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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20231213BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20231213BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231213BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20231213BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
C21D8/12 A
C21D9/46 501A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019072511
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020169369
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-12-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 智
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0073800(KR,A)
【文献】特開2007-291491(JP,A)
【文献】特開2008-156737(JP,A)
【文献】特開2001-185413(JP,A)
【文献】特開2001-303213(JP,A)
【文献】国際公開第2013/179438(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12- 1/38, 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で
Si:2.00~4.10%、
Mn:2.50~3.50%、
Cr:0.02~2.90%、
Al:0.95%以下、
並びに
残部:Fe及び不純物元素、又はFe、任意元素及び不純物元素であり、
前記任意元素は、
Ni:1.0%以下、
Cu:4.0%以下、
Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下、
B:0.02%以下、
Sn及びSbから選ばれる一種又は二種の合計:0.2%以下、
C:0.0050%以下、
N:0.0040%以下、
S+Se:0.0030%以下、
P:0.03%以下、
O:0.0040%以下、並びに
Ti、V、W、Nb、Zr及びMoから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下
の少なくとも1つであり、
平均結晶粒径が、60μm以下である、
無方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が質量%で
Ni:1.0%以下、
Cu:4.0%以下、
Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下、
B:0.02%以下、並びに
Sn及びSbから選ばれる一種又は二種の合計:0.2%以下
の少なくとも1つを含む請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記化学組成が質量%で
C:0.0050%以下、
N:0.0040%以下、
S+Se:0.0030%以下、
P:0.03%以下、
O:0.0040%以下、並びに
Ti、V、W、Nb、Zr及びMoから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下
少なくとも1つを含む請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記平均結晶粒径が、50μm以下である請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
モータや発電機は駆動システムの発達等を背景とした高効率化要求に応じて、高速回転で動作するものが増加している。その際、ロータにおいて鉄心に作用する遠心力さらには頻繁な回転と停止による疲労に耐えるため、ロータ用素材としての電磁鋼板には高強度が求められる。一方、回転しないステータ用素材としての電磁鋼板には高磁束密度化と低鉄損化が強く求められている。
これらロータ用素材とステータ用素材は、歩留まりの観点で同一素材から作製されることが一般的である。このため、強度と磁気特性を両立できる電磁鋼板の実用化が望まれている。
【0003】
電磁鋼板は、通常、Fe以外に、磁気特性改善および強度調整を目的として、Si、更に、MnやAl等を含有することが知られている。
例えば、特許文献1及び特許文献2には、鉄損を低減する無方向性電磁鋼板として、Si、Mn、Al等をそれぞれ特定量含有する、無方向性電磁鋼板が開示されている。
また、特許文献3には、磁化方向による磁気特性の異方性が少なく、鋼板面内で平均した磁束密度が高い無方向性電磁鋼板として、Si、Mn、Al等をそれぞれ特定量含有し、特定の結晶方位を満たす無方向性電磁鋼板が開示されている。
【0004】
Si、Mn、Alと同様に鋼板を強化しつつ鉄損低減効果を有する元素としてCrが活用される。例えば、特許文献4~9には、Mn、Alを比較的高い濃度で含有する鋼板で、さらにCrを活用する技術が開示されている。これらの特許文献に開示された技術では、強度の過度な上昇による圧延性や打ち抜き性の低下を考慮したMn、Cr含有量の上限規制に加え、酸化物や炭化物の形成による磁気特性の低下を回避するためCやOの含有量に配慮すべきことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2013/046661号
【文献】国際公開第2017/056383号
【文献】特許第4218077号公報
【文献】特開2002-115035号公報
【文献】特開2003-096548号公報
【文献】特開2002-317254号公報
【文献】特開2002-212689号公報
【文献】特開2001-303213号公報
【文献】特開2002-226953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、Si、Mn及びCrを比較的高い濃度で含有する鋼板において、高強度の電磁鋼板部材と、低鉄損及び高磁束密度の電磁鋼板部材を製造することができる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記事情に鑑み、高速回転する高効率モータのコアに適用する無方向性電磁鋼板に求められる磁気特性と強度に着目し、特にMnを高濃度で含有する鋼板について検討を進めた。その結果、Mnは、磁気特性に有利な結晶方位が発達する特徴があり、高強度化を図りつつ好ましい磁気特性を得るために好都合な元素ではあるが、一方で鋼板製造工程にける熱処理(熱延後のコイル巻取り、熱延板焼鈍、仕上焼鈍)において、鋼中に酸化物が分散して、鉄損特性を劣化させていることを認識した。さらに酸化物が分散した鋼板では、鋼板を打ち抜いて鉄心を形成した後、打ち抜きに伴う歪の解放などを目的に実施され、一般的に「コア焼鈍」、又は「歪取り焼鈍」と呼ばれる熱処理において絶縁被膜の密着性が劣化していることも判明した。
詳細に調査したところ、この酸化物は製鋼工程に起因する鋼中の含有酸素に起因するものでなく、熱処理中に鋼板が内部酸化し、特に鋼板表層近傍に形成された酸化物(内部酸化物)であることが判明した。そこで、熱処理中の鋼板表面層での酸化挙動を制御すべく、様々な元素の影響を検討したところ、Cr含有量を所定の範囲に調整した無方向性電磁鋼板であれば、内部酸化を回避し、これによる鉄損劣化や被膜密着性の劣化を解消できることを見出した。さらに鋼板表面層に形成される内部酸化物は鋼板母材の亀裂の要因としても作用するため圧延における破断の一因ともなっており、内部酸化を回避すればSi、Mn及びCrの含有量について従来ほどの制限をしなくとも冷間圧延性を確保できることも判明した。これらにより、本発明の完成に至った。
すなわち、本開示の要旨は次の通りである。
【0008】
<1> 化学組成が、質量%で
Si:1.95~4.10%、
Mn:2.50~5.00%、
Cr:0.02~5.00%、並びに
残部:Fe及び不純物元素、又はFe、任意元素及び不純物元素である、
無方向性電磁鋼板。
<2> 前記化学組成が、さらに、質量%で
Al:0.95%以下、
Ni:1.0%以下、
Cu:4.0%以下、
Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下、
B:0.02%以下、並びに
Sn及びSbから選ばれる一種又は二種の合計:0.2%以下
の少なくとも1つを満たす<1>に記載の無方向性電磁鋼板。
<3> 前記化学組成が、さらに、質量%で
C:0.0050%以下、
N:0.0040%以下、
S+Se:0.0030%以下、
P:0.03%以下、
O:0.0040%以下、並びに
Ti、V、W、Nb、Zr及びMoから選ばれる一種又は二種以上の合計:0.05%以下
の少なくとも1つを満たす<1>又は<2>に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、Si、Mn及びCrを比較的高い濃度で含有する鋼板において、高強度の電磁鋼板部材と、低鉄損及び高磁束密度の電磁鋼板部材を製造することができる無方向性電磁鋼板が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態に係る無方向性電磁鋼板ついて詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、元素含有量の「%」は、「質量%」を表す。
【0011】
[無方向性電磁鋼板]
本開示の一実施形態である無方向性電磁鋼板は、化学組成が、質量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:2.5~5.0%、Cr:0.02~5.0%、並びに残部:Fe及び不純物元素、又はFe、任意元素及び不純物元素である。
【0012】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、高磁束密度かつ低鉄損であり、さらに高強度である。そのため、例えば本実施形態に係る無方向性電磁鋼板から、駆動モータのステータとロータを構成する部材をそれぞれ打ち抜いた場合、高速回転に耐え得る高強度が要求されるロータとして打ち抜いた部材は特に歪取り焼鈍を施すことなく、ロータを構成する電磁鋼板部材として使用することができる。
一方、ステータは回転せず、ロータほど強度は要求されないため、ステータとして打ち抜いた部材は、歪取り焼鈍を施して強度が低下しても特に問題はなく、低鉄損、高磁束密度に一層優れたステータを得ることができる。
つまり、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板により、ロータ用の高強度の電磁鋼板部材と、ステータ用の低鉄損及び高磁束密度の電磁鋼板部材を製造することが可能となる。
【0013】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、高磁束密度かつ低鉄損であり、さらに高強度を好ましく両立できる理由は明確でないが、以下のように考えられる。
従来の技術においてMnを高濃度で含有させた鋼板では、鋼板の製造過程の熱処理中に内部酸化が生じて鋼板表層部に形成された酸化物が磁気特性を劣化させていた。この酸化物は、Mnはもちろん、同時に含有されるSi、さらには必要に応じて含有されるAlなどの複合酸化物と考えられる。このような鋼板にCrを適正な範囲で含有させると、理由は明確でないが、熱処理雰囲気から鋼中への酸素の侵入が抑制され、または/さらに侵入した酸素の鋼板内部への拡散が抑制され、内部酸化物が形成されにくくなる。この現象の発現には、酸化中の鋼板表面層へのCrの濃化や、Crによる優先的な外部酸化膜形成などが影響していると考えられる。
また、Crを含有するとCr酸化物やCr炭化物を形成して磁気特性を阻害するためOやCの含有量の制御が必要となる事例が報告されているが、本実施形態に係るMnを高濃度で含有させた鋼板では、これらの問題は生じておらず、OやCについて特別な制御は不要である。この理由は明確ではないが、MnとCrの適正な濃度範囲での共存、さらにはSi、Alとの共存により、鋼板内部でのCrの酸化物や炭化物の形成が抑制されるものと思われる。現象の詳細については今後の解明が期待される。
【0014】
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造方法等について詳細に説明する。
【0015】
(化学組成)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:1.95~4.10%、Mn:2.50~5.00%、Cr:0.02~5.00%を必須元素とし、残部:Fe及び不純物元素、又はFe、任意元素及び不純物元素である。
最初に、必須元素について説明する。本開示において「必須元素」とは本開示の効果を得るために含有することが必須となる元素である。
【0016】
Si:1.95~4.10%
Siは鋼板の電気抵抗を高めて渦電流損を減少させ、鉄損を低減する作用がある。さらに、Siは、鋼板の集合組織を電磁鋼板に好ましいものとして磁束密度を向上させる。また鋼板の強度を高めるためにも含有される。これらの効果を得るために、Siの含有量は、1.95%以上とする。
一方、Siの含有量が多過ぎると、鋼板の飽和磁束密度が低下する。また、冷間圧延時の鋼板の割れが発生し易い。そのため、Siの含有量は4.10%以下とする。Siの含有量は3.50%以下であることが好ましく、3.00%以下であることがより好ましい。
【0017】
Mn:2.50~5.00%
Mnは本開示において重要な元素であり、後述するCrと共存することで、本開示の効果を発揮するために必須の元素である。そのため、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板におけるMnの含有量は2.50%以上とする。Mnの含有量は3.00%以上であることが好ましく、3.50%以上であることがより好ましい。
また、Mnは、Siと同様に鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する作用がある。さらに、鋼板の集合組織を電磁鋼板に好ましいものとして磁束密度を向上させる。しかも、Mnは鋼板の飽和磁束密度の低下量が小さい点も有利である。また鋼板の強度を高めるためにも利用される。
一方、Mnの含有量が多過ぎると、合金コストが上昇するため、Mnの含有量は5.00%以下とする。Mnの含有量は4.50%以下であることが好ましく、4.00%以下であることがより好ましい。
【0018】
Cr:0.02~5.00%
Crは本開示において重要な元素であり、熱処理中の鋼板表面近傍での酸化挙動制御を目的として前述のMnと共存させ、本開示の効果を発揮するために必須の元素である。そのための含有量は0.02%以上5.00%以下である。また、Crは、強度調整や耐食性の他、特に高周波特性を向上させる効果がある。このため、Cr含有量は、好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.11%以上であり、さらに好ましくは0.21%以上である。
一方で、Crの過剰な含有は効果が飽和するばかりでなく原料コストを増加させる。このため、Cr含有量は、好ましくは4.50%以下、さらに好ましくは2.90%以下、さらに好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下であり、0.45%以下でもよい。
【0019】
残部:Fe及び不純物元素、又はFe、任意元素及び不純物元素
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の残部は実質的にFeである。ただし、磁気特性を含めた各種特性の改善を目的として、Feの一部に代えて、任意元素を含有してもよい。さらに不純物元素を含有することも許容される。
【0020】
まず、任意元素について説明する。本開示において「任意元素」とは適切な範囲内であれば含有しても本開示の効果を消失させることはなく、本開示の効果を得るという観点では含有量はゼロでも構わないが、公知又は非公知を問わず他の効果を目的として含有させることでのメリットが考えられ、意図的に残存させたり、積極的に添加し得る元素を言う。
【0021】
Al:0.95%以下
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板において、Alは任意元素であり、本開示の効果の観点からはAl含有量はゼロであっても構わない。
一方、Alは酸化物形成元素であり、Alの含有量が0.95%を超えると、鋳造過程で粗大な酸化物を形成し、製造工程での破断の起点となることがある。また、Alが過剰に含まれていると鋼材表面にアルミナ系の酸化物が形成するため、圧延中の圧延ロールなどの損耗を促進してしまう。このため、Alの含有量は0.95%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.90%以下、さらに好ましくは0.80%以下である。
脱酸による酸化物系介在物削減の観点からは、Alの含有量は、0.001%以上であることが好ましい。
【0022】
Ni:1.0%以下
Niが含有される場合、NiはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。しかしながら、Niは高価であり、製品コストが高くなるため、特別な理由がなければ添加量の上限は1.0%以下とすることが好ましい。
【0023】
Cu:4.0%以下
Cuが含有される場合、CuはMnと同様に鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。また、Cuを1.5%以上含有させて、熱処理により微細なCu析出物を形成し、鋼板を高強度化することも可能とする。しかしながら、Cu含有量が高すぎると鋼材が脆化し加工が困難となるため、上限は4%程度とすることが好ましい。
【0024】
上述以外の任意元素としては、例えば、Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cd、B、Sn、Sbが挙げられる。
【0025】
Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdは、特に硫化物を、Bは特に窒化物を粗大化させることで熱処理工程での結晶粒の成長性を改善し、低鉄損化に寄与する。
一方、Ca、Mg、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdの各元素の含有量が高すぎると磁気特性が劣化するため、これらの各元素の含有量は0.05%以下であることが好ましく、合計含有量としても0.05%以下であることが好ましい。
また、B含有量が高すぎると磁気特性が劣化するため、B含有量は0.02%以下であることが好ましい。
また、Sn、Sbは磁気特性にとって好ましい結晶方位を発達させることが知られている。一方、Sn、Sbの各元素の含有量が高すぎると磁気特性が劣化するため、これらの各元素の含有量は0.2%以下であることが好ましく、合計含有量としても0.2%以下であることが好ましい。
上記各任意元素は公知の範囲で添加可能であるが、本実施形態に係る鋼板における好ましい含有量は任意元素の合計で5%以下である。
【0026】
次に、不純物元素について説明する。本開示において「不純物元素」とは適切な範囲内であれば含有しても本開示の効果を消失させることはなく、本開示の効果を得るという観点では含有量はゼロでも構わないが、含有するメリットはほとんどなく、公知又は非公知を問わず電磁鋼板としての製造過程又は使用環境において悪影響を及ぼすため、基本的にゼロ(に近いこと)が好ましい元素を言う。なお、不純物元素には、電磁鋼板を工業的に製造するときに、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境等から不可避的に混入されるもの及び除去が困難な元素を含む。
【0027】
C:0.0050%以下
Cは、炭化物を形成して高磁場での磁気特性を劣化させる場合がある。また、磁気時効が生ずると高磁場での磁気特性も劣化してしまうため、C含有量は低くすることが好ましい。このため、C含有量は好ましくは0.0050%以下である。
製造コストの観点から、溶鋼段階で脱ガス設備(例えばRH真空脱ガス設備)によりC含有量を低減することが有利であり、C含有量を0.0050%以下とすれば磁気時効の抑制効果が大きい。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、高強度化の主たる手段として炭化物等の非金属析出物を用いないため、敢えてCを含有させるメリットはなく、C含有量は少ないことが好ましい。このため、C含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、さらに好ましくは0.0030%以下である。電析などの技術を用いれば、化学的分析の限界以下である0.0010%以下に下げることも可能で、C含有量は0%であっても構わない。一方で工業的なコストを考えると、下限は0.0003%としてもよい。
一方でCは、Cr含有鋼において微細な炭化物を形成し磁気特性に悪影響を及ぼすことが報告されているが、Mnを比較的多量に含有する本実施形態において、この影響を考慮する必要性はほぼなく、0.001%以上含有しても構わない。さらには、0.002%以上でも特に問題は生じないため、一般的な実用製鋼法において脱炭コストを低減できるメリットも享受できる。
【0028】
N:0.0040%以下
Nは、Cと同様に、窒化物の形成や磁気時効性により高磁場での磁気特性を劣化させる。このため、N含有量は好ましくは0.0040%以下である。高磁場での磁気特性の劣化を避けるため、N含有量は低い方が好ましく、0.0027%以下とすれば磁気時効や窒化物の形成による高磁場での磁気特性への悪影響を十分に回避できる。N含有量は、さらに好ましくは0.0022%以下であり、特に好ましくは0.0015%以下である。電析などの技術を用いれば、化学的分析の限界以下である0.0001%以下に下げることも可能で、N含有量は0%であっても構わない。一方で工業的なコストを考えると、下限は0.0003%としてもよい。
【0029】
S+Se:0.0030%以下
S及びSeは、硫化物を形成して高磁場での磁気特性を劣化させる場合があるため、含有量は低いことが好ましい。SとSeの合計含有量は、0.0030%以下に制限し、好ましくは0.0020%以下であり、より好ましくは0.0010%以下である。SとSeの合計含有量は0%であっても構わない。
【0030】
P:0.03%以下
Pは、鋼を脆化させ、冷延性や製品の加工性を低下させるため、P含有量は0.03%以下に制限する。P含有量は、好ましくは0.02%以下であり、さらに好ましくは0.01%以下である。
一方、Pは、強度調整、製造中の窒化、浸炭の抑制を目的として含有量が制御されるほか、さらに特に冷延前の粒界に偏析させた場合に集合組織を改善して磁束密度を向上させること等が知られており、0.001%以上含有させてもよい。一般的な実用製鋼法では、不純物として、Pは0.002%以上程度含有することもある。
【0031】
O:0.0300%以下
Oは、粗大な介在物を形成し、これを起点とした脆化を引き起こし、冷延性や製品の加工性を低下させるため、O含有量は0.0300%以下に制限することが好ましい。O含有量は、より好ましくは0.0200%以下であり、さらに好ましくは0.0100%以下であり、特に好ましくは0.0040%以下である。
上記のO含有量は、製鋼工程での溶鋼における制御に加え、鋼板製造工程の熱処理過程での内部酸化に起因して増加するO量も含めたものである。しかし、本実施形態においては、熱処理過程での内部酸化が効果的に回避されるため不用意なO含有量の増加は抑制される。このため、O含有量を低く抑えることは比較的容易である。
一方でOは、Cr含有鋼において微細な酸化物を形成し磁気特性に悪影響を及ぼすことが報告されているが、Mnを比較的多量に含有する本実施形態において、この影響を考慮する必要性はほぼなく、0.0010%を超えて含有しても構わない。さらには、0.0020%を超えても特に問題は生じないため、一般的な実用製鋼法において脱酸コストを低減できるメリットも享受できる。
【0032】
上述以外の不純物元素としては、例えば、Ti、V、W、Nb、Zr及びMoが挙げられる。これらの元素はいずれも、粒成長を抑制する場合がある。上記各元素の好ましい含有量はいずれも、0.05%以下であり、これらの元素の合計含有量としても0.05%以下であることが好ましい。
【0033】
上記化学組成は、鋼板を構成する化学組成の数値である。測定試料となる鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する必要がある。
電磁鋼板の絶縁被膜等を除去する方法としては、例えば次のものがある。まず、絶縁被膜等を有する電磁鋼板を、NaOH:10質量%+HO:90質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、HSO:10質量%+HO:90質量%の硫酸水溶液に、80℃で3分間、浸漬する。その後、HNO:10質量%+HO:90質量%の硝酸水溶液によって、常温で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、後述の絶縁被膜が除去された鋼板を得ることができる。
【0034】
電磁鋼板中の各元素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS法)により測定することができる。具体的には、まず、測定対象となる電磁鋼板を準備する。当該電磁鋼板の一部を切子状にして秤量し、これを測定用試料とする。当該測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とし、残渣は濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と前記酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP-MS測定用溶液とすることができる。
【0035】
(平均結晶粒径)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径は、特に限定するものでない。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、固溶強化によりそれなりの強度を有する鋼板となるが、結晶粒微細化による強化能を利用すれば、さらなる高強度化も可能である。ロータ用部材の強度をより高くし、ステータ用部材の磁気特性をより好ましくするには、以下のように制御することが好ましい。
まず、ロータ用部材の観点では、好ましくは平均結晶粒径が60μm以下であることで、より高い強度を付与することができる。かかる観点から、平均結晶粒径は、50μm以下であることがより好ましく、さらに好ましくは30μm以下である。
一方で、強度を必要としないステータ用部材の観点では、上記ロータ用部材の観点で平均結晶粒径が制御された鋼板を追加熱処理することを前提とし、ステータ用部材として打ち抜き後、例えば歪取り焼鈍において十分に粒成長させることで磁気特性をより好ましいものとできる。歪取り焼鈍後の平均結晶粒径は、例えば100~250μmとなる。
もちろん、ロータ用部材としては用いない、又はロータ用部材として用いるとしてもそれほどの高強度が必要でないのであれば、コイルとして製造される無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径を100~250μmとなるよう製造しても構わない。
平均結晶粒径は、線分法によって求めることができる。具体的には、鋼板の断面ミクロ組織を光学顕微鏡を用いて100倍前後で3か所以上撮影し、線分法により平均切片長さLを求め、それに1.12を乗ずることで平均結晶粒径とする。
【0036】
(引張強度)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は上述の通り、含有元素による固溶強化及び熱処理条件を加味した結晶粒微細化強化により、高い強度を有する電磁鋼板となる。強度が要求される用途に適用することを考えると、引張強度(TS)が500MPa以上であることが好ましく、550MPa以上であることがより好ましく、680MPa以上であることがさらに好ましい。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のTSが500MPa以上であれば、例えば、駆動モータのロータとして使用した場合に高速回転しても破損を効果的に防ぐことができる。なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のTSは、成分のほか、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造する際の圧延、焼鈍などの製造条件を制御しての結晶粒径制御により調整できることは上述の通りである。
なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板のTSの上限は特に限定されないが、製造容易性などの観点から、1100MPa以下でもよく、1000MPa以下でもよい。
ここで、TSは、後述の実施例における測定方法に基づく値である。
【0037】
[無方向性電磁鋼板の製造方法]
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造する方法は、上述した化学組成と組織を有する本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができれば特に限定されない。例えば、上記本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成を有するスラブを加熱する加熱工程と、前記加熱したスラブを熱間圧延する熱間圧延工程と、前記熱間圧延して得られた鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延を完了した鋼板を最終的に焼鈍する仕上焼鈍工程と、を経て製造することができる。
また、必要に応じて、熱間圧延工程後、冷間圧延工程前に、熱間圧延された鋼板(熱延板)を焼鈍する熱延板焼鈍工程、冷間圧延を複数回行う場合に冷間圧延工程途中の鋼板(冷延板)を焼鈍する中間焼鈍工程、強度の向上などを目的として圧下率の少ない調質圧延(スキンパス)を行う調質圧延工程、磁気特性を向上させる目的で磁性焼鈍工程などを行ってもよい。
以下、各工程について説明する。なお、スラブ(インゴット)の組成は、前述した無方向性電磁鋼板の組成と同様であるため、説明は省略する。
【0038】
(加熱工程)
加熱工程では、上述の化学組成を有するスラブを1000~1250℃に加熱する。具体的には、スラブを加熱炉又は均熱炉に装入して、炉内にて加熱する。加熱炉又は均熱炉での上記加熱温度での保持時間は、例えば、30~200分である。
【0039】
スラブは周知の方法で製造される。例えば、転炉又は電気炉等で溶鋼を製造する。製造された溶鋼に対して脱ガス設備等で二次精錬して、上記化学組成を有する溶鋼とする。溶鋼を用いて連続鋳造法又は造塊法によりスラブを鋳造する。鋳造されたスラブを分塊圧延してもよい。
【0040】
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程では、前述の化学組成を満たすスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。
熱間圧延工程では、加熱工程により加熱されたスラブに対して、複数回パスの圧延を実施して、鋼板を製造する。ここで、「パス」とは、一対のワークロールを有する1つの圧延スタンドを鋼板が通過して圧下を受けることを意味する。熱間圧延は、例えば一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよいし、一対のワークロールを有するリバース圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数回の圧延パスを実施するのが好ましい。
【0041】
(熱延板焼鈍工程)
本実施形態による電磁鋼板の製造方法では、熱間圧延工程後、冷間圧延工程前に、焼鈍工程(一般的に熱延板焼鈍工程と呼ばれる)を実施してもよい。ここでいう「焼鈍」は、例えば、昇温温度がAc1変態点以下であって、300℃以上の熱処理を意味する。ただし、本実施形態に係る電磁鋼板の化学組成は、上述のとおり、Mn含有量が高い。そのため、熱延板焼鈍を実施すると、Mnが粒界に偏析して、熱間圧延工程後の鋼板(熱延鋼板)の加工性が低下する可能性がある。したがって、本実施形態では、熱間圧延工程終了後、熱延板焼鈍工程を省略して冷間圧延工程を実施することが好ましい。
【0042】
(冷間圧延工程)
熱間圧延工程後、必要に応じて熱延板焼鈍工程を行った後、冷間圧延工程を実施する。冷間圧延は、例えば、一列に並んだ複数の圧延スタンド(各圧延スタンドは一対のワークロールを有する)を含むタンデム圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、複数回パスの圧延を実施してもよい。また、一対のワークロールを有するゼンジミア圧延機等によるリバース圧延を実施して、1回パス又は複数回パスの圧延を実施してもよい。生産性の観点から、タンデム圧延機を用いて複数回パスの圧延を実施するのが好ましい。
【0043】
冷間圧延工程では、複数回パスによって圧延を実施する場合、冷間圧延途中で焼鈍処理(中間焼鈍)を実施してもよいが、L、C、D(L:圧延方向、C:圧延直角方向、D:圧延45°方向)の3方向の平均磁気特性を向上させる観点から、中間焼鈍を実施せずに冷間圧延を実施することが好ましい。例えば、リバース圧延を実施して、複数回のパスにて冷間圧延を実施する場合、冷間圧延のパスとパスとの間に焼鈍処理を挟まずに複数回パスの冷間圧延を実施する。なお、リバース式の圧延機を用いて、1回のパスのみで冷間圧延を実施してもよい。また、タンデム式の圧延機を用いた冷間圧延を実施する場合、複数回のパス(各圧延スタンドでのパス)で連続して冷間圧延を実施する。
なお、中間焼鈍を行う場合は、例えば、中間焼鈍温度T1は500℃~Ac1変態点未満とすることが好ましい。
【0044】
冷間圧延工程における圧下率RR1は、例えば85~95%にする。ここで、冷間圧延工程における圧下率RR1は、次のとおり定義される。
圧下率RR1(%)=(1-冷間圧延工程での最終パスの圧延後の鋼板の板厚/冷間圧延工程での1パス目の冷間圧延前の鋼板の板厚)×100
【0045】
冷間圧延後の板厚は、本開示による無方向性電磁鋼板の用途等に応じて適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。モータの軽量化の観点から板厚が薄い方が好ましいが、板厚が薄くなるほど量産が難しくなる傾向があり、また、鋼板を所望の形状に打ち抜き加工する際に鋼板が変形し易く、歩留りが低下する可能性がある。そのため、冷間圧延後の板厚は、0.05~0.50mmであることが好ましく、磁気特性と生産性のバランスの観点からは、0.15~0.35mmが好ましく、0.20~0.30mmがより好ましい。
【0046】
(仕上焼鈍工程)
冷間圧延を完了した後、仕上焼鈍を実施する。仕上焼鈍により、冷間圧延により形成された加工組織の面積率で10%以上を再結晶させるとともに結晶粒径を60μm以下に調整する。この条件は、本実施形態に係る鋼の成分、特にMn及びCr含有量を考慮し適宜設定される。
特に考慮が必要とすれば、本実施形態に係る鋼は、Mn及びCrを従来鋼よりも比較的多量に含有しているという点で特殊な組成でもあり、このため、一般的な鋼板よりも(再結晶及び)粒成長が遅延しやすいという点である。ただし、この特定は通常の知識を有する当業者であれば、当該組成を有する鋼を適当に加工、熱処理し、その再結晶挙動を観察すれば容易に決定できる程度のものである。鋼成分や冷間圧延以前の製造条件などにもよるが、例えば連続焼鈍であれば、焼鈍温度(T2)は700~900℃程度、焼鈍時間(t1)は1~300秒程度であり、一般的な条件から大きく外れるようなものではない。仕上焼鈍の600~700℃間は25秒以上かけて徐加熱昇温することが好ましい。
【0047】
(コーティング工程)
また、前述した絶縁被膜を形成するコーティング工程を実施してもよい。コーティング工程は、例えば、冷間圧延工程後、仕上焼鈍後、調質圧延工程後、磁性焼鈍工程後、又は打ち抜き加工後に行うことができる。
絶縁被膜は、用途等に応じて適宜選択して用いることができ、有機系膜、無機系膜のいずれであってもよい。有機系膜としては、例えばポリアミン系樹脂、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。また、無機系膜としては、例えば、リン酸塩系膜、リン酸アルミニウム系膜や、更に前記の樹脂を含む有機-無機複合系膜等が挙げられる。
上記絶縁被膜の厚みは特に限定されないが、膜厚が0.05μm以上、2μm以下であることが好ましい。
【0048】
上記製造方法によれば、前記本実施形態に係る高い磁束密度かつ高周波領域で低鉄損であり、さらに高強度となる無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0049】
(その他の工程)
本実施形態による無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記製造工程に限定されず、さらに他の工程を施してもよい。例えば、仕上焼鈍及びコーティング後に圧下率20%程度以下で追加の冷間加工を施し、いわゆるセミプロセス無方向性電磁鋼板としてもよい。追加の冷間加工やその後に施されるユーザー熱処理により特性は相当に変化するが、Mn及びCr含有量により内部酸化を適正に抑制した本開示の効果は、鋼板製造工程及び製品の使用において享受することができる。
【0050】
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板について説明したが、本開示は、上記に限定されるものではない。上記は例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0051】
以下、実施例を例示して、本開示の無方向性電磁鋼板を具体的に説明するが、本開示の無方向性電磁鋼板はこれに限定されるものではない。本開示の無方向性電磁鋼板は、本開示の要旨を逸脱せず、本開示の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0052】
(実施例:電磁鋼板の製造)
真空溶解炉で表1の鋼種に示す成分組成(鋼成分)に調整したスラブ(インゴット)をそれぞれ製造した。なお、表1に示す成分において下線を付した含有量は、本開示の範囲外であることを意味し、「-」は、その成分(元素)を意図的に添加していないことを意味する。
【0053】
【表1】
【0054】
得られたスラブを加熱炉に装入し、1200℃で加熱し、仕上げ温度を800℃として2.3mmの熱延鋼板を得た。その後、冷間圧延により0.25mmの冷延鋼板を得た。その後、連続焼鈍炉により仕上焼鈍を行い、さらにアクリル系の絶縁被膜をコーティングして、無方向性電磁鋼板を製造した。この際、鋼板の平均結晶粒径が30μm程度になるよう仕上焼鈍の条件を調整した。この条件は特に示さないが、成分に応じて再結晶及び粒成長の程度を調整するだけであり、当業者にとっては容易な操作である。
【0055】
<評価>
得られた無方向性電磁鋼板について、下記に示す測定、評価を行った。
平均結晶粒径は、前述した線分法によって求めた。
磁束密度は、JIS C 2556(2011年)に記載の電磁鋼板単板磁気特性試験方法に準拠して測定することができ、5000A/mの磁場における磁束密度B50を測定した。
鉄損は、JIS-C-2550(2011年)規定の方法により、最大磁束密度1.0T、周波数400Hzの条件下での鉄損W10/400を測定した。
引張強度については圧延方向にJIS Z2241(2011年)に記載の5号引張試験片を採取し、JIS Z2241(2011年)に記載の試験方法にしたがって、引張試験を行い、引張強度を評価した。
【0056】
さらに、上記無方向性電磁鋼板を、ボックス炉により窒素雰囲気中で750℃、2時間の追加熱処理を行い、被膜密着性を評価した。被膜密着性は、テープ剥離試験での剥離面積率により評価した。なお、上記追加熱処理は一般的に実施されている歪取り焼鈍を模擬したものである。また、上記追加熱処理により結晶粒成長が起き、若干磁束密度が変化し、鉄損が低下するが、この磁気特性変化は特別なものでなく通常範囲の事象であるので磁気特性はあえて表示はしない。
評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
表2に示す評価結果から、本開示の効果を確認することができる。これについて注意すべき点を説明する。
電磁鋼板の磁気特性は成分により大きく変化することが知られている。本開示は特にCr添加によって効果が発現するものであるが、その効果を評価する際は、Cr以外の成分は基本的に同一とした鋼板において比較されるべきである。
本実施例においては、S01~S04に対するS05~S08、S09に対するS10、S11に対するS12、S13~S16に対するS17~S20、S21に対するS22、S23に対するS24、S34~S38に対するS39~S43、S44~S47に対するS48~S51、S52~S55に対するS56~S59として、本開示の効果が確認できるように成分を調整している。
また、S25~S33は、特定成分系鋼種において単純にCr含有量を変化させた際の特性変化を確認するように成分を調整している。
この点を考慮した特性比較により、発明例の鋼板は、引張強度及び磁気特性(鉄損、磁束密度)に優れ、引張強度及び磁気特性が両立された無方向性電磁鋼板であることが分かる。さらに、追加熱処理後の被膜密着性に優れていることが分かる。