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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】導体成形装置及び波巻コイルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H02K15/04 A
H02K15/04 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021187725
(22)【出願日】2021-11-18
(65)【公開番号】P2023074679
(43)【公開日】2023-05-30
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】本田 洋介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 幹人
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-058076(JP,A)
【文献】特許第3118837(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線部を有する複数の導体からなる導体群に対し、前記導体群を厚さ方向に折り返す導体成形装置であって、
少なくとも2本以上の単位線材により構成される前記導体を折り返す際に、前記導体の折り返し部における前記少なくとも2本以上の前記単位線材により構成される前記導体を折り返す途中から折り返しの終了までの間に前記導体が嵌め込まれると共に前記導体の幅を所定距離に抑制する複数の溝が設けられた拘束治具を備え
前記拘束治具は、前記導体を折り返す際に、前記導体を折り返す途中の頂点部が前記複数の溝に嵌め込まれるように前記頂点部に近づく側に移動されて前記導体に装着されると共に、前記導体の折り返しの終了後において、前記導体を折り返した後の前記頂点部が前記複数の溝から取り外されるように前記頂点部から離れる側に移動される、導体成形装置。
【請求項2】
前記複数の溝は、同時成形する配列した前記複数の導体分、所定間隔を設けて並列配置されて構成される、請求項1に記載の導体成形装置。
【請求項3】
コイル線材により成形され、ステータコアのスロットに配置される複数のスロット配置部と、隣り合う前記スロット配置部同士を連結するターン部と、を有する波巻コイルの製造方法であって、
少なくとも2本以上の単位線材を同時に折り返す際に、少なくとも2本以上の前記単位線材を同時に折り返す途中から折り返しの終了までの間に少なくとも2本以上の前記単位線材により構成される前記ターン部の頂点部を拘束治具の複数の溝に嵌め込むことにより前記ターン部の前記頂点部の幅を所定距離に抑制した状態で、2本以上の単位線材を同時に折り返して前記ターン部を成形する折り返し工程を有し、
前記折り返し工程において、少なくとも2本以上の前記単位線材を同時に折り返す際に、2本以上の前記単位線材を同時に折り返す途中において前記ターン部の前記頂点部に前記拘束治具の前記複数の溝を嵌め込むと共に、2本以上の前記単位線材を同時に折り返した折り返しの終了後において、前記ターン部の前記頂点部から前記拘束治具の前記複数の溝を取り外す、波巻コイルの製造方法。
【請求項4】
前記折り返し工程において、同時成形する配列した複数の前記ターン部を所定間隔を設けて並列配置する、請求項3に記載の波巻コイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体成形装置及び波巻コイルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、CO排出量削減により環境への負担軽減を実現できる電動機や発電機等の回転電機のステータを構成するコイルとして、波巻コイルが知られている。波巻コイルは、ステータコアのスロット内に配置されるストレート状の複数のスロット配置部と、ステータコアの軸方向外側で、隣り合うスロット配置部同士を山型状又はアーチ状に連結する複数のターン部(折り返し部)と、を有し、ステータコアの周方向に沿って波形状に成形される。
【0003】
このような波巻コイルとして、ステータコアの複数周分の長尺なシート状の波巻コイルが知られている。シート状の波巻コイルは、渦巻状に巻回され、各スロット配置部をステータコアの各スロット内に挿入することにより、複数層(複数ターン)のコイルを構成する。シート状の波巻コイルは、溶接せずに帯状に成形できるため、溶接が必要なセグメントコイルと比べて軽量化できる。
【0004】
従来、このようなシート状の波巻コイルを製造する方法として、コイル導体の延在する面内において、コイル導体に対し、波巻コイルのターン部に対応する斜行状の複数の渡り導体部と、波巻コイルのスロット配置部に対応する直線状の複数のスロット導体部とを予め全て成形した後、各渡り導体部の中央部で順次折り返し、その折り返し部によって波巻コイルのターン部を成形する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の波巻コイルのターン部は、少なくとも2本以上の単位線材により構成される導体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-58076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術では、2本以上の単位線材で構成されるターン部を同時に折り曲げ成形する際、並列させた各々のコイル線材(導体)のターン部の折り曲げ後の頂点部付近の状態に、捻じれが発生してしまい、成形される波巻コイルに、捻じれの影響により、個々の形状にばらつきが生じ、特に自動作業を行う際、作業性に影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
そこで、本発明は、軽量化を実現させながら、導体の折り返し部の頂点部の捻じれを抑制できる導体成形装置及び波巻コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る導体成形装置は、直線部(例えば、後述の直線部14)を有する複数の導体(例えば、後述のコイル線材10)からなる導体群(例えば、後述の導体群100)に対し、前記導体群を厚さ方向に折り返す導体成形装置(例えば、後述の導体成形装置200)であって、少なくとも2本以上の単位線材(例えば、後述の単位線材10a)により構成される前記導体を折り返す際に、前記導体の折り返し部(例えば、後述のターン部12)における前記少なくとも2本以上の前記単位線材により構成される前記導体が嵌め込まれると共に前記導体の幅を所定距離に抑制する複数の溝(例えば、後述の溝225a)が設けられた拘束治具(例えば、後述の拘束治具225)を備える。
【0009】
上記(1)によれば、並列させた各々の導体の折り曲げ後の頂点部付近の状態に、捻じれが発生することを抑制し、均一な状態で波巻コイルを成形することができ、品質の向上、及び、波巻コイルのステータのスロットへ嵌め込むまでの作業(直線搬送、旋回搬送、治具巻き付け、ステータのスロットへの嵌め込み等)の作業性を向上させることが可能である。
【0010】
(2) (1)に記載の導体成形装置において、前記複数の溝は、同時成形する配列した前記複数の導体分、所定間隔を設けて並列配置されて構成される。
【0011】
上記(2)によれば、複数の導体を同時成形する場合に、同時成形する配列した複数の折り返し部を複数の溝において所定間隔を設けて並列配置できるため、捻じれが発生することを抑制し、均一な状態で波巻コイルを成形することができる。
【0012】
(3) 本発明に係る波巻コイルの製造方法は、コイル線材(例えば、後述のコイル線材10)により成形され、ステータコア(例えば、後述のステータコア20)のスロット(例えば、後述のスロット23)に配置される複数のスロット配置部(例えば、後述のスロット配置部11)と、隣り合う前記スロット配置部同士を連結するターン部(例えば、後述のターン部12)と、を有する波巻コイルの製造方法であって、少なくとも2本以上の単位線材(例えば、後述の単位線材10a)により構成される前記ターン部の頂点部(例えば、後述の頂点部12c)の幅を所定距離に抑制した状態で、2本以上の単位線材を同時に折り返して前記ターン部を成形する折り返し工程を有する。
【0013】
上記(3)によれば、並列させた各々のコイル線材の折り曲げ後の頂点部付近の状態に、捻じれが発生することを抑制し、均一な状態で波巻コイルを成形することができ、品質の向上、及び、波巻コイルのステータのスロットへ嵌め込むまでの作業(直線搬送、旋回搬送、治具巻き付け、ステータのスロットへの嵌め込み等)の作業性を向上させることが可能である。
【0014】
(4) 本発明に係る波巻コイルの製造方法は、前記折り返し工程において、同時成形する配列した複数の前記ターン部を所定間隔を設けて並列配置する。
【0015】
上記(4)によれば、同時成形する配列した複数の前記ターン部を所定間隔を設けて並列配置するため、捻じれが発生することを抑制し、均一な状態で波巻コイルを成形することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軽量化を実現させながら、導体の折り返し部の頂点部の捻じれを抑制できる導体成形装置及び波巻コイルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】波巻コイルを模式的に示す正面図である。
図2】ステータを模式的に示す平面図である。
図3】コイル線材(導体)を成形する様子を示す図である。
図4図3中のA-A線に沿う断面図である。
図5】コイル線材(導体)の一部を拡大して示す正面図である。
図6図5に示すコイル線材(導体)をZ方向に沿う方向から見た図である。
図7図5に示すコイル線材(導体)を複数本並列させて構成した導体群の一部を拡大して示す正面図である。
図8図7に示す導体群をZ方向に沿う方向から見た図である。
図9】導体成形装置の概要を模式的に示す平面図である。
図10】導体成形装置の概要を模式的に示す側面図である。
図11】導体成形装置のクランプ部が導体群をアンクランプした状態を示す図である。
図12】導体成形装置のクランプ部が導体群をクランプした状態を示す図である。
図13】導体群を斜行部の成形位置に搬送する様子を示す導体成形装置の平面図である。
図14】導体群を斜行部の成形位置に搬送する様子を示す導体成形装置の側面図である。
図15】導体群に斜行部を成形する様子を示す導体成形装置の平面図である。
図16】導体群に斜行部を成形する際のクランプ部の動作を示す平面図である。
図17】成形後の導体の斜行部を示す平面図である。
図18】斜行部を成形した後の導体群を折り返し位置に搬送する様子を示す導体成形装置の平面図である。
図19】斜行部を成形した後の導体群に次の斜行部を成形する様子を示す導体成形装置の平面図である。
図20】導体群に成形した斜行部を折り返す際のクランプ部の動作を示す側面図である。
図21】導体群に成形した斜行部を折り返した様子を示す導体成形装置の平面図である。
図22】拘束治具を示す斜視図である。
図23】拘束治具の溝に3本の単位線材により構成されるコイル線材(導体)のターン部が折り返された状態を示す図である。
図24】斜行部を折り返した後の導体群を示す平面図である。
図25】斜行部を折り返した後のクランプ部の動作を示す図である。
図26】斜行部を折り返した後に折り返し部を押圧部材で押圧する動作を示す側面図である。
図27】折り返した後の導体群に次の斜行部を成形する様子を示す導体成形装置の平面図である。
図28】層替わり部に対応する斜行部を逆折りする様子を示す導体群の平面図である。
図29】層替わり部が逆折りされた導体群によって構成されたシート状の波巻コイルを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、導体成形装置を用いて波巻コイルを製造する方法について図面を参照して詳細に説明する。
まず、波巻コイル及びステータについて、図1及び図2を用いて説明する。本実施形態に示す波巻コイル1は、後段で説明する複数本の並列状態のコイル線材10を用いて、図中のY方向に沿って長尺なシート状に成形される。このY方向は、図2に示すステータコア20の周方向に対応する。
【0019】
ステータ2は、ステータコア20と、ステータコア20に装着される波巻コイル1とにより構成される。ステータコア20は、中央の軸孔21に向けて放射状に突出する複数のティース22を有する。隣り合うティース22,22の間にスロット23が形成される。本実施形態では72個のスロット23を有するステータコア20を例示している。
【0020】
波巻コイル1は、複数のスロット配置部11と、複数のターン部12と、を有する。スロット配置部11は、ステータコア20のスロット23内に配置される部位であり、ステータコア20の軸方向(図1中のZ方向)に沿ってストレート状に延びている。ターン部12は、ステータコア20の軸方向の外側において、コイル線材10の隣り合うスロット配置部11,11同士を山型状又はアーチ状に連結する部位である。波巻コイル1の一方端部は、駆動回路との電気的接続のための端子部13となっている。なお、波巻コイル1のスロット配置部11及びターン部12は、複数本のコイル線材10により構成されるが、図1では、これらスロット配置部11、ターン部12及び端子部13を面で模式的に示している。
【0021】
本実施形態の波巻コイル1は、ステータコア20の4周分の長さを有し、ステータコア20に全体で1T~8Tの8層(8ターン)分のコイルを構成する。従って、波巻コイル1は、ステータコア20の1周当たり2層(2ターン)分のコイルを構成し、ステータコア20を1周する毎に層替わりする。図1に示す符号Taは、7層(7T)と6層(6T)との間、5層(5T)と4層(4T)との間、3層(3T)と2層(2T)との間、にそれぞれ配置される層替わり部である。
【0022】
この波巻コイル1は、ステータコア20を4周するように渦巻状に巻回され、スロット配置部11をステータコア20のスロット23内に配置させることにより、ステータコア20に装着される。これによりステータ2が構成される。なお、各スロット23には、波巻コイル1とステータコア20との間の絶縁を図るためのインシュレータが配置されるが、図2では図示を省略している。
【0023】
次に、波巻コイル1を構成するコイル線材10の一実施形態について、図3図6を用いて説明する。
コイル線材10は、銅線等からなる導体である。コイル線材10は、所定の長さに切断された後、図3に示すように、白抜き矢印に示す方向に移動する引出しツール300によって、コイル線材10の延在方向の略中央部において曲げ成形される。本実施形態のコイル線材10は、図4に示すように、それぞれ平角線からなる3本の単位線材10aを、ステータコア20の周方向に対応するY方向に並べて構成される。コイル線材10は、3本の単位線材10aをY方向に並べた状態で、引出しツール300によって、3本の単位線材10aの並び方向に一体に曲げ成形されている。
【0024】
引出しツール300によって曲げ成形されたコイル線材10は、図示しない成形金型によって、図5及び図6に示すように、山型状となるターン部12(以下、このコイル線材10に最初に成形されるターン部12を第1ターン部12Aという場合がある。)と、その第1ターン部12Aの両端部から同一方向に平行に延在する2本の直線部14,14と、を有する略U字状に成形される。本実施形態のコイル線材10の2本の直線部14,14の間隔は、ステータコア20における6スロット離れた2つのスロット23,23に対応する間隔を有する。
【0025】
コイル線材10の第1ターン部12Aは、図5及び図6に示すように、第1斜行部12aと、第2斜行部12bと、頂点部12cと、を有する。第1斜行部12a及び第2斜行部12bは、直線部14,14に一体に連結されると共に、直線部14,14との連結部位から互いに近づく方向に斜めに延び、頂点部12cにおいて一体に連結されている。
【0026】
図6に示すように、コイル線材10の線幅(ステータコア20の径方向の幅)をWとしたとき、第1斜行部12aは、連結される直線部14を基準として、X方向にオフセットすることなく、頂点部12cに向けて傾斜状に延びている。一方、第2斜行部12bは、第1斜行部12aに対してX1方向にWだけオフセットした後、直線部14に向けて傾斜状に延び、その直線部14との連結部位において、上記と反対方向となるX2方向にWだけオフセットしている。その結果、2つの直線部14,14のX方向に沿う位置は変わらない。即ち、2つの直線部14,14は、Y方向に沿う同一の面内に配置されている。なお、X1方向及びX2方向で示されるX方向は、ステータコア20の径方向に対応する。
【0027】
略U字状に成形されたコイル線材10は、波巻コイル1の成形に際して、図7及び図8に示すように、複数本並列される。複数本のコイル線材10が並列されることによって、導体群100が構成される。本実施形態では、三相6本のコイル線材10が使用され、6本のコイル線材10が、所定ピッチでY方向にずれて並列されることによって、導体群100を構成している。このとき、12本の直線部14は、ステータコア20のスロット間隔に対応する均等間隔で平行に並べられている。各第1ターン部12Aの第1斜行部12aと第2斜行部12bとは、コイル線材10の線幅WだけX方向に沿う反対方向にオフセットしているため、隣り合う第1ターン部12A,12Aの第1斜行部12aと第2斜行部12bとを交差させて、隣り合うコイル線材10,10同士を重ねると、12本全ての直線部14は、Y方向に沿う同一の面内に配置される。
【0028】
次に、6本の並列状態のコイル線材10からなる導体群100から波巻コイル1を成形する方法について説明する。最初に、波巻コイル1を成形する際に用いられる導体成形装置200の具体的な構成について、図9及び図10を参照して説明する。
【0029】
導体成形装置200は、導体群100を載置する載置台201と、それぞれ導体群100を斜行部成形及び折り返しのために把持する第1クランプ部202、第2クランプ部203、第3クランプ部204と、導体群100を搬送のために把持する把持機構205と、を有する。
【0030】
載置台201の上面201aには、図示しない搬送装置によって搬送されてきた導体群100が、ターン部12(第1ターン部12A)側を第1クランプ部202側に向けて平置きされる。
【0031】
第1クランプ部202、第2クランプ部203、第3クランプ部204は、成形対象の導体群100の搬送経路に沿って配置され、導体成形装置200の上下方向(図9における紙面に対して垂直方向、図10における上下方向)に昇降移動可能に設けられる。第1クランプ部202、第2クランプ部203、第3クランプ部204は、導体群100をクランプしない時は、導体群100の搬送を邪魔しないように、載置台201の上面201aよりも下位に配置され、導体群100が第1クランプ部202、第2クランプ部203、第3クランプ部204の上方まで搬送されると上昇し、導体群100を把持するように構成される。
【0032】
第1クランプ部202は、最も載置台201に近接して配置される。第1クランプ部202は、導体群100を構成するコイル線材10の直線部14を一括して把持する一対のクランプ部材202A,202Bを有する。クランプ部材202A,202Bは、図7に示す導体群100のY方向に沿う幅以上の幅をそれぞれ有し、導体群100の搬送経路に面して、導体群100の搬送方向であるD1方向に一定の間隔をおいて平行に配置される。この一定の間隔によって、クランプ部材202A,202Bの間には、後述する把持機構205の一つの把持部材205A又は205Bを収容可能な空間部202Cが形成される。
【0033】
第2クランプ部203は、第1クランプ部202に対して載置台201から遠い側に配置される。第2クランプ部203は、第1クランプ部202と同様に、導体群100を構成するコイル線材10の直線部14を一括して把持する一対のクランプ部材203A,203Bを有する。クランプ部材203A,203Bも、導体群100の幅以上の幅をそれぞれ有し、導体群100の搬送経路に面して、導体群100の搬送方向であるD1方向に一定の間隔をおいて平行に配置される。この一定の間隔によって、クランプ部材203A,203Bの間には、後述する把持機構205の一つの把持部材205A又は205Bを収容可能な空間部203Cが形成される。
【0034】
第3クランプ部204は、第2クランプ部203よりも更に載置台201から遠い側に配置される。第3クランプ部204は、第1クランプ部202及び第2クランプ部203と同様に、導体群100を構成するコイル線材10の直線部14を一括して把持する一対のクランプ部材204A,204Bを有する。クランプ部材204A,204Bも、導体群100の幅以上の幅をそれぞれ有し、導体群100の搬送経路に面して、導体群100の搬送方向であるD1方向に一定の間隔をおいて平行に配置される。この一定の間隔によって、クランプ部材204A,204Bの間には、後述する把持機構205の一つの把持部材205A又は205Bを収容可能な空間部204Cが形成される。
【0035】
第2クランプ部203及び第3クランプ部204には、上下方向に昇降移動可能な押圧部材203D,204Dがそれぞれ設けられる。押圧部材203D,204Dは、導体群100を面で押圧する板状部材からなる。第2クランプ部203の押圧部材203Dは、クランプ部材203Bに対して、載置台201から遠い側に平行に並列するように近接して配置される。第3クランプ部204の押圧部材204Dは、クランプ部材204Aに対して、載置台201に近い側に平行に並列するように近接して配置される。図10は、押圧部材203D,204Dがそれぞれ下動した位置にある状態を示している。このときの押圧部材203D,204Dの上面は、導体群100の搬送動作及び各クランプ部材203A,203B、204A,204Bによる把持動作及び導体群100の搬送動作を阻害しないように、クランプ部材203A,203B、204A,204Bの上面よりも下位に配置される。
【0036】
図9及び図10に示すように、第1クランプ部202における載置台201から遠い側のクランプ部材202Bと、第2クランプ部203における載置台201に近い側のクランプ部材203Aとは、距離L1だけ離れている。また、第2クランプ部203における載置台201から遠い側のクランプ部材203Bと、第3クランプ部204における載置台201に近い側のクランプ部材204Aとは、距離L2だけ離れている。距離L2は、距離L1よりも短い。
【0037】
第3クランプ部204は、第1クランプ部202及び第2クランプ部203に対して、導体成形装置200の幅方向(図9におけるD2-D3方向)の一方向(図9におけるD2方向)にオフセットして配置される。D2-D3方向は、導体群100の搬送方向であるD1方向に対して直交する方向である。第2クランプ部203に対する第3クランプ部204のD2方向へのオフセット量は、導体群100の幅の半分、すなわち、コイル線材10の直線部14の6本分のピッチに相当する。
【0038】
第2クランプ部203と第3クランプ部204とは、図示しない移動機構によって、導体成形装置200の幅方向に一体となって移動可能に設けられる。しかし、第1クランプ部202は不動である。そのため、少なくとも第1クランプ部202と第2クランプ部203とが導体群100を把持した状態で、第2クランプ部203が第1クランプ部202に対して導体成形装置200の幅方向に移動することによって、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間に配置される導体群100の直線部14を斜めに折り曲げ、図15に示す斜行部15を形成することができる。したがって、第1クランプ部202と少なくとも第2クランプ部203とは、導体成形装置200における斜行部成形機構206を構成する。
【0039】
第3クランプ部204は、第2クランプ部203との間を幅方向に延びる折り返し線R(図9参照)を境にして、図示しない回転移動機構によって、図20に示すように、第2クランプ部203上に重なるように回転移動可能に設けられる。第3クランプ部204の回転移動によって、クランプ部材203Aとクランプ部材204B、クランプ部材203Bとクランプ部材204A、空間部203C,204C同士、押圧部材203D,204D同士、がそれぞれ重なり合う。これによって、第2クランプ部203及び第3クランプ部204に把持される導体群100は、折り返し線Rを境にして、厚さ方向(図8におけるX1-X2方向)に折り返される。したがって、第2クランプ部203と第3クランプ部204とは、導体成形装置200における折り返し機構207を構成する。
【0040】
把持機構205は、図10に示すように、載置台201の上面201aよりも上位に配置され、図示しない昇降機構によって、下方に配置される導体群100に対して昇降可能に設けられる。把持機構205は、導体群100の幅以上の幅をそれぞれ有する一対の把持部材205A,205Bを有する。一対の把持部材205A,205Bとは同一構造である。把持部材205A,205Bは、D1方向に沿って一定の距離だけ離れて配置されるとともに、把持部材205Bが、把持部材205Aに対して、D2方向にオフセットして配置される。
【0041】
本実施形態の把持機構205は、折り返し機構207を構成する第2クランプ部203及び第3クランプ部204とは別体で設けられている。そのため、折り返し機構207における折り返し位置を常に一定にすることができ、折り返し位置の精度を良好にすることができる。
【0042】
把持機構205と第1クランプ部202、第2クランプ部203及び第3クランプ部204とは、D1方向に沿って相対的に移動可能である。本実施形態では、把持機構205が、D1方向に沿って移動可能に設けられる。これによって、把持機構205は、把持した導体群100を、D1方向に沿う搬送経路に沿って搬送し、第1クランプ部202、第2クランプ部203及び第3クランプ部204に対する相対位置を変更させる。
【0043】
一対の把持部材205A,205BのD1方向に沿う間隔は、図9に示す初期状態の第1クランプ部202の空間部202Cと第2クランプ部203の空間部203Cとの間隔よりも僅かに狭く、第2クランプ部203の空間部203Cと第3クランプ部204の空間部204Cとの間隔に等しい。把持部材205Aに対する把持部材205BのD2方向に沿うオフセット量は、第2クランプ部203に対する第3クランプ部204のD2方向に沿うオフセット量に等しい。
【0044】
各クランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B及び把持部材205A,205Bが導体群100を把持するための具体的な構造は、各クランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B及び把持部材205A,205Bで同一であってもよい。導体群100を把持するための構造は、例えば、図11及び図12に示すように、導体群100の幅方向(図7におけるY方向)に開閉可能に並置される複数のブロック210によって構成することができる。各ブロック210は、導体群00を構成する各コイル線材10の直線部14の幅(図4におけるY方向の幅)よりも僅かに細幅の溝部210aを有する。各溝部210aは、導体群100の直線部14の延在方向であるD1方向に沿って延びている。
【0045】
溝部210aは、ブロック210の幅方向の一方の側面から上面の略半分にかけて切り欠かれることによって形成され、各ブロック210の上面の残りの半分によって、コイル線材10の直線部14を挟み付けるための挟着片210bが形成される。溝部210a及び挟着片210bは、1つのブロック210についてそれぞれ1つずつ形成される。溝部210a及び挟着片210bの数は、導体群100の直線部14の本数以上である。すなわち、本実施形態の場合、1つのクランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B又は把持部材205A,205Bは、少なくとも12本の溝部210a及び挟着片210bを有する。
【0046】
図11に示すように、各ブロック210が離れると、クランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B及び把持部材205A,205Bは開いた状態となる。このとき、隣接する挟着片210b,210b間に配置される溝部210aの幅は、コイル線材10の直線部14の幅よりも広くなる。そのため、各溝部210aは、コイル線材10の直線部14を内部に収容可能又は内部から取り出し可能である。
【0047】
一方、図12に示すように、各ブロック210が密接すると、クランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B及び把持部材205A,205Bは閉じた状態となる。このとき、隣接する挟着片210b,210b間に配置される溝部210aの幅は、コイル線材10の直線部14の幅よりも僅かに狭くなる。そのため、各溝部210a内に収容されたコイル線材10の直線部14は、隣接する挟着片210b,210bでそれぞれ個別に挟着される。これによって、導体群100は把持される。
【0048】
このように、導体群100を把持するクランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204B及び把持部材205A,205Bは、コイル線材10の直線部14の各々を幅方向から把持する。直線部14の幅方向(図4及び図7に示すY方向)は、コイル線材10を構成する複数の単位線材10aの積層方向である。そのため、複数の単位線材10aの間に厚さ方向(図4に示すX方向)のばらつきがあっても、コイル線材10を構成する複数の単位線材10aを一体に挟着することによって把持可能である。しかも、単位線材10aがばらつかないようにコイル線材10を押さえるための別途の押さえ部材が不要であるため、装置の小型化も可能である。
【0049】
なお、図11及び図12は、導体群100の直線部14を下側から把持する場合を示している。これは、クランプ部材202A,202B、203A,203B、204A,204Bによって導体群100の直線部14を下側から把持する場合に対応する。把持部材205A,205Bよって導体群100の直線部14を上側から把持する場合は、図11及び図12を上下反転させた構成となる。
【0050】
次に、この導体成形装置200によって導体群100に対して成形を行う際の具体的な成形動作について説明する。
まず、図9及び図10に示すように、載置台201の上面201aに、6本のコイル線材10からなる導体群100が、ターン部12(第1ターン部12A)を第1クランプ部202側に向けて載置される。
【0051】
把持機構205が載置台201上の導体群100に向けて移動し、載置台201に近い側に配置される把持部材205Aが導体群100の上方に配置されると、把持機構205が下降し、把持部材205Aが導体群100のターン部12(第1ターン部12A)近傍の直線部14をそれぞれ把持する。このとき、もう一方の把持部材205Bは、載置台201と第1クランプ部202との間に配置され、導体群100を把持しない。把持機構205は、導体群100を把持した状態で、直線部14の延在方向に沿うD1方向に直線的に移動し、図13に示すように、導体群100を、斜行部成形機構206を構成する第1クランプ部202及び第2クランプ部203の上方まで搬送する。
【0052】
図13における符号208は、載置台201と第1クランプ部202との間に配置される複数のピンからなるガイド部材である。ガイド部材208は、導体群100のターン部12(第1ターン部12A)が第1クランプ部202の上方を通過した後に、導体群100の下方から上昇し、隣接する直線部14,14の間にそれぞれ挿入される。これによって、搬送時の導体群100の直線部14同士の干渉が防止され、導体群100の円滑な搬送がガイドされる。
【0053】
導体群100を把持した把持部材205Aは、図13及び図14に示すように、第2クランプ部203の空間部203Cの上方まで移動した後、第1クランプ部202、第2クランプ部203及び第3クランプ部204が一体に上昇することによって、空間部203C内に収容される。第1クランプ部202及び第2クランプ部203の上昇時、クランプ部材202A,202B、203A,203Bは、図11に示すように開いた状態である。そのため、第1クランプ部202及び第2クランプ部203の上昇によって、隣接する挟着片210b,210b間の各溝部210a内に導体群100の直線部14がそれぞれ収容される。溝部210a内に直線部14が収容された後、クランプ部材202A,202B、203A,203Bは閉じた状態となり、導体群100を把持する。
【0054】
図13及び図14に示すように、第1クランプ部202及び第2クランプ部203がそれぞれ把持する直線部14の被把持部140,140は、波巻コイル1のスロット配置部11に対応する部位である。このため、直線部14の延在方向に沿う一対のクランプ部材202A,202Bの間隔(空間部202Cを含む第1クランプ部202のD1方向の長さ)及び一対のクランプ部材203A,203Bの間隔(空間部203Cを含む第2クランプ部203のD1方向の長さ)は、それぞれ波巻コイル1のスロット配置部11の長さに略等しい。
【0055】
図13及び図14に示すように、導体群100の直線部14において、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間に配置される部位141は、導体群100において斜行部15が成形される部位であり、波巻コイル1のターン部12に対応する部位である。この部位141の長さ、すなわち、図9及び図10に示す第1クランプ部202と第2クランプ部203との距離L1は、波巻コイル1の1本のターン部12を一直線状に延ばした場合の長さに略等しい。
【0056】
第1クランプ部202及び第2クランプ部203が導体群100を把持した後、把持機構205は、導体群100の把持を解除するとともに上昇し、導体群100の上方に退避する。その後、次の把持動作に備えて、図15に示すように、把持部材205Aが第1クランプ部202の空間部202Cの上方に配置されるように移動する。
【0057】
次に、導体成形装置200は、第1クランプ部202及び第2クランプ部203によって導体群100を把持した状態から、第1クランプ部202に対して、第2クランプ部203及び第3クランプ部204を、図15に示すように、D2方向に移動させる。すなわち、導体群100におけるコイル線材10の第1ターン部12Aと第2クランプ部203で把持された被把持部140とを、導体群100のコイル線材10の延在する面内(図15の紙面内)において、直線部14の延在方向と交差する方向(D2方向)に沿ってオフセットさせる。これによって、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間に配置される12本の直線部14からなる部位141がオフセット方向(D2方向)に傾斜し、導体群100を構成する各コイル線材10に1番目の斜行部15(斜行部15A)がそれぞれ成形される。
【0058】
直線部14に対する斜行部15の傾斜角度は、図5に示すように、コイル線材10に成形されるターン部12の第1斜行部12a又は第2斜行部12bの傾斜角度に略等しい。導体群100に斜行部15が成形されることによって、第2クランプ部203によって把持される導体群100のターン部12(第1ターン部12A)側は、第1クランプ部202によって把持される直線部14に対して、導体群100の幅の半分、すなわち、コイル線材10の直線部14の6本分のピッチに相当するオフセット量で、D2方向にずれて配置される。
【0059】
本実施形態の導体成形装置200は、斜行部15を成形する際、第2クランプ部203側をD2方向に直線移動させるのではなく、図16に示すように、各斜行部15と、この斜行部15に連続し且つ第1クランプ部202によって把持される各直線部14との境界点である曲げ起点Pを中心とするとともに斜行部15の長さを半径として、第2クランプ部203側を円弧状に移動させるように構成される。このとき、第2クランプ部203側は、第1クランプ部202に対して平行を維持したまま円弧状に移動する。これによって、図17に示すように、斜行部15(部位141)は、反対方向に引っ張られながら成形されるため、成形後の斜行部15の直線性が良好となり、斜行部15の成形精度が向上する。
【0060】
斜行部15の成形のために第2クランプ部203がD2方向にオフセットすると、図15に示すように、第1クランプ部202の空間部202Cと第2クランプ部203の空間部203Cとの間隔は、僅かに小さくなり、一対の把持部材205A,205Bの間隔に一致する。したがって、導体群100に最初の斜行部15(斜行部15A)が成形された後、把持機構205が、図15に示す位置において導体群100に向けて下降すると、把持部材205A,205Bは、空間部202C,203C内にそれぞれ収容され、導体群100を把持することができる。
【0061】
このとき、一対の把持部材205A,205Bは、斜行部15を挟んだ両側にそれぞれ配置される直線部14,14の二点で導体群100を把持するため、導体群100がばらけにくい。その後、把持機構205が導体群100を把持すると、第1クランプ部202及び第2クランプ部203は、導体群100の把持を解除して下降するとともに、D3方向に移動し、初期状態の位置に復帰する。
【0062】
その後、導体群100を把持した把持機構205は、D1方向に移動し、図18に示すように、把持部材205Aが第2クランプ部203の空間部203Cの上方に配置されるとともに、把持部材205Bが第3クランプ部204の空間部204Cの上方に配置されるまで、導体群100を搬送する。第3クランプ部204は、第1クランプ部202及び第2クランプ部203に対して、予め導体群100の幅の半分だけD2方向にオフセットし、把持機構205の把持部材205Bも把持部材205Aに対して同様にオフセットしているため、第1クランプ部202、第2クランプ部203及び第3クランプ部204が上昇すると、最初の斜行部15(斜行部15A)を成形した後の導体群100を把持した把持部材205A,205Bは、第2クランプ部203の空間部203Cと第3クランプ部204の空間部204Cとにそれぞれ収容される。
【0063】
第1クランプ部202、第2クランプ部203及び第3クランプ部204は、上昇後、それぞれ導体群100の直線部14を把持するとともに、把持機構205は導体群100の把持を解除する。このとき、導体群100に成形された斜行部15は、第2クランプ部203のクランプ部材203Bと第3クランプ部204のクランプ部材204Aとの間に配置される。すなわち、クランプ部材203Bとクランプ部材204Aとの間の距離L2は、斜行部15を挟んで隣接する直線部14,14間の距離に略等しい。また、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間には、次に成形される斜行部15となる部位141が新たに配置される。把持機構205は、導体群100の上方に退避した後、図19に示すように、次の把持に備えて、第1クランプ部202の空間部202D及び第2クランプ部203の空間部203Cの上方まで移動する。
【0064】
その後、図15に示した場合と同様に、第2クランプ部203及び第3クランプ部204をD2方向に移動させることによって、図19に示すように、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間に、2番目の斜行部15(斜行部15B)をそれぞれ成形する(斜行部成形工程)。
【0065】
次に、第2クランプ部203と第3クランプ部204との間に配置される最初の斜行部15Aの中央部、すなわち、第2クランプ部203と第3クランプ部204との間に配置される折り返し線R(図9図19参照)を境にして、第3クランプ部204が、図20に示すように、第2クランプ部203上に重なるように回転移動して、最初の斜行部15Aを折り返す(折り返し工程)。
【0066】
第3クランプ部204の回転移動によって、導体群100の最初の斜行部15Aが、導体群100の厚さ方向に折り返される。折り返し線Rは、導体群100の幅方向に沿うD2-D3方向に沿って配置され、斜行部15Aに対して交差している。そのため、斜行部15Aが折り返されることによって、その折り返し部は、折り返し線Rを頂点部(頂点部12c)とする山型状(三角形状)の新たな12本のターン部12(第2ターン部12B)を構成する。本実施形態では、第3クランプ部204の回転移動によって、斜行部15Aを、折り返し線Rに沿って、図19における紙面の手前側方向(R1方向)に順折りしている。
【0067】
図24は、最初の斜行部15Aが折り返された後の導体群100のみを示している。図24に示すように、最初の斜行部15Aが折り返されると、第2クランプ部203と第3クランプ部204とによって把持されていた直線部14の被把持部140,140同士の一部が平行に重なり合う。具体的には、第2クランプ部203で把持される12本の被把持部140のうちの6本と、第3クランプ部204で把持される12本の被把持部140のうちの6本とが、互いに重なり合う。これによって、直線部14の18本分の幅のスロット配置部11が形成される。
【0068】
なお、本実施形態では、導体群100に対する最初の折り返し工程の前に、2つの斜行部15(斜行部15A,15B)を成形している。そのため、図21に示すように、折り返し後の導体群100のターン部12(第1ターン部12A)は、2番目に成形された斜行部15(斜行部15B)上に重なるように配置される。したがって、折り返し後のターン部12が導体群100の直線部14と干渉することはない。
【0069】
斜行部15を折り返す際は、図20に示すように、第2クランプ部203と第3クランプ部204との間に折り返し治具220を挿入してもよい。折り返し治具220は、断面三角形状に形成され、鋭角な頂点側の辺縁部220aを斜行部15の折り返し線Rに沿わせて挿入される。これによって、第3クランプ部204は、斜行部15を折り返し線Rに沿って精度良く折り返すことができる。折り返し治具220は、折り返し動作が完了する前に第2クランプ部203と第3クランプ部204との間から取り除かれる。
【0070】
また、斜行部15を折り返す際は、図20及び図21に示すように、折り返す途中のターン部12の頂点部12c(第1ターン部12A)に、ターン部12の頂点部12cを拘束する拘束治具225を配置してもよい。
【0071】
拘束治具225は、図22に示すように、直方体形状に形成される。拘束治具225は、図21に示すように、D1方向に所定長さを有して、導体群100の複数のターン部12がD2-D3方向に配列される範囲よりもD2-D3方向に長く延びると共に、図20に示すように、上下方向に所定の高さを有する。
【0072】
拘束治具225は、図21及び図22に示すように、導体群100のターン部12(第1ターン部12A)の頂点に対向してD2-D3方向に並んで配置される複数の溝225aを有する。複数の溝225aは、同時成形する配列した複数のコイル線材10の分、所定間隔を設けて、D2-D3方向に並んで並列配置されて構成される。
【0073】
複数の溝225aは、拘束治具225における導体群100のターン部12(第1ターン部12A)側の面から断面U字状に凹む凹状に形成され、上下方向に延びる。
【0074】
複数の溝225aは、少なくとも2本以上の単位線材10aにより構成されるコイル線材10を折り返す際に、図23に示すように、コイル線材10のターン部12(第1ターン部12A)における少なくとも2本以上の単位線材10aにより構成されるコイル線材10のターン部12(第1ターン部12A)の頂点部12cが嵌め込まれると共にコイル線材10のD2-D3方向の幅を所定距離に抑制する。
【0075】
折り返し工程では、拘束治具225により、少なくとも2本以上の単位線材10aにより構成されるターン部12(第1ターン部12A)の頂点部12cのD2-D3方向の幅を所定距離に抑制した状態で、2本以上の単位線材10aを同時に折り返してターン部12(第1ターン部12A)を成形する。折り返し工程において、拘束治具225の複数の溝225aに同時成形する配列した複数のターン部12(第1ターン部12A)の頂点部12cを嵌め込むことにより、同時成形する配列した複数のターン部12(第1ターン部12A)を、所定間隔を設けて、D2-D3方向に並列配置する。
【0076】
拘束治具225の装着タイミングとしては、図20に示すように、複数のターン部12(第1ターン部12A)を折り返し角度α(例えば、角度α=150°)で折り返した後に、ターン部12(第1ターン部12A)から離れる側からターン部12(第1ターン部12A)に近づく側に移動することで拘束治具225を複数のターン部12(第1ターン部12A)に装着する。その後、拘束治具225を装着した状態で、更に複数のターン部12(第1ターン部12A)を折り返し角度を大きくし、折り返し角度180°で折り返された後に、拘束治具225をターン部12(第1ターン部12A)から離れる側に移動させることで取り外す。拘束治具225の装着及び取り外しは、自動機の自動作業により行ってもよいし、人の作業により行ってもよい。
【0077】
このように、折り返す途中のターン部12の頂点部12c(第1ターン部12A)に複数の溝225aを設けた拘束治具225を配置することにより、並列させた各々のコイル線材10間の折り曲げ後の頂点部12c付近の状態に、捻じれが発生することを抑制し、均一な状態で波巻コイル1を成形することができる。これにより、品質の向上、及び、波巻コイル1のステータコア20のスロット23に嵌め込むまでの作業(直線搬送、旋回搬送、治具巻き付け、ステータコア20のスロット23への嵌め込み等)の作業性を向上させることができる。
【0078】
また、斜行部15の折り返し完了後は、図25に示すように、導体群100を把持した状態で、第3クランプ部204を、第2クランプ部203に対して相対的に、直線部14の並び方向に沿って、折り返し部分の幅方向(D2-D3方向)に僅かに移動させてもよい。これによって、斜行部15を折り返した後のターン部12が開きながら戻ろうとするスプリングバックを抑制することができる。また、折り返された6本の直線部14同士のピッチを調整することが可能になる。
【0079】
折り返し工程では、斜行部15が折り返された後、第2クランプ部203と第3クランプ部204とが重なり合った状態で、図26に示すように、第2クランプ部203の押圧部材203Dが第2クランプ部203に対して上昇するとともに、第3クランプ部204の押圧部材204Dが第3クランプ部204に対して上昇し、導体群100の折り返し部であるターン部12が、押圧部材203D,204D間に挟み付けられて厚さ方向に押圧される。これによって、ターン部12がスプリングバックによって厚さ方向に膨らむことを抑制できるとともに、ターン部12の成形精度も更に向上する。また、第2クランプ部203及び第3クランプ部204によってターン部12を成形した後、そのまま押圧することができるため、押圧のためのステーションを別途に設ける必要がなく、装置及び工程を簡素化することができる。
【0080】
第2ターン部12Bを成形した後、把持機構205は、導体群100を更にD1方向に搬送し、2番目に成形された斜行部15Bを第2クランプ部203と第3クランプ部204との間に配置する。その後、図19に示した場合と同様に、第1クランプ部202と第2クランプ部203との間に配置される直線部14に対して、図27に示すように、3番目の斜行部15(斜行部15C)を成形する。
【0081】
これ以降は、導体群100により成形される波巻コイル1が、ステータコア20を4周する所定の長さになるまで、上記同様に、2番目の斜行部15Bに対する折り返し工程、4番目の斜行部を成形する斜行部成形工程、3番目の斜行部15Cに対する折り返し工程、・・・が交互に繰り返し実行される。これによって、スロット配置部11が6本分ずれて2層に重なり合う8層(8ターン)分のシート状の波巻コイル1が成形される。このように、斜行部15の成形と斜行部15の折り返しとを交互に繰り返す導体成形装置200によって成形される波巻コイル1は、コイル線材10を折り返す際に生じる成形誤差が斜行部15に蓄積されない。そのため、スロット配置部11及びターン部12の成形精度が良好である。
【0082】
また、本実施形態のように、コイル線材10が複数本の単位線材10aを厚さ方向(Y方向)に並べて構成されるものである場合、斜行部15を折り返す際に、折り返し前の斜行部15の延在方向と折り返し方向との角度差により、各単位線材10a間で周長差が発生することが避けられない。従来のように全ての斜行部を先に成形する場合では、折り返しの際に各単位線材10a間で発生する周長差が既に成形済みの斜行部に影響し、成形済みの斜行部の肩曲げ部(斜行部の折り曲げの起点)がずれてしまう問題がある。しかし、本実施形態のように斜行部成形工程と折り返し工程とを交互に行うことにより、折り返しによる単位線材10a間の周長差の影響を、次の斜行部15の成形によって実質的にキャンセルすることができる。このため、コイル線材10が複数本の単位線材10aを厚さ方向に並べて構成される場合でも、成形精度の良い波巻コイル1を製造することが可能である。
【0083】
なお、以上により得られるシート状の波巻コイル1は、スロット配置部11が重なり合った2層構造となり、図1に示したように、ステータコア20の1周毎にステータコア20の径方向に層(ターン)が切り替わる層替わり部Taを有する。このような波巻コイル1を成形する場合は、層替わり部Taにおける層間の干渉を避けるため、以下に説明するように、層替わり部Taに対応する折り返し工程において、斜行部15の折り返し方向を、それまでの折り返し方向(R1方向)とは逆方向(R2方向)に折り返してもよい。
【0084】
図28に示すように、層替わり部Taに対応する斜行部15を折り返し線Rに沿って折り返す折り返し工程では、それまでの折り返し工程における斜行部15の折り返し方向(R1方向)とは逆方向(R2方向)に斜行部15を逆折りする。すなわち、本実施形態に示す波巻コイル1の場合、図1に示したように、7層(7T)と6層(6T)との間、5層(5T)と4層(4T)との間、3層(3T)と2層(2T)との間、の計3か所にそれぞれ層替わり部Taが存在するため、これらの層替わり部Taに対応する斜行部15の折り返し工程のみ、上記のように、斜行部15を逆折りする。これにより、図29に示すように、各層替わり部Taにおいて、ターン部12の厚さ方向(ステータコア20の径方向、図29におけるX方向)のオフセット方向が逆方向になり、波巻コイル1がステータコア20に装着された際に、層替わり部Taにおける層間の干渉を避けることができる。
【0085】
以上のシート状の波巻コイル1は、コイルをステータのスロット内にセットする際、世間一般の主流である、コイルを複数のセグメントに分割成形し、スロット内挿入後にコイルエンドを溶接する技術を必要としないため、溶接箇所の熱加工に対応できるように、例えば、コイルに高純度な銅材を使用する必要がなくなり、不純物を含むリサイクル銅材を使用ことも可能となり、資源の循環利用の実現に貢献することができる。
【0086】
以上説明した波巻コイル1は、6本のコイル線材10を並列させて構成したが、コイル線材10の並列数は6本に限定されず、適宜増減できる。また、コイル線材10は、3本の単位線材10aを並べて構成したが、単位線材10aの本数は3本に限定されず、適宜増減できる。
【0087】
波巻コイルは、略U字状のコイル線材10に対して成形を行うものに限らず、直線状のコイル線材に対して、斜行部成形工程と折り返し工程とを交互に実行することにより波巻コイルを成形するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 波巻コイル
10 コイル線材(導体)
10a 単位線材
11 スロット配置部
12 ターン部(折り返し部)
12c 頂点部
20 ステータコア
23 スロット
100 導体群
225 拘束治具
225a 溝
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