(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】全固体電池用電極および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20231212BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231212BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231212BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231212BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
(21)【出願番号】P 2020044799
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078064
【氏名又は名称】三輪 鐵雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115901
【氏名又は名称】三輪 英樹
(72)【発明者】
【氏名】冨田 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】青木 潤珠
(72)【発明者】
【氏名】上剃 春樹
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-085843(JP,A)
【文献】特開2016-197590(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146236(WO,A1)
【文献】特開2002-373643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/052、10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に使用される電極であって、
活物質を含む電極材料、固体電解質および導電助剤を含有する合剤の成形体を有しており、
前記電極材料は、表面の少なくとも一部に、固体電解質Aと導電助剤とを含む層を有する複合粒子であり、
前記合剤の成形体は、前記複合粒子同士の間に固体電解質Bを有しており、
前記固体電解質Aのヤング率E
Aと前記固体電解質Bのヤング率E
Bとが、E
A>E
Bの関係を満たすことを特徴とする全固体電池用電極。
【請求項2】
前記電極材料は、前記活物質の表面の少なくとも一部に、前記活物質と固体電解質との反応を抑制する反応抑制層を有している請求項1に記載の全固体電池用電極。
【請求項3】
正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方が、請求項1または2に記載の全固体電池用電極であることを特徴とする全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷特性および貯蔵特性に優れた全固体電池、並びに前記全固体電池を形成するための全固体電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどのポータブル電子機器の発達や、電気自動車の実用化などに伴い、小型・軽量で、かつ高容量・高エネルギー密度の二次電池が必要とされるようになってきている。
【0003】
現在、この要求に応え得るリチウム二次電池、特にリチウムイオン二次電池では、正極活物質にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)などのリチウム含有複合酸化物が用いられ、負極活物質に黒鉛などが用いられ、非水電解質として有機溶媒とリチウム塩とを含む有機電解液が用いられている。
【0004】
そして、リチウムイオン二次電池の適用機器の更なる発達に伴って、リチウムイオン二次電池の更なる長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化が求められていると共に、長寿命化・高容量化・高エネルギー密度化したリチウムイオン二次電池の安全性および信頼性も高く求められている。
【0005】
しかし、リチウムイオン二次電池に用いられている有機電解液は、可燃性物質である有機溶媒を含んでいるため、電池に短絡などの異常事態が発生した際に、有機電解液が異常発熱する可能性がある。また、近年のリチウムイオン二次電池の高エネルギー密度化および有機電解液中の有機溶媒量の増加傾向に伴い、より一層リチウムイオン二次電池の安全性および信頼性が求められている。
【0006】
以上のような状況において、有機溶媒を用いない全固体型のリチウム二次電池(全固体電池)が注目されている。全固体電池は、従来の有機溶媒系電解質に代えて、有機溶媒を用いない固体電解質の成形体を用いるものであり、固体電解質の異常発熱の虞がなく、高い安全性を備えている。
【0007】
また、全固体電池においては、種々の改良が試みられている。例えば、電極活物質の表面を固体電解質で被覆して複合体とし、これを使用することで、全固体電池の性能向上を図ることが従来から行われている。そして、特許文献1、2には、こうした複合体の構成や形成方法を改良する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-22074号公報
【文献】特開2016-207418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、現在、全固体電池においては、その適用分野が急速に拡大しており、例えば大きな電流値での放電が求められる用途への適用も考えられることから、これに応え得るように負荷特性を高めることが求められ、また、より貯蔵特性を高めることへの要請もある。
【0010】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、負荷特性および貯蔵特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を形成するための全固体電池用電極とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の全固体電池用電極は、活物質を含む電極材料、固体電解質および導電助剤を含有する合剤の成形体を有しており、前記電極材料は、表面の少なくとも一部に、固体電解質Aと導電助剤とを含む層を有する複合粒子であり、前記合剤の成形体は、前記複合粒子同士の間に固体電解質Bを有しており、前記固体電解質Aのヤング率EAと前記固体電解質Bのヤング率EBとが、EA>EBの関係を満たすことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の全固体電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有し、前記正極および前記負極のうちの少なくとも一方が、本発明の全固体電池用電極であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、負荷特性および貯蔵特性に優れた全固体電池と、前記全固体電池を形成するための全固体電池用電極とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図である。
【
図2】本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<全固体電池用電極>
本発明の全固体電池用電極は、活物質を含む電極材料、固体電解質および導電助剤を含有する合剤の成形体を有している。
【0016】
全固体電池用電極に使用する前記電極材料は、表面の少なくとも一部に、固体電解質Aと導電助剤とを含む層を有する複合粒子である。また、全固体電池用電極を構成する合剤の成形体は、前記複合粒子同士の間に固体電解質Bを有している。そして、固体電解質Aのヤング率EAと固体電解質Bのヤング率EBとの関係が、EA>EBを満たしている。
【0017】
全固体電池用電極における合剤の成形体においては、活物質粒子同士の間のイオン伝導性を良好にする観点からは、活物質粒子のそれぞれが固体電解質と十分に接触させる必要があるため、固体電解質には柔軟性が高いものを使用することが好ましい。他方、活物質粒子同士の間の電子伝導性を良好にする観点からは、活物質粒子のそれぞれが導電助剤と十分に接触させる必要がある。ところが、柔軟性が高すぎる固体電解質の使用は、固体電解質と導電助剤との接触も良好にしてしまう。その接点が多すぎると、固体電解質が電気化学的に分解して絶縁体となるため、合剤の成形体中のイオン伝導性が低下し、例えば電池の負荷特性が損なわれてしまう。
【0018】
そこで、本発明の全固体電池用電極では、ヤング率の異なる固体電解質Aと固体電解質Bとを使用することとした。そして、活物質を含む電極材料を、その表面の少なくとも一部に固体電解質Aと導電助剤とを含む層で被覆した複合粒子とした。固体電解質Aは、固体電解質Bよりもヤング率が大きく硬いが、それは、固体電解質Aの構造自体がより安定であることを意味している。よって、このような固体電解質Aを含む層で活物質を覆うことで、導電助剤との接触による固体電解質の電気化学的な分解反応を抑制することができる。そして、これにより、前記複合粒子同士の間の電子伝導性が良好となり、複合粒子の表面を被覆する層のイオン伝導性を高く保つことが可能となる。
【0019】
他方、合剤の成形体での、前記複合粒子同士の間には、固体電解質Bを配置した。固体電解質Bは固体電解質Aよりも柔軟性が高いため、空隙の介在を抑制しつつ複合粒子同士の間に充填することができる。これにより、複合粒子同士の間のイオン伝導性、ひいては合剤の成形体中のイオン伝導性を高めることが可能となる。
【0020】
本発明の全固体電池用電極においては、これらの作用によって、これを用いた全固体電池の負荷特性と貯蔵特性とを高めることが可能となる。
【0021】
全固体電池用電極としては、合剤を成形してなる成形体(ペレットなど)や、合剤の成形体からなる層(合剤層)を集電体上に形成してなる構造のものなどが挙げられる。
【0022】
全固体電池用電極が正極の場合、活物質としては、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられているものと同様の、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質の粉末を使用することができる。具体的には、正極活物質として、LiM1
xMn2-xO4(ただし、M1は、Li、B、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Sn、Sb、In、Nb、Mo、W、Y、RuおよびRhよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.01≦x≦0.5)で表されるスピネル型リチウムマンガン複合酸化物、LiaMn(1-b-a)NibM2
cO2-dFf(ただし、M2は、Co、Mg、Al、B、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Zr、Mo、Sn、Ca、SrおよびWよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0.8≦a≦1.2、0<b<0.5、0≦c≦0.5、d+f<1、-0.1≦d≦0.2、0≦f≦0.1)で表される層状化合物、LiCo1-gM3
gO2(ただし、M3は、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦g≦0.5)で表されるリチウムコバルト複合酸化物、LiNi1-hM4
hO2(ただし、M4は、Al、Mg、Ti、Zr、Fe、Co、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦h≦0.5)で表されるリチウムニッケル複合酸化物、LiM5
1-mNmPO4(ただし、M5は、Fe、MnおよびCoよりなる群から選択される少なくとも1種の元素で、Nは、Al、Mg、Ti、Zr、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Nb、Mo、Sn、SbおよびBaよりなる群から選択される少なくとも1種の元素であり、0≦m≦0.5)で表されるオリビン型複合酸化物、Li4Ti5O12で表されるリチウムチタン複合酸化物などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0023】
また、全固体電池用電極が負極の場合、活物質としては、従来から知られているリチウムイオン二次電池に用いられている、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質であれば特に制限はない。例えば、負極活物質として、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、炭素繊維などのリチウムを吸蔵・放出可能な炭素系材料の1種または2種以上の混合物が用いられる。負極活物質としては酸化物を用いてもよく、例えば、LixNbyTiM6
aO{5y+4/2}+δ(ただし、M6は、V、Cr、Mo、Ta、Zr、Mn、Fe、Mg、B、Al、Cu、および、Siからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、0≦x≦49、0.5≦y<24、-5≦δ≦5、0≦a≦0.3)で表される単斜晶系の結晶構造を有する複合酸化物、アナターゼ構造を有する二酸化チタン、Li2Ti3O7で表されるラムスデライト構造を有するチタン酸リチウム、Li4Ti5O12で表されるスピネル型のリチウムチタン複合酸化物、などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。Si、Sn、Ge、Bi、Sb、Inなどの元素を含む単体、化合物およびその合金;Co、Ni、Mn、Fe、Cr、Ti、および、Wなどの遷移金属とリチウムとを含有した窒化物またはリチウム含有酸化物などのリチウム金属に近い低電圧で充放電できる化合物;若しくはリチウム金属やリチウム/アルミニウム合金も負極活物質として用いることができる。
【0024】
活物質は、その表面に、活物質と固体電解質との反応を抑制するための反応抑制層を有することができる。特に、全固体電池用電極が正極の場合には、活物質(正極活物質)お表面には反応抑制層が設けられていることが好ましい。
【0025】
反応抑制層は、イオン伝導性を有し、活物質と固体電解質との反応を抑制できる材料で構成されていればよい。反応抑制層を構成し得る材料としては、例えば、Liと、Nb、P、B、Si、Ge、TiおよびZrよりなる群から選択される少なくとも1種の元素とを含む酸化物、より具体的には、LiNbO3、Li3PO4、Li3BO3、Li4SiO4、Li4GeO4、LiTiO3、LiZrO3などが挙げられる。反応抑制層は、これらの酸化物のうちの1種のみを含有していてもよく、また、2種以上を含有していてもよく、さらに、これらの酸化物のうちの複数種が複合化合物を形成していてもよい。これらの酸化物の中でも、LiNbO3を使用することが好ましい。
【0026】
反応抑制層の厚みは、0.1~100nmであることが好ましく、1~20nmであることがより好ましい。また、反応抑制層による活物質表面の被覆率(面積比率)は、40~100%であることが好ましい。
【0027】
活物質の表面に反応抑制層を形成する方法としては、ゾルゲル法、メカノフュージョン法、CVD法、PVD法などが挙げられる。
【0028】
全固体電池用電極において、活物質を含む電極材料は、表面の少なくとも一部に、固体電解質Aと導電助剤とを含む層を有する複合粒子である。前記複合粒子においては、固体電解質Aと導電助剤とを含む層は、反応抑制層を持たない活物質の場合、例えばその表面に直接形成され、また、反応抑制層を有する活物質の場合には、例えばその反応抑制層の表面に形成される。
【0029】
前記複合粒子が含有する固体電解質Aと導電助剤とを含む層における導電助剤としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、グラフェン(単層グラフェン、多層グラフェン)、カーボンナノチューブなどの高結晶性の炭素材料;カーボンブラックなどの低結晶性の炭素材料;などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。
【0030】
前記複合粒子が含有する固体電解質A、および前記複合粒子同士の間に配置する固体電解質Bは、リチウムイオン伝導性を有していれば特に限定されず、例えば、硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質などが使用できる。
【0031】
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P2S5、Li2S-SiS2、Li2S-P2S5-GeS2、Li2S-B2S3系ガラスなどが挙げられる他、近年、リチウムイオン伝導性が高いものとして注目されているLGPS系のもの(Li10GeP2S12など)や、アルジロダイト系のものも使用することができる。硫黄原子の一部を酸素原子に置換していてもよい。
【0032】
アルジロダイト系材料としては、例えば、下記一般式(1)や下記一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【0033】
Li7-x+yPS6-xClx+y (1)
【0034】
前記一般式(1)中、0.05≦y≦0.9、-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7である。
【0035】
Li7-aPS6-aClbBrc (2)
【0036】
前記一般式(2)中、a=b+c、0<a≦1.8、0.1≦b/c≦10.0である。
【0037】
水素化物系固体電解質としては、例えば、LiBH4、LIBH4と下記のアルカリ金属化合物との固溶体(例えば、LiBH4とアルカリ金属化合物とのモル比が1:1~20:1のもの)などが挙げられる。前記固溶体におけるアルカリ金属化合物としては、ハロゲン化リチウム(LiI、LiBr、LiF、LiClなど)、ハロゲン化ルビジウム(RbI、RbBr、RbiF、RbClなど)、ハロゲン化セシウム(CsI、CsBr、CsF、CsClなど)、リチウムアミド、ルビジウムアミドおよびセシウムアミドよりなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0038】
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li7La3Zr2O12、LiTi(PO4)3、LiGe(PO4)3、LiLaTiO3などが挙げられる。
【0039】
固体電解質Aおよび固体電解質Bには、前記例示の各材料の中から、固体電解質Aのヤング率EAと固体電解質Bのヤング率EBとの関係がEA>EBを満たすように選択すればよい。
【0040】
なお、固体電解質Aのヤング率EAは、20~80GPaであることが好ましく、固体電解Bのヤング率EBは、10~25GPaであることが好ましい。本明細書でいう固体電解質のヤング率は、「Journal of Power Sources,2019,413,p.29-33」に記載の方法に従って求められる値である。
【0041】
固体電解質Aおよび固体電解質Bには、イオン伝導性がより良好であることから、硫化物系固体電解質を使用することがより好ましく、より弾性が高く耐酸化性に優れる前記一般式(1)で表されるアルジロダイト系材料を固体電解質Aとし、柔軟性およびイオン伝導性により優れる前記一般式(2)で表されるアルジロダイト系材料を固体電解質Bとすることがより好ましい。
【0042】
活物質粒子の表面に固体電解質Aと導電助剤とを含む層を形成する方法は特に限定されないが、破砕メディアを用いる混錬装置(例えば、遊星ボールミルなど)、特許文献1に記載された自公転混練処理装置、乾式混練装置(例えば、ホソカワミクロン社製、商品名「NOB-MINI」など)を用いて、活物質粒子と活物質粒子と固体電解質Aと導電助剤とを混練処理する方法などが挙げられる。
【0043】
前記複合粒子が含有する固体電解質Aと導電助剤とを含む層においては、イオン伝導性と電子伝導性とをバランスよく確保する観点から、固体電解質Aの含有量が、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがより好ましく、また、導電助剤の含有量が、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
また、固体電解質Aと導電助剤とを含む層の厚みは、200~5000nmであることが好ましい。さらに、複合粒子の表面における固体電解質Aと導電助剤とを含む層の被覆率(面積比率)は、30~100%であることが好ましい。
【0045】
全固体電池用電極の合剤の成形体は、バインダを含有していてもよいが、含有していなくてもよい。特に固体電解質Bとして硫化物系固体電解質を使用する場合には、その作用によって合剤の成形体を良好に形成できるため、バインダを使用しなくてもよい。バインダには、リチウムイオン二次電池の電極で通常使用されている各種のバインダ(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂など)を使用することができる。
【0046】
また、全固体電池用電極は、前記複合粒子における固体電解質Aと導電助剤とを含む層とは別に、前記層に使用し得るものとして先に例示した各種の導電助剤を含有していてもよい。
【0047】
また、全固体電池用電極の合剤の成形体においては、炭素原子(C)の含有量が、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。合剤の成形体における炭素原子は、導電助剤やバインダに由来するが、この炭素原子の含有量が少ない場合は、例えば導電助剤を過剰に含有することで生じ得る固体電解質の酸化を抑制することができる。なお、合剤の成形体の導電助剤には、先に例示した炭素材料のほかに金属粉体なども使用可能であるが、導電助剤に炭素材料を使用せず、また、バインダも含有させない場合には、合剤の成形体における炭素原子の含有量は、0質量%となる。
【0048】
本明細書でいう合剤の成形体における炭素原子の含有量は、次の方法で測定することができる(後記の実施例に記載の値は、この方法で求めたものである)。全固体電池から電極部分を分取し、重量を測定する。次に、分取した試料を純水に1時間含侵後、残った固形物をろ取、純水で洗浄後、真空乾燥し、得られた粉末の重量を測定する。さらにこの粉末を、王水に1時間含侵し、ろ過後、純水で洗浄する。得られた固形物をフッ化アンモニウム水溶液に1時間含侵し、ろ過後、残った固形物を純水で洗浄し、得られた固形物を真空乾燥し重量を測定することで炭素原子の含有量とする。
【0049】
全固体電池用電極の合剤の成形体における前記複合粒子の含有量は、40~95質量%であることが好ましい。また、全固体電池用電極の合剤の成形体における固体電解質Bの含有量は、5~40質量%であることが好ましい。さらに、全固体電池用電極の合剤の成形体における導電助剤(固体電解質Aと導電助剤とを含む層中の導電助剤、および前記層中の導電助剤とは別に含有する導電助剤を含む)の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましい。そして、合剤の成形体にバインダを含有させる場合の含有量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0050】
全固体電池用電極に集電体を使用する場合、その集電体としては、アルミニウムやステンレス鋼などの金属の箔、パンチングメタル、網、エキスパンドメタル、発泡メタル;カーボンシート;などを用いることができる。
【0051】
全固体電池用電極は、前記複合粒子、固体電解質B、および必要に応じて前記複合粒子中の導電助剤とは別に使用する導電助剤などを、例えば溶媒を使用せずに混合して合剤を調製し、これをペレット状などに成形することで製造できる。また、前記のようにして得られた合剤の成形体を集電体と貼り合わせて正極としてもよい。
【0052】
また、前記の合剤と溶媒とを混合して合剤含有組成物を調製し、これを集電体や全固体電池用電極と対向させる固体電解質層といった基材上に塗布し、乾燥した後にプレス処理を行うことで、合剤の成形体を形成してもよい。
【0053】
合剤含有組成物に使用する溶媒は、固体電解質を劣化させ難いものを選択することが好ましい。特に、硫化物系固体電解質や水素化物系固体電解質は、微少量の水分によって化学反応を起こすため、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、デカリン、トルエン、キシレンなどの炭化水素溶媒に代表される非極性非プロトン性溶媒を使用することが好ましい。特に、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することがより好ましい。また、三井・デュポンフロロケミカル社製の「バートレル(登録商標)」、日本ゼオン社製の「ゼオローラ(登録商標)」、住友3M社製の「ノベック(登録商標)」などのフッ素系溶媒、並びに、ジクロロメタン、ジエチルエーテルなどの非水系有機溶媒を使用することもできる。
【0054】
合剤の成形体(全固体電池用電極が集電体を有しない場合、および集電体を有する場合の両者を含む)の厚みは、20~2000μmであることが好ましい。
【0055】
<全固体電池>
本発明の全固体電池は、正極、負極、および前記正極と前記負極との間に介在する固体電解質層とを有する二次電池であり、正極および負極の少なくとも一方が本発明の全固体電池用電極である。
【0056】
本発明の全固体電池の一例を模式的に表す断面図を
図1に示す。
図1に示す全固体電池1は、外装缶40と、封口缶50と、これらの間に介在する樹脂製のガスケット60で形成された外装体内に、正極10、負極20、および正極10と負極20との間に介在する固体電解質層30が封入されている。
【0057】
封口缶50は、外装缶40の開口部にガスケット60を介して嵌合しており、外装缶40の開口端部が内方に締め付けられ、これによりガスケット60が封口缶50に当接することで、外装缶40の開口部が封口されて素子内部が密閉構造となっている。
【0058】
外装缶および封口缶にはステンレス鋼製のものなどが使用できる。また、ガスケットの素材には、ポリプロピレン、ナイロンなどを使用できるほか、電池の用途との関係で耐熱性が要求される場合には、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)などのフッ素樹脂、ポリフェニレンエーテル(PEE)、ポリスルフォン(PSF)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などの融点が240℃を超える耐熱樹脂を使用することもできる。また、電池が耐熱性を要求される用途に適用される場合、その封口には、ガラスハーメチックシールを利用することもできる。
【0059】
また、
図2および
図3に、本発明の全固体電池の他の例を模式的に表す図面を示す。
図2は全固体電池の平面図であり、
図3は
図2のI-I線断面図である。
【0060】
図2および
図3に示す全固体電池100は、2枚の金属ラミネートフィルムで構成したラミネートフィルム外装体500内に、正極、固体電解質層および負極からなる電極体200を収容しており、ラミネートフィルム外装体500は、その外周部において、上下の金属ラミネートフィルムを熱融着することにより封止されている。なお、
図3では、図面が煩雑になることを避けるために、ラミネートフィルム外装体500を構成している各層や、電極体を構成している正極、負極およびセパレータを区別して示していない。
【0061】
電極体200の有する正極は、電池100内で正極外部端子300と接続しており、また、図示していないが、電極体200の有する負極も、電池100内で負極外部端子400と接続している。そして、正極外部端子300および負極外部端子400は、外部の機器などと接続可能なように、片端側をラミネートフィルム外装体500の外側に引き出されている。
【0062】
全固体電池の正極は、本発明の全固体電池用電極であることが好ましいが、他の電極(正極)を使用することもできる。本発明の全固体電池用電極以外の正極としては、前記複合粒子に使用し得る正極活物質を、前記複合粒子に代えて使用した以外は、本発明の全固体電池用電極と同じ構成の電極(正極)などが挙げられる。
【0063】
また、全固体電池の負極には、本発明の全固体電池用電極を使用できるが、その他の電極(負極)を使用してもよい。本発明の全固体電池用電極以外の負極としては、前記複合粒子に使用し得る負極活物質を、前記複合粒子に代えて使用した以外は、本発明の全固体電池用電極と同じ構成の電極(負極);負極活物質として機能する各種合金やリチウム金属の箔を単独、もしくは集電体上に活物質層として積層した負極;などが挙げられる。
【0064】
全固体電池用における固体電解質層には、全固体電池用電極の固体電解質として先に例示した各種固体電解質(硫化物系固体電解質、水素化物系固体電解質、酸化物系固体電解質)と同じもののうちの1種または2種以上を使用することができる。ただし、電池特性をより優れたものとするためには、硫化物系固体電解質を含有させることが好ましい。
【0065】
固体電解質層は、固体電解質を加圧成形などによって圧縮する方法;固体電解質を溶媒に分散させて調製した固体電解質層形成用組成物を基材や正極、負極の上に塗布して乾燥し、必要に応じてプレス処理などの加圧成形を行う方法:などで形成することができる。
【0066】
また、固体電解質層は、樹脂製の不織布などの多孔質体を支持体として有していてもよい。
【0067】
固体電解質層形成用組成物に使用する溶媒も、全固体電池用電極の製造に使用し得る合剤含有組成物と同様に固体電解質を劣化させ難いものを選択することが望ましく、合剤含有組成物用の溶媒として先に例示した各種溶媒を使用することが好ましく、含有水分量を0.001質量%(10ppm)以下とした超脱水溶媒を使用することが特に好ましい。
【0068】
固体電解質層の厚みは、10~400μmであることが好ましい。
【0069】
正極と負極とは、固体電解質層を介して積層した積層電極体や、さらにこの積層電極体を巻回した巻回電極体の形態で、電池に用いることができる。
【0070】
なお、電極体を形成するに際しては、正極と負極と固体電解質層とを積層した状態で加圧成形することが、電極体の機械的強度を高める観点から好ましい。また、正極(例えばペレット状の正極合剤の成形体)と固体電解質層と負極(例えばペレット状の負極合剤の成形体)とを、前記の加圧成形によって一体化することもできる。この場合、例えば、正極合剤(または負極合剤)を成形し、形成された正極合剤の成形体上に固体電解質層を成形し、さらに形成された固体電解質層上に負極合剤の成形体(または正極合剤の成形体)を形成することで、正極と固体電解質層と負極とが一体化した電極体としてもよい。
【0071】
本発明の全固体電池は、従来から知られている二次電池と同様の用途に適用し得るが、有機電解液に代えて固体電解質を有していることから耐熱性に優れており、高温に曝されるような用途に好ましく使用することができる。本発明の全固体電池用電極は、本発明の全固体電池を構成できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではない。
【0073】
(実施例1)
<正極活物質の調製>
まず394gの脱水エタノール中で、0.86gのリチウムおよび38.7gのペンタエトキシニオブを混合し、反応抑制層形成用コート液を調製した。次に、転動流動層を用いたコート装置にて、1000gの正極活物質(LiCoO2)上に、前記反応抑制層形成用コート液を毎分2gの速度で塗布した。得られた粉末を350℃で熱処理することで、平均層厚が7nmのLiNbO3を含有する反応抑制層が表面に形成された活物質を得た。
【0074】
<固体電解質の調製>
アルゴン雰囲気のグローブボックス中で硫化リチウム、五硫化ニリン、塩化リチウム、臭化リチウムをメノウ乳鉢で1時間混合した。次に、得られた混合物4mlを内容積の12mlジルコニア製の密閉容器に投入し、さらに4mlのジルコニアボールを投入し、毎分380回転の条件下20時間混錬した。得られた混合物を直径10mmの金型を用いて2000kgfの力でペレットの形に成形した。ペレットをグラッシーカーボンのるつぼに投入し、アルゴン雰囲気下550℃で7時間焼成した。得たペレットをメノウ乳鉢で20分間破砕した。得られた粉末に脱水キシレンを投入し、ビーズミルを用いて3時間の微粒子化処理を行い、120℃で真空加熱乾燥することでアルジロダイト型構造を有する硫化物系固体電解質(Li5.4PS4.4Cl0.8Br0.8)の粒子〔平均粒子径(D50):1.1μm〕を得た。
【0075】
<固体電解質層の形成>
直径10mmの粉末成形金型に、前記のようにして調製した硫化物系固体電解質:80mgを投入し、プレス機を用いて4000kgf/cm2の圧力で成形を行い、固体電解質層を形成した。
【0076】
<複合粒子の形成>
前記のようにして作製した反応抑制層を表面に有する正極活物質と、平均粒子径(D50)が0.8μmのアルジロダイト型構造を有する硫化物系固体電解質(Li5.8PS4.6Cl1.6)と、気相法炭素繊維(導電助剤)とを、82.4:1.6:16の質量比で自転公転ミキサーを使用して乾式混合した。得た混合物を内容積12mlのジルコニア製気密容器に移し、4mlのジルコニアボールを投入し、毎分100回転で2時間の遊星ボールミル混練処理を行うことで複合粒子を形成した。
【0077】
<正極の作製>
前記複合粒子と、前記のようにして調製した硫化物系固体電解とを、85:15の質量比で秤量し、自転公転ミキサーを使用して乾式混合することで正極合剤を調製した。次に、前記粉末成形金型内の前記固体電解質層の上に、前記正極合剤:15mgを入れ、プレス機を用いて4000kgf/cm2の圧力で成形を行い、前記固体電解質層の上に円柱形状の正極合剤成形体よりなる正極を作製した。
【0078】
なお、固体電解質Aに使用した固体電解質(複合粒子に使用した固体電解質)のヤング率は25GPa、固体電解質Bに使用した固体電解質(複合粒子と別に正極の作製に使用した固体電解質)のヤング率は19GPaであり、正極合剤成形体中の炭素原子の含有量は1.5質量%であった。
【0079】
<積層電極体の形成>
負極として、Li金属とIn金属とをそれぞれ円柱形状に成形して貼り合わせたものを使用した。この負極を、前記粉末成形金型内の固体電解質層の、正極とは反対側の面上に投入し、プレス機を用いて加圧成形を行い、積層電極体を作製した。
【0080】
<全固体電池の組み立て>
前記の積層電極体を使用し、
図2に示すものと同様の平面構造の全固体電池を作製した。ラミネートフィルム外装体を構成するアルミニウムラミネートフィルムの、外装体の内側となる面に、正極集電箔(SUS箔)および負極集電箔(SUS箔)を、間にある程度の間隔を設けつつ横に並べて貼り付けた。前記各集電箔には、前記積層電極体の正極側表面または負極側表面と対向する本体部と、前記本体部から電池の外部に向けて突出する正極外部端子300および負極外部端子400となる部分とを備えた形状に切断したものを用いた。
【0081】
前記ラミネートフィルム外装体の負極集電箔上に前記積層電極体を載せ、正極集電箔が前記積層電極体の正極上に配置されるように前記ラミネートフィルム外装体で前記積層電極体を包み、真空下で前記ラミネートフィルム外装体の残りの3辺を熱融着によって封止して、全固体電池を得た。
【0082】
(実施例2)
成形圧力を6000kgf/cm2に変更した以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0083】
(実施例3)
実施例1と同様の複合粒子と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維(導電助剤)とを、85:13.5:1.5の質量比で秤量し、自転公転ミキサーを使用して乾式混合することで正極合剤を調製した。このときの正極合剤成形体中の炭素原子の含有量は3.0質量%であった。これを用いて実施例1と同様にして正極を作成し、これを用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作成した。
【0084】
(実施例4)
正極の成形圧力を6000kgf/cm2に変更し、負極を、Li4Ti5O12と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維とを、50:41:9の質量比で混合した混合物:23mgを6000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更した以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0085】
(比較例1)
固体電解質Aをヤング率が19GPaの固体電解質に変更し、固体電解質Bをヤング率が25GPaの固体電解質に変更した以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、これを用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0086】
(比較例2)
複合粒子の組成を正極活物質:固体電解質A=82.4:17.6(質量比)に変更し、固体電解質Bの一部を、正極合剤の成形体中の炭素原子の含有量が1.5%となるように気相法炭素繊維で置き換えた以外は、実施例1と同様にして正極を作製し、これを用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0087】
(比較例3)
固体電解質Aをヤング率が19GPaの固体電解質に変更した以外は実施例1と同様にして正極を作製し、これを用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0088】
(比較例4)
成形圧力を6000kgf/cm2に変更した以外は比較例3と同様にして全固体電池を作製した。
【0089】
(比較例5)
正極を、Li2CoO2と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維とを、70:28.5:1.5の質量比で混合した混合物:15mgを4000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更し、これを用いた以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0090】
(比較例6)
正極を、Li2CoO2と、Li5.8PS4.6Cl1.6と、気相法炭素繊維とを、70:28.5:1.5の質量比で混合した混合物:15mgを6000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更し、負極を、Li4Ti5O12と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維とを、50:41:9の質量比で混合した混合物:23mgを6000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更した以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0091】
(比較例7)
正極を、Li2CoO2と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維とを、70:28.5:1.5の質量比で混合した混合物:15mgを6000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更し、負極を、Li4Ti5O12と、実施例1で調製したものと同じ硫化物系固体電解質と、気相法炭素繊維とを、50:41:9の質量比で混合した混合物:23mgを6000kgf/cm2の圧力で成形した成形体に変更した以外は実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0092】
実施例および比較例の各全固体電池について、以下の各評価を行った。
【0093】
<貯蔵特性評価>
実施例および比較例の各全固体電池について、0.05Cの電流値で電圧が3.68Vになるまで定電流充電し、続いて電流値が0.01Cになるまで定電圧充電を行った後に0.02Cの電流値で電圧が1.88Vになるまで放電させて、初期容量を測定した。
【0094】
初期容量測定後の各電池を、初期容量測定時と同じ条件で充電した後に60℃の環境下で5日間貯蔵し、その後に各電池の温度を室温に戻してから、初期容量と同じ条件で放電させた。さらに、放電後の各電池を、初期容量と同じ条件で充電し放電させて回復容量を求めた。そして、各電池について、回復容量を初期容量で除した値を百分率で表して回復容量維持率を求め、貯蔵特性を評価した。
【0095】
<負荷特性評価>
貯蔵特性評価後の各電池について、放電時の電流値を0.2Cに変更した以外は、初期容量測定時と同じ条件で充電し放電させて0.2C放電容量を測定した。そして、各電池の0.2C放電容量を前記回復容量(0.02C放電容量)で除した値を百分率で表して容量比率を求め、各電池の負荷特性を評価した。
【0096】
Li金属とIn金属とを貼り合わせた負極を用いた実施例1~3および比較例1~5の全固体電池に係る正極の構成を表1に示し、それらの評価結果を表2に示す。なお、表1に示す固体電解質のヤング率のうち、「複合粒子」の欄の値は、複合粒子における固体電解質と導電助剤とを含む層に使用した固体電解質のヤング率で、「複合粒子間」の欄の値は、複合粒子同士の間に配置した(すなわち、正極合剤成形体の形成に使用した)固体電解質のヤング率であり、導電助剤の添加箇所の欄の「複合粒子」における「○」は、複合粒子における表面の層に導電助剤を含有させたことを意味し、「複合粒子間」における「○」は、複合粒子同士の間に導電助剤を配置したことを意味している(後記の表3においても同様である)。
【0097】
【0098】
【0099】
表1および表2に示す通り、複合粒子の表面層に係る固体電解質Aのヤング率と、複合粒子間に配置した固体電解質Bのヤング率との関係が適正な正極を有する実施例1~3の全固体電池は、貯蔵特性評価時の回復容量維持率、および負荷特性評価時の0.2C/0.02C容量比率のいずれもが高く、貯蔵特性、負荷特性の双方が優れていた。
【0100】
これに対し、固体電解質Aのヤング率と固体電解質Bのヤング率との関係が不適な正極を有する比較例1、3、4の全固体電池、表面層が導電助剤を含有しない複合粒子を用いた正極を有する比較例2の電池、および複合粒子に代えてLiCoO2をそのまま用いた正極を有する比較例5の電池は、貯蔵特性評価時の回復容量維持率、および負荷特性評価時の0.2C/0.02C容量比率のいずれか一方、または双方が低かった。
【0101】
また、Li4Ti5O12を含有する負極を用いた実施例4および比較例6、7の全固体電池の正極の構成を表3に示し、それらの評価結果を表4に示す。
【0102】
【0103】
【0104】
表3および表4に示す通り、複合粒子の表面層に係る固体電解質Aのヤング率と、複合粒子間に配置した固体電解質Bのヤング率との関係が適正な正極を有する実施例4の全固体電池は、貯蔵特性評価時の回復容量維持率、および負荷特性評価時の0.2C/0.02C容量比率のいずれもが高く、貯蔵特性、負荷特性の双方が優れていた。
【0105】
これに対し、複合粒子に代えてLiCoO2をそのまま用いた正極を有する比較例6、7の電池は、貯蔵特性評価時の回復容量維持率、および負荷特性評価時の0.2C/0.02C容量比率のいずれか一方、または双方が低かった。
【符号の説明】
【0106】
1、100 全固体電池
10 正極
20 負極
30 固体電解質層
40 外装缶
50 封口缶
60 ガスケット
200 電極体
300 正極外部端子
400 負極外部端子
500 ラミネートフィルム外装体