(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】トンネルの最終変位量の予測方法
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20231212BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01C15/00 104A
G01B11/24 B
(21)【出願番号】P 2020093140
(22)【出願日】2020-05-28
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】小沼 宏嗣
(72)【発明者】
【氏名】向井 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】工一 寿史
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 雅明
(72)【発明者】
【氏名】横道 立樹
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-197785(JP,A)
【文献】特開平07-159106(JP,A)
【文献】特開2008-298433(JP,A)
【文献】特開2011-163017(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00-15/14
G01B 11/00-11/30
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を予測するための方法であって、
発破後にトンネル壁面に対して1次吹付けを行った後、鋼製支保工を設置し、該鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットを計測することにより鋼製支保工の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工の変位計測を継続して行う第1手順と、
2次吹付けを終えたならば、トンネル壁面に視準ターゲットを設置して坑内A計測を開始する第2手順と、
前記鋼製支保工の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する第3手順とからなることを特徴とするトンネルの最終変位量の予測方法。
【請求項2】
前記初期変位速度は、鋼製支保工の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(日)、このα経過時における鋼製支保工の変位量をD
αとし、前記坑内A計測開始から24時間経過後の変位量をD
24とした場合に、(D
α+D
24)/(α+1)(mm/day)によって算出する請求項1記載のトンネルの最終変位量の予測方法。
【請求項3】
前記初期変位速度は、鋼製支保工の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(時間)、このα経過時における鋼製支保工の変位量をD
αとし、前記坑内A計測開始から(24時間-α)経過後の変位量をD
24-αとした場合に、(D
α+D
24-α)(mm/day)によって算出する請求項1記載のトンネルの最終変位量の予測方法。
【請求項4】
山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を予測するための方法であって、
発破後にトンネル壁面に対して1次吹付けを行った後、鋼製支保工を設置し、該鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットを計測することにより鋼製支保工の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工の変位計測を継続して行う第1手順と、
前記鋼製支保工の変位計測のみに基づいて初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する第2手順とからなることを特徴とするトンネルの最終変位量の予測方法。
【請求項5】
前記鋼製支保工の支保工検測及び変位計測は、鋼製支保工を建込む前に鋼製支保工の所定箇所に視準ターゲットを取り付けておくようにする請求項1~4いずれかに記載のトンネルの最終変位量の予測方法。
【請求項6】
前記鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットは、蝶番又は揺動アームによって支持され、回動操作によって発破時に爆風を受けないように待避可能としてある請求項1~5いずれかに記載のトンネルの最終変位量の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの内空変位量や天端沈下量などの最終変位量を精度良く予測する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、NATM工法に代表される山岳トンネルの施工では、トンネルを精度良くかつ高品質で施工するために各種の測量が行われている。測量項目としては、例えば鋼製支保工の天・左右の3点を測量し、設置精度を確認する支保工検測、掘削後の任意断面又は任意点においてアタリを検測するアタリ測量、天端沈下量や内空変位量の計測を行う坑内A計測、任意断面の掘削内空断面の計測を行う断面測定などがある。
【0003】
これら各種測量項目の内、前記坑内A計測は、トンネル延長方向に一定の間隔(例えば、10~30m間隔)で実施されるものである。坑内A計測の内、天端沈下量の計測は掘削に伴うトンネル天端の同一位置における絶対高さ標高の変化を測量し、トンネル天端の沈下量、沈下速度を把握することによってトンネルの安全性、支保工効果を判断する資料を得ることを目的として行われるものであり、内空変位量の計測はトンネルの安定及び支保工効果の確認、支保工の施工時期の判定、覆工の打設時期の判定等の資料を得ることを目的として行われるものである。
【0004】
前記坑内A計測の測量作業は、
図12に示されるように、トンネル50内にトータルステーション51を設置し、
図13に示されるように、トンネル壁面の天端及び側壁に設置された5点の視準ターゲット52、52…(天端、左肩、左下半、右肩、右下半の5点)を計測し、各点の変位量や沈下量を管理することにより行われる。
【0005】
一方で、トンネル施工管理の一環として、前記坑内A計測に基づいて、トンネルの最終変位量を予測することが行われている。最も多用されている手法は、坑内A計測における初期変位速度(多くは計測開始から1日後の変位の進行速度又は1D時変位量までの変位の進行速度)と最終変位量との相関データを蓄積しておき、掘削後の坑内A計測によって初期変位速度を計測したならば、前記相関データから最終変位量の予測を行うものである。
【0006】
この技術に関連するものとして、下記特許文献1には、予め定める2測点間にわたって一定の張力で張架される索条と、前記2測点のうちいずれか一方に設けられ、前記索条の移動量を検出する手段と、前記検出手段によって検出された移動量から各測点の変位速度を求め、この変位速度に基づいて最終変位量を求める演算処理手段とを含む地山変形測定装置が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献2には、所定の管理最大変位量から変位管理レベルを段階的に設定し、該変位管理レベルに対応する最終変位量を計測開始後の経時期間とトンネル内空変位量とをパラメータとした関数曲線により算定してトンネル掘削時の内空変位の管理曲線を設定するとともに、掘削開始直後時に得られた初期変位速度をもとに前記関数曲線により変位予想曲線を求め、最終変位量を予測するようにしたトンネル内空変位の予測方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-159106号公報
【文献】特開平7-197785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述した最終変位量の予測方法においては、変位量(初期変位速度)の計測は掘削直後から計測することが望ましいのであるが、発破後にズリ出し・当り取り、1次吹付け、鋼製支保工の設置、2次吹付けを終えた後、壁面に視準ターゲット(光学プリズム)を設置した時点から開始しているため、発破から初期計測までに既に時間が経過しており、これが誤差要因となるとの問題があった。その結果、最終変位量の予測に誤差が生じて、後で覆工コンクリートの厚さが確保できない事態が発生したり、縫い返し(再掘削)を余儀なくされることも多々あった。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を従来よりも精度良く予測するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を予測するための方法であって、
発破後にトンネル壁面に対して1次吹付けを行った後、鋼製支保工を設置し、該鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットを計測することにより鋼製支保工の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工の変位計測を継続して行う第1手順と、
2次吹付けを終えたならば、トンネル壁面に視準ターゲットを設置して坑内A計測を開始する第2手順と、
前記鋼製支保工の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する第3手順とからなることを特徴とするトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、先ず、鋼製支保工の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工の変位計測を継続して行うようにしている(第1手順)。そして、通常通り、2次吹付けを終えた後、トンネル壁面に視準ターゲットを設置して坑内A計測を開始したならば(第2手順)、前記鋼製支保工の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、構鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測するようにしている(第3手順)。
【0013】
本発明では、通常の坑内A計測よりも早い段階、すなわち鋼製支保工を設置した段階から鋼製支保工の変位を計測しておき、坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度を算出するようにしている。発破後からのトンネル地山の変位量は初期に大きく変位し漸次変位量が収束する傾向を示している。しかし、坑内A計測は2次吹付けを終えた後に、トンネル壁面に視準ターゲットを設置してからでないと計測を開始できず、変位がある程度収束し初めている段階からの計測となっていた。その結果、初期変位速度と最終変位量との相関性がその分薄れたものとなっていたため、本発明では極力早い段階からトンネルの変位量を測定開始するために、鋼製支保工の設置後に該鋼製支保工の変位を測定し、これを坑内A計測の計測値に加算した値をもって初期変位速度を算出するようにしたため、初期変位速度と最終変位量との相関性を向上でき、最終変位量を精度良く予測できるようになる。
【0014】
請求項2に係る本発明として、前記初期変位速度は、鋼製支保工の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(日)、このα経過時における鋼製支保工の変位量をDαとし、前記坑内A計測開始から24時間経過後の変位量をD24とした場合に、(Dα+D24)/(α+1)(mm/day)によって算出する請求項1記載のトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0015】
上記請求項2記載の発明は、前記鋼製支保工の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度の算出方法の第1例を示したものである。坑内A計測は計測開始から24時間経過後の変位量を計測することが規定されているため、この坑内A計測の24時間経過後の変位量をD24に鋼製支保工の変位量Dαを加算した変位量を分子とし、これらの計測時間(α+1)(日)を分母とした算式によって、1日当たりの変位量(初期変位速度)に換算したものである。
【0016】
請求項3に係る本発明として、前記初期変位速度は、鋼製支保工の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(時間)、このα経過時における鋼製支保工の変位量をDαとし、前記坑内A計測開始から(24時間-α)経過後の変位量をD24-αとした場合に、(Dα+D24-α)(mm/day)によって算出する請求項1記載のトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0017】
上記請求項3記載の発明は、前記鋼製支保工の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工の変位量分を考慮した初期変位速度の算出方法の第2例を示したものである。この方法は、鋼製支保工の変位計測開始から24時間経過時の変位量を(Dα+D24-α)によって求め、これを初期変位速度(mm/day)としたものである。
【0018】
請求項4に係る本発明として、山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を予測するための方法であって、
発破後にトンネル壁面に対して1次吹付けを行った後、鋼製支保工を設置し、該鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットを計測することにより鋼製支保工の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工の変位計測を継続して行う第1手順と、
前記鋼製支保工の変位計測のみに基づいて初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する第2手順とからなることを特徴とするトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0019】
上記請求項4記載の発明では、通常の坑内A計測よりも早い段階、すなわち鋼製支保工を設置した段階から鋼製支保工の変位を計測し、この鋼製支保工の変位計測のみに基づいて初期変位速度を算出するようにしている。発破後からのトンネル地山の変位量は初期に大きく変位し漸次変位量が収束する傾向を示しているが、坑内A計測は2次吹付けを終えた後に、トンネル壁面に視準ターゲットを設置してからでないと計測を開始できず、変位がある程度収束し初めている段階からの計測となっていたため、初期変位速度と最終変位量との相関性がその分薄れたものとなっていた。
【0020】
そこで、本発明では発破後の極力早い段階で変位計測を開始するため、鋼製支保工の設置後に該鋼製支保工の変位を測定し、この鋼製支保工の変位計測のみに基づいて初期変位速度を算出するようにしたため、初期変位速度と最終変位量との相関性を向上でき、最終変位量を精度良く予測できるようになる。
【0021】
請求項5に係る本発明として、前記鋼製支保工の支保工検測及び変位計測は、鋼製支保工を建込む前に鋼製支保工の所定箇所に視準ターゲットを取り付けておくようにする請求項1~4いずれかに記載のトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0022】
上記請求項5記載の発明では、具体的な鋼製支保工の変位計測方法について規定したものである。鋼製支保工の変位計測を効率良く行うために、鋼製支保工を建込む前に鋼製支保工の所定箇所に視準ターゲットを取り付けておき、鋼製支保工の設置後に支保工検測を行い、引き続いて鋼製支保工の変位計測を行うことが可能となる。
【0023】
請求項6に係る本発明として、前記鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットは、蝶番又は揺動アームによって支持され、回動操作によって発破時に爆風を受けないように待避可能としてある請求項1~5いずれかに記載のトンネルの最終変位量の予測方法が提供される。
【0024】
上記請求項6記載の発明では、鋼製支保工の変位計測のために鋼製支保工に取り付けた視準ターゲットが発破による爆風を受けて損傷することが懸念される。そのため、視準ターゲットを鋼製支保工に対して蝶番又は揺動アームによって回動自在に支持し、回動操作によって発破時に爆風を受けないように待避可能として発破による爆風によって破損しないようにしたものである。
【発明の効果】
【0025】
以上詳説のとおり本発明によれば、山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を従来よりも精度良く予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】トンネルの掘削要領を示すトンネル縦断面図である。
【
図3】(A)はドリルジャンボによる切羽への穿孔・装薬の要領図、(B)はホイールローダによるズリ出し要領図、(C)は1次吹付け要領図である。
【
図4】鋼製支保工10への視準ターゲット11の取付け位置を示す正面図である。
【
図9】初期変位速度と最終変位量との相関データの例を示したグラフである。
【
図10】初期変位速度(mm/day)の算出例を説明するための図である。
【
図11】鋼製支保工10への視準ターゲットの取付け例を示す、(A)は計測時、(B)は発破時を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0028】
図1に示されるように、切羽Sの近傍では、ドリルジャンボ1、吹付け機2、ホイールローダなどのトンネル施工重機が配置され掘削作業が行われる。図示の例は、上半及び下半の一括の併行作業により掘削を行うミニベンチ工法の例であり、上半ベンチ長を3~5.5mと極端に小さくした上で、上半及び下半のそれぞれにおいて、
図2のフロー図に示されるように、ドリルジャンボによって切羽に対して削孔と装薬を行い、上半と下半とを一気に切り崩し(発破)、その後にズリ出し・当り取り・こそくを行った後、壁面に対して吹付け機2を用いて一次吹付けを行い、次いで鋼製支保工10の建込みを行い、二次吹付けを行った後ロックボルト打設の手順によって掘削が行われるようになっている。
【0029】
本発明は、前記山岳トンネルの施工において、変位計測から求めた初期変位速度に基づいて最終変位量を予測するための方法を提供するものである。具体的には、発破後にトンネル壁面に対して1次吹付けを行った後、鋼製支保工10を設置し、該鋼製支保工10に取り付けた視準ターゲットを計測することにより鋼製支保工10の設置位置の計測を行う支保工検測を行った後に、引き続いて前記鋼製支保工10の変位計測を継続して行う第1手順と、
2次吹付けを終えたならば、トンネル壁面に視準ターゲットを設置して坑内A計測を開始する第2手順と、
前記鋼製支保工10の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工10の変位量分を考慮した初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する第3手順とからなるものである。
【0030】
以下、トンネル掘削工程に従いながら具体的に詳述する。
【0031】
(穿孔・装薬)
図3(A)に示されるように、切羽Sの手前にドリルジャンボ1を位置決めした状態とし、ドリルジャンボ1に搭載されている削孔機1Aを用いて切羽Sに対して穿孔を行い、この穿孔内に装薬を行ったならば、爆発により上半と下半とを一気に切り崩すようにする(発破工程)。
【0032】
(ズリ出し等)
次いで、
図3(B)に示されるように、ホイールローダ4によってズリ出しを行う。ズリはズリ運搬車5によって坑外まで運搬される。また、その後にバックホウやブレーカを用いて、当り取りやコソクを行う(図示せず)。
【0033】
(一次吹付け)
ここまでの作業が完了したならば、コンクリートの1次吹付け作業に入る。吹付け作業は、
図3(C)に示されるように、吹付け機2を切羽手前に位置決めさせた状態で、アームの先端の保持された吹付けノズル2aから概ね5cm程度の厚さでコンクリートを壁面に吹き付けるようにする。
【0034】
(鋼製支保工の建込み)
次に、鋼製支保工10の建込み作業に入る。鋼製支保工10としては通常H形綱が使用される。建込み作業に先立ち、
図4に示されるように、鋼製支保工10の所定箇所、図示例では天端、左肩、左下半、右肩、右下半の5箇所に視準ターゲット11を取り付けておくようにする。
【0035】
鋼製支保工10の建込みは、
図5に示されるように、前記吹付け機2を用いて行う。吹付け機2は2台の鋼製支保工用のエレクター装置2A、2Bを具備しており、中央で2分割された鋼製支保工10A、10Bのそれぞれをエレクター装置2A、2Bによって保持し、掘削後の壁面に周方向に沿って鋼製支保工10A、10Bを所定位置に位置決めしたならば、バスケット2C、2Dに搭乗した作業員によって天端位置で鋼製支保工10A、10Bの連結作業が行われる。
【0036】
(支保工検測)
次に、前記鋼製支保工10が設計位置に所定の精度で据え付けられているかどうかを検証するために支保工検測が行われる。
【0037】
測量作業に当たっては、
図6に示されるように、トンネル坑内にトータルステーション6が設置される。トータルステーション6は、測距及び測角の基本機能の他にレーザー照射、自動視準機能、視準の自動追尾機能、自動整準補正機能を備えた測量機器である。計測に当たっては、予め座標が既知とされる少なくとも2点の基準点A,Bをトータルステーション6によって視準し、三角測量の原理を応用した後方交会法によりトータルステーション6の設置座標を算出する。このトータルステーション6の設置座標の特定作業は、設置点が変化している場合もあるため、各種測量が行われる度に繰り返し行うようにするのが望ましい。
【0038】
鋼製支保工10の検測は、
図6に示されるように、鋼製支保工10に設けた5点の視準ターゲット11の内、少なくとも左端検測点、天端検測点、右端検測点の3点の視準ターゲット11を前記トータルステーション6により測量すればよい。
【0039】
(鋼製支保工10の変位計測)
前述の支保工検測が終えたならば、引き続き鋼製支保工10の変位計測を継続して行うようにする。検測点は、鋼製支保工10に設置した5点のターゲットとする。この計測点は坑内A計測に合わせて設定したものである。
【0040】
通常、鋼製支保工10を1次吹付け面に沿わせて設置した状態では、鋼製支保工10と1次吹付け面との間に部分的に空間が形成されている箇所が点在することになるが、このような部分的な空間が多数形成されているとしても、鋼製支保工10は1次吹付け面に対して周方向の多点で接触している限り、地山の変形は鋼製支保工10の変形として概ね現れる。従って、鋼製支保工10の変位計測を行うことにより地山の変形を把握することが可能となる。
【0041】
なお、当該鋼製支保工10の変位計測は、坑内A計測の一環として行われる意味合いが強いため、計測頻度については後述する坑内A計測に合わせるようにするのが望ましい。
【0042】
(2次吹付け)
鋼製支保工10の建込みが完了したならば、次に吹付け機2によって概ね5~15cmの厚みでコンクリートの2次吹付けを行う。
【0043】
(坑内A計測)
2次吹付けを完了したならば、坑内A計測を行う。坑内A計測に当たっては、2次吹付け面に対して視準ターゲット11を設置する。視準ターゲット11の設置箇所は、
図12に示されるように、天端、左肩、左下半、右肩、右下半の5点とし、各点の変位量(及び測定点間距離)や沈下量を計測する。
【0044】
測量は、
図7に示されるように、坑内にトンネル坑内にトータルステーション6を設置して行うようにする。図示されるように、トータルステーション6の自動視準機能を利用して、多数設置された視準ターゲットを順に連続的に測量するようにすることが望ましい。
【0045】
測定頻度に関しては、一般的に下表1に従って行うようにすればよい。
【0046】
【表1】
なお、測定頻度は、内空変位の変位速度より定まる計測頻度と、切羽からの離れによる定まる計測頻度のうち頻度の高い方を採用するものとする。
【0047】
(ロックボルト打設)
前記2次吹付けを作業を終えたならば、
図8に示されるように、トンネル周方向に亘って、トンネル放射方向に沿ってロックボルトの打設を行う。
【0048】
(最終変位の予測)
前記鋼製支保工10の変位計測と前記坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工10の変位量分を考慮した初期変位速度(mm/day)を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測する。以下、具体的に詳述する。
【0049】
先ず、前記初期変位速度(mm/day)の算出方法について、
図9に基づいて具体的に詳述する。
【0050】
<第1手法>
図9の上段に示されるように、鋼製支保工10の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(日)、このα経過時における鋼製支保工10の変位量をD
αとし、坑内A計測開始から24時間経過後の変位量をD
24とする。
【0051】
第1手法は、
図9の中段に示されるように、鋼製支保工10の変位量D
αと、坑内A計測開始から24時間経過後の変位量D
24とを加算した総変位量に基づいて初期変位速度を求めるようにしたものである。具体的には、坑内A計測は計測開始から24時間経過後の変位量を計測することが規定されているため、この坑内A計測の24時間経過後の変位量D
24に鋼製支保工の変位量D
αを加算した変位量を分子とし、これらの計測時間(α+1)(日)を分母とした算式によって、1日当たりの変位量(初期変位速度)に換算したものを初期変位速度(mm/day)とするものである。仮に、α:0.125日(3hr)、D
α:20mm、D
24:60mmである場合に、初期変位速度は(20+60)/1.125=71.1(mm/day)となる。
【0052】
なお、1日当たりの変位量に換算するのは、鋼製支保工10の変位計測開始からA計測開始までの時間αにバラツキがあることと、一般的に最終変位の予測は坑内A計測の24時間変位量から行っているため、これらとの関連性から1日当たりの変位量に換算するのが望ましいためである。
【0053】
<第2手法>
第2手法は、直接的に、鋼製支保工10の変位計測開始から24時間経過時の変位量を(Dα+D24-α)によって求め、これを初期変位速度(mm/day)としたものである。
【0054】
図9の上段に示されるように、鋼製支保工10の変位計測開始からA計測開始までの時間をα(時間)、このα経過時における鋼製支保工10の変位量D
αとし、前記坑内A計測開始から(24時間-α)経過後の変位量をD
24-αとすると、第2手法では、
図9の下段に示されるように、鋼製支保工10の変位量D
αと、坑内A計測開始から(24時間-α)経過時の変位量D
24-αを加算した総変位量をもって初期変位速度(mm/day)とすれば良いことになる。前記変位量D
24-αについては、坑内A計測開始から24時間経過後の変位量D
24に基づいて変位曲線を描き、坑内A計測開始から(24時間-α)経過時点の変位量を読み取っても良いし、坑内A計測開始から(24時間-α)経過時点でトータルステーション6によって変位計測を行うことにより変位量D
24-αを直接的に計測してもよい。
【0055】
以上の手法によって、初期変位速度(mm/day)を求めたならば、この初期変位速度(mm/day)と最終変位量(mm)との関係を支保パターン毎に、横軸を初期変位速度(mm/day)とし、縦軸を最終変位量(mm)としたグラフ中にプロットして行き、ある程度のデータが蓄積されると、
図10に示されるような、支保工パターン(E、DII、DI、CII-b、CI)毎に相関データ(相関直線又は相関曲線)を得ることが可能となる。
【0056】
その後の掘削では、初期変位速度(mm/day)を求めると、支保工パターン別の相関データに基づいて、最終変位量(mm)を予測することが可能となる。例えば、
図10において、初期変位速度が54(mm/day)であり、支保工パターンがCIならば、その最終変位量は80(mm)であると予測することが可能となる。
【0057】
〔第2形態例〕
上記形態例では、通常の坑内A計測よりも早い段階、すなわち鋼製支保工10を設置した段階から鋼製支保工10の変位を計測しておき、鋼製支保工10の変位計測と坑内A計測による変位計測とに基づいて、鋼製支保工10の変位量分を考慮した初期変位速度を算出するようにしたが、前記坑内A計測とは無関係に、鋼製支保工10の変位計測のみに基づいて初期変位速度を算出し、蓄積されたデータに基づいて作成された初期変位速度と最終変位量の相関データから最終変位量を予測することも可能である。
【0058】
鋼製支保工10の変位挙動は、鋼製支保工10を間に介した地山の変位であり間接的なものであるが、その変位挙動は地山の変形を明確に反映したものである。従って、鋼製支保工10の変位から求められた初期変位速度と最終変位量との間には高い相関性を有すると考えられるため、坑内A計測の変位計測によらずとも、鋼製支保工10の変位計測のみに基づいて算出された初期変位速度に基づいて最終変位量を予測することが可能となる。
【0059】
〔他の形態例〕
(1)前記鋼製支保工10に対する視準ターゲット11の取付けに関して、視準ターゲット11はその後の発破時においても残置されることになる。しかし、発破時の爆風によって損傷することが予想されるため、鋼製支保工10に取り付けた視準ターゲット11は、蝶番13によって支持され、回動操作によって発破時に爆風を受けないように待避可能とすることが望ましい。具体的には
図11に示されるように、留め具12と蝶番13とを連結した支持具を用い、前記蝶番13に視準ターゲット11を固定する。鋼製支保工10に対する取付けは前記留め具12によって行い、計測時には
図11(A)に示されるように、蝶番13を開いて視準ターゲット11を外側に露出させる一方、発破時には
図11(B)に示されるように、蝶番13を閉じて切羽側からの爆風を受けないように待避させるようにする。
【0060】
なお、前記蝶番13による支持に代えて、支軸を回転中心として揺動可能な揺動アームによって視準ターゲット11を支持し、回動操作によって発破時に爆風を受けないように待避可能とすることでもよい(図示せず)。
【符号の説明】
【0061】
1…ドリルジャンボ、2…吹付け機(エレクター装置付き)、3…資材運搬車、4…ホイールローダ、5…ズリ運搬車、6…トータルステーション、10…鋼製支保工、11…視準ターゲット、12…留め具、13…蝶番