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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】カーテンエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/232 20110101AFI20231212BHJP
【FI】
B60R21/232
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022546185
(86)(22)【出願日】2021-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2021029105
(87)【国際公開番号】W WO2022049991
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020147294
(32)【優先日】2020-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智也
(72)【発明者】
【氏名】村山 貴士
(72)【発明者】
【氏名】原 正憲
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-004878(JP,A)
【文献】特開2013-249025(JP,A)
【文献】特開2007-290700(JP,A)
【文献】特開2019-098869(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0202393(US,A1)
【文献】特開2015-085726(JP,A)
【文献】特開2008-260426(JP,A)
【文献】特開2018-034752(JP,A)
【文献】特開2004-114842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に長尺な収納形態になって車室内のフロントピラーからルーフサイドレールに沿って取り付けられてフロントピラーガーニッシュおよびルーフトリムで覆い隠されるカーテンエアバッグクッションと、該カーテンエアバッグクッションに一部が挿入された状態で該ルーフサイドレールに固定されて緊急時にガスを供給するインフレータとを備えるカーテンエアバッグ装置において、
前記カーテンエアバッグクッションは、
当該カーテンエアバッグクッションの車両前側に設けられて前記インフレータからガスを受けて膨張展開する膨張部と、
当該カーテンエアバッグクッションの膨張展開時における前記膨張部の前記フロントピラーガーニッシュの上端部近傍に位置する箇所に該膨張部を縫製して形成され所定の力を受けると破断する仮縫製部と、
を有し、
前記仮縫製部は、前記カーテンエアバッグクッションを平面に広げた状態において前記膨張部の上縁から車両前側下方に傾斜して延びるよう形成されることを特徴とするカーテンエアバッグ装置。
【請求項2】
前記仮縫製部は、前記膨張部の上縁から該膨張部の下縁よりも上方までの範囲に形成されることを特徴とする請求項1に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項3】
前記仮縫製部は、前記膨張部の上縁から該膨張部の上下方向の中央近傍までの範囲に形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項4】
前記仮縫製部の上端は、前記膨張部の上縁のうち前記フロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両後方の箇所に形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項5】
前記仮縫製部の下端は、前記膨張部のうち前記フロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両後方の箇所に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ装置。
【請求項6】
前記仮縫製部の下端は、前記膨張部のうち前記フロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両前方の箇所に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカーテンエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ時に乗員保護を保護するカーテンエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーテンエアバッグ装置は、緊急時にガスによって膨張展開して乗員を受け止めて保護する袋状のカーテンエアバッグクッションを備える。カーテンエアバッグクッションは、車両が側面衝突からロールオーバに移行した場合であっても、乗員の頭部や上半身が衝突する可能性のある領域をすべてカバーするために、車両の側面に沿って展開する必要がある。
【0003】
カーテンエアバッグクッションは、車室内の側面上部に車両前後方向にわたって収納されていて、ルーフサイドレールだけでなく、ルーフサイドレールの車両前側に位置するフロントピラーとフロントピラーを車内側から覆うフロントピラーガーニッシュとの間にも収納されている。このような限られた収納スペースにカーテンエアバッグクッションを収納可能にするため、カーテンエアバッグクッションは通常、ロール状に巻き回された状態や折り畳まれた状態で車室内の側面上部に取り付けられている。
【0004】
カーテンエアバッグクッションは、ルーフサイドレールを覆うルーフトリムや各ピラーのガーニッシュ等を押しのけて膨張展開する。そのとき、例えば特許文献1の技術では、カーテンエアバッグKBのうち、Bピラー3のピラートリム6の上部にて、膨張抑制部としてパッチ部P3を設けている。特許文献1によれば、パッチ部P3を設けて膨張を抑制することで、ピラートリム6に大きな膨張圧を加えることを防ぎ、ピラートリム6の損傷を防止できると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-199067号公報
【発明の概要】
【0006】
上述したように、カーテンエアバッグクッションの車両前側は、フロントピラーガーニッシュに覆われていて、フロントピラーガーニッシュを押しのけて膨張展開する。そのとき、カーテンエアバッグクッションの膨張圧は、フロントピラーガーニッシュの上端部に集中しやすく、フロントピラーガーニッシュの破損を招くおそれがある。もしフロントピラーガーニッシュの脱落や飛散などが生じると、乗員の安全性を損なうことになり得るため、十分な防止策を講じる必要がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、作動時にフロントピラーガーニッシュの破損を防止可能なカーテンエアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかるカーテンエアバッグ装置の代表的な構成は、車両前後方向に長尺な収納形態になって車室内のフロントピラーからルーフサイドレールに沿って取り付けられてフロントピラーガーニッシュおよびルーフトリムで覆い隠されるカーテンエアバッグクッションと、カーテンエアバッグクッションに一部が挿入された状態でルーフサイドレールに固定されて緊急時にガスを供給するインフレータとを備えるカーテンエアバッグ装置において、カーテンエアバッグクッションは、当該カーテンエアバッグクッションの車両前側に設けられてインフレータからガスを受けて膨張展開する膨張部と、当該カーテンエアバッグクッションの膨張展開時における膨張部のフロントピラーガーニッシュの上端部近傍に位置する箇所に膨張部を縫製して形成され所定の力を受けると破断する仮縫製部と、を有し、仮縫製部は、カーテンエアバッグクッションを平面に広げた状態において膨張部の上縁から車両前側下方に傾斜して延びるよう形成されることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、インフレータから膨張部に供給されたガスは、車両前方のフロントピラーガーニッシュの上端部に到達する手前において仮縫製部によって遮られる。そのため、膨張部はいったん下方に向かってルーフトリムを押しのけながら膨張展開し、次いで膨張圧によって仮縫製部を解消しながらフロントピラーガーニッシュ側に膨張展開する。すなわち、上記構成であれば、フロントピラーガーニッシュの上端部に向かうガスの力を仮縫製部で受けることで、フロントピラーガーニッシュの上端部の破損を防ぎ、安全性により配慮したカーテンエアバッグ装置を提供することができる。
【0010】
上記の仮縫製部は、膨張部の上縁から膨張部の下縁よりも上方までの範囲に形成されてもよい。この構成の仮縫製部によって、ガスはいったん膨張部の下方に案内された後、膨張部の膨張の進行と共に仮縫製部を解消することが可能になり、上記フロントピラーガーニッシュに向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0011】
上記の仮縫製部は、膨張部の上縁から膨張部の上下方向の中央近傍までの範囲に形成されてもよい。この構成の仮縫製部によっても、膨張部が膨張するときにフロントピラーガーニッシュに向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0012】
上記の仮縫製部の上端は、膨張部の上縁のうちフロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両後方の箇所に形成されてもよい。この構成の仮縫製部によっても、膨張部が膨張するときにフロントピラーガーニッシュに向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0013】
上記の仮縫製部の下端は、膨張部のうちフロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両後方の箇所に形成されてもよい。この構成の仮縫製部によっても、膨張部が膨張するときにフロントピラーガーニッシュに向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0014】
上記の仮縫製部の下端は、膨張部のうちフロントピラーガーニッシュの上端部よりも車両前方の箇所に形成されてもよい。この構成の仮縫製部によっても、膨張部が膨張するときにフロントピラーガーニッシュに向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作動時にフロントピラーガーニッシュの破損を防止可能なカーテンエアバッグ装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態にかかるカーテンエアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)のカーテンエアバッグクッションを平面に広げた状態で例示した図である。
図3図2のカーテンエアバッグクッションの車両前側の拡大図である。
図4図3のカーテンエアバッグクッションの展開挙動を例示する図である。
図5図3の仮縫製部の各変形例を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態にかかるカーテンエアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)はカーテンエアバッグ装置100の作動前の様子を例示した図である。図中で例示するカーテンエアバッグ装置100は、車両の右側面用のものであるが、図示を省略する左側面用のカーテンエアバッグ装置100も同様の対称な構造を有する。
【0019】
以下、図1(a)その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。特に、上方とは座席に正規に着座した姿勢の乗員から見て頭部の方向のことであり、下方とは当該乗員から見て下肢部の方向のことである。
【0020】
車両102は、車両前方から前列座席104および後列座席106が配置された2列シートの車両を想定している。車両の側面部には、車両前方からサイドウィンドウ105、107が設置されている。各サイドウィンドウの車両前後方向には、ルーフを支える複数のピラーが設けられている。これらのピラーは、車両の前方からフロントピラー108、センタピラー110、およびリアピラー112と呼ばれる。
【0021】
ルーフサイドレール114は、車両の車室内の側面上部を形成する部材である。ルーフサイドレール114は、車室内のルーフを覆うルーフトリム116(図4(a)参照)によって覆われる。フロントピラー108は、車内側を樹脂製のフロントピラーガーニッシュ118によって覆われる。
【0022】
作動前のカーテンエアバッグ装置100のカーテンエアバッグクッション120は、巻回または折り畳みによって、車両前後方向に長尺な収納形態になっている。カーテンエアバッグクッション120は、フロントピラー108からルーフサイドレール114に沿って取り付けられる。作動前のカーテンエアバッグクッション120は、フロントピラーガーニッシュ118(図4(a)参照)およびルーフトリム116に覆い隠されるため、乗員からは視認不能である。
【0023】
カーテンエアバッグ装置100は、ガス発生装置であるインフレータ122を備えている。インフレータ122は、円筒状のシリンダ型のものを採用していて、カーテンエアバッグクッション120に一部が挿入された状態でルーフサイドレール114に固定されている。
【0024】
図1(a)はカーテンエアバッグ装置100の作動後の様子を例示した図である。カーテンエアバッグ装置100は、側面衝突などの緊急時にインフレータ122から供給されるガスの圧力により、カーテンエアバッグクッション120がルーフトリム116(図4(a)参照)およびフロントピラーガーニッシュ118を押しのけて膨張展開し、乗員を拘束する。
【0025】
カーテンエアバッグクッション120は、前列座席104および後列座席106の車外側にて、車両前後方向に広く膨張展開する。カーテンエアバッグクッション120の膨張部の各所は、ガスの流れや乗員および座席等の構造物に応じて、チャンバと呼ばれる小部屋に区画されている。
【0026】
カーテンエアバッグクッション120は、ストラップ124も備えている。ストラップ124は、紐状の部材であって、先端部がフロントピラー108に取り付けられ、後端部がカーテンエアバッグクッション120の前端に取り付けられている。ストラップ124は、作動前においては、フロントピラー108とフロントピラーガーニッシュ118(図4(a)参照)との間に収納されている。
【0027】
図2は、図1(b)のカーテンエアバッグクッション120を平面に広げた状態で例示した図である。なお、カーテンエアバッグクッション120を平面に置いた状態においては、インフレータ122が設置される側を「上」側、その反対方向を「下」側とする。この上下方向は、カーテンエアバッグクッション120が車両に取り付けられたときの、車体の上下方向に対応している。
【0028】
カーテンエアバッグクッション120は、例えば、その表面を構成する基布を表裏で縫製したり、OPW(One-Piece Woven)を用いて紡織したりすることにより袋状に形成されている。カーテンエアバッグクッション120は、上縁に備えられた複数のタブ126を介してルーフサイドレール114に固定される。上縁には、インフレータ122(図1(b)参照)が挿入されるインフレータ挿入部128も設けられている。
【0029】
カーテンエアバッグクッション120の膨張部130は、大きく分けて、ダクト部132および複数の保護チャンバ(保護チャンバ134a等)に区画されている。ダクト部132は、インフレータ挿入部128から車両前後方向に延びるガスの連絡通路であり、膨張部130の上部を形成している。
【0030】
保護チャンバとしては、主に前列座席104の乗員を拘束する保護チャンバ134a~134cと、主に後列座席106の乗員を拘束する保護チャンバ136が区画されている。各保護チャンバには、上方のダクト部132からガスが供給される。
【0031】
図3は、図2のカーテンエアバッグクッション120の車両前側の拡大図である。図3には、図1(b)のフロントピラーガーニッシュ118を破線で例示している。本実施形態のカーテンエアバッグクッション120は、フロントピラーガーニッシュ118に過剰な膨張圧をかけないよう、仮縫製部138を設けている。
【0032】
仮縫製部138は、カーテンエアバッグクッション120の膨張展開時の力で解消可能に設けられた縫製ラインであり、保護チャンバ134aのうち、カーテンエアバッグクッション120が膨張展開した時にフロントピラーガーニッシュ118の上端部140の近傍に位置する箇所に設けられている。
【0033】
本実施形態では、仮縫製部138は、インフレータ122(図2参照)からフロントピラー108に向かって延びるダクト部132の車両前側であって、当該カーテンエアバッグクッション120のなかでも最前に設けられた保護チャンバ134aの上部に設けている。仮縫製部138は、所定の力を受けると破断する縫製糸によって、保護チャンバ134aの上部を車幅方向に縫製することで形成されている。
【0034】
仮縫製部138の上端138aは、カーテンエアバッグクッション120を平面に広げた状態において、保護チャンバ134aの上縁142のうち、フロントピラーガーニッシュ118の上端部140の後部の上下直線L1よりも車両後方の箇所に形成されている。そして、仮縫製部138は、ダクト部132の上縁142から車両前側下方に傾斜して延びるよう形成されている。このとき、仮縫製部138の下端138bも、保護チャンバ134aのうちフロントピラーガーニッシュ118の上端部140よりも車両後方の箇所に形成されている。
【0035】
上記構成によって、仮縫製部138が車両前側下方に傾斜していることで、ダクト部132を通じて車両前方のフロントピラーガーニッシュ118に向かって流入してきたガスは、仮縫製部138に沿っていったん車両前側下方に案内される構成となっている。
【0036】
図4は、図3のカーテンエアバッグクッション120の展開挙動を例示する図である。図4(a)は、カーテンエアバッグクッション120の作動前の様子を例示している。フロントピラーガーニッシュ118の上端部140は、ルーフトリム116に隣接した状態に設置されている。フロントピラーガーニッシュ118からルーフトリム116の前部にかけては、カーテンエアバッグクッション120のストラップ124からダクト部132および保護チャンバ134aの付近が収納されている。
【0037】
図4(b)は、図4(a)のカーテンエアバッグクッション120にガスが供給されたときの様子を例示している。本実施形態では、インフレータ122(図2参照)からダクト部132を通じて保護チャンバ134aにガスが供給されるとき、フロントピラーガーニッシュ118の上端部140の手前において、ガスが仮縫製部138によって遮られる。そのため、保護チャンバ134aは、車両前方ではなくいったん下方に向かってルーフトリム116を押しのけながら膨張展開する。
【0038】
図4(c)は、図4(b)の保護チャンバ134aにさらにガスが供給されたときの様子を例示している。保護チャンバ134aの巻回等が解消して下方にまで展開すると、仮縫製部138もその全体が展開した状態となる。すると、仮縫製部138の下端138bに下方からの膨張圧が集中することで、保護チャンバ134aは仮縫製部138を破断しながらフロントピラーガーニッシュ118側に膨張展開する。
【0039】
このように、本実施形態では、フロントピラーガーニッシュ118の上端部140に向かうガスの力を仮縫製部138で受けることで、フロントピラーガーニッシュ118の上端部140の破損を防ぐことができる。特に、フロントピラーガーニッシュ118の脱落や破片の飛散を防ぐことで、安全性により配慮したカーテンエアバッグ装置100を提供することが可能となる。
【0040】
以下、仮縫製部138の各パラメータについて記載する。まず、カーテンエアバッグクッション120の膨張展開時において、仮縫製部138にかかる力を検討する。仮縫製部138を設ける範囲は、保護チャンバ134a(図3参照)の上部の16025mmの範囲E1内とした。範囲E1は、フロントピラーガーニッシュ118の上端部140の後部の上下直線L1から、後方に距離D1=140mmほど離れた上下直線L2までの領域内に設定されている。仮縫製部138の保持が必要な時間は、範囲E1の巻回がインフレータ122の作動開始から12msで解消するのが観察されたことから、12msまでとした。測定によって、12msの時点における保護チャンバ134aの内圧は72.7kPaであった。
【0041】
上記の数値から、下記の計算式によって、仮縫製部138にかかる力は、上記12msの時点において1165[N]であると判明した。計算式は、圧力[N/m2]=力の大きさ[N]/力を受ける面積[mm2]:72700[N/m2]×16025[mm2]=1165[N]である。
【0042】
次に、仮縫製部138の強度[N]について検討する。仮縫製部138の形成に用いた縫製糸の引張強度は33±5[N]であった。また、仮縫製部138の長さは150mmに設定した。縫い目の間隔(縫製ピッチ)は2.5±0.3mmとした。このとき、縫製の回数(縫製カウント)は、長さ/ピッチ:150/2.5=60[カウント]であった。
【0043】
上記の数値から、仮縫製部[N]の強度は、33[N]×60[カウント]=1980[N]であると判明した。このうち、縫製糸の引張強度および縫製ピッチには公差があることから、仮縫製部[N]の強度の公差下限値(縫製耐力下限値)は28[N]×54[カウント]=1512[N]である。なお、仮縫製部138の通気度(糸テンション)は、上糸は500±100[mm/s]、下糸は220±50の範囲で管理している。
【0044】
上記設定した仮縫製部138(1512[N])は、12msの時点において後方から受ける力(1165[N])に耐えられることが分かった。すなわち、図4(c)で例示した保護チャンバ134aの巻回が解消する12msの時点までにおいて、上記パラメータの仮縫製部138であれば縫製を好適に保持し、保護チャンバ134aの展開力がフロントピラーガーニッシュ118の上端部140にかかることを防止できると確認された。
【0045】
保護チャンバ134aの巻回が解消した時点、すなわち12msを過ぎると、保護チャンバ134aのうち仮縫製部138の下端138bよりも下方の部分も膨張する。これによって、仮縫製部138の下端138bに対して、下方から展開力がかかることになる。よって、仮縫製部138は、下端138bの縫製糸(33[N])に下方からの荷重が集中し、破断が始まる。
【0046】
以上によって、上記仮縫製部138であれば、インフレータ122の作動開始から12msまでは縫製を好適に保持し、12msを過ぎた時点で解消されて保護チャンバ134aの全体を膨張展開させることの妥当性が確認された。当該仮縫製部138であれば、ダクト部132からのガスの力がフロントピラーガーニッシュ118に直接的に当たることを防ぎ、フロントピラーガーニッシュ118の脱落や飛散を防ぐことが可能である。
【0047】
(変形例)
以下、上述した各構成要素の変形例について説明する。図5以降では既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0048】
図5は、図3の仮縫製部の各変形例を例示した図である。図5(a)は、第1変形例の仮縫製部200を例示した図である。仮縫製部200は、図3の仮縫製部138よりも長く設けられていて、例えば保護チャンバ134aの上縁142から保護チャンバ134aの上下方向の中央C1の近傍までの範囲に形成されている。当該仮縫製部200のように長さを変えることによって、保護チャンバ134aの膨張展開のタイミングに合わせて、フロントピラーガーニッシュ118に向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0049】
図5(b)は、第2変形例の仮縫製部220を例示した図である。仮縫製部220は、図3の仮縫製部138よりもより車両前方に傾斜している。例えば、仮縫製部220の下端220bは、保護チャンバ134aのうちフロントピラーガーニッシュの上端部140の後側から伸ばした上下直線L1よりも車両前方の箇所に形成されている。当該仮縫製部220のように角度を変えることで、保護チャンバ134a内のガスの流れを保護チャンバ134aおよびフロントピラーガーニッシュ118の形状や寸法に応じて変えることができるため、これによってもフロントピラーガーニッシュ118に向かうガスの力を効率よく抑えることが可能になる。
【0050】
上記説明した仮縫製部138、200、220は、いずれも上端138a、200a、220bが膨張部である保護チャンバ134aの上縁142に形成され、そこから下端138b、200b、220bが保護チャンバ134aの下縁144よりも上方までの範囲に形成されている。すなわち、仮縫製部138、200、220の下方にはガスの流路が確保されていて、下端138b、200b、220bには下方からの展開力が集中する構成となっている。したがって、仮縫製部138、200、220は、フロントピラーガーニッシュ118に向かうガスの力を抑えつつ、保護チャンバ134aの膨張の進行と共に解消されて乗員の拘束力に影響を与えない構成となっている。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0052】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、車両の側面衝突時やロールオーバ時に乗員保護を保護するカーテンエアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100 …カーテンエアバッグ装置、102 …車両、104 …前列座席、105、107 …サイドウィンドウ、106 …後列座席、108 …フロントピラー、110 …センタピラー、112 …リアピラー、114 …ルーフサイドレール、116 …ルーフトリム、118 …フロントピラーガーニッシュ、120 …カーテンエアバッグクッション、122 …インフレータ、124 …ストラップ、126 …タブ、128 …インフレータ挿入部、130 …膨張部、132 …ダクト部、134a …保護チャンバ、136 …保護チャンバ、138 …仮縫製部、138a …上端、138b …下端、140 …上端部、142 …上縁、144 …下縁、C1 …保護チャンバの中央、E1 …範囲、200 …第1変形例の仮縫製部、200a …上端、200b …下端、220 …仮縫製部、220a …上端、220b …下端
図1
図2
図3
図4
図5