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特許7401349樹脂枠付き電解質膜・電極構造体及び発電セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】樹脂枠付き電解質膜・電極構造体及び発電セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0273 20160101AFI20231212BHJP
   H01M 8/1004 20160101ALI20231212BHJP
   H01M 8/0276 20160101ALI20231212BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231212BHJP
【FI】
H01M8/0273
H01M8/1004
H01M8/0276
H01M8/10 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020037598
(22)【出願日】2020-03-05
(65)【公開番号】P2021140940
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【弁理士】
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】和田 優介
(72)【発明者】
【氏名】北川 太一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 亮
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-097917(JP,A)
【文献】特開2017-174650(JP,A)
【文献】特開2018-037345(JP,A)
【文献】特表2012-523656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/0271- 8/0276
H01M 8/1004
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の一方の面に第1電極が設けられるとともに前記電解質膜の他方の面に第2電極が設けられてなる電解質膜・電極構造体と、
前記電解質膜・電極構造体の外周部に設けられた樹脂枠部材と、を備えた樹脂枠付き電解質膜・電極構造体であって、
前記樹脂枠部材の内周端部は、前記電解質膜・電極構造体の前記外周部を周回するように四角環状に形成されるとともに、前記第1電極と前記電解質膜と前記第2電極とが積層された積層方向において前記第1電極の外周部と前記第2電極の外周部との間に配置され、
前記内周端部の4つの辺部のそれぞれには、前記樹脂枠部材の一方の面から前記樹脂枠部材の他方の面に向かって内方に傾斜した傾斜面が形成され、
前記内周端部における互いに隣り合う辺部及び角部において、前記樹脂枠部材の一方の面のうち前記角部に位置する部分と前記傾斜面との間には、段差が形成されている、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体。
【請求項2】
請求項1記載の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体であって、
前記傾斜面は、前記電解質膜に対向している、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体であって、
前記樹脂枠部材の平面方向に対する前記傾斜面の傾斜角度は、前記4つの辺部で互いに同一である、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体であって、
前記第1電極及び前記第2電極において、一方の電極の平面寸法は、他方の電極の平面寸法よりも大きい、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体と、
前記樹脂枠付き電解質膜・電極構造体の両側に配設された第1セパレータ及び第2セパレータと、を備えた発電セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体及び発電セルに関する。
【背景技術】
【0002】
発電セルは、例えば、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体(樹脂枠付きMEA)を一対のセパレータで挟持して形成される。樹脂枠付きMEAは、電解質膜の一方の面にアノード電極が設けられるとともに電解質膜の他方の面にカソード電極が設けられてなる電解質膜・電極構造体(MEA)と、電解質膜・電極構造体の外周部に設けられた四角環状の樹脂枠部材とを備える。
【0003】
樹脂枠部材の内周端部は、MEAの外周部を周回するとともにアノード電極の外周部とカソード電極の外周部との間に配置された状態で電解質膜に接合される。このような樹脂枠部材において、内周端部の厚さ方向に沿った断面が四角形状であると、樹脂枠部材の内周端部の内方に隙間(電解質膜と電極とが互いに離間した部分)が形成される。樹脂枠付きMEAにおいて、樹脂枠部材の内周端部の内方に形成された隙間は、未発電部となる。そのため、発電セルの発電効率が低下する。
【0004】
例えば、特許文献1には、樹脂枠部材の内周端部の内方の隙間を小さくした樹脂枠付きMEAが開示されている。この樹脂枠付きMEAの樹脂枠部材の内周端部には、電解質膜側の面から電解質膜とは反対側の面に向かって内方に傾斜した傾斜面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-97917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した樹脂枠部材において、樹脂枠部材の内周端部の角部(四角形状の角部)に対する傾斜面の成形は、内周端部の辺部に対する傾斜面の成形よりも難しく、製造効率が低下し易い。
【0007】
本発明は、このような課題を考慮してなされたものであり、樹脂枠部材の製造効率の低下を抑えつつ発電効率を向上させることができる樹脂枠付き電解質膜・電極構造体及び発電セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、電解質膜の一方の面に第1電極が設けられるとともに前記電解質膜の他方の面に第2電極が設けられてなる電解質膜・電極構造体と、前記電解質膜・電極構造体の外周部に設けられた樹脂枠部材と、を備えた樹脂枠付き電解質膜・電極構造体であって、前記樹脂枠部材の内周端部は、前記電解質膜・電極構造体の前記外周部を周回するように四角環状に形成されるとともに、前記第1電極と前記電解質膜と前記第2電極とが積層された積層方向において前記第1電極の外周部と前記第2電極の外周部との間に配置され、前記内周端部の4つの辺部のそれぞれには、前記樹脂枠部材の一方の面から前記樹脂枠部材の他方の面に向かって内方に傾斜した傾斜面が形成され、前記内周端部における互いに隣り合う辺部及び角部において、前記樹脂枠部材の一方の面のうち前記角部に位置する部分と前記傾斜面との間には、段差が形成されている、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体である。
【0009】
本発明の他の態様は、上述した樹脂枠付き電解質膜・電極構造体と、前記樹脂枠付き電解質膜・電極構造体の両側に配設された第1セパレータ及び第2セパレータと、を備えた発電セルである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、樹脂枠部材の内周端部の4つの辺部のそれぞれに傾斜面を形成している。つまり、樹脂枠部材の内周端部は、内方に向かって薄く形成されている。そのため、樹脂枠部材の内周端部よりも内方の隙間を小さくすることができる。よって、発電効率を向上させることができる。また、内周端部における互いに隣り合う辺部及び角部において、樹脂枠部材の一方の面のうち角部に位置する部分と傾斜面との間に段差が形成されている。これにより、樹脂枠部材の内周端部の4つの角部に傾斜面を成形する必要がないため、樹脂枠部材の製造効率の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る発電セルを備えた燃料電池スタックの一部省略分解斜視図である。
図2図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3Aは、図2の樹脂枠部材の斜視図であり、図3Bは、図3AのIIIB-IIIB線に沿った断面図である。
図4】傾斜面を加工する前の樹脂製シートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る樹脂枠付き電解質膜・電極構造体及び発電セルについて好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1及び図2に示すように、発電セル10は、その厚さ方向(矢印A方向)に複数積層されて燃料電池スタック12を形成する。燃料電池スタック12は、例えば、車載用燃料電池スタックとして燃料電池電気自動車(図示せず)に搭載される。なお、複数の発電セル10の積層方向は、水平方向及び重力方向のいずれでもよい。
【0014】
図1において、発電セル10は、横長の長方形状に形成されている。ただし、発電セル10は、縦長の長方形状に形成されてもよい。図1及び図2に示すように、発電セル10は、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体(以下、「樹脂枠付きMEA14」という。)と、樹脂枠付きMEA14の両側に配設された第1セパレータ16及び第2セパレータ18とを備える。樹脂枠付きMEA14は、電解質膜・電極構造体(以下、「MEA20」という)と、MEA20の外周部に設けられた樹脂枠部材22(樹脂枠部、樹脂フィルム)とを有する。
【0015】
図2において、MEA20は、電解質膜24と、電解質膜24の一方の面24aに設けられたアノード電極26(第1電極)と、電解質膜24の他方の面24bに設けられたカソード電極28(第2電極)とを有する。電解質膜24は、例えば、固体高分子電解質膜(陽イオン交換膜)である。固体高分子電解質膜は、例えば、水分を含んだパーフルオロスルホン酸の薄膜である。電解質膜24は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質を使用することができる。電解質膜24は、アノード電極26及びカソード電極28に挟持される。
【0016】
詳細は図示しないが、アノード電極26は、電解質膜24の一方の面24aに接合される第1電極触媒層と、当該第1電極触媒層に積層される第1ガス拡散層とを有する。第1電極触媒層は、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が、第1ガス拡散層の全面に一様に塗布されて形成される。
【0017】
カソード電極28は、電解質膜24の他方の面24bに接合される第2電極触媒層と、当該第2電極触媒層に積層される第2ガス拡散層とを有する。第2電極触媒層は、白金合金が表面に担持された多孔質カーボン粒子が、第2ガス拡散層の全面に一様に塗布されて形成される。第1ガス拡散層及び第2ガス拡散層のそれぞれは、カーボンペーパ、カーボンクロス等からなる。
【0018】
アノード電極26の平面寸法(外形寸法)は、カソード電極28の平面寸法よりも大きい。電解質膜24の平面寸法は、アノード電極26の平面寸法と同じである。アノード電極26の外周端26oは、カソード電極28の外周端28oよりも外方に位置する。電解質膜24の面方向(図2の矢印C方向)において、電解質膜24の外周端24oは、アノード電極26の外周端26oと同じ位置にある。
【0019】
アノード電極26の平面寸法は、カソード電極28の平面寸法よりも小さくてもよい。この場合、アノード電極26の外周端26oは、カソード電極28の外周端28oより内方に位置する。電解質膜24の平面寸法は、アノード電極26の平面寸法と同じであってもよいし、カソード電極28の平面寸法と同じであってもよい。アノード電極26の平面寸法は、カソード電極28の平面寸法と同じであってもよい。この場合、電解質膜24の面方向において、電解質膜24の外周端24o、アノード電極26の外周端26o及びカソード電極28の外周端28oは、互いに同じ位置にある。
【0020】
樹脂枠部材22は、MEA20の外周部を周回する1枚の枠状シートである。樹脂枠部材22は、電気的絶縁性を有する。樹脂枠部材22の構成材料としては、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PPA(ポリフタルアミド)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PES(ポリエーテルサルフォン)、LCP(リキッドクリスタルポリマー)、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、m-PPE(変性ポリフェニレンエーテル樹脂)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)又は変性ポリオレフィン等が挙げられる。樹脂枠部材22の詳細な説明については後述する。
【0021】
図1において、第1セパレータ16及び第2セパレータ18のそれぞれは、長方形状(四角形状)に形成されている。第1セパレータ16及び第2セパレータ18のそれぞれは、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、或いはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属薄板の断面を波形にプレス成形して構成される。ただし、第1セパレータ16及び第2セパレータ18のそれぞれは、カーボン等により構成されてもよい。第1セパレータ16と第2セパレータ18とは、互いに重ねた状態で外周を溶接、ろう付け、かしめ等により一体に接合される。
【0022】
発電セル10の長辺方向である矢印B方向の一端縁部(矢印B1方向の端縁部)には、酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体入口連通孔32a及び燃料ガス出口連通孔34bが、発電セル10の短辺方向(矢印C方向)に配列して設けられる。酸化剤ガス入口連通孔30aは、矢印A方向に酸化剤ガス(例えば、酸素含有ガス)を供給する。冷却媒体入口連通孔32aは、矢印A方向に冷却媒体(例えば、純水、エチレングリコール、オイル等)を供給する。燃料ガス出口連通孔34bは、矢印A方向に燃料ガス(例えば、水素含有ガス)を排出する。
【0023】
発電セル10の矢印B方向の他端縁部(矢印B2方向の端縁部)には、燃料ガス入口連通孔34a、冷却媒体出口連通孔32b及び酸化剤ガス出口連通孔30bが、矢印C方向に配列して設けられる。燃料ガス入口連通孔34aは、矢印A方向に燃料ガスを供給する。冷却媒体出口連通孔32bは、矢印A方向に冷却媒体を排出する。酸化剤ガス出口連通孔30bは、矢印A方向に酸化剤ガスを排出する。
【0024】
酸化剤ガス入口連通孔30a及び酸化剤ガス出口連通孔30bと燃料ガス入口連通孔34a及び燃料ガス出口連通孔34bと冷却媒体入口連通孔32a及び冷却媒体出口連通孔32bのそれぞれの大きさ、位置、形状及び数は、本実施形態に限定されるものではなく、要求される仕様に応じて、適宜設定すればよい。
【0025】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ16のMEA20に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔34aと燃料ガス出口連通孔34bとに連通する燃料ガス流路36が設けられる。燃料ガス流路36は、矢印B方向に延在する複数の燃料ガス流路溝38を有する。各燃料ガス流路溝38は、矢印B方向に波状に延在してもよい。
【0026】
図1において、第1セパレータ16には、樹脂枠付きMEA14と第1セパレータ16との間から外部への流体(燃料ガス、酸化剤ガス及び冷却媒体)の漏出を防止する第1シール部40が設けられている。第1シール部40は、第1セパレータ16の外周部を周回し、各連通孔(酸化剤ガス入口連通孔30a等)を周回する。第1シール部40は、セパレータ厚さ方向(矢印A方向)から見て直線状に延在している。ただし、第1シール部40は、セパレータ厚さ方向から見て波状に延在してもよい。
【0027】
図2において、第1シール部40は、第1セパレータ16に一体成形された第1金属ビード部42と、第1金属ビード部42に設けられた第1樹脂材44とを有する。第1金属ビード部42は、第1セパレータ16から樹脂枠部材22に向かって突出している。第1金属ビード部42の横断面形状は、第1金属ビード部42の突出方向に向かって先細り形状となる台形形状である。第1樹脂材44は、第1金属ビード部42の突出端面に印刷又は塗布等により固着された弾性部材である。第1樹脂材44は、例えば、ポリエステル繊維で構成される。
【0028】
図1及び図2に示すように、第2セパレータ18のMEA20に向かう面18aには、酸化剤ガス入口連通孔30aと酸化剤ガス出口連通孔30bとに連通する酸化剤ガス流路46が設けられる。酸化剤ガス流路46は、矢印B方向に直線状に延在する複数の酸化剤ガス流路溝48を有する。各酸化剤ガス流路溝48は、矢印B方向に波状に延在してもよい。
【0029】
第2セパレータ18には、樹脂枠付きMEA14と第2セパレータ18との間から外部への流体(酸化剤ガス、燃料ガス及び冷却媒体)の漏出を防止する第2シール部50が設けられている。第2シール部50は、第2セパレータ18の外周部を周回し、各連通孔(酸化剤ガス入口連通孔30a等)を周回する。第2シール部50は、セパレータ厚さ方向(矢印A方向)から見て直線状に延在している。ただし、第2シール部50は、セパレータ厚さ方向から見て波状に延在してもよい。
【0030】
図2において、第2シール部50は、第2セパレータ18に一体成形された第2金属ビード部52と、第2金属ビード部52に設けられた第2樹脂材54とを有する。第2金属ビード部52は、第2セパレータ18から樹脂枠部材22に向かって突出している。第2金属ビード部52の横断面形状は、第2金属ビード部52の突出方向に向かって先細り形状となる台形形状である。第2樹脂材54は、第2金属ビード部52の突出端面に印刷又は塗布等により固着された弾性部材である。第2樹脂材54は、例えば、ポリエステル繊維で構成される。
【0031】
第1シール部40及び第2シール部50は、セパレータ厚さ方向から見て互いに重なるように配置されている。そのため、燃料電池スタック12に締付荷重(圧縮荷重)が付与された状態で、第1金属ビード部42及び第2金属ビード部52のそれぞれが弾性変形(圧縮変形)する。また、この状態で、第1シール部40の突出端面(第1樹脂材44)が樹脂枠部材22の一方の面22aに気密及び液密に接触するとともに第2シール部50の突出端面(第2樹脂材54)が樹脂枠部材22の他方の面22bに気密及び液密に接触する。
【0032】
第1樹脂材44は、第1金属ビード部42ではなく、樹脂枠部材22の一方の面22aに設けられてもよい。第2樹脂材54は、第2金属ビード部52ではなく、樹脂枠部材22の他方の面22bに設けられてもよい。また、第1樹脂材44及び第2樹脂材54の少なくともいずれかは、省略されてもよい。第1シール部40及び第2シール部50は、上述したようなメタルビードシールではなく、弾性を有するゴムシール部材で形成されてもよい。
【0033】
図1及び図2において、第1セパレータ16の面16bと第2セパレータ18の面18bとの間には、冷却媒体入口連通孔32aと冷却媒体出口連通孔32bとに連通する冷却媒体流路56が設けられる。冷却媒体流路56は、酸化剤ガス流路46の裏面形状と燃料ガス流路36の裏面形状とによって形成される。
【0034】
図1及び図3Aに示すように、樹脂枠部材22は、四角環状に形成されている。つまり、図3Aにおいて、樹脂枠部材22の中央部には、四角形状の開口部60が形成されている。そのため、図1図3Aに示すように、樹脂枠部材22の内周端部23は、MEA20の外周部を周回するように四角環状に形成されている。なお、樹脂枠部材22の内周端部23は、樹脂枠部材22の内端22i及びその近傍領域を構成する部分である。
【0035】
図2に示すように、樹脂枠部材22の内周端部23は、アノード電極26の外周部27とカソード電極28の外周部29との間に配置されている。具体的に、樹脂枠部材22の内周端部23は、電解質膜24の外周部25とカソード電極28の外周部29とによって挟持されている。なお、樹脂枠部材22の内周端部23は、電解質膜24の外周部とアノード電極26の外周部とによって挟持されてもよい。
【0036】
図3Aにおいて、樹脂枠部材22の内周端部23は、4つの直線状の辺部62と、4つの角部64とを含む。図2及び図3Aに示すように、各辺部62は、樹脂枠部材22の内方に向かって先細り形状に形成されている。換言すれば、各辺部62は、樹脂枠部材22の内方に向かって厚さ(矢印A方向の寸法)が減少する。各辺部62は、横断面が三角形状に形成されている。つまり、各辺部62には、樹脂枠部材22の一方の面22aから他方の面22bに向かって内方に傾斜した傾斜面66と、傾斜面66の両側に連結した一対の側面68(図3A参照)とが形成されている。傾斜面66は、平坦に形成されている。
【0037】
図2に示すように、傾斜面66の傾斜角度θ(樹脂枠部材22の他方の面22bと傾斜面66とのなす角度)は、例えば、45°以下が好ましく、15°以上30°以下がより好ましく、略20°がより一層好ましい。傾斜角度θは、適宜設定可能である。4つの辺部62において、傾斜角度θは、互いに同一である。ただし、4つの辺部62において、傾斜角度θは、互いに異なってもよい。
【0038】
傾斜面66は、各辺部62の全長に亘って延在している(図3A参照)。ただし、傾斜面66は、各辺部62の延在方向の一部にのみ設けられてもよい。傾斜面66は、電解質膜24の面24に対向している。換言すれば、傾斜面66は、電解質膜24の面24に近接又は接触している。各辺部62は、内方に向かって薄く形成されている。そのため、各辺部62の内方に形成される隙間Sは、各辺部62に傾斜面66を形成しない場合(各辺部62の横断面が四角形状である場合)と比較して小さくなる。
【0039】
図3Aにおいて、各側面68は、傾斜面66の延在方向の端に連結している。各側面68は、各辺部62の延在方向の端に位置する。角部64は、互いに隣接する側面68によって形成されている。角部64を形成する2つの側面68のなす角度は、略90°である。各側面68は、三角形状に形成されている。各角部64は、傾斜面66に対して樹脂枠部材22の一方の面側に突出している。内周端部23における互いに隣り合う辺部62及び角部64において、樹脂枠部材22の一方の面22aのうち角部64に位置する部分(第1平面部65)と傾斜面66との間には、段差(側面68)が形成されている。角部64の第1平面部65は、樹脂枠部材22の一方の面22aのうち内周端部23よりも外方に位置する部分(第2平面部67)に対して面一に連なっている。
【0040】
図3A及び図3Bに示すように、各角部64は、樹脂枠部材22の内方に向かって樹脂枠部材22の内端22iまで厚さが略一定である。各角部64は、横断面が四角形状(長方形状)に形成されている(図3B参照)。各角部64は、内周端部23のうち傾斜面66が形成されている部分(スロープ部)よりも肉厚に形成されている。各角部64において、樹脂枠部材22の一方の面22aと樹脂枠部材22の他方の面22bとは、互いに平行に延在している。つまり、各角部64には、傾斜面66が形成されていない。
【0041】
図2に示すように、電解質膜24の外周部25には、樹脂枠部材22の傾斜面66に対向する部分に第1傾斜領域70aが設けられる。第1傾斜領域70aは、樹脂枠部材22の傾斜面66に対して略平行に延在している。電解質膜24において、第1傾斜領域70aよりも外方に位置するアノード電極26側の面70bは、第1傾斜領域70aよりも内方に位置するアノード電極26側の面70cよりも、カソード電極28からより離れている。
【0042】
アノード電極26の外周部27には、電解質膜24の第1傾斜領域70aに対向する部分に第2傾斜領域72aが設けられる。第2傾斜領域72aは、樹脂枠部材22の傾斜面66に対して略平行に延在している。アノード電極26において、第2傾斜領域72aよりも外方に位置する第1セパレータ16側の面72bは、第2傾斜領域72aよりも内方に位置する第1セパレータ16側の面72cよりも、カソード電極28からより離れている。
【0043】
カソード電極28の外周部29には、樹脂枠部材22の厚さ方向(矢印A方向)に樹脂枠部材22の傾斜面66と重なる箇所に第3傾斜領域74aが設けられている。第3傾斜領域74aは、カソード電極28の外周端28oに向かって樹脂枠部材22が位置する側とは反対側に傾斜している。カソード電極28において、第3傾斜領域74aよりも外方に位置する第2セパレータ18側の面74bは、第3傾斜領域74aよりも内方に位置する第2セパレータ18側の面74cよりも、アノード電極26からより離れている。
【0044】
次に、本実施形態に係る発電セル10を含む燃料電池スタック12の動作について、以下に説明する。
【0045】
図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔30aには、酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔34aには、水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔32aには、純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0046】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔30aから第2セパレータ18の酸化剤ガス流路46に導入され、矢印B方向に移動してMEA20のカソード電極28に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔34aから第1セパレータ16の燃料ガス流路36に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路36に沿って矢印B方向に移動し、MEA20のアノード電極26に供給される。
【0047】
従って、MEA20では、カソード電極28に供給される酸化剤ガスと、アノード電極26に供給される燃料ガスとが、電気化学反応により消費されて、発電が行われる。
【0048】
次いで、図1において、カソード電極28に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔30bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード電極26に供給されて消費された燃料ガスは、燃料ガス出口連通孔34bに沿って矢印A方向に排出される。
【0049】
また、冷却媒体入口連通孔32aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ16と第2セパレータ18との間の冷却媒体流路56に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、MEA20を冷却した後、冷却媒体出口連通孔32bから排出される。
【0050】
次に、本実施形態に係る樹脂枠付きMEA14の製造方法について、以下に説明する。
【0051】
まず、図4に示す樹脂製シート100を作製する。樹脂製シート100の長手方向の一端縁部には、酸化剤ガス入口連通孔30a、冷却媒体入口連通孔32a及び燃料ガス出口連通孔34bが形成されている。樹脂製シート100の長手方向の他端縁部には、燃料ガス入口連通孔34a、冷却媒体出口連通孔32b及び酸化剤ガス出口連通孔30bが形成されている。また、樹脂製シート100の中央部には、四角形状の開口部60が形成されている。
【0052】
続いて、樹脂製シート100の内周端部101の各辺部102に図3Aに示す傾斜面66を加工する(樹脂製シート100の仮想線104の部分を加工する)。この際、樹脂製シート100の内周端部101の各角部64については、加工しない。つまり、樹脂製シート100の内周端部101の各角部64は、そのまま残される。
【0053】
具体的に、傾斜面66(図3A参照)は、レーザ加工、ウォータジェット加工、プレス加工(ダイトリムを用いた切断)、ブレードを用いた切断等により成形される。例えば、レーザ加工を用いる場合、各辺部102の一端から他端に向かってレーザ光を走査させることにより傾斜面66を容易に形成することができる。このように、樹脂製シート100の内周端部101の角部64を加工する必要がないため、樹脂枠部材22を簡単に作製することができる。
【0054】
続いて、電解質膜24が設けられたアノード電極26と、カソード電極28とを準備する。そして、電解質膜24の外周部25とカソード電極28の外周部29との間に樹脂枠部材22の内周端部23を配置して互いに接合する。具体的に、厚さ方向に重ねられたアノード電極26、電解質膜24、樹脂枠部材22及びカソード電極28を加熱するとともに荷重を付与すること(ホットプレス)により接合を行う。これにより、樹脂枠付きMEA14が得られる。
【0055】
本実施形態に係る樹脂枠付きMEA14及び発電セル10は、以下の効果を奏する。
【0056】
樹脂枠部材22の内周端部23は、MEA20の外周部を周回するように四角環状に形成されるとともにアノード電極26の外周部27とカソード電極28の外周部29との間に配置されている。内周端部23の4つの辺部62のそれぞれには、樹脂枠部材22の一方の面22aから樹脂枠部材22の他方の面22bに向かって内方に傾斜した傾斜面66が形成されている。内周端部23における互いに隣り合う辺部62及び角部64において、樹脂枠部材22の一方の面22aのうち角部64に位置する部分(第1平面部65)と傾斜面66との間には、段差(側面68)が形成されている。
【0057】
このような構成によれば、樹脂枠部材22の内周端部23の4つの辺部62のそれぞれに傾斜面66を形成している。つまり、樹脂枠部材22の内周端部23は、内方に向かって薄く形成されている。そのため、樹脂枠部材22の内周端部23の内方の隙間Sを小さくすることができる。よって、発電効率を向上させることができる。また、内周端部23における互いに隣り合う辺部62及び角部64において、第1平面部65と傾斜面66との間に段差が形成されている。これにより、樹脂枠部材22の内周端部23の4つの角部64に傾斜面66を成形する必要がないため、樹脂枠部材22の製造効率の低下を抑えることができる。
【0058】
傾斜面66は、電解質膜24に対向している。
【0059】
このような構成によれば、樹脂枠部材22の各辺部62が電解質膜24に突き刺さることを抑えることができる。これにより、電解質膜24の損傷を抑制することができる。
【0060】
樹脂枠部材22の平面方向に対する傾斜面66の傾斜角度θは、4つの辺部62で互いに同一である。
【0061】
このような構成によれば、樹脂枠部材22の製造効率を一層高めることができる。
【0062】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改変が可能である。樹脂枠付きMEA14において、傾斜面66は、電解質膜24とは反対側を向いていてもよい。
【0063】
以上の実施形態をまとめると、以下のようになる。
【0064】
上記実施形態は、電解質膜(24)の一方の面(24a)に第1電極(26)が設けられるとともに前記電解質膜の他方の面(24b)に第2電極(28)が設けられてなる電解質膜・電極構造体(20)と、前記電解質膜・電極構造体の外周部に設けられた樹脂枠部材(22)と、を備えた樹脂枠付き電解質膜・電極構造体(14)であって、前記樹脂枠部材の内周端部(23)は、前記電解質膜・電極構造体の前記外周部を周回するように四角環状に形成されるとともに前記第1電極の外周部と前記第2電極の外周部との間に配置され、前記内周端部の4つの辺部(62)のそれぞれには、前記樹脂枠部材の一方の面(22a)から前記樹脂枠部材の他方の面(22b)に向かって内方に傾斜した傾斜面(66)が形成され、前記内周端部における互いに隣り合う辺部及び角部(64)において、前記樹脂枠部材の一方の面のうち前記角部に位置する部分(65)と前記傾斜面との間には、段差(68)が形成されている、樹脂枠付き電解質膜・電極構造体を開示している。
【0065】
上記の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体において、前記傾斜面は、前記電解質膜に対向してもよい。
【0066】
上記の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体において、前記樹脂枠部材の平面方向に対する前記傾斜面の傾斜角度(θ)は、前記4つの辺部で互いに同一であってもよい。
【0067】
上記の樹脂枠付き電解質膜・電極構造体において、前記第1電極及び前記第2電極において、一方の電極(26)の平面寸法は、他方の電極(28)の平面寸法よりも大きくてもよい。
【0068】
上記実施形態は、上述した樹脂枠付き電解質膜・電極構造体と、前記樹脂枠付き電解質膜・電極構造体の両側に配設された第1セパレータ(16)及び第2セパレータ(18)と、を備えた発電セル(10)を開示している。
【符号の説明】
【0069】
10…発電セル
14…樹脂枠付きMEA(樹脂枠付き電解質膜・電極構造体)
16…第1セパレータ 18…第2セパレータ
20…MEA(電解質膜・電極構造体)
22…樹脂枠部材 23…内周端部
24…電解質膜
26…アノード電極(第1電極、一方の電極)
28…カソード電極(第2電極、他方の電極)
62…辺部 64…角部
65…第1平面部 θ…傾斜角度
図1
図2
図3
図4