(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】パック電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/35 20210101AFI20231212BHJP
H01M 50/367 20210101ALI20231212BHJP
H01M 50/213 20210101ALI20231212BHJP
H01M 50/204 20210101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M50/35 201
H01M50/367
H01M50/213
H01M50/204 401F
(21)【出願番号】P 2020567396
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019047084
(87)【国際公開番号】W WO2020152992
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019011544
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】若林 健明
(72)【発明者】
【氏名】竹田 憲作
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-73561(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136193(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/156001(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/073454(WO,A1)
【文献】特開2019-29086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/30
H01M 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内圧が設定圧力を越えると開弁する排出弁を有する電池セルと、
前記電池セルを収納してなるケースとを備えるパック電池であって、
前記ケースは、前記排出弁から噴出される排出ガスを、前記ケース外に排出する複数の排煙孔を有し、
前記電池セルの排出弁側端面と対向する前記ケース内面との間に拡散隙間を設けて防炎カバーを配置しており、さらに
前記ケースの内部には、前記防炎カバーで拡散された排出ガスの膨張スペースを設けており、
前記排煙孔の排出ガスの排出方向は、前記排出弁の排出ガス噴射方向に交差する方向に開口され、
前記膨張スペースは、
前記拡散隙間と、前記ケース内面の前記排煙孔の内側開口部に連通され、かつ、
前記ケースの内部を流動するガスの方向転換部を前記ケース隅部に設けており、
前記排出弁から噴射される排出ガスが、
前記防炎カバーに衝突して前記拡散隙間を介して前記膨張スペースに充満され、
前記膨張スペースで方向転換されて複数の前記排煙孔に分散されて前記ケース外に排出されるようにしてなることを特徴とするパック電池。
【請求項2】
請求項1に記載するパック電池であって、
防炎カバーが耐熱性の板材であることを特徴とするパック電池。
【請求項3】
請求項2に記載するパック電池であって、
防炎カバーが、無機プレート、金属プレート、耐熱製のプラスチック板の何れかであることを特徴とするパック電池。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載するパック電池であって、
前記ケースが側壁に10個以上の前記排煙孔を開口しており、
前記排煙孔の内径が、0.5mm以上であって3mm以下であることを特徴とするパック電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載するパック電池であって、
複数の前記排煙孔が、前記防炎カバーに対して直交するケース面に開口されてなることを特徴とするパック電池。
【請求項6】
請求項5に記載するパック電池であって、
前記ケースが、表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、
前記排煙孔が、前記ケースの前記周壁に設けられてなることを特徴とするパック電池。
【請求項7】
請求項5に記載するパック電池であって、
前記ケースが、表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、
前記排煙孔が、前記ケースの前記表面プレートに設けられてなることを特徴とするパック電池。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載するパック電池であって、
前記電池セルが非水系電解液二次電池であることを特徴とするパック電池。
【請求項9】
請求項8に記載するパック電池であって、
前記電池セルがリチウムイオン電池であることを特徴とするパック電池。
【請求項10】
請求項8又は9に記載するパック電池であって、
前記電池セルの容量が5Ah以下であることを特徴とするパック電池。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載するパック電池であって、
前記電池セルが円筒形電池で、複数の円筒形電池が端面を同一平面に配置し、かつ平行姿勢に配置されて電池ブロックを構成しており、
前記ケースが、四角形である一対の表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、
前記周壁は、前記電池ブロックのブロック端面との対向位置にある端部壁と、前記電池ブロックの両側の側部壁とからなり、
前記防炎カバーが前記ブロック端面と端部壁との間に配置され、
前記排煙孔が前記周壁と前記表面プレートの何れかに配置されてなることを特徴とするパック電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外装ケースに充電できる電池を収納しているパック電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型電気機器の電源として使用されるパック電池は、近年高出力化が一層求められており、単位体積あたりの効率に優れたリチウムイオン電池等の非水系電解液二次電池が採用されている。リチウムイオン電池は、高出力である反面、何らかの原因によって内圧が上昇することがある。電池の内圧上昇に対する安全性を確保するために、設定圧力で開弁して破裂を防止する排出弁を設けている。外装ケースに複数の貫通穴を設けて、内部の通気性を向上し、電池の放熱を進行して、ケース内に熱がこもることを防止するパック電池は開発されている。(特許文献1参照)
【0003】
このパック電池は、排出弁の排出ガスを貫通穴からケース外に排気できるが、排出弁から高温の排出ガスが排出されると、安全を確保できない弊害がある。外装ケースにリチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池を内蔵するパック電池は、排出弁が開弁する状態では、電池は異常な発熱状態にあって、排出弁からは高温のガスが勢いよく噴出される。排出弁から噴射される高温のガスは、熱エネルギーと運動エネルギーが高く、外装ケースを熱溶融して破損する。破損された外装ケースは高温の噴出ガスをケース外に噴出するが、外部に噴射されたガスは空気に触れて発火することがある。また、外装ケース内で生じる火炎が、外装ケースの穴からケース外に放出するため、さらに安全性を確保できない。
【0004】
排出弁からの排出ガスによる外装ケースの損傷を防止するために、電池の排出弁側端面との対向位置に耐熱性のスペーサを配置するパック電池は開発されている。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-162795号公報
【文献】特開昭2010-55957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2のパック電池は、電池の排出弁側端面と外装ケース内面との間に、マイカプレート等の耐熱性の板材を配置している。このパック電池は、排出弁から噴射される排出ガスをマイカプレートに衝突させて、直接に外装ケースに噴射されるのを防止できる。しかしながら、非水系電解液二次電池であるリチウムイオン電池の排出弁から噴射される排出ガスは、400℃以上と異常に高温で、しかも勢いよく噴射されることから、マイカプレートに衝突して、表方向に方向転換した後も、異常な高温を保持しながら、勢いよく外装ケースの内面に衝突する。この状態で外装ケース内面に噴射される排出ガスは、外装ケースを熱溶融して損傷し、損傷部から排出ガスをケース外に噴射する。排出弁から噴射される高温の排出ガスがケース外に勢いよく噴射されるパック電池は、発煙、発火などによって充分な安全性を確保できない。
【0007】
本発明は、このような本発明者らの知見に基づきなされたものである。本発明の主な目的は、電池の排出弁から噴射される高温の排出ガスによる弊害及び火炎がケース外へ放出することを抑制して安全性を向上できるパック電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のパック電池は、内圧が設定圧力を越えると開弁する排出弁を有する電池セル1と、電池セル1を収納してなるケース2とを備えている。ケース2は、排出弁から噴出される排出ガスを、ケース外に排出する複数の排煙孔27を有しており、電池セル1の排出弁側端面1aと対向するケース内面との間に拡散隙間28を設けて防炎カバー6を配置している。さらに、ケース2の内部には、防炎カバー6で拡散された排出ガスの膨張スペース25を設けており、排煙孔27は、排出ガスの排出方向を、排出弁の排出ガス噴射方向に交差する方向とするケース面に開口している。膨張スペース25は、拡散隙間28と、ケース内面の排煙孔27の内側開口部に連通され、かつ、ケース2の内部を流動するガスの方向転換部29をケース隅部に設けており、排出弁から噴射される排出ガスが、防炎カバー6に衝突して拡散隙間28を介して膨張スペース25に充満され、膨張スペース25で方向転換されて複数の排煙孔27に分散されてケース外に排出されるようにしている。
【発明の効果】
【0009】
以上のパック電池は、開弁する排出弁から噴射される高温の排出ガスが外装ケースの外部に勢いよく噴射されるのを抑制して、発火などの弊害を防止して安全性を向上できる特徴がある。それは、以上のパック電池が、排出弁から噴射される高温で高エネルギーの排出ガスを、防炎カバーに衝突させて拡散隙間で周囲に拡散し、さらに方向転換してエネルギーを減衰した後、拡散隙間から膨張スペースに充満し、膨張スペースに流入された排出ガスをケース隅部に設けた方向転換部でガスの流動方向を転換してさらにエネルギーを減衰し、膨張スペースでもって排出ガスの流動経路を長くしてエネルギーをさらに減衰し、エネルギーの減衰された排出ガスを複数の排煙孔に分散してケース外にスムーズに排気するからである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態1に係るパック電池の内部構造を示す概略水平断面図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るパック電池の垂直横断面図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係るパック電池の垂直縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係るパック電池の内部構造を示す概略斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態2に係るパック電池の内部構造を示す概略斜視図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係るパック電池の内部構造を示す概略水平断面図である。
【
図7】本発明の実施形態2に係るパック電池の垂直縦断面図である。
【
図8】多孔板の積層状態を示す一部拡大平面図である。
【
図10】多孔板の積層状態を示す拡大断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の発明は、内圧が設定圧力を越えると開弁する排出弁を有する電池セルと、電池セルを収納してなるケースとを備えるパック電池であって、ケースが、排出弁から噴出される排出ガスを、ケース外に排出する複数の排煙孔を有しており、電池セルの排出弁側端面と対向するケース内面との間に拡散隙間を設けて防炎カバーを配置しており、さらに、ケースの内部には、防炎カバーで拡散された排出ガスの膨張スペースを設けており、排煙孔は、排出ガスの排出方向を、排出弁の排出ガス噴射方向に交差する方向とするケース面に開口され、膨張スペースは、拡散隙間と、ケース内面の排煙孔の内側開口部に連通され、かつ、ケースの内部を流動するガスの方向転換部をケース隅部に設けており、排出弁から噴射される排出ガスが、防炎カバーに衝突して拡散隙間を介して膨張スペースに充満され、膨張スペースで方向転換されて複数の排煙孔に分散されてケース外に排出されるようにしている。
【0012】
本発明の第2の発明は、防炎カバーを耐熱性の板材としている。以上のパック電池は、防炎カバーをケース内の定位置に簡単に配置できる。それは、防炎カバーを耐熱性の板材とするからである。
【0013】
本発明の第3の発明は、防炎カバーを、無機プレート、金属プレート、耐熱製のプラスチック板の何れかとしている。
【0014】
本発明の第4の発明は、ケースが側壁に10個以上の排煙孔を開口しており、排煙孔の内径を、0.5mm以上であって3mm以下としている。
【0015】
本発明の第5の発明は、複数の排煙孔を、防炎カバーに対して直交するケース面に開口している。
【0016】
本発明の第6の発明は、ケースが、表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、排煙孔が、ケースの周壁に設けられている。
【0017】
本発明の第7の発明は、ケースが、表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、排煙孔が、ケースの表面プレートに設けられている。
【0018】
本発明の第8の発明は、電池セルを非水系電解液二次電池としている。さらに、本発明の第9の発明は、電池セルをリチウムイオン電池としている。さらにまた、本発明の第10の発明は、電池セルの容量を5Ah以下としている。
【0019】
本発明の第11の発明は、電池セルが円筒形電池で、複数の円筒形電池が端面を同一平面に配置し、かつ平行姿勢に配置されて電池ブロックを構成しており、ケースが、四角形である一対の表面プレートの周囲に周壁を設けてなる直方体で、周壁は、電池ブロックのブロック端面との対向位置にある端部壁と、電池ブロックの両側の側部壁とからなり、防炎カバーがブロック端面と端部壁との間に配置され、排煙孔を周壁と表面プレートの何れかに配置している。
【0020】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0021】
(実施形態1)
図1~
図4に示すパック電池100は、複数の電池セル1と、各々の電池セル1を定位置に配置している電池ホルダー4と、電池ホルダー4に固定している回路基板3と、電池セル1の排出弁開口部との対向位置に配置している防炎カバー6と、電池ホルダー4で定位置に配置している電池セル1と回路基板3と防炎カバー6を内部に配置しているケース2とを備える。
【0022】
(電池セル1)
電池セル1は円筒形電池である。円筒形電池は、円筒状の金属ケースに電極と電解液を収納している。金属ケースは、底を閉塞している外装缶の開口部に、封口板を気密に固定している密閉構造としている。外装缶は、金属板をプレス加工して製作される。封口板は、絶縁材のパッキンを介して外装缶の開口部周縁にカシメ加工して気密に固定される。
【0023】
電池セル1は、図示しないが、金属ケースの内圧が異常に高くなって破損するのを防止するために、封口板に排出弁を設けている。排出弁は、開口する状態で内部のガスなどを排出する開口部を封口板に設けている。ただし、電池セルは、外装缶の底部に排出弁とその開口部を設けることもできる。排出弁は、内圧が設定圧力、たとえば1.5MPaよりも高くなると開弁して、内圧上昇による金属ケースの破壊を防止する。排出弁は、異常な状態で開弁される。したがって、排出弁が開弁する状態では、電池セル1の温度も非常に高くなっている。このため、開弁する排出弁から排出されるガスや電解液(噴出物)は異常な高温となっている。とくに、電池セル1をリチウムイオン電池等の非水系電解液二次電池とするパック電池は、排出ガスが400℃以上である異常な高温となる。さらに、リチウムイオン電池は、非水系の電解液を充填していることから、これが高温でケース外に排出されると、空気に触れて発火して、さらに異常な高温となることがある。リチウムイオン電池に限らず、他の充電できる電池においても、開弁する排出弁から噴出される排出ガスは高温となるので、排出ガスのエネルギーを減衰してケース外に排気することは安全性を高くすることから大切である。
【0024】
(電池ホルダー4)
図1~
図4のパック電池100は、複数の電池セル1を電池ホルダー4で定位置に配置して電池ブロック10としてケース2内に配置している。電池ブロック10は、2組の電池組立11からなる。電池組立11は、電池ホルダー4に電池セル1を挿入して電池セル1を定位置に配置している。電池ホルダー4は、ケース2の側部壁23と平行に4列に電池セル1を配置している。2組の電池組立11がケース2の長手方向に2段に配列されて、4列2段に8本の電池セル1を直列と並列に接続している電池ブロック10を構成している。各々の電池組立11は、2本の電池セル1の排出弁の開口部を端部壁24と対向してケース2内に配置している。図のパック電池100は、電池組立11を4個の電池セル1で構成して、2組の電池組立11で電池ブロック10を構成して、電池ブロック10をケース2内に配置しているが、本発明のパック電池は、ケースに収納する電池セルの個数や接続状態を特定しない。
【0025】
(回路基板3)
回路基板3は、電池セル1に接続されて電池セル1の保護回路を実現する電子部品(図示せず)を実装している。保護回路は、電池セル1の過充電や過放電を防止する回路、あるいは過電流を防止する回路、あるいは又温度が異常に上昇する状態で電流を遮断する回路である。
【0026】
(防炎カバー6)
防炎カバー6は、ケース2の内面であって、電池セル1の排出弁側端面1aとの対向位置に配置される。防炎カバー6は、排出弁から噴射される排出ガスを衝突させて周囲に拡散できるように、電池セル1の排出弁側端面1aとの間に拡散隙間28を設けている。
図1のパック電池100は、4本の電池セル1の端面を同一平面に配置してブロック端面10aに配置するが、2本の電池セル1は排出弁側端面1a(図にあってプラス電極)をブロック端面10aに配置して、2本の電池セル1は排出弁を設けない電極端面1b(マイナス電極)をブロック端面10aに配置している。防炎カバー6は、ケース2の内面であって、電池ブロック10のブロック端面10aの全面との対向位置に配置している。この防炎カバー6は、排出弁側端面1aと、排出弁のない電極端面1bに防炎カバー6を配置しているので、ブロック端面10aの全体に拡散隙間28を設けて、排出弁から排出される排出ガスを、ブロック端面10aの全面に拡散して膨張スペース25に流入できる。
【0027】
拡散隙間28は、狭すぎると排出ガスをスムーズに通過できないので、好ましくは0.5mmよりも広く、好ましくは1mm以上とする。拡散隙間28を広くするとケース2の外形が大きくなるので、好ましくは拡散隙間28は5mmより狭くする。とくに、本発明のパック電池は、たとえば、電池セル1の充電容量を5Ah以下とする、比較的小容量の電池セルを内蔵する家電製品用の小形パック電池に適しているので、全体の構造を簡素化して、小形軽量化することは大切である。
【0028】
防炎カバー6は、排出弁から噴射される排出ガスで溶融されない耐熱プレートである。防炎カバー6は、無機繊維をシート状や板状に集合している無機プレートや、無機繊維をプラスチックに埋設している耐熱プレートが使用できる。さらに、防炎カバー6は、マイカプレートや無機質材を板状に成形している無機プレート、あるいは金属プレート等も使用でき、さらに、耐熱特性に優れたプラスチック、たとえば、ナイロン樹脂やフッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を位置状に成形した耐熱プレート、さらに、シリコン樹脂やポリイミド樹脂等のより耐熱特性の優れたプラスチックを板状に成形した耐熱プレートも使用できる。
【0029】
(ケース2)
ケース2は、全体を四角形の直方体に成形される。ケース2は、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂で成形される。ケース2は、内部に電池ホルダー4で定位置に配置している複数の電池セル1と回路基板3と防炎カバー6を内蔵している。図のケース2は、上ケース2Aと下ケース2Bとからなる。下ケース2Bと上ケース2Aは、四角形、図にあっては長方形の表面プレート21の周囲に周壁22を設けている。下ケース2Bと上ケース2Aは、周壁22の開口端面を合わせ面として連結している。周壁22は、長方形の表面プレート21の長手方向に伸びる両側の側部壁23と、この側部壁11に直交する端部壁24とからなる。
図1と
図3のケース2は、端部壁24を電池セル1の排出弁側端面1aに対向する位置に配置するように電池ブロック10を配置しているので、端部壁24の内面に防炎カバー6を配置している。
【0030】
(排煙孔27)
ケース2は、複数の排煙孔27を設けている。
図1~
図4のケース2は、ケース2の側部壁23に複数の排煙孔27を設けている。排煙孔27は、小さくして排出ガスの透過抵抗を大きくでき、個数を多くしてトータルでの透過抵抗を少なくできるので、内径と個数を、排出ガスを低エネルギーに減衰してスムーズに分散して排気できるように設定する。排煙孔27の内径と個数は、電池セル1の容量、すなわち開弁した排出弁から排出される排出ガス量に最適設計される。たとえば、通称「18650」と呼ばれる円筒形のリチウムイオン電池にあっては、好ましくは内径を0.5mm~3mm、個数を10個~100個とする。ただし、本発明は、排煙孔27の内径や個数を特定するものでなく、これ等は、電池セル1の種類、容量、要求される安全性などを考慮して最適値に設定される。排煙孔27は、
図1及び
図2の鎖線で示すように、排出ガスで剥離されるラベル7を付着している。このように、排煙孔27をラベル7で塞ぐことで、排出弁が開弁しない状態で異物が侵入するのを防止している。
【0031】
(膨張スペース25)
ケース2は、防炎カバー6に衝突して拡散隙間28で拡散された排出ガスの膨張スペース25を内部に設けている。膨張スペース25は、拡散隙間28と排煙孔27に連通されて、拡散隙間28から流入される排出ガスを膨張させて分散し、さらに方向転換して複数の排煙孔27に分散して流入させる。膨張スペース25は、ケース内面と内蔵物との隙間で構成される。ケース2内には、電池セル1を電池ホルダー4で定位置に固定している電池組立11と、電池ホルダー4に固定している回路基板3を内蔵するので、これ等の内蔵物とケース内面との間にできる空隙、および内蔵物である電池セル1、電池ホルダー4、回路基板3の間に連通してできる全ての隙間で構成される。膨張スペース25は容積を大きくして、拡散隙間28から流入される排出ガスをより大容積に膨張できる。したがって、膨張スペース25は拡散隙間28に比較して充分に大きな容積、好ましくは、拡散隙間28の10倍以上、さらに好ましくは50倍以上に設定される。
【0032】
膨張スペース25は、ケース2の隅部で排出ガスの流動方向を変更する方向転換部29を設けている。方向転換部29は、排出ガスを方向転換してエネルギーを減衰させる。
図1~
図3のケース2は、表面プレート21と側部壁23と端部壁24とのコーナー部に方向転換部29を設けている。
【0033】
(実施形態2)
図5~
図7のパック電池200は、ケース2の表面プレート21に開口部26を設け、この開口部26に排煙孔27を設けた多孔板5で塞ぐ構造とする以外は、実施形態1と同じ構造とする。
図5~
図7のケース2は、上ケース2Aの表面プレート21のほぼ全面に開口部26を設けている。このパック電池200は、ケース2の開口部26を大きくして、排出ガスをスムーズに排気できるので、開口部26の開口面積は、好ましくは表面プレート21の40%以上、さらに好ましくは50%以上とする。この図のケース2は、四角形の表面プレート21に四角形の開口部26を設けて、開口部26の開口面積を大きくしている。
【0034】
開口部26は、排出ガスが通過できる排煙孔27を設けた多孔板5で塞いでいる。多孔板5は、表面プレート21に接着や溶着等の構造で接合して固定され、あるいは嵌合構造で固定される。多孔板5は、開口部26との間に隙間ができないように固定される。多孔板5は、排出ガスのエネルギーを減衰して排気するように、複数枚を積層している。積層された多孔板5の間には、排出ガスの膨張隙間8を設けている。積層された各々の多孔板5は、排煙孔27を対向しない非対向位置に配置して、排出ガスが複数の多孔板5を直線的に流れて排気しない構造としている。多孔板5はプラスチックを板状に成形して、多数の排煙孔27を設けている。
【0035】
多孔板5は、排出ガスのエネルギーを減衰して外部に排気できる耐熱特性のプラスチックを使用して、高エネルギーの排出ガスを安全に排気できる。多孔板5は、排出ガスの温度で熱変形しない耐熱特性のプラスチックで成形することを理想とするが、複数の多孔板5を膨張隙間8を設けて積層する構造は、必ずしも全ての多孔板5が排出ガスで熱変形しない耐熱特性とする必要はない。内側の多孔板5が熱変形しても、外側の多孔板5が残存する多数の排煙孔27で排出ガスを減衰して排気できる状態に保時して、パック電池200の安全は確保できるからである。複数枚を積層している多孔板5は、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂で射出成形して安価に多量生産できる特徴がある。ただし、本発明は、多孔板5のプラスチックを特定するものでなく、さらに優れた耐熱性の熱可塑性樹脂、たとえば、ナイロン樹脂やフッ素樹脂等の熱可塑性樹脂で成形することができ、さらにまた、シリコン樹脂やポリイミド樹脂のより耐熱特性の優れたプラスチックで成形することもできる。
【0036】
図8の平面図に示す多孔板5は、碁盤格子の交点に円形の排煙孔27を配置して、排煙孔27の縦横のピッチを一定としている。排煙孔27は、小さくして排出ガスの透過抵抗を大きくできるが、小さすぎると排出ガスをスムーズにケース2外に排気できないので、好ましくは内径を1mm~3mmとする。ケース2の最も内側に積層される多孔板5は、排出弁から勢いよく噴射された排出ガスが最初に透過する。この多孔板5は、排煙孔27を他の多孔板5よりも大きくして、排出弁から噴射される排出ガスをスムーズに排煙孔27に透過できる。ただし、全ての多孔板5の排煙孔27を同じ大きさとすることもできる。排煙孔27を透過した排出ガスは、膨張隙間8に噴出されて断熱膨張される。膨張隙間8で断熱膨張する排出ガスは温度が低下する。3枚以上の多孔板5を積層する構造は、複数層に膨張隙間8ができるので、排煙孔27を透過して膨張隙間8に流入される毎に断熱膨張して温度が低下する。
【0037】
多孔板5は、厚く成形して排煙孔27を長くして排出ガスの透過抵抗を大きくできるので、多孔板5の厚さは、好ましくは1mm~3mmとする。ただ、本発明は排煙孔27の内径と多孔板5の厚さを前述の範囲に特定するものでなく、より小さい排煙孔を多数設け、あるいはより大きい排煙孔を少数設け、さらに多孔板を薄くあるいは厚くして、排出ガスのエネルギーを減衰して排気する形状とすることもできる。排煙孔27のピッチは、対向する多孔板5の排煙孔27が非対向位置に配置されて、積層する多孔板5の対向位置に、排煙孔27の一部も配置されない寸法に設定される。排煙孔27を碁盤格子状に配置する多孔板5は、
図8の平面図に示すように、ひとつの多孔板5に設けた排煙孔27の周囲に、積層する多孔板5に設けた4個の排煙孔27が重ならない位置に配置する。ただし、互いに対向して配置される多孔板5に設けた排煙孔27の一部が重なる位置に配置する構造としても、排出ガスのエネルギーが減衰して安全に外部に排気できる構造は採用できる。それは、排煙孔27を透過した排出ガスのほとんどが、積層して多孔板5の表面に衝突してエネルギーを減衰するからである。
【0038】
多孔板5は、
図9と
図10に示すように、積層して一定の隙間の膨張隙間8ができるように、表面に突出部5bを一体的に成形して設けている。図に示す突出部5bは、多孔板5の側縁部に沿って一体成形されたスペーサリブとしている。スペーサリブである突出部5bの突出高さは、膨張隙間8の寸法を特定する。
図9の断面図に示す多孔板5は、膨張隙間8を多孔板5の厚さにほぼ等しくしているが、膨張隙間8は、多孔板5の厚さよりも狭く、あるいは広くすることもできる。狭い膨張隙間8は、排出ガスの透過抵抗を大きくして、排出ガスのエネルギーをより効果的に減衰できるが、排出ガスをスムーズに排気できなくなる。膨張隙間8を広くすると、複数の多孔板5を積層して厚くなる。したがって、膨張隙間8は、積層した多孔板5全体をできる限り薄くしながら、排出ガスをスムーズに排気でき、さらに発火などの弊害を防止して安全に排気できる寸法、たとえば、2mm~5mmに設定される。
【0039】
突出部5bは、多孔板5の外周部に点在して配置され、さらに必要であれば中央部にも配置して、膨張隙間8を一定に保持して積層できる。
図9及び
図10は、5層に積層している多孔板5を示している。これらの図に示す多孔板5は、平面多孔板5Aと中間多孔板5Bとからなる2種の多孔板5を交互に積層している。平面多孔板5Aと中間多孔板5Bは、対向しない位置、すなわち非対向位置に排煙孔27を設けている。中間多孔板5Aは、両面に突出する突出部5bを一体的に成形して設けている。この形状の多孔板5は、2種の多孔板5を交互に積層して、排煙孔27を非対向位置に配置し、かつ多孔板5の間に一定の膨張隙間8を設けて積層できる。
図9と
図10に示す多孔板5は、3枚の平面多孔板5Aと、2枚の中間多孔板5Bを積層して5層の積層構造としている。平面多孔板5Aは、両面と中間に積層され、中間多孔板5Bは、平面多孔板5Aの間に積層されている。この構造は、2種の形状に成形しているプラスチック製の多孔板5を、交互に積層して積層枚数を奇数枚の積層構造にできる。
図9と
図10に示す多孔板5は、最も内側に配置される平面多孔板5Aに設けた排煙孔27を他の多孔板5の排煙孔27よりも大きくしている。このように、ケース2の最も内側に積層する多孔板5の排煙孔27を大きくするパック電池100は、最も内側に積層する多孔板5のみ別に成形するので、3種の形状に成形した多孔板5を積層して、3層以上の奇数層に積層できる。
【0040】
パック電池200は、ケース2の内部に拡散隙間28と膨張スペース25を設けている。このパック電池200は、排出弁から噴射される排出ガスを防炎カバー6に噴射して、拡散隙間28と膨張スペース25とでエネルギーを減衰させた後、さらに積層された多孔板5に設けた排煙孔27と、多孔板5の間に設けた膨張隙間8とでエネルギーを減衰してケース外に排出する。排煙孔27は、排出ガスが透過する透過抵抗で、排出ガスのエネルギーを減衰し、膨張隙間8は排煙孔27を透過した排出ガスを多孔板5の表面に衝突させて、排出ガスのエネルギーを減衰する。
【0041】
図5の概略斜視図に示すパック電池200は、電池セル1から噴射される排出ガスの噴出方向と、多孔板5の排煙孔27を排出ガスが透過する方向とが互いに交差する方向に配置している。電池セル1は、長方形の表面プレート21の長手方向に伸びる姿勢で配置され、多孔板5は、表面プレート21に設けた開口部26を塞ぐように、表面プレート21と平行に配置される。電池セル1は、開弁する排出弁から表面プレート21の表面と平行な方向に排出ガスを噴射し、排煙孔27は、排出ガスを表面プレート21に直交する方向に透過して排気する。すなわち、排出ガスの噴射方向と、排煙孔27の排気方向は互いに交差する姿勢となり、図にあっては直交する方向となり、排出ガスは、ケース2内で方向変更して外部に排気される。
【0042】
排出弁からケース2内に噴射された排出ガスは、
図5~
図7の矢印で示す方向に流動してケース2外に排気される。電池セル1は、排出弁の開口部をケース2の端部壁24に対向して配置している。排出弁から噴射される排出ガスは、端部壁24に向かって噴射される。端部壁24の内側には防炎カバー6を配置しているので、排出ガスは防炎カバー6に衝突して拡散隙間28において周囲に飛散される。防炎カバー6に衝突して拡散隙間28で拡散された排出ガスは、膨張スペース25に流入してさらに拡散される。膨張スペース25に流入する排出ガスは、図の矢印で示すように、ケース2の内面に衝突し、分散され、方向転換されて排煙孔27から外部に排気される。図の矢印で示すように、ケース2の内面に衝突し、分散し、方向転換してエネルギーを減衰して排煙孔27を透過し、さらに排煙孔27と膨張隙間8とでエネルギーを減衰してケース2外に排気される。エネルギーを減衰してケース2外に排気する構造は、ケース2外での発火等の弊害を抑制して安全性を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、排出ガスを安全に排気するパック電池に有効に使用できる。
【符号の説明】
【0044】
100、200…パック電池
1…電池セル
1a…排出弁側端面
1b…電極端面
2…ケース
2A…上ケース
2B…下ケース
3…回路基板
4…電池ホルダー
5…多孔板
5A…平面多孔板
5B…中間多孔板
5b…突出部
6…防炎カバー
7…ラベル
8…膨張隙間
10…電池ブロック
10a…ブロック端面
11…電池組立
21…表面プレート
22…周壁
23…側部壁
24…端部壁
25…膨張スペース
26…開口部
27…排煙孔
28…拡散隙間
29…方向転換部