(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/931 20200101AFI20231212BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20231212BHJP
G01S 13/52 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01S13/931
G01S13/34
G01S13/52
(21)【出願番号】P 2020175366
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】赤峰 悠介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 卓也
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-189383(JP,A)
【文献】特開2020-148745(JP,A)
【文献】特開2019-168449(JP,A)
【文献】特開平10-020025(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0191939(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(60)に搭載されたレーダ装置(10)であって、
設定された繰り返し周期でパルス信号又はチャープ信号である送信信号を送信するように構成された送信部(11)と、
前記送信部により送信された前記送信信号が少なくとも一つの物体により反射されて生じた反射信号を受信するように構成された受信部(12)と、
次回の処理サイクルにおける前記繰り返し周期として、直前の処理サイクルにおける前記繰り返し周期と異なる前記繰り返し周期を設定するように構成された設定部(20,S10,S610,S615)と、
前記受信部により受信された前記反射信号から少なくとも一つの物標に対応する少なくとも一つの物標信号を検出するように構成された検出部(20,S30,S630,S635)と、
前記検出部により検出された前記少なくとも一つの物標信号から、前記少なくとも一つの物標の速度折り返しを考慮した速度観測値を要素に含む物標観測値を算出するように構成された観測部(20,S40,S640,S645)と、
予測部(20,S60,S660,S665)と推定部(20,S70,S670,S675)とを備えて、前記観測部により算出された前記物標観測値の時系列から前記少なくとも一つの物標の各々を追尾するように構成された物標追尾部(20,S60,S70,S660,S670,S665,S675)であって、前記予測部は、前記少なくとも一つの物標の各々の過去の状態に対応する物標推定値から、前記少なくとも一つの物標の各々の現在の状態に対応する物標予測値を算出するように構成され、前記推定部は、前前記物標予測値を前記物標観測値と関連付け、互いに関連付けられた前記物標予測値と前記物標観測値とに基づいて、前記少なくとも一つの物標の各々の現在の状態に対応する前記物標推定値を算出するように構成され、前記物標予測値は速度予測値を要素に含む、物標追尾部と、
前記少なくとも一つの物標の各々について、前記速度予測値と前記速度観測値との差である速度残差を算出するように構成された残差算出部(20,S110)と、
前記少なくとも一つの物標の各々について、時系列における前記速度残差のばらつきの大きさに基づいて、前記少なくとも一つの物標の折り返しゴーストらしさを表す評価値を算出するように構成された評価部(20,S120)と、
前記少なくとも一つの物標の各々について、前記評価値に基づいて、当該物標が折り返しゴーストか否かを判定するように構成されたゴースト判定部(20,S130,S140,S160)と、を備える、
レーダ装置。
【請求項2】
前記評価部(S120,S500,S510)は、前記評価値として、時系列における前記速度残差の分散を算出するように構成されている、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記評価部(S120,S300,S305,S310,S320,S330)は、前記速度残差のばらつきの大きさとして、今回の処理サイクルにおける前記速度残差と前回の処理サイクルにおける前記速度残差との差の絶対値である残差変化量を算出し、算出した前記残差変化量に応じて、前記評価値を増加又は減少させるように構成されている、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記評価部(S305,S310)は、前記残差変化量が第1閾値以上の場合に、前記評価値を増加させるように構成されている、
請求項3に記載のレーダ装置。
【請求項5】
前記評価部(S320,S330)は、前記残差変化量が第2閾値以下の場合に、前記評価値を減少させるように構成されており、前記第2閾値は前記第1閾値よりも小さい、
請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記ゴースト判定部(S130,S140)は、前記評価値が第3閾値以上の場合に、当該物標を折り返しゴーストと判定するように構成されている、
請求項1~5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記ゴースト判定部(S160,S170)は、前記評価値が第4閾値以下の場合に、当該物標を非ゴーストと判定するように構成されており、前記第4閾値は前記第3閾値よりも小さい、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記物標観測値は観測方位を含み、
前記観測部は、前記少なくとも一つの物標信号から検知速度を算出し、算出した前記検知速度と選択した折り返し回数とから前記速度観測値を算出するように構成されており、
前記車両の速度と前記観測方位とから、当該物標が静止物であると仮定した場合における前記物標の静止物速度を算出するように構成された静止物速度算出部(20,S340,S520)を更に備え、
前記評価部(S350,S360,S530,S540)は、前記検知速度が前記静止物速度と一致する場合に、前記評価値を増加させるように構成されている、
請求項1~7のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記物標観測値は観測方位を含み、
前記車両の速度と前記観測方位とから、当該物標の対地速度を算出するように構成された対地速度算出部(20,S80)を更に備え、
前記評価部(S90)は、前記対地速度が速度閾値以上である場合に、当該物標を折り返しゴーストか否か判定する対象とするように構成されている、
請求項1~8のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記少なくとも一つの物標は、第1の物標と、前記第1の物標と異なる第2の物標とを含み、
前記少なくとも一つの物体は、前記第1の物標と対応する第1の物体と、前記第2の物標と対応する第2の物体とを含み、
前記第1の物標及び前記第2の物標の各々の位置観測値、位置予測値、及び位置推定値の少なくとも一つと、前記第1の物標及び前記第2の物標の前記速度観測値、前記速度予測値、及び速度推定値の少なくとも一つとに基づいて、前記第2の物体が前記第1の物体と同一か否か判定するように構成された同一物体判定部であって、前記位置観測値は前記物標観測値に含まれ、前記位置予測値は、前記物標予測値に含まれ、前記位置推定値及び前記速度推定値は、前記物標推定値に含まれる、同一物体判定部(S800,S860,S870,S880)と、
前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定された場合に、前記ゴースト判定部により前記第2の物標が折り返しゴーストと判定されることを抑制するように構成された判定抑制部(S900,S940,S980)と、を備える、
請求項1~9のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記少なくとも一つの物標は、第1の物標と、前記第1の物標と異なる第2の物標とを含み、
前記少なくとも一つの物体は、前記第1の物標と対応する第1の物体と、前記第2の物標と対応する第2の物体とを含み、
前記第1の物標及び前記第2の物標の各々の位置観測値、位置予測値、及び位置推定値の少なくとも一つと、前記第1の物標及び前記第2の物標の前記速度観測値、前記速度予測値、及び速度推定値の少なくとも一つとに基づいて、前記第2の物体が前記第1の物体と同一か否か判定するように構成された同一物体判定部であって、前記位置観測値は前記物標観測値に含まれ、前記位置予測値は、前記物標予測値に含まれ、前記位置推定値及び前記速度推定値は、前記物標推定値に含まれる、同一物体判定部(S800,S860,S870,S880)と、
前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定され、且つ、前記ゴースト判定部により前記第2の物標が折り返しゴーストと判定された場合に、前記物標追尾部により前記第2の物標が追尾されることを抑制するように構成された追尾抑制部(S905,S945,S985)と、を備える、
請求項1~9のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記判定抑制部(S940)は、前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定された場合に、前記第2の物標の前記評価値を低減させるように構成されている、
請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記判定抑制部(S980)は、前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定された場合に、前記第2の物標を非折り返しゴーストと判定するように構成されている、
請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記推定部は、前記物標予測値と前記物標観測値との差分が設定された関連付け範囲以内の場合に、前記物標予測値と前記物標観測値とを関連付けるように構成されており、
前記追尾抑制部(S945)は、前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定され、且つ、前記ゴースト判定部により前記第2の物標が折り返しゴーストと判定された場合に、前記関連付け範囲を狭めるように構成されている、
請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記関連付け範囲は、前記速度予測値を前記速度観測値に関連付けるための速度範囲を含み、
前記追尾抑制部(S945)は、前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定され、且つ、前記ゴースト判定部により前記第2の物標が折り返しゴーストと判定された場合に、前記速度範囲を狭めるように構成されている、
請求項14に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記追尾抑制部(S985)は、前記ゴースト判定部により前記第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、前記同一物体判定部により前記第2の物体が前記第1の物体と同一と判定され、且つ、前記ゴースト判定部により前記第2の物標が折り返しゴーストと判定された場合に、前記第2の物標を削除するように構成されている、
請求項11に記載のレーダ装置。
【請求項17】
前記車両の走行を支援する走行支援装置(50)へ、前記物標に応じた制御指令を出力するように構成された車両制御部(20,S150)を更に備え、
前記車両制御部は、前記ゴースト判定部により前記物標が折り返しゴーストであると判定された場合に、前記物標に応じた制御指令の出力を抑制するように構成されている、
請求項1~16のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置を用いて物体を追尾する場合に、観測される物体の相対速度が曖昧さを持つことがある。例えば、同一物体について連続的に検出される周波数成分の位相回転から相対速度を算出する場合、検出された位相φに対して、実際の位相はφ+2π×m(mは整数)である可能性があり、相対速度を特定することができない。
【0003】
特許文献1では、相対速度の曖昧さを仮定した複数の仮説を追尾することにより、真の相対速度を特定している。複数の仮説は、互いに異なる折り返し回数mを仮定している。具体的には、複数の仮説の各々の尤度を算出し、尤度の高い仮説を選択している。そして、選択した仮説の相対速度を真の相対速度として特定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
観測結果の時系列を用いて複数の仮説を追尾する場合に、互いに異なる複数の物体を同一の物体として誤った追尾をすると、誤った仮説が選択され得る。誤った仮説が選択されると、折り返しゴーストが発生し得る。例えば、連続して並ぶ複数の路側物が同一の物体として誤って追尾されることにより、折り返しゴーストが発生し、実際には静止物である物体を移動物であると誤認識することがある。静止物を移動物と誤認識することにより、ドライバへ不要な警報及び/又は不要な車両の制御が発生する可能性がある。
【0006】
本開示の1つの局面は、折り返しゴーストを判定可能なレーダ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の1つの局面は、車両(60)に搭載されたレーダ装置(10)であって、送信部(11)と、受信部(12)と、設定部(20,S10,S610,S615)と、検出部(20,S30,S630,S635)と、観測部(20,S40,S640,S645)と、物標追尾部(20,S60,S70,S660,S670,S665,S675)と、残差算出部(20,S110)と、評価部(20,S120)と、ゴースト判定部(20,S130,S140,S160)と、を備える。送信部は、設定された繰り返し周期でパルス信号又はチャープ信号である送信信号を送信するように構成される。受信部は、送信部により送信された送信信号が少なくとも一つの物体により反射されて生じた反射信号を受信するように構成される。設定部は、次回の処理サイクルにおける繰り返し周期として、直前の処理サイクルにおける繰り返し周期と異なる繰り返し周期を設定するように構成される。検出部は、受信部により受信された反射信号から少なくとも一つの物標に対応する少なくとも一つの物標信号を検出するように構成される。観測部は、検出部により検出された少なくとも一つの物標信号から、少なくとも一つの物標の速度折り返しを考慮した速度観測値を要素に含む物標観測値を算出するように構成される。物標追尾部は、予測部(20,S60,S660,S665)と推定部(20,S70,S670,S675)とを備えて、観測部により算出された物標観測値の時系列から少なくとも一つの物標の各々を追尾するように構成される。予測部は、少なくとも一つの物標の各々の過去の状態に対応する物標推定値から、少なくとも一つの物標の各々の現在の状態に対応する物標予測値を算出するように構成される。推定部は、前物標予測値を物標観測値と関連付け、互いに関連付けられた物標予測値と物標観測値とに基づいて、少なくとも一つの物標の各々の現在の状態に対応する物標推定値を算出するように構成される。物標予測値は速度予測値を要素に含む。残差算出部は、少なくとも一つの物標の各々について、速度予測値と速度観測値との差である速度残差を算出するように構成される。評価部は、少なくとも一つの物標の各々について、時系列における速度残差のばらつきの大きさに基づいて、少なくとも一つの物標の折り返しゴーストらしさを表す評価値を算出するように構成される。ゴースト判定部は、少なくとも一つの物標の各々について、評価値に基づいて、当該物標が折り返しゴーストか否かを判定するように構成される。
【0008】
本開示の1つの局面のレーダ装置によれば、少なくとも一つの物標の各々について、速度予測値と速度観測値との差である速度残差が算出される。少なくとも一つの物標の各々が折り返しゴーストである場合、時系列における速度残差のばらつきが大きくなる。よって、時系列における速度残差のばらつきの大きさに基づいて、少なくとも一つの物標の各々の折り返しゴーストらしさを表す評価値が算出される。したがって、算出した評価値に基づいて、少なくとも一つの物標の各々が折り返しゴーストか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る運転支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係るレーダ装置の搭載位置と検知領域の一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態に係るレーダ装置の搭載位置と検知領域の別例を示す図である。
【
図4】第1実施形態に係る2種類のチャープ周期を有する送信信号を示す図である。
【
図5】第1実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係るゴースト判定処理を示すサブルーチンである。
【
図7】第1実施形態に係るゴースト評価値算出処理を示すサブルーチンである。
【
図10】速度真値が-100km/h且つ最大検知速度が80km/hの場合における検知速度を示す図である。
【
図11】速度真値が-100km/h且つ最大検知速度が70km/hの場合における検知速度を示す図である。
【
図12】第1照明及び第2照明が設置されたトンネルを車両が走行する様子を示す図である。
【
図13】第1照明の観測値と、その観測値から生成された3つの仮説とを示す図である。
【
図14】第2照明の観測値と、第1照明の観測値の仮説から予測される位置とを示す図である。
【
図15】第2実施形態に係るゴースト評価値算出処理を示すサブルーチンである。
【
図16】第3実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
【
図17】第3実施形態に係る同一物体判定処理を示すサブルーチンである。
【
図18】第3実施形態に係るゴースト誤判定抑制処理を示すサブルーチンである。
【
図19】第3実施形態の別例に係るゴースト誤判定抑制処理を示すサブルーチンである。
【
図20】先行車両の後端から生じた後端信号と、先行車両のタイヤから生じたタイヤ信号を示す図である。
【
図21】
図20と異なる時刻における後端信号とタイヤ信号を示す図である。
【
図22】第1の物標が誤接続により消失し、ゴーストと誤判定された第2の物標が継続して認識される様子を示す図である。
【
図23】第4実施形態に係る物標検出処理を示すフローチャートである。
【
図24】第4実施形態に係る追尾抑制処理を示すサブルーチンである。
【
図25】第4実施形態の別例に係る追尾抑制処理を示すサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
(第1実施形態)
<1-1.構成>
まず、本実施形態に係る運転支援システム100の構成について、
図1を参照して説明する。運転支援システム100は、レーダ装置10と、運転支援装置50と、を備え、車両60に搭載される。
【0011】
図2に示すように、レーダ装置10は、車両60の前方中央(例えば、前方バンパの中央)に搭載され、車両60の前方中央の領域を検知領域Rdとする。あるいは、
図3に示すように、レーダ装置10は、車両60の前方中央、車両60の左前側方及び右前側方(例えば、前方バンパの左端及び右端)、並びに、車両60の左後側方及び右後側方(例えば、後方バンパの左端及び右端)のそれぞれに搭載され、車両60の前方中央、左前方、右前方、左後方、及び右後方の領域のそれぞれを検知領域Rdとしてもよい。これら5台のレーダ装置10は、すべてが車両60に搭載されている必要はない。5台のレーダ装置10のうちの1台だけ搭載されていてもよいし、2台以上が搭載されていてもよい。
【0012】
レーダ装置10は、チャープ信号を送受信するFCM(Fast Chirp Modulation)方式のミリ波レーダである。レーダ装置10、CPU、ROM、RAM、及びコアプロセッサを含む処理装置20と、送信アンテナ11と、受信アンテナ12と、を備える。コアプロセッサは、高速フーリエ変換(すなわち、FFT)処理等を実行する。処理装置20は、ソフトウェア及び/又はハードウェアにより、本開示の設定部と、検出部と、観測部と、予測部と、推定部と、残差算出部と、評価部と、判定部と、静止物速度算出部と、対地速度算出部と、車両制御部の機能を実現する。
【0013】
送信アンテナ11は、複数のアンテナ素子によって構成された送信アレーアンテナを含み、処理装置20により設定された繰り返し周期でチャープ信号を繰り返し送信する。
図4に示すように、チャープ信号は、周波数がノコギリ波状に変化するように周波数変調されたレーダ信号である。すなわち、チャープ信号は、周波数が連続的に増加又は減少するレーダ信号である。
図4には、周波数が連続的に増加するチャープ信号を示しているが、周波数が連続的に減少するチャープ信号でもよい。1つのチャープ信号の送信開始から次のチャープ信号の送信開始までの期間がチャープ信号の繰り返し周期(以下、チャープ周期と称する)である。
【0014】
送信アンテナ11は、第1チャープ周期T1のチャープ信号(以下、第1チャープ信号と称する)と、第2チャープ周期T2のチャープ信号(以下、第2チャープ信号と称する)とを交互に送信する。第1チャープ周期T1は長さTの期間である。第2チャープ周期T2は、第1チャープ周期T1よりも長く、長さT+ΔTの期間である。送信アンテナ11は、第1の処理サイクルで、第1チャープ信号をM個送信し、第2の処理サイクルで、第2チャープ信号をN個送信し、第1の処理サイクルと第2の処理サイクルを交互に繰り返す。M,Nは自然数である。
【0015】
受信アンテナ12は、複数のアンテナ素子によって構成された受信アレーアンテナを含み、第1チャープ信号又は第2チャープ信号が物標で反射されて生じた反射信号を受信する。
【0016】
処理装置20は、受信アンテナ12により受信された反射信号から物標を示す物標信号を検出し、検出した物標信号か物標の速度観測値、距離観測値、方位観測値を検出する。処理装置20は、検出した物標を追尾して物標情報を確定し、確定した物標情報に基づいて物標に応じた制御指令を生成する。そして、処理装置20は、生成した制御指令を運転支援装置50へ出力する。
【0017】
運転支援装置50は、処理装置20から出力された制御指令に基づいて、車両60の走行を支援する。例えば、運転支援装置50は、ドライバに衝突の可能性を報知するため、警報を出力したり、衝突を回避するため、ブレーキ動作を実行したりする。
【0018】
<1-2.処理>
次に、第1実施形態に係るレーダ装置10が実行する物標検出処理について、
図5のフローチャートを参照して説明する。レーダ装置10は、所定の処理周期で、本処理を繰り返し実行する。
【0019】
まず、S10では、チャープ周期として第1チャープ周期T1又は第2チャープ周期T2を設定する。前回の処理サイクルにおいて、チャープ周期として第1チャープ周期T1を設定した場合は、今回の処理サイクルにおいて、チャープ周期として第2チャープ周期T2を設定する。前回の処理サイクルにおいて、チャープ周期として第2チャープ周期T2を設定した場合は、今回の処理サイクルおいて、チャープ周期として第1チャープ周期T1を設定する。
【0020】
次に、S20では、S10において第1チャープ周期T1を設定した場合は、第1チャープ信号を送信して、反射信号を受信する。また、S10において第2チャープ周期T2を設定した場合は、第2チャープ信号を送信して、反射信号を受信する。
【0021】
続いて、S30では、S20において受信した反射信号から少なくとも一つの物標信号を検出する。具体的には、
図8に示すように、送信信号と反射信号とからビート信号を取得する。第1チャープ信号を送信した場合、M個のビート信号が取得される。また、第2チャープ信号を送信した場合、N個のビート信号が取得される。
【0022】
そして、1回目のFFT処理として、取得したM個又はN個のビート信号のそれぞれに対してFFT処理を実行して、M個又はN個の距離スペクトラムを算出する。距離スペクトラムは、距離に対するパワーを表す2次元のスペクトラムに相当する。ビート信号は物体までの距離に応じた周波数成分を持つため、算出された距離スペクトラムの周波数BINは距離BINに相当する。
【0023】
さらに、2回目の処理として、算出したM個又はN個の距離スペクトラムの各距離BINに対してFFT処理を実行して、距離速度スペクトラムを算出する。距離速度スペクトラムは、距離及び速度に対するパワーを表す3次元のスペクトラムに相当する。そして、算出した距離速度スペクトラムからピークとなる速度BIN及び距離BINをサーチして、ピークを物標の存在を示す物標信号として抽出する。複数のピークが存在する場合は、複数の物標信号を抽出する。
【0024】
続いて、S40では、S30において抽出された物標信号の速度BIN及び距離BINから、物標観測値を算出する。物標観測値は、物標の速度観測値と距離観測値と方位観測値とを要素として含む。速度観測値は、車両60に対する物標の相対速度の観測値に相当し、後述するように、速度BINから検出した検知速度Voと、選択した折り返し回数m1又はm2と、最大検知速度Vmaxとから算出される。距離観測値は、車両60から物標までの距離の観測値に相当する。物標の方位観測値は、車両60に対する物標の方位情報を含む方位スペクトラムから算出される。方位スペクトラムは、物標信号に到来方向推定アルゴリズムを適用して算出される。
【0025】
ここで、第1チャープ信号の最大検知速度Vmax1及び第2チャープ信号の最大検知速度Vmax2は、次の式(1),(2)で示される。最大検知速度Vmax1は、第1チャープ信号を送信した場合に、折り返しなく検知できる速度観測値の大きさの最大値である。最大検知速度Vmax2は、第2チャープ信号を送信した場合に、折り返しなく検知できる速度観測値の大きさの最大値である。cは光速、fcは第1チャープ信号及び第2チャープ信号の中心周波数である。式(1),(2)で示されるように、第1チャープ周期T1が第2チャープ周期T2よりも短いことにより、最大検知速度Vmax1は、最大検知速度Vmax2よりも大きい。
Vmax1=c/(4×fc×T1) (1)
Vmax2=c/(4×fc×T2) (2)
【0026】
図9に示すように、速度観測値が最大検知速度Vmax1又は最大検知速度Vmax2を超えた場合、速度の折り返しが生じる。速度観測値と、最大検知速度と、速度真値の間には、式(3),(4)の関係が成り立つ。Vo1は第1チャープ信号を送信したときの検知速度、Vo2は第2チャープ信号を送信したときの検知速度、Vは速度真値、m1,m2は折り返し回数で整数である。
【0027】
Vo1=V-2Vmax1×m1 (3)
Vo2=V-2Vmax2×m2 (4)
例えば、
図10に示すように、最大検知速度Vmax1が80km/h、物標Tg0の速度真値が-100km/hである場合、-1回の折り返しが発生して、物標Tg0の検知速度Voとして、+60km/hが検出される。また、
図11に示すように、最大検知速度Vmax2が70km/h、物標Tg0の速度真値が-100km/hである場合、-1回の折り返しが発生して、物標Tg0の検知速度Voとして、+40km/hが検出される。
【0028】
続いて、S50では、未処理の物標情報が存在するか否か判定する。具体的には、現在の処理サイクルにおいて存在する追尾中の物標のうち、以降のS60~S170の処理が未実行の物標が存在するか否か判定する。S50において、未処理の物標が存在すると判定された場合は、未処理の物標のうちの1つの物標を選択してS60の処理へ進み、選択した物標について、S60~S170の処理を実行する。一方、未処理の物標が存在しないと判定された場合は、今回の処理サイクルを終了する。
【0029】
S60では、過去の処理サイクルにおける物標の情報から物標予測値を算出する。物標予測値は、過去の処理サイクルにおいて算出された物標推定値から算出される。物標予測値は、速度予測値、距離予測値及び方位予測値物、あるいは、速度予測値、X座標予測値及びY座標予測値を要素として含む。物標推定値は、速度推定値、距離推定値及び方位推定値、あるいは、速度推定値、X座標推定値及びY座標推定値を要素として含む。X軸及びY軸は、路面上の互に直交する軸である。
【0030】
続いて、S70では、今回の処理サイクルにおける物標推定値を算出する。まず、S60において算出した物標予測値を、S40において算出した物標観測値のうち同じ物標である可能性が高い物標観測値と関連付ける。具体的には、物標予測値の各要素と今回の処理サイクルの物標観測値の各要素との差分が、関連付け範囲以内である場合に、物標予測値を物標観測値に関連付ける。関連付け範囲は、物標予測値及び物標観測値の要素ごとに設定されている。そして、物標予測値とその物標予測値に関連付けられた物標観測値とにフィルタ処理を実行して、今回の処理サイクルにおける物標推定値を算出する。フィルタ処理は、例えば、カルマンフィルタ等のフィルタを用いる。
【0031】
続いて、S80では、物標の対地速度を算出する。具体的には、S40において算出された物標の速度観測値及び方位観測値と、車両60の車速とを用いて、物標の対地速度を算出する。
【0032】
続いて、S90では、S80において算出した対地速度が速度閾値以上か否か判定する。速度閾値は、物標がゴースト判定を実行する対象か否か判定するための閾値である。ゴースト判定では、物標が折返しゴーストか実体か判定する。折り返しゴーストは、互いに異なる物標を、誤って同一の物標として追尾する場合に生じる。すなわち、互いに異なる物標の予測値と観測値とを関連付けることにより、折り返しゴーストが生じる。
【0033】
上述したように、検知速度Voは折り返しが生じる可能性がある。そこで、物標が初めて検出された場合、速度の折り返しを考慮して、複数の速度観測値の仮説を生成する。例えば、式(3),(4)において、折り返し回数を-2,-1,0とした3つの仮説を生成する。そして生成した仮説の各々を追尾し、尤も確からしい仮説すなわち折り返し回数を選択する。このように、仮説の各々を追尾する中で、仮説の1つが他の物標の観測値と近い値になることが起こり得る。その結果、仮説の1つが他の物標の観測値と関連付けられて、折り返しゴーストが発生し得る。
【0034】
このような折り返しゴーストの発生により、実際には静止物である物標を移動物として誤認識することが起こり得る。
図12は、車両60がトンネル内を走行するシーンの例を示す。トンネルの天井には、第1照明Tg1と、第2照明Tg2とが、所定の間隔で設定されている。車両60の速度は100km/h、最大検知速度Vmaxは80km/hとする。
【0035】
まず、最初に第1照明Tg1がレーダ装置10の検知領域Rdに入り、第1照明Tg1が観測される。このとき、
図13に示すように、折り返し回数を0とした第1仮説、折り返し回数を-1とした第2仮説、折り返し回数を-2とした第3仮説を生成する。第1仮説における第1照明Tg1の速度観測値は-100km/hである。また、第2仮説における第1照明Tg1の速度観測値は+60km/hである。また、第3仮説における第1照明Tg1の速度観測値は+220km/hである。この場合、実際には第1仮説が正しい。
【0036】
続いて、第1照明Tg1が検知領域Rdから外れ、第2照明Tg2が検知領域Rdに入り、第2照明Tg2が観測される。
図14に示すように、第1照明Tg1の第1仮説、第2仮説、及び第3仮説から、第1仮説の予測位置、第2仮説の予測位置、第3仮説の予測位置が算出される。そして、第2仮説の予測位置と、第2照明Tg2の観測値とが近い値となることがある。この場合、第2仮説の予測位置が第2照明Tg2の観測値と関連付けられる。そして、第2仮説が尤も確からしいと判定されて、第2仮説が真の物標として選択され、第1仮説と第3仮説とは削除される。すなわち、折り返し回数として-1が選択される。
【0037】
その結果、第1照明Tg1及び第2照明Tg2は、車両60に対して相対速度60km/hで移動する移動物として認識される。すなわち、実際には静止物である物標が移動物として誤認識される。この物標が折り返しゴーストに相当する。このように、折り返しゴーストが発生すると、ドライバに対して不要な警報や不要なブレーキ制御などの誤った車両制御が実行され得る。
【0038】
そこで、S100以降の処理では、物標が折り返しゴーストか否か判定する。ここで、移動物である物標を静止物と誤認識した場合は、誤った車両制御が実行されないので、考慮しなくても問題になる可能性は低い。そこで、静止物である物標を移動物であると誤認識した可能性がある場合に限って、ゴースト判定を実行する。すなわち、物標が移動物又は移動物ゴーストである可能性がある場合に限って、ゴースト判定を実行する。S90における速度閾値は、車両60の速度誤差を加味して、静止物と移動物とを区別可能な値に設定する。例えば、車両60の速度が100km/hで、速度誤差が10%の場合、速度閾値は10km/hに設定する。そして、S90において、対地速度が速度閾値以上であると判定された場合に、S100の処理へ進み、対地速度が速度閾値未満であると判定された場合に、S50の処理へ戻る。
【0039】
S100では、S50において選択した物標について、ゴースト判定が完了済みか否か判定する。S100において、ゴースト判定が完了済みと判定された場合は、S50の処理へ戻り、ゴースト判定が未完了と判定された場合は、S105の処理へ進む。
【0040】
S105では、ゴースト判定処理を実行する。具体的には、
図6に示すサブルーチンを実行する。まず、S110では、速度残差を算出する。速度残差は、S60において算出した速度予測値と、その速度予測値と関連付けられた速度観測値との差分である。
【0041】
続いて、S120では、S110において算出した時系列における速度残差のばらつきの大きさに基づいて、ゴースト評価値を算出する。ゴースト評価値は、物標の折り返しゴーストらしさを表す。
【0042】
図9及び
図10に示すように、速度真値Vに対する検知速度Vo1,Vo2は、最大検知速度Vmax1,Vmax2に応じて変化する。正しい仮説すなわち正しい折り返し回数m1,m2が選択されている場合、最大検知速度Vmax1,Vmax2が異なっていても、同じ物標から検出された検知速度Vo1,Vo2に基づいて算出される速度観測値は略等しい。一方、誤った仮説すなわち誤った折り返し回数m1,m2が選択されている場合、最大検知速度Vmax1,Vmax2が異なると、同じ物標から検出された検知速度Vo1,Vo2に基づいて算出される速度観測値が異なる。
【0043】
したがって、第1チャープ信号と第2チャープ信号を交互に送信した場合において、正しい仮説が選択されている場合、速度予測値と速度観測値との差分は比較的小さい。一方、誤った仮説が選択されている場合、速度予測値と速度観測値との差分は比較的大きい。ただし、正しい仮説が選択されている場合においても、物標が加速又は減速した場合等には、速度予測値と速度観測値との差分は比較的大きい。
【0044】
しかしながら、誤った仮説が選択されている場合、速度予測値と速度観測値との差分の時系列におけるばらつきも比較的大きい。これに対して、正しい仮説が選択されている場合、物標が加速又は減速した場合等でも、速度予測値と速度観測値との差分の時系列におけるばらつきは比較的小さい。そこで、時系列における速度残差のばらつきの大きさに基づいて、ゴースト評価値を算出する。
【0045】
具体的には、
図7に示すサブルーチンを実行する。まず、S300では、時系列における速度残差のばらつきの大きさとして、速度残差変化量を算出する。速度残差変化量は、今回の処理サイクルにいて算出された速度残差と前回の処理サイクルにおいて算出された速度残差との差分の絶対値に相当する。
【0046】
続いて、S305では、S300において算出された速度残差変化量が設定された第1閾値以上か否か判定する。S305において、速度残差変化量が第1閾値以上と判定された場合は、S310の処理へ進み、速度残差変化量が第1閾値未満と判定された場合は、S320の処理へ進む。
【0047】
S310では、物標が折り返しゴーストである可能性が比較的高いため、ゴースト評価値を増加させる。例えば、ゴースト評価値に「1」加算する。その後、S340の処理へ進む。
【0048】
一方、S320では、速度残差変化量が設定された第2閾値以下か否か判定する。第2閾値は、第1閾よりも小さい。S320において、速度残差変化量が第2閾値以下であると判定された場合は、S330の処理へ進む。
【0049】
S330では、物標が折返しゴーストである可能性が比較的低いため、ゴースト評価値を減少させる。例えば、ゴースト評価値から「1」減算する。その後、S340の処理へ進む。
【0050】
一方、S320において、速度残差変化量が第2閾値よりも大きいと判定された場合は、物標が折り返しゴーストである可能性が比較的高くもなく比較的低くもない。よって、この場合、ゴースト評価値を変化させずに、S340の処理へ進む。
【0051】
続いて、S340では、静止物速度を算出する。静止物速度は、物標が静止物であると仮定した場合における物標の検知速度である。具体的には、車両60の速度と方位観測値とから静止物速度を算出する。静止物速度は、物標の方位方向における車両60の射影速度を負にした値に相当する。
【0052】
続いて、S350では、検知速度Vo(すなわち、折り返しを仮定する前の速度)が、S340において算出された静止物速度と一致するか否か判定する。すなわち、物標が静止物か否か判定する。具体的には、検知速度Voと静止物速度との差分が、所定値以下であるか否か判定する。所定値は、検知速度Voが静止物速度と一致すると見なせるような十分に小さい値である。S350において、検知速度Voが静止物速度と一致すると判定された場合は、S360の処理へ進む。一方、S350において、検知速度Voが静止物速度と一致しないと判定された場合は、本サブルーチンを終了して、S130の処理へ進む。
【0053】
S360では、ゴースト評価値を増加させる。静止物の誤った追尾による折り返しゴーストの発生は頻度が比較的高い。よって、物標が静止物であると判定された場合には、ゴースト評価値を増加させる。その後、本サブルーチンを終了して、S130の処理へ進む。
【0054】
図6に戻り、S130では、ゴースト評価値が設定された第3閾値以上か否か判定する。S130において、ゴースト評価値が第3閾値上であると判定された場合は、S140の処理へ進み、ゴースト評価値が第3閾値未満であると判定された場合は、S150の処理へ進む。
【0055】
S140では、物標を折り返しゴーストであると判定する。
続いて、S150では、S140において折り返しゴーストであると判定した物標に対する車両制御を抑止する。すなわち、運転支援装置50へのこの物標に応じた制御指令の出力を抑制する。その後、S50の処理へ戻る。なお、折り返しゴーストと判定された物標は、今回の処理サイクルにおいてゴースト判定が完了し、次回以降の処理サイクルではゴースト判定の対象外になる。すなわち、次回以降の処理サイクルにおけるS100において、この物標はゴースト判定完了済みと判定される。
【0056】
一方、S160では、ゴースト評価値が設定された第4閾値以下か否か判定する。第4閾値は、第3閾値よりも小さい。S160において、ゴースト評価値が第4閾値以下であると判定された場合は、S170の処理へ進む。
【0057】
S170では、物標を非折り返しゴーストすなわち実体と判定する。その後、S50の処理へ戻る。なお、非折り返しゴーストと判定された物標は、今回の処理サイクルにおいてゴースト判定が完了し、次回以降の処理サイクルではゴースト判定の対象外になる。
【0058】
また、S160において、ゴースト評価値が第4閾値よりも大きいと判定された場合、物標がゴーストか実体かを判定せずに、S50の処理へ戻る。この物標は、今回の処理サイクルにおいてゴースト判定が完了しないため、次回以降の処理サイクルにおいてゴースト判定の対象になる。すなわち、次回以降の処理サイクルにおけるS100において、この物標はゴースト判定未完了と判定される。
【0059】
<1-3.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)速度残差が算出され、時系列における速度残差のばらつきの大きさに基づいて、ゴースト評価値が算出される。よって、算出されたゴースト評価値に基づいて、物標が折り返しゴーストか否かを判定することができる。
【0060】
(2)速度残差変化量を用いることにより、速度残差の分散を用いる場合よりも、物標が折り返しゴーストか否か瞬時的に判断することができる。
(3)速度残差変化量が第1閾値以上の場合には、ゴースト評価値を増加させることにより、物標が折り返しゴーストと判定される可能性を増加させることができる。
【0061】
(4)速度残差変化量が第2閾値以下の場合には、評価値を減少させることにより、物標が折り返しゴーストと判定される可能性を低下させることができる。
(5)ゴースト評価値が第3閾値以上の場合には、物標が折返しゴーストである可能性が十分に高くなったため、物標を折り返しゴーストと判定することができる。
【0062】
(6)ゴースト評価値が第4閾値以下の場合には、物標が折り返しゴーストである可能性が十分に低くなったため、物標を実体と判定することができる。
(7)静止物の誤った追尾による折り返しゴーストの発生は頻度が比較的高い。物標の観測速度が静止物速度と一致する場合に、評価値を増加させることにより、静止物の誤った追尾による折り返しゴーストを好適に検知することができる。ひいては、静止物を移動物と誤検知することを抑制できる。
【0063】
(8)静止物を移動物と誤認識した場合に、物標に対する車両制御に問題が生じる。よって、物標の対地速度が速度閾値以上である場合に、折り返しゴーストの判定対象とすることにより、車両制御に問題が生じる場合に限って折り返しゴースト判定が行われる。よって、不要な折り返しゴースト判定を抑制し、負荷を軽減することができる。
【0064】
(9)折り返しゴーストであると判定された物標に応じた制御指令の出力を抑制することにより、ドライバへの不要な警報及び/又は不要な車両の制御を抑制することができる。
(第2実施形態)
<2-1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0065】
第2実施形態は、上述した第1実施形態とゴースト評価値算出処理が異なる。第1実施形態では、速度残差変化量に応じてゴースト評価値を増加又は減少させた。これに対し、第2実施形態では、ゴースト評価値として、時系列における速度残差の分散を算出する点で、第1実施形態と相違する。
【0066】
<2-2.処理>
次に、第2実施形態に係る処理装置20が実行するゴースト評価値算出処理について、
図15のサブルーチンを参照して説明する。本実施形態に係る処理装置20は、S120のゴースト評価値算出処理において、
図7に示すサブルーチンの代わりに、
図15に示すサブルーチンを実行する。
【0067】
まず、S500では、今回の処理サイクル以前のK個の処理サイクルにおいて算出された速度残差の分散値を算出する。Kは2以上の整数である。
続いて、S500において算出した速度残差をゴースト評価値とする。
【0068】
続いて、S520~S540では、S340~S360と同様の処理を実行する。
<2-3.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、上述した効果(1)、(3)~(9)に加え、以下の効果が得られる。
【0069】
(10)時系列における速度残差の分散を用いることで、速度残差の統計的なばらつきに基づいて、物標が折り返しゴーストか否かを判定することができる。
(第3実施形態)
<3-1.第1実施形態及び第2実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態及び第2実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0070】
第3実施形態は、第1実施形態又は第2実施形態における物標検出処理において、さらに、同一物体判定処理及びゴースト誤判定抑制処理を実行する点で、第1実施形態又は第2実施形態と異なる。
【0071】
<3-2.処理>
次に、第3実施形態に係る処理装置20が実行する物標検出処理について、
図16のフローチャートを参照して説明する。
【0072】
まず、S610~S705では、
図5に示すフローチャートのS10~S105と同様の処理を実行する。ここで、S105のゴースト判定処理に含まれるS120のゴースト評価値算出処理では、
図11に示すサブルーチンを実行してもよいし、
図15に示すサブルーチンを実行してよい。
【0073】
続いて、S650において、未処理の物標が存在しないと判定された場合は、S800の処理へ進み、同一物体判定処理を実行する。具体的には、
図17に示すサブルーチンを実行する。
【0074】
図20に示すように、レーダ装置10は、車両60の前方を走行する先行車両70から複数の反射信号を受信することがある。複数の反射信号は、先行車両70の複数の箇所で生じる。例えば、複数の反射信号は、先行車両70の後端で生じた後端信号R1と、先行車両70のタイヤで生じたタイヤ信号R2とを含む。
図21は、
図20とは異なる時刻における後端信号R1とタイヤ信号R2とを示す。
【0075】
後端信号R1は、複数の反射信号の中で支配的な信号である。
図20及び
図21に示すように、後端信号R1から算出される速度観測値の時間的なばらつきは比較的小さい。そのため、後端信号R1に対応する後端物標Tgaは、折り返しゴーストと判定されにくい。一方、タイヤ信号R2から算出される速度観測値の時間的なばらつきは比較的大きい。したがって、速度残差も比較的大きくなる。そのため、タイヤ信号R2に対応するタイヤ物標Tgbは、実在する物体から生じた物標であるにもかかわらず、折り返しゴーストと誤判定される可能性がある。
【0076】
図22に示すように、タイヤ物標Tgbが折り返しゴーストと誤判定された後に、後端物標Tgaが、物標の追尾における誤接続などでロストすることがある。例えば、先行車両70から生成された物標の数が、その後の処理サイクルにおいて減少した場合において、後端物標Tgaに対応する物標予測値が物標観測値と接続されずに、後端物標Tgaがロストすることが起こりうる。また、タイヤ物標Tgbに対応する物標予測値は物標観測値と接続されて、タイヤ物標Tgbが存続することが起こりうる。このような場合、折り返しゴーストを継続して認識することになる。ひいては、先行車両70に対する車両制御が抑制され続ける。
【0077】
そこで、第2の物標に対応する第2の物体が、第1の物標に対応する第1の物体と同一か否か判定する。そして、第2の物体が第1の物体と同一と判定され、且つ、第1の物標が非折り返しゴーストと判定されている場合は、第2の物標が折り返しゴーストと判定されることを抑制する。
【0078】
まず、S810において、現在の処理サイクルにおいて存在する追尾中の物標のうち、第1の物標として未選択の物標が存在するか否か判定する。S810において、未選択の物標が存在しないと判定された場合は、本サブルーチンを終了して、S900の処理へ進む。
【0079】
一方、S810において、未選択の物標が存在すると判定された場合は、S820の処理へ進み、未選択の物標の中から第1の物標を選択する。
続いて、S830では、現在の処理サイクルにおいて存在する追尾中の物標のうち、第2の物標として未選択の物標が存在するか否か判定する。第2の物標は、第1の物標と同じ物体に対応しているか否か判定する判定対象に相当する。
【0080】
S830において、未選択の物標が存在しないと判定された場合は、S810の処理へ戻り、未選択の物標が存在すると判定された場合は、S840の処理へ進む。
S840では、未選択の物標の中から第2の物標を選択する。ここでは、第2の物標として、S810において選択した第1の物標と異なる物標を選択する。
【0081】
続いて、S850では、第2の物体が、他の物標に対応する物体と同一か否か判定済みか否か判定する。第2の物体は、第2の物標に対応する物体であり、第2の物標は第2の物体から生じる。後述する第1の物体は、第1の物標に対応する物体であり、第1の物標は第1の物体から生じる。S850において、同一と判定済みと判定された場合は、S830の処理へ戻る。一方、S850において、同一と未判定と判定された場合は、S860の処理へ進む。
【0082】
続いて、S860では、第2の物標の縦位置が、第1の物標の縦位置よりも奥側で且つ位置の差が縦閾値以下か否か判定する。第1の物標の縦位置及び第2の物標の縦位置及び後述する横位置は、物標観測値、物標予測値、及び物標推定値の少なくとも一つから算出する。縦位置は車両60の進行方向の位置に相当し、横位置は車両60の進行方向に直交する方向の位置に相当する。また、ここでの奥側は、車両60から離れる側に相当する。位置の差は、第1の物標の縦位置と第2の物標の縦位置の差に相当する。縦閾値は、車両の長さ程度の値である。S860において、否定判定された場合は、S830の処理へ戻り、肯定判定された場合は、S870の処理へ進む。
【0083】
続いて、S870では、第2の物標の横位置と第1の物標の横位置の差が、横閾値以下か否か判定する。横閾値は、車両の幅程度の値である。S870において、横位置の差が横閾値よりも大きいと判定された場合は、S830の処理へ戻り、横位置の差が横閾値以下と判定された場合は、S880の処理へ進む。
【0084】
続いて、S880では、第2の物標の対地速度と第1の物標の対地速度の差が、速度閾値以下か否か判定する。速度閾値は、第2の物標の対地速度が第1の物標の対地速度と同一とみなせるか否か判定するための閾値に相当する。S880において、対地速度の差が速度閾値よりも大きいと判定された場合は、S830の処理へ戻り、対地速度の差が速度閾値以下と判定された場合は、S890の処理へ進む。
【0085】
S890では、第2の物標の縦位置、横位置及び対地速度が、第1の物標の縦位置、横位置及び対地速度と十分に近いため、第2の物体が第1の物体と同一と判定する。すなわち、第1の物標と第2の物標が同一の物体から生じていると判定する。
【0086】
図16に戻り、S900では、ゴースト誤判定抑制処理を実行する。具体的には、
図18に示すサブルーチンを実行する。上述したように、同一の物体から複数の物標が生じている場合、複数の物標に折り返しゴーストと誤判定されやすい物標が含まれることがある。そこで、同一の物体から複数の物標が生じており、且つ、複数の物標のうちの一つの物標が非折り返しゴーストと判定されている場合は、残りの物標が折り返しゴーストと判定されることを抑制する。
【0087】
まず、S910では、ゴースト誤判定抑制処理において未選択の第2の物標が存在するか否か判定する。S910において、未選択の第2の物標が存在しないと判定された場合は、本サブルーチンを終了して物標検出処理に戻り、物標検出処理を終了する。一方、S910において、未選択の第2の物標が存在すると判定された場合は、未選択の第2の物標のうちの一つを選択して、S920の処理へ進む。
【0088】
S920では、S910において選択した第2の物標に対応する第2の物体と同一と判定された第1の物体に対応する第1の物標が存在するか否か判定する。S920において、第1の物標が存在しないと判定された場合は、S910の処理へ戻り、第1の物標が存在すると判定された場合は、S930の処理へ進む。
【0089】
S930では、S920において存在すると判定された第1の物標が、非折り返しゴーストと判定されているか否か判定する。S930において、非折り返しゴーストと判定されていない場合は、S910の処理へ戻り、非折り返しゴーストと判定されている場合は、S940の処理へ進む。
【0090】
S940では、S910において選択した第2の物標のゴースト評価値を減少させ、S910の処理へ戻る。これにより、第2の物標が折り返しゴーストと誤判定されることが抑制される。すなわち、同一の物体から生成された複数の物標のうちの一つの物標が非折り返しゴーストと判定された場合に、残りの物標が折り返しゴーストと誤判定されることが抑制される。
【0091】
<3-4.効果>
以上説明した第3実施形態によれば、上述した効果(1)~(10)に加え、以下の効果が得られる。
【0092】
(11)第2の物標に対応する第2の物体が、第1の物標に対応する第1の物体と同一か否か判定される。そして、第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定された場合は、第2の物標が折り返しゴーストと判定されることが抑制される。これにより、実在する物体から生じた物標が折り返しゴーストと誤判定されることを抑制できる。ひいては、折り返しゴーストと誤判定された物標が継続して認識されることを抑制できる。
【0093】
(12)第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定された場合に、第2の物標の評価値が低減される。これにより、第2の物標が折り返しゴーストと判定されることを抑制できる。
【0094】
<3-5.第3実施形態の別例>
次に、第3実施形態に係るゴースト判定抑制処理の別例について、
図19のサブルーチンを参照して説明する。すなわち、第3実施形態に係る処理装置20は、
図18に示すサブルーチンの代わりに、
図19に示すサブルーチンを実行してもよい。
【0095】
まず、S950~S970では、
図18に示すサブルーチンのS910~S930と同様の処理を実行する。
S970において、非折り返しゴーストと判定されている場合は、S980の処理へ進む。
【0096】
S980では、S950において選択した第2の物標を非折り返しゴーストと判定する。これにより、第2の物標が折り返しゴーストと誤判定されることが回避される。
以上説明した第3実施形態の別例によれば、上述した効果(1)~(11)に加え、以下の効果が得られる。
【0097】
(13)第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定された場合に、第2の物標が非折り返しゴーストと判定される。これにより、第2の物標が折り返しゴーストと判定されることを回避できる。
【0098】
(第4実施形態)
<4-1.第3実施形態との相違点>
第4実施形態は、基本的な構成は第3実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第3実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0099】
第3実施形態では、同一物体から複数の物標が生成されている場合に、ゴースト誤判定抑制処理を実行した。これに対して、第4実施形態では、同一物体から複数の物標が生成されている場合に、追尾抑制処理を実行する点で、第3実施形態と異なる。すなわち、第3実施形態では、同一物体から複数の物標が生成され、複数の物標のうちの一つが非折り返しゴーストと判定された場合に、残りの物標が折り返しゴーストと誤判定されることを抑制した。これにより、折り返しゴーストと誤判定された物標が継続的に認識されることを抑制した。これに対して、第4実施形態では、同一物体から複数の物標が生成され、複数の物標のうちの一つが非折り返しゴーストと判定された場合に、複数の物標のうちの折り返しゴーストと判定された物標が追尾されることを抑制する。これにより、折り返しゴーストと誤判定された物標が継続的に認識されることを抑制する。
【0100】
<4-2.処理>
次に、第4実施形態に係る処理装置20が実行する物標検出処理について、
図23のフローチャートを参照して説明する。
【0101】
まず、S615~S805では、
図16に示すフローチャートのS610~S800と同様の処理を実行する。
続いて、S905では、追尾抑制処理を実行する。具体的には、
図24に示すサブルーチンを実行する。
【0102】
まず、S915~S935では、
図18に示すサブルーチンのS910~S930と同様の処理を実行する。
S935において、第1の物標が非折り返しゴーストと判定されている場合は、S945の処理へ進む。
【0103】
S945では、第2の物標が折り返しゴーストと判定されているか否か判定する。S945において、折り返しゴーストと判定されていない場合は、S915の処理へ戻り、折り返しゴーストと判定されている場合は、S955の処理へ進む。
【0104】
S955では、第2の物標について、物標予測値と物標観測値とを関連付ける範囲である、関連付け範囲を縮小し、S915の処理へ戻る。特に、関連付け範囲のうち、速度範囲を縮小する。速度範囲は、速度予測値と速度観測値とを関連付ける範囲である。少なくとも、速度予測値と速度観測値との差分が速度範囲以内という条件を満たす場合に、物標予測値と物標観測値とが関連付けられる。関連付け範囲を縮小することにより、物標予測値と物標観測値との関連付けが抑制されるため、第2の物標の追跡が抑制される。
【0105】
<3-4.効果>
以上説明した第4実施形態によれば、上述した効果(1)~(10)に加え、以下の効果が得られる。
【0106】
(14)第2の物体が第1の物体と同一か否か判定される。そして、第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定され、且つ、第2の物標が折り返しゴーストと判定された場合は、第2の物標が追尾されることが抑制される。これにより、折り返しゴーストと誤判定された物標が追尾されることを抑制できる。ひいては、折り返しゴーストと誤判定された物標が継続して認識されることを抑制できる。
【0107】
(15)第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定され、且つ、第2の物標が折り返しゴーストと判定されている場合に、関連付け範囲が狭められる。これにより、第2の物標が追尾されることを抑制できる。
【0108】
(16)第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定され、且つ、第2の物標が折り返しゴーストと判定されている場合に、特に速度範囲が狭められる。これにより、第2の物体が追尾されることを好適に抑制することができる。
【0109】
<4-3.第4実施形態の別例>
次に、第4実施形態に係る追尾抑制処理の別例について、
図25のサブルーチンを参照して説明する。すなわち、第4実施形態に係る処理装置20は、
図24に示すサブルーチンの代わりに、
図25に示すサブルーチンを実行してもよい。
【0110】
まず、S958~S988では、
図24に示すサブルーチンのS915~S945と同様の処理を実行する。
S988において、第2の物標がゴーストと判定されている場合は、S998の処理へ進む。
【0111】
S998では、S958において選択した第2の物標を、現在の処理サイクルにおいて追跡中の物標から削除する。これにより、第2の物標が追跡されることが回避される。
以上説明した第4実施形態の別例によれば、上述した効果(1)~(10)、(14)に加え、以下の効果が得られる。
【0112】
(17)第1の物標が非折り返しゴーストと判定され、且つ、第2の物体が第1の物体と同一と判定され、且つ、第2の物標が折り返しゴーストと判定されている場合に、第2の物標が削除される。これにより、第2の物標が追尾されることを回避できる。
【0113】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0114】
(a)上記実施形態では、レーダ装置10は、互いに繰り返し周期が異なるM個の第1チャープ信号とN個の第2チャープ信号を交互に送信したが、チャープ信号の代わりにパルス信号を送信してもよい。すなわち、レーダ装置10は、互いに繰り返し周期が異なるM個第1パルス信号とN個の第2パルス信号を交互に送信してもよい。
【0115】
(b)本開示に記載のレーダ装置10及びその機能を実現する手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載のレーダ装置10及びその機能を実現する手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載のレーダ装置10及びその機能を実現する手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。レーダ装置10に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0116】
(c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0117】
(d)上述したレーダ装置の他、当該レーダ装置を構成要素とするシステム、当該レーダ装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、物体追尾方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0118】
10…レーダ装置、11…送信アンテナ、12…受信アンテナ、20…処理装置、50…運転支援装置、60…車両、100…運転支援システム。