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特許7401493触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20231212BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20231212BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20231212BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20231212BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/86 M
H01M4/92
H01M8/10 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021147417
(22)【出願日】2021-09-10
(65)【公開番号】P2023040454
(43)【公開日】2023-03-23
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】高木 善則
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-276746(JP,A)
【文献】特開2013-045694(JP,A)
【文献】国際公開第2017/042919(WO,A1)
【文献】特開2009-218006(JP,A)
【文献】国際公開第2020/022191(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜電極接合体のカソード触媒層となる触媒インクの製造方法であって、
カーボン粒子、触媒粒子、および水を調合することにより、第1調合液を生成する第1工程と、
前記第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する第2工程と、
前記第2調合液に、フッ素基が付与された撥水性カーボン粒子を添加することにより、第3調合液を生成する第3工程と、
前記第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する第4工程と、
を含む、触媒インクの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒インクの製造方法であって、
前記触媒インクに対する前記アルコール溶剤の割合が、15wt%以上である、触媒インクの製造方法。
【請求項3】
膜電極接合体の製造方法であって、
請求項1または請求項2に記載の製造方法により製造された触媒インクを、電解質膜の一方の表面に塗布して、乾燥させることにより、前記カソード触媒層を形成する工程
を含む、膜電極接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒インクの製造方法、および膜電極接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料に含まれる水素(H)と空気中の酸素(O)との電気化学反応によって発電を行う、燃料電池が知られている。燃料電池には、使用する電解質によって幾つかの種類が存在する。そのうちの1つが、電解質としてイオン交換膜(電解質膜)を用いた固体高分子形燃料電池である。固体高分子形燃料電池は、常温での動作および小型軽量化が可能であるため、自動車、携帯機器、家庭用などの様々な用途に使用されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層が形成された構造を有する。固体高分子形燃料電池の使用時には、アノード側の触媒層に水素ガスが供給され、カソード側の触媒層に酸素ガスが供給される。これにより、アノード側の触媒層と、カソード側の触媒層とにおいて、次の電気化学反応が生じることにより、発電が行われる。
(アノード側) H → 2H + 2e
(カソード側) 1/2O + 2H + 2e → H
【0004】
従来の固体高分子形燃料電池については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-077474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、固体高分子形燃料電池では、カソード側の触媒層において、水が生成される。このため、カソード側の触媒層において、酸素ガスの供給と、水の排出とを行う必要がある。その際、水の排出性が悪いと、触媒層内において酸素ガスが拡散しにくくなる。その結果、燃料電池の電圧特性が低くなるという問題がある。
【0007】
この点について、上記の特許文献1では、カソード側の触媒層に、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの繊維状物質を配合することで、触媒層における排水性を向上させている。しかしながら、固体高分子形燃料電池の電解質膜は非常に薄いため、繊維状物質を配合すると、電解質膜が損傷する可能性がある。したがって、特許文献1の方法では、製造工程において電解質膜のリーク検査が必要になると考えられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、特許文献1のような繊維状物質を使用することなく、触媒層の排水性を向上させることができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の第発明は、膜電極接合体のカソード触媒層となる触媒インクの製造方法であって、カーボン粒子、触媒粒子、および水を調合することにより、第1調合液を生成する第1工程と、前記第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する第2工程と、前記第2調合液に、フッ素基が付与された撥水性カーボン粒子を添加することにより、第3調合液を生成する第3工程と、前記第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する第4工程と、を含む。
【0019】
本願の第発明は、第発明の触媒インクの製造方法であって、前記触媒インクに対する前記アルコール溶剤の割合が、15wt%以上である。
【0020】
本願の第発明は、膜電極接合体の製造方法であって、第発明または第発明の製造方法により製造された触媒インクを、電解質膜の一方の表面に塗布して、乾燥させることにより、前記カソード触媒層を形成する工程を含む。
【発明の効果】
【0028】
願の第発明~第発明によれば、カソード触媒層となる触媒インクに、撥水性カーボン粒子を添加する。これにより、カソード触媒層の排水性を向上させることができる。また、アルコール溶剤を添加した後に、撥水性カーボン粒子を添加する。これにより、撥水性カーボン粒子を均一に分散させることができる。
【0029】
特に、本願の第発明によれば、撥水性カーボン粒子を、より均一に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】固体高分子形燃料電池のセルの模式図である。
図2】カソード触媒層の組成を、概念的に示した模式図である。
図3】撥水性カーボン粒子のイメージ図である。
図4】カソード触媒層における撥水性カーボン粒子の添加量と、固体高分子形燃料電池の電圧特性との関係を示したグラフである。
図5】触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。
図6】膜電極接合体の製造手順を示したフローチャートである。
図7】トルエンを水素化するプロセスに、膜電極接合体の利用する例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
<1.燃料電池の構造>
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC:Polymer electrolyte fuel cell)の1つのセル1の模式図である。固体高分子形燃料電池は、図1に示すセル1を、直列に複数積層した構造を有する。ただし、固体高分子形燃料電池は、単一のセル1で構成されるものであってもよい。
【0033】
図1に示すように、固体高分子形燃料電池のセル1は、電解質膜10、アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、アノードガスケット23、アノードセパレータ24、カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、カソードガスケット33、およびカソードセパレータ34を備える。セル1のうち、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31により構成される積層体は、本発明の一実施形態に係る膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode-Assembly)50である。
【0034】
電解質膜10は、イオン伝導性を有する薄板状の膜(イオン交換膜)である。電解質膜10には、フッ素系または炭化水素系の高分子電解質膜が用いられる。具体的には、電解質膜10として、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜が使用される。電解質膜10の膜厚は、例えば、5μm~30μmとされる。
【0035】
アノード触媒層21は、固体高分子形燃料電池のアノード側の電極(負極)となる層である。アノード触媒層21は、電解質膜10のアノード側の表面に形成されている。アノード触媒層21は、多数の触媒粒子を含む。触媒粒子は、例えば、白金合金である。白金合金は、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択される少なくとも1種の金属と、白金(Pt)との合金である。固体高分子形燃料電池の使用時には、アノード触媒層21に、水素ガス(H)が供給される。そして、アノード触媒層21の触媒粒子の作用により、水素が、水素イオン(H)と電子(e)とに分解される。
【0036】
アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21へ水素ガスを均一に供給するとともに、アノード触媒層21で生成された電子をアノードセパレータ24へ流すための層である。アノードガス拡散層22は、アノード触媒層21の外側の面に積層されている。アノード触媒層21は、電解質膜10とアノードガス拡散層22との間に挟まれている。アノードガス拡散層22は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。アノードガス拡散層22には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0037】
アノードガスケット23は、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22から、水素ガスが周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、アノードガスケット23は、電解質膜10のアノード側の表面に形成され、かつ、アノード触媒層21およびアノードガス拡散層22の周囲を囲む。
【0038】
アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22へ水素ガスを供給するとともに、アノード触媒層21からアノードガス拡散層22を介して流れる電子を、外部回路40へ出力するための層である。アノードセパレータ24は、アノードガス拡散層22およびアノードガスケット23の外側の面に形成されている。アノード触媒層21、アノードガス拡散層22、およびアノードガスケット23は、電解質膜10とアノードセパレータ24との間に挟まれている。アノードセパレータ24は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、アノードセパレータ24には、多数の溝241が形成されている。水素ガスは、アノードセパレータ24の当該溝241を通って、アノードガス拡散層22へ供給される。
【0039】
カソード触媒層31は、固体高分子形燃料電池のカソード側の電極(正極)となる層である。カソード触媒層31は、電解質膜10のカソード側の表面(アノード触媒層21とは反対側の表面)に形成されている。カソード触媒層31は、触媒粒子を担持した多数のカーボン粒子を含む。触媒粒子は、例えば、白金の粒子である。ただし、触媒粒子は、白金の粒子に、微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものであってもよい。固体高分子形燃料電池の使用時には、カソード触媒層31に、酸素ガス(O)、水素イオン(H)、および電子(e)が供給される。そして、カソード触媒層31の触媒粒子の作用により、酸素ガス、水素イオン、および電子から、水(HO)が生成される。
【0040】
なお、カソード触媒層31のより詳細な組成については、後述する。
【0041】
カソードガス拡散層32は、カソード触媒層31へ酸素ガスを均一に供給するとともに、カソードセパレータ34からカソード触媒層31へ電子を流すための層である。カソードガス拡散層32は、カソード触媒層31の外側の面に積層されている。カソード触媒層31は、電解質膜10とカソードガス拡散層32との間に挟まれている。カソードガス拡散層32は、導電性を有し、かつ、多孔質の材料により形成される。カソードガス拡散層32には、例えば、カーボンペーパーが使用される。
【0042】
カソードガスケット33は、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32から、酸素ガスおよび水が周囲に漏れることを防止するための層である。図1に示すように、カソードガスケット33は、電解質膜10のカソード側の表面に形成され、かつ、カソード触媒層31およびカソードガス拡散層32の周囲を囲む。
【0043】
カソードセパレータ34は、カソードガス拡散層32へ酸素ガスを供給するとともに、外部回路40から供給される電子を、カソードガス拡散層32へ流すための層である。カソードセパレータ34は、カソードガス拡散層32およびカソードガスケット33の外側の表面に形成されている。カソード触媒層31、カソードガス拡散層32、およびカソードガスケット33は、電解質膜10とカソードセパレータ34との間に挟まれている。カソードセパレータ34は、導電性を有し、かつ、気体を透過しない材料により形成される。また、カソードセパレータ34には、多数の溝341が形成されている。酸素ガスは、カソードセパレータ34の当該溝341を通って、カソードガス拡散層32へ供給される。
【0044】
外部回路40は、アノードセパレータ24とカソードセパレータ34との間に、接続される。具体的には、外部回路40の負極側の端子は、アノードセパレータ24と電気的に接続される。外部回路40の正極側の端子は、カソードセパレータ34と電気的に接続される。
【0045】
固体高分子形燃料電池の使用時には、アノードセパレータ24から、アノードガス拡散層22を介してアノード触媒層21に、燃料としての水素ガスが供給される。そうすると、アノード触媒層21の触媒粒子の作用により、水素原子が、水素イオンと電子とに分解される。水素イオンは、電解質膜10を通って、カソード触媒層31へ伝搬する。電子は、アノードガス拡散層22、アノードセパレータ24、外部回路40、カソードセパレータ34、およびカソードガス拡散層32を通って、カソード触媒層31へ流れる。また、セル1のカソード側では、カソードセパレータ34から、カソードガス拡散層32を介してカソード触媒層31に、酸素ガスが供給される。そして、カソード触媒層31の触媒粒子の作用により、酸素ガス、水素イオン、および電子から、水が生成される。生成された水は、カソードガス拡散層33およびカソードセパレータ34を通って、外部へ排出される。
【0046】
<2.カソード触媒層の組成>
続いて、上述したカソード触媒層31の、より詳細な組成について説明する。
【0047】
図2は、カソード触媒層31の組成を、概念的に示した模式図である。図2に示すように、カソード触媒層31は、触媒担持カーボン51、アイオノマー52、および撥水性カーボン粒子53を含む。
【0048】
触媒担持カーボン51は、多数のカーボン粒子511と、カーボン粒子511に担持された複数の触媒粒子512と、を含む。触媒粒子512は、例えば、白金(Pt)の粒子である。ただし、触媒粒子512は、白金の粒子に、微量のルテニウムまたはコバルトの粒子を混合したものであってもよい。
【0049】
触媒担持カーボン51において、カーボン粒子511に対する白金の割合が低すぎると、十分な触媒作用を得ることが困難となる。逆に言えば、十分な触媒作用を得るためには、カーボン粒子511の量を多くする必要が生じ、それにより、カソード触媒層31の膜厚が大きくなってしまう。一方、カーボン粒子511に対する白金の割合が高すぎると、白金の粒子間の距離が小さくなる。その場合、発電中に白金の粒子同士が融合して、発電性能が低下するという問題が生じる。
【0050】
したがって、カーボン粒子511に対する白金の割合は、カソード触媒層31の膜厚を抑え、かつ、白金の粒子間の距離を、白金の粒子同士が融合しない程度の距離に保つことができるような割合とすることが望ましい。具体的には、カーボン粒子511に対する白金の割合(重量比)を、38wt%以上かつ65wt%以下とすることが望ましい。また、カーボン粒子511に対する白金の割合(重量比)を、40wt%以上かつ55wt%以下とすることが、より望ましい。
【0051】
アイオノマー52は、触媒担持カーボン51を覆う電解質ポリマーである。アイオノマー52は、電解質膜10から供給される水素イオンを、カソード触媒層31内で輸送する役割を果たす。アイオノマー52には、例えば、ナフィオン(パーフルオロカーボンスルホン酸)が使用される。アイオノマー52は、スルホン基等のイオン交換基を有する高分子鎖構造をもつ。電解質膜10から供給される水素イオンは、カソード触媒層31内の水と結合して、オキソニウムイオン(H)となる。そして、当該オキソニウムイオンが、アイオノマー52のイオン交換基を伝って伝搬する。
【0052】
オキソニウムイオンを良好に伝搬するためには、アイオノマー52の高分子鎖中のイオン交換基の数を多くすることが望ましい。具体的には、イオン交換基1mol当たりのアイオノマー52の乾燥質量(アイオノマー52の単位質量あたりのイオン交換基の数の逆数)を示すEW値を、950以下とすることが望ましい。例えば、EW値を、650以上かつ950以下にするとよい。
【0053】
触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合が少なすぎると、触媒担持カーボン51をアイオノマー52で十分に被覆できなくなる。そうすると、アイオノマーによりオキソニウムイオンを良好に伝搬することが困難となる。一方、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合が多すぎると、カソード触媒層31内の空隙が少なくなる。そうすると、カソード触媒層31内における酸素ガスの拡散や、カソード触媒層31で生成された水の排出が、阻害されてしまう。
【0054】
したがって、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合は、触媒担持カーボン51をアイオノマー52で良好に覆うことができ、かつ、酸素ガスの拡散および水の排出を良好に行うことができるような割合とすることが望ましい。具体的には、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、30wt%以上かつ100wt%以下とすることが望ましい。また、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、60wt%以上かつ100wt%以下とすることが、より望ましい。また、触媒担持カーボン51に対するアイオノマー52の割合(重量比)を、75wt%以上かつ85wt%以下とすることが、さらに望ましい。
【0055】
撥水性カーボン粒子53は、カソード触媒層31の排水性を向上させるための添加物である。図3は、撥水性カーボン粒子53のイメージ図である。図3に示すように、撥水性カーボン粒子53の表面には、撥水性を有する複数のフッ素基(F)が付与されている。撥水性カーボン粒子53の直径は、例えば、2nm以上かつ500nm以下である。また、撥水性カーボン粒子53の比表面積は、例えば、50m/g以上かつ900m/g以下である。
【0056】
図4は、カソード触媒層31における撥水性カーボン粒子53の添加量と、固体高分子形燃料電池の電圧特性との関係を示したグラフである。図4のグラフにおいて、横軸は、触媒担持カーボン51に対する撥水性カーボン粒子53の割合(重量比)を示している。縦軸は、固体高分子形燃料電池から得られる出力電圧を示している。図4のグラフでは、電流密度が1.5A/cmのときの電圧値を示している。また、図4のグラフでは、供給ガスの相対湿度が20%RHの場合と、100%RHの場合と、の2通りの場合の電圧特性が示されている。
【0057】
カソード触媒層31に撥水性カーボン粒子53を添加すると、カソード触媒層31において生成された水を、フッ素基の撥水作用により、効率よく排出することができる。このため、カソード触媒層31内に空隙を確保し、酸素ガスの供給を効率よく行うことができる。したがって、図4のように、カソード触媒層31に撥水性カーボン粒子53を添加すると、撥水性カーボン粒子53を添加しない場合と比べて、固体高分子形燃料電池の電圧特性を向上させることができる。
【0058】
ただし、撥水性カーボン粒子53の添加量が多すぎると、絶縁性を有するフッ素基の影響で、カソード触媒層31の電気抵抗が大きくなる。これにより、図4において、触媒担持カーボン51に対する撥水性カーボン粒子53の重量比が25wt%の場合のように、固体高分子形燃料電池の電圧特性が却って低下する。
【0059】
したがって、撥水性カーボン粒子53の添加量は、カソード触媒層31の排水性を向上させることができ、かつ、フッ素基の影響でカソード触媒層31の導電性が低下することを抑制できるような量とすることが望ましい。具体的には、触媒担持カーボン51に対する撥水性カーボン粒子53の割合(重量比)を、2wt%以上かつ20wt%以下とすることが望ましい。また、触媒担持カーボン51に対する撥水性カーボン粒子53の割合(重量比)を、5wt%以上かつ15wt%以下とすることが、より望ましい。例えば、触媒担持カーボン51に対する撥水性カーボン粒子53の割合(重量比)を、10wt%とするとよい。
【0060】
上述の通り、カソード触媒層31においては、水素イオンが、水と結合することにより、オキソニウムイオンの形態で伝搬する。このため、電池性能を高めるためには、カソード触媒層31内に、ある程度の水分が均一に保持されていることが望ましい。ただし、水分が多すぎると、カソード触媒層31内における酸素ガスの拡散が阻害されてしまう。このため、カソード触媒層31においては、保持される水分量を最適化することが望ましい。
【0061】
この点において、上述したアイオノマー52のEW値を小さくすることは、カソード触媒層31における含水率を増加させる方向に作用する。一方、撥水性カーボン粒子53を添加することは、カソード触媒層31における含水率を低下させる方向に作用する。したがって、上述の通り、アイオノマー52のEW値を950以下とし、かつ、撥水性カーボン粒子53を添加することで、カソード触媒層31に保持される水分量を、適切な範囲に維持することができる。これにより、固体高分子形燃料電池の電圧特性を、より向上させることができる。
【0062】
<3.触媒インクの製造手順>
カソード触媒層31は、電解質膜10の表面に、ペースト状の触媒インクを塗布することにより、形成される。以下では、カソード触媒層31となる触媒インクの製造方法について、説明する。
【0063】
図5は、触媒インクの製造手順を示したフローチャートである。図5に示すように、触媒インクを製造するときには、まず、カーボン粒子511、触媒粒子512、および水を調合することにより、第1調合液を生成する(第1工程S1)。この第1工程S1では、水を加えることにより、カーボン粒子511の発火を防止する。
【0064】
次に、第1調合液に、アルコール溶剤を添加することにより、第2調合液を生成する(第2工程S2)。アルコール溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、または2-プロパノールなどである。
【0065】
続いて、第2調合液に、フッ素基が付与された撥水性カーボン粒子53を添加することにより、第3調合液を生成する(第3工程S3)。この第3工程S3では、第2工程S2で加えたアルコール溶剤中において、撥水性カーボン粒子53が分散する。仮に、上述した第1工程S1で、撥水性カーボン粒子53を加えると、フッ素基の撥水作用により、第1調合液中において、撥水性カーボン粒子53が分散せず、塊となりやすい。これに対し、本実施形態では、第2工程S2において、予め接触角の小さい(撥水性カーボン粒子53に対する親和性が高い)アルコール溶液を添加した後に、第3工程S3において撥水性カーボン粒子53を添加する。これにより、第3調合液中において、撥水性カーボン粒子53を、均一に分散させることができる。
【0066】
その後、第3調合液に、アイオノマー溶液を添加することにより、第4調合液を生成する(第4工程S4)。アイオノマー溶液は、水およびアルコール中にアイオノマー52を溶解した溶液である。アイオノマー溶液は、水の比率が高いため、第3工程S3において撥水性カーボン粒子53を添加して分散させた後に、添加する。
【0067】
その後、第4調合液に対して、さらに分散処理を行う(第5工程S5)。この第5工程では、例えば、第4調合液を撹拌する。これにより、第4調合液中において、撥水性カーボン粒子53が、より均一に分散する。その結果、触媒インクが生成される。なお、最終的に生成される触媒インクに対するアルコール溶剤の割合(重量比)は、15wt%以上とすることが望ましい。これにより、触媒インクにおける撥水性カーボン粒子53の分散性を、さらに向上させることができる。
【0068】
<4.膜電極接合体の製造方法>
続いて、上述した触媒インクを用いて、膜電極接合体50を製造する方法について、説明する。
【0069】
図6は、膜電極接合体50の製造手順を示したフローチャートである。図6に示すように、膜電極接合体50を製造するときには、電解質膜10の一方の表面に、上述した手順により製造されたカソード用の触媒インクを塗布する(第6工程S6)。そして、塗布された触媒インクを乾燥させる(第7工程S7)。これにより、電解質膜10の一方の表面に、カソード触媒層31が形成される。
【0070】
また、電解質膜10の他方の表面に、アノード用の触媒インクを塗布する(第8工程S8)。そして、塗布された触媒インクを乾燥させる(第9工程S9)。これにより、電解質膜10の他方の表面に、アノード触媒層21が形成される。その結果、電解質膜10、アノード触媒層21、およびカソード触媒層31により構成される膜電極接合体50が得られる。
【0071】
なお、カソード触媒層31を形成する第6工程S6および第7工程S7と、アノード触媒層21を形成する第8工程S8および第9工程S9とは、順序が逆であってもよい。
【0072】
<5.変形例>
上記の実施形態では、固体高分子形燃料電池に使用される膜電極接合体50について説明した。しかしながら、本発明の膜電極接合体は、固体高分子形燃料電池以外の用途に使用されるものであってもよい。
【0073】
例えば、水素を輸送するために、トルエンなどの芳香族化合物を水素化した有機ハイドライド(例えば、トルエン-メチルシクロヘキサン)を、キャリアとして利用する技術がある。図7は、当該技術における有機ハイドライドの生成装置の例を示した図である。図7の装置では、電解質膜10と、電解質膜10の一方の表面に形成されたカソード触媒層31とを有する膜電極接合体50が使用される。カソード触媒層31の組成は、上記の固体高分子形燃料電池の場合と同等である。
【0074】
アノード側に設けられた槽26には、硫酸が貯留される。カソード側に設けられた槽36には、トルエンが貯留される。カソード触媒層31とアノード電極25との間に、電圧を加えて、カソード触媒層31に電子(e)を供給すると、カソード触媒層31において、下記の電解還元反応が生じる。これにより、有機ハイドライドであるトルエン-メチルシクロヘキサン(MCH)を得ることができる。
+6H+6e → C14
【0075】
このように、トルエンの水素化を行うプロセスに使用される膜電極接合体50のカソード触媒層31に、フッ素基が付与された撥水性カーボン粒子53を添加してもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 固体高分子形燃料電池のセル
10 電解質膜
21 アノード触媒層
22 アノードガス拡散層
23 アノードガスケット
24 アノードセパレータ
25 アノード電極
31 カソード触媒層
32 カソードガス拡散層
33 カソードガスケット
34 カソードセパレータ
40 外部回路
50 膜電極接合体
51 触媒担持カーボン
52 アイオノマー
53 撥水性カーボン粒子
241 アノードセパレータの溝
341 カソードセパレータの溝
511 カーボン粒子
512 触媒粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7