(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】インプリント装置、物品の製造方法、及びインプリント装置のための測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20231212BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
H01L21/30 502M
B29C59/02 Z
(21)【出願番号】P 2020097411
(22)【出願日】2020-06-04
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】北山 文昭
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-216196(JP,A)
【文献】特開2018-163954(JP,A)
【文献】特開2012-186390(JP,A)
【文献】特開2011-037261(JP,A)
【文献】特開2011-233652(JP,A)
【文献】特表2013-538447(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0182236(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
B29C 59/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールドを保持する保持部と、
前記モールドの形状を変形させるモールド形状補正機構と、
前記モールドの形状を測定するモールド形状測定機構と、
前記モールド形状補正機構におけるモールド変形目標値に対する、前記モールド形状測定機構で測定したモールド変形特性に基づき、前記保持部のモールド保持面または前記モールドの汚れの有無を判定する判定部と、を有することを特徴とするインプリント装置。
【請求項2】
前記判定部により汚れの有無の判定をする際に、前記モールド形状補正機構によりモールドの倍率変更を行うことを特徴とする請求項1に記載のインプリント装置。
【請求項3】
前記モールド変形特性は、前記モールド変形目標値に対する、前記モールド形状測定機構で測定したモールド変形量またはモールド変形速度を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のインプリント装置
【請求項4】
前記判定部は、前記汚れの有無の前記判定をする際に、前記モールド形状補正機構で複数パターンのモールド形状の変形を行い、前記モールド形状測定機構で前記複数パターンのモールド形状の測定を行うことにより前記汚れの有無を判定することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項5】
前記モールド形状測定機構は、前記モールドの外周部を測定することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項6】
前記モールド形状測定機構は、前記モールド上の複数のマークを測定することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のインプリント装置。
【請求項7】
前記マークは前記モールドの位置を合わせるための、モールドに形成されたアライメントマークを含むことを特徴とする請求項6に記載のインプリント装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のインプリント装置を用いて前記汚れを判定する判定工程と、
前記判定工程によって判定された前記汚れを除去する除去工程と、
前記除去工程で前記汚れの除去された後で、前記モールドを用いて基板にパターンを形成するパターン形成工程と、
前記パターン形成工程によりパターンが形成された前記基板を現像する工程と、を含む
ことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項9】
インプリント装置の保持部に保持されたモールドの形状を変形させるモールド形状補正工程と、
前記モールドの形状を測定するモールド形状測定工程と、
前記モールド形状補正工程で指示したモールド変形目標値に対する、前記モールド形状測定工程で測定したモールド変形特性に基づき、前記保持部のモールド保持面または前記モールドの汚れの有無を判定する判定工程と、を有することを特徴とするインプリント装置のための測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプリント装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化が進み、半導体デバイス製造方法として、基板に樹脂を塗布し、樹脂に原版(モールド)を押し付けた状態で樹脂を硬化させるインプリント技術が使われるようになった。インプリント技術の一つとして、光硬化法がある。光硬化法を適用したインプリント装置では、はじめに、モールドをモールド保持装置へ搬送しておく。また、基板は基板保持装置へ搬送しておく。
【0003】
モールド保持装置は、モールドを保持するモールド保持機構、及び、モールドを変形させるモールド変形機構などを備える。基板保持装置は基板を保持する基板保持機構と、平面方向に駆動可能な駆動機構を備える。次に、基板上のパターン形成領域に光硬化樹脂を塗布する。そして、モールドを樹脂に押印する前後の工程で、モールド変形機構により、基板とモールドのアライメント補正を行う。
【0004】
アライメント補正は、モールド変形機構のアクチュエータによりモールドの側面に機械的に力を加え、モールド上のパターンを変形させることで行っている(特許文献1)。アクチュエータとしてはピエゾアクチュエータが使用されている。
その後、紫外線を照射して、樹脂を硬化させたうえで離形する。これにより、基板上に樹脂のパターンが形成される。
【0005】
このインプリント装置では、一般にモールドを保持する保持装置に、半導体プロセス中で発生するパターンの形状誤差を補正するモールド形状補正機構を備える。このモールド形状補正機構は、駆動部や該駆動部の駆動量を制御するためのセンサ等により構成され、モールドの外周部を取り囲むように複数箇所に設置される。
【0006】
この場合、駆動部は、モールドに対して外力を与えることで、モールド自体を変形させ、モールドに形成されたパターン形状を補正する。このとき、パターン形状は、パターン同士の重ね合わせ精度に影響を与えるため、パターンの微細化に対応するために数nm以下の高精度な補正が必要である。例えば、特許文献1は、モールドの側面に圧縮力を加えてモールド形状補正を行う補正装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、インプリント装置のモールド保持機構では、モールドを直接吸着(例えば真空吸着)するモールドチャック(モールド吸着機構)を介して保持している。そして、特許文献1に示す補正装置は、上記のモールド形状補正を、モールドチャックがモールドを押型方向に吸着した状態で実施する。
【0009】
したがって、モールドとモールドチャックとの接触面には、モールド形状補正装置が加える圧縮力の方向に摩擦力が発生する。すなわち、このモールド形状補正装置は、摩擦力よりも大きな力をモールドに加えて接触面を擦らせることでモールドの形状を補正することになる。
【0010】
このとき、例えば、異物付着等の汚れがある状態のモールドをモールドチャックで保持してしまうと、モールド上の汚れがモールドチャックに転写されてしまう。モールドチャックあるいは、モールドに汚れがある状態では、モールドとモールドチャックとの接触面の状態が、汚れのない状態と異なるため摩擦力も異なる。
そして、汚れが粘着性のもの等であれば、モールドがモールドチャックに対し滑りづらくなる。モールドが滑りづらくなると、モールド形状補正機構では、十分な形状補正状補正ができなくなり、重ね合わせ精度が劣化する。
【0011】
また、モールドがモールドチャックに対し滑りづらくなれば、モールド形状補正機構によるモールド形状補正が指令通りに行えないため、補正動作を複数回実施することになる。その結果、補正時間が増大し、生産性が悪化することとなる。
そこで、本発明は、モールドチャックの汚れ等の異常を簡便に検出できるインプリント装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのインプリント装置は、
モールドを保持する保持部と、
前記モールドの形状を変形させるモールド形状補正機構と、
前記モールドの形状を測定するモールド形状測定機構と、
前記モールド形状補正機構で指示したモールド変形目標値に対する、前記モールド形状測定機構で測定したモールド変形特性に基づき、前記保持部のモールド保持面または前記モールドの汚れの有無を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モールドあるいはモールドチャックの汚れ等の異常を簡便に検出できるインプリント装置実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】モールド形状補正機構の配置例を表した図である。
【
図3】インプリント装置の動作シーケンスを示すフローチャートである。
【
図4】モールドチャックの汚れを判定する動作シーケンスを示すフローチャートである。
【
図5】モールドチャックの汚れを検出時のモールド倍率設定パターンの例を示す図である。
【
図6】モールドチャック等が汚れていない場合のモールド変形倍率目標値と実際のモールド倍率の関係を表した図である。
【
図7】モールドチャック等が汚れていた場合のモールド変形倍率目標値と実際のモールド倍率の関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施の形態について実施例を用いて説明する。なお、各図において、同一の部材ないし要素については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略ないし簡略化する。
【0016】
図1は実施例1のインプリント装置の構成図であり、
図2はモールド形状補正機構の配置例を表した図である。インプリント装置1は、基板(ウエハ)15、モールド17、照明装置2、基板保持装置11、モールドを保持する保持部としてのモールド保持装置5、樹脂塗布装置14、アライメント計測装置18を有する。
更に、制御装置20、基板15上の樹脂16のインプリント状態を観察するための観察装置9等を有する。
【0017】
基板15は、被処理基板であり、例えば、単結晶シリコンウエハやSOI(Silicon on Insulator)ウエハなどが用いられる。基板15の被処理面には、成形部となるインプリント材(インプリント材とは紫外線硬化樹脂が利用できる。以下、単に「樹脂」と表記する)が塗布される。
【0018】
基板保持装置11は、基板15を保持し、X軸方向、Y軸方向、θ軸方向に駆動可能な装置である。基板保持装置11は、基板交換時に基板搬送装置との基板交換位置へ移動したり、基板15への樹脂16塗布のために、樹脂塗布装置14の下へ移動したりする。また、パターンの転写時に基板15とモールド17の並進シフトや回転方向のアライメント補正動作を行う。基板保持装置11は、基板チャック12、基板ステージ13からなる。
【0019】
基板チャック12は、基板15を不図示の機械的保持手段としての例えば真空吸着パッドによって保持する。また、基板チャック12は不図示の機械的保持手段としての真空吸着パット等によって基板ステージ13に保持される。基板ステージ13は、基板15とモールド17の並進シフトおよび回転方向のアライメント補正を行うためにX軸方向、Y軸方向、θ軸(Z軸周りの回転)方向に駆動するための駆動機構である。
【0020】
また、X軸方向、Y軸方向、θ軸方向の駆動機構は、粗動駆動機構と微動駆動機構など複数の駆動機構から構成されていても良い。さらに、Z軸方向の位置調整のための駆動機構や、基板15の傾きを補正するためのチルト機構を有していても良い。
樹脂塗布装置14は、基板15に樹脂16を塗布するための装置である。樹脂塗布装置14は、不図示の樹脂吐出ノズルを有しており、樹脂吐出ノズルから基板15に樹脂16を滴下する。
【0021】
なお、樹脂16は紫外線3を照射することによって硬化する性質を持つものを利用する。ただし、熱によって硬化する性質の樹脂であってもよい。また、吐出する樹脂16の量は、必要となる樹脂厚さや転写するパターン密度などによって決めれば良い。
モールド保持装置5は、モールド17を保持及び固定し、基板15にモールド17の凹凸パターンを転写するための装置である。モールド保持装置5は、モールド駆動機構6、モールドチャック7、モールド形状補正機構8からなる。
【0022】
モールドチャック7は、モールド17を不図示の機械的保持手段としての真空吸着パット等によって保持及び固定したり、解放したりする機構である。モールド駆動機構6はモールド17の凹凸パターンを基板15に転写する際に、基板15とモールド17の間隔を位置決めするための駆動機構であり、モールドをZ軸方向に駆動する。
【0023】
また、凹凸パターン転写時には高精度な位置決めが要求されるため、粗動駆動機構と微動駆動機構など複数の駆動機構から構成されていても良い。さらに、Z軸方向だけでなく、X軸方向、Y軸方向、またはθ(Z軸周りの回転)方向位置調整機構、モールド17の傾きを補正するためのチルト機構を有していても良い。
【0024】
モールド形状補正機構8は、モールド17の形状を変形補正するための機構であり、
図2に示すように、モールド17の外周部を取り囲むように複数箇所に設置されている。そして、モールド17の側面に力、または、変位を与えることによってモールド17の形状を変形補正するように構成されている。モールド17の形状を変形補正することで、パターンの転写時に基板15とモールド17の倍率及びディストーションなどのアライメント補正を行うことができる。
【0025】
また、モールド保持装置5には、モールド形状計測機構24が設けられている。モールド形状計測機構24は、モールドチャック7上のモールド17の外周部に配置され、モールド外周位置(形状)を計測する。本実施例では、
図2に示すように、モールド17の周囲に複数配置されている。モールド形状計測機構は、例えば、干渉計や、静電容量センサや、CCDカメラ、リニアイメージセンサ等の撮像素子等が使用可能である。
【0026】
アライメント計測装置18は、CCDカメラ等の撮像部および、計測光照明部19からなる。アライメント計測装置18で、基板15上のショット領域の形状、およびモールド17の形状を測定するためには、基板15、及び、モールド17に形成された複数のアライメントマークを計測する必要がある。
【0027】
この複数のアライメントマークを同時に計測できるようにアライメント計測装置18内に、CCDカメラ等の撮像素子を複数構成することが好ましい。
また、モールド17上のアライメントマーク位置は、例えばモールドの製造誤差により、モールドにより異なる。そこで、モールド17上のアライメントマークが観察可能なようにアライメント計測装置18を駆動させる機構を設けてもよい。
【0028】
アライメント計測装置18の計測光照明部19に用いられる照明光源としては、ハロゲンランプ、LED,Laser等が使用可能である。計測光照明部19からのアライメント計測光は、基板15、及び、モールド17に形成された不図示のアライメントマークを照射する。そして、その反射光を計測することにより、基板15とモールド17のX軸方向、Y軸方向、θ軸方向の位置ずれ、倍率等の形状誤差を計測する。
【0029】
観察装置9は、CCDカメラ等の撮像部および観察用光照明部からなる。観察用光照明部に用いられる照明光源としては、ハロゲンランプ、LED,Laser等が使用可能である。樹脂観察用の光10を基板へ照射し、モールド17によって基板15上に成形された樹脂からの反射光を撮像することにより、成形されたパターンに欠陥等が無いかどうかを確認することができる。
【0030】
制御装置20は、インプリント装置1の各構成要素の動作、及び調整等を制御する制御手段である。例えば、コンピュータ、記憶装置等で構成され、インプリント装置1の各構成要素に回線を介して接続され、不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムなどにしたがって各構成要素の制御を実行し得る。
また、インプリント装置1は、基板保持装置11を支持するためのベース定盤21、モールド保持装置5を支持するための支持定盤23、支持定盤23を支えるための支柱22等を有する。
【0031】
図3は、インプリント装置1の制御装置20が不図示のメモリに記憶されたコンピュータプログラムを実行することにより、複数枚の基板15上にパターンを成形する際の動作シーケンスを示すフローチャートである。なお、この複数枚の基板15を含む1つのロットにおいては、同一のモールド17を用いるものとする。
【0032】
まず、制御装置20は、動作シーケンスを開始すると、不図示のモールド搬送機構により、モールド17をモールド保持装置5に搬送し、モールドチャック7により吸着することによってモールド保持装置5に搭載する(ステップS1)。
次に、モールド17上の複数のアライメントマークが計測可能な状態になるように、アライメント計測装置18の計測系の位置合わせを行う(ステップS2)。本ステップは、モールドの製造誤差等により、モールド17上に形成されたアライメントマークがアライメント計測装置18の視野に入らない可能性があるために実施する。
【0033】
この工程でアライメントマークが計測できなかった場合は、アライメント計測装置18の計測位置を変えてモールド17上のアライメントマークを探すことで、アライメント計測装置18の位置合わせを行う。
次に、基板保持装置11に基板15が供給される(ステップS3)。不図示の基板搬送機構で搬入し、基板チャック12により基板15を吸着保持する。
【0034】
次に、基板保持装置11上の基板15に樹脂16を塗布する(ステップS4)。即ち、基板保持装置11により、基板15上の複数のショット領域(被処理領域)のうちの所望の1つのショット領域が樹脂塗布装置14の塗布位置に位置するように、樹脂塗布装置14で樹脂を塗布しながら、基板保持装置11を走査駆動させる。
次にモールド17と基板15の位置合わせを行う(ステップS5)。
この位置合わせは、モールド17が基板15上の樹脂16へモールド駆動機構6により押し付けられた状態で行われる。
【0035】
即ち、アライメント計測装置18で、モールド17に形成されたアライメントマークと基板15に形成されたアライメントマークの重なりを検出する。両マークの重なりを検出することで、基板15に対するモールド17の並進(X・Y)方向、θ方向、倍率等の形状のずれ量を求めることができる。求めたずれ量に基づき、基板保持装置11、およびモールド形状補正機構8により、ずれがなくなるように補正を行う。
【0036】
次に、アライメント計測装置18で、モールド17に形成されたアライメントマークと基板15に形成されたアライメントマークの重なりの観察(測定)を行い、ずれ量が閾値以下になったかどうかを判定する(ステップS6)。ずれ量が閾値以下になっていなければ、閾値以下となるまでステップS5、S6のアライメント調整動作を繰り返し、モールド17と基板15のずれ量を閾値以下に位置合わせする(クローズ位置合わせ)。
【0037】
モールド17と基板15のずれ量が閾値以下となり、樹脂16がパターンの凹凸に充填する時間が経過した後、基板15上の各ショット領域にパターン転写を行う(ステップS7)。即ち、モールド17のパターンと樹脂16とを接触させた状態で、光源4からの紫外線3を照射することにより樹脂16を硬化させることで転写を行う。
その後、硬化した樹脂16とモールド17とをモールド駆動機構6により引き離すことで、基板15上にパターンへの転写が完了する。このようなパターンの転写を基板15上の全てのショット領域に対して行う(ステップS8)。
【0038】
基板15上の全てのショット領域に対し、パターンの転写が終わると、制御装置20は、基板搬送機構により、基板15を基板保持装置11から回収する(ステップS9)。そして、制御装置20は、ステップS10にて、処理中のロットにおいて新たに処理すべき基板15がないと判定した場合には、モールド搬送機構により、モールド17をモールド保持装置5から回収し(ステップS11)、動作シーケンスを終了する。
【0039】
ここで、モールドチャック7が汚れた場合を考える。モールドチャック7が汚れる要因としては、モールド17に付着した異物がモールドチャック7に転写されてしまうケースや、装置空間内に残っている汚染物質が付着してしまうケースなどが考えられる。
【0040】
モールドチャックが7汚れると、モールドチャック7とモールド17の間の摩擦力が大きくなり、モールド17がモールドチャック7に対し滑りづらくなることがある。この状態で、モールド形状補正機構8で、モールド17を変形させてようとしても、汚れによってモールド17が滑りづらくなり、モールドが変形しにくくなるため目標通り変形しない場合が生じる。
【0041】
この時、モールド形状補正機構8は、汚れにより大きくなった摩擦分(負荷分)の仕事をしなければならず、モールド変形に使用できる補正量が小さくなる。結果として、モールド17と基板15のアライメント精度が劣化する。また、モールド17がモールドチャック7に対し滑りづらくなれば、モールド形状補正機構8によるモールド変形が目標通りとならず、
図3のステップS5~ステップS6を複数回繰り返し実施することになる。
【0042】
その結果、モールドのアライメント調整(形状補正)時間が増大し、生産性が悪化することとなる。以上は、モールドチャック7が汚れた場合を例に記述したが、モールド17が汚れていた場合も同様である。
よって、モールド17、およびモールドチャック7の汚れを簡便に検出する方法が望まれる。
【0043】
以下に、本発明の実施例における、モールドチャックの汚れ検出方法について説明する。
図4は、本実施例のモールドチャックの汚れを判定する動作シーケンスを示すフローチャートである。なお、本シーケンスは、モールド保持機構に、モールド17が保持された状態で実施する。また、本実施例ではモールド形状補正機構による変形は複数の倍率変形パターンを用いて実施するものとする。
【0044】
まず、制御装置20がモールド目標倍率を所定の倍率へ設定し、モールド形状補正機構8でモールド17の形状(モールドの倍率)を変形させる(ステップS101)。この時、モールド形状補正機構でのモールド変形は、モールド倍率とショット倍率との差を判定し、閾値以下となるまで繰り返すのではなく、目標倍率に応じた補正力で、モールド形状補正機構8を駆動させるオープン制御を行うものとする。即ち、
図3のステップS5~S6の繰り返し動作は実施せず、ステップS5を一回のみ実施する。
【0045】
次に、モールド17の形状(モールド17の倍率)をモールド形状計測機構24にて測定する(ステップS102)。モールド形状計測機構24は、
図2に示すように、X方向、およびY方向に複数配置されているため、モールド17のX方向およびY方向の大きさを精度良く測定可能である。
【0046】
次に、制御装置20が所定の複数の倍率変形パターン全てを実施したかを判定する(ステップS103)。所定の複数の倍率変形パターンをすべて実施していなかった場合は、ステップS101へ戻り、別の倍率変形パターンによるモールド変形およびモールド変形測定を行う。所定の倍率変形パターンとしては、本実施例では、
図5に示すような10の倍率変形パターンを有する。
【0047】
図5はモールドチャックの汚れを検出時のモールド倍率設定パターンの例を示す図である。パターンNo1~No5ではパターンNo順にモールド変形目標倍率が大きくなっていく。パターンNo6~No10ではパターンNo順にモールド変形目標倍率が小さくなっていく。
【0048】
なお所定の倍率変形パターンは本パターンに限定されるものではなく、ステップS101でのモールド目標倍率とステップS102での実際の測定結果との関係が分かればよいだけである。例えばパターンNo1~No5でモールド目標倍率が小さくなり、No6~No10でモールド目標倍率が大きくなる様なパターンを使用してもよい。
なお、パターン数は10に限定されず、パターン数は例えば1であっても良い。しかしパターン数が多いほど信頼性の高い、汚れ等の異常の検出が可能となる。
【0049】
ステップS103で所定パターン数の全てのモールド倍率変形パターンによる変形および計測を実施したか否かを判定する。Noの場合はステップS101に戻る。Yesの場合は、制御装置20はステップS101で設定したモールド変形目標倍率と、ステップS102で測定した実際のモールド変形倍率との関係よりモールドチャック7が汚れているかどうかを判定する(ステップS104)。
【0050】
即ち、ステップS104は、モールド形状補正機構で指示したモールド変形目標値に対する、モールド形状測定機構で測定したモールド変形特性(変化量)に基づき、保持部のモールド保持面またはモールドの汚れの有無を判定する判定部として機能している。ここで変形目標値とは、変形量の目標値を意味するが、変形後の目標形状等であっても良い。
なお、モールド形状補正機構で指示したモールド変形目標値に対する、モールドの所定量の変形に要する時間(変形速度)をモールド変形特性としてモールド形状測定機構で測定しても良い。
【0051】
そして、モールドの変形速度が所定値より低下した場合に汚れがあると判別するようにしても良い。
また、上述のように、本実施例では、この判定部により汚れの有無の判定をする際に、前記モールド形状補正機構によりモールドの倍率変更を行う点に特徴を有する。
【0052】
図6および
図7はモールド目標倍率と実際に計測されたモールド倍率との関係(モールド変形特性)を表した図であり、横軸がモールド目標倍率を、縦軸が実際のモールド倍率を表している。なお、
図6はモールドチャック等が汚れていない場合のモールド変形倍率目標値と実際のモールド倍率の関係を表した図であり、
図7はモールドチャック等が汚れている場合のモールド変形倍率目標値と実際のモールド倍率の関係を表した図である。
【0053】
モールドチャック7が汚れていない場合は、モールド17はモールドチャック7に対し滑りやすく、モールド形状補正機構8により、モールド17を変形させると、目標倍率通りにモールド17は変形する。目標倍率≒実際の変形倍率であるため、
図6のグラフの直線の傾き(=実際の変形倍率/目標倍率)は概ね1となる。しかも倍率変化の往復で
図6のようにカーブ(モールド変形特性)はほぼ一致する。
【0054】
一方、モールドチャック7またはモールド17が汚れ、モールドチャック7に対し、モールド17が滑りづらくなっていた場合、モールド形状補正機構8により、モールド17を変形させても目標倍率通りとならない(目標倍率>実際の変形倍率)。
そのため、グラフの直線の傾き(=実際の変形倍率/目標倍率)は
図7に示すように1より小さくなる。
【0055】
また、モールド17の目標倍率が大きくなる動作(パターンNo1~No5)と小さくなる動作(パターンNo6~No10)とではモールド17がモールドチャック7に対し滑る方向、すなわち摩擦の向きが変わるため、モールドチャック7またはモールド17の汚れによる摩擦力も変わる可能性がある。
【0056】
すなわち、
図7の様に、モールド倍率を大きくする向き(パターンNo1~No5)のグラフの傾き(
図7の実線)と小さくする向き(パターンNo6~No10)の傾き(
図7の破線)が異なる場合がある。
なお、モールドチャック7等が汚れているかどうかの判定は、例えば以下の式(1)で判定することができる。
実際の変形倍率/目標倍率<Th1 ・・・(1)
【0057】
ここで、Th1はモールドチャック7等の汚れを判定するための閾値である。モールドチャック7等が汚れていない状態では(1)式の左辺は設計上では例えば1となるものとする。一方モールドチャック7等が汚れた場合は、負荷が大きくなるため(1)式の左辺は1またはTh1よりも小さくなる。
【0058】
また、別の方法として、モールドチャック7等が汚れているかどうかの判定を、例えば以下の式(2)で判定することもできる。
|K1-K2|< Th2 ・・・(2)
ただし
K1=パターンNo1~No5 での(実際の変形倍率/目標倍率)・・・(3)
K2=パターンNo6~No10での(実際の変形倍率/目標倍率)・・・(4)
【0059】
モールドチャック7等が汚れていた場合、モールド17の目標倍率が大きくなる動作(パターンNo1~No5、
図7の実線)と小さくなる動作(パターンNo6~No10、
図7の破線)とで、
図7の様に傾きが異なる可能性が高い。ここではこのようなヒステリシスを生じる現象を、モールドチャック7等の汚れの判定に利用している。
【0060】
このように、本実施例では、汚れの有無の判定をする際に、モールド形状補正機構で1つまたは複数パターンのモールド形状の変形を行う。そして、モールド形状測定機構で複数パターンのモールド形状の測定を行い、モールド形状測定機構で測定したモールド変形特性に基づき、汚れの有無を判定するので精度良く汚れの有無の判定ができる。
なお、前記モールド変形特性は、モールド変形目標値に対する、モールド形状測定機構で測定したモールド変形量またはモールド変形速度等を含む。
【0061】
モールドチャック7等が汚れていると判定された場合は、モールドチャック7とモールド17の接触部等のクリーニングを行う工程を実施する。モールドチャック7等のクリーニングは、例えば、特開2012-186390に示されるように、モールドチャック7等に対しクリーニング部材を接触させることにより実現可能である。
このような方法を使えば、モールドチャック7等の汚れの検出後、速やかにそのことを操作画面上などで表示することによって通知し、モールドチャック7等のクリーニングを手動または自動で速やかに行うことが可能となり、装置の稼働率の向上につながる。
【0062】
本実施例では、モールド17の変形量を、モールド形状計測機構24で計測したが、アライメント計測装置18でモールド17の変形量を計測してもよい。例えば、
図3のステップS2でのアライメント計測装置18の位置調整工程において、例えば所定時間以上位置調整に時間がかかる場合に、
図4のモールドチャック7等の汚れ判定シーケンスを実施してもよい。
【0063】
また、
図3のステップS5およびステップS6の、アライメント計測装置18での、アライメント位置合わせの工程において、例えば所定時間以上位置合わせに時間がかかる場合に
図4のモールドチャック7等の汚れ判定シーケンスを実施しても良い。また、モールド形状計測機構24でのモールド形状計測の代わりに観察装置9を使用してモールド形状を計測してもよい。あるいは所定数のロット処理ごとに
図4のモールドチャック7等の汚れ判定シーケンスを実施してもよい。
【0064】
次に、前述のインプリント装置を利用した物品(半導体IC素子、液晶表示素子、MEMS等)の製造方法を説明する。本実施例における物品を製造する方法は、インプリント装置の保持部に保持されたモールドの形状を変形させるモールド形状補正工程と、前記モールドの形状を測定するモールド形状測定工程を有する。
【0065】
更に、前記モールド形状補正工程で指示したモールド変形目標値に対し、前記モールド形状測定工程で測定したモールド変形量に基づき、前記保持部のモールド保持面または前記モールドの汚れの有無を判定する判定工程と、を有する。
また、前記判定工程によって判定された前記汚れを除去する除去工程と、前記除去工程で前記汚れを除去した後で、前記モールドを用いて基板にパターンを形成するパターン形成工程を有する。
【0066】
なお、パターン形成工程は、前述のインプリント装置を使用して、インプリント材が塗布された基板を押印する工程と離型する工程を有する。
更に、物品は、後処理の工程(押印された基板から物品を製造する工程)を実行することにより製造される。前記後処理の工程には、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング、現像等が含まれる。
本発明を用いた物品製造方法によれば、モールドとショット領域の重ね合わせ精度の劣化や、倍率補正機構での補正時間の増大による生産性の悪化を簡便に防ぐことができるので、歩留まりが向上し従来よりも高品位の物品を製造することができる。
【0067】
以上、本発明をその好適な実施例に基づいて詳述してきたが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に基づき種々の変形が可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
なお、本実施例における制御の一部または全部を上述した実施例の機能を実現するコンピュータプログラムをネットワーク又は各種記憶媒体を介してインプリント装置に供給するようにしてもよい。そしてそのインプリント装置におけるコンピュータ(又はCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行するようにしてもよい。その場合、そのプログラム、及び該プログラムを記憶した記憶媒体は本発明を構成することとなる。
【符号の説明】
【0068】
1 インプリント装置
2 照明装置
3 紫外線
4 光源
5 モールド保持装置
6 モールド駆動機構
7 モールドチャック
8 モールド形状補正機構
9 観察装置
10 樹脂計測光
11 基板保持装置
12 基板チャック
13 基板ステージ
14 樹脂塗布装置
15 基板
16 樹脂
17 モールド
18 アライメント計測装置
19 計測光照明部
20 制御装置
21 ベース定盤
22 支柱
23 支持定盤
24 モールド形状計測機構