(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231212BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20231212BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M10/052
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2023006378
(22)【出願日】2023-01-19
(62)【分割の表示】P 2020533884の分割
【原出願日】2019-07-24
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2018146603
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018155213
(32)【優先日】2018-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018195850
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】落合 輝明
(72)【発明者】
【氏名】三上 真弓
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-229129(JP,A)
【文献】特開2011-129498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 10/052
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子を有する正極活物質
層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムを有するコバルト酸リチウム
と、ニッケル源
とを混合した後に、熱処理を行うことによ
り表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記
正極活物質粒子の表面から10nm以下
の領域であ
り、
前記正極活物質層が有する複数の正極活物質粒子に対してX線光電子分光
分析したとき、マグネシウムの濃度
の相対値は、コバルトの濃度を1としたときに1.6以上6.0以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項2】
正極活物質粒子を有する正極活物質
層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが全体に分布したコバルト酸リチウム
と、ニッケル源
とを混合した後に、熱処理を行うことによ
り表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記
正極活物質粒子の表面から10nm以下
の領域であ
り、
前記正極活物質層が有する複数の正極活物質粒子に対してX線光電子分光
分析したとき、マグネシウムの濃度
の相対値は、コバルトの濃度を1としたときに1.6以上6.0以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項3】
正極活物質粒子を有する正極活物質
層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが固溶したコバルト酸リチウム
と、ニッケル源
とを混合した後に、熱処理を行うことによ
り表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記
正極活物質粒子の表面から10nm以下
の領域であ
り、
前記正極活物質層が有する複数の正極活物質粒子に対してX線光電子分光
分析したとき、マグネシウムの濃度
の相対値は、コバルトの濃度を1としたときに1.6以上6.0以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項4】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムを有するコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記正極活物質粒子に対してEDX線分析したとき、マグネシウムの濃度のピークは、前記表面から3nmまでに存在するリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項5】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが全体に分布したコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記正極活物質粒子に対してEDX線分析したとき、マグネシウムの濃度のピークは、前記表面から3nmまでに存在するリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項6】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが固溶したコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記正極活物質粒子に対してEDX線分析したとき、マグネシウムの濃度のピークは、前記表面から3nmまでに存在するリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項7】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムを有するコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1としたとき前記ニッケル源が有するニッケルの原子数は0.001倍以上0.02倍以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項8】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが全体に分布したコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1としたとき前記ニッケル源が有するニッケルの原子数は0.001倍以上0.02倍以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項9】
正極活物質粒子を有する正極活物質層と、前記正極活物質層を有する正極と、負極と、を有するリチウムイオン二次電池の作製方法であって、
前記正極活物質粒子は、マグネシウムが固溶したコバルト酸リチウムと、ニッケル源とを混合した後に、熱処理を行うことにより表層部に前記マグネシウムを偏析させることで形成され、
前記表層部は、前記正極活物質粒子の表面から10nm以下の領域であり、
前記コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1としたとき前記ニッケル源が有するニッケルの原子数は0.001倍以上0.02倍以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一において、
前記熱処理の温度は、700℃以上920℃以下であるリチウムイオン二次電池の作製方法。
【請求項11】
請求項1乃至請求項
10のいずれか一において、
前記熱処理は酸素を含む雰囲気で行うリチウムイオン二次電池の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、物、方法、又は、製造方法に関する。または、本発明の一態様は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置または電子機器、またはそれらの製造方法に関する。特に、二次電池に用いることのできる正極活物質、二次電池、および二次電池を有する電子機器に関する。
【0002】
なお、本明細書中において、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。例えば、リチウムイオン二次電池などの蓄電池(二次電池ともいう)、リチウムイオンキャパシタ、及び電気二重層キャパシタなどを含む。
【0003】
また、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、タブレット、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、次世代クリーンエネルギー自動車(ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)等)など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
リチウムイオン二次電池に要求されている特性としては、さらなる高エネルギー密度化、サイクル特性の向上及び様々な動作環境での安全性、長期信頼性の向上などがある。
【0006】
そこでリチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上および高容量化を目指した、正極活物質の改良が検討されている(特許文献1および特許文献2)。また、正極活物質の結晶構造に関する研究も行われている(非特許文献1乃至非特許文献3)。
【0007】
X線回折(XRD)は、正極活物質の結晶構造の解析に用いられる手法の一つである。非特許文献5に紹介されているICSD(Inorganic Crystal Structure Database)を用いることにより、XRDデータの解析を行うことができる。
【0008】
特許文献3にはニッケル系層状酸化物におけるヤーン・テラー効果について述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2002-216760号公報
【文献】特開2006-261132号公報
【文献】特開2017-188466号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Toyoki Okumura et al,”Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【文献】Motohashi, T. et al,”Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2(0.0≦x≦1.0) ”, Physical Review B, 80(16) ;165114
【文献】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【文献】W. E. Counts et al, Journal of the American Ceramic Society,(1953) 36[1] 12-17. Fig.01471
【文献】Belsky, A. et al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database(ICSD): accessibility in support of materials research and design”, Acta Cryst.,(2002) B58 364-369.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一態様は、高容量で充放電サイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極活物質、およびその作製方法を提供することを課題の一とする。または、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、高容量の二次電池を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、充放電特性の優れた二次電池を提供することを課題の一とする。または、高電圧で充電した状態を長時間保持した場合でもコバルト等の遷移金属の溶出が抑制された正極活物質を提供することを課題の一とする。または、本発明の一態様は、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0012】
または、本発明の一態様は、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0013】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有し、CuKα1線による粉末X線回折により得られるパターンについてリートベルト解析を行ったとき、R-3mの空間群を有する結晶構造であり、かつ、2.814×10-10mより大きく2.817×10-10mより小さく、かつc軸の格子定数が14.05×10-10mより大きく14.07×10-10mより小さく、X線光電子分光で分析したとき、コバルトの濃度を1とした時のマグネシウムの濃度の相対値は1.6以上6.0以下である正極活物質である。
【0015】
または本発明の一態様は、リチウムと、コバルトと、マグネシウムと、酸素と、フッ素と、を有する正極活物質であり、正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用いたリチウムイオン二次電池において、25℃環境下において電池電圧が4.7Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、2θが19.10°以上19.50°以下である第1の回折ピークと、2θが45.50°以上45.60°以下である第2の回折ピークと、を有する正極活物質である。
【0016】
また、上記いずれかの構成において、正極活物質を正極に用い、リチウム金属を負極に用いたリチウムイオン二次電池において、25℃環境下において電池電圧が4.7Vとなるまで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電した後、正極をCuKα1線による粉末X線回折で分析したとき、2θが19.10°以上19.50°以下である第1の回折ピークと、2θが45.50°以上45.60°以下である第2の回折ピークと、を有することが好ましい。
【0017】
また、上記構成いずれかの構成において、X線光電子分光で測定されるマグネシウムの濃度は、コバルトの濃度を1としたとき、1.6以上6.0以下であることが好ましい。
【0018】
また、上記いずれかの構成において、ニッケル、アルミニウム、およびリンを有することが好ましい。
【0019】
または、本発明の一態様は、リチウム源と、フッ素源と、マグネシウム源と、を混合し第1の混合物を作製する第1のステップと、リチウムと、コバルトと、酸素と、を有する複合酸化物と、第1の混合物と、を混合し第2の混合物を作製する第2のステップと、第2の混合物を加熱し、第3の混合物を作製する第3のステップと、第3の混合物と、アルミニウム源と、を混合し第4の混合物を作製する第4のステップと、第4の混合物を加熱し、第5の混合物を作製する第5のステップと、を有する正極活物質の作製方法であり、第4のステップにおいてアルミニウム源が有するアルミニウムの原子数は、第3の混合物が有するコバルトの原子数の0.001倍以上0.02倍以下である正極活物質の作製方法である。
【0020】
また、上記構成において、第1のステップのマグネシウム源が有するマグネシウムの原子数は、第2のステップの複合酸化物が有するコバルトの原子数の0.005倍以上0.05倍以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様により、高容量で充放電サイクル特性に優れた、リチウムイオン二次電池用正極活物質、およびその作製方法を提供することができる。また、生産性のよい正極活物質の作製方法を提供することができる。また、リチウムイオン二次電池に用いることで、充放電サイクルにおける容量の低下が抑制される正極活物質を提供することができる。また、高容量の二次電池を提供することができる。また、充放電特性の優れた二次電池を提供することができる。また、高電圧で充電した状態を長時間保持した場合でもコバルト等の遷移金属の溶出が抑制された正極活物質を提供することができる。また、安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することができる。また、新規な物質、活物質粒子、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図2】
図2は、正極活物質の充電深度と結晶構造を説明する図である。
【
図3】
図3は、結晶構造から計算されるXRDパターンである。
【
図4】
図4(A)は、XRDから算出される格子定数である。
図4(B)は、XRDから算出される格子定数である。
図4(C)は、XRDから算出される格子定数である。
【
図5】
図5(A)は、XRDから算出される格子定数である。
図5(B)は、XRDから算出される格子定数である。
図5(C)は、XRDから算出される格子定数である。
【
図6】
図6は、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図7】
図7は、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図8】
図8は、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図9】
図9は、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例を説明する図である。
【
図10】
図10(A)は、導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図である。
図10(B)は、導電助剤としてグラフェン化合物を用いた場合の活物質層の断面図である。
【
図11】
図11(A)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
図11(B)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
図11(C)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
【
図12】
図12(A)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
図12(B)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
図12(C)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
【
図13】
図13(A)は、二次電池の充電方法を説明する図である。
図13(B)は、二次電池の放電方法を説明する図である。
【
図14】
図14(A)は、コイン型二次電池を説明する図である。
図14(B)は、コイン型二次電池を説明する図である。
図14(C)は、充電時の電流と電子を説明する図である。
【
図15】
図15(A)は、円筒型二次電池を説明する図である。
図15(B)は、円筒型二次電池を説明する図である。
図15(C)は、複数の円筒型二次電池を説明する図である。
図15(D)は、複数の円筒型二次電池を説明する図である。
【
図16】
図16(A)は、電池パックの例を説明する図である。
図16(B)は、電池パックの一例を説明する図である。
【
図17】
図17(A1)は、二次電池の例を説明する図である。
図17(A2)は、二次電池の例を説明する図である。
図17(B1)は、二次電池の例を説明する図である。
図17(B2)は、二次電池の例を説明する図である。
【
図18】
図18(A)は、二次電池の例を説明する図である。
図18(B)は、二次電池の例を説明する図である。
【
図20】
図20(A)は、ラミネート型の二次電池を説明する図である。
図20(B)は、ラミネート型の二次電池を説明する図である。
図20(C)は、ラミネート型の二次電池を説明する図である。
【
図21】
図21(A)は、ラミネート型の二次電池を説明する図である。
図21(B)は、ラミネート型の二次電池を説明する図である。
【
図24】
図24(A)は、二次電池の作製方法を説明するための図である。
図24(B)は、二次電池の作製方法を説明するための図である。
図24(C)は、二次電池の作製方法を説明するための図である。
【
図25】
図25(A)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
図25(B1)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
図25(B2)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
図25(C)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
図25(D)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
【
図26】
図26(A)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
図26(B)は、曲げることのできる二次電池を説明する図である。
【
図27】
図27(A)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(B)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(C)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(D)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(E)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(F)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(G)は、電子機器の一例を説明する図である。
図27(H)は、電子機器の一例を説明する図である。
【
図28】
図28(A)は、電子機器の一例を説明する図である。
図28(B)は、電子機器の一例を説明する図である。
図28(C)は、電子機器の一例を説明する図である。
【
図30】
図30(A)は、車両の一例を説明する図である。
図30(B)は、車両の一例を説明する図である。
図30(C)は、車両の一例を説明する図である。
【
図31】
図31(A)は、二次電池の連続充電耐性である。
図31(B)は、二次電池の連続充電耐性である。
【
図32】
図32(A)は、二次電池の連続充電耐性である。
図32(B)は、二次電池の連続充電耐性である。
【
図33】
図33(A)は、二次電池のサイクル特性である。
図33(B)は、二次電池のサイクル特性である。
【
図34】
図34(A)は、正極のXRD評価結果である。
図34(B)は、正極のXRD評価結果である。
【
図35】
図35(A)は、正極のXRD評価結果である。
図35(B)は、正極のXRD評価結果である。
【
図36】
図36(A)は、二次電池の連続充電耐性である。
図36(B)は、二次電池の連続充電耐性である。
【
図38】
図38(A)は、二次電池の充放電カーブである。
図38(B)は、二次電池の充放電カーブである。
図38(C)は、二次電池の充放電カーブである。
【
図39】
図39(A)は、正極活物質のTEM観察結果である。
図39(B)は、正極活物質のEDX分析結果である。
【
図40】
図40(A)は、正極のXRD評価結果である。
図40(B)は、正極のXRD評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0024】
また、本明細書等において結晶面および方向はミラー指数で示す。結晶面および方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では出願表記の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。
【0025】
本明細書等において、偏析とは、複数の元素(例えばA,B,C)からなる固体において、ある元素(例えばB)が空間的に不均一に分布する現象をいう。
【0026】
本明細書等において、活物質等の粒子の表層部とは、表面から10nm程度までの領域をいう。ひびやクラックにより生じた面も表面といってよい。また表層部より深い領域を、内部という。
【0027】
本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属とリチウムが規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0028】
また本明細書等において、岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0029】
また本明細書等において、リチウムと遷移金属を含む複合酸化物が有する擬スピネル型の結晶構造とは、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する結晶構造をいう。なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0030】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0031】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これらが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0032】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等から判断することができる。X線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。TEM像等では、陽イオンと陰イオンの配列が、明線と暗線の繰り返しとして観察できる。層状岩塩型結晶と岩塩型結晶において立方最密充填構造の向きが揃うと、結晶間で、明線と暗線の繰り返しのなす角度が5度以下、より好ましくは2.5度以下である様子が観察できる。なお、TEM像等では酸素、フッ素をはじめとする軽元素は明確に観察できない場合があるが、その場合は金属元素の配列で配向の一致を判断することができる。
【0033】
また本明細書等において、正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えばLiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は274mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0034】
また本明細書等において、挿入脱離可能なリチウムが全て挿入されているときの充電深度を0、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離したときの充電深度を1ということとする。
【0035】
また本明細書等において、充電とは、電池内において正極から負極にリチウムイオンを移動させ、外部回路において負極から正極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウムイオンを離脱させることを充電という。また充電深度が0.7以上0.9以下の正極活物質を、高電圧で充電された正極活物質と呼ぶ場合がある。
【0036】
同様に、放電とは、電池内において負極から正極にリチウムイオンを移動させ、外部回路において正極から負極に電子を移動させることをいう。正極活物質については、リチウムイオンを挿入することを放電という。また充電深度が0.06以下の正極活物質、または高電圧で充電された状態から充電容量の90%以上の容量を放電した正極活物質を、十分に放電された正極活物質ということとする。
【0037】
また本明細書等において、非平衡な相変化とは、物理量の非線形変化を起こす現象をいうこととする。例えば容量(Q)を電圧(V)で微分(dQ/dV)することで得られるdQ/dV曲線におけるピークの前後では、非平衡な相変化が起き、結晶構造が大きく変わっていると考えられる。
【0038】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の正極活物質について説明する。
【0039】
[正極活物質の構造]
コバルト酸リチウム(LiCoO2)などの層状岩塩型の結晶構造を有する材料は、放電容量が高く、二次電池の正極活物質として優れることが知られている。層状岩塩型の結晶構造を有する材料として例えば、LiMO2で表される複合酸化物が挙げられる。元素Mの一例としてCoまたはNiより選ばれる一以上が挙げられる。また、元素Mの一例としてCoおよびNiより選ばれる一以上に加えて、AlおよびMnより選ばれる一以上が挙げられる。
【0040】
遷移金属化合物におけるヤーン・テラー効果は、遷移金属のd軌道の電子の数により、その効果の強さが異なることが知られている。
【0041】
ニッケルを有する化合物においては、ヤーン・テラー効果により歪みが生じやすい場合がある。よって、LiNiO2において高電圧における充放電を行った場合、歪みに起因する結晶構造の崩れが生じる懸念がある。LiCoO2においてはヤーン・テラー効果の影響が小さいことが示唆され、高電圧における充放電の耐性がより優れる場合があり好ましい。
【0042】
図1および
図2を用いて、正極活物質について説明する。
図1および
図2では、正極活物質が有する遷移金属としてコバルトを用いる場合について述べる。
【0043】
<正極活物質1>
図2に示す正極活物質100Cは、後述する作製方法にてハロゲンおよびマグネシウムが添加されないコバルト酸リチウム(LiCoO
2)である。
図2に示すコバルト酸リチウムは、非特許文献1および非特許文献2等で述べられているように、充電深度によって結晶構造が変化する。
【0044】
図1に示すように、充電深度0(放電状態)であるコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する領域を有し、ユニットセル中にCoO
2層が3層存在する。そのためこの結晶構造を、O3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO
2層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。
【0045】
また充電深度1のときは、空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO2層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型結晶構造と呼ぶ場合がある。
【0046】
また充電深度が0.88程度のときのコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、P-3m1(O1)のようなCoO
2の構造と、R-3m(O3)のようなLiCoO
2の構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし
図1をはじめ本明細書では、他の構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0047】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。このようにH1-3型結晶構造は、1つのコバルトおよび2つの酸素を用いたユニットセルにより表される。一方、後述するように、本発明の一態様の擬スピネル型の結晶構造は好ましくは、1つのコバルトおよび1つの酸素を用いたユニットセルにより表される。これは、擬スピネルの構造の場合とH1-3型構造の場合では、コバルトと酸素との対称性が異なり、擬スピネルの構造の方が、H1-3型構造に比べてO3の構造からの変化が小さいことを示す。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すのがより好ましいか、の選択は例えば、XRDのリートベルト解析において、GOF(good of fitness)の値がより小さくなるように選択すればよい。
【0048】
充電電圧がリチウム金属の酸化還元電位を基準に4.6V以上になるような高電圧の充電、あるいは充電深度が0.8以上になるような深い深度の充電と、放電とを繰り返すと、コバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり、非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0049】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO
2層のずれが大きい。
図1に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO
2層がR-3m(O3)から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0050】
さらに体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のO3型結晶構造の体積の差は3.0%以上である。
【0051】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、P-3m1(O1)のようなCoO2層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0052】
そのため、高電圧の充放電を繰り返すとコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためだと考えられる。
【0053】
<正極活物質2>
≪内部≫
本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充放電の繰り返しにおいて、CoO2層のずれを小さくすることができる。さらに、体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質は、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態において安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。そのような場合には安全性がより向上するため、好ましい。
【0054】
本発明の一態様の正極活物質では、十分に放電された状態と、高電圧で充電された状態における、結晶構造の変化および同数の遷移金属原子あたりで比較した場合の体積の差が小さい。
【0055】
正極活物質100Aの充放電前後の結晶構造を、
図2に示す。正極活物質100Aはリチウムと、コバルトと、酸素と、を有する複合酸化物である。上記に加えてマグネシウムを有することが好ましい。またフッ素、塩素等のハロゲンを有することが好ましい。
【0056】
図2の充電深度0(放電状態)の結晶構造は、
図1と同じR-3m(O3)である。一方、正極活物質100Aは、十分に充電された充電深度の場合、H1-3型結晶構造とは異なる構造の結晶を有する。本構造は、空間群R-3mであり、スピネル型結晶構造ではないものの、コバルト、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占め、陽イオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。よって、本構造を本明細書等では擬スピネル型の結晶構造と呼ぶ。なお、
図2に示されている擬スピネル型の結晶構造の図では、コバルト原子の対称性と酸素原子の対称性について説明するために、リチウムの表示を省略しているが、実際はCoO
2層の間にコバルトに対して例えば20原子%以下のリチウムが存在する。また、O3型結晶構造および擬スピネル型の結晶構造のいずれの場合も、CoO
2層の間、つまりリチウムサイトに、希薄にマグネシウムが存在することが好ましい。また、酸素サイトに、ランダムかつ希薄に、フッ素等のハロゲンが存在することが好ましい。
【0057】
なお、擬スピネル型の結晶構造は、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合があり、この場合もイオンの配列がスピネル型と似た対称性を有する。
【0058】
また擬スピネル型の結晶構造は、層間にランダムにLiを有するもののCdCl2型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl2型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムを充電深度0.94まで充電したとき(Li0.06NiO2)の結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常この結晶構造を取らないことが知られている。
【0059】
層状岩塩型結晶、および岩塩型結晶の陰イオンは立方最密充填構造(面心立方格子構造)をとる。擬スピネル型結晶も、陰イオンは立方最密充填構造をとると推定される。これらが接するとき、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃う結晶面が存在する。ただし、層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶の空間群はR-3mであり、岩塩型結晶の空間群Fm-3m(一般的な岩塩型結晶の空間群)およびFd-3m(最も単純な対称性を有する岩塩型結晶の空間群)とは異なるため、上記の条件を満たす結晶面のミラー指数は層状岩塩型結晶および擬スピネル型結晶と、岩塩型結晶では異なる。本明細書では、層状岩塩型結晶、擬スピネル型結晶、および岩塩型結晶において、陰イオンにより構成される立方最密充填構造の向きが揃うとき、結晶の配向が概略一致する、と言う場合がある。
【0060】
正極活物質100Aでは、高電圧で充電し多くのリチウムが離脱したときの、結晶構造の変化が、正極活物質100Cよりも抑制されている。例えば、
図2中に点線で示すように、これらの結晶構造ではCoO
2層のずれがほとんどない。
【0061】
より詳細に説明すれば、正極活物質100Aは、充電電圧が高い場合にも構造の安定性が高い。例えば、正極活物質100CにおいてはH1-3型結晶構造となる充電電圧、例えばリチウム金属の電位を基準として4.6V程度の電圧においても、正極活物質100AではR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.65V乃至4.7V程度の電圧においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。さらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶が観測される場合がある。なお、二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合には、例えば二次電池の電圧が4.3V以上4.5V以下においてもR-3m(O3)の結晶構造を保持できる充電電圧の領域が存在し、さらに充電電圧を高めた領域、例えばリチウム金属の電位を基準として4.35V以上4.55V以下においても擬スピネル型の結晶構造を取り得る領域が存在する。
【0062】
そのため、正極活物質100Aにおいては、高電圧で充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい。
【0063】
なお擬スピネル型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。
【0064】
CoO2層間、つまりリチウムサイトにランダムかつ希薄に存在するマグネシウムは、CoO2層のずれを抑制する効果がある。そのためCoO2層間にマグネシウムが存在すると、擬スピネル型の結晶構造になりやすい。そのためマグネシウムは正極活物質100Aの粒子全体に分布していることが好ましい。またマグネシウムを粒子全体に分布させるために、正極活物質100Aの作製工程において、加熱処理を行うことが好ましい。
【0065】
しかしながら、加熱処理の温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じてマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。マグネシウムがコバルトサイトに存在すると、R-3mの構造を保つ効果がなくなってしまう。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0066】
そこで、マグネシウムを粒子全体に分布させるための加熱処理よりも前に、コバルト酸リチウムにフッ素化合物等のハロゲン化合物を加えておくことが好ましい。ハロゲン化合物を加えることでコバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることで、カチオンミキシングが生じにくい温度で、マグネシウムを粒子全体に分布させることが容易となる。さらにフッ素化合物が存在すれば、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することが期待できる。
【0067】
なお、マグネシウム濃度を所望の値以上に高くすると、結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。マグネシウムが、リチウムサイトに加えて、コバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウムの原子数は、コバルトの原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.01倍より大きく0.04倍未満がより好ましく、0.02倍程度がさらに好ましい。ここで示すマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0068】
コバルト酸リチウムにコバルト以外の金属(以下、金属Z)として、例えばニッケル、アルミニウム、マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムから選ばれる一以上の金属を添加してもよく、特にニッケルおよびアルミニウムの一以上を添加することが好ましい。マンガン、チタン、バナジウムおよびクロムは安定に4価を取りやすい場合があり、構造安定性への寄与が高い場合がある。金属Zを添加することにより本発明の一態様の正極活物質では例えば、高電圧での充電状態において結晶構造がより安定になる場合がある。ここで、本発明の一態様の正極活物質において、金属Zは、コバルト酸リチウムの結晶性を大きく変えることのない濃度で添加されることが好ましい。例えば、前述のヤーン・テラー効果等を発現しない程度の量であることが好ましい。
【0069】
本発明の一態様の正極活物質のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質の容量が減少することがある。その要因として例えば、リチウムサイトにマグネシウムが入ることにより、充放電に寄与するリチウム量が減少する可能性が考えられる。また、過剰なマグネシウムが、充放電に寄与しないマグネシウム化合物を生成する場合もある。本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてニッケルを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えて、金属Zとしてアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。また本発明の一態様の正極活物質がマグネシウムに加えてニッケルおよびアルミニウムを有することにより、重量あたりおよび体積あたりの容量を高めることができる場合がある。
【0070】
以下に、本発明の一態様の正極活物質が有するマグネシウム、金属Z、等の元素の濃度を原子数を用いて表す。
【0071】
本発明の一態様の正極活物質が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下がより好ましく、0.1%以上2%以下がさらに好ましい。ここで示すニッケルの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0072】
本発明の一態様の正極活物質が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下がより好ましい。ここで示すアルミニウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0073】
本発明の一態様の正極活物質は、元素Xを有することが好ましく、元素Xとしてリンを用いることが好ましい。また、本発明の一態様の正極活物質は、リンと酸素を含む化合物を有することがより好ましい。
【0074】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xを含む化合物を有することにより、高電圧の充電状態を保持した場合において、ショートが生じづらい場合がある。
【0075】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xとしてリンを有する場合には、電解液の分解により発生したフッ化水素とリンが反応し、電解液中のフッ化水素濃度が低下する可能性がある。
【0076】
電解液がLiPF6を有する場合、加水分解により、フッ化水素が発生する場合がある。また、正極の構成要素として用いられるPVDFとアルカリとの反応によりフッ化水素が発生する場合もある。電解液中のフッ化水素濃度が低下することにより、集電体の腐食や被膜はがれを抑制できる場合がある。また、PVDFのゲル化や不溶化による接着性の低下を抑制できる場合がある。
【0077】
本発明の一態様の正極活物質が元素Xに加えてマグネシウムを有する場合、高電圧の充電状態における安定性が極めて高い。元素Xがリンである場合、リンの原子数は、コバルトの原子数の1%以上20%以下が好ましく、2%以上10%以下がより好ましく、3%以上8%以下がさらに好ましく、加えてマグネシウムの原子数は、コバルトの原子数の0.1%以上10%以下が好ましく、0.5%以上5%以下がより好ましく、0.7%以上4%以下がより好ましい。ここで示すリンおよびマグネシウムの濃度は例えば、ICP-MS等を用いて正極活物質の粒子全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0078】
正極活物質がクラックを有する場合、その内部にリン、より具体的には例えばリンと酸素を含む化合物が存在することにより、クラックの進行が抑制される場合がある。
【0079】
≪表層部≫
マグネシウムは正極活物質100Aの粒子全体に分布していることが好ましいが、これに加えて粒子表層部のマグネシウム濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。例えば、XPS等で測定される粒子表層部のマグネシウム濃度が、ICP-MS等で測定される粒子全体の平均のマグネシウム濃度よりも高いことが好ましい。
【0080】
また、正極活物質100Aがコバルト以外の元素、例えばニッケル、アルミニウム、マンガン、鉄およびクロムから選ばれる一以上の金属を有する場合において、該金属の粒子表層部における濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。例えば、XPS等で測定される粒子表層部のコバルト以外の元素の濃度が、ICP-MS等で測定される粒子全体の平均における該元素の濃度よりも高いことが好ましい。
【0081】
粒子表面は、いうなれば全て結晶欠陥である上に、充電時には表面からリチウムが抜けていくので内部よりもリチウム濃度が低くなりやすい部分である。そのため、不安定になりやすく結晶構造が崩れやすい部分である。表層部のマグネシウム濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。また表層部のマグネシウム濃度が高いと、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0082】
またフッ素等のハロゲンも、正極活物質100Aの表層部の濃度が、粒子全体の平均よりも高いことが好ましい。電解液に接する領域である表層部にハロゲンが存在することで、フッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。
【0083】
このように正極活物質100Aの表層部は内部よりも、マグネシウムおよびフッ素の濃度が高い、内部と異なる組成であることが好ましい。またその組成として常温で安定な結晶構造をとることが好ましい。そのため、表層部は内部と異なる結晶構造を有していてもよい。例えば、正極活物質100Aの表層部の少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有していてもよい。また表層部と内部が異なる結晶構造を有する場合、表層部と内部の結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0084】
ただし表層部がMgOのみ、またはMgOとCoO(II)が固溶した構造のみでは、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまう。そのため表層部は少なくともコバルトを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路を有している必要がある。また、マグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0085】
また、元素Xは正極活物質100Aの粒子の表面近傍に位置することが好ましい。例えば正極活物質100Aは、元素Xを有する被膜に覆われていてもよい。
【0086】
≪粒界≫
正極活物質100Aが有するマグネシウム又はハロゲンは、内部にランダムかつ希薄に存在していてもよいが、一部は粒界に偏析していることがより好ましい。
【0087】
換言すれば、正極活物質100Aの結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度も、内部の他の領域よりも高いことが好ましい。また結晶粒界およびその近傍のハロゲン濃度も内部の他の領域より高いことが好ましい。
【0088】
粒子表面と同様、結晶粒界も面欠陥である。そのため不安定になりやすく結晶構造の変化が始まりやすい。そのため、結晶粒界およびその近傍のマグネシウム濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0089】
また、結晶粒界およびその近傍のマグネシウムおよびハロゲン濃度が高い場合、正極活物質100Aの粒子の結晶粒界に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面の近傍でマグネシウムおよびハロゲン濃度が高くなる。そのためクラックが生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0090】
なお本明細書等において、結晶粒界の近傍とは、粒界から10nm程度までの領域をいうこととする。
【0091】
≪粒径≫
正極活物質100Aの粒径は、大きすぎるとリチウムの拡散が難しくなる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、集電体への塗工時に活物質層を担持しにくくなる、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、平均粒子径(D50:メディアン径ともいう。)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。
【0092】
<分析方法>
ある正極活物質が、高電圧で充電されたとき擬スピネル型の結晶構造を示す本発明の一態様の正極活物質100Aであるか否かは、高電圧で充電された正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。
【0093】
本発明の一態様の正極活物質100Aは、これまで述べたように高電圧で充電した状態と放電状態とで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で充電した状態で、放電状態との変化が大きな結晶構造が50wt%以上を占める材料は、高電圧の充放電に耐えられないため好ましくない。そして不純物元素を添加するだけでは目的の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、高電圧で充電した状態で擬スピネル型の結晶構造が60wt%以上になる場合と、H1-3型結晶構造が50wt%以上を占める場合と、がある。また、所定の電圧では、擬スピネル型の結晶構造がほぼ100wt%になり、さらに当該所定の電圧をあげるとH1-3型結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100Aであるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析が必要である。
【0094】
ただし、高電圧で充電した状態または放電状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えば擬スピネル型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、サンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0095】
≪充電方法≫
ある複合酸化物が、本発明の一態様の正極活物質100Aであるか否かを判断するための高電圧充電は、例えば対極リチウムでコインセル(CR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して充電することができる。
【0096】
より具体的には、正極には、正極活物質、導電助剤およびバインダを混合したスラリーを、アルミニウム箔の正極集電体に塗工したものを用いることができる。
【0097】
対極にはリチウム金属を用いることができる。なお対極にリチウム金属以外の材料を用いたときは、二次電池の電位と正極の電位が異なる。本明細書等における電圧および電位は、特に言及しない場合、正極の電位である。
【0098】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、ビニレンカーボネート(VC)が2wt%で混合されたものを用いることができる。
【0099】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いることができる。
【0100】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いることができる。
【0101】
上記条件で作製したコインセルを、4.6V、0.5Cで定電流充電し、その後電流値が0.01Cとなるまで定電圧充電する。なおここでは1Cは137mA/gとする。温度は25℃とする。このようにして充電した後に、コインセルをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出せば、高電圧で充電された正極活物質を得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えばXRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。
【0102】
≪XRD≫
擬スピネル型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα1線による理想的な粉末XRDパターンを
図3に示す。また比較のため充電深度0のLiCoO
2(O3)と、充電深度1のCoO
2(O1)の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。なお、LiCoO
2(O3)およびCoO
2(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献5参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step size=0.01、波長λ1=1.540562×10
-10m、λ2は設定なし、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。擬スピネル型の結晶構造のパターンは本発明の一態様の正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0103】
図3に示すように、擬スピネル型の結晶構造では、2θ=19.30±0.20°(19.10°以上19.50°以下)、および2θ=45.55±0.10°(45.45°以上45.65°以下)に回折ピークが出現する。より詳しく述べれば、2θ=19.30±0.10°(19.20°以上19.40°以下)、および2θ=45.55±0.05°(45.50°以上45.60以下)に鋭い回折ピークが出現する。しかしH1-3型結晶構造およびCoO
2(P-3m1、O1)ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、高電圧で充電された状態で2θ=19.30±0.20°、および2θ=45.55±0.10°のピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100Aの特徴であるといえる。
【0104】
これは、充電深度0の結晶構造と、高電圧充電したときの結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、両者の主な回折ピークのうち2つ以上、より好ましくは3つ以上において、ピークが出現する位置の差が、2θ=0.7以下、より好ましくは2θ=0.5以下であるということができる。
【0105】
なお、本発明の一態様の正極活物質100Aは高電圧で充電したとき擬スピネル型の結晶構造を有するが、粒子のすべてが擬スピネル型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、擬スピネル型の結晶構造が50wt%以上であることが好ましく、60wt%以上であることがより好ましく、66wt%以上であることがさらに好ましい。擬スピネル型の結晶構造が50wt%以上、より好ましくは60wt%以上、さらに好ましくは66wt%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0106】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったとき擬スピネル型の結晶構造が35wt%以上であることが好ましく、40wt%以上であることがより好ましく、43wt%以上であることがさらに好ましい。
【0107】
また、正極活物質の粒子が有する擬スピネル型の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO2(O3)の1/10程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、高電圧充電後に明瞭な擬スピネル型の結晶構造のピークが確認できる。一方単純なLiCoO2では、一部が擬スピネル型の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0108】
本発明の一態様の正極活物質においては、前述の通り、ヤーン・テラー効果の影響が小さいことが好ましい。本発明の一態様の正極活物質は、層状岩塩型の結晶構造を有し、遷移金属としてコバルトを主として有することが好ましい。また、本発明の一態様の正極活物質において、ヤーン・テラー効果の影響が小さい範囲であれば、コバルトの他に、先に述べた金属Zを有してもよい。
【0109】
正極活物質において、XRD分析を用いて、ヤーン・テラー効果の影響が小さいと推測される格子定数の範囲について考察する。
【0110】
図4(A)および(B)は、本発明の一態様の正極活物質が層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとニッケルを有する場合において、XRDを用いてa軸およびc軸の格子定数を見積もった結果を示す。
図4(A)がa軸、
図4(B)がc軸の結果である。なお、
図4(A)および(B)に示す格子定数の算出に用いたXRDは、正極活物質の合成を行った後の粉体であり、正極に組み込む前のものである。横軸のニッケル濃度は、コバルトとニッケルの原子数の和を100%とした場合のニッケルの濃度を示す。正極活物質は、後述するステップS21乃至ステップS25を用いて作製し、ステップS21においてコバルト源およびニッケル源を用いた。ニッケルの濃度は、ステップS21においてコバルトとニッケルの原子数の和を100%とした場合のニッケルの濃度を示す。
【0111】
図5(A)および(B)には、本発明の一態様の正極活物質が層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとマンガンを有する場合において、XRDを用いてa軸およびc軸の格子定数を見積もった結果を示す。
図5(A)がa軸、
図5(B)がc軸の結果である。なお、
図5(A)および(B)に示す格子定数の算出に用いたXRDは、正極活物質の合成を行った後の粉体であり、正極に組み込む前のものである。横軸のマンガン濃度は、コバルトとマンガンの原子数の和を100%とした場合のマンガンの濃度を示す。正極活物質は、後述するステップS21乃至ステップS25を用いて作製し、ステップS21においてコバルト源およびマンガン源を用いた。マンガンの濃度は、ステップS21においてコバルトとマンガンの原子数の和を100%とした場合のマンガンの濃度を示す。
【0112】
図4(C)には、
図4(A)および(B)に格子定数の結果を示した正極活物質について、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)を示す。
図5(C)には、
図5(A)および(B)に格子定数の結果を示した正極活物質について、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)を示す。
【0113】
図4(C)より、ニッケル濃度が5%と7.5%ではa軸/c軸が顕著に変化する傾向がみられ、a軸の歪みが大きくなっていると考えられる。この歪みはヤーン・テラー歪みである可能性がある。ニッケル濃度が7.5%未満において、ヤーン・テラー歪みの小さい、優れた正極活物質が得られることが示唆される。
【0114】
次に、
図5(A)より、マンガン濃度が5%以上においては、格子定数の変化の挙動が異なり、ベガード則に従わないことが示唆される。よって、マンガン濃度が5%以上では結晶構造が異なることが示唆される。よって、マンガンの濃度は例えば、4%以下が好ましい。
【0115】
なお、上記のニッケル濃度およびマンガン濃度の範囲は、粒子の表層部においては必ずしもあてはまらない。すなわち、粒子の表層部においては、上記の濃度より高くてもよい場合がある。
【0116】
以上より、格子定数の好ましい範囲について考察を行ったところ、本発明の一態様の正極活物質において、XRDパターンから推定できる、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数が2.814×10-10mより大きく2.817×10-10mより小さく、かつc軸の格子定数が14.05×10-10mより大きく14.07×10-10mより小さいことが好ましいことがわかった。充放電を行わない状態とは例えば、二次電池の正極を作製する前の粉体の状態であってもよい。
【0117】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)が0.20000より大きく0.20049より小さいことが好ましい。
【0118】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質の粒子が有する層状岩塩型の結晶構造において、XRD分析をしたとき、2θが18.50°以上19.30°以下に第1のピークが観測され、かつ2θが38.00°以上38.80°以下に第2のピークが観測される場合がある。
【0119】
≪XPS≫
X線光電子分光(XPS)では、表面から2乃至8nm程度(通常5nm程度)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部の約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1原子%程度、検出下限は元素にもよるが約1原子%である。
【0120】
正極活物質100AについてXPS分析をしたとき、コバルトの濃度を1としたときの、マグネシウムの濃度の相対値は1.6以上6.0以下が好ましく、1.8以上4.0未満がより好ましい。またフッ素等のハロゲン濃度の相対値は0.2以上6.0以下が好ましく、1.2以上4.0以下がより好ましい。
【0121】
XPS分析を行う場合には例えば、X線源として単色化アルミニウムを用いることができる。また、取出角は例えば45°とすればよい。
【0122】
また、正極活物質100AについてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。つまり、正極活物質100Aがフッ素を有する場合、フッ化リチウムおよびフッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0123】
さらに、正極活物質100AについてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。つまり、正極活物質100Aがマグネシウムを有する場合、フッ化マグネシウム以外の結合であることが好ましい。
【0124】
≪EDX≫
EDX測定のうち、領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することをEDX面分析と呼ぶ場合がある。またEDXの面分析から、線状の領域のデータを抽出し、原子濃度について正極活物質粒子内の分布を評価することを線分析と呼ぶ場合がある。
【0125】
EDX面分析(例えば元素マッピング)により、内部、表層部および結晶粒界近傍における、マグネシウムおよびフッ素の濃度を定量的に分析することができる。また、EDX線分析により、マグネシウムおよびフッ素の濃度のピークを分析することができる。
【0126】
正極活物質100AについてEDX線分析をしたとき、表層部のマグネシウム濃度のピークは、正極活物質100Aの表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0127】
また正極活物質100Aが有するフッ素の分布は、マグネシウムの分布と重畳することが好ましい。そのためEDX線分析をしたとき、表層部のフッ素濃度のピークは、正極活物質100Aの表面から中心に向かった深さ3nmまでに存在することが好ましく、深さ1nmまでに存在することがより好ましく、深さ0.5nmまでに存在することがさらに好ましい。
【0128】
≪dQ/dVvsV曲線≫
また、本発明の一態様の正極活物質は、高電圧で充電した後、例えば0.2C以下の低いレートで放電すると、放電終了間近に特徴的な電圧の変化が表れることがある。この変化は、放電曲線から求めたdQ/dVvsV曲線において、3.5Vから3.9Vの範囲に、少なくとも1つのピークが存在することで明瞭に確かめることができる。
【0129】
[正極活物質の作製方法1]
次に、
図6及び
図7を用いて、本発明の一態様の正極活物質の作製方法の一例について説明する。また
図8及び
図9により具体的な作製方法の他の一例を示す。
【0130】
<ステップS11>
図6のステップS11に示すように、まず混合物902の材料として、フッ素源や塩素源等のハロゲン源およびマグネシウム源を用意する。またリチウム源も用意することが好ましい。
【0131】
フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述するアニール工程で溶融しやすいため好ましい。塩素源としては、例えば塩化リチウム、塩化マグネシウム等を用いることができる。マグネシウム源としては、例えばフッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等を用いることができる。リチウム源としては、例えばフッ化リチウム、炭酸リチウムを用いることができる。つまり、フッ化リチウムはリチウム源としてもフッ素源としても用いることができる。またフッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。
【0132】
本実施の形態では、フッ素源およびリチウム源としてフッ化リチウムLiFを用意し、フッ素源およびマグネシウム源としてフッ化マグネシウムMgF
2を用意することとする(
図6の具体例として、
図8のステップS11)。フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF
2は、LiF:MgF
2=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる(非特許文献4)。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムLiFとフッ化マグネシウムMgF
2のモル比は、LiF:MgF
2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF
2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF
2=x:1(x=0.33近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0133】
また、次の混合および粉砕工程を湿式で行う場合は、溶媒を用意する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、アセトンを用いることとする(
図8のステップS11参照)。
【0134】
<ステップS12>
次に、上記の混合物902の材料を混合および粉砕する(
図6および
図8のステップS12)。混合は乾式または湿式で行うことができるが、湿式はより小さく粉砕することができるため好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。この混合および粉砕工程を十分に行い、混合物902を微粉化することが好ましい。
【0135】
<ステップS13、ステップS14>
上記で混合、粉砕した材料を回収し(
図6および
図8のステップS13)、混合物902を得る(
図6および
図8のステップS14)。
【0136】
混合物902は、例えばD50が600nm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上10μm以下であることがより好ましい。このように微粉化された混合物902ならば、後の工程でリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と混合したときに、複合酸化物の粒子の表面に混合物902を均一に付着させやすい。複合酸化物の粒子の表面に混合物902が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物粒子の表層部にもれなくハロゲンおよびマグネシウムを分布させやすいため好ましい。表層部にハロゲンおよびマグネシウムが含まれない領域があると、充電状態において前述の擬スピネル型の結晶構造になりにくいおそれがある。
【0137】
次に、ステップS21乃至ステップS25を経て、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を得る。
【0138】
<ステップS21>
まず、
図6のステップS21に示すように、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物の材料として、リチウム源および遷移金属源を用意する。
【0139】
リチウム源としては、例えば炭酸リチウム、フッ化リチウム等を用いることができる。
【0140】
遷移金属としては例えば、コバルト、マンガン、ニッケルの少なくとも一を用いることができる。
【0141】
正極活物質として層状岩塩型の結晶構造を用いる場合、材料の比は、層状岩塩型をとりうるコバルト、マンガン、ニッケルの混合比とすればよい。また、層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲で、これらの遷移金属にアルミニウムを加えてもよい。
【0142】
遷移金属源としては、上記遷移金属の酸化物、水酸化物等を用いることができる。コバルト源としては、例えば酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。マンガン源としては、酸化マンガン、水酸化マンガン等を用いることができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、等を用いることができる。
【0143】
<ステップS22>
次に、上記のリチウム源および遷移金属源を混合する(
図6のステップS22)。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0144】
<ステップS23>
次に、上記で混合した材料を加熱する。本工程は、後の加熱工程との区別のために、焼成または第1の加熱という場合がある。加熱は800℃以上1100℃未満で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、出発材料の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、遷移金属が過剰に還元される、リチウムが蒸散するなどの原因で欠陥が生じるおそれがある。例えばコバルトが2価となる欠陥が生じうる。
【0145】
加熱時間は、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。焼成は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気(例えば露点-50℃以下、より好ましくは-100℃以下)で行うことが好ましい。例えば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材料を室温まで冷却することができる。例えば規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0146】
ただし、ステップS23における室温までの冷却は必須ではない。その後のステップS24、ステップS25およびステップS31乃至ステップS34の工程を行うのに問題がなければ、冷却は室温より高い温度までとしてもよい。
【0147】
なお、正極活物質が有する金属については、上述のステップS22およびステップS23において導入してもよいし、金属のうち一部については後述するステップS41乃至ステップS46において導入することもできる。より具体的には、ステップS22およびステップS23において金属M1(M1はコバルト、マンガン、ニッケルおよびアルミニウムより選ばれる一以上)を導入し、ステップS41乃至ステップS46において金属M2(M2は例えば、マンガン、ニッケルおよびアルミニウムより選ばれる一以上)を導入する。このように、金属M1と金属M2を導入する工程を分けることにより、それぞれの金属の深さ方向のプロファイルを変えることができる場合がある。例えば、粒子の内部に比べて表層部で金属M2の濃度を高めることができる。また、金属M1の原子数を基準とし、該基準に対する金属M2の原子数の比を、内部よりも表層部において、より高くすることができる。
【0148】
本発明の一態様の正極活物質において好ましくは、金属M1としてコバルトを選択し、金属M2としてニッケルおよびアルミニウムを選択する。
【0149】
<ステップS24、ステップS25>
上記で焼成した材料を回収し(
図6のステップS24)、正極活物質100Cとして、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を得る(
図6のステップS25)。具体的には、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、コバルトの一部がマンガンで置換されたコバルト酸リチウム、またはニッケル-マンガン-コバルト酸リチウムを得る。
【0150】
また、ステップS25としてあらかじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を用いてもよい(
図8参照)。この場合、ステップS21乃至ステップS24を省略することができる。
【0151】
あらかじめ合成されたリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物を用いる場合、不純物の少ないものを用いることが好ましい。本明細書等では、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物、および正極活物質について主成分をリチウム、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウムおよび酸素とし、上記主成分以外の元素を不純物とする。例えばグロー放電質量分析法で分析したとき、不純物濃度があわせて10,000ppm wt以下であることが好ましく、5000ppm wt以下がより好ましい。特に、チタンおよびヒ素等の遷移金属の不純物濃度があわせて3000ppm wt以下であることが好ましく、1500ppm wt以下であることがより好ましい。
【0152】
例えば、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムとして、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-10N)を用いることができる。これは平均粒子径(D50)が約12μmであり、グロー放電質量分析法(GD-MS)による不純物分析において、マグネシウム濃度およびフッ素濃度が50ppm wt以下、カルシウム濃度、アルミニウム濃度およびシリコン濃度が100ppm wt以下、ニッケル濃度が150ppm wt以下、硫黄濃度が500ppm wt以下、ヒ素濃度が1100ppm wt以下、その他のリチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度が150ppm wt以下である、コバルト酸リチウムである。
【0153】
または、日本化学工業株式会社製のコバルト酸リチウム粒子(商品名:セルシードC-5H)を用いることもできる。これは平均粒子径(D50)が約6.5μmであり、GD-MSによる不純物分析において、リチウム、コバルトおよび酸素以外の元素濃度がC-10Nと同程度かそれ以下である、コバルト酸リチウムである。
【0154】
本実施の形態では、遷移金属としてコバルトを用い、あらかじめ合成されたコバルト酸リチウム粒子(日本化学工業株式会社製セルシードC-10N)を用いることとする(
図8参照)。
【0155】
ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物は欠陥およびひずみの少ない層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。そのため、不純物の少ない複合酸化物であることが好ましい。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物に不純物が多く含まれると、欠陥またはひずみの多い結晶構造となる可能性が高い。
【0156】
ここで、正極活物質100Cがクラックを有する場合がある。クラックは例えば、ステップS21乃至ステップS25のいずれかの過程、あるいは複数の過程で発生する。例えば、ステップS23における焼成の過程で発生する。焼成の温度、焼成の昇温または降温の速度、等の条件により、発生するクラックの数が変化する場合がある。また例えば、混合および粉砕などの工程で発生する可能性もある。
【0157】
<ステップS31>
次に、混合物902と、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物と、を混合する(
図6および
図8のステップS31)。リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中の遷移金属の原子数TMと、混合物902が有するマグネシウムの原子数MgMix1との比は、TM:MgMix1=1:y(0.005≦y≦0.05)であることが好ましく、TM:MgMix1=1:y(0.007≦y≦0.04)であることがより好ましく、TM:MgMix1=1:0.02程度がさらに好ましい。
【0158】
ステップS31の混合は、複合酸化物の粒子を破壊しないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。
【0159】
<ステップS32、ステップS33>
上記で混合した材料を回収し(
図6および
図8のステップS32)、混合物903を得る(
図6および
図8のステップS33)。
【0160】
なお、本実施の形態ではフッ化リチウムおよびフッ化マグネシウムの混合物を、不純物の少ないコバルト酸リチウムに添加する方法について説明しているが、本発明の一態様はこれに限らない。ステップS33の混合物903の代わりに、コバルト酸リチウムの出発材料にマグネシウム源およびフッ素源を添加して焼成したものを用いてもよい。この場合は、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21乃至ステップS25の工程を分ける必要がないため簡便で生産性が高い。
【0161】
または、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。マグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いれば、ステップS32までの工程を省略することができより簡便である。
【0162】
さらに、あらかじめマグネシウムおよびフッ素が添加されたコバルト酸リチウムに、さらにマグネシウム源およびフッ素源を添加してもよい。
【0163】
<ステップS34>
次に、混合物903を加熱する。本工程は、先の加熱工程との区別のために、アニールまたは第2の加熱という場合がある。
【0164】
アニールは、適切な温度および時間で行うことが好ましい。適切な温度および時間は、ステップS25のリチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物の粒子の大きさおよび組成等の条件により変化する。粒子が小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0165】
例えばステップS25の粒子の平均粒子径(D50)が12μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば3時間以上が好ましく、10時間以上がより好ましく、60時間以上がさらに好ましい。
【0166】
一方、ステップS25の粒子の平均粒子径(D50)が5μm程度の場合、アニール温度は例えば600℃以上950℃以下が好ましい。アニール時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、2時間程度がより好ましい。
【0167】
アニール後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0168】
混合物903をアニールすると、まず混合物902のうち融点の低い材料(例えばフッ化リチウム、融点848℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる。次に、この溶融した材料の存在により他の材料の融点降下が起こり、他の材料が溶融すると推測される。例えば、フッ化マグネシウム(融点1263℃)が溶融し、複合酸化物粒子の表層部に分布すると考えられる。
【0169】
そして表層部に分布した混合物902が有する元素は、リチウム、遷移金属および酸素を有する複合酸化物中に固溶すると考えられる。
【0170】
この混合物902が有する元素の拡散は、複合酸化物粒子の内部よりも、表層部および粒界近傍の方が速い。そのためマグネシウムおよびハロゲンは、表層部および粒界近傍において、内部よりも高濃度となる。後述するが表層部および粒界近傍のマグネシウム濃度が高いと、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0171】
<ステップS35、ステップS36>
上記でアニールした材料を回収し(
図6及び
図8のステップS35)、正極活物質100A_1を得る(
図6及び
図8のステップS36)。
【0172】
[正極活物質の作製方法2]
ステップS36において得られる正極活物質100A_1にさらなる処理を施してもよい。ここでは金属Zを添加するための処理を行う。該処理をステップS25よりも後に行うことにより、正極活物質の粒子表層部における金属Zの濃度を内部に比べて高くすることができる場合があり、好ましい。
【0173】
また金属Zの添加は例えば、ステップS31において、混合物902等とともに金属Zを有する材料を混合することにより行ってもよい。この場合は工程数を減らして簡略化できるため好ましい。
【0174】
あるいは、以降に説明する通り、ステップS31乃至ステップS35の後に金属Zの添加工程を行ってもよい。この場合は例えば、マグネシウムと金属Zとの化合物の形成を抑制できる場合がある。
【0175】
以下に示すステップS41乃至ステップS53を経て、本発明の一態様の正極活物質において、金属Zを添加する。金属Zの添加は例えば、ゾルゲル法をはじめとする液相法、固相法、スパッタリング法、蒸着法、CVD(化学気相成長)法、PLD(パルスレーザデポジション)法等の方法を適用することができる。先に述べた金属M2の添加は例えば、以降に説明する金属Zの添加工程を用いて行うことができる。
【0176】
<ステップS41>
図7に示すように、まずステップS41において、金属源を準備する。また、ゾルゲル法を適用する場合には、ゾルゲル法に用いる溶媒を準備する。金属源としては、金属アルコキシド、金属水酸化物、金属酸化物、等を用いることができる。金属Zがアルミニウムの場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有するアルミニウムの濃度が0.001倍以上0.02倍以下となればよい。金属Zがニッケルの場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有するニッケルの濃度が0.001倍以上0.02倍以下となればよい。金属Zがアルミニウムおよびニッケルの場合には例えば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、金属源が有するアルミニウムの濃度が0.001倍以上0.02倍以下、かつ、金属源が有するニッケルの濃度が0.001倍以上0.02倍以下となればよい。
【0177】
ここでは一例として、ゾルゲル法を適用し、金属源としてアルミニウムイソプロポキシドを、溶媒としてイソプロパノールを用いる例を示す(
図9のステップS41)。
【0178】
<ステップS42>
次に、アルミニウムアルコキシドをアルコールに溶解させ、さらにコバルト酸リチウム粒子を混合する(
図7及び
図9のステップS42)。
【0179】
コバルト酸リチウムの粒径によって、金属アルコキシドの必要量は異なる。たとえばアルミニウムイソプロポキシドを用いる場合でコバルト酸リチウムの粒径(D50)が20μm程度ならば、コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子数を1とし、アルミニウムイソプロポキシドが有するアルミニウムの濃度が0.001倍以上0.02倍以下となるよう加えることが好ましい。
【0180】
次に、金属アルコキシドのアルコール溶液とコバルト酸リチウムの粒子の混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水と金属アルコキシドが加水分解および重縮合反応を起こすのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relative Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。また、湿度制御、および温度制御がされていない雰囲気下、例えばドラフトチャンバー内の大気雰囲気下において攪拌を行ってもよい。そのような場合には攪拌時間をより長くすることが好ましく、例えば室温において12時間以上、とすればよい。
【0181】
雰囲気中の水蒸気と金属アルコキシドを反応させることで、液体の水を加える場合よりもゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。また常温で金属アルコキシドと水を反応させることで、たとえば溶媒のアルコールの沸点を超える温度で加熱を行う場合よりもゆっくりとゾルゲル反応を進めることができる。ゆっくりとゾルゲル反応を進めることで、厚さが均一で良質な被覆層を形成することができる。
【0182】
<ステップS43、ステップS44>
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する(
図7及び
図9のステップS43)。回収方法としては、ろ過、遠心分離、蒸発乾固等を適用することができる。沈殿物は金属アルコキシドを溶解させた溶媒と同じアルコールで洗浄することができる。なお、蒸発乾固を適用する場合には、本ステップにおいては溶媒と沈殿物の分離を行なわなくてもよく、例えば次のステップ(ステップS44)の乾燥工程において、沈殿物を回収すればよい。
【0183】
次に、回収した残渣を乾燥し、混合物904を得る(
図7及び
図9のステップS44)。乾燥工程は例えば、80℃で1時間以上4時間以下、真空または通風乾燥することができる。
【0184】
<ステップS45>
次に、得られた混合物904を焼成する(
図7及び
図9のステップS45)。
【0185】
焼成時間は、規定温度の範囲内での保持時間を1時間以上50時間以下とすることが好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。焼成時間が短すぎると表層部に形成される金属Zを有する化合物の結晶性が低い場合がある。あるいは、金属Zの拡散が不充分となる場合がある。あるいは有機物が表面に残存する場合がある。しかし焼成時間が長すぎると、金属Zの拡散が進みすぎて表層部および結晶粒界近傍の濃度が低くなる恐れがある。また、生産性が低下する。
【0186】
規定温度としては500℃以上1200℃以下が好ましく、700℃以上920℃以下がより好ましく、800℃以上900℃以下がさらに好ましい。規定温度が低すぎると表層部に形成される金属Zを有する化合物の結晶性が低い場合がある。あるいは、金属Zの拡散が不充分となる場合がある。あるいは有機物が表面に残存する場合がある。
【0187】
また、焼成は酸素を含む雰囲気で行うことが好ましい。酸素分圧が低い場合、焼成温度をより低くしないとCoが還元するおそれがある。
【0188】
本実施の形態では、規定温度を850℃として2時間保持することとし、昇温は200℃/h、酸素の流量は10L/minとする。
【0189】
焼成後の冷却は、冷却時間を長くとると、結晶構造を安定させやすく好ましい。たとえば、規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。ここで、ステップS45における焼成温度は、ステップS34における焼成温度よりも低い、ことが好ましい。
【0190】
<ステップS46、ステップS47>
次に、冷却された粒子を回収する(
図7及び
図9のステップS46)。さらに、粒子をふるいにかけることが好ましい。上記の工程で、本発明の一態様の正極活物質100A_2を作製することができる(
図7及び
図9のステップS47)。
【0191】
また、ステップS47の後、ステップS41からステップS46を繰り返して処理を行ってもよい。繰り返し回数は、1回でもよく、2回以上でもよい。
【0192】
また、複数回処理を行う場合に用いる金属源の種類は、同じものでもよいし、異なっていてもよい。異なるものを用いる場合、たとえば1回目の処理でアルミニウム源を用い、2回目の処理でニッケル源を用いることができる。
【0193】
<ステップS51>
次に、第1の原料901として、元素Xを有する化合物を用意する(
図7及び
図9のステップS51)。
【0194】
ステップS51において、第1の原料901を粉砕してもよい。粉砕には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。粉砕後に得られた粉体を、ふるいを用いて分級してもよい。
【0195】
第1の原料901は元素Xを有する化合物であり、元素Xとして、リンを用いることができる。また第1の原料901は、元素Xと酸素の結合を有する化合物であることが好ましい。
【0196】
第1の原料901として例えば、リン酸化合物を用いることができる。リン酸化合物として元素Dを有するリン酸化合物を用いることができる。元素Dはリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、亜鉛、コバルト、鉄、マンガンおよびアルミニウムから選ばれる一以上の元素である。また元素Dに加えて水素を有するリン酸化合物を用いることができる。またリン酸化合物としてリン酸アンモニウム、および元素Dを有するアンモニウム塩を用いることができる。
【0197】
リン酸化合物としてリン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸一水素マグネシウム、リン酸コバルトリチウム、等が挙げられる。正極活物質として特に、リン酸リチウム、リン酸マグネシウムを用いることが好ましい。
【0198】
本実施の形態では、第1の原料901としてリン酸リチウムを用いる(
図7及び
図9のステップS51)。
【0199】
<ステップS52>
次に、ステップS51で得られる第1の原料901と、ステップS47で得られる正極活物質100A_2とを混合する(
図7及び
図9のステップS52)。第1の原料901は、ステップS25で得られる正極活物質100A_2が1molに対して、0.01mol以上0.1.mol以下、より好ましくは0.02mol以上0.08mol以下の量を混合することが好ましい。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。混合後に得られた粉体を、ふるいを用いて分級してもよい。
【0200】
<ステップS53>
次に、上記で混合した材料を加熱する(
図7及び
図9のステップS53)。正極活物質の作製において、本ステップを行わなくても構わない場合がある。加熱を行う場合には300℃以上1200℃未満で行うことが好ましく、550℃以上950℃以下で行うことがより好ましく、750℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、出発材料の分解および溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、遷移金属が過剰に還元される、リチウムが蒸散するなどの原因で欠陥が生じるおそれがある。
【0201】
加熱により、正極活物質100A_2と第1の原料901の反応物が生成する場合がある。
【0202】
加熱時間は、2時間以上60時間以下とすることが好ましい。焼成は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気(例えば露点-50℃以下、より好ましくは-100℃以下)で行うことが好ましい。例えば1000℃で10時間加熱することとし、昇温は200℃/h、乾燥雰囲気の流量は10L/minとすることが好ましい。その後加熱した材料を室温まで冷却することができる。例えば規定温度から室温までの降温時間を10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0203】
ただし、ステップS53における室温までの冷却は必須ではない。その後のステップS54の工程を行うのに問題がなければ、冷却は室温より高い温度までとしてもよい。
【0204】
<ステップS54>
上記で焼成した材料を回収し(
図7及び
図9のステップS54)、元素Dを有する正極活物質100A_3を得る。
【0205】
正極活物質100A_1、正極活物質100A_2および正極活物質100A_3について、
図2等にて述べた正極活物質100Aに関する記載を参照することができる。
【0206】
(実施の形態2)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池に用いることのできる材料の例について説明する。本実施の形態では、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0207】
[正極]
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。
【0208】
<正極活物質層>
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を有する。また、正極活物質層は、正極活物質に加えて、活物質表面の被膜、導電助剤またはバインダなどの他の物質を含んでもよい。
【0209】
正極活物質としては、先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることができる。先の実施の形態で説明した正極活物質100を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池とすることができる。
【0210】
導電助剤としては、炭素材料、金属材料、又は導電性セラミックス材料等を用いることができる。また、導電助剤として繊維状の材料を用いてもよい。活物質層の総量に対する導電助剤の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
【0211】
導電助剤により、活物質層中に電気伝導のネットワークを形成することができる。導電助剤により、正極活物質どうしの電気伝導の経路を維持することができる。活物質層中に導電助剤を添加することにより、高い電気伝導性を有する活物質層を実現することができる。
【0212】
導電助剤としては、例えば天然黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛、炭素繊維などを用いることができる。炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。また、導電助剤として、例えばカーボンブラック(アセチレンブラック(AB)など)、グラファイト(黒鉛)粒子、グラフェン、フラーレンなどの炭素材料を用いることができる。また、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金などの金属粉末や金属繊維、導電性セラミックス材料等を用いることができる。
【0213】
また、導電助剤としてグラフェン化合物を用いてもよい。
【0214】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物は平面的な形状を有する。グラフェン化合物は、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電助剤として用いることにより、活物質と導電助剤との接触面積を増大させることができるため好ましい。スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化合物を被膜として形成することが好ましい。また、電気的な抵抗を減少できる場合があるため好ましい。ここでグラフェン化合物として例えば、グラフェン、マルチグラフェン、又はRGOを用いることが特に好ましい。ここで、RGOは例えば、酸化グラフェン(graphene oxide:GO)を還元して得られる化合物を指す。
【0215】
粒径の小さい活物質、例えば1μm以下の活物質を用いる場合には、活物質の比表面積が大きく、活物質同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。そのため導電助剤の量が多くなりがちであり、相対的に活物質の担持量が減少してしまう傾向がある。活物質の担持量が減少すると、二次電池の容量が減少してしまう。このような場合には、導電助剤としてグラフェン化合物を用いると、グラフェン化合物は少量でも効率よく導電パスを形成することができるため、活物質の担持量を減らさずに済み、特に好ましい。
【0216】
以下では一例として、活物質層200に、導電助剤としてグラフェン化合物を用いる場合の断面構成例を説明する。
【0217】
図10(A)に、活物質層200の縦断面図を示す。活物質層200は、粒状の正極活物質100と、導電助剤としてのグラフェン化合物201と、バインダ(図示せず)と、を含む。ここで、グラフェン化合物201として例えばグラフェンまたはマルチグラフェンを用いればよい。ここで、グラフェン化合物201はシート状の形状を有することが好ましい。また、グラフェン化合物201は、複数のマルチグラフェン、または(および)複数のグラフェンが部分的に重なりシート状となっていてもよい。
【0218】
活物質層200の縦断面においては、
図10(B)に示すように、活物質層200の内部において概略均一にシート状のグラフェン化合物201が分散する。
図10(B)においてはグラフェン化合物201を模式的に太線で表しているが、実際には炭素分子の単層又は多層の厚みを有する薄膜である。複数のグラフェン化合物201は、複数の粒状の正極活物質100を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質100の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触している。
【0219】
ここで、複数のグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積や電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の容量を増加させることができる。
【0220】
ここで、グラフェン化合物201として酸化グラフェンを用い、活物質と混合して活物質層200となる層を形成後、還元することが好ましい。グラフェン化合物201の形成に、極性溶媒中での分散性が極めて高い酸化グラフェンを用いることにより、グラフェン化合物201を活物質層200の内部において概略均一に分散させることができる。均一に分散した酸化グラフェンを含有する分散媒から溶媒を揮発除去し、酸化グラフェンを還元するため、活物質層200に残留するグラフェン化合物201は部分的に重なり合い、互いに面接触する程度に分散していることで三次元的な導電パスを形成することができる。なお、酸化グラフェンの還元は、例えば熱処理により行ってもよいし、還元剤を用いて行ってもよい。
【0221】
従って、活物質と点接触するアセチレンブラック等の粒状の導電助剤と異なり、グラフェン化合物201は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電助剤よりも少量で粒状の正極活物質100とグラフェン化合物201との電気伝導性を向上させることができる。よって、正極活物質100の活物質層200における比率を増加させることができる。これにより、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0222】
また、予め、スプレードライ装置を用いることで、活物質の表面全体を覆って導電助剤であるグラフェン化合物を被膜として形成し、さらに活物質同士間をグラフェン化合物で導電パスを形成することもできる。
【0223】
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0224】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉などを用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0225】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0226】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0227】
例えば粘度調整効果の特に優れた材料と、他の材料とを組み合わせて使用してもよい。例えばゴム材料等は接着力や弾性力に優れる反面、溶媒に混合した場合に粘度調整が難しい場合がある。このような場合には例えば、粘度調整効果の特に優れた材料と混合することが好ましい。粘度調整効果の特に優れた材料としては、例えば水溶性高分子を用いるとよい。また、粘度調整効果に特に優れた水溶性高分子としては、前述の多糖類、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体や、澱粉を用いることができる。
【0228】
なお、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えばカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩などの塩とすることにより溶解度が上がり、粘度調整剤としての効果を発揮しやすくなる。溶解度が高くなることにより電極のスラリーを作製する際に活物質や他の構成要素との分散性を高めることもできる。本明細書においては、電極のバインダとして使用するセルロースおよびセルロース誘導体としては、それらの塩も含むものとする。
【0229】
水溶性高分子は水に溶解することにより粘度を安定化させ、また活物質や、バインダとして組み合わせる他の材料、例えばスチレンブタジエンゴムなどを、水溶液中に安定して分散させることができる。また、官能基を有するために活物質表面に安定に吸着しやすいことが期待される。また、例えばカルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体は、例えば水酸基やカルボキシル基などの官能基を有する材料が多く、官能基を有するために高分子同士が相互作用し、活物質表面を広く覆って存在することが期待される。
【0230】
活物質表面を覆う、または表面に接するバインダが膜を形成する場合には、不動態膜としての役割を果たして電解液の分解を抑える効果も期待される。ここで、不動態膜とは、電気の伝導性のない膜、または電気伝導性の極めて低い膜であり、例えば活物質の表面に不動態膜が形成された場合には、電池反応電位において、電解液の分解を抑制することができる。また、不動態膜は、電気の伝導性を抑えるとともに、リチウムイオンは伝導できるとさらに望ましい。
【0231】
<正極集電体>
正極集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状(シート状)、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0232】
[負極]
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電助剤およびバインダを有していてもよい。
【0233】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料や炭素系材料等を用いることができる。
【0234】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等のうち少なくとも一つを含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0235】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。
【0236】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0237】
黒鉛としては、人造黒鉛や、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0238】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0239】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0240】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0241】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0242】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物でも起こる。
【0243】
負極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0244】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0245】
[電解液]
電解液は、溶媒と電解質を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等の1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0246】
また、電解液の溶媒として、難燃性および難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡や、過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂や発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、および四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオンや、イミダゾリウムカチオンおよびピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、またはパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0247】
また、上記の溶媒に溶解させる電解質としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いることができる。
【0248】
二次電池に用いる電解液は、粒状のごみや電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.01%以下とすることが好ましい。
【0249】
また、電解液にビニレンカーボネート、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、またスクシノニトリル、アジポニトリル等のジニトリル化合物などの添加剤を添加してもよい。添加する材料の濃度は、例えば溶媒全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。
【0250】
また、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲル電解質を用いてもよい。
【0251】
ポリマーゲル電解質を用いることで、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化および軽量化が可能である。
【0252】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。
【0253】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマーや、PVDF、およびポリアクリロニトリル等、およびそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0254】
また、電解液の代わりに、硫化物系や酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質や、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータやスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0255】
[セパレータ]
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0256】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミック系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミック系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0257】
セラミック系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充放電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0258】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0259】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0260】
[外装体]
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0261】
[充放電方法]
二次電池の充放電は、例えば下記のように行うことができる。
【0262】
≪CC充電≫
まず、充電方法の1つとしてCC(定電流)充電について説明する。CC充電は、充電期間のすべてで一定の電流を二次電池に流し、所定の電圧になったときに充電を停止する充電方法である。二次電池を、
図11(A)に示すように内部抵抗Rと二次電池容量Cの等価回路と仮定する。この場合、二次電池電圧V
Bは、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rと二次電池容量Cにかかる電圧V
Cの和である。
【0263】
CC充電を行っている間は、
図11(A)に示すように、スイッチがオンになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V
R=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧V
Bは、時間の経過とともに上昇する。
【0264】
そして二次電池電圧V
Bが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、充電を停止する。CC充電を停止すると、
図11(B)に示すように、スイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが0Vとなる。そのため、二次電池電圧V
Bが下降する。
【0265】
CC充電を行っている間と、CC充電を停止してからの、二次電池電圧V
Bと充電電流の例を
図11(C)に示す。CC充電を行っている間は上昇していた二次電池電圧V
Bが、CC充電を停止してから若干低下する様子が示されている。
【0266】
≪CCCV充電≫
次に、上記と異なる充電方法であるCCCV充電について説明する。CCCV充電は、まずCC充電にて所定の電圧まで充電を行い、その後CV(定電圧)充電にて流れる電流が少なくなるまで、具体的には終止電流値になるまで充電を行う充電方法である。
【0267】
CC充電を行っている間は、
図12(A)に示すように、定電流電源のスイッチがオン、定電圧電源のスイッチがオフになり、一定の電流Iが二次電池に流れる。この間、電流Iが一定であるため、V
R=R×Iのオームの法則により、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rも一定である。一方、二次電池容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。そのため、二次電池電圧V
Bは、時間の経過とともに上昇する。
【0268】
そして二次電池電圧V
Bが所定の電圧、例えば4.3Vになったときに、CC充電からCV充電に切り替える。CV充電を行っている間は、
図12(B)に示すように、定電圧電源のスイッチがオン、定電流電源のスイッチがオフになり、二次電池電圧V
Bが一定となる。一方、二次電池容量Cにかかる電圧V
Cは、時間の経過とともに上昇する。V
B=V
R+V
Cであるため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rは、時間の経過とともに小さくなる。内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが小さくなるに従い、V
R=R×Iのオームの法則により、二次電池に流れる電流Iも小さくなる。
【0269】
そして二次電池に流れる電流Iが所定の電流、例えば0.01C相当の電流となったとき、充電を停止する。CCCV充電を停止すると、
図12(C)に示すように、全てのスイッチがオフになり、電流I=0となる。そのため、内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが0Vとなる。しかし、CV充電により内部抵抗Rにかかる電圧V
Rが十分に小さくなっているため、内部抵抗Rでの電圧降下がなくなっても、二次電池電圧V
Bはほとんど降下しない。
【0270】
CCCV充電を行っている間と、CCCV充電を停止してからの、二次電池電圧V
Bと充電電流の例を
図13(A)に示す。CCCV充電を停止しても、二次電池電圧V
Bがほとんど降下しない様子が示されている。
【0271】
≪CC放電≫
次に、放電方法の1つであるCC放電について説明する。CC放電は、放電期間のすべてで一定の電流を二次電池から流し、二次電池電圧VBが所定の電圧、例えば2.5Vになったときに放電を停止する放電方法である。
【0272】
CC放電を行っている間の二次電池電圧V
Bと放電電流の例を
図13(B)に示す。放電が進むに従い、二次電池電圧V
Bが降下していく様子が示されている。
【0273】
次に、放電レート及び充電レートについて説明する。放電レートとは、電池容量に対する放電時の電流の相対的な比率であり、単位Cで表される。定格容量X(Ah)の電池において、1C相当の電流は、X(A)である。2X(A)の電流で放電させた場合は、2Cで放電させたといい、X/5(A)の電流で放電させた場合は、0.2Cで放電させたという。また、充電レートも同様であり、2X(A)の電流で充電させた場合は、2Cで充電させたといい、X/5(A)の電流で充電させた場合は、0.2Cで充電させたという。
【0274】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した正極活物質100を有する二次電池の形状の例について説明する。本実施の形態で説明する二次電池に用いる材料は、先の実施の形態の記載を参酌することができる。
【0275】
[コイン型二次電池]
まずコイン型の二次電池の一例について説明する。
図14(A)はコイン型(単層偏平型)の二次電池の外観図であり、
図14(B)は、その断面図である。
【0276】
コイン型の二次電池300は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされている。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。
【0277】
なお、コイン型の二次電池300に用いる正極304および負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0278】
正極缶301、負極缶302には、電解液に対して耐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えばステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を被覆することが好ましい。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続する。
【0279】
これら負極307、正極304およびセパレータ310を電解質に含浸させ、
図14(B)に示すように、正極缶301を下にして正極304、セパレータ310、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形の二次電池300を製造する。
【0280】
正極304に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れたコイン型の二次電池300とすることができる。
【0281】
ここで
図14(C)を用いて二次電池の充電時の電流の流れを説明する。リチウムを用いた二次電池を一つの閉回路とみなした時、リチウムイオンの動きと電流の流れは同じ向きになる。なお、リチウムを用いた二次電池では、充電と放電でアノード(陽極)とカソード(陰極)が入れ替わり、酸化反応と還元反応とが入れ替わることになるため、反応電位が高い電極を正極と呼び、反応電位が低い電極を負極と呼ぶ。したがって、本明細書においては、充電中であっても、放電中であっても、逆パルス電流を流す場合であっても、充電電流を流す場合であっても、正極は「正極」または「+極(プラス極)」と呼び、負極は「負極」または「-極(マイナス極)」と呼ぶこととする。酸化反応や還元反応に関連したアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いると、充電時と放電時とでは、逆になってしまい、混乱を招く可能性がある。したがって、アノード(陽極)やカソード(陰極)という用語は、本明細書においては用いないこととする。仮にアノード(陽極)やカソード(陰極)という用語を用いる場合には、充電時か放電時かを明記し、正極(プラス極)と負極(マイナス極)のどちらに対応するものかも併記することとする。
【0282】
図14(C)に示す2つの端子には充電器が接続され、二次電池300が充電される。二次電池300の充電が進めば、電極間の電位差は大きくなる。
【0283】
[円筒型二次電池]
次に円筒型の二次電池の例について
図15(A)、(B)、(C)および(D)を参照して説明する。円筒型の二次電池600の外観図を
図15(A)に示す。
図15(B)は、円筒型の二次電池600の断面を模式的に示した図である。、
図15(B)に示すように、円筒型の二次電池600は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面および底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0284】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とがセパレータ605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子はセンターピンを中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602には、電解液に対して耐腐食性のあるニッケル、アルミニウム、チタン等の金属、又はこれらの合金やこれらと他の金属との合金(例えば、ステンレス鋼等)を用いることができる。また、電解液による腐食を防ぐため、ニッケルやアルミニウム等を電池缶602に被覆することが好ましい。電池缶602の内側において、正極、負極およびセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、非水電解液(図示せず)が注入されている。非水電解液は、コイン型の二次電池と同様のものを用いることができる。
【0285】
円筒型の蓄電池に用いる正極および負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603および負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構612に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構612は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構612は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO3)系半導体セラミックス等を用いることができる。
【0286】
また、
図15(C)のように複数の二次電池600を、導電板613および導電板614の間に挟んでモジュール615を構成してもよい。複数の二次電池600は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数の二次電池600を有するモジュール615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0287】
図15(D)はモジュール615の上面図である。図を明瞭にするために導電板613を点線で示した。
図15(D)に示すようにモジュール615は、複数の二次電池600を電気的に接続する導線616を有していてもよい。導線616上に導電板を重畳して設けることができる。また複数の二次電池600の間に温度制御装置617を有していてもよい。二次電池600が過熱されたときは、温度制御装置617により冷却し、二次電池600が冷えすぎているときは温度制御装置617により加熱することができる。そのためモジュール615の性能が外気温に影響されにくくなる。温度制御装置617が有する熱媒体は絶縁性と不燃性を有することが好ましい。
【0288】
正極604に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた円筒型の二次電池600とすることができる。
【0289】
[二次電池の構造例]
二次電池の別の構造例について、
図16(A)乃至
図20(C)を用いて説明する。
【0290】
図16(A)及び
図16(B)は、電池パックの外観図を示す図である。電池パックは、回路基板900および二次電池913を有する。また、二次電池913には、ラベル910が貼られている。さらに、
図16(B)に示すように、二次電池913は、端子951と、端子952を有する。
【0291】
回路基板900は、回路912を有する。端子911は、回路基板900を介して、端子951、端子952、アンテナ914、及び回路912に接続される。なお、端子911を複数設けて、複数の端子911のそれぞれを、制御信号入力端子、電源端子などとしてもよい。
【0292】
回路912は、回路基板900の裏面に設けられていてもよい。なお、アンテナ914は、コイル状に限定されず、例えば線状、板状であってもよい。また、平面アンテナ、開口面アンテナ、進行波アンテナ、EHアンテナ、磁界アンテナ、誘電体アンテナ等のアンテナを用いてもよい。
【0293】
又は、アンテナ914は、平板状の導体でもよい。この平板状の導体は、電界結合用の導体の一つとして機能することができる。つまり、コンデンサの有する2つの導体のうちの一つの導体として、アンテナ914を機能させてもよい。これにより、電磁界、磁界だけでなく、電界で電力のやり取りを行うこともできる。
【0294】
電池パックは、アンテナ914と、二次電池913との間に層916を有する。層916は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層916としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0295】
なお、二次電池の構造は、
図16(A)および(B)に限定されない。
【0296】
例えば、
図17(A1)及び
図17(A2)に示すように、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池913のうち、対向する一対の面のそれぞれにアンテナを設けてもよい。
図17(A1)は、上記一対の面の一方を示した外観図であり、
図17(A2)は、上記一対の面の他方を示した外観図である。なお、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池と同じ部分については、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0297】
図17(A1)に示すように、二次電池913の一対の面の一方に層916を挟んでアンテナ914が設けられ、
図17(A2)に示すように、二次電池913の一対の面の他方に層917を挟んでアンテナ918が設けられる。層917は、例えば二次電池913による電磁界を遮蔽することができる機能を有する。層917としては、例えば磁性体を用いることができる。
【0298】
上記構造にすることにより、アンテナ914及びアンテナ918の両方のサイズを大きくすることができる。アンテナ918は、例えば、外部機器とのデータ通信を行うことができる機能を有する。アンテナ918には、例えばアンテナ914に適用可能な形状のアンテナを適用することができる。アンテナ918を介した二次電池と他の機器との通信方式としては、NFC(近距離無線通信)など、二次電池と他の機器との間で用いることができる応答方式などを適用することができる。
【0299】
又は、
図17(B1)に示すように、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池913に表示装置920を設けてもよい。表示装置920は、端子911に電気的に接続される。なお、表示装置920が設けられる部分にラベル910を設けなくてもよい。なお、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池と同じ部分については、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0300】
表示装置920には、例えば充電中であるか否かを示す画像、蓄電量を示す画像などを表示してもよい。表示装置920としては、例えば電子ペーパー、液晶表示装置、エレクトロルミネセンス(ELともいう)表示装置などを用いることができる。例えば、電子ペーパーを用いることにより表示装置920の消費電力を低減することができる。
【0301】
又は、
図17(B2)に示すように、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池913にセンサ921を設けてもよい。センサ921は、端子922を介して端子911に電気的に接続される。なお、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池と同じ部分については、
図16(A)及び
図16(B)に示す二次電池の説明を適宜援用できる。
【0302】
センサ921としては、例えば、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動、におい、又は赤外線を測定することができる機能を有すればよい。センサ921を設けることにより、例えば、二次電池が置かれている環境を示すデータ(温度など)を検出し、回路912内のメモリに記憶しておくこともできる。
【0303】
さらに、二次電池913の構造例について
図18(A)、(B)及び
図19を用いて説明する。
【0304】
図18(A)に示す二次電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で電解液に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、
図18(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0305】
なお、
図18(B)に示すように、
図18(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、
図18(B)に示す二次電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0306】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、二次電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナ914やアンテナ918などのアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0307】
さらに、捲回体950の構造について
図19に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、セパレータ933と、を有する。捲回体950は、セパレータ933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、セパレータ933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0308】
負極931は、端子951及び端子952の一方を介して
図16(A)および(B)に示す端子911に接続される。正極932は、端子951及び端子952の他方を介して
図16(A)および(B)に示す端子911に接続される。
【0309】
正極932に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池913とすることができる。
【0310】
[ラミネート型二次電池]
次に、ラミネート型の二次電池の例について、
図20(A)乃至
図26(B)を参照して説明する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。
【0311】
図20(A)、(B)および(C)を用いて、ラミネート型の二次電池980について説明する。ラミネート型の二次電池980は、
図20(A)に示す捲回体993を有する。捲回体993は、負極994と、正極995と、セパレータ996と、を有する。捲回体993は、
図19で説明した捲回体950と同様に、セパレータ996を挟んで負極994と、正極995とが重なり合って積層され、該積層シートを捲回したものである。
【0312】
なお、負極994、正極995およびセパレータ996からなる積層の積層数は、必要な容量と素子体積に応じて適宜設計すればよい。負極994はリード電極997およびリード電極998の一方を介して負極集電体(図示せず)に接続され、正極995はリード電極997およびリード電極998の他方を介して正極集電体(図示せず)に接続される。
【0313】
図20(B)に示すように、外装体となるフィルム981と、凹部を有するフィルム982とを熱圧着などにより貼り合わせて形成される空間に上述した捲回体993を収納することで、
図20(C)に示すように二次電池980を作製することができる。捲回体993は、リード電極997およびリード電極998を有し、フィルム981と、凹部を有するフィルム982との内部で電解液に含浸される。
【0314】
フィルム981と、凹部を有するフィルム982は、例えばアルミニウムなどの金属材料や樹脂材料を用いることができる。フィルム981および凹部を有するフィルム982の材料として樹脂材料を用いれば、外部から力が加わったときにフィルム981と、凹部を有するフィルム982を変形させることができ、可撓性を有する蓄電池を作製することができる。
【0315】
また、
図20(B)および
図20(C)では2枚のフィルムを用いる例を示しているが、1枚のフィルムを折り曲げることによって空間を形成し、その空間に上述した捲回体993を収納してもよい。
【0316】
正極995に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池980とすることができる。
【0317】
また
図20(B)および(C)では外装体となるフィルムにより形成された空間に捲回体を有する二次電池980の例について説明したが、例えば
図21(A)および(B)のように、外装体となるフィルムにより形成された空間に、短冊状の複数の正極、セパレータおよび負極を有する二次電池としてもよい。
【0318】
図21(A)に示すラミネート型の二次電池500は、正極集電体501および正極活物質層502を有する正極503と、負極集電体504および負極活物質層505を有する負極506と、セパレータ507と、電解液508と、外装体509と、を有する。外装体509内に設けられた正極503と負極506との間にセパレータ507が設置されている。また、外装体509内は、電解液508で満たされている。電解液508には、実施の形態2で示した電解液を用いることができる。
【0319】
図21(A)に示すラミネート型の二次電池500において、正極集電体501および負極集電体504は、外部との電気的接触を得る端子の役割も兼ねている。そのため、正極集電体501および負極集電体504の一部は、外装体509から外側に露出するように配置してもよい。また、正極集電体501および負極集電体504を、外装体509から外側に露出させず、リード電極を用いてそのリード電極と正極集電体501、或いは負極集電体504と超音波接合させてリード電極を外側に露出するようにしてもよい。
【0320】
ラミネート型の二次電池500において、外装体509には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のラミネートフィルムを用いることができる。
【0321】
また、ラミネート型の二次電池500の断面構造の一例を
図21(B)に示す。
図21(A)では簡略のため、2つの集電体で構成する例を示しているが、実際は、
図21(B)に示すように、複数の電極層で構成する。
【0322】
図21(B)では、一例として、電極層数を16としている。なお、電極層数を16としても二次電池500は、可撓性を有する。
図21(B)では負極集電体504が8層と、正極集電体501が8層の合計16層の構造を示している。なお、
図21(B)は負極の取り出し部の断面を示しており、8層の負極集電体504を超音波接合させている。勿論、電極層数は16に限定されず、多くてもよいし、少なくてもよい。電極層数が多い場合には、より多くの容量を有する二次電池とすることができる。また、電極層数が少ない場合には、薄型化でき、可撓性に優れた二次電池とすることができる。
【0323】
ここで、ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図22及び
図23に示す。
図22及び
図23は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。
【0324】
図24(A)は正極503及び負極506の外観図を示す。正極503は正極集電体501を有し、正極活物質層502は正極集電体501の表面に形成されている。また、正極503は正極集電体501が一部露出する領域(以下、タブ領域という)を有する。負極506は負極集電体504を有し、負極活物質層505は負極集電体504の表面に形成されている。また、負極506は負極集電体504が一部露出する領域、すなわちタブ領域を有する。正極及び負極が有するタブ領域の面積や形状は、
図24(A)に示す例に限られない。
【0325】
[ラミネート型二次電池の作製方法]
ここで、
図22に外観図を示すラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図24(B)、(C)を用いて説明する。
【0326】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図24(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0327】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0328】
次に、
図24(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液508を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0329】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液508(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液508の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0330】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、高容量でサイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0331】
[曲げることのできる二次電池]
次に、曲げることのできる二次電池の例について
図25(A)、(B1)、(B2)、(C)、(D)、
図26(A)および(B)を参照して説明する。
【0332】
図25(A)に、曲げることのできる二次電池250の上面概略図を示す。
図25(B1)、(B2)、(C)にはそれぞれ、
図25(A)中の切断線C1-C2、切断線C3-C4、切断線A1-A2における断面概略図である。二次電池250は、外装体251と、外装体251の内部に収容された正極211aおよび負極211bを有する。正極211aと電気的に接続されたリード212a、および負極211bと電気的に接続されたリード212bは、外装体251の外側に延在している。また外装体251で囲まれた領域には、正極211aおよび負極211bに加えて電解液(図示しない)が封入されている。
【0333】
二次電池250が有する正極211aおよび負極211bについて、
図26(A)および(B)を用いて説明する。
図26(A)は、正極211a、負極211bおよびセパレータ214の積層順を説明する斜視図である。
図26(B)は正極211aおよび負極211bに加えて、リード212aおよびリード212bを示す斜視図である。
【0334】
図26(A)に示すように、二次電池250は、複数の短冊状の正極211a、複数の短冊状の負極211bおよび複数のセパレータ214を有する。正極211aおよび負極211bはそれぞれ突出したタブ部分と、タブ以外の部分を有する。正極211aの一方の面のタブ以外の部分に正極活物質層が形成され、負極211bの一方の面のタブ以外の部分に負極活物質層が形成される。
【0335】
正極211aの正極活物質層の形成されていない面同士、および負極211bの負極活物質の形成されていない面同士が接するように、正極211aおよび負極211bは積層される。
【0336】
また、正極211aの正極活物質が形成された面と、負極211bの負極活物質が形成された面の間にはセパレータ214が設けられる。
図26(A)では見やすくするためセパレータ214を点線で示す。
【0337】
また
図26(B)に示すように、複数の正極211aとリード212aは、接合部215aにおいて電気的に接続される。また複数の負極211bとリード212bは、接合部215bにおいて電気的に接続される。
【0338】
次に、外装体251について
図25(B1)、(B2)、(C)、(D)を用いて説明する。
【0339】
外装体251は、フィルム状の形状を有し、正極211aおよび負極211bを挟むように2つに折り曲げられている。外装体251は、折り曲げ部261と、一対のシール部262と、シール部263と、を有する。一対のシール部262は、正極211aおよび負極211bを挟んで設けられ、サイドシールとも呼ぶことができる。また、シール部263は、リード212a及びリード212bと重なる部分を有し、トップシールとも呼ぶことができる。
【0340】
外装体251は、正極211aおよび負極211bと重なる部分に、稜線271と谷線272が交互に並んだ波形状を有することが好ましい。また、外装体251のシール部262及びシール部263は、平坦であることが好ましい。
【0341】
図25(B1)は、稜線271と重なる部分で切断した断面であり、
図25(B2)は、谷線272と重なる部分で切断した断面である。
図25(B1)、(B2)は共に、二次電池250及び正極211aおよび負極211bの幅方向の断面に対応する。
【0342】
ここで、正極211aおよび負極211bの幅方向の端部、すなわち正極211aおよび負極211bの端部と、シール部262との間の距離を距離Laとする。二次電池250に曲げるなどの変形を加えたとき、後述するように正極211aおよび負極211bが長さ方向に互いにずれるように変形する。その際、距離Laが短すぎると、外装体251と正極211aおよび負極211bとが強く擦れ、外装体251が破損してしまう場合がある。特に外装体251の金属フィルムが露出すると、当該金属フィルムが電解液により腐食されてしまう恐れがある。したがって、距離Laを出来るだけ長く設定することが好ましい。一方で、距離Laを大きくしすぎると、二次電池250の体積が増大してしまう。
【0343】
また、積層された正極211aおよび負極211bの合計の厚さが厚いほど、正極211aおよび負極211bと、シール部262との間の距離Laを大きくすることが好ましい。
【0344】
より具体的には、積層された正極211aおよび負極211bおよび図示しないがセパレータ214の合計の厚さをtとしたとき、距離Laは、厚さtの0.8倍以上3.0倍以下、好ましくは0.9倍以上2.5倍以下、より好ましくは1.0倍以上2.0倍以下であることが好ましい。距離Laをこの範囲とすることで、コンパクトで、且つ曲げに対する信頼性の高い電池を実現できる。
【0345】
また、一対のシール部262の間の距離を距離Lbとしたとき、距離Lbを正極211aおよび負極211bの幅(ここでは、負極211bの幅Wb)よりも十分大きくすることが好ましい。これにより、二次電池250に繰り返し曲げるなどの変形を加えたときに、正極211aおよび負極211bと外装体251とが接触しても、正極211aおよび負極211bの一部が幅方向にずれることができるため、正極211aおよび負極211bと外装体251とが擦れてしまうことを効果的に防ぐことができる。
【0346】
例えば、一対のシール部262の間の距離Lbと、負極211bの幅Wbとの差が、正極211aおよび負極211bの厚さtの1.6倍以上6.0倍以下、好ましくは1.8倍以上5.0倍以下、より好ましくは、2.0倍以上4.0倍以下を満たすことが好ましい。
【0347】
言い換えると、距離Lb、幅Wb、及び厚さtが、下記数式1の関係を満たすことが好ましい。
【0348】
【0349】
ここで、aは、0.8以上3.0以下、好ましくは0.9以上2.5以下、より好ましくは1.0以上2.0以下を満たす。
【0350】
また、
図25(C)はリード212aを含む断面であり、二次電池250、正極211aおよび負極211bの長さ方向の断面に対応する。
図25(C)に示すように、折り曲げ部261において、正極211aおよび負極211bの長さ方向の端部と、外装体251との間に空間273を有することが好ましい。
【0351】
図25(D)に、二次電池250を曲げたときの断面概略図を示している。
図25(D)は、
図25(A)中の切断線B1-B2における断面に相当する。
【0352】
二次電池250を曲げると、曲げの外側に位置する外装体251の一部は伸び、内側に位置する他の一部は縮むように変形する。より具体的には、外装体251の外側に位置する部分は、波の振幅が小さく、且つ波の周期が大きくなるように変形する。一方、外装体251の内側に位置する部分は、波の振幅が大きく、且つ波の周期が小さくなるように変形する。このように、外装体251が変形することにより、曲げに伴って外装体251にかかる応力が緩和されるため、外装体251を構成する材料自体が伸縮する必要がない。その結果、外装体251は破損することなく、小さな力で二次電池250を曲げることができる。
【0353】
また、
図25(D)に示すように、二次電池250を曲げると、正極211aおよび負極211bとがそれぞれ相対的にずれる。このとき、複数の積層された正極211aおよび負極211bは、シール部263側の一端が固定部材217で固定されているため、折り曲げ部261に近いほどずれ量が大きくなるように、それぞれずれる。これにより、正極211aおよび負極211bにかかる応力が緩和され、正極211aおよび負極211b自体が伸縮する必要がない。その結果、正極211aおよび負極211bが破損することなく二次電池250を曲げることができる。
【0354】
また、正極211aおよび負極211bと外装体251との間に空間273を有していることにより、曲げた時内側に位置する正極211aおよび負極211bが、外装体251に接触することなく、相対的にずれることができる。
【0355】
図25(A)、(B1)、(B2)、(C)、(D)、
図26(A)および(B)で例示した二次電池250は、繰り返し曲げ伸ばしを行っても、外装体の破損、正極211aおよび負極211bの破損などが生じにくく、電池特性も劣化しにくい電池である。二次電池250が有する正極211aに、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、さらにサイクル特性に優れた電池とすることができる。
【0356】
(実施の形態4)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について説明する。
【0357】
まず実施の形態3の一部で説明した、曲げることのできる二次電池を電子機器に実装する例を
図27(A)乃至
図27(G)に示す。曲げることのできる二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0358】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋やビルの内壁または外壁や、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0359】
図27(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0360】
図27(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図27(C)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0361】
図27(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図27(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0362】
図27(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0363】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0364】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指やスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0365】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0366】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0367】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0368】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図27(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0369】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサや、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0370】
図27(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0371】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0372】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクターを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0373】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0374】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図27(H)、
図28(A)、(B)、(C)および
図29を用いて説明する。
【0375】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、大容量の二次電池が望まれている。
【0376】
図27(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図27(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルやセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電や過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図27(H)に示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0377】
次に、
図28(A)および
図28(B)に、2つ折り可能なタブレット型端末の一例を示す。
図28(A)および
図28(B)に示すタブレット型端末9600は、筐体9630a、筐体9630b、筐体9630aと筐体9630bを接続する可動部9640、表示部9631aと表示部9631bを有する表示部9631、スイッチ9625乃至スイッチ9627、留め具9629、操作スイッチ9628、を有する。表示部9631には、可撓性を有するパネルを用いることで、より広い表示部を有するタブレット端末とすることができる。
図28(A)は、タブレット型端末9600を開いた状態を示し、
図28(B)は、タブレット型端末9600を閉じた状態を示している。
【0378】
また、タブレット型端末9600は、筐体9630aおよび筐体9630bの内部に蓄電体9635を有する。蓄電体9635は、可動部9640を通り、筐体9630aと筐体9630bに渡って設けられている。
【0379】
表示部9631は、全て又は一部の領域をタッチパネルの領域とすることができ、また当該領域に表示されたアイコンを含む画像、文字、入力フォームなどに触れることでデータ入力をすることができる。例えば、筐体9630a側の表示部9631aの全面にキーボードボタンを表示させて、筐体9630b側の表示部9631bに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。
【0380】
また、筐体9630b側の表示部9631bにキーボードを表示させて、筐体9630a側の表示部9631aに文字、画像などの情報を表示させて用いてもよい。また、表示部9631にタッチパネルのキーボード表示切り替えボタンを表示するようにして、当該ボタンに指やスタイラスなどで触れることで表示部9631にキーボードを表示するようにしてもよい。
【0381】
また、筐体9630a側の表示部9631aのタッチパネルの領域と筐体9630b側の表示部9631bのタッチパネルの領域に対して同時にタッチ入力することもできる。
【0382】
また、スイッチ9625乃至スイッチ9627には、タブレット型端末9600を操作するためのインターフェースだけでなく、様々な機能の切り替えを行うことができるインターフェースとしてもよい。例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、タブレット型端末9600の電源のオン・オフを切り替えるスイッチとして機能してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、縦表示又は横表示などの表示の向きを切り替える機能、又は白黒表示やカラー表示の切り替える機能を有してもよい。また、例えば、スイッチ9625乃至スイッチ9627の少なくとも一は、表示部9631の輝度を調整する機能を有してもよい。また、表示部9631の輝度は、タブレット型端末9600に内蔵している光センサで検出される使用時の外光の光量に応じて最適なものとすることができる。なお、タブレット型端末は光センサだけでなく、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサなどの他の検出装置を内蔵させてもよい。
【0383】
また、
図28(A)では筐体9630a側の表示部9631aと筐体9630b側の表示部9631bの表示面積とがほぼ同じ例を示しているが、表示部9631a及び表示部9631bのそれぞれの表示面積は特に限定されず、一方のサイズと他方のサイズが異なっていてもよく、表示の品質も異なっていてもよい。例えば一方が他方よりも高精細な表示を行える表示パネルとしてもよい。
【0384】
図28(B)は、タブレット型端末9600を2つ折りに閉じた状態であり、タブレット型端末9600は、筐体9630、太陽電池9633、DCDCコンバータ9636を含む充放電制御回路9634を有する。また、蓄電体9635として、本発明の一態様に係る蓄電体を用いる。
【0385】
なお、上述の通り、タブレット型端末9600は2つ折りが可能であるため、未使用時に筐体9630aおよび筐体9630bを重ね合せるように折りたたむことができる。折りたたむことにより、表示部9631を保護できるため、タブレット型端末9600の耐久性を高めることができる。また、本発明の一態様の二次電池を用いた蓄電体9635は高容量、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができるタブレット型端末9600を提供できる。
【0386】
また、この他にも
図28(A)および
図28(B)に示したタブレット型端末9600は、様々な情報(静止画、動画、テキスト画像など)を表示する機能、カレンダー、日付又は時刻などを表示部に表示する機能、表示部に表示した情報をタッチ入力操作又は編集するタッチ入力機能、様々なソフトウェア(プログラム)によって処理を制御する機能、等を有することができる。
【0387】
タブレット型端末9600の表面に装着された太陽電池9633によって、電力をタッチパネル、表示部、又は映像信号処理部等に供給することができる。なお、太陽電池9633は、筐体9630の片面又は両面に設けることができ、蓄電体9635の充電を効率的に行う構成とすることができる。なお蓄電体9635としては、リチウムイオン電池を用いると、小型化を図れる等の利点がある。
【0388】
また、
図28(B)に示す充放電制御回路9634の構成、および動作について
図28(C)にブロック図を示し説明する。
図28(C)には、太陽電池9633、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3、表示部9631について示しており、蓄電体9635、DCDCコンバータ9636、コンバータ9637、スイッチSW1乃至SW3が、
図28(B)に示す充放電制御回路9634に対応する箇所となる。
【0389】
まず外光により太陽電池9633により発電がされる場合の動作の例について説明する。太陽電池で発電した電力は、蓄電体9635を充電するための電圧となるようDCDCコンバータ9636で昇圧又は降圧がなされる。そして、表示部9631の動作に太陽電池9633からの電力が用いられる際にはスイッチSW1をオンにし、コンバータ9637で表示部9631に必要な電圧に昇圧又は降圧をすることとなる。また、表示部9631での表示を行わない際には、SW1をオフにし、SW2をオンにして蓄電体9635の充電を行う構成とすればよい。
【0390】
なお太陽電池9633については、発電手段の一例として示したが、特に限定されず、圧電素子(ピエゾ素子)や熱電変換素子(ペルティエ素子)などの他の発電手段による蓄電体9635の充電を行う構成であってもよい。例えば、無線(非接触)で電力を送受信して充電する無接点電力伝送モジュールや、また他の充電手段を組み合わせて行う構成としてもよい。
【0391】
図29に、他の電子機器の例を示す。
図29において、表示装置8000は、本発明の一態様に係る二次電池8004を用いた電子機器の一例である。具体的に、表示装置8000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体8001、表示部8002、スピーカ部8003、二次電池8004等を有する。本発明の一態様に係る二次電池8004は、筐体8001の内部に設けられている。表示装置8000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8004を無停電電源として用いることで、表示装置8000の利用が可能となる。
【0392】
表示部8002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0393】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0394】
図29において、据え付け型の照明装置8100は、本発明の一態様に係る二次電池8103を用いた電子機器の一例である。具体的に、照明装置8100は、筐体8101、光源8102、二次電池8103等を有する。
図29では、二次電池8103が、筐体8101及び光源8102が据え付けられた天井8104の内部に設けられている場合を例示しているが、二次電池8103は、筐体8101の内部に設けられていても良い。照明装置8100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8103を無停電電源として用いることで、照明装置8100の利用が可能となる。
【0395】
なお、
図29では天井8104に設けられた据え付け型の照明装置8100を例示しているが、本発明の一態様に係る二次電池は、天井8104以外、例えば側壁8105、床8106、窓8107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0396】
また、光源8102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0397】
図29において、室内機8200及び室外機8204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る二次電池8203を用いた電子機器の一例である。具体的に、室内機8200は、筐体8201、送風口8202、二次電池8203等を有する。
図29では、二次電池8203が、室内機8200に設けられている場合を例示しているが、二次電池8203は室外機8204に設けられていても良い。或いは、室内機8200と室外機8204の両方に、二次電池8203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機8200と室外機8204の両方に二次電池8203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0398】
なお、
図29では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る二次電池を用いることもできる。
【0399】
図29において、電気冷凍冷蔵庫8300は、本発明の一態様に係る二次電池8304を用いた電子機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫8300は、筐体8301、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303、二次電池8304等を有する。
図29では、二次電池8304が、筐体8301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫8300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、二次電池8304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る二次電池8304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫8300の利用が可能となる。
【0400】
なお、上述した電子機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電子機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る二次電池を用いることで、電子機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0401】
また、電子機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫8300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われない夜間において、二次電池8304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉8302、冷凍室用扉8303の開閉が行われる昼間において、二次電池8304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0402】
本発明の一態様により、二次電池のサイクル特性が良好となり、信頼性を向上させることができる。また、本発明の一態様によれば、高容量の二次電池とすることができ、よって、二次電池の特性を向上することができ、よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。そのため本発明の一態様である二次電池を、本実施の形態で説明した電子機器に搭載することで、より長寿命で、より軽量な電子機器とすることができる。本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0403】
(実施の形態5)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0404】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HEV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHEV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0405】
図30(A)、(B)および(C)において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図30(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は、車内の床部分に対して、
図15(C)および
図15(D)に示した二次電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、
図18(A)および(B)に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401やルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0406】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0407】
図30(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式や非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図30(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法やコネクターの規格等はCHAdeMO(登録商標)やコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0408】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路や外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時や走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式や磁界共鳴方式を用いることができる。
【0409】
また、
図30(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図30(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0410】
また、
図30(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0411】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0412】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0413】
本実施例では、マグネシウム、フッ素およびリンを有する正極活物質を作製し、該正極活物質を用いた正極を有する二次電池を作製し、二次電池の連続充電耐性およびサイクル特性を評価した。
【0414】
<正極活物質の作製>
図8および
図9のフローを参照し、正極活物質の作製を行った。なお、ステップS42乃至ステップS47は行わなかった。
【0415】
まず、マグネシウムおよびフッ素を有する混合物902を作製した(
図8に示すステップS11乃至ステップS14)。LiFとMgF
2のモル比が、LiF:MgF
2=1:3となるよう秤量し、溶媒としてアセトンを加えて湿式で混合および粉砕をした。混合および粉砕はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。処理後の材料を回収し、混合物902とした。
【0416】
次に、コバルトを有する正極活物質を準備した(ステップS25)。ここではあらかじめ合成されたコバルト酸リチウムとして、日本化学工業株式会社製のセルシードC-10Nを用いた。セルシードC-10Nは、D50が12μm程度で不純物の少ないコバルト酸リチウムである。
【0417】
次に、混合物902およびコバルト酸リチウムを混合した(ステップS31)。コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子量に対して、混合物902が有するマグネシウムの原子量の条件振りを行った。条件振りの数値として約0.5%、1.0%、2.0%、3.0%、および6.0%となるように秤量した。作製した正極活物質のそれぞれのマグネシウムの原子量については、後述する表1および表2に示す。混合は、乾式で混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。
【0418】
次に処理後の材料を回収し、混合物903を得た(ステップS32およびステップS33)。
【0419】
次に、混合物903をアルミナ坩堝に入れ、酸素雰囲気のマッフル炉にて850℃、60時間アニールした(ステップS34)。アニールの際には、アルミナ坩堝にふたをした。酸素の流量は10L/minとした。昇温は200℃/hrとし、降温は10時間以上かけて行った。加熱処理後の材料を回収し(ステップS35)、ふるいを行い、マグネシウムの添加量の条件振りがなされた正極活物質(
図8に示す正極活物質100A_1)を得た(ステップS36)。以下、マグネシウム濃度が0.5%、1.0%、2.0%、3.0%および6.0%の正極活物質100A_1をそれぞれ、Sample(サンプル) 11、Sample(サンプル) 12、Sample(サンプル) 13、Sample(サンプル) 14およびSample(サンプル) 15と呼ぶ。後述する正極の作製には、本ステップで得られた正極活物質100A_1と、本ステップの後、以下に説明するステップS51乃至ステップS54を行った正極活物質と、の両方を用いた。
【0420】
その後、
図9に示すステップS42乃至ステップS47による金属添加は行わず、ステップS51に進んだ。
【0421】
次に、リン酸リチウムを準備した(ステップS51)。次に、リン酸リチウムと正極活物質100A_1を混合した(ステップS52)。混合したリン酸リチウムの量は、正極活物質100A_1を1molに対して0.06molに相当する量であった。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。混合後、300μmφのふるいにかけた。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて750℃、20時間アニールした(ステップS53)。その後、53μmφのふるいにかけ、粉体を回収した(ステップS54)。以上の工程を経て、リンを有する化合物が添加され、かつ、マグネシウムの添加量の条件振りがなされた正極活物質(以下、マグネシウム濃度が0.5%、1.0%、2.0%、3.0%および6.0%の正極活物質をそれぞれ、Sample(サンプル) 21、Sample(サンプル) 22、Sample(サンプル) 23、Sample(サンプル) 24およびSample(サンプル) 25と呼ぶ)を得た。
【0422】
<二次電池の作製>
上記で得られた各々の正極活物質を用いて各々の正極を作製した。正極活物質、ABおよびPVDFを活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0423】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。その後、210kN/mで加圧を行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正極の担持量はおよそ20mg/cm2とした。
【0424】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0425】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0426】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)で混合されたものを用いた。なお、サイクル特性の評価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加した。
【0427】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0428】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0429】
<連続充電耐性>
次に、作製した各々の正極活物質を用いた各々の二次電池について、連続充電耐性の評価を行った。まず、充電をCCCV(0.05C、4.5Vまたは4.6V、終止電流0.005C)、放電をCC(0.05C、2.5V)として25℃において2サイクル測定した。
【0430】
その後、60℃にて、充電をCCCV(0.05C)で行った。上限電圧は4.55Vまたは4.65Vとし、終止条件は、二次電池の電圧が上限電圧から0.01V引いた値(4.55Vであれば4.54V)未満に低下するまでの時間を測定した。二次電池の電圧が上限電圧から下回る場合には例えば、ショートなどの現象が生じている可能性がある。1Cは200mA/gとした。
【0431】
それぞれの二次電池について測定された時間を表1および表2に示す。表1はステップS36で得られた正極活物質を用いた結果であり、表2はさらにステップS51乃至ステップS54を経て作製された正極活物質、すなわちリン化合物の添加が行われた正極活物質を用いた結果である。
【0432】
【0433】
【0434】
また、ステップS36で得られた正極活物質を用いた結果について、充電電圧を4.55Vとした場合の時間-電流特性を
図31(A)に、充電電圧を4.65Vとした場合の時間-電流特性を
図31(B)に、それぞれ示す。
【0435】
また、ステップS51乃至ステップS54を経て作製された正極活物質、すなわちリン化合物の添加が行われた正極活物質を用いた結果について、充電電圧を4.55Vとした場合の時間-電流特性を
図32(A)に、充電電圧を4.65Vとした場合の時間-電流特性を
図32(B)に、それぞれ示す。
【0436】
リン化合物の添加を行うことにより、電圧降下が生じるまでの時間が長く、連続充電の耐性が向上することが示唆された。さらに、Mgの添加量が2%の条件において、連続充電の耐性が顕著に向上することが示唆された。
【0437】
<サイクル特性>
次に、作製した各々の正極活物質を用いた二次電池について、サイクル特性の評価を行った。まず、充電をCCCV(0.05C、4.6V、終止電流0.005C)、放電をCC(0.05C、2.5V)として25℃において2サイクル測定した。その後、25℃において、充電をCCCV(0.2C、4.6V、終止電流0.02C)、放電をCC(0.2C、2.5V)で繰り返し充放電を行い、サイクル特性を評価した。
【0438】
図33(A)および(B)の横軸はサイクル、縦軸は放電容量を示す。
図33(A)はステップS36で得られた正極活物質を用いた結果であり、
図33(B)はさらにステップS51乃至ステップS54を経て作製された正極活物質、すなわちリン化合物の添加が行われた正極活物質を用いた結果である。
【0439】
サイクル数に対する容量の減少率に着目すると、マグネシウムの添加濃度による顕著な違いをみることはできない。一方、マグネシウムの添加濃度が高いほど、初期容量の低下が顕著にみられた。これは、活物質重量に占めるリン化合物の割合が高くなり、相対的にコバルトの割合が減少し、充放電反応に寄与する物質の割合が減少するためと考えられる。
【実施例2】
【0440】
本実施例では、マグネシウム、フッ素、コバルトおよびコバルト以外の金属等を有する正極活物質を作製し、該正極活物質を用いた正極を有する二次電池を作製し、二次電池の充電後の正極のXRD、二次電池の連続充電耐性、および二次電池のサイクル特性を評価した。
【0441】
<正極活物質の作製>
図8および
図9のフローを参照し、正極活物質であるSample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35の作製を行った。なお、ステップS51乃至ステップS54は行わなかった。
【0442】
まず、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35について、マグネシウムおよびフッ素を有する混合物902を作製した(ステップS11乃至ステップS14)。LiFとMgF2のモル比が、LiF:MgF2=1:3となるよう秤量し、溶媒としてアセトンを加えて湿式で混合および粉砕をした。混合および粉砕はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。処理後の材料を回収し、混合物902とした。
【0443】
次に、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35について、コバルトを有する正極活物質として、日本化学工業株式会社製のセルシードC-10Nを準備した(ステップS25)。
【0444】
次に、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35について、混合物902およびコバルト酸リチウムを混合した(ステップS31)。コバルト酸リチウムが有するコバルトの原子量に対して、混合物902が有するマグネシウムの原子量が2.0%となるように秤量した。混合は、乾式で混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。
【0445】
次に、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35について、処理後の材料を回収し、混合物903を得た(ステップS32およびステップS33)。
【0446】
次に、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35について、混合物903をアルミナ坩堝に入れ、酸素雰囲気のマッフル炉にて850℃、60時間アニールした(ステップS34)。アニールの際には、アルミナ坩堝にふたをした。酸素の流量は10L/minとした。昇温は200℃/hrとし、降温は10時間以上かけて行った。加熱処理後の材料を回収し、ふるいにかけ(ステップS35)、正極活物質100A_1を得た(ステップS36)。
【0447】
次に、Sample(サンプル) 31乃至Sample(サンプル) 35について、ステップS41乃至ステップS46の処理を行った。なお、Sample(サンプル) 30ではステップS41乃至ステップS46による金属源の添加を行わなかった。まず、Sample(サンプル) 31乃至Sample(サンプル) 35について、ステップS41により、正極活物質100A_1と、金属源とを混合した。また場合により、溶媒も合わせて混合した。
【0448】
<<アルミニウムの添加>>
Sample(サンプル) 31およびSample(サンプル) 32については、ゾル-ゲル法により、正極活物質100A_1にアルミニウムを含む被覆層を形成した。原料としてはAlイソプロポキシドを用いて、溶媒としては2-プロパノールを用いた。アルミニウムの原子量を、Sample(サンプル) 31ではコバルトとアルミニウムの原子量の和に対して0.1%となるように、Sample(サンプル) 32ではコバルトとアルミニウムの原子量の和に対して0.5%となるように、それぞれ処理を行った。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて850℃、2時間アニールした(ステップS45)。その後、53μmφのふるいにかけ、粉体を回収し(ステップS46)、正極活物質としてSample(サンプル) 31およびSample(サンプル) 32を得た。
【0449】
<<ニッケルの添加>>
Sample(サンプル) 33およびSample(サンプル) 34については、金属源である水酸化ニッケルと、正極活物質100A_1と、を混合した。ニッケルの原子量を、Sample(サンプル) 33ではコバルトとニッケルの原子量の和に対して0.1%となるように、Sample(サンプル) 34ではコバルトとニッケルの原子量の和に対して0.5%となるように、それぞれ混合した。混合はジルコニアボールを用いたボールミルで行い、150rpm、1時間行った。混合後、300μmφのふるいにかけた。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて850℃、2時間アニールした(ステップS45)。その後、53μmφのふるいにかけ、粉体を回収し(ステップS46)、正極活物質としてSample(サンプル) 33およびSample(サンプル) 34を得た。
【0450】
<<アルミニウムおよびニッケルの添加>>
Sample(サンプル) 35については、金属源である水酸化ニッケルと、正極活物質100A_1と、をボールミル混合し、その後ゾル-ゲル法により、アルミニウムを含む被覆層を形成した。金属源としてはAlイソプロポキシドを用いて、溶媒としては2-プロパノールを用いた。ニッケルの原子量およびアルミニウムの原子量をそれぞれ、コバルト、ニッケルおよびアルミニウムの原子量の和に対して0.5%となるように混合した。その後、得られた混合物をアルミナ坩堝に入れ、ふたをして、酸素雰囲気にて850℃、2時間アニールした(ステップS45)。その後、53μmφのふるいにかけ、粉体を回収し(ステップS46)、正極活物質としてSample(サンプル) 35を得た。
【0451】
<二次電池の作製>
上記で得られたSample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35を各々、正極活物質として用い、各々の正極を作製した。正極活物質、ABおよびPVDFを活物質:AB:PVDF=95:3:2(重量比)で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0452】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。その後、210kN/mで加圧を行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正極の担持量はおよそ20mg/cm2とした。
【0453】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0454】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0455】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)、で混合されたものを用いた。なお、サイクル特性の評価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加した。
【0456】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0457】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0458】
<正極のXRD>
まず、充放電を行う前に、正極のXRDの評価を行った。
図34(A)および(B)には、充放電を行う前の正極のXRDを示す。2θが18.89°、および2θが38.35°に顕著なピークが観測された。
図34(A)および(B)に示すグラフの横軸は2θ、縦軸はIntensity(強度)である。
【0459】
<充電後の正極のXRD>
次に、作製したそれぞれの二次電池を4.55V、4.6V、4.65Vおよび4.7Vのうち一条件ずつ選んでCCCV充電した。具体的には25℃において、各電圧まで0.2Cで定電流充電した後、電流値が0.02Cとなるまで定電圧充電した。なおここでは1Cは191mA/gとした。そして充電状態の二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体して正極を取り出し、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄して電解液を取り除いた。そしてアルゴン雰囲気の密閉容器に封入し、XRD解析を行った。
【0460】
図35(A)および(B)には、Sample(サンプル) 35について、それぞれの充電電圧条件に対応するXRDを示す。
図35(A)および(B)に示すグラフの横軸は2θ、縦軸はIntensity(強度)である。
【0461】
図35(A)には2θが18°から20°の範囲で観測されるピークを示す。充電電圧が4.55Vの条件で観測されるピークはO3型結晶構造に起因すると考えられる。充電電圧が高くなるのに伴い、ピーク位置は高角度側に移動する。充電電圧が4.65Vの条件においては、18.9°近傍のピークに加えて、19.2°近傍にもピークが観測され、O3型結晶構造と擬スピネル型の結晶構造の二つの結晶構造を有する二相混合の状態であることが示唆される。充電電圧が4.7Vの条件において観測される19.3°近傍のピークは擬スピネル型の結晶構造に起因すると考えられる。
【0462】
図35(B)には2θが40°から50°の範囲で観測されるピークを示す。充電電圧を高くしていくと、4.7Vにおいて43.9°近傍にH1-3型結晶構造を示唆するピークが弱く観測されるようになる。
【0463】
以上より、本発明の一態様の正極活物質において、充電電圧を高くしていくと、4.65VではO3型結晶構造から擬スピネル型の結晶構造に変化する領域が生じると考えられ、さらに4.7Vまで高くしても、H1-3型結晶構造が混在するものの、主として擬スピネル型の結晶構造を有すると考えられ、本発明の一態様の正極活物質は、高い充電電圧においても安定性が高いことが示唆された。
【0464】
<連続充電耐性>
次に、二次電池の連続充電耐性の評価を行った。まず、Sample(サンプル) 30乃至Sample(サンプル) 35を正極活物質としてそれぞれ用いた二次電池を、充電をCCCV(0.05C、4.5Vまたは4.6V、終止電流0.005C)、放電をCC(0.05C、2.5V)として25℃において2サイクル測定した。
【0465】
その後、60℃にて、充電をCCCV(0.05C)で行った。上限電圧は4.55Vまたは4.65Vとし、終止条件は、二次電池の電圧が上限電圧から0.01V引いた値(4.55Vであれば4.54V)未満に低下するまでの時間を測定した。二次電池の電圧が上限電圧から下回る場合には例えば、ショートなどの現象が生じている可能性がある。1Cは200mA/gとした。
【0466】
それぞれの二次電池について測定された時間を表3に示す。なお、各条件について二次電池を2つずつ作製した。表3には2つの結果の平均値を示す。
【0467】
【0468】
またSample(サンプル) 30、Sample(サンプル) 32、Sample(サンプル) 34およびSample(サンプル) 35を用いた結果について、充電電圧を4.55Vとした場合の時間-電流特性を
図36(A)に、充電電圧を4.65Vとした場合の時間-電流特性を
図36(B)に、それぞれ示す。
【0469】
アルミニウムの添加を行うことにより、電圧降下が生じるまでの時間が長く、連続充電の耐性が向上することが示唆された。またニッケルのみの添加を行う場合に比べ、ニッケルとアルミニウムとを添加することにより、連続充電に対する耐性の向上が顕著にみられた。
【0470】
<サイクル特性>
次に、Sample(サンプル) 30、Sample(サンプル) 32、Sample(サンプル) 34およびSample(サンプル) 35を用いた二次電池についてサイクル特性の評価を行った。まず、充電をCCCV(0.05C、4.6V、終止電流0.005C)、放電をCC(0.05C、2.5V)として25℃において2サイクル測定した。その後、25℃において、充電をCCCV(0.2C、4.6V、終止電流0.02C)、放電をCC(0.2C、2.5V)で繰り返し充放電を行い、サイクル特性を評価した。
【0471】
サイクル特性の結果を
図37に示す。
図37の横軸はサイクル、縦軸は放電容量を示す。また、
図38(A)にはSample(サンプル) 32、
図38(B)にはSample(サンプル) 34、
図38(C)にはSample(サンプル) 35の初回の充放電カーブを示す。ニッケルの添加により初期容量の向上がみられた(Sample(サンプル) 34)。また、ニッケルやアルミニウムを添加することにより、サイクルに伴う容量減少が抑制されることが示唆され、特に、ニッケルとアルミニウムを添加した条件(Sample(サンプル) 35)において、より優れた結果が得られた。
【実施例3】
【0472】
本実施例では、直流抵抗測定により正極の評価を行った。
【0473】
<二次電池の作製>
実施例1に示すSample(サンプル) 11を正極活物質として用い、正極を作製した。正極活物質、カーボンブラックおよびPVDFを活物質:カーボンブラック:PVDF=90:5:5(重量比)で混合したスラリーを集電体に塗工したものを用いた。スラリーの溶媒としてNMPを用いた。
【0474】
集電体にスラリーを塗工した後、溶媒を揮発させた。その後、210kN/mで加圧を行った後、さらに1467kN/mで加圧を行った。以上の工程により、正極を得た。正極の担持量はおよそ20mg/cm2とした。
【0475】
作製した正極を用いて、CR2032タイプ(直径20mm高さ3.2mm)のコイン型の二次電池を作製した。
【0476】
対極にはリチウム金属を用いた。
【0477】
電解液が有する電解質には、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用い、電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)がEC:DEC=3:7(体積比)で混合されたものを用いた。なお、サイクル特性の評価を行った二次電池については、電解液にビニレンカーボネート(VC)を2wt%添加した。
【0478】
セパレータには厚さ25μmのポリプロピレンを用いた。
【0479】
正極缶及び負極缶には、ステンレス(SUS)で形成されているものを用いた。
【0480】
<充放電サイクル試験>
直流抵抗は、充放電サイクル試験を行う前、および充放電サイクル試験を50サイクル行った後に測定した。充放電サイクル試験は実施例1に示す条件を参照した。
【0481】
<直流抵抗測定>
次に、作製した二次電池を用いて直流抵抗測定を行った。測定装置は電気化学測定システム 株式会社北斗電工 HJ1001SM8A型を用いた。
【0482】
まず、25℃で4.5VまでCCCVで充電を行った後、休止を20分間行った。次に、3.0VまでCC放電を行った後、休止を20分間行った。測定で得られた放電容量を基準とし、SOC条件を振って以下の通り、直流抵抗測定を行った。
【0483】
まず、25℃において、4.5VまでCCCVで充電を行った。次に、放電を行い、SOCが70%、20%、および10%の3つの状態のそれぞれにおいて、直流抵抗測定を行った。
【0484】
それぞれのSOCにおいて、放電容量が所定のSOCに到達した後に電流を一定時間流し、直流抵抗を求めた。得られた直流抵抗を表4に示す。
【0485】
【0486】
SOCが小さいほど、直流抵抗が大きくなる傾向がみられた。また、サイクル試験を行った後には直流抵抗が1.3倍から1.4倍ほど増加する様子がみられた。
【実施例4】
【0487】
本実施例では、本発明の一態様の正極活物質が有する粒子の断面TEM-EDX分析を行った。
【0488】
FIB(Focused Ion Beam System:集束イオンビーム加工観察装置)により各サンプルを薄片化加工した後、TEM像を観察した。
図39(A)には実施例2で作製したSample(サンプル) 35の断面TEM像を示す。
【0489】
<TEM-EDX分析>
図39(A)において、破線で囲んだ箇所のTEM-EDX分析を行った。分析は、粒子の表面から内部にかけて線状に分析を行った。線が表面に概略垂直になるようにした。
図39(B)には、EDXの線分析の結果を示す。表面近傍においては、相対的に、アルミニウムの濃度が高くコバルトの濃度が低くなる傾向がみられた。またマグネシウムも表面近傍での濃度の上昇が示唆された。このことから、正極活物質が有する粒子において、アルミニウム、マグネシウム、等が粒子表面において構造の安定化に寄与している可能性がある。
【実施例5】
【0490】
本実施例では、本発明の一態様の正極活物質を用いた正極を有する二次電池を作製し、二次電池の充電後の正極のXRDを評価した。
【0491】
実施例2で作製したSample(サンプル) 30およびSample(サンプル) 35を用いてそれぞれ正極を作製し、それぞれの正極を用いて二次電池をそれぞれ作製した。正極の作製および二次電池の作製は、実施例2に示した作製方法を用いた。
【0492】
<充電後の正極のXRD>
次に、作製したそれぞれの二次電池を4.6Vまたは4.65Vのいずれかを選んでCCCV充電した。具体的には45℃において、各電圧まで0.2Cで定電流充電した後、電流値が0.02Cとなるまで定電圧充電した。なおここでは1Cは191mA/gとした。そして充電状態の二次電池をアルゴン雰囲気のグローブボックス内で解体して正極を取り出し、DMC(ジメチルカーボネート)で洗浄して電解液を取り除いた。そしてアルゴン雰囲気の密閉容器に封入し、XRD解析を行った。
【0493】
図40(A)、(B)にはXRDの結果を示す。高い充電電圧においてはSample(サンプル) 30ではH1-3型結晶構造を示唆するピークに加えて、20.9°近傍および36.8°近傍のピークが顕著に観測される。20.9°近傍および36.8°近傍のピークはCoO
2に起因すると示唆され、リチウムが脱離し、結晶構造が崩れた不安定な状態になっていると考えられる。対して、Sample(サンプル) 35では擬スピネル構造が示唆され、高い充電電圧においても安定であることが示唆された。
【符号の説明】
【0494】
100:正極活物質、100A:正極活物質、100A_1:正極活物質、100A_2:正極活物質、100A_3:正極活物質、100C:正極活物質、200:活物質層、201:グラフェン化合物、211a:正極、211b:負極、212a:リード、212b:リード、214:セパレータ、215a:接合部、215b:接合部、217:固定部材、250:二次電池、251:外装体、261:折り曲げ部、262:シール部、263:シール部、271:稜線、272:谷線、273:空間、300:二次電池、301:正極缶、302:負極缶、303:ガスケット、304:正極、305:正極集電体、306:正極活物質層、307:負極、308:負極集電体、309:負極活物質層、310:セパレータ、500:二次電池、501:正極集電体、502:正極活物質層、503:正極、504:負極集電体、505:負極活物質層、506:負極、507:セパレータ、508:電解液、509:外装体、510:正極リード電極、511:負極リード電極、600:二次電池、601:正極キャップ、602:電池缶、603:正極端子、604:正極、605:セパレータ、606:負極、607:負極端子、608:絶縁板、609:絶縁板、611:PTC素子、612:安全弁機構、613:導電板、614:導電板、615:モジュール、616:導線、617:温度制御装置、900:回路基板、901:原料、902:混合物、903:混合物、904:混合物、910:ラベル、911:端子、912:回路、913:二次電池、914:アンテナ、916:層、917:層、918:アンテナ、920:表示装置、921:センサ、922:端子、930:筐体、930a:筐体、930b:筐体、931:負極、932:正極、933:セパレータ、950:捲回体、951:端子、952:端子、980:二次電池、981:フィルム、982:フィルム、993:捲回体、994:負極、995:正極、996:セパレータ、997:リード電極、998:リード電極、7100:携帯表示装置、7101:筐体、7102:表示部、7103:操作ボタン、7104:二次電池、7200:携帯情報端末、7201:筐体、7202:表示部、7203:バンド、7204:バックル、7205:操作ボタン、7206:入出力端子、7207:アイコン、7300:表示装置、7304:表示部、7400:携帯電話機、7401:筐体、7402:表示部、7403:操作ボタン、7404:外部接続ポート、7405:スピーカ、7406:マイク、7407:二次電池、7500:電子タバコ、7501:アトマイザ、7502:カートリッジ、7504:二次電池、8000:表示装置、8001:筐体、8002:表示部、8003:スピーカ部、8004:二次電池、8021:充電装置、8022:ケーブル、8024:二次電池、8100:照明装置、8101:筐体、8102:光源、8103:二次電池、8104:天井、8105:側壁、8106:床、8107:窓、8200:室内機、8201:筐体、8202:送風口、8203:二次電池、8204:室外機、8300:電気冷凍冷蔵庫、8301:筐体、8302:冷蔵室用扉、8303:冷凍室用扉、8304:二次電池、8400:自動車、8401:ヘッドライト、8406:電気モーター、8500:自動車、8600:スクータ、8601:サイドミラー、8602:二次電池、8603:方向指示灯、8604:座席下収納、9600:タブレット型端末、9625:スイッチ、9627:スイッチ、9628:操作スイッチ、9629:留め具、9630:筐体、9630a:筐体、9630b:筐体、9631:表示部、9631a:表示部、9631b:表示部、9633:太陽電池、9634:充放電制御回路、9635:蓄電体、9636:DCDCコンバータ、9637:コンバータ、9640:可動部