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特許7401499異常判定システム、異常判定装置、異常判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】異常判定システム、異常判定装置、異常判定方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20231212BHJP
   H02P 29/024 20160101ALI20231212BHJP
   H02K 7/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G05B23/02 302S
H02P29/024
H02K7/10
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021162831
(22)【出願日】2021-10-01
(65)【公開番号】P2023053657
(43)【公開日】2023-04-13
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006622
【氏名又は名称】株式会社安川電機
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 整
(72)【発明者】
【氏名】吉良 俊信
(72)【発明者】
【氏名】久松 純也
(72)【発明者】
【氏名】古賀 稔
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/106875(WO,A1)
【文献】特開平06-187030(JP,A)
【文献】特開2017-151598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
H02P 29/024
H02K 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定システムであって、
前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、
前記ブレーキの開放動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて標本データを作成する標本データ作成部と、
前記第1データ取得部により取得した前記時系列データと前記標本データとに基づいて、前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、
を有する、異常判定システム。
【請求項2】
前記第1異常判定部は、
前記標本データと前記時系列データに基づいてマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部と、
前記マハラノビス距離としきい値との比較により前記ブレーキの開放動作の異常を判定する判定部と、
を有する、
請求項1に記載の異常判定システム。
【請求項3】
前記モータを動作するための動作指令を出力する動作指令出力部をさらに有し、
前記第1データ取得部は、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力する前に、前記時系列データを取得し、
前記第1異常判定部は、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力する前に、前記時系列データと前記標本データとに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する、
請求項1又は2に記載の異常判定システム。
【請求項4】
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第2異常判定部と、
をさらに有する、
請求項に記載の異常判定システム。
【請求項5】
前記第1データ取得部は、
前記時系列データを、前記ブレーキの開放動作による振動を検出する加速度センサから取得する、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の異常判定システム。
【請求項6】
前記ブレーキを開放するための開放指令を出力する開放指令出力部と、
前記モータの慣性モーメントを推定する慣性モーメント推定部と、
をさらに有し、
前記第2データ取得部は、
前記状態量データとして、前記開放指令出力部が前記開放指令を出力した後最初に前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した時点の前記慣性モーメントの推定値を取得し、
前記第2異常判定部は、
前記慣性モーメントの推定値に基づいて、前記ブレーキの開放動作の異常を判定する、
請求項に記載の異常判定システム。
【請求項7】
前記ブレーキを開放するための開放指令を出力する開放指令出力部と、
前記モータの外乱トルクを推定する外乱トルク推定部と、
をさらに有し、
前記第2データ取得部は、
前記状態量データとして、前記開放指令出力部が前記開放指令を出力した後最初に前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した時点の前記外乱トルクの推定値を取得し、
前記第2異常判定部は、
前記外乱トルクの推定値に基づいて、前記ブレーキの開放動作の異常を判定する、
請求項又はに記載の異常判定システム。
【請求項8】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定システムであって、
前記モータを動作するための動作指令を出力する動作指令出力部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力する前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力する前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第2異常判定部と、
を有する、異常判定システム。
【請求項9】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定システムであって、
前記モータを動作するための動作指令を出力する動作指令出力部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得するデータ取得部と、
前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定部と、
を有する、異常判定システム。
【請求項10】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定装置であって、
前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、
前記第1データ取得部により取得した前記時系列データと、前記ブレーキの開放動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、
を有する、異常判定装置。
【請求項11】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定装置であって、
前記モータを動作するための動作指令が出力される前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、
前記動作指令が出力される前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、
前記動作指令が出力された後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部と、
前記動作指令が出力された後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第2異常判定部と、
を有する、異常判定装置。
【請求項12】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定方法であって、
前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得することと、
取得した前記時系列データと、前記ブレーキの開放動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、前記ブレーキの開放動作の異常を判定することと、
を有する、異常判定方法。
【請求項13】
モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定方法であって、
前記モータを動作するための動作指令が出力される前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得することと、
前記動作指令が出力される前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定することと、
前記動作指令が出力された後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得することと、
前記動作指令が出力された後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定することと、
を有する、異常判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、異常判定システム、異常判定装置、及び異常判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータ駆動機構の機械異常を判定する異常判定装置が記載されている。この異常判定装置は、正常時のモータの入出力に関する時系列データを複数取得して標本データを作成し、現在の時系列データを標本データと比較しマハラノビス距離を算出して、異常を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-151598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
異常判定装置において、異常判定の精度を向上することが要望されていた。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、異常判定の精度を向上することが可能な異常判定システム、異常判定装置、及び異常判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、駆動装置の動作異常を判定する異常判定システムであって、前記駆動装置の動作状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、前記駆動装置の動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて標本データを作成する標本データ作成部と、前記第1データ取得部により取得した前記時系列データと前記標本データとに基づいて、前記駆動装置の動作異常を判定する第1異常判定部と、を有する、異常判定システムが適用される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定システムであって、前記モータに動作指令を出力する動作指令出力部と、前記モータに前記動作指令を出力する前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、前記モータに前記動作指令を出力する前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、前記モータに前記動作指令を出力した後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部と、前記モータに前記動作指令を出力した後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第2異常判定部と、を有する、異常判定システムが適用される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定システムであって、前記モータを動作するための動作指令を出力する動作指令出力部と、前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得するデータ取得部と、前記動作指令出力部が前記動作指令を出力した後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定部と、を有する、異常判定システムが適用される。
【0009】
また、本発明の別の観点によれば、駆動装置の動作異常を判定する異常判定装置であって、前記駆動装置の動作状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、前記第1データ取得部により取得した前記時系列データと、前記駆動装置の動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、前記駆動装置の動作異常を判定する第1異常判定部と、を有する、異常判定装置が適用される。
【0010】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定装置であって、前記モータに動作指令が出力される前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部と、前記モータに前記動作指令が出力される前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第1異常判定部と、前記モータに前記動作指令が出力された後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部と、前記モータに前記動作指令が出力された後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定する第2異常判定部と、を有する、異常判定装置が適用される。
【0011】
また、本発明の別の観点によれば、駆動装置の動作異常を判定する異常判定方法であって、前記駆動装置の動作状態に関わる時系列データを取得することと、取得した前記時系列データと、前記駆動装置の動作に異常が生じた場合の前記時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、前記駆動装置の動作異常を判定することと、を有する、異常判定方法が適用される。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する異常判定方法であって、前記モータに動作指令が出力される前に、前記ブレーキの開放動作の状態に関わる時系列データを取得することと、前記モータに前記動作指令が出力される前に、前記時系列データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定することと、前記モータに前記動作指令が出力された後に、前記モータの動作状態に関わる状態量データを取得することと、前記モータに前記動作指令が出力された後に、前記状態量データに基づいて前記ブレーキの開放動作の異常を判定することと、を有する、異常判定方法が適用される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の異常判定システム等によれば、異常判定の精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る異常判定システムの全体構成の一例を表す図である。
図2】モータ、ブレーキ、及びエンコーダの構成の一例を表す断面図である。
図3】上位制御装置、モータ制御装置、エンジニアリングツールの機能構成の一例を表すブロック図である。
図4】標本データ作成部により作成される標本データの一例を表す図である。
図5】第1異常判定部による異常判定手法の一例を表す説明図である。
図6】第1異常判定部による異常判定手法の他の例を表す説明図である。
図7】第2異常判定部による慣性モーメント推定値を用いた異常判定手法の一例を表す図である。
図8】慣性モーメント推定値の波形の一例を表すグラフである。
図9】慣性モーメント推定値の波形の他の例を表すグラフである。
図10】第2異常判定部による外乱トルク推定値を用いた異常判定手法の一例を表す図である。
図11】外乱トルク推定値の波形の一例を表すグラフである。
図12】外乱トルク推定値の波形の他の例を表すグラフである。
図13】上位制御装置及びモータ制御装置により実行される処理手順の一例を表すフローチャートである。
図14】モータ制御装置のハードウェア構成例を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<1.異常判定システムの全体構成)
図1を参照しつつ、本実施形態に係る異常判定システム1の全体構成の一例について説明する。異常判定システム1は、駆動装置の動作異常を判定するシステムである。本実施形態では、異常判定システム1が、例えばモータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する場合について説明する。
【0017】
図1に示すように、異常判定システム1は、上位制御装置3と、モータ制御装置5と、モータ7と、ブレーキ9と、エンコーダ11と、加速度センサ13と、エンジニアリングツール15とを有する。
【0018】
上位制御装置3は、例えば汎用パーソナルコンピュータ、PLC(Programable Logic Controller)、モーションコントローラ等のコンピュータで構成されている。上位制御装置3は、モータ7の動作を制御するためのモータ指令(例えば位置指令、速度指令、トルク指令等)を生成し、モータ制御装置5に送信する。また上位制御装置3は、ブレーキ9を作動又は開放するためのブレーキ指令を生成し、モータ制御装置5に送信する。
【0019】
モータ制御装置5は、上位制御装置3から受信したモータ指令及びエンコーダ11から受信した検出データに基づいてモータ7に電力を供給し、モータ7の動作を制御する。またモータ制御装置5は、上位制御装置3から受信したブレーキ指令に基づいてブレーキ9に電力を供給又は遮断し、ブレーキ9の動作を制御する。またモータ制御装置5は、加速度センサ13から取得した時系列データとエンジニアリングツール15により作成された標本データとに基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常を判定する。モータ制御装置5はサーボアンプともいう。
【0020】
モータ7は、例えば回転型モータである。なお、モータ7の種類は回転型モータに限定されるものではなく、直動型モータ(リニアモータ)でもよい。ブレーキ9は、モータ7の制動及び制動の解除を行う。本実施形態では、ブレーキ9がモータ7を制動することを「作動」といい、モータ7の制動を解除することを「開放」という。エンコーダ11は、モータ7の回転位置や回転速度等を検出し、検出データをモータ制御装置5に送信する。加速度センサ13は、ブレーキ9の開放動作による振動を検出し、検出データをモータ制御装置5又はエンジニアリングツール15に送信する。加速度センサ13は、例えばエンコーダ11に設置されている。なお、加速度センサ13の設置場所はエンコーダ11に限定されるものではなく、例えばモータ7やブレーキ9に設置されてもよい。
【0021】
エンジニアリングツール15は、例えば汎用パーソナルコンピュータである。なお、特定の用途(例えば標本データの作成)専用に設計された専用コンピュータでもよい。エンジニアリングツール15は、加速度センサ13から受信した時系列データに基づいて標本データを作成する。エンジニアリングツール15により作成された標本データは、モータ制御装置5に送信されて記録される。
【0022】
なお、以上説明した異常判定システム1の構成は一例であり、上述の内容に限定されるものではない。例えば、ブレーキ9の開放動作の異常を判定する機能を、モータ制御装置5ではなく上位制御装置3やエンジニアリングツール15に実装してもよいし、これらの制御装置とは別体の異常判定装置に実装してもよい。その場合には、異常判定に必要なデータをモータ制御装置5等から取得すればよい。また、ブレーキ9を制御する機能を、モータ制御装置5ではなく上位制御装置3やエンジニアリングツール15に実装してもよいし、これらの制御装置とは別体のブレーキ制御装置に実装してもよい。また、上位制御装置3、モータ制御装置5、及びエンジニアリングツール15の各機能を、より少ない機器(例えば単体又は2つの制御装置)として構成してもよいし、より多い機器(例えば4以上の制御装置)として構成してもよい。
【0023】
<2.モータ、ブレーキ、エンコーダの構成>
図2を参照しつつ、モータ7、ブレーキ9、及びエンコーダ11の構成の一例について説明する。なお、以下において「負荷側」とはモータ7に対して負荷が取り付けられる方向、例えばシャフト17が突出する方向(図2中左側)を指し、「反負荷側」とは負荷側の反対方向(図2中右側)を指す。
【0024】
図2に示すように、モータ7は、シャフト17と、回転子19と、固定子21と、負荷側ブラケット23と、負荷側軸受25と、反負荷側ブラケット27と、反負荷側軸受29とを有する。シャフト17は、負荷側軸受25及び反負荷側軸受29により軸心AX周りに回転可能に支持される。シャフト17の反負荷側は、反負荷側ブラケット27から突出し、突出した部分にブレーキ9及びエンコーダ11が設けられている。
【0025】
ブレーキ9(駆動装置の一例)は、例えば無励磁作動形のブレーキであり、ブレーキ電源の非供給時に作動してモータ7のシャフト17が回転しないように制動し、ブレーキ電源の供給時にモータ7を開放してシャフト17の回転を許容する。なお、ブレーキ9の種類は無励磁作動形に限定されるものではなく、例えば励磁作動形としてもよい。
【0026】
ブレーキ9は、フィールドコア31と、アーマチュア33と、ブレーキディスク35と、固定プレート37とを有する。
【0027】
フィールドコア31は、ブレーキコイル39及びばね41を有する。ブレーキコイル39のコイル端部43は、モータ制御装置5に電気的に接続される。アーマチュア33は、フィールドコア31に対して回転不能且つシャフト17の軸方向に移動可能に支持される。ブレーキディスク35は、ハブ44を介してシャフト17に対し回転不能且つ軸方向に移動可能に支持される。ブレーキディスク35は、負荷側の表面及び反負荷側の表面にそれぞれ摩擦材45を有する。固定プレート37は、反負荷側ブラケット27等に固定されている。
【0028】
アーマチュア33は、ブレーキコイル39が通電されていない状態(無励磁状態)では、ばね41により負荷側へ押圧され、ブレーキディスク35の摩擦材45がアーマチュア33と固定プレート37とに挟まれる。この結果、ブレーキ電源の非供給時にシャフト17が回転しないように保持される。この状態が、ブレーキ9の作動状態である。一方、アーマチュア33は、ブレーキコイル39が通電されている状態(励磁状態)では、ブレーキコイル39による磁気吸引力により反負荷側へ吸引され、ブレーキディスク35が解放される。この結果、シャフト17が回転可能となる。この状態が、ブレーキ9の開放状態である。
【0029】
エンコーダ11は、エンコーダ本体47と、エンコーダカバー49と、前述の加速度センサ13とを有する。エンコーダ本体47は、例えばシャフト17と共に回転するディスク(図示省略)、ディスクに形成されたパターンを検出する検出回路等が実装された基板(図示省略)等を有する。エンコーダカバー49は、ブレーキ9に固定されており、エンコーダ本体47を収容する。加速度センサ13は、例えばエンコーダカバー49の内側に設置されている。なお、加速度センサ13はエンコーダ本体47に設置されてもよい(例えば基板実装等)。
【0030】
なお、以上説明したモータ7、ブレーキ9、及びエンコーダ11の構成は一例であり、上述の内容に限定されるものではない。例えば、エンコーダ11をモータ7とブレーキ9の間に配置してもよいし、ブレーキ9又はエンコーダ11の少なくとも一方をモータ7の負荷側に配置してもよい。また、加速度センサ13を例えばエンコーダカバー49の外部に設置してもよいし、モータ7やブレーキ9の内部又は外部に設置してもよい。
【0031】
<3.上位制御装置、モータ制御装置、エンジニアリングツールの機能構成>
図3図12を参照しつつ、上位制御装置3、モータ制御装置5、エンジニアリングツール15の機能構成の一例について説明する。
【0032】
図3に示すように、エンジニアリングツール15は、標本データ作成部51を有する。標本データ作成部51は、ブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合の時系列データ(駆動装置の動作に異常が生じた場合の時系列データの一例)に基づいて標本データを作成する。
【0033】
図4に、標本データ作成部51により作成される標本データの一例を示す。図4に示すように、標本データ作成部51は、ブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合の時系列データを加速度センサ13から複数回取得し、複数の標本データとする。具体的には、ブレーキ9が異常状態(例えば機構的に動作しない状態)であることを前提に、上位制御装置3のブレーキ指令出力部55からの開放指令を受けてモータ制御装置5のブレーキ制御部59がブレーキ9に電力を供給することを、複数回(例えば数回~数十回)に亘って行う。当該ブレーキ電源の供給は、上位制御装置3のモータ指令出力部53がモータ指令を出力しない状態で行われる。標本データ作成部51は、各回において時系列データを取得し、所定の期間を抽出して複数の標本データを作成する。「時系列データ」とは、加速度センサ13により検出された多数の検出データ群を時系列に並べたデータをいう。また「所定の期間」とは、上位制御装置3のブレーキ指令出力部55からの開放指令を受けてモータ制御装置5のブレーキ制御部59がブレーキ9に電力を供給したタイミング(以下適宜「開放タイミング」という)の前後を含む、所定の長さの時間である。また「ブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合」とは、ブレーキ9に電力を供給したにもかかわらず、ブレーキ9が動作しない場合をいう。ブレーキ9の開放動作においては、異常時にはブレーキ9が動作せず振動が検出されないため、加速度センサ13により検出された時系列データは変化が少なく、且つ、複数の時系列データ間のばらつきも小さくなる。標本データ作成部51により作成された複数の標本データは、モータ制御装置5に送信されて記録される。
【0034】
また、標本データ作成部51は、作成した標本データ群から標本平均μと標本共分散行列Σを、例えば次式に基づいて計算する。なお、x(n)はn番目の種類の標本データである。
【0035】
また、標本データ作成部51は、誤報率αとカイ2乗分布からデータ異常判定しきい値athを次式に基づいて計算する。
なお、誤報率αは、正規分布からどれくらい大きく外れた場合を異常データとするかを設定するための指標である。また、カイ2乗分布は次式で定義される。なお、自由度Mは、独立した標本データの種類の数(変数の種類の数)を指定するパラメータであり、本実施形態ではM=1となる。
ただし、Γはガンマ関数を表し、次式で定義される。
標本データ作成部51により算出された、標本平均μ、標本共分散行列Σ、及びデータ異常判定しきい値athは、モータ制御装置5に送信されて記録される。
【0036】
図3に戻り、上位制御装置3は、モータ指令出力部53と、ブレーキ指令出力部55とを有する。モータ指令出力部53(動作指令出力部の一例)は、モータ7の動作を制御するためのモータ指令(動作指令の一例。例えば位置指令、速度指令、トルク指令等)を生成し、モータ制御装置5のモータ制御部57に送信する。ブレーキ指令出力部55(開放指令出力部の一例)は、ブレーキ9を作動するための作動指令、又は、ブレーキ9を開放するための開放指令を生成し、モータ制御装置5のブレーキ制御部59に送信する。
【0037】
モータ制御装置5(異常判定装置の一例)は、モータ制御部57と、ブレーキ制御部59と、記録部61と、第1データ取得部63と、第1異常判定部65と、慣性モーメント推定部67と、外乱トルク推定部69と、第2データ取得部71と、第2異常判定部73とを有する。
【0038】
モータ制御部57は、上位制御装置3のモータ指令出力部53から受信したモータ指令、及び、エンコーダ11から受信した検出データに基づいてモータ7に電力を供給し、モータ7を制御する。具体的には、モータ制御部57は、例えば位置制御部、速度制御部、電流制御部等(図示省略)を有する。例えば、上位制御装置3から位置指令を受信した場合、位置制御部は、位置指令からエンコーダ11の検出データに基づくフィードバック位置を減算した位置偏差に基づいて、例えばPID制御等により速度指令を生成する。速度制御部は、速度指令からエンコーダ11の検出データに基づくフィードバック速度を減算した速度偏差に基づいて、例えばPID制御等によりトルク指令を生成する。電流制御部は、トルク指令に基づく電力変換を行いモータ7に電力を供給する。
【0039】
ブレーキ制御部59は、上位制御装置3のブレーキ指令出力部55から受信したブレーキ指令に基づいてブレーキ9に電力を供給又は遮断し、ブレーキ9を制御する。具体的には、ブレーキ制御部59は、例えばブレーキ9に電力を供給するためのブレーキ電源装置(図示省略)と、ブレーキ電源装置からの電力を供給又は遮断するための接点を備えたリレー(図示省略)とを有する。ブレーキ制御部59は、上位制御装置3からブレーキ9を開放するための開放指令を受信した場合には、リレーの接点を閉成させてブレーキ9に電力を供給する。一方、ブレーキ制御部59は、上位制御装置3からブレーキ9を作動するための作動指令を受信した場合には、リレーの接点を開成させてブレーキ9への電力供給を遮断する。
【0040】
記録部61は、例えば不揮発性メモリやハードディスク等で構成されている。記録部61は、エンジニアリングツール15の標本データ作成部51により作成された標本データと、算出された標本平均μ、標本共分散行列Σ、及びデータ異常判定しきい値ath等を受信して記録する。
【0041】
第1データ取得部63は、ブレーキ9の開放動作の状態に関わる時系列データ(駆動装置の動作状態に関わる時系列データの一例)を取得する。時系列データの種類は、ブレーキ9の開放動作が正常に行われたか否かを表すデータであれば特に限定されるものではないが、本実施形態では、例えばブレーキ9の開放動作による振動を検出する加速度センサ13から時系列データを取得する。第1データ取得部63は、上位制御装置3のモータ指令出力部53がモータ指令を出力する前(モータ指令を出力していない状態)において、前述の開放タイミングの前後を含む所定の期間における時系列データを取得する。
【0042】
第1異常判定部65は、第1データ取得部63により取得した時系列データと、記録部61から読み出した標本データとに基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常(駆動装置の動作異常の一例)を判定する。第1異常判定部65は、上位制御装置3のモータ指令出力部53がモータ指令を出力する前(モータ指令を出力していない状態)において、ブレーキ9の開放動作の異常を判定する。異常の判定手法は特に限定されるものではないが、本実施形態では例えばマハラノビス距離を用いて判定する。第1異常判定部65は、マハラノビス距離算出部75と判定部77とを有する。マハラノビス距離算出部75は、標本データと時系列データに基づいてマハラノビス距離を算出する。判定部77は、算出されたマハラノビス距離としきい値との比較により、ブレーキ9の開放動作の異常を判定する。前述のように、標本データはブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて作成されている。このため、判定部77は、現在の時系列データと標本データとを比較し、マハラノビス距離がしきい値以上となる点数が所定値よりも大きい場合(時系列データと標本データの乖離が大きい場合)には正常、マハラノビス距離がしきい値以上となる点数が所定値よりも小さい場合(時系列データと標本データの乖離が小さい場合)には異常と判定する。
【0043】
具体的には、マハラノビス距離算出部75は、記録部61から読み出した標本平均μと標本共分散行列Σ、及び、第1データ取得部63により取得した時系列データに基づいて、マハラノビス距離a(x’)を次式に基づいて算出する。
【0044】
判定部77は、記録部61から読み出したデータ異常判定しきい値athと、マハラノビス距離算出部75により算出したマハラノビス距離a(x’)とを比較する。マハラノビス距離a(x’)がデータ異常判定しきい値ath以上となる点数が所定値よりも大きい場合には正常、マハラノビス距離a(x’)がデータ異常判定しきい値ath以上となる点数が所定値よりも小さい場合には異常と判定する。
【0045】
図5及び図6に、第1異常判定部65による異常判定の一例を示す。図5に示すように、ブレーキ9の開放動作が正常である場合には、加速度センサ13により検出された時系列データは開放タイミングにおいて変化が大きく、且つ、複数の時系列データ間のばらつき(例えば振幅の大きさのばらつき等)も大きくなる。このため、仮に、正常時の時系列データを複数取得して標本データを作成し、現在の時系列データを標本データと比較しマハラノビス距離を算出して異常を判定した場合には、開放動作が正常であってもマハラノビス距離が大きくなり、正しく異常を検出することができない可能性がある。本実施形態では、前述のようにばらつきの小さい異常時の時系列データを複数取得して標本データを作成し、現在の時系列データを標本データと比較してマハラノビス距離を算出する。これにより、図5に示すように、ブレーキ9の開放動作が正常である場合には、マハラノビス距離がしきい値以上となる点数が多くなる。したがって、当該点数が所定値よりも大きい場合(又は所定値以上の場合)に正常と判定することで、正常時の時系列データのばらつきが大きい場合でも、正確な異常判定を行うことができる。なお、上記所定値は、ブレーキ9の開放動作の異常を判定するための、マハラノビス距離がしきい値以上となる点数のしきい値である。
【0046】
一方、図6に示すように、ブレーキ9の開放動作が異常である場合には、加速度センサ13により検出された時系列データは変化が小さく、且つ、複数の時系列データ間のばらつきも小さくなる。このため、マハラノビス距離がしきい値以上となる点数が少なくなり、当該点数が所定値よりも小さい場合(又は所定値以下の場合)に異常と判定することで、正確な異常判定を行うことができる。
【0047】
図3に戻り、慣性モーメント推定部67は、モータ制御部57の速度制御部により生成されるトルク指令と、エンコーダ11の検出データに基づくフィードバック加速度等に基づいて、モータ7の慣性モーメントを推定する。
【0048】
外乱トルク推定部69は、モータ制御部57の速度制御部により生成されるトルク指令と、エンコーダ11の検出データに基づくフィードバック速度等に基づいて、モータ7に付加される外乱トルクを推定する。
【0049】
第2データ取得部71は、モータ7の動作状態に関わる状態量データを取得する。「状態量データ」の種類は、モータ7の動作状態を表すデータであれば特に限定されるものではないが、本実施形態では、第2データ取得部71は、慣性モーメント推定部67により推定された慣性モーメントの推定値、外乱トルク推定部69により推定された外乱トルクの推定値、及び、モータ制御部57の速度制御部により生成されたトルク指令値を取得する。第2データ取得部71による上記各状態量データの取得タイミングは、上位制御装置3のモータ指令出力部53がモータ指令を出力した後(モータ指令を出力したタイミングを含む)である。例えば、第2データ取得部71は、上位制御装置3のブレーキ指令出力部55が開放指令を出力し、モータ制御装置5のブレーキ制御部59がブレーキ9に電力を供給した後、最初にモータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点(モータ制御装置5のモータ制御部57がモータ7に電力を供給した時点)の上記各状態量データを取得する。
【0050】
第2異常判定部73は、第2データ取得部71により取得された状態量データ(例えば慣性モーメントの推定値、外乱トルクの推定値、トルク指令値等)に基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常を判定する。第2異常判定部73による異常判定のタイミングは、上位制御装置3のモータ指令出力部53がモータ指令を出力した後(モータ指令を出力したタイミングを含む)である。例えば、第2異常判定部73は、上位制御装置3のブレーキ指令出力部55が開放指令を出力し、モータ制御装置5のブレーキ制御部59がブレーキ9に電力を供給した後、最初にモータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点(モータ制御装置5のモータ制御部57がモータ7に電力を供給した時点)で異常を判定する。
【0051】
図7図9に、第2異常判定部73による慣性モーメント推定値を用いた異常判定の一例を示す。ブレーキ9の開放動作に異常がある場合、開放指令を出力した後(ブレーキ9に電力を供給した後)でもモータ7が制動された状態となる。このため、図8及び図9に示すように、ブレーキ開放後最初にモータ指令を出力した時点(モータ7に電力を供給した時点)で、モータ7の慣性モーメント推定値は正常時に比べて異常に大きな値となる。本実施形態では、図7に示すように、第2異常判定部73が、慣性モーメントの推定値がしきい値よりも小さい場合(又はしきい値以下の場合)に正常と判定し、慣性モーメントの推定値がしきい値よりも大きい場合(又はしきい値以上の場合)に異常と判定する。これにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0052】
図10図12に、第2異常判定部73による外乱トルク推定値を用いた異常判定の一例を示す。ブレーキ9の開放動作に異常がある場合、開放指令を出力した後(ブレーキ9に電力を供給した後)でもモータ7が制動された状態となる。このため、図11及び図12に示すように、ブレーキ開放後最初にモータ指令を出力した時点(モータ7に電力を供給した時点)で、モータ7の外乱トルク推定値は正常時に比べて異常に大きな値となり、且つ、トルク指令値と略等しくなる。本実施形態では、図10に示すように、第2異常判定部73が、外乱トルクの推定値がしきい値よりも小さい場合(又はしきい値以下の場合)に正常と判定し、外乱トルクの推定値がしきい値よりも大きい場合(又はしきい値以上の場合)、且つ、外乱トルクの推定値がトルク指令値と略等しい場合に異常と判定する。これにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0053】
なお、以上説明した各装置における処理の分担は、上記の例に限定されるものではない。例えば、モータ制御装置5における各処理の一部又は全部を、上位制御装置3又はエンジニアリングツール15に実装してもよい。また、上位制御装置3における各処理の一部又は全部を、モータ制御装置5又はエンジニアリングツール15に実装してもよい。また、エンジニアリングツール15における各処理の一部又は全部を、上位制御装置3又はモータ制御装置5に実装してもよい。
【0054】
また以上では、比較的処理負荷が大きい標本平均μ、標本共分散行列Σ、及びデータ異常判定しきい値athの算出をエンジニアリングツール15により実行し、その算出結果をモータ制御装置5に記録しておき、モータ制御装置5では比較的処理負荷が小さいマハラノビス距離の算出と異常判定を実行することで、モータ制御装置5の処理負荷を軽減するようにしたが、これに限られない。例えば、上述の処理の全部をモータ制御装置5、上位制御装置3、又は、エンジニアリングツール15のいずれか1つの装置によって実行してもよいし、上記とは異なる分担で、2以上の装置で実行してもよい。
【0055】
また、上述した上位制御装置3のモータ指令出力部53及びブレーキ指令出力部55等における処理、モータ制御装置5の第1データ取得部63、第1異常判定部65、慣性モーメント推定部67、外乱トルク推定部69、第2データ取得部71、及び第2異常判定部73等における処理、エンジニアリングツール15の標本データ作成部51等における処理等は、これらの処理の分担の例に限定されるものではない。例えば、更に少ない数の処理部(例えば1つの処理部)で処理されてもよく、更に細分化された処理部により処理されてもよい。またモータ制御装置5は、モータ7やブレーキ9に電力を給電する部分のみ実際の装置により実装され、その他の上記各処理部による機能は後述するCPU901(図14参照)が実行するプログラムにより実装されてもよいし、その機能の一部又は全部がASICやFPGA、その他の電気回路等の実際の装置により実装されてもよい。
【0056】
<4.上位制御装置及びモータ制御装置の処理手順>
図13を参照しつつ、上位制御装置3及びモータ制御装置5により実行される処理手順(異常判定方法)の一例について説明する。なお、本フローチャートの開始時点において、ブレーキ9は作動した状態になっているものとする。
【0057】
ステップS5では、モータ制御装置5は、第1データ取得部63により加速度センサ13からの時系列データの取得を開始する。
【0058】
ステップS10では、上位制御装置3は、ブレーキ指令出力部55により開放指令を出力し、モータ制御装置5は、ブレーキ制御部59によりブレーキ9に電力を供給する。これにより、ブレーキ9が正常である場合には開放し、ブレーキ9が異常である場合には動作せずに作動状態が維持される。
【0059】
ステップS15では、モータ制御装置5は、第1データ取得部63により加速度センサ13からの時系列データの取得を終了する。
【0060】
ステップS20では、上位制御装置3は、ブレーキ指令出力部55により作動指令を出力し、モータ制御装置5は、ブレーキ制御部59によりブレーキ9への電力供給を停止してブレーキ9を作動させる。
【0061】
ステップS25では、モータ制御装置5は、第1異常判定部65により、記録部61に記録された標本データや各種の算出結果(標本平均μ、標本共分散行列Σ、データ異常判定しきい値ath等)を読み出す。
【0062】
ステップS30では、モータ制御装置5は、第1異常判定部65により、上記ステップS5~ステップS15で取得した時系列データと、上記ステップS25で読み出した標本データ等に基づいて、ブレーキ9の開放動作が正常であるか異常であるかを判定する。
【0063】
ステップS35では、モータ制御装置5は、上記ステップS30における判定結果が正常であるか否かを判定する。正常である場合には(ステップS35:YES)、次のステップS40に移る。異常である場合には(ステップS35:NO)、後述のステップS70に移る。
【0064】
ステップS40では、上位制御装置3は、ブレーキ指令出力部55により開放指令を出力し、モータ制御装置5は、ブレーキ制御部59によりブレーキ9に電力を供給する。これにより、ブレーキ9が正常である場合には開放し、ブレーキ9が異常である場合には動作せずに作動状態が維持される。
【0065】
ステップS45では、上位制御装置3は、モータ指令出力部53によりモータ指令を出力し、モータ制御装置5は、モータ制御部57によりモータ7に電力を供給する。これにより、ブレーキ9が正常に開放されている場合にはモータ7が動作を開始し、ブレーキ9が異常である場合にはモータ7は制動されているため動作しない。
【0066】
ステップS50では、モータ制御装置5は、第2データ取得部71によりモータ7の動作状態に関わる状態量データを取得する。前述のように、状態量データには慣性モーメントの推定値、外乱トルクの推定値、トルク指令値等が含まれる。
【0067】
ステップS55では、モータ制御装置5は、第2異常判定部73により、上記ステップS50で取得した状態量データに基づいてブレーキ9の開放動作が正常であるか異常であるかを判定する。
【0068】
ステップS60では、モータ制御装置5は、上記ステップS55における判定結果が正常であるか否かを判定する。正常である場合には(ステップS60:YES)、次のステップS65に移り、正常と判定された場合に実行するように設定された正常処理を実行する。正常処理には、例えば正常と判定された結果を上位制御装置3又はエンジニアリングツール15に送信する処理や、異常判定処理を終了して通常稼動(実運転)を開始する処理等が含まれる。
【0069】
一方、上記ステップS60において、上記ステップS55における判定結果が異常である場合には(ステップS60:NO)、次のステップS70に移り、異常と判定された場合に実行するように設定された異常処理を実行する。異常処理には、例えばアラームを出力する処理や、異常と判定された結果を上位制御装置3又はエンジニアリングツール15に送信する処理や、通常稼動(実運転)を停止する処理等が含まれる。以上により、本フローチャートを終了する。
【0070】
上記処理手順によれば、ステップS45でモータ指令を出力する前に、ステップS30でブレーキ9の開放動作の異常を判定する。これにより、モータ7が動作する前に異常を判定することができるので、ブレーキ9に負荷をかけることなく異常を判定できる。また、ブレーキ以外の機械側の影響を受けることがないので、精度良く異常を判定できる。また、ステップS45でモータ指令を出力した後にも、ステップS55でブレーキ9の開放動作の異常を判定する。これにより、モータ7が動作する前と動作した後の2段階による異常判定が可能となるので、異常判定の精度及び確実性を向上できる。また、各異常判定の結果が異なる場合には、いずれかの異常判定機能自体に異常が生じていることを検知できる。
【0071】
なお、以上説明した処理手順は一例であって、上記手順の少なくとも一部を削除又は変更してもよいし、上記以外の手順を追加してもよい。上記手順の少なくとも一部の順番を変更してもよいし、複数の手順が単一の手順にまとめられてもよい。
【0072】
<5.実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る異常判定システム1は、駆動装置の動作状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部63と、駆動装置の動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて標本データを作成する標本データ作成部51と、第1データ取得部63により取得した時系列データと、標本データ作成部51により作成された標本データとに基づいて、駆動装置の動作異常を判定する第1異常判定部65と、を有する。
【0073】
また、本実施形態に係るモータ制御装置5は、駆動装置の動作状態に関わる時系列データを取得する第1データ取得部63と、第1データ取得部63により取得した時系列データと、駆動装置の動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、駆動装置の動作異常を判定する第1異常判定部65と、を有する。
【0074】
通常、駆動装置の異常を判定するシステムでは、正常時の時系列データから標本データを作成し、現在の時系列データと標本データとを比較して異常を判定するのが一般的である。この場合、正常時の時系列データのばらつきが大きい場合には、正しく異常を検出できない可能性がある。
【0075】
本実施形態では、駆動装置の動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて作成された標本データを使用して異常判定を行う。現在の時系列データと標本データとを比較し、両データの乖離が所定量より大きい場合には正常、乖離が所定量より小さい場合には異常と判定する。これにより、駆動装置の異常時の時系列データのばらつきが小さい場合には、正常時の時系列データのばらつきが大きい場合でも、正確な異常判定を行うことが可能となる。したがって、異常判定の精度を向上できる。
【0076】
本実施形態において、第1異常判定部65は、標本データと時系列データに基づいてマハラノビス距離を算出するマハラノビス距離算出部75と、マハラノビス距離としきい値との比較により駆動装置の動作異常を判定する判定部77と、を有してもよい。この場合、異常判定に関わる演算を単純化でき、処理負荷を軽減しつつ精度の高い異常判定を実行できる。
【0077】
本実施形態において、第1データ取得部63は、モータ7を制動するためのブレーキ9の開放動作の状態に関わる時系列データを取得し、第1異常判定部65は、第1データ取得部63により取得した時系列データと、ブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて作成された標本データと、に基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常を判定してもよい。
【0078】
ブレーキ9の開放動作においては、異常時にはブレーキ9が動作しないため、時系列データのばらつきが小さくなる。一方で、正常時にはブレーキ9が開放されるが、取得する時系列データの種類によっては時系列データのばらつきが大きくなる場合がある。そこで、ブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合の時系列データに基づいて作成された標本データを使用して異常判定を行うことにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0079】
また、例えばブレーキ電流や電圧を用いてブレーキ9の開放動作の異常を判定する場合には、例えばモータ制御装置5の外側又は内側に検出回路を別途設ける必要があり、コストアップの要因となる。本実施形態によれば、時系列データ及び標本データに基づいて異常を判定するので、検出回路が不要となり、コストアップを招くことなく異常を判定できる。
【0080】
また、本実施形態ではブレーキ9の開放動作に異常が生じた場合(ブレーキ9及びモータ7が共に動作しない状態)の時系列データにより作成された標本データを使用するため、標本データがワークや運転パターンの影響を受けることがない。このため、ワークや運転パターンが変更された場合でも、標本データを作り直すことなく、正確な異常判定を行うことができる。
【0081】
本実施形態において、異常判定システム1は、モータ7を動作するためのモータ指令を出力するモータ指令出力部53を有してもよく、その場合には、第1データ取得部63は、モータ指令出力部53がモータ指令を出力する前に時系列データを取得し、第1異常判定部65は、モータ指令出力部53がモータ指令を出力する前に、時系列データと標本データとに基づいてブレーキ9の開放動作の異常を判定してもよい。
【0082】
例えば、ブレーキ9により制動した状態でモータ7を動作させ、トルク指令や回転角度を検出して異常を判定する場合、ブレーキ9に負荷がかかるためにブレーキ9の寿命に影響を与える可能性がある。また、ブレーキ以外の機械側の影響を受けるため、必ずしもブレーキ9だけを診断できるとは限らない。
【0083】
本実施形態では、モータ指令出力部53がモータ指令を出力する前にブレーキ9の開放動作の異常を判定する。これにより、モータ7が動作していない状態でブレーキ9の異常を判定することができるので、ブレーキ9に負荷をかけることなく異常を判定できる。また、ブレーキ以外の機械側の影響を受けることがないので、精度良く異常を判定できる。
【0084】
本実施形態において、異常判定システム1は、モータ指令出力部53がモータ指令を出力した後に、モータ7の動作状態に関わる状態量データを取得する第2データ取得部71と、モータ指令出力部53がモータ指令を出力した後に、状態量データに基づいてブレーキ9の開放動作の異常を判定する第2異常判定部73と、を有してもよい。
【0085】
この場合、モータ7が動作する前と動作した後の2段階による異常判定が可能となるので、異常判定の精度及び確実性を向上できる。また、各異常判定の結果が異なる場合には、いずれかの異常判定機能自体に異常が生じていることを検知できる。
【0086】
本実施形態において、第1データ取得部63は、時系列データを、ブレーキ9の開放動作による振動を検出する加速度センサ13から取得してもよい。
【0087】
この場合、異常時にはブレーキ9が動作せず振動が検出されないため、時系列データは変化が小さく、複数の時系列データ間のばらつきが小さい。このため、当該時系列データに基づいて作成された標本データを使用して異常判定を行うことにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0088】
本実施形態において、異常判定システム1は、ブレーキ9を開放するための開放指令を出力するブレーキ指令出力部55と、モータ7の慣性モーメントを推定する慣性モーメント推定部67と、を有してもよく、その場合には、第2データ取得部71は、状態量データとして、ブレーキ指令出力部55が開放指令を出力した後最初にモータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点の慣性モーメントの推定値を取得し、第2異常判定部73は、慣性モーメントの推定値に基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常を判定してもよい。
【0089】
ブレーキ9の開放動作に異常がある場合、ブレーキ指令出力部55が開放指令を出力した後でもモータ7が制動された状態となるため、モータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点でモータ7の慣性モーメント推定値は異常に大きな値となる。本実施形態では、モータ7の慣性モーメントの推定値に基づいてブレーキ9の開放動作の異常を判定する。例えば、慣性モーメントの推定値がしきい値よりも大きい場合に異常と判定することができる。これにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0090】
本実施形態において、異常判定システム1は、ブレーキ9を開放するための開放指令を出力するブレーキ指令出力部55と、モータ7の外乱トルクを推定する外乱トルク推定部69と、を有してもよく、その場合には、第2データ取得部71は、状態量データとして、ブレーキ指令出力部55が開放指令を出力した後最初にモータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点の外乱トルクの推定値を取得し、第2異常判定部73は、外乱トルクの推定値に基づいて、ブレーキ9の開放動作の異常を判定してもよい。
【0091】
ブレーキ9の開放動作に異常がある場合、ブレーキ指令出力部55が開放指令を出力した後でもモータ7が制動された状態となるため、モータ指令出力部53がモータ指令を出力した時点でモータ7の外乱トルク推定値は異常に大きな値となり、且つ、トルク指令と略等しくなる。本実施形態では、モータ7の外乱トルクの推定値に基づいてブレーキ9の開放動作の異常を判定する。例えば、外乱トルクの推定値がしきい値よりも大きい場合に異常と判定することができる。これにより、正確な異常判定を行うことができる。
【0092】
<6.変形例>
開示の実施形態は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0093】
前述の実施形態では、第1異常判定部65がマハラノビス距離を算出して異常を判定するようにしたが、異常判定手法は上記に限定されるものではない。例えば正規分布等の統計的手法を利用して異常を判定してもよい。この場合、例えば標本データ群から正規分布を作成し、正規分布に対してデータ異常判定しきい値を設定し、現在の時系列データが正規分布に設定したデータ異常判定しきい値を超えていたら異常と判定してもよい。
【0094】
また前述の実施形態では、異常判定システムを、モータを制動するためのブレーキの開放動作の異常を判定する場合に適用した例について説明したが、異常判定の対象は上記に限定されるものではない。上述した異常判定システムは、ブレーキ以外の様々な駆動装置の動作異常を判定する場合に適用することが可能である。特に、駆動装置が正常である場合に動作状態に関わる時系列データのばらつきが大きく、且つ、駆動装置が異常である場合に動作状態に関わる時系列データのばらつきが小さい場合に、上述した異常判定システムは好適である。
【0095】
<7.モータ制御装置のハードウェア構成例>
図14を参照しつつ、モータ制御装置5のハードウェア構成例について説明する。なお、図14中では、モータ制御装置5の構成のうちモータ7又はブレーキ9に電力を供給する機能に係る構成を適宜省略して図示している。また、上位制御装置3又はエンジニアリングツール15を同様のハードウェア構成としてもよい。
【0096】
図14に示すように、モータ制御装置5は、例えば、CPU901と、ROM903と、RAM905と、ASIC又はFPGA等の特定の用途向けに構築された専用集積回路907と、入力装置913と、出力装置915と、記録装置917と、ドライブ919と、接続ポート921と、通信装置923とを有する。これらの構成は、バス909や入出力インターフェース911を介し相互に信号を伝達可能に接続されている。
【0097】
プログラムは、例えば、ROM903やRAM905、ハードディスク等の記録装置917等に記録しておくことができる。
【0098】
プログラムは、例えば、フレキシブルディスクなどの磁気ディスク、各種のCD・MOディスク・DVD等の光ディスク、半導体メモリ等のリムーバブルな記録媒体925に、一時的又は非一時的(永続的)に記録しておくこともできる。このような記録媒体925は、いわゆるパッケージソフトウエアとして提供することもできる。この場合、これらの記録媒体925に記録されたプログラムは、ドライブ919により読み出されて、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0099】
プログラムは、例えば、ダウンロードサイト・他のコンピュータ・他の記録装置等(図示せず)に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、LANやインターネット等のネットワークNWを介し転送され、通信装置923がこのプログラムを受信する。そして、通信装置923が受信したプログラムは、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0100】
プログラムは、例えば、適宜の外部接続機器927に記録しておくこともできる。この場合、プログラムは、適宜の接続ポート921を介し転送され、入出力インターフェース911やバス909等を介し上記記録装置917に記録されてもよい。
【0101】
CPU901が、上記記録装置917に記録されたプログラムに従い各種の処理を実行することにより、上記のモータ制御部57、ブレーキ制御部59、第1データ取得部63、第1異常判定部65、慣性モーメント推定部67、外乱トルク推定部69、第2データ取得部71、第2異常判定部73等による処理が実現される。CPU901は、例えば、上記記録装置917からプログラムを直接読み出して実行してもよいし、RAM905に一旦ロードした上で実行してもよい。CPU901は、例えば、プログラムを通信装置923やドライブ919、接続ポート921を介し受信する場合、受信したプログラムを記録装置917に記録せずに直接実行してもよい。
【0102】
CPU901は、必要に応じて、例えばマウス・キーボード・マイク(図示せず)等の入力装置913から入力する信号や情報に基づいて各種の処理を行ってもよい。
【0103】
CPU901は、上記の処理を実行した結果を、例えば表示装置や音声出力装置等の出力装置915から出力してもよい。CPU901は、必要に応じて処理結果を通信装置923や接続ポート921を介し送信してもよい。CPU901は、処理結果を上記記録装置917や記録媒体925に記録させてもよい。
【0104】
以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0105】
以上説明した実施形態や変形例等が解決しようとする課題や効果は、上述した内容に限定されるものではない。実施形態や変形例等によって、上述されていない課題を解決したり、上述されていない効果を奏することもでき、記載されている課題の一部のみを解決したり、記載されている効果の一部のみを奏することがある。
【符号の説明】
【0106】
1 異常判定システム
5 モータ制御装置(異常判定装置)
9 ブレーキ(駆動装置)
13 加速度センサ
51 標本データ作成部
53 モータ指令出力部(動作指令出力部)
55 ブレーキ指令出力部(開放指令出力部)
63 第1データ取得部
65 第1異常判定部
67 慣性モーメント推定部
69 外乱トルク推定部
71 第2データ取得部
73 第2異常判定部
75 マハラノビス距離算出部
77 判定部
図1
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