(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】産業機械システム、通信機器、および産業機械
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20231212BHJP
G05B 9/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G05B9/02 F
(21)【出願番号】P 2022509204
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014334
(87)【国際公開番号】W WO2021192307
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白根 一登
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 輔
【審査官】堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149667(WO,A1)
【文献】特開平07-136896(JP,A)
【文献】特開2016-130908(JP,A)
【文献】特開2013-129054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G05B 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業機械と、
前記産業機械に接続される通信機器と、
を備え、
前記産業機械は、状態と条件に応じて、第1稼働状態で稼働する第1モードと、前記第1稼働状態とは異なる第2稼働状態で稼働する第2モードとの間で変更する変更機能を有し、
前記通信機器は、
前記産業機械の前記変更機能の現在のモードを表す画像と、前記モードを変更させるための所定の操作を表す画像とを表示する表示部と、
ユーザによる操作を受け付ける操作部と、を有し、
前記産業機械または前記通信機器は、前記産業機械の状態を診断し、前記産業機械の状態に応じて、前記変更機能における前記第1モードと前記第2モードとの間の自動的な遷移を制御し、前記診断により、前記産業機械の状態として、故障または異常に係わる予兆を検知した場合には、前記第1モードから前記第2モードへ自動的に遷移させるように制御し、
前記通信機器は、前記操作部に対し第1操作を受けた場合、前記第1モードから、前記第2モード
についてのテストのための第3モードに変更させるように制御
し、
前記操作部に対し第2操作を受けた場合、前記第3モードから、前記第1モードに変更させるように制御し、
前記第2モードの前記第2稼働状態は、前記第1稼働状態よりも低負荷となるように前記産業機械のパラメータ値を制御する稼働状態であり、
前記第3モードは、前記第2稼働状態の制御用のパラメータ値と同じパラメータ値で前記産業機械を稼働させるモードである、
産業機械システム。
【請求項2】
請求項
1記載の産業機械システムにおいて、
前記通信機器は、
前記産業機械が前記第1モードの時には、前記表示部の表示画面に、現在のモードが前記第1モードであることを表す画像と、前記第1モードから前記第3モードに変更させる操作を表す画像とを表示し、
前記産業機械が前記第2モードの時には、前記表示部の表示画面に、現在のモードが前記第2モードであることを表す画像を表示し、
前記産業機械が前記第3モードの時には、前記表示部の表示画面に、現在のモードが前記第3モードであることを表す画像と、前記第3モードから前記第1モードに変更させる操作を表す画像とを表示する、
産業機械システム。
【請求項3】
請求項
1記載の産業機械システムにおいて、
前記産業機械は、回転運動を行う回転部、および前記回転運動の状態を検出する検出部を有し、
前記第1モードのパラメータ値として前記回転運動の回転速度の第1値を有し、前記第2モードのパラメータ値として前記回転運動の回転速度の第2値を有し、前記第2値は前記第1値よりも小さい、
産業機械システム。
【請求項4】
請求項1記載の産業機械システムにおいて、
前記産業機械は、制御器と、前記制御器によって制御される原動機と、前記原動機の回転運動に基づいて動力を伝達する動力伝達機構と、前記動力伝達機構からの動力に基づいて加工を行う加工機構と、を有する、
産業機械システム。
【請求項5】
請求項1記載の産業機械システムにおいて、
前記通信機器は、前記第3モードの時に、前記産業機械の稼働状態を計測および記憶し、前記表示部の表示画面に表示し、
前記通信機器は、前記表示部の表示画面に、前記変更機能の前記第2モードの時の前記第2稼働状態を規定するパラメータ値、または前記変更機能のモード間の遷移の条件を、前記ユーザによって確認および設定可能とする画面を表示する、
産業機械システム。
【請求項6】
産業機械と、前記産業機械に接続される通信機器と、を備える産業機械システムにおける前記通信機器であって、
前記産業機械は、状態と条件に応じて、第1稼働状態で稼働する第1モードと、前記第1稼働状態とは異なる第2稼働状態で稼働する第2モードとの間で変更する変更機能を有し、
前記通信機器は、
前記産業機械の前記変更機能の現在のモードを表す画像と、前記モードを遷移させるための所定の操作を表す画像とを表示する表示部と、
ユーザによる操作を受け付ける操作部と、を有し、
前記産業機械または前記通信機器は、前記産業機械の状態を診断し、前記産業機械の状態に応じて、前記変更機能における前記第1モードと前記第2モードとの間の自動的な遷移を制御し、前記診断により、前記産業機械の状態として、故障または異常に係わる予兆を検知した場合には、前記第1モードから前記第2モードへ自動的に遷移させるように制御し、
前記通信機器は、前記操作部に対し第1操作を受けた場合、前記第1モードから、前記第2モード
についてのテストのための第3モードに変更させるように制御
し、
前記操作部に対し第2操作を受けた場合、前記第3モードから、前記第1モードに変更させるように制御し、
前記第2モードの前記第2稼働状態は、前記第1稼働状態よりも低負荷となるように前記産業機械のパラメータ値を制御する稼働状態であり、
前記第3モードは、前記第2稼働状態の制御用のパラメータ値と同じパラメータ値で前記産業機械を稼働させるモードである、
通信機器。
【請求項7】
産業機械と、前記産業機械に接続される通信機器と、を備える産業機械システムにおける前記産業機械であって、
前記産業機械は、状態と条件に応じて、第1稼働状態で稼働する第1モードと、前記第1稼働状態とは異なる第2稼働状態で稼働する第2モードとの間で変更する変更機能を有し、
前記通信機器は、
前記産業機械の前記変更機能の現在のモードを表す画像と、前記モードを遷移させるための所定の操作を表す画像とを表示する表示部と、
ユーザによる操作を受け付ける操作部と、を有し、
前記産業機械または前記通信機器は、前記産業機械の状態を診断し、前記産業機械の状態に応じて、前記変更機能における前記第1モードと前記第2モードとの間の自動的な遷移を制御し、前記診断により、前記産業機械の状態として、故障または異常に係わる予兆を検知した場合には、前記第1モードから前記第2モードへ自動的に遷移させるように制御し、
前記通信機器は、前記操作部に対し第1操作を受けた場合、前記第1モードから、前記第2モード
についてのテストのための第3モードに変更させるように制御
し、
前記操作部に対し第2操作を受けた場合、前記第3モードから、前記第1モードに変更させるように制御し、
前記第2モードの前記第2稼働状態は、前記第1稼働状態よりも低負荷となるように前記産業機械のパラメータ値を制御する稼働状態であり、
前記第3モードは、前記第2稼働状態の制御用のパラメータ値と同じパラメータ値で前記産業機械を稼働させるモードである、
産業機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工機等の産業機械を含む産業機械システム等の技術に関し、産業機械の状態を診断や制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製造ライン等を構成する各種の産業機械について、センサ、通信、および情報処理等を用いて好適な制御を行うための技術が検討されている。対象となる産業機械は、例えばプレス機や空気圧縮機等の加工機が挙げられる。好適な制御とは、産業機械の稼働状態(言い換えると運転状態)に関する制御として、製造効率向上やコスト低減等の目標に応じた、動作有無や動作速度等の制御が挙げられる。
【0003】
上記に係わる先行技術例として、特開2001-318716号公報(特許文献1)が挙げられる。特許文献1には、プラント制御装置の試験装置として、プラントの運転状態を容易に所望の運転状態にすることができ、実機とシミュレーションモデルとを容易に切り替えることができる旨や、以下の旨が記載されている。この試験装置は、プラント制御装置およびプラントシミュレータの制御状態量や試験項目を格納し、試験項目を選択し、プラント制御装置およびプラントシミュレータの運転状態が、選択された試験項目の運転状態となるように、制御状態量を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術例の産業機械システムは、産業機械の状態、例えば正常または異常あるいは予兆等の状態を検知、診断、推定等し、その診断結果に応じて自動的に産業機械の稼働状態を変更するように制御する高度な機能を有する場合がある。この機能は、例えば、加工機を構成する機構や部品に関して、破損や破壊等の異常に至る前に、加工機の稼働情報や加工対象品の状態に変化が現れる異常、またはその異常の予兆もしくは兆候(以下、これらを総称して予兆等と呼ぶ)を検知する機能である。この機能は、その検知に基づいて、例えば機構の動作を停止または減速させる等の稼働制御を内部で自動的に行う機能である。これにより、産業機械の稼働時間の長期化を図ることができる。
【0006】
上記した稼働状態を変更するように制御する機能(以下、変更機能と呼ぶ場合がある)を持つ産業機械を用いて構成される製造ライン等については、システム・エンジニア(SE)等のユーザによって、設計、調整、および保守等の作業が適宜に行われる。例えば、新たな製造ラインの立ち上げの際には、予め、製造ラインを構成する各工程の各装置について動作等を確認し、また、工程間および装置間での連携が適切に働くか等を確認する必要がある。この確認は、ユーザが現場で実機を見て、試運転・テスト、データ計測等をしながら、いわゆる現物合わせとして行われることが多い。
【0007】
その際、上記変更機能を持つ産業機械については、単に予兆に対する稼働状態変更のみならず、正常動作に対応する稼働状態に対応させるために、通常の稼働状態と、上記変更機能を用いた装置の長寿命化のための稼働状態との両方について確認することが望ましい。しかし、上記変更機能による稼働状態を変更する制御は、機構の劣化等の状態を契機として行われる。ユーザが産業機械の導入の際等に試運転等のためにそのような状態を意図的に発生させることは、難しいか、非効率的である。すなわち、従来ではユーザが上記変更機能による稼働状態を確認しにくい場合が多い。
【0008】
また、上記変更機能の制御用のパラメータは、事前に想定されたパラメータであるため、産業機械の実際の稼働状態や運用時間が考慮されておらず、現在の稼働状態に適した稼働状態に変更することは考慮されていなかった。これは、例えば、産業機械の故障状態や故障の予兆となる稼働状況を仮想的に作り出したところで、長期稼働による故障状態等とは異なる稼働情報となるため、適切な変更機能とすることは難しいためである。
【0009】
本発明の目的は、産業機械が現在の稼働状態を維持すると停止に至る故障や故障の予兆が生じた場合に、現在の稼働状態を考慮し、当該産業機械が停止するまでの時間を長期化させる制御を行うことにより長寿命化等を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち代表的な実施の形態は、以下に示す構成を有する。一実施の形態の産業機械システムは、産業機械と、前記産業機械に接続される通信機器と、を備え、前記産業機械は、状態と条件に応じて、第1稼働状態で稼働する第1モードと、前記第1稼働状態とは異なる第2稼働状態で稼働する第2モードとの間で変更する変更機能を有し、前記通信機器は、前記産業機械の前記変更機能の現在のモードを表す画像と、前記モードを変更させるための所定の操作を表す画像とを表示する表示部と、ユーザによる操作を受け付ける操作部と、を有し、前記操作部に対し第1操作を受けた場合、前記第1モードから、前記第2モードに変更させるように制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のうち代表的な実施の形態によれば、産業機械が現在の稼働状態を維持すると停止に至る故障や故障の予兆が生じた場合に、現在の稼働状態を考慮し、当該産業機械が停止するまでの時間を長期化させる制御を行うことにより長寿命化等を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1の産業機械システムの構成を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態2の産業機械システムの構成を示す図である。
【
図4】実施の形態2で、GUI表示例の第1例を示す図である。
【
図5】実施の形態2で、GUI表示例の第2例を示す図である。
【
図6】実施の形態2で、製造ラインの構成例を示す図である。
【
図7】実施の形態2で、製造ラインの設計に関する説明図その1である。
【
図8】実施の形態2で、製造ラインの設計に関する説明図その2である。
【
図9】実施の形態2の変形例における、画面例を示す図である。
【
図10】本発明の実施の形態3の産業機械システムの構成を示す図である。
【
図11】実施の形態3で、圧縮空気システムの設計に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、全図面において同一部には原則として同一符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0014】
(実施の形態1)
図1を用いて、本発明の実施の形態1の産業機械システム、産業機械、および通信機器等について説明する。
【0015】
産業機械システムにおいて、前述のような高度な機能である変更機能を備える場合がある。この変更機能を持つ産業機械システムは、センサ等に基づいて、産業機械の正常または異常や、異常が生じる兆候または予兆(以下、予兆等と呼ぶ)の状態を検知または診断等を行う。このシステムは、予兆等を検知や検出をした場合には、産業機械の稼働状態(モードと記載する場合がある)を、所定の稼働状態から、延命のためのモード(延命モードと記載する場合がある)に自動的に切り替える。所定の稼働状態は、通常の稼働状態となるように産業機械を制御するモード(以下、単に、通常モードとも呼ぶ)を意味する。延命モードは、産業機械の稼働状態を、通常モードの稼働状態よりも低負荷となるような稼働状態にすることで、延命、すなわち稼働時間の長期化等を図るモードである。稼働状態(=モード)は、制御用のパラメータで規定される。延命モードでは、産業機械の動作に係わるパラメータ値が変更されることで、延命が図られる。例えば、延命モードでは、加工機構の動作速度(例えば回転速度)が減速される。
【0016】
また、延命モードの例は、モータと電源との間にCT(Current Transformer)を取り付けた構成で、モータ電流を検出し、検出されたモータ電流に基づいて、モータの負荷状態を特定し、通常モードよりもモータの負荷が小さくなるような制御を行ってモータを稼働させるモードが挙げられる。他に、ポンプの場合、所定の負荷率で稼働させる通常モードで稼働するところを、AからBへの負荷へ制御する際にCの時間までで変化させる場合に、制御する時間をCよりも長いDの時間を使って制御するモードが挙げられる。つまり、この場合の延命モードは、所定の負荷となるまでの時間を通常モードよりも時間をかけてゆっくり稼働させるということである。
【0017】
図1等に示す実施の形態1の産業機械システムは、産業機械1に変更機能4を備える前提で、ユーザが延命モード時の状態を試運転・テストとして容易に確認等できるようするUI等を含む仕組みを設けた。具体的には、産業機械1に接続される通信機器2において、変更機能4に係わる、表示部23および操作部24等のUI等を含む仕組みを設けた。通信機器2は、変更機能4に係わるモード処理部21および状態診断部22を有する。通信機器2は産業機械1に内蔵した場合であっても実施できる。状態診断部22は、産業機械1の状態を診断する。モード処理部21は、状態診断部22が診断処理を行った診断結果である産業機械1の状態と、産業機械1の現在のモード等が表示された表示部23等のUIに対するユーザの所定の操作とに応じて、産業機械1のモードを制御する。
【0018】
また、製造ライン100の設計等の際に、ユーザによる任意のタイミングでの操作に応じて、産業機械1のモードを、通常モードから延命モードに変更して、試運転・テストを行うことができる。ユーザは、延命モード時の動作等を容易に確認でき、データ計測等に基づいて、工程間または装置間の連携を含む製造ライン100の設計や調整を効率的に行うことができる。また、延命モードの稼働状態を事前に確認しておくことで、製造ライン100や産業機械1が何らかのトラブル、故障、故障の予兆が検出された場合に自動制御部21Aが自動で延命モードに移行させるように、設定することができる。この場合は、予期せぬ状態となった場合に、産業機械1を低負荷で稼働させることで、生産を継続させつつも、その後に生じるトラブル等を小さくすることに貢献できる。自動制御部21Aについての詳細な説明は後述する。
【0019】
[産業機械システム]
図1は、実施の形態1の産業機械システムの構成を示す。この産業機械システムは、製造ライン100を構成するための産業機械1と、産業機械1に対し所定の通信インタフェースで接続される通信機器2と、通信機器2に対し通信網を介して接続されるサーバ3とを有する。通信網は携帯電話網や閉域網であるとよい。製造ライン100は、ベルトコンベアやアーム等の搬送装置103によって所定の物品を搬送しながら、搬送元から搬送先へ向かって元の物品を複数の加工装置によって加工することによって目的の物品を作るものであり、言い換えると製造システムである。搬送装置103は代表してベルトコンベアやアームについて説明したが、元の物品は人間が配置してもよい。また、産業機械1は、加工機である。通信機器2は、言い換えると処理装置であり、産業機械1の変更機能4に係わる特有のUIと処理機能を備える。
【0020】
サーバ3は、省略可能な要素であるが、通信機器2と通信し、産業機械システムの管理や制御に係わる処理等を行う。
図1を用いて、表示部23と操作部24は通信機器2に備えるよう説明したが、通信機器2はサーバ3を介してスマートフォンやタブレット等の情報通信端末に表示部23と同等の表示機能や操作部24と同等の入力機能を持たせた形態としてもよい。この場合、情報通信端末がユーザに対して表示することや、ユーザが情報通信端末に入力をすることもできる。
図1では1つの産業機械1や通信機器2を示しているが、これに限らず、同様に、複数の産業機械1やそれらに対応付けられた複数の通信機器2が設けられても実施できる。その場合、サーバ3と複数のうち1つの通信機器2とが通信網を介して接続されてもよい。あるいは、複数の産業機械1に対し1つの通信機器2が接続され、1つの通信機器2がそれらの産業機械2を制御する構成としてもよい。サーバ3は、複数の通信機器2からデータを収集してデータベース(DB)等に記憶してもよい。なお、産業機械1(特に制御機器または制御手段)に通信機器2が一体的に実装される形態としてもよいし、通信機器2とサーバ3とが一体的に実装される形態としてもよい。
【0021】
製造ライン100は、少なくとも、所定の工程(例えば部材の加工をする工程)を構成する加工機である産業機械1を有する。所定の工程の産業機械1は、通信端末2による特有の制御(後述のモード制御)が行われる対象である。
図1の製造ライン100では、所定の工程の産業機械1に対し、前工程装置101と後工程装置102とを有し、これらは部材等を搬送する搬送装置103で接続されている。産業機械1は、前工程装置101から供給された部材を加工し、後工程装置102へ供給する。産業機械1は、変更機能4の実装を含む。産業機械1は、この変更機能4による稼働制御が自動的に行われる。すなわち、産業機械1は、状態に応じて、第1モードである通常モードと第2モードである延命モードとが自動的に切り替えられる。特に、この変更機能4は、通信機器2のモード処理部21によるモード制御機能によって通信で制御される機能であり、通信機器2からの信号に従って産業機械1の稼働状態(=モード)を変更できる機能である。特に、通信機器2の状態診断部22は、産業機械1の状態を診断する。自動制御部21Aは、産業機械1の状態に応じて、変更機能4に、稼働状態の制御のための信号を与える。変更機能4は、その信号に従って産業機械1の稼働状態を変更する。
【0022】
SE等のユーザは、産業機械1を含む製造ライン100の設計、調整、保守等の作業を適宜に行う。ユーザは、その作業の支援や効率化のために、通信機器2を利用する。ユーザは、通信機器2のUIを通じて、産業機械1に対するモード制御によって、変更機能4に係わる試運転・テストを行うことができる。これにより、ユーザは、変更機能4に係わる産業機械1の動作や、前後の工程への影響等を確認できる。
【0023】
産業機械1は、時点毎に状態を有し、また、変更機能4等により制御される稼働状態を有する。産業機械1には、センサ5が内蔵または設置されている。センサ5は、産業機械1の状態(例えば電流値や回転速度)を検出や計測する。産業機械1に対し、通信インタフェースを通じて、通信機器2が接続されている。通信機器2は、通信インタフェースを通じて、センサ5の値等を産業機械1から収集・取得する。
【0024】
通信機器2は、センサ5の値等に基づいて、状態診断部22によって、産業機械1の状態を診断・把握する。通信機器2は、産業機械1の状態、および特有のUIに対するユーザの操作に基づいて、モード処理部21によって、変更機能4に係わる特有のモードに関する制御を行う。通信機器2は、そのモード制御のための特有のUI(ユーザインタフェース)、MMI(マン・マシン・インタフェース)を備える。このUIは、表示部23の特有のグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を含む。
【0025】
サーバ3は、例えばインターネットまたはLAN等の通信網を介して、クライアントである各通信機器2と通信し、各通信機器2からデータを収集し、所定の処理として、管理のための処理や、分析処理等を行う。
【0026】
通信機器2は、特有のモード制御に係わる処理機能であるモード制御機能を持つ処理装置である。このモード制御機能は、変更機能4の延命モードに関して、自動的な遷移の制御と、UIを通じたユーザの操作に応じた遷移の制御との両方を適切に制御する機能である。通信機器2は、例えばマイコンやPC、電子回路基板等で実装できる。通信機器2は、ハードウェアおよびソフトウェアによって構成される各部として、モード処理部21、状態診断部22、表示部23、操作部24、および通信部25を有する。モード処理部21は、特有のモード制御を行う部分であり、詳しくは、自動制御部21Aと、テスト制御部21Bとを含む。
【0027】
表示部23は、表示装置等で構成され、ユーザに対し、表示装置の表示画面でGUIを提供する。このGUIは、現在のモードに係わる表示や、モードを変更するための所定の操作に関する表示を含む。表示部23や操作部24の実装詳細は限定しない。また、通信機器2の特有のUIやMMIは、表示によって状態や操作をユーザに伝えるGUIを含むが、これに限らず、スピーカの音声出力や、ランプの発光等を用いてもよい。例えば、2つのモードは、異なる音声や発光によって表現されてもよい。
【0028】
操作部24は、モード制御に係わる規定された所定の操作を含むユーザの入力操作を受け付ける部分である。操作部24は、例えば操作ボタンや操作パネル、キーボードやマウス等の入力機器で構成してもよいし、専用機器で実装してもよい。なお、産業機械1には、電源ボタンや、各操作のためのボタンやレバー等の操作部を別に備えている場合がある。操作部24は、そのような産業機械1の操作部とは別である。
【0029】
また、表示部23と操作部24は、別の部位に限らず、例えばタッチパネルのようにそれらが一体的な機器として実装されてもよい。タッチパネルの場合、タッチパネルの画面にGUIが表示され、そのGUIのボタン等の部品に対するタッチ入力操作が可能である。
【0030】
通信部25は、産業機械1やサーバ3との通信処理を行う部分であり、通信インタフェースについては特に限定しない。通信インタフェースは、有線でも無線でもよいし、近接通信でも遠隔通信でもよい。
【0031】
モード処理部21は、
図1中の吹き出しでも示すように、産業機械1および通信機器2に係わるモードとして、少なくとも2つのモードである、第1モードおよび第2モードを制御する。第1モードは、第1稼働状態で稼働させる通常モードである。第2モードは、第1稼働状態とは異なる第2稼働状態で稼働させる延命モードである。延命モードは、産業機械1のパラメータ値を変更することで延命、すなわち稼働時間の長期化等を図るモードである。第1モードでは、例えば動作速度等が通常用の設定値とされ、第2モードでは、通常よりも減速等された設定値とされる。第2モードである延命モードは、詳しくは、自動延命モードとテスト延命モードとを含む。自動延命モードは、変更機能4による自動的な稼働状態の遷移に対応したモードである。自動制御部21Aは、その自動的な遷移を制御する。テスト延命モードは、同じ変更機能4による稼働状態の遷移を、自動ではなく、ユーザの操作に応じたタイミングで、テスト・試運転等として実行するためのモードである。テスト制御部21Bは、そのテストモードを制御する。
【0032】
モード処理部21は、状態診断部22による産業機械1の状態の診断結果に応じて、第1モードと第2モードとの間の遷移を制御する。モード処理部21は、産業機械1の変更機能4に係わるパラメータ値を信号によって制御することで、産業機械1の稼働状態を変更させる。モード制御の際、自動制御部21Aは、診断結果に応じて、第1モードと第2モード(特に自動延命モード)との間の自動的な遷移を制御する。一方、テスト制御部21Bは、表示部23および操作部24のUIを通じたユーザの操作に応じて、第1モードと第2モード(特にテスト延命モード)との間の遷移を制御する。
【0033】
なお、実施の形態1では、変更機能4における自動的な遷移の制御に関して、通信機器2の自動制御部21Aを用いる構成としたが、自動制御部21Aを省略し、産業機械1(例えば制御機器または制御手段)がこの制御を行う構成も可能である。
【0034】
状態診断部22は、産業機械1から取得したセンサ5の値や情報に基づいて、産業機械1の状態を診断する処理を行う部分である。ここでの「状態」とは、正常または異常、あるいは予兆、劣化度合い、等の規定された状態であり、所定の条件に基づいて分類等判断される値である。説明上、このような「状態」と「稼働状態」(=モード)とを区別する。
【0035】
モード処理部21は、診断結果の状態が、例えば“正常”状態である場合には、産業機械1を第1モードにし、例えば“予兆”状態である場合には、産業機械1を第2モードに変更する。この第1モードと第2モードとの間の遷移は、製造ライン100の実運用時では、主に自動制御部21Aによって自動的な遷移として制御される。一方、設計時等では、テスト制御部21Bによって、ユーザの操作に応じた遷移として制御される。
【0036】
通信機器2の自動制御部21Aは、診断結果の状態が“予兆”等の状態になった時には、産業機械1の稼働状態を、自動的に第1モードから第2モード(特に自動延命モード)に変更する。また、自動制御部21Aは、診断結果の状態が“正常”等の状態になった時には、産業機械1の稼働状態を、自動的に第2モード(特に自動延命モード)から第1モードに戻すように変更する。
【0037】
また、通信機器2は、表示部23のGUIにおいて、現在のモード状態(第1モードまたは第2モード)を表示し、所定の操作によってモードを第2モード(特にテスト延命モード)に変更できる旨を表す画像を表示する。ユーザは、そのGUIを見て、変更機能4の試運転等のためにモードを変更する場合には、操作部24を用いて所定の操作を行う。第1モード時に、操作部24でこの操作(第1操作)を受けた場合、モード処理部21(特にテスト制御部21B)は、産業機械1の稼働状態を、第1モードから第2モード(特にテスト延命モード)に変更する。また、モード処理部21(特にテスト制御部21B)は、第2モード(特にテスト延命モード)時に、所定の操作(第2操作)を受けた場合、産業機械1の稼働状態を、第1モードに戻すように変更する。
【0038】
なお、この産業機械システムでは、診断処理部22による状態診断方法や、延命モード時のパラメータ制御内容等の詳細については限定するものではなく、各種の技術を適用できる。モード処理部21は、変更機能4に係わる上記2つのモードについて、自動的な遷移と、UIを介したユーザの操作に応じた任意時での遷移との両方を、適切に制御する。
【0039】
また、この産業機械システムでは、産業機械1のモード等の状態が表示された表示部21をユーザが確認し、ユーザが通常モードで稼働しない方が望ましいと判断した場合には、ユーザが操作部24に延命モードへ変更することを入力する。これにより、産業機械1の状態に適した稼働状態として延命モードに変更することができる。製造ライン100の設計等の時に限らず、製造ライン100の実稼働時にも、ユーザの判断および操作に応じて、産業機械1を延命モードに変更することができる。ひいては、産業機械1を通常モードで運用した場合よりも長期運用を実現できる。
【0040】
また、第2モードは、第1モードよりも低負荷となるようにパラメータ値を制御するモードに限らず、第1モードよりも高負荷となるようにパラメータ値を制御するモードとすることも可能である。例えば、第2モードは、通常よりも回転速度を高める運転としてもよい。例えば、産業機械1の正常の状態と条件に応じて、第2モードとして高負荷で稼働させる。この場合、生産効率を高めることができる。
【0041】
また、通信機器2は、表示部21の画面に、モード等の表示のみならず、センサ5での計測データや診断結果に基づいた産業機械1の状態、例えば電流値や回転速度のグラフ等を、併せて表示してもよい。
【0042】
上記のように、実施の形態1の産業機械システムによれば、産業機械1が現在の稼働状態を維持すると停止に至る故障や故障の予兆が生じた場合に、現在の稼働状態を考慮し、当該産業機械1が停止するまでの時間を長期化させる制御を行うことにより、長寿命化を図ることができる。ユーザは、通信機器2を用いることで、産業機械1の稼働状態に係わる変更機能4に関する試運転や確認等の作業を容易にでき、製造ライン100の設計等の効率化が実現できる。ユーザは、製造ライン100の設計・調整・保守等の際に、通信機器2が提供するUIを通じたガイドや容易な操作に応じて、任意のタイミングで、産業機械1の稼働状態を第2モード(特にテスト延命モード)にし、変更機能4に係わる動作等を確認できる。ユーザは、産業機械1の機構や部品に、意図的に劣化等を生じさせる必要無く、その確認ができる。ユーザは、第2モードでのテスト等の際には、例えば産業機械1のセンサ5等を用いてデータを計測・収集できる。ユーザは、そのデータに基づいて、産業機械1とその前後の工程の各装置との間で、能力の調整等を効率的に行うことができる。
【0043】
従来技術例の産業機械システムでは、上記変更機能4に関して、ユーザが任意のタイミングでテスト等を容易に行うことができる機能やUIを備えていなかった。従来技術例のシステムは、変更機能に係わる内部状態の把握を含む確認等を容易に可能とするような仕組み、例えばUIやMMIについては、十分に検討されていなかった。従来の産業機械に元々備えているUIやMMI、例えば操作パネルや計器類では、このような変更機能4のテストや確認等は不可能であるか、一部可能な場合でも複雑な操作が必要であった。また、従来の産業機械では、変更機能による稼働制御が自動的に行われた場合、ユーザが産業機械の外側から見ても、変更機能4による内部状態およびその変更等を把握しにくかった。それに対し、実施の形態1の産業機械システムによれば、ユーザが通信機器2のUIを通じて簡単な操作によって第2モード(特にテスト延命モード)にして変更機能4に係わる動作や状態を容易に確認等できる。
【0044】
なお、産業機械1の変更機能4は、主に産業機械4の制御機器等によって実現されるものとしてもよいし、主に通信機器2によって実現されるものとしてもよいし、それらの連携で実現されるものとしてもよい。
図1の例では、変更機能4は、通信機器2(モード処理部21および状態診断部22)によって制御されている。変形例では、診断処理部22は、産業機械1内に実装されていてもよいし、サーバ3に実装されていてもよい。
【0045】
なお、ユーザが操作する通信機器2は、産業機械1に対し、近接の位置に設置されてもよいし、遠隔の通信を介して離れた位置に設置されてもよい。近接位置に通信機器2が設置される場合、ユーザは、産業機械1が設置される現場で、試運転等が可能であり、現物合わせでの調整が容易である。遠隔位置に通信機器2が設置される場合、ユーザは、産業機械1の稼働状態を遠隔で把握および操作することができる。なお、ユーザとしては、産業機械1が設定された場所で作業を行う人と、遠隔で設計や指示等を行う人とがいてもよい。
【0046】
(実施の形態2)
図2~
図9を用いて、本発明の実施の形態2の産業機械システム等について説明する。実施の形態2等は、実施の形態1に基づいたより詳細な構成例である。以下では主に、実施の形態2等における実施の形態1とは異なる構成部分について説明する。実施の形態2では、産業機械1は、加工機の例としてプレス機(例えば機械式プレス機)である。プレス機は、金属等の素材に対し、強い圧力による加工を行い、金型に基づいた形状に変形させる機械である。
【0047】
[産業機械システム]
図2は、実施の形態2の産業機械システムの構成を示す。
図2等に示す実施の形態2の産業機械システムは、実施の形態1と同様に、産業機械1と通信機器2を備え、特に、
図2の構成では、産業機械1の一部として通信機器2を備える。通信機器2の構成は、概略的には実施の形態1と同様であり、特有のモード制御機能および特有のUIを有する。
図2では、特に、産業機械1において、通信機器2は、制御器202と所定の通信インタフェースで接続されており、制御器202の近接位置に設置されている。なお、通信機器2が制御器202に内蔵されてもよい。すなわち、制御器202の一部として通信機器2が一体的に実装される形態でもよい。なお、通信機器2の操作部24等のUIと、産業機械1に元々備えるUIとにおいて、一方、例えば通信機器2側に、それらのUIを統合して実装した形態としてもよい。なお、制御器は制御機器やコントローラとも呼ばれる。
【0048】
図2の産業機械1であるプレス機は、通信機器2、制御器202、電動機201、動力伝達機構204、加工機構206、および電源部290等を備える。このプレス機は、動力を生成する電動機201によって駆動される。電動機201によって生成された動力は、動力伝達機構204によって加工機構206に伝達される。このプレス機は、電動機201の回転運動を、動力伝達機構204を通じて、加工機構206の往復運動に変換する。これにより、加工機構206は、往復運動によって金型内の供給部材に対しプレス加工を行う。
図1と同様に、加工対象の部材が、前工程装置101からこのプレス機の加工機構206に供給される。加工機構206でその部材が加工されることで、中間品または完成品が生成される。その品は後工程装置102に搬送される。
【0049】
電源部290は、制御器202、電動機201、加工機構206、および通信機器2等の各部に、電力を供給する。電源部290に備える図示しない電源ボタンが押下された場合、産業機械1の電源状態は、電源OFF状態から電源ON状態に変わる。
【0050】
制御器202は、産業機械1の全体およびプレス加工を制御する部分であり、例えば電動機201を制御するインバータ(電力変換装置)や電子回路基板等で構成できる。制御器202は、通信機器2からのモード制御に対応させて、制御器202での稼働状態を制御する。制御器202は、プレス加工の際に、制御信号線を通じた制御信号203によって、電動機201を駆動制御する。これに従って、電動機201は、指定の回転速度Vで回転軸を回転運動させる。制御器202は、稼働制御に係わるパラメータとして、電動機201の回転速度V等を把握し、可変に制御することができる。なお、稼働制御に係わるパラメータは、回転速度に限定されず、様々なパラメータを同様に適用できる。また、稼働制御は、時間軸上でのパラメータの制御も含まれる。例えば、減速制御として、ある時間において回転速度Vをある値からある値へと減少させること等が挙げられる。この制御は、直線、曲線、多段等、各種の規定が可能である。
【0051】
産業機械1は、回転運動を行う回転部、および回転運動の状態を検出する検出部を有する。電動機202は回転部に相当し、センサ5や制御器202は検出部に相当する。このプレス機における稼働状態の制御のパラメータとしては、吹き出しで示すように、電動機201の回転速度Vがある。モード制御として、例えばこの回転速度Vが変更される。通常モードである第1モードでは回転速度V1とされ、延命モードである第2モードでは、回転速度V1よりも減速された回転速度V2とされる(
図3)。
【0052】
制御器202は、駆動の制御信号203を、制御信号線を通じて、電動機201へ伝達する。電動機201は、制御器202からの制御信号203に基づいて、回転軸の回転運動を行う。その回転運動は、動力伝達機構204を介して動力として伝達されて、加工機構206の往復運動に変換される。加工機構206は、駆動軸に伝達された動力に基づいて往復運動を行い、その往復運動によって金型内の部材をプレス加工する。
【0053】
動力伝達機構204の例としては、電動機201の回転軸に接続されたプーリ(電動機側プーリ)と、加工機構206の駆動軸に接続されたプーリ(加工機構側プーリ)とが、ベルトまたはチェーン等の動力伝達部品によって連結された機構が挙げられる。
【0054】
本例では、電動機201にセンサ5が設置されている。センサ5は、電動機201の回転運動等の状態、例えば回転有無および回転速度Vを検出する。センサ5によって観測・検出した値は、センサ信号線を通じてセンサ信号209として制御器202に伝達される。制御器202は、センサ5からのセンサ信号209によって、電動機201の状態を把握する。
【0055】
本例のようなセンサ5の設置に限らずに可能である。センサ5は、複数種類のセンサや複数個のセンサとしてもよい。また、産業機械1の筐体や周辺に、別途、センサ5が設置されてもよい。制御器202、動力伝達機構204、および加工機構206等の各部には、それぞれの状態(楕円形で示す)がある。例えば動力伝達機構204ではベルト等の状態があり、加工機構206では往復運動に係わる状態がある。加工機構206等の各部に、同様に、センサ5やそれに類する計測器等の、状態を検出や計測する手段を設けてもよい。その場合、制御器202は、それらのセンサ5等の信号を用いて、自分を含む各部の状態を把握する。制御器202は、センサ信号209から計算によって状態を判断してもよい。
【0056】
センサ5の具体例としては、電動機201に流入する電流や流出する電流を計測する電流センサ、電動機201の振動を検知する加速度センサ、電動機201から発する音を検知するマイクまたはAEセンサ、電動機201の回転数を検知するエンコーダ、等の各種が挙げられる。
【0057】
制御器202は、各部の状態に基づいて、産業機械1としての状態を判断・把握する。例えば、制御器202は、各部の状態(対応する値)がすべて規定範囲内である場合には、産業機械1の状態を正常と判断できる。
【0058】
制御器202は、リアルタイムで、産業機械1の状態(または部位毎の状態でもよい)を、状態信号線を通じて状態信号205として、通信機器2に送信・出力する。あるいは、通信機器2は、制御器202との間での要求および応答の通信によって、制御器202から状態信号205を取得してもよい。また、センサ5からのセンサ信号209を伝達する先は、制御器202に限らず、通信機器2としてもよい。制御器202は、センサ信号209の情報をそのまま通信機器2に送信してもよい。なお、状態信号線等の各線は、個別に通信ケーブル等で設けられてもよいし、同じ通信ケーブルでの各信号としてもよい。
【0059】
また、制御器202は、センサ信号209で把握した状態に応じて、制御器202自身の状態または稼働状態を変化させることがある。その場合も、制御器202は、その状態または稼働状態を、状態信号205として、通信機器2に伝達する。
【0060】
通信機器2は、診断処理部22によって、産業機械1の状態(または部位毎の状態)を診断し把握する。診断処理部22は、状態信号205またはセンサ信号209に基づいて、産業機械1の状態として例えば“正常”または“異常”あるいは“予兆”等の状態に分類して判断する。例えば、状態診断部22は、所定の診断処理方法で、電動機201、動力伝達機構204および加工機構206の状態を診断する。一例としては、状態診断部22は、センサ信号209または状態信号205の値を、閾値と比較し、第1閾値未満の場合には“正常”と判断し、第1閾値以上の場合には“予兆”と判断し、第1閾値よりも大きい第2閾値以上の場合には“異常”と判断してもよい。
【0061】
そして、通信機器2は、その診断結果の状態に応じて、モード処理部21の特に自動制御部21Aによって、前述(
図1)の変更機能4に係わる自動的なモード遷移制御を行う。モード処理部21は、吹き出しで示すように、実施の形態1(
図1)と同様のモードを制御する。自動制御部21Aは、産業機械1の状態が“正常”の場合には、産業機械1を第1モード(通常モード)にする。自動制御部21Aは、産業機械1の状態が“予兆”の場合には、産業機械1を、第1モードから第2モード(特に自動延命モード)に自動的に遷移させる。
【0062】
それらの制御の際、自動制御部21Aは、モード変更のための指令信号210を、指令信号線を通じて、制御器202に送信する。制御器202は、受信した指令信号210に従って、産業機械1(ここでは通信機器2を除く制御器202以下の部分を指す)の稼働状態を変更する。制御器202は、指令信号210の内容が、自動延命モードへの変更の指令である場合、産業機械1の稼働状態を、自動延命モードに切り替える。すなわち、制御器202は、通常時の回転速度V1から延命時の回転速度V2に変更するように、制御信号203によって、電動機201を駆動制御する。なお、制御器202から通信機器2に、モード変更したことを応答として送信してもよい。
【0063】
一方、通信機器2は、産業機械1のモード制御に係わる現在のモードを、表示部23のGUIを通じてユーザに表示する。表示部23のGUIは、現在のモードの状態、すなわち第1モードまたは第2モードのいずれかを表す情報と、モード変更のための所定の操作を表す情報とを表示する。モード処理部21は、表示部23のGUIの表示内容を、表示信号線を通じて表示信号212として表示部23に伝達する。ユーザは、そのGUIの表示を見て、現在のモードと、モード変更のための所定の操作とを認識できる。
【0064】
操作部24は、ユーザによる所定の操作を受け付ける。操作部24で受けた操作(言い換えると入力情報)は、操作信号線を通じて操作信号213として、モード処理部21に伝達される。モード処理部21は、操作信号213で示す操作と、状態診断部22で把握されている産業機械1の状態(制御器202や通信機器2の状態を含む)とに応じて、モード制御内容を決定する。具体的には、テスト制御部21Bは、第2モードへの変更のための操作に応じて、産業機械1のモードを第2モード(特にテスト延命モード)に変更することに決定する。
【0065】
モード処理部21は、モード制御内容に応じて、表示部23のGUIへの画像等の表示内容と、制御器202に対するモード制御に係わる指令信号210とを生成し、それぞれを与える。表示部23は、表示信号212に応じてGUIの表示内容を更新する。制御器202は、通信機器2からの指令信号210に従い、制御器202自身の状態や電動機201の回転速度V等の状態を含む産業機械1のモードを変化させる。
【0066】
[モード遷移図]
図3は、実施の形態2で、上記モードに係わる遷移図を示す。モード処理部21は、
図3のような規定に基づいて、モード間の遷移を制御する。
【0067】
産業機械1の状態は、まず、電源に関する状態として、電源OFF状態301と、電源ON状態302とがある。電源OFF状態301は、
図2の電源部290からの各部への電力供給がされていない状態であり、電源ON状態302は、その電力供給がされている状態である。電源部290の電源ON操作に応じて、電源OFF状態301から電源ON状態302、特に第1モードに遷移する。また、電源ON状態302(第1モードまたは第2モード)からは、電源部290の電源OFF操作に応じて、電源OFF状態302に遷移する。電源OFF状態302は、産業機械1全体の電源OFF状態である。この電源OFF状態302では、通信機器2の表示部23に何も表示されず、通信機器2から制御器202への指令信号210も生じない。モード処理部21を含む産業機械1の各部は、いずれのモードであっても、電源OFF操作された場合には、電源OFF状態301に遷移する。
【0068】
なお、本例の規定では、電源OFF状態301では、通信機器2への電力供給もされないので、モード処理部21等は起動しない。変形例として、通信機器2については、制御器202等とは別に電源を設けて、例えば通信機器2を常に電源ON状態にしてもよい。この場合、
図3の規定は、通信機器2を除いた制御器302や電動機301等の部分に関する規定とする。
【0069】
電源ON状態301において、モード処理部21によって制御されるモードは、上位概念として大別すると、第1モードである「通常モード」と、第2モードである「延命モード」とを有する。第1モードは第1稼働状態に対応し、第2モードは第2稼働状態に対応する。また詳しくは、第2モードは、中位概念として、「自動延命モード」と「テスト延命モード」とを含む。第2モードに含まれるこれらの2種類のモードは、実機での本来的な機能に対応する自動的な遷移の場合と、試運転・テスト等のためのユーザの操作に応じた遷移の場合との2つに対応した関係を有する。「自動延命モード」を第2Aモード、「テスト延命モード」を第2Bモードとも記載する。第2モードにおける2種類のモードである第2Aモードおよび第2Bモードは、この産業機械システムの内部的なサブ状態に相当し、ユーザはこれらの違いを意識しなくてもよい。これらの2種類のモードは、パラメータで規定される稼働制御内容は同じであり、例えば同じ回転速度V2にされるが、概念上では分けられる。なお、全体で3種類のモードがあると捉える場合には、「自動延命モード」を第2モードとし、「テスト延命モード」を第3モードとしてもよい。モードの名称は便宜的なものである。例えば、第2モードは、減速運転にするモードであるならば、「減速運転モード」等と称しても構わない。
【0070】
第1モードは、電動機201等を、通常運転用のパラメータ値、例えば回転速度V1で動作させる第1稼働状態に対応する。この第1稼働状態の制御は、詳しくは、時系列上でパラメータ値を所定のシーケンスで制御するものと規定してもよい。所定のシーケンスは、例えば、最初に稼働停止状態とし、次に所定の時間で回転速度を上昇し、所定の回転速度V1になったら維持してプレス加工を行い、その後、所定の時間で回転速度を下降し、稼働停止状態に戻す、といったものが挙げられる。
【0071】
なお、第1モードについては、概念として、「稼働停止状態」を含めることができる。「稼働停止状態」は、電力が供給された状態で、加工に係わる電動機201等の動作、例えば回転運動を、停止させた状態であり、言い換えれば待機状態である。
【0072】
第2モードは、電動機201等を、延命運転用のパラメータ値、例えば減速された回転速度V2(V2<V1)で動作させる第2稼働状態に対応する。この第2稼働状態の制御は、同様に、時系列上でパラメータ値を所定のシーケンスで制御するものと規定してもよい。例えば、回転速度V1の状態から、所定の時間で、所定の直線や曲線等の関数に従って、回転速度V2まで減少させることが挙げられる。
【0073】
プレス機である産業機械1は、通信機器2のモード処理部21、特に自動制御部21Aによって、診断結果の状態に応じて、所定の条件が成立した契機TR1で、自動的に、第1モードから第2Aモード(自動延命モード)に変更する。同様に、産業機械1は、自動制御部21Aによって、診断結果の状態に応じて、所定の条件の解消に応じた契機TR2で、自動的に、第2Aモードから第1モードに変更する。言い換えると、復帰用の所定の条件の成立に応じて、第2Aモードから第1モードに復帰する。これらのモード間の遷移は、ユーザによる操作部24に対する所定の操作には依らない。
【0074】
また、この産業機械1は、通信機器2のモード処理部21、特にテスト制御部21Bによって、ユーザによる操作部24に対する所定の操作OP1に応じたタイミング、ただし上記自動延命モードの時以外のタイミングで、第1モードから第2Bモード(テスト延命モード)に変更する。同様に、この産業機械1は、テスト制御部21Bによって、ユーザによる操作部24に対する所定の操作OP2に応じたタイミングで、第2Bモードから第1モードに変更する。第2Bモードでは、モード処理部21(特にテスト制御部21B)は、制御器202に、第2Aモードの場合と同じ稼働状態制御用のパラメータとなるように指令信号210を伝達する。これにより、電動機201や加工機構206等は、第2Bモード時でも第2Aモード時と同じ動作、具体例では回転速度V2での動作を示す。ユーザは、通信機器2を通じて、第2Bモード時の動作を、センサ5等で検出・計測し、データを記憶部に記憶することができる。通信機器2は、その計測データを表示部23に表示してもよい。ユーザは、通信機器2の記憶部からその計測データを読み出すことや他のPC等に転送することもできる。
【0075】
上記第1モードと第2Aモードとの間で遷移させる際の所定の条件は、予め診断処理方法に対応して規定されている判断条件であり、モード処理部21に設定されている。この条件は、具体例としては減速運転(第2モード)に遷移させる際の閾値等の条件である。この条件は、産業機械1の種類や変更機能4の詳細に応じて異なる様々な条件として規定できる。
【0076】
上記モード間の遷移の際の条件の例は、以下が挙げられる。
・センサ5のセンサ信号209の値、または状態信号205の値、あるいは産業機械1の診断結果の状態が、所定の状態に該当する場合。それらの値が、所定の閾値以上である場合、あるいは所定の閾値以下である場合。具体例としては、電動機201(または電源部290)に設置された電流センサで検出された電流値が、所定の閾値を超えた場合。
・例えば、電動機201の所定の箇所に設置された温度センサで検出された温度が、所定の閾値を超えた場合。
・例えば、電動機201の所定の箇所に設置された振動センサの検出値のうち、特定の周波数の振幅が、所定の閾値を超えた場合。
・例えば、加工機構206の所定の箇所の変形の量、例えばひずみセンサ等で検出された量が、所定の閾値を超えた場合。
・例えば、制御器202への通電時間が、所定の時間閾値を超えた場合。
【0077】
[表示例(1)]
産業機械1は、ユーザに対し、表示部23のGUIを通じて、現在のモード等を表示する。モード処理部21は、
図3の各モード状態に応じて、表示部23のGUIの表示内容を決定して表示信号212を与え、また、制御器202へモード制御の指令信号210を決定して送信する。
【0078】
図4は、
図3に基づいた、表示部23のGUIでの表示例として第1例を示す。
図4では、
図3の各モードと表示部23の表示内容との対応関係を示している。通信機器2が電源ON状態301になった場合、モード処理部21は、第1モードへ遷移し、第1モードでは、表示部23に画面G1を表示する。画面G1は、表示g11と、表示g12とを含む。表示g11は、このプレス機の現在のモードが通常モード(第1モード)であることを表す画像等の表示である。表示g11は、例えば「通常運転中」等の文字列画像の表示である。表示g12は、ユーザによる操作部24の所定の操作OP1によって、第2モード(特にテスト延命モード)に遷移できることを表す画像等の表示である。表示g12は、言い換えると、試運転・テストとして減速運転に移行できることを表す表示である。表示g12は、例えば、「操作XXXにより減速運転に移行します。」等の文字列画像の表示である。「操作XXX」は、所定の操作OP1の説明である。操作OP1は、例えば操作部23の特定の操作ボタンを押すこと等である。
【0079】
モード処理部21(特に自動制御部21A)は、第2Aモード(自動延命モード)である場合、表示部23に画面G2Aを表示する。画面G2Aは、表示g23を含む。表示g23は、現在のモードが第2Aモードであること、言い換えると減速運転中であることを表す表示である。表示g23は、例えば、「減速運転中」等の文字列画像である。本例では、自動延命モード時の表示g23と、テスト延命モード時の表示g21とは、ユーザから見ると同じ表示(「減速運転中」)となっている。
【0080】
また、画面G2Aでは、表示g24は、テスト延命モード時の画面G2Bでの表示g22とは異なり空表示となっており、操作説明等は無い。変更機能4は、契機TR3,TR4のように、自動的にモード間の遷移を制御する機能であるため、ユーザによる操作を必要としない。そのため、表示g24は、このように空表示でもよい。
【0081】
モード処理部21(特にテスト制御部21B)は、第2Bモードである場合、表示部23に画面G2Bを表示する。画面G2Bは、表示g21と表示g22とを含む。表示g21は、プレス機の現在のモードが延命モード(第2モード)であること、言い換えると減速運転中であることを表す表示である。表示g21は、例えば「減速運転中」等の文字列画像である。表示g22は、ユーザによる操作部24の所定の操作OP2によって第1モードに遷移できること、言い換えると通常運転に戻れることを表す表示である。表示g22は、例えば、「操作YYYにより通常運転に移行します。」等の文字列画像の表示である。「操作YYY」は、所定の操作OP2の説明である。操作OP2は、例えば操作部23の特定の操作ボタンを押すこと等である。
【0082】
本例では、画面G2Aのような自動延命モード時の表示と、画面G2Bのようなテスト延命モード時の表示とにおける違いを、上記のように表示g22と表示g24との違いに留めたが、他の違いがあっても構わない。
【0083】
[表示例(2)]
図5は、変形例として、表示部23のGUIでの表示例として第2例を示す。
図5の画面例は、
図4との違いとして以下の点がある。第1モードで表示される画面G1bは、表示g11、表示g12bを有する。この画面G1bは、表示部23および操作部24がタッチパネルで構成される場合の画面である。表示g12bは、第2モード(対応する減速運転)に移行できる操作を受け付けるボタン等のGUI部品である。
【0084】
まず、状態診断の結果、条件の成立に応じた契機TR1では、第1モードから第2Aモードに遷移する。第2Aモードでは、画面G2Abが表示される。画面G2Abは、表示g23b、表示g24bを有する。表示g23bは、
図4の表示g23との違いとして、現在のモードが第2Aモード(自動延命モード)であることを表す表示であり、例えば「減速運転中(自動)」のように文字列画像が表示される。表示g24bは、ユーザに対する第2Aモード時のガイド情報の表示であり、例えば「保守作業をしてください。~で通常運転に移行します。」といった文字列画像の表示である。条件の解消に応じた契機TR2で、第2Aモードから第1モードに戻る。
【0085】
一方、ユーザは、第1モードで、試運転を行いたい場合には、タッチパネルの画面1bに対し、表示g12bのボタンのタッチ操作を行う。このタッチ操作を操作OP1として、第2Bモードに遷移させることができる。第2Bモードでは、画面G2Bbが表示される。画面G2Bbは、表示g21b、表示g22bを有する。表示g21bは、
図4の表示g21との違いとして、現在のモードが第2Bモード(テスト延命モード)であることを表す表示であり、例えば「減速運転中(テスト)」のように文字列画像が表示される。表示g21bと表示g23bとでは、同じ第2モードであってもテストと自動との違いがユーザに認識できるように異なる表示とされている。表示g22bは、第2Bモードから第1モードへ移行できる操作を受け付けるボタン等のGUI部品である。このボタンのタッチ操作を操作OP2として、第1モードに戻すことができる。
【0086】
[モード補足]
本例では、産業機械1および通信機器2が備えるモードを少なくとも上記第1モードと第2モードとの2種類のモードとしたが、3種類以上のモードを備える構成も可能である。上記2種類のモードに別のモードが追加されてもよい。例えば、
図3では、第1モード内の一部として「稼働停止状態」を含めたが、この「稼働停止状態」を別のモードである「稼働停止モード」として分けて設けてもよい。この「稼働停止モード」は、電源ON状態302において、制御器201から電動機201へ稼働に係わる指令を行わないことで稼働(対応するプレス加工等の動作)を停止させるモード、言い換えると待機モードである。この「稼働停止モード」は、延命モードとは異なり、延命モードとは遷移関係にある。
【0087】
また、上記モードを、通常運転と減速運転との2種類に限定する必要も無い。延命に有効であり稼働制御内容が異なる複数種類の延命モードが設けられてもよい。例えば、ある産業機械1の工程において、ある故障に関する予兆の検知に応じて延命のために電動機201の回転数の変化を低減することが有効であるとする。その場合、延命モードの一種として、そのような回転数変化低減の稼働制御を行うモードを設けることも有効である。また、電動機201の特定の回転数を避けることが有効である場合、そのような特定の回転数を回避する稼働制御を行うモードを設けてもよい。このように、延命モードにおける具体的な稼働制御内容、例えばパラメータ値は、上記回転速度Vに限らず、様々に規定可能である。延命モードの稼働制御内容は、複数種類のパラメータの制御のセットとして規定されてもよい。また例えば、稼働状態について、通常の負荷から最小の負荷まで、あるいは最大の負荷まで、複数の段階を規定し、それらに対応付けた複数のモードを設けてもよい。
【0088】
[効果等(1)]
上記のように、
図2の産業機械1は、
図1の変更機能4に係わる通信機器2による制御に基づいて、通常モードと自動延命モード(例えば減速運転)との間で自動的に遷移できる。このような変更機能4は、産業機械1の故障等を予防して寿命を延ばすために有効である。特に、近年では産業機械の内外のセンサや他の情報に基づいて、産業機械の故障・異常に関する予兆を検知する手法も発展している。変更機能4および状態診断部22は、この手法に対応したものである。この手法に基づいた条件(
図3)を採用した形態の場合、産業機械1が故障等の異常に至る前に予兆検知に基づいて延命モードに移行可能である。すなわち、産業機械1が実際に故障してしまうまで、言い換えると寿命に至るまでの期間を延ばすことができ、部品や予備の機械を準備する時間的な余裕を得ることもできる。
【0089】
上記変更機能4をより活かすために、この産業機械システムは、通信機器2による特有のモード制御およびUIによる作業支援を提供する。すなわち、このシステムは、通信機器2の操作部24等のUIに対するユーザによる所定の操作に応じた任意のタイミングで、テスト延命モードへの遷移が可能である。ユーザは、製造ライン100の設計等の際に、試運転・テスト等として、変更機能4の延命モードに係わる動作等を容易に確認できる。
【0090】
上記のように、実施の形態1,2の産業機械システム等によれば、通信機器2の特有のUIを含む仕組みを用いて、産業機械1の変更機能4における延命モード時の動作を試運転・テスト等としてユーザが容易に確認でき、製造ライン100の設計の効率化等に有効である。この産業機械システムは、上記第2Aモード(自動延命モード)の制御と第2Bモード(テスト延命モード)の制御との両方の制御が両立しており、通信機器2のUIを通じてそれらの両方を統合的に適切に制御等可能である。
【0091】
この産業機械システムは、通信機器2のGUI(
図4)において、所定の操作によって延命モードに移行できることをわかりやすくユーザに伝える。所定の操作に応じてテスト延命モードに移行後、ユーザは、変更機能4による産業機械1の動作について、自動延命モード時と同様の動作を確認できる。変更機能4についての条件の成立を意図的に起こすことが難しい場合でも、ユーザは自動延命モード時と同様の動作を容易に確認できる。このシステムでは、テストのために意図的に機構等を劣化させることは不要である。
【0092】
また、変更機能4による自動延命モードでは、仕様通りに一定の結果を示すとは限らない場合がある。例えば、部材の加工に係わる回転速度が減少した場合に、どのような影響が生じるか、必ずしも一定ではない。例えば、ある回転速度に制御した場合には部材の加工結果の品質が許容範囲内となり、他の回転速度に制御した場合にはその品質が許容範囲外となることが考えられる。そのような事例についても、このシステムを用いることで、テスト延命モードでの挙動や影響を観測でき、製造ライン100の調整等の対処が好適に実現できる。
【0093】
[効果等(2)]
上記のようなモード制御機能およびUI等を備える実施の形態1,2の産業機械システムによれば、以下のような課題が解決できる。以下では、上記システムを利用することで、製造ライン100の設計や調整等が効率化できることを具体的に説明する。
【0094】
図6は、実施の形態2の産業機械1である加工機を含む製造ライン100の構成例を示す。この製造ライン100は、部材供給機601(
図1での前工程装置101に相当する)、産業機械1である加工機602、中間材保管器であるストッカ603(
図1での後工程装置102に相当する)、追加処理機604、および完成品保管装置605を有する。各装置間は、搬送装置610であるコンベアによって接続されている。加工対象の部材、中間材、および完成品は、それぞれの装置間を搬送装置610によって搬送される。加工機602(特に制御器)に対し、前述の通信機器2が接続される。
【0095】
この製造ライン100は、概略的に以下のように動作する。まず、工程S1では、部材供給機601から部材が供給される。工程S2では、供給される部材を加工機602によって加工して中間材を作成する。工程S3では、作成され供給された中間材が、ストッカ603によって一旦保管される。ストッカ603は、その中間材を追加処理機604に供給する。工程S4では、追加処理機604は、供給された中間材に追加処理を行って完成品を作成する。工程S5では、搬送された完成品が完成品保管装置605に保管される。
【0096】
加工機602である産業機械1は、前述の変更機能4による延命モードの動作が可能である。この製造ライン100が実際に稼働中において、加工機602での予兆等の状態に応じて前述の条件(
図3)が成立した場合、加工機602は、自動延命モード(例えば減速運転)に遷移する。試運転・テストの場合、加工機602は、ユーザの操作に応じて、前述のテスト延命モードに遷移する。
【0097】
延命モード時、この加工機602において、加工機構206を駆動する電動機201は、通常モード時に比べて遅い回転速度V2(
図3)で動作する。そのため、結果として、この加工機602の生産能力、例えばこの加工機602が単位時間あたりに作成する中間材の数で規定されるその生産能力は、通常モード時に比べて減少する。
【0098】
一般に、製造ラインの能力、例えばその製造ラインが単位時間あたりに作成する完成品の数は、多い方が望ましい。そのためには、加工機での生産能力が高いこと、例えば回転速度が速いことが望ましい。また、加工機での工程に併せて、前後工程での能力の調整が必要である。しかし、その一方で、加工機で前述の条件が成立して延命モードに遷移するのは、その加工機の延命のためである。加工機が故障に至った場合には製造ライン全体が停止してしまう。これを避けるために、加工機で条件が成立した場合には、加工機が延命モードによって故障に至るまでの時間を延ばしているうちに、条件を解消できる必要がある。例えば、加工機の清掃や修繕や部品交換等の対処や保守作業を実施する必要がある。この保守作業によって、条件を解消できれば、通常モードに復帰できる。
【0099】
製造ラインの能力を高くするためには、加工機が延命モードに入った場合でも製造ラインの能力を一定に保つことができることが望ましい。このためには、例えば以下の対策が考えられる。本例では、
図6のように、製造ライン100には加工機602の後工程のストッカ603を備える。後工程のストッカ603を適切に設計・調整することで、延命モード時でも製造ライン100の能力を一定に保つことができる。加工機602が減速運転に入って一時的に加工機602の能力が低下した場合でも、ストッカ603が保管している中間材が無くなるまでは、単位時間あたりに追加処理機604へ供給する中間材の個数を変化させずに一定に保つ。結果として、製造ライン100全体の能力を維持できる。このことについて、
図7等を用いてさらに説明する。
【0100】
図7のグラフは、(A)加工機602である産業機械1の能力と、(B)ストッカ603が保管している中間材の数と、(C)製造ライン100全体の能力とについて、縦に並べて、横に時間軸での推移を示している。(A)の加工機602の能力は、加工機602が単位時間あたりに作成する中間材の数であり、例えば前述の回転速度と対応関係を有する。加工機602の能力を記号P(P1,P2)でも示す。(B)のストッカ603が保管している中間材の数を、記号M(M1,M2)でも示す。(C)の製造ライン100の能力を記号L(L1)でも示す。
【0101】
加工機602が通常運転モードである場合の期間T1では、加工機602の能力(単位時間あたりに作成する中間材の数)と、追加処理機604が使用する中間材の数とが同じである。よって、期間T1では、ストッカ603が保管している中間材の数(M1)は変化しない。ところが、加工機602が延命モードに遷移した場合(時点t1)、減速となるから、加工機602の能力(単位時間あたりに作成する中間材の数)がP1からP2へ下がり、追加処理機604が使用する中間材の数を下回る。よって、この期間T2では、ストッカ603が保管している中間材の数はM1からM2へと減少を始める。ただし、ストッカ603が保管している中間材が無くならない限りは、単位時間あたりに追加処理機604に供給される中間材の数は変化しないので、製造ライン100の能力(P2)も変化しない。
【0102】
その後、ストッカ603が保管している中間材が無くなる前(時点t2)に、加工機602が条件を解消して通常モードに遷移する場合、再び、加工機602の能力(単位時間あたりに作成する中間材の数)と、追加処理機604が使用する中間材の数とは同じになる。よって、この場合の期間T3では、ストッカ603が保管している中間材の数(M2)は変化しなくなる。期間T3では、ストッカ603が保管している中間材の数(M2)は、加工機602が延命モードに遷移する以前(期間T1)の数(M1)と比較すると減っている。しかしながら、これは、例えば、後で加工機602を追加処理機604よりも長時間稼働させる等の対処の方法によって、元の数(M1)に戻すことができる。
【0103】
以上のことから、加工機602が延命モードに遷移した場合でも、ストッカ603が保管している中間材が無くなるまでの間は、製造ライン100の能力(L1)を維持できることがわかる。言い換えると、製造ライン100の能力を一定に保つためには、上記延命モードに遷移した後の期間の間に、保守作業等によって加工機602での条件を解消して通常モードに戻すことが必要である。
【0104】
続いて、
図8のグラフは、製造ライン100の能力に関する他の遷移例を
図7と同様に示す。加工機602が期間T4から時点t3で延命モードに遷移した後(期間T5)、ストッカ603が保管している中間材が無くなる時点t4までに、加工機602での条件を解消して通常モードに復帰することができないとする。この場合、製造ライン100の能力を維持できない期間T6が発生する。ストッカ603の保管する中間財の数(例えばM3)は、時点t3から減少し、時点t4で0になっている。対応して、製造ライン100の能力は、時点t4でL1からL2に落ちている。
【0105】
このような事態を避けるためには、ストッカ603になるべく多数の中間材を保管することが望ましい。なぜなら、そうすることで、ストッカ603が保管している中間材が無くなるまでの時間を延ばすことができ、その分の時間を、加工機602での条件を解消するための時間、例えば保守作業の時間に充てることができるからである。しかしその一方で、ストッカ603が保管する中間材を増やすことは、ストッカ603が大型化し、製造ライン100のために広い場所が必要になること、大型の機材を導入するためにコストが上がること等の不利点もある。したがって、ストッカ602には、利点と不利点を考慮して、適切な数の中間材を保管できるようにすることが望ましい。すなわち、製造ライン100の好適な設計や調整の一例として、後工程のストッカ603の好適な設計や調整を行う場合に、ストッカ603の能力として、保管できる中間材の適切な数を選択することが望ましい。
【0106】
加工機602が延命モードになった場合に、上記条件を解消するために必要な時間は、加工機602の保守作業に要する時間等によって見積もることができる。したがって、適切なストッカ603の能力は、例えば以下のように見積もることができる。ストッカ603の能力を表す、ストッカ603に保管できる中間材の適切な数をAとする。単位時間あたりに追加処理機が使用する中間材の数をBとする。延命モード時の加工機602が単位時間あたりに作成する中間材の数をCとする。加工機602での条件を解消するために必要な時間をDとする。適切な数Aは、数Bと数Cとの差に時間Dを乗じて得られた値、(B-C)×Dをもとにして定めることができる。
【0107】
しかし、ここで、ストッカ603に保管できる中間材の数(数A)を定めることは、実際に製造ライン100を稼働させる前に行われなくてはならない。従来、このような製造ラインを稼働させる前に、単独の加工機での試運転を行うことはできる。しかし、その試運転の段階で、故障に関する予兆現象が起きるとは限らない。むしろ、新たに立ち上げる製造ラインの場合、加工機も新品であることが多いから、そのような予兆現象は殆ど起きないと考える方が自然である。すなわち、従来、単独の加工機の試運転の際に、自動延命モードの動作を確認することは難しい。意図的に機構の劣化等を発生させることも非効率的である。したがって、このままでは、延命モードでの加工機の能力を確認や評価等できない。
【0108】
そこで、実施の形態1,2の産業機械システムでは、加工機602である産業機械1に接続された通信機器2のモード制御機能およびUIを利用し、ユーザが表示部23を見て操作部24を操作することで、テスト延命モードに遷移させることができる。これにより、変更機能4による自動的な遷移とは別に、ユーザによる所望のタイミングで、テスト延命モードに遷移させ、加工機602の動作を確認することができる。ユーザは、加工機602のデータ計測等に基づいて、実際に能力を確認・評価等できる。ユーザは、加工機602に対する前後の工程の各装置への影響も考慮できる。ユーザは、それらに基づいて、製造ライン100の能力を確認・調整等できる。その結果、具体的に、ストッカ603に保管できる中間材の適切な数(数A)を定めることができる。
【0109】
一般に、製造ラインの新たな立ち上げや変更の際には、その製造ラインを構成する装置の能力等の特性を考慮して、その製造ラインに係わる各種のパラメータを好適に設計する必要がある。この設計は、各装置の仕様だけで決定される場合もあるが、実際に現場で各装置を試運転させた結果に基づいて決定する必要がある場合もある。
図6の製造ライン100の場合、ストッカ603が保管できる中間材の数(数A)は、この製造ライン100の設計に係わるパラメータの1つの例である。
【0110】
製造ラインの好適なパラメータを決定するために各装置を試運転する際に、もしその装置が機能に応じて複数の運転モードを持つ場合、各運転モードについての試運転や確認等が必要である。しかし、上記加工機602の変更機能4のように、複数の運転モードの遷移が自動的であって意図的には起こせない場合、ユーザの所望のタイミングでの試運転はできない。それに対し、実施の形態1,2の産業機械システムは、上記例のように、通信機器2を用いて、ユーザの所望のタイミングで変更機能4に係わる試運転ができる。これにより、製造ライン100の効率的な設計・調整等が可能である。
【0111】
[変形例]
変形例の産業機械システムとして、上記テスト等の結果に基づいて、上記変更機能4に係わる稼働制御内容を、容易に調節できるように、各モードの稼働制御のパラメータ値をユーザが可変に設定できる機能をさらに設けてもよい。あるいは、変更機能4において元々そのようなユーザ設定機能を持つ場合には、このシステムの通信機器2のモード制御機能およびUIに、そのユーザ設定機能を連携させてもよい。ユーザは、テスト延命モードでの動作等の確認に基づいて、減速等を実行しても問題無いかどうかや、減速等を行う場合にどの程度の速度が好適であるか等を、確認・検討できる。この結果、ユーザは、延命モード時の稼働制御のパラメータ、例えば減速運転の回転速度を、好適な値に設定できる。これにより、製造ライン100の性能を高くすることができる。同様に、通信機器2に、前述の条件(
図3)をユーザ設定できる機能を設けてもよい。
【0112】
図9は、上記ユーザ設定機能を有する変形例における、通信機器2の表示部23の画面例を示す。この画面では、変更機能4に関するユーザ設定のGUIを提供する。この画面では、まず、[条件設定]項目では、前述の
図3の条件の内容を設定できる。項目901では、条件名を設定できる。条件は、例えば部材や加工の種類等に応じて、複数の条件を設定して使い分けが可能である。項目902では、条件を構成する閾値、例えば予兆判定用の閾値を、例えばリストボックスやスライドバー等のGUI部品を用いて可変に設定できる。項目903では、ユーザが注釈のテキストを任意に記載できる。また、[モード設定]項目では、前述の第1モードや第2モードの稼働制御内容、例えばパラメータ値を可変に設定できる。例えば項目904では、第1モード時の回転速度を設定でき、項目905では、第2モード時の回転速度を設定できる。このように、ユーザは、この画面で、変更機能4についての設定および確認ができる。ユーザは、延命モードのテストの結果を反映して、好適な設定が可能である。
【0113】
また、前述の
図4のように通信機器2の表示部23でモード状態等を表示する際に、画面内に、
図9のようなユーザ設定のパラメータ値等を併せて表示してもよい。あるいは、
図4のような画面内に、
図9のようなユーザ設定画面への遷移のためのボタン等を設けてもよい。また、前述のように、
図4のような画面内に、状態のグラフ等を表示してもよい。
【0114】
(実施の形態3)
図10~
図11を用いて、本発明の実施の形態3の産業機械システム等について説明する。実施の形態3では、産業機械1は、加工機の例として、空気圧縮機である。
【0115】
[産業機械システム]
図10は、実施の形態3の産業機械システムの構成を示す。
図10の構成は、
図2の構成との違いとして、産業機械1は空気圧縮機である。電動機201に対し、動力伝達機構204を介して、空気圧縮機構306が接続されている。また、実施の形態3では、制御器202に接続される通信機器2は、
図2と同様に、モード処理部21、表示部23、操作部24、および通信部25を備えるが、
図2とは異なり状態診断部22を備えない。実施の形態3では、通信機器2に対して通信網を介して接続されるサーバ3に、状態診断部22を備える。
【0116】
この空気圧縮機は、電動機201によって駆動され、電動機201によって生成された動力は、動力伝達機構204によって空気圧縮機構306に伝達される。空気圧縮機構306には、吸気機構306Aや吐出機構306Bを備える。吸気機構306Aから空気が空気圧縮機構306(特に容器内部)に供給され、その空気が空気圧縮機構306で圧縮される。圧縮された空気(「圧縮空気」)は、吐出機構306Bから吐出される。吐出機構306Bから吐出された圧縮空気は、一般には配管を通じて、その圧縮空気を必要とする装置に供給される。産業機械1の他の構成は、
図2と概略的に同様である。
【0117】
空気圧縮機にはいくつか種類があるが、各種の空気圧縮機を産業機械1として適用できる。本例の空気圧縮機では、空気圧縮機構306は、動力伝達機構204から伝達された動力に基づいて、容器内でのロータの回転運動、あるいはピストンの往復運動によって、容器内の空気を圧縮する。
【0118】
通信機器2は、通信部25を用いて、制御器202から状態信号205等を取得し、自分の状態を含む産業機械1の状態を表す状態情報や、モード制御に係わる情報等を、サーバ3に送信する。サーバ3は、通信機器2から受信・取得した情報をDB等に記憶する。サーバ3は、状態情報に基づいて、状態診断部22によって、産業機械1の状態、例えば正常または予兆等の状態を診断し、診断結果情報やモード制御に係わる指示等の情報を通信機器2に送信する。なお、通信機器2とは別に、サーバ3との通信機能を持つ通信装置を設けてもよい。
【0119】
通信機器2は、実施の形態2と同様に、各部の状態を含む空気圧縮機の状態を、センサ等を用いて観測、収集、保持する。空気圧縮機の状態は、吸入機構306Aで吸入する空気の状態や、吐出機構3056Bから吐出する圧縮空気の状態を含む。本例では、電動機5に設置されたセンサ5を図示しているが、これに限らない。通信機器2が得る産業機械1の状態を表す情報は、例えば電動機201に供給される電流の大きさ、空気圧縮機構306が発している振動の周波数や振幅、吸気機構306Aから吸入される空気の温度や湿度、吐出機構306Bから吐出される圧縮空気の圧力や温度等が含まれ得る。なお、通信機器2は、制御器202を通じて収集した情報に応じて、通信機器2自身の状態(特にモード)を変化させることがある。
【0120】
通信機器2のモード処理部21は、
図3と同様にモードを制御し、
図4等と同様にモード状態等を表示部23に表示する。ただし、実施の形態2と異なる点として、この空気圧縮機では、モード処理部21は、サーバ3からの情報や指示に応じて、モード処理部21自身の状態を含むモードを変化させることができる。例えば、モード処理部21(特に自動制御部21A)は、状態診断部22での診断結果の状態が“予兆”である場合、前述と同様に、第1モードから第2Aモード(
図3)に遷移させる制御を行う。また、モード処理部21(特にテスト制御部21B)は、表示部23および操作部24に対するユーザによる所定の操作に応じて、第1モードと第2Bモード(
図3)との間で遷移させる制御を行う。第2モード時の稼働制御内容は、実施の形態2と同様に、電動機201の回転速度Vが挙げられる。
【0121】
産業機械1の故障・異常の予兆を検出する手法には、多数のセンサによる長時間の観測結果を必要とする手法や、複雑な計算過程を必要とする手法もある。あるいは、対象の機械から得られる情報だけでなく別の機械から得られる情報も合わせて予兆を判断する手法も考えられる。このような手法を採用する場合、産業機械1自身に備える処理部によってその手法での状態診断・予兆検出を行う構成よりは、本例のように産業機械1とは別のサーバ3でその処理を行う構成の方が、適切である場合がある。例えば、制御器202または通信機器2に高度な処理能力や大量の記憶装置や高速な通信機能等を持たせる構成よりも、対応する能力を持つサーバ3を用意した構成の方が、コストや効率等に利点がある。
【0122】
実施の形態3の変形例として、サーバ3に通信機器2の機能を統合した形態としてもよい。すなわち、この場合のサーバ3は、モード処理部21、状態診断部22、およびUIを備え、産業機械1の制御器201に対して遠隔からモード制御を行うことができる。
【0123】
[効果等(3)]
さらに、
図11を用いて、実施の形態3の産業機械1である空気圧縮機を含む産業機械システムによって解決できる課題や効果等を具体的に説明する。
【0124】
図11は、
図10の産業機械1である空気圧縮機80を含む製造システムの一例である圧縮空気システムの構成を示す。
図11では、空気圧縮機80が供給する圧縮空気によって負荷群81を駆動する一般的な圧縮空気システムの例を示す。空気圧縮機80が吐出機構306Bから吐出する圧縮空気は、空気配管82を通じて、負荷群81に供給される。負荷群81は、複数の負荷によって構成される。本例では、負荷群81は、負荷81a,81b,81cを有する。負荷群81を構成する各負荷は、例えばエアシリンダやエアモータ等といった、圧縮空気を使用する機器である。
【0125】
また、この圧縮空気システムには、空気配管82を通じて、空気タンク83が接続されている。空気タンク83は、空気圧縮機80からの圧縮空気を貯蔵し、負荷群81に供給される空気の圧力を安定させるために使用される。すなわち、負荷群81が一時的に多くの圧縮空気を使用すると、空気配管82内の空気の圧力が低下しようとするが、この際に、空気タンク83に貯蔵されている圧縮空気を空気配管82へ放出することで、空気配管82内の圧力低下を抑えることができる。
【0126】
図11で、最初、圧縮空気システムは、部分91を持たない構成であるとする。この圧縮空気システムを、改良、設計や調整するために、もう1台の空気圧縮機を追加することを考える。この追加する空気圧縮機を、補機90と呼ぶことにする。
【0127】
この改良前の圧縮空気システムには、以下のような課題がある。まず、例えば工場でこの圧縮空気システムを使用する場合、負荷群81は、実際に生産が行われる工場内の生産現場に配置されるが、一方で、生産現場のスペースを活用するために、空気圧縮機80は生産現場から離れた場所に配置されることがある。このような場合、空気配管82を空気圧縮機80から負荷群81まで敷設する必要がある。しかし、一般に、空気配管82を長くするほど、空気配管82内を流れる圧縮空気の圧力は低下する。一般に、空気圧縮機80が吐出した圧縮空気の圧力よりも、負荷群81に供給される圧縮空気の圧力の方が低下する。この低下の度合いは、空気配管82を長くするほど顕著になる。さらに、空気配管82を流れる圧縮空気の量が多くなるほど、すなわち負荷群81が使用する圧縮空気の量が多くなるほど、同様に、圧縮空気の圧力低下は顕著になる。この圧力低下は、エネルギー損失として現れる。すなわち、負荷群81に十分な圧力の圧縮空気を提供するためには、空気圧縮機80の吐出圧力を高めることになるが、空気配管82を通る間の圧力低下は、全てエネルギー損失となってしまう。
【0128】
また、この改良前の圧縮空気システムにおいて、空気圧縮機80が前述の変更機能4(
図1)によって延命モード(例えば減速運転)になった場合、負荷群81の駆動に十分な圧縮空気を供給できなくなる可能性がある。このような事態を避けるためには、延命モードであっても十分な量の圧縮空気を供給できるような空気圧縮機80を使用するという方法も1つである。しかし、このような空気圧縮機80は大型となるため、さらに広い設置場所が必要となる。そのため、さらに生産現場から遠い場所に空気圧縮機80を設置せざるを得なくなり、そのために、空気配管82の長さが延び、前述したエネルギー損失が大きくなる。
【0129】
そこで、部分91に示すように、この圧縮空気システムに対し、改良後として、別の空気圧縮機である補機90を追加設置するという別の方法が採られることがある。補機90は、空気圧縮機80に比して、吐出する圧縮空気の量は少ないが、小型であり、生産現場の近くに設置できるものを選ぶことが多い。補機90は、生産現場の近くに設置されることから、負荷群81に至るまでの空気配管82を短くでき、このためエネルギー損失が少ない。このようにして、改良後のシステムでは、補機90を用いることで、空気配管82の長さに起因するエネルギー損失という課題に対策することができる。
【0130】
一方、改良後のシステムでは、空気圧縮機80が延命モードになった場合でも、補機90によって圧縮空気の量を補うことにより、負荷群81に十分な量の圧縮空気を供給できる可能性がある。しかし、このためには、空気圧縮機80が延命モードになった場合に負荷群81へ供給される圧縮空気がどの程度減少するか等を評価し、それを補うことができる量の圧縮空気を供給できる補機90を選択しなければならない。
【0131】
負荷群81がどの程度の圧縮空気を必要とするか、また、空気配管82でどの程度圧力低下するかは、システムによって異なる。よって、これらの値を評価するためには、実際に空気圧縮機80を延命モードにし、圧縮空気の流量や圧力を計測することが望ましい。しかし、空気圧縮機80の運転モードの遷移が、空気圧縮機80の状態やサーバ3からの指示によってのみ自動的に行われる構成である場合、ユーザが上記計測を含む試運転をしたくても、空気圧縮機80を延命モードに遷移させることはできない。
【0132】
そこで、実施の形態3では、実施の形態2と同様に、モード制御機能やUIを設けた通信機器2を利用し、ユーザの操作に応じて、空気圧縮機80をテスト延命モード(
図3)に遷移させることができる。このモードで、ユーザは、上記圧縮空気の流量や圧力を計測でき、その結果の評価に基づいて、改良後の圧縮空気システムにおける適切な補機90を選定することができる。
【0133】
上記例に限らず、一般に圧縮空気システムを構築する際には、様々なパラメータを設計する必要がある。これは、空気配管82の径や長さ、経路、空気タンク83の容量、空気配管82中に配置される弁の開度や負荷装置の選定等を含む。これらの設計にあたって、机上での仕様検討も行われるが、最終的には現場での試運転によって実機の挙動を確認することが有効であることが多い。上記例のような圧縮空気システムに、実施の形態3の産業機械システムを適用することが有効であり、効率的な設計等が実現できる。
【0134】
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0135】
1…産業機械、2…通信機器、3…サーバ、4…変更機能、5…センサ、21…モード処理部、22…状態診断部、23…表示部、24…操作部、25…通信部、100…製造ライン、101…前工程装置、102…後工程装置、103…搬送装置。