(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】改善された水分損失能力のための鉛酸電池用の蒸気圧バリア、セパレータ、システム、及びその製造及び使用方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/06 20060101AFI20231212BHJP
H01M 50/431 20210101ALI20231212BHJP
H01M 50/411 20210101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M50/431
H01M50/411
(21)【出願番号】P 2022067112
(22)【出願日】2022-04-14
(62)【分割の表示】P 2020117587の分割
【原出願日】2016-02-26
【審査請求日】2022-04-14
(32)【優先日】2015-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505458359
【氏名又は名称】ダラミック エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ロベルツ,マーガレット,アール.
(72)【発明者】
【氏名】チェンバース,ジェフリー,ケー.
(72)【発明者】
【氏名】ペリー,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ウィーア,ジェイ.,ケビン
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-506825(JP,A)
【文献】特公昭46-031701(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 50/431
H01M 50/411
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H
2ガスまたはO
2ガスを放出する鉛酸電池であって、前記鉛酸電池は容器および蒸気圧バリアを備え、前記蒸気圧バリアは:
多孔性膜の表面の油層;または
不織布層の表面の油層、を備え、
前記蒸気圧バリアは電解液と前記容器の間に位置することを特徴とする、鉛酸電池。
【請求項2】
前記不織布層の不織布の表面の油層を備える、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項3】
前記多孔性膜の表面の油層を備える、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項4】
前記鉛酸電池
は液式鉛酸電池である、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項5】
前記油層は天然由来または合成された油から作製される、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項6】
前記油層は硫酸亜鉛
、界面活性剤またはそれらの組合せを含む1つ以上の電解液
可溶性成分を備える、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項7】
前記油層は水分損失の低い他の1つ以上の材料をさらに備える、請求項1に記載の鉛酸電池。
【請求項8】
請求項1に記載の鉛酸電池を備える自動車。
【請求項9】
H
2ガスまたはO
2ガスを放出する鉛酸電池であって、前記鉛酸電池は容器および蒸気圧バリアを備え、前記蒸気圧バリアは:
多孔性膜の表面の油層;または
不織布層の表面の油層、を備え、
前記蒸気圧バリアは電解液の上部に位置することを特徴とする、鉛酸電池。
【請求項10】
不織布の表面上に油層を備える、請求項9に記載の鉛酸電池。
【請求項11】
多孔性膜の表面に油層を備える、請求項10に記載の鉛酸電池。
【請求項12】
前記鉛酸電池
は液式鉛酸電池である、請求項9に記載の鉛酸電池。
【請求項13】
前記油層は天然由来または合成された油から作製される、請求項9に記載の鉛酸電池。
【請求項14】
前記油層は硫酸亜鉛
、界面活性剤またはそれらの組合せを含む1つ以上の電解液
可溶性成分を備える、請求項9に記載の鉛酸電池。
【請求項15】
前記油層は水分損失の低い他の1つ以上の材料をさらに備える、請求項9に記載の鉛酸電池。
【請求項16】
請求項9の鉛酸電池を備える自動車。
【請求項17】
鉛酸電池からの水分損失および/または水蒸気損失を減少させるように適合された蒸気圧バリアを提供する方法であって、
硫酸亜鉛
、界面活性剤またはそれらの組合せを含む1つ以上の電解液
可溶性成分を備える油層を含む電池セパレータを提供する工程を含む方法。
【請求項18】
前記油層は硫酸亜鉛を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記油層
は界面活性剤を備える、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記油層は水分損失の低い他の1つ以上の材料をさらに備える、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2015年2月26日に出願された同時係属米国仮特許出願第62/121,112号の優先権及び利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書中に組み入れられる。
【0002】
本開示または本発明は、新しいまたは改善された鉛酸電池及びそのための成分、蒸気圧バリア、セパレータ、システム、車両、及び/またはその関連する生産及び/または使用方法、鉛酸電池に使用するための、さまざまな蒸気圧バリア及び/または蒸気圧バリアとセパレータとの組み合わせのシステム、ならびにそのような蒸気圧バリア、システムまたは組み合わせを含む電池及び/または車両に関する。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、鉛酸電池、及びそのような電池を含む関連製品、デバイスまたは車両のための、場合によっては改善された電池セパレータと併せて、新しいまたは改善された一つ以上の蒸気圧バリア、及び/またはそのような蒸気圧バリア及び/または電池セパレータを作製するための方法に関する。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、特定のシステム、デバイスまたは車両内に存在し得る鉛酸電池の水分損失能力を改良するための、新しいまたは改善された鉛酸電池及び車両、及び/またはその製造及び/または使用方法に関する。
【背景技術】
【0003】
鉛酸電池は、可動性の電力源に対する需要が増すのに伴い、長期にわたって進化してきた。二つの主要なタイプの鉛酸電池、すなわち、液式鉛酸電池及びVRLA(弁調整される鉛酸)電池が存在する。本開示は、世界中で一般的に使用されている液式電池に特に有用であり得る。より新しいタイプの液式鉛酸電池は、EFB電池または改良された液式電池である。例えば、ストップスタート自動車技術(またはアイドルエスティーピースタート(ISS))において新しい増え続ける要求は、「改良された」液式電池またはEFBであり得るより良い電池を求めている。さまざまな産業用途、採掘機器、ゴルフカー、ならびに他の用途、特に、定期的な過充電を必要とするもの及び持続性の過充電を必要とする固定用途に使用されるディープサイクル電池は、水分損失減少技術からも利益を得ることができる。そのようなシステム及び他のシステムは、必要なメンテナンスの減少、必要な水供給頻度の低さ及び/または不規則なメンテナンス計画の場合でさえもより長い耐用年数が得られるように探究している。
【0004】
鉛酸電池における水分損失は、既知の問題であり、多くの異なる理由のために発生することがある。例えば、水分損失(電解液内の水量減少に起因する電解液レベルの減少)は、水素の過電圧が電極においてよりも上回るときに鉛酸電池において発生することがある。これは、一般的であり得、電気化学的機構が決定づけるものとしてある程度発生することがある。水分損失の影響は、高温が持続する気候において増幅されることがある。水分損失は、鉛酸電池における少なくとも以下の重大な故障モードの主要原因として特定されてきた。すなわち、電池故障を招き得る板脱水、潜在的な熱散逸を招き得る密封されたVRLA電池におけるドライアウト、充電受容性の減少及び/またはサイクル寿命の短縮を招き得る負極板硫酸化、及び/または負極板硫酸化及び/または正極格子腐食を招き得る電解液の比重の増大。
【0005】
鉛酸電池における水分損失は、ドライアウトを招く、溶接部、板及び接続部を腐食させる、そして早期の故障を引き起こす電解液レベルの減少、早期の故障を招く、電解液の酸濃度の増大、容量の減少、負極板硫酸化、正極格子腐食、及び/またはことによると爆発及び取り扱い危険を生み出し、排出が必要となるH2ガス及びO2ガスのガス抜けを通して見ることができる。そのようなものとして、鉛酸電池における水分損失の減少は、早期の容量損失及び寿命の短縮を招く板脱水、寿命を短縮する負極板硫酸化、及び/またはCCA(コールドクランキングアンペア数)ならびに容量及び寿命の略奪によって能力を減少する正極格子腐食の排除を支援することがある。鉛酸電池からの水分損失は、電気分解、及び高温気候または用途においてより明白となり得る、それに続く水素及び酸素のガス発生の故に主に起こる。
【0006】
EFBは、水の蒸発及び電気分解を含むこれらの水分損失シナリオのいずれかに悩まされることがある。水分損失は、蒸発及び/または電気分解を通じたものであろうとなかろうと、EFBの能力及び/または寿命を低減するものとして公知である。そのようなものとして、VRLA/AGMタイプの電池を含む、この欠点に対抗する多くの方法が開発されてきた。しかしながら、密封されたVRLA/AGM電池でさえも、例えば、ドライアウトの潜在性が存在し、水分損失の故に潜在的な熱散逸が発生する場合がある。故に、鉛酸電池における水分損失に対抗するさまざまな公知の及び/または既に開発された方法が、水分損失を少ししか減少できず、さまざまな開発された方法によって生み出された価値に釣り合わない高い費用が必要となることがあると言われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そのようなものとして、液式鉛酸電池の電解液における改善された水分損失能力、及び/または水の蒸発及び/または電気分解を減少する能力をもつ、費用効果的な鉛酸電池を開発する要求が明確にある。
【0008】
本開示は、前述の問題または要求の少なくとも特定の態様に対処するように設計される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
少なくとも選択された実施形態、態様または目的に従い、本開示または本発明は、前述の要求、課題及び/または問題に対処でき、かつ/または新しいまたは改善された鉛酸電池用の蒸気圧バリアならびに鉛酸電池用のさまざまな電池セパレータ、及び/または鉛酸電池、及びそのような蒸気圧バリアをもつそのような鉛酸電池を備えた関連製品、デバイスまたは車両、システム、関連方法及び/または同様のものを提供するまたはそれらに関する。一般に、本開示は、新しいまたは改善された鉛酸電池蒸気圧バリア、及び/またはその製造及び/または使用方法を提供する。少なくとも選択の実施形態において、本開示は、電池からの水分損失を減少する蒸気圧バリア及び/もしくは材料または電池セパレータをもつ新しいまたは改善された鉛酸電池を提供する。一実施形態において、鉛酸電池の水分損失を減少する方法は、外部環境と電池内部の電解液との間のいずれかの場所である、鉛酸電池の内側に蒸気圧バリアを提供することを含むことができる。
【0010】
本開示または本発明は、新しいまたは改善された鉛酸電池及びそのための成分、蒸気圧バリア、セパレータ、システム、デバイス、製品、車両、及び/またはその関連する生産及び/または使用方法、鉛酸電池に使用するための、さまざまな蒸気圧バリアならびに/または蒸気圧バリア及び/もしくはセパレータの組み合わせのシステム、ならびにそのような蒸気圧バリア、システム、電池またはそれらの組み合わせを含む電池及び/または車両に関する。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、鉛酸電池、及びそのような電池を含む関連製品、デバイスまたは車両のための、場合によっては改善された電池セパレータと併せて、新しいまたは改善された一つ以上の蒸気圧バリア、及び/またはそのような蒸気圧バリア及び/または電池セパレータを作製するための方法に関する。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、特定のシステム、デバイスまたは車両内に存在し得る鉛酸電池の水分損失能力を改良するための、新しいまたは改善された鉛酸電池及び車両、及び/またはその製造及び/または使用方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本明細書に記載する本発明のさまざまな実施形態、態様または目的に従う、一つ以上の蒸気圧バリアを組み込む電池についての水分損失の減少を示すグラフを含む図である
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、鉛酸電池用のさまざまな蒸気圧バリア、及びそのような蒸気圧バリアならびに鉛酸電池内側のさまざまな電池セパレータの一つ以上を有する鉛酸電池、ならびに同じものを備えた改善された車両内側のさまざまな改善された電池を提供する。本明細書に記載する蒸気圧バリアは、鉛酸電池からの水分損失(一般的に、水蒸気)を減少できる。そのようなものとして、本開示は、減少したまたは改善された水分損失をもつ鉛酸電池を提供する。本明細書に使用するような水分損失の減少及び/または改善は、以前から公知の電池と比較して、長期にわたって電池からの水分損失が少ないことを意味する。実施例として、
図1(より詳細は後述する)は、本明細書に記載するさまざまな実施形態に従う、電池セパレータ及び/または蒸気圧バリアを用いる鉛酸電池についての水分損失の減少のそのような実施例を提供する。
【0013】
本開示の鉛酸電池用のさまざまな蒸気圧バリアは、鉛酸電池におけるリストされた手法または手段の任意の一つ以上によって、減少した及び/または改善された水分損失(一般的な電池よりも優れた水分量損失の減少)を提供することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、蒸気及び/またはミストを溶け込ませるための付加的な表面積を提供することができる。なおも他の実施形態において、蒸気圧バリアは、鉛酸電池から出る水分損失を生み出そうと試みる蒸気、ミスト、霧及び/または液滴のためのデミスタとして作用することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、H2ガス及びO2ガスが出るための蛇行性の通路を提供することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、H2/O2再結合のための触媒のオプションをもたらす手段を提供することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、過充電中または意図的なもしくは意図的でないガス発生期間に電池において実行される、蒸気を減少する手段を提供することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、電池セル間で均等でない電解液レベルを有するような鉛酸電池の非等圧(または非平衡圧力)傾向を減少することができる。実施例として、いくつかの鉛酸電池では、水蒸気が一つのセルから別のセルに進み、これにより電池の一つのセルにおける電解液レベルが電池の別のセルにおけるそれよりも高くなることがある。これは望ましくなく、例えば、格子腐食、電解液レベル上方における上部リードまたは導電リードの腐食を通じて、電池において強い/弱い姉妹セルを招くことがあり、電池寿命、容量及び電力供給を減少する場合がある。これによりセル故障またはデッドセルなどを招く場合がある。
【0014】
本開示の鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、電池の水分損失を減少及び/または改善する多くのポジション及び/または位置に提供することができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、活性中の電解液と外部雰囲気との間に位置付けることができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、電池のヘッドスペース内に位置付けることができる。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、電解液と接触するように位置付けることができる。他の選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、電解液内部に位置付けることができる。
【0015】
本開示の鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、鉛酸電池の水分損失を減少及び/または改善するための任意の材料であっても良い。選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、電解液の上部に浮き、電解液において低い溶解性を有し、かつ/または電池の作動温度にわたって流動性/注水性を維持する、適切な密度の任意の材料を含むことができる。
【0016】
また、そのような一つ以上の蒸気圧バリアは、本発明に従い、その特有の改善された水分損失特徴を有するように設計された電池セパレータと連動させて使用することができる。例えば、例として、さまざまなポリエチレン電池セパレータを含むさまざまな電池セパレータ、特に、公知の及びDaramic,LLCから市販されているものを液式鉛酸電池に使用することができる。そのような電池セパレータを組み込む電池の水分損失能力を改善するために、そのようなポリエチレン電池セパレータは、液式鉛酸電池についての水分損失能力における予期されない改善を提供する材料で被覆することができる。そのような材料は、例えば、その全体が参照により本明細書中に組み入れられる米国特許公開第2012/0094183号に記載されている材料を含む。あるいは、そのような材料は、例えば、その両方が全体において参照により本明細書中に組み入れられる、2015年2月26日に出願された米国仮特許出願第62/121,120号、及びそれと共に出願された2016年2月26日に出願された関連する正規の米国特許出願第15/054,504号に記載されている材料を含むことができる。故に、本発明のさまざまな実施形態において、外部環境と電解液との間のある箇所及び/または電池内部の電解液内部のある箇所に改善された電池セパレータならびに一つ以上の蒸気圧バリアを組み込む鉛酸電池を提供することの故に、相乗的な及び予期されないレベルの水分損失改善がもたらされることがある。
【0017】
選択の実施形態において、本開示に従う鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、油層を含むことができる。選択の油層の実施形態では、油は、何らかの種類の鉱油、例えば、白色鉱油であっても良い。さまざまな実施形態において、セルにおけるガス発生に関与する電気化学的過電圧値を増大することを手段として付加的な利益を提供するために、油層は、可動性である電解液可溶性成分を電解液相内に加えることによって変更することができる。前述の相乗的な成分は、硫酸亜鉛などの無機塩、ビスマス含有化合物、界面活性剤を含むさまざまな非イオン性有機化合物、天然由来のまたは合成的に生成された液体高分子化合物、酸化ポリマ、PPO(ポリプロピレンオキシド)、PEG/PEO/POE(ポリエチレングリコール)、酸化油、水溶性ポリマ、及び/またはその全体が参照により本明細書中に組み入れられる米国特許第2,938,887号に記載されているものなどの材料であっても良く、セルロース系材料ならびに他の有機及び無機合物の酸化生成物は、前述の油層における適切な溶解性及び分散特性ならびに電解液におけるある程度の溶解性を有し、故に、油及び/または電解液相内部に全体的にまたは部分的に位置付けられる。一つの特定の実施例において、PVA外層もしくはシェルまたはカプセル化材料が電解液を分解し(電解液において可溶性であり)、油が、蒸気圧バリアとしてまたは蒸気圧バリアの一部として働くことを維持するように、PVAもしくはポリ酢酸ビニル、またはカプセル化材料などのいくつかの他の材料を、蒸気圧バリアとして一つ以上の油を液式鉛酸電池に提供するための供給方法またはシステムとして使用することができる。
【0018】
油層は、これらに限定されないが、天然のまたは合成的に生成された油、及び/または天然ガスから作られた油及び他の石油ガスを含む天然ベースのならびにブレンドした油及び合成油の中でも特に、パラフィン、ナフテン酸、PAO、ポリエステル官能基を含む、さまざまな油層のいずれかであっても良い。さまざまな実施形態において、本発明に従う蒸気圧バリアの一部として使用される一つ以上の油は、電解液における不溶性に基づいて選択することができる。加えて、本発明に従う蒸気圧バリアにおいて作用する一つ以上の油の選択は、極端な気候下で電池に容易に追加できるさまざまな油の粘性を考慮に入れることを含む。加えて、本発明において蒸気圧バリアの一部として使用されるさまざまな油の選択は、さらに、酸化攻撃に安定的かつ/または耐性があるとして公知であり得、かつ例えば、製油による副生成物をごく少量しか含有し得ない油を選択することを含む。加えて、本発明に従う蒸気圧バリアの一部として使用するさまざまな油の選択は、サイクリックボルタンメトリ解析によって電気化学的に相性が良いことを示した一つ以上の油を選択することを含むことができる。そのような油の実施例は、これらに限定されないが、変圧器、タービン出力、消費者製品、及び生物医学産業に利用されるものを含むことができる。
【0019】
選択の実施形態において、本開示に従う鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、不織布層を含むことができる。選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、電解液の上方に位置付けることができる。他の不織布層の実施形態において、不織布層は、電解液内部に位置付けることができる。いくつかの不織布層の実施形態において、前述のような一つ以上の油を、そのような不織布層に適用することができる。他の不織布層の実施形態において、前述のような一つ以上の油を、そのような不織布層内部に含有させることができる。さまざまな実施形態において、不織布層は、細孔を完全には満たさないが、代わりに、そのような不織布層の表面にわたって広がって、ガスミストをはじくことができる油を含有することができる。
【0020】
他の選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、ヘッドスペースにわたって適用することができる。他の選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、電池のふたに付着させることができる、例えば、そのようなふた内に成形された挿入部であっても良いし、そのようなふたの底面における排出オリフィスの周囲に付着させても良い。他の選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、組立中に各セルのヘッドスペース内側に適用される個々のピースとして組み立てることができる。他の選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、電池のふたと電槽との間に取り付けても良い。蒸気圧バリアの不織布層は、任意の不織布層であっても良い。選択の不織布層の実施形態において、不織布層は、合成繊維、ガラスマット、溶融された安定的な不織布、ブレンドされた不織布など、蒸気圧バリアを提供する他の不織の、織られたまたは材料の層、及び/またはそれらの組み合わせを含むことができる。選択の実施形態において、本開示に従う鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、薄い、平坦な、多孔質のまたは多孔性の高分子膜またはマットなど(充填されたまたは充填されていない多孔性のポリエチレン膜またはマットなど)の多孔質膜を含むことができる。そのような多孔質膜の位置付けは、不織布層に関して前述と同じ様に変えることができる。
【0021】
選択の実施形態において、本開示に従う鉛酸電池用の蒸気圧バリアは、触媒を含むことができる。触媒は、鉛酸電池の水分損失を減少及び/または改善するための任意の触媒であっても良い。選択の実施形態において、触媒は、エネルギ的に起こりやすい水塊形成の原動力を用いて、O2/H2再結合を促進することができる。故に、高度に最適な水分損失状況を生じるように、電池のサイクル寿命にわたって水をサイクルさせる(水>ガス>水>ガス>~)ことができる。触媒は、液体水への濃縮を効率的に達成する原子状酸素の原子状水素への追加を引き起こすことができる一つ以上の材料を含むことができる。好ましい触媒の選出は、低pHの酸化環境において水を形成するように効率的に反応する材料を含むことができる。触媒の再結合のための基板プラットフォームは、合成不織布材料、電池環境に安定的なさまざまな多孔質膜、電槽、例えば、電槽の上部及び電槽内部に備えられた排出構造であっても良い。単なる実施例として、膜または線維構造におけるプラチナの蒸着が、液式鉛酸電池内部で使用するための蒸気圧バリアを提供することができる。
【0022】
鉛酸電池は、本明細書に示した及び/または記載したような蒸気圧バリア及び/またはセパレータのさまざまな実施形態のいずれかを備えて、本開示に従い提供、形成または製造することができる。液式鉛酸電池またはEFBのような鉛酸電池は、本明細書に示した及び/または記載したような蒸気圧バリア及びさまざまな電池セパレータのさまざまな実施形態のいずれかを備えて改善することができる。本明細書に示した及び/または記載したような蒸気圧バリア及び電池セパレータのさまざまな実施形態のいずれかを備えた鉛酸電池の改善は、これに限定されないが、減少した及び/または改善された水分損失を有することを含むことができる。液式鉛酸電池または改良された液式電池が好ましい電池であり得るが、他の電池も、本発明によるバリア及び/またはセパレータから利益を得ることができる。例えば、自動車用の、ディープサイクルの、産業用の電池、VRLA、AGM、VRLA AGM、ゲル電解液、及び/または同様のものがある。また、さまざまな産業用途、採掘機器、ゴルフカー、ならびに他の用途、特に、定期的な過充電を必要とするもの及び持続性の過充電を必要とする固定用途に使用されるディープサイクル電池も、水分損失減少技術から利益を得ることができる。そのような電池またはシステム、及び他の電池またはシステムは、必要なメンテナンスの減少、必要な水供給頻度の低さ及び/または不規則なメンテナンス計画の場合でさえもより長い耐用年数が得られるように探究している。
【0023】
本開示は、鉛酸電池の水分損失を減少する方法も提供する。方法は、本明細書に示した及び/または記載したさまざまな実施形態のいずれかに従う蒸気圧バリアを提供することを含むことができる。選択の実施形態において、鉛酸電池の水分損失を減少する方法は、ベント型の鉛酸電池からの蒸気損失を減少することを含むことができる。鉛酸電池の水分損失を減少する本方法の選択の実施形態において、活性中の電解液と電槽及び/または外部雰囲気との間に蒸気圧バリアを提供することができる。鉛酸電池の水分損失を減少する本方法の選択の実施形態において、蒸気圧バリアは、蒸気を溶け込ませるための付加的な表面積を提供する、H2ガス及びO2ガスが出るための蛇行性の通路を提供する、H2/O2再結合のための触媒のオプションをもたらす手段を提供する、過充電中または意図的なもしくは意図的でないガス発生期間に電池において実行される、蒸気を減少する手段を提供する、そして格子腐食、上部リードの腐食及び/またはそれらの組み合わせを通じて、強い/弱い姉妹セルを招き、かつ寿命、容量及び電力供給を減少する均等でない電解液レベルを有するような鉛酸電池の非等圧傾向を減少することができる。
【0024】
本発明の一つの特定の実施形態において、電解液と電池のヘッドスペースとの間に物理的な蒸気圧バリアを作製することによって、改善された水分損失特性を有する電池が生産される。そのような実施形態では、対照電池と比較した水分損失減少は、25%よりも多く水分損失を減少することができ、いくつかの実施形態において、35%よりも多く水分損失を減少することができ、なおもいくつかの実施形態において、45%よりも多く水分損失を減少することができ、いくつかの実施形態において、対照電池と比較して55%よりも多く水分損失を減少することができる。そのような実施形態では、例えば、電池の水分損失特性を改善するように具体的に設計された材料(参照により本明細書中に組み入れられる米国特許公開第2012/0094183号により完全に記載されている材料など)で被覆し、次に、電解液を電池に加えて、そして次に、電池システム用の蒸気圧バリアとして働くような油層を電解液の上方に加えて、ポリエチレン電池セパレータを含む改善された電池セパレータを含む電池システムを作製することができる。さまざまな実施形態において、電池セルごとに最大5mLの油を加えて、そのような電池を作製する。他の実施形態では、電池セルごとに最大10mLの油を加える。なおも他の実施形態では、電池セルごとに最大30mLの油を加える。他の実施形態では、電池セルごとに最大60mLの油を加える。
【0025】
実施例
本発明のさまざまな実施形態を使用して、電池が経験した水分損失改善のレベルを決定するための、さまざまな実験用に組み立てられる電池を作製した。Daramic,LLCから市販されている電池セパレータを使用してさまざまな電池を研究室で組み立てて、次に、そのようなセパレータの使用と連動する蒸気圧バリアを作製した。
図1は、本開示の選択の実施形態に従う蒸気圧バリアを用いて、さまざまな実験用に組み立てられた電池についての、2.4ボルト/セル(6セルの合計で14.4ボルト、12ボルト電池)における21日間の過充電にわたる重量損失のグラムにおける水分損失の棒グラフを例証する。これらは、60℃水浴内のベント型電池であった。Daramic,LLCから市販されており、さまざまな水分損失添加剤(複数可)を含有する、電池セパレータとして対照ポリエチレンセパレータをもつ電池が、対照としての基準のために使用される。次に、一つが油層Aを備え、一つが油層Bを備える、蒸気圧バリアを使用する二つの電池を組み立てた。結果は、システムにおいて、改良された電池セパレータの水分損失技術と、改善された蒸気圧バリアの水分損失技術とを組み合わせたときに、予期されない高いレベルの水分損失減少を示す。実施例として、対照ポリエチレン電池セパレータをもつシステムは、グラム単位において150~200グラムの水分損失を明らかにした。一方で、油層をもつシステムは、過充電の期間にわたって、その水分損失を100グラム以下に至るまで減少した。また、水分損失結果における予期されない改善が、油層はもつが水分損失添加剤(
図1のグラフにおいて対照として使用されるDaramicのポリエチレン電池セパレータに関連する添加剤(複数可)など)の被覆または追加をもたない標準的なポリエチレン電池セパレータに対して高くかつ予期されないことも確信される。故に、本発明では、物理的な蒸気圧バリア(複数可)をシステムに加えることによって水分損失を改善する一つの重要な水分損失改善技術を、改善された電池セパレータ(例えば、被覆されたセパレータまたは
液式鉛酸電池システムにおける水分損失を減少するための一つ以上の新規の添加剤を含むセパレータ)を加えることによって水分損失を改善する別の重要な水分損失改善技術と組み合わせる。これは、可能性として相乗的なかつ予期されない結果をもたらす。
【0026】
少なくとも特定の実施形態、態様または目的に従い、蒸気圧バリア及び/または改善された電池セパレータをもつ新しいまたは改善された鉛酸電池、システム、及び/またはその製造及び/または使用方法が、検討、提供または開示される。少なくとも選択の実施形態において、本開示は、蒸気圧バリアをもつ新しいまたは改善された鉛酸電池、またはシステムを提供する。少なくとも選択の実施形態において、本開示は、新しいまたは改善された電池セパレータと共に新しいまたは改善された鉛酸電池蒸気圧バリア、及び/またはその製造及び/または使用方法を提供する。少なくとも選択の実施形態において、本開示は、電池からの水分損失を減少する蒸気圧バリアをもつ新しいまたは改善された鉛酸電池を提供する。少なくとも選択の実施形態において、鉛酸電池の水分損失を減少する方法は、改善された電池セパレータと共に、鉛酸電池の内側に油層などの蒸気圧バリアを提供することを含むことができる。
【0027】
少なくとも選択の実施形態、態様または目的において、前述の要求に対処でき、かつ/または新しいまたは改善された鉛酸電池及びそのための成分、蒸気圧バリア、セパレータ、システム、車両、及び/またはその関連する生産及び/または使用方法、鉛酸電池に使用するための、さまざまな蒸気圧バリア及び/または蒸気圧バリアとセパレータとの組み合わせのシステム、ならびにそのような蒸気圧バリア、システムまたは組み合わせを含む電池及び/または車両を提供できるまたはそれらに関することができる。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、鉛酸電池、及びそのような電池を含む関連製品、デバイスまたは車両のための、場合によっては改善された電池セパレータと併せて、新しいまたは改善された一つ以上の蒸気圧バリア、及び/またはそのような蒸気圧バリア及び/または電池セパレータを作製するための方法に関する。少なくとも選択の実施形態において、本開示または本発明は、特定のシステム、デバイスまたは車両内に存在し得る鉛酸電池の水分損失能力を改良するための、新しいまたは改善された鉛酸電池及び車両、及び/またはその製造及び/または使用方法に関する。
【0028】
本発明は、その本質及び本質的な特質から逸脱することなく、他の形態において具現することができ、従って、本発明の範囲を指すものとして、前述の明細書ではなく、添付の特許請求の範囲を参照すべきである。加えて、本明細書に適切に実例として開示した本発明は、本明細書に具体的に開示されない任意の要素が無くても実践することができる。本発明の多くの他の変更及び変化が、本明細書の教示を踏まえた当業者に可能である。それ故に、特許請求の範囲内において、本発明が本明細書に具体的に記載した以外に実践できることが理解される。