(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】植物材料の有機酸前処理から生成物を回収するための効率的な方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C08B 1/08 20060101AFI20231212BHJP
C08J 3/00 20060101ALI20231212BHJP
C08L 1/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C08B1/08
C08J3/00 CEP
C08L1/02
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022103433
(22)【出願日】2022-06-28
(62)【分割の表示】P 2020565278の分割
【原出願日】2018-05-28
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】520450695
【氏名又は名称】ピアソン キャピタル エンバイロメンタル (ベイジン) リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】リン フェン
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-208108(JP,A)
【文献】特開2012-071250(JP,A)
【文献】特開2017-095813(JP,A)
【文献】特表2013-528715(JP,A)
【文献】特開昭50-082164(JP,A)
【文献】特開2016-211116(JP,A)
【文献】特表2011-505428(JP,A)
【文献】特開2017-197517(JP,A)
【文献】特開2009-102587(JP,A)
【文献】特開2017-063751(JP,A)
【文献】特表2009-507937(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133485(WO,A1)
【文献】特開2010-144273(JP,A)
【文献】国際公開第2011/126369(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0143285(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0079944(US,A1)
【文献】米国特許第04162359(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B、C08J、C08L、B01D、D21C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ化セルロース
の製造方法であって、前記方法は、
a
)植物
由来の原料を有機酸
で処理
することにより得られたセルロース
組成物に水酸化ナトリウム水溶液を添加して、前記セルロース組成物に含
まれる前記有機酸を中和して、中和セルロース混合物を形成する
プロセスと、
b)プレス
機を用いて、前記中和セルロース混合物から中和セルロース
と濾液とを分離し、
前記濾液を廃水処理システムに直接放出する
プロセスと、
c)水酸化ナトリウム
水溶液の添加によって、前記中和セルロースを反応器でアルカリ化して、アルカリ化セルロース混合物を形成する
プロセスと、
d)プレス
機を用いて、前記アルカリ化セルロース混合物からアルカリ化セルロース
と、水酸化ナトリウム水溶液とを分離する
プロセスと
を含み、
前記製造方法が、上記プロセス(a)、プロセス(b)、プロセス(c)およびプロセス(d)を2サイクル以上繰り返し、
上記プロセス(a)、プロセス(b)、プロセス(c)およびプロセス(d)を繰り返す際には、前記プロセス(d)で得られた前記水酸化ナトリウム
水溶液が、
次のサイクルのプロセス(a)に
おいて再利用
される、
アルカリ化セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記方法の
プロセス(a)の前記有機酸が、ギ酸のみを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法の
プロセス(a)の前記有機酸が、酢酸とギ酸との混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記プロセス(a)が、前記方法の
プロセス(d)からリサイクルされた前記水酸化ナトリウム液を添加することによって、または前記方法の
プロセス(d)からリサイクルされた水酸化ナトリウム液と未使用の水酸化ナトリウムとの組み合わせを含む水酸化ナトリウムを添加することによって達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記中和セルロース混合物が、pH5~pH8のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記中和セルロースが、前記中和セルロースの総重量から計算して30%~45%の乾燥固体含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記アルカリ化セルロースが、pH10~pH12のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アルカリ化セルロースが、前記アルカリ化セルロースの総重量から計算して30%~45%の乾燥固体含有量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記方法の
プロセス(d)
で得られた水酸化ナトリウム
水溶液が、pH10~pH12のpHを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、50℃~100℃の温度で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記プレス
機が、機械プレスである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記プレス機が、スクリュープレスを備える、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)植物材料の有機酸前処理に由来するセルロースパルプからの有機酸の回収、(ii)グルコースへの変換前の、植物材料の有機酸前処理に由来するセルロースパルプから回収されたセルロースの処理、(iii)植物材料の有機酸前処理に由来するリグニン懸濁液からのリグニンの分離および清浄、(iv)植物材料の有機酸前処理の水相からの有機酸の回収、(v)植物材料の有機酸前処理に由来するヘミセルロース含有画分からの残留有機酸の回収、ならびに(vi)植物材料の有機酸前処理に由来するセルロースおよびヘミセルロースジュースから生成された有機肥料、に関する組成物およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
第1の態様では、本発明は、乾燥機および脱溶媒器を組み合わせて適用することによってセルロースパルプから有機酸を回収するための方法に関する。本発明の本態様は、リグノセルロース植物材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンを溶解するために使用される有機酸の回収および再利用を可能にすることによって、既存の有機酸前処理プロセスの効率を増加させる。植物材料の有機酸前処理の溶解ステップ後、可溶性および不溶性部分の混合物が得られる。混合物を可溶性画分と不溶性画分とに分離後、セルロースパルプおよび抽出液が得られる。セルロースパルプは、約62%が主に有機酸および水で構成される可溶性画分、ならびに38%が主に未溶解セルロースで構成される不溶性画分に相当する。
【0003】
本発明の用途に好適な有機酸前処理プロセスは、それらの全内容が本明細書に組み込まれる、国際特許公開第WO2011/154293号および同第WO2010/006840号に記載されている。本発明はまた、0.3%~4%の残留する全体的なリグニンレベルを得るためのリグニンの部分的排除を含む、有機酸前処理ステップからの有機酸の回収に関し得る。かかるステップは、その全内容が本明細書に組み込まれる、国際特許公開第WO2012/049054号に記載されている。
【0004】
かかるプロセスでは、回収し損ねた有機酸は、ユニットの操作費用の有意な部分に相当するだけでなく、回収されなかった有機酸は、環境への配慮にも影響を及ぼす。したがって、植物材料の有機酸前処理によって生成されたセルロースパルプからの有機酸の効率的な回収は、既存の方法を上回る経済的利点および環境的利点の両方を提供する。
【0005】
別の態様では、本発明はさらに、中和とアルカリ化との組み合わせによってセルロースを処理するための、植物材料の有機酸前処理を含むプロセスに関し、セルロースが、バイオエタノールまたは他の生成物を生成するための既存のプロセスに由来する。かかる既存のプロセスは、その全内容が本明細書に組み込まれる、米国特許公開第2013/0183733号に記載されている。
【0006】
有機酸前処理のステップを含むプロセスを介したバイオエタノールの生成は、リグノセルロース植物材料にギ酸、酢酸、および水の混合物を施すことによって破壊する最初のステップを含み、次のステップは、他の材料からセルロースを分離することを含む。分離されたセルロースの酵素加水分解の可能な限り最高の収率を達成するための、酵素加水分解ステップ前のリグニンの部分的な排除が開示されており、リグニンを排除して、残留するリグニンの全体的なレベルがおよそ1.65%に等しい好ましいリグニンレベルを達成するための、セルロースのかかる処理は、セルロースを水酸化ナトリウムで処理する手段、続いて酵素加水分解前に残留する水酸化ナトリウムを排除することを意図する洗浄ステップによって実行される。
【0007】
典型的には、植物材料の有機酸前処理に由来するセルロースの処理は、水酸化ナトリウムをセルロースに直接添加してpHをpH10~pH12に調節し、その後分離ステップを実行して、処理されたセルロースと濾液(主に水酸化ナトリウムおよび他の可溶性画分を含有する)とに混合物を分離することによって実行される。既存の有機酸前処理プロセスによって生成されたセルロースは、乾燥セルロースの0.5重量%~5重量%の範囲の、前処理プロセスからの残留有機酸を含有する。これらの残留酸の中和は、水酸化ナトリウムを大量に消費し、バイオエタノール生成のための直接的なコスト増加を生じ、濾液処理のための間接的なコスト増加を生じる。したがって、セルロースの後続処理前に操作可能なpH範囲に到達するのに必要な水酸化ナトリウムの量を最小限に抑えるための、既存の方法を上回る方法は、特に重要な利点に相当する。
【0008】
別の態様では、本発明は、遠心分離の使用によって、植物材料の有機酸前処理に由来するリグニン懸濁液からリグニンを分離および清浄するためのプロセスに関する。
【0009】
有機酸前処理プロセスは、有機酸溶液を試薬として使用して、植物材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンを溶解させ、分離後、混合物から抽出液を分離する。主にセルロース、溶解ヘミセルロース、リグニン、ミネラル、有機酸、水などで構成される抽出液は、蒸発システムによって濃縮されて、濃縮抽出液の総重量から計算して55%~65%の乾燥物質含有量まで、有機酸および水の一部が除去される。既存のプロセスは、それらの各々の全内容が参照により組み込まれる、国際特許公開第WO2000/068494号、同第WO2009/092749号、同第WO2011/154293号、および同第WO2015/185639号に記載されている。
【0010】
かかるプロセスでは、リグニン懸濁液は、典型的には、濃縮抽出液と水との混合物にリグニンを分散させることによって得られ、リグニン懸濁液に存在するリグニンと糖との分離は、フィルタプレスを介して分離される。リグニンの分離後、リグニンのプレスケーキおよび糖を含む液が得られる。プレスされたリグニンケーキは、水で、または空気と水との組み合わせによって洗浄され、最終的に洗浄されたリグニンおよび洗浄液が得られる。
【0011】
しかしながら、デバイスの構造的制限に起因して、フィルタプレスは、全プロセス全体を通して連続的に行うことができず、したがって、フィルタプレスを使用してケーキを洗浄することによって均質な生成物を生成することができない。濾過したリグニンケーキは長方形であるので、リグニンケーキを横切る洗浄経路は変動し、一般に一貫性がない。本開示は、リグニンを遠心分離により回収するための方法を提供し、それにより水の使用量を低減し、したがってエネルギー消費を低減しながら、リグニン懸濁液からのリグニンの回収を改善する。
【0012】
別の態様では、本発明は、大部分が溶解ヘミセルロース、有機酸、および水で構成される、植物材料の有機酸前処理によって生成されたヘミセルロース混合物から、蒸発とストリッピングとの組み合わせによって、ヘミセルロースジュースを生成するためのプロセスに関する。有機酸前処理プロセスは、有機酸溶液を試薬として使用して、リグノセルロース原材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンを比較的低い温度および大気圧で溶解させ、プロセスは、続く抽出液処理中であっても、比較的低い温度および大気圧または真空圧力で実行されて、フルフラールが作り出されるのを防止する。
【0013】
典型的には、溶解ヘミセルロース、リグニン、有機酸、および水からなる抽出液は、多重効用蒸発システムによって濃縮されて、濃縮液の総重量から計算して55%~65%の乾燥物質含有量まで、有機酸および水の一部が除去される。濃縮液に含有されるリグニンは、抽出液からリグニンと糖とを分離するための既存のプロセスによって分離され、このプロセスでは、リグニンと糖とを分離する前に、濃縮液を等重量部の水と混合し、分離されたリグニンを水で洗浄して、残留する糖、有機酸を、全可溶性材料、および水を除去する必要があり、これらを一緒に収集してこのプロセスで生成された溶解ヘミセルロース、有機酸、および水のヘミセルロース混合物が形成される。かかるプロセスは、それらの各々の全内容が組み込まれる、国際特許公開第WO2011/154293号および同第WO2010/006840号に記載されている。
【0014】
ヘミセルロース混合物中の溶解ヘミセルロースは、主にキシロースおよびアラビノースを含み、これらはエタノールおよび他の工業製品を生成するために使用することができる。しかしながら、ヘミセルロース混合物に存在する有機酸は、キシロースおよびアラビノースのエタノールおよび他の工業製品への変換を阻害するであろう。したがって、ヘミセルロース混合物から有機酸を効率的に除去してヘミセルロースジュースを生成することは、ヘミセルロースジュース内の利用可能な糖からのエタノールの収率を最大化するために特に重要である。
【0015】
別の態様では、本発明は、植物材料の有機酸前処理プロセスによって生成される高含水有機酸溶液から、有機酸を回収することに関する。典型的には、かかるプロセスにおける有機酸の含有量は、溶液の総重量の83%超である。有機酸は、前処理プロセス中のフルフラールの生成を回避するために比較的低い温度および大気圧で、リグノセルロース原材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンを溶解させる試薬として機能する。分離後、溶解ヘミセルロース、リグニン、有機酸、水、および他の成分を含有する液。有機酸溶液および原材料中の水で構成される水は、蒸発システムによって濃縮されて水とともに有機酸の一部が除去され、これが高含水有機酸溶液の第1の流れを形成する。
【0016】
抽出液からリグニンと糖とを分離するための既存のプロセスによって、濃縮液に含有されるリグニンは分離され、このプロセスでは、濃縮液からリグニンを分離する前に、濃縮液を濃縮液の等重量部の水と混合することにより、濃縮液にリグニンが沈殿する。その後、分離されたリグニンは水で洗浄されて、残留する糖、有機酸、および他の水溶性構成成分が除去される。
【0017】
水を含む全可溶性材料、濃縮液に残留する水、リグニンを沈殿させるために濃縮液に混合された水、および洗浄水として使用された水は一緒に収集されて、主に溶解ヘミセルロース、有機酸、(プロセス中に残留した水、および添加された)水、および他の微量構成成分からなる混合物が形成される。かかるプロセスは、それらの各々の全内容が組み込まれる、国際特許出願第WO2011/154293号および同第WO2010/006840号に記載されている。
【0018】
その供給源にかかわらず、有機酸を高含水有機酸溶液から効率的に除去するための、蒸発とストリッピングとの組み合わせのプロセスが開示されている。開示のプロセスは、水とともに有機酸を混合物から部分的に蒸発させるために第1の通過多重効用蒸発器を備え、主に有機酸および水を含む蒸発器の凝縮物は、高含水有機酸溶液の第2の流れを形成する。
【0019】
蒸発器からの濃縮有機酸混合物はストリッピングカラムに供給され、このカラムで有機酸は2%未満の含有量までさらに除去され、ストリッピングカラムからの凝縮物は、高含水有機酸溶液の第3の流れを形成する。
【0020】
高含水有機酸の第4の流れは、乾燥セルロースパルプから残留有機酸を除去するために蒸気を利用するように適合された脱溶媒器を使用することによる、セルロースパルプからの有機酸の回収に由来し、約62%の可溶性部分(主に有機酸および水からなる)、および約38%の不溶性部分(主にセルロースからなる)を含有する。本発明の本態様では、脱溶媒器からの凝縮物が、高含水有機酸溶液の第4の流れを形成する。
【0021】
有機酸および水を有機酸前処理プロセスにリサイクルするために、これら4つの高含水有機酸溶液の流れからこれら4つの高含水有機酸溶液の流れの追加の水を除去して、抽出および脱リグニン化ステップの含水量の要件を満たす必要がある。
【0022】
別の態様では、本発明は、セルロースおよびヘミセルロースジュースからの蒸留排液を利用することによって、有機肥料を生成するための方法に関する。
【0023】
本発明は、植物材料、特に穀物藁が原材料として機能する有機酸前処理植物材料に基づく。有機酸前処理プロセスによって、リグノセルロース原材料をセルロース、ヘミセルロースジュース、およびリグニンへ分離すること、セルロースおよびヘミセルロースジュースの加水分解および発酵、ならびにセルロースおよびヘミセルロースジュースの大部分のエタノールへの変換は、その全内容が本明細書に組み込まれる国際特許出願第WO2015/185639号に記載されている。
【0024】
典型的には、発酵後に燃料エタノールを生成するためのプロセスでは、発酵セルロースとヘミセルロースジュースとの混合物を蒸留システムのマッシュカラムに供給し、そこでエタノールを抽出して燃料エタノールが生成される。かかるプロセスでは、残渣は、マッシュカラムの底部から放出される。有機酸前処理プロセスの1つの結果は、リグノセルロース原材料の栄養成分(タンパク質、カリウム、リン酸塩など)の大部分がヘミセルロースジュースに分離され、蒸留排液として発酵材料(酵母、グリセロールなど)と混合されることである。この蒸留排液の使用が重要な問題となり、蒸留排液は生産的に使用されることなく廃棄物として処理され、かかる廃棄物の処理に費用がかかる。既存のプロセスでは、良好な方法は提案されていない。本発明の本態様は、蒸留排液固体を傾瀉および蒸発させて価値のある有機肥料の基を形成しながら、同時に蒸留排液由来の蒸気を熱電対として蒸留排液固体蒸発システムに提供し、それにより非生産的な蒸留排液を回収および処理する、熱力学的に効率的な方法を生成するためのプロセスを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【文献】国際公開第2011/154293号
【文献】国際公開第2010/006840号
【文献】国際公開第2012/049054号
【文献】米国特許公開第2013/0183733号明細書
【文献】国際公開第2000/068494号
【文献】国際公開第2009/092749号
【文献】国際公開第2015/185639号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の第1の態様は、乾燥機と脱溶媒器との組み合わせによる、セルロースパルプからの有機酸の効率的、完全かつ経済的な回収のための方法および組成物について開示する。本方法は、乾燥機を使用して、乾燥セルロースパルプの総重量から計算して5%~12%の含有量まで、有機酸を低減する、第1のステップを含む。このレベルでは、乾燥を続けることによって有機酸をさらに除去することは困難である。この難点を克服するために、本発明は、脱溶媒器を使用して、脱溶媒媒体として直接蒸気を使用して有機酸をさらに除去して、脱溶媒セルロースパルプの総重量と比較して有機酸含有量を2%未満まで低減する、第2のステップを含む。
【0027】
本発明の別の態様は、酵素消化のために可能な限り最小限の水酸化ナトリウムを使用してセルロースを調製する、中和とアルカリ化との組み合わせによってセルロースを処理するためのプロセスおよび組成物、ならびに最小限の水酸化ナトリウムを使用するバイオエタノール生成および付随する廃棄物の処理のコストを減少させる、水酸化ナトリウム液をアルカリ化ステップから中和ステップにリサイクルする手段を提供するものである。
【0028】
本発明の別の態様は、遠心分離物の特定の部分をリサイクルすることと、オンライン洗浄することと、をさらに含む遠心分離を使用して、純粋なリグニンを得て、全体的な水消費を減少させ、高品質のリグニンを得る、リグニンの分離および清浄プロセスならびに組成物を提供する。
【0029】
本発明の別の態様は、蒸発とストリッピングとを組み合わせることによって、溶解ヘミセルロース、有機酸、および水のヘミセルロース混合物から有機酸を効率的かつ経済的に除去して、ヘミセルロースジュース組成物を生成するプロセスである。プロセスは、第1のステップにおいて、濃縮ヘミセルロースジュースの総重量から計算して40%~70%の乾燥物質含有量まで、水とともに有機酸を部分的に蒸発させるための多重効用蒸発システムを備える。プロセスは、濃縮ヘミセルロースジュースがストリッピングカラムに供給される第2のステップをさらに含み、有機酸が、ヘミセルロースジュースの総重量から計算して2%未満の含有量までさらに除去される。
【0030】
本発明の別の態様は、マルチカラム蒸留を含むプロセスによって、高含水有機酸溶液から水を効率的かつ経済的に除去して、有機酸前処理プロセス内で後続のリサイクルに好適な組成物を生成するためのプロセスである。このプロセスは、a)2~5カラム蒸留システムを採用して有機酸を回収することと、b)未使用の蒸気をマルチカラム蒸留システムの第1のカラムにのみ供給することと、c)前のカラムから放出された蒸気を熱エネルギーとして後続のカラムに順次提供することと、d)高含水有機酸溶液の1つ以上の流れをマルチカラムシステム内の異なるカラムに供給して、蒸留システムを備えるカラムのエネルギー要件のバランスを整えることと、e)第1のカラムの凝縮物中の有機酸の含有量を調節して未使用の蒸気消費を最小限に抑えることと、f)マルチカラム蒸留システムから排出された総有機酸および総水を、植物材料の有機酸前処理を構成する全体的なプロセスにリサイクルすることと、を特徴とし、これは、エネルギー、すなわち、有機酸を回収するための蒸気消費を最大限に低減することができ、その間に、総有機酸および水を前処理プロセスにリサイクルすることができる。
【0031】
本発明の別の態様では、セルロースおよびヘミセルロースジュースの蒸留排液の発酵を利用して、効率的かつ経済的に有機肥料組成物を生成する方法である。蒸留排液は、有機物質および栄養素が豊富であり、有機肥料としての要件を満たす。有機肥料は、土壌の品質を改善することができ、同様に植物、例えば穀物に栄養素を提供することができる。対照的に、化学肥料は、植物に栄養素を提供するが、土壌を損傷し得る。有機肥料は、農業にとって重要な台頭しつつある方向性である。本発明の本態様は、効率的かつ経済的な方法によって、蒸留排液(発酵副生成物)を使用して、価値のある有機肥料を生成することを特徴とする。本方法は、傾瀉によって蒸留排液を分離して、蒸留排液の固体画分と、蒸留排液のより希釈された画分を含む薄い蒸留排液とを得ることを含む。本方法は、多重効用蒸発システムによって薄い蒸留排液を濃縮して、濃縮蒸留排液を得ることと、固体画分および濃縮蒸留排液を混合して混合物を得ることと、混合物を乾燥機によって乾燥させて有機肥料を得ることと、多重効用蒸発システムの熱エネルギーとして乾燥機から放出された蒸気、補足的な熱エネルギーとして未使用の蒸気を多重効用蒸発システムに供給することと、をさらに含む。
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
2%未満の有機酸を含有する脱溶媒セルロースパルプであって、
a)植物材料の有機酸前処理から生成されたセルロースパルプを乾燥機で乾燥させて、前記乾燥セルロースパルプの総重量から計算して3%~18%の含有量まで有前記機酸を除去するステップと、
b)前記抽出液濃縮システムおよび他の有機酸前処理操作システムで使用するために、前記乾燥機から放出された蒸気を熱エネルギー源として捕捉するステップと、
c)前記抽出液濃縮システムで捕捉された前記蒸気を凝縮して、前記有機酸前処理プロセスの前記有機酸溶液の第1の相を形成するか、または任意選択的に、前記蒸気を使用して、前記有機酸前処理プロセス内のさらなる操作ステップに熱エネルギーを提供するステップと、
d)脱溶媒器に直接蒸気を使用して、前記セルロースパルプから前記有機酸をさらに除去するステップと、
e)前記脱溶媒器から放出された前記蒸気中の前記有機酸を凝縮して、前記有機酸前処理プロセスの有機酸溶液の第2の相を得るステップと、を含む、プロセスによって調製される脱溶媒セルロースパルプ。
(項目2)
前記プロセスの前記有機酸が、ギ酸、酢酸、および水の混合物を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目3)
前記プロセスの前記有機酸が、ギ酸、酢酸、フルフラール、および水の混合物を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目4)
前記プロセスの前記有機酸が、ギ酸、フルフラール、および水の混合物を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目5)
前記プロセスの前記有機酸が、ギ酸および水の混合物を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目6)
前記プロセスの前記乾燥機が、バルク乾燥機である、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目7)
チューブ乾燥機、空気圧乾燥機、および回転ディスク乾燥機からなる群から選択される、項目6に記載のバルク乾燥機。
(項目8)
前記バルク乾燥機が、チューブ乾燥機である、項目7に記載のバルク乾燥機。
(項目9)
前記プロセスの前記乾燥機が、80℃~160℃の温度で操作される、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目10)
前記有機酸前処理プロセスの前記有機酸溶液の前記第1の相が、前記プロセスのステップc)で回収された有機酸溶液の前記第1の相と比較して50%~95%の総重量の有機酸含有量を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目11)
前記プロセスのステップc)で回収された有機酸溶液の前記第1の相が、前記有機酸前処理プロセスで再使用される、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目12)
前記脱溶媒器が、90℃~130℃の温度で直接蒸気を使用する、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目13)
前記有機酸前処理プロセスの有機酸溶液の前記第2の相が、前記プロセスのステップe)における有機酸溶液の前記第2の相と比較して5%~60%の総重量の有機酸含有量を含む、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目14)
前記プロセスのステップe)で前記有機酸を回収する前記第2の凝縮システムが、1~3つの凝縮器を備える、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目15)
前記プロセスのステップe)で前記有機酸を回収する前記第2の凝縮システムが、2つの凝縮器を備える、項目1に記載の脱溶媒セルロースパルプ。
(項目16)
プロセスによって調製されるアルカリ化セルロースであって、
a)前記プロセスのステップd)からリサイクルされる水酸化ナトリウム液で、植物材料の有機酸前処理から生成された前記セルロースに含有される前記有機酸を中和して、中和セルロース混合物を形成するステップと、
b)プレスを用いて、前記中和セルロース混合物から中和セルロースを分離し、前記濾液を廃水処理システムに直接放出するステップと、
c)水酸化ナトリウム溶液の添加によって、前記中和セルロースを反応器でアルカリ化して、アルカリ化セルロース混合物を形成するステップと、
d)プレスを用いて、前記アルカリ化セルロース混合物からアルカリ化セルロースを分離するステップであって、前記水酸化ナトリウム液(前記アルカリ化セルロース混合物の濾液)が、前記プロセスのステップa)に再利用するための水酸化ナトリウムを含む、分離するステップと、を含む、プロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目17)
前記プロセスのステップa)の前記有機酸が、ギ酸のみを含む、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目18)
前記プロセスのステップa)の前記有機酸が、酢酸とギ酸との混合物を含む、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目19)
植物材料の有機酸前処理から生成された前記セルロースに含有される前記有機酸を中和することが、前記プロセスのステップd)からリサイクルされた前記水酸化ナトリウム液を添加することによって、または前記プロセスのステップd)からリサイクルされた水酸化ナトリウム液と未使用の水酸化ナトリウムとの組み合わせを含む水酸化ナトリウムを添加することによって達成される、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目20)
前記中和セルロース混合物が、pH5~pH8のpHを有する、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目21)
前記中和セルロースが、前記中和セルロースの総重量から計算して30%~45%の乾燥固体含有量を有する、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目22)
前記アルカリ化セルロースが、pH10~pH12のpHを有する、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目23)
前記アルカリ化セルロースが、前記アルカリ化セルロースの総重量から計算して30%~45%の乾燥固体含有量を有する、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目24)
前記プロセスのステップd)の前記水酸化ナトリウム液が、pH10~pH12のpHを有する、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目25)
前記プロセスが、50℃~100℃の温度で実行される、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目26)
前記プレスが、機械プレスである、項目16に記載のプロセスによって調製されるアルカリ化セルロース。
(項目27)
スクリュープレスを備える、項目26に記載の機械プレス。
(項目28)
リグニン組成物であって、
a)植物材料の有機酸前処理から生成されたリグニン懸濁液から、遠心分離によってリグニンを分離するステップと、
b)遠心分離中に洗浄液を前記リグニンに複数回適用することによって、前記遠心分離器内の前記リグニンを清浄して、複数の遠心分離物を形成するステップと、
c)ヘミセルロースジュース濃縮に使用するために第1の遠心分離物および第2の遠心分離物を回収するステップと、
d)前記プロセスの前記分離ステップで前記濃縮抽出液中の前記リグニンを分離するために第3の遠心分離物をリサイクルするステップと、
e)前記遠心分離器から前記リグニンを排出するステップと、を含む、プロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目29)
前記遠心分離器が、スクレーパー遠心分離器である、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目30)
前記遠心分離器が、洗浄液を送達するための噴霧デバイスを備える、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目31)
前記遠心分離器が、前記プロセス全体を通して連続的に回転する、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目32)
前記洗浄液が、ギ酸、酢酸、および水を含む、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目33)
前記洗浄液が、単に水からなる、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目34)
前記洗浄液の複数回の適用が、高有機酸含有洗浄水で構成される洗浄液の第1の適用と、低有機酸含有洗浄水で構成される洗浄液の第2の適用と、未使用の水で構成される洗浄液の最終適用と、を含む、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目35)
前記ギ酸含有量が、0重量%~30重量%である、項目32に記載の洗浄液。
(項目36)
前記酢酸含有量が、0重量%~20重量%である、項目32に記載の洗浄液。
(項目37)
前記第1の遠心分離物が、前記遠心分離器に適用される前記リグニン懸濁液から分離された前記液体で構成される、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目38)
前記第2の遠心分離物が、前記遠心分離器内の前記リグニンに適用される前記第1の洗浄液で構成される、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目39)
前記第1および第2の遠心分離物が収集され、ヘミセルロースジュース生成のために使用される、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目40)
前記第3の遠心分離物が、前記遠心分離器内の前記リグニンに適用される前記第2のおよび任意の後続の洗浄液で構成される、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目41)
前記第3の遠心分離物が、前記リグニン沈殿ステップにリサイクルされる、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目42)
第1の遠心分離物が、総遠心分離物の10%~60%を構成する、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目43)
前記第2の遠心分離物が、総遠心分離物の10%~30%を構成する、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目44)
前記第3の遠心分離物が、総遠心分離物の10%~50%を構成する、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目45)
前記リグニンが、前記清浄されたリグニンの総重量に基づいて90%~99%純粋である、項目28に記載のプロセスによって調製されるリグニン組成物。
(項目46)
ヘミセルロースジュース組成物であって、
a)植物材料の有機酸前処理によって生成された溶解ヘミセルロース、有機酸、および水、および他の成分で構成されるヘミセルロース混合物を多重効用蒸発システムに導入するステップと、
b)前記多重効用蒸発器内で前記ヘミセルロース混合物を蒸発させて、40重量%~70重量%の乾燥物質含有量を有する濃縮ヘミセルロースジュースを形成するステップと、
c)ストリッピングカラムで前記濃縮ヘミセルロースジュースから有機酸を除去して、ヘミセルロースジュースを形成するステップであって、前記ヘミセルロースジュースが、2重量%未満の有機酸を含む、形成するステップと、を含む、プロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目47)
前記有機酸が、ギ酸を含む、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目48)
前記有機酸が、ギ酸および酢酸を含む、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目49)
前記ヘミセルロース混合物中の前記溶解ヘミセルロースの含有量が、2重量%~20重量%である、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目50)
前記ヘミセルロース混合物前記有機酸の含有量が、10重量%~30重量%である、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目51)
前記多重効用蒸発システムが、2重効用蒸発システムである、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目52)
前記多重効用蒸発システムが、3重効用蒸発システムである、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目53)
前記多重効用蒸発システムが、4重効用蒸発システムである、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目54)
前記多重効用蒸発が、60℃~160℃の温度の前記第1の効用蒸発器で操作される、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目55)
前記多重効用蒸発システムが、25℃~60℃の温度の最後の効用蒸発器で操作される、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目56)
前記多重効用蒸発システムが、前記前の蒸発器の頂部から排出された前記蒸気を、前記次の蒸発器の熱エネルギーとして利用する、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目57)
前記ヘミセルロース混合物が、前記最後の蒸発器に供給され、前記第1の蒸発器から順次排出される、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目58)
前記ストリッピングカラムが、ストリッピング剤として直接蒸気を利用する、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目59)
前記ストリッピングカラムが、60℃~160℃で操作される、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目60)
前記ストリッピングカラムから排出された前記蒸気が、前記多重効用蒸発システムの前記第1の蒸発器の熱エネルギーとして使用される、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目61)
前記ヘミセルロースジュースが、フルフラールを含有しない、項目46に記載のプロセスによって調製されるヘミセルロースジュース組成物。
(項目62)
マルチカラム蒸留により高含水有機酸溶液から有機酸を回収するための方法であって、
a)2~5カラム蒸留システムを採用して前記有機酸を回収するステップと、
b)前記マルチカラム蒸留システムの前記第1カラムにのみ直接蒸気を供給するステップと、
c)前のカラムから放出された前記蒸気から後続のカラムに蒸気を順次提供するステップと、
c)前記マルチカラムシステム内の異なるカラムに1つ以上の高含水有機酸溶液の流れを供給して、前記蒸留システムを備える前記カラムのエネルギー要件のバランスを整えるステップと、
d)前記第1のカラムの前記凝縮物中の前記有機酸の含有量を調節して未使用の蒸気消費を最小限に抑えるステップと、
e)前記マルチカラム蒸留システムから排出された総有機酸および総水をリサイクルするステップと、を含む、方法。
(項目63)
前記高含水有機酸溶液が、ギ酸、酢酸、および水を含む、項目62に記載のプロセス。
(項目64)
前記高含水有機酸溶液が、ギ酸および水を含む、項目62に記載のプロセス。
(項目65)
前記高含水有機酸溶液が、ギ酸および酢酸を含む、項目62に記載のプロセス。
(項目66)
前記高含水有機酸溶液が、ギ酸を含む、項目62に記載のプロセス。
(項目67)
前記高含水有機酸溶液が、酢酸を含む、項目62に記載のプロセス。
(項目68)
前記マルチカラム蒸留が、2~5つのカラムを備える蒸留システムを使用して実行される、項目62に記載のプロセス。
(項目69)
前記マルチカラム蒸留が、4つのカラムを備える蒸留システムを使用して実行される、項目62に記載のプロセス。
(項目70)
前記最高含水有機溶液流が、前記蒸留システムの前記最後のカラムに向けられる、項目62に記載のプロセス。
(項目71)
前記最低含水有機酸溶液流が、前記蒸留システムの前記第1のカラムに向けられる、項目62に記載のプロセス。
(項目72)
有機酸および水中が、前記第1のカラムの頂部から排出された前記凝縮物中で0.5重量%~10重量%の有機酸含有量を有する、項目62に記載のプロセス。
(項目73)
有機酸および水中が、前記第1のカラムの前記底部排出において5重量%~15重量%の含水量を有する、項目62に記載のプロセス。
(項目74)
有機酸および水中が、前記後続のカラムの頂部から排出された前記凝縮物中で0.2重量%~1重量%の有機酸含有量を有する、項目62に記載のプロセス。
(項目75)
前記総凝縮物が、前記有機酸前処理プロセスにリサイクルされる、項目62に記載のプロセス。
(項目76)
前記マルチカラム蒸留が、前記第1のカラムで120℃~175℃の温度を用いるものである、項目62に記載のプロセス。
(項目77)
前記マルチカラム蒸留が、前記最後のカラムで50℃~95℃の温度を用いるものである、項目62に記載のプロセス。
(項目78)
未使用の蒸気が、前記マルチカラム蒸留システムの前記第1のカラムにのみ供給される、項目62に記載のプロセス。
(項目79)
前記後続のカラムが、前記前のカラムから放出された前記蒸気を、熱エネルギーとして順次利用する、項目62に記載のプロセス。
(項目80)
プロセスによって調製される有機肥料組成物であって、
a)デカンタを使用して、植物材料の有機酸前処理によって生成されたセルロースおよびヘミセルロースジュースから蒸留排液を分離して、前記蒸留排液の固体画分および薄い蒸留排液を得るステップと、
b)多重効用蒸発システムを用いて前記薄い蒸留排液を濃縮して、濃縮蒸留排液を得るステップであって、前記多重効用蒸発システムのための前記蒸気が、前記プロセスのステップd)で前記乾燥機から放出される蒸気から供給され、任意選択的に未使用の蒸気が補充される、濃縮蒸留排液を得るステップと、
c)前記固体画分と濃縮蒸留排液とを混合して混合物を得るステップと、
d)前記混合物を乾燥させて前記有機肥料を得るステップであって、前記乾燥機から放出された前記蒸気が、前記プロセスの前記多重効用蒸発システムのための熱エネルギーとして前記多重効用蒸発システムに供給される、前記有機肥料を得るステップと、を含む、プロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目81)
前記固体画分が、20重量%~45重量%の乾燥固体含有量を含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目82)
前記薄い蒸留排液が、4重効用蒸発システムを備える蒸発器で濃縮される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目83)
前記薄い蒸留排液が、5重効用蒸発システムを備える蒸発器で濃縮される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目84)
前記薄い蒸留排液が、6重効用蒸発システムを備える蒸発器で濃縮される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目85)
前記薄い蒸留排液が、30℃~150℃の温度で実行される多重効用蒸発によって濃縮される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目86)
多重効用蒸発によって生成された前記濃縮された薄い蒸留排液が、28重量%~45重量%の乾燥物質含有量を含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目87)
前記固体画分と前記濃縮蒸留排液との混合中が、ミキサーで実行される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目88)
前記混合物の乾燥が、チューブ乾燥機、空気圧乾燥機、または同様の乾燥機の群から選択される乾燥機によって実行される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目89)
前記混合物中が、50重量%~80重量%の乾燥固体含有量まで乾燥される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目90)
前記混合物が、80℃~160℃の温度で乾燥される、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目91)
前記有機肥料が、30%~65%の有機物質含有量を含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目92)
前記有機肥料が、5重量%~30重量%の総栄養素含有量を含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目93)
前記有機肥料が、20重量%~50重量%の含水量を含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目94)
前記有機肥料が、pH5.5~pH8.5のpHを含む、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
(項目95)
前記蒸留排液中が、セルロースおよびヘミセルロースジュースの加水分解および発酵によって生成されたセルロースおよびヘミセルロースジュースから、別々にまたは集合的に得られる、項目80に記載のプロセスによって調製される有機肥料組成物。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】乾燥機と脱溶媒ユニットとの組み合わせによって、セルロースパルプから有機酸がどのように回収されるかを示すプロセス図である。セルロースパルプ(21)を乾燥機ユニット(101)に導入して、乾燥セルロースパルプ(22)および蒸気(23)を得る。蒸気(23)は、抽出液濃縮システム、ならびに全体的なシステムにおける他の操作ユニットに熱エネルギーを提供するために使用される。乾燥セルロースパルプ(22)を脱溶媒器(103)に供給して、脱溶媒媒体として直接蒸気(23)を利用することによって有機酸をさらに除去して、脱溶媒セルロースパルプ(24)を得る。脱溶媒ユニットからの蒸気(25)は、凝縮器I(104)に供給される。凝縮器I(104)からの凝縮されていない蒸気(26)は、凝縮器II(105)に供給される。凝縮器Iからの凝縮蒸気溶液(27)および凝縮器II(105)からの凝縮蒸気溶液(28)を組み合わせて、有機酸溶液(13)を形成することができる。
【
図2】脱溶媒器(103)の構造を概略的に示す。供給入口(106)を通して、乾燥セルロースパルプ(22)を脱溶媒器(103)の頂部に供給する。直接蒸気(23)は、プレート(109)の穴から噴出し、次いで乾燥セルロースパルプの層を通って外に出、その間、直接蒸気は、乾燥セルロースパルプに含有される残留有機酸を伴って有機酸蒸気を形成し、有機酸蒸気は、脱溶媒器(103)の蒸気出口(107)から放出される。放出された有機酸蒸気は、凝縮器I(104)に供給され、凝縮器I(104)内の凝縮されていない蒸気は、凝縮器II(105)に供給される。凝縮器I(104)および凝縮器II(105)の凝縮物は、有機酸溶液(13)を形成する。脱溶媒後、脱溶媒セルロースパルプ(24)は、回転排出器(108)によって排出される。
【
図3】中和とアルカリ化の組み合わせによるセルロースの処理を概略的に示し、水酸化ナトリウム(23)およびリサイクルされた水酸化ナトリウム液(22)を添加して中和セルロース混合物(24)を形成する中和タンク(101)に、セルロース(21)が供給される。中和セルロース混合物(24)は、プレスI(102)に供給されて濾液(25)および中和セルロース(26)が得られる。濾液(25)は廃水処理システム(103)に排出される一方で、中和セルロース(26)はアルカリ化反応器(104)に供給される。水酸化ナトリウム(27)は、アルカリ化反応器(104)内に添加されて、アルカリ化セルロース混合物(28)が得られる。アルカリ化セルロース混合物(28)は、プレスII(105)に供給されて、中和タンクにリサイクルされる水酸化ナトリウム液(22)および最終アルカリ化セルロース(29)生成物が得られる。
【
図4】純粋なリグニンを生成するためのプロセスを示すプロセス図である。このプロセスでは、第3の遠心分離物(21)は濃縮抽出液(22)と混合されて混合物が形成され、連続またはバッチ乳化器(101)を使用することによって、混合物は懸濁タンク(102)内で乳化されて、安定したリグニン懸濁液(23)が形成される。次いで、リグニン懸濁液(23)は、遠心分離器(103)に供給されて、リグニン懸濁液がリグニン層と第1の遠心分離物(25)とに分離される。第1の遠心分離物(25)は、ヘミセルロースジュース生成のために多重効用蒸発システム(104)に送達される。リグニン層を洗浄するために第1の洗浄水(27)が導入されて、第2の遠心分離物(26)が生成される。第1の洗浄水は、
図10~13の酸蒸留ユニット(5)の凝縮器Iからの高酸含有水であり得る。第2の遠心分離物(26)もまた、ヘミセルロースジュース生成のために多重効用蒸発システム(104)に送達される。第2の洗浄水(28)がリグニン層に導入されて、少なくとも第3の遠心分離物(21)が生成される。第2の洗浄水は、
図10~13の酸蒸留ユニット(7)の凝縮器I、または未使用の水(29)、または両方の混合物以外の、他の凝縮器からの低酸含有洗浄水で構成され得る。第3および任意の後続の遠心分離物を組み合わせ、リグニンを懸濁させるための懸濁タンク(102)に再導入してもよい。洗浄されたリグニンは、純粋なリグニン(24)として遠心分離器から排出される。
【
図5】ヘミセルロースジュースの生成を含むステップの配列を示す。リグニン沈殿、濾過、および洗浄によって抽出液から分離された未加工のヘミセルロースジュース(21)は、多重効用蒸発システム(101)に供給される。濃縮ヘミセルロースジュース(22)および凝縮有機酸(23)は、多重効用蒸発器システムによって生成される。有機酸をさらに除去し、ストリッピングされたヘミセルロースジュースの総重量の2%未満の有機酸含有量を有するストリッピングされたヘミセルロースジュース(24)、および新たに凝縮された酸(25)を得るためのストリッピングカラム(102)に、未使用の蒸気(26)および濃縮ヘミセルロースジュース(22)が、導入される。
【
図6】2重効用蒸発およびストリッピングシステムの詳細な図面である。内部ラベルは、実施例4に記載される。
【
図7】3重効用蒸発およびストリッピングシステムの詳細な図面である。内部ラベルは、実施例4に記載される。
【
図8】4重効用蒸発およびストリッピングシステムの詳細な図面である。内部ラベルは、実施例4に記載される。
【
図9】マルチカラム蒸留による高含水有機酸溶液から有機酸を回収するためのプロセスのフロー図である。リグノセルロース植物原材料(11)は、抽出ステップ(101)に供給される。有機酸(12)は、抽出ステップ(101)で植物材料に添加されて、植物原材料(11)からヘミセルロースおよびリグニンを溶解させて抽出混合物(13)が得られる。抽出混合物から可溶性粒子と懸濁粒子とを分離すること(102)によって、抽出液(14)が生成され、不溶性および懸濁していない残渣が、セルロースパルプ(15)を含む。セルロースパルプ(15)は、乾燥機(109)で乾燥されて、乾燥セルロースパルプ(27)が生成され、有機酸を含む乾燥機からの凝縮物は、抽出ステップ(101)にリサイクルすることができる。このプロセスでは、抽出液(14)は、蒸発システム(103)に供給されて、残留有機酸および水が部分的に除去されて、高含水有機酸溶液(1)の第1の流れが形成され、濃縮液(16)が得られる。濃縮液(16)は、リグニン分離(104)ステップに供給され、このステップでは、水(17)の添加によってリグニンを沈殿させ、濃縮液(16)からリグニンを分離させて、分離されたリグニン(18)、および水を含む可溶性材料(19)が得られる。リグニンは、残留する糖、有機酸、および他の水溶性成分を除去するために、一連のリグニン洗浄ステップ(22)で様々な洗浄水(20)で洗浄される必要がある。リグニン洗浄ステップ(105)からの水および洗浄水を含む可溶性材料(19)は、プールされて、ヘミセルロース、有機酸、水、および他の水溶性成分の混合物(23)を形成する。この混合物(23)から有機酸を除去し含水量を低減するために、混合物(23)は、多重効用蒸発(106)を施される。多重効用蒸発器の凝縮物は、高含水有機酸溶液(2)の第2の流れを形成する。多重効用蒸発(106)に続いて、濃縮混合物(24)は、ストリッピングカラム(107)に供給され、有機酸が2%未満の含有量までさらに除去され、ストリッピングカラムからの凝縮物が、高含水有機酸溶液(3)およびヘミセルロースジュース(25)の第3の流れを形成する。乾燥セルロースパルプ(15)から有機酸を除去するために、脱溶媒器(108)は、直接蒸気(26)を使用して残留有機酸を除去するように適合される。脱溶媒器からの凝縮物は、高含水有機酸溶液(4)および脱溶媒セルロースパルプ(28)の第4の流れを形成する。高含水有機酸溶液の4つの流れは、マルチカラム蒸留システム(110)に供給されて、含水量が低減される。凝縮液排出物中の酸含有量が0.5~10%の水性酸溶液(5)が、第1のカラムの頂部から得られる。後続のカラムは、0.2%~1%の酸含有量を有する凝縮液(7)排出物を生成する。5%~15%の酸含有量を有する水性酸溶液(6)は、第1のカラムの底部排出物を含む。すべての酸パーセンテージは、重量で計算される。
【
図10】2カラム蒸留システムの詳細を示す。内部ラベルは、実施例5に記載される。
【
図11】3カラム蒸留システムの詳細を示す。内部ラベルは、実施例5に記載される。
【
図12】4カラム蒸留システムの詳細を示す。内部ラベルは、実施例5に記載される。
【
図13】5カラム蒸留システムの詳細を示す。内部ラベルは、実施例5に記載される。
【
図14】エタノール蒸留システムのマッシュカラム(100)の底部からの発酵蒸留排液(21)からの有機肥料の生成を示すプロセス図である。蒸留排液(21)は、デカンタ(101)に供給されて、固体画分(22)および薄い蒸留排液(23)が得られる。薄い蒸留排液(23)は、多重効用蒸発システム(102)に供給されて濃縮蒸留排液(24)が生成される。固体画分(22)および濃縮蒸留排液(24)は、2つの画分が混合されて混合物(25)が得られるミキサー(103)に供給される。混合物(25)は、乾燥機(104)に供給されて乾燥混合物(26)が得られ、この乾燥混合物(26)は高品質の有機肥料に相当する。乾燥器(104)から放出された蒸気(27)は、多重効用蒸発器(102)に供給されて、蒸発プロセスのための熱エネルギーを提供することができ、未使用の蒸気(28)は、補足的な熱エネルギーとして多重効用蒸発システム(102)に供給される。
【発明を実施するための形態】
【0033】
セルロースパルプからの有機酸の回収
本発明の第1の態様は、乾燥機と脱溶媒器との組み合わせによる、セルロースパルプからの有機酸の効率的、完全かつ経済的な回収のための方法および組成物について開示する。有機酸および脱溶媒セルロースパルプは、
a)植物材料の有機酸前処理から生成されたセルロースパルプを乾燥機で乾燥させて、乾燥セルロースパルプの総重量から計算して3%~18%の含有量まで有機酸を除去するステップと、
b)抽出液濃縮システムおよび他の有機酸前処理操作システムで使用するために、乾燥機から放出された蒸気を熱エネルギー源として捕捉するステップと、
c)抽出液濃縮システムおよび他の有機酸前処理操作システム内の蒸気を凝縮して、有機酸前処理プロセスの有機酸溶液の第1の相を形成するステップと、
d)脱溶媒器に直接蒸気を使用して、セルロースパルプから2%未満の含有量まで有機酸をさらに除去するステップと、
e)脱溶媒器から放出された有機酸蒸気を凝縮して、有機酸前処理プロセスの有機酸溶液の第2の相を得るステップと、を含む、プロセスによって生成される。
【0034】
本発明の本態様は、乾燥機と脱溶媒器との組み合わせによって、植物材料の有機酸前処理プロセスに由来するセルロースパルプから有機酸を回収する方法に関する。有機酸前処理プロセスは、有機酸を試薬として使用して、リグノセルロース植物材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンを溶解させる。可溶性部分と不溶性部分との混合物からセルロースパルプを分離した後の不溶性部分を含む残渣は、セルロースパルプである。
【0035】
既存の有機酸前処理プロセスは、総セルロースパルプの0.3~4乾燥重量%の全体的なリグニンレベルの残留物を得るために、リグニンを部分的に排除するステップを含み得る。セルロースパルプ中の有機酸の含有量は、セルロースパルプの総重量から計算して35%~65%であり得る。セルロースパルプ中のセルロースの含有量は、セルロースパルプの総重量から計算して30%~50%であり得る。
【0036】
図1に示されるように、有機酸前処理プロセスからのセルロースパルプは、乾燥機に供給される。乾燥機は、乾燥セルロースパルプの総重量から計算して3%~18%の含有量まで有機酸を低減し、有機酸の含有量が3%未満になると、乾燥機は、有機酸を効率的にさらに除去することができず、有機酸の含有量が18%超である場合、脱溶媒器による直接蒸気の消費は非効率的である。
【0037】
セルロースパルプの乾燥は、チューブ乾燥機、空気圧乾燥機、噴霧乾燥機、回転ディスク乾燥機、および当業者に既知の他の乾燥機技術を含み得る、多くの形態の乾燥機によって実行され、チューブ乾燥機を利用することが特に好ましい。乾燥機ステップは、90℃~150℃の温度で実行され得る。乾燥後、乾燥機から排出された乾燥セルロースパルプは、脱溶媒器に供給される。
【0038】
乾燥機から放出された蒸気は、抽出液濃縮システムに使用することができ、同様に他のシステムに熱エネルギーを提供することができる。抽出液濃縮システムおよび他のシステムで凝縮された乾燥機からの蒸気の凝縮物は、有機酸溶液の第1の相を形成し、有機酸前処理プロセスで再利用することができる。
【0039】
図2に示される脱溶媒器では、有機酸は、脱溶媒セルロースパルプの総重量から計算して2%未満の含有量まで、乾燥セルロースパルプからさらに除去される。脱溶媒器は、直接蒸気を脱溶媒媒体として利用して、乾燥セルロースパルプから有機酸をさらに除去することができる。脱溶媒器は、ステップd)において90℃~150℃の温度で実行される脱溶媒媒体として直接蒸気を使用することによって、有機酸をさらに除去することができる。
【0040】
脱溶媒ステップ後の脱溶媒セルロースパルプは、エタノールおよび他の生成物を生成するために使用することができる。
【0041】
有機酸蒸気はまた、脱溶媒器から放出された水を含有し、有機酸蒸留システムの凝縮システムによって回収され、有機酸は、有機酸前処理プロセスで使用するために回収される。凝縮システムは、1~3つの凝縮器、好ましくは2つの凝縮器によって実行される。
【0042】
アルカリ化セルロースの生成
本発明の本態様は、中和とアルカリ化との組み合わせによってセルロースを処理してアルカリ化セルロースを生成するためのプロセスであって、
a)プロセスのステップd)からリサイクルされる水酸化ナトリウム液で、植物材料の有機酸前処理から生成されたセルロースに含有される有機酸を中和して、中和セルロース混合物を形成するステップと、
b)プレスを用いて、中和セルロース混合物から中和セルロースを分離し、濾液を廃水処理システムに直接放出するステップと、
c)水酸化ナトリウム溶液の添加によって、中和セルロースを反応器でアルカリ化して、アルカリ化セルロース混合物を形成するステップと、
d)プレスを用いて、アルカリ化セルロース混合物からアルカリ化セルロースを分離するステップであって、水酸化ナトリウム液(アルカリ化セルロース混合物の濾液)が、プロセスのステップa)に再利用するための水酸化ナトリウムを含む、分離するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0043】
本発明の本態様では、有機酸前処理プロセスに由来するセルロースパルプから生成され、上述の乾燥および脱溶媒ステップによって残留有機酸がストリッピングされたセルロースは、セルロースの総重量の0.5%~5%に相当する残留有機酸レベルを依然として含有し得る。本発明の本態様では、かかるセルロースパルプは、中和および後続のアルカリ化を含むプロセスによってさらに処理されて、アルカリ化セルロースを形成する。
【0044】
図3に示されるように、プロセスのステップa)でセルロースに含有される残留有機酸は、ステップd)でアルカリ化セルロース混合物からアルカリ化セルロースを分離することからリサイクルされた水酸化ナトリウム液を添加することによって中和される。水酸化ナトリウム液のpHは、pH10~pH12である。水酸化ナトリウム液をセルロースに添加した後、必要に応じてより多くの水酸化ナトリウムを添加することによって、セルロース混合物のpHを5~8の範囲に調節する。アルカリ化セルロースを生成するためのプロセスの最後のステップからリサイクルされた水酸化ナトリウム液の使用は、現行の処理プロセスと比較して、水酸化ナトリウムの全体的な消費を30重量%~65重量%減少させることができる。
【0045】
ステップb)では、中和セルロースは、プレスの使用によって中和セルロース混合物から分離される。プレスは、スクリュープレスまたは当業者に既知の他のタイプのプレスであってもよい。この分離ステップでは、ステップa)で形成された中和セルロース混合物は2つの流れに分離され、一方は中和セルロースを含み、他方は濾液を含む。中和セルロースは、30%~45%の乾燥固体含有量を有する。濾液は、廃水処理システムに直接放出され、濾液のpHは、pH5~pH8であるので、既存の処理プロセスのように滴定によってpHを調節する必要はない。
【0046】
ステップc)では、反応器内で中和セルロースに50℃~100℃の温度の水酸化ナトリウム溶液を添加することによって、中和セルロースは、pH10~pH12のpHにアルカリ化される。これらの条件下で、セルロースに含有されるリグニンの含有量は、セルロースの総重量から計算して1%~2.5%のレベルまで低減することができる。
【0047】
ステップd)では、アルカリ化セルロース混合物は、プレスの使用によって分離される。この分離ステップでは、アルカリ化セルロース混合物は、2つの流れに分離され、一方の流れはアルカリ化セルロースを含み、他方の流れは水酸化ナトリウム液を含む。
【0048】
アルカリ化セルロースは、アルカリ化セルロースの総重量から計算して30%~45%の乾燥固体の含有量を含有する。洗浄ステップ後、このアルカリ化セルロースは、セルロースのグルコースへの高い変換速度を有するセルラーゼによって加水分解されてもよい。
【0049】
水酸化ナトリウム液は、有機酸を中和するためにステップa)にリサイクルすることができる。
【0050】
純粋なリグニンの生成
本発明の本態様は、沈殿および遠心分離によってリグニン懸濁液からリグニンを分離および清浄するためのプロセスであって、
a)植物材料の有機酸前処理から生成されたリグニン懸濁液から、バッチまたは連続遠心分離によってリグニンを分離するステップと、
b)遠心分離中に洗浄液をリグニン層上に複数回適用することによって、遠心分離器内の沈殿リグニンを清浄して、複数の遠心分離物を形成するステップと、
c)ヘミセルロースジュース濃縮に使用するために第1の遠心分離物および第2の遠心分離物を回収するステップと、
d)濃縮抽出液中のリグニンを有機酸前処理プロセスのリグニン懸濁液に沈殿させるために、第3の遠心分離物をリサイクルするステップと、
e)遠心分離器からリグニンを排出するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0051】
本発明の本態様の抽出液は、植物材料に含有されるヘミセルロースおよびリグニンが、抽出液が由来する有機酸溶液に溶解される、既存の有機酸前処理プロセスから得られる。抽出液は混合物から分離され、セルロース、溶解ヘミセルロース、リグニン、ミネラル、有機酸、水、および他の微量成分を含む抽出液は、蒸発システムによって濃縮されて、濃縮抽出液の総重量から計算して55%~65%の乾燥物質含有量まで、有機酸および水の一部が除去される。
【0052】
本発明によれば、分離装置は遠心分離器であり、好ましくはスクレーパー遠心分離器であり、これは連続またはバッチモードで実行され得る。遠心分離器は、純粋なリグニンを得るためにリグニン層上に洗浄水を均一に噴霧することができる噴霧デバイスが装備されている。
【0053】
図4に示されるように、ステップd)からの第3の遠心分離物は、濃縮抽出液と混合されて混合物を形成し、混合物は、安定したリグニン懸濁液を形成する懸濁タンクに供給され、懸濁タンクで連続またはバッチ乳化器を使用することによって混合物が乳化される。次いで、リグニン懸濁液は、連続して遠心分離器に供給され、次いで遠心分離物はリグニン懸濁液が分離されて、第1の遠心分離物およびリグニン層が得られる。遠心分離物の総体積の10%~60%を構成する第1の遠心分離物は、ヘミセルロースジュース生成ユニットによる後続処理のために回収される。
【0054】
噴霧デバイスは、ギ酸、酢酸、および水の混合物を含み得る洗浄水を送達し、リグニン層のオンライン洗浄を提供する。好ましい実施形態では、遠心分離器は、連続的に回転する。洗浄水は、連続回転下でリグニン層上に均等に噴霧されて、リグニンの均質な清浄を提供することができる。噴霧中、不純物は、洗浄水によって洗い流され、回収された洗浄水および不純物は第2の遠心分離物を形成し、総遠心分離物の10体積%~30体積%を構成する。後続の洗浄を適用しながら遠心分離器の操作を続けて、第3および可能なより多くの遠心分離物を生成する。第3および後続の遠心分離物は、総遠心分離物の10体積%~50体積%を構成し得る。最終遠心分離物が除去されると、リグニン層は遠心分離器から排出されて、90重量%~99重量%のリグニンを含む純粋なリグニンが得られる。
【0055】
洗浄水は、水、または混合物のギ酸含有量が、混合物の総重量から計算して0%~30%であり、混合物の酢酸含有量が、混合物の総重量から計算して0%~20%である、ギ酸、酢酸、および水の混合物を含み得る。ギ酸、酢酸、および水の混合物は、酸蒸留ユニットによる高含水有機酸溶液から回収された有機酸に由来し得る。好ましい実施形態では、遠心分離器に導入される最初の洗浄水は、高有機酸含有洗浄水に由来する。いくつかの実施形態では、遠心分離器に導入される第2の洗浄水は、低有機酸含有洗浄水に由来する。いくつかの実施形態では、未使用の水は、リグニン層を清浄して純粋なリグニンを得るための第3および任意の後続の洗浄手順のための洗浄水を構成する。
【0056】
第1の遠心分離物および第2の遠心分離物は回収され、後続のヘミセルロースジュース生成ユニットに送達され得るが、第3および任意の後続の遠心分離物は、リグニン懸濁ステップにリサイクルされて、最初のリグニン沈殿ステップのための水消費を減少させ、その結果、ヘミセルロースジュース生成および有機酸回収ユニットのエネルギー消費を減少させることができる。
【0057】
ヘミセルロースジュースの生成
本発明の本態様は、蒸発とストリッピングとの組み合わせによってヘミセルロースジュースを生成するためのプロセスであって、
a)植物材料の有機酸前処理によって生成された溶解ヘミセルロース、有機酸、水、および他で構成されるヘミセルロース混合物を多重効用蒸発システムに導入するステップと、
b)多重効用蒸発器内でヘミセルロース混合物を蒸発させて、40%~70%(w/w)の乾燥物質含有量を有する濃縮ヘミセルロースジュースを形成するステップと、
c)ストリッピングカラムで濃縮ヘミセルロースジュースから有機酸を除去して、ヘミセルロースジュースを形成するステップであって、ヘミセルロースジュースが、2%(w/w)未満の有機酸を含む、ヘミセルロースを形成するステップと、を含む、プロセスに関する。
【0058】
本発明は、ギ酸および酢酸の混合物またはギ酸のみを使用して、リグノセルロース植物原材料からヘミセルロースおよびリグニンを溶解させ、最初の分離ステップ後、溶解ヘミセルロース、リグニン、有機酸、水、および他の微量成分を含む抽出液が、残留する不溶性材料(主にセルロースを含む)から分離される、植物材料の既存の有機酸前処理プロセスに基づく。
【0059】
リグニン沈殿、濾過、および洗浄ステップ後、リグニンは、抽出液から除去され、ヘミセルロースジュースとして知られる残留物は、溶解ヘミセルロース、有機酸、水、および他の微量の水溶性成分で構成される。
【0060】
ヘミセルロースジュース中の溶解ヘミセルロースは、主にキシロースおよびアラビノースで構成され、これらはエタノールおよび他の工業製品を生成するために使用することができる。ヘミセルロースジュースに残留する有機酸は、キシロースおよびアラビノースのエタノールおよび他の工業製品への変換を阻害し得る。加えて、かかる有機酸は、全体的な有機酸前処理プロセスにおける費用の高い試薬の損失に相当する。本発明の本態様は、具体的には、有機酸前処理プロセスで使用するために、ヘミセルロースジュースに存在するかかる有機酸を同時に回収することができるプロセスによって、エタノールへの最適な変換に好適な、最小限の残留有機酸を含むヘミセルロースの生成に関する。
【0061】
ヘミセルロースジュース中の溶解ヘミセルロースの含有量は、ヘミセルロース混合物の総重量から計算して2%~20%である。ヘミセルロースジュース中の有機酸の含有量は、ヘミセルロース混合物の総重量から計算して10%~30%である。本発明のステップa)は、濃縮ヘミセルロースジュースの総重量から計算して40%~70%の乾燥物質含有量まで、水とともに有機酸を部分的に蒸発させるための多重効用蒸発システムを特徴とする。
【0062】
多重効用蒸発は、有機酸を除去し、ヘミセルロースジュースを濃縮するための蒸気/エネルギー消費を減少させることができる。いくつかの実施形態では、多重効用蒸発は、
図6~8に示されるような2~4重効用蒸発システムの使用を特徴とする。好ましい実施形態では、プロセスは、3重効用蒸発システムを使用する。
【0063】
いくつかの実施形態では、水を含む有機酸の多重効用蒸発は、第1の効用蒸発器において、60℃~160℃の温度で実行される。いくつかの実施形態では、水を含む有機酸の多重効用蒸発は、最後の効用蒸発器において、25℃~60℃の温度で実行される。
【0064】
多重効用蒸発システムの第1の蒸発器は、ストリッピングカラムの頂部から排出された蒸気を、熱エネルギー源として完全に、または熱エネルギー源として部分的に利用することができる。多重効用蒸発システムの各ステップでは、前の蒸発器の頂部から排出された蒸気を、次のカラムを駆動するための熱エネルギーとして利用して、多重効用蒸発システムによって必要とされる全体的なエネルギーを低減することができる。
【0065】
図6~8に示されるように、ヘミセルロース混合物は、第1の蒸発器に供給され、第1の蒸発器から順次排出される。
【0066】
多重効用蒸発システムによるヘミセルロースジュースの濃縮後、第1の蒸発器から排出される濃縮ヘミセルロースジュースの乾燥物質含有量は、濃縮ヘミセルロースジュースの総重量の40%~70%であり、濃縮ヘミセルロースジュースの粘度は、200mPas~1000mPasであり、粘度がこの範囲より高い場合の濃縮ヘミセルロースジュースは、蒸発によって有機酸をさらに除去するには大変困難である。
【0067】
本発明は、多重効用蒸発システムとストリッピングカラムとを組み合わせることをさらに特徴とする。多重効用蒸発システムから排出された濃縮ヘミセルロースジュースは、ストリッピングカラムの頂部プレートに供給される。ストリッピングカラムは、ストリッピング媒体として直接蒸気を利用して、ストリッピングされたヘミセルロースジュースの総重量の2%未満の含有量まで有機酸をさらに除去する。
【0068】
ストリッピングカラムの頂部から排出される蒸気は、多重効用蒸発システムの第1の蒸発器の熱エネルギーとして使用することができる。
【0069】
ストリッピングカラムの底部から排出されたストリッピングされたヘミセルロースジュースは、最終製品、すなわち、エタノールおよび他の工業製品を生成するために使用され得るヘミセルロースジュースとして使用される。
【0070】
高含水有機酸溶液からの水の除去
本発明の本態様は、マルチカラム蒸留による高含水有機酸溶液から有機酸を回収するためのプロセスであって、
a)2~5カラム蒸留システムを採用して有機酸を回収することと、
b)未使用の蒸気をマルチカラム蒸留システムの第1のカラムにのみ供給することであって、他のカラムが、前のカラムから放出された蒸気を熱エネルギーとして順次利用する、供給することと、
c)前のカラムから放出された蒸気を、熱エネルギーとして後続のカラムに向けることであって、それにより第1のカラムから放出された蒸気が第2のカラムに供給され、第2のカラムから放出された蒸気が第3のカラムに供給され、蒸留システムの各カラムを通してその後同様に続く、後続のカラムに向けることと、
d)マルチカラムシステム内の異なるカラムに1つ以上の高含水有機酸溶液の流れを供給して、蒸留システムを備えるカラムのエネルギー要件のバランスを整えることと、
e)第1のカラムの凝縮物中の有機酸の含有量を調節して未使用の蒸気消費を最小限に抑えることと、
f)マルチカラム蒸留システムから排出された総有機酸および総水をリサイクルすることと、を含む、プロセスに関する。
【0071】
本発明の本態様では、植物材料の有機酸前処理プロセスに由来する高含水有機酸溶液。典型的には、有機酸の含有量は、溶液の総重量の83%超を構成する。典型的には、有機酸前処理プロセス中、およびセルロースパルプ処理、ならびに比較的低い温度および大気圧下でのリグニンおよびヘミセルロース糖生成の下流ステップの結果として、全前処理プロセスの間にフルフラールが作り出されないこと、ならびに4つの高含水有機酸溶液の流れの生成に至る。有機酸前処理プロセスに高含水有機酸流中の有機酸をリサイクルするためには、含水量を低減する必要がある。
【0072】
蒸留によって高含水有機酸溶液から有機酸を回収するには、非常に高いエネルギーの注入が必要である。したがって、有機酸の回収およびリサイクルに必要なエネルギーの低減は、有機酸前処理プロセスを営利化するために不可欠である。
【0073】
一実施形態では、本発明は、2~5カラム蒸留システムを使用することによって、高含水有機酸溶液から有機酸を回収して、エネルギー効率を最大化することを特徴とする。好ましい実施形態は、4カラム蒸留システムを使用する。
【0074】
カラム数が多いほど、蒸留システムによって消費される蒸気/エネルギーが少なくなる。しかしながら、蒸留システムを備えるカラム数は、蒸留システムのカラム間の温度差によって制限される。驚くべきことに、システムが5つ超のカラムを含む場合、カラム間の温度差が小さすぎて、前のカラムから放出された蒸気を連続する次のカラムの蒸気/エネルギーとして使用することができないことを経験として発見した。
【0075】
科学的分析後、このプロセスでは、高含水有機酸溶液から有機酸を回収するためには2~5カラム蒸留システムが好適であり得、効率性および経済性の観点からは4カラム蒸留が最も好適である。
【0076】
典型的には、有機酸前処理プロセスは、上述の高含水有機酸溶液の4つの流れを作り出す。「高含水有機酸溶液」という用語は、有機酸前処理プロセスで植物材料を溶解するために使用される有機酸溶液中で必要とされる含水量よりも、含水量が高いことを意味する。したがって、4つの高含水有機酸流から有機酸をリサイクルするために様々なプロセスステップ全体を通して添加される追加の水を、除去する必要がある。マルチカラム蒸留による高含水有機酸溶液から有機酸を回収するために必要な蒸気/エネルギーの量を最小限に抑えるために、連続する個々のカラム内の有機酸のレベルに好適であるように、各カラムで使用される蒸気/エネルギーを調節する必要がある。
【0077】
本発明は、2つの方法を採用してこれを達成する。第1に、蒸留システムの最後のカラムに最高含水有機溶液を供給し、蒸留システムの第1のカラムに最低含水有機酸溶液を供給することによって、エネルギー注入がシステム全体へ適切に向けられる。第2に、第1のカラムに導入される蒸気/エネルギーの量を調節することによって、第1のカラムの頂部から排出される凝縮物の有機酸含有量を凝縮物の総重量の0.5%~10%に調節することによって、全蒸留システムにわたる蒸気/エネルギーの消費のバランスを整えることを可能にする。0.5%~10%の有機酸含有量の第1のカラムの凝縮物は、リグニン生成プロセスのリグニン沈殿ステップで使用するために転用することができる。
【0078】
本明細書に記載されるシステムでは、一連の他のカラムは、典型的には、注入される凝縮物の総重量の0.2%~1%の有機酸含有量を有する凝縮物を生成する。これらの凝縮物は、リグニンを洗浄するための前処理プロセス、およびリグニン生成プロセスの他のステップにリサイクルすることができる。
【0079】
カラム間の最適な温度差を維持するために、第1のカラムは、120℃~175℃の温度で操作され、最後のカラムは、50℃~95℃の温度で操作される。
【0080】
第1カラムの底部から排出される有機酸溶液は、有機酸溶液の総重量から計算して5%~15%の含水量を有し、これらの有機酸溶液は、植物原材料を可溶化する最初のステップの有機酸前処理プロセスに直接再利用することができる。
【0081】
有機肥料
図14に描写される本発明の本態様は、セルロースおよびヘミセルロースジュースから作り出される蒸留排液から有機肥料を生成するための方法であって、
a)デカンタを使用して、植物材料の有機酸前処理によって生成されたセルロースおよびヘミセルロースジュースから蒸留排液を分離して、蒸留排液の固体画分および薄い蒸留排液を得るステップと、
b)多重効用蒸発システムを用いて薄い蒸留排液を濃縮して、濃縮蒸留排液を得るステップであって、多重効用蒸発システムのための蒸気が、プロセスのステップd)で乾燥機から放出される蒸気から供給され、任意選択的に未使用の蒸気が補充される、濃縮蒸留排液を得るステップと、
c)固体画分と濃縮蒸留排液とを混合して混合物を得るステップと、
d)混合物を乾燥させて有機肥料を得るステップであって、乾燥機から放出された蒸気が、プロセスの多重効用蒸発システムのための熱エネルギーとして多重効用蒸発システムに供給される、有機肥料を得るステップと、を含む方法に関する。
【0082】
本発明は、既存の有機酸前処理プロセスに基づく。前処理プロセスでは、有機酸溶液は、リグニン、ヘミセルロース、塩(主にカリウムの塩およびリン酸塩)、タンパク質、およびリグノセルロース植物材料の他の構成成分の大部分を溶解させるための抽出試薬として使用される。前処理混合物は、不溶性セルロースパルプと、ヘミセルロースジュースとリグニンとの混合物とに分離される。セルロースパルプは、乾燥されてセルロースが得られる。ヘミセルロースジュースとリグニンとの混合物は、(ヘミセルロース、塩、タンパク質、および他の可溶性成分を含有する)ヘミセルロースジュースと、リグニンとに分離される。セルロースおよびヘミセルロースジュースの加水分解および発酵後、ヘミセルロースジュースに含まれるセルロースおよびヘミセルロースの大部分は、エタノールに変換される。蒸留による、発酵セルロースおよびヘミセルロースジュースからのエタノールの抽出後、発酵セルロースおよびヘミセルロースジュースの残渣は、蒸留システムのマッシュカラムの底部から排出される。残渣は、蒸留排液(プロセスの副産物)である。
【0083】
蒸留排液は、リグノセルロース原材料由来の多くの栄養構成成分(タンパク質、カリウム、リン、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、アルミニウムなど)、ならびに酵母、発酵中の酵母の成長によって生成された二次代謝産物、ならびに有意な量の窒素、カリウム、リン、および有機物質を含む残留する酵母成長培地を含む、追加の栄養構成成分を含有する。かかる材料は、有機肥料のすべての要件に相当する。有機肥料は、動物性物質、動物性排泄物(糞便)、ヒト排泄物、および植物性物質(例えば、堆肥および作物残渣)に由来する肥料であり、対照的に、商業農業で使用される肥料の大部分は、鉱物(例えばリン酸塩岩)から抽出されたか、または工業的に生成された化学肥料(例えばアンモニア)である。農場経営のシステムとしての有機農業では、ある特定の肥料および地質改良物質の使用が認められ、他のものは禁止されている。有機肥料および化学肥料の両方が植物の収量の有意な増加を提供することができるが、しかしながら、有機肥料はより完全なミネラルプロファイルを有し、化学肥料によって引き起こされ得る土壌損傷の類を引き起こし得ない。有機肥料は、農業にとって重要な発展しつつある方向性である。
【0084】
一実施形態では、本明細書に開示のこのプロセスは、原材料としての農業残渣、ならびに農業残留物から回収されたセルロースおよびヘミセルロースの加水分解、および酵母によるセルロースおよびヘミセルロースの加水分解によって放出された糖の発酵によって部分的に生成される蒸留排液を使用して、有機肥料を生成する。
【0085】
本方法は、蒸留排液がエタノール蒸留システムのマッシュカラムの底部から得られることを特徴とする。乾燥物質含有量は、蒸留排液の総重量から計算して2%~20%である。一実施形態では、遠心分離器を使用して、蒸留排液を固体画分と薄い蒸留排液画分とに分離する。好ましい実施形態では、遠心分離器は、デカンタ遠心分離器である。
【0086】
分離後、固体画分の乾燥物質含有量は、蒸留排液の固体部分の総重量から計算して20%~45%である。薄い蒸留排液画分の乾燥物質含有量は、薄い蒸留排液の総重量から計算して1%~15%である。
【0087】
薄い蒸留排液は、多重効用蒸発システムによって濃縮され得る。多重効用蒸発システムは、4~6重効用蒸発システムを含み得る。好ましい実施形態では、多重効用蒸発は、5重効用蒸発システムである。多重効用蒸発システムでは、前の蒸発器の頂部から放出された蒸気は、次の蒸発器の熱エネルギーとして利用されて、多重効用蒸発システムの総エネルギーを最小限に抑える。薄い蒸留排液は、多重効用蒸発システムの最後の蒸発器に供給され、多重効用蒸発システムの第1の蒸発器から排出される。多重効用蒸発システムは、30℃~150℃の温度で実行される。
【0088】
濃縮後、濃縮蒸留排液の乾燥物質含有量は、濃縮蒸留排液の総重量から計算して28%~45%である。
【0089】
ステップb)で得られる、多重効用蒸発システムで分離された蒸気の凝縮物は、プロセス水として再利用することができる。
【0090】
固体部分および濃縮蒸留排液は、ミキサーに供給され、2つの部分が混合されて、固体画分と濃縮蒸留排液との混合物が得られる。固体部分と濃縮蒸留排液との混合物は、乾燥機、好ましくはチューブ乾燥機によって乾燥されて、有機肥料が得られる。乾燥機は、80℃~160℃の温度で操作される。有機肥料の乾燥固体含有量は、有機肥料の総重量から計算して50%~80%である。乾燥機から放出された蒸気は、蒸留排液多重効用蒸発システムに供給されて、多重効用蒸発システムに熱エネルギーを提供することができる。乾燥後、固体部分と濃縮蒸留排液との混合物は乾燥され、この乾燥混合物は、有機肥料として使用することができる。
【0091】
有機肥料は、有機物質、タンパク質、カリウム塩、リン酸塩、鉱物物質などを含有する。有機肥料の有機物含有量は、有機肥料の総乾燥物質から計算して30%~65%である。有機肥料の栄養素(栄養素=窒素+五酸化リン+酸化カリウムという式に基づいて計算される)の総含有量は、有機肥料の総乾燥物質から計算して5%~30%である。有機肥料のpH値は、5.5~8.5である。有機肥料の含水量は、有機肥料の総重量から計算して20%~50%である。
【実施例】
【0092】
実施例1
セルロースパルプからの有機酸の回収
トウモロコシ藁をリグノセルロース原材料として使用した。セルロースパルプは、有機酸前処理プロセスに従って得た。有機酸組成物は、ギ酸26%、酢酸含有量59%、および水15%であり、温度は103℃であり、溶媒和時間は240分である。分離後、セルロースパルプを液体画分から分離する。
【0093】
およそ5kgのセルロースパルプを回収し、セルロースパルプの総重量から計算して、乾燥物質含有率は38.0%であり、有機酸含有率は49.5%であり、含水量は12.5%であった。セルロースパルプを乾燥機に供給して乾燥セルロースパルプを得、乾燥温度は120℃であった。乾燥後、乾燥セルロースパルプの有機酸含有量は5.5%であった。
【0094】
乾燥セルロースパルプを、供給流量が200g/分である脱溶媒器に導入し、直接蒸気を脱溶媒器の底部に導入し、蒸気の温度は120℃であり、脱溶媒器への直接蒸気供給の流量は14.1g/分であった。脱溶媒セルロースパルプを脱溶媒器から排出した。
【0095】
脱溶媒セルロースパルプの有機酸含有量は、脱溶媒セルロースパルプの総重量から計算して1.8%であった。
【0096】
トウモロコシ藁に由来する第2のセルロースパルプを、上述と同様の条件下で調製した。しかしながら、この試験では、乾燥機温度はわずかに低かった(110℃)が、脱溶媒器内の蒸気の流量は、26.3g/分に増加させた。これらの条件下で生成した脱溶媒セルロースパルプは、1.95%の有機酸含有量を有した。
【0097】
第3の研究では、小麦藁をリグノセルロース原材料として使用し、上述の有機酸前処理プロセスに従ってセルロースパルプを得た。
【0098】
およそ5kgのセルロースパルプを回収し、セルロースパルプの総重量から計算して、乾燥物質含有率は37.5%であり、有機酸含有率は50.2%であり、含水量は12.3%であった。セルロースパルプを乾燥機に供給して乾燥セルロースパルプを得、乾燥温度は115℃であった。乾燥後、得られた乾燥セルロースパルプの有機酸含有量は6.7%であった。
【0099】
乾燥セルロースパルプを、供給流量が200g/分である脱溶媒器に導入し、直接蒸気を脱溶媒器の底部に導入し、蒸気の温度は120℃であり、脱溶媒器への直接蒸気供給の流量は16.8g/分であった。脱溶媒セルロースパルプを脱溶媒器から排出する。
【0100】
これらの条件下で生成した脱溶媒セルロースパルプは、1.91%の有機酸含有量を有した。
【0101】
【0102】
実施例2
セルロースの中和およびアルカリ化処理
試料1
方法A:
最初に、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は4.1%であり、有機酸含有量は1.56%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHを12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を60分間続けた。
【0103】
反応が終了したときには、9.16gの水酸化ナトリウムを消費し、処理したセルロースのリグニン含有量は1.89%であった。
【0104】
方法B:
第1の処理実験の最初の中和ステップでは、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は4.1%であり、有機酸含有量は1.56%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH6.5に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0105】
アルカリ化ステップでは、中和セルロースをアルカリ化反応器に添加し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。必要に応じて水酸化ナトリウムを添加して、PHをpH12に維持した。30分後、アルカリ化セルロース混合物を濾過し、プレスして、水酸化ナトリウム液およびアルカリ化セルロースを得た。水酸化ナトリウム液は、第2の(後続の)処理操作の中和ステップで再利用してもよい。
【0106】
第2の処理実験では、(4.1%のリグニン含有量、1.56%の有機酸含有量を有する)0.4kgのセルロースを中和反応器に供給し、撹拌器を開始し、第1の処理実験のアルカリ化ステップから回収した水酸化ナトリウム液を使用して、pHをpH6.8に調節し、反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0107】
第2(および後続の)処理実験のアルカリ化ステップは、第1ラウンドに記載したステップと同じステップを含む。重要なことに、濾過し、アルカリ化セルロースをプレスした後に回収した水酸化ナトリウム液は、次の処理操作の中和ステップで再利用することができる。第1ラウンドから回収した水酸化ナトリウムを利用する第2ラウンドの処理では、消費した総水酸化ナトリウムは4.58gであり、処理したセルロースのリグニン含有量は1.85%であった。
【0108】
試料2
方法A:
最初に、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は3.6%であり、有機酸含有量は2.68%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHを12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を60分間続けた。
【0109】
反応が終了したときには、水酸化ナトリウム12.4gを消費し、処理したセルロースのリグニン含有量は1.56%であった。
【0110】
方法B:
第1の処理実験の最初の中和ステップでは、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は3.6%であり、有機酸含有量は2.68%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH6.5に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0111】
アルカリ化ステップでは、中和セルロースをアルカリ化反応器に添加し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。必要に応じて水酸化ナトリウムを添加して、PHをpH12に維持した。30分後、アルカリ化セルロース混合物を濾過し、プレスして、水酸化ナトリウム液およびアルカリ化セルロースを得た。水酸化ナトリウム液は、後続の処理操作の中和ステップで再利用してもよい。
【0112】
第2の処理実験では、(3.6%のリグニン含有量、2.68%の有機酸含有量を有する)0.4kgのセルロースを中和反応器に供給し、撹拌器を開始し、第1の処理実験のアルカリ化ステップから回収した水酸化ナトリウム液を使用して、pHをpH6.8に調節し、反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0113】
第2(後続の)処理実験のアルカリ化ステップは、第1ラウンドに記載したものと同じステップを含む。重要なことに、濾過し、アルカリ化セルロースをプレスした後に回収した水酸化ナトリウム液は、次の処理操作の中和ステップで再利用することができる。第1ラウンドから回収した水酸化ナトリウムを利用する第2ラウンドの処理では、消費した総水酸化ナトリウムは7.87gであり、処理したセルロースのリグニン含有量は1.58%であった。
【0114】
試料3
方法A:
最初に、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は3.8%であり、有機酸含有量は4.52%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を60分間続けた。
【0115】
反応が終了したときには、水酸化ナトリウム17.9gを消費し、処理したセルロースのリグニン含有量は1.66%であった。
【0116】
方法B:
第1の処理実験の最初の中和ステップでは、0.4kgのセルロース(リグニン含有量は3.8%であり、有機酸含有量は4.52%であった)を反応器に供給し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHを6.5に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0117】
アルカリ化ステップでは、中和セルロースをアルカリ化反応器に添加し、撹拌器を開始し、水酸化ナトリウム溶液でpHをpH12に調節し、これに3.34Lの追加の水を添加した。反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。必要に応じて水酸化ナトリウムを添加して、PHをpH12に維持した。30分後、アルカリ化セルロース混合物を濾過し、プレスして、水酸化ナトリウム液およびアルカリ化セルロースを得た。水酸化ナトリウム液は、後続の処理操作の中和ステップで再利用してもよい。
【0118】
第2(後続)の処理実験では、(3.8%のリグニン含有量、4.52%の有機酸含有量を有する)0.4kgのセルロースを中和反応器に供給し、撹拌器を開始し、第1の処理実験のアルカリ化ステップから回収した水酸化ナトリウム液を使用して、pHをpH7.1に調節し、反応器の温度を80℃に維持し、反応を30分間続けた。この反応に続いて、セルロース混合物を濾過し、プレスした。
【0119】
第2(後続の)処理実験のアルカリ化ステップは、第1ラウンドに記載したものと同じステップを含む。重要なことに、濾過し、アルカリ化セルロースをプレスした後に回収した水酸化ナトリウム液は、次の処理操作の中和ステップで再利用することができる。第1ラウンドから回収した水酸化ナトリウムを利用する第2ラウンドの処理では、消費した総水酸化ナトリウムは13.3gであり、処理したセルロースのリグニン含有量は1.63%であった。
【0120】
表2は、これらの試料データの概要である。
【表2】
【0121】
実施例3
リグニン生成
抽出液を、有機酸前処理プロセスから得、前処理での有機酸の組成物は、ギ酸26%、酢酸含有量59%、および水15%で構成されている。前処理温度は103℃であり、前処理抽出持続時間は240分であった。分離後、抽出液を固体画分から分離し、抽出液を蒸発によって濃縮し、濃縮抽出液を得た。濃縮抽出液の乾燥物質含有量は60.1%であり、リグニン含有量は29.5%であった(濃縮抽出液の他の構成成分は表3に列挙する)。
【0122】
1.40kgの濃縮抽出液を等重量の未使用の水(1.40kg)と組み合わせ、乳化器(SHW300Rラボ乳化器、Shanghai Shenghaiwei Electric Instruments Co.,Ltd)を約30分間7500rpmで操作して使用して、リグニン懸濁液を生成した。リグニン懸濁液を遠心分離器に導入し、5分間遠心分離し、第1の遠心分離物(2.05kgの液体)および固体リグニン層を得た。第1の遠心分離物を、遠心分離器から取り出す。
【0123】
1.94kgの洗浄水を噴霧デバイスに供給して、遠心分離器内のリグニン層を洗浄した。手順における洗浄水としては、水、ならびにギ酸、酢酸、および水の混合物が挙げられる。洗浄水を遠心分離器に供給するとき、5.92%の有機酸含有量を含む0.54kgの高有機酸含有洗浄水の最初の供給、有機酸含有量が0.8%である1.00kgの低有機酸含有洗浄水で構成される第2の洗浄、0.40kgの未使用の水で構成される最終洗浄を使用することが、リグニン層を十分に洗浄して純粋なリグニンを得ることを見出した。
【0124】
最初の遠心分離および最初の遠心分離物の排出に続いて、遠心分離器を5分間操作し続け、この間に高有機酸水で第1の洗浄を実施し、第2の遠心分離物(0.54kg)を得た。遠心分離器をさらに5分間操作し、この間に低有機酸水で第2の洗浄を実施し、第3の遠心分離物1.40kgを得た。未使用の水を用いる後続の第3の洗浄後、0.75kgを含むリグニン層を得た。第1の遠心分離物および第2の遠心分離物を回収し、後続のヘミセルロースジュース生成ユニット操作に組み込んでもよい。乾燥リグニンを遠心分離器から排出し、リグニンの純度を98.1%と決定した(各操作段階におけるリグニンの構成成分を表3に示す)。
【表3】
【0125】
上の第3の遠心分離物(1.40kg)を、濃縮抽出液の希釈剤として使用するためにリサイクルして、上述のSHW 300Rラボ乳化器を使用してリグニン懸濁液を生成した。得られたリグニン懸濁液を遠心分離器に導入し、遠心分離器を上述のように操作して、約0.75kgのリグニン層を得た。
【0126】
この操作では、第1の洗浄は、有機酸含有量が約10%であった0.54kgの高有機酸含有洗浄水で構成されていた。第2の洗浄は、有機酸含有量が約2%であった1.00kgの低有機酸含有洗浄水で構成され、最終洗浄は0.40kgの未使用の水で構成されていた。すべての遠心分離操作および条件は、上述のように実行した。以前のように、第1および第2の遠心分離物を、後続のヘミセルロースジュース生成ユニット操作で使用するためにリサイクルしてもよい。操作の終了時に、リグニンを遠心分離器から排出する。この場合、リグニンの純度は97.2%であった(各操作段階におけるリグニンの構成成分を表4に示す)。
【表4】
【0127】
再び、上述の操作からの第3の遠心分離物(1.40kg)をリサイクルして濃縮抽出液を希釈し、SHW 300Rラボ乳化器で処理することによってリグニン懸濁液を生成した。得られたリグニン懸濁液を遠心分離器に導入し、遠心分離器を上述のように操作して、リグニン層を得た。
【0128】
この操作では、第1の洗浄は、有機酸含有量が5.92であった0.54kgの高有機酸含有洗浄水で構成されていた。第2の洗浄は、有機酸含有量が0.8%であった1.00kgの低有機酸含有洗浄水で構成され、最終洗浄は0.79kgの未使用の水で構成されていた。すべての遠心分離操作および条件は、上述のように実行した。以前のように、第1および第2の遠心分離物を、後続のヘミセルロースジュース生成ユニット操作で使用するためにリサイクルしてもよい。操作の終了時に、リグニンを遠心分離器から排出する。この場合、リグニンの純度は98.8%であった(各操作段階におけるリグニンの構成成分を表5に示す)。
【表5】
【0129】
実施例4
ヘミセルロースジュース処理
間接蒸気を使用して蒸発器を加熱してヘミセルロース混合物から有機酸および水を蒸発させる、蒸発器(直径100mm、高さ2m)を使用することによって、溶解ヘミセルロース、有機酸水、および他の可溶性成分を含む最初のヘミセルロース混合物(乾燥物質含有量16.4%、ギ酸6.0%、酢酸14.4%、および水63.2%)から、濃縮ヘミセルロース混合物を得た。
【0130】
6.2kg/時間の間接蒸気流量、および90℃の蒸発温度での蒸発器中へのヘミセルロース混合物の流量は、10.0kg/時間であり、これにより、濃縮ヘミセルロース混合物の2.96kg/時間の流量を生成した。これらの条件下で生成された濃縮ヘミセルロース混合物の乾燥物質含有量は、55.6%であった。濃縮ヘミセルロース混合物の酸含有量は、16.5%であった。
【0131】
生じた濃縮ヘミセルロース混合物をストリッピングカラム(直径100mm、高さ2.5m)の頂部に供給し、直接蒸気をストリッピングカラムの底部に供給することが、濃縮ヘミセルロースに存在する有機酸を直接蒸気に部分的にストリッピングするように機能した。これにより、ストリッピングされたヘミセルロース混合物が生成される。1.51kg/時間の直接蒸気流量および105℃の直接蒸気温度にストリッピング仕様を調節し、ストリッピングされたヘミセルロース混合物の2.46kg/時間の流量を生成した。ストリッピングされたヘミセルロース混合物の乾燥物質含有量は、60.4%であった。ストリッピングされたヘミセルロース混合物の酸含有量は、1.64%であった。
【0132】
上述の実験データを用いた蒸気-液体平衡の回帰に基づいて、Aspen Plusソフトウェア(Aspen Technology,Inc.(Massachusetts,USA))を用いて蒸発およびストリッピングプロセスをモデル化することにより、いくつかの異なる操作パラメータを探求することを可能にした。
【0133】
上述のモデルパラメータを使用して、溶解ヘミセルロース、有機酸、および水、および他の成分を含むヘミセルロース混合物の濃度について、2、3、および4重効用蒸発およびストリッピングシステムの条件および性能をシミュレートした。
【0134】
2、3、および4重効用蒸発およびストリッピングシステムのフローシートは、Aspen Plusソフトウェアで使用するために構築されており、それぞれ
図6~8に示す。これらのモデルでは、溶解ヘミセルロース、有機酸、水、および他の成分を含むヘミセルロース混合物(21)を、蒸発器IIおよび蒸発器Iによって蒸発させ、濃縮ヘミセルロースジュース(22)を得る。濃縮ヘミセルロースジュース(22)をストリッピングカラム(102)の頂部に供給し、未使用の蒸気(26)をストリッピングカラム(102)の底部に供給し、ストリッピングされたヘミセルロースジュース(24)を得る。ストリッピングカラムの頂部から排出される蒸気および追加の未使用の蒸気(27)を蒸発器Iの熱資源として使用し、ストリッピングカラムの頂部から排出される蒸気および蒸発器I内で凝縮された追加の未使用の蒸気(27)を、凝縮酸II(25)として回収する。蒸発器Iからの蒸気は、蒸発器IIの熱源として使用される一方で、蒸発器IIで凝縮される蒸発器Iからの蒸気は、凝縮酸I(23)として機能する。ストリッピングカラムから最初に回収された蒸気を蒸発器Iに使用し、蒸発器IIの熱源として機能する蒸発器Iから回収された蒸気を使用することを含む同じシナリオは、3重効用蒸発器システムについては
図7に、4重効用蒸発器システムについては
図8に示されるように、追加の多重効用蒸発器ユニットを含むシステムにも当てはまり、3重効用蒸発器システムについての
図7では未使用の蒸気は必要なく、4重効用蒸発器システムに必要とされる蒸気を超える、ストリッピングカラムからの蒸気(28)がストリッピングカラムの頂部から排出され、他のシステムに使用される。
【0135】
以下の表は、本明細書に記載の各多重効用蒸発器システムの多くの観察および予測パラメータを提示する。
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【0136】
実施例5
高含水量有機酸溶液からの有機酸の回収
高含水有機酸溶液(ギ酸27.6%、酢酸51.5%、および水20.9%)を、4.0kg/時間の流量で、12.6MJ/時間の熱負荷、13.0の還流比、1気圧で操作する蒸留カラム(直径90mm、高さ3m、パッキンカラム)に供給した。これらの条件下で、カラムの頂部から放出される蒸気の凝縮物を0.41kg/時間の流量で生成し、これはギ酸0.27%、酢酸4.07%、および水95.66%で構成される。カラム底部から排出される蒸留有機酸溶液を3.59kg/時間の流量で得、これはギ酸30.7%、酢酸56.9%、および水12.4%で構成される。
【0137】
上述のパラメータを使用してAspen Plusソフトウェアを用いてこのプロセスをモデル化することにより、高含水有機酸溶液から水を分離するための2、3、4、および5つのカラムを含む蒸留システムのシミュレーションを可能にする。モデリングソフトウェアによって生成されたフローシートを、2カラム、3カラム、4カラム、および5カラム蒸留システムについてそれぞれ
図10~13に示す。
【0138】
有機酸前処理プロセスに由来する高含水有機酸溶液の様々な注入流の有機酸組成を、表10に列挙する。
【表10】
【0139】
2カラム蒸留システムの基本的な蒸留プロセスを、
図10に示す。4つの注入流のうちの3つは、第1の蒸留カラム(201)に供給される供給される。これらの流れは、ヘミセルロースジュース蒸発ステップ(2)、ヘミセルロースジュースストリッピングステップ(3)、およびセルロースパルプ処理の脱溶媒ステップからの高含水有機酸溶液(4)に由来する。第1のカラム(201)の頂部から排出された蒸気の凝縮液(7)は、他のユニット操作のために回収してもよい。濃縮混合物(301)は、第1のカラム(201)の底部から排出され、カラム2(202)に供給される。リグニン生成の抽出液蒸発ステップに由来する残留する注入流(1)も、カラム2(202)に供給される。第2のカラム(202)の頂部から排出された蒸気の凝縮液(5)は、他のユニット操作のために回収してもよい。蒸留有機酸溶液(6)は、第2のカラム(202)の底部から排出される。2カラム蒸留システムの様々な排出流の有機酸含有量を、表11に提示する。
【表11】
【0140】
3カラム蒸留システム内のプロセスフローに相当する同様のプロセスを、
図11に描写する。この場合、操作は、上述の2カラムシステムの注入および排出流の点で同様である。しかしながら、この場合、最初の2つのカラムの蒸気凝縮物はプールされて単一の排出流(
図11の7)を形成し、カラム2(302)から排出された蒸留有機酸溶液は第3のカラム(203)に供給され、そこで蒸気凝縮物(5)が回収され、さらに蒸留有機酸溶液(6)は第3のカラム(203)の底部から排出される。2カラム蒸留システムの様々な排出流の有機酸含有量を、表12に提示する。
【表12】
【0141】
同様に、4カラム蒸留システム内のプロセスフローに相当するプロセスを、
図12に描写する。2カラム蒸留システムの様々な排出流の有機酸含有量を、表13に提示する。
【表13】
【0142】
5カラム蒸留システム内のプロセスフローに相当するプロセスを、
図13に描写する。5カラム蒸留システムの様々な排出流の有機酸含有量を、表14に提示する。
【表14】
【0143】
シミュレーションフローシートによれば、蒸気消費は、システムに存在する蒸留カラムの数によって有意に低減することができる。この観察を裏付けるデータを、表15に提示する。
【表15】
【0144】
3カラムシステムと比較して、2カラムシステムの熱要件において示される低減は27.6%である一方で、4カラムシステムの熱要件における低減は、3カラムシステムのものよりもさらに20%低く、4カラムシステムでは、2カラムシステムの必要とされる熱要件の42%まで全体的に低減する。
【0145】
興味深いことに、カラムの追加により、最小限のエネルギー改善が提供される。表16を参照されたい。
【表16】
【0146】
実施例6
有機肥料
最初の実験では、トウモロコシ藁を、ギ酸および酢酸を使用する有機酸処理のためのリグノセルロース植物材料源として使用して、ヘミセルロースおよびリグニンを抽出した。ヘミセルロースとリグニンとの混合物を分離して、セルロースパルプ画分および抽出液を得た。セルロースパルプを処理して部分的にリグニンを排除し、水で洗浄してセルロースを得た。抽出液を濃縮してリグニンを分離し、リグニンの分離後、残渣を濃縮し、ストリッピングしてヘミセルロースジュースを得た。セルロース酵素および酵母をそれぞれ添加することによって、セルロースとヘミセルロースジュースとの混合物を加水分解および発酵させて、エタノールを生成した。蒸留によって発酵物からエタノールを分離し、蒸留排液は蒸留物の残留物質で構成されていた。
【0147】
蒸留排液(乾燥物質含有量9.23%を含む2113g)をデカンタに供給して、傾瀉後に、固体画分61.4g(乾燥物質含有量38.0%を含む)および薄い蒸留排液2051.6g(乾燥物質含有量8.37%を含む)を生成した。薄い蒸留排液を(110℃で操作される蒸発器で)蒸発させて、濃縮蒸留排液451.6g(乾燥物質含有量38.0%を含む)を得た。固体画分および濃縮蒸留排液を組み合わせて混合物(513.0g)を得た。120℃の温度で操作される乾燥機で混合物を乾燥させて、58.2%の有機肥料の乾燥物質含有量および6.1のpHを有する、335.1gの最終有機肥料を得た。有機肥料は、総乾燥物質から計算して、58.2%の乾燥物質含有量、47.8%の有機物質含有量、および5.86%の総栄養素含有量(栄養素=窒素+五酸化リン+酸化カリウムの式に基づいて計算される)を有する。
【0148】
蒸留排液から有機肥料を生成するための第2の試験では、有機酸処理プロセスへの最初の注入としてトウモロコシ藁を使用して、蒸留排液(乾燥物質9.23%を含む2113g)をデカンタに供給した。傾瀉した後、固体画分67.1g(乾燥物質含有量35.5%)および薄い蒸留排液2046g(乾燥物質含有量8.37%)を得た。薄い蒸留排液を(105℃で操作される蒸発器で)蒸発させて、乾燥物質含有量37.5%を有する456.7gの濃縮蒸留排液を生成した。固体画分および濃縮蒸留排液を組み合わせて、523.8gの混合物を生成した。130℃で操作される乾燥機で混合物を乾燥させて、pHの6.0、65.5%の乾燥物質含有量を有する297.7gの最終有機肥料を生成した。有機肥料は、総乾燥物質から計算して5.81%の総栄養素含有量を有する有機物質を47.3%含有する。
【0149】
蒸留排液から有機肥料を生成するための第3の実験では、有機酸処理プロセスへの最初の注入として小麦藁を使用して、蒸留排液(乾燥物質9.38%を含む1940g)をデカンタに供給した。傾瀉した後、固体画分59.5g(乾燥物質含有量37.0%)および薄い蒸留排液1880.5g(乾燥物質含有量8.51%)を得た。薄い蒸留排液を(115℃で操作される蒸発器で)蒸発させて、乾燥物質含有量36.5%を有する438.3gの濃縮蒸留排液を生成した。固体画分および濃縮蒸留排液を組み合わせて、497.8gの混合物を生成した。140℃で操作される乾燥機で混合物を乾燥させて、pHの6.2、74.5%の乾燥物質含有量を有する244.3gの最終有機肥料を生成した。有機肥料は、総乾燥物質から計算して6.12%の総栄養素含有量を有する有機物質を48.5%含有する。