(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】印刷装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231212BHJP
B41J 2/17 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/01 301
B41J2/17 207
(21)【出願番号】P 2020051336
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100105935
【氏名又は名称】振角 正一
(74)【代理人】
【識別番号】100136836
【氏名又は名称】大西 一正
(72)【発明者】
【氏名】梶屋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】八坂 一郎
【審査官】佐藤 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/230275(WO,A1)
【文献】特開2003-182090(JP,A)
【文献】特開2019-048410(JP,A)
【文献】特開2015-066761(JP,A)
【文献】特開2010-036438(JP,A)
【文献】米国特許第10518537(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 2/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、
矩形形状を有する下面の中央部に前記インクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、
内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、前記ヘッド部の下方に配置されることで前記ノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、
前記下面は、前記基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、前記基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、
前記ヘッド部は、鉛直方向において前記第1長辺が前記第2長辺よりも下方に位置して前記下面の周縁部のうち前記第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、
前記複数の側壁は、上端部位が前記第1長辺から前記長尺方向において前記第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含
み、
前記ヘッド部と前記カバー部材とを相対的に移動させることで、前記カバー部材により前記ヘッド部を下方より覆う保守状態と、前記ヘッド部の下方から前記カバー部材を退避させて前記印刷を可能とする印刷状態とに切り替える移動部を備え、
前記保守状態で前記ヘッド部と前記カバー部材との間に生じる隙間の少なくとも一部を塞いで前記ノズル面を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部を備え、
前記複数の側壁は、上端部位が前記下面の周縁部のうち前記第1下面周縁部位を除く第2下面周縁部位の鉛直下方に位置する第2側壁を含み、
前記気密制御部は、
前記第1下面周縁部位から離間しつつ、前記第1長辺から上方に延設された前記ヘッド部の側面部と前記カバー部材との間に介在する側面接触部材と、
前記第2下面周縁部位と前記カバー部材との間に介在する下面接触部材と、
を有するとともに、前記下面接触部材と前記側面接触部材とを相互に密接させて前記ノズル面を外部から密閉することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の印刷装置であって、
前記側面接触部材は、前記側面部に密接しながら前記ヘッド部に取り付けられ、前記保守状態で前記第1側壁の上端部位と密接し、
前記下面接触部材は、前記第2側壁の上端部位に取り付けられ、前記保守状態で前記第2下面周縁部位と密接する印刷装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の印刷装置であって、
前記側面接触部材のうち少なくとも前記第1側壁の上端部位と密接する領域は弾性体で構成され、
前記下面接触部材のうち少なくとも前記第2下面周縁部位と密接する領域は弾性体で構成されている印刷装置。
【請求項4】
長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、
矩形形状を有する下面の中央部に前記インクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、
内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、前記ヘッド部の下方に配置されることで前記ノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、
前記下面は、前記基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、前記基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、
前記ヘッド部は、鉛直方向において前記第1長辺が前記第2長辺よりも下方に位置して前記下面の周縁部のうち前記第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、
前記複数の側壁は、上端部位が前記第1長辺から前記長尺方向において前記第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含み、
前記ヘッド部と前記カバー部材とを相対的に移動させることで、前記カバー部材により前記ヘッド部を下方より覆う保守状態と、前記ヘッド部の下方から前記カバー部材を退避させて前記印刷を可能とする印刷状態とに切り替える移動部を備え、
前記保守状態で前記ヘッド部と前記カバー部材との間に生じる隙間の少なくとも一部を塞いで前記ノズル面を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部を備え、
前記複数の側壁は、上端部位が前記下面の周縁部のうち前記第1下面周縁部位を除く第2下面周縁部位の鉛直下方に位置する第2側壁を含み、
前記気密制御部は、
前記第1下面周縁部位から離間しつつ、前記ヘッド部の側面部に密接しながら前記ヘッド部に取り付けられる第1ヘッド接触部材と、
前記第1側壁の上端部位に対向しながら前記ヘッド部に取り付けられて前記保守状態で前記第1側壁の上端部位と密接するカバー接触部材と、
前記第2側壁の上端部位に取り付けられ、前記保守状態で前記第2下面周縁部位と密接する下面接触部材と、
を有するとともに、前記下面接触部材と前記カバー接触部材とを相互に密接させる
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の印刷装置であって、
前記第1ヘッド接触部材および前記カバー接触部材において少なくとも前記第1側壁の上端部位と密接する領域は弾性体で構成され、
前記下面接触部材のうち少なくとも前記第2下面周縁部位と密接する領域は弾性体で構成されている印刷装置。
【請求項6】
長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、
矩形形状を有する下面の中央部に前記インクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、
内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、前記ヘッド部の下方に配置されることで前記ノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、
前記下面は、前記基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、前記基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、
前記ヘッド部は、鉛直方向において前記第1長辺が前記第2長辺よりも下方に位置して前記下面の周縁部のうち前記第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、
前記複数の側壁は、上端部位が前記第1長辺から前記長尺方向において前記第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含み、
前記ヘッド部と前記カバー部材とを相対的に移動させることで、前記カバー部材により前記ヘッド部を下方より覆う保守状態と、前記ヘッド部の下方から前記カバー部材を退避させて前記印刷を可能とする印刷状態とに切り替える移動部を備え、
前記保守状態で前記ヘッド部と前記カバー部材との間に生じる隙間の少なくとも一部を塞いで前記ノズル面を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部を備え、
前記複数の側壁は、上端部位が前記下面の周縁部のうち前記第1下面周縁部位を除く第2下面周縁部位の鉛直下方に位置する第2側壁を含み、
前記気密制御部は、
前記第1下面周縁部位から離間しつつ、前記ヘッド部の側面部に密接しながら前記ヘッド部に取り付けられる第1ヘッド接触部材と、
前記第1側壁の上端部位に取り付けられて前記保守状態で前記ヘッド部と密接して前記ヘッド部と前記第1側壁の上端部位との隙間を塞ぐ第2ヘッド接触部材と、
前記第2側壁の上端部位に取り付けられ、前記保守状態で前記第2下面周縁部位と密接する下面接触部材と、
を有するとともに、前記下面接触部材と前記第2ヘッド接触部材とを相互に密接させる
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項
6に記載の印刷装置であって、
前記第1ヘッド接触部材および前記第2ヘッド接触部材において少なくとも前記ヘッド部と密接する領域は弾性体で構成され、
前記下面接触部材のうち少なくとも前記第2下面周縁部位と密接する領域は弾性体で構成されている印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッド部からインクジェット方式で水性や油性などのインクを基材に吐出して基材の上面に画像を印刷する印刷装置が知られている。例えば特許文献1に記載の印刷装置では、下面にノズル面を有するヘッド部が複数台、基材の印刷経路に沿って配列されている。そして、各ヘッド部はノズル面から液滴状のインクを基材の上面に吐出して印刷する。このため、ノズル面に付着する付着物が乾燥して固着すると、ノズルの目詰まりが発生して印刷性能の低下を招く。そこで、上記特許文献1に記載されていないが、この印刷装置では、ヘッド部の下面に対向して開口したボックス状のカバー部材によりノズル面全体を下方から覆った状態で種々のメンテナンス動作が実行される。そのうちの一つがインクのパージ処理である。このパージ処理は、ヘッド部のノズル面に付着する付着物が乾燥して固着するのを防止することを主目的の一つとし、一定時間ごとにインクを押し出すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された印刷装置に装備されたヘッド部の一部では、ノズル面の法線が鉛直方向に対して傾斜した姿勢(以下「傾斜姿勢」という)で印刷が実行される。また、パージ処理も傾斜姿勢で実行される。このため、パージ処理中において、ノズル面からインクが落ちる前に、当該傾斜したノズル面に沿ってインクが垂れてしまうことがある。こうして垂れたインクはヘッド部の下面に対向して開口しているカバー部材の側壁上方に付着して種々の不具合を引き起こす。例えば当該インクが堆積して固まり、その一部がノズル面に転写されると、印刷品質の低下を招いてしまう。
【0005】
この発明は上記課題に鑑みなされたものであり、傾斜姿勢のヘッド部に設けられたノズル面から基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置においてインクのノズル面への再付着を効果的に防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様は、長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、矩形形状を有する下面の中央部にインクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、ヘッド部の下方に配置されることでノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、下面は、基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、ヘッド部は、鉛直方向において第1長辺が第2長辺よりも下方に位置して下面の周縁部のうち第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、複数の側壁は、上端部位が第1長辺から長尺方向において第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含むことを特徴としている。
また、この発明の他の態様は、長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、矩形形状を有する下面の中央部にインクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、ヘッド部の下方に配置されることでノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、下面は、基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、ヘッド部は、鉛直方向において第1長辺が第2長辺よりも下方に位置して下面の周縁部のうち第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、複数の側壁は、上端部位が第1長辺から長尺方向において第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含み、ヘッド部とカバー部材とを相対的に移動させることで、カバー部材によりヘッド部を下方より覆う保守状態と、ヘッド部の下方からカバー部材を退避させて印刷を可能とする印刷状態とに切り替える移動部を備え、保守状態でヘッド部とカバー部材との間に生じる隙間の少なくとも一部を塞いでノズル面を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部を備え、複数の側壁は、上端部位が下面の周縁部のうち第1下面周縁部位を除く第2下面周縁部位の鉛直下方に位置する第2側壁を含み、気密制御部は、第1下面周縁部位から離間しつつ、ヘッド部の側面部に密接しながらヘッド部に取り付けられる第1ヘッド接触部材と、第1側壁の上端部位に対向しながらヘッド部に取り付けられて保守状態で第1側壁の上端部位と密接するカバー接触部材と、第2側壁の上端部位に取り付けられ、保守状態で第2下面周縁部位と密接する下面接触部材と、を有するとともに、下面接触部材とカバー接触部材とを相互に密接させることを特徴としている。
また、この発明の他の態様は、長尺帯状の基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置であって、矩形形状を有する下面の中央部にインクを吐出するノズル面が設けられるヘッド部と、内底面の周囲から上方に複数の側壁が立設されることで上方に向けて開口したボックス形状を有し、ヘッド部の下方に配置されることでノズル面を下方から覆うカバー部材と、を備え、下面は、基材の長尺方向と平行な第1短辺および第2短辺と、基材の幅方向と平行な第1長辺および第2長辺とを有し、ヘッド部は、鉛直方向において第1長辺が第2長辺よりも下方に位置して下面の周縁部のうち第1長辺に沿う第1下面周縁部位が最も鉛直下方に位置する傾斜姿勢で配置され、複数の側壁は、上端部位が第1長辺から長尺方向において第2長辺と反対側に離れて位置する第1側壁を含み、ヘッド部とカバー部材とを相対的に移動させることで、カバー部材によりヘッド部を下方より覆う保守状態と、ヘッド部の下方からカバー部材を退避させて印刷を可能とする印刷状態とに切り替える移動部を備え、保守状態でヘッド部とカバー部材との間に生じる隙間の少なくとも一部を塞いでノズル面を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部を備え、複数の側壁は、上端部位が下面の周縁部のうち第1下面周縁部位を除く第2下面周縁部位の鉛直下方に位置する第2側壁を含み、気密制御部は、第1下面周縁部位から離間しつつ、ヘッド部の側面部に密接しながらヘッド部に取り付けられる第1ヘッド接触部材と、第1側壁の上端部位に取り付けられて保守状態でヘッド部と密接してヘッド部と第1側壁の上端部位との隙間を塞ぐ第2ヘッド接触部材と、第2側壁の上端部位に取り付けられ、保守状態で第2下面周縁部位と密接する下面接触部材と、を有するとともに、下面接触部材と第2ヘッド接触部材とを相互に密接させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、ヘッド部は傾斜姿勢で配置されているため、例えばパージ処理などを行うと、ノズル面から吐出されたインクはノズル面に沿って第1下面周縁部位に垂れてしまうことがある。そこで、カバー部材を構成する側壁のひとつである第1側壁は、上端部位が第1長辺から長尺方向において第2長辺と反対側に離れて位置するように設けられている。このため、第1下面周縁部位に垂れたインクはヘッド部の下面の第1長辺に達した後で当該第1長辺より自重により落下するが、第1側壁の上端部位に付着することなく、カバー部材により捕集される。したがって、第1下面周縁部位でのインク固化を防止することができ、インクのノズル面への再付着を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る印刷装置の第1実施形態を模式的に示す図である。
【
図3B】保守状態のヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の構成を示す斜視図である。
【
図4】ヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。
【
図5】本発明に係る印刷装置の第2実施形態におけるヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。
【
図6】本発明に係る印刷装置の第3実施形態におけるヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明に係る印刷装置の第1実施形態を模式的に示す図である。この印刷装置100は長尺帯状の基材BMをロール・トゥ・ロール方式で搬送しつつ、基材BMの上面にインクを吐出して印刷する装置である。基材BMには、紙あるいはフィルム等の種々の印刷素材が含まれる。なお、以下の各図において装置各部の配置関係を明確にするために、基材BMの幅方向を「Y方向」とし、Y方向と直交する水平方向を「X方向」としている。さらに、鉛直方向を「Z方向」としている。
【0010】
印刷装置100では、
図1に示すように、前段印刷部110、前段乾燥部120、後段印刷部130および後段乾燥部140が互いに同一の高さで水平方向Xにこの順で配列されている。また、この印刷装置100では、繰出ロール150から巻取ロール160へロール・トゥ・ロールで基材BMが搬送される。印刷装置100は、前段印刷部110で印刷した基材BMを前段乾燥部120で乾燥させ、さらに後段印刷部130で印刷した基材BMを後段乾燥部140で乾燥させる。
【0011】
前段印刷部110は、
図1中の部分拡大図面に示すように、基材BMを右手側から左手側に搬送する搬送部1を有している。搬送部1は、繰出ロール150から繰出された基材BMを前段印刷部110のハウジング内に搬入する搬入ローラ11と、基材BMを前段乾燥部120に向けて搬出する搬出ローラ12とを有する。搬入ローラ11および搬出ローラ12は、基材BMの裏面を下方から巻き掛けて基材BMを駆動する。また、搬入ローラ11と搬出ローラ12との間には、複数のバックアップローラ13を有する。これらバックアップローラ13のそれぞれは基材BMの裏面を下方から巻き掛けることで基材BMを下方より支持する。
【0012】
複数のバックアップローラ13のうち搬送方向において最上流のバックアップローラ13と最下流のバックアップローラ13とは同一高さ位置を有しており、この間で前段印刷が実行される。つまり、両バックアップローラ13、13の間が前段印刷経路として設定されている。そして、前段印刷経路に沿って複数のバックアップローラ13が一定間隔だけ離間して配置されている。これら複数のバックアップローラ13は前段印刷経路の中央部に近づくにしたがって高い位置に配置され、基材BMを支持している。その結果、基材BMの搬送方向は一定ではなく、前段印刷経路の前半では基材BMの搬送方向は水平方向Xに対して斜め上方となり、中央部分で水平方向Xとほぼ平行となり、さらに後半では水平方向Xに対して斜め下方となっている。つまり、搬送部1は、上方に突出した略円弧状の前段印刷経路で長尺帯状の基材BMを連続的に搬送可能となっている。
【0013】
このように搬送される基材BMの上面に対してインクを吐出して印刷するヘッド部2が複数台、前段印刷経路に沿って配置されている。より具体的には、互いに隣接する2個のバックアップローラ13の間を進む基材BMの上面の上方位置にヘッド部2が配置されている。各ヘッド部2は、こうして両側が2個のバックアップローラ13によって支持された基材BMの上面にインクジェット方式でインクを吐出する。ここで示す例では、4色のプロセスカラー(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)のインクを吐出する4個のヘッド部2と、2色の特色インク(オレンジ、バイオレット、グリーン等)を吐出する2個のヘッド部2とを含む6個のヘッド部2が設けられている。各ヘッド部2は下面にインクを吐出するノズル面を有しており、当該ノズル面からインクを略円弧状の前段印刷経路に沿って搬送される基材BMの上面に吐出する。このため、後で詳述するように前段印刷経路の搬送方向に応じてヘッド部2は傾斜姿勢で配置されている。
【0014】
図2は
図1中のA-A線矢視図である。同図に示すように、ヘッド部2は前段印刷経路に沿って搬送される基材BMの上方位置に配置されている。各ヘッド部2は基材BMの上面の面法線と平行な方向に昇降自在に設けられるとともにヘッド駆動部29と接続されている。このため、装置全体を制御する制御部(図示省略)からの昇降指令に応じてヘッド駆動部29が作動することで、ヘッド部2は、
図1に示すように基材BMの上面に近接して印刷を行う印刷位置、
図2の実線に示すように印刷位置から大きく上方に退避した退避位置、および
図2の点線で示すように印刷位置と退避位置との間の保守位置の間で昇降駆動される。また、ヘッド水平指令に応じてヘッド駆動部29が作動することで、ヘッド部2は基材BMの幅方向Yに移動される。
【0015】
ここで「保守位置」とはヘッド部2に対してメンテナンスを行う位置を意味している。すなわち、各ヘッド部2は、いわゆるインクジェット方式でインクをノズル面から吐出する。このため、長時間印刷工程を行っていると、次第にノズルの吐出不良が発生する。また、印刷を一時的に停止させたときに、ノズル面に付着したインクが固化して、吐出不良が生じる場合もある。そこで、印刷を再開させる前、ヘッド部2は印刷位置よりも若干高い保守位置に位置決めされる。また、当該ヘッド部2のノズル面に対してメンテナンス部3が各種メンテナンスを行う。
【0016】
メンテナンス部3は吐出不良を生じたノズルを有するヘッド部2に対してパージ処理やワイピング処理などを行う機能を有しており、ヘッド部2毎に設けられている。メンテナンス部3はメンテナンス駆動部39と接続されている。このため、制御部からの水平移動指令に応じてメンテナンス駆動部39が作動することで、メンテナンス部3は基材BMの幅方向Yに移動する。より詳しくは、メンテナンス部3は基材BMからY方向に離れた待機位置(
図2の実線位置)と、退避位置に位置するヘッド部2と基材BMとの間の保守位置(
図2の点線位置)との間を往復移動する。特に、メンテナンス部3がメンテナンス駆動部39により保守位置に位置決めされた後でヘッド部2がヘッド駆動部29により退避位置から保守位置まで移動されることでヘッド部2のノズル面がメンテナンス部3のカバー部材30で下方よりキャッピングされる。このように、本実施形態では、ヘッド駆動部29およびメンテナンス駆動部39は本発明の「移動部」として機能し、ヘッド部2およびメンテナンス部3の位置を制御して印刷状態と保守状態とに切り替える。なお、6個のヘッド部2はいずれも同一構造を有し、6個のメンテナンス部3もいずれも同一構造を有している。そこで、以下においては、搬送方向において最下流に位置するヘッド部2およびメンテナンス部3に着目してヘッド部2およびメンテナンス部3の構成や動作などについて説明する。
【0017】
ここで「印刷状態」とは、
図1中の部分拡大図面で示すように、ノズル面21が基材BMの直上で近接するようにヘッド部2は印刷位置に位置決めされるとともに、メンテナンス部3は
図2中の実線で示すように、基材BMの上方位置からY方向に離間した退避位置に位置決めされた状態を意味している。この印刷状態でノズル面21からインクが基材BMの上面に吐出されて印刷処理が実行される。一方、「保守状態」とは、
図2中の点線で示すように、メンテナンス部3が基材BMの前段印刷経路の直上位置に位置決めされるとともにヘッド部2がメンテナンス部3に降下してメンテナンス部3によりノズル面21が外部から密閉された状態を意味している。この保守状態でメンテナンス部3によりパージ処理が実行される。
【0018】
図3Aはヘッド部の構成を示す斜視図であり、印刷状態のヘッド部2を基材BMの前段印刷経路側から見た図である。
図3Bは保守状態のヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の構成を示す斜視図である。
図4はヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。ヘッド部2は、ノズル面21の面法線が基材BMの上面の面法線と平行となるように配置されており、本実施形態では基材BMの前段印刷経路が略円弧状に設定されていることに対応してヘッド部2は鉛直方向Zに対して傾斜した姿勢を有している。より詳しくは、ヘッド部2は次のように構成されている。
【0019】
ヘッド部2は鉛直方向Zに対して傾斜したヘッド基台22を有している。ヘッド基台22は基材BMの幅方向Yと平行に延設されている。このヘッド基台22の側面に対し、下面にノズル面を有する記録ヘッド23がY方向に配列された状態で固定されている。これよりヘッド部2の下面24は基材BMから見ると矩形形状を有している。より詳しくは、下面24は、基材BMの長尺方向と平行な短辺241、242と、基材BMの幅方向Yと平行な長辺243、244とを有している。
【0020】
このような矩形形状を有する下面24の中央部がインクを吐出するノズル面21となっている。また、ヘッド部2の下面のうちノズル面21を除く領域、つまりノズル面21を取り囲む領域がインクを吐出しない周縁部25となっている。また、ヘッド部2は基材BMの前段印刷経路に対応した傾斜姿勢で配置されることから、
図4に示すように鉛直方向Zにおいて長辺243が長辺244よりも下方に位置している。このため、周縁部25のうち長辺243に沿った周縁部位251が最も鉛直下方に位置している。なお、
図3Aではノズル面21と周縁部25とを明確に区別するために、ノズル面21に対してハッチングを付している。また、本明細書は、周縁部位251と、周縁部位251以外の周縁部位252とを区別するために、適宜、周縁部位251と周縁部位252とをそれぞれ「第1下面周縁部位251」および「第2下面周縁部位252」と称する。
【0021】
ヘッド部2では、複数の記録ヘッド23を保護するために、
図3Aおよび
図3Bに示すように、複数の記録ヘッド23を挟んでヘッド基台22の反対側にガード部材26が取り付けられている。このため、ノズル面21を下方に向けた状態でヘッド基台22、複数の記録ヘッド23およびガード部材26が一体的にヘッド駆動部29によって昇降される。
【0022】
メンテナンス部3は上方に開口したボックス形状のカバー部材30を有している。
図4に示すように、短辺241、242の延伸方向(つまり基材BMの長尺方向と平行な方向)において、カバー部材30の上端部はヘッド部2の下面24よりも長くなっている。また、
図2および
図3Bに示すように、長辺243、244の延伸方向(つまり基材BMの幅方向Yと平行な方向)において、カバー部材30の上端部はノズル面21よりも長く、かつヘッド部2の下面24よりも短くなっている。
【0023】
また、
図4に示すように、カバー部材30はノズル面21を覆うのに十分なサイズの開口を有するとともに当該開口と対向する内底面35を有している。この内底面35をカバー部材30の開口側から見ると矩形形状を有している。より詳しくは、ヘッド部2の下面24の短辺241、242の延伸方向(つまり基材BMの長尺方向と平行な方向)と平行な2つの短辺と、長辺243、244の延伸方向(つまり基材BMの幅方向Yと平行な方向)と平行な2つの長辺を有している。そして、それら内底面35の四辺から側壁31~34がそれぞれ立設されている。これにより、後で説明するようにパージ処理によりノズル面21から吐出されるインクを捕集する捕集空間SPが形成されている。なお、内底面35は
図2に示すように幅方向Yに進むにしたがって鉛直下方に傾斜する傾斜面に仕上げられ、傾斜面に沿って流れてきたインクを捕集し、排出管36を介して回収可能となっている。
【0024】
このような構成を有するカバー部材30がメンテナンス駆動部39により保守位置に配置されると、カバー部材30の各部は以下のように位置決めされ、ヘッド部2のノズル面21を下方から覆う。すなわち、
図2の点線で示すように、幅方向Yにおけるカバー部材30の側壁31、32の上端部位311、321(
図3B)はヘッド部2の下面24の第2下面周縁部位252に対向する。また
図4に示すように、カバー部材30の側壁34の上端部位341は上端部位311、321と同様に第2下面周縁部位252に対向する。一方、カバー部材30の側壁33の上端部位331はヘッド部2の下面24から基材BMの長尺方向と平行な方向(
図4の斜め左下方向)に離れている。つまり、上端部位331はヘッド部2の長辺243から長尺方向において長辺244と反対側に離れて位置している。
【0025】
そして、退避位置に位置しているヘッド部2の下方にカバー部材30が保守位置に配置された後で、ヘッド部2がヘッド駆動部29によってパージ処理を行う保守位置まで下降されると、ヘッド部2の下面24がカバー部材30に近接する。より詳しくは、
図4の(b)欄に示すように、カバー部材30の上端部位311、321、341が第2下面周縁部位252に近接して位置決めされるとともに、上端部位331がヘッド部2の下面24から離間した状態で下面24よりも上方に突出状態で位置決めされる。これにより、ヘッド部2のノズル面21がカバー部材30により下方から覆われる。したがって、傾斜姿勢でパージ処理を行ったとしても、ノズル面21に沿って第1下面周縁部位251に垂れてきたインクは長辺243に達し、当該長辺243から自重により落下するが、側壁33の上端部位331に付着することなく、カバー部材30により捕集することができる。
【0026】
本実施形態では、単にカバー部材30でインクを捕集するだけでなく、パージ処理などのメンテナンスを良好に行うために、ノズル面21を取り囲む雰囲気の気密性を高める気密制御部4が設けられている。ここでは、気密制御部4は弾性体の接触部材41~44を用いてノズル面21を外部から密閉しており、弾性体の一例としてゴムスポンジを用いている。接触部材41~44はそれぞれカバー部材30の4つの側壁31~34に対応するものであり、接触部材41、42、44はカバー部材30に取り付けられる一方、接触部材43はヘッド部2に取り付けられている。なお、
図3A、
図3Bおよび
図4では接触部材41~44を明確するために、接触部材41~44に対してドットを付している。
【0027】
接触部材41は、
図3Bの部分拡大図に示すように、側壁31の上端部位311から上方に突出する姿勢で支持部材45により側壁31に取り付けられている。また、接触部材42、44も、基本的に接触部材41と同様に、それぞれ上端部位321、341から上方に突出する姿勢で支持部材45により支持されている。さらに、同部分拡大図に示すように接触部材44の一方端部は接触部材41と接触するとともに、図示は省略しているが他方端部も接触部材42と接触している。一方、接触部材43は、
図3A、
図3Bおよび
図4に示すように、ヘッド部2に取り付けられている。より詳しくは、
図4に示すように、接触部材43は、その下面を上端部位331に向けた状態で各記録ヘッド23の側面部231に密接しながらヘッド部2のガード部材26に取り付けられている。
【0028】
このように構成された印刷装置100において印刷を行う際には、ヘッド部2およびメンテナンス部3は印刷状態となっている。つまり、ヘッド部2は基材BMの前段印刷経路の上方に位置決めされるとともにメンテナンス部3は上記前段印刷経路から幅方向Yに離れた位置で待機している。このため、
図3Aおよび
図4の(a)欄に示すように、接触部材41、42、44は基材BMの前段印刷経路から退避している。また、接触部材43はヘッド部2に取り付けられるものの、その取付は鉛直方向Zにおいて長辺243よりも高い位置で行われている。したがって、いずれの接触部材41~44も基材BMと干渉することなく、印刷動作を円滑に行うことができる。
【0029】
メンテナンスの一環としてパージ処理を行う際には、
図3Bおよび
図4の(b)欄に示すように、ヘッド部2およびカバー部材30が互いに近接すると、接触部材41、42、44がヘッド部2の第2下面周縁部位252に密接するとともに記録ヘッド23の側面部231に密接したまま接触部材43が上端部位331と密接する。さらに同時に、
図3Bの部分拡大図に示すように接触部材43の一方端部が接触部材41と接触するとともに、図示は省略しているが他方端部も接触部材42と接触する。こうして、接触部材41~44で構成される気密制御部4によってヘッド部2とカバー部材30との隙間が塞がれてノズル面21を外部から密閉してノズル面21を取り囲む雰囲気の気密性を高めることが可能となっている。
【0030】
また、ヘッド部2は傾斜姿勢を有しており、
図4の(b)欄に示すようにノズル面21は左手下方に傾いている。このため、パージ処理などを行うと、上記したようにノズル面21から吐出されたインクはノズル面21に沿って第1下面周縁部位251に垂れて気密制御部4の接触部材43に近づく。しかしながら、接触部材43は、側壁33の上端部位331と同様に、ヘッド部2の下面24から離間した状態で下面24よりも上方に位置しているため、同図の破線矢印で示すように、ノズル面21から垂れてきたインクは第1下面周縁部位251を経由して捕集空間SPに確実に捕集される。したがって、側壁33の上端部位331および接触部材43へのインク付着および固化を確実に防止することができる。その結果、インクのノズル面21への再付着を効果的に防止することができ、印刷処理を安定して行うことができる。
【0031】
このように本実施形態では、短辺241、242がそれぞれ本発明の「第1短辺」および「第2短辺」の一例に相当し、長辺243、244がそれぞれ本発明の「第1長辺」および「第2長辺」の一例に相当している。また、カバー部材30の側壁31~34のうち側壁33が本発明の「第1側壁」の一例に相当する一方、残りの側壁31、32、34が本発明の「第2側壁」の一例に相当している。また、また、接触部材43が本発明の「側面接触部材」の一例に相当する一方、接触部材41、42、44が本発明の「下面接触部材」の一例に相当している。
【0032】
図5は本発明に係る印刷装置の第2実施形態におけるヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。第2実施形態が第1実施形態と大きく相違する点は気密制御部4の構成、特に第1下面周縁部位251側の接触部材の構成であり、その他の構成および動作は第1実施形態と基本的に同一である。したがって、以下においては相違点を中心に説明し、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
第2実施形態では、第1実施形態の接触部材43の代わりに、2つの接触部材431、432がヘッド部2のガード部材26に取り付けられている。
図5に示すように、接触部材431は接触部材432よりも上方で各記録ヘッド23の側面部231に密接しながらヘッド部2のガード部材26に取り付けられており、本発明の「第1ヘッド接触部材」の一例に相当している。また、接触部材432は、その下面を上端部位331に向けた状態でヘッド部2のガード部材26に取り付けられており、本発明の「カバー接触部材」の一例に相当している。ただし、接触部材432の下面は鉛直方向Zにおいて長辺243よりも高い位置に位置している。
【0034】
このように構成された印刷装置100において印刷を行う際には、
図5の(a)欄に示すように、ヘッド部2は基材BMの前段印刷経路の上方に位置決めされる。一方、メンテナンス部3は上記前段印刷経路から幅方向Yに離れた位置で待機している。このため、接触部材41、42、44は基材BMの前段印刷経路から退避している。また、接触部材431、432はヘッド部2に取り付けられるものの、それらの取付は鉛直方向Zにおいて長辺243よりも高い位置で行われている。したがって、いずれの接触部材41、42、44、431、432も基材BMと干渉することなく、印刷動作を円滑に行うことができる。
【0035】
メンテナンスの一環としてパージ処理を行う際には、
図5の(b)欄に示すように、ヘッド部2およびカバー部材30が互いに近接すると、第1実施形態と同様に接触部材41、42、44がヘッド部2の第2下面周縁部位252に密接するとともに、接触部材432が上端部位331と密接する。さらに同時に、図面への図示を省略しているが、接触部材432の一方端部が接触部材41と接触するとともに他方端部が接触部材42と接触する。こうして、第2実施形態では、接触部材41、42、44、431、432で構成される気密制御部4によってヘッド部2とカバー部材30との隙間の大部分が塞がれてノズル面21を取り囲む雰囲気の気密性を高めることが可能となっている。
【0036】
また、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、第1下面周縁部位251側の側壁33の上端部位331がヘッド部2の下面24から離間するとともに第1下面周縁部位251側での密閉が接触部材431、432を第1下面周縁部位251から離間させた状態で実行される。このため、同図の破線矢印で示すように、ノズル面21から垂れてきたインクが第1下面周縁部位251を経由して捕集空間SPに確実に捕集される。そのため、側壁33の上端部位331および接触部材43へのインク付着および固化を確実に防止することができる。その結果、インクのノズル面21への再付着を効果的に防止することができ、印刷処理を安定して行うことができる。
【0037】
図6は本発明に係る印刷装置の第3実施形態におけるヘッド部、メンテナンス部および気密制御部の動作を模式的に示す図である。第3実施形態が第2実施形態と大きく相違する点は、気密制御部4の構成、特に側壁33とヘッド部2との隙間を塞ぐ接触部材の構成であり、その他の構成および動作は第2実施形態と基本的に同一である。したがって、以下においては相違点を中心に説明し、同一構成については同一符号を付して説明を省略する。 第3実施形態では、本発明の「カバー接触部材」として機能する接触部材432の代わりに、本発明の「第2ヘッド接触部材」として機能する接触部材433が設けられている。この接触部材433は、
図6の(b)欄に示すように、側壁33の上端部位331から上方に突出する姿勢で支持部材45により側壁33に取り付けられている。図面への図示を省略しているが、接触部材433の一方端部が接触部材41と接触するとともに他方端部が接触部材42と接触している。つまり、カバー部材30の上方周縁部の全周がゴムスポンジ製の接触部材41、42、44、433で取り囲まれており、この状態でカバー部材30は幅方向Yに移動する。
【0038】
このように構成された印刷装置100において印刷を行う際には、
図6の(a)欄に示すように、ヘッド部2は基材BMの前段印刷経路の上方に位置決めされる。一方、メンテナンス部3は上記前段印刷経路から幅方向Yに離れた位置で待機している。このため、接触部材41、42、44、433は基材BMの前段印刷経路から退避している。また、接触部材431はヘッド部2に取り付けられるものの、それらの取付は鉛直方向Zにおいて長辺243よりも高い位置で行われている。したがって、いずれの接触部材41、42、44、431、433も基材BMと干渉することなく、印刷動作を円滑に行うことができる。
【0039】
メンテナンスの一環としてパージ処理を行う際には、
図6の(b)欄に示すように、ヘッド部2およびカバー部材30が互いに近接すると、接触部材41、42、44がヘッド部2の第2下面周縁部位252に密接するとともに、接触部材433がヘッド部2のガード部材26の下面と密接する。こうして、第3実施形態では、接触部材41、42、44、431、433で構成される気密制御部4によってヘッド部2とカバー部材30との隙間の大部分が塞がれてノズル面21を取り囲む雰囲気の気密性を高めることが可能となっている。
【0040】
また、第3実施形態においても、第2実施形態と同様に、
第1下面周縁部位251側の側壁33の上端部位331がヘッド部2の下面24から離間するとともに第1下面周縁部位251側での密閉が接触部材431、433を第1下面周縁部位251から離間させた状態で実行される。このため、同図の破線矢印で示すように、ノズル面21から垂れてきたインクが第1下面周縁部位251を経由して捕集空間SPに確実に捕集される。そのため、側壁33の上端部位331および接触部材43へのインク付着および固化を確実に防止することができる。その結果、インクのノズル面21への再付着を効果的に防止することができ、印刷処理を安定して行うことができる。
【0041】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、接触部材41~44、431~433を構成する弾性体としてゴムスポンジで構成しているが、ゴムスポンジの代わりに弾性変形してヘッド部2とカバー部材30との隙間を塞ぐことができる別の弾性体を用いてもよい。また、接触部材41~44、431~433全体を弾性体で構成しているが、ヘッド部2やカバー部材30と接触する部分のみを弾性体で構成してもよい。また、接触部材同士が接触する部分についても弾性体で構成するのがさらに望ましい。
【0042】
また、上記実施形態では、基材BMの搬送方向において下流側の位置する長辺243が上流側の長辺244よりも鉛直方向Zに低くという傾斜姿勢の場合(前段印刷部110中の下流側に位置する2つのヘッド部2)について本発明を適用しているが、逆の傾斜姿勢の場合(前段印刷部110中の上流側に位置する3つのヘッド部2や後段印刷部130中のヘッド部)についても本発明を適用することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、ヘッド駆動部29およびメンテナンス駆動部39で本発明の「移動部」を構成し、これらにより印刷状態と保守状態とを切り替えているが、メンテナンス部3を固定配置しながらヘッド駆動部29によりヘッド部2のみを移動させて印刷状態と保守状態とを切り替えるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
この発明は、傾斜姿勢のヘッド部に設けられたノズル面から基材の上面にインクを吐出して印刷を行う印刷装置全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
2…ヘッド部
4…気密制御部
21…ノズル面
24…(ヘッド部の)下面
25…(下面の)周縁部
29…ヘッド駆動部(移動部)
30…カバー部材
31…(第1)側壁
32~34…(第2)側壁
35…(カバー部材の)内底面
39…メンテナンス駆動部(移動部)
41~44,431~433…接触部材
100…印刷装置
231…(ヘッド部の)側面部
241,242…(下面の)短辺
243,244…(下面の)長辺
251…第1下面周縁部位
252…第2下面周縁部位
311,321,331,341…(側壁の)上端部位
BM…基材
Y…幅方向