(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物、積層体および空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231213BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20231213BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20231213BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20231213BHJP
C08L 93/00 20060101ALI20231213BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20231213BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20231213BHJP
B60C 5/14 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08L101/00
C08L29/04 C
C08L53/02
C08L57/00
C08L93/00
B32B25/08
B60C1/00 Z
B60C5/14 A
(21)【出願番号】P 2019187897
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-218026(JP,A)
【文献】特開2011-105046(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,B32B,B60C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂とゴムを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
熱可塑性樹脂組成物の厚さ0.1mmのシートを、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物
の厚さ2mm、幅10mmのシートと
ダウンスピード125mm/minで25℃で10秒間
圧着後、アップスピード50mm/minで引き離す際のタッキネスが500g以上であり、
熱可塑性樹脂がエチレン-ビニルアルコール共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、部分けん化エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
ゴムが無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体またはエポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であ
り、
熱可塑性樹脂組成物が粘着付与剤を含まない場合は、熱可塑性樹脂がエチレン-ビニルアルコール共重合体であり、かつゴムがエポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体であり、
熱可塑性樹脂組成物が粘着付与剤を含む場合は、粘着付与剤が炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、スチレン樹脂およびロジンエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
ゴムの含有量が熱可塑性樹脂組成物中のポリマーの総量を基準として15質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
さらに粘着付与剤を、ゴム100質量部を基準として、1~80質量部含む請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂組成物の25℃、500mm/minにおける引張破断伸びが100%以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂組成物と、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物とを隣接させ、2MPa、160℃、20分間加硫して得られた積層体の25℃における層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層との積層体であって、熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層の層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする積層体。
【請求項7】
加硫ゴムが少なくとも1種のジエン系ゴムを50質量%以上含むことを特徴とする請求項
6に記載の積層体。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の層または請求項
6もしくは
7に記載の積層体を含む空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物、積層体および空気入りタイヤに関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂とゴムを含む熱可塑性樹脂組成物、前記熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層との積層体、および前記熱可塑性樹脂組成物の層または前記積層体を含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料消費率の低減は、自動車における大きな技術的課題の一つであり、この対策の一環として空気入りタイヤの軽量化に対する要求がある。空気入りタイヤの内面には、タイヤ空気圧を一定に保持するためにブチルゴムなどのような低気体透過性のゴムからなるインナーライナーが設けられているが、そのインナーライナーを熱可塑性樹脂フィルムで形成することにより、インナーライナーを薄くし、空気入りタイヤを軽量化する技術が知られている。しかし、熱可塑性樹脂フィルムはタイヤを構成するゴム組成物の層と容易には接着しないので、両者を接着するために接着剤または接着性を有するタイゴム(以下「接着タイゴム」という。)を使用することが行われる。しかし、接着剤または接着タイゴムを使用すると、製造コストが増加し、かつ接着剤または接着タイゴムの質量分だけ重くなる。そこで、接着剤または接着タイゴムを使用せずに、タイヤを構成するゴム組成物の層(たとえばカーカス層)と容易に接着するインナーライナーが求められる。
【0003】
たとえば、特開平9-314752号公報(特許文献1)には、ポリアミド樹脂および臭素化イソブチレン-p-メチルスチレン共重合体を含み、かつポリアミド樹脂中にビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物からなるブロック共重合体のエポキシ化物および/またはその部分水素添加物を含む熱可塑性エラストマー組成物のフィルムをインナーライナーとして用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーとして用いると、耐空気透過性と柔軟性のバランスに優れ、かつゴム層との接着性に優れるものの、未加硫ゴムとのタックに乏しいので、タイヤ成形が困難であったり、加硫故障が発生する。
本発明は、接着剤や接着タイゴムを使用せずに、カーカス層等のタイヤを構成するゴム層と接着することができ、かつ未加硫ゴムとのタックにも優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(I)は、熱可塑性樹脂とゴムを含む熱可塑性樹脂組成物であって、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物と25℃で10秒間接触させたときのタッキネスが500g以上であることを特徴とする。
本発明(II)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層との積層体であって、前記熱可塑性樹脂組成物の層と前記加硫ゴムの層の層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする。
本発明(III)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物の層または本発明(II)の積層体を含む空気入りタイヤである。
【0007】
本発明は、次の実施態様を含む。
[1]熱可塑性樹脂とゴムを含む熱可塑性樹脂組成物であって、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物と25℃で10秒間接触させたときのタッキネスが500g以上であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
[2]ゴムが共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むことを特徴とする[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]ゴムが酸無水物基またはエポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体またはその部分水素添加物であることを特徴とする[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]ゴムの含有量が熱可塑性樹脂組成物中のポリマーの総量を基準として15質量%以上であることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]さらに粘着付与剤を、ゴム100質量部を基準として、1~80質量部含む[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[6]熱可塑性樹脂がビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリエステルエラストマーおよびポリアミドエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[7]熱可塑性樹脂組成物の25℃、500mm/minにおける引張破断伸びが100%以上であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[8]熱可塑性樹脂組成物と、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物とを隣接させ、2MPa、160℃、20分間加硫して得られた積層体の25℃における層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする[1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層との積層体であって、熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層の層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする積層体。
[10]加硫ゴムが少なくとも1種のジエン系ゴムを50質量%以上含むことを特徴とする[9]に記載の積層体。
[11][1]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の層または[9]もしくは[10]に記載の積層体を含む空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、接着剤や接着タイゴムを使用せずに、カーカス層等のタイヤを構成するゴム層と接着することができ、かつ未加硫ゴムとのタックにも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明(I)は、熱可塑性樹脂とゴムを含む熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーを作製するのに用いることができる。インナーライナーは、チューブレスタイヤにおいて、チューブの代わりに空気漏れを防止するために、タイヤ内面に設けられる空気透過防止層である。
【0010】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物(以下「特定未加硫ゴム組成物」ともいう。)と25℃で10秒間接触させたときのタッキネスが500g以上であることを特徴とする。
タッキネスとは、粘着力の尺度である。熱可塑性樹脂組成物と特定未加硫ゴム組成物のタッキネスは、具体的には、後述する「タッキネスの測定」の欄に記載した方法によって測定することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、特定未加硫ゴム組成物と25℃で10秒間接触させたときのタッキネスが500g以上であることにより、インナーライナー材料として用いた際に、そのインナーライナーはカーカス層等のタイヤを構成する未加硫ゴム部材との粘着に優れるので、タイヤ成形が容易であり、加硫故障の発生が抑制される。
タッキネスは、ポリマー成分の種類、配合比、粘着付与剤の配合、混練条件などを適正に選択することにより調整でき、特に、ポリマー成分の種類、配合比による熱可塑性樹脂組成物のモルフォロジーの制御と、粘着付与剤を配合することにより、500g以上にすることができる。
【0011】
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂とゴムを含む。限定するものではないが、熱可塑性樹脂がマトリックスを構成し、ゴムが分散相を構成することが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、海島構造を有する。
【0012】
熱可塑性樹脂としては、ビニルアルコール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマーなどが挙げられる。
【0013】
ビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、エチレン-ブテンジオール共重合体などが挙げられるが、なかでもエチレン-ビニルアルコール共重合体が好ましい。
【0014】
ポリエステル系樹脂としては、ポリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどが挙げられるが、なかでもポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0015】
ポリビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ酢酸ビニル(EVA)、部分けん化ポリ酢酸ビニルなどが挙げられるが、なかでもポリ酢酸ビニル、部分けん化ポリ酢酸ビニルが好ましい。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブテン(PB)、ポリペンテン、ポリヘキセンなどが挙げられるが、なかでもポリエチレン、ポリプロピレンが好ましい。
【0017】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン(PS)、スチレン-アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)などが挙げられるが、なかでもアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)が好ましい。
【0018】
ポリアクリレート系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などが挙げられる。
【0019】
ポリエステルエラストマーは、ハードセグメントがポリエステル(たとえばポリブチレンテレフタレート)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリテトラメチレングリコール)またはポリエステル(たとえば脂肪族ポリエステル)である熱可塑性エラストマーである。ポリエステルエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリエステルエラストマーの市販品としては、東洋紡株式会社製「ペルプレン」(登録商標)、東レ・デュポン株式会社製「ハイトレル」(登録商標)などが挙げられる。
【0020】
ポリアミドエラストマーは、ハードセグメントがポリアミド(たとえばナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12)であり、ソフトセグメントがポリエーテル(たとえばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール)である熱可塑性エラストマーである。ポリアミドエラストマーは市販されており、本発明に市販品を用いることができる。ポリアミドエラストマーの市販品としては、宇部興産株式会社製「UBESTA」(登録商標)XPAシリーズ、アルケマ社製「PEBAX」(登録商標)などが挙げられる。
【0021】
ゴムは、好ましくは、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むゴムである。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基とは、ゴムの構成単位となる共役ジエン化合物に由来する不飽和結合を含有する残基であって、ジエン系ゴムと共架橋可能なものを意味する。たとえば、1,3-ブタジエン由来の不飽和結合を含有する残基としては、-CH2CH=CHCH2-や-CH2CH(-CH=CH2)-を挙げることができる。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むゴムは、限定するものではないが、好ましくは、ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体、それらの部分水素添加物などが挙げられる。ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)などが挙げられる。
【0022】
ゴムは、好ましくは、酸無水物基またはエポキシ基を有する。酸無水物基またはエポキシ基を有することにより、熱可塑性樹脂と化学的な相互作用ができるため、両者が均一に混ざり易くなり、かつ界面が補強されるため、伸びや応力などの力学的性質が向上する。酸無水物基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、無水マレイン酸変性SBS、無水マレイン酸変性SIS、無水マレイン酸変性SBRなどが挙げられる。エポキシ基を有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物の共重合体としては、エポキシ変性SBS、エポキシ変性SIS、エポキシ変性SBRなどが挙げられる。
【0023】
ゴムは、共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むゴム以外のゴムを含んでもよい。共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むゴム以外のゴムとしては、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、ポリオレフィンエラストマー、ポリウレタンエラストマー、またはそれらの変性物などが挙げられる。
【0024】
熱可塑性樹脂組成物中のゴムの含有量は、熱可塑性樹脂組成物中のポリマーの総量を基準として、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20~90質量%であり、さらに好ましくは25~85質量%である。ここで、ポリマーとは、樹脂およびゴムを包含する概念である。ゴムの含有量が少なすぎると、タイヤを構成するゴム組成物との加硫後の層間接着力が不足する虞がある。ゴムの含有量が多すぎると、熱可塑性樹脂組成物をフィルムやシートに溶融押出する際の加工性が悪化する虞がある。
【0025】
熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物中のポリマーの総量を基準として、好ましくは85質量%以下であり、より好ましくは10~80質量%であり、さらに好ましくは15~75質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が少なすぎると、熱可塑性樹脂組成物をフィルムやシートに溶融押出する際の加工性が悪化する虞がある。熱可塑性樹脂の含有量が多すぎると、タイヤを構成するゴム組成物との加硫後の層間接着力が不足する虞がある。
【0026】
熱可塑性樹脂組成物は、好ましくは、粘着付与剤を含む。粘着付与剤を配合することにより、タイヤを構成する未加硫ゴム部材とのタッキネスを付与することができる。
粘着付与剤としては、クロマン・インデン系樹脂、テルペン系樹脂、ロジン誘導体、アルキルフェノール系樹脂、石油樹脂、キシレン-ホルムアルデヒド系樹脂、液状ポリブテンおよび液状ポリイソプレンなどのオリゴマー系粘着付与剤などが挙げられるが、なかでも炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂、スチレン樹脂、ロジンエステルが好ましい。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物中の粘着付与剤の含有量は、ゴム100質量部を基準として、好ましくは1~80質量部であり、より好ましくは2~75質量部であり、さらに好ましくは3~70質量部である。粘着付与剤の含有量が少なすぎると、タッキネスを向上させる効果が十分得られない。粘着付与剤の含有量が多すぎると、熱可塑性樹脂組成物の引張破断伸びが低下し、タイヤを構成する材料として不適となる。
【0028】
熱可塑性樹脂組成物は、25℃、500mm/minにおける引張破断伸び(以下単に「引張破断伸び」ともいう。)が、好ましくは100%以上であり、より好ましくは150%以上であり、さらに好ましくは200%以上である。引張破断伸びがこの数値範囲内にあることにより、未加硫タイヤを成形する際または加硫タイヤを使用する際の変形に追従することができる。引張破断伸びは、ポリマー成分の種類、配合比、添加剤の配合、混練条件などにより、調整することができる。
【0029】
熱可塑性樹脂組成物は、天然ゴム50質量部、乳化重合スチレンブタジエンゴム30質量部、ブタジエンゴム20質量部、カーボンブラック(N339)60質量部、プロセスオイル5質量部、硫黄3質量部およびN-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド1質量部からなる未加硫ゴム組成物とを隣接させ、2MPa、160℃、20分間加硫して得られた積層体の25℃における層間接着力が、好ましくは20N/25mm以上であり、より好ましくは25~500N/25mmであり、さらに好ましくは30~500N/25mmである。層間接着力が小さすぎると、タイヤを転動させた際に、変形により層間剥離が生じる虞がある。
【0030】
本発明(II)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層との積層体であって、熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層の層間接着力が20N/25mm以上であることを特徴とする。熱可塑性樹脂組成物の層と加硫ゴムの層の層間接着力は、好ましくは25~500N/25mmであり、さらに好ましくは30~500N/25mmである。層間接着力が小さすぎると、積層体を変形させた際に層間剥離が生じる虞がある。
【0031】
加硫ゴムは、好ましくは、少なくとも1種のジエン系ゴムを50質量%以上含む。ジエン系ゴムを50質量%以上含むことにより、隣接部材との適切な層間接着力が得られる。
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)(高シスBRおよび低シスBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)(乳化重合SBR、溶液重合SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エポキシ化天然ゴム、それらの水素添加物などが挙げられるが、好ましくは天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴムである。
ゴム組成物は、ジエン系ゴム以外のゴムを含んでもよい。
【0032】
加硫ゴム中のジエン系ゴムの含有量は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは55質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。ジエン系ゴムの割合が少なすぎると、隣接部材との適切な層間接着力が得られない虞や不飽和結合に由来する架橋が不足し、適切なゴム弾性が得られない虞がある。
【0033】
加硫ゴムは、ゴム成分以外に、補強剤(フィラー)、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を含むことができる。
【0034】
本発明(II)の積層体は、次のようにして作製することができる。
本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物をTダイ押出成形法、インフレーション成形法などの成形法によりシート状に成形して、熱可塑性樹脂組成物シートを作製する。別途、原料ゴムに各種添加剤を配合し、バンバリーミキサーなどを用いて混合して、未加硫ゴム組成物を調製し、未加硫ゴム組成物をカレンダー加工して、シート状に成形し、未加硫ゴム組成物シートを作製する。熱可塑性樹脂組成物シートと未加硫ゴム組成物シートとを貼り合わせ、加熱加硫することによって、積層体を作製することができる。
未加硫ゴム組成物は、ゴム成分以外に、加硫剤(架橋剤)、加硫促進助剤、加硫促進剤、補強剤(フィラー)、スコーチ防止剤、老化防止剤、素練促進剤、有機改質剤、軟化剤、可塑剤、粘着付与剤など、一般にタイヤの製造において使用される各種添加剤を含むことができる。
【0035】
本発明(III)は、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物の層または本発明(II)の積層体を含む空気入りタイヤである。
空気入りタイヤが本発明(II)の積層体を含む場合において、カーカス層が本発明(II)の積層体のゴム組成物の層を構成してもよい。
本発明(III)の空気入りタイヤは、常法により製造することができる。たとえば、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物をTダイ押出成形法、インフレーション成形法などの成形法によりシート状に成形して、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物のシートを作製する。タイヤ成形用ドラム上に、本発明(I)の熱可塑性樹脂組成物のシートまたは本発明(II)の積層体を置き、その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層などの通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、成形後、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとし、次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0036】
(1)原料
以下の実施例および比較例において使用した原料は次のとおりである。
【0037】
(1-1)熱可塑性樹脂
ナイロン11: アルケマ社製「リルサン」(登録商標)BESN O 0TL
ナイロン6/66: 宇部興産株式会社製ナイロン6/66共重合体「UBEナイロン」5033B
EVOH1: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)H4815B
EVOH2: 日本合成化学工業株式会社製エチレン-ビニルアルコール共重合体「ソアノール」(登録商標)D2908
EVA: 日本ポリエチレン株式会社製エチレン-酢酸ビニル共重合体「ノバテック」(登録商標)EVA LV211A
部分けん化EVA: 東ソー株式会社製部分けん化エチレン-酢酸ビニル共重合体「メルセン」(登録商標)H6410M
PBT: 三菱ケミカル株式会社製ポリブチレンテレフタレート「ノバデュラン」(登録商標)5010R5
TPEE: 東洋紡株式会社製ポリエステルエラストマー「ペルプレン」(登録商標)P-55B
TPA: 宇部興産株式会社製ポリアミドエラストマー「UBESTA」(登録商標)XPA 9040X1
PP: 株式会社プライムポリマー製ポリプロピレン「プライムポリプロ」(登録商標)E-333GV
PE: 日本ポリエチレン株式会社製ポリエチレン「ノバテック」(登録商標)LD YF30
【0038】
(1-2)共役ジエン化合物由来の不飽和結合を含有する残基を含むゴム
酸変性SBS: 旭化成ケミカルズ株式会社製無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「タフプレン」(登録商標)912
エポキシ変性SBS1: 株式会社ダイセル製エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)AT501
エポキシ変性SBS2: 株式会社ダイセル製エポキシ変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体「エポフレンド」(登録商標)CN310
【0039】
(1-3)粘着付与樹脂
炭化水素樹脂: 東燃化学合同会社製「T-REZ」(登録商標)RA100
芳香族系石油樹脂: JXTGエネルギー株式会社製「日石ネオポリマー」(登録商標)E-100
スチレン樹脂: ヤスハラケミカル株式会社製 YSレジンSX100
ロジンエステル: 荒川化学工業株式会社製 エステルガムAA-L
【0040】
(1-4)その他の原料
酸変性SEBS: 旭化成ケミカルズ株式会社製 無水マレイン酸変性スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体「タフテック」(登録商標)M1943
酸変性PO: 三井化学株式会社製 無水マレイン酸変性エチレン-1-ブテン共重合体「タフマー」(登録商標)MH7010
【0041】
(2)熱可塑性樹脂組成物の調製
原料を、表1~表3に示す配合にて、ポリマー成分のうち最も融点の高い原料の融点より20℃高いシリンダー温度に設定した二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)に導入し、滞留時間約3~6分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押し出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0042】
(3)熱可塑性樹脂組成物シートの作製
(2)で調製したペレット状の熱可塑性樹脂組成物を550mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、シリンダーおよびダイスの温度を組成物中の最も融点の高い材料の融点+10℃に設定し、冷却ロール温度50℃、引き取り速度3m/minの押出条件で、平均厚み0.1mmのシートに成形した。
【0043】
(4)ゴム組成物の調製とゴム組成物シートの作製
表4に記載の配合にて、ゴムと各種配合剤を密閉式バンバリーミキサーに投入し、混合し、ゴム組成物を調製した。
得られたゴム組成物をゴム用ロールを使用して厚さ2mmのシート状に加工し、ゴム組成物シートを作製した。
【0044】
(5)タッキネスの測定
(4)で作製したゴム組成物シートを所定の大きさにカットし、片面に裏打ちとして不織布を重ねた後、ポリエステルフィルムで挟んで90℃、5分、2MPaでプレスし、表面が平滑な未加硫ゴムシートを得た。この未加硫ゴムシートを幅10mmに切断し、PICMA製タックメーターの試料用リングに取り付け、(3)で作製した熱可塑性樹脂組成物シートをセットし、25℃でダウンスピード125mm/minで両者を10秒間圧着後、アップスピード50mm/minで引き離す際のタッキネスを測定した。測定結果を表1~表3に示す。タッキネスが500g以上あれば、タイヤ成形の際、熱可塑性樹脂組成物シートが隣接部材から脱落せずに成形できるため、可とした。
【0045】
(6)積層体の作製と層間接着力の測定
(3)で作製した熱可塑性樹脂組成物シートと(4)で作製したゴム組成物シートを所定の大きさに切り出し積層して、2.0MPaの圧力で160℃で20分間、プレス成形機を用いて加硫接着を行い、熱可塑性樹脂組成物/ゴム積層体を作製した。
得られた積層体を25mm幅の短冊状に切断し、その試験片を25℃、180°の角度で500mm/minの剥離速度で引張り、剥離試験を行い、熱可塑性樹脂組成物の層とゴムの層の層間接着力を測定した。測定結果を表1~表3に示す。層間接着力が20N/25mm未満の積層体は、タイヤ転動時に剥離してしまうため不可、20N/25mm以上を可と判定した。
【0046】
(7)熱可塑性樹脂組成物の引張破断伸びの測定
(2)で作製した熱可塑性樹脂組成物をJIS 3号ダンベル形状に打ち抜き、JIS K6301「加硫ゴム物理試験方法」に準じて、25℃、500mm/minで引張試験を行った。得られた応力ひずみ曲線から引張破断伸びを求めた。結果を表1~表3に示す。引張破断伸びが100%未満を「不可」、引張破断伸びが100%以上300%未満を「可」、引張破断伸びが300%以上を「良」と等級分けし、良、可はタイヤ部材として使用可能であると判定した。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーの製造に好適に利用することができる。