IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-電気光学素子用複合基板 図1
  • 特許-電気光学素子用複合基板 図2
  • 特許-電気光学素子用複合基板 図3
  • 特許-電気光学素子用複合基板 図4
  • 特許-電気光学素子用複合基板 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電気光学素子用複合基板
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/03 20060101AFI20231212BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231212BHJP
【FI】
G02F1/03 505
B32B7/023
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022201971
(22)【出願日】2022-12-19
(62)【分割の表示】P 2021561925の分割
【原出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2023040025
(43)【公開日】2023-03-22
【審査請求日】2022-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020088349
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】服部 良祐
(72)【発明者】
【氏名】多井 知義
(72)【発明者】
【氏名】浅井 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 順悟
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/224908(WO,A1)
【文献】特開2017-139720(JP,A)
【文献】国際公開第2019/071978(WO,A1)
【文献】特許第6646187(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0013765(US,A1)
【文献】特開2012-161831(JP,A)
【文献】特開2019-217530(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077212(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/031916(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
G02B 6/12 - 6/14
B32B 7/00 - 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有する電気光学結晶基板と、第1の高誘電率層と、第2の高誘電率層と、支持基板と、をこの順に有し、
該第1の高誘電率層と該第2の高誘電率層とが直接接合されており、該第1の高誘電率層と該第2の高誘電率層との接合界面にアモルファス層が形成されており、
該電気光学結晶基板に該第1の高誘電率層が直接形成され、該支持基板に該第2の高誘電率層が直接形成されており、
該支持基板が酸化シリコンを主成分として含むとともにさらにアルゴンを含み、該支持基板におけるアルゴン濃度が1.0原子%以下であり、
該第1の高誘電率層および該第2の高誘電率層の誘電率は、該支持基板の誘電率よりも大きく、
該第1の高誘電率層および該第2の高誘電率層が、それぞれ、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウムおよびシリコンから選択される1つで構成されており、
該第1の高誘電率層および該第2の高誘電率層におけるアルゴン濃度が、それぞれ1.0原子%~10原子%であり、
該電気光学結晶基板の厚みが0.1μm~0.8μmである
電気光学素子用複合基板。
【請求項2】
前記電気光学結晶基板が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リン酸カリウム、ニオブ酸カリウム・リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸・ニオブ酸カリウム、および、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムとの固溶体から選択される1つで構成されている、請求項1に記載の電気光学素子用複合基板。
【請求項3】
前記第1の高誘電率層の厚みが0.01μm~0.08μmであり、前記第2の高誘電率層の厚みが0.001μm~0.04μmである、請求項1または2に記載の電気光学素子用複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気光学素子用複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気光学素子が知られている。電気光学素子は、電気光学効果を利用して、電気信号を光信号に変換することができる。電気光学素子は、例えば光電波融合通信に採用されており、高速かつ大容量な通信、低消費電力化(低駆動電圧化)、低フットプリントを実現するために、その開発が進められている。このため、電気光学素子は、例えば、複合基板を用いた構成の採用が始まっている。電気光学素子用複合基板としては、電気光学効果を有する電気光学結晶基板と支持基板とが薄膜層(例えば、高誘電率酸化膜)を介した直接接合により一体化されている複合基板が知られている。しかし、このような複合基板は、以下のような問題がある。電気光学結晶基板と薄膜層とを直接接合した場合、光の伝搬損失が発生する場合がある。薄膜層と支持基板を直接接合した場合、高速駆動が困難となる場合があり、状況によっては接合自体がうまくいかず複合基板が得られない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4174377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主たる目的は、はがれが顕著に抑制され、ならびに、電気光学素子とした場合に光の伝搬損失が小さく、高速および低電圧駆動が可能であり、さらに、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現し得る複合基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態による電気光学素子用複合基板は、電気光学効果を有する電気光学結晶基板と、第1の高誘電率層と、第2の高誘電率層と、支持基板と、をこの順に有する。該第1の高誘電率層と該第2の高誘電率層とは直接接合されており、該第1の高誘電率層と該第2の高誘電率層との接合界面にはアモルファス層が形成されている。該電気光学結晶基板には該第1の高誘電率層が直接形成され、該支持基板には該第2の高誘電率層が直接形成されている。該支持基板は酸化シリコンを主成分として含むとともにさらにアルゴンを含み、該支持基板におけるアルゴン濃度は1.0原子%以下であり、該第1の高誘電率層および該第2の高誘電率層の誘電率は、該支持基板の誘電率よりも大きい。
1つの実施形態においては、上記第1の高誘電率層および上記第2の高誘電率層におけるアルゴン濃度は、それぞれ1.0原子%~10原子%である。
1つの実施形態においては、上記電気光学結晶基板の厚みは0.1μm~0.8μmである。
1つの実施形態においては、上記電気光学結晶基板は、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、チタン酸リン酸カリウム、ニオブ酸カリウム・リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸・ニオブ酸カリウム、および、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムとの固溶体から選択される1つで構成されている。
1つの実施形態においては、上記第1の高誘電率層の厚みは0.01μm~0.08μmであり、上記第2の高誘電率層の厚みは0.001μm~0.04μmである。
1つの実施形態においては、上記第1の高誘電率層および上記第2の高誘電率層は、それぞれ、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ハフニウムおよびシリコンから選択される1つで構成されている。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、電気光学素子用複合基板において2つの高誘電率層を設け、当該2つの高誘電率層を直接接合して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することにより、はがれが顕著に抑制され、ならびに、電気光学素子とした場合に光の伝搬損失が小さく、かつ、高速および低電圧駆動が可能な複合基板を実現することができる。1つの実施形態においては、支持基板または当該支持基板に直接形成された低誘電率層を、酸化シリコンを主成分として構成し、かつ、支持基板または低誘電率層におけるアルゴン濃度を1.0原子%以下とすることにより、上記のような優れた効果を維持しつつ、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。1つの実施形態においては、第1の高誘電率層の厚みを所定値以上とし、かつ、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みを所定値以下とすることにより、上記のような優れた効果を維持しつつ、電気光学結晶基板を非常に薄くすることができ、結果として、きわめて薄型の電気光学素子を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の1つの実施形態による電気光学素子用複合基板の概略斜視図である。
図2図1の電気光学素子用複合基板の概略断面図である。
図3】比較例1、3、5、7、9および11の電気光学素子用複合基板の概略断面図である。
図4】比較例2、4、6、8、10および12の電気光学素子用複合基板の概略断面図である。
図5】実施例7の電気光学素子用複合基板における第1の高誘電率層と第2の高誘電率層との接合界面の状態を示す透過型電子顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.電気光学素子用複合基板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による電気光学素子用複合基板(以下、単に複合基板と称する場合がある)の概略斜視図であり;図2は、図1の複合基板の概略断面図である。本発明の実施形態による複合基板は、代表的には図1に示すように、いわゆるウェハの形態で製造され得る。複合基板のサイズは、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、ウェハの直径は4インチ(約10cm)であり得る。通常、一枚の複合基板から複数の電気光学素子が製造され得る。なお、複合基板は、ウェハの形態に限定されず、様々な形態で製造され提供されてもよい。
【0010】
図示例の複合基板100は、電気光学効果を有する電気光学結晶基板10と、第1の高誘電率層21と、第2の高誘電率層22と、支持基板30と、をこの順に有する。本発明の実施形態においては、第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22とが直接接合されている。2つの高誘電率層の直接接合により、電気光学結晶基板10と支持基板30とが一体化されている。例えば、第1の高誘電率層21は電気光学結晶基板10表面にスパッタリングにより形成され;第2の高誘電率層22は支持基板30表面にスパッタリングにより形成され;それぞれの積層体の第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22とが直接接合されている。なお、代表的には図示例のように、直接接合の接合界面にはアモルファス層40が形成されている。図示例においては、支持基板30の第2の高誘電率層22側には、低誘電率層50が形成されている。低誘電率層50は、目的に応じて設けられる任意の層であり、省略されていてもよい。複合基板100は、図示しない任意の層をさらに有していてもよい。そのような層の種類・機能、数、組み合わせ、配置位置等は、目的に応じて適切に設定され得る。特に、支持基板30または低誘電率層50(存在する場合)よりも下方(電気光学結晶基板と反対側)の構成は、目的に応じて適切に設定され得る。例えば、支持基板30または低誘電率層50(存在する場合)の下方に金属膜を設けてもよい。このような金属膜を設けることにより、複合基板から電気光学素子を作製した場合に、電気光学素子の出力信号における意図しないリップル(ノイズ、変動)を抑制し、正常な動作を維持することができる。なお、本明細書において「高誘電率層」および「低誘電率層」は、第1の高誘電率層21および第2の高誘電率層22の誘電率が、相対的に、低誘電率層50の誘電率より大きいことを意味する。低誘電率層50が設けられていない場合には、第1の高誘電率層21および第2の高誘電率層22の誘電率が、相対的に、支持基板30の誘電率より大きいことを意味する。すなわち、第1の高誘電率層21、第2の高誘電率層22および低誘電率層50は、それぞれの層の誘電率の具体的な値により規定されるものではない。また、これらの層の誘電率と電気光学結晶基板の誘電率との大小関係は問われない。
【0011】
電気光学結晶基板10と支持基板30とを直接接合により一体化することにより、複合基板の剥離を良好に抑制することができ、結果として、このような剥離に起因する電気光学結晶基板の損傷(例えば、クラック)を良好に抑制することができる。さらに、接着剤を用いることなく直接接合することにより、接着剤の変質および変形に起因する悪影響を排除することができるので、高い信頼性を実現することができる。加えて、接着剤による誘電損失もない。
【0012】
本発明の実施形態によれば、第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22とを直接接合することにより、以下の利点が得られ得る。電気光学素子を薄型化(代表的には、電気光学結晶基板の厚みを1μm以下)する場合、支持基板との複合化により補強することが好ましい。さらに、このような複合基板(電気光学素子)において速度整合条件を満足させて高速および低電圧駆動を実現するために、高誘電率層を設けることが有効であることがわかった。これまでは電気光学結晶基板と支持基板(低誘電率基板)だけで開発が進められてきたが、上記のように電気光学結晶基板の厚みが1μm以下になってくると、マイクロ波実効誘電率(屈折率)が小さくなりすぎる場合があり、電気光学結晶基板と支持基板との間に高誘電率層を設けることにより、マイクロ波実効誘電率(屈折率)の過剰な低下を抑制することができ、速度整合条件を満足させることができる。ここで、高誘電率層が単一層である場合、直接接合により電気光学結晶基板と支持基板とを一体化するためには、電気光学結晶基板と高誘電率層との直接接合、あるいは、高誘電率層と支持基板との直接接合が必要となる。本発明者らは、単一の高誘電率層を介した直接接合において形成され得るアモルファス層の位置が電気光学素子(例えば、光変調器)の特性に大きな影響を与えることを新たに見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、電気光学結晶基板と高誘電率層とを直接接合すると、接合界面に形成されたアモルファス層が電気光学結晶基板に進展する。その結果、電気光学結晶基板において光の散乱および/または吸収が起こり、加えて、電気光学結晶基板の電気光学定数が不十分なものとなる。高誘電率層と支持基板とを直接接合すると、接合界面に形成されたアモルファス層を介して支持基板を構成する材料(実質的には、原子)が高誘電率層に拡散・移行し得る。その結果、高誘電率層の誘電率の低下および/または導電率の上昇が起こり、電気シールド効果が生じる場合がある。その結果、速度整合条件を満足させることができず、高速および低電圧駆動が困難となる場合がある。さらに、高誘電率層と支持基板とを直接接合しようと試みても接合自体がうまくいかず、複合基板が得られない場合がある。このような単一の高誘電率層を介した直接接合に対し、本発明の実施形態によれば、2つの高誘電率層を直接接合して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することにより、2つの高誘電率層の間にアモルファス層を形成することができ、アモルファス層を電気光学結晶基板および支持基板のいずれからも隔離することができる。その結果、複合基板の効果および高誘電率層の効果をいずれも良好に維持しつつ、アモルファス層の悪影響を防止することができる。結果として、はがれが顕著に抑制され、ならびに、電気光学素子とした場合に光の伝搬損失が小さく、かつ、高速および低電圧駆動が可能な複合基板を実現することができる。
【0013】
本明細書において「直接接合」とは、接着剤を介在させることなく複合基板の構成要素(図1および図2の例では第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22)が接合していることを意味する。直接接合の形態は、互いに接合される層または基板の構成に応じて適切に設定され得る。例えば、直接接合は、以下の手順で実現され得る。高真空チャンバー内(例えば、1×10-6Pa程度)において、接合される構成要素(層または基板)のそれぞれの接合面に中性化ビームを照射する。これより、各接合面が活性化される。次いで、真空雰囲気で、活性化された接合面同士を接触させ、常温で接合する。この接合時の荷重は、例えば100N~20000Nであり得る。1つの実施形態においては、中性化ビームによる表面活性化を行う際には、チャンバーに不活性ガスを導入し、チャンバー内に配置した電極へ直流電源から高電圧を印加する。このような構成であれば、電極(正極)とチャンバー(負極)との間に生じる電界により電子が運動して、不活性ガスによる原子とイオンのビームが生成される。グリッドに達したビームのうち、イオンビームはグリッドで中和されるので、中性原子のビームが高速原子ビーム源から出射される。ビームを構成する原子種は、好ましくは不活性ガス元素(例えば、アルゴン(Ar)、窒素(N))である。ビーム照射による活性化時の電圧は例えば0.5kV~2.0kVであり、電流は例えば50mA~200mAである。
【0014】
1つの実施形態においては、支持基板は、代表的には酸化シリコンを主成分として含む。さらに、支持基板におけるアルゴン濃度は、代表的には1.0原子%以下であり、好ましくは0.8原子%以下である。支持基板におけるアルゴン濃度は小さいほど好ましく、その下限は例えば0.1原子%であり得る。支持基板をこのような構成とすることにより、以下のような効果が得られ得る。本発明の実施形態によれば、上記のとおり、電気光学結晶基板を例えば1μm程度まで薄型化しても、接合部分の剥がれを顕著に抑制することができる。一方、近年、電気光学結晶基板のさらなる薄型化が要望されている。これに関連して、本発明者らは、電気光学結晶基板を1.0μm未満(例えば0.6μm)まで薄型化すると、過酷な高温環境下(例えば、長期の加熱信頼試験後)において電気光学結晶基板がはがれる場合があることを新たに発見した。本発明者らは、このようなはがれに関して鋭意検討した結果、高誘電率層の膜質を向上させ、かつ、高誘電率層の厚みを薄くすることにより、過酷な高温環境下における電気光学結晶基板のはがれを顕著に抑制できることを見出した。例えば、高誘電率層のアルゴン濃度を代表的には10原子%以下に制御し、かつ、高誘電率層の厚みを代表的には0.2μm以下に制御することにより、過酷な高温環境下においても電気光学結晶基板のはがれを顕著に抑制できることを見出した。さらに、本発明者らは、このような優れた膜質を有しかつ薄い高誘電率層を形成するための要件を鋭意検討した結果、高誘電率層が形成される基板または層の状態を制御すればよいこと、さらに、第2の高誘電率層が形成される支持基板を、酸化シリコンを主成分として構成することにより、優れた膜質を有しかつ薄い第2の高誘電率層を形成できることを見出した。すなわち、支持基板が上記のような構成であれば、過酷な高温環境下においてもはがれが顕著に抑制された、非常に薄い(例えば、厚みが1μm未満の)電気光学結晶基板を有する複合基板を実現することができる。その結果、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。このような効果は、電気光学結晶基板をさらに薄型化して初めて認識された課題を解決するものであり、予期せぬ優れた効果である。上記のような過酷な高温環境下における電気光学結晶基板のはがれを抑制すれば、本発明の実施形態による他の優れた効果は過酷な高温環境下においても維持され得る。具体的には、本発明の実施形態によれば、過酷な高温環境下においても、光の伝搬損失を小さく維持することができ、かつ、高速および低電圧駆動を維持することができる。なお、支持基板におけるアルゴン濃度は、例えば、ゾル―ゲル法を用いて形成することで支持基板を高純度化することにより、形成された支持基板に軟X線を照射することにより、あるいは、これらを組み合わせることにより、上記所望の範囲に制御することができる。また、本明細書においては、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層をまとめて「高誘電率層」と称する場合がある。第1の高誘電率層と第2の高誘電率層とを区別する必要がある場合には、「第1」および「第2」を明記する。
【0015】
1つの実施形態においては、低誘電率層を設ける場合に、低誘電率層が酸化シリコンを主成分として含み、かつ、低誘電率層におけるアルゴン濃度が1.0原子%以下となるよう構成してもよい。低誘電率層をこのような構成とすることにより、支持基板のアルゴン濃度を制御することによる効果と同様の効果が得られ得る。さらに、このような構成であれば、支持基板の構成の選択肢を拡げることができる。例えば、支持基板を、酸化シリコン以外の材料で構成することができる。なお、低誘電率層におけるアルゴン濃度は、低誘電率層形成時(代表的には、スパッタリング時)のアルゴン分圧を調整することにより制御され得る。
【0016】
高誘電率層の厚みとしては、それぞれ任意の適切な厚みが採用され得る。高誘電率層の厚みはそれぞれ、例えば0.001μm~1.0μmであってもよく、また例えば0.001μm~0.1μmであってもよく、また例えば0.01μm~0.1μmであってもよい。高誘電率層の厚みがこのような範囲であれば、低誘電率層や支持基板によるマイクロ波実効誘電率(屈折率)の過剰な低下を抑制でき、同時に、マイクロ波実効誘電率の増加を小さくすることができるという利点がある。さらに、高誘電率層の厚みがこのような範囲であれば(特に、厚みが0.1μm以下であれば)、電気光学結晶基板を非常に薄く(例えば、1μm未満と)した場合であっても、過酷な高温環境下における電気光学結晶基板のはがれを顕著に抑制することができる。その結果、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みは、例えば0.005μm~0.2μmであってもよく、また例えば0.008μm~0.15μmであってもよく、また例えば0.01μm~0.1μmであってもよく、また例えば0.03μm~0.08μmであってもよい。第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みをこのような範囲とすることにより、高誘電率層のそれぞれの厚みを制御することによる効果がさらに顕著なものとなり得る。
【0017】
1つの実施形態においては、第1の高誘電率層の厚みは、代表的には0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、より好ましくは0.03μm以上である。第1の高誘電率層の厚みは、例えば0.08μm以下であってもよく、また例えば0.07μm以下であってもよい。さらに、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みは、代表的には0.10μm以下であり、好ましくは0.02μm~0.10μmであり、より好ましくは0.02μm~0.08μmであり、さらに好ましくは0.03μm~0.07μmである。このような構成であれば、2つの高誘電率層を直接接合して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することによる優れた効果(代表的には、はがれの顕著な抑制、ならびに、電気光学素子とした場合の光の伝搬損失の抑制、かつ、高速および低電圧駆動の実現)を維持しつつ、電気光学結晶基板を非常に薄くすることができる。言い換えれば、このような構成であれば、電気光学結晶基板を例えば1μm未満、また例えば0.8μm以下、また例えば0.7μm以下、また例えば0.6μm以下まで薄くしても、上記の優れた効果を維持することができる。第1の高誘電率層の厚みが小さすぎると、直接接合時(より詳細には、中性化ビーム照射時)にアルゴン原子が電気光学結晶基板に拡散する、および/または、電気光学結晶基板の結晶性が劣化する場合がある。その結果、良好な駆動電圧を実現できなくなる、および/または、光の伝搬損失が大きくなる場合がある。合計厚みが大きすぎると、速度整合条件を満足することが困難となり、変調帯域が低下する場合がある。第2の高誘電率層の厚みとしては、第1の高誘電率層の厚みが上記所望の範囲を満足し、かつ、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みが上記所望の範囲を満足する限りにおいて、任意の適切な厚みを採用することができる。第2の高誘電率層の厚みは、好ましくは0.001μm~0.04μmであり、より好ましくは0.005μm~0.035μmであり、さらに好ましくは0.01μm~0.03μmである。第2の高誘電率層の厚みがこのような範囲であれば、第2の高誘電率層の機能を十分に確保することができる。
【0018】
以下、複合基板の構成要素(基板または層)を具体的に説明する。
【0019】
B.電気光学結晶基板
電気光学結晶基板10は、電気光学素子において電気光学効果を有する層(機能層)となり得る。例えば、電気光学結晶基板10の一部または全部は、電気光学素子において光を伝える光導波路となり得る。電気光学結晶基板10は、外部に露出する上面と、複合基板内に位置する下面と、を有する。電気光学結晶基板10は、電気光学効果を有する材料の結晶で構成されている。具体的には、電気光学結晶基板10は、電界が印加されると光学定数(例えば、屈折率)が変化し得る。1つの実施形態においては、電気光学結晶基板10のc軸は、電気光学結晶基板10に平行であり得る。すなわち、電気光学結晶基板10は、Xカットの基板であってもよくYカットの基板であってもよい。別の実施形態においては、電気光学結晶基板10のc軸は、電気光学結晶基板10に垂直であり得る。すなわち、電気光学結晶基板10は、Zカットの基板であってもよい。電気光学結晶基板10の厚みは、目的に応じて任意の適切な厚みに設定され得る。電気光学結晶基板10の厚みは、例えば0.1μm~10μmであり得る。後述するように、複合基板は支持基板により補強されているので、電気光学結晶基板の厚みを薄くすることができる。電気光学結晶基板の厚みは、好ましくは0.2μm以上であり、より好ましくは0.3μm以上であり、さらに好ましくは0.45μm以上である。電気光学結晶基板の厚みの下限がこのような範囲であれば、電気光学素子において光の伝搬損失を小さくすることができる。一方、電気光学結晶基板の厚みは、好ましくは5.0μm以下であり、より好ましくは2.8μm以下であり、さらに好ましくは1.0μm以下であり、さらにより好ましくは1.0μm未満であり、特に好ましくは0.8μm以下であり、とりわけ好ましくは0.6μm以下である。電気光学結晶基板の厚みの上限がこのような範囲であれば、電気光学素子の高速および低電圧駆動性能を向上させることができる。また、電気光学結晶基板の厚みがこのような範囲であれば、高誘電率層を用いる効果が顕著なものとなる。すなわち、光の伝搬損失の低下を抑制しつつ、より高速およびより低電圧での駆動を実現することが可能となる。さらに、本発明の実施形態によれば、このような非常に薄い電気光学結晶基板を用いても過酷な高温環境下における不具合が抑制されるので、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。
【0020】
電気光学結晶基板10を構成する材料としては、本発明の実施形態による効果が得られる限りにおいて任意の適切な材料が用いられ得る。そのような材料としては、代表的には、誘電体(例えば、セラミック)が挙げられる。具体例としては、ニオブ酸リチウム(LiNbO:LN)、タンタル酸リチウム(LiTaO:LT)、チタン酸リン酸カリウム(KTiOPO:KTP)、ニオブ酸カリウム・リチウム(KLi(1-x)NbO:KLM)、ニオブ酸カリウム(KNbO:KN)、タンタル酸・ニオブ酸カリウム(KNbTa(1-x):KTN)、ニオブ酸リチウムとタンタル酸リチウムとの固溶体が挙げられる。
【0021】
C.支持基板
支持基板30は、複合基板内に位置する上面と、外部に露出する下面と、を有する。支持基板30は、複合基板の強度を高めるために設けられており、これにより、電気光学結晶基板の厚みを薄くすることができる。支持基板30としては、任意の適切な構成が採用され得る。支持基板を構成する材料の具体例としては、シリコン(Si)、ガラス、サイアロン(Si-Al)、ムライト(3Al・2SiO,2Al・3SiO)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化シリコン(Si)、酸化マグネシウム(MgO)、サファイア、石英、水晶、窒化ガリウム(GaN)、炭化シリコン(SiC)、酸化ガリウム(Ga)が挙げられる。1つの実施形態においては、支持基板30は、上記のとおり酸化シリコンを主成分として含む。すなわち、支持基板は、例えばガラスで構成され得る。なお、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、電気光学結晶基板10を構成する材料の線膨張係数に近いほど好ましい。このような構成であれば、複合基板の熱変形(代表的には、反り)を抑制することができる。好ましくは、支持基板30を構成する材料の線膨張係数は、電気光学結晶基板10を構成する材料の線膨張係数に対して50%~150%の範囲内である。この観点から、支持基板30の構成材料は電気光学結晶基板10と同じであってもよく、特にLNまたはLTを使用する場合には、その焦電性を抑えた基板を使用することができる。
【0022】
支持基板の厚みとしては、複合基板の補強効果を有する限りにおいて任意の適切な厚みが採用され得る。支持基板の厚みは、例えば100μm~1000μmである。支持基板の厚みが薄すぎると、補強効果および取り扱い性が不十分となる場合がある。支持基板の厚みが厚すぎると、以下のような問題が発生する場合がある:(1)基板厚みが大きくなり従来プロセスで流動が困難となる、(2)得られる電気光学素子が厚くなりパッケージサイズが従来よりも大きくなってしまう、(3)支持基板の放熱性が不十分となる、(4)低周波数域でリップルが発生しやすくなる。
【0023】
上記のとおり、支持基板30には低誘電率層50が形成されていてもよい。低誘電率層を設けることにより、支持基板に関わらず低誘電率のみで速度整合条件を満足させることができる。また、第2の高誘電率層22と支持基板30の双方への原子の移動がなく界面の誘電率の差(結果として、屈折率の差)を大きくすることができる。その結果、高誘電率層の厚みを厚くすることなく、設計通りで製造時のばらつきや環境による経時変化の小さい電気光学素子を提供することができる。さらに、低誘電率層を設けることにより、支持基板の材料の選択肢を拡げることができる。低誘電率層としては、このような効果を有する限りにおいて任意の適切な構成が採用され得る。低誘電率層50を構成する材料の具体例としては、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)が挙げられる。なお、上記のとおり、低誘電率層が酸化シリコンを主成分として含み、かつ、低誘電率層におけるアルゴン濃度が1.0原子%以下となるよう構成してもよい。
【0024】
低誘電率層の厚みとしては、任意の適切な厚みが採用され得る。低誘電率層の厚みは、例えば0.6μm~20μmであってもよく、また例えば5μm~15μmであってもよく、また例えば10μmを超えて20μm以下であってもよく、また例えば12μm~20μmであってもよく、また例えば12μm~15μmであってもよい。低誘電率層の厚みがこのような範囲であれば、支持基板に関わらず、あるいは、低誘電率層を主にして速度整合条件を満足させることができるという利点がある。低誘電率層が分厚い場合(例えば、厚みが10μmを超える場合)、低誘電率層のアルゴン濃度を制御することによる効果が顕著なものとなり得る。すなわち、低誘電率層のアルゴン濃度を上記所望の範囲とすることにより、低誘電率層が分厚くなっても低誘電率層中のアルゴンの総量が過度に大きくなることを防止することができる。その結果、低誘電率層が分厚くなっても高誘電率層のアルゴン濃度を所定値以下に制御することができ、過酷な高温環境下においても電気光学結晶基板のはがれを顕著に抑制することができる。
【0025】
D.高誘電率層
第1の高誘電率層21および第2の高誘電率層22は、それぞれが同一の構成(実質的には、構成材料、厚み)であってもよく、互いが異なる構成であってもよい。好ましくは、第1の高誘電率層21および第2の高誘電率層22は、それぞれが同一材料で構成され得る。互いに異なる構成材料の第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22とを直接接合した場合、接合界面に形成されたアモルファス層を介して第1の高誘電率層および第2の高誘電率層を構成する材料(実質的には、原子)が互いに拡散・移行し得る。その結果、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のアモルファス層近傍部分は、それ以外の部分と異なる組成となり得る。その結果、予期せぬ導電率上昇および/または過度な応力の発生を引き起こす可能性がある。第1の高誘電率層および第2の高誘電率層を同一材料で構成することにより、このような不具合を防止することができる。
【0026】
高誘電率層としては、マイクロ波実効誘電率(屈折率)の過剰な低下を抑制して高速および低電圧駆動を実現するという効果を有する限りにおいて、任意の適切な構成が採用され得る。高誘電率層を構成する材料の具体例としては、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、シリコン(例えば、アモルファスシリコン)が挙げられる。
【0027】
第1の高誘電率層の厚み、第2の高誘電率層の厚み、ならびに、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の合計厚みについては、上記A項で説明したとおりである。
【0028】
高誘電率層におけるアルゴン濃度はそれぞれ、例えば1.0原子%~10原子%であってもよく、また例えば1.0原子%~8.0原子%であってもよく、また例えば1.0原子%~6.0原子%であってもよく、また例えば1.0原子%~5.0原子%であってもよく、また例えば2.0原子%~10原子%であってもよく、また例えば4.0原子%~10原子%であってもよく、また例えば5.0原子%~10原子%であってもよい。高誘電率層のアルゴン濃度がこのような範囲であれば、電気光学結晶基板を非常に薄く(例えば、1μm未満と)した場合であっても、過酷な高温環境下における電気光学結晶基板のはがれを顕著に抑制することができる。その結果、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。上記のとおり、高誘電率層のこのようなアルゴン濃度は、支持基板または低誘電率層(存在する場合)が酸化シリコンを主成分として含むように構成し、かつ、支持基板または低誘電率層におけるアルゴン濃度を1.0原子%以下とすることにより実現され得る。
【0029】
E.アモルファス層
アモルファス層40は、第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22との直接接合により接合界面に形成された層である。アモルファス層40は名称のとおりアモルファス構造を有しており、第1の高誘電率層21を構成する元素と第2の高誘電率層22を構成する元素とで構成されている。アモルファス層は、代表的には、直接接合に用いられる中性原子ビームを構成する原子種(代表的には、アルゴン、窒素)をさらに含み得る。アモルファス層におけるこのような原子種の含有量は、例えば1.5原子%~2.5原子%であり得る。
【0030】
アモルファス層の厚みは、例えば0.1nm~100nm、また例えば2nm~15nmであり得る。
【0031】
アモルファス層40は、第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22との直接接合においてこれらの層の構成材料の原子が拡散することにより形成される。したがって、アモルファス層の上面(第1の高誘電率層21との界面)および下面(第2の高誘電率層22との界面)は、必ずしも平坦ではない。アモルファス層の上面および下面の算術平均粗さは、例えば0.1nm~10nmであり得る。さらに、このような形成過程に起因して、アモルファス層の上部および下部は、それぞれが異なる組成を有する場合がある。このようなアモルファス層が電気光学基板または支持基板と高誘電率層との界面に形成される場合には、上記のとおり、アモルファス層自体が電気光学結晶基板に悪影響を与え、あるいは、アモルファス層を介して支持基板の構成材料が拡散することにより高誘電率層に悪影響を与える場合がある。本発明の実施形態によれば、第1の高誘電率層21と第2の高誘電率層22とを直接接合することにより、アモルファス層を電気光学結晶基板および支持基板のいずれからも隔離して形成することができるので、このような不具合を防止することができる。
【実施例
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【0033】
<実施例1>
電気光学結晶基板として直径4インチのXカットニオブ酸リチウム基板、支持基板として直径4インチのシリコン基板(厚み500μm)を用意した。まず、電気光学結晶基板上に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.03μmの第1の高誘電率層を形成した。次いで、支持基板上に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み10.0μmの低誘電率層を形成した。得られた低誘電率層をわずかにCMP研磨して、低誘電率層表面の算術平均粗さRaを小さくした。次いで、低誘電率層表面を洗浄し、当該洗浄表面に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.03μmの第2の高誘電率層を形成した。ここで、原子間力顕微鏡を用いて、第2の高誘電率層と低誘電率層との界面の□10μm算術平均粗さ、および、低誘電率層と支持基板との界面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。次に、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面を洗浄した後、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層とを直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。電気光学結晶基板および支持基板を真空チャンバーに投入し、10-6Pa台の真空中で、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間放置して電気光学結晶基板および支持基板を放冷したのち、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧して電気光学結晶基板と支持基板とを接合した。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.5μmになるまで研磨加工し、図2の電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0034】
上記で得られた複合基板を用いて、光導波路(リッジ型導波路)および電極を形成して光変調器を作製した。電極間のギャップを3μm、電極長Lを1cmとした場合、半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、光コンポーネントアナライザにて光変調器の変調帯域を測定した結果、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
【0035】
<実施例2>
支持基板として石英ガラス基板(厚み500μm)を用いたこと、および、支持基板に低誘電率層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様にして、図2に類似した電気光学素子用複合基板(ただし、第2の高誘電率層と支持基板との間に低誘電率層なし)を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
さらに、得られた複合基板から光変調器を作製した。半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
【0036】
<比較例1>
電気光学結晶基板に第1の高誘電率層を形成しなかったこと(すなわち、電気光学結晶基板10と第2の高誘電率層22とを直接接合したこと)以外は実施例1と同様にして、図3の電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
さらに、得られた複合基板から光変調器を作製した。半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.2Vcmであった。光導波路の伝搬損失は1.0dBであった。さらに、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
半波長電圧が増加してしまった理由としては、接合界面に形成されたアモルファス層40が電気光学結晶基板10内に進展しまったため、この領域においてニオブ酸リチウム結晶の電気光学効果が低下したことが原因と考えられる。この領域に分布する光電界は電圧印加による屈折率変化が小さくなり、光導波路を伝搬する光の位相シフト量が低下し、その結果、光変調器の半波長電圧が増加したものと推察され得る。
また、光伝搬損失が増加した理由としては、接合界面に形成されたアモルファス層40による吸収および/または散乱が原因と考えられる。アモルファス層は、ニオブ酸リチウムと酸化タンタルの混成層となっており、このアモルファス層内の組成のバラツキおよび/またはアモルファス層形成時の内部応力により光が吸収され、アモルファス層と電気光学結晶基板との界面において光が散乱したと推察され得る。
【0037】
<比較例2>
支持基板に第2の高誘電率層を形成しなかったこと(すなわち、第1の高誘電率層21と低誘電率層50とを直接接合したこと)以外は実施例1と同様にして、図4の電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれの不良が発生した。はがれは、複合基板の全面積に対して約30%の割合で発生していた。なお、上記と同様にして別の複合基板(ウェハ)の作製を試みたところ、全く接合できない場合もあった。
さらに、上記のはがれが約30%の複合基板から光変調器を作製した。半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、変調帯域は40GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
変調帯域が低下した理由としては、第1の高誘電率層21の誘電率が低下したことが原因と考えられる。直接接合時に第1の高誘電率層21と低誘電率層50との界面にアモルファス層40が形成されることにより、第1の高誘電率層のある部分は酸化シリコンの拡散によって誘電率が低下してしまい、電気信号の実効誘電率および実効屈折率の低下を抑制できず、速度整合条件からのずれによって変調帯域が低下したと推察され得る。
【0038】
<実施例3~16および比較例3~12>
表1に示す構成で電気光学素子用複合基板を作製し、接合界面のはがれ等の不良の有無を観察した。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1から明らかなように、本発明の実施例によれば、2つの高誘電率層(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層)を直接接合して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することにより、はがれが抑制された電気光学素子用複合基板を得ることができる。さらに、本発明の実施例の電気光学素子用複合基板は、光の伝搬損失が小さく、かつ、高速および低電圧駆動が可能な電気光学素子(例えば、光変調器)を実現できることがわかる。
【0041】
さらに、実施例7の電気光学素子用複合基板について、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層との接合界面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。TEM画像(倍率:200万倍)を図5に示す。図5から明らかなように、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層との接合界面にはアモルファス層が形成されていることを確認した。併せて、第1の高誘電率層とアモルファス層との界面近傍、アモルファス層、および、アモルファス層と第2の高誘電率層との界面近傍の組成をEDX(エネルギー分散型X線分析)により調べた。結果を表2に示す。表2から明らかなように、アモルファス層およびその近傍には、直接接合に用いられる中性原子ビームを構成するアルゴンが含まれていた。アモルファス層近傍の酸素は、成膜装置の治具の吸着水分からでたものや成膜後の酸化によって検出される。必要に応じて、光学特性、電気特性や接合強度の観点から意図的に酸素をドープしてもよい。
【0042】
【表2】
【0043】
<実施例17>
電気光学結晶基板として直径4インチのXカットニオブ酸リチウム基板、支持基板として直径4インチのガラス基板(厚み500μm)を用意した。支持基板(ガラス基板)はゾル―ゲル法により形成して高純度化した。ガラス基板のアルゴンイオン濃度を、エネルギー分散型X線分析を用いて測定したところ1原子%であった。これらを用いて複合基板を作製した。具体的には以下のとおりであった。まず、電気光学結晶基板およびガラス基板のそれぞれに酸化タンタルをスパッタリングして、それぞれ厚み0.03μmの第1の高誘電率層および第2の高誘電率層を形成した。形成された第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のアルゴン濃度をそれぞれエネルギー分散型X線分析にて測定した結果、1原子%であった。ここで、原子間力顕微鏡を用いて、第1の高誘電率層と電気光学結晶基板との界面の□10μm算術平均粗さ、および、第2の高誘電率層と支持基板との界面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。さらに、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。次に、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面を洗浄した後、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層とを直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。電気光学結晶基板および支持基板を真空チャンバーに投入し、10-6Pa台の真空中で、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間放置して電気光学結晶基板および支持基板を放冷したのち、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧して電気光学結晶基板と支持基板とを接合した。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.6μmになるまで研磨加工し、電気光学結晶基板/第1の高誘電率層/アモルファス層/第2の高誘電率層/支持基板の構成を有する(すなわち、図2の構成から低誘電率層を除いた構成の)電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0044】
上記で得られた複合基板を用いて、光導波路(リッジ型導波路)および電極を形成して光変調器を作製した。電極間のギャップを3μm、電極長Lを1cmとした場合、半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、光コンポーネントアナライザにて光変調器の変調帯域を測定した結果、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
【0045】
さらに、上記光変調器を信頼性試験(80℃、500時間の高温保持試験)に供し、上記と同様の評価を行った。その結果、半波長電圧Vπ、光導波路の伝搬損失、変調帯域の測定値の変化はなく、外観検査において電気光学結晶基板のはがれも認められなかった。このように、本実施例の光変調器は、過酷な高温環境下に起きて非常に優れた信頼性を示した。これらの結果をまとめて表3に示す。
【0046】
<比較例17a>
支持基板としてアルゴン含有ガラス基板を用いた。このガラス基板のアルゴンイオン濃度をエネルギー分散型X線分析にて測定したところ、2原子%であった。この支持基板をもちいたこと以外は実施例17と同様にして電気光学素子用複合基板を得た。ここで、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のアルゴン濃度をエネルギー分散型X線分析にて測定した結果、11原子%であった。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から、実施例17と同様にして光変調器を作製した。得られた光変調器の半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであり、光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。また、光変調器の変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。さらに、光変調器を実施例17と同様の信頼性試験に供した。その結果、電気光学結晶基板のはがれが発生し、特性評価を行うことができなかった。これらの結果をまとめて表3に示す。なお、比較を容易にするために、表3に示される比較例および参考例の番号については、実施例の番号に対応させている。
【0047】
<実施例18~21、比較例17b~21b、参考例17a~21b>
表3に示す構成で電気光学素子用複合基板を作製し、接合界面のはがれ等の不良の有無を観察した。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。加えて、光変調器を実施例17と同様の信頼性試験に供した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3から明らかなように、本発明の実施例によれば、支持基板を、酸化シリコンを主成分として構成し、かつ、支持基板におけるアルゴン濃度を1.0原子%以下とすることにより、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。さらに、参考例から明らかなように、このような効果は、電気光学結晶基板を1μm未満まで薄くした場合に特有の効果であることがわかる。
【0050】
<実施例22>
電気光学結晶基板として直径4インチのXカットニオブ酸リチウム基板、支持基板として直径4インチのシリコン基板(厚み500μm)を用意した。まず、電気光学結晶基板上に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.03μmの第1の高誘電率層を形成した。次いで、支持基板上に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み12.0μmの低誘電率層を形成した。得られた低誘電率層をわずかにCMP研磨して、低誘電率層表面の算術平均粗さRaを小さくした。次いで、低誘電率層表面を洗浄し、当該洗浄表面に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.03μmの第2の高誘電率層を形成した。ここで、低誘電率層のアルゴンイオン濃度を、エネルギー分散型X線分析を用いて測定したところ1原子%であった。なお、低誘電率層におけるアルゴン濃度はスパッタリング中のアルゴン分圧を変更することで制御した。また、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のアルゴン濃度をそれぞれエネルギー分散型X線分析にて測定した結果、1原子%であった。さらに、原子間力顕微鏡を用いて、第1の高誘電率層と電気光学結晶基板との界面の□10μm算術平均粗さ、および、第2の高誘電率層と支持基板との界面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。さらに、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。次に、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面を洗浄した後、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層とを直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。電気光学結晶基板および支持基板を真空チャンバーに投入し、10-6Pa台の真空中で、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間放置して電気光学結晶基板および支持基板を放冷したのち、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧して電気光学結晶基板と支持基板とを接合した。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.6μmになるまで研磨加工し、図2に示す構成を有する電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0051】
上記で得られた複合基板を用いて、光導波路(リッジ型導波路)および電極を形成して光変調器を作製した。電極間のギャップを3μm、電極長Lを1cmとした場合、半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、光コンポーネントアナライザにて光変調器の変調帯域を測定した結果、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
【0052】
さらに、上記光変調器を信頼性試験(80℃、500時間の高温保持試験)に供し、上記と同様の評価を行った。その結果、半波長電圧Vπ、光導波路の伝搬損失、変調帯域の測定値の変化はなく、外観検査において電気光学結晶基板のはがれも認められなかった。このように、本実施例の光変調器は、過酷な高温環境下に起きて非常に優れた信頼性を示した。これらの結果をまとめて表4に示す。
【0053】
<比較例22>
低誘電率層としてアルゴン濃度が2原子%の酸化シリコン層(厚み12.0μm)を形成したこと以外は実施例22と同様にして電気光学素子用複合基板を得た。低誘電率層におけるアルゴン濃度はスパッタリング中のアルゴン分圧を変更することで制御した。ここで、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のアルゴン濃度をエネルギー分散型X線分析にて測定した結果、11原子%であった。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から、実施例22と同様にして光変調器を作製した。得られた光変調器の半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであり、光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。また、光変調器の変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。さらに、光変調器を実施例22と同様の信頼性試験に供した。その結果、電気光学結晶基板のはがれが発生し、特性評価を行うことができなかった。これらの結果をまとめて表4に示す。なお、比較を容易にするために、表4に示される比較例および参考例の番号については、実施例の番号に対応させている。
【0054】
<実施例23~26、比較例23~26、参考例22~26>
表4に示す構成で電気光学素子用複合基板を作製し、接合界面のはがれ等の不良の有無を観察した。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。加えて、光変調器を実施例22と同様の信頼性試験に供した。結果を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4から明らかなように、本発明の実施例によれば、低誘電率層を、酸化シリコンを主成分として構成し、かつ、低誘電率層におけるアルゴン濃度を1.0原子%以下とすることにより、過酷な高温環境下においても優れた信頼性を維持し得る非常に薄型の電気光学素子を実現することができる。さらに、参考例から明らかなように、このような効果は、電気光学結晶基板を1μm未満まで薄くした場合に特有の効果であることがわかる。
【0057】
<実施例27>
電気光学結晶基板として直径4インチのXカットニオブ酸リチウム基板、支持基板として直径4インチのシリコン基板(厚み500μm)を用意した。まず、電気光学結晶基板上に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.01μmの第1の高誘電率層を形成した。次いで、支持基板上に酸化シリコンをスパッタリングして、厚み12.0μmの低誘電率層を形成した。得られた低誘電率層をわずかにCMP研磨して、低誘電率層表面の算術平均粗さRaを小さくした。次いで、低誘電率層表面を洗浄し、当該洗浄表面に酸化タンタルをスパッタリングして、厚み0.03μmの第2の高誘電率層を形成した。ここで、原子間力顕微鏡を用いて、第2の高誘電率層と低誘電率層との界面の□10μm算術平均粗さ、および、低誘電率層と支持基板との界面の算術平均粗さを測定したところ、いずれも□10μmで0.2nmであった。次に、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面を洗浄した後、第1の高誘電率層と第2の高誘電率層とを直接接合することにより電気光学結晶基板と支持基板とを一体化した。直接接合は、以下のようにして行った。電気光学結晶基板および支持基板を真空チャンバーに投入し、10-6Pa台の真空中で、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の表面)に高速Ar中性原子ビーム(加速電圧1kV、Ar流量60sccm)を70sec間照射した。照射後、10分間放置して電気光学結晶基板および支持基板を放冷したのち、電気光学結晶基板および支持基板の接合面(第1の高誘電率層および第2の高誘電率層のビーム照射面)を接触させ、4.90kNで2分間加圧して電気光学結晶基板と支持基板とを接合した。接合後、電気光学結晶基板の厚みが0.6μmになるまで研磨加工し、図2の構成を有する電気光学素子用複合基板を得た。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。
【0058】
上記で得られた複合基板を用いて、光導波路(リッジ型導波路)および電極を形成して光変調器を作製した。電極間のギャップを3μm、電極長Lを1cmとした場合、半波長電圧Vπと電極長Lの積Vπ・Lは1.0Vcmであった。光導波路の伝搬損失は0.5dBであった。さらに、光コンポーネントアナライザにて光変調器の変調帯域を測定した結果、変調帯域は50GHzであり、この周波数以下において変調特性にリップルは検出されなかった。
【0059】
<実施例28>
第1の高誘電率層の厚みを0.05μmとしたこと以外は実施例27と同様にして電気光学素子用複合基板を作製した。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表5に示す。
【0060】
<実施例29>
第1の高誘電率層の厚みを0.07μmとしたこと以外は実施例27と同様にして電気光学素子用複合基板を作製した。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表5に示す。
【0061】
<比較例27~29および参考例27~28>
表5に示す構成で電気光学素子用複合基板を作製した。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表5に示す。
【0062】
<実施例30>
支持基板としてガラス基板(厚み500μm)を用いたこと、ならびに、低誘電率層を形成せず、第2の高誘電率層を支持基板に直接形成したこと以外は実施例27と同様にして、電気光学素子用複合基板を作製した。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表5に示す。
【0063】
<実施例31~32、比較例30~32および参考例29~30>
表5に示す構成で電気光学素子用複合基板を作製した。得られた電気光学素子用複合基板においては、接合界面にはがれ等の不良は観察されなかった。さらに、得られた複合基板から光変調器を作製し、実施例1と同様の評価に供した。結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5から明らかなように、本発明の実施例によれば、電気光学結晶基板を1μm未満(例えば、0.6μm)まで薄くしても、2つの高誘電率層を直接接合して電気光学結晶基板と支持基板とを一体化することによる優れた効果(代表的には、はがれの顕著な抑制、ならびに、電気光学素子とした場合の光の伝搬損失の抑制、かつ、高速および低電圧駆動の実現)を維持することができる。
さらに、実施例27~32、比較例27~32および参考例27~30に対応する構成について、第1の高誘電率層および第2の高誘電率層の形成材料をそれぞれAl、Nbまたはアモルファスシリコンに変更しても、同様の結果が得られることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の実施形態による複合基板は、電気光学素子(例えば、光変調器)に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0067】
10 電気光学結晶基板
21 第1の高誘電率層
22 第2の高誘電率層
30 支持基板
40 アモルファス層
50 低誘電率層
100 電気光学素子用複合基板
図1
図2
図3
図4
図5