(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】永久磁石電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 21/14 20060101AFI20231212BHJP
H02K 1/276 20220101ALI20231212BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K1/276
(21)【出願番号】P 2020065442
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000116666
【氏名又は名称】愛知電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003052
【氏名又は名称】弁理士法人勇智国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光彦
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-159197(JP,A)
【文献】特開2014-054155(JP,A)
【文献】特開2003-032985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/14
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子と回転子を備え、前記固定子は、周方向に沿って離間して配置されている複数のティース、周方向に隣接するティースによって形成される複数のスロット、各ティースに巻き付けられている固定子巻線および固定子内側空間を形成する固定子内周面を有し、前記回転子は、前記固定子内側空間内に回転可能に配置され、周方向に沿って主磁極と補助磁極が交互に配置されているとともに、前記主磁極に磁石挿入孔が形成されており、前記磁石挿入孔に永久磁石が挿入されている永久磁石電動機であって、
前記固定子巻線は、前記複数のティースに集中巻き方式で巻き付けられており、
前記主磁極は、6個設けられ、
前記スロットは、9個
設けられ、
前記回転子の外周面は、前記主磁極のd軸と交差し、回転中心を中心点とする半径R1の円弧状に形成された第1の外周面部分と、前記補助磁極のq軸と交差し、前記回転中心を中心点とする半径R2(R2<R1)の円弧状に形成された第2の外周面部分と、前記
第1の外周面部分と前記第2の外周面部分を接続する接続部分と、を有し、
前記回転子の直径D(mm)は、[58mm≦D≦93mm]を満足するように設定され、
前記
第1の外周面部分と前記固定子内周面との間の距離G(mm)は、[0.5mm≦G≦0.6mm]を満足するように設定され、
前記回転中心に対する前記第1の外周面部分の開角度θ1(機械角)は、[16度≦θ1≦19度]を満足するように設定され、
前記第1の外周面部分と前記第2の外周面部分との間の径方向に沿った間隔H(mm)は、[2×G<H<2×G×1.1]を満足するように設定され、
前記永久磁石の厚さW(mm)は、[2×G×0.9<W<2×G×1.1]を満足するように設定され、
前記ティースの幅Tは、[0.20×(D+2×G)×π/9<T<0.23×(D+2×G)×π/9]を満足するように設定されていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項2】
請求項1に記載の永久磁石電動機であって、
前記永久磁石として、飽和磁束密度が1.4テスラと1.6テスラの範囲内の永久磁石が用いられていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の永久磁石電動機であって、
前記固定子および前記回転子は、磁束密度が1.75テスラと1.9テスラの範囲内で線形領域から非線形領域に移行する電磁鋼板により構成されていることを特徴とする永久磁石電動機。
【請求項4】
圧縮機構部と、前記圧縮機構部を駆動する電動機を備える圧縮機であって、前記電動機として請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の永久磁石電動機が用いられていることを特徴とする圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子に形成された磁石挿入孔に永久磁石が挿入されている永久磁石電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮機、空調器、車載機器等の駆動装置として永久磁石電動機が用いられている。永久磁石としては、安価なフェライト磁石や、フェライト磁石より高価であるが、残留磁束密度や保持力が大きい希土類磁石、例えば、ネオジウム(Nd)と鉄(Fe)を含むネオジウム磁石が用いられる。
永久磁石電動機としては、例えば、特許文献1や非特許文献1に開示されている永久磁石電動機が知られている。特許文献1や非特許文献1に開示されている永久磁石電動機は、固定子と回転子を備えている。回転子は、主磁極と補助磁極を有し、主磁極には、磁石挿入孔が形成され、磁石挿入孔には永久磁石が挿入されている。このような永久磁石電動機のトルクTは、永久磁石による磁束量をΦ、q軸電流をIq、d軸電流をId、q軸インダクタンスをLq、d軸インダクタンスをLd、回転子の極対数をPとすると、以下の式で表される。
T=P[Φ×Iq+(Ld-Lq)×Id×Iq]
上式の右辺の第1項は、永久磁石の磁束によるマグネットトルクを示し、第2項は、回転子の突極性(d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの差)によるリラクタンストルクを示している。
ここで、(Lq>Ld)に設定するとともに、固定子巻線の電流を進角制御する(負のd軸電流Idを流す)ことにより、リラクタンストルクが正となり、マグネットトルクとリラクタンストルクの和であるトルクTが増加する。
このため、従来の永久磁石電動機では、リラクタンストルクを有効に利用して永久磁石電動機のトルクTを増加させるために、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdより十分に大きくなるように構成されている。なお、リラクタンストルクを有効に利用することにより、固定子のティースに巻き付ける固定子巻線の巻数を低減することができる。その結果、固定子巻線の抵抗値が低減され、銅損が低減される。
固定子のティースには、永久磁石による磁束と固定子巻線に電流が流れることによって発生する磁束が流れる。固定子巻線に電流が流れることによって発生する磁束は、電流が増大するにしたがって増加する。すなわち、ティースを流れる磁束は、固定子巻線に流れる電流の増加とともに増加する。このため、固定子巻線に流れる電流が増大すると、ティースの磁束密度が飽和し、q軸インダクタンスLqが低下する。
このような永久磁石電動機は、高効率で、高トルクを発生させるために、電流が大きい領域において、q軸インダクタンスLqがd軸インダクタンスLdより大きくなるように設定される。このため、従来の永久磁石電動機では、d軸インダクタンスLdおよびq軸インダクタンス
Lqが、
図3に示されている電流特性を有するように構成されている。すなわち、d軸インダクタンスLdは、電流が増減してもほぼ同じである。一方、q軸インダクタンスLqは、電流が小さい時は大きく、電流の増加にともなって、ティースの磁束密度の飽和により低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】電気学会論文集、Vol.113-D、No.11、頁1330-1331、1993年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の永久磁石電動機では、永久磁石の減磁を防止するために、厚さが厚い永久磁石が用いられている。このため、
図3に示されているように、d軸インダクタンスLdは、電流が増減してもほぼ同じである電流特性を有している。
このように、d軸インダクタンスLdが、電流が増減してもほぼ同じである電流特性を有していると、電流が大きい領域において、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの差を大きくすること
ができない。永久磁石電動機のリラクタンストルクは、前述した式で示されるように、q軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの差によって定まる。このため、従来の永久磁石電動機では、電流が大きい領域においてリラクタンストルクを大きくすることができなかった。この場合、トルクを大きくするためには、固定子巻線に大きい電流を流す必要があり、銅損が増大して効率が低下する。
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、電流が大きい領域におけるd軸インダクタンスLdを小さくし、リラクタンストルクを大きくすることができる永久磁石電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明は、固定子と回転子を備える永久磁石電動機に関する。
固定子は、周方向に沿って延在するヨークと、ヨークから径方向に沿って径方向内側に延在し、径方向内側に周方向に沿って延在するティース先端面が形成されている複数のティースと、周方向に隣接するティースによって形成される複数のスロットと、各ティースに集中巻き方式で巻き付けられている固定子巻線を有している。ティース先端面によって、固定子内周面が形成される。
回転子は、固定子内周面によって形成される固定子内側空間内に回転可能に支持されている。また、回転子は、周方向に沿って主磁極と補助磁極が交互に配置されているとともに、主磁極には、軸方向に沿って延在する磁石挿入孔が形成されている。そして、磁石挿入孔に永久磁石が挿入されている。永久磁石としては、種々の永久磁石を用いることができるが、好適には、ネオジウム系磁石が用いられる。より好適には、ディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が拡散されたネオジウム磁石が用いられる。磁石挿入孔に挿入された永久磁石によって、主磁極と補助磁極が規定され、また、主磁極のd軸と補助磁極のq軸が規定される。なお、d軸は、回転子の回転中心と主磁極の周方向中央を結ぶ線として規定され、q軸は、回転子の回転中心と補助磁極の周方向中央を結ぶ線として規定される。
本発明では、主磁極は、6個設けられ、スロットは、9個設けられている。すなわち、6極9スロットの集中巻き方式の永久磁石電動機として構成されている。
回転子の外周面は、主磁極のd軸と交差する第1の外周面部分と、補助磁極のq軸と交差する第2の外周面部分と、第1の外周面部分と第2の外周面部分を接続する接続部分を有している。第1の外周面部分は、回転中心を中心点とする半径R1の円弧形状に形成されている。第2の外周面部分は、回転中心を中心点とする、半径R1より小さい半径R2(R2<R1)の円弧形状に形成されている。
回転子の直径D(mm)は、[58mm≦D≦93mm]を満足するように設定されている。また、第1の外周面部分と固定子内周面との間の距離G(mm)は、[0.5mm≦G≦0.6mm]を満足するように設定されている。また、回転中心に対する第1の外周面部分の開角度θ1(機械角)は、[16度≦θ1≦19度]を満足するように設定されている。また、第1の外周面部分と第2の外周面部分との間の径方向に沿った間隔H(mm)は、[2×G<H<2×G×1.1]を満足するように設定されている。また、永久磁石の厚さW(mm)は、[2×G×0.9<W<2×G×1.1]を満足するように設定されている。また、ティースの幅Tは、[0.2×(D+2×G)×π/9<T<0.23×(D+2×G)×π/9]を満足するように設定されている。
本発明では、q軸インダクタンスLqは、従来の永久磁石電動機と同様に、電流が大きい領域では、ティースを介して流れるq軸磁束が飽和することによって小さくなる。一方、d軸インダクタンスLdは、電流が大きい領域において、ティースを介して流れるd軸磁束が飽和することによって、従来の永久磁石電動機より小さくなる。これにより、電流が大きい領域におけるq軸インダクタンスLqとd軸インダクタンスLdとの差を、従来の永久磁石電動機より大きくすることができ、電流が大きい領域におけるリラクタンストルクを大きくすることができる。
第1発明の異なる形態では、永久磁石として、飽和磁束密度が1.4テスラと1.6テスラの範囲内の永久磁石が用いられている。
第1発明の異なる形態では、固定子および回転子は、磁束密度が1.75テスラと1.9テスラの範囲内で線形領域から非線形領域に移行する電磁鋼板により構成されている。
第2発明は、圧縮機構部と、圧縮機構部を駆動する電動機を備える圧縮機に関する。電動機として、前述した永久磁石電動機のいずれかが用いられている。
第2発明は、第1発明と同様の効果を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の永久磁石電動機および圧縮機では、電流が大きい領域におけるd軸インダクタンスを小さくすることができ、電流が大きい領域におけるリラクタンストルクを大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態の永久磁石電動機の断面図である。
【
図3】従来の永久磁石電動機のd軸インダクタンスLdおよびq軸インダクタンス
Lqの電流特性を示すグラフである。
【
図4】第1実施形態の永久磁石電動機のd軸インダクタンスLdおよびq軸インダクタンス
Lqの電流特性を示すグラフである。
【
図5】第2実施形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
【
図6】第3実施形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
【
図7】第4実施形態の永久磁石電動機の回転子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
なお、本明細書中では、「軸方向」という記載は、回転子が固定子に対して回転可能に配置されている状態において、回転子の回転中心を通る回転中心線の延在方向を示す。「周方向」という記載は、回転子が固定子に対して回転可能に配置されている状態において、軸方向から見て、回転子の回転中心を中心点とする円周方向を示す。「径方向」という記載は、回転子が固定子に対して回転可能に配置されている状態において、軸方向から見て、回転子の回転中心を通る方向を示す。
【0010】
本発明の永久磁石電動機の第1実施形態100を、
図1、
図2を参照して説明する。
図1は、第1実施形態の永久磁石電動機100の断面図であり、
図2は、
図1の要部拡大図である。
永久磁石電動機100は、固定子110と回転子120により構成されている。
固定子110は、板状の電磁鋼板を複数枚積層して形成された固定子コアにより構成されている。固定子110は、周方向に沿って延在するヨーク111と、ヨーク111から径方向内側に延在するティース112を有している。ティース112は、ヨークから径方向に沿って径方向内側に延在するティース基部113と、ティース基部113の径方向内側に連設され、周方向に沿って延在するティース先端部114により形成されている。ティース先端部114の径方向内側には、ティース先端面115が形成されている。ティース先端面115は、回転中心Oを中心点とする円弧形状に形成されている。各ティース112のティース先端面115によって、固定子110の内側に固定子内側空間が形成される。ティース先端面115が、本発明の「固定子内周面」に対応する。
周方向に隣接するティース112によってスロット116が形成されている。
本実施形態の永久磁石電動機100では、ティース112(スロット116)が、
9個設けられている(
9スロットの永久磁石電動機)。そして、固定子巻線(図示省略)は、
集中巻き方式で各ティース112(詳しくは、ティース基部113)に巻き付けられている。
固定子巻線を
集中巻き方式で巻き付ける方法としては、種々の方法を用いることが
できる。
【0011】
回転子120は、板状の電磁鋼板を複数枚積層して形成された回転子コアにより構成されている。回転子120は、内周面210により形成される回転軸挿入孔に回転軸(図示省略)が挿入され、固定子110の固定子内側空間内に回転可能に配置されている。本実施形態では、回転子120は、第1の外周面部分120a(後述する)とティース先端面115(固定子内周面)との間に空隙(エアギャップ)が保持されるように配置されている。
回転子120は、周方向に沿って主磁極[A]~[F]と補助磁極[AB]~[FA]が交互に配置されている。本実施形態では、回転子120の主磁極の数(極数)が6に設定されている。すなわち、6極構造の回転子120を有している(6極の永久磁石電動機)。なお、極数が6の回転子は、極対数Pが3である回転子と呼ばれる。
各主磁極には第1の磁石挿入孔131、第2の磁石挿入孔132が形成され、第1磁石挿入孔131、第2の磁石挿入孔132には第1の永久磁石141、第2の永久磁石142が挿入されている。第1の永久磁石141、第2の永久磁石142としては、種々の永久磁石を用いることができるが、好適には、ネオジウム系磁石が用いられる。より好適には、ディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)が拡散されたネオジウム磁石が用いられる。
第1の永久磁石141、第2の永久磁石142によって、主磁極[A]~[F]と補助磁極[AB]~[FA]が規定され、また、主磁極[A]~[F]のd軸と補助磁極[AB]~[FA]のq軸が規定される。
d軸は、回転中心Oと主磁極[A]~[F]の周方向中心を結ぶ線として規定され、q軸は、回転中心Oと補助磁極[AB]~[FA]の周方向中心を結ぶ線として規定される。
【0012】
回転子120の回転子外周面は、d軸と交差する第1の外周面部分120a、q軸と交差し、第1の外周面部分120aより径方向内側に形成されている第2の外周面部分120b、第1の外周面部分120aと第2の外周面部分120bを接続する接続部分120cおよび120dを有している。第2の外周面部分120b、接続部分120cおよび120dは、第1の外周面部分120aを切欠いた切欠部の底面、周方向一方側(時計方向側)の側面および周方向他方側(反時計方向側)の側面ということもできる。
本実施形態では、第1の外周面部分120aは、回転中心Oを中心点とする半径R1(R1=D/2)の円弧形状を有し、第2の外周面部分120bは、回転中心Oを中心点とする、半径R1より小さい半径R2(R2<R1)の円弧形状を有している。また、接続部分120c、120dは、d軸に平行(「略平行」を含む)に直線状に延在している。接続部分120c、120dの形状は、回転中心Oを通る径方向に平行(「略平行」を含む)に直線状に延在するように形成することもできる。なお、第1の外周面部分120a、第2の外周面部分120b、接続部分120c、120dの形状は、これに限定されない。
【0013】
本実施形態では、主磁極[A]~[F]には、直線状に延在する第1の磁石挿入孔131と第2の磁石挿入孔132が、d軸を挟んで両側に、回転中心O側に飛び出ているV字状に形成されている。
第1の磁石挿入孔131の内周側端壁部131cと第2の磁石挿入孔132の内周側端壁部132cの間には、d軸に平行(「略平行」を含む)に延在する中央ブリッジ部125が形成されている。また、第1の磁石挿入孔131の外周側端壁部131dと第2の外周面部分120bの間には、外周ブリッジ部126が形成され、第2の磁石挿入孔132の外周側端壁部132dと第2の外周面部分120bの間には、外周ブリッジ部127が形成されている。
第1の磁石挿入孔131と第2の磁石挿入孔132には、直線状に延在する第1の永久磁石141と第2の永久磁石142が挿入されている。第1の永久磁石141および第2の永久磁石142の両端には、空隙が設けられている。
【0014】
次に、本実施形態において、電流が大きい領域におけるd軸インダクタンスLdを低減する構成について説明する。
なお、本実施形態では、回転子120の直径Dが、[58mm≦D≦93mm]の範囲内に設定されている。また、前述したように、固定子110のスロット116の数が9に設定され(9スロット)、回転子120の主磁極の数が6に設定されている(6極あるいは極対数Pが3)。
【0015】
図2に示されているように回転子120を流れる磁束として、d軸磁束とq軸磁束が考えられる。
d軸磁束は、隣接する主磁極間を流れる磁束である。例えば、主磁極
[A]のd軸側から回転子120に流れ込み、主磁極
[A]に対して周方向一方側(
図2において、時計方向)に隣接する主磁極
[B]のd軸側から流れ出る磁束である。d軸磁束によってd軸インダクタンスLdが定まる。
q軸磁束は、隣接する補助磁極間を流れる磁束である。例えば、主磁極
[A]と主磁極
[A]に対して周方向他方側(
図2において、反時計方向)に隣接する主磁極
[F]との間の補助磁極
[FA]側から回転子120に流れ込み、主磁極
[A]と主磁極
[A]に対して周方向一方側に隣接する主磁極
[B]との間の補助磁極
[AB]側から流れ出る。q軸磁束によってq軸インダクタンスLqが決まる。
【0016】
次に、電流が大きい領域におけるd軸インダクタンスLdを小さくするための構成を以下に説明する。
従来の永久磁石電動機では、ティースを介して流れるd軸磁束が飽和しないように設定されているため、d軸インダクタンスLdは、電流が増減してもほぼ変わらない電流特性を有している。
これに対し、本実施形態では、ティースを介して流れるd軸磁束が飽和するように設定することによって、電流が大きい領域において、d軸インダクタンスLdが小さくなる電流特性を有するように構成している。
具体的には、6極9スロットの集中巻き方式の永久磁石電動機に特化した。
【0017】
空隙Gは、0.5mmと0.6mmの範囲内([0.5mm≦G≦0.6mm]を満足)に設定される。
空隙Gが0.5mmより小さいと、高周波鉄損が大きくなり、効率が低下し、また、騒音や振動も大きくなる。
空隙Gが0.6mmより大きいと、磁束量が少なくなって、鉄損が大きくなる。
【0018】
回転子120の直径Dは、58mmと93mmの範囲内([58mm≦D≦93mm]を満足)に設定される。
直径Dが58mmより小さいと、第2の外周面部分120bにより形成される切欠き部を有しているため、十分な磁石表面積を確保することができない。このため、磁束量が低下し、鉄損が増加して効率が低下する。
【0019】
回転中心Oに対する第1の外周面部分120aの開角度θ1は、16度と19度(機械角)の範囲内([16度≦θ1≦19度]を満足)に設定される。
開角度θ1が16度より小さいと、十分な磁束を確保することができず、銅損が増加し、効率が低下する。
開角度θ1が、19度より大きいと、高周波鉄損が増加し、効率が低下する。
【0020】
第1の外周面部分120aと第2の外周面部分120bとの間の径方向に沿った間隔(切欠き部の深さ)Hmmは、[2×G<H<2×G×1.1]を満足するように設定される。
【0021】
永久磁石141、142の厚さWmmは、[2×G×0.9<W<2×G×1.1]を満足するように設定される。
【0022】
ティース112の幅(具体的には、ティース基部113の最小幅)Tmmは、[0.2×(固定子内周/9)<T<0.23×(固定子内周/9)]を満足するように設定される。なお、固定子内周(mm)は、[固定子内周=(回転子120の直径D+2×空隙G)×π]で表される。
ティース112の幅Tが[0.2×(固定子内周/9)]より小さいと、ティース112から回転子120に十分な磁束が流れない。これにより、銅損が増加して効率が低下する。
ティース112の幅Tが[0.23×(固定子内周/9)]より大きいと、ティース112と回転子120との間で十分な磁束が流れ、d軸磁束が飽和しない。この場合、d軸インダクタンスLdは、従来の永久磁石電動機と同じ電流特性を示す。
【0023】
なお、永久磁石141、142としては、好適には、飽和磁束密度が1.4テスラと1.6テスラの範囲内である永久磁石が用いられる。
また、好適には、固定子110(固定子コア)や回転子120(回転子コア)を構成する電磁鋼板として、磁束密度が、1.75テスラと1.9テスラの範囲内で線形領域から非線形領域に移行する電磁鋼板が用いられる。
【0024】
第1実施形態の永久磁石電動機100では、軸方向に直角な断面で見て、6極構造(極対数P=3)で、各主磁極[A]~[F]に、直線状に延在する第1の磁石挿入孔131および第2の磁石挿入孔132が、回転中心O側に飛び出ているV字状に形成され、第1の磁石挿入孔131および第2の磁石挿入孔132それぞれに、直線状に延在する第1の永久磁石141および第2の永久磁石142が挿入されている回転子120を用いたが、回転子の各主磁極の磁石挿入孔の配置形状等は種々変更可能である。
【0025】
第2実施形態の永久磁石電動機の回転子220が、
図5に示されている。
図5に示されている回転子220は、
6極構造(極対数P=
3)で、各主磁極に、直線状に延在する磁石挿入孔231が、d軸と交差する方向(好適には、直角な方向)に形成されている。そして、磁石挿入孔231に、直線状に延在する永久磁石241が挿入されている。
回転子220の外周面は、d軸と交差する第1の外周面部分220a、q軸と交差する第2の外周面部分220b、接続部分
220cおよび220dを有している。
【0026】
第3実施形態の永久磁石電動機の回転子320が、
図6に示されている。
図6に示されている回転子320は、
6極構造(極対数P=
3)で、各主磁極に、円弧状に延在する磁石挿入孔331が、d軸と交差するとともに、
回転中心O側に飛び出るように形成されている。そして、磁石挿入孔331に、円弧状に延在する永久磁石341が挿入されている。
回転子320の外周面は、d軸と交差する第1の外周面部分320a、q軸と交差する第2の外周面部分320b、接続部分320cおよび320dを有している。
【0027】
第4実施形態の永久磁石電動機の回転子420が、
図7に示されている。
図7に示されている回転子420は、
6極構造(極対数P=
3)で、各主磁極に、直線状に延在する第1~第3の磁石挿入孔431~433が、回転中心O側に飛び出る台形状に形成されている。そして、第1~第3の磁石挿入孔431~433それぞれに、直線状に延在する第1~第3の永久磁石441~443が挿入されている。
回転子420の外周面は、d軸と交差する第1の外周面部分420a、q軸と交差する第2の外周面部分420b、接続部分420cおよび420dを有している。
なお、各主磁極に、回転中心O側に飛び出ている台形状の磁石挿入孔を形成し、磁石挿入孔に、直線状に延在する第1~第3の永久磁石を挿入することもできる。
【0028】
本発明は、実施形態で説明した構成に限定されず、種々の変更、追加、削除が可能である。
永久磁石電動機について説明したが、本発明は、永久磁石電動機を駆動部として用いた種々の製品として構成することができる。例えば、永久磁石電動機により圧縮機構部を駆動する圧縮機として構成することができる。
回転子の各主磁極に形成される磁石挿入孔の形状、数や配置位置、磁石挿入孔に挿入される永久磁石の形状、数や挿入位置等は適宜変更可能である。
実施形態で説明した各構成は、単独で用いることもできるし、適宜選択した複数の構成を組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0029】
100 永久磁石電動機
110 固定子
111 ヨーク
112 ティース
113 ティース基部
114 ティース先端部
115 ティース先端面(固定子内周面)
116 スロット
120、220、320、420 回転子
120a、220a、320a、420a 第1の外周面部分
120b、220b、320b、420b 第2の外周面部分
120c、120d、220c、220d、320c、320d、420c、420d 接続部分
125 中央ブリッジ部
126、127 外周ブリッジ部
131、132、231、331、431、432、433 磁石挿入孔
141、142、241、341、441、442、443 永久磁石
210 内周面(回転子内周面)