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特許7401428金属部品を製造するための複層打抜き加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】金属部品を製造するための複層打抜き加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/02 20060101AFI20231212BHJP
   B21D 28/16 20060101ALI20231212BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B21D28/02 Z
B21D28/02 E
B21D28/02 C
B21D28/16
H02K15/02 E
H02K15/02 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020524554
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-01-21
(86)【国際出願番号】 EP2018025275
(87)【国際公開番号】W WO2019086146
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】1042618
(32)【優先日】2017-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アリエン ブランツマ
(72)【発明者】
【氏名】ベルト ペニングス
(72)【発明者】
【氏名】コレイン スニッペ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス ブルクハウス
(72)【発明者】
【氏名】シプケ コープマンス
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-129902(JP,A)
【文献】特開2004-167547(JP,A)
【文献】特開平08-057557(JP,A)
【文献】特開2016-127092(JP,A)
【文献】特開2007-311652(JP,A)
【文献】特表2019-510640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 28/02
B21D 28/16
H02K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相互に積み重ねられた個々の層(50)から構成された層状の基本材料(51)から電動機の固定子または回転子用あるいは変圧器コア用の金属部品(10)を打ち抜くための加工方法であって、
前記個々の層(50)の各々は、1.5重量%~3.5重量%のケイ素と、0.005重量%未満の炭素とを有するケイ素鋼から作成され、より厚い出発材料から冷間圧延により得られ、前記出発材料の厚さの5%~30%の厚さを有する基本材料(51)の前記個々の層(50)を提供し、前記個々の層(50)は、その結果として、前記出発材料に対して加工硬化され、
前記個々の層(50)は積み重ねられて前記層状の基本材料(51)を形成し、
前記金属部品(10)は打抜き装置(90)によって前記層状の基本材料(51)から打抜かれる、加工方法において、
前記金属部品(10)を前記層状の基本材料(51)から打ち抜いた後に、前記金属部品(10)は焼なまし熱処理または焼ならし熱処理を受けるが
前記金属部品(10)を前記層状の基本材料(51)から打ち抜く前に、前記層状の基本材料(51)全体も、冷間圧延された前記個々の層(50)も、焼なまし熱処理または焼ならし熱処理を受けないことにより、前記金属部品(10)が打ち抜かれるときに、前記層状の基本材料(51)の前記個々の層(50)が、前記個々の層(50)自体が前記冷間圧延によって得られる加工硬化された微細構造を有することを特徴とする、層状の基本材料(51)から金属部品(10)を打ち抜くための加工方法。
【請求項2】
前記基本材料の冷間圧延された前記個々の層(50)は、該層(50)が積み重ねられて前記層状の基本材料(51)を形成する前またはその間および前記金属部品(10)を前記層状の基本材料(51)から打ち抜く前に酸化加工を受けることを特徴とする、請求項1記載の層状の基本材料(51)から金属部品(10)を打ち抜くための加工方法。
【請求項3】
前記焼なまし熱処理または焼ならし熱処理が、水素を実質的に含まずかつ少なくとも摂氏650度の温度、好ましくは摂氏800度~摂氏1000度の範囲内の温度の窒素雰囲気中で行われることを特徴とする、請求項1または2記載の層状の基本材料(51)から金属部品(10)を打ち抜くための加工方法。
【請求項4】
前記層状の基本材料(51)から前記金属部品(10)を打ち抜くときに、前記基本材料は、210HV0.1を超える硬さ値を有し、好ましくは、300HV0.1~400HV0.1の範囲内の硬さを有することを特徴とする、請求項1または2記載の層状の基本材料(51)から金属部品(10)を打ち抜くための加工方法。
【請求項5】
前記層状の基本材料(51)から前記金属部品(10)を打ち抜くときに、前記基本材料は、450MPaを超える降伏強度を有し、好ましくは約500MPaの降伏強度を有することを特徴とする、請求項1または2記載の層状の基本材料(51)から金属部品(10)を打ち抜くための加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属部品を打ち抜くための加工方法、特に複層打抜き加工方法に関する。打抜き加工方法は、それ自体一般に知られており、金属部品の製造において、特にストリップ状、シート状またはプレート状の基本材料から金属部品を切り取るために広く適用されている。既知の打抜き加工方法では、打抜き装置の打抜きダイと打抜き材押さえとの間に挟持された基本材料に、金属部品に対応する形状の打抜きパンチを押し付けて貫通させることによって、金属部品の少なくとも2次元輪郭を形作る。打抜きダイおよび該打抜きダイに対する打抜き材押さえは、打抜きパンチを収容するように形作られたキャビティをそれぞれ画定する。打抜きダイのキャビティの輪郭を画定している打抜きダイの縁部は、基本材料に切り込みを入れ、最終的には完全に切り抜き、そのようにして基本材料は、打抜きダイに対する打抜きパンチの移動により、キャビティ内に徐々に押し込まれる。
【0002】
既知の打抜き加工方法及び装置では、打抜きダイの切断縁部の面取り、打抜きパンチの外側輪郭とキャビティを画定している打抜きダイの内側輪郭との間のクリアランス、打抜きパンチによって加えられる押圧力、基本材料の厚さおよび機械的特性などのような多くの要因の各々が、打抜き加工の結果に、例えば、打抜き部品の形状精度および/または表面品質の点でそれぞれ影響を与える。
【0003】
上述の打抜き加工方法および打抜き装置は、例えば、米国特許第4,738,020号明細書に記載されているような、電動機用の回転子薄板スタックおよび/または固定子薄板スタックのような積層体のための、あるいは変圧器コア積層体のための個々の薄板の製造に使用される。打抜き部品のこの用途および他の既知の用途に関して、厚さが薄い基本材料を使用することにより、厚さの薄い個々の打抜き部品を製造することが技術的要求である場合がある。例えば、前記電動機の固定子スタックまたは回転子スタックの場合、電動機の電気効率は、少なくともある程度まで、基本材料の厚さ、すなわち個々の回転子薄板/固定子薄板の厚さに反比例する。ただし、実際の打抜き加工においては、最低限必要な厚さが基本材料に適用される。そうでなければ、基本材料は、その適切な取扱いのために薄すぎる場合があり、例えば、打抜き装置に供給する際に変形する場合がある。また、(過度に)薄い基本材料は、打抜きパンチによって加えられる力による打抜き部品の伸びや局所的な薄化など、打抜き部品の不必要な変形につながるおそれがある。最後に、製造経済学も制限的な役割を果たしている。結局のところ、個々の薄板が薄いほど、特定の高さの積層スタックを構築するためにはより多くの薄板を製造する必要がある。
【0004】
既知の打抜き加工の生産速度を上げるために、当該技術分野において、打抜き加工方法において層状の基本材料を適用すること、すなわち、2層以上の基本材料を実際の打抜き前、つまり切断前に互いに積み重ねることが提案されている。次に、単一の打抜きパンチを使用して単一の打抜きストロークで、層状の基本材料の層数に対応する数の打抜き部品を形成することができる。しかしながら、当該技術分野では、このようにして打ち抜かれた部品の切断縁部における塑性変形が、1層の基本材料のみを用いた、より従来型の打抜き加工方法で得られるそのような変形を超える可能性があることも観察されている。いわゆる複層打抜き加工方法というこの後者の特徴は、複層打抜き加工方法の実際の使用を制限する。なぜならば、打抜き部品のすべての用途がそのような大きな塑性変形を受け入れることができるわけではないからであり、あるいは少なくともそのような特徴は、打抜き部品の特定の用途において打抜き部品の性能を棄損するおそれがあるからである。例えば、前記積層スタックの電気的および/または磁気的特性は、個々の薄板の切断縁部でのそのような大きな塑性変形に起因して最適ではない可能性がある。特に、塑性変形は、不利なことに、金属の透磁率を減少させかつ/または金属の磁気ヒステリシス(損失)を増加させる。また、塑性変形の結果として、より小さなまたはより大きな(エア)ギャップが、積層スタックの少なくとも一部の薄板間に、薄板の切断縁部またはその近くに不利に存在する可能性がある。さらに、打抜き時の塑性変形の低減は、打抜きバリの形成の低減および打抜き部品の形状精度の改善に役立ち、例えば打抜き部品の圧入を可能にする。
【0005】
本開示は、複層打抜き加工方法を改善することを目的とする。特に、本開示は、そのような加工方法で得られる打抜き部品の切断縁部またはその近くの塑性変形を低減することを目的とする。
【0006】
本開示によれば、そのような目的は、以下の請求項1による金属部品を打ち抜くための加工方法で実現される。特に本開示によれば、基本材料は、ストック材料を冷間圧延することによって得られ、それによりストック材料の厚さは低減され、したがって、結晶粒径微細化および転位核生成によって基本材料は加工硬化される。これにより、基本材料の破壊までの伸びが大幅に減少し、すなわち、基本材料の脆性が増加する。次に、基本材料の複数の層が組み合わされて層状の基本材料になり、金属部品が層状の基本材料から打ち抜かれる。続いて、打抜き部品は、いわゆる焼ならし熱処理または焼なまし熱処理を受けることにより、該打抜き部品の機械的、電気的および/または磁気的特性は改善され、特にそれら打抜き部品の金属微細構造のいわゆる回復および再結晶化によって脆性が低減される。特に、電磁鋼などの鋼基本材料の場合、鋼の焼なまし熱処理または焼ならし熱処理は、典型的には、摂氏650度を超える温度で、例えば、約800~1000℃で行われる。好ましくは、金属部品はそのような温度に誘導式に加熱される。
【0007】
上記の新規な複層打抜き加工方法によって、実際の打抜き部品の打抜き中、つまり切断中に導入された打抜き部品の縁部変形は、少なくとも、圧延後であるが打抜き前に焼なましされた基本材料を使用する場合に対して、顕著かつ有利に低減される。好ましくは、基本材料の厚さは、冷間圧延の加工ステップで、そのような冷間圧延の前のストック材料の厚さの5%~30%に規定される。さらに、特に電磁鋼などの鋼基本材料の場合、前記冷間圧延加工における基本材料には、つまり打抜き前の基本材料には、(特に材料硬さが最大200HV0.1でかつ降伏強度が最大420MPaの焼なましされた電磁鋼と比較して)450MPaを超える、好ましくは約500MPaの降伏強度と、かつ/または210HV0.1を超えて450HV0.1までの、好ましくは250HV0.1を超える、より好ましくは300~400HV0.1の範囲の最小硬さとが追及される。
【0008】
本開示による新規の複層打抜き加工方法のより詳細な実施形態では、冷間圧延されたが未だ層状でない基本材料の表面層を酸化させる追加の加工ステップが複層打抜き加工方法に含まれる。本開示によれば、そのような酸化された表面層によって、層状の基本材料の個々の層の(冷間)圧延された表面間の摩擦と少なくとも比較して、層状の基本材料の個々の層間で比較的高い摩擦が実現される。層状の基本材料の層間の摩擦を増加させることにより、個々の層間での相対移動が有利に抑制される。特に、複層打抜き加工方法において、層状の基本材料の中間層が打抜きダイのキャビティ内に引き込まれるとともに曲げ込まれる間に層状の基本材料の中間層が該層状の基本材料の最上層および最下層に対して引き伸ばされるという現象が観察され、該現象は、個々の層間の前記増大した摩擦によって打ち消すことができ、同時に打ち抜かれたすべての部品間の形状の一貫性を改善することができる。もちろん、鋼は空気中の室温ですでに酸化するが、そのような酸化はもちろん、加工温度を上げるかつ/または酸素リッチの加工雰囲気で加速させることができ、その一方で、冷間圧延された基本材料の現在望ましい機械的特性を維持するために摂氏650度の最低焼なまし温度よりもかなり低い温度、例えば摂氏600度は維持される。特に、ストリップ形状の基本材料の場合、基本材料は、好ましくは、例えば、誘導コイルを通して徐々に供給されることによって、誘導式に酸化加工温度に加熱される。酸化加工温度は60秒以下だけに維持することが好ましく、これにより酸化加工を複層打抜き加工方法の一連の加工フロー全体に、特に基本材料の層を積み重ねる直前に簡単に統合でき、したがって該積重ねを比較的簡単に連続加工方法として配置することができる。
【0009】
この場合、表面が酸化された打抜き部品が、本開示に従って後に焼ならし熱処理または焼なまし熱処理を受ける際、この後期の熱処理は、少なくとも実質的に水素を含まない窒素雰囲気下で行われ、これにより表面が酸化された打抜き部品の金属酸化表面層の還元、すなわち除去は回避される。
【0010】
この後期の追加の酸化加工ステップは、電磁鋼から、特に1.5~3.5重量%のケイ素と0.005重量%未満の炭素とを含むものから、回転子、固定子または変圧器の積層体用の薄板を製造する場合に特に効果的であることに留意されたい。これらのタイプの積層体は、その個々の薄板が互いに電気的に絶縁されることを必要とし、その電気的絶縁は、個々の薄板の酸化された表面層によっても有利に実現される。
【0011】
本開示による複層打抜き加工方法は、3~12層またはそれ以上の層、より好ましくは4~6層から構成される層状の基本材料に特に適しており、該層状の基本材料を有利に使用することができることにさらに留意されたい。さらに、本開示による、金属部品を打ち抜くための加工方法は、各々が0.5mm~0.05mmの範囲内またはそれ以下、より有利には0.3~0.1mmの厚さを有する個々の層から構成される層状の基本材料を有利に使用することができる。特に、使用される層状の基本材料は、好ましくは、0.1~0.2mm厚さの4~6層から構成される。層状の基本材料の全体の厚さは、層状の基本材料の層の過度の変形を避けるために、好ましくは2mmを超えてはならない。同様の理由で、層の厚さは、好ましくは0.1mm以上であるべきである。
【0012】
以下において、本開示による複層打抜き加工方法は、例示的な実施形態によってかつ図面を参照してさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電動機の回転子用の薄板スタック用の、すなわち積層体用の、電磁鋼から製作された単一の薄板である典型的な打抜き部品の斜視図である。
図2A】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図2B】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図2C】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図2D】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図2E】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図2F】打抜き部品を形成するための複層打抜き装置および加工方法を示す概略図である。
図3図2Dおよび図2Eの詳細を描いた概略図、ならびに複層打抜き装置および加工方法を用いて得られた打抜き部品の切断縁部の写真である。
図4】本開示による複層打抜き加工方法の新規の一連の加工フローの第1の実施形態を表す図である。
図5】本開示による複層打抜き加工方法の新規の一連の加工フローの第2の実施形態を表す図である。
【0014】
図1は、打抜き加工方法、特に本明細書で論じられる複層打抜き加工方法を用いて適切に製造することができる金属部品10の例を提供する。この例では、金属部品10は、中央孔12と、打抜きディスク11の円周に沿って配置された一連の凹所13とを備えた打抜きディスク11の形をとる。打抜きディスク11の外側輪郭および内側輪郭の両方が形成される、すなわち、基本材料から、特に電磁鋼から、同時に1回の切断または別個の打抜き段階での何回かの順々の部分的切断のどちらかで切り取られる。この特定のタイプの打抜きディスク11は、多数のそのような打抜きディスク11からなる、電動機の回転子用の積層体で使用される。このような回転子では、打抜きディスク11の中央孔12は回転子のシャフトを収容し、打抜きディスク11の前記凹所13は銅線巻線などの導電性材料を収容する。回転子の積層体の個々の打抜きディスク11間には、通常、いわゆる渦電流損失を低減するために電気絶縁部層が設けられ、該電気絶縁部層は、通常、打抜きディスクの少なくとも片面、好ましくは両面を接着ワニスやいわゆるバックラック(Backlack)などの非導電層でコーティングすることによって設けられる。
【0015】
図2A図2Fは、打抜きディスク11または金属部品10を製造するための一般的な複層打抜き加工方法を示している。図2A図2Fはそれぞれ、2枚以上(ここでは4枚)の互いに積み重ねられた基本材料50のストリップを備える層状の基本材料51からそのような金属部品10を切り取るために使用される打抜き装置90の簡略断面図を表す。打抜き装置90は、打抜きパンチ30、カウンタパンチ40、打抜き材押さえ70および打抜きダイ80を含む。打抜き材押さえ70および打抜きダイ80はそれぞれ、打抜きパンチ30およびカウンタパンチ40が収容されるそれぞれのキャビティ71,81を画定し、これらのキャビティ71,81は、金属部品10(の輪郭)に対応するように形作られている。カウンタパンチ40を使用するこの特定のタイプの打抜き加工方法/打抜き装置90は、それ自体知られており、すなわち精密打抜きとして知られている。
【0016】
図2Aでは、打抜き装置90は、第1の開いた状態で示され、この状態では打抜きパンチ30は、打抜き材押さえ70内に完全に後退し、カウンタパンチ40は、打抜きダイ80内に完全に後退し、またこの状態では、打抜き材押さえ70と打抜きダイ80とは、破線の矢印によって概略的に示すように、層状の基本材料51を挿入するのにかつ/または層状の基本材料51を打抜き装置90に対して前進させるのに少なくとも十分に互いに離間している。
【0017】
図2Bでは、打抜き材押さえ70と打抜きダイ80とが互いに向かって移動して、打抜き材押さえ70と打抜きダイ80との間に層状の基本材料51を挟持した後の打抜き装置90が示されている。
【0018】
図2Cでは、打抜きパンチ30とカウンタパンチ40とが互いに向かって移動して、打抜きパンチ30とカウンタパンチ40との間にも層状の基本材料51を挟持した後の打抜き装置90が示されている。
【0019】
図2Dおよび図2Eでは、打抜きパンチ30およびカウンタパンチ40の組合せを打抜きダイ80に対して強制的に移動させることによって、層状の基本材料51の各基本材料ストリップ50から金属部品10を切り取るステップが示されている。特に、図2Dでは、そのような切取りの間の打抜き装置90が示され、図2Eでは、金属部品10が完全に切り取られた後、すなわち層状の基本材料51から切り離された後であるが打抜きパンチ30とカウンタパンチ40との間にまだ保持されている、打抜き装置90が示されている。
【0020】
図2Fでは、打抜き装置90は、第2の開いた状態で示され、この状態では、打抜きパンチ30は、打抜き材押さえ70内に完全に後退し、またこの状態ではカウンタパンチ40は、金属部品10を打抜きダイ80のキャビティ81から上方に押し出して打抜き装置90からの金属部品10の取出しを可能にした後に、打抜きダイ80から突出している。そのような取出しの後、打抜き装置90は、図2Aなどに示したその第1の開いた状態に戻る。
【0021】
図3は、複層打抜き加工方法および該複層打抜き加工方法で用いられる打抜き装置90の拡大、ならびに複層打抜き加工方法および打抜き装置90を用いて得られた金属部品10の切断縁部の断面を提供する。特に、図3では、4層の基本材料51が適用されている。図3は、層状の基本材料51の中間層が打抜きダイ40のキャビティ内に引き込まれかつ/または曲げ込まれる現象、すなわち、実際の打抜き中の、つまり層状の基本材料51の切断中の打抜きパンチ30の移動による塑性変形を示している。その結果、金属部品10は、その切断縁部100またはその近くで顕著な塑性変形、すなわち縁部変形EDを示す。
【0022】
本開示によれば、有利には、基本材料の化学組成または上述の打抜き装置90の構造それ自体を変更することなく、従前の複層打抜き加工方法を改善することができ、特に、金属部品10の縁部変形EDを低減することができる。むしろ、本開示によれば、新規の一連の加工フローが提供され、その第1の実施形態が図4に示されている。合金化、鋳造、精錬、圧延、切断、焼なましなどの適切で一般的に知られている加工ステップによって適切なストック材料が準備された後、基本材料は最終的に、新規の複層打抜き加工方法の第1のステップで冷間圧延によって目的の厚さに準備される。次に、第2の加工ステップで、基本材料のいくつかの層50が組み合わされ、すなわち積み重ねられて、層状の基本材料51になる。第3の加工ステップでは、層状の基本材料51が打抜き装置90に供給され、金属部品10が打ち抜かれる。層状の基本材料51は加工硬化された微細構造を有するので、層状の基本材料51は比較的脆く、したがって、剪断前に塑性変形しにくい傾向にある。その結果、金属部品10の切断縁部またはその近くで打抜きにおける前記縁部変形が低減される。その後、新規の複層打抜き加工方法の第4の加工ステップにおいて、金属部品10は、少なくとも脆性を低減するために、より一般的には、金属部品10の機械的、電気的および/または磁気的な特性、電磁特性を改善するために、焼なまし熱処理または焼ならし熱処理を受ける。金属部品10の制御された冷却による焼なましは、通常、この後者の点で最適な結果を達成するために、空冷による焼ならしよりも好ましいことに留意されたい。
【0023】
もちろん、必要に応じて、バリ取り、コーティング、溶接などの金属部品10のさらなる加工を、新規の一連の加工フロー全体に含めることができる。これらのさらなる加工ステップは、図4に示すように、焼なましまたは焼ならしの前記加工ステップの前または後のいずれかに含めることができる。しかしながら、これらのさらなる加工ステップが金属部品の意図される用途に関して金属部品の微細構造に悪影響を与える場合、そのようなさらなる加工ステップは、焼なましまたは焼ならしの前記加工ステップの前に行うのが好ましい。
【0024】
また、上記の新規の複層打抜きプロセスの前記第1の加工ステップと第2の加工ステップとの間に、冷間圧延された基本材料のプレートを適切な幅のストリップ50に切断するためのスリット加工などのさらなる加工を含めることができる。しかしながら、冷間圧延後かつ打抜き前に、基本材料は、基本材料の加工硬化された微細構造を保持するために、いかなる場合でもその再結晶温度まで加熱されない。
【0025】
さらに、本開示によれば、複層打抜き加工方法から生じる金属部品10の縁部変形EDは、層状の基本材料51の層50間の摩擦を増加させることによってさらに低減することができる。それに加えて、図5に示されている新規の複層打抜き加工方法の第2の実施形態では、基本材料50の表面を酸化する追加の加工ステップが複層打抜き加工方法に含まれている。特に、そのような追加の酸化加工ステップは、冷間圧延を行う前記第1の加工ステップの後、かつ積み重ねを行う前記第2の加工ステップの前またはその一部として、新規の一連の加工フローに含まれる。酸化された後の基本材料の表面は、層状の基本材料51の個々の層50の間に非常に高い摩擦を発現させ、これは、前記縁部変形EDを低減するために望ましい。
【0026】
本開示は、前述の説明の全体および添付図面のすべての詳細に加えて、添付の一連の請求項のすべての特徴にも関係するとともに包含する。特許請求の範囲の括弧で囲まれた参照は、その範囲を限定するものではなく、ただ単にそれぞれの特徴の非拘束的な例として提供されている。特許請求されている特徴は、所定の製品または所定の加工方法では個別に適用できるが、場合によっては、そのような特徴の2つ以上のいかなる組合せも所定の製品または所定の加工方法において適用することもできる。
【0027】
本開示によって表される一または複数の発明は、本明細書で明示的に言及される実施形態および/または例に限定されず、それらの修正、変更および実用的な応用、特に、関連分野の当業者の想到範囲内にあるものも包含する。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4
図5