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特許7401741ホースの最小曲げ半径の設定方法およびホース
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  • 特許-ホースの最小曲げ半径の設定方法およびホース 図1
  • 特許-ホースの最小曲げ半径の設定方法およびホース 図2
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  • 特許-ホースの最小曲げ半径の設定方法およびホース 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ホースの最小曲げ半径の設定方法およびホース
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/08 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
F16L11/08 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019192764
(22)【出願日】2019-10-23
(65)【公開番号】P2021067312
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】与那覇 智弘
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025236(JP,A)
【文献】特開平09-026062(JP,A)
【文献】特開平11-141751(JP,A)
【文献】特開平10-141551(JP,A)
【文献】特開昭61-223390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸状に積層されている内面層と外面層との間に同軸状に配置されているスパイラル構造のワイヤ補強層を少なくとも1層有し、前記内面層および前記外面層がゴムまたは樹脂により形成されていて、内径が12.7mm~63.5mmのホースの最小曲げ半径の設定方法であって、前記ワイヤ補強層のうち最外周に配置されている前記ワイヤ補強層の外径Dと、このワイヤ補強層を形成しているワイヤのこのワイヤ補強層での前記ホースが直線状態での配置密度Fとを用いて、このワイヤ補強層の前記ホースを円弧状に屈曲させた際の屈曲内側での前記ワイヤの巻付け間隔がゼロになる基準曲げ半径Rを算出し、この基準曲げ半径Rに所定の許容値を加算した値を前記最小曲げ半径Rxに設定することを特徴とするホースの最小曲げ半径の設定方法。
前記配置密度Fは下記(1)式により算出される。
配置密度F(%)={(d・n/2)/(P・sin(α/2))}×100・・・(1)
ここで、dは前記最外周に配置されている前記ワイヤ補強層での前記ワイヤの外径、nはこのワイヤ補強層での前記ワイヤの本数、Pはこのワイヤ補強層での前記ワイヤの前記ホースの軸方向への巻付けピッチ、α/2はこのワイヤ補強層での前記ワイヤの前記ホースの軸方向に対する編組角度(°)である。
【請求項2】
前記基準曲げ半径Rを下記(2)式により算出する請求項1に記載のホースの最小曲げ半径の設定方法。
基準曲げ半径R=外径D/{2(1-配置密度F)}・・・(2)
【請求項3】
前記基準曲げ半径Rを下記(3)式により算出する請求項1に記載のホースの最小曲げ半径の設定方法。
基準曲げ半径R=(外径D-外径d)/{2(1-配置密度F)}・・・(3)
【請求項4】
前記許容値を0~10mmにする請求項1~3のいずれかに記載のホースの最小曲げ半径の設定方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のホースの最小曲げ半径の設定方法によって前記最小曲げ半径Rxが設定されたホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラル構造のワイヤ補強層を有するホースの最小曲げ半径の設定方法およびホースに関し、さらに詳しくは、適切な最小曲げ半径をより簡便に設定できる設定方法およびホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用内圧に耐えるためにホースには補強層が埋設される。例えば、使用内圧が比較的高いホースは、スパイラル構造のワイヤ補強層を有している(例えば、特許文献1参照)。ホースは屈曲状態で使用されることが多いため、優れた屈曲耐久性が要求される。スパイラル構造のワイヤ補強層を有するホースでは、屈曲状態のホースの曲げ半径が過小であると、屈曲最内側のワイヤ補強層のワイヤが内側に突出して、ホースの内面層に強く干渉する。これに起因して内面層が損傷することがある。そのため、このような不具合を発生させることなく屈曲耐久性を確保できるホースの最小曲げ半径を設定する必要がある。
【0003】
一方で、最小曲げ半径を過大に設定すると、ホースを使用できる条件が過度に制約されるので、最小曲げ半径はホースの屈曲耐久性を確保できる範囲内で極力大きくすることが望ましい。このような適切な最小曲げ半径を設定するには、ホースサンプルを用いた試験を行って多数のデータを取得する必要がある。それ故、適切な最小曲げ半径をより簡便に設定するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-26062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スパイラル構造のワイヤ補強層を有するホースに対して、適切な最小曲げ半径をより簡便に設定できるホースの最小曲げ半径の設定方法およびこの設定方法によって最小曲げ半径が設定されたホースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のホースの最小曲げ半径の設定方法は、同軸状に積層されている内面層と外面層との間に同軸状に配置されているスパイラル構造のワイヤ補強層を少なくとも1層有し、前記内面層および前記外面層がゴムまたは樹脂により形成されていて、内径が12.7mm~63.5mmのホースの最小曲げ半径の設定方法であって、前記ワイヤ補強層のうち最外周に配置されている前記ワイヤ補強層の外径Dと、このワイヤ補強層を形成しているワイヤのこのワイヤ補強層での前記ホースが直線状態での配置密度Fとを用いて、このワイヤ補強層の前記ホースを円弧状に屈曲させた際の屈曲内側での前記ワイヤの巻付け間隔がゼロになる基準曲げ半径Rを算出し、この基準曲げ半径Rに所定の許容値を加算した値を前記最小曲げ半径Rxに設定することを特徴とする。前記配置密度Fは下記(1)式により算出される。
配置密度F(%)={(d・n/2)/(P・sin(α/2))}×100・・・(1)
ここで、dは前記最外周に配置されている前記ワイヤ補強層での前記ワイヤの外径、nはこのワイヤ補強層での前記ワイヤの本数、Pはこのワイヤ補強層での前記ワイヤの前記ホースの軸方向への巻付けピッチ、α/2はこのワイヤ補強層での前記ワイヤの前記ホースの軸方向に対する編組角度(°)である。
【0007】
本発明のホースは、上記の設定方法によって最小曲げ半径が設定されたホースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記ワイヤ補強層のうち最外周に配置されている前記ワイヤ補強層の外径Dと、このワイヤ補強層を形成しているワイヤの上記(1)式により算出される前記配置密度Fとを用いて、このワイヤ補強層の前記ホースを円弧状に屈曲させた際の屈曲内側での前記ワイヤの巻付け間隔がゼロになる基準曲げ半径Rを根拠にして最小曲げ半径Rxを設定するので、ホースの最小曲げ半径をホースの屈曲耐久性を確保できる範囲内で極力大きくした適切値に簡便に設定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のホースを一部切り欠いて例示する説明図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3図1のB-B断面図である。
図4図3のホースを屈曲させた状態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のホースの最小曲げ半径の設定方法およびホースを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1図2に例示するように、本発明のホース1は、内面層2、ワイヤ補強層3、外面層5が内周側から順に同軸上に積層されて形成されている。図中の一点鎖線CLはホース1の中心軸を示している。
【0012】
内面層2は最内周側に位置していて流体流路を形成する。内面層2はホース1を流れる流体が直接接触するので、この流体に対する耐久性等を考慮して適切なゴムや樹脂の種類が採用される。流体としては作動油、エアコン冷媒、水などを例示できるが特に限定されない。
【0013】
ワイヤ補強層3(31、32、33、34)は、この実施形態では4層積層されている。ワイヤ補強層3の内で最内周側に配置された補強層31は内面層2の外周面に巻き付けられ、最外周側に配置された補強層34の外周面には外面層5が積層されている。
【0014】
それぞれのワイヤ補強層3は、所定本数のワイヤ4を中心軸CLに対して所定の編組角度(α/2)を有して螺旋状に巻き付けたスパイラル構造になっている。隣り合って積層されるワイヤ補強層3では、それぞれのワイヤ4の巻き付け方向が反対方向になっている。ワイヤ4の材質やワイヤ補強層3の積層数、ワイヤ4の仕様、それぞれのワイヤ補強層3でのワイヤ3の所定本数はホース1に要求される耐圧性等を考慮して決定される。ワイヤ補強層3どうしの間に中間ゴム層が積層されることもある。
【0015】
外面層5はゴムや樹脂等によって形成される。外面層5には耐外傷性や耐候性等を考慮して適切な材質が採用される。ホース1には必要に応じてその他の部材(層)が設けられる。
【0016】
ホース1の内径は例えば12.7mm~63.5mm程度である。ホース1の使用圧力は例えば10.5MPa~42MPa程度である。
【0017】
本発明によってホース1の最小曲げ半径を設定する際には、図3に例示するようにホース1の縦断面の構造を考慮する。図3では、ワイヤ補強層3の内、最外周側に配置されている補強層34についてはワイヤ4を記載しているが、他の補強層31~33についてはワイヤ4を図示していない。尚、ワイヤ4は中心軸CLに対して所定の編組角度(α/2)を有して巻き付けられているので、図3ではワイヤ4の横断面形状は厳密には楕円形に近くなるが、簡略化して単純な円形で示している。後述する図4でも同様にワイヤ4の横断面形状を簡略化して単純な円形で示している。
【0018】
この実施形態では、補強層34は3本のワイヤ4(4a、4b、4c)をそれぞれのホース1の軸方向に所定の巻付けピッチPで巻き付けることで形成されている。それぞれのワイヤ4a、4b、4cは同じ仕様になっていて、外径はdになっている。図3の二点鎖線は、それぞれのワイヤ4の中心位置を結んでホース1の軸方向に延在させた線である。円筒状に形成されている補強層34の外径はDになっている。
【0019】
図3に例示するように、直線状態のホース1では、ワイヤ補強層3を形成するワイヤ4は、軸方向に若干のすき間を有して巻き付けられている。直線状態のホース1でワイヤ4が軸方向にすき間なく巻き付けられている場合は、ワイヤ4の配置密度Fは100%になる。この配置密度Fが100%であるとホース1の屈曲性(柔軟性)が損なわれるので、一般的には例えば70%~80%程度になっている。
【0020】
この配置密度Fは下記(1)により算出される。
配置密度F(%)={(d・n/2)/(P・sin(α/2))}×100・・・(1)
ここで、dはワイヤ補強層34でのワイヤ4の外径、nはワイヤ補強層34でのワイヤ4の所定本数、Pはワイヤ補強層34でのワイヤ4の巻付けピッチ、α/2はワイヤ補強層34でのワイヤ4の編組角度(°)である。
【0021】
この配置密度Fは、P・sin(α/2)の打ち込み幅の中に、ワイヤ4がどの程度打ち込まれているかを示す。即ち、配置密度Fは、直線状態のホース1において、P・sin(α/2)の打ち込み幅に対して、打ち込まれているワイヤ4の幅(外径d)の合計値の割合を示している。
【0022】
ホース1の最小曲げ半径Rxを設定するには、外径Dと、配置密度Fとを用いる。図3の直線状態のホース1を図4に例示するように円弧状に屈曲させた際のワイヤ補強層34の屈曲内側でのワイヤ4の巻付け間隔がゼロになる基準曲げ半径Rを算出する。そして、算出した基準曲げ半径Rに所定の許容値Axを加算した値を最小曲げ半径Rxに設定する(Rx=R+Ax)。
【0023】
図4では、Z点を中心にしてホース1を円弧状に屈曲させていて、補強層34の屈曲内側ではワイヤ4(4a、4b、4c)がすき間なく巻付いている状態になっている(ホース1の軸方向に隣り合うワイヤ4どうしが当接している)。図4の状態からさらにホース1を屈曲させると、補強層34の屈曲内側ではワイヤ4が移動できるのは屈曲半径方向だけになる。そのため、補強層34の屈曲内側ではワイヤ4が内面層5に向かって移動して、ワイヤ4が内面層5を押圧して干渉する。この干渉具合が大きくなると、内面層5が補強層34のワイヤ4に押圧されて損傷する可能性があるので、図4に示す屈曲状態のホース1の中心軸CLのZ点を中心にした半径Rを基準曲げ半径Rとする。そして、最小曲げ半径Rxは基準曲げ半径R以上の大きさに設定する。
【0024】
基準曲げ半径Rは、例えば下記(2)式により算出する。
基準曲げ半径R=外径D/{2(1-配置密度F)}・・・(2)
【0025】
詳述すると、図4の状態のホース1の中心軸CLでの円の周長LはπRである。一方、補強層34の屈曲内側でのワイヤ4の最内側位置(補強層34の屈曲最内側位置)での円の周長L1はπ{R-(D/2)}である。ホース1が直線状態で配置密度Fである場合は、F=L1/Lとなるので、F={R-(D/2)}/Rとなり、これを整理すると上記(2)式になる。
【0026】
或いは、基準曲げ半径Rを下記(3)式により算出することもできる。
基準曲げ半径R=(外径D-外径d)/{2(1-配置密度F)}・・・(3)
【0027】
詳述すると、図4の状態のホース1の中心軸CLでの円の周長LはπRである。一方、補強層34の屈曲内側でのワイヤ4の中心位置(二点鎖線の位置)での円の周長L2はπ{R-{(D-d)/2)}}である。ホース1が直線状態で配置密度Fである場合は、F=L2/Lとなるので、F={R-{(D-d)/2)}}/Rとなり、これを整理すると上記(3)式になる。
【0028】
上記(3)式では、ホース1の軸方向に隣り合うワイヤ4どうしがワイヤ4の中心位置で当接すると仮定しているので、上記(3)式は上記(2)式よりも厳密に基準上げ半径Rを算出する。しかしながら、ワイヤ4の外径dは通常は外径Dに対して十分に小さな値なので、上記(3)と(2)のいずれを用いても、算出される基準曲げ半径Rに大差はない。それ故、上記(2)式を用いる場合は、上記(3)式を用いる場合に比して、算出作業がより簡便になる。
【0029】
基準曲げ半径Rは、上述のようにホース1の屈曲耐久性を十分に考慮して算出されているので、許容値Axは極めて小さな調整程度の値でよく、例えば0~10mmにする。即ち、許容値Axをゼロにして基準曲げ半径Rを最小曲げ半径Rxにすることもできるが、安全率を考慮して許容値Axはゼロ超にするとよい。このようにして、ホース1の最小曲げ半径Rxを設定する。
【0030】
本発明によれば、ワイヤ補強層3のうち最外周に配置されているワイヤ補強層34の外径Dと、このワイヤ補強層34を形成しているワイヤ4の上記(1)式により算出される配置密度Fとを用いて、最小曲げ半径Rxを簡便に設定できる。最小曲げ半径Rxは、ホース1を円弧状に屈曲させた際のワイヤ補強層34の屈曲内側でのワイヤ4の巻付け間隔がゼロになる基準曲げ半径Rを根拠にしているので、ホース1の屈曲耐久性を十分に確保できる。そして、基準曲げ半径Rに加算する許容値Axは極めて小さい値なので、最小曲げ半径Rxをホース1の屈曲耐久性を確保できる範囲内で極力大きくした適切値にすることができる。
【0031】
スパイラル構造の4層のワイヤ補強層を有する代表的な仕様のホースを、この最小曲げ半径Rxで屈曲させた状態にセットして、所定の内圧を繰り返す耐久テストを行って耐久性を確認した。その結果、ホースは実用に耐え得る十分な耐久性を有していることが確認されている。
【0032】
このように最小曲げ半径Rxが設定されたホース1は、最小曲げ半径Rxが順守された使用条件下で十分な屈曲耐久性を有しているので、ホース1の損傷発生が抑制されて長期に渡って使用することが可能になる。また、最小曲げ半径Rxが過大に設定されていないので、使用条件の制約が少なくなり、ホース1を使用できる場所(環境)がより多様化する。
【符号の説明】
【0033】
1 ホース
2 内面層
3(31、32、33、34) ワイヤ補強層
4(4a、4b、4c) ワイヤ
5 外面層
図1
図2
図3
図4