(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電子部品搬送用冶具用の基材
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20231212BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20231212BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20231212BHJP
H05K 13/04 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C23C28/00 C
C25D5/48
H01L21/68 B
H05K13/04 A
(21)【出願番号】P 2020534711
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(86)【国際出願番号】 JP2019030049
(87)【国際公開番号】W WO2020027209
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018145401
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉松 陽平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 隆広
(72)【発明者】
【氏名】黒川 哲平
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-287679(JP,A)
【文献】特開2018-056247(JP,A)
【文献】特開平10-230562(JP,A)
【文献】特開昭60-060742(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 28/00~28/04
C23C 8/28~8/32
C23C 8/42
C23C 22/60~22/68
C25D 5/44
C25D 5/48~5/52
H01L 21/677
H01L 21/68
H05K 13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える、電子部品搬送用冶具に用いられる、電子部品搬送用冶具用の基材であって、
前記電子部品搬送用冶具用の基材は、前記樹脂吸着部を支持するために用いられ、
金属板と、前記金属板上に形成され、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜と、を備え、
前記酸化処理めっき被膜が、Niめっき膜、Ni-P合金めっき膜、およびSnめっき膜のいずれか一種のめっき膜を、酸化処理することで形成される酸化処理めっき被膜であり、
前記Ni-P合金めっき膜中における、Pの含有量が1~13重量%であり、
前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi
2O
3の状態割合、又は前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO
2の状態割合が、1%以上72.6%以下である、電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項2】
前記酸化処理めっき皮膜の最表面における酸素元素の存在割合が40atom%以上である、請求項1に記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項3】
前記酸化処理めっき皮膜が、Niめっき膜、およびNi-P合金めっき膜のいずれか一種のめっき膜を、酸化処理することで形成される酸化処理めっき皮膜であり、前記酸化処理めっき皮膜の最表面のNiにおける、NiOと、Ni
2O
3の状態比が、「NiO:Ni
2O
3」の比で、11.0:1.0~1.0:99.0である請求項1または2に記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項4】
前記酸化処理めっき皮膜が、Ni-P合金めっき膜を酸化処理することで形成される酸化処理めっき皮膜である請求項1~3のいずれかに記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項5】
前記酸化処理めっき皮膜中における、全P元素中における酸化状態にあるPの酸化物の状態割合が21%以上である請求項4に記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項6】
前記酸化処理めっき皮膜の厚みが、1~40μmである請求項1~5のいずれかに記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項7】
前記金属板が、アルミニウム板である請求項1~6のいずれかに記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項8】
前記金属板上に、亜鉛を含有する下地層をさらに備え、
前記酸化処理めっき皮膜が、前記下地層に形成されている請求項1~7のいずれかに記載の電子部品搬送用冶具用の基材。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載の電子部品搬送用冶具用の基材上に、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える電子部品搬送用冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える、電子部品搬送用冶具に用いられる、電子部品搬送用冶具用の基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体チップを持ち上げて、所定の位置まで搬送するための冶具として、搬送用冶具が用いられている。このような搬送用冶具においては、先端部を半導体チップ中央部付近に接触させ、吸着穴を真空状態とすることで、半導体チップを吸着しつつ搬送することを可能とするものである。
【0003】
一方、近年は半導体チップの多機能・高速化とそれに伴う高密度実装化を実現するために、チップ内に貫通電極を形成してバンプ接続によるフリップチップ実装を行うチップオンチップ技術が開発されつつある。このような貫通電極を有する半導体チップは、チップ表面に接続用バンプパッドを備えるものであるが、上下に積層される半導体チップのバンプパッドと接合するために従来の半導体チップの接続パッドより高く突出した構造をとる場合が多い。
【0004】
そのため、真空状態を利用して搬送を行う搬送用冶具は、このような貫通電極を有する半導体チップの搬送に適さない場合があり、これに代替する搬送冶具として、樹脂などの粘着物を利用した吸着方式が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。しかしながら、この特許文献1の技術では、吸着用の樹脂を支持するための基材の強度や硬度、さらには、樹脂との密着性について、検討はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、強度および硬度が高く、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を構成する樹脂に対して適切な密着強度を示す電子部品搬送用冶具用の基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える、電子部品搬送用冶具用の基材として、金属板と、この金属板上に形成され、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜とを備え、かつ、酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が、1%以上に制御されたものを用いることにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える、電子部品搬送用冶具に用いられる、電子部品搬送用冶具用の基材であって、
前記電子部品搬送用冶具用の基材は、前記樹脂吸着部を支持するために用いられ、
金属板と、前記金属板上に形成され、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜と、を備え、
前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が、1%以上である、電子部品搬送用冶具用の基材が提供される。
なお、前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は前記酸化処理めっき皮膜の最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合は、5%超であることが好ましい。
【0009】
本発明の電子部品搬送用冶具用の基材において、前記酸化処理めっき皮膜の最表面における酸素元素の存在割合が40atom%以上であることがより好ましい。
好ましくは、前記酸化処理めっき皮膜が、Niを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜であり、前記酸化処理めっき皮膜の最表面のNiにおける、NiOと、Ni2O3の状態比が、「NiO:Ni2O3」の比で、11.0:1.0~1.0:99.0であることが好ましく、より好ましくは7.0:1.8~23.8:76.2、さらに好ましくは7.0:1.8~27.4:72.6である。
好ましくは、前記酸化処理めっき皮膜が、Ni-P合金を少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜である。
好ましくは、前記酸化処理めっき皮膜中における、全P元素中における酸化状態にあるPの酸化物の状態割合が21%以上である。
好ましくは、前記酸化処理めっき皮膜の厚みが、1~40μmである。
好ましくは、前記金属板が、アルミニウム板である。
本発明の電子部品搬送用冶具用の基材は、前記金属板上に、亜鉛を含有する下地層をさらに備え、前記酸化処理めっき皮膜が、前記下地層に形成されていることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上記の電子部品搬送用冶具用の基材上に、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を備える電子部品搬送用冶具が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、強度および硬度が高く、電子部品を吸着するための樹脂吸着部を構成する樹脂に対して適切な密着強度を示す電子部品搬送用冶具用の基材、ならびに、このような電子部品搬送用冶具用の基材を用いて得られる電子部品搬送用冶具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る電子部品搬送用冶具用の基材の断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る電子部品搬送用冶具の製造方法を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る電子部品搬送用冶具を使用した電子部品の搬送方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本実施形態に係る電子部品搬送用冶具用の基材10の構成を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10は、金属板11上に、最表層として酸化処理めっき皮膜12が形成されてなる。酸化処理めっき皮膜12は、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含み、最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi
2O
3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO
2の状態割合が1%以上であるものである。
【0014】
<電子部品搬送用冶具の製造方法>
まず、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10について詳細に説明する前に、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10を用いて得られる電子部品搬送用冶具の製造方法を、
図2を参照して、説明する。
【0015】
まず、
図2(A)に示すように、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10(以下、適宜、「基材10」とする。)を準備する。次いで、
図2(B)に示すように、吸着用樹脂からなる樹脂層20を形成する。樹脂層20は、基材10の酸化処理めっき皮膜12(
図1参照)が形成されている面側に、形成する。
【0016】
次いで、
図2(C)に示すように、複数のキャビティ31を有する賦形用金型30を、基材10上に形成された樹脂層20に押し付け、圧力を加えながら加熱することで、樹脂層20を構成する吸着用樹脂を、キャビティ31に対応する形状に成形し、これにより、
図2(D)に示すように、基材10上に、吸着用樹脂からなる樹脂吸着部21が複数形成されてなる電子部品搬送用冶具40が製造される。
【0017】
なお、このようにして得られた電子部品搬送用冶具40について、電子部品の搬送性能をより高めるという観点より、複数の樹脂吸着部21が形成されている領域(すなわち、中央部付近)の周囲に残存する、不要な吸着用樹脂については、基材10から剥離させる等することで、除去することが好適である。
【0018】
そして、このようにして製造される電子部品搬送用冶具40は、
図3(A)に示すように、ストッカ50に載置された複数の電子部品60に対し、押し付けられることで、複数の樹脂吸着部21によって、複数の電子部品60を吸着し、
図3(B)に示すように、複数の電子部品60を、これを実装するための回路基板70上に搬送し、次いで、回路基板70上に押し付けられることで、複数の電子部品60を、回路基板70上に実装するために使用される。
【0019】
樹脂層20を形成するための吸着用樹脂としては、特に限定されないが、適切な粘着性を有し、これにより、電子部品の搬送をより好適に行うことができるという観点より、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などのシリコーン系樹脂を用いることができる。シリコーン系樹脂としては、ポリジメチルシロキサン以外にも、主骨格として、シロキサン結合を有し、かつ、官能基として、ヒドロキシ基、アミン基、メチル基、カルボキシ基、およびケトン基のいずれか1つを含むものを好適に用いることができる。
【0020】
あるいは、シリコーン系樹脂に代えて、非シリコーン系樹脂を用いてもよく、非シリコーン系樹脂としては、ポリエーテル系樹脂や、ポリエステル系樹脂などが挙げられ、これらのなかでも、ポリエーテル系樹脂が好適である。ポリエーテル系樹脂としては、主骨格として、エーテル結合を有し、かつ、官能基として、ヒドロキシ基、アミン基、メチル基、カルボキシ基、およびケトン基のいずれか1つを含むものが好適であり、また、ポリエステル系樹脂としては、主骨格として、エステル結合を有し、かつ、官能基として、ヒドロキシ基、アミン基、メチル基、カルボキシ基、およびケトン基のいずれか1つを含むものが好適である。また、非シリコーン系樹脂としては、ウレタン系樹脂や、ポリ乳酸系樹脂、フッ素系樹脂を用いることもできる。ウレタン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、およびフッ素系樹脂としては、たとえば、主骨格として、ウレタン結合、エステル結合、エーテル結合、およびアミド結合のいずれか1つを含み、かつ、官能基として、ヒドロキシ基、アミン基、メチル基、カルボキシ基、およびケトン基のいずれか1つを含むものが好適に用いられる。
【0021】
これら吸着用樹脂は、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂または紫外線硬化性樹脂)あるいは熱可塑性樹脂のいずれであってもよい。たとえば、吸着用樹脂として、熱硬化性樹脂を用いる場合には、
図2(C)に示す工程において、複数のキャビティ31を有する賦形用金型30を、基材10上に形成された樹脂層20に押し付け、圧力を加えながら加熱する際に、樹脂吸着部21に対応する形状に成形するとともに硬化させることができる。
【0022】
<電子部品搬送用冶具用の基材10>
上述したように、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10は、
図2(A)~
図2(D)に示すように、電子部品搬送用冶具40を得るために用いられるものである。具体的には、本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10は、樹脂吸着部21を支持するための支持基材として用いられる。
【0023】
本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10は、
図1に示すように、金属板11上に、最表層として酸化処理めっき皮膜12が形成されてなる。
【0024】
金属板11としては、特に限定されないが、鋼板、ステンレス鋼板、銅板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、またはニッケル板などが挙げられる。これらのなかでも、価格が安いことから、鋼板またはアルミニウム板、アルミニウム合金板が好ましい。さらに、電子部品搬送用冶具40の軽量化が可能となり、これにより、電子部品搬送に必要となるエネルギーを低減できるという観点より、アルミニウム板、またはアルミニウム合金板が好ましい。金属板11の厚みは、特に限定されないが、電子部品を搬送する際における取り扱い性の観点より、好ましくは0.3~2mm、より好ましくは0.5~0.8mmである。
【0025】
酸化処理めっき皮膜12は、金属板11上に形成されるめっき被膜であって、少なくともその表面が酸化処理されたものであり、基材10の最表層を構成する。本実施形態において、酸化処理めっき皮膜12は、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含み(好適には、NiおよびSnから選択される少なくとも1種の元素を含み)、最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合(すなわち、Ni単体や、NiOなどのNi2O3以外の酸化状態の酸化物と、Niの酸化物以外のNi化合物と、Ni2O3との合計に対する、Ni元素換算でのNi2O3の状態割合。)、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合(すなわち、Sn単体や、SnOなどのSnO2以外の酸化状態の酸化物と、Snの酸化物以外のSn化合物と、SnO2との合計に対する、Sn元素換算でのSnO2の状態割合。)が、1%以上であるものである。
【0026】
本実施形態によれば、金属板11上に、最表層として酸化処理めっき皮膜12を形成し、酸化処理めっき皮膜12をこのような構成とすることにより、電子部品搬送用冶具用の基材10を、強度および硬度が高く、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対して適切な密着強度を示すものとすることができるものである。特に、電子部品搬送用冶具40を製造する際においては、
図2(C)に示す工程のように、賦形用金型30を、電子部品搬送用冶具用の基材10上に所定の圧力にて押し付ける必要があるため、電子部品搬送用冶具用の基材10には、賦形用金型30の押し付けによる変形や破損、傷付きが有効に抑制されたものであることが求められる。加えて、電子部品搬送用冶具用の基材10は、樹脂吸着部21を支持するものであることから、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂との密着性に優れていること、その一方で、樹脂吸着部21以外の部分に残存する不要な吸着用樹脂(たとえば、複数の樹脂吸着部21が形成されている領域(すなわち、中央部付近)の周囲に残存する吸着用樹脂)については、剥離等により除去される場合もあるため、これらを適切に除去できる程度の密着性を示すものであること(すなわち、密着力が高すぎないこと)が求められる。さらには、工程内でのキズ付きが起こると、平滑度が悪化し、搬送性能が低下するという課題もある。
【0027】
これに対し、本実施形態によれば、電子部品搬送用冶具用の基材10を、上記構成を有するものとすることにより、強度および硬度が高く、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対して適切な密着強度を示すものとすることができるものであり、これにより、本実施形態によれば、このような問題を適切に解決するものである。
【0028】
酸化処理めっき皮膜12は、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含み、最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が、1%以上であるものであればよいが、樹脂吸着部21を形成するための吸着用樹脂として、シリコーン系樹脂を用いる場合には、Ni2O3の状態割合、又はSnO2の状態割合は、1.75~72.6%の範囲であることがより好ましく、5%超、72.6%以下の範囲であることがさらに好ましく、7.5~49.4%の範囲であることがさらにより好ましい。また、樹脂吸着部21を形成するための吸着用樹脂として、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂、あるいは、ポリ乳酸系樹脂を用いる場合には、最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合は、7.5~100%の範囲であることがより好ましく、7.97~72.6%の範囲であることがさらに好ましく、7.97~30%の範囲であることがさらにより好ましい。最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が低すぎると、吸着用樹脂に対する密着性が不十分となってしまう。
【0029】
酸化処理めっき皮膜12が、Niを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜である場合には、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対してより適切な密着強度を示すことができるという観点より、酸化処理めっき皮膜の最表面のNiにおける、NiOと、Ni2O3の状態比が、「NiO:Ni2O3」の比で、11.0:1.0~1.0:99.0であることが好ましく、7.0:1.8~23.8:76.2であることがより好ましく、7.0:1.8~27.4:72.6であることがさらに好ましい。NiOと、Ni2O3との状態比は、酸化処理めっき皮膜12の表面について、X線光電子分光(XPS)測定を行い、Ni単体のピークの積分値と、NiOのピークの積分値と、Ni2O3のピークの積分値とを求め、これらより、最表面における全Ni元素におけるNiOおよびNi2O3の状態割合を算出し、NiOと、Ni2O3との状態比を求めることができる。
【0030】
また、酸化処理めっき皮膜12は、最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が上記範囲であればよいが、最表面における酸素元素の存在割合が、40.0atom%以上であることが好ましく、より好ましくは40.6atom%以上であり、さらに好ましくは43.0atom%以上である。最表面における酸素元素の存在割合の上限は、特に限定されないが、好ましくは53atom%以下、より好ましくは45atom%以下である。最表面における酸素元素の存在割合を上記範囲とすることにより、吸着用樹脂に対する密着性をより高めることができる。本実施形態においては、酸化処理めっき皮膜12の、最表面における酸素元素の存在割合は、酸化処理めっき皮膜12の表面について、X線光電子分光(XPS)測定を行い、酸化処理めっき皮膜12を構成する各酸化物のピーク積分値を求め、求めたピーク積分値から、酸素元素の存在割合(atom%)を算出することにより、求めることができる。
【0031】
また、酸化処理めっき皮膜12は、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素に加えて、Znをさらに含有するものであってもよい。酸化処理めっき皮膜12が、Znをさらに含有する酸化処理めっき皮膜である場合には、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対してより適切な密着強度を示すことができるという観点より、最表面における全Zn元素中における酸化状態にあるZnとしてのZnOの状態割合が19%以上であることが好ましい。また、最表面における全Zn元素中における酸化状態にあるZnとしてのZnO2の状態割合は1%以上が好ましく、より好ましくは69%以上である。ZnOと、ZnO2との状態比は、酸化処理めっき皮膜12の表面について、X線光電子分光(XPS)測定を行い、X線光電子分光(XPS)測定を行い、Zn単体のピークの積分値と、ZnOのピークの積分値と、ZnO2のピークの積分値とを求め、これらより、最表面における全Zn元素におけるZnOおよびZnO2の状態割合を算出し、ZnOと、ZnO2との状態比を求めることができる。
【0032】
酸化処理めっき皮膜12が、Snを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜である場合には、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対してより適切な密着強度を示すことができるという観点より、酸化処理めっき皮膜12の最表面における、全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnOの状態割合が19%以上であることが好ましい。また、酸化処理めっき皮膜12の最表面における、全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合は1%以上が好ましく、より好ましくは69%以上である。SnOと、SnO2との状態比は、酸化処理めっき皮膜12の表面について、X線光電子分光(XPS)測定を行い、Sn単体のピークの積分値と、SnOのピークの積分値と、SnO2のピークの積分値とを求め、これらより、最表面における全Sn元素におけるSnOおよびSnO2の状態割合を算出し、SnOと、SnO2との状態比を求めることができる。
【0033】
酸化処理めっき皮膜12が、Pを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜である場合には、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対してより適切な密着強度を示すことができるという観点より、酸化処理めっき皮膜12の最表面における、全P元素中における酸化状態にあるPの酸化物の状態割合が21%以上であり、より好ましくは24%以上である。全P元素中における酸化状態にあるPの酸化物の状態割合の上限は、特に限定されないが、好ましくは97%以下であり、より好ましくは60%以下である。Pの酸化物の状態割合は、上記と同様に、X線光電子分光(XPS)測定により求めることができる。
【0034】
また、酸化処理めっき皮膜12は、強度、硬度、および樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対する密着性をより高度にバランスさせることができ、しかも、酸化処理めっき皮膜12表面の平坦性をより高めることができ、これにより、より微細な電子部品を高精度に搬送することができるという観点より、Ni-P合金を少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜であることがより好ましく、この場合における、酸化処理めっき皮膜12の最表面における、NiOと、Ni2O3との状態比が、「NiO:Ni2O3」の比で、11.0:1.0~1.0:99.0である。より好ましくは7.0:1.8~23.8:76.2、さらに好ましくは7.0:1.8~27.4:72.6である。NiOと、Ni2O3との状態比は、上記と同様に、X線光電子分光(XPS)測定の結果により算出することができる。また、Ni-P合金中における、Pの含有量が1~13重量%が好ましく、より好ましくは5~13重量%、さらに好ましくは8~13重量%である。Ni‐P合金中におけるPの含有割合は、上記と同様に、X線光電子分光(XPS)測定により求めることができる。
【0035】
酸化処理めっき皮膜12の厚みは、特に限定されないが、電子部品搬送用冶具用の基材10の強度および硬度をより十分なものとするという観点より、好ましくは1~40μm、より好ましくは1~20μm、さらに好ましくは1~10μm、さらにより好ましくは5~10μmである。
【0036】
金属板11上に、酸化処理めっき皮膜12を形成する方法としては特に限定されないが、たとえば、酸化処理めっき皮膜12を、Niを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜とする場合には、金属板11上に、Niめっきを施し、形成されたNiめっき膜について、酸化処理を行う方法などが挙げられる。酸化処理の方法としては、特に限定されないが、形成されたNiめっき膜について熱処理を行う方法や、過酸化水素水(H2O2)、次亜塩素酸塩などの液体中に浸漬させる処理を行う方法、水蒸気処理を行う方法などが挙げられる。また、これらは組み合わせてもよい。熱処理を行う際の条件としては、特に限定されないが、熱処理温度は、好ましくは130~300℃、熱処理時間は、好ましくは10~30分である。また、過酸化水素水中に浸漬させる処理における条件としては、特に限定されないが、過酸化水素水の濃度は、好ましくは1~35重量%、より好ましくは15~35重量%、浸漬温度(過酸化水素水の温度)は、好ましくは25~90℃、より好ましくは25~70℃、浸漬時間は、好ましくは20秒~120分、より好ましくは20秒~60分である。さらに、水蒸気処理における条件としては、特に限定されないが、好ましくは40~100%RH、より好ましくは65~100%RHであり、水蒸気温度は、好ましくは40~120℃、より好ましくは65~85℃、処理時間は、好ましくは1分~72時間、より好ましくは12~24時間である。また、酸化処理めっき皮膜12を、NiおよびPを含有するものとする場合(すなわち、Ni-P合金を含有するものとする場合)には、Ni-Pめっきを行い、Ni-P合金めっき膜を形成した後、Ni-P合金めっき膜について、熱処理を行う方法や、過酸化水素水(H2O2)、次亜塩素酸塩などの液体中に浸漬させる処理を行う方法、水蒸気処理を行う方法などが挙げられる。この場合においては、熱処理、過酸化水素水中に浸漬させる処理、および水蒸気処理における条件は、上記と同様とすることができる。
【0037】
また、酸化処理めっき皮膜12を、Znを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜とする場合、あるいは、Snを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜とする場合には、金属板11上に、Znめっき、あるいはSnめっきを施し、形成されたZnめっき膜、Snめっき膜について、酸化処理を行う方法などが挙げられる。酸化処理の方法としては、特に限定されないが、形成されたZnめっき膜、Snめっき膜について熱処理を行う方法や、過酸化水素水などの液体中に浸漬させる処理を行う方法、水蒸気処理を行う方法などが挙げられる。また、これらは組み合わせてもよい。熱処理、過酸化水素水中に浸漬させる処理、および水蒸気処理における条件は、上記と同様とすることができる。
【0038】
また、酸化処理めっき皮膜12を、Pを少なくとも含有する酸化処理めっき皮膜とする場合には、金属板11上に、必要に応じて、ZnめっきやSnめっきを施した後、リン酸塩を用いて、リン酸塩処理を行う方法などが挙げられる。
【0039】
また、本実施形態においては、金属板11上に、直接、酸化処理めっき皮膜12を設けるような構成としてもよいが、酸化処理めっき皮膜12を良好に形成するという観点より、予め金属板11上に下地層としての亜鉛を含有する下地層を形成した後、その亜鉛を含有する下地層上に酸化処理めっき皮膜12を形成することが好ましい。
【0040】
亜鉛を含有する下地層を形成する方法としては、特に限定されないが、金属板11について、脱脂処理を行ない、次いで、必要に応じてエッチングや酸洗した後、亜鉛の置換めっきを行なう方法が挙げられる。亜鉛の置換めっきは、第一亜鉛置換処理(1stジンケート処理)、硝酸亜鉛剥離処理(脱ジンケート処理)、第二亜鉛置換処理(2ndジンケート)の各工程を経るダブルジンケート処理を施すことにより行なわれる。この場合、各工程の処理後には水洗処理を実施する。
【0041】
以上のような本実施形態の電子部品搬送用冶具用の基材10によれば、強度および硬度が高く、樹脂吸着部21を構成する吸着用樹脂に対して適切な密着強度を示すものであることから、種々の電子部品を搬送するための電子部品搬送用冶具を構成するための支持基材として好適に用いることができ、特に、マイクロLED、コンデンサ、半導体素子などの微細な電子部品を搬送するための電子部品搬送用冶具用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0043】
<XPS測定>
実施例および比較例にて得られた酸化処理めっき板(比較例1においては、酸化処理を行っていないめっき板、比較例3,4においてはアルマイト処理板、以下、各測定、評価についての説明において同様。)の表面に形成した酸化処理めっき皮膜(比較例3,4においては、アルマイト処理面、以下、各測定、評価についての説明において同様。)の表面について、X線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製、型番:VersaProbeII)を用いて、Ni2p3/2、Sn3d5/2、P2p、O1sのピークをそれぞれ測定した。
全元素中の酸素元素の存在割合は、アルゴンスパッタにより2nmエッチングした後、測定し、Ni2p3/2、Sn3d5/2、P2p、O1sのピーク面積の総和に占めるO1sピーク面積の割合から算出した(全元素中の酸素元素の存在割合の測定結果は、実施例7,8、比較例2、実施例9,10,16~18について行った。)。
Pの酸化物の割合は、上記P2pのピークを各化学状態に対応する波形に分離し、P2pのピーク面積に占めるPの酸化物のピーク面積の割合から算出した。
NiOの状態割合、および、Ni2O3の状態割合は、Ni2p3/2のピークを各化学状態に対応する波形に分離し、Ni2p3/2のピーク面積に占めるNiOに対応するピーク面積、又は、Ni2O3に対応するピーク面積の割合から算出した。
SnOの状態割合、および、SnO2の状態割合は、Sn3d5/2のピークを各化学状態に対応する波形に分離し、Sn3d5/2のピーク面積に占めるSnOに対応するピーク面積、又は、SnO2に対応するピーク面積の割合から算出した。
【0044】
<3点曲げ試験>
実施例および比較例にて得られた酸化処理めっき板を、50mm×50mmのサイズに切断し、50mm×50mmのサイズの試料の向かい合う2辺を、一対の支持部材(支持端子径2mm、支持幅40mm)で支持した状態で、基準面より浮かせた状態で載置し、この状態にて、酸化処理めっき板の酸化処理めっき皮膜形成面の、向かい合う2辺の中央付近を、半径5mm、幅50mmの圧子により、60Nの荷重を2mm/分の条件にて付加することで、3点曲げ試験を行った。そして、3点曲げ試験前後の酸化処理めっき板について、光学干渉縞計(製品名「平面度検査器(FT‐M100P)」、株式会社溝尻光学工業所製)を用いて、干渉縞の変化を観測し、以下の基準で評価した。3点曲げ試験前後において、干渉縞の変化が観測されなければ、曲げ強度に優れると判断でき、一方、干渉縞の変化が観測された場合には、曲げ強度に劣ると判断できる。
〇:3点曲げ試験前後において、干渉縞の変化が観測されない。
×:3点曲げ試験前後において、干渉縞の変化が観測された。
【0045】
<キズ付け試験>
実施例および比較例にて得られた酸化処理めっき板の酸化処理めっき皮膜形成面に対し、鉛直方向に硬質合金針を載置し、荷重50g/kgfを印加した状態で引っ掻き試験を行い、レーザー顕微鏡(オリンパス社製、「LEXT(OLS3500)」)にて、キズ深さの測定を行った。キズ深さが浅いほど、硬度が高いと判断することができる。
〇:キズ深さが1μm以下
×:キズ深さが1μm超
【0046】
<吸着用樹脂の密着性>
実施例および比較例にて得られた吸着用樹脂層を備える酸化処理めっき板の、吸着用樹脂層にシッカロール(アサヒグループ食品株式会社製)を塗布し、前記吸着用樹脂層をカッターにより幅20mmに切出し、端部より20mmの長さで剥離した。剥離部にガムテープ(日東電工CSシステム株式会社製、「スーパー布テープNo.757スーパー」)を両面に貼付し、テンシロン万能材料試験機RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用いて180°方向に、50mm/分の速度で上記吸着樹脂層のピール強度(剥離荷重)の測定を行った。ピール強度の値が高いほど、酸化処理めっき板と、吸着用樹脂層との密着性が高いことを示している。なお、吸着用樹脂層との密着性の観点より、ピール強度の値は0.35N/20mm以上であることが望ましく、また、上述したように、電子部品搬送用冶具の製造工程において、不要な吸着用樹脂を剥離する場合もあるため、このような不要な吸着用樹脂を剥離する際における、剥離性の観点より、ピール強度の値は2N/20mm以下であることが望ましい。
【0047】
《実施例1》
厚さ0.68mmのアルミニウム板(Al#5000)を準備した。そして、準備したアルミニウム板を脱脂し、エッチング、脱スマット、1stジンケート、脱ジンケート、2ndジンケートの各前処理をこの順に行い、各工程間で水洗を実施した後、Ni-Pめっき浴(公知のリンゴ酸‐コハク酸系無電解Ni-Pめっき浴)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ10μmのNi-P合金めっき層(Pの含有量:12.0~12.5重量%)を形成した。次いで、Ni-P合金めっき層を形成したアルミニウム板について、30重量%のH2O2水溶液に、浸漬温度25℃、浸漬時間30分の条件で浸漬することで酸化処理を行い、アルミニウム上に、亜鉛を含有する下地層を介して、厚さ10μmの酸化処理めっき皮膜が形成されてなる酸化処理めっき板を得た。そして、得られた酸化処理めっき板について、上記方法に従って、XPS測定の結果より、全元素中の酸素元素の存在割合、Pの酸化物の状態割合、NiOの状態割合、および、Ni2O3の状態割合を算出するとともに、3点曲げ試験およびキズ付け試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
次いで、上記にて得られた酸化処理めっき板の、酸化処理めっき層が形成された面に、吸着用樹脂として、非シリコーン系樹脂(ポリエーテル系の樹脂)からなる層を形成し、110℃、10分間の条件で加熱することで、非シリコーン系樹脂を硬化させることで、酸化処理めっき板上に、厚さ100μmの非シリコーン系樹脂層(吸着用樹脂層)を形成した。そして、非シリコーン系樹脂層を備える酸化処理めっき板について、上記方法にしたがって、ピール強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
《実施例2~7》
H2O2水溶液を用いた酸化処理の条件を表1に示す条件にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、酸化処理めっき板、および非シリコーン系樹脂層を備える酸化処理めっき板を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
《実施例8》
低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板を準備した。そして、準備した鋼板を脱脂し、水洗し、酸洗し、水洗した後、下記の錫めっき浴を用い、下記のめっき条件にて、錫めっき層を形成した鋼板を得て、水酸化ナトリウム(NaOH)でpH13に調整した6重量%の次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液に、浸漬温度70℃、浸漬時間20分の条件で浸漬することで酸化処理を行い、鋼板上に、厚さ1.0μmの酸化処理めっき皮膜が形成されてなる酸化処理めっき板を得た。そして、得られた酸化処理めっき板を用いて、実施例1と同様に評価するとともに、得られた酸化処理めっき板を用いて、非シリコーン系樹脂層を備える酸化処理めっき板を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
<錫めっき浴および錫めっき条件>
硫酸第一錫 80g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
浴温 40℃
電流密度 10A/dm2
【0051】
《比較例1》
H2O2水溶液を用いた酸化処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、めっき板、および非シリコーン系樹脂層を備えるめっき板を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0052】
《比較例2》
H2O2水溶液を用いた酸化処理に代えて、水酸化ナトリウム水溶液を用いた塩基処理を行った以外は、実施例1と同様にして、塩基処理めっき板、および非シリコーン系樹脂層を備える塩基処理めっき板を製造し、同様に評価を行った。なお、水酸化ナトリウム水溶液を用いた塩基処理は、pH=12の水酸化ナトリウム水溶液を使用し、95℃、30分の条件で行った。結果を表1に示す。
【0053】
《比較例3》
厚さ0.5mmのアルミニウム板(Al#5000)を準備した。そして、準備したアルミニウム板を脱脂し、水洗した後、アルマイト処理を行うことで、アルマイト処理板を得た。そして、得られた、アルマイト処理板を用いて、実施例1と同様に評価を行うとともに、得られたアルマイト処理板を用いて、非シリコーン系樹脂層を備えるアルマイト処理板を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
なお、表1中において、「各元素のめっき皮膜最表面の酸化状態割合」は、各元素中における、酸化物の割合を示す(表2においても同様。)。すなわち、たとえば、「NiO」、「Ni
2O
3」であれば、最表面における全Niの化学状態(Ni単体、Ni酸化物、Ni酸化物以外のNi化合物)を100%とした場合における、「NiO」の状態のNi、または、「Ni
2O
3」の状態のNiの占める割合を示す(たとえば、実施例1では、「NiO」の状態、および「Ni
2O
3」の状態以外の状態のNiが、80.20%の割合で存在していることとなる。)。また、「Pの酸化物」であれば、最表面における全Pの化学状態(P単体、P酸化物、P酸化物以外のP化合物)を100%とした場合における、「Pの酸化物」の状態のPの占める割合を示し、「SnO」、「SnO
2」であれば、最表面における全Snの化学状態(Sn単体、Sn酸化物、Sn酸化物以外のSn化合物)を100%とした場合における、「SnO」の状態のSn、または、「SnO
2」の状態のSnの占める割合を示す。
【0055】
表1に示すように、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜を備え、かつ、該酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が1%以上である場合には、3点曲げ試験による強度、およびキズ付け試験による硬度に優れ、吸着用樹脂に対する密着性(ピール強度)も適切な範囲内にあり、良好な結果であった(実施例1~8)。
一方、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜を備える場合でも、該酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が1%未満である場合には、吸着用樹脂に対する密着性が不十分であり(比較例1,2)、また、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜に代えて、アルマイト処理を行った場合には、3点曲げ試験による強度、およびキズ付け試験による硬度が低く、さらには、吸着用樹脂に対する密着性(ピール強度)が高すぎるものとなる結果となった(比較例3)。
【0056】
《実施例9》
厚さ0.68mmのアルミニウム板(Al#5000)を準備した。そして、準備したアルミニウム板を脱脂し、エッチング、脱スマット、1stジンケート、脱ジンケート、2ndジンケートの各前処理をこの順に行い、各工程間で水洗を実施した後、Ni-Pめっき浴(公知のリンゴ酸‐コハク酸系無電解Ni-Pめっき浴)を用いて、無電解めっきにより、基材上に、厚さ10μmのNi-P合金めっき層(P含有量:12.0~12.5重量%)を形成した。次いで、Ni-P合金めっき層を形成したアルミニウム板について、15重量%のH2O2水溶液に、浸漬温度70℃、浸漬時間10分の条件で浸漬することで酸化処理を行い、アルミニウム上に、亜鉛を含有する下地層を介して、厚さ10μmの酸化処理めっき皮膜が形成されてなる酸化処理めっき板を得た。そして、得られた酸化処理めっき板について、上記方法に従って、XPS測定の結果より、全元素中の酸素元素の存在割合、Pの酸化物の状態割合、NiOの状態割合、および、Ni2O3の状態割合を算出するとともに、3点曲げ試験およびキズ付け試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
次いで、上記にて得られた酸化処理めっき板の、酸化処理めっき層が形成された面に、吸着用樹脂として、ジメチルシロキサン(DMS)からなる層を形成し、85℃、10分間の条件で加熱することで、ジメチルシロキサン(DMS)からなる層を硬化させることで、酸化処理めっき板上に、厚さ100μmのポリジメチルシロキサン(PDMS)層(吸着用樹脂層)を形成した。そして、PDMS層を備える酸化処理めっき板について、上記方法にしたがって、ピール強度の測定を行った。結果を表2に示す。
【0058】
《実施例10~17》
H2O2水溶液を用いた酸化処理の条件を表2に示す条件にそれぞれ変更した以外は、実施例9と同様にして、酸化処理めっき板、およびPDMS層を備える酸化処理めっき板を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0059】
《実施例18》
低炭素アルミキルド鋼の冷間圧延板(厚さ0.25mm)を焼鈍して得られた鋼板を準備した。そして、準備した鋼板を脱脂し、水洗し、酸洗し、水洗した後、下記の錫めっき浴を用い、下記のめっき条件にて、錫めっき層を形成した鋼板を得て、6重量%の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(NaClO)に、浸漬温度70℃、浸漬時間20分の条件で浸漬することで酸化処理を行い、鋼板上に、厚さ1.0μmの酸化処理めっき皮膜が形成されてなる酸化処理めっき板を得た。そして、得られた酸化処理めっき板を用いて、実施例9と同様に評価するとともに、得られた酸化処理めっき板を用いて、PDMS層を備える酸化処理めっき板を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
<錫めっき浴および錫めっき条件>
硫酸第一錫 80g/L
フェノールスルホン酸 60g/L
浴温 40℃
電流密度 10A/dm2
【0060】
《比較例4》
厚さ0.68mmのアルミニウム板(Al#5000)を準備した。そして、準備したアルミニウム板を脱脂し、水洗した後、アルマイト処理を行うことで、アルマイト処理板を得た。そして、得られた、アルマイト処理板を用いて、実施例10と同様に評価を行うとともに、得られたアルマイト処理板を用いて、PDMS層を備えるアルマイト処理板を製造し、同様に評価を行った。結果を表2に示す。
【0061】
【0062】
表2に示すように、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜を備え、かつ、該酸化処理めっき皮膜の最表面における全Ni元素中における酸化状態にあるNiとしてのNi2O3の状態割合、又は最表面における全Sn元素中における酸化状態にあるSnとしてのSnO2の状態割合が1%以上である場合には、3点曲げ試験による強度、およびキズ付け試験による硬度に優れ、吸着用樹脂に対する密着性(ピール強度)も適切な範囲内にあり、良好な結果であった(実施例9~18)。
一方、Ni、SnおよびPから選択される少なくとも1種の元素を含む酸化処理めっき皮膜に代えて、アルマイト処理を行った場合には、吸着用樹脂に対する密着性(ピール強度)が良好であったものの、3点曲げ試験による強度、およびキズ付け試験による硬度が低い結果となった(比較例4)。
【符号の説明】
【0063】
10…電子部品搬送用冶具用の基材
11…金属板
12…酸化処理めっき皮膜
20…樹脂層
21…樹脂吸着部
30…賦形用金型
31…キャビティ
40…電子部品搬送用冶具
50…ストッカ
60…電子部品
70…回路基板