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  • 特許-重荷重用空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/04 20060101AFI20231213BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20231213BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B60C9/04 D
B60C1/00 A
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/06
C08K5/09
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019167261
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021041894
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】野口 侑利
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 英征
(72)【発明者】
【氏名】山村 健太
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067707(JP,A)
【文献】特開2005-178618(JP,A)
【文献】特開2008-290591(JP,A)
【文献】特開2013-060184(JP,A)
【文献】特開2003-127613(JP,A)
【文献】特開2017-071275(JP,A)
【文献】国際公開第2020/241695(WO,A1)
【文献】特開2016-078510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00
B60C 9/00-9/04
B60C 11/00
C08L 7/00
C08L 9/00
C08K 3/04
C08K 3/06
C08K 5/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの骨格として配置されるカーカス層と、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備える重荷重用空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層は、カーカスコードと、前記カーカスコードをコートするカーカスコート用ゴムとからなる少なくとも1枚のカーカスプライを有し、
前記カーカスコート用ゴムは、ジエン系ゴムとして天然ゴムと、充填剤として窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gのカーボンブラックと、硫黄と、有機酸コバルト塩とを含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部中、前記天然ゴムの配合割合が90質量部以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックの配合割合が40質量部以上、硫黄の配合割合が4~8質量部、かつ前記有機酸コバルト塩の配合割合がCoとして0.1~0.3質量部であり、
タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのカーカス層の厚み(カーカスGa.)が、1.5mm~2.6mmであり、
前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、下記式を満たし、かつ
前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、下記式を満たす
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
0.1≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.3
6.0≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦8.0
【請求項2】
前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部のタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、下記式を満たすことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
0.12≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.28
【請求項3】
前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、下記式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
6.2≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦7.7
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重荷重用空気入りタイヤに関するものであり、詳しくは、耐久性および操縦安定性を維持しつつ、優れたウェットトラクション性を有する重荷重用空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは左右一対のビード部およびサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるとともにキャップトレッドとアンダートレッドとからなるトレッド部から主に構成されている。タイヤの内側にはカーカス層が設けられ、カーカス層の両端部はビードコアをタイヤ内側から外側へ包みこむように折り返されている。
【0003】
一方、トラックまたはバス用タイヤのような重荷重用空気入りタイヤとしては、安全かつ快適な運行が重視されている。そのため重荷重用空気入りタイヤは、とくに、ウェット路面での坂道発進性(ウェットトラクション性)が求められる。ウェットトラクション性を高めるには、キャップトレッドの弾性率を下げ、キャップトレッドの接地面積を増加させ、摩擦力を高める手法があるが、一方で、操縦安定性が低下したり、キャップトレッドの歪みの増加によって発熱し、タイヤの骨格をなすカーカス層の耐久性を悪化させるという問題点がある。
【0004】
なお、重荷重用空気入りタイヤのウェットトラクション性の向上を図る技術としては、例えば特許文献1~2に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-48122号公報
【文献】特開平1-306304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明の目的は、耐久性および操縦安定性を維持しつつ、優れたウェットトラクション性を有する重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、カーカスコート用ゴムの組成、カーカス層の厚み、カーカス層の厚みとタイヤサイド部のタイヤ総厚の比、およびカーカスコート用ゴムの動的弾性率とキャップトレッドゴムの硬度との比を特定化することにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
すなわち本発明は以下の通りである。
【0008】
1.タイヤの骨格として配置されるカーカス層と、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備える重荷重用空気入りタイヤにおいて、
前記カーカス層は、カーカスコードと、前記カーカスコードをコートするカーカスコート用ゴムとからなる少なくとも1枚のカーカスプライを有し、
前記カーカスコート用ゴムは、ジエン系ゴムとして天然ゴムと、充填剤として窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gのカーボンブラックと、硫黄と、有機酸コバルト塩とを含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部中、前記天然ゴムの配合割合が90質量部以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックの配合割合が40質量部以上、硫黄の配合割合が4~8質量部、かつ前記有機酸コバルト塩の配合割合がCoとして0.1~0.3質量部であり、
タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのカーカス層の厚み(カーカスGa.)が、1.5mm~2.6mmであり、
前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、下記式を満たし、かつ
前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、下記式を満たす
ことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
0.1≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.3
6.0≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦8.0
2.前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部のタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、下記式を満たすことを特徴とする前記1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
0.12≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.28
3.前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、下記式を満たすことを特徴とする前記1または2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
6.2≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦7.7
【発明の効果】
【0009】
本発明の重荷重用空気入りタイヤは、タイヤの骨格として配置されるカーカス層と、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴムと、を備え、前記カーカス層は、カーカスコードと、前記カーカスコードをコートするカーカスコート用ゴムとからなる少なくとも1枚のカーカスプライを有し、前記カーカスコート用ゴムは、ジエン系ゴムとして天然ゴムと、充填剤として窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gのカーボンブラックと、硫黄と、有機酸コバルト塩とを含有し、前記ジエン系ゴム100質量部中、前記天然ゴムの配合割合が90質量部以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックの配合割合が40質量部以上、硫黄の配合割合が4~8質量部、かつ前記有機酸コバルト塩の配合割合がCoとして0.1~0.3質量部であり、タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのカーカス層の厚み(カーカスGa.)が、1.5mm~2.6mmであり、前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部のタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、0.1≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.3を満たし、かつ前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、6.0≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦8.0を満たすことを特徴としているので、耐久性および操縦安定性を維持しつつ、優れたウェットトラクション性を提供することができる。
【0010】
上述のように、ウェットトラクション性を高めるには、キャップトレッドの弾性率を下げ、キャップトレッドの接地面積を増加させ、摩擦力を高める手法があるが、一方で、操縦安定性が低下したり、タイヤ耐久性を悪化させるという問題があった。本発明では、カーカスコート用ゴムの組成、カーカス層の厚み、カーカス層の厚みとタイヤサイド部のタイヤ総厚の比、およびカーカスコート用ゴムの動的弾性率とキャップトレッドゴムの硬度との比を特定化したので、従来技術では達成困難であった耐久性、操縦安定性およびウェットトラクション性を高い次元で維持することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】空気入りタイヤの子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明の重荷重用空気入りタイヤ(以下、単に空気入りタイヤと言うことがある)のカーカス層は、カーカスコードと、前記カーカスコードをコートするカーカスコート用ゴムとからなる少なくとも1枚のカーカスプライを有する。
カーカスプライは、タイヤ幅方向両側のビードコア間に架け渡されてタイヤの骨格を形成する部材である。なお、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸と平行な方向を指す。本発明において、カーカスプライの合計厚み(総厚)は、例えば1.5mm~2.6mmであることができる。
【0014】
カーカスコードの種類はとくに制限されず公知のものの中から適宜選択することができるが、金属ワイヤーからなるものを挙げることができる。
【0015】
また、本発明の効果がさらに向上するという観点から、金属ワイヤーの径は、0.8mm~1.7mmが好ましく、0.8mm~1.5mmがさらに好ましい。
【0016】
本発明では、カーカスコードをコートするカーカスコート用ゴムの組成が特定される。すなわち、カーカスコート用ゴムは、ジエン系ゴムとして天然ゴム(NR)と、充填剤として窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gのカーボンブラックと、硫黄と、有機酸コバルト塩とを含有し、前記ジエン系ゴム100質量部中、前記NRの配合割合が90質量部以上であり、前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックの配合割合が40質量部以上、硫黄の配合割合が4~8質量部、かつ前記有機酸コバルト塩の配合割合がCoとして0.1~0.3質量部である。
【0017】
前記NRの配合割合が90質量部未満である場合、前記カーボンブラックの配合割合が40質量部未満である場合、硫黄の配合割合が4~8質量部の範囲外である場合、前記有機酸コバルト塩の配合割合がCoとして0.1~0.3質量部の範囲外である場合、および/または、前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が50~120m/gの範囲外である場合は、耐久性および操縦安定性を維持しつつ、優れたウェットトラクション性を提供するという本発明の効果を奏することができない。
【0018】
ここで、本発明の効果向上の観点から、下記の形態が好ましい。
(1)前記ジエン系ゴムは、すべてNRからなるのが好ましい。
(2)前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記カーボンブラックの配合割合は40~80質量部が好ましく、40~70質量部がさらに好ましい。
(3)前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記硫黄の配合割合は4.5~7.5質量部が好ましい。
(4)前記ジエン系ゴム100質量部に対し、前記有機酸コバルト塩の配合割合はCoとして0.1~0.25質量部が好ましい。
(5)前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は50~100m/gが好ましい。
なお本発明でいうNRは、合成イソプレンゴム(IR)を含むものとする。また窒素吸着比表面積(NSA)は、JIS K 6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」にしたがって測定した値である。
【0019】
本発明で使用されるジエン系ゴムは、NR以外のジエン系ゴムを必要に応じて併用することもできる。例えば、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)等が挙げられる。本発明で使用されるジエン系ゴムは、その分子量やミクロ構造はとくに制限されず、アミン、アミド、シリル、アルコキシシリル、カルボキシル、ヒドロキシル基等で末端変性されていても、エポキシ化されていてもよい。
【0020】
有機酸コバルト塩としては、例えばナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ネオデカン酸ホウ酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、ホウ素を含む有機酸コバルト塩、例えばオルトホウ酸コバルト等も使用できる。
【0021】
また、前記カーカスコート用ゴムには、前記した成分に加えて、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛などのカーカスコート用ゴムに一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0022】
本発明の空気入りタイヤにおけるキャップトレッドゴムは、カーカスプライのタイヤ径方向外側に配置され、タイヤ接地面を構成する。なおタイヤ径方向外側とはタイヤ径方向(空気入りタイヤの回転軸と直交する方向)において回転軸から離れる側をいう。
【0023】
本発明において、キャップトレッドゴムの組成は、下記で説明する(Hs キャップ)/(E’カーカス)の関係を満たすことができれば、とくに制限されず、適宜選択することができる。
例えば、ジエン系ゴム、シリカやカーボンブラック等の各種充填剤、カップリング剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛などのキャップトレッドゴムに一般的に配合されている各種成分を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0024】
加硫後のキャップトレッドゴムの最大厚み(アンダートレッドとの接触面からタイヤ径方向におけるタイヤ表面までの最大長さ)はとくに制限されないが、例えば5mm~50mmであり、10mm~40mmが好ましい。
【0025】
また、本発明の空気入りタイヤにおけるその他の部材、例えばビード部やサイドウォール部等を構成する部材についても、各成分の配合割合はとくに制限されず、適宜選択することができる。
例えば前記その他の部材のゴム組成物として、ジエン系ゴム、各種充填剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤、酸化亜鉛等の一般的に配合されている各種成分を配合することができる。また加硫の際は、公知の加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤を制限なく使用できる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0026】
本発明の空気入りタイヤは、タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位でのカーカス層の厚み(カーカスGa.)が、1.5mm~2.6mmであることが必要である。(カーカスGa.)がこの範囲外である場合は、前記本発明の効果を奏することができない。
【0027】
また本発明の空気入りタイヤは、前記(カーカスGa.)と前記タイヤサイド部のタイヤ総厚(サイド部総Ga.)が、下記式を満たすことが必要である。
【0028】
0.1≦(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)≦0.3
【0029】
図1は、空気入りタイヤの子午線断面図である。
図1において、空気入りタイヤは左右一対のビード部1およびタイヤサイド部2と、両サイド部2に連なるキャップトレッド3からなり、ビード部1、1間にタイヤ骨格をなすカーカス層4が装架され、カーカス層4の端部がビードコア5およびビードフィラー6の廻りにタイヤ内側から外側に折り返されて巻き上げられている。
キャップトレッド3は、タイヤ接地面を構成するキャップトレッドゴム30と、キャップトレッドゴム30のタイヤ径方向内側に設けられたアンダートレッドゴム31とを備える。
ビードフィラー6は2つの部材から構成され、タイヤ径方向外側に位置する上ビードフィラー62と、前記上ビードフィラー62に対しタイヤ径方向内側に位置する下ビードフィラー64とを有する。
またカーカス層4の外側には、ベルト層7がタイヤ1周に亘って配置されている。ベルト層7の両端部には、ベルトクッション8が配置されている。空気入りタイヤの内面には、タイヤ内部に充填された空気がタイヤ外部に漏れるのを防止するために、インナーライナー9が設けられ、インナーライナー9を接着するためのタイゴム10が、カーカス層4とインナーライナー9との間に積層されている。
タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に直交する方向であり、タイヤ径方向内側とはタイヤ回転軸に近づく方向を指し、タイヤ径方向外側とはタイヤ回転軸から離れる方向を指す。
【0030】
また、前記(カーカスGa.)および前記(サイド部総Ga.)は、タイヤサイド部の厚みが最も薄い部位で測定される。また前記各厚みはタイヤ水平方向(タイヤ回転軸と平行な方向)の断面に基づき算出される。
ここで前記(カーカスGa.)は、カーカスコードおよびカーカスコート用ゴムの合計厚み(カーカス層厚み)である。
また、前記(サイド部総Ga.)は、測定位置におけるすべての部材の合計厚み(総厚)であり、例えばインナーライナー、カーカス層、サイドウォール、場合によりビードフィラーやリムクッション等が含まれる。
【0031】
本発明の重荷重用空気入りタイヤは、前記カーカスコート用ゴムの20℃における動的弾性率(E’カーカス)と前記キャップトレッドゴムの20℃における硬度(Hs キャップ)が、下記式を満たすことが必要である。
【0032】
6.0≦(Hs キャップ)/(E’カーカス)≦8.0
【0033】
(Hs キャップ)/(E’カーカス)がこの範囲外である場合は、前記本発明の効果を奏することができない。
前記(Hs キャップ)、JIS K6253に準拠し、デュロメータのタイプAにより温度20℃で測定されたゴム硬度である。
また前記(E’カーカス)は、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用い、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hz、温度20℃の条件で測定される。(単位MPa)。
【0034】
本発明において、さらに好ましい(カーカスGa.)は、1.5mm~2.4mmである。
また、さらに好ましい(カーカスGa.)/(サイド部総Ga.)は、0.12~0.28である。
また、さらに好ましい(Hs キャップ)/(E’カーカス)は、6.2~7.7である。
これらに範囲を満たす場合に、前記本発明の効果がさらに高まる。
【0035】
また本発明において、(Hs キャップ)は、58~72が好ましく、(E’カーカス)は、7.7~11.3が好ましい。
【0036】
なお前記(Hs キャップ)および前記(E’カーカス)の調整は、例えば加硫剤、架橋剤、可塑剤や充填剤量の増減により可能である。
【0037】
また本発明の重荷重用空気入りタイヤは、従来の重荷重用空気入りタイヤの製造方法に従って製造が可能である。
【実施例
【0038】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0039】
標準例、実施例1~5および比較例1~9
表1に示す配合(質量部)において、加硫促進剤と硫黄を除く成分を1.7リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、ゴムをミキサー外に放出して室温冷却した。次いで、該ゴムを同ミキサーに再度入れ、加硫促進剤および硫黄を加えてさらに混練し、各種カーカスコート用ゴム組成物を得た。
【0040】
次に、カーカスプライを形成するカーカスコードとしてスチールコードを用い、常法にしたがい該コードを該ゴム組成物で被覆し、加硫を行った。
【0041】
一方、キャップトレッドゴムを常法にしたがい調製し、硫黄や加硫促進剤等の加硫剤、架橋剤を増減することにより、表1に示す各種硬度(Hs キャップ)を有するキャップトレッドゴムを得た。
【0042】
(Hs キャップ)および(E’カーカス)は、上述のように測定した。結果を表1に示す。
【0043】
前記カーカスコート用ゴムでコートされたカーカスプライの1枚と、前記キャップトレッドゴムとを組み込み、タイヤサイズ275/80R22.5 151/148Jの各種試験タイヤを製造した。またカーカスプライおよびキャップトレッドゴム以外の各部材の条件は、各種試験タイヤ間で同一とした。
【0044】
得られた各種試験タイヤについて、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0045】
ウェットトラクション性:試験タイヤを12770ccの排気量の試験車両(トラクタヘッド)に装着し、空気圧をフロント900kPa、リヤ900kPaに調整し、水深1mmの舗装路面上を走行させ、時速6~21km/hの加速時における後輪のスリップ率を計測した。結果は、標準例を100とする指数で表した。指数が大きいほど、ウェットトラクション性に優れることを意味する。
操縦安定性:前記試験車両を舗装路で走行させ、走行時の操縦安定性についてテストドライバーによる官能評価を行った。評価は3段階評価とし、「B」点を基準とし、相対評価した。
A:「B」点に対し、操縦安定性に顕著な改善が見られる。
B:基準
C:「B」点に対し、操縦安定性が悪化した。
タイヤ耐久性:前記試験車両を使用し、市場走行を10万km走行させ、耐久試験ドラム上で走行時の残存耐久性を評価した。結果は、標準例を100とする指数で表した。指数が大きいほど、タイヤ耐久性に優れることを意味する。
【0046】
【表1】
【0047】
*1:NR(TSR20)
*2:SBR(日本ゼオン(株)製NIPOL 1502)
*3:カーボンブラック1(東海カーボン社製商品名シースト3、NSA=79m/g)
*4:カーボンブラック2(東海カーボン社製商品名シースト9、NSA=142m/g)
*5:硫黄(四国化成工業(株)製ミュークロンOT-20)
*6:有機酸コバルト塩(DIC株式会社製ネオデカン酸ホウ酸コバルト。表1ではCo量として表示した。)
【0048】
上記の表1から明らかなように、各実施例で調製された重荷重用空気入りタイヤは、カーカスコート用ゴムの組成、カーカス層の厚み、カーカス層の厚みとタイヤサイド部のタイヤ総厚の比、およびカーカスコート用ゴムの動的弾性率とキャップトレッドゴムの硬度との比を特定化したので、比較例に比べ、耐久性および操縦安定性を維持しつつ、優れたウェットトラクション性を提供できる。
比較例1は、NRの配合割合が本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ耐久性が悪化した。
比較例2は、カーボンブラックの配合割合が本発明で規定する下限未満であるので、ウェットトラクション性および操縦安定性が悪化した。
比較例3は、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が本発明で規定する範囲外であるので、タイヤ耐久性が悪化した。
比較例4は、有機酸コバルト塩の配合割合が本発明で規定する下限未満であるので、タイヤ耐久性が悪化した。
比較例5は、有機酸コバルト塩の配合割合が本発明で規定する上限を超えているので、ウェットトラクション性および操縦安定性が悪化した。
比較例6は、硫黄の配合割合が本発明で規定する下限未満であるので、ウェットトラクション性が悪化した。
比較例7は、硫黄の配合割合が本発明で規定する上限を超えているので、タイヤ耐久性が悪化した。
比較例8は、カーカス層の厚み(カーカスGa.)が本発明で規定する下限未満であるので、ウェットトラクション性および操縦安定性が悪化した。
比較例9は、カーカス層の厚み(カーカスGa.)が本発明で規定する上限を超えているので、タイヤ耐久性が悪化した。
【符号の説明】
【0049】
1 ビード部
2 サイド部
3 キャップトレッド
30 キャップトレッドゴム
31 アンダートレッドゴム
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
62 上ビードフィラー
64 下ビードフィラー
7 ベルト層
8 ベルトクッション
9 インナーライナー
図1