(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20231212BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F7/20 503
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2020042971
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2019061658
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
(72)【発明者】
【氏名】小坂井 弘文
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-126319(JP,A)
【文献】特表2012-503318(JP,A)
【文献】国際公開第2009/154238(WO,A1)
【文献】特開2016-145927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86、7/20-7/24、9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜を備える多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、多層反射膜付き基板。
【請求項2】
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、請求項1に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項3】
前記結晶子のサイズが1.1nm超である、請求項1又は2に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項4】
前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項5】
前記低屈折率層及び高屈折率層との間に拡散層が形成され、前記拡散層の厚さが、1.7nm以下である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項6】
前記多層反射膜の上に保護膜を有する、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項7】
基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜と、該多層反射膜の上、又は該多層反射膜上の保護膜の上に形成された吸収体膜とを備える反射型マスクブランクであって、
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、請求項7に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記結晶子のサイズが1.1nm超である、請求項7又は8に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含む、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記低屈折率層及び高屈折率層との間に拡散層が形成され、前記拡散層の厚さが、1.7nm以下である、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜と、該多層反射膜の上、又は該多層反射膜上の保護膜の上に形成された吸収体パターンとを備える反射型マスクであって、
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、反射型マスク。
【請求項13】
前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、
X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、請求項12に記載の反射型マスク。
【請求項14】
前記結晶子のサイズが1.1nm超である、請求項12又は13に記載の反射型マスク。
【請求項15】
前記高屈折率層が、ケイ素(Si)を含む、請求項12乃至14のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項16】
前記低屈折率層及び高屈折率層との間に拡散層が形成され、前記拡散層の厚さが、1.7nm以下である、請求項12乃至15のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項17】
請求項12乃至16のいずれか1項に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される反射型マスク、並びに反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板及び反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられる転写用マスクとして反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。
【0003】
露光装置にセットされた反射型マスクに入射した光は、吸収体膜のある部分では吸収され、吸収体膜のない部分では多層反射膜により反射される。反射された像は反射光学系を通して半導体基板上に転写されることでマスクパターンを形成する。上記多層反射膜としては、例えば13~14nmの波長を有するEUV光を反射するものとして、数nmの厚さのMoとSiを交互に積層させたものなどが知られている。
【0004】
このような多層反射膜を有する多層反射膜付き基板を製造する技術として、特許文献1には、真空中に基板を配置するための真空チャンバと、真空から基板を除去することなく、多層スタックを堆積させるための堆積システムと、アモルファス金属層として堆積される多層スタックの上で層を処理するための処理システムを含む統合化極端紫外線ブランク生産システムが記載されている。アモルファス金属層としては、アモルファスモリブデン、さらに、ホウ素、窒素、又は炭素と合金化することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、軟X線・真空紫外線の高吸収層と低吸収層の交互層よりなる多層薄膜構造を有する軟X線・真空紫外線用多層膜反射鏡において、該高吸収層は遷移金属のホウ化物、炭化物、ケイ化物、窒化物又は酸化物のうちの一種以上を主成分として有してなり、該低吸収層は炭素、ケイ素、ホウ素もしくはベリリウムの単体又はそれらの各々の化合物のうちの一種以上を主成分として有してなることを特徴とする軟X線・真空紫外線用多層膜反射鏡が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、多層反射膜の各層の界面を水素化して層間拡散を防止すると共に滑らかな界面を形成することにより、多層反射膜の界面及び表面を平滑化する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2016-519329号公報
【文献】特公平7-97159号
【文献】特開平5-297194号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多層反射膜付き基板は、近年のパターンの微細化に伴う欠陥品質の向上や、反射型マスクに求められる光学特性(多層反射膜の表面反射率等)の観点から、多層反射膜付き基板、すなわち、多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜表面がより高い平滑性を有することが要求されている。なお、多層反射膜付き基板における欠陥品質の向上については、欠陥検査の対象である多層反射膜付き基板表面、すなわち多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜表面を平滑化し、多層反射膜の各層の界面の粗さ及び/又は多層反射膜表面の表面粗さ起因のノイズ(バックグラウンドノイズ)を低減することで、多層反射膜付き基板に存在する微小欠陥(欠陥シグナル)を検出可能にすることができる。
【0009】
また、反射型マスクを用いた露光の際には、パターン状に形成された吸収体膜により露光光が吸収され、多層反射膜が露出した部分で露光光が多層反射膜により反射される。露光の際に高いコントラストを得るために、多層反射膜の露光光に対する反射率は、高いことが望ましい。
【0010】
多層反射膜の露光光に対する反射率を高くするために、多層反射膜を構成する各層の結晶性を向上すること(結晶粒サイズを大きくすること)が考えられる。しかしながら、結晶粒サイズを大きくすると、欠陥検査の際のノイズ(バックグラウンドレベル:BGL)が高くなってしまい、欠陥検査に必要な時間が増加するという問題が生じる。これは、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが高くなりすぎた場合には、ノイズが欠陥として検出されてしまい、転写に寄与する実欠陥と転写に寄与しない擬似欠陥の判定に長時間を要することに起因する。また、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが高くなることにより、転写に寄与する実欠陥がノイズと誤判定されて検出されないという問題も生じる。バックグラウンドレベルが高くなるという問題が生じる理由として、結晶粒子が粗大化してしまい、多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜の表面の平滑性が悪化してしまうことが考えられる。多層反射膜の各層の界面及び/又は多層反射膜表面の平滑性の悪化により、欠陥検査中に照射した検査光の散乱が増加し、これが欠陥検査の際のバックグラウンドレベルの増加の原因となることが考えられる。
【0011】
そこで本発明の一つは、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明の一つは、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供することを目的とする。さらに本発明の一つは、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
また、本発明の一つは、転写に寄与する実欠陥を確実に検出できる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一つは、上記課題を解決するため、本発明の一つは以下の構成を有する。
【0014】
(構成1)
本発明の一つの構成1は、基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜を備える多層反射膜付き基板であって、前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、多層反射膜付き基板である。
【0015】
(構成2)
本発明の一つの構成2は、基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜と、該多層反射膜の上、又は該多層反射膜上の保護膜の上に形成された吸収体膜とを備える反射型マスクブランクであって、前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、反射型マスクブランクである。
【0016】
(構成3)
本発明の一つの構成3は、基板の上に低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなり、露光光を反射するための多層反射膜と、該多層反射膜の上、又は該多層反射膜上の保護膜の上に形成された吸収体パターンとを備える反射型マスクであって、前記多層反射膜が、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含み、X線回折によるMo(110)の回折ピークから算出される前記多層反射膜の結晶子サイズが2.5nm以下である、反射型マスクである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一つにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することができる。また、本発明の一つにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を提供することができる。さらに本発明の一つにより、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【0018】
また、本発明の一つにより、転写に寄与する実欠陥を確実に検出できる多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク及び反射型マスクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一つの多層反射膜付き基板の一例の断面模式図である。
【
図2】本発明の一つの多層反射膜付き基板の別の一例の断面模式図である。
【
図3】本発明の一つの反射型マスクブランクの一例の断面模式図である。
【
図4】本発明の一つの反射型マスクの製造方法を断面模式図にて示した工程図である。
【
図5】試料1~8の多層反射膜の成膜の際の窒素(N
2)の流量(Standard Cubic Centimeter per Minute:sccm)と、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズとの関係を示す図である。
【
図6】試料1~8の多層反射膜の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係を示す図である。
【
図7】試料1~8の、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズと、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係を示す図である。
【
図8】試料1~8の多層反射膜の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、波長13.5nmのEUV光に対する反射率との関係を示す図である。
【
図9】試料1~8の多層反射膜の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、異なった加熱処理をした場合の、多層反射膜の膜応力による多層反射膜付き基板の変形量であるCTIR(Coordinate Total Indicated Reading)との関係を示す図である。
【
図10】試料12~14の、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズと、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一つの実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明の一つを具体的に説明するための形態であって、本発明の一つをその範囲内に限定するものではない。
【0021】
図1に、本実施形態の多層反射膜付き基板110の一例の断面模式図を示す。
図1に示すように、本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の上に多層反射膜5を備えたものである。多層反射膜5は、露光光を反射するための膜であり、低屈折率層と高屈折率層とを交互に積層させた多層膜からなる。本実施形態の多層反射膜付き基板110における多層反射膜5は、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含むことを特徴とする。多層反射膜5の低屈折率層及び高屈折率層の詳細については後述する。なお、本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の裏面(多層反射膜5が形成された主表面とは反対側の主表面)に、裏面導電膜2を含むことができる。
【0022】
図2に、本実施形態の多層反射膜付き基板110の別の一例の断面模式図を示す。
図2に示す例では、多層反射膜付き基板110が保護膜6を含む。
【0023】
本実施形態の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。
図3に、反射型マスクブランク100の一例の断面模式図を示す。反射型マスクブランク100は、吸収体膜7をさらに含む。
【0024】
具体的には、本実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜付き基板110の最表面(例えば、多層反射膜5又は保護膜6の表面)の上に、吸収体膜7を有する。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、EUV光に対する反射率が高い多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0025】
本明細書において、「多層反射膜付き基板110」とは、所定の基板1の上に多層反射膜5が形成されたものをいう。
図1及び
図2に、多層反射膜付き基板110の断面模式図の一例を示す。なお、「多層反射膜付き基板110」は、多層反射膜5以外の薄膜、例えば保護膜6及び/又は裏面導電膜2が形成されたものを含む。本明細書において、「反射型マスクブランク100」とは、多層反射膜付き基板110の上に吸収体膜7が形成されたものをいう。なお、「反射型マスクブランク100」は、吸収体膜7以外の薄膜(例えば、エッチングマスク膜及びレジスト膜8等)がさらに形成されたものを含む。
【0026】
本明細書において、「多層反射膜5の上(多層反射膜5上)に吸収体膜7を配置(形成)する」とは、吸収体膜7が、多層反射膜5の表面に接して配置(形成)されることを意味する場合の他、多層反射膜5と、吸収体膜7との間に他の膜を有することを意味する場合も含む。その他の膜についても同様である。また、本明細書において、例えば「膜Aが膜Bの表面に接して配置される」とは、膜Aと膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜Aと膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。
【0027】
<多層反射膜付き基板110>
以下、本実施形態の多層反射膜付き基板110を構成する基板1及び各薄膜について説明をする。
【0028】
<<基板1>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110における基板1は、EUV露光時の熱による吸収体パターン歪みの発生を防止することが必要である。そのため、基板1としては、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0029】
基板1の転写パターン(後述の吸収体膜7がこれを構成する)が形成される側の第1主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を得る観点から、所定の平坦度となるように表面加工される。EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の第1主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。また、吸収体膜7が形成される側と反対側の第2主表面(裏面)は、露光装置にセットするときに静電チャックされる表面である。第2主表面は、142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以下、さらに好ましくは0.03μm以下である。
【0030】
また、基板1の表面平滑性の高さも極めて重要な項目である。転写用吸収体パターン7aが形成される第1主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で0.15nm以下、より好ましくはRmsで0.10nm以下であることが好ましい。なお、表面平滑性は、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0031】
さらに、基板1は、基板1の上に形成される膜(多層反射膜5など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、基板1は、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0032】
<<下地膜3>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110は、基板1の表面に接して下地膜3を有することができる。下地膜3は、基板1と多層反射膜5との間に形成される薄膜である。下地膜3は目的に応じた機能を有する機能膜とすることができる。例えば、電子線によるマスクパターン欠陥検査時のチャージアップを防止する導電性層や、基板1の表面の平坦性を改善する平坦化層、基板1の表面の平滑性を改善する平滑化層を形成することができる。
【0033】
上記導電性の機能を有する下地膜3の材料として、ルテニウム又はタンタルを主成分として含む材料が好ましく用いられる。例えば、Ru金属単体、Ta金属単体でも良いし、Ru又はTaに、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金又はTa合金であっても良い。下地膜3の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0034】
また、上記平坦性の改善や平滑性を改善する下地膜3の材料として、ケイ素又はケイ素を主成分として含む材料が好ましく用いられる。下地膜3の材料は、例えば、ケイ素(Si)単体でも良いし、Siに酸素(O)、窒素(N)を含有したSiO2、SiOx(x<2)、SiON、Si3N4、SixNy(x:3、y:4以外の自然数)のケイ素化合物であっても良い。上述と同様に、下地膜3の膜厚は、例えば1nm~10nmの範囲であることが好ましい。
【0035】
<<多層反射膜5>>
多層反射膜5は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜5は、屈折率の異なる元素を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0036】
一般的には、多層反射膜5として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に40から60周期(ペア)程度積層された多層膜が用いられる。
【0037】
多層反射膜5として用いられる多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良いし、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層しても良い。なお、多層反射膜5の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜5の表面層は、高屈折率層とすることが好ましい。上述の多層膜において、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期(ペア)として複数周期積層する場合は最上層が低屈折率層となるが、この場合、低屈折率層が多層反射膜5の最表面を構成すると容易に酸化されてしまい反射型マスク200の反射率が減少する。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層をさらに形成して多層反射膜5とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期(ペア)として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、さらなる高屈折率層を形成する必要はない。
【0038】
本実施形態の多層反射膜5は、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含む。また、多層反射膜5において、X線回折法によるMo(110)の回折ピークから算出される結晶子サイズが2.5nm以下である。上記添加元素の存在は、XPS(X線光電子分光法)、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)、ダイナミックSIMS(二次イオン質量分析法)、ERDA(弾性反跳検出分析法)などで確認することができる。この構成によれば、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を得ることができる。
【0039】
本実施形態の多層反射膜5の低屈折率層は、モリブデン(Mo)と、窒素(N)、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、酸素(O)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの添加元素とを含む。また、低屈折率層において、X線回折法によるMo(110)の回折ピークから算出される結晶子サイズが2.5nm以下である。上記添加元素の存在は、XPS(X線光電子分光法)、RBS(ラザフォード後方散乱分析法)、TEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)などで確認することができる。この構成によれば、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜を有する反射型マスクブランク及び反射型マスクを製造するために用いられる多層反射膜付き基板を得ることができる。
【0040】
低屈折率層が所定の添加元素を含み、結晶子サイズが2.5nm以下であることにより、多層反射膜5の各層の界面の粗さ及び/又は多層反射膜5表面の粗さを低減して平滑性を向上させることが可能となる。低屈折率層の結晶子サイズを所定の範囲にすることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を得ることができる。その結果、多層反射膜付き基板110に存在する微小欠陥(欠陥シグナル)をより高度に検出することが可能となる。
【0041】
低屈折率層は、アモルファス構造とすることもできるが、微結晶構造の方が好ましい。そのため、低屈折率層の上記結晶子サイズは、1.1nm超であることが好ましい。この構成によれば、低屈折率層の結晶子のサイズが1.1nm超であることにより、低屈折率層を微結晶構造にすることができるので、多層反射膜の反射率を高くすることができる。低屈折率層の添加元素の含有量を多くすると結晶子サイズが小さくなり、微結晶構造からアモルファス構造となって、多層反射膜5の各層の界面及び/又は多層反射膜5表面の平滑性はさらに向上する。しかし、低屈折率層の添加元素の含有量が多すぎると、低屈折率層の波長13.5nmのEUV光における屈折率が大きくなって高屈折率層の屈折率との差が小さくなるとともに、低屈折率層のEUV光における消衰係数も大きくなるため、多層反射膜5の反射率が許容できない程度に低下する恐れがある。
【0042】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の低屈折率層の結晶子サイズを所定の範囲にすることにより、波長13.5nmのEUV光に対する多層反射膜5の反射率を67%以上とすることができる。半導体装置の製造のための反射型マスク200としては、多層反射膜5の波長13.5nmのEUV光に対する反射率が67%以上であることが必要である。
【0043】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の低屈折率層の添加元素の含有率が、0.5原子%以上20原子%以下であることが好ましく、0.5原子%以上10原子%以下であることがより好ましい。低屈折率層への添加元素の含有量が低すぎると、低屈折率層の結晶粒を微細化することが困難になる。また、低屈折率層への添加元素の含有量が高すぎると、多層反射膜5の波長13.5nmのEUV光に対する反射率が、許容できない程度に低下する恐れがある。そのため、低屈折率層の添加元素の含有率は、上述の所定の範囲であることが好ましい。低屈折率層の添加元素の含有率を所定の範囲にすることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5をより確実に得ることができる。
【0044】
添加元素は、窒素(N)であることが好ましい。添加元素として窒素(N)を用いた場合、高屈折率層と低屈折率層との間に形成される後述の拡散層の厚さを薄くすることができ、多層反射膜5の反射率の低減を抑制することが可能である。また、プロセスガス(例えば、窒素ガス)によって膜中に窒素を添加することができるので、ターゲット起因の発塵を抑制でき、欠陥の発生を抑制できる。さらに、添加元素として窒素(N)を用いた場合、遮光帯等を形成するために、多層反射膜5をエッチングする際に、エッチングによる残渣が生じにくいという利点がある。
【0045】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の低屈折率層における窒素の含有量[原子%]を窒素とモリブデンの合計含有量[原子%]で除した比率(すなわち、低屈折率層における窒素とモリブデンの合計含有量[原子%]を100原子%としたときの窒素の含有量[原子%]の比率を[%]で表したもの。以下、N/[N+Mo]比率という。)が、0.1%以上7.5%以下であることが好ましく、1.0%以上7.5%以下であることがより好ましい。低屈折率層のN/[N+Mo]比率が低すぎると、低屈折率層の結晶粒を微細化することが困難になる。また、低屈折率層のN/[N+Mo]比率が高すぎると、多層反射膜5の波長13.5nmのEUV光に対する反射率が、許容できない程度に低下する恐れがある。そのため、低屈折率層のN/[N+Mo]比率は、上述の所定の範囲であることが好ましい。低屈折率層のN/[N+Mo]比率を所定の範囲にすることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5をより確実に得ることができる。
【0046】
低屈折率層は、モリブデン(Mo)の他に、ルテニウム(Ru)、ニオブ(Nb)、ロジウム(Rh)及び白金(Pt)から選択される少なくとも1つを含んでもよい。これらの材料は、波長13.5nmのEUV光における屈折率が0.94以下であるので、低屈折率層の屈折率が高くなることがないため、多層反射膜5の反射率を低下させることない。
【0047】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の高屈折率層が、ケイ素(Si)を含むことが好ましい。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、ジルコニウム(Zr)、窒素(N)、酸素(O)、水素(H)及び重水素(D)から選択される少なくとも1つの元素を含むSi化合物を用いることができる。多層反射膜5の高屈折率層の主材料が、ケイ素(Si)であることにより、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。
【0048】
例えば波長13nmから14nmのEUV光を反射するための多層反射膜5としては、Moを含む層とSiを含む層とを交互に40から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。なお、多層反射膜5の最上層である高屈折率層をケイ素(Si)を含む層(例えばケイ素(Si)層)で形成し、最上層(Siを含む層)と保護膜6との間に、ケイ素と酸素とを含むケイ素酸化物層を形成することができる。この構造の場合には、マスク洗浄耐性を向上させることができる。
【0049】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の低屈折率層の添加元素の含有率が、高屈折率層の添加元素の含有率よりも高いことが好ましい。また、多層反射膜5の高屈折率層が、添加元素を実質的に含まないことが好ましい。ケイ素(Si)が高屈折率層の主材料である場合には、添加元素を高屈折率層に加えると、波長13.5nmのEUV光における屈折率が低下するので、多層反射膜5の反射率が低下する恐れがある。そのため、高屈折率層が添加元素を実質的に含まない場合には、多層反射膜5の反射率の低下を抑制できるので、より高い反射率の多層反射膜5を得ることができる。
添加元素が、水素(H)又は重水素(D)である場合は、添加物が高屈折率層に含まれる場合であっても良好な多層反射膜を得ることができる。低屈折率層の成膜時および高屈折率層の成膜時の双方に水素又は重水素を添加すると、水素又は重水素は、低屈折率層及び/又は高屈折率層に含まれ得るが、高屈折率層のみに含まれていても良い。低屈折率層を少なくともMoを含む膜とし、水素又は重水素を多層反射膜へ添加し、結晶子サイズを少なくとも2.5nm以下とすることで、反射率が高く、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが十分低い多層反射膜5を得ることができる。
【0050】
本実施形態の多層反射膜付き基板110を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスクブランク100及び反射型マスク200を製造することができる。欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低いことにより、欠陥検査を比較的短時間で行うことができ、また、転写に寄与する実欠陥を確実に検出することができる。
【0051】
本実施形態の多層反射膜付き基板110は、欠陥検査装置により多層反射膜5表面の欠陥検査をした際のバックグラウンドレベル(BGL)が、400未満であることが好ましい。欠陥検査をした際のバックグラウンドレベル(BGL)とは、例えば、検査光としてEUV光を使用したブランクス欠陥検査装置(Actinic Blank Inspection)により多層反射膜5の表面の欠陥検査をする場合、信号のノイズとして観測されるバックグラウンドの値を意味する。EUV光を使用したブランクス欠陥検査装置の場合には、バックグラウンドレベル(BGL)は、測定信号に基づき自動的に算出される。
【0052】
本実施形態の多層反射膜5の単独でのEUV光に対する反射率は、通常67%以上であることが好ましい。反射率が67%以上であることにより、半導体装置の製造のための反射型マスク200として好ましく用いることができる。反射率の上限は通常73%であることが好ましい。なお、多層反射膜5を構成する低屈折率層及び高屈折率層の膜厚及び周期数(ペア数)は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜5を構成する低屈折率層及び高屈折率層の膜厚及び周期数(ペア数)は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜5において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくても良い。また、多層反射膜5の最表面(例えば、Si層)の膜厚は、反射率を低下させない範囲で調整することができる。最表面の高屈折率層(例えばSi層)の膜厚は、3nmから10nmとすることができる。
【0053】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5が、1対の低屈折率層及び高屈折率層を1周期(ペア)として、30~60周期(ペア)備えていることが好ましく、35~55周期(ペア)備えていることがより好ましく、35~45周期(ペア)備えていることがさらに好ましい。周期数(ペア数)が多いほど、高い反射率を得ることができるが、多層反射膜5の形成時間が長時間になる。多層反射膜5の周期を適切な範囲とすることにより、比較的短い時間で、比較的高い反射率の多層反射膜5を得ることができる。
【0054】
本実施形態の多層反射膜5は、イオンビームスパッタリング法、又はDCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法により成膜することができる。多層反射膜5中に不純物が混ざりにくい点や、イオン源が独立していて、条件設定が比較的容易等の点から、イオンビームスパッタリング法により多層反射膜5を成膜することが好ましい。希ガス(Arガス、Krガス、Xeガス等)と、添加元素を含有するガス(N2ガス、CH4ガス等)とをプロセスガスとして用いたイオンビームスパッタリングにより多層反射膜5を成膜すると、添加元素を含有する多層反射膜5の低屈折率層を得ることができる。
【0055】
添加元素を含有するガスは、低屈折率層の成膜のときのみに導入することが好ましい。ただし、高屈折率層に対する添加元素の導入の悪影響が小さい場合には、高屈折率層の成膜のときにも、添加元素を含有するガスを導入することができる。
【0056】
また、本実施形態の多層反射膜5の低屈折率層は、プロセスガスとして希ガスと、添加元素を含むターゲットとを用いて成膜することにより得ることができる。例えば、低屈折率層の成膜には、MoNターゲット、MoBターゲット、MoCターゲット、MoZrターゲット、又はMoOターゲットを用いることができる。ターゲットの元素比率を変えることにより、結晶子サイズ及び膜中の添加元素の含有量を容易に調整することができる。
【0057】
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、多層反射膜5の低屈折率層及び高屈折率層との間に拡散層が形成される場合がある。拡散層の厚さは、1.7nm以下であることが好ましく、拡散層は形成されないことがより好ましい。この構成によれば、低屈折率層及び高屈折率層との間の拡散層の厚さが1.7nm以下であることにより、拡散層の形成による多層反射膜の反射率の低下を抑制することができる。イオンビームスパッタリングを行った場合、高屈折率層の材料(例えばSi)が低屈折率層の材料(例えばMo)に拡散されて拡散層(例えばMoSi拡散層)が形成されてしまう。しかし、低屈折率層に添加元素を含ませることにより、拡散層が形成されることを抑制することができ、拡散層の形成による多層反射膜5の反射率の低下を抑制することができる。
【0058】
<<保護膜6>>
本実施形態の多層反射膜付き基板110では、
図2に示すように、多層反射膜5上に保護膜6を形成することが好ましい。多層反射膜5上に保護膜6が形成されていることにより、多層反射膜付き基板110を用いて反射型マスク200を製造する際の多層反射膜5表面へのダメージを抑制することができる。そのため、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0059】
保護膜6は、後述する反射型マスク200の製造工程におけるドライエッチング及び洗浄から、多層反射膜5を保護するために、多層反射膜5の上に形成される。また、保護膜6は、電子線(EB)を用いたマスクパターンの黒欠陥修正の際の多層反射膜5の保護という機能も兼ね備える。ここで、
図2では、保護膜6が1層の場合を示している。しかしながら、保護膜6を2層の積層構造としてもよいし、又は、保護膜6を3層以上の積層構造とし、最下層及び最上層を、例えばRuを含有する物質からなる層とし、最下層と最上層との間に、Ru以外の金属、若しくは合金を介在させたものすることができる。保護膜6は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金、及びそれらに窒素を含む材料が挙げられる。この中でも特にTiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることが好ましい。多層反射膜5の構成元素がケイ素の場合には、Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いることにより、ケイ素が、多層反射膜5の表面から保護膜6へと拡散するという現象を抑制できる。このため、マスク洗浄時の表面荒れが少なくなり、また、膜はがれも起こしにくくなる。表面荒れの低減は、EUV露光光に対する多層反射膜5の反射率低下防止に直結するので、EUV露光の露光効率改善、スループット向上のために重要である。
【0060】
保護膜6に用いるRu合金のRu含有比率は50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。特に、Ru合金のRu含有比率が95原子%以上100原子%未満の場合には、保護膜6に対する多層反射膜5の構成元素(例えば、ケイ素)の拡散を抑えることが可能になる。また、この場合の保護膜6は、EUV光の反射率を十分確保しながら、マスク洗浄耐性、吸収体膜7をエッチング加工した時のエッチングストッパ機能、及び多層反射膜5の経時的変化防止の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0061】
EUVリソグラフィでは、露光光に対して透明な物質が少ないので、マスクパターン面への異物付着を防止するEUVペリクルが技術的に簡単ではない。このことから、ペリクルを用いないペリクルレス運用が主流となっている。また、EUVリソグラフィでは、EUV露光によって反射型マスク200にカーボン膜が堆積したり、酸化膜が成長するといった露光コンタミネーションが起こる。このため、反射型マスク200を半導体装置の製造に使用している段階で、度々洗浄を行って反射型マスク200上の異物やコンタミネーションを除去する必要がある。このことから、EUV反射型マスク200では、光リソグラフィ用の透過型マスクに比べて桁違いのマスク洗浄耐性が要求されている。Tiを含有したRu系材料からなる保護膜6を用いると、硫酸、硫酸過水(SPM)、アンモニア、アンモニア過水(APM)、OHラジカル洗浄水、及び濃度が10ppm以下のオゾン水などの洗浄液に対する洗浄耐性が特に高くなり、マスク洗浄耐性の要求を満たすことが可能となる。
【0062】
保護膜6の膜厚は、保護膜6としての機能を果たすことができる限り特に制限されない。EUV光の反射率の観点から、保護膜6の膜厚は、好ましくは、1.0nmから8.0nm、より好ましくは、1.5nmから6.0nmである。
【0063】
保護膜6の形成方法としては、公知の膜形成方法を特に制限なく採用することができる。具体例としては、保護膜6の形成方法として、スパッタリング法及びイオンビームスパッタリング法が挙げられる。
【0064】
<加熱処理(アニール)>
一般的に、多層反射膜5は、短波長の光で高反射率を得るために低屈折率層及び高屈折率層の膜密度を高くする必要がある。そのため、必然的に多層反射膜5は高い圧縮応力を有することになる。したがって、通常、多層反射膜5(又は保護膜6)形成後に、加熱処理を行って膜応力を低減させている。しかし、多層反射膜5の加熱処理温度を高くすればするほど多層反射膜5の膜応力は低減できるが、多層反射膜5のEUV光における反射率が低下するという問題が生じる。
【0065】
本実施形態の多層反射膜5は、多層反射膜5の低屈折率層に上記添加元素を含有させることにより、膜応力を小さくすることができる。そのため、加熱処理を行わずに、高い反射率を有する多層反射膜付き基板110を得ることができる。また、多層反射膜5を加熱処理する場合でも、加熱処理温度を低くすることができ、高い反射率を維持することが可能である。
【0066】
添加元素を窒素とした場合の多層反射膜5の膜応力を評価した。イオンビームスパッタリングによる多層反射膜5の成膜の際に、窒素ガスの流量及び加熱処理(アニール)温度を変えて、基板1の変形量(例えば、CTIR)の測定を行うことにより、どの程度、多層反射膜5の膜応力を低減できるか評価した。
【0067】
多層反射膜5の膜応力による多層反射膜付き基板110の変形量を示すパラメーターとしてCTIR(Coordinate Total Indicated Reading)について説明する。まず、多層反射膜5を形成する前の基板1の主表面を測定して多層反射膜5の成膜前の基板1の表面形状を取得する。次に、基板1の主表面に多層反射膜5が成膜された多層反射膜付き基板110の表面を測定して、多層反射膜5の成膜後の表面形状を取得する。CTIRは、基板1の表面形状と多層反射膜付き基板110の表面形状との間で差分形状を算出し、この差分形状において最も高い値と最も低い値との差の絶対値である。
【0068】
後述する試料1~8の加熱処理を行っていない多層反射膜付き基板110のCTIRを測定した。また、試料1~8と同じ条件で作製した多層反射膜付き基板110に対して、熱処理(アニール)温度を50℃、100℃、150℃及び200℃とした場合のCTIRを測定した。なお、熱処理(アニール)時間は10分間とした。多層反射膜付き基板110のCTIRの測定は、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用い、多層反射膜5の成膜エリア内の132mm角でのCTIRで評価した。これらの結果を表1及び
図9に示す。表1及び
図9において、「+」は圧縮応力を有していることを示し、「-」は引張応力を有していることを示す。
【0069】
CTIRは、圧縮応力を有することが多い裏面導電膜2と相殺する場合があることを考慮すると、-100nm~350nmが好ましい。本実施形態の多層反射膜付き基板110では、熱処理(アニール)温度を調整することにより、裏面導電膜2の膜応力と相殺するようなCTIRを選択することができる。例えば、表1及び
図9からわかるように、結晶子サイズが1.3~1.6nmの場合には、加熱処理を行わずに、CTIRを0~350nmの範囲とすることができる。また、結晶子サイズが1.4~2.0nmの場合には、熱処理(アニール)温度50℃で、CTIRを-100~350nmの範囲とすることができる。結晶子サイズが1.6~2.3nmの場合には、熱処理(アニール)温度100℃で、CTIRを-100~350nmの範囲とすることができる。結晶子サイズが2.0~2.5nmの場合には、熱処理(アニール)温度150℃で、CTIRを0~350nmの範囲とすることができる。結晶子サイズが2.3~2.5nmの場合には、熱処理(アニール)温度200℃で、CTIRを0~350nmの範囲とすることができる。
【0070】
本実施形態の多層反射膜5は、加熱処理を行う必要がなく、また加熱処理を行う場合でも、100℃以下の低温で加熱処理を行うことができる。これにより、高い反射率を維持しつつ、膜応力の低い多層反射膜付き基板110を得ることができる。また、高い反射率を維持しつつ、膜応力をゼロにすることもできる。本実施形態の多層反射膜付き基板110は、多層反射膜付き基板110の変形量(CTIR)を小さくすることができるので、マスクパターンの形状精度及び位置精度を向上させることが可能となる。
【0071】
<反射型マスクブランク100>
本実施形態の反射型マスクブランク100の実施形態について説明する。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を製造することができる。
【0072】
<<吸収体膜7>>
反射型マスクブランク100は、上述の多層反射膜付き基板110の上に、吸収体膜7を有する。すなわち、吸収体膜7は、多層反射膜5の上(保護膜6が形成されている場合には、保護膜6の上)に形成される。吸収体膜7の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜7は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜7であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜7であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜7とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜7がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜7が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜7が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、保護膜6を介して多層反射膜5から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜7からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差を有することになる。位相シフト機能を有する吸収体膜7は、吸収体膜7からの反射光と、多層反射膜5からの反射光との位相差が170度から190度となるように形成される。180度近傍の反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0073】
吸収体膜7は単層の膜であっても良いし、複数の膜からなる多層膜であっても良い。単層膜の場合は、マスクブランク製造時の工程数を削減できて生産効率が上がるという特徴がある。多層膜の場合には、上層吸収体膜が、光を用いたマスクパターン検査時の反射防止膜になるように、その光学定数と膜厚を適当に設定することができる。このことにより、光を用いたマスクパターン検査時の検査感度が向上する。また、上層吸収体膜に酸化耐性が向上する酸素(O)及び窒素(N)等が添加された膜を用いると、経時的安定性が向上する。このように、吸収体膜7を多層膜にすることによって様々な機能を付加させることが可能となる。吸収体膜7が位相シフト機能を有する吸収体膜7の場合には、多層膜にすることによって光学面での調整の範囲を大きくすることができるので、所望の反射率を得ることが容易になる。
【0074】
吸収体膜7の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)やフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、タンタル(Ta)単体又はTaを主成分として含むタンタル化合物を好ましく用いることができる。
【0075】
上述のタンタル及びタンタル化合物等の吸収体膜7は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。例えば、タンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、吸収体膜7を成膜することができる。
【0076】
吸収体膜7を形成するためのタンタル化合物は、Taの合金を含む。吸収体膜7がTaの合金の場合、平滑性及び平坦性の点から、吸収体膜7の結晶状態は、アモルファス又は微結晶の構造であることが好ましい。吸収体膜7の表面が平滑・平坦でないと、吸収体パターン7aのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなることがある。吸収体膜7の好ましい表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rms)で、0.5nm以下であり、より好ましくは0.4nm以下、さらに好ましくは0.3nm以下である。
【0077】
吸収体膜7の形成のためのタンタル化合物としては、TaとBとを含む化合物、TaとNとを含む化合物、TaとOとNとを含む化合物、TaとBとを含み、さらにOとNの少なくともいずれかを含む化合物、TaとSiとを含む化合物、TaとSiとNとを含む化合物、TaとGeとを含む化合物、及びTaとGeとNとを含む化合物、等を用いることができる。
【0078】
Taは、EUV光の吸収係数が大きく、また、塩素系ガスやフッ素系ガスで容易にドライエッチングすることが可能な材料である。そのため、Taは、加工性に優れた吸収体膜7の材料であるといえる。さらにTaにB、Si及び/又はGe等を加えることにより、アモルファス状の材料を容易に得ることができる。この結果、吸収体膜7の平滑性を向上させることができる。また、TaにN及び/又はOを加えれば、吸収体膜7の酸化に対する耐性が向上するため、経時的安定性を向上させることができるという効果が得られる。
【0079】
また、吸収体膜7を構成する材料としては、タンタル又はタンタル化合物以外に、Cr、CrN、CrCON、CrCO、CrCOH、及びCrCONH等のクロム及びクロム化合物、並びに、WN、TiN及びTi等の材料が挙げられる。
【0080】
<<裏面導電膜2>>
基板1の第2主表面(裏面)の上(多層反射膜5の形成面の反対側であり、基板1に水素侵入抑制膜等の中間層4が形成されている場合には中間層の上)には、、
図4A-Eに示されるように、静電チャック用の裏面導電膜2が形成される。静電チャック用として、裏面導電膜2に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□以下である。裏面導電膜2の形成方法は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法である。裏面導電膜2クロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも1つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜2のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、炭素の少なくとも1つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。裏面導電膜2の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜2はマスクブランク100の第2主表面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜2は、第1主表面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整される。
【0081】
なお、上述の吸収体膜7を形成する前に、多層反射膜付き基板110に対して裏面導電膜2を形成することができる。その場合には、
図2に示すような裏面導電膜2を備えた多層反射膜付き基板110を得ることができる。
【0082】
<その他の薄膜>
本実施形態の製造方法で製造される多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、吸収体膜7上にエッチング用ハードマスク膜(「エッチングマスク膜」ともいう。)及び/又はレジスト膜8を備えることができる。エッチング用ハードマスク膜の代表的な材料としては、ケイ素(Si)、並びにケイ素に酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの元素を加えた材料、又は、クロム(Cr)、並びにクロムに酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び水素(H)から選択される少なくとも1つの元素を加えた材料等がある。具体的には、SiO2、SiON、SiN、SiO、Si、SiC、SiCO、SiCN、SiCON、Cr、CrN、CrO、CrON、CrC、CrCO、CrCN、及びCrOCN等が挙げられる。但し、吸収体膜7が酸素を含む化合物の場合、エッチング用ハードマスク膜として酸素を含む材料(例えばSiO2)はエッチング耐性の観点から避けたほうが良い。エッチング用ハードマスク膜を形成した場合には、レジスト膜8の膜厚を薄くすることが可能となり、パターンの微細化に対して有利である。
【0083】
本実施形態の多層反射膜付き基板110及び反射型マスクブランク100は、それらの基板1であるガラス基板と、タンタル又はクロムを含有する裏面導電膜2との間に、基板1から裏面導電膜2へ水素が侵入することを抑制する水素侵入抑制膜を備えることが好ましい。水素侵入抑制膜の存在により、裏面導電膜2中に水素が取り込まれることを抑制でき、裏面導電膜2の圧縮応力の増大を抑制することができる。
【0084】
水素侵入抑制膜の材料は、水素が透過しにくく、基板1から裏面導電膜2への水素の侵入を抑制することができる材料であればどのような種類であってもよい。水素侵入抑制膜の材料としては、具体的には、例えば、Si、SiO2、SiON、SiCO、SiCON、SiBO、SiBON、Cr、CrN、CrON、CrC、CrCN、CrCO、CrCON、Mo、MoSi、MoSiN、MoSiO、MoSiCO、MoSiON、MoSiCON、TaO及びTaON等を挙げることができる。水素侵入抑制膜は、これらの材料の単層であることができ、また、複数層及び組成傾斜膜であってもよい。
【0085】
<反射型マスク200>
本実施形態は、上述の反射型マスクブランク100の吸収体膜7をパターニングして、多層反射膜5上に吸収体パターン7aを有する反射型マスク200である。本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を得ることができる。
【0086】
本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、反射型マスク200を製造する。ここでは概要説明のみを行い、後に実施例において図面を参照しながら詳細に説明する。
【0087】
反射型マスクブランク100を準備して、その第1主表面の最表面(以下の実施例で説明するように、吸収体膜7の上)に、レジスト膜8を形成し(反射型マスクブランク100としてレジスト膜8を備えている場合は不要)、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成する。
【0088】
このレジストパターン8aをマスクとして使用して、吸収体膜7をドライエッチングすることにより、吸収体パターン7aを形成する。なお、エッチングガスとしては、Cl2、SiCl4、及びCHCl3等の塩素系のガス、塩素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとHeとを所定の割合で含む混合ガス、塩素系ガスとArとを所定の割合で含む混合ガス、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、F2等のフッ素系のガス、並びにフッ素系ガスとO2とを所定の割合で含む混合ガス等から選択したものを用いることができる。ここで、エッチングの最終段階でエッチングガスに酸素が含まれていると、Ru系保護膜6に表面荒れが生じる。このため、Ru系保護膜6がエッチングに曝されるオーバーエッチング段階では、酸素が含まれていないエッチングガスを用いることが好ましい。
【0089】
その後、アッシングやレジスト剥離液によりレジストパターン8aを除去し、所望の回路パターンが形成された吸収体パターン7aを作製する。
【0090】
以上の工程により、本実施形態の反射型マスク200を得ることができる。
【0091】
<半導体装置の製造方法>
【0092】
本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述の反射型マスク200を用いて、露光装置を使用したリソグラフィプロセスを行い、被転写体に転写パターンを形成する工程を有する。
【0093】
本実施形態では、露光光に対する反射率が高く、かつ欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を有する反射型マスク200を、半導体装置の製造のために用いることができる。その結果、半導体装置の製造の際のスループットを向上することができる。さらに、多層反射膜5上に転写に寄与する実欠陥がない反射型マスク200を使用して半導体装置を製造するので、多層反射膜5の欠陥に起因する半導体装置の歩留まり低下を抑制することができる。
【0094】
具体的には、上記本実施形態の反射型マスク200を使用してEUV露光を行うことにより、半導体基板上に所望の転写パターンを形成することができる。このリソグラフィ工程に加え、被加工膜のエッチングや絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の電子回路が形成された半導体装置を高い歩留まりで製造することができる。
【実施例】
【0095】
以下、実施例及び比較例について図面を参照しつつ説明する。なお、実施例において同様の構成要素については同一の符号を使用し、説明を簡略化若しくは省略する。
【0096】
実施例の多層反射膜付き基板110は、
図1に示すように、基板1と、多層反射膜5とを有する。
【0097】
第1主表面及び第2主表面の両表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板であるSiO2-TiO2系ガラス基板を準備し、基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0098】
次に、基板1の主表面(第1主面)上に、多層反射膜5を形成した。基板1上に形成される多層反射膜5は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜5とするために、MoとSiからなる周期多層反射膜5とした。多層反射膜5は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、所定のプロセスガス及び所定のターゲットによるイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo膜及びSi膜を交互に積層して形成した。先ず、Si膜を4.2nmの厚みで成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの厚みで成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの厚みで成膜し、多層反射膜5を形成した。
【0099】
表1に、実施例及び比較例の試料1~8の多層反射膜5を成膜する際に用いたガス及び流量を示す。試料2~7は本発明の実施例であり、試料1及び8は比較例である。試料2~8では、多層反射膜5の成膜の際に、Krガスに加えて、N2ガスを用いることによって、多層反射膜5の低屈折率層へ窒素(N2)を導入した。なお、高屈折率層の成膜の際も、低屈折率層と同じKrガス及びN2ガスを用いた。試料8の場合には、多層反射膜5の低屈折率層の成膜の際の窒素(N2)の流量が多かったため、結晶子サイズが1.1nmだった。
【0100】
表2に、実施例の試料9~11の多層反射膜5を成膜する際に用いたプロセスガス、流量及びターゲットを示す。試料9及び10では、MoZrターゲットを用いることによって、多層反射膜5の低屈折率層へジルコニウム(Zr)を導入した。試料11では、MoBターゲットを用いることによって、多層反射膜5の低屈折率層へホウ素(B)を導入した。
【0101】
表3に、実施例の試料12~14の多層反射膜5を成膜する際のプロセスガス体積比等を示す。試料12及び13では、MoターゲットおよびSiターゲットを用いて多層反射膜5を成膜する際に、希ガスであるKrガスに加えて、H2ガス(水素ガス)を用いることによって、多層反射膜5へ水素(H)を導入した。本例では、低屈折率層および高屈折率層の成膜の際、それぞれ同じKrガス及びH2ガスを用いるとともに、それらプロセスガスの体積比も同じとした。試料14では、MoターゲットおよびSiターゲットを用いて、多層反射膜5を成膜する際に、希ガスであるKrガスに加えて、D2ガス(重水素ガス)を用いることによって、多層反射膜5へ重水素(D)を導入した。なお、本例では、低屈折率層および高屈折率層の成膜の際、それぞれ共に同じKrガス及びD2ガスを用いるとともに、それらプロセスガスの体積比も同じとした。なお、これらの例においては、希ガスとしてKrガスを選択したが、これに限らずArガスやXeガスを用いることもできる。また、プロセスガスの体積比を、低屈折率層を成膜する際と高屈折率層を成膜する際に異ならせることもできる。
【0102】
以上のようにして、試料1~14の多層反射膜付き基板110を製造した。
【0103】
<多層反射膜付き基板110の評価>
試料1~14の多層反射膜付き基板110の評価は、下記の評価方法で行った。
【0104】
<<結晶子サイズ>>
上述のようにして製造した各試料の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5について、X線回折法により結晶性を測定した。その結果、多層反射膜5からのX線回折として、Mo(110)の回折ピークが確認された。表1乃至表3に、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズを示す。なお、結晶子サイズは、以下に示すシェラーの式を用いて算出した。
結晶子サイズ(nm)=0.9λ/βcosθ
β=(βe
2-β0
2)1/2
ここで、λ:0.15418nm
β:回折ピークの半値幅の補正値(rad)
βe:回折ピークの半値幅の測定値
β0:半値幅の装置定数(0)
θ:ブラッグ角(回折角2θの1/2)とした。
【0105】
図5に、試料1~8の多層反射膜5の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズとの関係をプロットしたグラフを示す。
【0106】
<<TEM-EDX分析>>
低屈折率層における添加元素の有無を、TEM-EDX分析により確認した。その結果、試料2~8は窒素(N)、試料9及び10はジルコニウム(Zr)、試料11はホウ素(B)を含んでいたが、試料1は添加元素を含んでいないことを確認した。また、試料2~8については、表1にN/[N+Mo]比率を示す。
<<ダイナミックSIMS>>
多層反射膜5に含まれる添加元素(H又はD)の有無を、ダイナミックSIMS(四重極型二次イオン質量分析装置:PHI ADEPT-1010TM、アルバック・ファイ株式会社製)によって確認した。測定条件は、一次イオン種をCs+、一次加速電圧を1.0kV、一次イオン照射領域を90μm角、二次イオン極性を正、検出二次イオン種を[Cs-H]+、又は[Cs-D]+とした。また、標準試料はSiとした。その結果、試料12及び13は水素(H)、試料14は重水素(D)を含んでいることを確認した。
【0107】
<<拡散層の厚さ>>
試料1~8の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5について、Mo層とSi層との1周期あたりの拡散層の厚さを算出した。まず、X線反射率法(XRR)を用いて、Si層上にMo粒子を入射させた際に形成された各MoSi拡散層の厚さの平均値(Si層上のMoSi拡散層の厚さ:D1)と、Mo層上にSi粒子を入射させた際に形成された各MoSi拡散層の厚さの平均値(Mo層上のMoSi拡散層の厚さ:D2)をそれぞれ導出した。そして、D1とD2とを合計することにより、Mo層とSi層との1周期あたりの拡散層の厚さとした。表1にD1、D2及び拡散層の厚さを示す。また、同様にして、試料9~14の拡散層の厚さを算出したところ、いずれも1.7nm以下であった。
【0108】
<<反射率>>
試料1~14の多層反射膜付き基板110の多層反射膜5の、波長13.5nmのEUV光に対する反射率を測定した。表1乃至表3に反射率の測定結果を示す。また、
図8に、表1に示す試料1~8の多層反射膜5の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、反射率との関係をプロットしたグラフを示す。
【0109】
<<バックグラウンドレベル(BGL)>>
各試料の多層反射膜付き基板110に対して欠陥検査を行い、多層反射膜5のバックグラウンドレベル(BGL)を測定した。バックグラウンドレベル(BGL)は、多層反射膜5の欠陥検査を所定の欠陥検査装置により測定する際に、自動的に測定される。表1乃至表3の「BGL」欄に、バックグラウンドレベル(BGL)の測定結果を示す。なお、多層反射膜付き基板110の欠陥検査のための欠陥検査装置は、検査光としてEUV光を使用したブランクス欠陥検査装置(Actinic Blank Inspection)を用いた。
【0110】
図6に、試料1~8の多層反射膜5の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係をプロットしたグラフを示す。また、
図7に、試料1~8の結晶子サイズと、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係をプロットしたグラフを示す。また、
図10に、試料12~14の結晶子サイズと、欠陥検査の際のバックグラウンドレベル(BGL)との関係をプロットしたグラフを示す。
【0111】
<<変形量(CTIR)>>
試料1~8の、基板1の表面形状、及び多層反射膜付き基板110の表面形状を測定し、その測定結果から、多層反射膜5の膜応力による多層反射膜付き基板110の変形量を示すCTIR(Coordinate Total Indicated Reading)を算出した。CTIRは、基板1の表面形状と、多層反射膜付き基板110の表面形状との間で差分形状を算出し、この差分形状において最も高い値と最も低い値との差の絶対値である。CTIRの測定は、平坦度測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて、基板1の表面形状、及び多層反射膜5を成膜後の多層反射膜付き基板110の表面形状を測定し、成膜エリア内の132mm角での差分形状を算出することにより、CTIRの値を得た。
【0112】
表1の「加熱処理なし」欄には、試料1~8の加熱処理を行っていない多層反射膜付き基板110のCTIRの値を示す。また、試料1~8と同じ条件で作製した多層反射膜付き基板110に対して、加熱処理温度を50℃、100℃、150℃及び200℃とした場合の表面形状の測定結果から、CTIRを測定した。なお、加熱処理時間は10分間とした。表1に、加熱処理をして得られた試料1~8のCTIRの値を示す。また、
図9に、表1に示す多層反射膜5の成膜の際の窒素(N
2)の流量(sccm)と、CTIRとの関係をプロットしたグラフを示す。表1及び
図9において、CTIRの値の「+」は圧縮応力を有していることを示し、「-」は引張応力を有していることを示す。
【0113】
<多層反射膜付き基板110の評価結果>
試料1では、低屈折率層に窒素は含まれておらず、Mo(110)の回折ピークから算出した結晶子サイズが2.6nmと大きく、バックグラウンドレベル(BGL)は408と高い値だった。これに対して、本発明の実施例である試料2~7及び9~11では、低屈折率層に添加元素(窒素、ジルコニウム又はホウ素)が含まれており、結晶子サイズは2.5nm以下であり、バックグラウンドレベル(BGL)は400未満という低い値だった。また、試料2~7及び9~11では、反射率が67%以上と高かった。したがって、低屈折率層をMo及び所定の添加元素を含む膜とし、結晶子サイズを2.5nm以下とすることにより、反射率が高く、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが低い多層反射膜5を得ることができるといえる。
また、本発明の実施例である試料12~14では、多層反射膜5に添加元素(水素又は重水素)が含まれており、多層反射膜5の結晶子サイズは2.54nm以下であった。試料12~14の結晶子サイズは、2.54nm、2.51nmおよび2.50nmと、いずれも2.5nm程度であった。これら結晶子サイズは、その他の添加元素を含む試料の一部と同程度であり、あるいは2.50nmをわずかに超えるものであったが、バックグラウンドレベル(BGL)は303以下であり、それら他の実施例と比較しても十分低い値を得ることができた。これら実施例では、低屈折率層の成膜時および高屈折率層の成膜時の双方に水素又は重水素を添加しているため、水素又は重水素は、低屈折率層及び/又は高屈折率層に含まれ得るが、高屈折率層のみに含まれていても良い。添加物が水素又は重水素の場合には、添加物が高屈折率層に含まれる場合であっても良好な多層反射膜を得ることができた。低屈折率層を少なくともMoを含む膜とし、水素又は重水素を多層反射膜へ添加し、結晶子サイズを少なくとも2.5nm以下、或いは2.54nm以下とすることで、反射率が高く、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが十分低い多層反射膜5を得ることができるといえる。なお、これらの例においては、希ガスとしてKrガスを選択したが、これに限らずArガスやXeガスを用いることもできる。また、プロセスガスの体積比を、低屈折率層を成膜する際と高屈折率層を成膜する際に異ならせることもできる。
【0114】
また、試料8では、結晶子サイズが1.1nmであり、反射率が66.9%と低かった。したがって、結晶子サイズを1.1nm超とすることにより、反射率の要求値を満たす多層反射膜5を得ることができるといえる。
【0115】
<反射型マスクブランク100>
上記の試料1~7及び9~14の多層反射膜付き基板110は、露光光である波長13.5nmのEUV光に対する反射率が67%以上であり、反射率が高い多層反射膜5を有する。ただし、上記の試料1の多層反射膜付き基板110は、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400以上と高いため、欠陥検査に必要な時間が長かった。また、欠陥検査の際のバックグラウンドレベルが400以上と高いために、転写に寄与する実欠陥が含まれないと判定した多層反射膜付き基板110に、実欠陥が含まれているリスクがある。そこで、反射率が高く(67%以上)、バックグラウンドレベルが低い(400未満)試料2~7及び9~14の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造することができる。以下、試料2~7及び9~14の多層反射膜付き基板110を用いた反射型マスクブランク100の製造方法について、説明する。
【0116】
上述の多層反射膜付き基板110の表面に、保護膜6を形成した。Arガス雰囲気中で、Ruターゲットを使用したDCスパッタリング法によりRuからなる保護膜6を2.5nmの膜厚で成膜した。
【0117】
次に、DCスパッタリング法により、吸収体膜7として膜厚62nmのTaBN膜を形成した。TaBN膜は、TaB混合焼結をターゲットに用いて、ArガスとN2ガスの混合ガス雰囲気にて反応性スパッタリング法で形成した。
【0118】
TaBN膜の元素比率は、Taが75原子%、Bが12原子%、Nが13原子%であった。TaBN膜の波長13.5nmにおける屈折率nは約0.949、消衰係数kは約0.030であった。
【0119】
次に、基板1の第2主表面(裏面)にCrNからなる裏面導電膜2をマグネトロンスパッタリング(反応性スパッタリング)法により下記の条件にて形成した。裏面導電膜2の形成条件:Crターゲット、ArとN2の混合ガス雰囲気(Ar:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm。
【0120】
以上のようにして、反射率が高く、バックグラウンドレベルが低く、かつ反射率が高い試料2~7及び9~14の多層反射膜付き基板110を用いて、反射型マスクブランク100を製造した。
【0121】
<反射型マスク200>
次に、上記の、試料2~7及び9~14の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。
図4を参照して反射型マスク200の製造方法を説明する。
【0122】
まず、
図4(b)に示されるように、反射型マスクブランク100の吸収体膜7の上に、レジスト膜8を形成した。そして、このレジスト膜8に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、さらに現像、リンスすることによって所定のレジストパターン8aを形成した(
図4(c))。次に、レジストパターン8aをマスクにして吸収体膜7(TaBN膜)を、Cl
2ガスを用いてドライエッチングすることで、吸収体パターン7aを形成した(
図4(d))。Ruからなる保護膜6はCl
2ガスに対するドライエッチング耐性が極めて高く、十分なエッチングストッパとなる。その後、レジストパターン8aをアッシングやレジスト剥離液などで除去した(
図4(e))。
【0123】
以上のようにして、試料2~7及び9~14の反射型マスク200を製造した。
【0124】
<半導体装置の製造>
上記の、反射率が高く、バックグラウンドレベルが低い多層反射膜付き基板110を用いて製造した反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、半導体基板上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウエハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板上にレジストパターンを形成した。
【0125】
このレジストパターンをエッチングにより被加工膜に転写し、また、絶縁膜、導電膜の形成、ドーパントの導入、あるいはアニールなど種々の工程を経ることで、所望の特性を有する半導体装置を高い歩留まりで製造することができた。
【0126】
【0127】
【0128】
【符号の説明】
【0129】
1 基板
2 裏面導電膜
5 多層反射膜
6 保護膜
7 吸収体膜
7a 吸収体パターン
8 レジスト膜
8a レジストパターン
100 反射型マスクブランク
110 多層反射膜付き基板
200 反射型マスク