部から垂れ落ち易くなる。また、スラグ巻き込みが発生し易くなり、耐ピット性が低下する。したがって、フラックス中のTiO含有量は、ワイヤ全質量あたり10.00質量%以下とし、好ましくは9.80質量%以下である。
フラックス中のTiO含有量がより好ましい上記範囲内であると、立向上進溶接時により一層溶接ビードの垂れを防止することができる。
【0022】
<金属Si及びSi酸化物のSiO換算値:0.40質量%以上3.00質量%以下>
金属Si及びSi酸化物は、TiOと同様に、スラグの粘性を高めることができる成分であり、良好なビード形状を得るためにスラグ形成剤として添加する。
SiO換算値が0.40質量%未満であると、スラグ形成剤としての上記効果を十分に得る事が出来ず、立向姿勢における溶接作業性が低下する。したがって、フラックス中のSiO換算値は、ワイヤ全質量あたり0.40質量%以上とし、好ましくは0.90質量%以上、より好ましくは1.80質量%以上である。
一方、SiO換算値が3.00質量%を超えると、スラグ焼付き性が低下する。したがって、フラックス中のSiO換算値は、ワイヤ全質量あたり3.00質量%以下とし、好ましくは2.90質量%以下である。
フラックス中のSiO換算値がより好ましい上記範囲内であると、立向上進溶接時により一層溶接ビードの垂れを防止することができるとともに、より一層良好なスラグ焼付き性を得ることができる。
なお、金属Si及びSi酸化物のSiO換算値とは、フラックス中に含まれる単体Si、Si合金及びSi酸化物をSiOに換算した合計値である。
【0023】
<金属Zr及びZr酸化物のZrO換算値:2.70質量%以下>
金属Zr及びZr酸化物は、アークの吹付性を向上させ、低電流域においてもアークの安定性を向上させる効果を有する成分である。また、金属Zr及びZr酸化物は、スラグの凝固を速め、立向上進溶接において、溶接作業性を向上させる効果も有する。
しかしながら、ZrO換算値が2.70質量%を超えると、スラグの凝固温度が高くなり、スラグが速く凝固するため、凝固中の溶接金属から発生するガスが凝固中のスラグを通して排出されることが出来ず、溶接部にピットが発生し易くなる。したがって、フラックス中のZrO換算値は、ワイヤ全質量あたり2.70質量%以下とし、好ましくは2.20質量%以下、より好ましくは1.30質量%以下、特に好ましくは0.50質量%以下である。
フラックス中のZrO換算値がより好ましい上記範囲内であると、立向上進溶接時により一層溶接ビードの垂れを防止することができるとともに、より一層良好な耐ピット性及びアーク安定性を得る事が出来る。
なお、金属Zr及びZr酸化物のZrO換算値とは、フラックス中に含まれる金属Zr、Zr合金及びZr酸化物をZrOに換算した合計値である。
【0024】
<Al:0.05質量%以上1.20質量%以下>
AlはTiOなどと同様にスラグ形成剤であり、ビード形状を整え、母材とのなじみを向上させる効果がある。また、スラグ粘性を調整することに有効な成分であり、立向上進溶接時にビード垂れを防ぐ効果がある。これらの効果を得るためには、Alは0.05質量%以上の添加が必要であり、好ましくは0.06質量%以上である。一方で、Al換算値が1.20質量%を超えると、スラグ粘性が高くなりすぎるため、スラグ巻きを起こし易くなり、またスラグ剥離性も劣化する。従って、フラックス中のAl含有量は1.20質量%以下、好ましくは1.10質量%以下、より好ましくは1.00質量%以下とする。
【0025】
<([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al]):25.00以下>
SiO及びAlは前述の通り、スラグの粘性を高めてビード形状を良好なものにする成分である。
ただし、フラックス中の上記TiOの含有量を[TiO]、フラックス中の上記ZrO換算値を[ZrO]、フラックス中の上記SiO換算値を[SiO]、フラックス中の上記Alの含有量を[Al]、としたとき、SiO換算値及びAl含有量の総量に対するTiO含有量及びZrO換算値の総量の比([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al])が25.00を超えると、スラグの流動性が低下して、スラグが均一に形成されにくくなってスラグ巻き込みが発生しやすくなり、ビードのなじみ性も低下する。また、スラグの凝固開始温度が高くなってスラグの凝固が遅くなり、凝固中の溶接金属から発生するガスが凝固中のスラグを通して排出されることができず、溶接部に発生するピットの数が増加する。したがって、上記{([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al])}は25.00以下とし、好ましくは20.00以下、より好ましくは15.00以下、さらに好ましくは10.00以下、特に好ましくは6.00以下、さらに好ましくは3.00以下である。
【0026】
<MnO:0.80質量%未満(0質量%を含む)>
MnOは、融点が低く、フラックス中に添加されることにより、溶融スラグの凝固温度を低下させる成分である。
MnO含有量が0.80質量%以上であると、立向溶接時にビードが垂れ易くなる。したがって、フラックス中のMnO含有量は、ワイヤ全質量あたり0.80質量%未満とし、好ましくは0.50質量%未満、より好ましくは0.30質量%未満である。
【0027】
<Bi:0.01質量%以下(0質量%を含む)>
Biは、スラグ焼付きを防止する効果を有する成分であるため、ステンレス鋼用フラックス入りワイヤ等ではフラックス中にBiが微量添加される場合がある。しかしながら、Biは耐高温割れを著しく劣化させる成分でもある。したがって、本実施形態では、フラックス中にBiを実質的に添加しないものとする。すなわち、フラックス中のBiは、ワイヤ全質量あたり0.01質量%以下であることが好ましく、0.005質量%未満、すなわち、実質的に添加しないことが更に好ましい。
【0028】
<[Na]+[K]+[Li]:0.10質量%以上0.70質量%以下>
本実施形態に係るNi基合金フラックス入りワイヤのフラックスは、更に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有することが好ましい。フラックス中のNa、K及びLiに代表される塩基性化合物は、アーク安定剤として作用し、スパッタの発生を抑える等の効果を有する成分である。
ここで、ワイヤ全質量に対する、前記Naの含有量、前記Kの含有量、前記Liの含有量を、それぞれ[Na]、[K]、[Li]としたとき、{[Na]+[K]+[Li]}が0.10質量%以上であると、アーク安定剤としての効果を十分に得ることができる。したがって、フラックスが、更に、Na、K及びLiから選択された少なくとも1種を含有する場合、上記{[Na]+[K]+[Li]}は0.10質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.20質量%以上である。
一方、上記{[Na]+[K]+[Li]}が0.70質量%以下であると、アーク安定性が向上し、スパッタの発生量を低減することができる。したがって、上記{[Na]+[K]+[Li]}は0.70質量%以下であることが好ましく、0.60質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
<フラックス中の金属弗化物:ワイヤ全質量に対するF換算値で0.05質量%以上0.50質量%以下>
金属弗化物は、アーク安定性を向上させ、スラグの流動性を向上させる効果がある。金属弗化物源としては、LiF、NaF、NaAlF、KSiF等がある。金属弗化物がワイヤ全質量に対してF換算値で0.05質量%以上であると、上記効果を十分に得ることができ、アーク安定性が向上する。したがって、本実施形態のワイヤにおいて、フラックスが金属弗化物を含有する場合、その含有量は、F換算値で0.05質量%以上であることが好ましく、0.06質量%以上であることがより好ましい。一方、金属弗化物がワイヤ全質量に対してF換算値で0.50質量%以下であると、スラグの粘性を適切に保つことができ、立向姿勢において溶融池の垂れが発生することを抑制することができる。したがって、本実施形態のワイヤにおいて、金属弗化物の含有量は、F換算値で0.50質量%以下であることが好ましく、0.45質量%以下であることがより好ましい。
【0030】
<金属B及びB化合物のB換算値:0.030質量%以下(0質量%を含む)>
金属B及びB化合物のB換算値を、ワイヤ全質量に対して0.030質量%以下にすると、高温割れの発生を防止することができる。したがって、本実施形態のワイヤにおいて、金属B及びB化合物のB換算値は、0.030質量%以下とすることが好ましく、0.020質量%以下とすることがより好ましい。
なお、金属B及びB化合物はフラックスに添加することができ、B換算値とは、フラックス中に含まれる単体B、B合金及びB化合物をBに換算した合計値である。B化合物としてはB等の酸化物が挙げられ、B合金としてはFe-B合金等が挙げられる。
【0031】
<Ti:0.50質量%以下(0質量%を含む)>
Tiは、脱酸成分として溶融金属中の溶存酸素量を低下させ、「C+O=CO(ガス)」の反応を抑制し、ブローホール発生量を減少させる役割を持つが、過剰に添加すると耐高温割れ性を劣化させる。Ti含有量が、ワイヤ全質量に対して0.50質量%以下(0質量%を含む)であると、ブローホール発生量を減少させることができるとともに、優れた耐高温割れ性を維持することができる。したがって、本実施形態のワイヤにおいて、フラックス中のTiは0.50質量%以下とすることが好ましく、0.40質量%以下であることがより好ましく、0.30質量%以下であることが更に好ましい。Ti源としては、金属Ti、Ti合金(Fe-Ti等)があり、本実施形態においては、これらの含有量をTiに換算した値をTi含有量として規定する。ただし、このTi含有量は、硫酸に溶解する金属Ti及びTi合金に由来するTiの含有量とし、硫酸に溶解しないTiO等の酸化物に由来するTiは含まない。なお、金属Ti及びTi合金はフラックスに添加することができる一方で、フープからTiを添加してもよい。
【0032】
次に、Ni基合金フラックス入りワイヤの外皮及びフラックスから添加される各合金成分の添加理由及び数値限定理由について説明する。
各金属成分は、金属単体又は合金としてワイヤ中に含有されている。
【0033】
<Mn:0.1質量%以上5質量%以下>
Mnは、γ相形成元素であり、マトリックスの強化に有効な元素である。
Mn含有量が0.1質量%未満であると、上記効果を得ることができない。また、所望のMn含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のMn含有量は、ワイヤ全質量あたり0.1質量%以上とする。
一方、Mn含有量が5質量%を超えると、スラグ剥離性の低下の原因になるとともに、所望のNi含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のMn含有量は、ワイヤ全質量あたり5質量%以下とする。
【0034】
<Ni:40質量%以上60質量%以下>
Niは、Ni基合金からなる溶接金属において、マトリックスを構成する主要成分である。また、溶接金属の靱性及び延性を確保するとともに、耐食性を確保する効果を有する成分でもある。
Ni含有量が40質量%未満であると、上記効果を得ることができず、また、所望のNi含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のNi含有量は、ワイヤ全質量あたり40質量%以上とする。
一方、Ni含有量が60質量%を超えると、所望のNi含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のNi含有量は、ワイヤ全質量あたり60質量%以下とする。
【0035】
<Cr:5質量%以上20質量%以下>
Crは、酸化性酸に対する耐食性を向上させるために必要な成分である。
Cr含有量が5質量%未満であると、上記効果を得ることができず、また、所望のCr含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のCr含有量は、ワイヤ全質量あたり5質量%以上とする。Cr含有量は、8質量%以上であることが好ましく、12質量%以上であることがより好ましい。
一方、Cr含有量が20質量%を超えると、Cr炭窒化物が析出することにより、溶接金属の機械的性質が低下する懸念が生じる。また、所望のCr含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のCr含有量は、ワイヤ全質量あたり20質量%以下とする。
【0036】
<Mo:10質量%以上20質量%以下>
Moは、Crとともにワイヤ中に含有させることで、酸化性酸のみならず、非酸化性酸や塩類に対しても優れた耐食性を確保できる。
Mo含有量が10質量%未満であると、上記効果を得ることができず、また、所望のMo含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のMo含有量は、ワイヤ全質量あたり10質量%以上とする。
一方、Mo含有量が20質量%を超えると、Niとの金属間化合物の析出が顕著になり、溶接金属の機械的性質が低下する懸念が生じる。また、所望のMo含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のMo含有量は、ワイヤ全質量あたり20質量%以下とする。
【0037】
<W:2.0質量%以上4.0質量%以下>
Wは、ワイヤから溶接金属に添加されることにより、固溶体強化の効果により、γ相を安定化させ、溶接金属の引張強度を向上させる効果を得ることができる。
W含有量が2.0質量%未満であると、上記効果を得ることができず、また、所望のW含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のW含有量は、ワイヤ全質量あたり2.0質量%以上とする。
一方、W含有量が4.0質量%を超えると、Wの偏析が生じ、溶接金属の靱性が低下する懸念が生じる。また、所望のW含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のW含有量は、ワイヤ全質量あたり4.0質量%以下とする。
【0038】
<Fe:3.0質量%以上7.0質量%以下>
Feは、Ni基合金中に固溶することにより、溶接金属の引張強度を向上させる効果を得ることができる。
Fe含有量が3.0質量%未満であると、上記効果を得ることができず、また、所望のFe含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のFe含有量は、ワイヤ全質量あたり3.0質量%以上とする。
一方、Fe含有量が7.0質量%を超えると、低融点のラーベス相として粒界に析出し、多層盛溶接の再熱時に再溶融し、粒界の再熱液化割れの原因となる懸念が生じる。また、所望のFe含有量を有する溶接金属を得ることができない。したがって、外皮及びフラックス中のFe含有量は、ワイヤ全質量あたり7.0質量%以下とする。
【0039】
本実施形態に係るフラックス入りワイヤは、前述の含有量を規定した各成分の合計(上記した[Na]+[K]+[Li]の合計、F換算値、B換算値、およびTiを除く)で、ワイヤ全質量あたり90質量%以上とすることが好ましく、95質量%以上とすることがより好ましく、98質量%以上とすることがより好ましい。
【0040】
<その他成分、および、不可避的不純物>
本実施形態に係るNi基合金フラックス入りワイヤは、上記成分の他に、その他成分として、C、外皮に含まれる金属Si及びCuなどが含まれる。これら成分のうち、Cは0.10質量%以下、外皮に含まれる金属Siは1.0質量%以下、Cuは0.5質量%以下に規制することが好ましい。また、不可避的不純物として、P、S及び水分などがある。これらの不可避的不純物のうち、Pは0.010質量%以下に規制することが好ましく、Sは0.010質量%以下に規制することが好ましく、水分は0.010質量%以下に規制することが好ましい。
【0041】
<外皮の厚さ、ワイヤ径、シールドガス組成>
また、本実施形態に係るNi基合金フラックス入りワイヤの外皮の厚さやワイヤ径(直径)は、特に限定されるものではないが、AWS又はJIS等の溶接材料規格に規定された直径、例えば、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.2mm、1.4mm、1.6mm等のワイヤに適用することができる。
さらに、シールドガス組成としては、100%COを好適に使用することができるが、ArとCOとの混合ガスを使用しても、本実施形態の効果を得ることができる。
【0042】
[フラックス入りワイヤの製造方法]
本実施形態に係るフラックス入りワイヤの製造方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に示す方法で製造することができる。
まず、鋼製外皮を構成する鋼帯を準備し、この鋼帯を長手方向に送りながら成形ロールにより成形して、U字状のオープン管にする。次に、所定の成分組成となるように、各種原料を配合したフラックスを鋼製外皮に充填し、その後、断面が円形になるように加工する。その後、冷間加工により伸線し、例えば1.2~2.4mmのワイヤ径のフラックス入りワイヤとする。
なお、冷間加工途中に焼鈍を施してもよい。また、製造の過程で成形した鋼製外皮の合わせ目を溶接した継ぎ目が無いワイヤと、前記合わせ目を溶接せず隙間のまま残すワイヤのいずれの構造も採用することができる。
【実施例
【0043】
以下、発明例及び比較例を挙げて本発明についてより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
[フラックス入りワイヤの製造]
まず、厚さが0.4mmで幅が9.0mmであるNi基合金からなる金属帯を湾曲させて、外皮を作製した。この外皮に金属原料とスラグ成分からなるフラックスを内包させた後、直径1.2mmになるように伸線加工し、フラックス入りワイヤを製造した。外皮及びフラックスに含有される各成分の含有量を、下記表1(発明例)及び表2(比較例)に示す。
なお、表1及び表2に示す各成分の含有量は、ワイヤ全質量あたりの含有量(質量%)である。また、残部はC、金属Si及びCu、並びに不可避的不純物である。さらに、表1及び表2に示す「([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al])」は、SiO換算値及びAl含有量の総量に対するTiO含有量及びZrO換算値の総量の比を示す。「[Na]+[K]+[Li]」は、ワイヤ全質量あたりのフラックス中のNa含有量とK含有量とLi含有量の総量を示す。また、フラックス中のTiとは、Ti酸化物を含まない金属Ti及びTi合金由来のTi含有量を表す。
また、表1及び表2において、各成分組成における「-」なる表記は、0.005質量%未満を意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
[フラックス入りワイヤの評価]
次に、製造した上記No.1~35の各フラックス入りワイヤを使用して、立向溶接作業性の確認試験、耐高温割れ性の評価試験、並びに、スラグ焼付き、溶接ビード表面のピット及びアーク安定性についての評価試験を行った。各試験において、溶接母材としてはSM490鋼板を使用した。使用したSM490鋼板(母材)の成分含有量を、下記表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
<立向溶接作業性>
図1は、立向溶接作業性を評価するための溶接方法を示す模式図である。図1に示すように、幅が80mm、長さが300mm、厚さが12mmである鋼板1を立てて配置し、上記フラックス入りワイヤ2を用いて、鋼板1の長手方向に沿って表面を矢印Xに示す方向(上向き)にガスシールドアーク溶接した。溶接条件を下記表4に示す。
なお、立向溶接作業性の評価基準としては、問題なく溶接することができたものを◎、溶接可能であるが、溶融プールが垂れ気味で凝固したものを○とし、いずれも合格とした。また、溶融プールの一部が垂れることがあり、溶接が困難であったものを×とし、不合格とした。
【0050】
【表4】
【0051】
<耐高温割れ性>
図2は、耐高温割れ性を評価するための溶接条件を示す模式図である。図2に示すように、厚さが20mm、長さが300mmである2枚の鋼板21a、21bに対して、長手方向端部を機械加工することにより開先を作製し、ルートギャップを2mmとして両者を突き合せて配置して、Y開先を形成した。開先角度は60°とし、開先の深さは10mmとした。その後、JIS Z3155 C型ジグ拘束突合せ溶接割れ試験方法(Method of FISCO test)に準じて走行台車を使用して開先内を溶接した。溶接終了の10分後に試験材を治具から取り出し、浸透探傷試験によって溶接金属24の割れを観察した。また、内部に存在する割れを確認するため、ビード表面を2mm段削り後、改めて浸透探傷試験を実施した。耐高温割れ性の評価における溶接条件を下記表5に示す。
なお、耐高温割れ性の評価基準としては、クレータ部を除く定常部全線において、割れが確認されなかったものを〇(合格)とし、クレータ部を除く定常部にて、指示模様(割れ)が一部でも確認されたものを×(不合格)とした。
【0052】
【表5】
【0053】
<スラグ焼付き>
図3A図3Cはスラグ焼付きの評価をするための溶接方法を示す模式図である。図3Aに示すように、幅が80mm、長さが400mm、厚さが12mmである2枚の鋼板31a及び31bを準備し、水平に配置した鋼板31aの上に鋼板31bを立てて配置して、上記フラックス入りワイヤ32を用いて、鋼板31aと鋼板31bとの間に形成された隅部に沿って矢印Xに示す方向にガスシールドアーク溶接した。なお、図3B及び図3Cに示すように、水平に配置された鋼板31aとワイヤ32との角度(トーチ角度)を45°に傾斜させるとともに、前進角及び後退角を0°としてワイヤ32を保持しながらすみ肉溶接を実施した。上記すみ肉溶接の溶接条件を下記表6に示す。
なお、スラグ焼付きの評価基準としては、チッパーで4~5回叩けばスラグが剥離するものを〇(合格)とし、チッパーで叩いてもスラグが取れないか、又は、かなりの回数を叩かなければスラグが取れなかったものを×(不合格)とした。
【0054】
【表6】
【0055】
<溶接ビード表面のピット>
上記スラグ焼付きの評価における溶接方法で、上記表6に示す溶接条件と同様にして、水平すみ肉溶接を実施し、定常部300mmにおける溶接ビード表面のピットを観察した。
溶接ビード表面におけるピットの評価基準としては、直径が1.0mm以上であるピットが2個以下であったものを○(合格)とし、直径が1.0mm以上であるピットが3個以上確認されたものを×(不合格)とした。
【0056】
<アーク安定性>
上記スラグ焼付きの評価における溶接方法で、上記表6に示す溶接条件と同様にして、水平すみ肉溶接を実施し、アーク安定性を評価した。
アーク安定性の評価基準としては、溶接中、終始アークが安定していたものを○(合格)とし、実用上問題ないがやや劣るものを△(合格)とした。
【0057】
上記で説明した立向溶接作業性、耐高温割れ性、スラグ焼付き、溶接ビード表面のピット及びアーク安定性の評価結果を下記表7にまとめて示す。
【0058】
【表7】
【0059】
上記表7において、ワイヤNo.1~19は発明例であり、ワイヤNo.20~35は比較例である。上記表1~2及び表7に示すように、発明例であるワイヤNo.1~19は各成分が本発明の範囲内であるため、立向溶接作業性、耐高温割れ性、スラグ焼付き、溶接ビード表面のピット及びアーク安定性についての評価結果が全て合格となった。特に、ワイヤNo.1~16は、金属弗化物の含有量(F換算値)の値が本発明の好ましい範囲内であるため、アーク安定性がより優れた結果となった。
【0060】
一方、比較例であるワイヤNo.23は、TiOの含有量が本発明範囲の下限未満であるため、立向溶接作業性が劣化していた。
また、ワイヤNo.27及び35は、SiOの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、立向溶接作業性が劣化していた。
また、ワイヤNo.24、25、26、27、28、31、32、33、及び35は、Alの含有量が本発明範囲の下限未満であるので、立向溶接作業性が劣化していた。
また、ワイヤNo.29及び30は、MnOの含有量が本発明範囲の上限以上であるため、立向溶接作業性が劣化していた。
【0061】
ワイヤNo.21及び22は、Biの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、高温割れが発生した。
【0062】
ワイヤNo.20は、SiOの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、スラグ焼付き性が劣化した。
【0063】
ワイヤNo.34は、TiOの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、立向溶接作業性が不良となり、また、ビード表面にピットが発生した。
また、ワイヤNo.35は、{([TiO]+[ZrO])/([SiO]+[Al])}の値が本発明範囲の上限を超えているため、ビード表面にピットが発生した。
また、ワイヤNo.31、32及び33は、ZrOの含有量が本発明範囲の上限を超えているため、ビード表面にピットが発生した。
【0064】
以上詳述したように、本発明によれば、フラックス組成を特定の範囲に調整することにより、100%COシールドガス雰囲気下であっても、立向姿勢での溶接作業性が良好であるとともに、スラグの焼付き及びビード表面のピットの発生を低減することができ、かつ、優れたアーク安定性及び耐高温割れ性を有する溶接金属を得ることができるNi基合金フラックス入りワイヤを得ることができる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C