(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】プレキャスト製残存型枠パネルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28C 7/02 20060101AFI20231212BHJP
B28B 1/08 20060101ALI20231212BHJP
C04B 40/02 20060101ALI20231212BHJP
E02D 29/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B28C7/02
B28B1/08
C04B40/02
E02D29/02 302
(21)【出願番号】P 2023168670
(22)【出願日】2023-09-28
【審査請求日】2023-09-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】393010215
【氏名又は名称】山下 譲二
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】山下 譲二
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6537754(JP,B1)
【文献】特許第7314430(JP,B1)
【文献】特開2020-084405(JP,A)
【文献】特開2011-037248(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112227155(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/02
B28B 1/08
C04B 40/02
E02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非透水性のプレキャスト製残存型枠パネルを製造するプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法であって、
セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る混合工程と、
前記混合工程後、パネル本体の背面が、上向き、かつ水平に維持されるように設計された成形用型枠に前記流動化セメント組成物を投入
し、前記練り水に前記セメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が前記パネル本体の背面側へ押し上げられることにより、前記パネル本体の背面全域に貯留され、前記余剰水で前記パネル本体の背面を覆うと共に、前記余剰水が、前記パネル本体の内部に形成される毛細管空隙を埋めるように介在させるために、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物に振動を与え、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物を成形す
る工程と、
前記
流動化セメント組成物を成形する工程後、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、前記成形用型枠内の前記流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させ、前記流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、前記成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、前記流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止しつつ、脱型強度が確保されるまで前記流動化セメント組成物を硬化させる保温養生工程と、
前記保温養生工程後、前記成形用型枠を取り外す脱型工程と、を含み、
前記流動化セメント組成物が
前記保温養生工程において硬化する際に、前記パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と前記水酸化カルシウムとが化学反応し、前記パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止すると同時に、前記毛細管空隙が前記防水層によりほぼ完全に塞がれ、前記パネル本体の非透水性が飛躍的に向上する、
ことを特徴とするプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法。
【請求項2】
非透水性のプレキャスト製残存型枠パネルを製造するプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法であって、
セメント、石灰石の砕石骨材である砂を含むモルタル原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る混合工程と、
前記混合工程後、パネル本体の背面が、上向き、かつ水平に維持されるように設計された成形用型枠に前記流動化セメント組成物を投入
し、前記練り水に前記セメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が前記パネル本体の背面側へ押し上げられることにより、前記パネル本体の背面全域に貯留され、前記余剰水で前記パネル本体の背面を覆うと共に、前記余剰水が、前記パネル本体の内部に形成される毛細管空隙を埋めるように介在させるために、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物に振動を与え、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物を成形す
る工程と、
前記
流動化セメント組成物を成形する工程後、前記成形用型枠に投入された前記流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、前記成形用型枠内の前記流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させ、前記流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、前記成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、前記流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止しつつ、脱型強度が確保されるまで前記流動化セメント組成物を硬化させる保温養生工程と、
前記保温養生工程後、前記成形用型枠を取り外す脱型工程と、を含み、
前記流動化セメント組成物が
前記保温養生工程において硬化する際に、前記パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と前記水酸化カルシウムとが化学反応し、前記パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止すると同時に、前記毛細管空隙が前記防水層によりほぼ完全に塞がれ、前記パネル本体の非透水性が飛躍的に向上する、
ことを特徴とするプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法。
【請求項3】
前記
流動化セメント組成物を成形する工程において、ステンレス製の被連結金具を、前記パネル本体の背面に突出するように、前記流動化セメント組成物の所定の位置に埋設する、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載
のプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非透水性プレキャスト製残存型枠パネルを製造するためのプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
残存型枠を構築するためにプレキャスト製残存型枠パネルが利用されている。従来のプレキャスト製パネルには、多数の毛細管空隙が形成されていたため、このプレキャスト製パネルを用いた残存型枠の施工をした場合、打設した生コンクリートに含まれている水和反応用の練り水が、毛細管空隙を介して、流出又は蒸発していた。その結果、コンクリートが急激に収縮し、ひび割れが生じると共に、プレキャスト製残存型枠パネルに対し引き裂く力が生じ、プレキャスト製残存型枠パネルに、ひび割れが生じやすくなる。また、プレキャスト製残存型枠パネルの背面にひび割れや毛細管空隙が生じると、そのひび割れや毛細管空隙から雨水などの汚水がプレキャスト製残存型枠パネル本体内部に侵入し、プレキャスト製残存型枠パネル本体の劣化に繋がるおそれがあった。さらに、プレキャスト製残存型枠パネル本体に侵入した汚水がプレキャスト製残存型枠パネルの表面に漏れ出し、プレキャスト製残存型枠パネルの表面が汚染される事態も生じていた。
【0003】
プレキャスト製パネルにひび割れが生じた結果、これらのプレキャスト製パネルで構成された残存型枠の凍害、塩害、白華現象等が生じる。このようなひび割れ、凍害、塩害、白華現象等を抑止するために、発明者は、毛細管空隙などのプレキャスト製パネルに形成される空隙を塞ぐためのプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法を提案してきた(例えば、特許文献1から特許文献3)。
【0004】
特許文献1に記載のプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、成形用型枠に、脂肪酸系化合物を混入させたモルタル又は脂肪酸系化合物を混入させたコンクリートであるセメント組成物を投入する工程と、成形用型枠に投入されたセメント組成物を締固める締固め工程と、セメント組成物を硬化させる養生工程とを含んでいる。このプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、締固め工程や養生工程において、練り水と脂肪酸系化合物とセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水がパネル本体の背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、パネル本体の背面が余剰水で覆われると共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙を埋めるように介在する。そして、養生工程において、セメント組成物中のセメントが硬化する際に溶出する水酸化カルシウムと、脂肪酸系化合物中の脂肪酸とが反応し、水に不溶かつ撥水性のある脂肪酸カルシウムが形成されることで、パネル本体の背面全域に脂肪酸カルシウムを含む防水層が形成され、この防水層により毛細管空隙等が塞がれる。
【0005】
また、特許文献2に記載のプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、成形用型枠に、モルタル又はコンクリートを構成するセメント組成物と練り水との混合物を投入し、練り水にセメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水がパネル本体の背面側に押し上げられることで、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙等を埋めるように介在し、かつパネル本体の背面全域が水酸化カルシウムを含む余剰水で覆われ、パネル本体の背面全域を被覆材で被覆する被覆工程と、セメント組成物を硬化させる養生工程とを含んでいる。このプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、パネル本体の背面全域を被覆材で被覆することで、外気中の二酸化炭素と水酸化カルシウムとが化学反応し、パネル本体の背面に炭酸カルシウムの透水性微紛層が形成されることを防止する。また、養生工程において、練り水に溶出した水酸化カルシウムと、セメント組成物中のシリカが化学反応し、水に不溶のケイ酸カルシウム水和物を含む防水層がパネル本体の背面全域に形成され、この防水層によって毛細管空隙等が塞がれる。
【0006】
さらに、特許文献3に記載のプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、セメント、砂利及び砂を含むコンクリート原材料と、このコンクリート原材料中のセメントに対して5重量%から40重量%の石灰石微粉末と、練り水とをミキシングした流動化セメント組成物、又はセメント及び砂を含むモルタル原材料と、このモルタル原材料中のセメントに対して5重量%から40重量%の石灰石微粉末と、練り水とをミキシングした流動化セメント組成物を成形用型枠に投入する工程と、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を成形する成形工程と、流動化セメント組成物を硬化させる養生工程とを含んでいる。このプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、成形工程及び養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、余剰水でパネル本体の背面を覆うと共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙等を埋めるように介在する。そして、流動化セメント組成物内のセメントが硬化する際に、パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と水酸化カルシウムとが化学反応し、パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止すると同時に、毛細管空隙等が防水層により自然に塞がれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6487107号公報
【文献】特許第6537754号公報
【文献】特許第7314430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1から特許文献3に記載の製造方法で製造されたプレキャスト製残存型枠プレキャストパネルは、従来のものよりも毛細管空隙を塞ぐ効果を享受できていたが、毛細管空隙を完全に防ぐことは難しいという現状があった。そのため、プレキャスト製残存型枠パネルの厚みによって、毛細管空隙の影響が大きくなり、更なる改善が望まれていた。
【0009】
具体的には、厚いプレキャスト製残存型枠コンクリートパネルでは、多少の毛細管空隙等が形成されていても、毛細管空隙に起因するひび割れ等の大きな影響を受けにくいが、例えば、厚みが25mmから50mmの薄いプレキャスト製残存型枠コンクリートパネルでは、毛細管空隙に起因するひび割れ等により、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネルの表面が汚染されることもあった。また、ひび割れ等が形成されることにより、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネル本体の強度が低下するおそれもあった。
【0010】
このような背景から、現在までに提案されている製造方法よりも、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネルの毛細管空隙等を完全に塞ぐことができ、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネルにも適用できるプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法が望まれていた。
【0011】
そこで、本発明は、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネル本体において、毛細管空隙の形成を抑止し、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネル本体の非透水性を向上させるプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、非透水性のプレキャスト製残存型枠パネルを製造する方法であって、セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る混合工程と、混合工程後、パネル本体の背面が、上向き、かつ水平に維持されるように設計された成形用型枠に流動化セメント組成物を投入する投入工程と、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を成形する成形工程と、成形工程後、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、成形用型枠内の流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させ、流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止しつつ、脱型強度が確保されるまで流動化セメント組成物を硬化させる保温養生工程と、保温養生工程後、成形用型枠を取り外す脱型工程と、を含み、保温養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、余剰水でパネル本体の背面を覆うと共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙を埋めるように介在し、流動化セメント組成物が硬化する際に、パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と水酸化カルシウムとが化学反応し、パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止すると同時に、毛細管空隙が防水層によりほぼ完全に塞がれ、パネル本体の非透水性が飛躍的に向上することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、非透水性のプレキャスト製残存型枠パネルを製造する方法であって、セメント、石灰石の砕石骨材である砂を含むモルタル原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る混合工程と、混合工程後、パネル本体の背面が、上向き、かつ水平に維持されるように設計された成形用型枠に流動化セメント組成物を投入する投入工程と、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を成形する成形工程と、成形工程後、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、成形用型枠内の流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させ、流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止しつつ、脱型強度が確保されるまで流動化セメント組成物を硬化させる保温養生工程と、保温養生工程後、成形用型枠を取り外す脱型工程と、を含み、保温養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、余剰水でパネル本体の背面を覆うと共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙を埋めるように介在し、流動化セメント組成物が硬化する際に、パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と水酸化カルシウムとが化学反応し、パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止すると同時に、毛細管空隙が防水層によりほぼ完全に塞がれ、パネル本体の非透水性が飛躍的に向上することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、投入工程において、ステンレス製の被連結金具を、パネル本体の背面に突出するように、流動化セメント組成物の所定の位置に埋設することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得て、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、成形用型枠内の流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させることで、流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止することができる。
【0016】
また、このコンクリート原材料を使用したプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、保温養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、余剰水でパネル本体の背面を覆うと共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙などの空隙を埋めるように介在し、流動化セメント組成物が硬化する際に、パネル本体の背面全域に防水層が形成され、パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止することができる。そして、防水層により毛細管空隙などの空隙がほぼ完全に塞がれ、パネル本体の非透水性を飛躍的に向上させることができる。
【0017】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、セメント、石灰石の砕石骨材である砂を含むモルタル原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得て、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、成形用型枠内の流動化セメント組成物の温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させることで、流動化セメント組成物から溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止することにより、流動化セメント組成物に生じる毛細管空隙の発生を抑止することができる。
【0018】
さらに、このモルタル原材料を使用したプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、保温養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面側へ押し上げられることにより、パネル本体の背面全域に貯留され、余剰水でパネル本体の背面を覆うと共に、余剰水がパネル本体の内部に形成される毛細管空隙などの空隙を埋めるように介在し、流動化セメント組成物が硬化する際に、パネル本体の背面全域に防水層が形成され、外気中の二酸化炭素と水酸化カルシウムとが化学反応し、パネル本体の背面全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止することができる。そして、防水層により毛細管空隙などの空隙がほぼ完全に塞がれ、パネル本体の非透水性を飛躍的に向上させることができる。
【0019】
本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、投入工程において、ステンレス製の被連結金具をパネル本体の背面に突出するように、流動化セメント組成物の所定の位置に埋設することもできる。この場合でも、被連結金具の埋設部とパネル本体との間に形成された空隙も防水層によりほぼ完全に塞がれ、パネル本体の非透水性が飛躍的に向上する。
【0020】
このように、本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、毛細管空隙などの空隙をほぼ完全に塞ぐことで、非透水性を向上させることができ、特に、厚みが薄いプレキャスト製残存型枠パネルにおいて、ひび割れが形成されることを抑制でき、強度低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルを示す図である。(a)は断面図を示し、(b)は背面図を示している。
【
図2】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの被連結部の拡大図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造過程を説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠を示す図である。(a)は断面図を示し、(b)は正面図を示している。
【
図5】本発明の実施形態に係る残存型枠の施工方法によって構築された残存型枠の背面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの透水性試験の結果(試験開始直後の様子)を示す画像である。
【
図7】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの透水性試験の結果(試験開始3時間半後の様子)を示す画像である。
【
図8】本発明の実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの透水性試験の結果(試験開始6時間後の様子)を示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法を、
図1から
図5を参照し、説明する。なお、図面上、プレキャスト製残存型枠の横方向を幅方向X、縦方向を高さ方向Y、厚み方向を前後方向Zと記す。
【0023】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、
図1に示した非透水性プレキャスト製残存型枠パネル1を製造する。このプレキャスト製残存型枠パネル1は、
図1(a)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル本体2(以下、パネル本体2とも記す。)と、パネル本体2の背面2aの所定の位置に設けられた複数の被連結金具3と、パネル本体2の背面2a等に形成された防水層4とを備えている。
[パネル本体2]
パネル本体2は、
図1(a)及び(b)に示すように、矩形状であり、パネル本体2には、例えば、高さ300mm、幅900mmのサイズのものが使用される。そして、パネル本体2の背面2aには、幅方向X及び高さ方向Yに2つずつ被連結金具3が設けられている。この被連結金具3は、パネル本体2の背面2aから突出するように設けられている。また、パネル本体2の内部の幅方向X及び高さ方向Yには、パネル本体2の強度を確保するために、複数の鉄筋5が設けられている。なお、パネル本体2のサイズ(高さや幅)は適宜、変更することができる。
[被連結金具3]
被連結金具3は、フック部6と、このフック部6の両端に連結された埋設部7とを備えている(
図1(a))。被連結金具3は、埋設部7がパネル本体2の内部に埋め込まれ、フック部6をパネル本体2の背面2aから突出させ、パネル本体2に設けられる。この被連結金具3には、金属製のものを使用でき、耐食性に優れた素材を使用することが好ましく、例えば、ステンレス鋼材(SUS304)が使用できる。
[防水層4]
防水層4は、水に不溶であるカルシウム水和物を含む層で構成されている。この防水層4は、
図2に示すように、パネル本体2の背面2a全域に加え、毛細管空隙9A及び被連結金具3の埋設部7とパネル本体2との間に形成された空隙9Bに形成される。この防水層4に含まれるカルシウム水和物は、パネル本体2を構成する流動化セメント組成物C中の石灰石の砕石骨材が流動化セメント組成物C内のセメントが硬化する際に溶出する成分と化学反応して生成されたものと考えられる。
【0024】
次に、プレキャスト製残存型枠パネルの製造方法について説明する。
【0025】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、非透水性のプレキャスト製残存型枠パネル1を製造する方法である。このプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め所定の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した所定の練上がり温度の流動化セメント組成物Cを得る混合工程と、混合工程後、成形用型枠22に流動化セメント組成物Cを投入する投入工程と、成形用型枠22に投入された流動化セメント組成物Cを成形する成形工程と、成形工程後、投入された流動化セメント組成物Cを外部から再加熱することなく、流動化セメント組成物Cの温度を所定時間以上かけて外気温度まで自然に降下させ、流動化セメント組成物Cを硬化させる保温養生工程と、保温養生工程後、成形用型枠22を取り外す脱型工程と、を含んでいる。本発明に係るレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、混合工程において、水和反応用の練り水を加熱昇温する以外には、加熱は実施せずに行う。
【0026】
使用する石灰石は、非晶質のカルサイト由来(結晶粒度100μm以下)であることが好ましい。また、反応性を促すため、石灰石の純度は95%以上であることが好ましい。
【0027】
なお、セメント組成物Cには、セメント、石灰石の砕石骨材である砂を含むモルタル原材料を使用することもできる。
[混合工程]
混合工程では、セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る。
【0028】
なお、練上がり温度は、冬季の外気温度0℃の場合、0℃よりも15℃高いことが好ましく、夏季の外気温度40℃の場合、40℃よりも5℃高いことが好ましい。
[投入工程]
投入工程では、
図3に示すように、成形用型枠22を使用してパネル本体2を成形する。成形用型枠22は、パネル本体2の背面2aが、上向き、かつ水平に維持されるように設計されている。この成形用型枠22の上側がパネル本体2の背面2a側となる。
【0029】
具体的には、
図3(a)に示すように、振動装置20を備える台21上に設置された成形用型枠22に、流動化セメント組成物Cとの混合物を投入し、振動装置20により、流動化セメント組成物Cに振動を与える。
【0030】
そうすると、流動化セメント組成物Cから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水がパネル本体2の背面2a側に押し上げられる。そして、この余剰水がパネル本体2の内部に形成される毛細管空隙9A、被連結金具3の埋設部7とパネル本体2との間に形成される空隙9Bを埋めるように介在し、パネル本体2の背面全域は、水酸化カルシウムを含む余剰水で覆われる。
[埋設工程]
投入工程後、
図3(b)及び(c)に示すように、成形用型枠22に流し込まれた流動化セメント組成物Cの中に、鉄筋5に取り付けられた被連結金具3を埋設する。具体的には、フック部6と埋設部7の連結部と埋設部7を流動化セメント組成物C中の所定の位置まで押し込み、被連結金具3のフック部6がパネル本体2の背面2aから突出するように埋設する。なお、被連結金具3をパネル本体2と一体的に形成しない場合、埋設工程は行わない。
[保温養生工程]
保温養生工程では、脱型強度が確保されるまで、流動化セメント組成物Cを硬化させる。具体的には、成形用型枠22に投入され、かつ外気温度よりも高い温度の状態の流動化セメント組成物Cを、外部から再加熱することなく、流動化セメント組成物Cの温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させる。外気温度まで自然に降下させる際、流動化セメント組成物Cから溶出した水酸化カルシウムを含む水和反応用の練り水が体積膨張して、成形用型枠22の外へ排出されるブリージング現象が抑止される。ブリージングを抑止することで、流動化セメント組成物Cに生じる毛細管空隙9aや空隙9bの発生が抑止される。
【0031】
保温養生工程において、練り水にセメントから溶出した水酸化カルシウムを含む余剰水が背面2a側へ押し上げられることにより、パネル本体2の背面2a全域に貯留され、余剰水でパネル本体2の背面2aを覆うと共に、余剰水がパネル本体2の内部に形成される毛細管空隙9A及び空隙9Bを埋めるように介在する。そして、流動化セメント組成物Cが硬化する際に、パネル本体2の背面2a全域に防水層4が形成される。そうすると、パネル本体2の背面2a全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることが防止される。さらに防水層4により、毛細管空隙及び空隙9Bがほぼ完全に塞がれる。
[脱型工程]
脱型工程は、所定時間保温養生工程を行った後、成形用型枠22を取り外す。
【0032】
次に、上述の製造方法により製造されたプレキャスト製残存型枠パネル1を使用した施工方法について、説明する。なお、残存型枠の施工方法で使用するセメント系固結材には、水分を含み、経時的に固化するものであれば使用でき、例えば、コンクリート、モルタル、気泡モルタル等を使用することができる。本実施形態では、セメント系固結材として、コンクリート12を使用した例について説明する。
【0033】
本実施形態に係る施工方法は、
図4(b)に示すように、プレキャスト製残存型枠パネル1を積み重ね、残存型枠10を構築する。このプレキャスト製残存型枠パネル1において、パネル本体2の背面2a全域、毛細管空隙9A、及び空隙9Bに防水層4が形成されている。残存型枠10を構築する際、
図4(a)に示すように、被連結金具3と木製型枠(コンパネ)13に接続された鋼製の連結金具(セパレータ)11によって連結することで、木製型枠13の前面にプレキャスト製残存型枠パネル1が固定される。
【0034】
隣接するプレキャスト製残存型枠パネル1同士の目地部8にシーリング材14を貼ることにより防水層4の上下左右の端部は、
図5に示すように、防水層4の端部同士がシーリング材14によって、つなぎ合わされる。防水層4の端部同士をつなぎ合わせることで、プレキャスト製残存型枠パネル1の背面2a全域が、防水層4とシーリング材14で完全に覆われる。シーリング材14には、例えば、シリコンシーリング材や防水テープを使用することができる。
【0035】
次に、セメント系固結材打設工程を行う。具体的には、プレキャスト製残存型枠パネル1と木製型枠13との間にコンクリート12を打設する(
図4(a))。コンクリート12は、パネル本体2の背面2aに形成された防水層4に接触するように打設される。
【0036】
コンクリート12を打設した後、コンクリート12を硬化させる(セメント系固結材硬化工程)。この際、毛細管空隙9A及び空隙9Bには、防水層4が形成されているため、コンクリート12の水分が、毛細管空隙9Aや空隙9Bからパネル本体2の内部に侵入することが防止される。そうすると、コンクリート12の水分が放出、蒸発することが抑制され、コンクリート12の乾燥収縮ひび割れが抑止される。
[透水性試験]
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法で製造したコンクリート試験体(コンクリート試験体1)は、外気温36℃の環境下、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂等と含むコンクリート原料と63.3℃の練り水とをミキシングし、40.1℃の流動化セメント組成物を得た。その流動化セメント組成物を型枠に投入し、外部から再加熱することなく、3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させることで、試験体1を作製した。
【0037】
一方、従来の製造方法で製造したコンクリート試験体(コンクリート試験体2)は、外気温36℃の環境下、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂等と含むコンクリート原料と31.4℃の練り水(水道水)とをミキシングし、外気温36℃より低い34.8℃の流動化セメント組成物を得た。その流動化セメント組成物を型枠に投入し、保温養生する過程で加熱昇温される(外気によって昇温される)。そのため、コンクリート試験体2の製造過程では、ブリージング現象が生じている。
【0038】
試験体1、試験体2及び大理石の透水性試験を次の通り実施した。各試験体に1.0mlの水を滴下し、滴下直後から6時間経過観察を行い、デジタルカメラで写真を撮影した。
【0039】
【0040】
コンクリート試験体2では、滴加直後から水滴が広がり(
図6)、水が透水し始め、3時間半経過後にはほぼ全ての水が透水した(
図7)。
【0041】
一方、コンクリート試験体1では、滴加直後、透水は観察されず、3時間半経過後でも水が明らかに残っていた(
図7)。そして、6時間後には滴加した水がなくなった(
図8)。
【0042】
さらに、水を透水しない大理石においては、6時間後には滴加した水が蒸発してなくなった(
図8)。このことから、コンクリート試験体1でも、蒸発の影響で水が蒸発して、なくなったといえる。
【0043】
コンクリート試験体1は、コンクリート試験体2よりも明らかに非透水性が向上していることがわかった。コンクリート試験体1の毛細管空隙減縮率は100%(6時間/6時間×100)、コンクリート試験体2の毛細管空隙減縮率は58.3%(3.5時間/6時間×100)であった。このことから、コンクリート試験体1は、大理石とほぼ同じ程度の非透水性を有し、非透水性が飛躍的に向上していることが分かった。
【0044】
以上より、本実施形態に係る製造方法で製造したコンクリート試験体1では、防水層が緻密に形成されることで、従来の製造方法で製造したコンクリート試験体2と比較し、透水性を大きく低下させ、非透水性を飛躍的に向上させることが分かった。
【0045】
次に、本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法の作用効果について、説明する。
【0046】
従来の製造方法によって製造されたプレキャスト製残存型枠コンクリートパネルは、防水層が自然に形成され一定の効果を有していたが、特に厚みの薄いプレキャスト製残存型枠コンクリートパネルでは、さらに毛細管空隙の形成が抑止され、さらに高い非透水性が求められていた。
【0047】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネル1は、石灰石の砕石骨材の砂利や砂を含むコンクリート原料に予め加熱昇温された水和反応用の練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得て、加熱をせずに外気温度まで自然に昇降させることで、パネル本体2の背面2a全域に防水層4が形成され、毛細管空隙9A、及び被連結金具3の埋設部7とパネル本体2との間に形成された空隙9B(図面上省略)が、水に不溶なカルシウム化合物を含む防水層4によって、ほぼ完全に塞がれる。このように、防水層4が形成されることで、パネル本体2の背面2a全域に炭酸カルシウムの透水性微粉末層が形成されることを防止でき、毛細管空隙9A及び被連結金具3の埋設部7とパネル本体2との間に形成された空隙9Bをほぼ完全に塞ぐことで、パネル本体2の非透水性を飛躍的に向上させることができる。パネル本体2の非透水性は飛躍的に向上するため、特に厚みが薄いパネル本体2に好適である。
【0048】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法では、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料を使用するため、例えば、シリカ微粉末を使用した場合よりも水和反応が著しく速いため、短時間でパネル本体2の背面2aや毛細管空隙9aや空隙9bに防水層4を形成することができる。低温下(例えば、5度)においても水和反応は減速されないため、本実施形態に係る製造方法は、パネル本体2を低温下で製造する際に特に有用性が高い。
【0049】
また、パネル本体2に防水層4が形成され、パネル本体2の非透水性が飛躍的に向上することで、硬化したコンクリート12側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、パネル本体2の内部へ侵入することが抑制される。さらに、隣接するパネル本体2の防水層4の端部同士をシーリング材14でつなぎ合わせることで、目地部8とコンクリート12側を遮断されているため、硬化したコンクリート12側に侵入した雨水や融雪剤から溶出した塩水が、目地部8の隙間からプレキャスト製残存型枠パネル1の表面(パネル本体2の外側)に漏れ出すことを抑止できる。したがって、パネル本体2に対して生じる凍害、塩害や白華現象を抑止することができ、パネル本体2の汚染、劣化、破損、変形すること、及びパネル本体2の補強材である鉄筋5が腐食することを回避できる。
【0050】
また、本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、保温養生工程において、流動化セメント組成物Cを外部から再加熱することなく、流動化セメント組成物Cの温度を3時間以上かけて外気温度まで自然に降下させるため、省エネルギーに寄与する。
【0051】
本実施形態に係るプレキャスト製残存型枠パネル1を使用した施工方法により、施工後、残存型枠10の外観を保つと共に、長期間、耐久性能を低下させずに、安定して、残存型枠10を維持できる。
【0052】
また、本実施形態で使用するプレキャスト製残存型枠パネル1では、防水層4が形成され、パネル本体2の毛細管空隙9Aや空隙9Bがほぼ完全に塞がれるため、セメント系固結材硬化工程において、毛細管空隙9Aから打設された生コンクリート12の水分が急激に放出され、蒸発することが抑制される。そのため、生コンクリート12は、徐々に固結し、ひび割れが生じにくくなり、残存型枠10を施工した後、パネル本体2にひび割れが生じることが抑止される。このように、生コンクリート12が徐々に固結することで、ひび割れが生じにくくなる効果は、夏場に残存型枠10を施工する場合や、日当たりが良い位置に残存型枠10を構築する場合に、有効である。
【0053】
以上説明した通り、本実施形態に係る施工方法を用いることによって、塩害や凍害によってプレキャスト製残存型枠パネル1が劣化することを防止でき、プレキャスト製残存型枠にひび割れが生じることを抑止し、さらに、残存型枠の表面が汚染されることを防止できる。そのため、本実施形態に係る施工方法は、非常に有用性が高く、汎用性も高い。
【0054】
以上、本実施形態について説明したが、これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【0055】
本実施形態では、セメント組成物Cに石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料を使用する例について説明したが、セメント組成物Cには、セメント、石灰石の砕石骨材である砂を含むモルタル原材料を使用することもできる。モルタル原料を使用する場合であっても、コンクリート原材料を使用した場合と同じ工程で実施することでき、同一の作用効果を享受することができる。
【0056】
また、パネル本体2の厚みは、本実施形態で示した例以外でもよく、本発明に係るプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、特に、厚みが薄い(25mmから50mm)パネル本体2では効果が大きく、有用性が高い。
【0057】
本実施形態では、被連結金具3をパネル本体2の背面2aから突出するように埋設し、一体的に形成する例について説明したが、被連結金具をパネル本体が形成された後に取り付ける態様とすることもできる。例えば、パネル本体の背面の四隅に、ネジ孔をそれぞれ形成し、これらのネジ孔に被連結金具を固定する。
【符号の説明】
【0058】
1 プレキャスト製残存型枠パネル(パネル)
2 プレキャスト製残存型枠パネル本体(パネル本体)
2a 背面(裏面)
3 被連結金具
4 防水層
5 鉄筋
6 フック部
7 埋設部
8 目地部
9A 毛細管空隙
9B 空隙(埋設部7とパネル本体2との間に形成された空隙)
10 残存型枠
11 連結金具(セパレータ)
12 コンクリート(セメント系固結材)
13 木製型枠(コンパネ)
14 シーリング材
20 振動装置
21 台
22 成形用型枠
C 流動化セメント組成物
X 幅方向
Y 高さ方向
Z 前後方向
【要約】
【課題】プレキャスト製残存型枠コンクリートパネル本体において、毛細管空隙の形成を抑止し、プレキャスト製残存型枠コンクリートパネル本体の非透水性を向上させるプレキャスト製残存型枠パネルの製造方法を提供する。
【解決手段】プレキャスト製残存型枠パネルの製造方法は、非透水性のプレキャスト製残存型枠パネルを製造する方法であって、セメント、石灰石の砕石骨材である砂利及び石灰石の砕石骨材である砂を含むコンクリート原材料と、予め60℃から85℃の温度に加熱昇温された練り水とをミキシングし、外気温度0℃から40℃に対応した15℃から45℃の練上がり温度の流動化セメント組成物を得る混合工程と、成形用型枠に投入された流動化セメント組成物を外部から再加熱することなく、流動化セメント組成物の温度を外気温度まで自然に降下させ、成形用型枠の外へ排出されるブリージング現象を抑止する保温養生工程とを含む。
【選択図】
図1