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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】排ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20231212BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231212BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20231212BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20231212BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20231212BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01J35/04 C
B01J35/04 301L
B01J35/10
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020059086
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021154246
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樺嶋 信介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 真秀
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏生
(72)【発明者】
【氏名】森川 彰
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-000774(JP,A)
【文献】特開2005-248726(JP,A)
【文献】特表2017-523040(JP,A)
【文献】特開2005-095713(JP,A)
【文献】特開2016-185495(JP,A)
【文献】特開2016-182585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73
B01D 53/86 - 53/96
F01N 3/10
F01N 3/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に配置された触媒層と、
を備え、
前記触媒層が、ロジウム、パラジウム、及び担体を含み、
前記触媒層が、マクロ孔を画成する内表面を有し、
前記触媒層の内表面の近傍におけるパラジウムの濃度が、前記触媒層全体で平均したパラジウムの濃度よりも高い、排ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用の排ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)及び窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれている。これらの有害成分を除去するために、排ガス浄化装置が用いられる。排ガス浄化装置は、内燃機関の下流に設けられ、排ガス中のCO及びHCを酸化して水及び二酸化炭素に変換し、NOxを還元して窒素に変換する。
【0003】
特許文献1において、細孔を有する触媒層を備える排気ガス浄化用触媒が記載されている。特許文献1において、触媒層が貴金属を含む触媒粉末を含むこと、及び、該貴金属としてパラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)が例示されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-279428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関に供給される混合気の空燃比(A/F)は、自動車の走行条件等によって、理論空燃比(ストイキ:A/F=14.7)を中心に変動する。排ガス浄化装置は、燃料過剰(リッチ:A/F<14.7)の混合気が供給された内燃機関からの排ガスに含まれるNOxを効率的に浄化することが求められる。しかし、排ガス浄化装置のNOx浄化性能は、リッチ条件での運転中に徐々に低下することがある。
【0006】
そこで、リッチ条件での運転中におけるNOx浄化性能の低下が抑制された排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、
基材と、
前記基材上に配置された触媒層と、
を備え、
前記触媒層が、ロジウム、パラジウム、及び担体を含み、
前記触媒層が、マクロ孔を画成する内表面を有し、
前記触媒層の内表面の近傍におけるパラジウムの濃度が、前記触媒層全体で平均したパラジウムの濃度よりも高い、排ガス浄化装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の排ガス浄化装置は、リッチ条件での運転中におけるNOx浄化性能の低下が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態に係る排ガス浄化装置の模式的な拡大断面図である。
図2図2は、実施例1の試験体の断面SEM像である。
図3図3は、実施例1の試験体のPdマッピング像である。
図4図4は、実施例1の試験体のPdマッピング像であり、図3よりも高倍率の像である。
図5図5は、実施例1の試験体のRhマッピング像である。
図6図6は、比較例1の試験体の断面SEM像である。
図7図7は、比較例1の試験体のPdマッピング像である。
図8図8は、比較例1の試験体のRhマッピング像である。
図9図9は、比較例2の試験体の断面SEM像である。
図10図10は、比較例2の試験体のPdマッピング像である。
図11図11は、比較例2の試験体のRhマッピング像である。
図12図12は、実施例1及び比較例1、2の試験体のNOx排出量の経時変化を示すグラフである。
図13図13は、実施例2及び比較例3、4の試験体のNOx排出量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。図面では、明確化のために各部の寸法及び形状を誇張しており、実際の寸法及び形状を正確に描写してはいない。それゆえ、本発明の技術的範囲は、これら図面に表された各部の寸法及び形状に限定されるものではない。
【0011】
I 排ガス浄化装置
実施形態に係る排ガス浄化装置1を、図1を参照しながら説明する。排ガス浄化装置1は、基材10と、基材10上に配置された触媒層30とを備える。
【0012】
基材10としては、特に制限されず、排ガス浄化装置の基材として用いることが可能な公知の基材が使用できる。基材10として、ハニカム形状を有する基材、例えばハニカム形状のモノリス基材(ハニカムフィルタ、高密度ハニカム等)を使用することができる。基材10の材質の例として、コージエライト、炭化ケイ素、シリカ、アルミナ、ムライト等のセラミックス、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属が挙げられる。これらの材質により、排ガス浄化装置1が高温条件下でも高い排ガス浄化性能を発揮することができる。コスト低減の観点から、基材10はコージエライト製であってよい。
【0013】
触媒層30は、担体31、並びに担体31に担持されたロジウム33及びパラジウム35を含む。触媒層30は、ロジウム33、パラジウム35の性能を損なわない程度に、その他の貴金属、例えば白金等を含んでもよい。
【0014】
担体31としては、通常の排ガス浄化装置に使用することができるものであれば特に制限されずに用いることができる。例えば、担体31は、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化セリウム(CeO、セリア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化珪素(SiO、シリカ)、酸化イットリウム(Y、イットリア)及び酸化ネオジム(Nd)等の酸化物又はこれらの複合酸化物であってよい。
【0015】
触媒層30は、マクロ孔50を画成する内表面37を備える。
【0016】
マクロ孔50は、1~20μmの平均孔径を有してよい。平均孔径が1μm以上であることにより、排ガスがマクロ孔50を通って触媒層30全体に十分に拡散でき、排ガスの効率的な浄化が可能となる。平均孔径が20μm以下であることにより、触媒層30が十分な強度を有することができ、また、触媒層30の嵩が必要以上に大きくなって圧力損失が増大することを避けることができる。排ガスを触媒層30全体に一層拡散させるために、マクロ孔の平均孔径は、2~10μmであってよく、3~10μmであってよい。
【0017】
マクロ孔50の平均孔径は、以下のようにして求めることができる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、触媒層30の表面又は断面の任意の複数の50μm角の領域の反射電子像を得る。得られた反射電子像から、任意の20個以上のマクロ孔50の直径を求め、平均値を算出する。ここで、マクロ孔50の直径とは、反射電子像中のマクロ孔50の長さをあらゆる方向に測った場合に最も長さが大きくなる方向(マクロ孔50の長手方向)に垂直な方向における、マクロ孔50の長さの最大値を指す。マクロ孔50が、後述するように繊維状造孔材を用いて形成されたものである場合、反射電子像中で確認されるマクロ孔50は、通常、細長い形状を有する。そのため、上述のように、マクロ孔50の長手方向に垂直な方向のマクロ孔の長さの最大値をマクロ孔の直径と擬制して、平均孔径を求めることができる。
【0018】
マクロ孔50は、9~40、好ましくは9~30、より好ましくは9~28の範囲内の平均アスペクト比を有してよい。マクロ孔50の平均アスペクト比が上記範囲内であることにより、排ガスが適度な速度で拡散できるため、排ガスの効率的な浄化が可能となる。
【0019】
マクロ孔50の平均アスペクト比は、以下のようにして求めることができる。SEMを用いて、触媒層30の表面又は断面の任意の複数の50μm角の領域の反射電子像を得る。得られた反射電子像から、任意の20個以上のマクロ孔50のアスペクト比を求め、平均値を算出する。ここで、マクロ孔50のアスペクト比とは、(マクロ孔50の長手方向の長さ)/(マクロ孔50の長手方向に垂直な方向におけるマクロ孔50の長さの最大値)の値を指す。
【0020】
触媒層30は、2~30vol%、好ましくは5~20vol%の空隙率を有してよい。空隙率が上記範囲内であることにより、排ガス浄化装置1が良好な排ガス浄化性能を有することができる。触媒層30の空隙率は、水銀圧入法又はガス吸着測定法により測定でき、FIB-SEM(Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscope)又はX線CT等による三次元解析により算出することもできる。
【0021】
パラジウム35は、マクロ孔50を画成する触媒層30の内表面37の近傍に集中的に配置される。具体的には、内表面37の近傍におけるパラジウム35の濃度が、触媒層30全体で平均したパラジウム35の濃度より高い。触媒層30に含まれるパラジウム35の実質的に全てが、内表面37の近傍に配置されてもよい。また、内表面37の近傍におけるロジウム33の濃度が、触媒層30全体で平均したロジウム33の濃度以下であってもよく、触媒層30全体で平均したロジウム33の濃度と同等であってもよい。
【0022】
なお、本願において、内表面37の近傍とは、内表面37から触媒層30の内部に向かって4μm以内の領域を指す。触媒層30中の各位置におけるパラジウム35及びロジウム33の濃度は、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)を用いて測定される。また、本願において、触媒層30全体で平均したロジウム33の濃度とは、触媒層30の総重量に対する、触媒層30中に含まれるロジウム33の総重量の割合を意味し、触媒層30全体で平均したパラジウム35の濃度(以下、適宜「パラジウム35の平均濃度」ともいう)とは、触媒層30の総重量に対する、触媒層30中に含まれるパラジウム35の総重量の割合を意味する。
【0023】
触媒層30中でパラジウム35及びロジウム33が上記のように配置されることにより、排ガス浄化装置1のリッチ条件での運転中におけるNOx浄化性能の低下が抑制されることを、本発明者らは鋭意検討により見出した。その理由を本発明者らは以下のように考えている。
【0024】
ロジウム33は、NOx浄化反応に優れた触媒作用を示す。従来の排ガス浄化装置では、リッチ条件での運転中に、排ガス中に含まれる炭化水素(HC)によりロジウム33が被覆され、徐々に触媒能を失う。その結果、排ガス浄化装置のNOx浄化性能が低下する。一方、実施形態に係る排ガス浄化装置1に供給された排ガスは、マクロ孔50を通り、マクロ孔50を画成する内表面37を通って、触媒層30へ入る。実施形態に係る排ガス浄化装置1では、マクロ孔50を画成する内表面37の近傍に、HC浄化反応に優れた触媒作用を及ぼすパラジウム35が高濃度に配置される。そのため、排ガスがマクロ孔50及び内表面37を通過するときに、排ガス中のHCが高確率でパラジウム35に接触する。それにより、排ガス中のHCが、酸化されて水及び二酸化炭素に変換されることにより除去される。その結果、排ガス中のHC含有量が低減する。内表面37の近傍を通過した排ガスは、触媒層30内を拡散する。内表面37の近傍を通過した排ガスはHC含有量が低減されるため、触媒層30中の内表面37の近傍以外の領域に配置されたロジウム33は、HCと接触する確率が低い。そのため、ロジウム33がHCに被覆されて失活することが抑制され、NOx浄化性能の劣化が抑制される。
【0025】
触媒層30中のパラジウム35の平均濃度は0.8wt%以下であってよい。パラジウム35の平均濃度が0.8wt%以下である場合、マクロ孔50を画成する触媒層30の内表面37の近傍にパラジウム35が集中的に配置されることにより得られる、NOx浄化性能の劣化を抑制する効果が、特に高い。
【0026】
II 排ガス浄化装置の製造方法
実施形態に係る排ガス浄化装置の製造方法の一例を説明する。排ガス浄化装置の製造方法は、パラジウム担持造孔材を用意することと、パラジウム担持造孔材、ロジウム、及び担体を含むスラリーを調製することと、基材にスラリー層を形成し、スラリー層を乾燥及び焼成して、触媒層を形成することと、を含む。以下、各工程を順に説明する。
【0027】
(1)パラジウム担持造孔材の用意
まず、造孔材を用意する。造孔材として繊維状造孔材を用いてよい。繊維状造孔材として、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、セルロース繊維が挙げられる。加工性と焼成温度のバランスの観点から、造孔材は、PET繊維及びナイロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種であってよい。
【0028】
繊維状造孔材は、1~20μm、好ましくは2~10μm、より好ましくは3~10μmの平均直径(平均繊維径)を有してよい。平均直径が上記範囲内であることにより、ガスの拡散に適した大きさを有するマクロ孔の形成が可能となる。繊維状造孔材の平均直径は、無作為に50以上の繊維状造孔材を取り出して繊維径を測定し、平均を求めることによって算出される。
【0029】
繊維状造孔材は、9~40、好ましくは9~30、より好ましくは9~28の範囲内の平均アスペクト比を有してよい。平均アスペクト比が上記範囲内であることにより、排ガスが適度な速度で拡散可能な適切な大きさのマクロ孔が形成されるため、排ガスを効率的に浄化可能な排ガス浄化装置1を製造できる。ここで、繊維状造孔材の平均アスペクト比は、(平均繊維長)/(平均直径(平均繊維径))と定義される。繊維長とは、繊維の両端の間の直線距離を意味し、無作為に50以上の繊維状造孔材を取り出して繊維長を測定し、平均値を求めることにより算出される。
【0030】
用意した造孔材を、パラジウム含有化合物の溶液に加え、溶液を撹拌しながら溶媒を気化させる。それにより、パラジウムが造孔材に担持され、パラジウム担持造孔材が得られる。
【0031】
パラジウム含有化合物として、パラジウムの塩(例えば、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩)、パラジウムの錯体(例えば、テトラアンミン錯体)等を用いることができる。パラジウム含有化合物の溶液は、溶媒として水、アルコール等を含有してよい。使用するパラジウム含有化合物の溶液の量及び濃度は、目的とする排ガス浄化装置1の触媒層30の内表面37の近傍に配置するパラジウムの量に応じて適宜設定してよい。
【0032】
パラジウム以外の貴金属(但し、ロジウムは除く)、例えば白金を、造孔材にさらに担持してもよい。
【0033】
(2)スラリーの調製
パラジウム担持造孔材、ロジウム、及び担体を含むスラリーを調製する。具体的には、パラジウム担持造孔材とロジウム含有化合物と担体粒子と分散媒(溶媒)とを混合する。あるいは、ロジウムを予め担持した担体粒子とパラジウム担持造孔材と分散媒とを混合する。
【0034】
ロジウム含有化合物としては、ロジウムの塩(例えば、酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩)、ロジウムの錯体(例えば、テトラアンミン錯体)等を用いることができる。
【0035】
担体粒子としては、金属酸化物粒子、例えば、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化セリウム(CeO、セリア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化珪素(SiO、シリカ)、酸化イットリウム(Y、イットリア)及び酸化ネオジム(Nd)等の酸化物又はこれらの複合酸化物の粒子を用いることができる。
【0036】
分散媒としては、スラリーを調製可能な任意の溶媒を適宜用いてよく、例えば、水、好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水を用いることができる。
【0037】
スラリーは、必要に応じて、その他の成分をさらに含有してよい。その他の成分としては、バインダー、増粘剤、ロジウム以外の金属を含有する化合物(例えば塩及び錯体)、ロジウム以外の金属を予め担持した担体粒子等が挙げられる。
【0038】
(3)触媒層の形成
基材の表面をスラリーでコートして、スラリー層を形成する。例えば、基材をスラリーに浸漬したり、スラリーを圧入手段により基材に圧入したり、ウォッシュコート法を用いたりすることにより、スラリー層を形成できる。
【0039】
次にスラリー層を加熱してスラリー層を乾燥及び焼成する。すなわち、加熱により、スラリー層中の溶媒を蒸発させるとともに、造孔材を除去する。それにより、基材上に、担体、並びに担体に担持されたロジウム及びパラジウムを含む触媒層が形成される。
【0040】
造孔材の残存を防止するとともに、パラジウム及びロジウムの粒成長を防止するという観点から、加熱は、300~800℃、好ましくは400~700℃の温度の雰囲気中で行ってよい。加熱は、20分以上行ってよく、30分~2時間行ってよい。また、加熱は、大気中又は窒素等の不活性ガス中で行ってよい。
【0041】
加熱により造孔材が焼失すると、造孔材が存在していた部分に、造孔材の形状に応じた形状を有するマクロ孔が形成される。造孔材に担持されていたパラジウムは、マクロ孔を取り囲む内表面の近傍に残存する。したがって、形成される触媒層はマクロ孔を画成する内表面を備え、内表面の近傍にはパラジウムが集中的に配置される。そのため、内表面近傍におけるパラジウムの濃度は、触媒層全体で平均したパラジウムの濃度よりも高い。
【0042】
以上により、実施形態に係る排ガス浄化装置が製造される。
【0043】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。
【実施例
【0044】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(1)試験体の作製
実施例1
繊維状造孔材としてポリエチレンテレフタラート繊維を用いた。繊維状造孔材を硝酸パラジウム水溶液に加え、溶液を撹拌しながら加熱して乾燥させた。それにより、繊維状造孔材にPdが担持されたPd担持造孔材を得た。
【0046】
アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物、アルミナ、Pd担持造孔材、硝酸ロジウム、水、アルミナバインダー、及び増粘剤を混合して、スラリーを調製した。スラリー中のアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物及びアルミナの濃度は、それぞれ99g/L、41g/L、45g/Lとした。スラリー中、全固形分重量を基準とするPdの含有量は0.15wt%、Rhの含有量は0.25wt%であった。
【0047】
0.875Lの容量を有するハニカム形状のモノリス基材の表面全体をスラリーでコートした。コートは吸引方式にて行った。次いで、基材上のスラリーを乾燥及び焼成した。それにより、基材上に触媒層を形成した。これにより、実施例1の試験体を得た。
【0048】
実施例2
繊維状造孔材と混合する硝酸パラジウム水溶液の濃度を調整することによってスラリー中の全固形分重量を基準とするPdの含有量を図13に示す値としたこと以外は実施例1と同様にして、試験体を作製した。なお、作製した試験体の触媒層中のPdの平均濃度は、触媒層の形成に用いたスラリー中の全固形分重量を基準とするPdの含有量に対応する。
【0049】
比較例1
アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物、アルミナ、繊維状造孔材、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム、水、アルミナバインダー、及び増粘剤を混合して、スラリーを調製した。スラリー中のアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物及びアルミナの濃度は、それぞれ99g/L、41g/L、45g/Lとした。スラリー中、全固形分重量を基準とするPdの含有量は0.15wt%、Rhの含有量は0.25wt%であった。
【0050】
得られたスラリーを用いて、実施例1と同様にして基材上に触媒層を形成した。これにより比較例1の試験体を得た。
【0051】
比較例2
アルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物、アルミナ、繊維状造孔材、硝酸ロジウム、水、アルミナバインダー、及び増粘剤を混合して、スラリーを調製した。スラリー中のアルミナ-セリア-ジルコニア複合酸化物、アルミナ-ジルコニア複合酸化物及びアルミナの濃度は、それぞれ99g/L、41g/L、45g/Lとした。スラリー中、全固形分重量を基準とするRhの含有量は0.25wt%であった。
【0052】
得られたスラリーを用いて、実施例1と同様にして基材上に触媒層を形成した。さらに、スラリー中の全固形分の重量を基準として0.15wt%のPdを含む硝酸パラジウム水溶液を、触媒層の表面から吸収させた。これにより比較例2の試験体を得た。
【0053】
比較例3
スラリー中の全固形分重量を基準とするPdの含有量を図13に示す値としたこと以外は比較例1と同様にして、試験体を作製した。なお、作製した試験体の触媒層中のPdの平均濃度は、触媒層の形成に用いたスラリー中の全固形分重量を基準とするPdの含有量に対応する。
【0054】
比較例4
触媒層の表面から吸収させる硝酸パラジウム水溶液に含まれるPdの量を、スラリー中の全固形分の重量を基準として図13に示す量としたこと以外は、比較例2と同様にして、試験体を作製した。なお、試験体の触媒層中のPdの平均濃度は、触媒層の形成に用いたスラリー中の全固形分重量を基準とする、触媒層の表面から吸収させる硝酸パラジウム水溶液に含まれるPdの量に対応する。
【0055】
(2)電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による分析
EPMAを用いて、実施例1、比較例1、及び比較例2の各試験体の触媒層の断面SEM観察及び元素分析を行った。実施例1の断面SEM像を図2に、Pdの濃度分布を示すマッピング像(Pdマッピング像)を図3及び図4に、Rhの濃度分布を示すマッピング像(Rhマッピング像)を図5に示す。なお、図4図3よりも高い倍率の像である。比較例1の断面SEM像を図6に、Pdマッピング像を図7に、Rhマッピング像を図8に示す。比較例2の断面SEM像を図9に、Pdマッピング像を図10に、Rhマッピング像を図11に示す。
【0056】
図2図6及び図9のSEM像から、実施例1、比較例1及び比較例2のいずれの試験体においても、触媒層が、マクロ孔を画成する内表面を有することが確認された。
【0057】
図3及び図4のPdマッピング像から、実施例1では、マクロ孔を画成する触媒層の内表面の近傍にPdが偏在する、すなわち、内表面の近傍におけるPdの濃度が、触媒層全体で平均したPdの濃度より高いことが確認された。図7のPdマッピング像から、比較例1の試験体では触媒層全体にわたって略均一な濃度でPdが分布している、すなわち、内表面の近傍におけるPdの濃度が、触媒層全体で平均したPdの濃度と同等であることが確認された。図10のPdマッピング像から、比較例2の試験体では、触媒層の表面の近傍にPdが偏在し、内表面の近傍におけるPdの濃度が、触媒層全体で平均したPdの濃度と同等かそれ未満であることが確認された。
【0058】
図5図8、及び図11のRhマッピング像から、実施例1、比較例1及び比較例2のいずれの試験体においても、触媒層全体にわたって略均一な濃度でRhが分布し、内表面の近傍におけるロジウムの濃度が、触媒層全体で平均したロジウムの濃度と同等であることが確認された。
【0059】
(3)性能評価
実施例1、2及び比較例1~4の各試験体をエンジンの直下に配置し、試験体のNOx浄化性能を評価した。
【0060】
試験体に流入するガスの温度が550℃になるように、エンジンの運転条件を設定した。安定するまで試験体にエンジンからの排ガスを流入させた。次に、エンジンに供給する混合ガスの空燃比(A/F)を3分間隔で14.1(リッチ)と15.1(リーン(酸素過剰))に交互に切り替えながら、試験体にエンジンからの排ガスを流入させた。3回目にA/Fを15.1(リーン)から14.1(リッチ)に切り替えた後、NOxの排出量を測定した。
【0061】
図12は、実施例1及び比較例1、2の試験体のNOx排出量の経時変化を示す。図12の横軸は、3回目にA/Fを15.1から14.1に切り替えた後の経過時間を表す。実施例1、比較例1及び比較例2のいずれの試験体も、1分経過後にNOx排出量が増加したが、3分経過後において、実施例1のNOx排出量の増加量は、比較例1及び比較例2のNOx排出量の増加量よりも小さかった。つまり、実施例1の試験体は、比較例1及び比較例2の試験体と比べて、リッチ条件時のNOx浄化性能の劣化が小さかった。
【0062】
図13は、A/Fを15.1から14.1に切り替えた後3分経過したときの、実施例2及び比較例3、4の試験体のNOx排出量を示す。触媒層中のPdの平均濃度が0.8wt%以下のとき、実施例2のNOx排出量が比較例4のNOx排出量よりも小さかった。このことから、マクロ孔を画成する触媒層の内表面の近傍にPdが集中的に配置されることにより得られる、NOx浄化性能の劣化を抑制する効果は、触媒層中に含まれるPdの平均濃度が0.8wt%以下のときに特に高いことが示された。
【符号の説明】
【0063】
1:排ガス浄化装置、10:基材、30:触媒層、31:担体、33:ロジウム、35:パラジウム、37:内表面、50:マクロ孔
図1
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図13