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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】配管加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 37/053 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B23K37/053 A
B23K37/053 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023139509
(22)【出願日】2023-08-30
【審査請求日】2023-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上月 崇功
(72)【発明者】
【氏名】片岡 佑太郎
(72)【発明者】
【氏名】河本 孝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 悠輝
(72)【発明者】
【氏名】小池 友洋
(72)【発明者】
【氏名】宮下 拓也
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-44994(JP,A)
【文献】特開昭59-10487(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208280(WO,A1)
【文献】実開昭63-133895(JP,U)
【文献】特開2015-93324(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の配管における管端同士を突き合わせて溶接するための配管加工方法であって、
前記溶接を行う前に、各配管における管端から軸方向第1距離までの第1領域に開先を形成するために、
前記配管における前記管端から軸方向第1距離より長い第2距離までの第2領域の内周面に対して前記配管の径方向外方へ向けて圧力を加えて前記配管の前記第2領域における径を拡大させ、
前記第2領域における径を拡大させた後、前記配管における前記第2領域から前記第1領域を除いた第3領域における外周面に対して前記配管の径方向中心へ向けて圧力を加える治具を装着し、
前記治具を装着した状態で前記配管の前記第1領域に対して開先加工を行い、
前記開先加工を行った後、前記治具を装着した状態で前記第1領域に前記開先が形成された配管同士を突き合わせ、互いに突き合せられた前記配管同士を仮固定する、配管加工方法。
【請求項2】
前記仮固定を行った後、本溶接を行う前に前記治具を取り外す、請求項1に記載の配管加工方法。
【請求項3】
前記治具は、前記配管の前記第3領域における外径に応じた円弧状の切り欠きを有する複数のピースを含み、前記第3領域の外周面に、前記複数のピースにおける切り欠き部分のそれぞれを当接させた状態で、前記複数のピース同士を固定可能であり、
前記治具を装着する際に、複数のピースのうちの何れか1つに対して圧力を加えた状態で前記ピース同士を固定する、請求項1または2に記載の配管加工方法。
【請求項4】
前記開先加工は、自動加工機によって行われ、
前記自動加工機は、タッチプローブを備え、
前記開先加工の際に、前記治具が装着された配管が所定場所に設置された状態で前記タッチプローブを前記配管の前記第1領域における所定位置に接触させることにより、前記配管の所定寸法を計測し、
前記所定寸法を用いて予め定められた条件を満たすかどうかを判定し、前記条件を満たす場合に前記開先加工を実行する、請求項1または2に記載の配管加工方法。
【請求項5】
前記配管は、外管と内管とが間隙を有した状態で同心円状に配置される多重管の内管である、請求項1または2に記載の配管加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、配管の管端同士を突き合わせて溶接するための配管加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の配管の管端同士を突き合わせて溶接することにより、複数の配管を繋ぎ合わせることが行われている。配管の管径において定められる寸法許容差は、配管の厚みと同程度である場合がある。また、管径の比較的大きな配管は、鋼板を丸めて鋼板の端部同士を溶接することにより形成されるため、配管ごとの真円度のばらつきが大きい。これらの理由から、配管同士を突き合わせた際に管の厚み方向すなわち管の径方向についての目違い量が大きくなる恐れがある。
【0003】
このような配管における管径および真円度のばらつきの問題に関して、例えば、下記特許文献1には、配管の偏心量および変形歪量を測定し、当該偏心量および変形歪量に応じた開先加工諸元を決定することが記載されている。また、特許文献1において配管の偏心量および変形歪量が開先加工機において許容できないほど大きい場合には、警報を発して開先加工を行う前に予め配管の修正を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-27609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記方法では、配管の管径および真円度にばらつきが生じた状態が残っているため、配管同士を突き合わせる際に目違いが生じるという問題を解決することができない。また、開先加工時に、配管の偏心量および変形歪量が開先加工機において許容できないほど大きい場合には、開先加工機に設置した配管を一度取り外して別途配管の修正を行う必要があり、作業工程が煩雑である。
【0006】
そこで、本開示は、配管同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる配管加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る配管加工方法は、複数の配管における管端同士を突き合わせて溶接するための配管加工方法であって、前記溶接を行う前に、各配管における管端から軸方向第1距離までの第1領域に開先を形成するために、前記配管における前記管端から軸方向第1距離より長い第2距離までの第2領域の内周面に対して前記配管の径方向外方へ向けて圧力を加えて前記配管の前記第2領域における径を拡大させ、前記第2領域における径を拡大させた後、前記配管における前記第2領域から前記第1領域を除いた第3領域における外周面に対して前記配管の径方向中心へ向けて圧力を加える治具を装着し、前記治具を装着した状態で前記配管の前記第1領域に対して開先加工を行い、前記開先加工を行った後、前記治具を装着した状態で前記第1領域に前記開先が形成された配管同士を突き合わせ、互いに突き合せられた前記配管同士を仮固定する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、配管同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施の形態に係る配管加工方法の流れを示すフローチャートである。
図2図2は、本実施の形態において開先を形成する前の配管の例を示す側面図である。
図3図3は、本実施の形態における拡径工程の概要を示すイメージ図である。
図4図4は、本実施の形態における治具装着工程の概要を示すイメージ図である。
図5図5は、本実施の形態における開先加工工程の実施状態を示す図である。
図6図6は、本実施の形態における開先加工後の工程の実施状態を示す図である。
図7図7は、本実施の形態において用いられる自動加工機によって配管の基準点を計測により算出する方法を説明するためのイメージ図である。
図8図8は、本実施の形態において用いられる自動加工機によって配管の内径および外径を計測により算出する方法を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[一実施の形態]
以下、本開示の一実施の形態に係る配管加工方法について説明する。
【0011】
図1は、本開示の一実施の形態に係る配管加工方法の流れを示すフローチャートである。本実施の形態における配管加工方法において、複数の配管の管端同士を突き合わせて溶接する前に、各配管の管端から軸方向第1距離までの第1領域に開先を形成する。
【0012】
図2は、本実施の形態において開先を形成する前の配管の例を示す側面図である。図2に示すように、本実施の形態において、配管1は、開先を形成する前の状態において、管端1aから軸方向第1距離L1までの第1領域A1が開先を形成する領域として設定される。また、開先形成前の配管1は、管端1aから軸方向第1距離L1より長い第2距離L2までの第2領域A2における管径R2がその他の領域、すなわち軸方向中央領域における管径R1より大きい径を有している。第2領域A2は、第1領域A1を含んでいる。また、開先形成前の配管1は、第2領域A2から第1領域A1を除いた第3領域A3における外周面に対して配管1の径方向中心へ圧力を加える治具2が装着される。図2においては、第2距離L2と第1距離L1との差を第3距離L3で示している。
【0013】
図2においては、配管1の両端に第1領域A1等が設定される。ただし、配管1の一方の管端1aのみを他の配管1と溶接する場合には、他方の管端1aにおいて第1領域A1の設定等はなくてもよい。
【0014】
開先前の配管1を形成するために、まず、配管1の第2領域A2の内周面に対して配管1の径方向外方へ向けて圧力が加えられることにより、配管1の第2領域A2における径を拡大させる(ステップS1)。図3は、本実施の形態における拡径工程の概要を示すイメージ図である。用意される配管1は、管端1aにおいて溶接を行い得る配管であれば、その材料、サイズ等は、特に限定されない。例えば配管1は、ステンレス鋼管等が用いられる。また、配管1は、鋼板を丸めて鋼板の端部同士を溶接することにより形成される。このため、配管1は、十分な真円度を有していないことが想定される。なお、配管1は、引き抜き等によりシームレス配管として製造されることもある。この場合でも、配管1が十分な真円度を有していない場合が生じ得る。
【0015】
拡径工程において、配管1の管内に拡径機3の拡径治具3aが位置するように配管1を配置する。拡径治具3aは、円筒を周方向に複数のピースに分割した構造を有している。さらに、拡径治具3aは、圧力が加えられることにより、複数のピースが径方向外方に移動するように構成されている。拡径治具3aを構成する複数のピースが加圧により径方向外方に移動することで複数のピースの外周面が挿通された配管1の内周面を押圧する。これにより、配管1の第2領域A2が拡径される。図3の例では、配管1の軸方向両側が拡径される。
【0016】
これにより、複数の配管1間で、拡径前の配管1の管径R1に寸法許容差の範囲内でばらつきがあっても、配管1の第2領域A2が所定の直径R2に拡径されることにより、複数の配管1の第2領域A2における管径すなわち周長を統一することができる。したがって、複数の配管1同士を突き合わせる際に周長が異なることによる目違いが生じることを抑制することができる。
【0017】
例えば、配管1の第2領域A2の管径R2は、拡径前の配管1の管径R1の寸法許容差の最大値に設定される。この場合、配管1のサイズによっては、配管1の第2領域A2において、拡径前の周長と拡径後の周長との差は、1%未満になり得る。このように拡径工程では、拡径機3による配管1の加工度が低い場合がある。例えば、配管1がその製品用途や品質上の制約等によっては拡径の程度を大きくできないことも配管1の加工度を高くできない理由の1つとして挙げられる。
【0018】
例えば、配管1が多重管の内管である場合には、拡径の程度を大きくすることができない。多重管は、内管と、内管より外側に内管と間隙を有した状態で同心円状に配置される外管を含む。多重管は、二重管、三重管等を含む。多重管は、内管内を流通する流体に対して管外からの熱の遮断等が必要な場合に用いられ得る。このような多重管の内管において拡径の程度を大きくすると内管と外管との間の間隙が小さくなり、断熱性等が低下する恐れがある。なお、本開示において、多重管の内管とは、径方向に隣り合う2つの配管のうちの内側の配管を意味し、多重管の外管とは、径方向に隣り合う2つの配管のうちの外側の配管を意味する。
【0019】
このように、拡径機3による配管1の加工度が低い場合等、拡径治具3aによる拡径時に配管1が拡径治具3aに矯正されることにより配管1の真円度が一時的に高くなっても、拡径後の配管1を拡径治具3aから取り外した際に、配管1の弾性により配管1の真円度は再度低下してしまう恐れがある。
【0020】
そこで、拡径された配管1における第3領域A3における外周面に対して配管1の径方向中心へ向けて圧力を加える治具2が装着される(ステップS2)。図4は、本実施の形態における治具装着工程の概要を示すイメージ図である。治具2は、配管1の第2領域A2における外径に応じた円弧状の切り欠きを有する複数のピースを含む。本実施形態においては、治具2は、半円弧状の切り欠きを有する2つのピース2a,2bを含む。
【0021】
第1ピース2aは、配管1の外周面の上半分に対応した切り欠きを有し、第2ピース2bは、配管1の外周面の下半分に対応した切り欠きを有する。第1ピース2aの下部および第2ピース2bの上部には第1ピース2aと第2ピース2bとをボルト等の固定具2dを用いて互いに固定するためのブラケット2cを有する。第1ピース2aのブラケット2cと第2ピース2bのブラケット2cとは、2つのピース2a,2b同士の切り欠きの位置を合わせた状態で互いに対向配置される。
【0022】
本実施の形態において、ブラケット2cは、図2に示すように各ピース2a,2bの両面に固定される。ただし、図4等では、ブラケット2cは、各ピース2a,2bの一方の面のみに示され、他方の面におけるブラケット2cは図示を省略している。なお、ブラケット2cは各ピース2a,2bの何れか一方の面のみに固定されてもよい。
【0023】
2つのピース2a,2bを保持するホルダ4が設置された土台5に第2ピース2bをホルダ4で保持されるように載置する。保持された第2ピース2bの切り欠き部分に配管1の第2領域A2部分を当接させ、その上から、第1ピース2aをホルダ4で保持されるように取り付ける。これにより、配管1の第2領域A2における外周面に、2つのピースにおける切り欠き部分のそれぞれが当接された状態となる。
【0024】
この状態で第1ピース2aの上部に油圧シリンダ等の加圧器6を取り付け、加圧器6により第1ピース2aに対して配管1および第2ピース2bに向けて加圧する。第1ピース2aに所定の圧力を加えた状態で、固定具2dを用いて各ピース2a,2bのブラケット2c同士を固定することにより、2つのピース2a,2b同士が固定される。
【0025】
このように、配管1において拡径された第2領域A2のうち、開先加工に影響のない第3領域A3の外周面において治具2が所定の圧力が加えられた状態で固定される。これにより、配管1の第3領域A3を含む第2領域A2が治具2により治具2の切り欠きの形状に矯正され、真円度が高くなる。
【0026】
配管1に治具2を装着した後、治具2を装着した状態で配管1の第1領域A1に対して開先加工が行われる(ステップS3)。開先加工は、自動加工機によって行われる。自動加工機は、例えばマシニングセンタ等の汎用自動加工機であってもよいし、開先加工を行うことに特化した専用自動加工機であってもよい。以下では、汎用自動加工機を用いた場合を例示する。
【0027】
図5は、本実施の形態における開先加工工程の実施状態を示す図である。自動加工機7は、設置台8、土台9、支持柱10、加工ヘッド11を備えている。設置台8は、治具装着状態の配管1が設置される。設置台8は、第1スライダ12により土台9に対して水平方向に移動可能である。設置台8の移動方向は、互いに直交する第1方向および第2方向を含む。配管1は、軸線が第1方向に沿うように設置される。支持柱10は、土台9に固定される。
【0028】
加工ヘッド11は、加工ツール13を保持する。加工ヘッド11は、加工ツール13の取り付け軸が第1方向に向けられた状態で支持柱10に支持される。加工ヘッド11は、第2スライダ14により支持柱10に対して高さ方向に移動可能である。
【0029】
このような自動加工機7により配管1の第1領域A1の外周面および内周面に対して開先加工が行われる。
【0030】
なお、自動加工機7は、上記構成に限られない。例えば、自動加工機7は、配管1が土台9に固定され、加工ヘッド11が土台9に対して三次元的に移動するように構成されてもよい。
【0031】
開先加工を行った後、治具2を装着した状態で第1領域A1に開先が形成された配管1同士が突き合わせられ、互いに突き合せられた配管1同士が仮固定される(ステップS4)。図6は、本実施の形態における開先加工後の工程の実施状態を示す図である。治具2を装着した状態で配管1同士を突き合わせることにより、配管1において開先が形成された第1領域A1の真円度が矯正された状態で配管1同士が突き合わせられる。拡径工程により複数の配管1において第1領域A1の周長の偏差が抑制され、かつ、治具2の装着により複数の配管1において第1領域A1の真円度が高い状態で配管1同士が突き合わせられることにより、突き合わせられる配管1間の径方向についての目違い量が抑制される。
【0032】
この状態で配管1同士が仮固定されることにより、目違い量の小さい接合を実現できる。例えば、仮固定は、タック溶接とも呼ばれる仮付け溶接により行われ得る。
【0033】
仮固定を行った後、本溶接を行う前に治具2が取り外される(ステップS5)。治具2を取り外すことにより、配管1の第1領域A1における真円度は低下する可能性があるが、仮固定により配管1同士の目違い量が小さい状態は維持される。
【0034】
治具2を取り外した後、本溶接が行われる(ステップS6)。本実施の形態において、本溶接は、自動溶接機15により行われる。自動溶接機15は、例えば、複数軸の関節を有する多関節ロボットによって構成される。自動溶接機15は、配管1の開先箇所を溶接する際、種々の倣い制御が実行される。これにより、配管1の真円度が治具2装着時に比べてある程度低下していても、仮固定により配管1同士の目違い量が小さいため、適切な溶接を容易に行うことができる。
【0035】
以上に説明したように、本実施の形態における配管加工方法によれば、所定の周長となるように配管1の管端が拡径され、さらに、治具2が配管1に加圧した状態で装着される。このため、複数の配管1において、配管1の管端が同じ周長かつ高い真円度で保持される。このような治具2の装着状態で、管端を含む第1領域A1に開先が形成され、開先が形成された複数の配管1同士が突き合わせられる。これにより、突き合わせ時の配管1間の目違い量を低減することができるため、配管1同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる。治具2は、配管1の外周面において開先が形成される第1領域A1を避けた第3領域A3に装着されるため、治具2が開先の形成の邪魔になることを防止することができる。
【0036】
また、治具2が装着された状態で開先の形成および複数の配管1同士の突き合わせが行われることにより、拡径工程における加工度が低くても配管1同士の突き合わせの精度を高くすることができる。したがって、製品用途や品質上の制約により、加工度を高くできない配管1にも本実施の形態における配管加工方法を容易に適用可能である。
【0037】
また、配管1の突き合わせ時に治具2の装着状態が保持されるため、突き合せられた配管1間の径方向についての目違い量は、互いに高い精度で一致する。この状態で配管1同士が仮固定されることにより、目違い量の小さい接合を実現できる。この結果、配管1同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる。このため、突き合わせ溶接において自動化することができ、高精度かつ生産性の高い溶接を実現することができる。
【0038】
また、本実施の形態によれば、仮固定を行った後、本溶接を行う前に治具2を取り外すため、本溶接において治具2が邪魔になることを防止できる。このため、本溶接において自動溶接機15を容易に導入することができる。
【0039】
また、本実施の形態によれば、治具2がそれぞれ円弧状の切り欠きを有する複数のピース2a,2bを含み、配管1の第3領域A3の外周面に、複数のピース2a,2bにおける切り欠き部分のそれぞれを当接させ、複数のピース2a,2bのうちの何れか1つに対して圧力を加えた状態で複数のピース2a,2b同士が固定される。これにより、配管1の第3領域A3の外周面に対して配管1の径方向中心へ向けて圧力を加えて配管1の真円度を高めるための治具2を容易に構成することができる。
【0040】
さらに、本実施の形態においては、開先加工の際に、拡径および治具2装着後の配管1の所定寸法を計測し、当該所定寸法が予め定められた基準範囲内かどうかを判定することもできる。上述の通り、本実施の形態において開先加工は、自動加工機7により行われる。自動加工機7は、複数の加工ツール13の中から加工ヘッド11に装着される加工ツール13を自動的に選択して装着可能である。複数の加工ツール13には、タッチプローブ13aが含まれる。自動加工機7は、開先加工の際に、治具2が装着された配管1が所定位置に設置された状態でタッチプローブ13aを配管1の第1領域A1における所定位置に接触させることにより、配管1の所定寸法を計測する。
【0041】
本実施の形態において、所定寸法は、最大内径値Rixおよび最小外径値Ronを含む。これらの値を計測するために、自動加工機7は、設置台8に設置された配管1に対してタッチプローブ13aを用いて配管1の径方向中心位置である基準点Cを特定する。
【0042】
図7は、本実施の形態において用いられる自動加工機によって配管の基準点を計測により算出する方法を説明するためのイメージ図である。図7において、配管1が設置台8に設置された状態で、左右方向をX方向、上下方向をY方向、中心軸方向をZ方向とする。まず、自動加工機7は、タッチプローブ13aを所定のX-Y方向位置で配管1の管端1aからZ方向に移動させ、治具2の表面にタッチプローブ13aが当接した位置のZ座標を計測する。自動加工機7は、本計測を複数のX-Y方向位置で行い、計測したZ座標の平均値をZ方向の基準位置Zoに設定する。例えば、Z座標の計測は、配管1の上方と下方とで1個所ずつ行われる。以降の計測では、タッチプローブ13aの位置は、Z方向の基準位置Zoに固定される。
【0043】
次に、自動加工機7は、自動加工機7の加工ヘッド11におけるX方向の動作中心Xaにおいて配管1のY方向外方からタッチプローブ13aをY方向に移動させて配管1の外表面に当接させる。自動加工機7は、タッチプローブ13aを配管1の上方から下方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のY座標YaHと、タッチプローブ13aを配管1の下方から上方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のY座標YaLと、を計測する。自動加工機7は、得られた2つのY座標YaH,YaLの中点Yaを算出する。
【0044】
次に、自動加工機7は、算出されたY方向の点Yaにおいて配管1のX方向外方からタッチプローブ13aをX方向に移動させて配管1の外表面に当接させる。自動加工機7は、タッチプローブ13aを配管1の左方から右方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のX座標XoLと、タッチプローブ13aを配管1の右方から左方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のX座標XoRと、を計測する。自動加工機7は、得られた2つのX座標XoL,XoRの中点Xoを算出する。
【0045】
次に、自動加工機7は、算出されたX方向の点Xoにおいて、再度、配管1のY方向外方からタッチプローブ13aをY方向に移動させて配管1の外表面に当接させる。自動加工機7は、タッチプローブ13aを配管1の上方から下方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のY座標YoHと、タッチプローブ13aを配管1の下方から上方に移動させたときにタッチプローブ13aが配管1に当接した位置のY座標YoLと、を計測する。自動加工機7は、得られた2つのY座標YoH,YoLの中点Yoを算出する。
【0046】
このようにして得られた座標(Xo,Yo,Zo)が基準点Cの座標となる。なお、上記方法において得られるY座標Yaを基準点CのY座標としてもよい。
【0047】
さらに、自動加工機7は、得られた基準点Cを用いて配管1の複数の周方向位置における内径値および外径値を計測する。図8は、本実施の形態において用いられる自動加工機によって配管の内径および外径を計測により算出する方法を説明するためのイメージ図である。
【0048】
自動加工機7は、基準点Cから配管1の径方向に延ばした仮想線方向を設定し、タッチプローブ13aを基準点Cの位置から当該仮想線方向に向けて移動させ、配管1の内周面に当接した位置のX座標およびY座標を計測する。自動加工機7は、複数の仮想線方向に同様の計測を行う。図8の例において、複数の仮想線方向は、基準点Cを中心として8方向に設定される。なお、複数の仮想線方向の数は、8方向より多くてもよいし、少なくてもよい。このようにして複数の仮想線方向に対応する内周面位置U1,…,U8の座標が計測される。
【0049】
さらに、自動加工機7は、タッチプローブ13aを複数の仮想線方向において配管1の外方から基準点Cに向けて移動させ、配管1の外周面に当接した位置のX座標およびY座標を計測する。このようにして複数の仮想線方向に対応する外周面位置T1,…,T8の座標が計測される。
【0050】
自動加工機7は、基準点Cと各内周面位置U1,…,U8との距離を算出することで複数の仮想線方向についての内径値を算出する。同様に、自動加工機7は、基準点Cと各外周面位置T1,…,T8との距離を算出することで複数の仮想線方向についての外径値を算出する。自動加工機7は、算出された内径値のうち最も大きな値を最大内径値Rixとして設定し、算出された外径値のうち最も小さな値を最小外径値Ronとして設定する。また、自動加工機7は、算出された内径値のうち最も小さな値である最小内径値Rinを有する位置と、算出された外径値のうち最も大きな値である最大外径値Roxを有する位置とを、記憶する。
【0051】
自動加工機7は、設定された最大内径値Rixと最小外径値Ronとが予め定められた基準値範囲内かどうかを判定することにより、当該配管1に対して開先加工可能かどうかを決定する。自動加工機7には、開先加工後の第1領域A1における内径値の目標値として、ねらい内径値Rtと、当該ねらい内径値Rtに対する寸法許容差幅とが記憶されている。ねらい内径値Rtに対する寸法許容差幅は、外径側への寸法許容差幅であるプラス寸法許容差幅Tpと、内径側への寸法許容差幅であるマイナス寸法許容差幅Tmとを含む。
【0052】
さらに、自動加工機7には、開先加工前の第1領域A1における厚みについての寸法許容差最小値である肉厚寸法許容差最小値Dnが記憶されている。これらの設定値は、自動加工機7に都度入力設定されてもよいし、予め自動加工機7のメモリに記憶されていてもよい。
【0053】
自動加工機7は、これらの設定値と、最大内径値Rixおよび最小外径値Ronとを用いて以下の判定を行う。まず、自動加工機7は、最小外径値Ronから肉厚寸法許容差最小値Dnを差し引いた値が最大内径値Rixより大きいかどうかを判定する。すなわち、自動加工機7は、第1条件としてRon-Dn>Rixを満足するかどうかを判定する。当該第1条件を満足しない場合、自動加工機7は、開先加工前の状態において最低限の厚みを確保することができない恐れがあるため、開先加工できないと判定する。
【0054】
さらに、自動加工機7は、ねらい内径値Rtからマイナス寸法許容差幅Tmを差し引いた値が最小外径値Ronから肉厚寸法許容差最小値Dnを差し引いた値以下であるかどうかを判定する。すなわち、自動加工機7は、第2条件としてRt-Tm≦Ron-Dnを満足するかどうかを判定する。第2条件を満足しない場合、自動加工機7は、最低限の厚みを確保した上で、ねらい内径値Rtに対する寸法許容差範囲W(Rt-Tm≦W≦Rt+Tp)内に後述する加工内径値Rpを設定することができない、または、最低限の厚みを確保した上で、目標とする目違い量の範囲内にルート面を確保することができない恐れがあるため、開先加工できないと判定する。
【0055】
さらに、自動加工機7は、ねらい内径値Rtにプラス寸法許容差幅Tpを加えた値が最大内径値Rix以上であるかどうかを判定する。すなわち、自動加工機7は、第3条件としてRt+Tp≧Rixを満足するかどうかを判定する。第3条件を満足しない場合、自動加工機7は、ねらい内径値Rtに対する寸法許容差範囲W(Rt-Tm≦W≦Rt+Tp)内に後述する加工内径値Rpを設定することができない、または、最低限の厚みを確保した上で、目標とする目違い量の範囲内にルート面を確保することができない恐れがあるため、開先加工できないと判定する。
【0056】
自動加工機7は、第1条件、第2条件および第3条件の何れをも満足する場合に、開先加工可能と判定する。このように、拡径工程および治具装着工程により配管1が適切な周長および真円度を有するか否かを自動加工機7により開先加工前に判定することができる。
【0057】
開先加工可能と判定された場合、自動加工機7は、以下の場合分けに従って、実際に開先加工を行う際の加工内径値Rpを算出する。
【0058】
(ケース1) Rt+Tp≦Ron-DnかつRt-Tm≧Rixの場合
→Rp=Rt
(ケース2) Rt+Tp>Ron-DnかつRt-Tm<Rixの場合
→Rp=(Ron-Dn+Rix)/2
(ケース3) Rt+Tp≦Ron-DnかつRt-Tm<Rixの場合
→Rp=(Rt+Tp+Rix)/2
(ケース4) Rt-Tm≧RixかつRt+Tp>Ron-Dnの場合
→Rp=(Rt-Tm+Rix-Dn)/2
【0059】
自動加工機7は、以上のようにして算出した加工内径値Rpおよび基準点Cの座標(Xo,Yo,Zo)に基づいて配管1に対して開先加工を行う。なお、外周面側の加工時において、自動加工機7は、最大外径値Roxの位置から開先加工における切り込みを開始する。内周面側の加工において、自動加工機7は、最小内径値Rinの位置から開先加工における切り込みを開始する。このように、開先加工可能と判定された配管1において実際に計測された値に基づいて加工内径値Rpを設定することにより、現物に即したより適切な開先加工を行うことができる。また、実際に計測された値に基づいて加工開始位置を設定することにより、加工不良が生じるのを防止し、加工精度を高くすることができる。
【0060】
以上、本開示の実施の形態について説明したが、本開示は上記実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【0061】
[他の実施形態]
例えば、上記実施の形態においては、本溶接を自動溶接機15が行う例を示したが、これに代えて、本溶接が手作業で行われてもよい。同様に、上記実施の形態では、開先加工を自動加工機7が行う例を示したが、開先加工が手作業で行われてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態においては、仮固定の後、本溶接が行われる前に治具2を取り外す例を示したが、治具2が装着された状態で本溶接が行われてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態においては、治具2が2つのピース2a,2bを有する例を示したが、治具2は、3つ以上のピースを有してもよい。
【0064】
また、仮溶接が自動溶接機15によって行われてもよい。仮固定は、配管1同士を一時的に固定できる態様であれば溶接によるものでなくてもよい。例えば、配管1にボルト等を用いて固定される専用治具を介して配管1同士が仮固定されてもよい。また、例えば、配管1同士が接着剤または粘着テープ等により仮固定されてもよい。
【0065】
[本開示のまとめ]
[項目1]
本開示の一態様に係る配管加工方法は、複数の配管における管端同士を突き合わせて溶接するための配管加工方法であって、前記溶接を行う前に、各配管における管端から軸方向第1距離までの第1領域に開先を形成するために、前記配管における前記管端から軸方向第1距離より長い第2距離までの第2領域の内周面に対して前記配管の径方向外方へ向けて圧力を加えて前記配管の前記第2領域における径を拡大させ、前記第2領域における径を拡大させた後、前記配管における前記第2領域から前記第1領域を除いた第3領域における外周面に対して前記配管の径方向中心へ向けて圧力を加える治具を装着し、前記治具を装着した状態で前記配管の前記第1領域に対して開先加工を行い、前記開先加工を行った後、前記治具を装着した状態で前記第1領域に前記開先が形成された配管同士を突き合わせ、互いに突き合せられた前記配管同士を仮固定する。
【0066】
上記方法によれば、所定の周長となるように配管の管端が拡径され、さらに、治具が配管に加圧した状態で装着される。このため、複数の配管において、配管の管端が同じ周長かつ高い真円度で保持される。このような治具の装着状態で、管端を含む第1領域に開先が形成され、開先が形成された複数の配管同士が突き合わせられる。これにより、突き合わせ時の配管間の目違い量を低減することができるため、配管同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる。
【0067】
[項目2]
項目1の配管加工方法において、前記仮固定を行った後、本溶接を行う前に前記治具を取り外してもよい。これにより、本溶接において治具が邪魔になることを防止できる。このため、本溶接において自動溶接機を容易に導入することができる。
【0068】
[項目3]
項目1または2の配管加工方法において、前記治具は、前記配管の前記第3領域における外径に応じた円弧状の切り欠きを有する複数のピースを含み、前記第3領域の外周面に、前記複数のピースにおける切り欠き部分のそれぞれを当接させた状態で、前記複数のピース同士を固定可能であり、前記治具を装着する際に、複数のピースのうちの何れか1つに対して圧力を加えた状態で前記ピース同士を固定してもよい。これにより、配管の第3領域の外周面に対して配管の径方向中心へ向けて圧力を加えて配管の真円度を高めるための治具を容易に構成することができる。
【0069】
[項目4]
項目1から3の何れかの配管加工方法において、前記開先加工は、自動加工機によって行われ、前記自動加工機は、タッチプローブを備え、前記開先加工の際に、前記治具が装着された配管が所定場所に設置された状態で前記タッチプローブを前記配管の前記第1領域における所定位置に接触させることにより、前記配管の所定寸法を計測し、前記所定寸法を用いて予め定められた条件を満たすかどうかを判定し、前記条件を満たさない場合に前記開先加工を行わないようにしてもよい。この場合、自動加工機は、配管の所定寸法を用いた条件を満足する場合に、開先加工可能と判定する。このように、拡径工程および治具装着工程により配管が適切な周長および真円度を有するか否かを自動加工機により開先加工前に判定することができる。
【0070】
[項目5]
項目1から4の何れかの配管加工方法において、前記配管は、外管と内管とが間隙を有した状態で同心円状に配置される多重管の内管であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 配管
2 治具
2,2b ピース
7 自動加工機
13a タッチプローブ
15 自動溶接機
A1 第1領域
A2 第2領域
A3 第3領域
【要約】
【課題】配管同士を繋ぎ合わせるための突き合わせ溶接を容易に行うことができる配管加工方法を提供する。
【解決手段】配管加工方法は、複数の配管における管端同士を突き合わせて溶接するための配管加工方法であって、溶接を行う前に、各配管における管端から軸方向第1距離までの第1領域に開先を形成するために、配管における前記管端から軸方向第1距離より長い第2距離までの第2領域の内周面に対して配管の径方向外方へ向けて圧力を加えて配管の第2領域における径を拡大させ、前記第2領域における径を拡大させた後、配管における第2領域から第1領域を除いた第3領域における外周面に対して配管の径方向中心へ向けて圧力を加える治具を装着し、治具を装着した状態で配管の前記第1領域に対して開先加工を行い、開先加工を行った後、治具を装着した状態で第1領域に開先が形成された配管同士を突き合わせ、互いに突き合せられた配管同士を仮固定する。
【選択図】図1
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図8