(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】車両の制御装置、制御方法、制御プログラム、マネージャ、及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 10/04 20060101AFI20231212BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231212BHJP
B60W 30/20 20060101ALI20231212BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20231212BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B60W10/00 104
B60W10/10
B60W30/20
F02D29/00 C
B60W10/06
(21)【出願番号】P 2021004377
(22)【出願日】2021-01-14
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宣之
(72)【発明者】
【氏名】福川 将城
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032892(JP,A)
【文献】特開2005-146953(JP,A)
【文献】特開2010-106676(JP,A)
【文献】特開2000-255284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F02D 29/00-29/06
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
F16H 61/14
F16H 61/38-61/64
F16D 25/00-39/00
F16D 48/00-48/12
B60T 15/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された制御装置であって、
運転支援システムから複数の第1の要求を受け付ける受付部と、
前記複数の第1の要求を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、前記第1の要求と異なる物理量である第2の要求を算出する算出部と、
前記第2の要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
フューエルカットの実施状態から前記フューエルカットの非実施状態への復帰に必要な第1駆動力を、前記アクチュエータシステムに含まれるパワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力下限に所定の駆動力を加算した駆動力としたときに、
前記調停部は、
前記第1駆動力を超える駆動力を要求する前記第1の要求があった場合、前記車両が発生する実駆動力が前
記駆動力下限に到達するまで、
調停結果として出力する駆動力である調停駆動力が前記第1駆動力以下となるように
前記複数の第1の要求を調停する、
制御装置。
【請求項2】
前記調停部は、前記第1駆動力を超える駆動力を要求する前記第1の要求があった場合、前記車両の実駆動力が前記パワートレインアクチュエータの前記駆動力下限に到達するまで、
前記調停駆動力を前記第1駆動力に設定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記調停部は、前記調停駆動力を前記第1駆動力に第1時間保持した後、前記調停駆動力を前記パワートレインアクチュエータの前記駆動力下限に設定する、
請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記調停部は、前記駆動力下限の出力を第2時間保持した後、調停結果として出力する駆動力を前記複数の第1の要求を調停した結果である要求駆動力まで漸増させる、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
車両に搭載されたマネージャであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付ける受付部と、
前記複数の行動計画を調停する調停部と、
前記調停部による調停結果に基づいて、運動要求を算出する算出部と、
前記運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、
フューエルカットの実施状態から前記フューエルカットの非実施状態への復帰に必要な第1駆動力を、前記アクチュエータシステムに含まれるパワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力下限に所定の駆動力を加算した駆動力としたときに、
前記調停部は、
前記第1駆動力を超える駆動力を要求する前記行動計画があった場合、前記車両が発生する実駆動力が前
記駆動力下限に到達するまで、
調停結果として出力する駆動力である調停駆動力が前記第1駆動力以下となるように
前記複数の行動計画を調停する、
マネージャ。
【請求項6】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターが実行する制御方法であって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の行動計画を調停するステップと、
前記調停するステップによる調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
フューエルカットの実施状態から前記フューエルカットの非実施状態への復帰に必要な第1駆動力を、前記アクチュエータシステムに含まれるパワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力下限に所定の駆動力を加算した駆動力としたときに、
前記調停するステップは、
前記第1駆動力を超える駆動力を要求する前記行動計画があった場合、前記車両が発生する実駆動力が前
記駆動力下限に到達するまで、
調停結果として出力する駆動力である調停駆動力が前記第1駆動力以下となるように
前記複数の行動計画を調停する、
制御方法。
【請求項7】
車両に搭載されたマネージャのコンピューターに実行させる制御プログラムであって、
複数のADASアプリケーションから複数の行動計画を受け付けるステップと、
前記複数の行動計画を調停するステップと、
前記調停するステップによる調停結果に基づいて、運動要求を算出するステップと、
前記運動要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配するステップと、を含み、
フューエルカットの実施状態から前記フューエルカットの非実施状態への復帰に必要な第1駆動力を、前記アクチュエータシステムに含まれるパワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力下限に所定の駆動力を加算した駆動力としたときに、
前記調停するステップは、
前記第1駆動力を超える駆動力を要求する前記行動計画があった場合、前記車両が発生する実駆動力が前
記駆動力下限に到達するまで、
調停結果として出力する駆動力である調停駆動力が前記第1駆動力以下となるように
前記複数の行動計画を調停する、
制御プログラム。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制御装置を搭載した、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される制御装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、車両の走行時にクラッチを開放して惰性走行を行う惰行制御とエンジンへの燃料供給を低減するフューエルカット制御とを実行可能な制御装置において、車両走行中のクラッチ開放によるショックを抑制する技術が開示されている。この特許文献1に記載の制御装置では、惰行制御の開始時には動力伝達経路上のトルク変動が収束した後にクラッチを開放することで、トルク変動に伴う振動などのショックが車両に発生するのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
運転支援システムなどからの要求に伴って、フューエルカットを実施状態から非実施状態に遷移させる場合、車両が実際に発生させている駆動力である実駆動力が、パワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力である駆動力下限に追従し始めるまでに時間を要する。
【0005】
この車両の実駆動力がパワートレインアクチュエータの駆動力下限に追従し始めるまでの間に、運転支援システムなどからパワートレインアクチュエータの駆動力下限を超える駆動力の要求があると、特にドライブシャフトが長い車両においては、ドライブシャフトが捻れて振動や音を生じてしまうおそれがある。
【0006】
本開示は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ドライブシャフトが捻れて振動や音が生じることを抑制することができる制御装置などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示技術の一態様は、車両に搭載された制御装置であって、運転支援システムから複数の第1の要求を受け付ける受付部と、複数の第1の要求を調停する調停部と、調停部による調停結果に基づいて、第1の要求と異なる物理量である第2の要求を算出する算出部と、第2の要求を複数のアクチュエータシステムの少なくとも1つに分配する分配部と、を備え、調停部は、フューエルカット状態からの復帰に必要な第1駆動力を超える駆動力を要求する第1の要求があった場合、車両が発生する実駆動力がアクチュエータシステムに含まれるパワートレインアクチュエータが現在の変速比において実現可能な駆動力下限に到達するまで、第1駆動力以下となるように調停する、制御装置である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の制御装置によれば、車両の実駆動力がパワートレインアクチュエータの駆動力下限に追従し始めるまでの間は、駆動力下限を超える駆動力の要求が生じないため、ドライブシャフトが捻れて振動や音が生じることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る制御装置とその周辺部の構成図
【
図2】制御装置の調停部が実行する調停制御の処理手順を説明するフローチャート
【
図3】本実施形態の制御装置が実行する調停制御を説明するタイミングチャート
【
図4】従来の制御装置が実行する調停制御を説明するタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の制御装置は、フューエルカット実施中かつ惰行中の車両において、フューエルカット状態からの復帰に必要な駆動力を超える駆動力の要求があった場合、パワートレインアクチュエータが現在の変速比においてアクセル全閉状態で実現可能な駆動力下限(アベイラビリティ下限)に基づいて調停を行う。この調停制御によって、ドライブシャフトが捻れて振動や音が生じることを抑制できる。
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
<実施形態>
[構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る車両に搭載される制御装置10とその周辺部の構成を示す図である。
図1に示した制御装置10は、運転支援システム20と、複数のアクチュエータシステム30及び40と、アクセルペダルセンサ50と、ブレーキペダルセンサ60とに、車載ネットワーク100を介して通信可能に接続されている。車載ネットワーク100は、CAN(Controller Area Network)やイーサネット(登録商標)などを例示できる。
【0012】
運転支援システム20は、所定のアプリケーションを実行することにより、少なくとも車両の駆動制御及び制動制御を含む車両の運転を支援する様々な機能を実現するための構成である。運転支援システム20が実装するアプリケーションとしては、自動運転機能を実現する自動運転アプリケーション、自動駐車の機能を実現する自動駐車アプリケーション、及び先進運転支援アプリケーションなどを例示できる。先進運転支援アプリケーションには、前車追従を行うアダプティブクルーズコントロール(ACC)機能を実現するアプリケーションや、車線維持を行うレーンキープアシスト(LKA)機能を実現するアプリケーションや、衝突の被害を軽減させる衝突被害軽減ブレーキ(AEB)機能を実現するアプリケーションなどの複数のADASアプリケーションが含まれる。この運転支援システム20は、図示しない各種センサなどから取得する車両の情報に基づいて、アプリケーション単独での機能性(商品性)を担保した行動計画(前後加速度/減速度など)の要求を出力する。
【0013】
この運転支援システム20は、CPUなどのプロセッサ、メモリ、及び入出力インターフェイスを有するECUなどのコンピューターによって実現される。なお、運転支援システム20が実装するアプリケーションの数は、特に限定されない。また、運転支援システム20として、アプリケーションごとにそれぞれのECUが設けられてもよい。例えば、自動運転アプリケーションが実装された自動運転ECU、自動駐車アプリケーションが実装された自動駐車ECU、及び先進運転支援アプリケーションが実装されたADAS-ECUによって、運転支援システム20が構成されてもよい。また、ACC機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、LKA機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECU、及びAEB機能を実現するADASアプリケーションが実装されたECUのように、複数のADASアプリケーションが複数の装置に実装されてもよい。
【0014】
アクチュエータシステム30及び40は、運転支援システム20が出力する行動計画要求を実現するための実現システムの1つである。アクチュエータシステム30は、車両に駆動力を発生させることが可能なパワートレインアクチュエータ31を含み、パワートレインアクチュエータ31の動作を制御することにより、行動計画要求を実現させる。パワートレインアクチュエータ31としては、エンジンやトランスミッション(T/M)などを例示できる。なお、アクチュエータシステム40や他のアクチュエータシステムには、例えばブレーキアクチュエータやステアリングアクチュエータ(図示せず)が含まれる。
【0015】
アクセルペダルセンサ50は、車両のドライバーによって操作されたアクセルペダルの踏み込み量である操作量を検出するための構成である。このアクセルペダルセンサ50は、車両アクセル機構などに取り付けられている。
【0016】
ブレーキペダルセンサ60は、車両のドライバーによって操作されたブレーキペダルの踏み込み量である操作量を検出するための構成である。このブレーキペダルセンサ60は、車両のブレーキ機構などに取り付けられている。
【0017】
制御装置10は、運転支援システム20から受け付ける行動計画要求と、アクセルペダルセンサ50及びブレーキペダルセンサ60から取得する操作量とに基づいて、車両の運動の制駆動に関する制御内容を決定し、決定した制御内容に基づいて複数のアクチュエータシステム30及び40に対して必要な制駆動に関する指示を行って制御する。この制御装置10は、いわゆる車両の運動に関わるマネージャ(ADAS-MGRやVehicle-MGRなど)として、あるいはマネージャの一部として機能し、車両の動きを制御する。制御装置10は、受付部11と、調停部12と、算出部13と、分配部14と、を含む。
【0018】
受付部11は、運転支援システム20の1つ又は複数のアプリケーションが出力する行動計画要求を受け付ける。本実施形態における行動計画要求は、例えば前車追従を行うアダプティブクルーズコントロール(ACC)機能を提供するADASアプリケーションなどから出力される速度変化に応じた制駆動力を車両に要求する運動要求を算出するための第1の要求でもある。行動計画としては、車両の前後方向(縦方向)の加速度などを例示できる。
【0019】
調停部12は、受付部11が運転支援システム20から受け付けた複数の第1の要求を調停する。この調停の処理としては、所定の選択基準に基づいて複数の制動要求の中から1つの制動要求を選択したり、複数の制動要求に基づいて新たな制動要求を設定したり、することが例示できる。また、調停部12は、アクセルペダルセンサ50及びブレーキペダルセンサ60から取得する操作量などに基づいて、車両が所定の走行状態にあると判断した場合には、パワートレインアクチュエータ31が現在の変速比においてアクセル全閉状態で実現可能な駆動力下限(アベイラビリティ下限)に基づいて調停を行う。本実施形態における所定の走行状態とは、エンジンへの燃料供給を低減する制御であるフューエルカット(F/C)を実施状態から非実施状態に遷移(以下「フューエルカット復帰」という)させて走行している状態をいう。
【0020】
算出部13は、調停部12における第1の要求の調停結果に基づいて、第1の要求と異なる物理量の第2の要求を算出する。この第2の要求は、アクチュエータシステム30及び40を制御するための物理量である。例えば、第1の要求が加速度である場合には、第2の要求として駆動力を算出することができる。これにより、加速度の要求が駆動力の要求に変換される。
【0021】
分配部14は、算出部13によって算出された第2の要求を、運動要求としてアクチュエータシステム30及び40に分配する。なお、第2の要求とする駆動力は、駆動トルクであってもよい。また、駆動力から駆動トルクへの変換は、アクチュエータシステム30及び40が行ってもよい。
【0022】
なお、以上説明した、車両に搭載された機器の構成及び制御装置10の構成は一例であって、適宜、追加、置換、変更、省略などが可能である。また、各機器の機能は適宜1つの機器に統合したり複数の機器に分散したりして実装することが可能である。
【0023】
[制御]
図2及び
図3をさらに参照して、本実施形態に係る制御装置10が実行する調停制御を説明する。
図2は、制御装置10の調停部12が実行する調停制御の処理手順を説明するフローチャートである。
図3は、調停部12が実行する調停制御を説明するタイミングチャートである。
【0024】
図2に示す調停制御は、制御装置10の受付部11が、運転支援システム20から第1の要求(加速度要求)を受け付けると開始される。
【0025】
(ステップS201)
調停部12は、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の開始直後であるか否かを判断する。すなわち、調停部12は、ACC機能がオン状態に設定されてから(off→on)最初に運転支援システム20から受け付けた第1の要求に対する処理であるか否かを判断する。ACCの開始直後であると判断した場合は(ステップS201、はい)、ステップS202に処理が進み、ACCの開始直後ではないと判断した場合は(ステップS201、いいえ)、ステップS210に処理が進む。
【0026】
(ステップS202)
調停部12は、車両がフューエルカット(F/C)を実施している状態かつ惰性で走行している状態であるか否かを判断する。車両がF/C実施かつ惰行中であるか否かは、車両の速度、減速度、アクセルペダルの操作量、ブレーキペダルの操作量、及びF/CのON/OFF状態を示す信号などで判断することができる。F/C実施かつ惰行中であると判断した場合は(ステップS202、はい)、ステップS203に処理が進み、F/C実施かつ惰行中ではないと判断した場合は(ステップS202、いいえ)、ステップS210に処理が進む。
【0027】
(ステップS203)
調停部12は、運転支援システム20から受け付けた第1の要求を調停することによって得られる本来の要求された駆動力(以下「要求駆動力」という)が、パワートレインアクチュエータ31の駆動力下限(アベイラビリティ下限)を越えるか否かを判断する。駆動力は、加速度を変換して求められる。要求駆動力が駆動力下限を超えると判断した場合は(ステップS203、はい)、ステップS204に処理が進み、要求駆動力が駆動力下限を超えないと判断した場合は(ステップS203、いいえ)、ステップS210に処理が進む。
【0028】
本実施形態の調停制御では、上記ステップS201からS203の判断が全て肯定された場合に、ドライブシャフトが捻れて振動や音を生じてしまうおそれがあると判定して、ステップS204以降の処理を実行する。
【0029】
(ステップS204)
調停部12は、パワートレインアクチュエータ31の駆動力下限(アベイラビリティ下限)に所定の駆動力αを加算した駆動力である第1駆動力を、調停結果として出力する駆動力(以下「調停駆動力」という)として設定する。すなわち、本来の要求駆動力に代えて、第1駆動力(駆動力下限+α)が調停駆動力として設定される。この駆動力αは、パワートレインアクチュエータ31の性能やフューエルカットの設定条件などに基づいて、第1駆動力をパワートレインアクチュエータ31に要求することによってフューエルカット復帰(on→off)を行うことが可能な任意の大きさに設定される(例えば、α=5N)。第1駆動力が調停駆動力に設定されると、ステップS205に処理が進む。
【0030】
(ステップS205)
調停部12は、第1駆動力(駆動力下限+α)を調停駆動力に設定してから第1時間が経過したか否かを判断する。この判断は、第1駆動力の要求をパワートレインアクチュエータ31が受信して実際に制御が行われたことを判断するために実施される。よって、第1時間は、制御装置10からアクチュエータシステム30への通信に必要な時間(通信の1周期)以上の長さ(例えば25ms)に設定される。第1時間が経過するまで待って(ステップS205、はい)、ステップS206に処理が進む。
【0031】
(ステップS206)
調停部12は、パワートレインアクチュエータ31の駆動力下限(アベイラビリティ下限)の駆動力を、調停駆動力として設定する。すなわち、調停部12は、調停駆動力を、第1駆動力(駆動力下限+α)から駆動力下限まで低下させる。本調停制御では、この調停駆動力を駆動力下限に設定した状態でフューエルカット復帰(on→off)が実施されるのを待つこととなる。駆動力下限が調停駆動力に設定されると、ステップS207に処理が進む。
【0032】
(ステップS207)
調停部12は、駆動力下限を調停駆動力に設定してから第2時間が経過したか否かを判断する。この判断は、フューエルカット復帰(on→off)が実施されるまで待機するために実施される。よって、第1駆動力(駆動力下限+α)の出力に基づいて、フューエルカット復帰が確実に実施されるのに必要な時間以上の長さ(例えば250ms)に設定される。第2時間が経過するまで待って(ステップS207、はい)、ステップS208に処理が進む。
【0033】
(ステップS208)
調停部12は、パワートレインアクチュエータ31が発生可能な最大のジャークで駆動力下限を漸増させた駆動力を、調停駆動力として設定する。このようなジャーク制限を持たせて調停駆動力を設定することにより、調停駆動力ひいては車両の実駆動力を本来の要求駆動力に徐々に近づけてゆくことができる。ジャーク制限を持たせた調停駆動力が設定されると、ステップS209に処理が進む。
【0034】
(ステップS209)
調停部12は、調停駆動力が本来の要求駆動力に到達したか否かを判断する。調停駆動力が本来の要求駆動力に到達するまで待って(ステップS209、はい)、ステップS210に処理が進む。
【0035】
(ステップS210)
調停部12は、複数の第1の要求を調停する、通常の要求調停処理を実行する。これにより、本調停制御が終了する。
【0036】
なお、上述した本調停制御においては、ステップS201からS209のいずれの処理を実行中でも、アダプティブクルーズコントロール(ACC)の設定解除など、所定のキャンセルイベントが発生すると、ステップS210に記載した通常の要求調停処理に遷移する。
【0037】
また、上述した本調停制御においては、ドライブシャフトが捻れて振動や音を生じてしまうおそれがある場面の判定を精度よく行うために、アダプティブクルーズコントロール(ACC)機能の開始直後を上記ステップS201で判断したが、この判断を省いてもよい。さらに、フューエルカット(F/C)がOFF状態であれば必ず惰行していることが予め分かっている場合には、上記ステップS202において惰行中か否かの判断を省略することも可能である。
【0038】
上述した調停制御に基づいた処理の一例を、
図3を参照して説明する。
図3において、時間=t1よりも前は、ACC機能:off、フューエルカット:on、惰行の状態であり、要求駆動力に応じた調停駆動力及び実駆動力が発生している。時間=t1においてACC機能:onとなった後、時間t1から時間t2までは、第1駆動力(駆動力下限+α)を出力してフューエルカット復帰を要求する(ステップS204及びS205による第1処理)。その後、時間t2から時間t3までの間で実際にフューエルカット復帰が行われるのを待つ(ステップS206及びS207による第2処理)。そして、その後、最大のジャークで駆動力下限を漸増させてゆき、調停駆動力及び実駆動力を要求駆動力に追従させる(ステップS208及びS209による第3処理)。この第1処理、第2処理、及び第3処理を順に実行することで、ドライブシャフトの捻れによる振動や音の発生を抑え、運転支援システム20から要求される加速度と推定される車体加速度との乖離を抑制することができる。
【0039】
図4に、比較のため、従来の調停制御に基づいた処理の一例を示す。
図4のように、従来の調停制御では、フューエルカット復帰後に、調停結果による駆動力とフューエルカット復帰に伴う駆動力とが重畳された大きな駆動力を、パワートレインアクチュエータに対して急峻に発生させる要求を行ってしまい、ドライブシャフトの捻れが生じて(要求加速度と推定車体加速度との大きな乖離)振動や音を発生させている。
【0040】
<作用・効果>
以上のように、本開示の一実施形態に係る制御装置10は、フューエルカット実施中かつ惰行中に、フューエルカット復帰に必要な第1駆動力(パワートレインアクチュエータ31の駆動力下限+α)を超える駆動力を要求する第1の要求が、運転支援システム20からあった場合、車両の実駆動力が駆動力下限に到達するまで第1駆動力以下となるように要求を調停する。
【0041】
この調停制御により、車両の実駆動力がパワートレインアクチュエータ31の駆動力下限に追従し始めるまでの間は、駆動力下限を超える駆動力の要求が生じないため、ドライブシャフトが捻れて振動や音が生じることを抑制することができる。
【0042】
一例として、強いエンジンブレーキが掛かっている状態、例えば車両が惰性走行で減速中、かつ、フューエルカットを実施中である状態において、制御装置10が、フューエルカット復帰を必要とする第1の要求を運転支援システム20から受け付ける場合がある。本実施形態の調停制御では、このような場合、制御装置10が運転支援システム20から受け付けた要求の調停結果である要求駆動力をそのままアクチュエータシステム30に出力しないため、要求駆動力とフューエルカット復帰に伴う駆動力とが重畳された大きな駆動力がパワートレインアクチュエータ31に要求されることがない。従って、パワートレインアクチュエータ31による急峻な大きな駆動力が生じないため、ドライブシャフトの捻れ及び振動や音の発生を抑制することができる。
【0043】
以上、本開示技術の一実施形態を説明したが、本開示は、制御装置だけでなく、プロセッサとメモリを備えた制御装置が実行する制御方法、制御プログラム、制御プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な非一時的な記憶媒体、マネージャ、あるいは制御装置を備えた車両などとして捉えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本開示は、車両などに搭載される制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0045】
10 制御装置
11 受付部
12 調停部
13 算出部
14 分配部
20 運転支援システム
30 アクチュエータシステム
31 パワートレインアクチュエータ
40 アクチュエータシステム
50 アクセルペダルセンサ
60 ブレーキペダルセンサ
100 車載ネットワーク